説明

燃料電池用高分子電解質膜の製造方法及び燃料電池用高分子電解質膜

【課題】燃料電池用として適するプロトン伝導度及び寸法安定性に優れる高分子電解質膜の製造方法及びその製造方法で製造した高分子電解質膜を提供すること。
【解決手段】高分子電解質溶液を基体に塗布し、電場下で溶媒を除去する。なお、高分子電解質が下記一般式(A)で表される構造単位を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導度が高く発電特性に優れ、形状安定性に優れる燃料電池用高分子電解質膜の製造方法及びその製造方法で製造された燃料電池用高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用高分子電解質膜は、溶融押出法やキャスト法等により膜状に成形される。これらのうち、膜の厚さの均一性及び表面凹凸の少ないことから、キャスト法が好んで使用されている。
【0003】
高分子電解質膜をキャスト法で成形する場合、高分子電解質を可溶な溶媒に溶解し高分子電解質溶液とし、それを基材に塗布した後、溶媒を除去(乾燥)することにより膜状に成形する。このとき溶媒の除去には、通常、熱風、ヒーター、ハロゲン光や近赤外線照射等により高分子電解質溶液を加熱し、溶媒を気化させる方法が使用される。
【0004】
以上のような方法で高分子電解質膜が製造されるが、燃料電池用途に使用する際の最も重要な特性として、プロトン伝導性が高いことが挙げられる。プロトン伝導性は、プロトンの伝達通路となるチャンネルがどのように形成されるかに左右される。しかし上述のような、ただ過熱するだけの溶媒除去方法では、チャンネルの形成が不十分なため、プロトン伝導性に劣っていた。
【0005】
また、高分子電解質膜は、燃料電池内の温度や湿度が変化したとき、膜に含まれる水分量が変わることにより大きさが変化する。温度や湿度の変化による高分子電解質膜の形状変化が大きいと、燃料電池内で高分子電解質膜に無理な力が掛かり、亀裂が生じやすい。そして、上述の溶媒除去方法で製造した高分子電解質膜は、このような寸法安定性が不十分であった。
【0006】
特許文献1においては、特定の溶剤を用いたキャスト法で成形することにより良好な電解質膜を得られることが述べられている。しかしながらこの方法ではチャンネルの形成が不十分な場合があり、また寸法安定性も劣ることがあった。
【特許文献1】特開2005−171027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、プロトン伝導性及び寸法安定性に優れた燃料電池用高分子電解質膜を得るための高分子電解質膜の製造方法およびその方法により製造された燃料電池用高分子電解質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高分子電解質膜をキャスト法で成形するに際し電場下で溶媒除去を行うことによりプロトンの伝達通路となるチャンネルを効果的に形成でき、その結果プロトン伝導度および寸法安定性に優れる高分子電解質膜が得られることを見出した。
【0009】
本発明によれば、下記燃料電池用高分子電解質膜の製造方法及び燃料電池用高分子電解質膜が提供され、上記課題が解決される。
(1)高分子電解質と溶媒とを含む高分子電解質溶液を基体に塗布し、塗布された高分子
電解質溶液の溶媒を電場下で除去する工程を含むことを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
(2)前記高分子電解質が、下記一般式(A)で表される構造単位および下記一般式(B)で表される構造単位を含むスルホン酸基含有ポリアリーレンであることを特徴とする上記(1)に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)および−C(CF32−からなる群より選ばれた少な
くとも1種の構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−および−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3
で表される置換基を有する芳香族基を示し、pは1〜12の整数を示し、mは0〜10の整数を示し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH
−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およ
びハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ
素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示し、s、tは0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。)。(3)上記(1)または(2)に記載の製造方法で製造されたことを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法によれば、プロトンの伝達通路となるチャンネルを効果的に形成でき、その結果プロトン伝導度および寸法安定性に優れる高分子電解質膜が得られる。
【0015】
本発明の燃料電池用高分子電解質膜プロトン伝導度および寸法安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る燃料電池用高分子電解質膜の製造方法は、高分子電解質と溶媒とを含む高分子電解質溶液を基体に塗布し、塗布された高分子電解質溶液の溶媒を電場下で除去する
工程を含んでいる。
【0017】
高分子電解質溶液の調製おより基体への塗布は、従来公知の方法により行うことができ、スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体等の高分子電解質を、溶剤に溶解して高分子電解質溶液とした後、キャスティングにより基体上に流延し、フィルム状に成形する。
【0018】
本発明では、基体上に塗布された高分子電解質溶液の溶媒除去を電場下で行う。電場は、直流電場及び交流電場のどちらでも使用できるが、荷電物質の移動による組成の不均一を避ける上で、交流電場が特に好ましい。電場を形成するための電極での電位差は200〜20000V、好ましくは400〜10000Vである。200V以下では製造した高分子電解質膜のプロトン伝導度の向上効果が少なく、20000V以上では放電あるいは絶縁破壊が生じやすく好ましくない。電位差を有する電位電極間の距離は、5〜500mm、好ましくは10〜300mmである。5mm以下では高分子電解質溶液が塗布された基体が電極に触れることがあり、500mm以上では分子電解質膜のプロトン伝導度の向上効果が少なく好ましくない。
【0019】
本発明の電場下で溶媒除去を行う際の溶媒除去方法は特に限定されないが、熱風、熱ヒーター、ハロゲン光や近赤外線照射等の加熱手段により電場下で加熱する方法等が挙げられる。加熱温度は、通常30〜200℃、好ましくは50〜180℃であり、乾燥時間は通常3〜180分、好ましくは5〜120分である。
【0020】
また、電場下ですべての溶媒を除去する必要は無く、溶媒除去工程の少なくとも一部が電場下であれば良い。特に、少なくとも高分子電解質溶液が固化するときに電場下にあることが好ましい。
【0021】
基体上に塗布された高分子電解質溶液から電場下で溶媒を除去する際には、溶媒除去方法に応じて、メッシュ状、パンチング板状、棒状等の電極を使用することができる。
基体上に塗布された高分子電解質溶液から電場下で溶媒を除去する際の電極の形状と加熱手段の組み合わせは特に限定されないが、例えば図1〜3に示すような組み合わせが挙げられる。なお、高分子電解質溶液から電場下で溶媒を除去する工程においては、高分子電解質溶液が基体に塗布された膜は、溶媒が除去され高分子電解質膜となるが、以下の図1〜3の説明では、これらの膜と基体との積層体をまとめて「基体3」と記載する。
【0022】
図1に示す例では、電極として一対の板状(メッシュ状、パンチング板)の電極1が用いられ、これらは基体3を挟んで対向するように設けられている。加熱手段として熱風が用いられ、ダクト2を介して基体上の高分子電解質溶液に吹き付けるように構成されている。基体3はガイドロール4により支持されながら電極1間を所定の速度で移動する。
【0023】
図2に示す例では、電極として複数の棒状の電極5が用いられていること以外は図1に示す例と同様に構成されている。複数の電極5は互いに基体3を挟んで対向するように、かつ基体3の移動方向に対しほぼ直交するように設けられている。
【0024】
図3に示す例では、加熱手段として複数のハロゲンヒータ6が用いられていること以外は図2に示す例と同様に構成されている。ハロゲンヒータ6により基体上の高分子電解質溶液が加熱される。
【0025】
本発明に係る燃料電池用高分子電解質膜の製造方法に使用することができる装置としては、例えば図4に示す装置が挙げられる。図4に示す装置では、乾燥炉7内に図1に示したような加熱手段と電極が複数設けられている。図中8はPETフィルム等の基体を巻回
した送出しロールであり、送出しロール8から送り出された基体3は、高分子電解質溶液が塗布された後、乾燥炉7内に搬送される。乾燥炉7内に搬送された高分子電解質溶液が塗布された基体3は、乾燥炉7内で電場下で加熱されることにより溶媒が除去される。溶媒が除去され高分子電解質膜が形成された基体3は、巻取りロール9に巻き取られる。
【0026】
上記のようにして得られた高分子電解質膜は、水に浸漬することにより膜中の残留溶媒量を低減することができる。
本発明で用いられる高分子電解質としては特に制限はないが、本発明において特に好適に用いられる高分子電解質は、下記一般式(A)で表されるスルホン酸基を有する構造単位(スルホン酸ユニット)と、必要に応じて下記一般式(B)で表されるスルホン酸基を有さない構造単位(疎水性ユニット)とを含み、下記一般式(C)で表されるスルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体である。
【0027】
<スルホン酸ユニット>
【0028】
【化3】

【0029】
一般式(A)において、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−CO
O−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。このうち、−CO−、−SO2−が好ましい。
【0030】
Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。このうち直接結合、−O−が好ましい。
【0031】
Arは−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置
換基(pは1〜12の整数を示す)を有する芳香族基を示す。
芳香族基として具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。これらの基のうち、フェニル基、ナフチル基が好ましい。−SO3
H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基(pは1〜12の整数を示す)は、少なくとも1個置換されていることが必要であり、ナフチル基である場合には2個以上置換していることが好ましい。
【0032】
mは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、nは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、kは1〜4の整数を示す。
m、nの値とY、Z、Arの構造についての好ましい組み合わせとして、
(1)m=0、n=0であり、Yは−CO−であり、Arが置換基として−SO3Hを有
するフェニル基である構造、
(2)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、
(3)m=1、n=1、k=1であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、
(4)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Arが置換基として2個の−SO3
Hを有するナフチル基である構造、
(5)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基と
して−O(CH24SO3Hを有するフェニル基である構造
などを挙げることができる。
【0033】
<疎水性ユニット>
【0034】
【化4】

【0035】
一般式(B)において、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−S
O−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香
族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ここで、−CR'2−で表される構造の具体的な例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、などが挙げられる。
これらのうち、直接結合または、−CO−、−SO2−、−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−が好ましい。
【0036】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、酸素原子が好ましい。
1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル
基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0037】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられる。アリル基としては、プロペニル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0038】
s、tは0〜4の整数を示す。rは0または1以上の整数を示し、上限は通常100、好ましくは1〜80である。
s、tの値と、A、B、D、R1〜R16の構造についての好ましい組み合わせとしては
、(1)s=1、t=1であり、Aが−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化
水素基およびハロゲン化炭化水素基から選ばれる基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基であり、Bが酸素原子であり、Dが−CO−または、−SO2−であり
、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子である構造、
(2)s=1、t=0であり、Bが酸素原子であり、Dが−CO−または、−SO2−で
あり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子である構造、
(3)s=0、t=1であり、Aが−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水
素基およびハロゲン化炭化水素基から選ばれる基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、Bが酸素原子であり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子またはニ
トリル基である構造
が挙げられる。
【0039】
<ポリマー構造>
【0040】
【化5】

【0041】
一般式(C)において、A、B、D、Y、Z、Ar、k、m、n、r、s、tおよびR1〜R16は、それぞれ上記一般式(A)および(B)中のA、B、D、Y、Z、Ar、k
、m、n、r、s、tおよびR1〜R16と同義である。x、yはx+y=100モル%と
した場合のモル比を示す。
【0042】
本発明で用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、式(A)で表される構造単位すなわちxのユニットを0.5〜100モル%、好ましくは10〜99.999モル%の割合で、式(B)で表される構造単位すなわちyのユニットを99.5〜0モル%、好ましくは90〜0.001モル%の割合で含有している。
【0043】
このようなスルホン酸基を有するポリアリーレンは、例えば特開2001−342241号に記載の方法により製造することができる。
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
[合成例1]
2,5−ジクロロ−4'−(4−フェノキシフェノキシ)ベンゾフェノン 131.86
g(303mmol)、4,4'−ビス(4−クロロベンゾイル)ジフェニルエーテル84.99g(190mmol)、ヨウ化ナトリウム 7.4g(49mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロライド 7.4g(11mmol)、トリフェニル
ホスフィン 29.8g(113mmol)、亜鉛 49.4g(760mmol)を冷却管、三方コックを取り付けた三口フラスコに入れ、70℃のオイルバスにつけ、窒素置換後、窒素雰囲気下にN−メチル−2−ピロリドン 1,000mlを加え、重合反応を開始した。20時間反応後、N−メチル−2−ピロリドン 500mlで希釈し、大過剰の1:
10塩酸/メタノール溶液に重合反応液を注ぎ、ポリマーを析出させた。洗浄、ろ過を繰り返し精製し、真空乾燥後、白色の粉末を得た。収量は、174.4g、収率93%であった。また、重量平均分子量は、127,000であった。
【0045】
得られた重合体150gに対し、濃硫酸1,500mlを加え攪拌し、室温で24時間
、スルホン化反応を行った。反応後、大量の純水中に注ぎ、スルホン化ポリマーを析出させた。中性近くになるまでポリマーの水洗浄を続け、ろ過後、スルホン化ポリマーを回収し、90℃で真空乾燥した。スルホン化ポリマーの収量は、185.0gであった。この
ポリマーのイオン交換容量は2.1meq/gであり、重量平均分子量は189000であった。
【0046】
[合成例2](1)疎水性ユニットの合成
攪拌機、温度計、Dean-stark管、窒素導入管、冷却管をとりつけた1Lの三口フラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル 48.8g(284mmol)、2,2−ビス(4
−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン 89.5g(266mmol)、炭酸カリウム 47.8g(346mmol)をはかりとった。窒素置
換後、スルホラン 346mL、トルエン 173mLを加えて攪拌した。オイルバスで反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean-stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean-stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を200℃に上げ、3時間攪拌を続けた後、2,
6−ジクロロベンゾニトリル 9.2g(53mmol)を加え、さらに5時間反応させ
た。
【0047】
反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。反応液に不溶の無機塩を濾過し、濾液をメタノール2Lに注いで生成物を沈殿させた。沈殿した生成物を濾過、乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解し、これをメタノール2Lに注いで再沈殿させた。沈殿した白色粉末を濾過、乾燥し、目的物109gを得た。GPCで測定した数平均分子量(Mn)は9,500であった。
得られた化合物は式(I)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0048】
【化6】

【0049】
(2)スルホン化ポリアリーレンの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジク
ロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル 135.2g(337mmol)、
(1)で得られたMn 9,500の疎水性ユニット 48.7g(5.1mmol)、ビ
ス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド 6.71g(10.3mmol)、
ヨウ化ナトリウム 1.54g(10.3mmol)、トリフェニルホスフィン 35.9g(137mmol)、亜鉛 53.7g(821mmol)をはかりとり、乾燥窒素置
換した。ここにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)430mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc730mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0050】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム44g(506mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン5Lに注いで生成物を沈殿させた。ついで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体122gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は135,000であった。得られた重合体は式(II)で表されるスルホン化ポリマーと推定される。このポリマーのイオン交換容量は2.3meq/gであった。
【0051】
【化7】

【0052】
[合成例3](1)疎水性ユニット(III)の合成
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた500mLの3口フラスコに、1,3−ビ
ス(4−クロロベンゾイル)ベンゼン 17.8g(50.0mmol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン 15.1g(45.0mmol)、
炭酸カリウム 8.1g(58.5mol)、スルホラン 117g、トルエン40gを入れ、窒素雰囲気下、130℃で撹拌した。トルエンとの共沸により水分を取り除いた後、トルエンを系外に取り除き、195℃で7時間撹拌した。反応溶液を100℃まで冷やしてから、1,3−ビス(4−クロロベンゾイル)ベンゼン 5.34g(15.0mmol)を加え、再度195℃で3時間撹拌した。トルエンにより希釈し、セライト濾過により固形分を取り除いた。濾液をメタノール/濃塩酸溶液(メタノール2.0L/濃塩酸0.2L)に注ぎ、反応物を凝固させた。吸引濾過により固体を濾過し、得られた固体をメタノールで洗浄した後、風乾した。これをテトラハイドロフランに再溶解し、メタノール3.0Lに注ぎ、反応物を凝固させた。吸引濾過により固体を濾過し、得られた固体を風乾して、さらに真空乾燥することにより目的の疎水性ユニット22.1gを得た(収率75%)。GPC(ポリスチレン換算)で求めた生成物の数平均分子量は8000、重量平均分子量は14000であった。得られた化合物は下記式(III)で表わされるオリゴマー
であることを確認した。
【0053】
【化8】

【0054】
(2)スルホン化ポリアリーレンの合成
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた500mLの3口フラスコに、3−(2,
5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル 31.6g(78.7mm
ol)、(1)で得た疎水性ユニット 14.1g(1.76mmol)、トリフェニル
ホスフィン 8.39g(32.0mmol)、亜鉛 12.6g(192mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド 2.09g(3.2mmol)、よ
う化ナトリウム 0.36g(2.4mmol)をはかりとった。40℃に加熱したオイ
ルバスにフラスコをつけ、2時間真空乾燥した。内部を数回乾燥窒素置換した後、脱水したジメチルアセトアミド100mLを加え、重合を開始した。反応温度が90℃を超えないように制御しながら、3時間重合を続けた。反応終了後、ジメチルアセトアミドを360g加え希釈し、セライト濾過により不溶分を取り除き、固形分含量が12%となるように濃縮した。
【0055】
得られた濃縮液を撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた1Lの3口フラスコに入
れ、臭化リチウム 15.1g(173mmol)を加え、120℃で7時間撹拌した。
反応終了後、アセトン4Lに注ぎ、反応物を凝固させた。ついで、1N塩酸、純水の順に洗浄後、吸引濾過により固体を濾過し、得られた固体を乾燥することによりスルホン化ポリマー(IV)30.0gを得た(収率87%)。GPC(ポリスチレン換算)で求めた生成物の数平均分子量は102,000、重量平均分子量は320,000であった。得られたポリマーは、下記式(IV)で表わされるスルホン化ポリマーと推定される。このポリマーのイオン交換容量は2.1meq/gであった。
【0056】
【化9】

【0057】
(実施例1)
合成例で得られたスルホン化ポリアリーレン 240g、N−メチル−2−ピロリドン 1160g、メタノール 600gを混合し、均一に溶解し、高分子電解質溶液を得た。
図4に示す塗工設備を用いて、この高分子電解質溶液をPETフィルム上に塗布した後、電場下で熱風をあてて溶媒を除去した。乾燥炉の長さは6m、ライン速度は0.5m/分、熱風の温度は120℃、電極への印加電流は50Hz、2000Vであった。巻き取った膜を10cm四方の大きさに切り、1Lの純水に1時間浸漬した後、純水を交換し、さらに12時間浸漬することにより残った溶媒を除去した。純水から高分子電解質膜を取り出し、23℃、50%RH下で24時間状態調整を行った後、PETフィルムから高分子電解質膜を剥がし、実施例1の高分子電解質膜を得た。膜厚は40μmであった。
【0058】
(比較例1)
電極への電流の印加を行わなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1の高分子電解質膜を得た。膜厚は40μmであった。
【0059】
(プロトン伝導度の測定)
実施例1および比較例1の高分子電解質膜について以下のようにしてプロトン伝導度を測定した。図5に示すように、高分子電解質膜15を導線12を備えた5mm四方の金電極11で挟み、これをベークライト板13を介してクランプ14で挟持することにより固定し、70℃、90%RH下で12時間状態調節を行った。その後、ソーラトロン社製SI1287型ポテンショ/ガルバノスタット及びソーラトロン社製1255B型FRAを使用してプロトン伝導度を測定した。印加電圧は0.5V、周波数は20Hz〜20kHzで測定を行い、コールコールプロット法でプロトン伝導度を算出した。
【0060】
(寸法安定性の測定)
実施例1および比較例1の高分子電解質膜について、23℃、50%RH下で24時間状態調整を行った後、4辺の長さをノギスで測定し、その平均値(A)を算出した。さらに、23℃下で純水に24時間した後、純水中で4辺の長さをノギスで測定し、その平均値(B)を算出した。寸法安定性を式1で算出した。この寸法安定性は、値が小さいほど燃料電池用高分子電解質膜として優れる。
【0061】
寸法安定性(%)={平均値(B)−平均値(A)}÷平均値(A)×100 (式1)
【0062】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】熱風加熱時の電極例を示す模式図である。
【図2】熱風加熱時の電極例を示す模式図である。
【図3】ヒーター加熱時の電極例を示す模式図である。
【図4】塗工設備を示す模式図である。
【図5】プロトン伝導度測定時の電極設置法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1 電極(パンチング板状、メッシュ状)
2 ダクト
3 基体(PETフィルム)および基体に塗布された高分子電解質溶液または高分子電解質膜
4 ガイドロール
5 電極(棒状の電極を複数並べている)
6 ハロゲンヒーター
7 乾燥炉
8 基体(PETフィルム)送出しロール
9 巻取りロール
10 コンマコーター
11 電極
12 導線
13 ベークライト板
14 クランプ
15 高分子電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質と溶媒とを含む高分子電解質溶液を基体に塗布し、塗布された高分子電解質溶液の溶媒を電場下で除去する工程を含むことを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記高分子電解質が、下記一般式(A)で表される構造単位および下記一般式(B)で表される構造単位を含むスルホン酸基含有ポリアリーレンであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法;
【化1】

(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)および−C(CF32−からなる群より選ばれた少な
くとも1種の構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−および−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3
で表される置換基を有する芳香族基を示し、pは1〜12の整数を示し、mは0〜10の整数を示し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
【化2】

(式中、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH
−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およ
びハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ
素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示し、s、tは0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で製造されたことを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−128711(P2007−128711A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319473(P2005−319473)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】