説明

燃料電池用電解質膜、膜電極接合体、燃料電池および燃料電池用電解質膜の製造方法

【課題】クロスリークを低減させることができる燃料電池用電解質膜、膜電極接合体、燃料電池および燃料電池用電解質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】膜電極接合体は、燃料電池用電解質膜2と、アノードガス拡散電極と、カソードガス拡散電極とを備えている。燃料電池用電解質膜2は、リン酸を含有する塩基性ポリマーから形成された第1の電解質膜5と、リン酸を含有する塩基性ポリマーから形成され、第1の電解質膜5を挟み込むように形成された第2の電解質膜6および第3の電解質膜7とから構成されている。さらに、第1の電解質膜5が含有するリン酸の濃度は、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7が含有するリン酸の濃度よりも高い。第1の電解質膜5はゾルゲル膜であり、第2の電解質膜6はリン酸含浸キャスト膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形の燃料電池用電解質膜、該燃料電池用電解質膜を備えた膜電極接合体、該膜電極接合体を備えた燃料電池、および燃料電池用電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のクリーンエネルギーとして、燃料電池が注目されている。燃料電池のうち、固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell、PEFC)は、基本部品として、アノードガス拡散電極、イオン伝導性を有する高分子膜(電解質膜)およびカソードガス拡散電極を貼り合わせて一体化した膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)を有する。
【0003】
燃料電池用の電解質膜としては、塩基性ポリマーと強酸との複合体を有する膜、例えばリン酸をドープしたポリベンズイミダゾールの高分子膜が注目されている。特許文献1には、リン酸をドープした膜を用いた燃料電池は、燃料の加湿をすることなく、100℃を越える温度で操作できることが記載されている。また、電解質膜に使用するポリマーとして、ポリベンズイミダゾールが好適であることも知られている。
【0004】
しかし、リン酸をドープした場合の電解質膜は、通常ゾルゲル状であり、プレス時等において損傷し易い。そこで、特許文献1には、プレス時における、圧力板、膜電極接合体ならびに高分子膜への損傷を低減させるための、非圧縮性保護層およびシムを利用した膜電極接合体の製造方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−507082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレス時において、特許文献1に記載の製造方法のように非圧縮性保護層およびシムを利用すると、高分子膜への損傷の多少の低減は可能である。しかし、電極を構成するガス拡散層(Gas Diffusion Layer、GDL)の寸法精度のバラつきが大きいことから、ガス拡散電極の高分子膜への突き刺しによる損傷を低減させることは困難である。その結果、クロスリーク(リーク電流)が生じ、耐久性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、クロスリークを低減させることができる燃料電池用電解質膜、膜電極接合体、燃料電池および燃料電池用電解質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る燃料電池用電解質膜は、リン酸を含有する塩基性ポリマーから形成された第1の電解質膜と、
リン酸を含有する塩基性ポリマーから形成され、前記第1の電解質膜を挟み込むように形成された第2の電解質膜および第3の電解質膜と、を備え、
前記第1の電解質膜が含有するリン酸の濃度は、前記第2の電解質膜および前記第3の電解質膜が含有するリン酸の濃度よりも高いことを特徴とする。
【0009】
前記第1の電解質膜はゾルゲル膜であり、前記第2の電解質膜および前記第3の電解質膜はリン酸含浸キャスト膜であることが好ましい。
【0010】
前記塩基性ポリマーは、ポリベンズイミダゾール類であることがさらに好ましい。
【0011】
前記第2の電解質膜および前記第3の電解質膜は、膜の平面方向において前記第1の電解質膜の端部より外方に広がっており、前記第2の電解質膜および前記第3の電解質膜の端部により前記第1の電解質膜が封止されていることが最も好ましい。
【0012】
本発明の第2の観点に係る膜電極接合体は、第1の観点に係る燃料電池用電解質膜と、前記燃料電池用電解質膜の一方面に積層されたアノードガス拡散電極と、前記燃料電池用電解質膜の他方面に積層されたカソードガス拡散電極とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の観点に係る燃料電池は、第2の観点に係る膜電極接合体と、前記膜電極接合体の前記アノードガス拡散電極に当接され燃料ガス流路が形成されたアノード側セパレータと、前記膜電極接合体の前記カソードガス拡散電極に当接され酸化剤ガス流路が形成されたカソード側セパレータとを備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の観点に係る燃料電池用電解質膜の製造方法は、リン酸を含有した塩基性ポリマーを成膜することにより第1の電解質膜を製造する第1の電解質膜製造工程と、
成膜した塩基性ポリマーに前記第1の電解質膜よりも低濃度のリン酸を含有した第2の電解質膜を製造する第2の電解質膜製造工程と、
成膜した塩基性ポリマーに前記第1の電解質膜よりも低濃度のリン酸を含有した第3の電解質膜を製造する第3の電解質膜製造工程と、
前記第1の電解質膜を、前記第2の電解質膜と前記第3の電解質膜とで挟み込み電解質膜を製造する電解質膜製造工程と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
前記第1の電解質膜製造工程では、ゾルゲル法により前記第1の電解質膜を成膜し、
前記第2の電解質膜製造工程では、キャスト法により成膜後リン酸溶液に含浸することにより前記第2の電解質膜を製造し、
前記第3の電解質膜製造工程では、キャスト法により成膜後リン酸溶液に含浸することにより前記第3の電解質膜を製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クロスリークを低減させることができる燃料電池用電解質膜、膜電極接合体、燃料電池および燃料電池用電解質膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の燃料電池用電解質膜を備える膜電極接合体の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の燃料電池用電解質膜を備える膜電極接合体のさらに好適な一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の燃料電池用電解質膜を備える燃料電池の一実施形態を示す断面図である。
【図4】図3の燃料電池の発電機能を示す斜視図である。
【図5】比較例に係る膜電極接合体の構成を示す断面図である。
【図6】実施例および比較例に係る膜電極接合体の実験結果を示す図である。
【図7】本発明の燃料電池用電解質膜を備える膜電極接合体の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の燃料電池用電解質膜を備える膜電極接合体、燃料電池用電解質膜の製造方法、および、燃料電池を詳細に説明する。
【0019】
(燃料電池用電解質膜を備える膜電極接合体)
図1は、本発明の燃料電池用電解質膜を備える膜電極接合体の一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、燃料電池に使用される膜電極接合体1は、燃料電池用電解質膜2と、該燃料電池用電解質膜2を挟み込むアノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4とを備えている。
【0020】
燃料電池用電解質膜2は、第1の電解質膜5と、第1の電解質膜5を挟み込むように形成された第2の電解質膜6および第3の電解質膜7とから構成されている。第1の電解質膜5は、リン酸を含有する塩基性ポリマーから形成されている。
【0021】
塩基性ポリマーとしては、当該技術分野にて一般に使用される、少なくとも一つの窒素原子を有するポリマー、特に主鎖および/または側鎖に一つの窒素原子を有するポリマーが挙げられる。このような塩基性ポリマーは、繰返し単位に少なくとも一つの窒素原子を有するポリマーであることが好ましく、繰返し単位に少なくとも一つの窒素原子を有する芳香環(特に5員環または6員環)を含有するポリマーであることがさらに好ましい。なお、1つの窒素原子を有する繰返し単位に加えて、窒素原子を有さない繰返し単位も含むコポリマーを使用することも可能である。
【0022】
具体的には、例えば、ポリベンズイミダゾール類、ポリ(ピリジン類)、ポリ(ピリミジン類)、ポリイミダゾール類、ポリベンゾチアゾール類、ポリベンゾオキサゾール類、ポリオキサジアゾール類、ポリキノリン類、ポリキノキサリン類、ポリチアジアゾール類、ポリ(テトラザピレン類)、ポリオキサゾール類、ポリチアゾール類、ポリビニルピリジン類またはポリビニルイミダゾール類等を挙げることができる。このうち最も好ましい塩基性ポリマーは、ポリベンズイミダゾール類である。以下に、ポリベンズイミダゾール類の化学構造の一例を示す。
【0023】
【化1】

【0024】
なお、これらの塩基性ポリマーは、架橋剤によって燃料電池用電解質膜2において架橋されていてもよい。架橋されることによって、ポリマーの強度が増加し、燃料電池用電解質膜2の収縮を抑制することができるためである。架橋剤としては、例えばウレタン架橋剤等が挙げられる。
【0025】
リン酸としては、ポリリン酸(Hn+23n+1(n>1)、通常酸滴定によりPで計算して少なくとも83%の含量を意味する)、ホスホン酸(HPO)、オルトリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、三リン酸(H10)およびメタリン酸のいずれか、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0026】
第1の電解質膜5が含有するリン酸の濃度は、塩基性ポリマーに含浸処理またはドーピング等を行うことによって含有、保持させたリン酸分子の濃度(例えばmass%)をいう。なお、含浸させるリン酸の濃度(例えば80mass%以上)、温度条件(例えば20℃〜150℃)および含浸時間(例えば10分〜20分)ならびにリン酸のドーピング量を適宜変えることにより、含有するリン酸の濃度を調節することができる。
【0027】
第1の電解質膜5を上下から挟み込むように形成されている第2の電解質膜6および第3の電解質膜7も、第1の電解質膜5と同様に、リン酸を含有する塩基性ポリマーから形成されている。第2の電解質膜6および第3の電解質膜7を構成する塩基性ポリマーおよびリン酸の材料等についても、前述した第1の電解質膜5と同様である。また、リン酸を含有させる方法等についても、前述した第1の電解質膜5と同様である。
【0028】
このような方法でリン酸を含有させる際に、本発明の特徴として、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7が含有するリン酸の濃度を、第1の電解質膜5が含有するリン酸の濃度よりも低くなるように、すなわち第1の電解質膜5よりも第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の方が堅固となるように含有させ、製造する。
【0029】
なお、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7について、電解質膜を構成する塩基性ポリマーおよびリン酸の材料等、リン酸含有濃度、および製造方法等は、同一であっても、同一でなくても構わない。
【0030】
第1の電解質膜5としてはゾルゲル膜、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7としてはリン酸含浸キャスト膜が好ましい。ここで、「ゾルゲル膜」とはゾルゲル法により作製した膜をいい、「リン酸含浸キャスト膜」とはキャスト法により作製した膜にリン酸を含浸させた膜をいう。これらについては、後の燃料電池用電解質膜の製造方法および実施例1において詳細に説明する。これらの成膜法によって製造すると、それぞれの電解質膜の含有するリン酸の濃度の調節が容易となる。
【0031】
アノードガス拡散電極3は、燃料電池用電解質膜2の一方面(図1では、第2の電解質膜6の面)に積層されており、本実施形態では、アノード触媒層8とアノードガス拡散層9とから構成されている。アノード触媒層8は、Pt、Pd、Ir、Rh、Os、Ru、Au、Agまたはこれらの合金、最も好ましくはPtを含有しており、アノードガス拡散層9と第2の電解質膜6との間に位置し、アノード拡散電極3での化学反応における触媒として機能する。
【0032】
アノードガス拡散層9は、一般的に、導電性および酸抵抗性を有する平らな構造体が使用される。例えば、炭素繊維紙、黒鉛化炭素繊維紙、炭素繊維織物、または黒鉛化炭素繊維織物等の導電性を有する平らな構造体が使用される。必要に応じて、この構造体にカーボンブラック等の導電性粒子が含浸される。また必要に応じて撥水処理される。
【0033】
カソードガス拡散電極4は、燃料電池用電解質膜2の他方面(図1では、第3の電解質膜7の面)に積層されており、本実施形態では、カソード触媒層10とカソードガス拡散層11とから構成されている。カソード触媒層10も、Pt、Pd、Ir、Rh、Os、Ru、Au、Agまたはこれらの合金、最も好ましくはPtを含有しており、カソード拡散層11と第3の電解質膜7との間に位置し、カソード拡散電極4での化学反応における触媒として機能する。
【0034】
カソードガス拡散層11も、一般的に、導電性および酸抵抗性を有する平らな構造体が使用される。添加される材料等についても、前述したアノードガス拡散層9と同様である。
【0035】
このように構成された膜電極接合体1の燃料電池用電解質膜2は、リン酸含有濃度が低い第2の電解質膜6および第3の電解質膜7が、よりリン酸含有濃度が高い第1の電解質膜5を挟み込んでいる構造となっている。すなわち、第1の電解質膜5と比較してより堅固である第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の面が、アノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4に接するため、燃料電池用電解質膜2全体としてのプレス時における損傷を減らすことができ、その結果クロスリークを低減し、導電性を確保しつつ耐久性を向上させることができる。
【0036】
なお、本発明の燃料電池用電解質膜2は、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の端部を、膜の平面方向において、第1の電解質膜5の端部より外方に広げ、例えば封止部材等を用いたり、または両端部を接合等することによって、第1の電解質膜5が封止されていることがさらに好ましい。以下、図面を参照して詳細に説明する。
【0037】
図2は、本発明の燃料電池用電解質膜を備える膜電極接合体のさらに好適な一実施形態を示す断面図である。図2に示す膜電極接合体1は、図1において示したアノードガス拡散電極3、カソードガス拡散電極4、第1の電解質膜5、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7以外に、ガスケット12を備える。
【0038】
ガスケット12は、第1の電解質膜5を挟み込んでいる第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の両端を封止(密封)しており、より多くリン酸を含有している第1の電解質膜5からのリン酸の漏出を防いでいる。なお、ガスケット12については、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7を挟み込むことによって、第1の電解質膜5を封止できる封止手段であればどのようなものでも構わない。または、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の両端を接合して封止してもよい。
【0039】
このような構造の燃料電池用電解質膜2を備える膜電極接合体1では、前述した図1の膜電極接合体1の構造での効果以外に、封止によるリン酸の漏出防止、すなわちより効果的なクロスリークの低減という効果を奏する。
【0040】
(燃料電池用電解質膜の製造方法)
以下、本発明の燃料電池用電解質膜2の製造方法の好適な一実施形態について説明する。燃料電池用電解質膜2の製造方法は、第1の電解質膜5の製造工程と、第2の電解質膜6の製造工程と、第3の電解質膜7の製造工程と、電解質膜の製造工程とを備えている。なお、実施例1において具体的に説明することから、ここではその概要について簡単に説明する。
【0041】
(1.第1の電解質膜5の製造工程)
塩基性ポリマーの原材料をリン酸(好ましくはポリリン酸)を溶媒として混合する。混合物を窒素ガス雰囲気下で攪拌、加熱し、反応させる。得られた反応溶液を加熱下において公知の手法(例えば、ドクターブレード法)によって成膜し、ゾルゲル法により作製した「ゾルゲル膜」(第1の電解質膜5)を得る。
【0042】
(2.第2の電解質膜6の製造工程)
塩基性ポリマーの原材料をリン酸(好ましくはポリリン酸)を溶媒として混合し、混合物を窒素ガス雰囲気下で攪拌、加熱し、反応させる。得られた反応溶液を超純水中に入れて反応を停止させ、洗浄する。さらに反応液が中性になるまで中和とろ過を繰り返し、減圧下で乾燥し樹脂を得る。樹脂を溶剤に溶解し、ろ液を公知の手法(例えば、ドクターブレード法)によって成膜、乾燥し、キャスト法により作製したキャスト膜を得る。その後、リン酸に含浸させ、「リン酸含浸キャスト膜」(第2の電解質膜6)を得る。
【0043】
(3.第3の電解質膜7の製造工程)
第3の電解質膜7の製造工程は、上述した第2の電解質膜6の製造方法と同様であり、最終的に、「リン酸含浸キャスト膜」(第3の電解質膜7)を得る。ただし、第3の電解質膜7の成膜方法および最終的なリン酸含有濃度は、第2の電解質膜6の成膜方法および最終的なリン酸含有濃度と異なっていても構わない。
【0044】
(4.電解質膜の製造工程)
このように作製したゾルゲル膜である第1の電解質膜5を、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7によって両面から挟み込み、電解質膜を製造し、燃料電池用電解質膜2を得る。
【0045】
膜電極接合体1を製造する際は、このようにして得た燃料電池用電解質膜2の両面から、アノードガス拡散電極3とカソードガス拡散電極4とで挟み込む。なお、アノードガス拡散電極3またはカソードガス拡散電極4は、例えば、アノードガス拡散層9またはカソードガス拡散層11上に、Pt等を含有した触媒インクを塗布し、アノード触媒層8またはカソード触媒層10を積層して製造する。
【0046】
その後は、アノードガス拡散電極3、燃料電池用電解質膜2およびカソードガス拡散電極4で形成されたサンドウィッチ状の層を、高温において加圧(ホットプレス)する。これにより、図1に示すような膜電極接合体1が製造される。
【0047】
このように製造した燃料電池用電解質膜2を備える膜電極接合体1では、前述したように、両拡散電極に接する第2の電解質膜6および第3の電解質膜7(リン酸含浸キャスト膜)は、第1の電解質膜5(ゾルゲル膜)と比較してリン酸濃度が低く、堅固であるため、燃料電池用電解質膜2全体としてのプレス時における損傷を減らすことができる。その結果、クロスリークを低減でき、導電性を確保しつつ耐久性を向上させることができる(実施例参照)。
【0048】
(燃料電池)
次に、膜電極接合体1を備えた燃料電池について説明する。本発明は、膜電極接合体1が備える燃料電池用電解質膜2に特徴を有するため、燃料電池ならびにその単セルの構造については公知のものであれば構わないが、以下、その一例について述べる。
【0049】
図3は、本発明の燃料電池用電解質膜を備える燃料電池の一実施形態を示す断面図である。なお、図3は単セルの構造を示している。図3に示すように、燃料電池13は、図2に示した膜電極接合体1の構造に、さらにアノード側セパレータ14およびカソード側セパレータ15が備わった構造となっている。
【0050】
アノード側セパレータ14は、谷部および山部が交互に複数並設されている形状となっており、窒素を含むガスが流入される燃料ガス流路16が形成されている。なお、アノード側セパレータ14は、導電性の材料から形成されている。
【0051】
カソード側セパレータ15は、谷部および山部が交互に複数並設されている形状となっており、空気等の酸素を含むガスが流入される酸化剤ガス流路17が形成されている。なお、カソード側セパレータ15も、導電性の材料から形成されている。
【0052】
これらのセパレータにより、燃料ガスおよび酸化剤ガスを分離して均等に流入させることができ、合わせてセル内部で発生した水分等も速やかに排出することが可能となる。なお、図3の断面図では、理解し易いよう各流路が平行に走る場合の断面を示している。
【0053】
図4は、図3の燃料電池の発電機能を示す斜視図である。なお、図4では、燃料電池13として機能する一部分を示している。一般的な燃料電池では、図4に示すように、燃料ガス流路16および酸化剤ガス流路17が形成され、矢印で示す方向にそれぞれ水素を含むガスまたは空気等の酸素を含むガスが流入される。燃料電池13は、このように供給されることによって発電を行う。
【0054】
詳細には、アノードガス拡散電極3において、燃料ガス(水素ガス)がアノード触媒層8に接触することにより、「2H→4H+4e」といった反応が生じる。そして、生成したHは、燃料電池用電解質膜2中を移動し、カソードガス拡散電極4に達すると、カソード触媒層10によって酸化剤ガス(空気中の酸素)と「4H+4e+O→2HO」のような反応をして水となる。固体高分子型燃料電池は、これらの反応により水素と酸素を使用して電気分解の逆反応で発電する。燃料電池13は、例えば140℃から160℃の温度環境下において使用される。
【0055】
燃料電池13では、本発明に係る燃料電池用電解質膜2を備えており、燃料電池用電解質膜2全体としてのプレス時における損傷が低減されている。その結果、燃料電池13全体としてもクロスリークを低減でき、導電性を確保しつつ耐久性を向上させることができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0057】
(実施例1)
実施例1では、図1において、第1の電解質膜5の厚さaが40μm、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の厚さbが25μm、第1の電解質膜5、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の塩基性ポリマーがポリベンズイミダゾール(PBI)の場合の燃料電池用電解質膜2を備える膜電極接合体1について詳細に説明する。
【0058】
まず、第1の電解質膜5であるゾルゲル膜を作製した。具体的には、250mlの三つ口セパラブルフラスコで、3,3’−ジアミノベンジジン(aldrich社製)7.587gとイソフタル酸(aldrich社製)6.000gとを、ポリリン酸(aldrich社製)123gを溶媒として混合した。混合物を窒素ガス流通雰囲気での機械的攪拌下において、オイルバス200℃で加熱しながら8時間反応させた。反応溶液はダークブラウンの飴状物質となっている。この際の化学反応式を以下に示す。
【0059】
【化2】

【0060】
その後、反応溶液を200℃のガラス板上に垂らし、ドクターブレード法によりゾルゲル膜を成膜した。この際、ゾルゲル膜aの厚さが40μmとなるよう成膜した。
【0061】
次に、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7であるリン酸含浸キャスト膜を作製した。まず、前述したゾルゲル膜の作製方法と同様に、ダークブラウン飴状物質の反応溶液を得た。この反応溶液を、2.5lの超純水(>18MΩ・cm)中に入れ、反応を停止した。反応物を超純水で数回洗浄し、溶液が中性になるまで10mass%のアンモニア水(和光純薬工業社製)で中和とろ過を繰り返し行った。その後、120℃、減圧下において16時間乾燥を行い、PBI樹脂を得た。得られたPBI樹脂をジメチルアセトアミド(DMAc、和光純薬工業社製)に10mass%で溶解させ、ろ液をドクターブレード法により成膜、乾燥してキャスト膜を得た。この際、キャスト膜の厚さが10μmとなるよう成膜した。
【0062】
得られたキャスト膜を、85mass%リン酸溶液に24時間浸漬し、リン酸がドープされたリン酸含浸キャスト膜を得た。リン酸含浸キャスト膜bの厚さは25μmであった。
【0063】
続いて、アノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4を作製した。まず、カーボンブラック(キャボット社製バルカンXC−72R)と撥水剤(ダイキン社製ポリフロンD1)との分散溶液を、カーボンペーパー(東レ社製TGP−H−060)に含浸させ、380℃で1時間焼成し、アノードガス拡散層9およびカソードガス拡散層11を作製した。なお、両ガス拡散層の厚さは、250μmであった。
【0064】
次に、担持カーボン触媒(Pt含有率50mass%、田中貴金属工業社製)6gに、N−メチルピロリドン(NMP、和光純薬工業社製)40gを混合し、室温で30分攪拌した。その後、DMAcで濃度12.5mass%に調整されたPBI溶液を、PBI固形分が触媒に対して10mass%になるように混合し、そのまま30分攪拌した。攪拌後、NMPで濃度10mass%に調整されたポリビニリデンフルオライド(PVDF、和光純薬工業社製)溶液を、PVDF固形分が触媒に対して25mass%になるように混合し、そのまま30分攪拌し、触媒インクを作製した。
【0065】
得られた触媒インクを、前述したアノードガス拡散層9およびカソードガス拡散層11上に、アプリケータで塗布した。その後、150℃で30分乾燥させ、溶剤を除去すると、アノードガス拡散層9またはカソードガス拡散層11上に、それぞれアノード触媒層8またはカソード触媒層10が積層している、アノードガス拡散電極3またはカソードガス拡散電極4が得られた。なお、両触媒層の厚さは、30μmであった。すなわち、作製されたアノードガス拡散電極3またはカソードガス拡散電極4の厚さは、280μmである。
【0066】
このように作製した第1の電解質膜5、第2の電解質膜6、第3の電解質膜7、アノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4を用い、まず、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7を用いて第1の電解質膜5を挟み込み、サンドウィッチ状の燃料電池用電解質膜2を製造した。さらに、その燃料電池用電解質膜2を、アノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4を用いて両触媒層が燃料電池用電解質膜2の面に接触するよう挟み込み、140℃、8Mpaにおいて1分間ホットプレスを行い、図1に示すような膜電極接合体1を製造した。
【0067】
このように製造した膜電極接合体1について、リーク電流を測定した。測定は、室温下、60N/cmの加重が加えられた膜電極接合体1の両極に0.2Vの電圧をかけ、1分後の電流値をリーク電流の値とした。本実施例1の膜電極接合体1のリーク電流は1.5mAであった。
【0068】
さらに、膜電極接合体1の導電率についても測定した。測定は、160℃条件下において、4端子法により交流インピーダンス測定を行い(HIOKIケミカルインピーダンスメータ3532−80)、インピーダンスから導電率を算出した。本実施例1の膜電極接合体1の導電率は0.054S/cmであった。
【0069】
(実施例2)
実施例2では、図1において、第1の電解質膜5の厚さaが40μm、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の厚さbが50μm、第1の電解質膜5、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の塩基性ポリマーがPBIの場合の燃料電池用電解質膜2を備える膜電解質膜接合体1について詳細に説明する。
【0070】
なお、第1の電解質膜5であるゾルゲル膜の作製方法、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7であるリン酸含浸キャスト膜の作製方法、アノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4の作製方法、膜電極接合体1の製造方法、および、リーク電流の測定方法は、以下に述べる点を除き前述した実施例1と同様である。
【0071】
実施例2では、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7であるリン酸含浸キャスト膜の作製において、ドクターブレード法によりキャスト膜を成膜する際に厚さが20μmとなるよう成膜し、リン酸がドープされたリン酸含浸キャスト膜の厚さbが50μmとなった。その結果、リーク電流を測定すると1.2mAであった。
【0072】
(実施例3)
実施例3では、図1において、第1の電解質膜5の厚さaが60μm、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の厚さbが25μm、第1の電解質膜5、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の塩基性ポリマーがPBIの場合の燃料電池用電解質膜2を備える膜電解質膜接合体1について詳細に説明する。
【0073】
なお、第1の電解質膜5であるゾルゲル膜の作製方法、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7であるリン酸含浸キャスト膜の作製方法、アノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4の作製方法、膜電極接合体1の製造方法、および、リーク電流の測定方法は、以下に述べる点を除き前述した実施例1と同様である。
【0074】
実施例3では、第1の電解質膜5であるゾルゲル膜の作製において、ドクターブレード法によりゾルゲル膜を成膜する際に厚さが60μmとなるよう成膜した。その結果、リーク電流を測定すると1.3mAであった。
【0075】
(実施例4)
実施例4では、図1において、第1の電解質膜5の厚さaが60μm、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の厚さbが50μm、第1の電解質膜5、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の塩基性ポリマーがPBIの場合の燃料電池用電解質膜2を備える膜電極接合体1について詳細に説明する。
【0076】
なお、第1の電解質膜5であるゾルゲル膜の作製方法、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7であるリン酸含浸キャスト膜の作製方法、アノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4の作製方法、膜電極接合体1の製造方法、および、リーク電流の測定方法は、以下に述べる点を除き前述した実施例1と同様である。
【0077】
実施例4では、第1の電解質膜5であるゾルゲル膜の作製において、ドクターブレード法によりゾルゲル膜を成膜する際に厚さが60μmとなるよう成膜し、第2の電解質膜6および第3の電解質膜7であるリン酸含浸キャスト膜の作製において、ドクターブレード法によりキャスト膜を成膜する際に厚さが20μmとなるよう成膜し、リン酸がドープされたリン酸含浸キャスト膜の厚さbが50μmとなった。その結果、リーク電流を測定すると1.2mAであった。
【0078】
(比較例)
比較例では、従来の燃料電池用電解質膜2を備えた膜電極接合体1における、同様の実施例について詳細に説明する。図5は、比較例に係る膜電極接合体の構成を示す断面図である。図5に示すように、膜電極接合体1は、燃料電池用電解質膜2と、それを挟むアノードガス拡散電極3およびカソードガス拡散電極4とから構成されている。
【0079】
燃料電池用電解質膜2は、実施例1で述べた第1の電解質膜5であるゾルゲル膜の作製方法と同様の方法において、厚さcが120μmとなるようゾルゲル法において成膜した。なお、膜電極接合体1のその他大筋の製造方法については実施例1と同様である。このように製造した従来の燃料電池用電解質膜2を備える膜電極接合体1について、実施例1と同様の方法において、リーク電流および導電率を測定した。その結果、リーク電流は379.5mAであり、導電率は0.094S/cmであった。
【0080】
図6は、実施例および比較例に係る膜電極接合体の実験結果を示す図である。図6に示すように、実施例1ないし4の膜電極接合体1のリーク電流と、比較例の膜電極接合体1のリーク電流とを比べると、本発明の燃料電池用電解質膜2を備える膜電極接合体1のリーク電流(クロスリーク)が圧倒的に低減することが確認できた。なお、比較例に比べ、実施例1の膜電極接合体1の導電率が少し低減しているが、燃料電池用の電解質膜として使用する分には充分である。
【0081】
以上、実施の形態および実施例について説明したが、本発明は上述した実施の形態および実施例に限定されることはなく、本発明の範囲内で種々の実施形態が可能である。
【0082】
例えば、アノードガス拡散電極3またはカソードガス拡散電極4は、アノード触媒層8またはカソード触媒層10が積層されている電極構造でなくても構わない。図7は、本発明の燃料電池用電解質膜を備える膜電極接合体の変形例を示す断面図である。図7に示すように、本変形例に係る膜電極接合体1は、アノードガス拡散電極3またはカソードガス拡散電極4の積層部分が、アノードガス拡散層9またはカソードガス拡散層11に対応する部分のみから構成されている。この場合、両ガス拡散層の中に触媒を担持したカーボン粒子等を含浸したり、両ガス拡散層の構造体自体を触媒が担持されたものとすればよい。
【0083】
なお、図2に示すような燃料電池用電解質膜2を備える膜電極接合体1を製造する際には、例えば、燃料電池用電解質膜2の作製後からホットプレスの前までに、封止手段(例えばガスケット12)によって、第1の電解質膜5を挟み込んでいる第2の電解質膜6および第3の電解質膜7の両端を封止(密封)する工程を挟めばよい。
【符号の説明】
【0084】
1 膜電極接合体
2 燃料電池用電解質膜
3 アノードガス拡散電極
4 カソードガス拡散電極
5 第1の電解質膜
6 第2の電解質膜
7 第3の電解質膜
8 アノード触媒層
9 アノードガス拡散層
10 カソード触媒層
11 カソードガス拡散層
12 ガスケット
13 燃料電池
14 アノード側セパレータ
15 カソード側セパレータ
16 燃料ガス流路
17 酸化剤ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸を含有する塩基性ポリマーから形成された第1の電解質膜と、
リン酸を含有する塩基性ポリマーから形成され、前記第1の電解質膜を挟み込むように形成された第2の電解質膜および第3の電解質膜と、を備え、
前記第1の電解質膜が含有するリン酸の濃度は、前記第2の電解質膜および前記第3の電解質膜が含有するリン酸の濃度よりも高いことを特徴とする燃料電池用電解質膜。
【請求項2】
前記第1の電解質膜はゾルゲル膜であり、前記第2の電解質膜および前記第3の電解質膜はリン酸含浸キャスト膜であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項3】
前記塩基性ポリマーは、ポリベンズイミダゾール類であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項4】
前記第2の電解質膜および前記第3の電解質膜は、膜の平面方向において前記第1の電解質膜の端部より外方に広がっており、前記第2の電解質膜および前記第3の電解質膜の端部により前記第1の電解質膜が封止されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、前記燃料電池用電解質膜の一方面に積層されたアノードガス拡散電極と、前記燃料電池用電解質膜の他方面に積層されたカソードガス拡散電極とを備えていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の膜電極接合体と、前記膜電極接合体の前記アノードガス拡散電極に当接され燃料ガス流路が形成されたアノード側セパレータと、前記膜電極接合体の前記カソードガス拡散電極に当接され酸化剤ガス流路が形成されたカソード側セパレータとを備えていることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
リン酸を含有した塩基性ポリマーを成膜することにより第1の電解質膜を製造する第1の電解質膜製造工程と、
成膜した塩基性ポリマーに前記第1の電解質膜よりも低濃度のリン酸を含有した第2の電解質膜を製造する第2の電解質膜製造工程と、
成膜した塩基性ポリマーに前記第1の電解質膜よりも低濃度のリン酸を含有した第3の電解質膜を製造する第3の電解質膜製造工程と、
前記第1の電解質膜を、前記第2の電解質膜と前記第3の電解質膜とで挟み込み電解質膜を製造する電解質膜製造工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項8】
前記第1の電解質膜製造工程では、ゾルゲル法により前記第1の電解質膜を成膜し、
前記第2の電解質膜製造工程では、キャスト法により成膜後リン酸溶液に含浸することにより前記第2の電解質膜を製造し、
前記第3の電解質膜製造工程では、キャスト法により成膜後リン酸溶液に含浸することにより前記第3の電解質膜を製造することを特徴とする請求項7に記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−54066(P2012−54066A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194839(P2010−194839)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】