説明

燃料電池用電極触媒およびその製造方法、ならびに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体

【課題】高い発電効率および出力を安定して維持できる信頼性に優れた燃料電池が得られる、高活性で優れた安定性を有する燃料電池用電極触媒およびその製造方法、ならびに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【解決手段】チタン元素を含む金属酸化物粒子とカーボン担体との混合物が窒化された触媒担体に、貴金属を含む触媒粒子が担持された燃料電池用電極触媒およびその製造方法。また、触媒層11を有するカソード14と、触媒層11を有するアノード13と、カソード14とアノード13との間に配置される電極質膜15とを具備し、カソード14のアノード13の少なくとも一方の触媒層11が前記燃料電池用電極触媒である固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒およびその製造方法、ならびに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は高性能化が進んでおり、電気自動車用電源、家庭用コージェネレーション、携帯機器用電源等への応用が期待されている。該固体高分子形燃料電池には、発電効率、出力および信頼性のさらなる向上が求められている。そのため、該燃料電池の電極の触媒層に含まれる電極触媒にも高い活性および安定性が求められている。
【0003】
電極触媒としては、貴金属(白金等。)を含む触媒粒子を、比表面積の大きなカーボン担体に担持した電極触媒が用いられている。しかし、該電極触媒には下記の問題がある。
(i)触媒粒子がカーボン担体の表面で凝集しやすい。触媒粒子が凝集すると、触媒粒子の反応面積が減少し、電極触媒の活性が低下する。
(ii)カーボン担体が酸化劣化しやすい。カーボン担体が酸化劣化すると、触媒粒子がカーボン担体から遊離または凝集して電極触媒の活性が低下する。
【0004】
カーボン担体の酸化劣化が抑えられた電極触媒としては、下記の電極触媒が示されている。
(1)触媒粒子が担持された金属酸化物粒子(シリカ粒子等。)を、カーボン担体に担持した燃料電池用電極触媒(特許文献1)。
(2)カーボンブラックまたは活性炭を加熱処理することで黒鉛化度を高めた燃料電池用電極触媒(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−363056号公報
【特許文献2】特開2002−273224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、(1)の燃料電池用電極触媒は(i)の問題が解決されていない。また、触媒粒子と導電体であるカーボン担体との間に粒子径の大きい金属酸化物粒子を介在させているため、触媒粒子とカーボン担体との間の導電性が低下して燃料電池の出力が低下する。
また、(2)の燃料電池用電極触媒は、1000℃以上の高温下でカーボン粉末を熱処理することにより黒鉛化度を向上させて耐食性を高めている。しかし、熱処理によりカーボン粉末の比表面積が低下するため、担持させる白金の分散性が低下して活性が低下する。
【0007】
本発明は、高い発電効率および出力を安定して維持できる信頼性に優れた燃料電池が得られる、高活性で優れた安定性を有する燃料電池用電極触媒およびその製造方法、ならびに該燃料電池用電極触媒を用いた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池用電極触媒は、チタン元素を含む金属酸化物粒子とカーボン担体との混合物を窒化処理して得られる触媒担体に、貴金属を含む触媒粒子が担持されていることを特徴とする。
前記触媒粒子は、白金を含むことが好ましい。
前記金属酸化物粒子の質量Maと前記カーボン担体の質量Mbとの質量比Ma/Mbは0.1〜10であることが好ましい。
前記金属酸化物粒子の比表面積は5m/g以上であることが好ましい。
前記カーボン担体の比表面積は10m/g以上であることが好ましい。
【0009】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、チタン元素を含む金属酸化物粒子とカーボン担体との混合物を窒化処理して触媒担体を得る工程と、該触媒担体に貴金属を含む触媒粒子を担持する工程とを含む方法である。
前記窒化処理は、前記混合物にアンモニアガスを接触させる処理であることが好ましい。
【0010】
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、触媒およびイオン交換樹脂を含む触媒層を有するカソードと、触媒およびイオン交換樹脂を含む触媒層を有するアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置される電極質膜とを具備し、前記カソードと前記アノードの少なくとも一方の触媒層が本発明の燃料電池用電極触媒を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料電池用電極触媒は、活性が高く、また酸化劣化が抑えられて安定性にも優れている。そのため、該燃料電池用電極触媒を用いることで、発電効率および出力が高く信頼性に優れた燃料電池が得られる。
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、高い発電効率および出力を安定して維持できる信頼性に優れた燃料電池が得られる、高活性で優れた安定性を有する燃料電池用電極触媒を製造できる。
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体によれば、高い発電効率および出力を安定して維持できる信頼性に優れた燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の実施形態の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<燃料電池用電極触媒>
本発明の燃料電池用電極触媒(以下、「本電極触媒」という。)は、金属酸化物粒子とカーボン担体との混合物を窒化処理して得られる触媒担体に、貴金属を含む触媒粒子が担持された電極触媒である。
【0014】
触媒担体は、チタン元素を含む金属酸化物粒子とカーボン担体との混合物を窒化処理して得られる担体である。
【0015】
金属酸化物粒子の比表面積は、5m/g以上が好ましく、5〜200m/gがより好ましく、20〜200m/gがさらに好ましい。金属酸化物粒子の比表面積が5m/g以上であれば、カーボン担体との接触面積が増加し、また窒化反応も容易になる。金属酸化物粒子の比表面積が200m/g以下であれば、安定な酸化物を調製することが容易である。
金属酸化物粒子の比表面積は、窒素吸着法により測定される。
【0016】
(カーボン担体)
カーボン担体は、アモルファス性の高いカーボン担体であってもよく、黒鉛化度の高いカーボン担体であってもよい。
カーボン担体の具体例としては、たとえば、活性炭、カーボンブラックが挙げられる。
【0017】
カーボン担体の比表面積は、10m/g以上が好ましく、10〜2500m/gがより好ましく、100〜1500m/gがさらに好ましい。カーボン担体の比表面積が10m/g以上であれば、窒化反応後も担持させる触媒粒子の分散性が向上し、それにより本電極触媒の活性が向上する。カーボン担体の比表面積が2500m/g以下であれば、窒化反応後の耐酸化性が充分に得られやすい。また、本燃料電池の反応に有効でない微細孔が生じることを抑制しやすい。
カーボン担体の比表面積は、BET比表面積装置を用いた、カーボン担体の表面への窒素吸着により測定される。
【0018】
混合物における金属酸化物粒子(質量:Ma)とカーボン担体(質量:Mb)の質量比Ma/Mbは、0.1〜10が好ましく、1〜10がより好ましく、2〜10がさらに好ましい。質量比Ma/Mbが0.1以上であれば、金属酸化物とカーボンの複合効果が得られやすい。質量比Ma/Mbが10以下であれば、金属酸化物による抵抗損失を小さくしやすい。
【0019】
(触媒粒子)
触媒粒子は、貴金属を含む粒子である。
触媒粒子としては、貴金属の粒子、または貴金属合金の粒子が好ましい。
貴金属としては、白金が好ましい。
貴金属合金としては、白金合金が好ましい。白金合金としては、たとえば、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、レニウム、コバルト、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、バナジウム、チタン、銅、銀および金からなる群から選ばれる1種以上の元素と、白金との白金合金が挙げられる。なかでも、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、コバルト、ニッケル、鉄、クロム、金および銀からなる群から選ばれる1種以上の元素と白金との白金合金が好ましい。
【0020】
触媒粒子の平均粒子径は、1〜20nmが好ましく、2〜10nmがより好ましい。触媒粒子の平均粒子径が前記範囲内であれば、充分に高い活性を有する本電極触媒が得られやすい。
触媒粒子の平均粒子径は、X線回折(XRD)法により測定される。
【0021】
触媒粒子の比表面積(金属比表面積または金属分散度)は、20〜250m/gが好ましく、50〜250m/gがより好ましい。触媒粒子の比表面積が20m/g以上であれば、触媒粒子の活性が向上する。また、触媒粒子の比表面積が250m/g以下であれば、触媒粒子の安定性が向上する。
触媒粒子の金属比表面積は、一酸化炭素(CO)吸着法により測定される。
【0022】
触媒担体への触媒粒子の担持率は、本電極触媒(100質量%)中、5〜80質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましい。触媒粒子の担持率が5質量%以上であれば、本電極触媒の活性が向上する。また、触媒粒子の担持率が80質量%以下であれば、触媒粒子が凝集しにくく、本電極触媒の活性が向上する。
触媒粒子の担持率は、本電極触媒を酸で溶解し、溶出イオンの濃度を測定することにより求められる。
【0023】
(製造方法)
本電極触媒の製造方法は、前記金属酸化物粒子とカーボン担体の混合物を窒化処理して触媒担体を得る工程と、該触媒担体に前記触媒粒子を担持する工程とを含む方法である。
前記混合物の窒化処理は、種々の処理が適用できるが、比較的低温で窒化が行え、触媒担体への適用に好適である点から、該混合物にアンモニアガスを接触させる処理であることが好ましい。
アンモニアガスを接触させて処理する場合、処理温度は500〜1000℃が好ましい。
【0024】
触媒担体に触媒粒子を担持する方法としては、たとえば、以下に示す方法が挙げられる。
溶媒に溶解した触媒粒子前駆体と触媒担体とを混合して攪拌し、そこから沈殿物を回収した後、沈殿物を乾燥して本電極触媒の前駆体を得る。その後、得られた本電極触媒の前駆体における触媒粒子前駆体を還元して本電極触媒を得る。
【0025】
前記触媒粒子前駆体とは、還元することにより触媒粒子となる化合物である。触媒粒子前駆体は、溶媒に溶解できるものを使用する。
触媒粒子前駆体の具体例としては、たとえば、ジニトロジアミン白金硝酸、ジニトロジアミン白金、塩化白金酸、塩化白金酸塩が挙げられる。
触媒粒子前駆体を溶解する溶媒としては、たとえば、水、アルコールが挙げられる。
【0026】
沈殿物の乾燥温度は、80〜300℃が好ましい。
触媒粒子前駆体を還元する方法としては、たとえば、ギ酸、エタノール、メタノール、アミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、ホルムアルデヒド、水素等を用いた還元が挙げられる。
具体的には、たとえば、ヒドラジン等の水溶液を用いる場合、濃度が0.001〜40質量%の水溶液とし、本電極触媒の前駆体を水等に分散させた溶液中に添加する方法が挙げられる。また、水素化ホウ素ナトリウム等の固体を用いる場合は本電極触媒の前駆体を水等に分散させた溶液中にそのまま添加でき、水素等の常温で気体のものはバブリングにより供給できる。
【0027】
本電極触媒は、燃料電池における空気が供給されるカソードの触媒層の電極触媒に用いることが好ましい。また、本電極触媒は、水素が供給されるアノードの触媒層の電極触媒に用いてもよい。
【0028】
以上説明した本電極触媒は、金属酸化物粒子とカーボン担体とを混合した混合物が窒化処理して得られたものを触媒担体として用いているために化学的安定性が向上し、酸化劣化が抑えられ安定性に優れている。また、それに加えて優れた導電性を両立できるため高活性である。そのため、本電極触媒を用いることで、発電効率および出力が高く、信頼性に優れた燃料電池が得られる。
【0029】
<固体高分子形燃料電池用膜電極接合体>
図1に、本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(以下、「本膜電極接合体」という。)の実施形態の一例を示す。
固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10(以下、「膜電極接合体10」という。)は、図1に示すように、触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に触媒層11に接した状態で配置される電極質膜15とを具備している。
【0030】
(触媒層)
触媒層11は、電極触媒およびイオン交換樹脂を含む層である。
触媒層11の電極触媒は、アノード13とカソード14の少なくとも一方の触媒層11の電極触媒が前述の本電極触媒である。なかでも、カソード14の触媒層11の電極触媒が本電極触媒であることが好ましく、アノード13とカソード14の両方の触媒層11の電極触媒が本電極触媒であることがより好ましい。
【0031】
イオン交換樹脂としては、耐久性の点から、イオン性基を有する含フッ素重合体が好ましい。イオン性基としては、たとえば、スルホン酸基、カルボン酸基が挙げられる。
イオン性基を有する含フッ素重合体としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい。)が好ましく、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」という。)に基づく繰り返し単位と、スルホン酸基を有する繰り返し単位とを有する共重合体(以下、「共重合体H」という。)がより好ましい。
スルホン酸基を有する繰り返し単位としては、下式(1)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0032】
【化1】

【0033】
ただし、Xはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0または1である。
【0034】
共重合体Hは、TFEおよび−SOF基を有する単量体の混合物を重合して前駆体重合体(以下、「前駆体重合体F」という。)を得た後、前駆体重合体F中の−SOF基をスルホン酸基に変換することにより得られる。−SOF基のスルホン酸基への変換は、加水分解および酸型化処理により行われる。
【0035】
−SOF基を有する単量体としては、下式(2)で表される化合物(2)が好ましい。
CF=CF(OCFCFX)−O−(CF−SOF (2)
ただし、Xはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0または1である。
【0036】
化合物(2)としては、下式(2−1)〜(2−3)で表される化合物(2−1)〜(2−3)が好ましい。
CF=CFO(CFSOF (2−1)
CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOF (2−2)
CF=CF(OCFCF(CF))O(CFSOF (2−3)
ただし、q、r、sは1〜8の整数であり、tは1〜3の整数である。
【0037】
電極触媒(質量:Mc)とイオン交換樹脂(質量:Md)との質量比Mc/Mdは、導電性および撥水性の点から、0.4/0.6〜0.95/0.05が好ましく、0.6/0.4〜0.8/0.2がより好ましい。
【0038】
イオン交換樹脂のイオン交換容量は、導電性およびガス透過性の点から、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.8〜1.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましい。
【0039】
(ガス拡散層)
ガス拡散層12としては、たとえば、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルトが挙げられる。
ガス拡散層12は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)等により撥水処理が行われていることが好ましい。
【0040】
(電解質膜)
電解質膜15としては、イオン交換樹脂の膜が挙げられる。イオン交換樹脂としては、触媒層11で挙げたものと同じものが挙げられる。
電解質膜15は、補強材を含んでいてもよい。補強材としては、たとえば、多孔体、繊維、織布、不織布が挙げられる。補強材の材料としては、たとえば、PTFE、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0041】
本膜電極接合体10は、本電極触媒を用いる以外は、公知の製造方法により製造できる。
以上説明した本膜電極接合体によれば、本電極触媒を用いていることで、発電効率および出力が高く信頼性に優れた固体高分子形燃料電池が得られる。また、本膜電極接合体は、アノードにメタノールを供給して発電を行うメタノール燃料電池にも適用できる。
【0042】
尚、本膜電極接合体は前述の膜電極接合体10には限定されない。たとえば、アノード13とカソード14は、触媒層11とガス拡散層12との間にカーボン層を有していてもよい。カーボン層を配置することにより、触媒層11の表面のガス拡散性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電性能が大きく向上する。
カーボン層は、カーボンと非イオン性含フッ素重合体とを含む層である。
カーボンとしては、繊維径1〜1000nm、繊維長1〜1000μmのカーボンナノファイバーが好ましい。
非イオン性含フッ素重合体としては、たとえば、PTFEが挙げられる。
【0043】
固体高分子形燃料電池は、本膜電極接合体と、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータとを交互に積み重ね、いわゆるスタックを構成することにより得られる。セパレータとしては、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂とを混合した材料からなるセパレータ等、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
該固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給することにより発電が行われる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
以下に示す例1〜3は実施例であり、例4は比較例である。
本実施例における各種測定方法、評価方法を以下に示す。
(触媒粒子の平均粒子径)
触媒粒子の平均粒子径は、XRD法により測定した。具体的には、XRD装置(リガク(株)製、RINT−2100)を用いた。X線の回折線幅の解析にはXRDデータ解析ソフトのJADEを用い、得られる主ピークと隣接するピークとが形成する基底ラインをベースラインとして半価幅を求めた。回折角2θは、白金に対しては34〜46°の範囲で走査した。
【0045】
(触媒粒子の比表面積)
触媒粒子の比表面積として、CO吸着法にて金属比表面積を測定した。具体的には、パルス吸着装置(日本ベル(株)製、BEL−CAT)を用い、30mgの触媒粒子に対してヘリウム、酸素、ヘリウム、水素、ヘリウムの順に流通ガスで前処理を施した後、ヘリウムをキャリアガスとしてCOをパルス状に供給し、排出ガス中のCO量が一定になるまでのパルス数から吸着水素量を算出し、触媒粒子の金属比表面積を測定した。
【0046】
(触媒粒子の担持率)
得られた電極触媒における触媒粒子の担持率は、該電極触媒に酸を作用させて溶解して得た金属塩の溶液をICP発光分析法で定量することにより測定した。
【0047】
(電極触媒の活性)
得られた電極触媒の活性は、以下のようにして求めた。該電極触媒をフッ素系溶剤(旭硝子(株)製、AE−3000)とHPLC用THF(テトラヒドロフラン)の混合溶液(混合比50:50)中に分散させた分散液を、回転電極のGC(グラッシーカーボン)ディスク上に担持し、酸素ガスを吹き込んだ0.5M硫酸水溶液中で、回転数1000rpm、電位0.8V(vs. RHE)の条件下にて電流値を測定し、単位貴金属量当たりの電流値を電極触媒の活性(酸素還元活性)とした。該電流値が高ければ電極触媒の活性が高く、燃料電池の発電効率および出力(出力電流×出力電位)が高いといえる。
【0048】
(電極触媒の安定性)
窒素ガスを吹き込んだ60℃の0.5M硫酸水溶液中で、前記電極触媒を担持した回転電極の電位を0.05〜1.2V(vs. RHE)の間で300回繰り返して掃引した。その後、酸素ガスを吹き込んだ0.5M硫酸水溶液中で、回転数1000rpm、電位0.8V(vs. RHE)の条件下にて電流値を測定し、単位貴金属量当たりの電流値を電極触媒の酸素還元活性とした。該電流値が高ければ、電極触媒の安定性が優れており、燃料電池の信頼性が優れているといえる。
【0049】
[例1]
酸化チタン(触媒学会参照触媒:JRC−TIO−1、石原産業(株)製、比表面積73m/g)とカーボンブラック(三菱化学(株)製、ケッチェンブラックEC−600JC、BET比表面積1367m/g)とを質量比Ma/Mb=1で混合し、その後、700℃で3時間アンモニア気流中に置いて窒化処理して触媒担体Aを得た。次いで、100mLのエタノールに触媒担体Aを0.8g投入し、超音波照射下で30分間攪拌した。その後、白金量として0.2gに相当する量のジニトロジアミン白金硝酸水溶液(石福金属工業(株)製)を加え、超音波を30分間照射した後、60℃に設定したホットスターラーでゆっくりと乾燥して電極触媒の前駆体Aを得た。次いで、得られた前駆体Aを電気炉に入れ、アルゴン雰囲気にて120分間かけて加熱して200℃まで昇温した。そして、水素ガスを供給して2時間水素雰囲気で保持した後、加熱を停止し、70℃まで温度が下がってから窒素ガスを供給して窒素雰囲気とし、充分に時間が経過した後に電気炉から取り出して電極触媒Aを得た。
得られた電極触媒Aは、白金粒子(触媒粒子)の平均粒子径が2nmであり、白金粒子の比表面積が80m/gであり、白金粒子の担持率が20質量%であった。
【0050】
[例2]
酸化チタン(触媒学会参照触媒:JRC−TIO−1、石原産業(株)製、比表面積73m/g)とカーボンブラック(三菱化学(株)製、ケッチェンブラックEC、BET比表面積800m/g)の質量比Ma/Mb=1の混合物を用いて例1と同様に窒化処理して触媒担体Bを得た。次いで、50mLのエタノールに触媒担体Bを0.5g投入し、超音波照射下で30分間攪拌した。その後、白金量として0.5gに相当する量の例1と同じジニトロジアミン白金硝酸水溶液を加え、超音波を30分間照射した後、60℃に設定したホットスターラーでゆっくりと乾燥して電極触媒の前駆体Bを得た。次いで、例1と同様の条件で前駆体Bを還元して電極触媒Bを得た。
得られた電極触媒Bは、白金粒子(触媒粒子)の平均粒子径が2.5nmであり、白金粒子の比表面積が82m/gであり、白金粒子の担持率が47質量%であった。
【0051】
[例3]
触媒原料として、白金量として0.13gに相当する量のジニトロジアンミン白金硝酸水溶液と、パラジウム量として0.07gジニトロジアンミンパラジウム硝酸水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にして前駆体Cを得た。得られた前駆体Cをアルゴン雰囲気中、400℃で1時間熱処理して電極触媒Cを得た。
得られた電極触媒Cは、平均粒子径が3nmであり、比表面積は72m/gであり、貴金属の担持率は20質量%であった。
【0052】
[例4]
カーボンブラック(三菱化学(株)製、ケッチェンブラックEC、BET比表面積800m/g)の0.4gを50mLのエタノールに分散し、白金量として0.37gに相当する量の例1と同じジニトロジアミン白金硝酸水溶液を加え、超音波照射下で30分間攪拌した。その後、60℃に設定したホットスターラーでゆっくりと乾燥して電極触媒の前駆体Dを得た。次いで、得られた前駆体Dを電気炉に入れ、水素を10%含む窒素気流中で徐々に温度を上げ、200℃で2時間保持した。その後、加熱を停止し、70℃まで温度が下がってから窒素ガスを供給して窒素雰囲気とし、充分に時間が経過した後に電気炉から取り出して電極触媒Dを得た。
得られた電極触媒Dは、白金粒子(触媒粒子)の平均粒子径が3nmであり、白金粒子の比表面積が86m/gであり、白金粒子の担持率が48質量%であった。
例1〜3で得られた電極触媒A〜Dの活性および安定性を評価した結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、本電極触媒である例1〜3の電極触媒A〜Cは、活性および安定性のいずれの測定においても高い電流値が得られ、高い活性と優れた安定性を有していた。
一方、金属酸化物粒子を含まず窒化処理も行っていない例4の電極触媒Dは、活性および安定性のいずれの測定においても例1〜3に比べて電流値が劣っており、活性および安定性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本電極触媒は、活性が高く、安定性に優れているため、発電効率および出力が高く信頼性に優れた燃料電池が得られる。該燃料電池は、電気自動車用電源、家庭用コージェネレーション、携帯機器用電源等として有用である。
【符号の説明】
【0056】
10 固体高分子形燃料電池用膜電極接合体 11 触媒層 12 ガス拡散層 13 アノード 14 カソード 15 電極質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン元素を含む金属酸化物粒子とカーボン担体との混合物を窒化処理して得られる触媒担体に、貴金属を含む触媒粒子が担持された燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記触媒粒子が白金を含む請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子の質量(Ma)と前記カーボン担体の質量(Mb)との質量比(Ma/Mb)が0.1〜10である請求項1または2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子の比表面積が5m/g以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
前記カーボン担体の比表面積が10m/g以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
チタン元素を含む金属酸化物粒子とカーボン担体との混合物を窒化処理して触媒担体を得る工程と、該触媒担体に貴金属を含む触媒粒子を担持する工程とを含む燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項7】
前記窒化処理が、前記混合物にアンモニアガスを接触させる処理である請求項6に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項8】
触媒およびイオン交換樹脂を含む触媒層を有するカソードと、触媒およびイオン交換樹脂を含む触媒層を有するアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置される電極質膜とを具備し、
前記カソードと前記アノードの少なくとも一方の触媒層が請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料電池用電極触媒を含む固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−258354(P2011−258354A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130386(P2010−130386)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】