説明

燃料電池用電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池。

【課題】運転温度80〜120℃、湿度60%RH以下という高温低加湿条件下であっても、良好な出力特性を有する固体高分子型燃料電池、及び前記燃料電池を実現し得る燃料電池用電極触媒層及び膜電極接合体を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、当量重量が250〜680であるプロトン伝導性フッ素系高分子電解質と、導電性粒子上に触媒粒子を担持した複合粒子と、を含む燃料電池用電極触媒層。
−(CF2CF2)− (1)
−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)m−(CF2n−SO3Z))− (2)
(一般式(2)中、Xはフッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、mは0〜5の整数を示し、nは0〜6の整数を示す。ただし、m及びnは同時に0にならない。Zはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子、又は水素原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で、水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを、直接、電気エネルギーに変換して取り出すものであり、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。
特に、固体高分子型燃料電池は、その他の燃料電池と比較して低温で作動することから、車載用電源や家庭用コジェネレーションシステムに用いられるものとして期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、電極触媒層、すなわちアノード触媒を備えるアノード触媒層及びカソード触媒を備えるカソード触媒層、が高分子電解質膜の両面に接合された膜電極接合体(以下「MEA」と略記することがある。)を少なくとも備えている。また、電極触媒層の更に外側に一対のガス拡散層を対向するように接合したものについても、MEAと呼ばれる場合がある。ここでいう「高分子電解質膜」は、高分子鎖中にスルホン酸基やカルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する膜材料である。このような高分子電解質膜としては、化学的安定性の高いNafion(登録商標、米国デュポン社製)に代表されるフッ素系高分子電解質膜が好適に用いられている。
【0004】
また、電極触媒層としては、例えば非特許文献1に記載されているような、炭素粒子に電極触媒粒子が担持された複合粒子とプロトン伝導性ポリマー(バインダーポリマー)としてのフッ素系高分子電解質とからなる触媒組成物を薄くシート化したものが好適に用いられている。なお、電極触媒層の全体に均一にガスを供給するために、必要に応じて一対のガス拡散層でMEAを挟み込む場合もある。この場合、電極触媒層とガス拡散層とを積層した積層体をガス拡散電極と称する。
【0005】
燃料電池は、アノード触媒層に燃料(例えば水素)、カソード触媒層に酸化剤(例えば酸素や空気)、をそれぞれ供給し、両電極間を外部回路で接続することにより作動する。具体的には、水素を燃料として用いた場合、アノード触媒上にて水素が酸化されてプロトンを生じ、このプロトンがアノード触媒層内のフッ素系高分子電解質を通過した後、高分子電解質膜内を移動し、カソード触媒層内のフッ素系高分子電解質を経由してカソード触媒上に到達する。一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は、外部回路を経由してカソード触媒層に到達する。そして、カソード触媒上にて、上記プロトンと酸化剤中の酸素とが反応して水を生成し、このときに発生する電気エネルギーが取り出される。
【0006】
従来の固体高分子型燃料電池は、80℃近辺の適切な加湿条件下における運転により、高い発電効率及び出力を示す。しかしながら、加湿が不十分であると、高分子電解質膜中及び電極触媒層中の高分子電解質が乾燥してプロトン伝導度が著しく低下し、電池の内部抵抗が増大して出力が低下する。車載用途として固体高分子型燃料電池を用いる場合、高温低加湿条件下、例えば運転温度100℃近辺、60℃加湿(湿度20%RHに相当)の条件下でも燃料電池を運転できることが望まれている。また、定置用途として用いる場合にも、現状の運転条件、例えば運転温度80℃、80℃加湿(湿度100%RHに相当の条件)よりも低い加湿条件、例えば運転温度80℃、65℃加湿(湿度53%RHに相当の条件)でも高出力特性を得られる燃料電池が望まれている。
【0007】
ここで、高分子電解質膜として当量重量(以下「EW」とも表記する。)が1100程度である従来のフッ素系高分子電解質膜、例えばNafion(登録商標、DuPont社製)を用いた膜電極接合体を備えた燃料電池は、高温低加湿条件下では十分なプロトン伝導性を得ることができない。その結果、そのような燃料電池では十分な電池性能が得られていないのが実情である。
【0008】
上記問題点を解決する手法としては、高分子電解質において吸水性を有するスルホン酸基数を増加させて、EWを低減させることにより電池性能を向上させる技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、特許文献2には、EWが555〜715であり、側鎖に特定の官能基を2個有する繰り返し単位を含むフッ素系高分子電解質が開示されている。そして、このフッ素系高分子電解質を用いた発電用セルは、セル温度80℃、水素燃料ガスの加湿温度50℃、空気ガスの加湿温度70%の低加湿条件で比較的高い出力電圧を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表昭62−500759号公報
【特許文献2】特開2008−186784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、燃料電池には高温低加湿条件下において更に良好な出力特性が求められている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、運転温度80〜120℃、湿度60%RH以下という高温低加湿条件下であっても、良好な出力特性を有する固体高分子型燃料電池、及び前記燃料電池を実現し得る燃料電池用電極触媒層及び膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の繰り返し単位を有しかつ特定のEWを有するプロトン伝導性フッ素系高分子電解質を、触媒粒子と共に電極触媒層として用いると、運転温度80〜120℃、湿度60%RH以下という高温低加湿条件下であっても、80〜120℃、100%RHという高温高加湿条件よりも良好な出力特性を実現し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
下記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、当量重量が250〜680であるプロトン伝導性フッ素系高分子電解質と、導電性粒子上に触媒粒子を担持した複合粒子と、を含む燃料電池用電極触媒層。
−(CF2CF2)− (1)
−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)m−(CF2n−SO3Z))− (2)
(一般式(2)中、Xはフッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、mは0〜5の整数を示し、nは0〜6の整数を示す。ただし、m及びnは同時に0にならない。Zはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子、又は水素原子を示す。)
[2]
前記mが0であり、前記nが2であり、前記Zが水素原子である、上記[1]記載の燃料電池用電極触媒層。
[3]
前記フッ素系高分子電解質は、下記一般式(3)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する前駆体から得られるものであり、
前記前駆体のメルトフローレートが10.0g/10分以下であり、
前記フッ素系高分子電解質を90℃の熱水中に5時間静置して得られる処理後電解質の質量保持率が、前記フッ素系高分子電解質の質量に対して97質量%以上である、上記[1]又は[2]記載の燃料電池用電極触媒層。
−(CF2CF2)− (3)
−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)m−(CF2n−SO2F))− (4)
(一般式(4)中、X、m及びnは前記一般式(2)におけるものと同義である。)
[4]
前記触媒粒子に対する前記フッ素系高分子電解質の質量比が0.1〜10である、上記[1]〜[3]のいずれか記載の燃料電池用電極触媒層。
[5]
前記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び前記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、当量重量が250〜680であるプロトン伝導性フッ素系高分子電解質と、導電性粒子上に触媒粒子を担持した複合粒子と、低級アルコールと、を含み、前記フッ素系高分子電解質のスルホン酸単位モル当りの低級アルコール溶媒量(低級アルコール/SO3H)(mol比)が100以上である、燃料電池用電極触媒組成物。
[6]
前記mが0であり、前記nが2であり、前記Zが水素原子である、上記[5]記載の燃料電池用電極触媒組成物。
[7]
前記フッ素系高分子電解質は、前記一般式(3)で表される繰り返し単位、及び前記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する前駆体から得られるものであり、
前記前駆体のメルトフローレートが10.0g/10分以下であり、
前記フッ素系高分子電解質を90℃の熱水中に5時間静置して得られる処理後電解質の質量保持率が、前記フッ素系高分子電解質の質量に対して97質量%以上である、上記[5]又は[6]記載の燃料電池用電極触媒組成物。
[8]
前記触媒粒子に対する前記フッ素系高分子電解質の質量比が0.1〜10である、上記[5]〜[7]のいずれか記載の燃料電池用電極触媒組成物。
[9]
上記[5]〜[8]のいずれか記載の燃料電池用電極触媒組成物から形成された燃料電池用電極触媒層。
[10]
上記[1]〜[4]、[9]のいずれか記載の燃料電池用電極触媒層を備える膜電極接合体。
[11]
上記[10]記載の膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池。
[12]
プロトン伝導性高分子電解質膜の片面に燃料極、もう一方の面に空気極が各々配置された膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池であって、
前記燃料極及び空気極は、触媒とプロトン伝導性フッ素系高分子電解質とを含有するガス拡散電極であり、
運転温度をT℃としたときに下記式(7)を満たす固体高分子型燃料電池。
燃料ガス及び/又は空気ガスの加湿温度が(T−15)℃であるときの単位電流密度(A/cm2)≧燃料ガス及び/又は空気ガスの加湿温度がT℃であるときの単位電流密度(A/cm2) (7)
[13]
運転電圧を0.7Vの定電圧で20時間保持した後、前記式(7)を満たす、上記[12]記載の固体高分子型燃料電池。
[14]
前記プロトン伝導性高分子電解質膜がプロトン伝導性フッ素系高分子電解質を含む、上記[12]又は[13]記載の固体高分子型燃料電池。
[15]
前記膜電極接合体が上記[10]記載の膜電極接合体である、上記[12]〜[14]のいずれか記載の固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、運転温度80〜120℃、湿度60%RH以下という高温低加湿条件下であっても、良好な出力特性を有する固体高分子型燃料電池及び前記燃料電池を実現し得る、燃料電池用電極触媒層を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態(以下「本実施形態」という)について詳細に説明する。
本実施形態の燃料電池用電極触媒層(以下、単に「電極触媒層」ともいう。)は、下記式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを有し、かつ当量重量(以下「EW」と表記する)が250〜680であるフッ素系高分子電解質を含む。
−(CF2CF2)− (1)
−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)m−(CF2n−SO3Z))− (2)
【0015】
ここで、式(2)中、Xはフッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、mは0〜5の整数を示し、nは0〜6の整数を示す。ただし、m及びnは同時に0にならない。Zはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子、又は水素原子を示す。
【0016】
本実施形態に係るフッ素系高分子電解質は、Zが水素原子であると好ましく、mが0〜1であると好ましく、nが0〜4であるとより好ましい。
【0017】
本実施形態に係るフッ素系高分子電解質の中でも、特に上記Xがフッ素原子であり、上記nが2であり、上記mが0であり、上記Zが水素原子であるポリマーが、本発明の目的をより一層効率的に達成する観点から好ましい。
【0018】
フッ素系高分子電解質のEW、つまりプロトン交換基1当量当たりの乾燥重量は250〜680であり、好ましくは300〜600、より好ましくは350〜520、更に好ましくは400〜500である。特定の構造式を有するフッ素系高分子電解質においてEWを上記範囲に設定し、かつ後述の複合粒子を共存させることにより、燃料電池運転時に高い出力を実現することが可能となる。
【0019】
本実施形態に係るフッ素系高分子電解質を90℃の熱水中に5時間静置して得られる電解質(以下「処理後電解質」という)の質量保持率は、上記フッ素系高分子電解質の質量に対して97質量%以上であると好ましく、99.7質量%以上であるとより好ましい。言い換えると、処理後電解質のフッ素系高分子電解質に対する質量減少が、3質量%以下であると好ましく、0.3質量%以下であるとより好ましい。このようなフッ素系高分子電解質は、耐熱水溶解性に更に優れたものとなり得る。なお、ここでのフッ素系高分子電解質及び処理後電解質の質量は、23℃、50%RHの環境下に24時間静置した後の質量である。
【0020】
また、本実施形態に係る電極触媒層は、導電性粒子上に触媒粒子を担持した複合粒子を含有する。これにより、電極触媒層としての機能をより有効に発揮できる。この電極触媒層は、フッ素系高分子電解質により複数の上記複合粒子を結着した構造を基本骨格とする。
【0021】
導電性粒子を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛及び各種金属が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0022】
導電性粒子の平均粒子径は、好ましくは10オングストローム〜10μmであり、より好ましくは50オングストローム〜1μmであり、更に好ましくは100オングストローム〜5000オングストロームである。導電性粒子がこのように微粒子化された平均粒子径を有することにより、表面積を増大させ触媒粒子を効率よく分散して担持するという効果が得られる。導電性粒子の平均粒子径は、主に透過型電子顕微鏡により目視にて測定することができる。
【0023】
触媒粒子は、アノード電極層では、例えば水素などの燃料を酸化して容易にプロトンを生成すると共に、カソード電極層では、プロトン及び電子と、例えば酸素及び空気などの酸化剤とを反応させて水を生成させる機能を有する。
【0024】
触媒粒子を構成する材料は、上記反応に寄与するものであれば特に限定されないが、上記反応に対する触媒活性が高くなる傾向にあるため、特に白金が好ましい。また、CO等の不純物に対する白金の耐性を強化するために、白金にルテニウム等の貴金属を添加したもの或いはそれらを合金化したものも好ましい。貴金属は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0025】
触媒粒子の平均粒子径は、10オングストローム〜1000オングストロームであると好ましく、10オングストローム〜500オングストロームであるとより好ましく、15オングストローム〜100オングストロームであると更に好ましい。触媒粒子が上記範囲の平均粒子径を有することにより、表面積を増大させバインダーポリマーとの接触面積を増大させることができるという効果を奏する。触媒粒子の平均粒子径は、主に透過型電子顕微鏡により目視にて測定することができる。
【0026】
本実施形態に係る複合粒子においては、触媒粒子が複合粒子100質量%に対して、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは20〜80質量%担持されていることが好ましい。触媒粒子の担持量を上記範囲内に調整することにより、所望の触媒活性を容易に得られる傾向にある。
【0027】
本実施形態に係る複合粒子は、固体粒子上に触媒粒子を担持させる常法により製造されてもよく、市販のものを入手してもよい。市販の複合粒子としては、例えば、田中貴金属工業(株)社製、商品名「TEC10E40E」、デグッサ(株)社製、商品名「F101RA/W」が挙げられる。
【0028】
電極触媒層における上記複合粒子の含有量は、電極触媒層の一方の主面の面積に対して、好ましくは0.001〜10mg/cm2であり、より好ましくは0.01〜5mg/cm2であり、更に好ましくは0.1〜1mg/cm2である。発電量は触媒粒子の総面積、すなわち質量に依存するため、複合粒子の含有量を0.001mg/cm2以上にすることにより、高い発電特性を得ることが容易になる。また、複合粒子の含有量を10mg/cm2以下にすることにより、電解質のプロトン伝導抵抗による電圧ロスを抑制できるため、より高い発電特性が得られる傾向にある。
【0029】
上記触媒粒子に対する上記フッ素系高分子電解質の質量比は、プロトン伝導性を良好なものとする観点から、好ましくは0.1以上、より好ましく0.5以上である。また、上記質量比は、電子伝導性及び燃料ガス拡散性を向上させる観点から、好ましくは10以下、より好ましくは2以下である。
【0030】
本実施形態の電極触媒層の厚みは、好ましくは0.1〜50μmであり、より好ましくは0.5〜30μmであり、更に好ましくは1〜20μmである。厚みが0.1μm以上であると、十分な発電性能を示し得る触媒担持量の電極触媒層を形成させることが容易となる。また、厚みが50μm以下であると、電極触媒層内のガス拡散性の低下を抑制できると共に電気抵抗も低くすることができる。
【0031】
本実施形態の電極触媒層は、イオン伝導性を良好なものにする観点から、その空隙率が、好ましくは1体積%以上、より好ましくは10体積%以上、更に好ましくは20体積%以上である。また、燃料ガス及び発電により発生した水の拡散性を向上させる観点から、上記空隙率が99体積%以下であると好ましく、90体積%以下であるとより好ましく、80体積%以下であると更に好ましい。なお、電極触媒層の空隙率は水銀圧入法により測定することができる。
【0032】
次に、本実施形態に係る燃料電池用電極触媒層の製造方法について説明する。
燃料電池用電極触媒層の製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法であってもよい。例えば、以下の(第1の工程)〜(第5の工程)の各工程、
(第1の工程)フッ素系高分子電解質の前駆体を得る工程と、
(第2の工程)上記前駆体に化学処理を施してフッ素系高分子電解質を得る工程と、
(第3の工程)上記フッ素系高分子電解質を溶媒に溶解又は懸濁してフッ素系高分子電解質溶液を得る工程と、
(第4の工程)上記フッ素系高分子電解質溶液と上述の複合粒子と溶媒とを混合した混合液を得る工程と、
(第5の工程)上記混合液を用いて高分子電解質膜上に電極触媒層を形成する工程と、
を含む。以下、各工程について説明する。
【0033】
[第1の工程]
第1の工程では、フッ素系高分子電解質の前駆体を得る。
前駆体は、本実施形態に係るフッ素系高分子電解質を生成可能なものであれば特に限定されない。その前駆体は、化学処理によって下記一般式(5)で表される基に変換される基を有することが好ましい。
−SO3Z (5)
ここで、式(5)中、Zは上記一般式(2)におけるものと同義である。
【0034】
具体的には、エチレン性フルオロモノマーと、化学処理によって上記一般式(5)で表される基に変換される基を有するフッ化ビニルエーテル化合物(以下、単に「フッ化ビニル化合物」という。)とを共重合させることにより上記前駆体を得ることが好ましい。
上記フッ化ビニル化合物としては、下記一般式(6)で表されるフッ化ビニル化合物が好ましい。
CF2=CF(−O−(CF2CFXO)m−(CF2n−SO2F (6)
ここで、式(6)中、Xはフッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、mは0〜5の整数を示し、nは0〜6の整数を示す。ただし、m及びnは同時に0にならない。
【0035】
上記一般式(6)において、Xはフッ素原子であることが好ましい。
従って、上記前躯体は、好ましくは下記一般式(3)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する。
−(CF2CF2)− (3)
−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)m−(CF2n−SO2F))− (4)
(一般式(4)中、X、m及びnは前記一般式(2)におけるものと同義である。)
EWを小さくする観点からは、mは0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。また、本発明により奏する効果がより顕著となる傾向にあるため、nは2又は4であることが好ましく、nは2であることがより好ましい。なお、上記フッ化ビニル化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
上記エチレン性フルオロモノマーとしては、上記式(1)で表されるものが挙げられる。また、所望により、エチレン性フルオロモノマー及びフッ化ビニル化合物に加えて、第3のモノマーを重合してもよい。
【0037】
第1の工程において重合により上記前駆体を得る場合、重合方法としては、例えば、溶液重合;塊状重合;乳化重合;ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合に代表されるエマルジョン重合;及び懸濁重合が挙げられる。
【0038】
溶液重合では、各モノマーのうち少なくとも1種を重合溶媒に溶解した状態で重合する。溶液重合としては、例えば、含フッ素炭化水素などの重合溶媒を用い、この重合溶媒に充填溶解したフッ化ビニル化合物と、エチレン性フルオロモノマーのガスとを重合する方法が挙げられる。上記含フッ素炭化水素としては、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、1、1、1、2、3、4、4、5、5、5−デカフロロペンタンに代表される「フロン」と総称される化合物が好適に用いられる。
【0039】
塊状重合では、重合溶媒を用いずに、モノマー自体を重合溶剤として用いて重合する。塊状重合としては、例えば、フッ化ビニル化合物そのものを重合溶剤として用いてフッ化ビニル化合物を重合する。
【0040】
乳化重合では、界面活性剤の水溶液を重合溶媒として用い、この重合溶媒に各モノマーのうち少なくとも1種を溶解した状態で重合する。乳化重合としては、例えば、界面活性剤の水溶液に充填溶解したフッ化ビニル化合物と、エチレン性フルオロモノマーのガスとを重合する方法が挙げられる。界面活性剤としては特に限定されないが、連鎖移動性の小さいものが好ましく用いられ、例えば、RfZ3で表される乳化剤が用いられる。ここで、Rfは、炭素数4〜20のアルキル基を示し、水素原子の一部又は全部がフッ素で置き換えられており、エーテル性の酸素原子を含んでもよく、エチレン性フルオロモノマーと共重合可能な不飽和結合を有していてもよい。Z3は解離性の極性基を表し、Z3が−COO−M+、又は−SO3−M+であるものが好ましく用いられる。ここで、M+はアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、水素イオン等の1価のカチオンを示す。
【0041】
RfZ3で表される乳化剤としては、例えば、Y(CF2nCOO−M+(nは4〜20の整数を示し、Yはフッ素原子又は水素原子を示す)、CF3−OCF2CF2−OCF2CF2COO−M+、CF3−(OCF(CF3)CF2nCOO−M+(nは1〜3の整数を示す)が挙げられる。
【0042】
エマルジョン重合では、界面活性剤とアルコールなどの助乳化剤とを含有する水溶液に各モノマーのうち少なくとも1種を乳化した状態で重合する。エマルジョン重合としては、例えば、界面活性剤とアルコールなどの助乳化剤とを含有する水溶液を用い、この水溶液に充填乳化した状態のフッ化ビニル化合物とエチレン性フルオロモノマーのガスとを重合する方法が挙げられる。
【0043】
懸濁重合では、懸濁安定剤の水溶液に各モノマーのうち少なくとも1種を懸濁した状態で重合する。懸濁重合としては、例えば、懸濁安定剤の水溶液を用い、この水溶液に充填懸濁した状態のフッ化ビニル化合物とエチレン性フルオロモノマーのガスとを重合する方法が挙げられる。
【0044】
これらの中でも、EWが250〜680のフッ素系高分子電解質をより効率的に得るという観点から、乳化重合及びエマルジョン重合のいずれかが好ましく、エマルジョン重合としては、ミニエマルジョン重合及びマイクロエマルジョン重合のいずれかが好ましい。
【0045】
モノマーとしてエチレン性フルオロモノマー及びフッ化ビニル化合物を用いる場合、フッ素系高分子電解質のEWを250〜680に制御するためには、例えば、モノマー中の上記フッ化ビニル化合物の割合を大きくすることが好ましい。
【0046】
第1の工程では、0〜40℃の重合温度で、上記乳化重合及びエマルジョン重合のいずれかの重合方法により、フッ素系高分子電解質の前駆体を得ることが好ましい。これにより、低湿度でもより高伝導性を示す電極触媒層を最終的に得ることができる。その理由は詳細には明らかにされていないものの、本発明者らは下記のように考えている。すなわち、上記範囲の重合温度で重合反応を行うと、25℃50%RHにおける上記前駆体のイオンクラスター間の距離を特定の範囲、つまり0.1nm以上3.0nm以下、好ましくは0.5nm以上2.8nm以下、より好ましくは1.0nm以上2.6nm以下、更により好ましくは2.0nm以上2.5nm以下に制御することができる結果、低湿度でもより高伝導性を発現する電極触媒層を得ることが可能となると考えられる。上記重合温度は5℃以上であることがより好ましく、35℃以下であることがより好ましい。
【0047】
前記フッ素系高分子電解質の前駆体は、得られる燃料電池の高出力特性を長時間維持する観点から、そのメルトフローレート(以下「MFR」と表記する。)が、10g/10分以下であると好ましく、4.0g/10分以下であるとより好ましい。また、フッ素系高分子電解質を効率的に溶解処理する観点から、MFRが0.1g/10分以上であると好ましく、0.3g/10分以上であるとより好ましい。
【0048】
前駆体のMFRを0.1〜10g/分とするためには、フッ化ビニル化合物とエチレン性フルオロモノマーとを0℃以上40℃以下の温度で乳化重合、マイクロエマルション重合又はミニエマルション重合することが好ましい。上記温度が40℃以下であることにより、ポリマー末端のラジカルがβ転位して重合が停止する不均化反応の速度を小さくでき、分子量の高いポリマーを得やすくなる。上記温度は、より好ましくは35℃以下であり、更に好ましくは30℃以下である。一方、上記温度が0℃以上であることにより、重合速度が速くなり、生産性が向上する。上記温度は、より好ましくは5℃以上であり、更に好ましくは10℃以上である。
【0049】
[第2の工程]
第2の工程では、上記前駆体に化学処理を施してフッ素系高分子電解質を得る。上記化学処理としては、例えば、加水分解処理、酸処理が挙げられる。加水分解処理としては、例えば、上記前駆体を塩基性溶液に浸漬する処理が挙げられる。
【0050】
上記塩基性溶液としては、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましい。その水溶液におけるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の含有量は特に限定されないが、10〜30質量%であることが好ましい。上記塩基性溶液は、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に代表される膨潤性有機化合物を含有することが好ましい。これにより、処理時間の短縮すなわち生産性の向上という効果が奏される。また、塩基性溶液中の膨潤性有機化合物の含有量は、1〜30質量%であることが好ましい。
【0051】
加水分解処理における処理温度は、溶媒の種類、溶媒組成などによって異なるが、その処理温度を高くするほど、処理時間を短くできる。塩基性溶液を用いる場合、処理温度は20〜160℃であると好ましい。処理温度が160℃を超えると前駆体が塩基性溶液に溶解して取り扱いが難しくなる傾向にある。また、フッ素系高分子電解質に高い伝導度を付与する観点から、第2の工程において、加水分解により−SO3Hに変換し得る官能基を全て加水分解処理することが好ましい。この観点及び高い生産性を確保する観点から、加水分解処理の処理時間は0.5〜48時間であると好ましい。
【0052】
[第3の工程]
第3の工程では、上記フッ素系高分子電解質を溶媒に溶解又は懸濁してフッ素系高分子電解質溶液を得る。なお、フッ素系高分子電解質溶液には、フッ素系高分子電解質を溶媒に懸濁して得られるフッ素系高分子電解質懸濁液も包含される。フッ素系高分子電解質溶液の状態として、より具体的には、液体中に液体粒子がコロイド粒子又はそれよりも粗大な粒子として分散して乳状をなす乳濁液、液体中に固体粒子がコロイド粒子又は顕微鏡で見える程度の粒子として分散した懸濁液、巨大分子が分散した状態のコロイド状液体、多数の小分子が分子間力で会合して形成された親液コロイド分散系であるミセル状液体も包含される。フッ素系高分子電解質溶液は、これらのうちの1種の状態であってもをよく、2種以上を組み合わせた状態であってもよい。
【0053】
上記溶媒としてはフッ素系高分子電解質との親和性が良好な溶媒が好ましく、具体的には、水、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、グリセリンに代表されるプロトン性有機溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンに代表される非プロトン性溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。1種の溶媒を用いる場合、溶媒として特に水が好ましい。また、2種以上の溶媒を組み合わせて用いる場合、水とプロトン性有機溶媒との混合液が特に好ましい。
【0054】
フッ素系高分子電解質を溶媒に溶解又は懸濁する方法は、特に限定されない。例えば、まず、フッ素系高分子電解質を溶媒(例えば水とプロトン性有機溶媒との混合溶媒)に添加して組成物を得る。次に、得られた組成物を必要に応じてガラス製内筒を有するオートクレーブ中に収容し、窒素などの不活性気体でオートクレーブ内部の空気を置換した後、内温が50℃〜250℃の条件下、0.25〜12時間で加熱及び攪拌する。これにより、フッ素系高分子電解質溶液が得られる。フッ素系高分子電解質溶液における総固形分濃度は0.5〜50質量%であると好ましく、1〜50質量%であるとより好ましく、3〜40質量%であると更に好ましく、5〜30質量%であると特に好ましい。その総固形分濃度が0.5質量%以上であると、電極触媒層の収率が向上する傾向にあり、50質量%以下であると、粘度の上昇に伴う取扱いの困難性及び未溶解物の発生を抑制できる傾向にある。
【0055】
溶媒として水とプロトン性有機溶媒との混合液を用いる場合、それらの混合比は、溶解方法、溶解条件、フッ素系高分子電解質の種類、総固形分濃度、溶解温度、攪拌速度等に応じて適宜選択される。ただし、プロトン性有機溶媒が多くなると溶液粘度が高くなり、水が多くなると溶解し難くなることから、水に対するプロトン性有機溶媒の質量比が、0.1〜10であると好ましく、0.1〜5であるとより好ましい。
【0056】
上記フッ素系高分子電解質溶液は、第4の工程に供する前に濃縮してもよい。濃縮の方法としては特に限定されない。濃縮の方法としては、例えば、上記フッ素系高分子電解質溶液を、加熱して溶媒を揮発させる方法、減圧濃縮する方法が挙げられる。濃縮して得られるフッ素系高分子電解質溶液における総固形分濃度は0.5〜50質量%であると好ましく、1〜50質量%であるとより好ましく、3〜40質量%であると更に好ましく、5〜30質量%であると特に好ましい。その総固形分濃度が0.5質量%以上であると電極触媒層の収率が向上する傾向にあり、50質量%以下であると、粘度の上昇に伴う取扱いの困難性及び未溶解物の発生を抑制できる傾向にある。
【0057】
上述のようにして得られた未濃縮又は濃縮後のフッ素系高分子電解質溶液を更にろ過することにより、未溶解ポリマー、ゲル化ポリマー、大きな分散ポリマー、又はフッ素系高分子電解質溶液を得るまでの工程中に混入した塵などを取り除くことができる。ろ過に用いるろ材としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースが挙げられる。ろ材の孔径も特に限定されず、例えば、0.5〜100μmの範囲であってもよい。
【0058】
[第4の工程]
第4の工程では、上記フッ素系高分子電解質溶液と上述の複合粒子と溶媒とを混合した混合液すなわち燃料電池用電極触媒組成物(以下「電極触媒組成物」ともいう。)を得る。それらの混合は常法により行われ、溶媒中のフッ素系高分子電解質溶液及び複合粒子の分散性を向上させるために、様々な装置を用いてそれらの分散処理を行ってもよい。上記装置としては、例えば、ホモジナイザー、ボールミル、超音波処理、加圧分散処理が挙げられる。
【0059】
電極触媒組成物の溶媒としては、例えば、水、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシドが挙げられ、好ましくは水、エタノール、1−プロパノールであり、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。電極触媒組成物は、フッ素系高分子電解質のスルホン酸単位モル当りの低級アルコール溶媒量(低級アルコール/SO3H)(モル比)が好ましくは100以上、より好ましくは170以上である。その割合が100以上であることにより、組成物のゲル化が抑制される傾向にある。このゲル化抑制効果は、当量重量が250〜680のフッ素系高分子電解質を含む電極触媒組成物において顕著である。一方、当量重量が700以上のフッ素系高分子電解質を含む電極触媒組成物では、上記割合が100未満でもゲル化は顕著に進行せず、流動性の高いインクが得られる。
【0060】
[第5の工程]
第5の工程では、上記混合液を用いて高分子電解質膜上に電極触媒層を形成する。本実施形態の電極触媒層は、上記フッ素系高分子電解質溶液と複合粒子とを含有する混合液である電極触媒組成物を、高分子電解質膜、好ましくはフッ素系高分子電解質膜上に塗布して、更に乾燥及び熱処理を施すことで形成される。
あるいは、上記電極触媒組成物を基材上、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上に塗布して、更に乾燥及び熱処理を施して電極触媒層を得た後、その電極触媒層を高分子電解質膜に積層して接合することによって、本実施形態の電極触媒層が形成される。この場合、電極触媒層と高分子電解質膜とをその積層方向に100〜200℃で加熱プレスすることにより、それらを接合することができる。
【0061】
電極触媒組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法等の一般的に知られている各種塗布方法を用いることが可能である。
【0062】
上述のようにして得られた本実施形態の電極触媒層の耐熱水溶解性を向上させる観点から、第5の工程で電極触媒層を得た後に電極触媒層に対して熱処理を施すことが好ましい。この熱処理における電極触媒層の加熱温度は、130〜200℃であると好ましく、150〜180℃であるとより好ましい。加熱温度は、電極触媒層の熱水への溶解抑制、電池性能の観点から130℃以上、高分子電解質の熱酸化分解抑制の観点から200℃以下が好ましい。
【0063】
また、この熱処理における電極触媒層の加熱時間は、5〜120分であると好ましく、10〜90分であるとより好ましい。加熱時間は、電極触媒層の熱水への溶解抑制、電池性能の観点から5分以上、高分子電解質の熱酸化分解抑制の観点から120分以下が好ましい。
【0064】
本実施形態の膜電極接合体は、上記本実施形態の電極触媒層をアノード触媒層及び/又はカソード電極層として備える以外は、従来の膜電極接合体と同様の構成を有していればよい。例えば、本実施形態の膜電極接合体は、高分子電解質膜と、その高分子電解質膜の両面に接合されたアノード触媒層とカソード触媒層とを備え、上記アノード触媒層及びカソード電極層の少なくとも一方が、本実施形態の電極触媒層である。本実施形態の膜電極接合体は、高い耐熱水溶解性を示す本実施形態の電極触媒層を備えることにより、その膜電極接合体を備えた燃料電池に高温低加湿条件下であっても高出力特性を付与することができるという効果を奏する。なお、いずれか一方の電極触媒層として本実施形態の電極触媒層を用いる場合、カソード触媒層として本実施形態の電極触媒層を用いることが、電圧特性の観点から好ましい。
【0065】
本実施形態の膜電極接合体が備える高分子電解質膜の種類としては特に限定されないが、その膜電極接合体が備える電極触媒層を構成する高分子電解質と同じ分子構造を有する高分子電解質を含有する高分子電解質膜が好ましく、本実施形態の電極触媒層を構成するフッ素系高分子電解質と同じ分子構造を有するフッ素系高分子電解質を含有する高分子電解質膜がより好ましい。
【0066】
また、このような高分子電解質膜は、ポリアゾール及び/又はチオエーテル基を有するポリマーを0.1〜10質量%含有するか、それに代えて/加えて、公知の活性ラジカルスカベンジャーH22分解触媒作用を有する物質を含有することが、化学的安定性の観点から好ましい。また、公知の補強材で補強された膜であってもよい。なお、公知の炭化水素電解質を含有する電解質膜であっても、必要に応じて、その接合に、イオン伝導に影響のない接着層等設けるなどの工夫を施すことによって、本実施形態に係る高分子電解質膜として用いることができる。
【0067】
更に、このような高分子電解質膜のEWとしては特に制限はないが、250〜1100であることが好ましく、250〜680であるとより好ましい。膜厚としては、1〜500μmであると好ましく、2〜100μmであるとより好ましく、5〜50μmであると更に好ましい。
【0068】
本実施形態の膜電極接合体は、更に必要に応じて、各電極触媒層の外側に一対のガス拡散層を備えてもよい。
本実施形態のMEAは、高分子電解質膜上に電極触媒層を接合することにより得られる。なお、そのMEAがガス拡散層を備える場合も、電極触媒層と高分子電解質膜とを接合するのと同様に、電極触媒層に加熱プレスしてガス拡散層を接合すればよい。
【0069】
本実施形態の固体高分子型燃料電池は、上記本実施形態の膜電極接合体を備える以外は、バイポーラプレート、バッキングプレートといった一般的な固体高分子型燃料電池に用いられる構成要素を備えることができる。
【0070】
このうちバイポーラプレートは、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流動させるための溝を形成したグラファイト又はグラファイトと樹脂との複合材料、金属製のプレート等のことである。バイポーラプレートは、電子を外部負荷回路へ伝達する機能を有する他に、燃料や酸化剤を電極触媒近傍に供給する流路としての機能を有している。
【0071】
例えば、一対のバイポーラプレートとそれらのバイポーラプレートの間に挿入したMEAとを備える複合体を複数積み重ねることにより、本実施形態の固体高分子型燃料電池が作製される。
【0072】
固体高分子型燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素又は空気を供給することによって行われる。
【0073】
本実施形態に係る固体高分子型燃料電池は、運転温度80〜120℃、湿度60%RH以下という高温低加湿条件下であっても、良好な出力特性を有している。
【0074】
さらに、本実施形態に係る固体高分子型燃料電池は、
プロトン伝導性高分子電解質膜の片面に燃料極、もう一方の面に空気極が各々配置された膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池であって、
前記燃料極及び空気極は、触媒とプロトン伝導性フッ素系高分子電解質とを含有するガス拡散電極であり、
運転温度をT℃としたときに下記式(7)を満たす固体高分子型燃料電池である。
燃料ガス及び/又は空気ガスの加湿温度が(T−15)℃であるときの単位電流密度(A/cm2)≧燃料ガス及び/又は空気ガスの加湿温度がT℃であるときの単位電流密度(A/cm2) (7)
【0075】
ここで、燃料極とは上述したアノード触媒層とガス拡散層を有するガス拡散電極のことを言い、空気極とは上述したカソード触媒層とガス拡散層を有するガス拡散電極のことを言う。
【0076】
固体高分子型燃料電池は、運転電圧を0.7Vの定電圧で20時間保持した後、前記式(7)を満たすことが好ましい。
【0077】
また、固体高分子型燃料電池に使用されるプロトン伝導性高分子電解質膜は、プロトン伝導性フッ素系高分子電解質を含むことが好ましい。
【0078】
さらに、ここでの固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体は、上述した本実施形態の燃料電池用電極触媒層を備える膜電極接合体であってもよい。
【0079】
本実施形態の電極触媒層は、燃料電池の電極触媒層としての用途の他、クロルアルカリ、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に備えられる電極触媒層として用いることも可能である。
【0080】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は、上記形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。例えば、上記電極触媒層の製造方法の第1の工程において、前駆体に架橋剤を含ませることにより、後の工程において分子間に少量の架橋を施して、溶出成分を低減させてもよい。この場合、例えば成膜後に、微少量の分子間の−SO3H間で架橋構造を形成してもよい。また、成膜後に適度な加熱により架橋反応を進行させることで、フッ素系高分子電解質の分子間で−SO3H以外の任意の位置に架橋構造を形成してもよい。この場合、フッ素系高分子電解質以外に電極触媒層に含まれる高分子間の任意の位置における架橋反応と共に反応を進行させてもよい。
【0081】
また、フッ素系高分子電解質の耐久性を改善するために、第1の工程により得られたフッ素系高分子電解質の前駆体が有する不安定末端基を、第2の工程よりも前に、安定化処理してもよい。上記前駆体が有する不安定末端基としては、カルボン酸基(−COOH)、カルボン酸塩の基(−COOM;Mは塩を形成する金属原子)、カルボン酸エステル基(−COOR;Rは1価の有機基)、カーボネート基(−OCOOR;Rは1価の有機基)、アルキル基及びメチロール基(−CH2OH)が挙げられる。不安定末端基は、第1の工程における重合方法や、その重合方法に用いられる開始剤、連鎖移動剤、重合停止剤の種類等によって変化する。例えば、重合方法として乳化重合を選択し、連鎖移動剤を用いない場合には、不安定末端基はそのほとんどがカルボン酸基となる。
上記前駆体が有する不安定末端基を安定化する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、前駆体をフッ素化剤で処理して不安定末端基を−CF3に変換して安定化する方法、前駆体を加熱脱炭酸して不安定末端基を−CF2Hに変換して安定化する方法が挙げられる。
【0082】
また、第3の工程よりも前に、第2の工程により得られたフッ素系高分子電解質を必要に応じて温水などで十分に洗浄した後、そのフッ素系高分子電解質に更に酸処理を施すことにより、プロトン化されたフッ素系高分子電解質を得ることも好ましい。酸処理に用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸(無機酸)類、シュウ酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸類が挙げられる。
【0083】
なお、上述の各種パラメータについては、特に断りの無い限り、後述する実施例に記載された測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0084】
以下、本実施形態を実施例に基づいて具体的に説明するが、本実施形態は下記実施例に制限されるものではない。
【0085】
(EWの測定)
スルホン酸基の対イオンがプロトンの状態となっており、一方の主面の面積がおよそ2〜20cm2のフッ素系高分子電解質膜を、25℃で飽和NaCl水溶液30mLに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した。次いで、その飽和NaCl水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和滴定後に得られたスルホン酸基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっている電解質膜を純水ですすぎ、更に真空乾燥した後に秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、スルホン酸基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっている電解質膜の質量をW(mg)とし、下記式(A)より当量重量EW(g/eq)を求めた。
EW=(W/M)−22 (A)
【0086】
(メルトフローレート(MFR)の測定)
フッ素系高分子電解質の前駆体のMFRは、ASTM規格D1238に従って、270℃、荷重2.16kgの条件下で、MELT INDEXER TYPE C−5059D(商品名、東洋精機社製)を用いて測定した。MFRの単位として、押し出された前駆体の質量を10分間当たりのグラム数で表した。
【0087】
(伝導度測定)
日本ベル(株)社製の高分子膜水分量試験装置MSB−AD−V−FC(商品名)を用いて、フッ素系高分子電解質膜の伝導度を測定した。
【0088】
(90℃熱水溶解試験)
フッ素系高分子電解質膜を23℃、50%RHの恒温恒湿室に24時間静置後、秤量して処理前質量とした。次いで、その電解質膜を90℃の熱水中に浸漬して5時間の熱処理を施した。次に、電解質膜を浸漬した状態で熱水を冷却した後、電解質膜を水中から取り出し、23℃、50%RHの恒温恒湿室に24時間静置後、秤量して処理後質量とした。この処理後質量は処理後電解質の質量に該当する。下記式(B)により、電解質膜の質量減少率を算出した。質量減少率の数値が低いほど耐熱水溶解性が高いことを示す。
質量減少率(%)=(処理前質量−処理後質量)/処理前質量×100 (B)
【0089】
(燃料電池評価)
後述のようにして作製した電極触媒層(フッ素系高分子電解質膜)及び膜電極接合体の電池特性(以下「初期特性」という)を調べるため、下記のような燃料電池評価を実施した。
まず、アノード側ガス拡散層とカソード側ガス拡散層とを対向させて、それらの間に下記のようにして作製したMEAを挟み込み、評価用セルに組み込んだ。アノード側及びカソード側のガス拡散層として、カーボンクロス(米国DE NORA NORTH AMERICA社製、ELAT(登録商標)B−1)を用いた。この評価用セルを評価装置((株)チノー社製)に設置して80℃に昇温した後、アノード側に水素ガスを300cc/分、カソード側に空気ガスを800cc/分で流し、アノード側及びカソード側共に常圧または0.15MPa(絶対圧力)に加圧した。それらのガスは、予め加湿されたものであり、水バブリング方式により、水素ガス及び空気ガス共に所望の温度で加湿して評価用セルへ供給した。そして、セル温度80℃、所望の加湿度の条件下、評価用セルを0.7Vの電圧で20時間保持した後、電流を測定した。
【0090】
[実施例1]
CF2=CF2及びCF2=CF−O−(CF22−SO3Hに由来する繰り返し単位を有し、EWが560のフッ素系高分子電解質を下記のように調製した。
攪拌翼と温調用ジャケットとを備えた内容積6リットルのSUS−316製耐圧容器に、逆浸透膜水2970g、C715COONH460g、及びCF2=CFOCF2CF2SO2F 510gを仕込んだ。次いで、その系内を窒素で置換した後に真空とし、その後、テトラフルオロエチレン(TFE)を内圧が0.2MPaGになるまで導入した。次に、耐圧容器内の混合液を400rpmで攪拌しながら、内温が38℃になるように温度を調整し、爆発防止材としてのCF4を0.1MPaG導入した後、内圧が0.58MPaGとなるように更にTFEを導入した。続いて、(NH42286gを20gの水に溶解させたものを系内に導入し、重合を開始した。その後、耐圧容器の内圧を0.57MPaGに維持するようにTFEを随時追加した。
【0091】
重合開始から110分後、追加のTFEを合計で164g導入した時点でTFEを放圧し、重合を停止した。得られた重合液3500gに水3500gを追加し、更に硝酸を加えてポリマーを凝析させた。凝析したポリマーを濾過した後、水の追加によるポリマーの再分散と濾過とを3回繰り返した。そして、熱風乾燥器を用いてポリマーを90℃で12時間、引き続き120℃で12時間乾燥し、380gのポリマーを得た。
【0092】
上記ポリマーのうち280gを、素早く1Lのハステロイ製振動反応器(大河原製作所製)に仕込み、真空排気しながら、振動数50rpmで振動させつつ100℃に昇温した。その後、窒素をゲージ圧で0.05MPaGの圧力になるまで反応器に導入した。引き続き、フッ素ガスを窒素ガスで20質量%に希釈し得られたガス状ハロゲン化剤をゲージ圧が0.00MPaGの圧力になるまで反応器に導入して、30分間保持した。
次いで、反応器内のガス状ハロゲン化剤を排気し、真空引きした後、フッ素ガスを窒素ガスで20質量%に希釈し得られたガス状ハロゲン化剤をゲージ圧が0.00MPaGの圧力になるまで反応器に導入して、3時間保持した。
その後、反応器を室温まで冷却し、反応器内のガス状ハロゲン化剤を排気し、真空引き、窒素置換を3回繰り返した後、反応器を開放し、280gの前駆体を得た。
得られた前駆体のMFRは2.9g/10分であった。
【0093】
このようにして得られたフッ素系高分子電解質の前駆体を、水酸化カリウム(18質量%)とメチルアルコール(45質量%)とを溶解した水溶液に、80℃で20時間接触させて、加水分解処理を行った。得られた加水分解処理物を、イオン交換水で水洗した。次に、60℃の2N塩酸水溶液に加水分解処理物を1時間浸漬させる処理を、毎回塩酸水溶液を交換して5回繰り返した後、イオン交換水で加水分解処理物を水洗、乾燥し、フッ素系高分子電解質を得た。
このフッ素系高分子電解質を混合液であるエタノール水溶液(水:エタノール=50.0:50.0(質量比))とともに5Lオートクレーブのガラス製内筒中に導入して密閉し、それらを撹拌翼で攪拌しながら、164℃まで内筒内を昇温して7時間保持した。その後、内筒内を自然に冷却して、固形分濃度5.5質量%の組成分布が均一なフッ素系高分子電解質溶液AS1を得た。
【0094】
この電解質溶液AS1を80℃にて減圧濃縮して得た固形分濃度13質量%のフッ素系高分子電解質溶液AS2(フッ素系高分子電解質/エタノール/水=13/5/82(質量比))をガラス板上に注いで塗布(キャスト)した。次に、電解質溶液AS2をキャストしたガラス板をオーブンに入れて60℃で30分間予備乾燥した後、80℃で30分間乾燥させて溶媒を除去し、さらに160℃で1時間の熱処理を施し、膜厚約33μmのフッ素系高分子電解質膜を得た。
【0095】
このフッ素系高分子電解質膜のEWは560であった。また、110℃、40%RHにおけるその電解質膜の伝導度を測定したところ、0.10S/cmと高い伝導度が得られた。この電解質膜について、90℃熱水溶解試験を行ったところ、質量減少率は0.1質量%であった。
【0096】
上記電解質溶液AS2を用いて、下記のようにして電極触媒層を製造した。
触媒粒子である白金(Pt)粒子を導電性粒子であるカーボン粒子に担持した複合粒子であるPt担持カーボン(田中貴金属(株)社製、商品名「TEC10E40E」、Pt36.0質量%担持)粒子0.70gに対し、上記電解質溶液AS2 2.22gとエタノール8.08gとを添加した後、それらをホモジナイザーで十分に混合して電極触媒組成物を得た。この電極触媒組成物は、エタノール/SO3H(mol比)が350であり、ゲル化のない流動性の高いインクであった。一方、エタノール/SO3H(mol比)が90である電極触媒組成物はゲル化が進行し、流動性の非常に低いインクであり、均質な電極触媒層を製造することが困難であった。この電極触媒組成物をスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布後、空気中、室温下で1時間、続いて160℃で1時間、乾燥した。このようにして、PTFEシート上に厚み10μm程度の電極触媒層を得た。これらの電極触媒層のうち、Pt担持量が0.15mg/cm2のものをアノード触媒層(厚み:5μm)として、Pt担持量が0.30mg/cm2のものをカソード触媒層(厚み:10μm)として、それぞれ用いた。
【0097】
上記のアノード触媒層とカソード触媒層とを対向させて、高分子電解質膜(商品名「Aciplex SF7202」、旭化成ケミカルズ株式会社製)をそれらの間に挟み込み、180℃、面圧0.1MPaの条件でホットプレスを施すことにより、アノード触媒層とカソード触媒層とを高分子電解質膜に転写、接合してMEAを作製した。
【0098】
このMEAを用いて、燃料電池評価を上述のようにして行った。その結果、セル温度80℃、65℃の飽和水蒸気圧(湿度53%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.42A/cm2となり、高い電流密度を示した。その後、セル温度80℃、50℃の飽和水蒸気圧(湿度26%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.39A/cm2となり、より低い湿度条件においても高い電流密度を保持していた。一方、セル温度80℃、80℃の飽和水蒸気圧(湿度100%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.23A/cm2となり、より高い湿度条件では電流密度は低下した。
【0099】
[実施例2]
攪拌翼と温調用ジャケットとを備えた内容積6リットルのSUS−316製耐圧容器に、逆浸透膜水2980g、C715COONH460g、及びCF2=CFOCF2CF2SO2F 943gを仕込んだ。次いで、その系内を窒素で置換した後に真空とし、その後、TFEを内圧が0.2MPaGになるまで導入した。次に、耐圧容器内の混合液を400rpmで攪拌しながら、内温が38℃になるように温度を調整し、爆発防止材としてのCF4を0.1MPaG導入した後、内圧が0.50MPaGとなるように更にTFEを導入した。続いて、(NH42286gを20gの水に溶解させたものを系内に導入し、重合を開始した。その後、耐圧容器の内圧を0.51MPaGに維持するようにTFEを随時追加した。
【0100】
重合開始から408分後、追加のTFEを合計で381g導入した時点でTFEを放圧し、重合を停止した。得られた重合液4260gに水4400gを追加し、更に硝酸を加えてポリマーを凝析させた。凝析したポリマーを濾過した後、水の追加によるポリマーの再分散と濾過とを3回繰り返した。そして、熱風乾燥器を用いてポリマーを90℃で12時間、引き続き120℃で12時間乾燥し、893gの前駆体を得た。
得られた前駆体のMFRは16g/10分であった。
【0101】
その前駆体から、実施例1と同様にしてフッ素系高分子電解質を得た。そのフッ素系高分子電解質を用いた以外は実施例1と同様にして、フッ素系高分子電解質溶液AS4及びフッ素系高分子電解質膜を作製した。その電解質膜のEWを測定したところ、520であった。また、その電解質膜の伝導度を測定したところ、110℃、40%RHで0.12S/cmと高い伝導度が得られた。この電解質膜について、90℃熱水溶解試験を行ったところ、質量減少率は5.2質量%であった。
【0102】
さらに、上記電解質溶液AS2に代えて電解質溶液AS4を用いた以外は実施例1と同様にして、MEAを作製した。
このMEAを用いて、燃料電池評価を上述のようにして行った。その結果、セル温度80℃、65℃の飽和水蒸気圧(湿度53%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.30A/cm2となった。その後、セル温度80℃、50℃の飽和水蒸気圧(湿度26%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.19A/cm2となった。高分子電解質の前駆体が高いMFRを示すことに起因して、より低加湿条件下では、実施例1と比べて劣る結果になったものと考えられる。一方、セル温度80℃、80℃の飽和水蒸気圧(湿度100%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.05A/cm2であった。
【0103】
[実施例3]
実施例1記載の電解質溶液AS2をガラス板上に注いで塗布(キャスト)した。次に、電解質溶液AS2をキャストしたガラス板をオーブンに入れて60℃で30分間予備乾燥した後、80℃で30分間乾燥させて溶媒を除去し、さらに120℃で1時間の熱処理を施し、膜厚約32μmのフッ素系高分子電解質膜を得た。
このフッ素系高分子電解質膜のEWは560であった。この電解質膜について、90℃熱水溶解試験を行ったところ、質量減少率は8.7質量%であった。
電極触媒層およびMEAの製造において、電極組成物を塗布後、空気中室温下で1時間、続いて120℃で1時間乾燥した以外は、すべて実施例1と同様にして電極触媒層およびMEAを作製した。このMEAを用いて、燃料電池評価を上述のようにして行った。その結果、セル温度80℃、65℃の飽和水蒸気圧(湿度53%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.26A/cm2となった。その後、セル温度80℃、50℃の飽和水蒸気圧(湿度26%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.14A/cm2となった。高分子電解質膜の熱処理条件に起因して、より低加湿条件下では、実施例1と比べて劣る結果になったものと考えられる。一方、セル温度80℃、80℃の飽和水蒸気圧(湿度100%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.03A/cm2であった。
【0104】
[実施例4]
実施例1記載の電解質溶液AS2をガラス板上に注いで塗布(キャスト)した。次に、電解質溶液AS2をキャストしたガラス板をオーブンに入れて60℃で30分間予備乾燥した後、80℃で30分間乾燥させて溶媒を除去し、さらに160℃で1分の熱処理を施し、膜厚約32μmのフッ素系高分子電解質膜を得た。
このフッ素系高分子電解質膜のEWは560であった。この電解質膜について、90℃熱水溶解試験を行ったところ、質量減少率は10.2質量%であった。
電極触媒層およびMEAの製造において、電極組成物を塗布後、空気中室温下で1時間、続いて160℃で1分乾燥した以外は、すべて実施例1と同様にして電極触媒層およびMEAを作製した。このMEAを用いて、燃料電池評価を上述のようにして行った。その結果、セル温度80℃、65℃の飽和水蒸気圧(湿度53%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.22A/cm2となった。その後、セル温度80℃、50℃の飽和水蒸気圧(湿度26%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.10A/cm2となった。高分子電解質膜の熱処理条件に起因して、より低加湿条件下では、実施例1に劣る結果になったものと考えられる。一方、セル温度80℃、80℃の飽和水蒸気圧(湿度100%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.03A/cm2であった。
【0105】
[比較例1]
攪拌翼と温調用ジャケットとを備えた内容積189リットルのSUS−316製耐圧容器に、逆浸透膜水90.5kg、C715COONH40.945g、及びCF2=CFOCF2CF2SO2F 5.68kgを仕込んだ。次いで、その系内を窒素で置換した後に真空とし、その後、TFEを内圧が0.2MPaGになるまで導入した。次に、耐圧容器内の混合液を189rpmで攪拌しながら、内温が47℃になるように温度を調整し、爆発防止材としてのCF4を0.1MPaG導入した後、内圧が0.70MPaGとなるように更にTFEを導入した。続いて、(NH422847gを3Lの水に溶解させたものを系内に導入し、重合を開始した。その後、耐圧容器の内圧を0.7MPaGに維持するようにTFEを随時追加した。その際、TFEを1kg供給する毎に、CF2=CFOCF2CF2SO2Fを0.7kg供給して重合を継続した。
【0106】
重合開始から360分後、追加のTFEを合計で24kg導入した時点でTFEを放圧し、重合を停止した。得られた重合液140kgに水200kgを追加し、更に硝酸を加えてポリマーを凝析させた。凝析したポリマーを遠心分離し、イオン交換水を流通させて洗浄した後、熱風乾燥器により90℃で24時間、引き続き150℃で24時間乾燥し、34kgのポリマーを得た。
【0107】
上記ポリマーのうち28kgを、素早く50Lのハステロイ製振動反応器(大河原製作所製)に仕込み、真空排気しながら、振動数50rpmで振動させつつ100℃に昇温した。その後、窒素をゲージ圧で0.05MPaGの圧力になるまで反応器に導入した。引き続き、フッ素ガスを窒素ガスで20質量%に希釈し得られたガス状ハロゲン化剤をゲージ圧が0.00MPaGの圧力になるまで反応器に導入して、30分間保持した。
次いで、反応器内のガス状ハロゲン化剤を排気し、真空引きした後、フッ素ガスを窒素ガスで20質量%に希釈し得られたガス状ハロゲン化剤をゲージ圧が0.00MPaGの圧力になるまで反応器に導入して、3時間保持した。
その後、反応器を室温まで冷却し、反応器内のガス状ハロゲン化剤を排気し、真空引き、窒素置換を3回繰り返した後、反応器を開放し、28kgの前駆体を得た。
得られた前駆体のMFRは3.0g/10分であった。
【0108】
その前駆体から、実施例1と同様にしてフッ素系高分子電解質を得た。そのフッ素系高分子電解質を用いた以外は実施例1と同様にして、フッ素系高分子電解質溶液AS3及びフッ素系高分子電解質膜を作製した。その電解質膜のEWを測定したところ、720であった。また、その電解質膜の伝導度を測定したところ、110℃、40%RHで0.04S/cmと高い伝導度が得られなかった。この電解質膜について、90℃熱水溶解試験を行ったところ、質量減少率は0.1質量%であった。
【0109】
さらに、上記電解質溶液AS2に代えて電解質溶液AS3を用いた以外は実施例1と同様にして、MEAを作製した。
このMEAを用いて、燃料電池評価を上述のようにして行った。その結果、セル温度80℃、65℃の飽和水蒸気圧(湿度53%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.30A/cm2となり、実施例1のMEAに比べて電流密度が低くなった。その後、セル温度80℃、50℃の飽和水蒸気圧(湿度26%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.12A/cm2となり、より低い湿度条件においてはより低い電流密度しか得られなかった。一方、セル温度80℃、80℃の飽和水蒸気圧(湿度100%RHに相当)の条件下、0.7Vの電圧で20時間保持した後の電流密度は0.37A/cm2であり、より高い湿度条件において電流密度は増大した。
【0110】
これらの結果から、以下の内容を読み取ることができる。
(1)本実施形態の電極触媒層及びMEAは、低加湿条件下で高い電池性能を有する燃料電池を実現し得る。
(2)前駆体のMFRを適切に設定することは、高温低加湿条件下での良好な出力性能を維持する観点から好ましい。
(3)高分子電解質膜の熱処理を適切に行うことは、高温低加湿条件下での良好な出力性能を維持する観点から好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の電極触媒層及び膜電極接合体は、例えば、電池運転温度80〜120℃、湿度60%RH以下という高温低加湿条件下であっても、高性能な固体高分子形燃料電池を提供できる。また、本発明の電極触媒層は、ダイレクトメタノール型燃料電池を含めた各種燃料電池、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、当量重量が250〜680であるプロトン伝導性フッ素系高分子電解質と、導電性粒子上に触媒粒子を担持した複合粒子と、を含む燃料電池用電極触媒層。
−(CF2CF2)− (1)
−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)m−(CF2n−SO3Z))− (2)
(一般式(2)中、Xはフッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、mは0〜5の整数を示し、nは0〜6の整数を示す。ただし、m及びnは同時に0にならない。Zはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子、又は水素原子を示す。)
【請求項2】
前記mが0であり、前記nが2であり、前記Zが水素原子である、請求項1記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項3】
前記フッ素系高分子電解質は、下記一般式(3)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する前駆体から得られるものであり、
前記前駆体のメルトフローレートが10.0g/10分以下であり、
前記フッ素系高分子電解質を90℃の熱水中に5時間静置して得られる処理後電解質の質量保持率が、前記フッ素系高分子電解質の質量に対して97質量%以上である、請求項1又は2記載の燃料電池用電極触媒層。
−(CF2CF2)− (3)
−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)m−(CF2n−SO2F))− (4)
(一般式(4)中、X、m及びnは前記一般式(2)におけるものと同義である。)
【請求項4】
前記触媒粒子に対する前記フッ素系高分子電解質の質量比が0.1〜10である、請求項1〜3のいずれか1項記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び前記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、当量重量が250〜680であるプロトン伝導性フッ素系高分子電解質と、導電性粒子上に触媒粒子を担持した複合粒子と、低級アルコールと、を含み、前記フッ素系高分子電解質のスルホン酸単位モル当りの低級アルコール溶媒量(低級アルコール/SO3H)(mol比)が100以上である、燃料電池用電極触媒組成物。
【請求項6】
前記mが0であり、前記nが2であり、前記Zが水素原子である、請求項5記載の燃料電池用電極触媒組成物。
【請求項7】
前記フッ素系高分子電解質は、前記一般式(3)で表される繰り返し単位、及び前記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する前駆体から得られるものであり、
前記前駆体のメルトフローレートが10.0g/10分以下であり、
前記フッ素系高分子電解質を90℃の熱水中に5時間静置して得られる処理後電解質の質量保持率が、前記フッ素系高分子電解質の質量に対して97質量%以上である、請求項5又は6記載の燃料電池用電極触媒組成物。
【請求項8】
前記触媒粒子に対する前記フッ素系高分子電解質の質量比が0.1〜10である、請求項5〜7のいずれか1項記載の燃料電池用電極触媒組成物。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項記載の燃料電池用電極触媒組成物から形成された燃料電池用電極触媒層。
【請求項10】
請求項1〜4、9のいずれか1項記載の燃料電池用電極触媒層を備える膜電極接合体。
【請求項11】
請求項10記載の膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池。
【請求項12】
プロトン伝導性高分子電解質膜の片面に燃料極、もう一方の面に空気極が各々配置された膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池であって、
前記燃料極及び空気極は、触媒とプロトン伝導性フッ素系高分子電解質とを含有するガス拡散電極であり、
運転温度をT℃としたときに下記式(7)を満たす固体高分子型燃料電池。
燃料ガス及び/又は空気ガスの加湿温度が(T−15)℃であるときの単位電流密度(A/cm2)≧燃料ガス及び/又は空気ガスの加湿温度がT℃であるときの単位電流密度(A/cm2) (7)
【請求項13】
運転電圧を0.7Vの定電圧で20時間保持した後、前記式(7)を満たす、請求項12記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項14】
前記プロトン伝導性高分子電解質膜がプロトン伝導性フッ素系高分子電解質を含む、請求項12又は13記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項15】
前記膜電極接合体が請求項10記載の膜電極接合体である、請求項12〜14のいずれか1項記載の固体高分子型燃料電池。

【公開番号】特開2010−225585(P2010−225585A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43333(P2010−43333)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部 共同研究「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発 定置用燃料電池システムの低コスト化・高性能化のための電池スタック主要部材に関する基盤研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】