説明

燃料電池用担持触媒、燃料電池用反応層、及び燃料電池。

【課題】高い出力を得ることが可能な燃料電池用担持触媒、燃料電池用反応層、及び燃料電池を提供する。
【構成】重合工程S1としてレゾルシノールとホルムアルデヒド水溶液と炭酸ナトリウム水溶液を混合し、撹拌を行いゲル化物を得る。次に、粉砕工程S2として、ゲル化物をデカンテーションした後、水の存在下でボールミルで2時間の粉砕を行いゲル粉末スラリーとする。さらに、溶媒置換工程S3として、ゲル粉末スラリーをアセトンで洗浄し、アセトンによる溶媒置換を行う。そして、超臨界乾燥工程S4として、ゲル粉末をCO2により超臨界乾燥し、ゲル乾燥粉末を得る。最後に、熱分解工程S5として、ゲル乾燥粉末を窒素雰囲気下、加熱することによりカーボンエアロゲル粉末を得る。こうして得られたカーボンエアロゲル粉末にPt等の触媒を担持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用担持触媒、燃料電池用反応層、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)は、出力密度が高く、低温で作動し、有害な排気ガスも出さないため、内燃機関に代わる新たなエネルギー源として注目されている。
PEFCは、固体高分子電解質膜の一方の面にアノードを、他の面にカソードを接合して構成されている。そして、アノードには水素ガス、カソードには酸素ガスを供給し、アノードで水素ガスをプロトンに酸化し、カソードで酸素を水に還元して発電する。アノード及びカソードには、共にカーボン等の担体にPt等の貴金属からなる触媒粒子を担持した微粉末からなる燃料電池用担持触媒が用いられている。
こうしたPEFCの理論電圧は、熱力学的計算から1.23Vと求められるが、実際には種々の分極により、これより小さな出力電圧しか得られていない。出力端子の電圧低下は、ひいてはPEFCの効率低下となるため、分極の起こりにくい燃料電池用担持触媒が求められている。
【0003】
従来、燃料電池用担持触媒として、オイルやアセチレンを燃焼して得られるカーボン粉末にPt等の触媒が担持されたものが広く用いられている。こうした燃料電池用担持触媒の性能を向上させるためには、できるだけ比表面積の大きなカーボン粉末を用いて、反応面積を広くして、出力を増大させることが考えられる。こうした考え方から、カーボン粉末に、大きな比表面積を有する活性炭粉末を用いることもなされている。
【0004】
また、カーボンエアロゲルを燃料電池用担持触媒として用いることも提案されている(特許文献1)。カーボンエアロゲルは、粉砕することにより粒子径を極めて小さくすることができるため、高分子電解質型燃料電池における電極として使用した場合、電極の厚さを薄くすることができる。また、乾燥したゲル化物の熱分解によって得られた炭化物は細孔構造を有しているため、これを粉砕して得られたカーボンエアロゲルも優れたガス透過性を有することが期待され、ひいては、物質移動による過電圧を低下させることができるのではないかと期待されている。
【0005】
こうしたカーボンエアロゲルの製造方法として、従来、ジヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとの重合物を出発物質として製造されるカーボンエアロゲルが知られている(特許文献2)。
このカーボンエアロゲル粉末は図1に示す工程によって製造される。
(重合工程S91)
すなわち、まず重合工程S91として、レゾルシノールやカテコール等のジヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを炭酸ナトリウムの存在下で重合して有機湿潤ゲル化物を得る。
(溶媒置換工程S92)
次に、溶媒置換工程S92として、ゲル化物をメタノールやアセトン等の水溶性有機溶媒で洗浄し、ゲル化物に含まれている水分を水溶性溶媒と溶媒置換する。
【0006】
(超臨界乾燥工程S93)
さらに、超臨界乾燥工程S93として、溶媒置換されたゲル化物をステンレス製の圧力容器に入れ、CO2を導入し、超臨界状態となるよう圧力と温度を調節し、その後ゆっくりとCO2を排出させることによって、CO2を気相条件へ移行させて超臨界乾燥を行う。こうして乾燥したゲル化物は、網目構造を形成している一次粒子の粒子径が0.1ミクロン以下の粒子からなり、嵩密度も100mg/mlと極めて小さくなっている。これは、超臨界乾燥では通常の乾燥と異なり、毛管力による収縮を伴わずに乾燥するため、重合工程S1におけるホルムアルデヒドによる架橋によって形成された細孔構造が、破壊されることなくそのままの状態で残るからと考えられる。
(熱分解工程S94)
そして、熱分解工程S94として、上記の乾燥されたゲル化物を窒素雰囲気下で高温にして炭化物の塊を得る。こうして得られた炭化物は、炭化する前の細孔構造が保たれている。
(粉砕工程S95)
最後に、粉砕工程S95として上記炭化物の塊を粉砕機で粉砕し、カーボンエアロゲル粉末を得る。
本件発明に関連する技術が特許文献3に開示されている。
【0007】
【特許文献1】特表平11−503267号公報
【特許文献2】U.S.patent No.4873218 claim14、15
【特許文献3】特開2005−293988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記活性炭に触媒を担持させた燃料電池用担持触媒では、活性炭に存在する細孔は極めて小さなミクロ細孔からなるため、その細孔内部にまで触媒を担持させることは困難である。また、例えその細孔内に触媒を担持させたとしても、ナフィオン(登録商標)等の固体高分子電解質を細孔内部にまで導入することは困難である。このため、反応物質、プロトン及び電子のパスが触媒の周囲に存在するような構造(三相界面)を細孔内部で形成させることは極めて困難となる。このため、単に比表面積が大きい活性炭粉末を触媒担体として用いても、充分な触媒活性を得ることはできなかった。
【0009】
この点、ミクロ細孔よりは大きいメソポーラスな孔を有するカーボンエアロゲルは、優れたガス透過性を有するため、触媒活性を高めることができるとも考えられる。しかしながら、発明者らが上記特許文献2記載のカーボンエアロゲルについて、詳細な試験を行ったところ、図1における熱分解工程S94によって得られた炭化物は細孔構造を有しているものの、これを粉砕して得られたカーボンエアロゲルはその細孔構造がほとんど破壊されていることが判明した。そして、このために、このカーボンエアロゲルに触媒を担持させた担持触媒を用いて燃料電池を構築しても、期待通りの高出力は得られなかった。
本発明は、上記従来の実情に鑑みなされたものであり、高い出力を得ることが可能な燃料電池用担持触媒、燃料電池用反応層、及び燃料電池を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記カーボンエアロゲルの粉末に触媒を担持させた燃料電池用担持触媒の高性能化を図るべく、細孔構造を破壊することなく、カーボンエアロゲルの粉末を得る方法について鋭意研究を行った。その結果、重合工程で得られた有機湿潤ゲル化物を溶媒置換する前に水中で粉砕しておき、その後、溶媒置換工程、超臨界乾燥工程、及び熱分解工程を行うことにより、製造過程において一旦形成された細孔構造がそのまま保たれたカーボンエアロゲル粉末が得られることを見出した。そして、こうして得られたカーボンエアロゲル粉末に触媒を担持させれば、上記課題を解決できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の局面の燃料電池用担持触媒は、カーボン粉末に触媒が担持された燃料電池用担持触媒において、前記カーボン粉末は、有機湿潤ゲル化物を得る工程と、
該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程と、該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程と、溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程と、該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程とを経て得られたカーボンエアロゲル粉末であることを特徴とする。
【0012】
かかる燃料電池用担持触媒では、担体となるカーボン粉末の製造する際、有機湿潤ゲル化物を粉砕工程において粉砕してから溶媒置換される。このため、ゲル化物の細孔に水が含まれた状態で粉砕されることとなり、乾燥状態での粉砕に比べて、水のクッション効果によって細孔が保護され、破壊され難くなる。また、予め有機湿潤ゲル化物が粉砕されているので溶媒置換の時間も短くなる。このため、こうして得られたカーボンエアロゲル粉末は、ゲル化物の細孔構造を反映した細孔構造が保たれていることとなる。このため、優れたガス透過性を有することとなり、これに触媒を担持させた本発明の燃料電池用担持触媒は、酸素や水素の物質移動が容易となり、ひいては高い出力を得ることができる。
【0013】
第2の局面の発明によれば、有機湿潤ゲル化物をポリヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを塩基触媒存在下で重合させて得られるものとした。
ここに、ポリヒドロキシベンゼンとは、ベンゼン環に2個以上の水酸基を有する化合物を意味する。このような化合物は、ホルムアルデヒドと容易に重合して網目状の構造をとり、細孔構造を形成することができる。このため、ガス透過性を確実に高めることができる。
【0014】
第3の局面の発明によれば、ポリヒドロキシベンゼンとしてジヒドロキシベンゼン及び/又はジヒドロキシベンゼン誘導体を採用する。
ポリヒドロキシベンゼンの中でもジヒドロキシベンゼンやジヒドロキシベンゼン誘導体は、比較的安定な化合物であるため、取り扱いやすく好適である。
ジヒドロキシベンゼンとして特に好適なのはレゾルシノールである。よって、第4の局面の発明として、ジヒドロキシベンゼンとしてレゾルシノールを採用した。
【0015】
第5の局面の発明によれば、溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒を採用した。
溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒であることが好ましい。こうであれば、ゲル化物に含まれている水を溶媒と容易に置換することができる。
【0016】
第6の局面の発明によれば、粉砕工程における粉砕条件を制御することによってカーボンエアロゲルの粒度分布を制御する。
本発明者らの検討により、粉砕工程における粉砕条件を制御することによって、カーボンエアロゲルの粒度分布を制御できることが見出された。このため、用途に応じた粒度分布のカーボンエアロゲル粉末を容易に製造することができる。粉砕条件としては、例えば粉砕時間や、粉砕ミルの回転速度等が挙げられる。
第7の局面の発明では、カーボンエアロゲル粒度分布を制御する方法として粉砕時間制御を採用した。
【0017】
第8の局面の発明によれば、触媒は触媒作用と磁性作用とを併せもつ磁性触媒であることとした。燃料電池に酸化剤として供給される酸素は常磁性を有し、燃料電池の電極反応
によって生ずる水は反磁性を有する。このため、燃料電池用担持触媒の触媒に触媒作用と磁性作用とを併せもつ磁性触媒を用いれば、空気極に担持した磁性触媒の磁気作用により、酸素は磁性触媒に引き付けられ、生成水は排斥される(図2参照)。このため、酸素の触媒への物質移動が促進されるとともに、電極に水が付着して物質移動を妨げるフラッディング現象がより確実に抑制され、燃料電池システムの出力向上をより確実に実現できる。
【0018】
また、第9の局面の発明として、磁性触媒はfct構造を主相とするPt合金を採用することができる。fct構造を主相とするPt合金は、高い保磁力を有するため、燃料電池の出力をより高めることができる。より具体的には、磁性触媒としては、Pt−Fe合金を採用することができる。Pt−Fe合金の状態図によれば、熱処理温度を900°Cとすると、Pt/Fe=35/65〜54/46(at%)の範囲で磁気作用を奏するfct構造を主相とするPt−Fe合金が得られる。また、熱処理温度を1300°Cとすることにより、Pt/Fe=41/59〜74/26(at%)の範囲で磁気作用を奏するfct構造を主相とするP t−Fe合金が得られた。Pt/Fe=38.5/61.5(at%)のPt−Fe合金を1046°Cで100時間熱処理し、水で急冷したfct構造を主相とするPt−Fe 合金の磁化曲線から、このfct構造を主相とするPt−Fe合金は、−3.8〜3.8kOeの高い保磁力を有することが確かめられている。発明者らの推察によれば、Pt/Fe=40/60〜75/25(at%)の組成を有するPt−Fe合金を採用することが好ましい。また、保磁力が絶対値で2kOe以上のPt−Fe合金を採用することが好ましい。さらに、粒径が1〜10nmのPt−Fe合金を採用することが好ましい。この種のPt−Fe合金は水溶液反応を基礎とする逆ミセル法、有機金属を用いる合成法等によって得られる。
【0019】
さらに、第10の局面として、磁性触媒はPt−Co合金を採用することもできる。Pt−Co合金の状態図によれば、Pt/Co=40/60〜73/27(at%)の範囲で磁気作用を奏するfct構造を主相とするPt−Co合金が得られる。発明者らの推察によれば、Pt/Co=40/60〜75/25(at%)の組成を有するPt−Co合金を採用することが好ましい。また、保磁力が絶対値で2kOe以上のPt−Co合金を採用することが好ましい。さらに、粒径が1〜10nmのPt−Co合金を採用することが好ましい。この種のPt−Co合金も水溶液反応を基礎とする逆ミセル法、有機金属を用いる合成法等によって得られる。
【0020】
以上のように、本発明の燃料電池用担持触媒を燃料電池用反応層に用いれば、高出力を得ることの可能な燃料電池用反応層となる。また、このような燃料電池用反応層を燃料電池に用いれば、高出力が得られる燃料電池となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施例1)
実施例1の燃料電池用担持触媒では、担体としてカーボンエアロゲル粉末を用い、触媒としてPtを担持させた。以下その調製法について詳述する。
<カーボンエアロゲル粉末の調製>
重合工程S1
図3に示すように、重合工程S1としてレゾルシノール4gとホルムアルデヒド37%水溶液5.5mlと炭酸ナトリウム99.5%粉末0.019gとを混合し、3時間撹拌を行った後、室温−24h、50°C−24h、90°C−72hエージングする事によりゲル化物を得た。
【0022】
粉砕工程S2
上記のゲル化物をイオン交換水でデカンテーションした後、水の存在下でボールミルで2時間の粉砕を行いゲル粉末スラリーとした。
溶媒置換工程S3
そして、溶媒置換工程S3として、上記ゲル粉末スラリーを吸引ろ過法によりアセトンで5回洗浄した後、スラリーをケーキ層型とした。
【0023】
超臨界乾燥工程S4
さらに、超臨界乾燥工程S4として、溶媒置換されたゲル粉末をステンレス製の圧力容器に入れ、CO2を導入し、超臨界状態となるよう圧力と温度を調節し、その後ゆっくりとCO2を排出させることによって、CO2を気相条件へ移行させて超臨界乾燥を行いゲル乾燥粉末を得た。
熱分解工程S5
最後に、熱分解工程S5として、上記ゲル乾燥粉末を電気炉内に入れ、窒素雰囲気下、1000°Cにて4時間の加熱を行った後、冷却してカーボンエアロゲル粉末を得た。
【0024】
<評 価>
こうして得られたカーボンエアロゲル、及び粉砕工程S2を行わずに熱分解工程S5を行った後、得られた塊状のカーボンエアロゲルについて、BET吸着法により細孔分布を測定した。その結果、図4に示すように、どちらのカーボンエアロゲルも、細孔分布についてほとんど差はなく、細孔構造が壊れることなく保たれていることが分かった。
【0025】
また、比較のために粉砕工程S2を行わず、熱分解工程S5を行った後、得られた塊状のカーボンエアロゲルを粉砕機によって4時間粉砕を行って得られた粉体について、同様の測定を行った。その結果、図5に示すように、粉砕によって細孔が消失しており、細孔構造がほとんど破壊されることが分かった。
また、ゾルーゲル重合後に粉砕したゲル粉末スラリー及び熱分解直後のカーボンエアロゲルの粒度分布を測定した。その結果、図6及び図7に示すように、粉砕工程S2における粉砕時間を制御することによって、カーボンエアロゲルの細孔分布を制御できることが分かった。また、ゲル粉末スラリーとカーボンエアロゲル粉末とは、ほとんど同じ粒度分布を示すことが分かった。
さらに、粉砕工程S2における粉砕時間を変えたカーボンエアロゲル粉末について、BET吸着法により細孔分布を測定した。その結果、図8に示すように、粉砕時間によって細孔分布に差ができ、粉砕工程S2における粉砕時間を制御することによって、カーボンエアロゲルの細孔分布を制御できることがさらに確かめられた。
【0026】
<カーボンエアロゲル粉末への触媒の担持>
上記カーボンエアロゲル粉末をジニトロジアミン白金硝酸水溶液に加え、撹拌及び超音波によって分散さながら、さらに水素雰囲気下で所定の温度で加熱して還元し、Ptをカーボンエアロゲル粉末に担持させて燃料電池用担持触媒としてのPt担持カーボンを得た。こうして得られたPt担持カーボンは、図9の模式図に示すように、細孔構造がそのまま保たれたカーボンエアロゲル粉末の細孔にPtが担持されている。
【0027】
(実施例2)
実施例2では、カーボンエアロゲル粉末に担持させる触媒としてfct構造を主相とするPt−Fe合金を用いた。この触媒は以下のようにして調製した。すなわち、平均粒径が5nm、Pt/Fe=50/50(at%)のPt−Fe合金を熱処理し、水で急冷したfct構造を主相とするPt−Fe合金を用意する。そして、実施例1で用いたのと同じカーボンエアロゲル粉末に予めPt−Fe合金を担持させ、燃料電池用担持触媒としてのPt−Fe担持カーボンを得た。
【0028】
(比較例1)
比較例1では、市販のカーボンブラックを用い、他は実施例1と同様の操作により、燃料電池用担持触媒としてのPt担持カーボンを得た。
以上のようにして得られた実施例1、2及び比較例1の燃料電池用担持触媒を用いて燃料電池を構成し、その特性を調べた。燃料電池の作成方法は以下のとおりである。
【0029】
上記のようにして得られた燃料電池用担持触媒とナフィオン溶液との質量比が0.5程度になるように、燃料電池用担持触媒へナフィオン(登録商標)溶液(5 質量% 溶液)を添加する。そして、これをよく攪拌・混合し、電極用ペーストを作製する。
この電極用ペーストをカーボンクロスの一面側に塗布した後、乾燥させて電極反応層を形成する。こうしてカーボンクロスに電極反応層が形成された燃料電池用電極を2枚作成する。
【0030】
こうして得られた2枚の燃料電池用電極の間にナフィオン112(登録商標)からなる高分子固体電解質層(厚さ約50μm)を挟み込むように配置する。そして、温度140〜160°C、面圧70〜100kg/cm2の条件下で、ホットプレスによる熱圧着を行う。こうして、膜電極接合体を得る。
この膜電極接合体及び一対のセパレータを組み付けて、燃料電池を作成した。
【0031】
<評価>
こうして得られた実施例1、2及び比較例1の燃料電池用担持触媒を用いた燃料電池について、電池性能を測定した。その結果、図10に示すように、実施例1のPt−カーボンエアロゲル担持触媒を用いた燃料電池は、比較例1のPt−カーボンブラック担持触媒と比較し、0.55A/cm2の電流密度までのセル電圧の低下が少ないことが分かった。これは、カーボンエアロゲルの細孔分布が粉砕後も保たれており、物質移動が容易となり、その結果過電圧を下げることができたためであると考えられる。
【0032】
また、実施例2のPt−Feカーボンエアロゲル担持触媒を用いた燃料電池は、測定された全ての電流密度の範囲にわたって、セル電圧の低下が少なかった。これは、Pt−Feが磁性を有するため、常時性の酸素を引き寄せ、反磁性の水を排除する力が働いた結果、空気極側の物質移動による過電圧を下げることができたためであると考えられる。
また、触媒としてPt−Fe触媒の代わりに、同様に磁性を有するPt−Co触媒を用いても、セル電圧の低下を防ぐことができた。
【0033】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来のカーボンエアロゲル粉末の製造方法を示す工程図である。
【図2】磁性触媒を担持させたカーボンエアロゲルの特性概念図である。
【図3】実施例1及び2に係るカーボンエアロゲル粉末の製造方法を示す工程図である。
【図4】実施例1に係るカーボンエアロゲルの細孔分布を示すグラフである。
【図5】比較例1に係るカーボンエアロゲルの細孔分布を示すグラフである。
【図6】実施例1における、粉砕工程後の粉砕スラリーの粒度分布を示すグラフである。
【図7】実施例1における、熱分解工程後のカーボンエアロゲルの粒度分布を示すグラフである。
【図8】実施例1における、乾燥工程後のカーボンエアロゲルの細孔分布を示すグラフである。
【図9】実施例1のPt担持カーボンの模式図である。
【図10】実施例1、2及び比較例2の燃料電池用担持触媒を用いた燃料電池における、電流密度とセル電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
S1…重合工程
S2…粉砕工程
S3…溶媒置換工程
S4…超臨界乾燥工程
S5…熱分解工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粉末に触媒が担持された燃料電池用担持触媒において、
前記カーボン粉末は、
有機湿潤ゲル化物を得る工程と、
該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程と、
該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程と、
溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程と、
該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程とを経て得られたカーボンエアロゲル粉末であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項2】
前記有機湿潤ゲル化物はポリヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを塩基触媒存在下で重合させて得られることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項3】
ポリヒドロキシベンゼンはジヒドロキシベンゼン及び/又はジヒドロキシベンゼン誘導体であることを特徴とする請求項2記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項4】
ジヒドロキシベンゼンはレゾルシノールであることを特徴とする請求項3記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項5】
溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項6】
粉砕工程における粉砕条件を制御することによって、カーボンエアロゲルの粒度分布を制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項7】
粉砕時間を制御することを特徴とする請求項6記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項8】
触媒は触媒作用と磁性作用とを併せもつ磁性触媒であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項9】
前記磁性触媒はfct構造を主相とするPt合金であることを特徴とする請求項8記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項10】
前記磁性触媒はPt−Fe合金であることを特徴とする請求項9記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項11】
前記磁性触媒はPt−Co合金であることを特徴とする請求項9記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項記載の燃料電池用担持触媒を用いた燃料電池用反応層。
【請求項13】
請求項12の燃料電池用反応層を用いた燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−157338(P2007−157338A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346483(P2005−346483)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】