説明

燃料電池

【課題】粗密構造を有するガス拡散層のガス拡散性の面内のばらつきを改善する。
【解決手段】ガス拡散層28は、細孔径が相対的に大きい第1の基材層64と、細孔径が相対的に小さい第2の基材層66とを含み、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られる微細孔層62が第1の基材層64に塗布されている。同様に、ガス拡散層32は、細孔径が相対的に大きい第1の基材層74と、細孔径が相対的に小さい第2の基材層76とを含み、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られる微細孔層72が第1の基材層74に塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素の電気化学反応により発電する燃料電池に関する。より具体的には、本発明は、燃料電池を構成するガス拡散層のガス拡散性能を改良する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー変換効率が高く、かつ、発電反応により有害物質を発生しない燃料電池が注目を浴びている。こうした燃料電池の一つとして、100℃以下の低温で作動する固体高分子形燃料電池が知られている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜である固体高分子膜を燃料極と空気極との間に配した基本構造を有し、燃料極に水素を含む燃料ガス、空気極に酸素を含む酸化剤ガスを供給し、以下の電気化学反応により発電する装置である。
【0004】
燃料極:H→2H++2e(1)
空気極:1/2O+2H++2e→HO(2)
燃料極および空気極は、触媒層とガス拡散層が積層した構造からなる。各電極の触媒層が固体高分子膜を挟んで対向配置され、燃料電池を構成する。触媒層は、触媒を担持した炭素粒子がイオン交換樹脂により結着されてなる層である。ガス拡散層は酸化剤ガスや燃料ガスの通過経路となる。
【0005】
燃料極においては、供給された燃料中に含まれる水素が上記式(1)に示されるように水素イオンと電子に分解される。このうち水素イオンは固体高分子電解質膜の内部を空気極に向かって移動し、電子は外部回路を通って空気極に移動する。一方、空気極においては、空気極に供給された酸化剤ガスに含まれる酸素が燃料極から移動してきた水素イオンおよび電子と反応し、上記式(2)に示されるように水が生成する。このように、外部回路では燃料極から空気極に向かって電子が移動するため、電力が取り出される。
【0006】
ガス拡散層に関しては、ガス拡散性を向上させるべく開発が行われている。たとえば、特許文献1は、抄紙シートの内部の空隙に撥水性材料を含浸させて得たベースシート(カーボン基材)の表面に導電性物質を含む流動物(ガス拡散ペースト)を塗布することにより、粗層の表面に密層を積層させた複層構造が形成されたガス拡散部材を開示する。
【特許文献1】特開2005−71941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、燃料電池に用いられるガス拡散層では、単一構造のカーボン基材にガス拡散ペーストを塗布していたため、ガス拡散ペーストの塗布深さ、塗布分布がカーボン基材面内で不均一となりやすくなる傾向があった。これは、単一構造のカーボン基材では、ガス拡散ペーストが入り込める気孔の分布にばらつきが生じていることに起因する。この結果、ガス拡散層のガス拡散性が面内で不均一となり、電気化学反応が場所によって阻害され、燃料電池の動作安定性が損なわれるという課題があった。
【0008】
また、カソードでは、酸化剤の流れに従って生成水が移動するなるため、酸化剤の流れの上流側ほどガス拡散層が乾燥しやすくなり、酸化剤の流れの下流側ほどガス拡散層が過加湿状態となる問題があった。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複層構造を有するガス拡散層のガス拡散性を向上させる技術の提供にある。また、本発明の他の目的は、カソード側のガス拡散層の水分の分布を均一化する技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、燃料電池である。当該燃料電池は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、アノード触媒層の外面に配設されたアノードガス拡散層と、アノードガス拡散層の表面に沿って燃料を供給する燃料供給手段と、電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、カソード触媒層の外面に配設されたカソードガス拡散層と、カソードガス拡散層の表面に沿って酸化剤を供給する酸化剤供給手段と、を備え、アノードガス拡散層は、細孔径が相対的に大きい部分と、細孔径が相対的に小さい部分とを含むアノード基材と、アノード基材中の細孔径が相対的に大きい部分に塗布された導電性粉末および撥水剤の混練物で形成されたアノード微細孔層と、を有し、カソードガス拡散層は、細孔径が相対的に大きい部分と、細孔径が相対的に小さい部分とを含むカソード基材と、カソード基材中の細孔径が相対的に大きい部分に塗布された導電性粉末および撥水剤との混練物で形成されたカソード微細孔層と、を有することを特徴とする。
【0011】
この態様によれば、アノードおよびカソードのガス拡散層において、導電性粉末および撥水剤の混練物からなる微細孔層の厚さがカソード基材中の細孔径が相対的に大きい部分によって規定される。この結果、微細孔層の厚さおよび分布のばらつきが抑制され、燃料電池の動作安定性が向上する。
【0012】
上記態様において、カソード基材中の細孔径が相対的に大きい部分の方がカソード基材中の細孔径が相対的に小さい部分に比べて撥水性が高くてもよい。
【0013】
この態様によれば、カソードのガス拡散層において、酸化剤の流れの上流側の微細孔層の撥水性がより高くなる。この結果、酸化剤の流れの上流側の微細孔層が乾燥することがさらに抑制されるとともに、酸化剤の流れの下流側の微細孔層が過加湿状態になることがさらに抑制される。
【0014】
上記態様において、カソード基材中の細孔径が相対的に大きい部分の厚さが、酸化剤の流れの上流側の方が酸化剤の流れの下流側に対して厚くなっていてもよい。
【0015】
この態様によれば、カソードのガス拡散層において、酸化剤の流れの上流側の微細孔層の撥水性が高くなる。言い換えると、酸化剤の流れの上流側の微細孔層の水分透過性が低くなる。この結果、酸化剤の流れの上流側の微細孔層が乾燥することが抑制されるとともに、酸化剤の流れの下流側の微細孔層が過加湿状態になることが抑制される。ひいては、ガス拡散層および電解質膜の水分が適度に保たれ、燃料電池の動作安定性が向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガス拡散層のガス拡散性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る電極触媒およびこれを用いた燃料電池10の構造を模式的に示す斜視図である。図2は、図1のA−A線上の断面図である。燃料電池10は、平板状のセル50を備え、このセル50の両側にはセパレータ34およびセパレータ36が設けらている。この例では一つのセル50のみを示すが、セパレータ34やセパレータ36を介して複数のセル50を積層して、燃料電池10が構成されてもよい。セル50は、固体高分子電解質膜20、燃料極(アノード)22および空気極(カソード)24とを有する。燃料極22は、触媒層26およびガス拡散層28からなる積層体を有する。同様に、空気極24は、触媒層30およびガス拡散層32からなる積層体を有する。燃料極22の触媒層26と空気極24の触媒層30は、固体高分子電解質膜20を挟んで対向するように設けられている。
【0018】
燃料極22側に設けられるセパレータ34にはガス流路38が設けられており、このガス流路38を通じてセル50に燃料ガスが供給される。同様に、空気極24側に設けられるセパレータ36にもガス流路40が設けられ、このガス流路40を通じてセル50に酸化剤ガスが供給される。具体的には、燃料電池10の運転時、燃料ガス、例えば水素ガスがガス流路38内をガス拡散層28の表面に沿って上方から下方へ流通することにより、燃料極22に燃料ガスが供給される。一方、燃料電池10の運転時、酸化剤ガス、たとえば、空気がガス流路40内をガス拡散層32の表面に沿って上方から下方へ流通することにより、空気極24に酸化剤ガスが供給される。これにより、セル50内で反応が生じる。ガス拡散層28を介して触媒層26に水素ガスが供給されると、ガス中の水素がプロトンとなり、このプロトンが固体高分子電解質膜20中を空気極24側へ移動する。このとき放出される電子は外部回路に移動し、外部回路から空気極24に流れ込む。一方、ガス拡散層32を介して触媒層30に空気が供給されると、酸素がプロトンと結合して水となる。この結果、外部回路においては燃料極22から空気極24に向かって電子が流れることとなり、電力を取り出すことができる。
【0019】
固体高分子電解質膜20は、湿潤状態において良好なイオン伝導性を示し、燃料極22および空気極24の間でプロトンを移動させるイオン交換膜として機能する。固体高分子電解質膜20は、含フッ素重合体や非フッ素重合体等の固体高分子材料によって形成され、例えば、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体、ポリサルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を用いることができる。スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の例として、ナフィオン(デュポン社製:登録商標)112などがあげられる。また、非フッ素重合体の例として、スルホン化された、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。
【0020】
燃料極22を構成する触媒層26は、イオン交換樹脂と、触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。イオン交換樹脂は、触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン交換樹脂は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。担持される触媒には、例えば白金、ルテニウム、ロジウムなどの1種または2種を合金化したものなどがある。また触媒を担持する炭素粒子には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブなどがある。
【0021】
燃料極22を構成するガス拡散層28は、アノード基材60およびアノード基材60に塗布された微細孔層62を有する。ガス拡散層28の製造方法については後述する。
【0022】
アノード基材60は、第1の基材層64および第2の基材層66を有する。第1の基材層64および第2の基材層66は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえばカーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。第1の基材層64は、固体高分子電解質膜20側に位置し、平均細孔径が相対的に大きい部分である。第2の基材層66は、固体高分子電解質膜20の反対側に位置し、平均細孔径が相対的に小さい部分である。
【0023】
平均細孔径が相対的に小さい第2の基材層66の平均細孔径は10〜100μmが好ましい。第2の基材層66の平均細孔径が10μmより小さいと微細孔層62の平均細孔径と同等以下になってしまい、ガス拡散性が極端に悪くなる。逆に、第2の基材層66の平均細孔径が100μmより大きいと、第2の基材層66の細孔径が大きくなり過ぎ、第1の基材層64に塗布される微細孔層62の表面の平坦度が悪くなる危険性がある。平均細孔径が相対的に大きい第1の基材層64の平均細孔径は、200μmを超えない範囲で、第2の基材層66の平均細孔径の2倍以上が好ましい。第1の基材層64の平均細孔径を第2の基材層66の平均細孔径の2倍以上とすることにより、微細孔層62の透過性に明確な差をつけることができ、第2の基材層66への微細孔層62の進入を防ぐ効果が高くなる。また、第1の基材層64の平均細孔径が200μmを超えると微細孔層62の表面の平坦度が悪くなる可能性が高くなる。
【0024】
微細孔層62は、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物である。導電性粉末としては、たとえば、カーボンブラックを用いることができる。また、撥水剤としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)などのフッ素系樹脂を用いることができる。なお、撥水剤は結着性を有することがこのましい。ここで、結着性とは、粘りの少ないものやくずれやすいものをつなぎ合わせ、粘りのあるもの(状態)にすることができる性質をいう。撥水剤が結着性を有することにより、導電性粉末と撥水剤とを混練することにより、ペースト状の混練物を得ることができる。
【0025】
微細孔層62は、細孔径が相対的に大きい第1の基材層64に塗布されている。このため、微細孔層62は、第1の基材層64の形状によって規定され、厚さや分布にばらつきが少なくなっている。この結果、ガス拡散層28のガス拡散性が場所によってばらつくことが抑制され、ひいては、電気化学反応に供される燃料電池10の動作安定性が向上する。
【0026】
空気極24を構成する触媒層30は、イオン交換樹脂と、触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。イオン交換樹脂は、触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン交換樹脂は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。担持される触媒には、例えば白金、ルテニウム、ロジウムなどの1種または2種を合金化したものなどがある。また触媒を担持する炭素粒子には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブなどがある。
【0027】
空気極24を構成するガス拡散層32は、カソード基材70およびカソード基材70に塗布された微細孔層72を有する。ガス拡散層32の製造方法については後述する。
【0028】
カソード基材70は、第1の基材層74および第2の基材層76を有する。第1の基材層74および第2の基材層76は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえばカーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。第1の基材層74は、固体高分子電解質膜20側に位置し、細孔径が相対的に大きい部分である。第2の基材層76は、固体高分子電解質膜20の反対側に位置し、細孔径が相対的に小さい部分である。
【0029】
平均細孔径が相対的に小さい第2の基材層76の平均細孔径は10〜100μmが好ましい。第2の基材層76の平均細孔径が10μmより小さいと微細孔層72の平均細孔径と同等以下になってしまい、ガス拡散性が極端に悪くなる。逆に、第2の基材層76の平均細孔径が100μmより大きいと、第2の基材層76の細孔径が大きくなり過ぎ、第1の基材層74に塗布される微細孔層72の表面の平坦度が悪くなる危険性がある。平均細孔径が相対的に大きい第1の基材層74の平均細孔径は、200μmを超えない範囲で、第2の基材層76の平均細孔径の2倍以上が好ましい。第1の基材層74の平均細孔径を第2の基材層76の平均細孔径の2倍以上とすることにより、微細孔層72の透過性に明確な差をつけることができ、第2の基材層76への微細孔層72の進入を防ぐ効果が高くなる。また、第1の基材層74の平均細孔径が200μmを超えると微細孔層72の表面の平坦度が悪くなる可能性が高くなる。
【0030】
微細孔層72は、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物である。導電性粉末としては、たとえば、カーボンブラックを用いることができる。また、撥水剤としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)などのフッ素系樹脂を用いることができる。なお、撥水剤は結着性を有することがこのましい。ここで、結着性とは、粘りの少ないものやくずれやすいものをつなぎ合わせ、粘りのあるもの(状態)にすることができる性質をいう。撥水剤が結着性を有することにより、導電性粉末と撥水剤とを混練することにより、ペースト状の混練物を得ることができる。
【0031】
微細孔層72は、細孔径が相対的に大きい第1の基材層74に塗布されている。このため、微細孔層72は、第1の基材層74の形状によって規定され、厚さや分布にばらつきが少なくなっている。この結果、ガス拡散層32のガス拡散性が場所によってばらつくことが抑制され、ひいては、電気化学反応に供される燃料電池10の動作安定性が向上する。
【0032】
(ガス拡散層の作製方法)
図1および図2に示した燃料極22を構成するガス拡散層28および空気極24を構成するガス拡散層32は、以下の手順により作製することができる。ガス拡散層28およびガス拡散層32は同様な手順で作製できるため、ガス拡散層32の作製手順を中心に説明し、必要に応じてガス拡散層28の作製手順を説明する。
【0033】
まず、図3に示すような、カーボンペーパからなる第1の基材層74および第2の基材層76を有するカソード基材70を用意する。第1の基材層74の厚さは、特に限定されないが、たとえば50μmとすることができる。また、第2の基材層76の厚さは、特に限定されないが、たとえば150μmとすることができる。
【0034】
次に、重量比でカーボンペーパ:FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)=95:5となるように、カソード基材70をFEP分散液に浸漬した後、380℃を2時間保持して熱処理(FEP撥水処理)を行う。カソード基材70をFEP分散液に浸漬することにより、第1の基材層74の方が第2の基材層76よりFEP分散液の含浸量が多くなる。これにより、熱処理後の撥水性は、第1の基材層74の方が第2の基材層76より高くなる。言い換えると、第1の基材層74の方が第2の基材層76より水分透過性が低くなる。
【0035】
なお、アノード基材60については、カーボンペーパ:FEP=60:40となるように、アノード基材60をFEP分散液に浸漬する。
【0036】
次に、カーボンブラックと溶媒としてテルピネオールと非イオン性界面活性剤のトリトンとを、重量比がカーボンブラック:テルピネオール:トリトン=20:150:3となるように、万能混合機にて常温で60分間、均一になるように混合し、カーボンペーストを作製する。
【0037】
次に、カーボンペーストとフッ素樹脂とを混練する。具体的には、ハイブリッドミキサ用容器に上記カーボンペーストを投入し、カーボンペーストが10〜12℃になるまで冷却する。冷却したカーボンペーストに撥水剤としてフッ素樹脂を含むフッ素樹脂分散液を投入し、重量比をカーボンペースト:フッ素樹脂(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=31:1にする。フッ素樹脂分散液は、分散液中のフッ素樹脂の重量比を低分子PTFE:高分子PTFE=20:3としたものを用いることができる。
【0038】
続いて、ハイブリッドミキサ(キーエンス社製:EC500)の混合モードにてカーボンペーストとフッ素樹脂との混合物を12〜18分間混合した後、脱泡モードにて1〜3分間脱泡を行う。脱泡を終えたペーストを自然冷却することにより、微細孔層62を形成するカソード用のガス拡散層ペーストが得られる。
【0039】
なお、アノード用のガス拡散層ペーストの場合には、ハイブリッドミキサ用容器に上記ガーボンペーストと低分子PTFEとを、重量比がカーボンペースト:低分子PTFE=26:3となるように投入し、ハイブリッドミキサの混合モードにて15分間混合する。混合した後、ハイブリッドミキサを脱泡モードに切り替え、4分間脱泡を行う。脱泡を終えたペーストの上部に上澄み液が溜まった場合には、この上澄み液を廃棄し、ペーストを自然冷却して、アノード用のガス拡散層ペーストを得る。
【0040】
カソード用のガス拡散層ペーストを、カソード基材70の第1の基材層74に塗布する。本実施の形態では、第1の基材層74は第2の基材層76に比べて細孔径が大きいため、ガス拡散層ペーストが塗布される領域を第1の基材層74に限定し、ガス拡散層ペーストの塗布厚さを制御することができる。このため、第1の基材層74と第2の基材層76との界面を平滑にすることにより、ガス拡散層ペースト、すなわち、微細孔層62の塗布厚さおよび分布のばらつきを低減することが可能となる。
【0041】
ガス拡散層ペーストが塗布されたカソード基材70を熱風乾燥機などを用いて60℃で60分間乾燥した後、360℃で2時間熱処理を行うことにより、空気極24を構成するガス拡散層32が得られる。
【0042】
(実施の形態2)
実施の形態2の燃料電池10の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、同様な構成については実施の形態1と同一の符号を付して、説明を適宜省略する。実施の形態1では、カソード基材70の第1の基材層74の厚さが均等にしていたが、実施の形態2では、図4に示すように、細孔径が相対的に大きい第1の基材層74の厚さは、酸化剤の流れの上流側の方が酸化剤の流れの下流側に対して厚くなっている。たとえば、カソード基材70全体の厚さを200μmとした場合には、第1の基材層74の最上流側(図4の最上部)の厚さを150μmとし、第1の基材層74の最下流側(図4の最下部)の厚さを20μmとすることができる。
【0043】
これによれば、カソードのガス拡散層32において、酸化剤の流れの上流側の微細孔層72の撥水性が高くなる。言い換えると、酸化剤の流れの上流側の微細孔層72の水分透過性が低くなる。この結果、酸化剤の流れの上流側の微細孔層72が乾燥することが抑制されるとともに、酸化剤の流れの下流側の微細孔層72が過加湿状態になることが抑制される。ひいては、ガス拡散層32および固体高分子電解質膜20の水分が適度に保たれ、燃料電池10の動作安定性が向上する。
【0044】
なお、カソード基材70をFEP分散液に浸漬することにより、第1の基材層74の方が第2の基材層76よりFEP分散液の含浸量が多くなる。これにより、熱処理後の撥水性は、第1の基材層74の方が第2の基材層76より高くなる。本実施の形態では、酸化剤の流れの上流側ほど、第1の基材層74の割合が高くなっているため、カソードのガス拡散層32において、酸化剤の流れの上流側の微細孔層72の撥水性がより高くなる。この結果、酸化剤の流れの上流側の微細孔層72が乾燥することがさらに抑制されるとともに、酸化剤の流れの下流側の微細孔層72が過加湿状態になることがさらに抑制される。
【0045】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0046】
例えば、上述の各実施の形態では、アノード側の第1の基材層64およびカソード側の第1の基材層74の方が、それぞれアノード側の第2の基材層66およびカソード側の第2の基材層76に比べて細孔径が大きくなっているが、これに限られない。たとえば、アノード側の第1の基材層64とアノード側の第2の基材層66との関係、およびカソード側の第1の基材層74とカソード側の第2の基材層76との関係は下記の表のとおりであってもよい。
【0047】
【表1】

【0048】
なお、かさ密度とは、単位体積あたりのカーボン繊維の重量をいう。また、目付量とは、単位面積あたりのカーボン繊維の重量をいう。気孔率は、単位面積あたりの気孔の割合をいう。
【0049】
かさ密度および目付量は、細孔径と大小関係が逆である。一方、気孔率は、細孔径と大小関係が同じであり、細孔径に代えて気孔率により、アノードおよびカソードの第1の基材層、第2の基材層を定義することも可能である。
【0050】
また、実施の形態2では、酸化剤の流れの上流側から下流側に向けて、カソード基材70の第1の基材層74の厚さが徐々に減少しているが、これに限られない。たとえば、図5に示すように、カソード基材70の第1の基材層74の厚さは、段階的に減少してもよい。
【0051】
また、カソード用のガス流路40は途中で屈曲していてもよく、この場合には、ガス流路40の経路に沿って、酸化剤の流れの上流側から下流側に向けて、カソード基材70の第1の基材層74の厚さを減少させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施の形態1に係る燃料電池の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線上の断面図である。
【図3】カソード用のガス拡散層の作製に用いられるカソード基材の構成を示す図である。
【図4】実施の形態2に係る燃料電池の構造を示す断面図である。
【図5】変形例に係る燃料電池の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 燃料電池、20 固体高分子電解質膜、22 燃料極、24 空気極、26、30 触媒層、28、32 ガス拡散層、34、36 セパレータ、50 セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、
前記アノード触媒層の外面に配設されたアノードガス拡散層と、
前記アノードガス拡散層の表面に沿って燃料を供給する燃料供給手段と、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、
前記カソード触媒層の外面に配設されたカソードガス拡散層と、
前記カソードガス拡散層の表面に沿って酸化剤を供給する酸化剤供給手段と、
を備え、
前記アノードガス拡散層は、細孔径が相対的に大きい部分と、細孔径が相対的に小さい部分とを含むアノード基材と、
前記アノード基材中の細孔径が相対的に大きい部分に塗布された導電性粉末および撥水剤の混練物で形成されたアノード微細孔層と、
を有し、
前記カソードガス拡散層は、細孔径が相対的に大きい部分と、細孔径が相対的に小さい部分とを含むカソード基材と、
前記カソード基材中の細孔径が相対的に大きい部分に塗布された導電性粉末および撥水剤との混練物で形成されたカソード微細孔層と、
を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記カソード基材中の細孔径が相対的に大きい部分の方が前記カソード基材中の細孔径が相対的に小さい部分に比べて撥水性が高いことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記カソード基材中の細孔径が相対的に大きい部分の厚さが、前記酸化剤の流れの上流側の方が前記酸化剤の流れの下流側に対して厚くなっていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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