説明

燃料電池用セパレータ及びその製造方法

【課題】表面方向における安定した導電性の他、高い機械的強度を得ることのできる燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも導電性材料と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を使用して成形される燃料電池用セパレータであって、熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブを0.1〜3.5wt%溶融混合して混合物を調製し、この混合物を粉末状に加工して導電性材料と混合させ、この混合物を加熱しながら加圧成形することにより板体の燃料電池用セパレータを圧縮成形する。安定した結晶構造のカーボンナノチューブ0.1〜3.5wt%を溶融混合した後、導電性材料を混合するので、燃料電池用セパレータの表面方向における導電性を安定させつつ、曲げや引っ張り等に対する機械的強度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を使用して成形される燃料電池用セパレータ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、図示しないが、燃料と酸化剤との電気化学反応を利用して電気エネルギと熱エネルギとを取り出す電池であり、電解質を介して相対向する一対の電極を、燃料と酸化剤とを供給する流路が形成された一対のセパレータに挟持させた単セルが基本構造とされる。この燃料電池は、高出力が要求される場合には、単セルを直列に複数積層したスタック構造とされ、スタックの両端部の集電板で集電される(特許文献1、2、3参照)。
【0003】
燃料電池は電解質、燃料、あるいは酸化剤等により様々な種類に分類されるが、中でも電解質に固体高分子電解質膜、燃料に水素ガス、そして酸化剤に空気を用いる固体高分子型燃料電池、及び電池の内部でメタノールから水素を直接取り出して燃料とする直接型燃料電池は、発電時の作動温度が200℃以下という比較的低温で効率的な発電が可能である。
【特許文献1】特開2008−59847号公報
【特許文献2】特開2007−220626号公報
【特許文献3】特開2006−86005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池のセパレータは、セルに流入する反応ガスの供給路を確保するとともに、セルで発電した電気エネルギを外部に伝達するという機能を発揮する。したがって、燃料電池のセパレータには、係る機能を十分に発揮するため、表面方向における安定した導電性が要求される。また、スタック構造を得るため、曲げや引っ張り等に対する高い機械的強度も要求される。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたもので、表面方向における安定した導電性の他、高い機械的強度を得ることのできる燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては上記課題を解決するため、少なくとも導電性材料と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を使用して成形されるものであって、
熱可塑性樹脂に炭素繊維を0.1〜3.5wt%溶融混合して混合物を調製し、この混合物を粉末状に加工して導電性材料と混合させ、この混合物を加熱しながら加圧成形することにより板体に成形されることを特徴としている。
【0007】
なお、導電性材料を黒鉛、カーボンブラック、焼成黒鉛とし、熱可塑性樹脂をポリフェニルサルファイド、液晶ポリマー、ポリカーボネートとすることができる。
また、炭素繊維をカーボンナノチューブとしてその平均径を10〜30nmとすると良い。
【0008】
また、本発明においては上記課題を解決するため、少なくとも導電性材料と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を使用して燃料電池用セパレータを成形する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
熱可塑性樹脂に炭素繊維を0.1〜3.5wt%溶融混合して混合物を調製し、この混合物を粉末状に加工して導電性材料と混合させ、その後、混合物を加熱しながら加圧成形して板体の燃料電池用セパレータを成形することを特徴としている。
【0009】
ここで、特許請求の範囲における炭素繊維は、カーボンナノチューブが主ではあるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えばカーボンナノコイル、カーボンナノファイバ、カーボンナノホーン等が含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料電池用セパレータの表面方向における導電性を安定させ、かつ高い機械的強度を得ることができるという効果がある。
また、炭素繊維をカーボンナノチューブとしてその平均径を10〜30nmとすれば、燃料電池用セパレータの曲げや引っ張り等に関する機械的強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る燃料電池用セパレータ及びその製造方法の好ましい実施形態を説明すると、本実施形態における燃料電池用セパレータは、導電性材料と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を使用して成形されるセパレータであって、熱可塑性樹脂に導電性や機械的強度に優れるカーボンナノチューブを重量比率で0.1〜3.5wt%溶融混合して混合物を調製し、この混合物を粉末状に加工して導電性材料と混合させ、この混合物を加熱しながら成形することにより圧縮成形される。
【0012】
導電性材料は、例えば入手の容易な黒鉛、カーボンブラック、及び又は焼成黒鉛が使用される。また、熱可塑性樹脂は、例えば実用性や利便性の観点からポリフェニルサルファイド、液晶ポリマー、及び又はポリカーボネートが使用される。また、カーボンナノチューブは、例えば比較的安価なマルチタイプからなり、平均径が10〜30nm、好ましくは10〜20nm、より好ましくは20nmとされる。
【0013】
上記において、燃料電池用セパレータを製造する場合には、先ず、熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブをラボプラストミル等により溶融混合して混合物を調製し、この混合物をジェットミルにより粉末状に粉砕加工して導電性材料と粉体混合させる。この際、カーボンナノチューブは、効果を維持し、かつ混合の困難性を回避する観点から0.1〜3.5wt%溶融混合される。また、導電性材料との混合には、例えばボールミル等が使用される。
【0014】
混合物に導電性材料を粉体混合したら、導電性材料と混合した混合物を金型に充填し、加熱プレス機により加熱しながら加圧成形すれば、平板の燃料電池用セパレータを得ることができる。
【0015】
係る加圧成形の際、燃料電池用セパレータの表面には、燃料と酸化剤用の流路が複数凹み成形される。また、燃料電池用セパレータの体積抵抗値は、表面方向における導電性を良好ならしめ、かつ安定させる観点から4端子法による測定で50mΩ・cm以下とされる。
【0016】
上記によれば、熱可塑性樹脂が燃料電池用セパレータの機械的強度に及ぼす影響を考慮し、熱可塑性樹脂に安定した結晶構造のカーボンナノチューブ0.1〜3.5wt%を溶融混合した後、導電性材料を混合するので、燃料電池用セパレータの表面方向における導電性を安定させつつ、曲げや引っ張り等に対する機械的強度を著しく向上させることができる。
【0017】
なお、上記実施形態では燃料電池用セパレータの表面に複数の流路を金型の成形により形成したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、使用方法に応じ、燃料電池用セパレータの表面に流路を切削加工により形成しても良い。
【実施例】
【0018】
以下、本発明に係る燃料電池用セパレータ及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明するが、本発明に係る燃料電池用セパレータ及びその製造方法は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0019】
実施例1〜12
先ず、表1に示す配合割合で所定の熱可塑性樹脂に平均径が10nmあるいは20nmのカーボンナノチューブ〔日機装社製 商品名:CNT−10、CNT−20〕をラボプラストミルにより溶融混合して混合物を調製し、この混合物をジェットミルにより150メッシュ以下の粉末状に粉砕加工して黒鉛〔東海カーボン社製 商品名:8020S〕とボールミルにより30分間粉体混合させた。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、PPS〔東レ社製 商品名:E2180〕、LCP〔ポリプラスティック社製 商品名:A−8100〕、あるいはPEI〔日本GE社製 商品名:ULTEM1040〕を使用した。
【0021】
黒鉛を粉体混合したら、この混合物370gを金型に充填し、加熱プレス機により加熱しながら加圧成形することにより、A4サイズ(210mm×297mm)で厚さ2mmの燃料電池用セパレータを平板に製造した。加熱プレス機による加圧成形は、400℃、150kgf/cmの条件で実施した。
【0022】
燃料電池用セパレータを製造したら、平均厚み、平均体積抵抗値、曲げ強度、引っ張り強度をそれぞれ測定して表1にまとめた。曲げ強度の測定についてはJIS−K6911に準拠し、引っ張り強度の測定についてはJIS−K7162に準拠した。
【0023】
比較例1〜6
表1に示す配合割合で所定の熱可塑性樹脂と黒鉛〔東海カーボン社製 商品名:8020S〕とをボールミルにより30分間粉体混合させ、この混合物370gを金型に充填し、加熱プレス機により加熱しながら加圧成形することにより、A4サイズ(210mm×297mm)で厚さ2mmの燃料電池用セパレータを平板に製造した。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、PPS〔東レ社製 商品名:E2180〕、LCP〔ポリプラスティック社製 商品名:A−8100〕、あるいはPEI〔日本GE社製 商品名:ULTEM1040〕を使用した。また、加熱プレス機による加圧成形は、400℃、150kgf/cmの条件で実施した。
【0025】
また、表1に示す配合割合で所定の熱可塑性樹脂に平均径が20nmのカーボンナノチューブ〔日機装社製 商品名:CNT−20〕をラボプラストミルにより溶融混合して混合物を調製し、この混合物をジェットミルにより150メッシュ以下の粉末状に粉砕加工して黒鉛〔東海カーボン社製 商品名:8020S〕とボールミルにより30分間粉体混合させた。熱可塑性樹脂については、上記と同様とした。
【0026】
黒鉛を粉体混合したら、この混合物370gを金型に充填し、加熱プレス機により加熱しながら加圧成形することにより、A4サイズ(210mm×297mm)の燃料電池用セパレータを平板に製造した。加熱プレス機による加圧成形は、上記と同様とした。
【0027】
燃料電池用セパレータを製造し、実施例同様、平均厚み、平均体積抵抗値、曲げ強度、引っ張り強度をそれぞれ測定して表1にまとめた。
【0028】
【表1】

【0029】
検討の結果、各実施例の燃料電池用セパレータの場合には、比較例とは異なり、熱可塑性樹脂の種類、カーボンナノチューブの平均径にかかわらず、優れた機械的強度を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも導電性材料と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を使用して成形される燃料電池用セパレータであって、
熱可塑性樹脂に炭素繊維を0.1〜3.5wt%溶融混合して混合物を調製し、この混合物を粉末状に加工して導電性材料と混合させ、この混合物を加熱しながら加圧成形することにより板体に成形されることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
導電性材料を黒鉛、カーボンブラック、焼成黒鉛とし、熱可塑性樹脂をポリフェニルサルファイド、液晶ポリマー、ポリカーボネートとした請求項1記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
炭素繊維をカーボンナノチューブとしてその平均径を10〜30nmとした請求項1又は2記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
少なくとも導電性材料と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を使用して燃料電池用セパレータを成形する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
熱可塑性樹脂に炭素繊維を0.1〜3.5wt%溶融混合して混合物を調製し、この混合物を粉末状に加工して導電性材料と混合させ、その後、混合物を加熱しながら加圧成形して板体の燃料電池用セパレータを成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。

【公開番号】特開2009−231034(P2009−231034A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74820(P2008−74820)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】