説明

燃料電池用膜・電極接合体及び燃料電池

【課題】高分子電解質膜の表裏に関係なく高い出力特性を示し、また低加湿条件や、高温条件、高電流密度域での高分子電解質膜−電極界面の接合性が高く、水マネジメントが良好で優れた出力特性を示す燃料電池用膜・電極接合体及びこれを備える燃料電池を提供する。
【解決手段】少なくとも1種のプロトン伝導性高分子を含む高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の一方の面に配設された燃料極と、該高分子電解質膜の他方の面に配設された酸化剤極とを備える燃料電池用膜・電極接合体であって、
前記高分子電解質膜の表面の親水性を水接触角で特定して、該高分子電解質膜の一方の面の水接触角と他方の面の水接触角との差が30°以下であることを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体及びこれを備える燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用膜・電極接合体及びこれを備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気的に接続された2つの電極に燃料と酸化剤を供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池において、アノード(燃料極)では(28)式の反応が進行する。
2 → 2H+ + 2e- ・・・(28)
(28)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(酸化剤極)に到達する。そして、(28)式で生じたプロトンは、水と水和した状態で、電気浸透により固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に移動する。
一方、カソードでは(29)式の反応が進行する。
4H+ + O2 + 4e- → 2H2O ・・・(29)
【0004】
上述したように、アノードで生成したプロトンが固体高分子電解質膜内を通ってカソードへ移動する際には、いくつかの水分子を同伴するため、固体高分子電解質膜や電極内の高分子電解質は高い湿潤状態を保持する必要がある。
【0005】
固体高分子電解質膜の湿潤状態を保持するため、例えば、反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)を加湿した状態で電極に供給することが行われている。反応ガスの加湿には補機を用いることが多いが、補機を搭載すると、燃料電池の大型化やシステムの複雑化の他、補機稼動のエネルギー分、発電効率が低くなるという問題がある。また、燃料電池の原理上、燃料電池の運転状況によって、電極反応によりカソードで生成する水の量や、アノード側からカソード側へプロトンに同伴する水の量が異なるため、常に発電に適した湿潤状態を保持することは難しい。特に、高電流密度で運転を行う場合、カソード側で水が滞留する、いわゆるフラッディングが発生しやすい。フラッディングにより酸化剤の供給が阻害される結果、過電圧が増大し、出力電圧の低下を生じる。
【0006】
そこで、反応ガスを加湿することなく、或いは、最低限の加湿でも、固体高分子電解質膜の湿潤状態を保持できるようにすることが望まれている。しかしながら、低加湿条件では、高電流密度運転の際に、電解質膜の乾燥が生じやすく、プロトン伝導性が低下するという問題がある。
一方、電極反応を促進する触媒成分の触媒活性を高めるためには、高温条件下で燃料電池を運転させることが好ましい。しかしながら、高温運転では、電解質膜内の水分が蒸発して乾燥状態になりやすく、プロトン伝導性が低下してしまう。
【0007】
特に、アノード側は、電極反応による水の生成がなく、また、プロトンに同伴して水がカソード側へと移動してしまうので、電解質膜の乾燥が生じやすい。
【0008】
固体高分子電解質膜の湿潤状態の保持や電極内の水の滞留の抑制を目的として、様々な技術が提案されている(特許文献1〜5等)。例えば、特許文献1には、カソード触媒層上に固体高分子電解質膜のEWよりも大きいEWを有するプロトン伝導性ポリマー層、アノード触媒層に固体高分子電解質膜のEWより小さいEWを有するプロトン伝導性ポリマー層を形成させた後、触媒層を有する電極と固体高分子電解質膜とを加熱加圧下に接合する固体高分子型燃料電池用膜・電極接合体の製造方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、高分子電解質膜とアノード側触媒層又はカソード側触媒層との間に親水層が形成されてなる固体高分子型燃料電池が記載されており、該親水層として、高分子電解質膜のアノード側触媒層又はカソード側触媒層が積層される側の面を、電子線照射によって親水化させてなる形態が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開平11−40172号公報
【特許文献2】特開2005−25974号公報
【特許文献3】特開平10−284087号公報
【特許文献4】特開2003−272637号公報
【特許文献5】特開2005−317287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の技術によれば、高分子電解質膜と触媒層との間に形成されたプロトン伝導性ポリマー層により、プロトン同伴水のカソードへの移動を防止し、触媒層内の水の蓄積を抑制すると共に高分子電解質膜の乾燥を防止することができる場合がある。しかし、プロトン伝導性ポリマー層と電解質膜間の充分な接合性が得られない場合には、過電圧が生じ、出力電圧が低下してしまうという問題がある。また、高分子電解質膜内での水の分布がアノード側とカソード側との間で不均一となり、アノード側の乾燥が充分に防止できずに、発電特性を向上できない可能性がある。さらに、プロトン伝導性ポリマー層を形成する工程が増加するため、生産性が悪い。
【0012】
一方、特許文献2に記載の技術は、高分子電解質膜と触媒層との間に、該触媒層よりも親水性が高い親水層を設けることによって、カソード側触媒層で生成した水を高分子電解質膜まで戻し、高分子電解質膜の加湿に利用しようとするものである。そして、この効果を大きく引き出すためには、高分子電解質膜とカソード側触媒層との間に親水層を設けることが好ましいとしており、実施例としても固体高分子電解質膜のカソード側及びアノード側の両面に親水層を設けた形態のみが記載されている。このようにカソード側に親水層を設ける場合、高分子電解質膜内での水の分布がアノード側とカソード側との間で不均一となり、アノード側の乾燥が充分に防止できずに、発電特性を向上できない可能性がある。
【0013】
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、高分子電解質膜の表裏に関係なく高い出力特性を示し、また低加湿条件や、高温条件、高電流密度域での高分子電解質膜−電極界面の接合性が高く、水マネジメントが良好で優れた出力特性を示す燃料電池用膜・電極接合体及びこれを備える燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の燃料電池用膜・電極接合体(以下、膜・電極接合体ということがある)は、少なくとも1種のプロトン伝導性高分子を含む高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の一方の面に配設された燃料極と、該高分子電解質膜の他方の面に配設された酸化剤極とを備える燃料電池用膜・電極接合体であって、前記高分子電解質膜の表面の親水性を水接触角で特定して、該高分子電解質膜の一方の面の水接触角と他方の面の水接触角との差が30°以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の膜・電極接合体では、高分子電解質膜の両面の親水性の差が小さく、該高分子電解質膜の両面の水接触角の差が30°以下である高分子電解質膜を用いることによって、該高分子電解質膜の表裏に関係なく高い発電特性を示し、また製造工程の際に該高分子電解質膜の表裏に関係なくハンドリング性を向上させた。さらに、両面共に親水性が大きい高分子電解質膜を用いることによって、該高分子電解質膜の表裏と、燃料極側及び酸化剤極側との組み合わせに関係なく、膜−電極界面の接合性が高くて水移動し易くなり、水マネジメントの良好な膜・電極接合体となるようにした。
その結果、低加湿条件や高温条件下、高電流密度域における運転等、高分子電解質膜や燃料極の乾燥が発生しやすい条件下においても高分子電解質膜−電極界面のプロトン伝導性が円滑となり、発電性能を向上させることができる。
【0016】
前記高分子電解質膜の表面の親水性を水接触角で特定したとき、高分子電解質膜において表裏に関係なく高い発電特性で、且つハンドリング性を向上させるためには、該高分子電解質膜の両面の水接触角の差、すなわち片面の水接触角と他の片面の水接触角との差が30°以下であり、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、両面の水接触角が等しければさらに一層好ましい。
【0017】
膜−電極界面の接合性が高くて水移動し易くするためには、該高分子電解質膜の両面の水接触角がいずれも10°以上60°以下であることが好ましく、20°以上50°以下であることがより好ましい。
【0018】
前記高分子電解質膜を構成する材料として、例えば、炭化水素系高分子電解質膜が挙げられる。
【0019】
前記高分子電解質膜を構成する前記プロトン伝導性高分子としては、主鎖に芳香族環を有し、且つ、該芳香族環に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したプロトン交換基を有することが好ましい。
該プロトン伝導性高分子は、側鎖を有していても良い。
該プロトン伝導性高分子は、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したプロトン交換基を有することが好ましい。
前記プロトン交換基は、スルホン酸基であることが好ましい。
さらに、具体的な前記プロトン伝導性高分子としては、下記一般式(1a)〜(4a)
【0020】

【0021】
(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したプロトン交換基を有する。
Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは直接結合若しくは置換基を有していても良いメチレン基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rは互いに独立に1、2又は3を表す。)から選ばれるプロトン交換基を有する繰り返し単位1種以上と、
下記一般式(1b)〜(4b)
【0022】


【0023】
(式中、Ar11〜Ar19は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していても良い2価の芳香族基を表す。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは直接若しくは置換基を有していても良いメチレン基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’は互いに独立に1、2又は3を表す。)
から選ばれるプロトン交換基を実質的に有さない繰り返し単位1種以上とを有する物が挙げられる。
【0024】
前記プロトン伝導性高分子は、前記高分子電解質膜において後述するミクロ相分離構造が形成されやすいことから、プロトン交換基を有するブロック(A)及び、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であることが好ましい。
前記高分子電解質膜が少なくとも2つ以上の相にミクロ相分離した構造を有する場合、該高分子電解質膜の両面の親水性が制御されやすい。
【0025】
ミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜としては、前記プロトン伝導性高分子としてプロトン交換基を有するブロック(A)及び、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなるブロック共重合体を含み、且つ、当該プロトン交換基を有するブロック(A)の密度が高い相と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)の密度が高い相を含むミクロ相分離構造を有するものが挙げられる。
【0026】
具体的には、前記プロトン伝導性高分子として、プロトン交換基を有するブロック(A)と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、プロトン交換基を有するブロック(A)が、下記一般式(4a’)で表される繰返し構造を有し、且つ、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)が下記一般式(1b’)、(2b’)、(3b’)で表される繰返し構造のいずれか一種以上を含むものが挙げられる。
【0027】


【0028】
(式中、mは5以上の整数を表し、Ar9は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていても良い。Ar9は主鎖を構成する芳香族環に直接又は側鎖を介してプロトン交換基を有する。)
【0029】

【0030】
(式中、nは5以上の整数を表す。Ar11〜Ar18は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていても良い。その他の符号は、前記一般式(1b)〜(3b)のものと同じである。)
【0031】
また、前記プロトン伝導性高分子としては、プロトン交換基を有するブロック(A)と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、プロトン交換基を有するブロックにおいて、プロトン交換基が主鎖芳香族環に直接結合しているものが挙げられる。
【0032】
さらに、前記プロトン伝導性高分子としては、プロトン交換基を有するブロック(A)と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、プロトン交換基を有するブロック(A)及びプロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)が共に、ハロゲン原子を含む置換基を有さないことを特徴とするものが挙げられる。
【0033】
前記高分子電解質膜としては、生産性や該高分子電解質膜の化学的又は物理的劣化が起こる場合もあるため、該高分子電解質膜の両面のいずれにも表面処理が行われていないことが好ましい。
【0034】
前記高分子電解質膜は、該高分子電解質膜を構成する前記プロトン伝導性高分子を含有する溶液をある特定の支持基材上に流延塗布、乾燥して製膜されたものが好適である。
前記支持基材としては、流延塗布される表面が金属又は金属酸化物により形成されている連続支持基材を用いることができる。
【0035】
以上のような本発明の膜・電極接合体によれば、高分子電解質膜の乾燥が生じやすい条件下において、優れた発電特性を示し、低加湿条件から高加湿条件にわたる広い湿度条件下、また、高電流密度域、さらには、高温条件下においても運転可能な燃料電池を提供することが可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の膜・電極接合体によれば、固体高分子電解質膜の表裏に関係なく高い出力特性を示し、また低加湿条件や、高温条件、高電流密度域での固体高分子電解質膜の質膜−電極界面の接合性が高く、水マネジメントが良好で優れた出力特性を示す膜・電極接合体及び燃料電池を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の燃料電池用膜・電極接合体は、少なくとも1種のプロトン伝導性高分子を含む高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の一方の面に配設された燃料極と、該高分子電解質膜の他方の面に配設された酸化剤極とを備える燃料電池用膜・電極接合体であって、
前記高分子電解質膜の表面の親水性を水接触角で特定して、該高分子電解質膜の一方の面の水接触角と他方の面の水接触角との差が30°以下であることを特徴とする。
【0038】
図1は、本発明の燃料電池用膜・電極接合体の一形態を示す模式図である。図1において、燃料電池単セル(以下、単に単セルということがある)100は、高分子電解質膜1の一方の面に燃料極(アノード)2、他方の面に酸化剤極(カソード)3が設けられた膜・電極接合体6を備えている。本実施形態において、燃料極2及び酸化剤極3は、それぞれ電解質膜側から順に、燃料極側触媒層4aと燃料極側ガス拡散層5a、酸化剤極側触媒層4bと酸化剤極側ガス拡散層5bとが積層した構造を有している。
各電極(燃料極、酸化剤極)の触媒層4a、4bは、電極反応に対して触媒活性を有する電極触媒(図示せず)が含有されており、電極反応の場となる。ガス拡散層5a、5bは、電極の集電性能や触媒層4への反応ガスの拡散性を高めるためのものである。
尚、本発明において、各電極の構造は、図1に示すものに限定されず、触媒層のみからなる構造でも、触媒層とガス拡散層以外の層を備える構造でもよい。
【0039】
膜・電極接合体6は、燃料極側セパレータ7a及び酸化剤極側セパレータ7bで挟持され、燃料電池単セル100を構成している。セパレータ7は、各電極2,3に反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)を供給する流路8(8a、8b)を画成し、各単セル間をガスシールすると共に、集電体としても機能するものである。燃料極2には、流路8aから燃料ガス(水素を含む又は水素を発生させるガス。通常、水素ガス)が供給され、酸化剤極3には、流路8bから酸化剤ガス(酸素を含む又は酸素を発生させるガス。通常は空気。)が供給される。これら燃料と酸化剤との反応により、燃料電池は発電を行う。
単セル100は、通常、複数積層されスタックとして燃料電池内に組み込まれる。
【0040】
既述したように、膜・電極接合体は、通常、酸化剤極(カソード)側と比較して燃料極(アノード)側で乾燥が生じやすい。すなわち、燃料極で生成したプロトンが水を同伴させて酸化剤極側へと移動し、且つ、酸化剤極では電極反応により水が生成するからである。
本発明者らは、両面での親水性の差が小さい高分子電解質膜を用いることによって、該高分子電解質膜の表裏に関係なく高い発電特性を示し、また製造工程の際に該高分子電解質膜の表裏に関係なくハンドリング性を向上させた膜・電極接合体を見出した。さらに、両面共に親水性が大きい高分子電解質膜を用いることによって、該高分子電解質膜の表裏と、燃料極側及び酸化剤極側との組み合わせに関係なく、膜−電極界面の接合性が高くて水移動し易くなり、水マネジメントの良好な膜・電極接合体を見出した。
【0041】
尚、本発明において用いる「親水性が相対的に小さい」、「親水性が相対的に大きい」とは、電解質膜の一方の表面と他方の表面とで相対的に比較される親水性の大小について言及している。以下において、単に「親水性が大きい」、「親水性が小さい」と表現される場合は、このように相対的意味での大小を意味している。
また、本発明において用いる「水接触角が相対的に小さい」、「水接触角が相対的に大きい」とは、電解質膜の一方の表面と他方の表面とで相対的に比較される水接触角の大小について言及している。以下において、単に「水接触角が小さい」、「水接触角が大きい」と表現される場合は、このように相対的意味での大小を意味している。
【0042】
以下、本発明の膜・電極接合体において用いられる高分子電解質膜について詳しく説明していく。
本発明の膜・電極接合体では、高分子電解質膜として、その両面の親水性の差が小さく、該高分子電解質膜の一方の面の水接触角と他方の面の水接触角との差が30°以下であるものを用いる。
【0043】
ここで、高分子電解質膜の表面の水接触角は、高分子電解質膜を23℃50%RH雰囲気下で24時間静置させた後、接触角計(例えば、CA−A型 協和界面科学株式会社製)を用い、高分子電解質膜表面に直径2.0mmの水滴を滴下し、5秒後の水滴に対する接触角を液滴法により求めた値とする。
高分子電解質膜表面の水接触角は、高分子電解質膜表面の親水性の指標となるものであり、接触角が小さいほど親水性が大きく、接触角が大きいほど親水性が小さい。
水接触角測定は比較的簡便な方法であり、高分子電解質膜表面の親水性を評価する手段として好適である。
【0044】
本発明で用いられる高分子電解質膜の一方の面の水接触角(以下、θ1ということがある。)と他方の面の水接触角(以下、θ2ということがある。)との差は、30°以下である。ここで、θ1とθ2が異なる場合、値の小さい方(親水性が大きい方)の面を第一面、値の大きい方(親水性が小さい方)の面を第二面と、以下、いうことがある。
【0045】
また、燃料電池用電極との密着性の観点から、高分子電解質膜のθ1及びθ2共に、10°以上60°以下であることが好ましく、10°以上50°以下であることがさらに好ましい。
【0046】
θ1及びθ2共に、10°以上であれば、高分子電解質膜表面が適度に親水的となり、吸水時の形態安定性がより優れ、θ1が60°以下であれば、製造した高分子電解質膜と、燃料電池用電極との密着性がより強くなるので好ましい。
【0047】
高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性高分子は、プロトン交換基を有し、プロトン伝導性を発現するものであれば特に限定されず、一般的に固体高分子型燃料電池に使用されるものを用いることができる。高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性高分子としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
高分子電解質膜は、プロトン伝導性高分子を50wt%以上、好ましくは70wt%以上、特に好ましくは90wt%以上含有していることが好ましい。
【0048】
高分子電解質膜においてプロトン伝導を担うプロトン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、0.5meq/g〜4.0meq/gが好ましく、更に好ましくは1.0meq/g〜2.8meq/gである。該プロトン交換基導入量を示すイオン交換容量が0.5meq/g以上であると、プロトン伝導性がより高くなり、燃料電池用の高分子電解質としての機能がより優れるので好ましい。一方、プロトン交換基導入量を示すイオン交換容量が4.0meq/g以下であると、耐水性がより良好となるので好ましい。
【0049】
プロトン伝導性高分子としては、例えば、炭化水素系プロトン伝導性高分子等が挙げられる。
【0050】
炭化水素系プロトン伝導性高分子は、フッ素を含まないことが好ましい。炭化水素系プロトン伝導性高分子としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリパラフェニレン、ポリイミド、等の芳香族主鎖を有するエンジニアリングプラスチックや、ポリエチレン、ポリスチレン等の汎用プラスチックにスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、スルホニルイミド基等のプロトン伝導性基を導入したものが挙げられる。
炭化水素系高分子電解質は、フッ素系高分子電解質と比較して安価であるという利点を有する。中でも、耐熱性の観点から、主鎖に芳香族環を有する芳香族炭化水素系高分子にプロトン交換基を導入した炭化水素系プロトン伝導性高分子が好ましい。
該炭化水素系プロトン伝導性高分子は、主鎖に芳香族環を有し、且つ、該芳香族環に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したプロトン交換基を有する高分子が好ましい。
該炭化水素系プロトン伝導性高分子は、側鎖を有してもよい。
該炭化水素系プロトン伝導性高分子は、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したプロトン交換基を有する高分子が好ましい。
【0051】
本発明において、高分子電解質膜としては、炭化水素系高分子電解質を含有する炭化水素系高分子電解質膜が好ましく、特に炭化水素系高分子電解質を50wt%以上含有する炭化水素系高分子電解質膜が好ましく、さらには炭化水素系高分子電解質を80wt%以上含有する炭化水素系高分子電解質膜が好ましい。ただし、本発明の効果を妨げない範囲で、別の高分子、炭化水素系ではないプロトン伝導性高分子及び添加剤等が含まれていても良い。
【0052】
本発明において、高分子電解質膜の両面における親水性の差は、できるだけ小さい方がよいが、親水性の差の小さいプロトン伝導性高分子又は親水性が同じプロトン伝導性高分子を高分子電解質膜の両面又はいずれか一方の面側にコーティングしてなるものや、積層してなるものは含まれない。本発明の膜・電極接合体に用いられる高分子電解質膜は、典型的には、少なくとも1種のプロトン伝導性高分子を含有する組成物を1種用いて製膜されたものである。
所望の親水性を有する物質、例えば、複数のプロトン伝導性高分子をコーティングや積層等することによって、両表面の親水性の差を小さくした又は同じにした高分子電解質膜では、コーティング部分や積層部分における界面の接着性が不十分となる場合が多く、該界面での剥離が生じやすいため、プロトン伝導性の低下や電圧低下等を招くおそれがあるからである。
【0053】
膜表面に表面処理等を施してもよいが、化学劣化を起こしたりする可能性もあり、表面処理をしない方が好ましい。
【0054】
製造工程の短縮化や表面処理による高分子電解質膜の化学的又は物理的劣化の防止等の観点から、上記表面処理等の後工程を施さずに、その両面の表面の水に対する接触角の差を小さくせしめた高分子電解質膜が好ましい。
いわゆる溶液キャスト法により高分子電解質膜を作製する際に、プロトン伝導性高分子を含有する溶液(高分子電解質溶液)を適切な支持基材の表面に流延することによって、製膜後に表面処理等の後加工を行わなくても、高分子電解質膜の両面の接触角差を小さくさせることができる。すなわち、溶液キャスト法による製膜後に、膜に対して表面処理を行わなくても、膜の両面の親水性を制御し得る。但し、製膜工程で得られた接触角差をさらに最適化するために、膜表面に表面処理を行ってもよい。
【0055】
溶液キャスト法による、高分子電解質膜表面の水に対する接触角の制御は以下のように考えられる。プロトン伝導性高分子を含む高分子電解質膜の構成材料と基材との組み合わせによっては、溶液キャスト法における溶液状態の高分子電解質−基材間の相互作用と、溶液状態の高分子電解質−空気の相互作用との組み合わせにより、支持基材との接合面となる一方の面の水接触角と、流延の際に空気との接触面となるもう一方の面の水接触角との差が小さくなると推測される。
【0056】
適切な支持基材の表面に高分子電解質溶液を流延塗布することにより、高分子電解質と基材との間の相互作用により、得られた塗膜の支持基材側の接触角を、もう片面(空気面側)の接触角と同じ程度の値にすることが可能である。
【0057】
上記のような溶液キャスト法による水接触角の制御では、表面処理等の後工程を行う場合と比較して、表面処理工程の分、製造工程の短縮化が可能であるため、工業的に非常に有利である。また、表面処理等を行うと、高分子電解質膜の化学的又は物理的劣化を招くおそれがある。
溶液キャスト法による製膜によって(後工程を行わずに)その両面の水接触角の差を小さくした高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性高分子としては、既述したようなプロトン伝導性高分子電解質を用いることができる。
【0058】
プロトン伝導性高分子は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、交互共重合等の共重合体を含むものが好ましく、プロトン交換基を有するポリマーセグメントと、及びプロトン交換基を実質的に有さないポリマーセグメントとを、それぞれ一つ以上有するブロック共重合体、グラフト共重合体等がより好ましい。更に好ましくは、プロトン交換基を有するポリマーブロック(A)と、及びプロトン交換基を実質的に有さないポリマーブロック(B)とを、それぞれ一つ以上有するブロック共重合体が挙げられる。
また、更に好ましくは、プロトン交換基を有するポリマーブロック(A)と、及びプロトン交換基を実質的に有さないポリマーブロック(B)とを、それぞれ一つ以上有し、且つ、プロトン交換基を有するブロックにおいて、プロトン交換基が主鎖芳香族環に直接結合しているブロック共重合体が挙げられる。
【0059】
なお、本発明において、高分子、ポリマーセグメント、ブロック又は繰り返し単位が「プロトン交換基を実質的に有する」とは、プロトン交換基が、繰り返し単位1個あたりで平均0.5個以上含まれているセグメントであることを意味し、繰り返し単位1個あたりで平均1.0個以上含まれているとより好ましい。一方、これらが「プロトン交換基を実質的に有しない」とは、プロトン交換基が、繰り返し単位1個あたりで平均0.5個未満であるセグメントであることを意味し、繰り返し単位1個あたりで平均0.1個以下であるとより好ましく、平均0.05個以下であるとさらに好ましい。
【0060】
本発明で用いるプロトン伝導性高分子がブロック共重合体を含む場合、該ブロック共重合体がプロトン交換基を有するブロック(A)及びプロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなるものが好ましい。
【0061】
本発明で用いるプロトン伝導性高分子がブロック共重合体を含む場合、ミクロ相分離構造が形成されやすいため好ましい。ここでいうミクロ相分離構造とは、ブロック共重合体やグラフト共重合体において、異種のポリマーセグメント同士が化学結合で結合されていることにより、分子鎖サイズのオーダーでの微視的相分離が生じてできる構造を指す。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で見た場合に、プロトン交換基を有するブロック(A)の密度が高い微細な相(ミクロドメイン)と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)の密度が高い微細な相(ミクロドメイン)とが混在し、各ミクロドメイン構造のドメイン幅すなわち恒等周期が数nm〜数100nmであるような構造を指す。好ましくは5nm〜100nmのミクロドメイン構造を有するものが挙げられる。
ミクロ相分離構造を有するものが好ましい理由としては、ミクロ相分離構造では微視的凝集体を有するため、溶液キャスト法における高分子電解質溶液の流延塗布の際に、プロトン伝導性高分子と支持基材との間で親和性や斥力等の強い相互作用を受けて、接触角が制御されるという仮説が考えられる。
【0062】
本発明の高分子電解質膜に用いられるプロトン伝導性高分子としては、例えば特開2005−126684号公報及び特開2005−206807号公報に準拠する構造が挙げられる。
【0063】
より具体的には、繰り返し単位として、上記の一般式(1a)、(2a)、(3a)、(4a)の何れか1種以上と、上記の一般式(1b)、(2b)、(3b)、(4b)の何れか1種以上とを含むプロトン伝導性高分子であり、重合の形式としてはブロック共重合、交互共重合、及びランダム共重合等が挙げられる。
【0064】
本発明において、好ましいブロック共重合体としては、上記一般式(1a)、(2a)、(3a)、(4a)から選ばれるプロトン交換基を有する繰り返し単位からなるブロック1種以上と、上記一般式(1b)、(2b)、(3b)、(4b)から選ばれるプロトン交換基を実質的に有さない繰り返し単位からなるブロック1種以上とを有するものが挙げられるが、より好ましくは、下記のブロックを有する共重合体が挙げられる。
【0065】
<ア>.(1a)の繰り返し単位からなるブロックと、(1b)の繰り返し単位からなるブロック、
<イ>.(1a)の繰り返し単位からなるブロックと、(2b)の繰り返し単位からなるブロック、
<ウ>.(2a)の繰り返し単位からなるブロックと、(1b)の繰り返し単位からなるブロック、
<エ>.(2a)の繰り返し単位からなるブロックと、(2b)の繰り返し単位からなるブロック、
【0066】
<オ>.(3a)の繰り返し単位からなるブロックと、(1b)の繰り返し単位からなるブロック、
<カ>.(3a)の繰り返し単位からなるブロックと、(2b)の繰り返し単位からなるブロック、
<キ>.(4a)の繰り返し単位からなるブロックと、(1b)の繰り返し単位からなるブロック、
<ク>.(4a)の繰り返し単位からなるブロックと、(2b)の繰り返し単位からなるブロックなど
【0067】
更に好ましくは、上記の<イ>、<ウ>、<エ>、<キ>、<ク>などを有するものである。特に好ましくは、上記の<キ>、<ク>などを有するものである。
【0068】
本発明において、より好ましいブロック共重合体としては、(4a)の繰り返し数、すなわち上記の一般式(4a’)におけるmは5以上の整数を表し、5〜1000の範囲が好ましく、更に好ましくは10〜500である。mの値が5以上であれば、燃料電池用の高分子電解質として、プロトン伝導度が十分であるので好ましい。mの値が1000以下であれば、製造がより容易であるので好ましい。
【0069】
式(4a’)におけるAr9は、2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0070】
また、Ar9は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていても良い。
【0071】
Ar9は、主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのプロトン交換基を有する。プロトン交換基として、酸性基(カチオン交換基)がより好ましい。好ましくはスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基が挙げられる。これらの中でもスルホン酸基がより好ましい。
【0072】
これらのプロトン交換基は、部分的にあるいは全てが金属イオンなどで交換されて塩を形成していても良いが、燃料電池用高分子電解質膜などとして使用する際には、実質的に全てが遊離酸の状態であることが好ましい。
【0073】
式(4a’)で示される繰り返し構造の好ましい例としては、下記式が挙げられる。
【0074】

【0075】
また、本発明において、より好ましいブロック共重合体としては、(1b)〜(3b)の繰り返し数、すなわち上記の一般式(1b’)〜(3b’)におけるnは5以上の整数を表し、5〜1000の範囲が好ましく、更に好ましくは10〜500である。nの値が5以上であれば、燃料電池用の高分子電解質として、プロトン伝導度が十分であるので好ましい。nの値が1000以下であれば、製造がより容易であるので好ましい。
【0076】
式(1b’)〜(3b’)におけるAr11〜Ar18は、互いに独立な2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0077】
また、Ar11〜Ar18は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていても良い。
【0078】
プロトン伝導性高分子の具体例としては、例えば下記の構造(1)〜(27)が挙げられる。
【0079】

【0080】

【0081】

【0082】

【0083】

【0084】

【0085】
より好ましいプロトン伝導性高分子としては、例えば上記の(2)、(7)、(8)、(16)、(18)、(22)〜(25)等が挙げられ、特に好ましくは(16)、(18)、(22)、(23)、(25)等が挙げられる。
【0086】
プロトン伝導性高分子が、上記ブロック共重合体である場合、プロトン交換基を有するブロック(A)及びプロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)がいずれも、ハロゲン原子を含む置換基を実質的に有していないことが、特に好ましい。ハロゲン原子として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
ここで実質的に有していないとは、本発明の効果に影響ない程度に含んでいてもよいことを意味する。具体的にはハロゲン原子を含む置換基が、繰り返し単位あたり0.05個以上持っていないことを意味する。
一方で、置換基として有していてもよい例としては、以下のものが挙げられる。例えばアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基が挙げられる。これらの置換基は炭素数1〜20が好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アセチル基、プロピオニル基、等炭素数が少ない置換基が挙げられる。
ブロック共重合体がハロゲン原子を含む場合、例えば燃料電池作動中にフッ化水素や塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が発生し、燃料電池部材を腐食する可能性があり、好ましくない。
【0087】
また、プロトン伝導性高分子の分子量が、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、中でも15000〜400000であることが特に好ましい。
【0088】
溶液状態により製膜する溶液キャスト法は、具体的には、少なくとも一種以上のプロトン伝導性高分子を、必要に応じてプロトン伝導性高分子以外の高分子、添加剤等の他の成分と共に適当な溶媒に溶解し、その溶液(高分子電解質溶液)をある特定の基材上に流延塗布し、溶媒を除去することにより高分子電解質膜を製膜する。
高分子電解質溶液を調製する際は、2種以上のプロトン伝導性高分子を別々に溶媒に添加したり、或いは、プロトン伝導性高分子と他の成分を別々に溶媒に添加するなど、高分子電解質膜を構成する2種以上の成分を別々に溶媒に添加し、溶解することで、高分子電解質溶液を調製してもよい。
【0089】
製膜に用いる溶媒は、ポリアリーレン系高分子が溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP等がポリマーの溶解性が高く好ましい。
【0090】
高分子電解質膜の耐酸化性や耐ラジカル性等の化学的安定性を高めるため、本発明の効果を妨げない程度に、プロトン伝導性高分子に化学的安定剤を添加してもよい。添加する安定剤としては、酸化防止剤等が挙げられ、例えば特開2003−201403、特開2003−238678及び特開2003−282096の各公報に例示されているような添加剤が挙げられる。あるいは、特開2005−38834及び特開2006−66391の各公報に記載されている下式
【0091】

(r=1〜2.5、s=0〜0.5、繰り返し単位の添え字数字は、繰り返し単位のモル分率を示す。)

(r=1〜2.5、s=0〜0.5、繰り返し単位の添え字数字は、繰り返し単位のモル分率を示す。)
で示されるホスホン酸基含有ポリマーを化学的安定化剤として含有することができる。
添加する化学的安定剤含有量は全体の20wt%以内が好ましく、それ以上含有すると、高分子電解質膜の特性が低下する可能性がある。
【0092】
溶液キャスト法において、流延塗布に用いる支持基材は、連続製膜し得る基材を用いるのが好ましい。連続製膜し得る基材とは、巻物として保持できてある程度の湾曲等の外力下でも割れたりせずに耐えうる基材を指す。
連続製膜し得る基材とは、紙管やプラスチック管に巻きつけて巻物状の形態をとり得る基材のことを指し、生産性が向上するため工業的に有利となる。基材の幅が100mm以上、かつ長さが10m以上のものが好ましい。より好ましくは、基材の幅が150mm以上、かつ長さが50m以上のものをいう。さらに好ましくは、基材の幅が200mm以上、かつ長さが100m以上のものをいう。また、巻物の状態で固定した後、連続的に繰り出し又は巻き取りをし得る基材をいう。一般に、ガラス板や金属板等、屈曲性に劣ったり、屈曲時に割れたりする基材は好ましくない。
【0093】
流延塗布する基材としては、キャスト製膜時の乾燥条件に耐えうる耐熱性や寸法安定性を有するものが好ましく、また上記記載の溶媒に対する耐溶剤性や耐水性を有する基材が好ましい。また、塗布乾燥後に、高分子電解質膜と基材とが強固に接着せず、剥離し得る基材が好ましい。ここでいう「耐熱性や寸法安定性を有する」とは、高分子電解質溶液を流延塗布後、溶媒除去のために乾燥オーブンを用いて乾燥する場合に、熱変形しないことをいう。また、「耐溶剤性を有する」とは、高分子電解質溶液中の溶媒によって基材自身が実質的に溶け出さないことをいう。また、「耐水性を有する」とは、pHが4.0〜7.0の水溶液中において、基材自身が実質的に溶け出さないことをいう。更に「耐溶剤性を有する」及び「耐水性を有する」とは、溶媒や水に対して化学劣化を起こさないことや、膨潤や収縮を起こさず寸法安定性が良いことも含む概念である。
【0094】
流延塗布により、高分子電解質膜の両面の水接触角の差を小さくすることが容易な支持基材としては、流延塗布される表面が金属又は金属酸化物で形成された支持基材が適している。
流延塗布する基材表面の材質として、金属層又は金属酸化物層から成る基材が挙げられる。具体的には、金属層について、例えばアルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼(SUS)、金、銀、白金、又はこれらのアロイ化物が挙げられる。金属酸化物層について、例えば上記金属の酸化物、珪素酸化物等が挙げられる。
これらの金属又は金属酸化物は、単独で支持し得るものでもよく、また樹脂製フィルム層の上にラミネート、蒸着又はスパッタリング等によって形成されてもよい。樹脂製フィルムとしては、例えばポリオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリイミド系フィルム、フッ素系フィルム等が挙げられる。中でもポリエステル系フィルムやポリイミド系フィルムは、耐熱性、耐寸法安定性、耐溶剤性等に優れるため好ましい。ポリエステル系フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、芳香族ポリエステル等が挙げられ、中でもポリエチレンテレフタレートは特性に留まらず、汎用性やコスト面からも、工業的に好ましい。
樹脂製フィルム層と、金属薄膜層又は金属酸化物薄膜層の組み合わせの内、樹脂製フィルム層がポリエチレンテレフタレートから成り、金属薄膜層又は金属酸化物薄膜層がアルミニウムラミネート層、アルミニウム蒸着層、アルミナ蒸着層、シリカ蒸着層、アルミナ−シリカ二元蒸着層等から成る組み合わせが好ましい。これらの積層フィルムは、一般に包装材料用途として用いられている積層フィルム等が挙げられる。
蒸着を施したポリエチレンテレフタレートフィルムとしては、例えば東レフィルム加工社製のバリアロックス(商品名)等が挙げられ、またシリカ蒸着を施したポリエチレンテレフタレートフィルムとしては、尾池工業社製のMOS(商品名)等が挙げられ、アルミナ−シリカ二元蒸着を施したポリエチレンテレフタレートフィルムとしては、東洋紡績社製のエコシアール(商品名)等が挙げられる。
【0095】
基材について、用途に応じて支持基材表面の濡れ性を変え得るような表面処理を施してもよい。ここでいう支持基材表面の濡れ性を変え得る処理とは、コロナ処理やプラズマ処理等の親水化処理や、フッ素処理等の撥水化処理等、一般的手法が挙げられる。
【0096】
以下、上記したような高分子電解質膜を一対の電極で狭持してなる膜・電極接合体及び膜・電極接合体を備える燃料電池の一形態例について説明する。
【0097】
電極を構成するガス拡散層は、触媒層に効率良くガスを供給することができるガス拡散性、導電性、及びガス拡散層を構成する材料として要求される強度を有するもの、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素質多孔質体や、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケル−クロム合金、銅及びその合金、銀、アルミ合金、亜鉛合金、鉛合金、チタン、ニオブ、タンタル、鉄、ステンレス、金、白金等の金属から構成される金属メッシュ又は金属多孔質体等の導電性多孔質体からなるガス拡散層シートを用いて形成することができる。導電性多孔質体の厚さは、50〜500μm程度であることが好ましい。
【0098】
ガス拡散層シートは、上記したような導電性多孔質体の単層からなるものであってもよいが、触媒層に面する側に撥水層を設けることもできる。撥水層は、通常、炭素粒子や炭素繊維等の導電性粉粒体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性樹脂等を含む多孔質構造を有するものである。
撥水層を導電性多孔質体上に形成する方法は特に限定されず、例えば、炭素粒子等の導電性粉粒体と撥水性樹脂、及び必要に応じてその他の成分を、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等の有機溶剤、水又はこれらの混合物等の溶剤と混合した撥水層インクを、導電性多孔質体の少なくとも触媒層に面する側に塗布し、その後、乾燥及び/又は焼成すればよい。
【0099】
また、導電性多孔質体は、触媒層と面する側に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性樹脂をバーコーター等によって含浸塗布することによって、触媒層内の水分がガス拡散層の外へ効率良く排出されるように加工してもよい。
【0100】
触媒層は、通常、電極反応に対して触媒活性を有する電極触媒の他、プロトン伝導性高分子が含有される。電極触媒としては、電極反応に対して触媒活性を有するものであれば特に限定されず、電極触媒として一般的に用いられているものを用いることができる。通常は、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金等が挙げられる。好ましくは、白金、及び白金−ルテニウム合金等の白金合金である。
【0101】
電極触媒は、該電極触媒での電極反応における電子の授受がスムーズに行われるように、また、電極内における電極触媒の分散性を確保するために、通常、導電性粒子に担持される。導電性粒子としては、カーボンブラック等の炭素粒子の他、金属粒子も用いることができる。導電性粒子は、球状に限定されず、繊維状のようなアスペクト比が比較的大きな形状のものも含まれる。
【0102】
触媒層に含有されるプロトン伝導性高分子としては、特に限定されず、固体高分子型燃料電池において、一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、ナフィオン(商品名、デュポン社製)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のようなフッ素系電解質樹脂の他、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンの炭化水素系樹脂に、スルホン酸基、ボロン酸基、ホスホン酸基、水酸基のプロトン交換基を導入した炭化水素系電解質樹脂を用いることができる。具体的には、高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性高分子として上記にて例示したものが挙げられる。
尚、触媒層には、上記電極触媒を担持した導電性粒子とプロトン伝導性高分子の他、必要に応じて、撥水性高分子(例えば、ポリテトラフルオロエチレン等)や結着剤等、その他の成分を含有させてもよい。
【0103】
膜・電極接合体の製造方法は特に限定されず、例えば、触媒層は、触媒層を形成する各成分を溶媒に溶解又は分散させた触媒インクを用いて形成することができる。具体的には、触媒インクを電解質膜表面に直接塗布、或いは、触媒インクをガス拡散層となるガス拡散層シートに直接塗布、或いは、触媒インクを転写基材に塗布、乾燥して触媒層転写シートを作製し、該転写シートの触媒層を電解質膜又はガス拡散層シートに転写することによって、電解質膜表面又はガス拡散層表面に触媒層を形成することができる。
触媒インクの塗布方法は特に限定されず、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等が挙げられる。
【0104】
触媒インクの直接塗布又は転写により電解質膜の表面に触媒層を設けた電解質膜−触媒層接合体は、通常、ガス拡散層シートで挟み込んだ状態で熱圧着等することにより該ガス拡散層シートと接合され、電解質膜の両面に、触媒層とガス拡散層とを有する電極が設けられた膜・電極接合体が得られる。
【0105】
触媒インクの直接塗布又は転写によりガス拡散層シートの表面に触媒層を設けたガス拡散層−触媒層接合体は、電解質膜を挟み込んだ状態で熱圧着等することにより当該電解質膜と接合され、電解質膜の両面に、触媒層とガス拡散層とを有する電極が設けられた膜・電極接合体が得られる。
以上のようにして、作製された膜・電極接合体は、炭素質材料や金属材料よりなるセパレータで狭持されてセルを構成し、燃料電池内に組み込まれる。
【実施例】
【0106】
[電解質膜の作製]
プロトン伝導性高分子をジメチルスルホキシドに溶解させ、10wt%濃度の溶液を調製した。該溶液を支持基材上に流延塗布、乾燥(乾燥条件:温度80℃、時間60分)させて、炭化水素系高分子電解質膜を作製した。乾燥後の高分子電解質膜をイオン交換水で水洗を行って溶媒を完全に除去した。この膜を2N塩酸に2時間浸漬後、再度イオン交換水で水洗せしめて、更に風乾することで、高分子電解質膜を作製した。得られた炭化水素系高分子電解質膜の支持基材側表面及び空気界面側表面について、水接触角測定を行った。
【0107】
(水接触角の測定)
高分子電解質膜を23℃50RH%雰囲気下で24時間静置させた後、接触角計(CA−A型 協和界面科学株式会社製)を用い、該電解質膜表面に直径2.0mmの水滴を滴下し、5秒後の水滴に対する接触角を液滴法により測定した。
【0108】
(合成例1)
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、DMSO142.2重量部、トルエン55.6重量部、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム5.7重量部、末端クロロ型である下記ポリエーテルスルホン
【0109】

【0110】
(住友化学製スミカエクセルPES5200P)2.1重量部、2,2’−ビピリジル9.3重量部を入れて攪拌した。その後バス温を100まで昇温し、減圧下でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水した後、65℃に冷却後、常圧に戻した。次いで、これにビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)15.4重量部を加え、70℃に昇温し、同温度で5時間攪拌した。放冷後、反応液を大量のメタノールに注ぐことによりポリマーを析出させ濾別。その後6mol/L塩酸による洗浄・ろ過操作を数回繰り返した後、濾液が中性になるまで水洗を行い、減圧乾燥することにより目的とする下記ポリアリーレン系ブロック共重合体3.0重量部(IEC=2.2meq/g、Mn=103000、Mw=257000)を得た。
【0111】

【0112】
【表1】

【0113】
表1に示すように、合成例1のプロトン伝導性高分子と特開2006−66391号公報(〔0058〕、下図参照)に記載のホスホン酸基含有ポリマーとの混合物(重量比90対10)を溶液キャスト法により作製した炭化水素系高分子電解質膜は、アルミニウムシート基材を用いた実施例の場合とPET(ポリエチレンテレフタレート)基材を用いた比較例の場合とで、水接触角の差が異なった。実施例のアルミニウムシート基材を用いた場合には、アルミニウムシート基材側表面と空気界面側の表面の水接触角差が3°となり、比較例のPET基材を用いた場合(水接触角差:59°)と比較して、水接触角差が小さく、且つアルミニウムシート基材面側表面と空気界面側表面共に、親水性が大きかった。
【0114】

(r=1.6、s=0.0、繰り返し単位の添え字数字は繰り返し単位のモル分率を示す。)
【0115】
[発電性能の評価]
(膜・電極接合体の作製)
Pt/C触媒(Pt担持率:50wt%)1gと、パーフルオロカーボンスルホン酸(商品名Nafion)の10wt%溶液4mlと、エタノール5mlと、水5mlとを、超音波洗浄器及び遠心攪拌機により混合し、スラリー状の触媒インクを調製した。
得られた触媒インクを、上記炭化水素系高分子電解質膜の両面にスプレー塗布し、触媒層(13cm2)を形成した。このとき、触媒層の単位面積当たりのPt量が0.5mg/cm2となるように触媒インクを塗布した。
【0116】
得られた触媒層付き電解質膜を、ガス拡散層用カーボンクロスで挟持し、膜・電極接合体を得た。
得られた膜・電極接合体を、2枚のカーボンセパレータで挟持し、単セルを作製した。
【0117】
(発電試験)
<実施例1>
上記炭化水素系高分子電解質膜のアルミニウムシート基材側表面が酸化剤極側、空気界面側表面が燃料極側となるように、単セルに水素ガス及び空気を供給し、下記低加湿条件下、発電試験を行った。結果を図2(低加湿条件)に示す。
【0118】
<発電評価条件>
低加湿条件
・水素ガス:270ml/min
・空気:860ml/min
・セル温度:80℃
・アノード側バブラー温度:45℃
・カソード側バブラー温度:55℃
・アノード側背圧:0.1MPa(ゲージ圧力)
・カソード側背圧:0.1MPa(ゲージ圧力)
【0119】
<比較例1>
上記炭化水素系高分子電解質膜のPET基材側表面が酸化剤極側、空気界面側表面が燃料極側となるように、単セルに水素ガス及び空気を供給し、実施例1同様、低加湿条件下、発電試験を行った。結果を図2(低加湿条件)に示す。
【0120】
図2からわかるように、高分子電解質膜の接触角の差が小さい膜を用いた実施例1の膜・電極接合体を備える単セルは、低加湿状態において、優れた発電性能を示した。
【0121】
一方、高分子電解質膜の接触角の差が大きい膜を用いた比較例1の膜・電極接合体を備える単セルは、約0.7A/cm2電流密度辺りから急激な電圧降下が生じ、実施例の場合と比較して、大電流密度域における発電性能に劣るものであった。
【0122】

【0123】
すなわち、その両面で親水性に差のない高分子電解質膜を用いた実施例の単セルでは、高分子電解質膜と電極との膜−電極界面の接合性が向上し、水移動がし易くなった結果、低加湿条件下における高電流密度域での運転性能が向上した。低加湿条件下における高電流密度域のような高分子電解質膜の乾燥が生じやすい条件下においても優れた発電性能を示したことから、高温条件下においても優れた発電性能を発現することが予想できる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の膜・電極接合体を備える単セルの一形態例を示す図である。
【図2】実施例1及び比較例1の低加湿条件における発電性能試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0125】
1…高分子電解質膜
2…燃料極
3…酸化剤極
4a…燃料極側触媒層
4b…酸化剤極側触媒層
5a…燃料極側ガス拡散層
5b…酸化剤極側ガス拡散層
6…膜・電極接合体
7a…燃料極側セパレータ
7b…酸化剤極側セパレータ
8a、8b…流路
100…単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のプロトン伝導性高分子を含む高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の一方の面に配設された燃料極と、該高分子電解質膜の他方の面に配設された酸化剤極とを備える燃料電池用膜・電極接合体であって、
前記高分子電解質膜の表面の親水性を水接触角で特定して、該高分子電解質膜の一方の面の水接触角と他方の面の水接触角との差が30°以下であることを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項2】
前記高分子電解質膜の表面の親水性を水接触角で特定して、該親水性が相対的に大きい側を第一面、該親水性が相対的に小さい側を第二面としたときに、前記第一面の水接触角と第二面の水接触角との差が30°以下であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項3】
前記高分子電解質膜の一方の面及び他方の面のいずれの水接触角も10°以上60°以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項4】
前記高分子電解質膜が、該高分子電解質を溶媒に溶解させてなる高分子電解質溶液を、連続支持基材上で溶液キャスト法により製膜して得られるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項5】
前記高分子電解質膜が、炭化水素系高分子電解質膜である請求項1乃至5のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項6】
前記プロトン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、且つ、該芳香族環に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したプロトン交換基を有する、
請求項1乃至6いずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項7】
前記プロトン伝導性高分子が、側鎖を有する、
請求項6に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項8】
前記プロトン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したプロトン交換基を有する、
請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項9】
前記プロトン交換基がスルホン酸基である請求項6〜8のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項10】
前記プロトン伝導性高分子が、下記一般式(1a)〜(4a)

(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したプロトン交換基を有する。
Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは直接結合若しくは置換基を有していても良いメチレン基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rは互いに独立に1、2又は3を表す。)から選ばれるプロトン交換基を有する繰り返し単位1種以上と、
下記一般式(1b)〜(4b)


(式中、Ar11〜Ar19は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していても良い2価の芳香族基を表す。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは直接結合若しくは置換基を有していても良いメチレン基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’は互いに独立に1、2又は3を表す。)から選ばれるプロトン交換基を実質的に有さない繰り返し単位1種以上とを有することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項11】
前記プロトン伝導性高分子が、プロトン交換基を有するブロック(A)及び、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなるブロック共重合体である、請求項6乃至10のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項12】
前記高分子電解質膜が、少なくとも2つ以上の相にミクロ相分離した構造を有する、請求項6乃至11のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項13】
前記高分子電解質膜が、前記プロトン伝導性高分子として、プロトン交換基を有するブロック(A)及び、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなるブロック共重合体を含み、且つ、当該プロトン交換基を有するブロック(A)の密度が高い相と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)の密度が高い相を含むミクロ相分離構造を有する、請求項12に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項14】
前記プロトン伝導性高分子が、プロトン交換基を有するブロック(A)と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、プロトン交換基を有するブロック(A)が、下記一般式(4a’)で表される繰返し構造を有し、且つ、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)が下記一般式(1b’)、(2b’)、(3b’)で表される繰返し構造から選ばれる1種以上を有する、請求項6乃至13のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。

(式中、mは5以上の整数を表し、Ar9は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていても良い。Ar9は主鎖を構成する芳香環に直接又は側鎖を介してプロトン交換基を有する。)


(式中、nは5以上の整数を表す。Ar11〜Ar18は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていても良い。その他の符号は、前記一般式(1b)〜(3b)のものと同じである。)
【請求項15】
前記プロトン伝導性高分子が、プロトン交換基を有するブロック(A)と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、プロトン交換基を有するブロックにおいて、プロトン交換基が主鎖芳香族環に直接結合している、請求項6乃至14のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項16】
前記プロトン伝導性高分子が、プロトン交換基を有するブロック(A)と、プロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、プロトン交換基を有するブロック(A)及びプロトン交換基を実質的に有さないブロック(B)が共に、ハロゲン原子を含む置換基を有さないことを特徴とする、請求項6乃至15のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項17】
前記高分子電解質膜は、膜の両面に表面処理が行われていない、請求項17に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項18】
前記高分子電解質膜は、該高分子電解質膜を構成する前記プロトン伝導性高分子を含有する溶液を支持基材上に流延塗布、乾燥して製膜されたものである、請求項1乃至17のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項19】
前記支持基材の流延塗布される表面が金属層又は金属酸化物層を有する、請求項18に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項20】
前記支持基材が連続製膜し得る巻物状の形態からなることを特徴とする、請求項19に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項21】
請求項1乃至20のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体を備える燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−53084(P2008−53084A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228924(P2006−228924)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】