説明

燃料電池用白金系酸化物触媒

【課題】炭素化合物を燃料とする燃料電池における一酸化炭素等による被毒が少なく、触媒活性の高いアノード電極触媒を提供すること。
【解決手段】xが0.5以下である白金酸化物(PtOx)をアノード電極触媒に使用する。この白金酸化物は、物理気相成長(PVD)法や化学気相成長(CVD)法を用いて作成する。或いは、この白金酸化物は、白金酸の還元などで作製したより酸素比の多い白金酸化物を電解還元や水素還元により作製しても良い。この白金酸化物は、非常に簡単な製造方法により良好なメタノール酸化特性を有するアノード電極触媒となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系化合物を燃料として使用する燃料電池に使用されるアノード電極触媒に関するものであり、極めて高い触媒活性を有するアノード電極触媒を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策および石油資源の枯渇対策として新しいエネルギーシステムの開発が求められている。そのうちの一つとして燃料電池が注目されている。その中でも、直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、負荷応答性や起動性に優れ、水素生成などの改質器等も不要なため小型化が可能であることから、次世代携帯機器の電源として期待されている。図2にDMFC構造の模式図を示す。DMFC構造は、中央に高分子電解質膜31、その両側にアノード電極32とカソード電極33がついている。アノード電極は燃料極とも言い、燃料であるメタノール水(CHOH+H2O)を供給し反応物であるCOを排出する燃料槽、高分子電解質膜へ水素イオンを供給するアノード電極触媒、燃料槽とアノード電極触媒とをつなぐアノード側燃料拡散層からなる。カソード電極は空気(酸素)極とも言い、空気(酸素)を取り入れ水を排出する空気槽、水素イオンを受け取るカソード電極触媒、空気槽とカソード電極触媒をつなぐカソード側ガス拡散層からなる。アノード電極32とカソード電極33をセル(電池)外で負荷34を挟んでつなぐと、電子(e−)がアノード電極32からカソード電極33へ流れる。すなわち、電気がカソード電極33からアノード電極32へ流れる。このときの電極反応は、以下のようである。
アノード電極側で、CHOH+HO→CO+6H+6e (1)
カソード電極側で、3/2O+6H+6e→3HO (2)
全体では、CH3OH+3/2O→CO+2HO (3)
【0003】
カソード電極触媒として、一般には白金(Ptブラック)が用いられている。アノード電極として、当初白金が使用されていたが、反応途中で発生する一酸化炭素(CO)が白金に吸着されてアノード側の触媒効率を低下させる、この触媒被毒を防止するため、従来はアノード電極として、白金・ルテニウム(Pt−Ru)合金が使用されている。また、金属の周囲を金属錯体で被われた電極触媒が提案されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−123810
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
白金アノード電極触媒は上述のように触媒被毒などのため、アノードにおける酸化反応活性が乏しく、出力密度が低いという欠点がある。また白金・ルテニウムなどの白金系合金微粒子電極触媒についても以下のような問題がある。触媒被毒の点では効果が認められるが、長期の使用やCO濃度が高くなるとやはり触媒被毒(CO被毒とも言う)の問題が発生すること、触媒被毒を向上させるには白金・ルテニウムを効率的に炭素粉末担体に担持させる必要があるが工業的に良好な方法が確立されていないこと、ルテニウム(Ru)は白金以上に高価で希少な金属であるため、供給難とコスト増加が避けられないことなど多くの問題がある。さらに、白金・ルテニウム電極触媒もアノード触媒活性が高くはなく、DMFCの発電効率を十分に高めることができていない。また、特許文献1で提案されている金属の周囲を金属錯体で被われた電極触媒は、作成方法が複雑で費用もかかり、その割にアノード触媒活性度が余り高くないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アノード電極触媒にxが0.5以下の白金酸化物(PtOx)を用いる。白金酸化物(PtOx)は、スパッタ等のPVD法やCVD法などにより形成する。或いは、白金酸化物(PtOy)を水素還元や電解還元などの還元処理をしてより値の小さなxである(y>x)白金酸化物(PtOx)とする。この白金酸化物(PtOy)はスパッタ等のPVD法、CVD法または白金の酸化などにより形成されたものである。或いは、白金酸化物(PtOy)はヘキサクロロ白金酸等の白金酸を還元して形成しても良い。
【発明の効果】
【0007】
DMFCにおいて、xが0.5以下の白金酸化物(PtOx)をアノード電極触媒とすると、メタノール酸化電流が増大し、高いメタノール酸化特性を示し、高い触媒活性を有する。作製方法も非常に簡便であり、小型化も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の白金酸化物をアノード電極触媒に用いた燃料電池の構造の模式図を示す図である。
【図2】図2は、燃料電池の構造の模式図を示す図である。
【図3】図3は、本発明の白金酸化物の触媒特性を評価するシステム構成図である。
【図4】図4は、100%Arでスパッタした膜(出発材料、100%白金)にカソード電流を印加して部分還元した材料のアノード分極曲線である。
【図5】図5は、50%Ar50%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)にカソード電流を印加して部分還元した材料のアノード分極曲線である。
【図6】図6は、100%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)にカソード電流を印加して部分還元した材料のアノード分極曲線である。
【図7】図7は、100%Arでスパッタした膜(出発材料、100%白金)、50%Ar50%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)および100%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)にカソード電流を印加してそれぞれ部分還元した際の、還元電気量とメタノール酸化電流の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、アノード電極触媒にxの値が0.5以下の白金酸化物(PtOx)を用いることを特徴としている。すなわち、図1におけるアノード電極触媒12に本発明の白金酸化物(PtOx)を使用する。
【0010】
図1は、本発明のアノード電極触媒にxの値が0.5以下の白金酸化物(PtOx)を用いたDMFCの構造を示す模式図である。図2に示した従来から用いられているDMFC構造と基本的に同じであるが、アノード電極触媒12にxの値が0.5以下の白金酸化物(PtOx)を使用している点が異なる。DMFC構造は、固体電解質膜11を挟んでアノード電極23とカソード電極24からなる。また、負荷26を入れてアノード電極23とカソード電極24を導電線25で電気接続している。
【0011】
アノード電極23は固体電解質膜11に隣接するアノード電極触媒12、アノード側燃料拡散層13、および燃料槽14からなる。カソード電極24はカソード電極触媒17、カソード側ガス拡散層18、および空気槽19からなる。燃料槽14には燃料となるメタノール水(CHOH+H2O)を供給するインレット(入り口)15と反応生成物である二酸化炭素(CO)を排出するアウトレット(出口)16が取り付けられている。燃料槽14に供給されたメタノール水はアノード側燃料拡散層13を通ってアノード電極触媒12に達し、アノード電極触媒12では上述した反応により、水素イオン(H)を発生する。水素イオンは固体電解質膜11内をカソード側へ拡散していき、カソード電極触媒17に達する。空気層19には酸素(O)または空気を取り入れるインレット(入り口)21と反応生成物である水(HO)を排出するアウトレット(出口)22が取り付けられている。空気槽19に供給された酸素はカソード側ガス拡散層18を通ってカソード電極触媒17に達し、アノード電極側から拡散して来た水素イオンと結合して水になる。この水はカソード側ガス拡散層18を通ってアウトレット22から排出される。これらの反応により、電子(e)はアノード電極23から導電線25および負荷26を通りカソード電極24へ移動し、電気が流れる。
【0012】
本発明は、アノード電極触媒としてxが0.5以下の組成の白金酸化物(PtOx)を使用することにより、アノード電極触媒の活性度が飛躍的に高まることから見出された。
白金酸化物(PtOx)は、たとえばスパッタ等の物理気相成長(PVD)法により作成する。スパッタの場合、ターゲット材料として白金(Pt)を用いるときは、スパッタ装置(チャンバー)内を高真空にして不純物ガスを排出した後、装置内にある一方の電極を白金ターゲットとし、他方の電極にアノード電極触媒の基材を配置する。この基材は白金酸化物を付着する基礎となるものである。通常は、図1におけるアノード側燃料拡散層13がこの基材となるが、アノード側燃料拡散層13とは異なるものを用いても良い。基材としては、付着する膜の表面積を増大させるために、多孔質なものが良い。たとえば、多孔質炭素や多孔質高分子がある。装置内へアルゴン(Ar)、キセノン(Xe)やクリプトン(Kr)などの不活性ガスを導入するとともに、酸素(O)ガスを合わせて導入する。この状態で、低圧にして電極間にRF電圧またはDC電圧をかけると白金ターゲットから白金がスパッタされて、アノード電極触媒の基材に白金酸化物が付着する。
【0013】
白金はスパッタされ他方の電極へ付着するまでの間にOガスと反応し白金酸化物となる。これを反応性スパッタリングと言う。アルゴンに対する酸素の割合を変化させることにより白金酸化物の酸素の割合を調節できる。本発明においては、最終的な白金酸化物(PtOx)の酸素の割合を原子比率で0.5以下、すなわちxを0.5以下とする。最終的な白金酸化物とは燃料電池として用いるときの白金酸化物を言う。従って、スパッタしたままの状態で燃料電池のアノード電極触媒として使用するならば、スパッタ状態でxを0.5以下とする。スパッタ後に白金酸化物を処理するならば、スパッタ状態においてxを0.5以下にする必要はない。まずスパッタ法により、yが0.5より大きな値を有する白金酸化物(PtOy)を形成する。これを出発物質と言う。スパッタされた出発物質である白金酸化物(PtOy、yは0.5より大)を還元してyを下げて0.5以下にし、xが0.5以下になった白金酸化物(PtOx)を用いる。また、yが0.5以下の白金酸化物を還元処理してより小さな値を持つ(x<y)白金酸化物(PtOx)としても良い。白金酸化物の還元としては、水素還元や電気化学的手法による還元(すなわち、電解還元)などがある。
【0014】
尚、アノード電極触媒の基材は、スパッタ装置において、白金ターゲットと他方の電極の間に配置することもできる。この時は、アノード電極触媒の基材を回転させることもできるので、アノード電極触媒の基材の周囲に均一に積層することもできる。アノード電極触媒の基材として、炭素や炭化物で構成された多孔質物質を用いる。カーボンナノチューブやフラーレンなども使用できる。スパッタされて白金酸化物になったスパッタ物質は非常に小さな微粒子であり、この多孔質物質の周囲に忠実に均一に積層していく。従って、スパッタされて積層した白金酸化物の表面積は非常に大きくなり、燃料電池の電極触媒として非常に有効な形状となる。
【0015】
この基材(担体と呼んでも良い)として、白金、金、パラジウムなどの金属を用いることもでき、燃料電池の電極として効率を上げるために、基材としては多孔質な状態にしておくことが望ましい。さらに、炭素、炭化物、金属以外でも導電性のあるものであれば、基材として使用できる。たとえば、ポリアセチレンやポリアニリンなどの導電性高分子を使用することもできる。
【0016】
基材がアノード側燃料拡散層と異なるものであるときには、白金酸化物を付着した基材をアノード電極触媒12としてアノード側燃料拡散層13および固体電解質膜11の間に挟んで燃料電池のアノード電極に用いる。基材がアノード側燃料拡散層と同じものである場合には、アノード側燃料拡散層13に白金酸化物を付着させて燃料電池のアノード電極に用いる。
【0017】
スパッタ法では、ターゲット材として白金酸化物(PbOz)を用いることもできる。使用するガスは、ArやXeなどの不活性ガス単体でも良い。スパッタ粒子はターゲット材の組成に近いもの、すなわち白金酸化物となるから、アノード電極触媒基材に付着させた状態で燃料電池の電極として使用するときは、zを0.5以下にしておく必要がある。ただし、zが0.5より大きくてもスパッタ条件を適当に選択してスパッタ後の膜(PtOx)の組成xを0.5以下とすることも可能である。また、スパッタした後で、還元などしてスパッタ物質を改質するときは必ずしもzを0.5以下にしなくても良い。また、使用するガスとして、ArやXeなどの不活性ガス以外に酸素を混合することもできるが、この場合には一般にターゲット材の酸素組成よりもスパッタ物の酸素の割合が多くなるので、zが0.5以下の適度なターゲット材を使用するか、スパッタ後にスパッタ物を改質する必要がある。zが0.5以上で、スパッタ物の白金酸化物(PtOy)もyが0.5より大きいときは、還元処理などを行い0.5以下の白金酸化物とする。yが0.5以下でも改質してさらにyを下げても良い。yを下げた方がアノード触媒活性が良くなる。
【0018】
本発明のアノード電極触媒に用いるxの値が0.5以下の白金酸化物(PtOx)は、化学気相成長(CVD)法を用いて生成することもできる。たとえば、有機系白金化合物(液体)を用いて、この液体をガス化(暖めるか、減圧にすると気体として取り出すことができる)して、酸化性ガス(たとえば、酸素(O)、オゾン(O)一酸化酸素(CO)、二酸化酸素(CO)、酸化窒素(NOx))と一緒にCVD装置に導入し、これらを加圧下、常圧下、或いは減圧下において、熱反応、プラズマ反応あるいは光反応させて、CVD装置内に保持されたアノード電極触媒基材に白金酸化物(PtOx)を積層させることができる。上記のガス以外にヘリウム(He)、ArやXeなどの不活性ガスや窒素(N)などのガスをキャリアガスとして付加しても良い。これらの気体の比率を適切に選択することにより、さらに他の条件(たとえば、圧力、温度、プラズマパワー)を変化させることにより、xが0.5以下の所望の白金酸化物(PtOx)を生成できる。CVD法は、PVD法に比べ指向性が小さい(平行平板型やバイアスCVD法は少し指向性が大きいが)ので、基材により均一に積層しやすい。)また、生成する白金酸化物(PtOx)の粒子サイズも分子レベル(0.5nm〜100nm)で成長することができるので、非常に表面積の大きな白金酸化物(PtOx)も積層できる。また、生成した白金酸化物(PtOy)を還元等の改質をしてyを0.5以下の白金酸化物にすれば、CVD法により生成した白金酸化物(PtOy)のyが必ずしも0.5以下である必要はない。CVD法により生成した白金酸化物(PtOx)のxが0.5以下のものであっても、改質してさらにxを小さくしたものをアノード電極触媒として用いても良い。
【0019】
本発明のアノード電極触媒としてのxが0.5以下である白金酸化物(PtOx)は、白金を酸化して形成したxが0.5以上の白金酸化物(PtOx)を還元することにより、作成しても良い。白金酸化物白金を酸化性雰囲気中で酸化すると化学量論的組成である一酸化白金(PtO)や二酸化白金(PtO)ができるが、このような組成の白金酸化物を燃料電池のアノード電極に使用しても良好な電池機能を発揮しない。しかし、このようなxが0.5以上の白金酸化物(PtOx)でも還元することにより、xを0.5以下にできれば良好な電池機能を発揮できる。たとえば、xが0.5以上の白金酸化物(PtOx)を水素還元や電解還元することにより、xが0.5以下の白金酸化物(PtOx)とすることができる。たとえば、希硫酸とメタノール溶液中に白金酸化物(PtOx、x>0.5)を電極にして電解還元を行うことにより、xが0.5以下の白金酸化物(PtOx)となる。或いは、ヘキサクロロ白金酸などの白金酸を還元して調製したxが0.5以上の白金酸化物(PtOx)微粉末を出発材料とし、これを還元してxが0.5以下の白金酸化物(PtOx)にしたものを電極触媒としても良い.
【0020】
本発明のxが0.5以下である白金酸化物(PtOx)はxが小さいほど、すなわち白金に近いほどアノード電極触媒としての特性が良くなるので、0.5以下の白金酸化物を還元してさらに小さな値のxを持つ白金酸化物(PtOx)としても良い。ただし、余りにxを小さくして殆ど白金になってしまうと、従来の白金と同程度の特性となりアノード電極触媒としての特性が悪くなってしまう。好適には、xが0.5〜0.05、より好適にはxが0.4〜0.05、もっと好適には0.3〜0.05、さらに好適には0.2〜0.05である。
【0021】
PVD法やCVD法を用いると種々のxの値を有する白金酸化物(PtOx)を作ることができるので、たとえば、xが0.5以下の組成の白金酸化物(PtOx)をPVD法やCVD法を用いて生成し、これを電解還元や水素還元などで還元してさらにxが小さな値を有する白金酸化物(PtOx)を得ることができる。このようにして作った白金酸化物はもとの白金酸化物よりも燃料電池のアノード電極触媒として非常に良好な特性を持つ。
【0022】
PVD法やCVD法を用いて白金酸化物(PtOx)を成長させるときに、基材に積層させずに、他の部材、たとえば柔軟なシート上に薄膜状に成長させて一定厚さになったときにそのシートを取り外して波打たせることにより簡単に粉末状の白金酸化物微粒子を作成できる。また、微粒子粉末状白金を一度酸化して白金酸化物(PtOやPtO)にした後に、この白金酸化物を還元してxが0.5以下の白金酸化物微粒子としても良い。加えて、白金酸を還元して調製したxが0.5以上の白金酸化物(PtOx)微粉末を、さらに還元してxが0.5以下の白金酸化物微粒子としても良い。これらの粉末を基材に付着させて表面積の大きなアノード電極触媒を作ることもできる。霧状に微粒子粉末を基材に吹き付けて付着させて表面積の大きなアノード電極触媒を作ることもできる。また、この微粒子粉末と活性炭素などの表面積の大きな多孔質粉末を適当な溶剤と一緒に混ぜ合わせ混錬してペースト状にしたものをアノード電極触媒としても良い。
【0023】
アノード側燃料拡散層14およびカソード側ガス拡散層18は、電極反応を効率良く行わせるために、燃料または空気を燃料極または空気極の触媒層中の電極反応領域へ、電池面内で均一に充分に供給するとともに、(1)および(2)式に示す電極反応によって生じる電荷を単セル外部に放出させること、さらに反応生成水や未反応ガスを単セル外部に効率よく排出する役割を担うものである。拡散層の構成材料としては、電子伝導性を有する多孔質体、例えばカーボンクロスやカーボンペーパーが使用される。
【0024】
固体電解質膜11において、水素イオンをスムーズに通過させる物質であることが望ましい。さらに、水素イオンが電解質膜中をカソード側に向かって移動する場合には水分子を媒体として移動するので、電解質膜は水分子を保有する機能も有していなければならない。この条件を満たすものであれば、固体電解質膜11として任意のものを選択して使用することができる。たとえば、フッ化炭素骨格にスルホン酸基を末端につけた側鎖が結合した構造であるパーフルオロスルホン酸ポリマーなどの高分子膜がある。具体的には、テフロン(登録商標)にスルホン酸基を結合させたポリマーであるナフィオン(登録商標)などを使用できる。さらに、メタノールが固体電解質膜11を通って失われる、いわゆるクロスオーバーに対して対策された種々の高分子膜も使用できる。
【実施例】
【0025】
高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて種々の組成を有する白金酸化物を作成した。その白金酸化物を用いてアノード触媒特性を評価した。スパッタによる白金酸化物薄膜の生成条件は以下の通りである。白金ターッゲト純度は99.99%、到達真空度は2.0*10−4Pa、スパッタ中の圧力は2.0Pa、スパッタ出力は100Wである。導入ガスとしてアルゴン(Ar)に酸素ガスを混合した。ガラス基板上に生成した薄膜の組成を表1に示す。白金と酸素の分析は、エネルギー分散型蛍光X線分光器を用いて、EDS分析を行った。酸素を含まないアルゴンガス100%の時の膜は、白金であり、酸素を含まない膜である。50%(原子%)酸素の膜はほぼPtOの組成(x=1)であり、100%酸素による膜はほぼPtOの組成(x=2)である。
【0026】
【表1】

【0027】
これらの膜をチタン基板(チタンロッド)の上に積層し、これらの膜のアノード分極特性を回転ディスク法により測定した。用いた回転ディスク法によるアノード評価システムを図3に示す。回転ディスク電極に試料を付着させたチタンロッドをセットし、試料を900rpmで回転させた。電解液として、0.5kmol/mSOと1.0kmol/mCH3OH溶液を用いた。溶液温度は298K、Ar流量は60ml/min、掃引範囲は0.42〜1.22Vvs.NHE、掃引速度は5mV/secである。また、基準電極として銀/塩化銀電極を用いた。測定前に試料に定電流法で、−1.0mAで100sec負電流(電気量−0.1C)を流し試料の白金酸化物を部分還元した。これを7回繰り返した。その結果を図4〜図6に示す。
【0028】
図4に100%Arでスパッタした膜(出発材料、100%白金)のアノード分極曲線を示す。電流密度はピーク電位(約0.8V)でも1.0mA〜1.6mAと非常に低く、燃料電池におけるアノード電極触媒としての活性度が低いことが分かる。また部分還元の効果は殆どない。(白金そのものであるから還元されないと考えられる。)これは、従来の白金によるアノード電極触媒としての特性と同程度である。
【0029】
図5に50%Ar50%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)のアノード分極曲線を示す。各測定において、電流密度は電位を増大するに従い大きく増大している。その電流値やピーク値も部分還元を繰り返すことにより大きくなっていて、積算電気量−0.7C(定電流電解還元(部分還元)を7回繰り返している)においてはピーク電流が140mA(電位約1V)である。これらの電流値は図4に示す白金や従来の白金触媒に比較して100倍以上となっている。
【0030】
図6に100%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)のアノード分極曲線を示す。各測定において、電流密度は電位を増大するに従い大きく増大している。その電流値やピーク値も部分還元を繰り返すことにより大きくなっていて、積算電気量−0.7Cにおいてはピーク電流が160mA(電位約1.1V)である。これらの電流値は図4に示す白金や従来の白金触媒に比較して100倍以上となっている。
【0031】
図7は、100%Arでスパッタした膜(出発材料、100%白金)、50%Ar50%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)および100%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)にカソード電流を印加してそれぞれを部分還元した際の、還元電気量とメタノール酸化電流の関係を示したグラフである。100%Arでスパッタした膜(出発材料、100%白金)では還元電流を印加してもメタノール酸化電流はほとんど変化しない.ところが、50%Ar50%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)および100%Oでスパッタした膜(出発材料、ほぼPtO)では、還元電気量の増大とともにメタノール酸化電流が直線的に上昇していることが分かる.従って、燃料電池のアノード電極触媒として、本発明の部分還元した白金酸化物は従来のものより特性が格段に良好である。
【0032】
表2は、カソード電流印加により部分還元された試料のEDS分析結果である。白金は当然変化がないが、50%酸素の膜はO/Pt比が0.14であり、かなり還元されている。また、100%酸素による膜はほぼO/Pt比が0.37であり、やはり還元されている。以上のように、O/Pt比が0.5以下の白金酸化物は優れたメタノール酸化特性を示すことが明確になった。これらの事実から、上記のような優れたメタノール特性は、還元された白金酸化物中に残存する酸素が、中間生成物(一酸化酸素など)の酸化反応を促進したことに起因すると考えられる。すなわち、PtOやPtOの状態では燃料の酸化反応に対する触媒活性は乏しいが、電気化学的手法を含めた還元処理により、金属Ptに近い組成の白金酸化物に還元される。その結果、燃料の酸化反応に対する高い触媒活性と、中間生成物である一酸化炭素等による被毒に対する抵抗性を併せ持つようになる。さらに、これらの結果から、本発明の新規な電極触媒はDMFCのみならず、メタノール以外の炭素系化合物を燃料として使用する燃料電池の電極触媒としても極めて有望である。従って、本発明の白金酸化物を用いた新規電極触媒は、炭素系化合物を含む燃料を使用する燃料電池全てに対して電極触媒として使用できる。
【0033】
【表2】

【0034】
また、改質ガス(改質プロセスによって炭化水素系燃料から得られた水素ガス)を用いる固体高分子燃料電池(PEFC)にも使用できる。改質ガス中には微量ではあるが一酸化炭素が含まれているので、電極に白金を使用する場合はCO被毒が発生し触媒が劣化してしまう。この対策としてDMFCと同様にアノード電極触媒にPt−Ru合金を使用している。しかし長期の使用でCO被毒し活性度が悪くなってしまうので、改質ガス中のCO濃度を下げる必要がある。しかし、本発明の白金酸化物をアノード電極触媒に用いることによりこの問題は解決する。すなわち、CO被毒による触媒劣化を防止できる。
【0035】
尚、これまで説明してきた内容でお互いに矛盾なく適用できる内容については、具体的な記載がなくとも、お互いに適用や応用ができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、直接メタノール型燃料電池(DMFC)のアノード電極触媒や炭素系化合物を含む燃料を使用する燃料電池全てに対して電極触媒として使用できる。
【符号の説明】
【0037】
11・・・固体電解質膜、12・・・アノード電極触媒、13・・アノード側燃料拡散層、
14・・・燃料槽、15・・・(メタノール水)インレット、16・・・アウトレット、
17・・・カソード電極触媒、18・・・カソード側ガス拡散層、19・・・空気槽、
21・・・(空気)インレット、22・・・アウトレット、23・・・アノード電極、
24・・・カソード電極、25・・・導電線、26・・・負荷、
31・・・高分子電解質膜、32・・・アノード電極、33・・・カソード電極、
34・・・負荷、35・・・(メタノール水)インレット、
36・・・(CO)アウトレット、37・・・(空気)インレット、
38・・・(水)アウトレット、39・・・導電線、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系化合物を含む燃料を使用する燃料電池または改質ガスを使用する燃料電池であって、アノード電極触媒として、xが0.5以下の白金酸化物(PtOx)を用いることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
白金酸化物(PtOx)は、PVD法、CVD法、白金の酸化、または白金酸の還元により形成されたものであることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載の燃料電池。
【請求項3】
yがxより大きい値を有する白金酸化物(PtOy)を還元することによって得られた白金酸化物(PtOx)であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載の燃料電池。
【請求項4】
白金酸化物(PtOy)は、PVD法、CVD法、白金の酸化、または白金酸の還元により形成されたものであることを特徴とする、特許請求の範囲第3項に記載の燃料電池。
【請求項5】
還元は、水素還元または電解還元であることを特徴とする、特許請求の範囲第2項〜第4項のいずれかの項に記載の燃料電池。
【請求項6】
燃料電池は直接メタノール型燃料電池であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第5項のいずれかの項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−218923(P2010−218923A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65306(P2009−65306)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名(平成20年度 秋田大学 材料工学専攻博士前期課程 修士論文発表会)、主催者名(秋田大学)、開催日(平成21年2月5日)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】