説明

燃料電池用電極の製造装置

【課題】発電性能が高く、かつ個体毎のバラツキが小さな電極を容易に製造可能にする燃料電池用電極の製造装置を提供する。
【解決手段】製造装置は、貯留タンク3と、第1ノズル5と、N2ガスが充填されたボンベ7と、第1電気ヒータ9と、作業テーブル11と、制御装置13とを備えている。第1電気ヒータ9は加圧ガス加熱手段である。また、この製造装置は、第1電動ポンプP1、第1圧力調整弁V1及び配管15、29を供給手段として有している。貯留タンク3には、触媒層を構成するペースト30が貯留されている。制御装置13は、第1電動ポンプP1、第1圧力調整弁V1及び第1電気ヒータ9を制御することで、第1ノズル5から噴霧されるペースト30の粒子径、ペースト30の噴霧量及び第1ノズル5に供給されるN2ガスの温度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のカソード極やアノード極といった電極は、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の導電性及びガス透過性のある基材と、この基材の一面に形成された触媒層とを有している。これらカソード極やアノード極の各触媒層が電解質層の一面及び他面にそれぞれ接合されることにより、膜電極接合体(MEA)が形成される。
【0003】
触媒層は、触媒と高分子電解質と溶媒とを含むペーストが基材の一面側に塗布されることにより形成される。触媒は、カーボンブラック等の導電性のある担体に白金(Pt)等の触媒金属微粒子を担持させてなる。また、同文献に示されるように、ペーストは、触媒と高分子電解質とを含有する触媒ペーストと、保水材と高分子電解質とを含有する保水材ペーストとを混合することによって得られる場合もある。上記の基材に対し、これらのペーストの塗布や噴霧等を行うことで触媒層を形成し、その基材上の触媒層が乾燥することで電極が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−174765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電極については、より優れた発電性能を発揮することが求められる。また、大量に電極を製造するに当たっては、個体毎における発電性能のバラツキは可及的に小さく抑えることが求められる。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、発電性能が高く、かつ個体毎のバラツキが小さい電極を容易に製造することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料電池用電極の製造装置は、触媒層を構成するペーストを貯留する貯留タンクと、
該貯留タンクと接続され、加圧ガスによって該ペーストを基材に対して噴霧可能な2流体ノズルと、
該2流体ノズルに該ペースト及び該加圧ガスをそれぞれ圧力調整して供給可能な供給手段と、
該2流体ノズルから該ペーストとともに噴射される該加圧ガスを加熱可能な加圧ガス加熱手段と、
前記供給手段及び前記加圧ガス加熱手段の少なくとも一方を制御して前記2流体ノズルから噴霧される前記ペーストの性状を調整可能な制御手段とを備えていることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明の発明者は、より高い発電性能を発揮し得る電極を発明するにあたり、触媒層中のペーストの性状に着目した。触媒層中のペーストの性状とは、例えば、噴霧中のペーストの粒子径や、これによって構成される触媒層における細孔構造の他、基材上に形成された被覆状態等を指す。例えば、触媒層に細孔構造が好適に形成されれば、電極は、電気化学反応時にガスや水の透過性が向上し、結果として発電性能が高くなると考えられるからである。
【0009】
本発明の製造装置によれば、制御手段が2流体ノズルに供給されるペースト及び加圧ガスの各圧力の調整を行うことで、噴霧されるペーストの粒子径の調整が可能となる他、ペーストの噴霧量の調整も可能である。また、この製造装置では、2流体ノズルに供給される加圧ガスの温度を調整することで、噴霧されるペーストの温度調整も可能である。そして、粒子径や噴霧量の調整が行われたペーストによれば、触媒層における細孔構造が好適に形成され、触媒層が好適な状態となる。また、ペーストとともに噴霧される加圧ガスの温度を変化させることで、基材上の触媒層の乾燥条件を好適な状態とし、触媒層が好適な状態となる。この際、この製造装置では、噴霧されるペースト自体の温度も触媒層の乾燥条件に適合する。
【0010】
さらに、この製造装置によれば、制御手段がペーストの性状を安定して調整可能であることから、電極を大量に生産した場合であっても、個体毎のバラツキが生じ難い。
【0011】
したがって、本発明の製造装置によれば、発電性能が高く、かつ個体毎のバラツキが小さい電極を容易に製造可能である。
【0012】
2流体ノズルは基材に対して走査可能に構成されても良い。ペーストは、特性が異なる複数のペーストを混合することによって得られたものでも良い。また、基材を加熱する手段を設けても良い。
【0013】
2流体ノズルが複数ある場合、制御手段は、各2流体ノズルから噴霧されるペーストの性状を調整可能であることが好ましい(請求項2)。この場合には、複数の2流体ノズルからそれぞれ噴霧されるペーストの粒子径や噴霧量の他、加圧ガスの温度を変更することで、面内又は厚み内で異なる特性を有する触媒層、すなわち傾斜構造を有する触媒層を製造することが可能である。
【0014】
本発明の製造装置は、2流体ノズルから噴霧されたペーストの粒子径を測定可能な粒子径測定手段を備え得る。そして、制御手段は粒子径測定手段が測定した粒子径に基づいて制御を行うことが好ましい(請求項3)。この場合には、実際に2流体ノズルから噴霧されるペーストの粒子径に基づいて、加圧ガスの温度調整等が可能となる。このため、この製造装置では、より発電性能が高い電極を得ることが可能となる。
【0015】
制御手段は、加圧ガスの温度を55〜75°Cに調整することが好ましい。発明者の実験により、加圧ガスの温度をこれらの温度範囲に調整した状態で触媒層を形成することで、発電性能の高い電極を得ることができることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の製造装置を示す模式構造図である。
【図2】実施例1の製造装置に係り、ペーストの噴霧状態等を示す拡大断面図である。
【図3】実験例1に係り、N2ガスの温度とMEAにおける抵抗値の変化との関係を示すグラフである。
【図4】実験例2に係り、N2ガスの温度とMEAにおける電圧の変化との関係を示すグラフである。
【図5】実験例3に係り、電流の変化と電圧の変化との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2の製造装置を示す模式構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施例1、2及び実験例1〜3を図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(実施例1)
実施例1の製造装置は、図1に示すように、貯留タンク3と、第1ノズル5と、ボンベ7と、第1電気ヒータ9と、作業テーブル11と、制御装置13とを備えている。なお、第1ノズル5は2流体ノズルである。
【0019】
貯留タンク3にはペースト30が貯留されている。このペースト30は、図2に示すように、触媒90と高分子電解質91とを含有している。触媒90は、カーボンブラックからなる担体92に対し、Ptからなる触媒金属微粒子93が担持密度50wt%で担持されて得られている。この触媒ペースト30は、50gの触媒90に対し、水500gと、5重量%の高分子電解質91の水溶液500gと、エタノール500とを加え、自転/公転式遠心攪拌機(キーエンス社製、商品名「ハイブリッドミキサーHM−500」)により撹拌及び脱泡を行うことによって得られている。この触媒ペースト30では、触媒90の周囲に高分子電解質91による層が形成されている。
【0020】
第1ノズル5は、図1に示すように、流入口5a、5bを有している。流入口5aには配管15の一端側が接続されている。配管15の他端側は貯留タンク3と接続されている。配管15には、第1電動ポンプP1と第1ペースト圧力センサ19とが設けられている。第1電動ポンプP1及び第1ペースト圧力センサ19は、それぞれ回路21、23を介して制御装置13と電気的に接続されている。第1ペースト圧力センサ19は、配管15内を流通するペースト30の圧力を検知し、制御装置13に向けて第1ペースト圧力検知信号を送信可能になっている。
【0021】
また、第1ノズル5には、公知のモータ25a等で構成される第1ノズル走査手段25が設けられている。モータ25aは、回路27を介して制御装置13と電気的に接続されている。
【0022】
ボンベ7には、高圧のN2ガスが充填されている。ボンベ7は、配管29を介して第1ノズル5の流入口5bと接続している。配管29には公知の第1圧力調整弁V1と第1ガス圧力センサ31とが設けられている。第1圧力調整弁V1及び第1ガス圧力センサ31は、それぞれ回路33、35を介して制御装置13と電気的に接続されている。第1ガス圧力センサ31は、配管29内を流通するN2ガスの圧力を検知し、制御装置13に向けて第1ガス圧力検知信号を送信可能になっている。なお、第1電動ポンプP1、第1圧力調整弁V1及び配管15、29が供給手段に相当する。
【0023】
さらに、配管29には加熱室37が設けられている。加熱室37内には公知の第1電気ヒータ9が設けられている。第1電気ヒータ9は、加熱室37内に延びる配管29を加熱することで、配管29内のN2ガスを間接的に加熱可能になっている。また、加熱室37には、第1ヒータコントローラ39及び第1ガス温度センサ41が設けられている。第1ヒータコントローラ39及びガス温度センサ41は、それぞれ回路43、45を介して制御装置13と電気的に接続されている。第1ヒータコントローラ39は、第1電気ヒータ9とも電気的に接続されている。
【0024】
第1ヒータコントローラ39は第1電気ヒータ9の出力制御を行い、配管29内のN2ガスを任意の温度に加熱させる。また、第1ガス温度センサ41は、配管29内を流通するN2ガスの温度を検知し、制御装置13に向けて第1ガス温度検知信号を送信可能になっている。なお、第1電気ヒータ9及び第1ヒータコントローラ39が加圧ガス加熱手段に相当する。
【0025】
作業テーブル11には、上面70a側を第1ノズル5の方向に向けた状態で基材70が設置されるようになっている。この基材70は、公知のカーボンペーパーを公知の方法で加工することにより得られている。なお、公知の高分子電解質膜を基材70として採用することも可能である。
【0026】
また、作業テーブル11は、一つの基材70のみを設置可能に構成されても良く、複数の基材70を設置可能に構成されても良い。また、基材70を供給するローラ等を設け、作業テーブル13に基材70が順次設置されるように構成しても良い。
【0027】
作業テーブル11内には公知の第2電気ヒータ47が設けられている。第2電気ヒータ47は、作業テーブル11内で発熱することで、作業テーブル11に設置された基材70を間接的に加熱可能になっている。また、作業テーブル11には、第2ヒータコントローラ49及び基材温度センサ51が設けられている。第2ヒータコントローラ49及び基材温度センサ51は、それぞれ回路53、55を介して制御装置13と電気的に接続されている。第2ヒータコントローラ49は第2電気ヒータ47とも電気的に接続されている。
【0028】
第2ヒータコントローラ49は第2電気ヒータ47の出力制御を行い、第2電気ヒータ47を所定の温度で発熱させることが可能になっている。また、基材温度センサ51は、作業テーブル11の温度を基に、基材70の温度を検知し、制御装置13に向けて基材温度検知信号を送信可能になっている。
【0029】
2流体ノズル5と作業テーブル11との間には、ペースト温度センサ57と、レーザ測定装置59とが配置されている。ペースト温度センサ57及びレーザ測定装置59は、それぞれ回路61、63を介して制御装置13と電気的に接続されている。ペースト温度センサ57は、第1ノズル5から噴霧されるペースト30の温度を検知し、制御装置13に向けてペースト温度検知信号を送信可能になっている。なお、検知されたペースト温度は、ガス温度センサ41で検知される温度の代わりに第1ヒータコントローラ39の制御に用いてもよい。
【0030】
レーザ測定装置59は、LED(Light Emitting Diode)等で構成された公知のレーザ照射装置59aを有している。レーザ照射装置59aは、第1ノズル5から噴霧されたペースト30に向けてレーザを照射する。レーザ測定装置59は、照射されたレーザの反射光を基に噴霧されたペースト30の粒子径を測定可能になっている。レーザ測定装置59は、測定したペースト30の粒子径に基づき、制御装置13に向けて粒子径検知信号を送信可能になっている。なお、レーザ測定装置59が粒子径測定手段に相当する。
【0031】
制御手段としての制御装置13は、粒子径検知信号、ペースト温度検知信号及び第1ペースト圧力検知信号に基づき、第1電動ポンプP1の作動制御を行い、第1ノズル5に供給されるペースト30の供給圧力の制御を行う。同様に、制御装置13は、粒子径検知信号、ペースト温度検知信号及び第1ガス圧力検知信号に基づいて、第1圧力調整弁V1の開度を調整し、第1ノズル5に対するN2ガスの供給圧力を制御する。さらに、制御装置13は、粒子径検知信号、ペースト温度検知信号及び第1ガス温度検知信号に基づく第1ヒータ制御信号の送信を行うことで、第1ヒータコントローラ39の制御を行う。
【0032】
これらの第1電動ポンプP1の制御と第1圧力調整弁V1の制御と、第1ヒータコントローラ39の制御により、制御装置13は、第1ノズル5から噴霧されるペースト30の粒子径と噴霧量と、第1ノズル5に供給されるN2ガスの温度とを制御する。また、制御装置13は、基材温度検知信号に基づく第2ヒータ制御信号の送信を行うことで、第2ヒータコントローラ49の制御を行う。
【0033】
さらに、制御装置13は、モータ25aを作動させることで、第1ノズル5について、図1中の実線矢印で示すように、基材70に対して水平方向で相対的に走査させる。この際、制御装置13は、第1ノズル5の走査量の制御も同時に行う。
【0034】
以上のように構成されたこの製造装置によれば、図2に示すように、基材70に対し、ペースト30噴霧することにより、基材70の一面70aに触媒層71を形成し、電極80を得ることができる。
【0035】
この製造装置では、第1ノズル5に供給されるペースト30及びN2ガスの各圧力の調整を行うことで、噴霧されるペースト30の粒子径及びペーストの噴霧量の調整を行う。また同時に、噴霧されるペースト30の温度調整も行う。この際、この製造装置では、粒子径検知信号、ペースト温度検知信号により、第1ノズル5から実際に噴霧されているペースト30の粒子径、噴霧量及び温度を検知し、適宜、第1ノズル5に供給されるペースト30及びN2ガスの供給圧力やN2ガスの温度を調整する。
【0036】
上記のように、第1ノズル5に供給されるペースト30及びN2ガスの各供給圧力を制御することにより、噴霧されるペースト30の粒子径や噴霧量を容易に変更することが可能である。この製造装置では、上記のように、制御装置13が第1ペースト圧力検知信号等に基づいて、第1電動ポンプP1を制御し、供給圧力を0.2MPaに調整した状態で第1ノズル5にペースト30を供給させる(図2中の黒色矢印参照)。このように、粒子径や噴霧量の調整が行われたペースト30によれば、触媒層71における細孔構造が好適に形成され、触媒層71が好適な状態となる。
【0037】
一方で、上記の好適な触媒層71を得るには、触媒層71の乾燥条件も高い精度で制御することが必要となる。特に、ペースト30の粒子径が小さくなるほど乾燥条件に適合する温度の範囲が狭くなり、より高い精度でペースト30の温度制御も必要となる。
【0038】
この点についても、この製造装置では、制御装置13及び第1ヒータコントローラ39が第1ガス圧力検知信号及び第1ガス温度検知信号に基づいて、第1圧力調整弁V1及び第1電気ヒータ9を制御する。これにより、第1圧力調整弁V1はN2ガスの供給圧力を0.3MPaに調整し、また、第1電気ヒータ9は、N2ガスの温度を所望する温度に加熱した状態で第1ノズル5にN2ガスを供給する(同図中の白色矢印参照)。このように、ペースト30とともに噴霧されるN2ガスの温度を変化させることで、この製造装置では、噴霧されるペースト30自体の温度も触媒層71の乾燥条件に適合させることが可能となっている。
【0039】
これらにより、この製造装置では、基材70上の触媒層71の乾燥条件を好適な状態とすることが可能となっており、これによって得られた触媒層71が好適な状態となる。
【0040】
さらに、この製造装置によれば、上記のように、制御装置15がペースト30の粒子径等を安定して調整可能であることから、電極80を大量に生産した場合であっても、個体毎のバラツキを生じさせ難くなっている。
【0041】
したがって、本発明の製造装置によれば、発電性能が高く、かつ個体毎のバラツキが小さい電極を容易に製造可能である。
【0042】
特に、この製造装置では、基材70に対し、第1ノズル5が相対的に走査可能である。このため、この製造装置によれば、基材70の上面70aにペースト30を均一に分散し易くなるとともに、触媒層71の厚みを均一にし易くなっている。また、この製造装置では、第2電気ヒータ47を所定の温度で発熱させることにより、作業テーブル11上の基材70も同時に加熱させるため、触媒層71の乾燥条件により適合させ易くなっている。これらにより、この製造装置によれば、より安定的に高性能の電極80を製造することが可能となっている。
【0043】
{検証}
触媒層71の乾燥条件の相違による電極80の発電性能の相違を検証するため、6種類のセル(以下、試料1〜6のセルという。)による比較実験を行った。試料1〜6のセルが備えているMEA(以下、試料1〜6のMEAという。)は、それぞれ以下の方法で得られている。なお、各セルの構成及び製造方法は公知のセルの構成及び製造方法と同様である。
【0044】
試料1のMEAを得るに当たっては、まず、上記の製造装置において、N2ガスの温度が55°Cに設定された状態で得られた電極をカソード極として用意した。一方、上記の製造装置において、N2ガスの温度が65°Cに設定された状態で得られた電極をアノード極として用意した。そして、公知の固体高分子電解質膜をカソード極とアノード極とで挟持した状態で、温度140°C、圧力40kgf/cm2でホットプレスすることでこれらを接合し、試料1のMEAを得た。
【0045】
試料2のMEAを得るに当たっては、上記の製造装置において、N2ガスの温度が60°Cに設定された状態で得られた電極をカソード極として用意した。アノード極は試料1と同様である。そして、試料1のMEAと同じ条件で、これらのカソード極、アノード極及び固体高分子電解質膜を接合し、試料2のMEAを得た。
【0046】
試料3のMEAを得るに当たっては、上記の製造装置において、N2ガスの温度が65°Cに設定された状態で得られた電極をカソード極として用意した。アノード極は試料1と同様である。つまり、カソード極とアノード極とが同質である。そして、試料1のMEAと同じ条件で、これらのカソード極、アノード極及び固体高分子電解質膜を接合し、試料3のMEAを得た。
【0047】
試料4のMEAを得るに当たっては、上記の製造装置において、N2ガスの温度が70°Cに設定された状態で得られた電極をカソード極として用意した。アノード極は試料1と同様である。そして、試料1のMEAと同じ条件で、これらのカソード極、アノード極及び固体高分子電解質膜を接合し、試料4のMEAを得た。
【0048】
試料5のMEAを得るに当たっては、上記の製造装置において、N2ガスの温度が75°Cに設定された状態で得られた電極をカソード極として用意した。アノード極は試料1と同様である。そして、試料1のMEAと同じ条件で、これらのカソード極、アノード極及び固体高分子電解質膜を接合し、試料5のMEAを得た。
【0049】
試料6のMEAを得るに当たっては、上記の製造装置において、N2ガスの温度が50°Cに設定された状態で得られた電極をカソード極として用意した。アノード極は試料1と同様である。そして、試料1のMEAと同じ条件で、これらのカソード極、アノード極及び固体高分子電解質膜を接合し、試料6のMEAを得た。
【0050】
〈実験例1〉
これら各MEAを備えた各セルを温度50°Cに加熱し、加湿装置の温度50°C、カソード極及びアノード極が常圧の測定環境の下、インピーダンス測定を行い、カソード極における触媒層の抵抗値を測定した。実験結果を図3に示す。
【0051】
図3のグラフが示すように、各セル共に比較的良好な低い抵抗値を示しており、とりわけ、試料1〜4のセルは試料5、6のセルと比較して、触媒層の抵抗値が低い値を示しており、発電性能がより高いことが判明した。
【0052】
〈実験例2〉
次に、上記の各セルを温度90°Cに加熱し、加湿装置の温度60°C、カソード極及びアノード極を100kPaに加圧した低加湿測定環境の下、各セルに電流を印加して各セルの低加湿発電評価を行った。実験結果を図4に示す。
【0053】
図4のグラフでは、各セルが1.6A/cm2で発電した場合における各セルの電圧値を示している。同図が示すように、各セル共に比較的良好な高い電圧値を示しており、とりわけ、試料1〜5のセルは高い電圧値を示しており、電圧特性がより高いことが判明した。
【0054】
〈実験例3〉
次に、低加湿の条件下において、特に高い発電性能を示した試料3のセル及び試料4のセルについて、高加湿発電評価を行った。この実験では、各セルを温度50°Cに加熱し、加湿装置の温度50°C、カソード極及びアノード極を常圧とした高加湿測定環境の下、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。実験結果を図5に示す。
【0055】
図5のグラフが示すように、各セル共に電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さく、高性能であることが判明した。これらのセルの電極では、発電時におけるフラッディングが効果的に抑制されているものと考えられる。特に、試料4のセルは、電流の変化に対する電圧の変化の度合いがより小さいことから、より好適にフラッディングが抑制された結果、より高電圧領域において高性能となることが示されている。
【0056】
上記の実験例1〜3により、N2ガスの温度の変更による乾燥条件の相違と、それによる電極80の発電性能の相違とについて、以下の点が明らかとなった。すなわち、電極80を得る際、N2ガスの加熱温度を制御し、基材70上に形成された触媒層71の乾燥条件を制御することで、触媒層71中のペースト30の性状を変化させることが可能であることが判明した。つまり、触媒層71の乾燥条件を制御することで、発電時における触媒層71の抵抗値を低減させることができる等、発電性能の高い電極80を得ることができる。
【0057】
これらの各実験1〜3により、特に、N2ガスの加熱温度を55〜75°C程度に調整することで、発電時における触媒層71の抵抗値をより低減させることができることが判明した。また、この温度範囲に調整することで、電極80では、触媒層71の保水性が向上し、低加湿時における電圧特性がより高くなるとともに、高加湿時における排水性も向上し、高湿度条件下における電圧特性もより高くなり、結果として、電極80の発電性能がより高くなることが判明した。
【0058】
(実施例2)
実施例2の製造装置は、実施例1の製造装置の構成に加えて、図6に示すように、第2ノズル6と第3電気ヒータ10とを備えている。なお、第2ノズル6も第1ノズル5と同様2流体ノズルである。
【0059】
第2ノズル6は、流入口6a、6bを有している。流入口6aには配管16の一端側が接続されている。配管16の他端側は貯留タンク3と接続されている。配管16には、第2電動ポンプP2と第2ペースト圧力センサ20とが設けられている。第2電動ポンプP2は、回路21と接続された回路22を介して制御装置13と電気的に接続されている。第2ペースト圧力センサ20は、回路23と接続された回路24を介して制御装置13と電気的に接続されている。第2ペースト圧力センサ20は、配管16内を流通するペースト30の圧力を検知し、制御装置13に向けて第2ペースト圧力検知信号を送信可能になっている。
【0060】
また、第2ノズル6には、公知のモータ26a等で構成される第2ノズル走査手段26が設けられている。モータ26aは、回路27と接続された回路28を介して制御装置13と電気的に接続されている。
【0061】
ボンベ7は、配管30を介して第2ノズル6の流入口6bとも接続している。配管30には公知の第2圧力調整弁V2と第2ガス圧力センサ32が設けられている。第2圧力調整弁V2は、回路33と接続された回路34を介して制御装置13と電気的に接続されている。また、第2ガス圧力センサ32は、回路35と接続された回路36を介して制御装置13と電気的に接続されている。第2ガス圧力センサ32は、配管30内を流通するN2ガスの圧力を検知し、制御装置13に向けて第2ガス圧力検知信号を送信可能になっている。なお、上記の第1電動ポンプP1、第1圧力調整弁V1及び配管15、29に加えて、第2電動ポンプP2、第2圧力調整弁V2及び配管16、30が供給手段に相当する。
【0062】
さらに、配管30には加熱室38が設けられている。加熱室38内には公知の第3電気ヒータ10が設けられている。第3電気ヒータ10は、加熱室38内に延びる配管30を加熱することで、配管30内のN2ガスを間接的に加熱可能になっている。また、加熱室38には、第3ヒータコントローラ40及び第2ガス温度センサ42が設けられている。第3ヒータコントローラ40は、回路43と接続された回路44を介して制御装置13と電気的に接続されている。また、第2ガス温度センサ42は、回路45と接続された回路46を介して制御装置13と電気的に接続されている。第3ヒータコントローラ40は第3電気ヒータ10とも電気的に接続されている。
【0063】
第3ヒータコントローラ40は第3電気ヒータ10の出力制御を行い、配管30内のN2ガスを任意の温度で加熱させる。また、第2ガス温度センサ42は、配管30内を流通するN2ガスの温度を検知し、制御装置13に向けて第2ガス温度検知信号を送信可能になっている。なお、上記の第1電気ヒータ9及び第1ヒータコントローラ39に加えて、第3電気ヒータ10及び第3ヒータコントローラ40が加圧ガス加熱手段に相当する。
【0064】
制御装置13は、粒子径検知信号、ペースト温度検知信号及び第2ペースト圧力検知信号に基づき、第2電動ポンプP2の作動制御を行い、第2ノズル6に供給されるペースト30の供給圧力の制御を行う。同様に、制御装置13は、粒子径検知信号、ペースト温度検知信号及び第2ガス圧力検知信号に基づいて、第2圧力調整弁V2の開度を調整し、第2ノズル6に対するN2ガスの供給圧力を制御する。さらに、制御装置13は、粒子径検知信号、ペースト温度検知信号及び第2ガス温度検知信号に基づく第3ヒータ制御信号の送信を行うことで、第3ヒータコントローラ40の制御を行う。
【0065】
これらの第2電動ポンプP2の制御と第2圧力調整弁V2の制御と、第3ヒータコントローラ40の制御により、制御装置13は、第2ノズル6から噴霧されるペースト30の粒子径と噴霧量と、第2ノズル6に供給されるN2ガスの温度とを第1ノズル5とは別々に制御する。
【0066】
また、制御装置13は、モータ26aを作動させることで、第2ノズル6について、図6中の実線矢印で示すように、基材70に対して水平方向で相対的に走査させる。この際、制御装置13は、第2ノズル6の走査量の制御も同時に行う。他の構成は実施例1の製造装置と同様である。
【0067】
以上のように構成されたこの製造装置では、第1ノズル5に対するペースト30及びN2ガスの各供給圧力と、N2ガスの温度との制御とは別に、制御装置13が第2電動ポンプP2、第2ヒータコントローラ40及び第2圧力調整弁V2の各制御を行うことで、第2ノズル6に対するペースト30及びN2ガスの各供給圧力と、N2ガスの温度との制御を行う。この際、この製造装置では、第1ノズル5と同様、第2ノズル6から実際に噴霧されているペースト30の粒子径、噴霧量及び温度を検知し、適宜、第2ノズル6に供給されるペースト30及びN2ガスの供給圧力やN2ガスの温度の調整も行う。
【0068】
これらにより、この製造装置では、第1ノズル5から噴霧されるペースト30の粒子径等と第2ノズル6から噴霧されるペースト30の粒子径等とを異なる条件とすることが可能となっている。
【0069】
さらに、この製造装置では、第1ノズル5から噴霧されるペースト30と第2ノズル6から噴霧されるペースト30との各温度、すなわち、第1、2ノズルから噴霧されて得られた各触媒層71の乾燥条件を異なる条件とすることも可能となっている。
【0070】
これらペースト30の粒子径や触媒層71の乾燥条件等を相違させることで、この製造装置では、面内又は厚み内で異なる特性を有する触媒層71、すなわち傾斜構造を有する触媒層71を製造することが可能となっている。他の作用効果は実施例1の製造装置と同様である。
【0071】
したがって、実施例2の製造装置によっても、発電性能が高く、かつ個体毎のバラツキが小さい電極を容易に製造可能である。
【0072】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0073】
例えば、第1、2ノズル5、6に対して基材70を相対的に走査させる走査手段を設けても良い。この場合、基材70を直接走査させても良く、また例えば、作業テーブル11を走査させることで、間接的に基材70を走査させても良い。
【0074】
また、第1、2ノズル走査手段25、26におけるモータ25a、26aに替えて、伸縮ロッド等によって、第1、2ノズル走査手段25、26を構成することもできる。また、各モータ25a、26a、49aと伸縮ロッドとを組み合わせることもできる。
【0075】
さらに、実施例2の製造装置において、貯留タンクを追加して設けても良い。追加された貯留タンク内に貯留されるペーストは、ペースト30であっても良く、ペースト30とは異なる特性を有していても良い。
【0076】
また、実施例2の製造装置において、2流体ノズルを3つ以上設けることもできる。この場合、加圧ガス加熱手段としての電気ヒータは採用される2流体ノズルの個数に応じて複数備えられる。
【0077】
なお、実施例1の製造装置は、以下の製造方法で表現され得る。すなわち、この製造方法は、基材70上に触媒層71を形成する燃料電池用電極の製造装置において、
担体92に触媒金属微粒子30が担持された触媒90と高分子電解質91とを含有するペースト30を調製するペースト調製工程と、
加熱されたN2ガスによりペースト30を第1ノズル5から基材70に噴射する噴霧工程とを備えている。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、電気自動車等の移動用電源、屋外据え置き用電源、ポータブル電源等に用いる燃料電池の電極の製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
71…触媒層
30…ペースト
3…貯留タンク
70…基材
5、6…2流体ノズル(5…第1ノズル、6…第2ノズル)
P1、P2、V1、V2、15、16、29、30…供給手段(P1…第1電動ポンプ、P2…第2電動ポンプ、V1…第1圧力調整弁、V2…第2圧力調整弁、15、16、29、30…配管)
9、10、39、40…加圧ガス加熱手段(9…第1電気ヒータ、10…第2電気ヒータ、39…第1ヒータコントローラ、40…第2ヒータコントローラ)
13…制御装置(制御手段)
59…レーザ測定装置(粒子径測定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層を構成するペーストを貯留する貯留タンクと、
該貯留タンクと接続され、加圧ガスによって該ペーストを基材に対して噴霧可能な2流体ノズルと、
該2流体ノズルに該ペースト及び該加圧ガスをそれぞれ圧力調整して供給可能な供給手段と、
該2流体ノズルから該ペーストとともに噴射される該加圧ガスを加熱可能な加圧ガス加熱手段と、
前記供給手段及び前記加圧ガス加熱手段の少なくとも一方を制御して前記2流体ノズルから噴霧される前記ペーストの性状を調整可能な制御手段とを備えていることを特徴とする燃料電池用電極の製造装置。
【請求項2】
前記2流体ノズルは複数あり、
前記制御手段は、各該2流体ノズルから噴霧される前記ペーストの性状を調整可能である請求項1記載の燃料電池用電極の製造装置。
【請求項3】
前記2流体ノズルから噴霧された前記ペーストの粒子径を測定可能な粒子径測定手段を備え、
前記制御手段は該粒子径測定手段が測定した前記粒子径に基づいて前記制御を行う請求項1又は2記載の燃料電池用電極の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−133977(P2012−133977A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284390(P2010−284390)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】