説明

燃料電池電極用触媒ペースト及びその製造方法並びに燃料電池用電極

【課題】安定性が良く保管できると共に燃料電池の電極を製造した場合に良好な放電性能を示し、しかも短時間で容易に収率良く製造する事ができる燃料電池電極用触媒ペースト及びその製造方法、並びにその触媒ペーストを用いた燃料電池用電極の提供。
【解決手段】触媒金属担持カーボンブラック(カーボンの比表面積50ー1000m2/g、)と第1のイオン交換溶液(イオン交換当量値が500以上1000未満、イオン交換樹脂量がカーボンに対する重量比で30−80%)と溶媒(水とエタノール混合液で、水/エタノール=50/50ー80/20)を含む混合液を高速ミキサーで分散した後、第2のイオン交換溶液(イオン交換当量値1000以上1200未満、触媒ペースト中の総イオン樹脂量がカーボンに対する重量比で80ー220%)を加えて攪拌した燃料電池用触媒ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池の電極を製造するための触媒ペーストを短時間で収率良く製造することができ、安定性が良く優れた放電性能を得ることができる燃料電池電極用触媒ペースト及びその製造方法、並びにその触媒ペーストを用いた燃料電池用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の固体高分子型燃料電池においては、バッチ式サンドミルを用いて材料を分散させて触媒ペーストを製造し、この触媒ペーストを電極基材に塗布することによって電極を作製している。このようにして製造した触媒ペーストは安定性が良く保管することができ、この電極を使用した燃料電池の放電性能も良いが、触媒ペーストを製造するのに時間がかかり、また分散メディアに付着したペーストの回収が困難で収率が悪いという問題点がある。
【0003】
そこで、触媒ペーストの収率を上げる方法として、特許文献1に開示された発明においては、触媒ペーストを一度固体にして乾式粉砕し、得られた粉末を分散媒中に分散させた分散液を調整している。また、特許文献2に開示された発明においては、触媒ペーストを固体化し乾式粉砕後、イオン交換樹脂溶液を加えて安定性の良いペーストを作製している。さらに、特許文献3に開示された発明においては、触媒粉末とイオン交換樹脂溶液をスプレードライ装置で分散混合し、イオン交換樹脂付き触媒粉末を作製後、熱処理を行いイオン交換樹脂溶液に混合し、触媒ペーストを作製している。
【特許文献1】特開2002−184414号公報
【特許文献2】特開2004−139899号公報
【特許文献3】特開2004−281305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された技術における触媒ペーストの乾式粉砕は発火の恐れがあって危険であり、また特許文献3に記載された技術においてはスプレードライ装置を用いなければならず、コスト高になる。さらに、これら特許文献1〜特許文献3に記載された技術においては、いずれも製造工程が複雑で触媒ペーストの製造に時間がかかるという問題点があった。
【0005】
従来のバッチ式サンドミルを用いた触媒ペーストの製造方法における問題点を解決するためには、分散メディアを使用しないメディアレス高速ミキサー(例えば高速ホモミキサー等)を用いて触媒ペーストを分散させることが考えられる。しかし、単にバッチ式サンドミルをメディアレス高速ミキサーに変更しただけでは、使用材料により放電性能は良いが安定性が悪く保管できない触媒ペーストや、安定性は良いが放電性能が劣る触媒ペーストになってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、安定性が良く保管できるとともに燃料電池の電極を製造した場合に良好な放電性能を示し、しかも短時間で容易に収率良く製造することができる燃料電池電極用触媒ペースト及びその製造方法、並びにその触媒ペーストを用いた燃料電池用電極の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明にかかる燃料電池電極用触媒ペーストは、固体高分子型燃料電池の電極を製造するための触媒ペーストであって、触媒金属担持カーボンブラックと第1のイオン交換樹脂溶液と溶媒とを含む混合液をメディアレス高速ミキサーで分散した後、第2のイオン交換樹脂溶液を加えて攪拌してなり、前記触媒金属担持カーボンブラックの比表面積が50m2 /g〜1000m2 /gの範囲内であり、前記第1のイオン交換樹脂溶液のEW(イオン交換当量)値が500以上1000未満で、前記第1のイオン交換樹脂溶液のイオン交換樹脂量が前記触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で30%〜80%であり、前記溶媒が水とエタノールの混合液で、その混合割合が水/エタノール=50/50〜80/20の範囲内であり、前記第2のイオン交換樹脂溶液のEW値が1000以上1200未満で、触媒ペースト中の総イオン交換樹脂量が前記触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で80%〜220%であるものである。
【0008】
請求項2の発明にかかる燃料電池電極用触媒ペーストの製造方法は、固体高分子型燃料電池の電極を製造するための触媒ペーストの製造方法であって、比表面積が50m2 /g〜1000m2 /gのカーボンブラックに触媒金属が担持された触媒粉末と、EW値が500以上1000未満でイオン交換樹脂量が前記触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で30%〜80%である第1のイオン交換樹脂溶液と、水とエタノールの混合割合が水/エタノール=50/50〜80/20の範囲内である溶媒と、を含む混合液をメディアレス高速ミキサーで分散する第1工程と、前記第1工程で得られた混合物に、EW値が1000以上1200未満の第2のイオン交換樹脂溶液を加えて攪拌する第2工程とを具備し、得られた触媒ペースト中の総イオン交換樹脂量が前記触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で80%〜220%であるものである。
【0009】
請求項3の発明にかかる燃料電池用電極は、請求項1の燃料電池電極用触媒ペーストまたは請求項2の燃料電池電極用触媒ペーストの製造方法により製造された燃料電池電極用触媒ペーストを電極基材に塗布して乾燥してなるものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明にかかる燃料電池電極用触媒ペーストは、触媒金属担持カーボンブラックと第1のイオン交換樹脂溶液と溶媒とを含む混合液をメディアレス高速ミキサーで分散した後、第2のイオン交換樹脂溶液を加えて攪拌してなり、触媒金属担持カーボンブラックの比表面積が50m2 /g〜1000m2 /gの範囲内であり、第1のイオン交換樹脂溶液のEW値が500以上1000未満、より好ましくは700以上950未満で、第1のイオン交換樹脂溶液のイオン交換樹脂量が触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で30%〜80%であり、溶媒が水とエタノールの混合液で、その混合割合が水/エタノール=50/50〜80/20の範囲内であり、第2のイオン交換樹脂溶液のEW値が1000以上1200未満で、触媒ペースト中の総イオン交換樹脂量が触媒金属担持カーボンブラックに対して重量比で80%〜220%、より好ましくは90%〜200%である。
【0011】
ここで、「メディアレス高速ミキサー」としては、例えば高速ホモミキサー等を用いることができる。メディアレス高速ミキサーを用いて触媒金属担持カーボンブラックと第1のイオン交換樹脂溶液と溶媒を含む混合液を混合分散することによって、メディアにペーストが付着して回収困難になるということがなくなるので、収率を大幅に上げることができる。
【0012】
そして、本発明者は鋭意実験研究の結果、以下の事実を見出した。即ち、触媒金属担持カーボンブラックの比表面積が50m2 /gより小さいと十分な量の触媒金属を担持することができず、1000m2 /gより大きいと細孔の大きさが小さくなり過ぎてメディアレス高速ミキサーの分散では細孔内の触媒を利用できなくなる。また、第1のイオン交換樹脂溶液のEW値が500未満であると、放電時電極内の水分が多くなった場合に放電不能になり、EW値が1000以上になると、カーボンブラックの分散性が低下してメディアレス高速ミキサーの分散では分散品の粒度分布幅が広くなり保管により触媒粉末の沈降が発生してしまう。
【0013】
また、水とエタノールの溶媒成分比でエタノールの割合が50%を超えると、一部の触媒粉末がエタノールに分散してしまい放電性能が低下し、水の割合が80%を超えるとペースト自体の安定性が低下し、保管により固液分離してしまう。さらに、水とエタノール以外のIPA,NPA,プロピレングリコール等の溶媒を加えると、ペーストの安定性が低下してしまう。また、第1のイオン交換樹脂溶液のイオン交換樹脂量がカーボンブラックのカーボン分に対して重量比で30%未満であると分散不良となり、80%を超えると放電時電極内の水分が多くなった場合に放電性能が低下してしまう。
【0014】
さらに、メディアレス高速ミキサーによる分散後に加える第2のイオン交換樹脂溶液のEW値が1000未満であると、放電時電極内の水分が多くなった場合における放電性能の低下を改善することができず、EW値が1200以上であるとプロトン伝導性が低下し、放電性能が低下してしまう。そして、最終的なイオン交換樹脂量がカーボンブラックのカーボン分に対して重量比で80%未満であるとプロトン伝導性が不足し、220%を超えるとガス拡散性の低下を招き、放電性能が低下する。
【0015】
本発明者は、以上の知見に基づいて本発明を完成させたものである。このようにして、安定性が良く保管できるとともに燃料電池の電極を製造した場合に良好な放電性能を示し、しかも短時間で容易に収率良く製造することができる燃料電池電極用触媒ペーストとなる。
【0016】
請求項2の発明にかかる燃料電池電極用触媒ペーストの製造方法は、比表面積が50m2 /g〜1000m2 /gのカーボンブラックに触媒金属が担持された触媒粉末と、EW値が500以上1000未満、より好ましくは700以上950未満でイオン交換樹脂量が触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で30%〜80%である第1のイオン交換樹脂溶液と、水とエタノールの混合割合が水/エタノール=50/50〜80/20の範囲内である溶媒とを含む混合液をメディアレス高速ミキサーで分散する第1工程と、第1工程で得られた混合物に、EW値が1000以上1200未満の第2のイオン交換樹脂溶液を加えて攪拌する第2工程とを具備し、得られた触媒ペースト中の総イオン交換樹脂量が触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で80%〜220%、より好ましくは90%〜200%である。
【0017】
ここで、第1工程で用いられる「メディアレス高速ミキサー」としては、例えば高速ホモミキサー等を用いることができる。メディアレス高速ミキサーを用いてカーボンブラックに触媒金属が担持された触媒粉末と第1のイオン交換樹脂溶液と溶媒を含む混合液を混合分散することによって、メディアにペーストが付着して回収困難になるということがなくなるので、収率を大幅に上げることができる。
【0018】
そして、本発明者は鋭意実験研究の結果、以下の事実を見出した。即ち、第1工程においては、触媒金属担持カーボンブラックの比表面積が50m2 /gより小さいと十分な量の触媒金属を担持することができず、1000m2 /gより大きいと細孔の大きさが小さくなり過ぎてメディアレス高速ミキサーの分散では細孔内の触媒を利用できなくなる。また、第1のイオン交換樹脂溶液のEW値が500未満であると、放電時電極内の水分が多くなった場合に放電不能になり、EW値が1000以上になると、カーボンブラックの分散性が低下してメディアレス高速ミキサーの分散では分散品の粒度分布幅が広くなり保管により触媒粉末の沈降が発生してしまう。
【0019】
また、水とエタノールの溶媒成分比でエタノールの割合が50%を超えると、一部の触媒粉末がエタノールに分散してしまい放電性能が低下し、水の割合が80%を超えるとペースト自体の安定性が低下し、保管により固液分離してしまう。さらに、水とエタノール以外のIPA,NPA,プロピレングリコール等の溶媒を加えると、ペーストの安定性が低下してしまう。また、第1のイオン交換樹脂溶液のイオン交換樹脂量がカーボンブラックのカーボン分に対して重量比で30%未満であると分散不良となり、80%を超えると放電時電極内の水分が多くなった場合に放電性能が低下してしまう。
【0020】
さらに、第2工程においては、第2のイオン交換樹脂溶液のEW値が1000未満であると、放電時電極内の水分が多くなった場合における放電性能の低下を改善することができず、EW値が1200以上であるとプロトン伝導性が低下し、放電性能が低下してしまう。そして、最終的なイオン交換樹脂量がカーボンブラックのカーボン分に対して重量比で80%未満であるとプロトン伝導性が不足し、220%を超えるとガス拡散性の低下を招き、放電性能が低下する。
【0021】
本発明者は、以上の知見に基づいて本発明を完成させたものである。このようにして、安定性が良く保管できるとともに燃料電池の電極を製造した場合に良好な放電性能を示し、しかも短時間で容易に収率良く製造することができる燃料電池電極用触媒ペーストの製造方法となる。
【0022】
請求項3の発明にかかる燃料電池用電極は、請求項1の燃料電池電極用触媒ペーストまたは請求項2の製造方法により製造された燃料電池電極用触媒ペーストを電極基材に塗布して乾燥してなる。上述のごとく、これらの燃料電池電極用触媒ペーストは優れた特性を有しているため、通常の方法で電極基材に塗布して乾燥することによって、良好な放電性能を示し、しかも短時間で容易に収率良く製造することができる燃料電池用電極となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極用触媒ペースト及びその製造方法、並びにその触媒ペーストを用いた燃料電池用電極について説明する。
【0024】
まず、本実施の形態にかかる燃料電池電極用触媒ペースト及び燃料電池用電極の製造方法について説明する。第1工程においては、触媒粉末としてはケッチェンブラックECに白金(Pt)微粒子が重量比で50%担持されたものを使用し、第1のイオン交換樹脂溶液としてはEW(イオン交換当量)値=900の9%エタノール溶液を使用し、これに溶媒として水を加えて(第1のイオン交換樹脂溶液中のエタノールに対して、水/エタノール=62.9/37.1となるようにした)、この混合液をメディアレス高速ミキサーとしてのホモミキサーmk2(特殊機化工業(株)製)を用いて均一分散させた。
【0025】
続いて、第2工程として、第2のイオン交換樹脂溶液としてはEW値=1100の10%水溶液を使用し、これを第1工程の分散品に加えてホモディスパー(特殊機化工業(株)製)を用いて攪拌混合して燃料電池電極用触媒ペーストを製造した。20℃で30日間保管した後、この燃料電池電極用触媒ペーストを用いて燃料電池用電極を作製した。カーボンペーパーにアセチレンブラックスラリーとPTFEディスパージョンを混合した溶液を含浸し、350℃で30分間加熱処理したものをガス拡散層とし、このガス拡散層にPt量が0.3mg/cm2 になるように燃料電池電極用触媒ペーストを塗布・乾燥して、燃料電池用電極を作製した。
【0026】
本実施の形態においては、配合比を変えて、4種類の実施例1〜実施例4の触媒ペーストと、比較のため9種類の比較例1〜比較例9の触媒ペーストを製造して、特性試験を行った。
【0027】
実施例1の触媒ペーストは、触媒粉末として上述のケッチェンブラックECにPt微粒子が重量比で50%担持されたものを10重量部、溶媒として水を60重量部、第1のイオン交換樹脂溶液として上述のEW値=900の9%エタノール溶液(以下、「イオン交換樹脂溶液A」という。)を38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液として上述のEW値=1100の10%水溶液(以下、「イオン交換樹脂溶液B」という。)を20重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した実施例1の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であり、20℃で30日間保管した後の分散状態も良好であった。
【0028】
実施例2の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を60重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Bを40重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した実施例2の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であり、20℃で30日間保管した後の分散状態も良好であった。
【0029】
実施例3の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を60重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Bを5重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した実施例3の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であり、20℃で30日間保管した後の分散状態も良好であった。
【0030】
実施例4の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を60重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Bを75重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した実施例4の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であり、20℃で30日間保管した後の分散状態も良好であった。
【0031】
比較例1の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を35重量部、エタノールを25重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてEW値=1000の10%水溶液(以下、「イオン交換樹脂溶液C」という。)を55重量部、内製のバッチ式サンドミルで分散して製造した。こうして製造した比較例1の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であり、20℃で30日間保管した後の分散状態も良好であった。
【0032】
比較例2の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を35重量部、エタノールを25重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Cを55重量部、ホモミキサーmk2で分散して製造した。こうして製造した比較例2の触媒ペーストは、初期分散状態が悪く、良好な触媒ペーストを得ることができなかった。
【0033】
比較例3の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を60重量部、エタノールを20重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを11重量部、ホモミキサーmk2で分散して製造した。こうして製造した比較例3の触媒ペーストは、初期分散状態が悪く、良好な触媒ペーストを得ることができなかった。
【0034】
比較例4の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を40重量部、エタノールを20重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Bを20重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した比較例4の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であり、20℃で30日間保管した後の分散状態も良好であった。
【0035】
比較例5の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を60重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを61.1重量部、ホモミキサーmk2で分散して製造した。こうして製造した比較例5の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であり、20℃で30日間保管した後の分散状態も良好であった。
【0036】
比較例6の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を80重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Bを20重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した比較例6の触媒ペーストは、初期分散状態が悪く、良好な触媒ペーストを得ることができなかった。
【0037】
比較例7の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を40重量部、IPA(イソプロピルアルコール、イソプロパノール)を20重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Bを20重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した比較例7の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であったが、20℃で30日間保管した後の分散状態が悪く、安定性の良い触媒ペーストを得ることができなかった。
【0038】
比較例8の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を40重量部、NPA(ノルマルプロピルアルコール、ノルマルプロパノール)を20重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Bを20重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した比較例8の触媒ペーストは、初期分散状態が悪く、良好な触媒ペーストを得ることができなかった。
【0039】
比較例9の触媒ペーストは、触媒粉末を10重量部、溶媒として水を40重量部、プロピレングリコールを20重量部、第1のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Aを38.9重量部、ホモミキサーmk2で分散し、第2のイオン交換樹脂溶液としてイオン交換樹脂溶液Bを20重量部加えて、ホモディスパーで攪拌して製造した。こうして製造した比較例9の触媒ペーストは、初期分散状態は良好であったが、20℃で30日間保管した後の分散状態が悪く、安定性の良い触媒ペーストを得ることができなかった。
【0040】
以上の実施例1〜実施例4の触媒ペーストと比較例1〜比較例9の触媒ペーストのうち、良好な安定性が得られた実施例1〜実施例4、及び比較例1,比較例4,比較例5の燃料電池電極用触媒ペーストを用いてMEA(電解質膜電極接合体)を作製し、単セル電池で放電試験を行った。
【0041】
カーボンペーパーにアセチレンブラックスラリーとPTFEディスパージョンを混合した溶液を含浸し、350℃で30分間加熱処理したものをガス拡散層とし、このガス拡散層にPt量が0.3mg/cm2 になるように燃料電池電極用触媒ペーストを塗布・乾燥して、燃料電池用電極を作製した。この電極で電解質膜Nafion112(登録商標)を両側から挟み、ホットプレスを行うことでMEAを作製した。
【0042】
水素極側の触媒ペーストとしては、全てのMEAにおいて比較例1の触媒ペーストを使用した。電池の運転条件は、セル温度80℃、燃料ガス露点温度60℃、空気露点温度65℃、水素利用率75%、空気利用率50%とし、燃料ガスとしては水素を使用した。実施例1〜実施例4、及び比較例1,比較例4,比較例5の燃料電池電極用触媒ペーストを用いた各MEAの放電試験結果を、図1に示す。図1は実施例1〜実施例4、及び比較例1,比較例4,比較例5の燃料電池電極用触媒ペーストを用いた各MEAの放電試験結果を示す図である。
【0043】
図1に示されるように、実施例1,実施例2,比較例1の燃料電池電極用触媒ペーストを用いたMEAにおいては、優れた放電特性が得られた。また、実施例3と実施例4の燃料電池電極用触媒ペーストを用いたMEAにおいても、良好な放電特性が得られたが、実施例1,実施例2,比較例1に比較すると幾分劣っている。これは、実施例3と実施例4の配合が、触媒ペースト全体中の総イオン交換樹脂量がカーボンブラックのカーボン分に対して、それぞれ重量比で約80%と約220%であり、本発明の総イオン交換樹脂量のそれぞれ下限と上限に相当するためであり、好ましくは、触媒ペースト全体中の総イオン交換樹脂量は、カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で90%〜200%の範囲内である方が良いことが分かる。
【0044】
これに対して、図1に示されるように、比較例4と比較例5の燃料電池電極用触媒ペーストを用いたMEAにおいては、良好な放電特性が得られていない。この結果から、実施例1〜実施例4、及び比較例1の燃料電池電極用触媒ペーストを用いることによって、好ましい燃料電池用電極が得られることが分かる。但し、比較例1においては、上述の如く、内製のバッチ式サンドミルで分散して製造しているため、収率が悪く製造に時間がかかるという問題があり、結局実用的な燃料電池電極用触媒ペーストは実施例1〜実施例4の燃料電池電極用触媒ペーストであることが結論付けられた。
【0045】
このようにして、本実施の形態にかかる実施例1〜実施例4の燃料電池電極用触媒ペーストは、安定性が良く保管できるとともに燃料電池の電極を製造した場合に良好な放電性能を示し、しかも短時間で容易に収率良く製造することができる。
【0046】
燃料電池電極用触媒ペースト及びその触媒ペーストを用いた燃料電池用電極のその他の成分、構成、材料、形状、大きさ、接続関係等についても、並びに燃料電池電極用触媒ペーストの製造方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は実施例1〜実施例4、及び比較例1,比較例4,比較例5の燃料電池電極用触媒ペーストを用いた各MEAの放電試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子型燃料電池の電極を製造するための触媒ペーストであって、
触媒金属担持カーボンブラックと第1のイオン交換樹脂溶液と溶媒とを含む混合液をメディアレス高速ミキサーで分散した後、第2のイオン交換樹脂溶液を加えて攪拌してなり、
前記触媒金属担持カーボンブラックの比表面積が50m2 /g〜1000m2 /gの範囲内であり、
前記第1のイオン交換樹脂溶液のEW(イオン交換当量)値が500以上1000未満で、前記第1のイオン交換樹脂溶液のイオン交換樹脂量が前記触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で30%〜80%であり、
前記溶媒が水とエタノールの混合液で、その混合割合が水/エタノール=50/50〜80/20の範囲内であり、
前記第2のイオン交換樹脂溶液のEW値が1000以上1200未満で、
触媒ペースト中の総イオン交換樹脂量が前記触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で80%〜220%であることを特徴とする燃料電池電極用触媒ペースト。
【請求項2】
固体高分子型燃料電池の電極を製造するための触媒ペーストの製造方法であって、
比表面積が50m2 /g〜1000m2 /gのカーボンブラックに触媒金属が担持された触媒粉末と、EW値が500以上1000未満でイオン交換樹脂量が前記触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で30%〜80%である第1のイオン交換樹脂溶液と、水とエタノールの混合割合が水/エタノール=50/50〜80/20の範囲内である溶媒と、を含む混合液をメディアレス高速ミキサーで分散する第1工程と、
前記第1工程で得られた混合物に、EW値が1000以上1200未満の第2のイオン交換樹脂溶液を加えて攪拌する第2工程とを具備し、
得られた触媒ペースト中の総イオン交換樹脂量が前記触媒金属担持カーボンブラックのカーボン分に対して重量比で80%〜220%であることを特徴とする燃料電池電極用触媒ペーストの製造方法。
【請求項3】
請求項1の燃料電池電極用触媒ペーストまたは請求項2の燃料電池電極用触媒ペーストの製造方法により製造された燃料電池電極用触媒ペーストを電極基材に塗布して乾燥してなることを特徴とする燃料電池用電極。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−302644(P2006−302644A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122275(P2005−122275)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】