説明

燃料電池用セパレータ

【課題】セパレータを介する電極の冷却をより確実に行い、しかもセパレータのさらなる耐食性の向上を図る。
【解決手段】燃料電池用金属セパレータ10は、空冷される電池スタックに単位電池セルと共に積層されて使用され、アルミニウム系金属よりなるセパレータ基板1と、セパレータ基板1の表面に形成されたニッケル層2と、ニッケル層2の表面に形成された導電性樹脂層3と、導電性樹脂層3の表面に形成された撥水層4と、を備える。セパレータ基板1は、単位電池セルを構成するアノード及びカソードに対向して配置される反応部を有するセパレータ本体部11と、セパレータ本体部11の周縁の少なくとも一部に一体に形成されたヒートシンク部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる燃料電池用セパレータに関する。本発明の燃料電池用セパレータは、特に小型、軽量でシンプルな構造の空冷式の燃料電池システムに適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンな排気と高エネルギー効率を実現可能な燃料電池が注目されている。特に固体高分子型燃料電池は、出力密度が高い、作動温度が低い等の特性を有する。このため、固体高分子型燃料電池を用いた燃料電池システムを、移動体用や家庭用等の小型・軽量電源として利用することが現実化している。
【0003】
固定高分子型燃料電池システムは、一般に、電池スタックと、この電池スタックに燃料を供給する燃料ボンベと、電池スタックを冷却するための冷却手段とを備える。
【0004】
電池スタックは、単位電池セルを導電性セパレータで挟み込んだものを複数積層してなる。単位電池セルは膜・電極接合体(MEA)よりなる。この膜・電極接合体は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜の一面に隣接された触媒層及び燃料ガス拡散層よりなるアノード(燃料極)と、固体高分子電解質膜の他面に隣接された触媒層及び酸化剤ガス拡散層よりなるカソード(酸素極)とから構成されている。
【0005】
セパレータの電極に対向する部分(反応部)には、燃料ガス、酸化剤ガス等の供給ガス流路を電極との間に形成するため、ガス流路形成用の多数の突起部、溝部等が形成されている。また、セパレータは、集電体としての役割とガス通路形成材としての役割とを有する。このため、セパレータの特性として、導電性や集電性と水素及び酸素に対する耐透過性とが求められる。
【0006】
セパレータは、一般に、強度や加工性の高い金属材料、例えばステンレス鋼、チタンやアルミニウム等よりなる。しかし、比較的低温で動作する固体高分子型燃料電池であっても、セパレータは、70〜90℃の温度における飽和に近い水蒸気にさらされる。このため、金属材料を用いたセパレータでは、その表面に腐食による酸化膜が生成され易い。その結果、生成された酸化膜と電極との接触抵抗が大きくなり、セパレータの集電性能が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、セパレータ基板の表面に導電性樹脂層を設けた金属セパレータが知られている(例えば、特許文献1参照)。この金属セパレータは、導電性や集電性に優れていると同時に、成形性、強度及び耐食性に優れている。しかし、セパレータ基板の金属材料の種類によっては、さらなる耐食性の向上が望まれる。
【0008】
一方、冷却ファンを備え、電池スタックを空気によって冷却する燃料電池システムが知られている(例えば、特許文献2参照)。この燃料電池システムでは、冷却ファンからの空気により電池スタックが冷却されるため、電極の熱劣化(触媒金属のシンタリング等)を抑えることができる。しかし、電極の熱劣化をより確実に抑えるためには、セパレータを介して冷却ファンにより電極をより確実に冷却することが望まれる。
【特許文献1】特開2006−269090号公報
【特許文献2】特開2007−265937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、セパレータを介する電極の冷却をより確実に行うことができ、しかもさらなる耐食性の向上を図ることのできる燃料電池用金属セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の燃料電池用金属セパレータは、空冷される電池スタックに単位電池セルと共に積層されて使用される燃料電池用金属セパレータであって、前記単位電池セルを構成するアノード及びカソードに対向して配置される反応部を有するセパレータ本体部と、該セパレータ本体部の周縁の少なくとも一部に一体に形成されたヒートシンク部とを有し、アルミニウム系金属よりなるセパレータ基板と、前記セパレータ基板の前記セパレータ本体部の表面に形成されたニッケル層と、前記ニッケル層の表面に形成された導電性樹脂層と、前記導電性樹脂層の表面に形成された撥水層と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
ここに、前記アルミニウム系金属とは、アルミニウム又はアルミニウム合金のことである。
【0012】
本発明の燃料電池用金属セパレータでは、セパレータ基板がアルミニウム系金属よりなる。また、本発明の燃料電池用金属セパレータは、アノード及びカソードに対向して配置されるセパレータ本体部の周縁に、ヒートシンク部を有する。アルミニウム系金属の熱伝導率は比較的高い。このため、アノード及びカソードの熱が反応部からヒートシンク部に効率的に伝わる。このヒートシンク部には冷却ファンからの空気が当たりやすいため、ヒートシンク部は冷却されやすい。このため、アノード及びカソードの熱が反応部から伝わって熱くなったヒートシンク部を冷却ファンで効率的に冷やすことができる。したがって、冷却ファンからの空気をヒートシンク部に当てて電池スタックを冷却すれば、セパレータを介してアノード及びカソードをより確実に冷却することができる。
【0013】
また、本発明の燃料電池用金属セパレータでは、セパレータ基板のセパレータ本体部の表面に、ニッケル層、導電性樹脂層及び撥水層が形成されている。このため、本発明の金属セパレータは、後述する実施例で示されるように、これら三層の働きにより、高い耐食性と集電性とを発揮する。
【0014】
本発明の燃料電池用金属セパレータは、下記(1)〜(3)項に示される構成のうちの少なくとも一つを有していることが好ましい。本発明の燃料電池用金属セパレータは、下記(1)〜(3)の各項に示される構成をそれぞれ単独で有してもよいし、(1)〜(3)の各項に示される構成を二つ以上組み合わせて有してもよい。
【0015】
(1)前記ニッケル層、前記導電性樹脂層及び前記撥水層が、前記ヒートシンク部の部分には形成されていない。
【0016】
ヒートシンク部には耐食性が不要である。一方、冷却ファンからの空気が直接当たるヒートシンク部では、効率的に放熱できることが望ましい。その点、ニッケル層、導電性樹脂層及び撥水層がヒートシンク部に形成されていない本構成によると、熱伝導率の高いアルミニウム系金属よりなるセパレータ基板が剥き出しになっているため、ヒートシンク部からの放熱がニッケル層、導電性樹脂層及び撥水層によって妨げられることはない。このため、ヒートシンク部から効率的に放熱することができる。
【0017】
また、ニッケル層、導電性樹脂層及び撥水層をヒートシンク部に形成することによる材料費の無駄使いを無くすことができ、コスト面でも有利となる。
【0018】
(2)前記導電性樹脂層の厚さが10〜30μmである。
【0019】
(3)前記撥水層の厚さが1〜3μmである。
【発明の効果】
【0020】
したがって、本発明の燃料電池用金属セパレータによると、セパレータを介する電極の冷却をより確実に行うことができ、しかもセパレータの耐食性をさらに向上させることができる。よって、電極及びセパレータの長寿命化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の燃料電池用金属セパレータの実施形態について詳しく説明する。なお、説明する実施形態は一実施形態にすぎず、本発明の燃料電池用金属セパレータは、下記実施形態に限定されるものではない。本発明の燃料電池用金属セパレータは、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0022】
(実施形態1)
実施形態1の燃料電池用の金属セパレータ10は、ヒートシンク部が一体に形成されたヒートシンク一体型のセパレータである。
【0023】
この金属セパレータ10は、図1の模式断面図に示されるように、セパレータ基板1と、セパレータ基板1の表面に形成されたニッケル層2と、ニッケル層2の表面に形成された導電性樹脂層3と、導電性樹脂層3の表面に形成された撥水層4とから構成されている。
【0024】
セパレータ基板1は、アルミニウム系金属、すなわちアルミニウム又はアルミニウム合金よりなる。
【0025】
セパレータ基板1は、図2の平面図に示されるように、正方形状のセパレータ本体部11と、セパレータ本体部11の周縁の一部に一体に形成された長方形状のヒートシンク部12とを有している。
【0026】
セパレータ本体部11は、セパレータ本体部11のほぼ中央部に長方形状の反応部111を有している。反応部111は、この金属セパレータ10が後述する電池スタック30に組み込まれたときに、後述する単位電池セル20を構成するアノード及びカソードに対向して配置される。反応部111の表裏両面には、アノードには燃料ガスを、カソードには酸化剤ガスをそれぞれ供給するためのガス流路形成用の溝111aが多数形成されている。また、セパレータ本体部11は、複数(この実施形態では4個)の円形孔11aを四隅に有するとともに、複数(この実施形態では6個)の矩形孔11bを周縁の辺部に有している。矩形孔11bには、この金属セパレータ10が電池スタック30に組み込まれたときに、図示しない多岐管が配設される。この多岐管は、燃料ガス供給用のガス流路、酸化剤ガス供給用のガス流路、電池反応で生成した水を排出する排水路を形成する。円形孔11aは、金属セパレータ10等を積層、固定して電池スタック30にするためのボルト用の挿通孔である。
【0027】
実施形態1のセパレータ基板1では、一つの矩形状(又は帯状)のヒートシンク部12が、正方形状のセパレータ本体部11の一端(一辺)に一体に形成されている。このヒートシンク部12は、この金属セパレータ10が電池スタック30に組み込まれたときに、単位電池セル20を構成するアノード及びカソードには対向しない。すなわち、金属セパレータ10が電池スタック30に組み込まれたときに、隣り合う金属セパレータ10のヒートシンク部12同士が所定の間隔をおいて対向する。
【0028】
セパレータ基板1の形成方法は特に限定されないが、ダイカスト等の鋳造やプレス加工等を利用することができる。セパレータ基板1の厚さも特に限定されず、2〜5mm程度とすることができる。
【0029】
ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水コート層4は、セパレータ基板1のヒートシンク部12の部分には形成されていない。すなわち、ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4は、セパレータ基板1のうちセパレータ本体部11の部分のみに形成されている。また、ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4は、セパレータ基板1のセパレータ本体部11の部分の表裏両面に形成されている。
【0030】
ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4をセパレータ本体部11の部分のみに形成するには、例えば、マスキング用テープでヒートシンク部12の部分を覆った状態で、ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4の各層の形成工程を実施し、その後マスキング用テープを剥がせばよい。
【0031】
ニッケル層2の形成方法は特に限定されないが、好適には、電気めっきや無電解めっきによりニッケル層2を形成することができる。
【0032】
アルミニウム系金属よりなるセパレータ基板1の表面には酸化膜が形成されやすい。セパレータ基板1の表面に酸化膜が形成されると、金属セパレータ10の電気抵抗が大きくなる。ニッケル層2は、アルミニウム系金属よりなるセパレータ基板1の表面に酸化膜が形成されることを防止する。したがって、セパレータ基板1の表面にニッケル層2を形成することで、酸化膜形成による電気抵抗の増大を防止することができる。
【0033】
ニッケル層2の厚さが薄すぎると、このニッケル層2を形成することによる効果が不十分になる。一方、ニッケル層2を厚くしすぎても、ニッケル層2を形成することによるそれ以上の効果が期待できないため、コスト面で不利になる。したがって、ニッケル層2の厚さは1〜10μmとすることが好ましく、5〜10μmとすることがより好ましい。
【0034】
導電性樹脂層3の種類としては特に限定されず、例えば、樹脂バインダ中に導電性物質としての金属粒子を含む金属系導電性樹脂層であっても、樹脂バインダ中に導電性物質としてのカーボン系粒子を含むカーボン系導電性樹脂層であってもよい。樹脂バインダの種類は特に限定されないが、耐熱性の高いフェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂やフッ素樹脂を好適に用いることができる。
【0035】
導電性樹脂層3の形成方法は特に限定されないが、例えば、ディッピング、スプレー、刷毛塗りや電着等により、金属系導電性塗料やカーボン系導電性塗料をニッケル層2の表面に塗装してから焼き付けることができる。焼付け条件としては、温度:120〜180℃程度、時間:30〜60分程度とすることができる。なお、導電性塗料の塗装及び焼付を繰り返すことにより、導電性樹脂層3の膜厚を厚くすることができる。
【0036】
導電性樹脂層3は、金属セパレータ10の導電性及び集電性の低下を抑えつつ金属セパレータ10の耐食性を向上させる。導電性樹脂層3の厚さが薄すぎると、この導電性樹脂層3を形成することによる効果が不十分になる。一方、導電性樹脂層3を厚くしすぎると、金属セパレータ10の面積抵抗(接触抵抗)が増大するので、金属セパレータ10の導電性及び集電性が低下する。したがって、導電性樹脂層3の厚さは10〜30μmとすることが好ましく、15〜25μmとすることがより好ましい。
【0037】
撥水層4の種類及び形成方法としては特に限定されず、例えば、ディッピング、スプレー、刷毛塗りや電着等により、シリコーン系、フッ素系等の撥水性塗料を導電性樹脂層3の表面に塗装してから焼き付けることができる。焼付け条件としては、温度:150〜200℃程度、時間:30〜60分程度とすることができる。なお、撥水性塗料の塗装及び焼付を繰り返すことにより、撥水層4の膜厚を厚くすることができる。
【0038】
導電性樹脂層3には、導電性樹脂層3の形成時(焼付け時)にクラックが発生し易い。導電性樹脂層3の表面に撥水層4を形成すると、導電性樹脂層3内のクラックが撥水性塗料で埋められるため、導電性樹脂層3のクラックを介して外部からニッケル層2に水分が到達することを防止することができる。また、仮に導電性樹脂層3にクラックによる隙間が存在しても、撥水層4における撥水効果により、外部から導電性樹脂層3のクラック内に水分が浸入することを抑えることができる。したがって、導電性樹脂層3の表面に形成された撥水層4は、金属セパレータ10の耐食性を高める。
【0039】
撥水層4の厚さが薄すぎると、この撥水層4を形成することによる効果が不十分になる。一方、撥水層4を厚くしすぎると、金属セパレータ10の面積抵抗(接触抵抗)が増大するので、金属セパレータ10の導電性及び集電性が低下する。したがって、撥水層4の厚さは1〜3μmとすることが好ましく、1〜2μmとすることがより好ましい。
【0040】
ここに、導電性樹脂層3の表面に撥水層4を形成する際に導電性樹脂層3のクラック内に撥水性塗料をより浸入させ易くする観点より、導電性樹脂層3の表面に塗布する撥水性塗料の粘度をある程度低くすることが好ましい。
【0041】
上記構成を有する実施形態1の金属セパレータ10は、図3に示されるように、複数の単位電池セル20と共に複数積層されて電池スタック30を構成する。この電池スタック30は、図示しない燃料ボンベ及び冷却ファン40と共に、空冷式の固体高分子型燃料電池システムを構成する。
【0042】
単位電池セル20は、従来と同様、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜の一面に隣接された触媒層及び燃料ガス拡散層よりなるアノード(燃料極)と、固体高分子電解質膜の他面に隣接された触媒層及び酸化剤ガス拡散層よりなるカソード(酸素極)とからなる膜・電極接合体(MEA)により構成することができる。
【0043】
冷却ファン40は、電池スタック30における単位電池セル20の積層方向に延びるクロスフローファンや、同積層方向に並んで配設された複数の軸流ファン(遠心ファン)により構成することができる。この冷却ファン40から電池スタック30に向けて冷却用空気が送られる。このとき、電池スタック30のうち各金属セパレータ10の各ヒートシンク部12の部分に冷却ファンからの冷却用空気が直接当たるように、冷却ファンを配置することが好ましい。
【0044】
実施形態1の燃料電池用の金属セパレータ10では、セパレータ基板1がアルミニウム系金属よりなり、かつ単位電池セル20のアノード及びカソードに対向して配置されるセパレータ本体部11の周縁に、ヒートシンク部12を有する。アルミニウム系金属の熱伝導率は比較的高い。このため、アノード及びカソードの熱がセパレータ本体部11の反応部111からヒートシンク部12に効率的に伝わる。このヒートシンク部12には冷却ファン40からの空気が直接当たる。このため、アノード及びカソードの熱が反応部111から伝わって熱くなったヒートシンク部12を冷却ファン40で効率的に冷やすことができる。したがって、冷却ファン40からの空気がヒートシンク部12に直接当たるように電池スタック30を冷却すれば、金属セパレータ10を介してアノード及びカソードをより確実に冷却することができる。
【0045】
また、実施形態1の金属セパレータ10では、セパレータ基板1の表面に、ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4が形成されている。このため、この金属セパレータ10は、これら三層の働きにより、高い耐食性と集電性とを発揮する。
【0046】
さらに、この金属セパレータ10では、ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4が、基本的に耐食性が不要なヒートシンク部12の部分には形成されていない。すなわち、ヒートシンク部12の部分においては、熱伝導率の高いアルミニウム系金属よりなりセパレータ基板1が剥き出しになっている。このため、ヒートシンク部12からの放熱がニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4によって妨げられることはない。したがって、ヒートシンク部12からより効率的に放熱することができる。さらに、ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4をヒートシンク部12に形成することによる材料費の無駄使いを無くすことができ、コスト面でも有利となる。
【0047】
よって、実施形態1の燃料電池用の金属セパレータ10によると、金属セパレータ10を介するアノード及びカソードの冷却をより確実に行うことができ、しかもセパレータの耐食性をさらに向上させることができる。このため、アノード及びカソードの熱劣化を抑えて電極寿命を長くすることが可能になる。また、金属セパレータ10の寿命も長くすることが可能になる。
【0048】
(実施形態2)
実施形態2におけるセパレータ基板1では、図4に示されるように、一対のヒートシンク部12、12が、正方形状のセパレータ本体部11の両端(対向する二辺)に一体に形成されている。このヒートシンク部12は、この金属セパレータ10が電池スタックに組み込まれたときに、単位電池セルを構成するアノード及びカソードには対向しない。すなわち、金属セパレータ10が電池スタックに組み込まれたときに、隣り合う金属セパレータ10のヒートシンク部12同士が所定の間隔をおいて対向する。
【0049】
その他の構成は実施形態1と同様であるため、その説明を省略する。
【0050】
したがって、実施形態2の金属セパレータ10も、実施形態1の金属セパレータ10と同じ作用効果を奏する。
【0051】
(実施形態3)
実施形態3におけるセパレータ基板1では、図5に示されるように、環状のヒートシンク部12が、正方形状のセパレータ本体部11の周縁の全周に一体に形成されている。このヒートシンク部12は、この金属セパレータ10が電池スタックに組み込まれたときに、単位電池セルを構成するアノード及びカソードには対向しない。すなわち、金属セパレータ10が電池スタックに組み込まれたときに、隣り合う金属セパレータ10のヒートシンク部12同士が所定の間隔をおいて対向する。
【0052】
その他の構成は実施形態1と同様であるため、その説明を省略する。
【0053】
したがって、実施形態3の金属セパレータ10も、実施形態1の金属セパレータ10と同じ作用効果を奏する。
【0054】
(その他の実施形態)
実施形態1、2では、ニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4が、ヒートシンク部12の部分には形成されていない例について説明したが、セパレータ基板1の全体、すなわちセパレータ本体部11及びヒートシンク部12の全体にニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4が形成されていてもよい。セパレータ基板1の全体にニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4を形成する場合は、ヒートシンク部12にニッケル層2、導電性樹脂層3及び撥水層4を形成させないためのマスキング処理等が不要になり、製造工程の削減を図ることができる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
実施形態1に準じて実施例1の金属セパレータ10を製造した。
【0056】
まず、ダイカスト鋳造法により、アルミニウムよりなる所定形状の金属基板1を形成した。この金属基板1の厚さは2mmとした。
【0057】
そして、電気めっきにより、金属基板1の全体(セパレータ本体部11及びヒートシンク部12の全体)に、厚さ5μmのニッケル層2を形成した。
【0058】
次に、超音波洗浄を、温度:40℃程度、時間:10分程度の条件で施した後、ディッピング、吹き飛ばし及び焼き付けを2回繰り返して、ニッケル層2の表面に、厚さ20μmの導電性樹脂層3を形成した。焼き付け条件は、温度:160℃、時間:45分とした。また、導電性塗料として、商品名「エブリオーム 30CE」(日本黒鉛工業株式会社製)を用いた。なお、この導電性塗料には黒鉛粒子が含まれている。また、この導電性塗料における樹脂バインダはフェノール樹脂である。
【0059】
最後に、ディッピング、自然乾燥及び焼き付けにより、導電性樹脂層3の表面に、厚さ1〜2μmの撥水層4を形成した。焼き付け条件は、温度:160℃、時間:45分とした。また、商品名「シリコーンコーティング KR251」(信越化学工業株式会社製)の撥水性塗料を2%の濃度に薄めたものを用いた。
【0060】
(実施例2)
ニッケル層2の厚さを10μmとすること以外は、実施例1と同様にして、実施例2の金属セパレータ10を製造した。
【0061】
(実施例3)
セパレータ基板1の厚さを5mmとし、ニッケル層2の厚さを10μmとし、かつ、導電性樹脂層3の厚さを10μmとすること以外は、実施例1と同様にして、実施例3の金属セパレータ10を製造した。
【0062】
(比較例1)
撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の金属セパレータを製造した。
【0063】
(比較例2)
導電性樹脂層3の厚さを30μmとし、かつ、撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の金属セパレータを製造した。
【0064】
(比較例3)
ニッケル層2の厚さを10μmとし、かつ、撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の金属セパレータを製造した。
【0065】
(比較例4)
ニッケル層2の厚さを10μmとし、導電性樹脂層3の厚さを30μmとし、かつ、撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の金属セパレータを製造した。
【0066】
(比較例5)
ステンレスよりなる金属基板を用い、かつ、撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の金属セパレータを製造した。
【0067】
(比較例6)
ニッケル層2及び撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1同様にして、比較例6の金属セパレータを製造した。
【0068】
(比較例7)
セパレータ基板1の厚さを5mmとし、ニッケル層2の厚さを10μmとし、導電性樹脂層の厚さを10μmとし、かつ、撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7の金属セパレータを製造した。
【0069】
(比較例8)
セパレータ基板1の厚さを5mmとし、ニッケル層2の厚さを10μmとし、かつ撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例8の金属セパレータを製造した。
【0070】
(比較例9)
セパレータ基板1の厚さを5mmとし、ニッケル層2の厚さを10μmとし、導電性樹脂層の厚さを30μmとし、かつ撥水層4を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例9の金属セパレータを製造した。
【0071】
(耐食性の評価)
実施例1、2の金属セパレータ10と、比較例1〜4の金属セパレータとについて、耐食性を評価した。これは、pH3の硫酸水溶液に試料を浸漬し、腐食電流が検出されるまでの耐久時間を計った。これらの結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から明らかなように、実施例1、2の金属セパレータ10における耐久時間は、ステンレスよりなる金属基板を用いた比較例5と同様、5000時間以上であり、実施例1、2の金属セパレータ10が極めて高い耐食性を有することが実証された。
【0074】
(面積抵抗の評価)
実施例2の金属セパレータ10と、比較例3、6の金属セパレータとについて、面積抵抗を評価した。この評価は、電極面に電流を流し、その時の電圧を測って抵抗値を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2より、撥水層4を形成することで、金属セパレータの面積抵抗(接触抵抗)が高くなったが、実施例2の金属セパレータ10における70mΩ・cmの面積抵抗は、セパレータとして使用可能な範囲である。
【0077】
(導電性樹脂層の厚さと面積抵抗との関係)
比較例7〜9の金属セパレータについて、前記と同様にして、面積抵抗を評価した。これらの結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
表3より、導電性樹脂層3が厚くなるほど、金属セパレータの面積抵抗(接触抵抗)が高くなった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施形態1に係る金属セパレータの模式断面図である。
【図2】実施形態1に係る金属セパレータの平面図である。
【図3】実施形態1に係る金属セパレータを単位電池セルと共に電池スタックに組み込むとともに、この電池スタックを固体高分子型燃料電池システムに組み込んだ例を示す平面図である。
【図4】実施形態2に係る金属セパレータの平面図である。
【図5】実施形態3に係る金属セパレータの平面図である。
【符号の説明】
【0081】
1…セパレータ基板 2…ニッケル層
3…導電性樹脂層 4…撥水層
10…金属セパレータ 11…セパレータ本体部
12…ヒートシンク部 20…単位電池セル
30…電池スタック 40…冷却ファン
111…反応部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空冷される電池スタックに単位電池セルと共に積層されて使用される燃料電池用金属セパレータであって、
前記単位電池セルを構成するアノード及びカソードに対向して配置される反応部を有するセパレータ本体部と、該セパレータ本体部の周縁の少なくとも一部に一体に形成されたヒートシンク部とを有し、アルミニウム系金属よりなるセパレータ基板と、
前記セパレータ基板の前記セパレータ本体部の表面に形成されたニッケル層と、
前記ニッケル層の表面に形成された導電性樹脂層と、
前記導電性樹脂層の表面に形成された撥水層と、を備えていることを特徴とする燃料電池用金属セパレータ。
【請求項2】
前記ニッケル層、前記導電性樹脂層及び前記撥水層が、前記ヒートシンク部の部分には形成されていない請求項1に記載の燃料電池用の金属セパレータ。
【請求項3】
前記導電性樹脂層の厚さが10〜30μmである請求項1又は2に記載の燃料電池用の金属セパレータ。
【請求項4】
前記撥水層の厚さが1〜3μmである請求項1〜3のいずれか一つに記載の燃料電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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