説明

燃料電池用触媒層構造

【課題】触媒粒子の含有量が少ない場合であっても、高電流密度域で酸素不足による性能低下を防ぎ、所望の出力を得ることができる燃料電池用触媒層を得る。
【解決手段】燃料電池用触媒層は、複数の一次粒子を凝集して形成された二次粒子からなる導電性担体と、導電性担体に分散して担持された触媒粒子と、導電性担体および触媒粒子を被覆するアイオノマーとを有する燃料電池用触媒層であって、触媒粒子の粒子量が0.05mg/cmから0.15mg/cmの範囲でかつ、導電性担体の平均二次粒子径が100nmから180nmの範囲でかつ、アイオノマーの被膜厚さが6nmから16nmの範囲である構成を有する。これにより、二次粒子1個当たりの酸素量を減らしてアイオノマーの表面に酸素が集中するのを抑制し、かつ酸素のアイオノマー内における拡散距離を短くして、触媒層における酸素の濃度拡散律速を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒層構造に関し、特に、燃料電池のカソード側の触媒層構造 に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一形態として固体高分子型燃料電池(PEFC)が知られている。固体高分子型燃料電池は、他の形態の燃料電池と比較して作動温度が低く(80℃〜100℃程度)、低コスト、コンパクト化が可能なことから、自動車の動力源等として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、イオン交換膜である固体高分子電解質膜の一方の面にアノード側の触媒層とガス拡散層が積層され、他方の面にカソード側の触媒層とガス拡散層が積層され、燃料ガス流路および空気ガス流路を備えたセパレータで挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池を形成している。
【0004】
触媒層は、触媒粒子を担持した導電性担体と固体高分子電解質とを含む触媒混合物によって形成される。触媒粒子には主に白金系の金属が用いられ、該触媒粒子を担持する導電性担体にはカーボン粒子が主に用いられる。例えば、導電性担体は、一次粒子であるカーボン粒子が複数個凝集した二次粒子によって構成されており、触媒粒子が担持されて、その外周囲をアイオノマーによって被覆された構成を有している(特許文献1を参照)。
【0005】
固体高分子型燃料電池において発電は次のようにして進行する。まず、セパレータの燃料ガス流路からアノード側に燃料ガスが供給されると、その燃料ガスに含まれる水素が触媒粒子により酸化され、プロトンおよび電子となる。次に、生成したプロトンは、アノード側の触媒層の電解質、さらに該触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード側の触媒層に達する。
【0006】
また、アノード側の触媒層で生成した電子は、該触媒層を構成している導電性担体、さらに該触媒層に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側の触媒層に達する。そして、カソード側触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガス(例えば空気)に含まれる酸素と反応し水を生成する。
【0007】
上記した触媒層の触媒粒子として用いられる白金は、希少材料であるために非常に高価であり、燃料電池のコスト削減を阻む要因の一つとなっている。したがって、燃料電池の低コスト化及び有限資源である白金の確保等の観点から、いかに少ない白金使用量で高い発電性能を得るかが重要となってくる。
【0008】
白金使用量を低減する従来方法としては、例えばPt−Cu等の合金化や、触媒粒子の中心に金を使用し外表面をPtで被覆したコアシェルの技術が提案されている。
【0009】
なお、従来のカソード側触媒層における触媒粒子の含有量は、0.4〜0.5mg/cm2程度の範囲内で調整されている(特許文献2を参照)。そして、導電性端体の二次粒子径は、100〜1000nmの範囲内に調整されており(特許文献3を参照)、平均で約550nm程度となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−294594号公報
【特許文献2】特開2009−21049号公報
【特許文献3】特開2002−25560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
燃料電池は、特に高電流密度域では高い反応速度が求められており、かかる場合にカソード側の触媒層ではより多くの酸素が必要とされる。そして、触媒層の二次粒子およびアイオノマーにおける酸素の移動速度は気相および液相よりも遅く、カソード側の触媒層において二次粒子およびアイオノマーが酸素の濃度拡散律速になっている。
【0012】
従来のように、カソード側の触媒層における触媒粒子の含有量が0.4〜0.5mg/cm2程度の範囲内で調整されている場合には、触媒層の層厚も十分に確保できており、二次粒子1個当たりに対して酸素が集中することはなかった。
【0013】
しかしながら、白金の使用量を減らすべく触媒粒子の含有量を、従来よりも大幅に少ない、0.05mg/cm〜0.15mg/cmの範囲にすると、触媒を被覆するアイオノマーの表面に酸素が集中し、酸素の濃度拡散律速により高電流密度域では酸素不足となり、電圧が急激に落ち込むドロップ現象が生じていた。
【0014】
例えば従来のPt−Cu等の合金化による活性向上は、低電流密度領域の電圧値を上昇させるのに効果があるが、上述のような低含有量では高電流密度域において酸素不足となり、所望の出力を得ることができなかった。また、従来のコアシェルを用いる場合、白金使用量は減らすことができるが、コアに金を用いるので、コストを低減することはできなかった。
【0015】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、特にカソード側の触媒層において触媒粒子の含有量が従来に比して格段に少ない構成であっても、高電流密度域で酸素不足による発電性能の低下を抑制できる燃料電池用触媒層構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する本発明の燃料電池用触媒層は、複数の一次粒子を凝集して形成された二次粒子からなる導電性担体と、該導電性担体に分散して担持された触媒粒子と、導電性担体および触媒粒子を被覆するアイオノマーとを有する燃料電池用触媒層であって、触媒粒子の粒子量が0.05mg/cmから0.15mg/cmの範囲でかつ、導電性担体の平均二次粒子径が100nmから180nmの範囲でかつ、アイオノマーの被膜厚さが6nmから16nmの範囲であることを特徴としている(請求項1)。
【0017】
本発明の燃料電池用触媒層によれば、触媒粒子の粒子量を従来よりも少ない量である0.05mg/cmから0.15mg/cmとした場合に、導電性担体の平均二次粒子径を従来よりも小さい大きさである100nmから180nmとすることによって、アイオノマーの表面に吸着・溶解・拡散しようとする二次粒子1個当たりの酸素量を減らすことができ、アイオノマーの表面に酸素が集中するのを抑制できる。
【0018】
そして、アイオノマーの被膜厚さを、従来よりも薄い6nmから16nmの範囲とすることによって、アイオノマーのプロトン伝導性を確保しつつ、アイオノマーに溶着した酸素のアイオノマー内における拡散距離を短くすることができる。したがって、触媒における酸素の濃度拡散律速を緩和することができ、導電性担体に分散して担持されている触媒粒子まで、酸素をより速く到達させることができる。したがって、高電流密度域において酸素不足による電圧の急激な落ち込みを防ぐことができ、所望の出力を得ることができる。
【0019】
本発明の燃料電池用触媒層は、導電性担体の平均一次粒子径が5nmから15nmの範囲であることが好ましい(請求項2)。本発明の燃料電池用触媒層によれば、導電性担体の平均一次粒子径を5nmから15nmの範囲にすることによって、平均二次粒子径が従来よりも小さい大きさである45nmから135nmの範囲の導電性担体を簡単に作成することができる。
【0020】
本発明の燃料電池用触媒層は、触媒の担持密度が15wt%から35wt%の範囲であることが好ましい。本発明の燃料電池用触媒層によれば、触媒粒子の粒子量が同程度の場合に、触媒担持密度を従来よりも低い15wt%から35wt%の範囲にすることによって、触媒層の層厚を分厚くし、触媒粒子をより分散させることができる。したがって、アイオノマーの表面に吸着・溶解・拡散しようとする二次粒子1個当たりの酸素量を減らすことができ、アイオノマーの表面に酸素が集中するのを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アイオノマーの表面に吸着・溶解・拡散しようとする二次粒子1個当たりの酸素量を減らすことができ、アイオノマーの表面に酸素が集中するのを抑制できる。そして、アイオノマーのプロトン伝導性を確保しつつ、アイオノマーに溶着した酸素のアイオノマー内における拡散距離を短くすることができる。
【0022】
したがって、触媒における酸素の濃度拡散律速を緩和することができ、導電性担体に分散して担持されている触媒粒子まで、酸素をより速く到達させることができる。したがって、高電流密度域において酸素不足による電圧の急激な落ち込みを防ぐことができ、所望の出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】燃料電池の構成の一部を模式的に示す図。
【図2】触媒の構造を示す図。
【図3】触媒構造を考慮したアグロメレートモデルを示す図。
【図4】本実施の形態と従来との構成の相違を模式的に示す図。
【図5】二次粒子径に応じたI−V性能の差を示す図。
【図6】I/C比と電流密度との関係を示す図。
【図7】触媒粒子の担持密度と電流密度との関係を示す図。
【図8】触媒担持密度と性能向上率との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本実施の形態について図面を用いて以下に詳細に説明する。
【0025】
図1は、燃料電池の構成の一部を模式的に示す図である。
燃料電池1は、電解質膜2の両面(図1では片面だけ示す)にそれぞれ触媒層3、拡散層4が順番に形成され、両側から一対のセパレータ(図示せず)で挟持して燃料電池1の単セルが構成される。燃料電池1は、この単セルが発電能力に応じた段数だけ積層されて形成される。
【0026】
電解質膜2は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質からなり、例えばパーフルオロスルフォン酸型ポリマーからなる。触媒層3は、電解質膜2の一方の面にカソード触媒層が形成され、他方の面にアノード触媒層が形成される。
【0027】
以下に、本発明の特徴部分であるカソード触媒層3の構造について説明する。なお、アノード触媒層の構造については、従来と同様の公知のものであるのでその詳細な説明を省略する。
【0028】
図1に示すように、カソード触媒層3には、拡散層4から供給される酸素が通過可能なガスポア5が形成されている。
【0029】
図2は、触媒の構造を示す図であり、図2(a)は触媒の構造をモデル式で示す図、図2(b)は触媒の構造をモデル近似して示す図である。
【0030】
カソード触媒層3は、図2(a)にモデル式で示すように、複数の一次粒子11を凝集して形成された二次粒子からなる導電性担体12と、導電性担体12に担持された触媒粒子21と、導電性担体12および触媒粒子21を被覆するアイオノマー31とを備える三次元構造を有している。そして、アイオノマー31の周囲は、液水膜41で覆われた構成を有している。上記のカソード触媒層3の導電性担体12は、図2(a)のモデル式から図2(b)に示すように近似して表すことができる。
【0031】
一次粒子11は、例えばカーボン粒子からなる。触媒粒子21は、白金(Pt)からなり、アイオノマー31はプロトン交換基からなる。アイオノマー31を構成するプロトン交換基は、特に限定されるものではなく、公知の材料を用いることができ、例えば、Nafion(登録商標、デュポン社製)を挙げることができる。
【0032】
図3は、触媒構造を考慮したアグロメレートモデルを示す図である。図3を用いて、カソード触媒層3の内部で生じている現象を説明する。カソード触媒層3では、セパレータによって供給された酸素(O)が、拡散層4を通過してカソード触媒層3のガスポア5(図1を参照)に到達し、アイオノマー31に吸着して溶解し、アイオノマー31中を拡散しながら移動する。そして、導電性担体12に進入して導電性担体12中を拡散しながら移動し、触媒粒子21に到達する。そして、触媒粒子21で反応して水(HO)が生成される。水(HO)は、触媒粒子21からアイオノマー31に進入してアイオノマー31中を移動し、外部に水拡散もしくは水蒸気拡散(ガス拡散)する。
【0033】
図4は、本実施の形態と従来との構成の相異を模式的に示す図である。
【0034】
本実施の形態におけるカソード触媒層は、燃料電池1において、従来よりも少ない白金使用量(0.05mg/cmから0.15mg/cm)でI−V特性を高めることを最重要な項目として挙げており、そのためには、導電性担体12とアイオノマー31における酸素の濃度拡散律速を緩和することが有効な手段の一つである。
【0035】
そこで、本実施の形態におけるカソード触媒層3では、図4に示すように、従来よりも、導電性担体12の平均二次粒子径を小さくする構成とした。具体的には、従来の導電性担体の平均二次粒子径が約550nm程度であったのに対して、100nmから180nmの範囲とする構成とした。
【0036】
一次粒子11が凝集する数はある程度決まっていると言われており、その数を減らすために、インクの状態で超音波ホモジナイザーを用いて粉砕することが導電性担体12の大きさを小さくする手段として挙げられる。しかし、一次粒子11どうしは凝集によって硬く固着していることから、導電性担体12を所定の大きさよりも小さく砕くことは困難である。
【0037】
そこで、本実施の形態では、一次粒子11を小さく砕いて平均一次粒子径を5nmから15nmの範囲とし、その小さく砕いた一次粒子11を凝集させて導電性担体12とすることにより、平均二次粒子径を従来よりも小さな大きさ(45nmから135nmまでの範囲)とすることができる。
【0038】
このように、従来よりも導電性担体12の平均二次粒子径を小さくすることにより、二次粒子1個当たりに吸着される酸素を約4分の1に減らすことができ、アイオノマー31への酸素の集中を抑制することができる(図4を参照)。
【0039】
そして、本実施の形態におけるカソード触媒層3では、従来よりもアイオノマー31の被膜厚さを薄くする構成とした。具体的には、アイオノマー31の被覆厚さを6nmから16nmの範囲とする構成とした。これにより、アイオノマー31のプロトン伝導性を確保しつつ、アイオノマー31に溶着した酸素のアイオノマー31内における拡散距離を短くすることができる。したがって、アイオノマー21における酸素の濃度拡散律速を緩和することができ、導電性担体12に分散して担持されている触媒粒子21まで、酸素をより速く到達させることができる。
【0040】
そして更に、本実施の形態におけるカソード触媒層3では、触媒担持密度を従来よりも小さくする構成とした。具体的には、従来が50wt%であったのに対して、本実施の形態におけるカソード触媒層3では、触媒担持密度を15wt%から35wt%の範囲とする構成とした。なお、触媒担持密度とは、触媒粒子質量/(触媒粒子質量+導電性担体質量)×100(wt%)のことをいう。
【0041】
触媒粒子21の粒子量が同程度の場合に、触媒担持密度を低くすると、触媒層3の層厚が厚くなり、触媒粒子21をより分散させることができる。したがって、アイオノマー31の表面に吸着・溶解・拡散しようとする二次粒子1個当たりの酸素量を減らすことができ、アイオノマー31の表面に酸素が集中するのを抑制できる。
【0042】
本実施の形態におけるカソード触媒層3によれば、触媒粒子21の粒子量を従来よりも少ない量である0.05mg/cmから0.15mg/cmとし、かつ導電性担体12の平均二次粒子径を従来よりも小さい大きさである100nmから180nmの範囲とし、かつアイオノマー31の被膜厚さを、従来よりも薄い6nmから16nmの範囲とすることによって、アイオノマー31の表面に吸着・溶解・拡散しようとする二次粒子1個当たりの酸素量を減らすことができ、アイオノマー31の表面に酸素が集中するのを抑制できる。
【0043】
そして、アイオノマー31のプロトン伝導性を確保しつつ、アイオノマー31に溶着した酸素のアイオノマー31内における拡散距離を短くすることができ、導電性担体12に分散して担持されている触媒粒子まで、酸素をより速く到達させることができる。したがって、導電性担体12およびアイオノマー31の酸素濃度拡散律速を緩和することができ、導電性担体12に分散して担持されている触媒粒子21まで、酸素をより速く到達させることができる。
【0044】
また、本実施の形態におけるカソード触媒層3によれば、更に、触媒担持密度を従来よりも低い15wt%から35wt%の範囲としたので、触媒層3の層厚を厚くして、触媒粒子21をより分散させることができる。したがって、アイオノマー31の表面に吸着・溶解・拡散しようとする二次粒子1個当たりの酸素量を更に減らすことができ、アイオノマー31の表面に酸素が集中するのを抑制できる。
【0045】
したがって、本実施の形態におけるカソード触媒層3を燃料電池1に用いた場合に、高電流密度域において酸素不足による電圧の急激な落ち込みを防ぐことができ、低電流密度域から高電流密度域まで所望の十分な出力を得ることができる。
【0046】
なお、上述の実施の形態では、カソード触媒層3の触媒担持密度を15wt%から35wt%の範囲とした場合を例に説明したが、触媒担持密度の条件は必須ではない。上記条件とすることによってアイオノマー31への酸素の集中を更に抑制できる例を示したものであり、触媒担持密度は従来の50wt%でもよい。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例における(1)粒子径、(2)触媒粒子の粒子量、(3)アイオノマーの被覆厚さ、(4)触媒担持密度の各測定方法は下記の通りである。
【0048】
(1)粒子径の測定
・二次粒子径の測定は、導電性担体であるカーボン粒子に触媒粒子である白金(Pt)を担持させてその周りをアイオノマーで包み込んだ触媒層の状態(カーボン粒子+Pt+アイオノマー)を直接観察するか、もしくは、間接的に算出することに行われる。
【0049】
直接観察には、(a)三次元TEM(透過型電子顕微鏡)で確認する方法と、(b)断面を切断して切断面を観察する方法と、(c)薬品で染色してSEM(走査型電子顕微鏡)で表面を観察する方法がある。間接的に算出する方法は、窒素吸着法で触媒層の表面積を測定し、その測定値から球の直径を算出する。球は、I/C比(アイオノマーの質量とカーボン粒子との重量比)が1.5という導電性担体12の周りをアイオノマー31で十分に包んだ状態をいう。間接的に算出する方法では、約200〜300nmという測定結果が得られている。
【0050】
・一次粒子径の測定は、導電性担体であるカーボン粒子に触媒粒子である白金(Pt)を担持させた白金担持カーボンの状態(カーボン粒子+Pt)をTEMもしくはSEMで直接観察することに行われる。この直接観察する方法では、約30〜50nmという測定結果が得られている。
【0051】
(2)触媒粒子の粒子量の測定
触媒粒子である白金(Pt)の粒子量(mg/cm)を測定する場合は、まず、テフロン(登録商標)製のシートの上に転写法で触媒層を作成し、任意のサイズにカット(例えば3.6cm×3.6cm)して、試料を作成する。
【0052】
そして、同じ大きさのシートの重量を測定し、試料の重量(シート+触媒層)からシートの重量を差し引いて触媒層の重量を算出する。Pt/C/アイオノマーの比率は、予めわかっているので、触媒層の重量から触媒粒子の粒子量(mg/cm)を算出することができる。
【0053】
(3)アイオノマーの被覆厚さの測定
a)触媒層厚さ方向に対してカーボン粒子(一次粒子)1個分を1層として何層あるかを求める。
【0054】
触媒層厚さ/カーボン粒子の直径
=11E−6[m]/(2×15E−9[m])
=366.67[層]
【0055】
b)1cmの1層あたり何個のカーボン粒子があるかを求める。
【0056】
(1E−2/(2×15E−9))
=1.11E11[個]
【0057】
c)カーボン粒子の全表面積を求める。
【0058】
366.67×1.11E11×4π×(15E−9)
=0.115078[m
【0059】
d)カーボン粒子の体積を求める。
【0060】
4/3×π×(15E−9)×366.67×1.11E11
=5.75388E−10[m
【0061】
e)カーボン粒子とアイオノマーの比重は同じなので、アイオノマーの重量/カーボン粒子の重量=アイオノマーの体積/カーボン粒子の体積である。I/C比が1.1の場合にアイオノマー体積を算出すると、
5.75388E−10×1.1=6.3292E−10[m
となる。
【0062】
アイオノマーの平均厚さは、
平均厚さ=アイオノマー体積/カーボン表面積
=6.32927E−10/(α×0.115078)
であると算出される。
【0063】
ここで、αは、カーボン表面積の何%にアイオノマーが付着するかを示す付着面積率であり、経験的に0.2〜0.7となることがわかっている。例えば、α=0.3の場合は、アイオノマーの平均厚さは、18.3nmとなる。
【0064】
I/C比を何種類か変更した触媒層(例えば0.45と1.25)で触媒層断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、0.45では厚さが薄く、1.25では厚さが厚くなり、平均細孔径から厚さ分だけ径が小さくなっていることが確認できた。触媒層のI/C比が0.45では平均細孔径大、1.25では平均細孔径小となった。そこから考えると、上記の製造方法で作成した触媒層のアイオノマーは、カーボン粒子のアグロメレート構造間の細孔内部にほぼ均一に付着しているといえる。
【0065】
(4)触媒担持密度の測定方法
白金を担持したカーボンの状態(粉の状態)で成分分析を行うことで、カーボン、Ptの比率がわかる(カーボン:**%、白金:**%)。また、Co等の合金が入っている場合でも、成分分析によって比率が明確になる。
【0066】
担持密度の測定方法としては、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)を用いた方法が挙げられる。例えば、PerkinElmer社製等のICP-AES装置では、石英ガラス製の放電管(トーチ)に巻き付けた誘導コイルに高周波電流を流すことで誘導電場を発生させ、そこにアルゴンガスを導入してプラズマ状態とする。ネブライザなどで霧状にした溶液試料(通常は水溶液)をアルゴンプラズマ中に導入すると、溶液中に存在していた金属元素、半金属元素は、6000℃〜7000℃の熱で原子化されるとともに励起される。その後、基底状態に戻るときに各元素固有の波長の光を放出する。この発光線を検出することにより、波長から定性分析を行うことができ、そして、発光強度から定量分析を行うことができる。
【0067】
特徴としては、多元素同時分析、逐次分析が可能であり、検量線の直線範囲が広いことが挙げられる。すなわち、ダイナミックレンジが非常に広く、主成分から極微量成分まで分析を行うことができる。また、化学的干渉やイオン化干渉が少なく、高マトリックス試料の分析も可能である。したがって、他の多くの分析法ではマトリックス組成の違いによる影響を受けるのに対して、ICP-AESでは、その影響がないことから、多成分系の分析に適しているといえる。
【0068】
また、簡易的な測定方法としては、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)を用いた方法が挙げられる。この方法は電子を当てたときに出てくる特性X線を見て、元素分析を行うものである。EDXは、SEMとTEMに付属しているので、測定が簡便にできるという利点を有している。EDXのPt、C等の含有量を分析する定量分析や元素マッピング(面内、断面)などで、比率がわかる(装置メーカ:オックスフォード・インストゥルメンツ社、日立ハイテクノロジーズ社製)。また、特性X線を分析する測定方法として、EPMA(電子線プローブ微少部分分析法)があり、含有量を分析する定量分析や元素マッピングを行うことができる。
【0069】
<実験1>
図5は、平均二次粒子径に応じたI−V性能の差を示す図である。
【0070】
実験1では、カソード触媒層3の導電性担体12の平均二次粒子径が異なる複数種類の燃料電池を用意し、一定の運転条件で運転を行い、平均二次粒子径に応じたI−V性能の差について調べた。
【0071】
実施例1は、導電性担体12の平均二次粒子径が120nmのものを用意し、実施例2では150nm、実施例3では180nmのものを用意し、比較例1では、270nmのものを用意した。そして、実施例1〜3、比較例1のいずれも、カソード触媒層3の触媒粒子21の粒子量が0.1mg/cmのものを用意した。そして、燃料電池の運転条件は、ストイキを1.2/1.5(水素/酸素)、背圧を40kPa、セル温度を70℃、バブラー温度を45/53℃(アノード/カソード)として設定して実験を行った。
【0072】
その結果、実施例1〜3は、高電流密度域で電圧が急激に落ち込むことなく、低電流密度域から高電流密度域まで高い電圧を得ることができた。一方、平均二次粒子径が270nmである比較例1は、高電流密度域で急激に電圧が落ち込む結果となった。
【0073】
実験1によれば、触媒粒子21の粒子量を従来よりも少ない量である0.05mg/cmから0.15mg/cmとした場合に、導電性担体12の平均二次粒子径を従来の550nmよりも小さい大きさである100nmから180nmとすることによって、アイオノマー31の表面に吸着・溶解・拡散しようとする二次粒子1個当たりの酸素量を減らすことができ、アイオノマー31の表面に酸素が集中するのを抑制できることが実証された。
【0074】
<実験2>
図6は、I/C比と電流密度との関係を示す図である。
【0075】
実験2では、触媒粒子の粒子量が0.05mg/cmから0.15mg/cmの範囲でかつ、導電性担体の平均二次粒子径が100nmから180nmの範囲でかつ、カソード触媒層3における触媒粒子21の担持密度が20wt%であって、I/C比が異なる複数種類の燃料電池1を用意し、一定の運転条件で運転を行い、I/C比と電流密度との関係を調べた。燃料電池1の運転条件は、ストイキを(1.2/1.5)@1A/cm、セル温度を70℃、バブラー温度を0/0℃に設定して実験を行った。
【0076】
その結果、図6に示すように、I/C比が0.5から1.0の範囲である場合に、高い電流密度を得ることができた。I/C比が0.5のときアイオノマー31の被覆厚さは6nmであり、I/C比が1.0のときアイオノマー31の被覆厚さは16nmであった。
【0077】
そして、I/C比が1.0以上では、アイオノマー31における酸素の拡散抵抗が大きく、高電流密度域でアイオノマー31の表面に酸素が集中して、酸素の濃度拡散律速により酸素不足が発生していた。また、I/C比が0.5以下では、プロトン移動抵抗が大きくなってしまい、プロトン伝導性を確保することが困難であった。
【0078】
本実験によれば、触媒粒子の粒子量が0.05mg/cmから0.15mg/cmの範囲でかつ、導電性担体の平均二次粒子径が100nmから180nmの範囲でかつ、カソード触媒層3における触媒粒子21の担持密度が20wt%である場合に、アイオノマー31の被覆厚さを従来よりも薄い6nmから16nmの範囲とすることによって、アイオノマー31のプロトン伝導性を確保しつつ、アイオノマー31に溶着した酸素のアイオノマー31内における拡散距離を短くすることができ、導電性担体12に分散して担持されている触媒粒子21に酸素を早く到達させることができ、アイオノマー31における酸素の濃度拡散律速を緩和できることが実証された。
【0079】
<実験3>
図7は、触媒粒子の担持密度と電流密度との関係を示す図、図8は、触媒担持密度と性能向上率との関係を示す図である。
【0080】
実験3では、触媒粒子21の粒子量が0.05mg/cmから0.15mg/cmの範囲でかつ、導電性担体12の平均二次粒子径が100nmから180nmの範囲でかつ、アイオノマー31の被膜厚さが6nmから16nmの範囲であって、更に、カソード触媒層における触媒粒子21の担持密度がそれぞれ異なる複数種類の燃料電池1を用意し、一定の運転条件で運転を行い、各電流密度を測定した。
【0081】
カソード触媒層3には、I/C比が0.75に設定されたものが用いられ、燃料電池1の運転条件は、ストイキを(1.2/1.5)@1A/cm、セル温度を70℃、バブラー温度を0/0℃に設定して実験を行った。
【0082】
その結果、図7に示すように、触媒担持密度が15wt%から35wt%の範囲において、高い電流密度を得ることができた。一方、触媒担持密度が35wt%以上では、高電流密度域でアイオノマー31の表面に酸素が集中して、酸素の濃度拡散律速により酸素不足が発生した。また、触媒担持密度が15wt%以下では、プロトン移動抵抗が大きくなってしまい、プロトン伝導性を確保することが困難であった。
【0083】
例えば、図8に示すように、カソード触媒層3の触媒粒子21の粒子量が0.1mg/cmで触媒担持密度が従来の50wt%である燃料電池1と、触媒粒子21の粒子量が同量の0.1mg/cmで触媒担持密度が従来よりも低い20wt%である燃料電池1とを比較した場合に、担持密度の低い方が発電性能の性能向上率が増大している。
【0084】
そして、触媒粒子21の粒子量が0.1mg/cmで触媒担持密度が20wt%の燃料電池1は、触媒粒子21の粒子量が0.4mg/cmで触媒担持密度が50wt%の燃料電池とほぼ同等の発電性能を得ることが実証された。
【0085】
すなわち、触媒粒子21の粒子量が同程度の場合に、触媒担持密度を従来の50wt%よりも小さい15wt%から35wt%にすると、カソード触媒層3の層厚が厚くなり、触媒粒子21が分散されて、二次粒子1個当たりの反応量も小さくなり、発電性能が向上することが実証された。
【符号の説明】
【0086】
1 燃料電池
2 電解質膜
3 カソード触媒層
4 拡散層
5 ガスポア
11 一次粒子(カーボン粒子)
12 導電性担体(二次粒子)
21 触媒粒子
31 アイオノマー
41 液水膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子を凝集して形成された二次粒子からなる導電性担体と、該導電性担体に分散して担持された触媒粒子と、前記導電性担体および前記触媒粒子を被覆するアイオノマーとを有する燃料電池用触媒層であって、
前記触媒粒子の粒子量が0.05mg/cmから0.15mg/cmの範囲でかつ、
前記導電性担体の平均二次粒子径が100nmから180nmの範囲でかつ、
前記アイオノマーの被膜厚さが6nmから16nmの範囲であることを特徴とする燃料電池用触媒層。
【請求項2】
前記導電性担体の平均一次粒子径が5nmから15nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項3】
前記触媒粒子の担持密度が15wt%から35wt%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−159586(P2011−159586A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22397(P2010−22397)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】