説明

燃料電池用膜−電極接合体、および、これを用いた燃料電池

【課題】 起動停止の繰り返しに対する耐久性を向上させた燃料電池用膜−電極接合体を提供する。
【解決手段】 白金または白金合金からなるカソード触媒、前記カソード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含むカソード触媒層と、固体高分子電解質膜と、アノード触媒、前記アノード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含むアノード触媒層と、を有する燃料電池用膜−電極接合体であって、前記アノード触媒層の平均厚み(Ya)が前記カソード触媒層の平均厚み(Yc)よりも小さい燃料電池用膜−電極接合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用膜−電極接合体に関し、より詳細には、燃料電池用膜−電極接合体の電極触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、燃料電池が車両用駆動源および定置型電源として注目されている。燃料電池は、電解質の種類や電極の種類等により種々のタイプに分類され、代表的なものとしてはアルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型がある。この中でも低温(通常100℃以下)で作動可能な固体高分子型燃料電池(PEFC)が注目を集め、近年自動車用低公害動力源としての開発・実用化が進んでいる(例えば、特許文献1)。
【0003】
PEFCの構成は、一般的には、膜−電極接合体(MEA)をセパレータで挟持した構造となっている。MEAは、一般的には、ガス拡散層、カソード触媒層、固体高分子電解質膜、アノード触媒層、およびガス拡散層が積層した構造を有する。
【0004】
MEAでは、以下のような電気化学的反応が進行する。まず、アノード(燃料極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素が、触媒により酸化され、プロトンおよび電子となる。次に、生成したプロトンは、アノード側触媒層に含まれる高分子電解質、さらにアノード側触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(空気極)側触媒層に達する。また、アノード側触媒層で生成した電子は、アノード側触媒層を構成している導電性担体、さらにアノード側触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、ガスセパレータおよび外部回路を通してカソード側触媒層に達する。そして、カソード側触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側触媒層に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
【0005】
PEFCの用途としては、車両用駆動源や定置型電源が検討されているが、これらの用途に適用されるためには、長期間に渡る耐久性が求められる。なかでも、車両用駆動源として用いられる場合には、頻繁な起動停止によって電池特性が低下しないことが求められる。
【0006】
特に、白金または白金合金からなる触媒、触媒を担持するカーボンブラックなどの導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含む電極触媒層においては、起動停止の繰り返しによって導電性炭素材料の腐食や高分子電解質の分解劣化が生じやすく、電極のガス拡散性及び排水性が低下し、濃度過電圧が増大し、電池特性が低下する傾向がある。
【0007】
そこで、従来では、導電性炭素材料の耐食性を向上させる多くの試みがなされている。例えば、特許文献2および特許文献3には、熱処理によりカーボンの結晶性を制御することで耐食性が向上された導電性炭素材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−79457号公報
【特許文献2】特開平05−129023号公報
【特許文献3】特開2005−26174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PEFCには、上述の通り、高い発電性能を長期に亘って示すことが求められている。しかしながら、従来の膜−電極接合体では、特許文献2および3などに記載される、熱処理により耐食性が向上された導電性炭素材料によっても、十分な発電性能が得られない恐れがあった。
【0010】
起動停止の繰り返しによって膜−電極接合体の発電特性が低下する原因の1つは、停止時にアノード側に残存する水素であると考えられる。アノード側には燃料として水素が供給されるが、膜−電極接合体の停止時には、アノード側に空気などのガスを供給してアノード側に残存する水素を置換する。しかし、水素がアノードから抜けきらず、ある程度の量の水素がアノード側に残存すると、起動時にアノード側で局部電池が形成され、カソード側が高電位状態に曝されてしまう。その結果、触媒として担持されている白金における水の電気分解で酸素が発生し、炭素材料がC+O→COの反応により酸化腐食する。炭素材料が腐食することによって、膜−電極接合体における電極触媒層が変形・劣化して濃度過電圧が増大し、PEFCの性能が著しく低下する。また、膜−電極接合体において白金の固体高分子電解質膜への溶出や高分子電解質の分解も起動停止の繰り返しによって引き起こされ、これらも、PEFCの性能低下の原因となる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、燃料電池用膜−電極接合体の起動停止の繰り返しに対する耐久性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が上記課題に鑑み鋭意検討した結果、カソード触媒層に対し、アノード触媒層を薄くすることによって、燃料電池用膜−電極接合体の起動停止に対するカソード触媒層の耐久性を高めることが可能であることが判明した。
【0013】
すなわち上記課題は以下の(1)〜(3)によって解決される。
【0014】
(1)白金または白金合金からなるカソード触媒、前記カソード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含むカソード触媒層と、
固体高分子電解質膜と、
アノード触媒、前記アノード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含むアノード触媒層と、
を有する燃料電池用膜−電極接合体であって、
前記アノード触媒層の平均厚み(Ya)が前記カソード触媒層の平均厚み(Yc)よりも小さい燃料電池用膜−電極接合体。
【0015】
(2)上記燃料電池用膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
【0016】
(3)上記固体高分子型燃料電池を搭載する車両。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明の第一は、白金または白金合金からなるカソード触媒、前記カソード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含むカソード触媒層と、
固体高分子電解質膜と、
アノード触媒、前記アノード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含むアノード触媒層と、
を有する燃料電池用膜−電極接合体であって、
前記アノード触媒層の平均厚み(Ya)が前記カソード触媒層の平均厚み(Yc)よりも小さい燃料電池用膜−電極接合体である。
【0019】
本発明の燃料電池用膜−電極接合体においては、アノード触媒層の平均厚み(Ya)をカソード触媒層の平均厚み(Yc)よりも小さくする。これにより、停止時にアノード側に残存する水素が効率的に他のガスで置換される。その結果、起動時にアノード側で局部電池が形成されることが抑制され、膜−電極接合体の劣化が防止される。
【0020】
また、アノード触媒層が薄いと、停止時にアノード側の水素を置換するために空気などのガスをパージした際に、アノード触媒層の水分量が減少しやすい。すなわち、アノード触媒層が乾燥しやすい。その結果、アノード触媒層で減少した水分を補うため、水分量が相対的に高い固体高分子電解質膜からの水分の移動が起こる。同時に、カソード触媒層から固体高分子電解質膜への水分の移動が起こり、カソード触媒層の水分量が減少する。起動時にカソード触媒層が高電位に曝されても白金触媒近傍に水が存在しなければ、酸素の発生は起こらない。したがって、起動・停止に伴うカーボン腐食が抑制できる。
【0021】
ただし、本発明の構成と効果との上記メカニズムは推定であり、本発明の技術的範囲が上記メカニズムを利用する実施態様のみに限定されるわけではない。
【0022】
上述の通り、本発明の膜−電極接合体では、アノード触媒層の平均厚み(Ya)をカソード触媒層の平均厚み(Yc)よりも小さくする。具体的には、YaおよびYcが、好ましくはYa/Yc=0.01〜0.9、より好ましくはYa/Yc=0.03〜0.86の関係を満たす。このような関係に触媒層の厚みを制御することによって、優れた耐久性を有する膜−電極接合体が得られる。
【0023】
アノード触媒層の平均厚み(Ya)は、好ましくは0.3μm〜10μm、より好ましくは0.3μm〜8μm、特に好ましくは2μm〜6μmである。また、カソード触媒層の平均厚み(Yc)は、好ましくは7μm〜20μmであり、より好ましくは7μm〜15μmである。この範囲とすることにより、起動・停止時や負荷変動のカーボン腐食や白金溶出を効果的に抑制できる。触媒層が薄いほどガスの拡散性および透過性、ならびに加湿水および生成水の排水性に優れるが、触媒層を薄くしすぎると耐久性の維持が難しくなるため、両者のバランスをとって、好ましい厚みを決定するとよい。
【0024】
なお、本発明において、アノードおよびカソードにおける各触媒層の厚みは、走査型電子顕微鏡を使用し、加速電圧3kVの条件で触媒層断面を撮影した電子顕微鏡写真(倍率:3000倍)中、20〜50箇所の触媒層の厚さを測定し、その平均値とする。
【0025】
続いて、本発明のPEFCの構成部材について説明する。
【0026】
カソード触媒層は、白金または白金合金からなるカソード触媒、カソード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含む。カソード触媒層において、カソード触媒は導電性炭素材料に担持されてカソード電極触媒として用いられるのがよい。
【0027】
カソード触媒は、膜−電極接合体のカソード側(空気極)での反応を促進する役割を果たす材料であり、少なくとも白金または白金合金が用いられる。白金合金としては、特に限定されないが、高い触媒活性が得られることから、白金とイリジウムとの合金や白金とロジウムとの合金が好ましく挙げられる。この他にも、前記白金合金としては、耐熱性、一酸化炭素への耐被毒性などを向上させることを目的として、クロム、マンガン、鉄、コバルト、およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上の卑金属と白金との合金が好ましく挙げられる。前記白金合金における前記白金と前記卑金属との混合比は、質量比で白金/卑金属が、1/1〜5/1、特に2/1〜4/1とするのが好ましい。これにより、高い触媒活性を維持しつつ、耐被毒性、耐食性などを有するカソード触媒とすることができる。
【0028】
カソード触媒の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは1〜20nm、より好ましくは2〜10nmである。触媒粒子は、平均粒径が小さいほど比表面積が大きくなるため触媒活性も向上すると推測されるが、実際は、触媒粒子径を極めて小さくしても、比表面積の増加分に見合った触媒活性が得られない傾向がある。
【0029】
なお、本発明においてカソード触媒およびアノード触媒の平均粒径は、X線回折におけるカソード触媒またはアノード触媒の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられるカソード触媒またはアノード触媒の粒子径の平均値を示す。
【0030】
導電性炭素材料とは、カソード触媒の担体としての機能を有し、導電性を有する炭素材料であり、導電性カーボンともいう。電極反応が実際に進行する部位における電子の授受は、導電性炭素材料を通じて行われる。カソード触媒層の導電性炭素材料としては、特に限定されないが、好ましくは黒鉛化処理されたカーボンブラックが用いられる。通常のカーボンブラックは、酸化物などに比べ疎水性が高いが、表面に水酸基やカルボキシル基などの官能基が少量存在するため、親水性を持つ。これに対し、黒鉛化されたカーボンブラックは、親水性の官能基が減少するため、疎水性が向上する。疎水性が向上したカーボンブラックを用いることによって、電極触媒層の排水性を向上させ、ひいてはPEFCの電池性能を向上させることができる。
【0031】
前記カーボンブラックとしては、従来一般的なものであれば特に制限されないが、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、ブラックパールなどが好ましく挙げられる。また、前記カーボンブラックは、市販品を用いることができ、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックなどのアセチレンブラック等が挙げられる。
【0032】
前記黒鉛化処理としては、熱処理など、従来一般的に用いられているものであれば特に限定されない。前記熱処理は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。また、熱処理温度、熱処理時間は、用いるカーボン材料によってことなるため、得られる黒鉛化処理されたカーボンブラックが所望のBET表面積などを有するように適宜決定すればよいが、2,000〜3,000℃で、5〜20時間程度行えばよい。
【0033】
前記黒鉛化処理されたカーボンブラックの黒鉛化率は、75%以上、好ましくは80〜95%とするのがよい。これにより、カーボンブラックの、表面官能基が減少することで撥水性を確保することができるだけでなく、結晶構造が変化することで耐食性および導電率をも向上することができる。
【0034】
前記黒鉛化処理されたカーボンブラックは、真密度が1.80〜2.11g/cmであり、格子面間隔d002が3.36〜3.55Åであるものを用いるのが好ましい。
【0035】
本発明において、前記黒鉛化処理されたカーボンブラックの格子面間隔d002とは、カーボンブラックの黒鉛構造に基づく六角網面の面間隔であり、六角網面の垂直方向であるc軸方向の格子定数の1/2層間距離の平均値を意味する。
【0036】
熱処理などにより前記黒鉛化処理されたカーボンブラックは黒鉛構造に似た三次元的結晶格子からなる黒鉛化層が表面に形成され、黒鉛化が進むにつれて結晶格子間の微細な空隙部分が少なくなり、導電性炭素材料の結晶構造が黒鉛の結晶構造に近づく。撥水性の他、耐食性などを考慮すると、用いる導電性炭素材料の結晶化度は高いものが好ましい。
【0037】
前記黒鉛化処理されたカーボンブラックの真密度が1.80g/cm未満、格子面間隔d002が3.55Åを超える場合には、十分に黒鉛構造が発達していない場合などが多く、高い耐食性、電子伝導性が得られない恐れがある。また、真密度が2.11g/cmを超え、格子面間隔d002が3.36Å未満では、黒鉛構造が発達しすぎる場合などが多く、十分な比表面積が得られない恐れがある。
【0038】
従って、前記黒鉛化処理されたカーボンブラックに、真密度が1.80〜2.11g/cm、格子面間隔d002が3.36〜3.55であるものを用いるのが好ましいが、より好ましくは真密度が1.90〜2.11g/cm、格子面間隔d002が3.38〜3.53Åであり、特に好ましくは真密度が1.90〜2.11g/cm、格子面間隔d002が3.40〜3.51Åであるものを用いるのがよい。
【0039】
なお、本発明において、真密度はヘリウムを用いた気相置換法により測定した値とし、格子面間隔d002はX線回折法を用いた学振法(稲垣道夫、炭素 No.36、25〜34(1963))により測定した値とする。
【0040】
また、前記黒鉛化処理されたカーボンブラックは、導電率が50〜1000S/cm、好ましくは100〜1000S/cmのものを用いるのがよい。
【0041】
前記黒鉛化処理されたカーボンブラックは、高性能な燃料電池の電極触媒に用いられるため、カソード触媒を担持するだけではなく、電子を外部回路に取り出すあるいは外部回路から取り入れるための集電体としての機能を有することなどが求められる。前記黒鉛化処理されたカーボンブラックの導電率が、50S/cm未満であると燃料電池の内部抵抗が高くなり電池性能の低下を招く恐れがあり、1000S/cmを超えるとカーボンの結晶化が進みBET表面積が小さくなる恐れがある。
【0042】
本発明において、前記黒鉛化処理されたカーボンブラックの導電率は、常法と同様にして、黒鉛化処理されたカーボンブラックを14〜140MPaで圧縮成型し、窒素雰囲気下1000℃で加熱処理を行った後、25℃で測定した値とする。
【0043】
本発明において、黒鉛化処理されたカーボンブラックは、BET表面積が、好ましくは100m/g以上、より好ましくは100〜300m/g、特に好ましくは120〜250m/gである黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)を含むのがよい。前記黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)によれば、排水性だけでなく、耐食性にも優れ、さらに担持させたカソード触媒の分散性が高いことから触媒活性に優れるカソード電極触媒が得られる。
【0044】
黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)の触媒担持量は特に限定されない。カソード触媒の種類、膜−電極接合体の性能、黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)の種類などに応じて、所望の発電特性が得られるように、担持量を決定するとよい。具体的には、前記カソード触媒が担持された前記黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)をカソード電極触媒(C)としたとき、前記カソード電極触媒(C)における前記カソード触媒の担持量を、前記カソード電極触媒(C)の全量に対して、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは40〜60質量%とするのがよい。黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)の触媒担持量がこの範囲であると、高電位に曝された際に、白金触媒近傍で発生した酸素がカーボン表面と接触し、酸化腐食することが抑制される。
【0045】
カソード触媒層における導電性炭素材料として上述した黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)の他に、さらに、BET表面積が、好ましくは100m/g未満、より好ましくは80〜100m/gである黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)を含むのが好ましい。前記黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)は、撥水性だけでなく、特に耐食性に優れる。従って、カソード触媒の担体として黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)と黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)とを用いることにより、黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)により高い触媒活性が得られ、黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)により耐食性をさらに向上させることができ、発電性能および耐久性に優れる膜−電極接合体が得られる。
【0046】
黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)の触媒担持量は特に限定されないが、具体的には、前記カソード触媒が担持された前記黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)をカソード電極触媒(D)としたとき、前記カソード電極触媒(D)における前記カソード触媒の担持量が、前記カソード電極触媒(D)の全量に対して、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%とするのがよい。黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)の触媒担持量がこの範囲であると、耐食性と触媒活性を兼ね備えたカソード触媒が得られる。
【0047】
カソード触媒の担体である導電性炭素材料として上述した黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)および黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)を用いる場合、カソード電極触媒の耐久性と触媒性能とを両立させ、かつ、経時的な触媒活性の低下幅をより小さくするために、黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)と黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)とに担持させるカソード触媒は、平均粒径を調整してそれぞれに担持させるのが好ましい。
【0048】
具体的には、黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)におけるカソード触媒の平均粒径は、2〜8nm、好ましくは3〜6nmとするのがよい。前記平均粒径が、2nm未満であると発電開始初期において高い触媒活性が得られない恐れがあり、8nmを超えると担持されるカソード触媒の粒子径が大きくなり過ぎて、活性表面積が小さくなるなどして却って触媒活性が低下する恐れがある。また、黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)におけるカソード触媒の平均粒径は、4〜10nm、好ましくは4〜8nmとするのがよい。前記平均粒径が、4nm未満であると経時的な触媒活性の低下を十分に小さくすることができない恐れがあり、8nmを超えると担持されるカソード触媒の粒子径が大きくなり過ぎて、活性表面積が小さくなるなどして却って触媒活性が低下する恐れがある。
【0049】
カソード触媒層では、膜−電極接合体の耐久性と発電性能とをさらに向上させるために、前記黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)にカソード触媒が担持されてなる前記カソード電極触媒(C)と、前記黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)にカソード触媒が担持されてなる前記カソード電極触媒(D)とを、所定の比率で混合させるのがより好ましい。
【0050】
すなわち、カソード触媒層において、前記カソード電極触媒(C)と、前記カソード電極触媒(D)とが、質量比(C)/(D)で、好ましくは60/40以上、より好ましくは60/40〜99/1、特に好ましくは80/20〜99/1、さらに好ましくは85/15〜95/5、で混合されるのがよい。電極触媒(C)と電極触媒(D)との混合される質量比(C)/(D)が、60/40未満であると発電性能が低下する恐れがあるため、上記範囲内とするのが好ましい。
【0051】
カソード触媒層では、電極反応が進行するに伴い生成する水分は、供給される燃料ガスの流れに伴って移動しやすい。高電流密度や高加湿などの運転条件下では、多量に生成した水がカソード触媒層のガス排出部付近に停留し、電極反応の進行を妨げるなどの原因によって、カソード触媒層ではガス流路の上流から下流に向けてカソード電極触媒の劣化が激しくなる傾向がある。そのため、カソード触媒層では、上述したカソード電極触媒(C)とカソード電極触媒(D)とが含まれる場合、ガス流路の上流から下流に向けてカソード電極触媒の組成を最適化するのが好ましい。
【0052】
すなわち、カソード触媒層のガス流路の下流側においては、前記カソード電極触媒(C)と前記カソード電極触媒(D)との質量比(C)/(D)を、カソード触媒層のガス流路の上流側における質量比(C)/(D)よりも小さくするのがよい。
【0053】
具体的には、カソード触媒層のガス流路の上流側における、前記カソード電極触媒(C)と前記カソード電極触媒(D)との質量比(C)/(D)(=Rup)と、カソード触媒層のガス流路の下流側における、前記カソード電極触媒(C)と前記カソード電極触媒(D)との質量比(C)/(D)(=Rdown)との比率を、Rup/Rdown=1/1以上、好ましくは2/1〜9/1、特に好ましくは3/1〜6/1とするのがよい。
【0054】
これにより、カソード触媒層内での電極反応に偏りがなく、長期に亘り所望の性能を維持することができるカソード触媒層とすることができる。
【0055】
なお、カソード触媒層のガス流路の上流側とは燃料ガス導入口付近をいい、カソード触媒層のガス流路の下流側とは燃料ガス出口付近をいい、具体的なそれぞれの範囲などは得られるカソード触媒層の特性を考慮して決定すればよい。
【0056】
また、本発明において、カソード触媒層の導電性炭素材料として、さらに、フッ素化合物を用いて疎水化処理されたカーボンブラックが用いられてもよい。これにより、カソード触媒層の疎水性が、よりいっそう向上する。フッ素化合物を用いて疎水化処理されたカーボンブラックの使用量は、カソード触媒層の導電性炭素材料の総質量に対して好ましくは1〜20質量%である。この範囲の量を配合することにより、初期から長期間経過後まで、かつ、低電流密度〜高電流密度にわたり、高い発電性能を発現させ、耐久性を改善し高い寿命特性を実現できる。なお、疎水化処理の例としては、ポリテトラフルオロエチレンでカーボンブラックを処理する方法が挙げられる。
【0057】
また、好ましくは、カソード触媒層の導電性炭素材料として、さらに、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、またはカーボンナノホーンが用いられる。カーボンブラックよりも黒鉛化度の高い、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、またはカーボンナノホーンを添加することによって、カソード触媒層内の疎水性を向上させ、劣化に起因する三相構造の破壊を抑制することができる。場合によっては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、またはカーボンナノホーンの2種または3種を併用してもよい。カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、またはカーボンナノホーンの使用量は、カソード触媒層の導電性炭素材料の総質量に対して1〜20質量%である。この範囲の量を配合することにより、初期から長期間経過後まで、かつ、低電流密度〜高電流密度にわたり、高い発電性能を発現させ、耐久性を改善し高い寿命特性を実現できる。
【0058】
カソード触媒層およびアノード触媒層に用いられるプロトン伝導性の高分子電解質は、PEFCの発電においてカソード(空気極)・アノード(燃料極)間を移動するプロトンの移動度を高める役割を果たす。
【0059】
高分子電解質としては、触媒層において一般的に用いられているのであれば特に限定されない。具体的には、NafionTM(デュポン社製)などのスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などの高分子電解質が挙げられる。
【0060】
固体高分子電解質膜は、カソード触媒層とアノード触媒層との間に存在する、イオン伝導性の膜である。固体高分子電解質膜は、特に限定されず、電極触媒層に用いたものと同様のプロトン伝導性電解質からなる膜が用いられうる。例えば、デュポン社製の各種のNafionTMやフレミオンTMに代表されるパーフルオロスルホン酸膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜が用いられうる。高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。固体高分子電解質膜に用いられる高分子電解質と、電極触媒層に用いられるプロトン伝導性電解質とは、同じであっても異なっていてもよいが、電極触媒層と固体高分子電解質膜との密着性を向上させる観点からは、同じものを用いるのが好ましい。
【0061】
固体高分子電解質膜の厚さは、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、製膜時の強度や使用時の耐久性の観点からは薄すぎないことが好ましく、使用時の出力特性の観点からは厚すぎないことが好ましい。具体的には、固体高分子電解質膜の厚さは、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μmである。
【0062】
アノード触媒層は、アノード触媒、アノード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含む。
【0063】
アノード触媒は、PEFCのアノード側(燃料極)での反応を促進する役割を果たす材料である。アノード触媒として作用するのであれば、その種類については、特に限定されない。カソード触媒と同様に、白金または白金合金が用いられてもよいし、他の触媒が用いられてもよい。例えば、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びこれらの合金等からなる群から選択される触媒が用いられる。2種以上の触媒が併用されてもよい。
【0064】
アノード触媒層の導電性炭素材料としては、特に限定されないが、好ましくはカーボンブラック、より好ましくは黒鉛化処理されたカーボンブラックが用いられる。アノード触媒層では、カソード触媒層に比べてカーボン腐食が発生しにくいので、黒鉛化されていないカーボンブラックでも、初期から長期間経過後まで、かつ、低電流密度〜高電流密度にわたり、高い発電性能を発現させ、耐久性を改善し高い寿命特性を実現できる。黒鉛化されたカーボンブラックは、親水性の官能基が減少するため、疎水性が向上している。疎水性が向上したカーボンブラックを用いた場合、PEFCの停止時にアノード触媒層を空気パージする操作の間にアノード触媒層内の水分量が減少し易い、すなわち、乾燥し易い。
【0065】
アノード触媒層における導電性炭素材料の触媒担持量は、特に制限されない。アノード触媒の種類、膜−電極接合体の性能、導電性炭素材料の種類などに応じて、所望の発電特性が得られるように、担持量を決定するとよい。例えば、アノード触媒が担持された導電性炭素材料をアノード電極触媒としたとき、前記アノード電極触媒における前記アノード触媒担持量が、前記アノード電極触媒の全量に対して、30〜70質量%であることが好ましい。の触媒担持量がこの範囲であると、白金の利用効率が向上するため、アノード触媒層を薄型化できる。
【0066】
本発明の膜−電極接合体の基本的な構成としては、カソード触媒層、固体高分子電解質膜、およびアノード触媒層が、この順序で配置された構成が好ましく挙げられる。前記膜−電極接合体のより好ましい構成としては、カソード触媒層およびアノード触媒層のうちいずれか一方の外側にガス拡散層が配置されるのが好ましく、より好ましくはカソード触媒層およびアノード触媒層の双方の外側にガス拡散層が配置されるのが好ましい。これにより、外部から供給されたガスを電極触媒層へより均一に供給することができ、膜−電極接合体の発電性能をより向上させることができる。
【0067】
ガス拡散層の構成材料は、特に限定されない。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。より具体的には、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布などが挙げられる。好ましくは、撥水処理されたカーボンペーパーが用いられる。
【0068】
撥水処理されたカーボンペーパーなど、ガス拡散層に好ましく用いられる撥水処理されたシート状材料としては、撥水剤を含むシート状材料が挙げられる。前記撥水剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが好ましく挙げられる。
【0069】
ガス拡散層には、厚さが400μm以下のカーボンペーパーあるいは撥水処理されたカーボンペーパーが好ましく用いられるが、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよい。ガス拡散層の撥水性などを考慮すると、より好ましくは、厚さが200μm以下のガス拡散層が用いられる。ガス拡散層の厚さの下限値は、特に限定されないが、薄すぎると十分な機械的強度などが得られない虞があるため、100μm以上の厚さとするとよい。
【0070】
また、膜−電極接合体におけるフラッディングを防止するために、ガス拡散層と、カソード触媒層およびアノード触媒層との間に、ミル層が配置されてもよい。ミル層とは、ガス拡散層の表面に形成され、カーボンと、ポリテトラフルオロエチレンなどの撥水性フッ素樹脂とからなる混合物層を意味する。
【0071】
本発明の第二は、上述した本発明の第一の燃料電池用膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC)である。本発明のPEFCは、膜−電極接合体における触媒層が劣化しづらく、耐久性に優れる。即ち、本発明のPEFCは、長期間に渡ってPEFCを使用した場合であっても、電圧低下が少ない。このような特性は、長期間に渡る耐久性が求められる用途において、特に有益である。かような用途としては、自動車などの車両が挙げられる。本発明のPEFCは長期間に渡って発電特性が維持されうるため、本発明のPEFCを搭載してなる車両の寿命の長期化や車両価値の向上が達成されうる。本発明のPEFCは、各種動力源として好ましく用いられるが、車両の動力源として用いられるのが特に好ましい。
【0072】
PEFCの構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはMEAをセパレータで挟持した構造を有する。具体的には、セパレータ、ガス拡散層、カソード触媒層、固体高分子電解質膜、アノード触媒層、ガス拡散層、およびセパレータが、この順序で配置された構成が挙げられる。ただし、このような基本的な構成に本発明が限定されるわけではなく、他の構成を有するPEFCにも、本発明を適用することが可能である。
【0073】
セパレータの材質は、特に限定されないが、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製セパレータや、ステンレス等の金属製セパレータなど、公知のものを用いることが可能である。セパレータの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0074】
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
1.アノード電極触媒の調製
導電性炭素材料としてカーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックTMEC、BET表面積=800m/g)4.0gを準備し、これにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌した。さらに、還元剤としてメタノール50gを混合し、1時間攪拌した。その後、30分で80℃まで加温し、80℃で6時間撹拌した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥し、乳鉢で粉砕し、アノード電極触媒(Pt粒子の平均粒径2.6nm、Pt担持濃度50質量%)を得た。
【0076】
2.カソード電極触媒の調製
カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックTMEC)を、2700℃で10時間黒鉛化処理することにより、黒鉛化処理されたカーボンブラック(黒鉛化処理ケッチェンブラックEC、BET表面積=130m/g、真密度1.93g/cm、格子面間隔d0023.51Å、導電率200S/cm)を得た。黒鉛化処理されたケッチェンブラック4.0gに、ジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌した。さらに、還元剤として蟻酸50gを混合し、1時間攪拌した。その後、30分で40℃まで加温し、40℃で6時間撹拌した。30分で60℃まで加温し、さらに、60℃で6時間撹拌した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥し、乳鉢で粉砕し、カソード電極触媒(Pt粒子の平均粒径4.8nm、Pt担持濃度50質量%)を得た。
【0077】
3.アノード触媒層の作製
アノード電極触媒の質量に対して、5倍量の精製水を加え、減圧脱泡操作を5分間加えた。これに、0.5倍量のn−プロピルアルコールを加え、さらにプロトン伝導性高分子電解質を含む溶液(DuPont社製20wt%NafionTM含有)を加えた。溶液中の高分子電解質の含有量は、アノード電極触媒のカーボン質量に対する固形分質量比が、Carbon/Ionomer=1.0/0.9であるものを用いた。
【0078】
得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量の触媒スラリーを印刷し、60℃で24時間乾燥させた。形成されるアノード触媒層のサイズは、5cm×5cmとした。また、ポリテトラフルオロエチレンシート上の塗布層は、Pt量が0.05mg/cmとなるように調整した。
【0079】
4.カソード触媒層の作製
カソード電極触媒の質量に対して、5倍量の精製水を加え、減圧脱泡操作を5分間加えた。これに、0.5倍量のn−プロピルアルコールを加え、さらにプロトン伝導性高分子電解質を含む溶液(DuPont社製20wt%NafionTM含有)を加えた。溶液中の高分子電解質の含有量は、カソード電極触媒のカーボン質量に対する固形分質量比が、Carbon/Ionomer=1.0/0.9であるものを用いた。
【0080】
得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量の触媒スラリーを印刷し、60℃で24時間乾燥させた。形成されるカソード触媒層のサイズは、5cm×5cmとした。また、ポリテトラフルオロエチレンシート上の塗布層は、Pt量が0.35mg/cmとなるように調整した。
【0081】
5.膜電極接合体(MEA)の作製
固体高分子電解質膜としてNafionTM111(膜厚25μm)と、先に作製したポリテトラフルオロエチレンシート上に形成された電極触媒層とを重ね合わせた。その際には、アノード触媒層、固体高分子電解質膜、カソード触媒層を、この順序で積層させた。その後、130℃、2.0MPaで、10分間ホットプレスし、ポリテトラフルオロエチレンシートのみを剥がしてMEAを得た。
【0082】
固体高分子電解質膜上に転写されたカソード触媒層は、厚さが約12μm、Pt担持量は見かけの電極面積1cmあたり0.35mg、電極面積は25cmであった。アノード触媒層は、厚さが約1.5μm、Pt担持量は見かけの電極面積1cmあたり0.05mg、電極面積は25cmであった。
【0083】
6.膜電極接合体(MEA)の性能評価
上記で得たMEAの両面にガス拡散層としてカーボンペーパー(大きさ6.0cm×5.5cm、厚さ320μm)およびガス流路付きガスセパレータを配置し、さらに金メッキしたステンレス製集電板で挟持して、評価用単セルとした。評価用単セルの、アノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には酸化剤として空気を供給した。両ガスとも供給圧力は大気圧とし、水素は58.6℃および相対湿度60%、空気は54.8℃および相対湿度50%、セル温度は70℃に設定した。また、水素利用率は67%、空気利用率は40%とした。この条件下で、電流密度1.0A/cmで発電させた際のセル電圧を初期セル電圧として測定した。
【0084】
続いて、60秒間発電した後、発電を停止した。停止後、水素及び空気の供給を停止し、空気で単セルを置換し50秒間待機した。その後、10秒間アノード側に水素ガスを上記利用率の1/5で供給した。その後、アノード側に水素ガス、カソード側に空気を上記と同様の条件で供給し、再度、1.0A/cmの電流密度で60秒間発電した。また、この時の負荷電流は30秒間で0A/cmから1A/cmに増大させた。この発電・停止動作を実施し、セル電圧を測定して、発電性能を評価した。1.0A/cmの電流密度でのセル電圧が0.45Vになったときのサイクル数を、耐久性の評価値として用いた。構成および結果を表1−1に示す。また、カソード電極触媒に用いた導電性炭素材料の黒鉛化処理における熱処理温度、BET比表面積、真密度、格子面間隔d002、導電率をまとめて表4に示す。
【0085】
(実施例2〜25、参考例1〜5)
燃料電池の構成を表1−1および表1−2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、MEAを作製し、耐久性を評価した。構成および結果を表1−1および表1−2に示す。また、カソード電極触媒に用いた導電性炭素材料の黒鉛化処理における熱処理温度、BET比表面積、真密度、格子面間隔d002、導電率をまとめて表4に示す。
【0086】
(実施例26)
1.カソード電極触媒の調製
実施例1と同様にしてカソード電極触媒を作製し、これをカソード電極触媒(C)として用いた。
【0087】
次に、カーボンブラック(Cabot社製 VulcanXC−72)を、2700℃で10時間黒鉛化処理することにより、黒鉛化処理されたカーボンブラック(黒鉛化処理VulcanXC−72、BET表面積=113m/g、真密度2.01g/cm、格子面間隔d0023.46Å、導電率300S/cm)を得た。黒鉛化処理されたカーボンブラック4.0gに、ジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌した。さらに、還元剤として蟻酸50gを混合し、1時間攪拌した。その後、30分で40℃まで加温し、40℃で6時間撹拌した。30分で60℃まで加温し、さらに、60℃で6時間撹拌した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥し、乳鉢で粉砕し、カソード電極触媒(D)(Pt粒子の平均粒径4.8nm、Pt担持濃度50質量%)を得た。
【0088】
2.カソード触媒層の作製
上記で作製した電極触媒(C)と電極触媒(D)とを質量比で(C)/(D)=2/1して混合し、得られた混合物の質量に対して、5倍量の精製水を加え、減圧脱泡操作を5分間加えた。これに、0.5倍量のn−プロピルアルコールを加え、さらにプロトン伝導性高分子電解質を含む溶液(DuPont社製20wt%NafionTM含有)を加えた。溶液中の高分子電解質の含有量は、混合物(電極触媒(C)および(D))のカーボン質量に対する固形分質量比が、Carbon/Ionomer=1.0/0.9であるものを用いた。得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを調製した。
【0089】
前記触媒スラリーを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリテトラフルオロエチレンシートの片面にカソード触媒層を作製し、これを用いてMEAとし、その評価を行った。構成および結果を表2に示す。また、カソード電極触媒に用いた導電性炭素材料の黒鉛化処理における熱処理温度、BET比表面積、真密度、格子面間隔d002、導電率をまとめて表5に示す。
【0090】
(実施例27〜33)
燃料電池の構成を表2に示すように変更した以外は、実施例26と同様にして、MEAを製造し、耐久性を評価した。構成および結果を表2に示す。また、カソード電極触媒に用いた導電性炭素材料の黒鉛化処理における熱処理温度、BET比表面積、真密度、格子面間隔d002、導電率をまとめて表5に示す。
【0091】
(実施例34)
1.カソード触媒層の作製
実施例1で作製した電極触媒(C)と実施例26で作製した電極触媒(D)とを質量比で(C)/(D)=9/1として混合し、得られた混合物を用いて、実施例26と同様にして、ガス上流側用触媒スラリーを調製した。
【0092】
実施例1で作製した電極触媒(C)と実施例26で作製した電極触媒(D)とを質量比で(C)/(D)=8/2として混合し、得られた混合物を用いて、実施例26と同様にして、ガス下流側用触媒スラリーを調製した。
【0093】
前記触媒スラリーを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリテトラフルオロエチレンシートの片面の半分(大きさ5.0cm×2.5cm)にガス上流側用触媒スラリーを塗布し、60℃で24時間乾燥させることにより、上流側カソード触媒層を作製した。
【0094】
次いで、上記ポリテトラフルオロエチレンシートの片面の残り半分(大きさ5.0cm×2.5cm)にガス下流側用触媒スラリーを塗布し、60℃で24時間乾燥させることにより、下流側カソード触媒層を作製した。
【0095】
これを用いてMEAとし、その評価を行った。構成および結果を表3に示す。また、カソード電極触媒(C)および(D)に用いた導電性炭素材料の黒鉛化処理における熱処理温度、BET比表面積、真密度、格子面間隔d002、導電率をまとめて表6に示す。
【0096】
このカソード触媒層において、ガス上流側用触媒スラリーおよびガス下流側用触媒スラリーが塗布されることにより形成された電極面積は、それぞれ12.5cmであり、厚さはそれぞれ12μmであり、Pt担持量は見かけの電極面積1cmあたりそれぞれ0.35mgであった。
【0097】
また、評価用単セルの耐久性評価の際には、カソード触媒層においてガス上流側用触媒スラリーが塗布された部分をガス導入口側に配置し、ガス下流側用触媒スラリーが塗布された部分をガス出口側に配置した。
【0098】
(実施例35〜41)
燃料電池の構成を表3に示すように変更した以外は、実施例34と同様にして、MEAを製造し、耐久性を評価した。構成および結果を表3に示す。また、カソード電極触媒(C)および(D)に用いた導電性炭素材料の黒鉛化処理における熱処理温度、BET比表面積、真密度、格子面間隔d002、導電率をまとめて表6に示す。
【0099】
【表1−1】

【0100】
【表1−2】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
【表6】

【0106】
表1〜3に示すように、本発明のPEFCは、起動停止の繰り返しに対して、非常に優れた耐久性を有する。
【0107】
上記した実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明が上記実施例に限定されることはない。
【0108】
さらに、本出願は、2004年4月28日に出願された日本特許出願番号2004−134401号および2005年2月21日に出願された日本特許出願番号2004−134401号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金または白金合金からなるカソード触媒、前記カソード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含むカソード触媒層と、
固体高分子電解質膜と、
アノード触媒、前記アノード触媒を担持する導電性炭素材料、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含むアノード触媒層と、
を有する燃料電池用膜−電極接合体であって、
前記アノード触媒層の平均厚み(Ya)が前記カソード触媒層の平均厚み(Yc)よりも小さい燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項2】
前記Yaおよび前記Ycが、Ya/Yc=0.01〜0.9の関係を満たす請求項1に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項3】
前記Yaが0.3μm〜10μmであり、前記Ycが7μm〜20μmである請求項1または2に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項4】
前記カソード触媒層の導電性炭素材料として、黒鉛化処理されたカーボンブラックが含まれる請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項5】
前記黒鉛化処理されたカーボンブラックは、真密度が1.80〜2.11g/cmであり、格子面間隔d002が3.36〜3.55Åであり、導電率が50〜1000S/cmであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項6】
前記黒鉛化処理されたカーボンブラックは、BET表面積が100m/g以上である前記黒鉛化処理されたカーボンブラック(A)を含む請求項4または5に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項7】
前記カーボンブラック(A)のBET表面積が100〜300m/gである請求項6に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項8】
前記カーボンブラック(A)のBET表面積が120〜250m/g以上である請求項6または7に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項9】
前記カソード触媒が前記カーボンブラック(A)に担持されてカソード電極触媒(C)をなし、前記カソード電極触媒(C)における前記カソード触媒の担持量が、20〜80質量%である請求項6〜8のいずれかに記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項10】
前記黒鉛化処理されたカーボンブラックは、さらに、BET表面積が100m/g未満の黒鉛化処理されたカーボンブラック(B)を含む請求項4〜9のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項11】
前記カーボンブラック(B)のBET表面積が、80〜100m/gである請求項10記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項12】
前記カソード触媒が前記カーボンブラック(B)に担持されてカソード電極触媒(D)をなし、前記カソード電極触媒(D)における前記カソード触媒の担持量が、10〜50質量%である請求項10または11に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項13】
前記カソード電極触媒(C)と、前記カソード電極触媒(D)との混合比が、質量比((C)/(D))で、60/40以上である請求項10〜12のいずれかに記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項14】
前記カソード電極触媒(C)と、前記カソード電極触媒(D)との混合比が、質量比((C)/(D))で、60/40〜99/1である請求項13に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項15】
前記カソード触媒層のガス流路の上流側における、前記カソード電極触媒(C)と前記カソード電極触媒(D)との混合比(Rup)と、前記カソード触媒層のガス流路の下流側における、前記カソード電極触媒(C)と前記カソード電極触媒(D)との混合比(Rdown)との比率が、1/1以上である請求項13または14に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項16】
前記カソード触媒層の導電性炭素材料として、さらに、フッ素化合物を用いて疎水化処理されたカーボンブラックが、前記カソード触媒層の導電性炭素材料の総質量に対して1〜20質量%含まれる、請求項1〜15のいずれかに記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項17】
前記カソード触媒層の導電性炭素材料として、さらに、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、またはカーボンナノホーンが、前記カソード触媒層の導電性炭素材料の総質量に対して1〜20質量%含まれる、請求項1〜16のいずれかに記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項18】
前記白金合金は、クロム、マンガン、鉄、コバルト、およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上の卑金属と白金との合金である請求項1〜17のいずれかに記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項19】
前記白金合金における前記白金と前記卑金属との混合比は、質量比(白金/卑金属)で、1/1〜5/1である請求項18に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項20】
前記アノード触媒層の導電性炭素材料として、カーボンブラックが含まれる請求項1〜19のいずれかに記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項21】
前記アノード触媒層の導電性炭素材料として、黒鉛化処理されたカーボンブラックが含まれる請求項20に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項22】
前記アノード触媒が前記導電性炭素材料に担持されてアノード電極触媒をなし、前記アノード電極触媒における前記アノード触媒の担持量が、30〜70質量%である請求項1〜21のいずれかに記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項23】
前記カソード触媒層および前記アノード触媒層の外側に、撥水処理されたカーボンペーパーからなる、厚さが200μm以下のガス拡散層が配置されてなる請求項1〜22のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項24】
前記ガス拡散層と、前記カソード触媒層および前記アノード触媒層との間に、ミル層が配置されてなる請求項23に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
【請求項26】
請求項25に記載の固体高分子型燃料電池を搭載する車両。

【公開番号】特開2011−3552(P2011−3552A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192936(P2010−192936)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【分割の表示】特願2006−512762(P2006−512762)の分割
【原出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】