説明

燃料電池

【課題】燃料極での燃料の反応効率と反応生成物の排出効率を高めることにより、小型であっても高出力な燃料電池を提供することを課題とする。
【解決手段】燃料極に液体燃料を供給する第1の流路13と上記の燃料極からの排出ガスを排出する第2の流路15とを形成する流路板6を備え、該第1の流路と第2の流路とは分離されており、上記の燃料極は、上記の電解質膜側に触媒を含有する電極層と上記の流路板側に拡散層とを有し、上記の第1の流路から該拡散層への液体燃料の供給を抑制する浸透抑制層51を備え、該浸透抑制層は、厚み方向に貫通孔52または貫通溝を有し、該貫通孔または貫通溝内に導電体が配置されていることを特徴とする燃料電池により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料が利用される燃料電池に関し、例えば携帯電話などの小型の電子機器にも内蔵可能な小型化に適した燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を供給すれば発電する発電装置である。通常、酸化剤には空気が使用できるため、燃料を供給することで連続して発電することができる。このため、燃料電池は、定置用電源のみでなく携帯用電源としても非常に注目されている。
【0003】
通常、定置用の燃料電池などでは、燃料に水素あるいは水素を含有するガスが使用される。しかし、携帯用電源としては、同じ程度の大きさの容器に貯蔵した燃料でより長時間発電できることが利点となるので、燃料としては、体積当たりのエネルギー密度の高い液体燃料を用いる方が有利となる。
なお、改質器を用いて液体燃料から水素を生成して発電に用いることもできるが、燃料電池のシステム全体が複雑になるため、燃料電池の小型化のためには、液体燃料を直接供給する方が容易と考えられている。
【0004】
液体燃料を燃料極に直接供給するタイプの燃料電池が、特許文献1(特表平11−510311号公報)に開示されている。この燃料電池は、メタノールと水の混合物を燃料に用いる直接型メタノール燃料電池である。
【0005】
図8を参照して、代表的な直接型メタノール燃料電池について説明する。
図8は、ハウジング102内に燃料極104と酸化剤極106と電解質膜108を備えた直接型メタノール燃料電池101を模式的に示す図である。燃料タンク109から燃料ポンプ110によってメタノールと水とが混合された燃料が燃料極室112に供給される。燃料極室112内に供給された燃料は、燃料極104内に浸透して反応し、プロトン(水素イオン)と電子、それに二酸化炭素を生成する。
【0006】
通常、燃料極104には多孔質材が用いられており、電解質膜108との界面近傍の触媒が担持された層で燃料極104での反応が起こる。燃料極104で生成されたプロトンは電解質膜108を透過して酸化剤極106に移動し、電子は燃料極104から外部回路(図示せず)を経由して酸化剤極106に流れる。この電子が燃料電池の出力として使用される。
二酸化炭素は、燃料極104から燃料極室112に排出され、未反応の燃料とともに出口ポート121から排出される。この出口ポート121から排出された二酸化炭素と未反応の燃料は、燃料タンク109に回収され、二酸化炭素は燃料タンク109に設けられた放出ポート114から排出される。
【0007】
一方、酸化剤極106側では、酸素圧縮機116によって酸素が酸化剤極室118へ供給され、この酸素は酸化剤極室118から酸化剤極106内に拡散する。酸化剤極106では、酸素が燃料極104から拡散してきたプロトンと反応して水を生成する。生成した水は、通常、水蒸気となって酸化剤極室118から未反応の酸素とともに出口ポート120から排出される。図8に示す例では、酸化剤として酸素が使用されている。なお、酸素濃度は低くなるが酸化剤として空気を使用することもできる。
【0008】
従来の直接型メタノール燃料電池では、燃料であるメタノールと水の混合物は、図8に示すように、燃料極室112に供給され、燃料極室112から燃料極104の拡散層へ浸透して電解質膜108との界面近傍の触媒を含有する層で反応する。そして反応生成物である二酸化炭素が燃料極室内112に排出され、供給されてくる燃料に合流し、未反応の燃料とともに出口ポート121から排出される。燃料電池で高効率かつ安定した発電を行うためには、燃料の供給と反応生成物である二酸化炭素の排出とを効率的かつ安定に行わなければならない。
【0009】
ところで、燃料ポンプ110により供給される燃料の主たる流れは、燃料極室112に送り込まれてから、燃料極室112に設けられた出口ポート121から排出されるものである。このため、燃料極104の反応に直接寄与する燃料極104が有する多孔質材内の燃料の流れは、燃料極室112内での燃料の主たる流れから逸れたものとなってしまう。さらに、燃料極104が有する多孔質材内では、毛細管作用が働くものの、形状や方向の制約を受けることから、燃料極104内へ効率的かつ安定に燃料を供給することが困難であった。このことは、燃料電池としての出力を向上させることや、高効率で長時間発電させることを難しくしていた。また、燃料を高圧で圧送するポンプを用いると、電源装置としての大型化を招くので、特に、携帯用機器などの電源として採用が難しくなる。
【0010】
ところで、特許文献2(特開2002−175817号公報)では、燃料が供給される燃料流路に燃料が浸透する燃料浸透部材を配置して、燃料極への燃料供給の促進を図っている。
しかし、特許文献2に記載された燃料電池では、燃料浸透部材による浸透でもって燃料を燃料極に供給しているので、燃料極での燃料の反応効率が不十分であり、電池の出力も不十分であった。
【特許文献1】特表平11−510311号公報
【特許文献2】特開2002−175817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の課題は、燃料極での燃料の反応効率と反応生成物の排出効率を高めることにより、小型であっても高出力な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の燃料電池は、液体燃料から陽イオンと電子を生成させる燃料極と、該燃料極に対向するように配置され、該燃料極から生成される陽イオンが透過できる電解質膜と、該電解質膜に対向するように配置され、該電解質膜を透過した上記の陽イオンと酸化剤とを反応させる酸化剤極と、上記の燃料極に対向するように配置され、該燃料極に上記の液体燃料を供給する第1の流路と上記の燃料極からの排出ガスを排出する第2の流路とを形成する流路板を備え、該第1の流路と第2の流路とは分離されており、上記の燃料極は、上記の電解質膜側に触媒を含有する電極層と上記の流路板側に拡散層とを有し、上記の第1の流路から該拡散層への液体燃料の供給を抑制する浸透抑制層を備え、該浸透抑制層は、厚み方向に貫通孔または貫通溝を有し、該貫通孔または貫通溝内に導電体が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料電池によれば、第1の流路への液体燃料の供給が低い圧力でなされても燃料極での十分な反応を実現できる。また、本発明の燃料電池によると、燃料極の流路板と拡散層との電気的接続の抵抗値を下げることができ、抵抗成分による電池出力の損失を低減し、電池の外部に取り出せる正味の出力を向上させることができるため、燃料電池を設置または保持する向きに寄らず安定した出力が得られる小型で高出力な燃料電池を実現できる。したがって、本発明の燃料電池は、燃料供給を圧送するポンプなどの設置が難しい携帯機器などの小型電子機器の電源として特に好適である。
【0014】
一般に、モバイル電子機器用の小型燃料電池の場合、流路を非常に狭いスペースに作製する必要があるため、流路内での燃料の圧損が大きく、特に流路全体に燃料を行渡らせることが困難となるため、流路全体に安定した圧力差を生じさせることが困難であった。しかし、本発明の燃料電池は、このような問題点を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の燃料電池の好ましい実施形態において、上記の浸透抑制層の貫通孔または貫通溝は、上記の第1の流路と第2の流路の流路とを隔てる流路壁に対向する位置に少なくとも配置されている。
この実施形態によれば、貫通孔または貫通溝が、第1の流路から拡散層への局所的な燃料の透過速度、および拡散層から第2の流路への局所的な排出ガスの透過速度に影響しないので、燃料電池のセル全体にわたって均一な燃料の供給と二酸化炭素などの反応生成物の排出が実現できる。
【0016】
本発明の燃料電池の好ましい実施形態において、上記の貫通孔または貫通溝は、少なくとも上記の第1の流路の周辺を取り囲むように配置されている。
この実施形態によれば、発電セルと流路を積層する際に、第1の流路周辺の流路壁と浸透抑制層の接合面が均一に密着しやすくなり、流路壁と浸透抑制層界面を経由した第1の流路から第2の流路への燃料の漏れをより確実に抑制することができる。このことにより、燃料の供給圧が低くても第1の流路内に液体燃料を充満させ易くなり、第1の流路の部分と、この部分と流路壁を挟んで対向する第2の流路の部分との間に、燃料極の拡散層を透過して燃料が流れる経路の圧力降下に起因する圧力差を流路全体にわたって安定して生じさせることができる。よって、燃料極内での反応により二酸化炭素などの反応生成物が発生しても、第1の流路への二酸化炭素の排出を抑制して第2の流路から二酸化炭素を効率よく排出させることができ、これにより、燃料極での反応(陽イオンと電子の生成)を促進させることができる。
【0017】
また、本発明の燃料電池の好ましい実施形態は、上記の第1の流路に接続され、上記の液体燃料を貯蔵する燃料貯蔵部と、上記の燃料貯蔵部と上記第1の流路との間を接続し、上記の燃料貯蔵部から上記の第1の流路に供給される液体燃料の圧力を調整する圧力調整部とを備える。
この実施形態によれば、圧力調整弁のような圧力調整部によって、液体燃料を第1の流路から燃料極へ安定した圧力で供給でき、かつ、発電セルからの電池出力を低抵抗で損出を抑えて取り出せるため、燃料電池としての安定した出力が得られる。
【0018】
また、本発明の燃料電池の好ましい実施形態は、上記の酸化剤極に酸化剤を供給するための第3の流路と、該第3の流路に接続された該第3の流路からの排出ガスが導入される第4の流路と、上記の第2の流路に接続された該第2の流路からの排出ガスが導入される第5の流路と、上記の第4の流路と第5の流路に接続された、該第4の流路からの排出ガスと第5の流路からの排出ガスを合流させて排出するガス排出部とを備えている。
この実施形態によれば、第2の流路から排出される気体と酸化剤極からの排出ガスの両方を同じガス排出部から効率的に排出できるので、排出が容易になる。
【0019】
以下、本発明の燃料電池の具体例を、図面を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の燃料電池の第1実施形態の構成を示す平面図である。図2は、図1のA−A’断面図であり、図3は、図1のB−B’断面図である。
(1)燃料電池の構成
この実施形態の燃料電池は、図2に示すように、燃料極1と、燃料極1に対向するように配置された電解質膜2と、燃料極1の反対側で電解質膜2に対向するように配置された酸化剤極3を備える。燃料極1と電解質膜2と酸化剤極3は、燃料極1と酸化剤極3とで電解質膜2を挟んだ状態で、ハウジング5内に収容されている。ハウジング5の一方の面5Aには、燃料極1に対向するように配置された流路板6の縁部6Aが接合され取り付けられている。
【0020】
図1に示すように、流路板6は、液体燃料の供給口7をなす貫通口と、排出ガスの排出口8をなす貫通口と、供給口7からくし歯状に延在する第1の流路溝10と、排出口8からくし歯状に延在する第2の流路溝11を有する。
第1の流路溝10と第2の流路溝11とは、所定の厚さの壁12で隔てられ、分離されている。流路板6の壁12は、燃料極1に接している。したがって、第1の流路溝10と燃料極1とで形成される第1の流路13と、第2の流路溝11と燃料極1とで形成される第2の流路15とは壁12で分離されている。
【0021】
この第1実施形態では、例えば、第1の流路13が燃料極1の拡散層17側に開口する開口幅を、2μmから200μm程度とすることができる。また、第2の流路15が拡散層17側に開口する開口幅は、例えば、第1の流路13の開口幅と同程度とすることができる。しかし、本発明においては、流路のサイズを特にこれに限定するものではない。
【0022】
図2に示すように、燃料極1は、電解質膜2側の電極層16と流路板6側の拡散層17とを有する。燃料極1は、さらに、流路板6と、燃料極1の拡散層17との間に挟まれた浸透抑制層51を備える。
【0023】
浸透抑制層51は、図4に示すように、厚み方向に貫通孔52を有し、貫通孔52内には導電体53が配置される。このことにより、流路板6と拡散層17との電気的接続の抵抗値を下げることができ、抵抗成分による電池出力の損失を低減し電池の外部に取り出せる正味の出力を向上させることができる。貫通孔52は、形状や大きさを特に限定するものではないが、抵抗値を下げるためには、直径50μmから200μm程度のサイズが望ましい。
【0024】
該貫通孔52は、少なくとも流路板6に形成された第1の流路13および第2の流路15の流路を隔てる流路壁12に対向する位置に配置される。
貫通孔の位置はこれに限るものではなく、図3に示す貫通孔54のように、第1の流路13と第2の流路15を隔てる流路壁12以外のところに配置されてもよい。このことにより、さらに効果的に流路板6と拡散層17との電気的接続の抵抗値を下げることができる。
【0025】
さらに好適な実施形態においては、貫通孔52は、少なくとも上記第1の流路に沿って周辺を取り囲むように流路壁12に対抗する位置に配置されている。これにより発電セルと流路を積層する際に、第1の流路13周辺の流路壁12と浸透抑制層51の接合面が均一に密着しやすくなり、流路壁12と浸透抑制層51界面を経由した第1の流路13から第2の流路15への燃料の漏れをより確実に抑制することができる。
【0026】
また、浸透抑制層51は、流路壁12に沿って連続した貫通溝を有してもよく、これにより流路板6と拡散層17との電気的接続を行ってもよい。これにより、流路板6と拡散層17とを電気的に低抵抗で接続することはもとより、発電セルと流路を積層する際に、第1の流路13周辺の流路壁12と浸透抑制層51の接合面が均一に密着しやすくなり、流路壁12と浸透抑制層51界面を経由した第1の流路13から第2の流路15への燃料の漏れをより確実に抑制することができることは明白である。
【0027】
酸化剤極3は、ハウジング5の他方の面5Bから延在する蓋部20で覆われており、この蓋部20は、酸化剤として例えば空気が供給される酸化剤導入口20Aと、排出ガスを排出するための排出口20Bを有する。この蓋部20と酸化剤極3との間に酸化剤極側の流路21が形成される。
酸化剤極3は、電解質膜2側の電極層18と蓋部20側の拡散層22とを有する。
【0028】
(2)燃料電池の動作
この第1の実施形態では、例えばメタノールと水との混合物が液体燃料として流路板6の供給口7から第1の流路13内に供給される。液体燃料としては、メタノールと水の混合物以外に、メタノールの代わりにエタノール、ジメチルエーテル、プロパノール、エチレングリコールのような炭化水素系の有機燃料を用いることができる。この液体燃料は、第1の流路13から浸透抑制層51を通して燃料極1の拡散層17に供給され、拡散層17内を拡散し浸透して電極層16に達して反応し、陽イオン(H+)と電子および排出ガスとしての二酸化炭素が生成する。陽イオン(H+)は、電解質膜2を経由して、酸化剤極3の電極層18に至る。
【0029】
生成された電子は、電極層16から外部回路(図示せず)を経由して、酸化剤極3の電極層18に導かれる。また、燃料極1で生成した二酸化炭素は、壁12の下の拡散層17内を拡散して、第2の流路15に至り、この第2の流路15を通って、排出口8から排出される。
【0030】
一方、蓋部20の導入口20Aから導入された酸化剤の一例としての空気は、酸化剤極3の拡散層22内に拡散し、酸化剤極3の電極層18において、燃料極1からの陽イオン(H+)および電子と反応して水蒸気が生成する。生成した水蒸気は流路21を通って排出口20Bから排出される。
【0031】
本発明の燃料電池においては、酸化剤の種類や供給方向は特に限定されず、空気の代わりに酸素を使用してもよく、また、酸化剤極側の流路21をなくして、ファンや送風ポンプのような送風機構を用いて、酸化剤極3の露出面に酸化剤を直接供給してもよい。
【0032】
本実施形態では、燃料極1に接している第1の流路13と第2の流路15とが壁12で分離されているので、第1の流路13に供給された液体燃料が、燃料極1を通過せずに直接第2の流路15に流れることはない。つまり、図3に矢印40で示すように、第1の流路13に供給された液体燃料は、燃料極1の拡散層17を経由して第2の流路15に流れる。したがって、燃料極1への燃料供給効率を向上でき、燃料供給量の削減が可能となる。
また、矢印40で示すような流れに沿って、図3に示す第1の流路13の部分と、この部分に壁12を挟んで対向する第2の流路15の部分との間に、燃料極1の拡散層17を透過して燃料が流れる経路の圧力降下に起因する圧力差を生じさせることができる。第1の流路13と第2の流路15との間にこのような局所的な圧力差が発生することにより、燃料極1内での反応による反応生成物として二酸化炭素などが発生しても、第1の流路13への排出を抑制し、第2の流路15から効率よく排出できる。
【0033】
この第1の実施形態では、図1に示すように、第2の流路15は、壁12で隔てられる第1の流路13との間の距離が、第1の流路13に沿ってほぼ等しくなるように配置されている。そして、第1の流路13の分岐流路の先端部まで全体に液体燃料をいきわたらせることができるため、第1の流路13での液体燃料の圧力と、壁12を挟んで対向する第2の流路15での液体燃料の圧力との間の圧力差を、燃料極1に対向する領域の略全体に亘って略均一にすることができる。よって、燃料の効率的な供給と反応生成物の効率的な排出とを、燃料極1の全体にわたって均一に行うことができる。
【0034】
また、さらに好適な実施形態では、第1の流路13内の圧力は、壁12を隔てて対向する第2の流路15内の圧力に対して所定の圧力差が与えられる。これにより、第1の実施形態の燃料電池が設置又は保持される向きが変動しても、第1の流路13から第2の流路15への拡散層17内の燃料の流れが安定し、また、反応生成物である二酸化炭素の排出効率も安定することから、触媒を含有する電極層16への燃料供給を安定させることができる。
【0035】
通常、0.5μmから1μm程度の孔径の孔を有する多孔質材で作製した拡散層17に、単に液体燃料を流そうとすると、第1の流路13と第2の流路15との間に1気圧から2気圧程度の圧力差を与えなければならない。しかし、この第1実施形態によれば、局所的に短い経路に圧力差を与えることができる。また、燃料極1での反応生成物を効率的に排出できることから、上記の圧力差を、たとえば、0.0001気圧〜0.1気圧程度とした場合でも、安定した燃料供給が可能となる。
【0036】
さらに、浸透抑制層51が、拡散層17に比べて液体燃料の透過係数が1桁から2桁程度低い材料で構成されるため、第1の流路13から拡散層17への液体燃料の拡散が抑制される。このことにより、液体燃料が拡散層17に局所的に浸透してしまう前に、液体燃料を第1の流路13の末端まで行き渡らせることができ、かつ流路内に液体燃料を充満させることもできる。このように、第1の流路13から拡散層17へ燃料を直接供給する場合よりもさらに低い供給圧で第1の流路13内に液体燃料を充満させ易くなるので、第1の流路13の部分と、この部分に壁12を挟んで対向する第2の流路15の部分との間に、燃料極1の拡散層17を透過して燃料が流れる経路の圧力降下に起因する圧力差を流路全体にわたって安定して生じさせることができる。よって、燃料極1内での反応により二酸化炭素などが発生しても、第1の流路13への排出を抑制して第2の流路15から効率よく排出させることができ、これにより、燃料極1での反応(陽イオンと電子の生成)を促進させることができる。
【0037】
一般的に、燃料極での反応に必要な液体燃料は、例えばメタノールと水を燃料に用いる燃料電池で150mW/cm2程度の発電を想定した場合、単位面積当たり数μリットル/分程度である。したがって、それ以上の燃料を供給しても、この過剰の燃料は、拡散層に充満している燃料を押し出すために利用されるか、電解質膜を拡散して出力低下の要因となり、燃料の利用効率がより低下してしまう。つまり、燃料極の反応は、燃料の供給量には律速しておらず、反応律速の状態で反応が進行しているため、本発明のように浸透抑制層51を用いても、反応に必要な燃料を十分に供給して反応を継続することができる。
【0038】
上記のように、燃料電池において燃料の反応効率を向上させるためには、より多くの液体燃料を拡散層17に供給することよりも、狭い第1の流路13を通して液体燃料を流路全体に均一に行き渡らせることが重要である。本発明の燃料電池においては、浸透抑制層51が流路の途中で必要以上に液体燃料が拡散層17に浸透するのを防ぎ、液体燃料を流路内に流すことができるため、液体燃料の供給量(供給圧)も少なくできる。つまり液体反応に使われる燃料の利用効率を高めることができる。
【0039】
(3)燃料極
燃料極1の拡散層17としては、従来公知の材料を用いることができ、例えばカーボンペーパー、カーボンの焼結体、ニッケルなどの焼結金属、発泡金属などの多孔質材が挙げられる。
上記の多孔質材の孔径は、第1の流路13からの液体燃料を拡散層17内へ引き込み得るものであればよく、特に限定されるものではない。この実施形態では、拡散層17をなす多孔質材の孔径を、数μmから数10μm程度とした。この多孔質材に、燃料を所定の流量で流そうとすると、所定の圧力を加えなければならないが、多孔質材の末端で反応が起こり、燃料が消費される場合には、より低い圧力で同じ流量の燃料を流すことができることを確認している。
【0040】
上記の電極層16は、従来公知の材料で作製でき、例えば金属触媒を含む樹脂層が挙げられる。該金属触媒としては、例えば白金―ルテニウム合金などが用いられるが、その他に、白金と金、白金とオスミウム、白金とロジウムなどの合金を用いることができる。また、電極層16の樹脂層として、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸系樹脂が用いられる。
【0041】
上記の浸透抑制層51としては、燃料極1の拡散層17に比べて液体燃料を透過しにくい供給抑制構造を有する材料を用いることができる。上記の浸透抑制層としては、例えば、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂を用いることができる。該浸透抑制層は、好ましくは多孔質材である。
【0042】
上記の浸透抑制層51の膜厚や多孔質材の孔径は、拡散層17の膜厚や孔径に応じて相対的に決まるものであり、特に限定されないが、例えば膜厚が1μmから30μm程度、多孔質材の孔径が0.01μm〜1μm程度のものを用いることができる。好ましくは、浸透抑制層51の透過速度は、拡散層17の透過速度に対して、例えばガーレー試験機法により測定した透気度として1桁から2桁程度低いものが望ましい。上記の浸透抑制層51は、燃料の透過速度が拡散層17の透過速度に対して1桁から2桁程度低いものであれば多孔質材に限るものではなく、微細孔を有しないものでもよい。
【0043】
上記の浸透抑制層51に配置される貫通孔を形成する方法としては、レーザーアブレーションやパンチングやドリルなどの機械的な窄孔手段が挙げられる。貫通孔52内の導電体53は、無電解めっきにより形成した金薄膜を用いることができる。また、貫通溝は、レーザーアブレーション法によって連続的に加工することにより作製することができる。
【0044】
燃料極1において、電極層16と拡散層17とは、電極層16に拡散層17をホットプレスなどにより圧着するか、又は電極層16が樹脂である場合、拡散層17に拡散層16の材料となる樹脂を含浸させて熱処理することにより、積層することができる。
さらに、浸透抑制層51は、該浸透抑制層の材料である上記の樹脂を拡散層17に含浸させて熱処理することにより得ることができる。あるいは、多孔質の上記の樹脂を電極層16と拡散層17上に積層して熱処理して形成してもよい。
燃料極を構成するこれらの層を形成する順序は特に限定されず、電極層と拡散層とを積層した後に浸透抑制層を形成してもよいし、浸透抑制層と拡散層とを積層した後に電極層を形成してもよい。
【0045】
(4)電解質膜
電解質膜2の材質としては、プロトン伝導性で燃料極及び酸化剤極の反応(発熱反応)に耐え得る耐熱性とプロトン伝導性の酸性雰囲気に耐え得る耐酸性の材料であれば特に限定されず、有機材料又は無機材料のいずれを用いることもできる。本実施形態においては、有機系の含フッ素高分子を骨格とするスルホン酸基含有パーフルオロカーボン(ナフィオン117(登録商標) (デュポン社製))を用いている。また、電解質膜2は、プロトン伝導性の機能を有すればよく、他の基材に電解質膜を埋め込んだものであってもよい。
(5)酸化剤極
酸化剤極の電極層18は、燃料極1の電極層16と同様に、金属触媒を含む樹脂層で作製される。拡散層22は、燃料極1の拡散層17と同様に、カーボンペーパー、カーボンの焼結体、ニッケルなどの焼結金属、発泡金属などの多孔質材を用いることができる。
【0046】
酸化剤極3は、従来公知の方法により製造することができ、例えば上記の燃料極の電極層と拡散層とを積層する方法について記載した方法などを用いて製造することができる。
【0047】
(6)流路板
上記の流路板6としては、液体燃料に対する透過性の無い基板を用いることができ、例えばニッケルなどの金属からなる基板、シリコン基板、ガラス基板、アクリルやPDMSなどの樹脂基板などを用いることができる。本実施形態においては、流路板6として微細加工を施したニッケル基板を用いている。
【0048】
流路板6が導電性のないガラス基板など絶縁性の材料からなる場合は、図5に示すように導電性の配線層61を、流路板と浸透抑制層との間に挿入してもよい。本実施形態では、配線層61としては、貫通孔52内の導電体53と同様に、無電解めっきで形成した金薄膜を用いている。
【0049】
(7)ハウジング
上記のハウジング5は、従来公知の燃料電池の筐体として用いられる材質からなるものであってよく、例えば炭素樹脂、又は上記流路板と同様に、ガラス、アクリル並びにPDMSなどの樹脂などが挙げられる。
【0050】
本発明の燃料電池において、上記の流路板6やハウジング5などにPDMSなど可撓性の樹脂材料を用いている場合、図6に示すように、流路板6やハウジングが撓んだ場合においても、流路板6と拡散層17とを電気的に低抵抗で安定して接続することができる。さらに、発電セルと流路を積層する際に、第1の流路13周辺の流路壁12と浸透抑制層51の接合面の密着性が保てるために、流路壁12と浸透抑制層51界面を経由した第1の流路13から第2の流路15への燃料の漏れをより確実に抑制することができる。
【0051】
(8)燃料電池の組み立て
本発明の燃料電池は、従来公知の方法により得ることができ、例えば上記のようにして得られた電解質膜2に燃料極1及び酸化剤極3をホットプレスにより接合して膜電極複合体を作製し、上記の流路板6に上記の膜電極複合体を積層し、それに上記の酸化剤室と一体化したハウジング5を被せ、流路板6とハウジング5を接着することにより得ることができる。
【0052】
(9)従来の燃料電池との比較
浸透抑制層51がない従来の燃料電池においては、第1の流路13の燃料の供給開始位置に近い流路付近で液体燃料が第1の流路13から拡散層17へ拡散する量が多くなり、第1の流路13の末端まで燃料が行き渡らせにくくなるので、非常に高い燃料供給圧が必要となる。
【0053】
浸透抑制層51を用いずに拡散層17そのもの浸透速度を低くしても、第1の流路13に低い燃料供給圧で液体燃料を行き渡らせることはできるが、拡散層17内の燃料の浸透(拡散)そのものが遅くなるため、反応に必要な燃料を十分に供給(補充)することができず、燃料電池の出力が低くなる。
【0054】
従来のように、供給される燃料の主な流れが拡散層を経由しない流路(つまり、流路が第1の流路と第2の流路に分離されていない流路)を有し、浸透抑制層を有さない燃料電池を作製したところ、数100μリットル/分の燃料供給が必要であった。これに対して、主な流れが拡散層を経由する本実施形態の燃料電池では、数10μリットル/分以下の燃料供給で、上記の従来の燃料電池と同等の出力が得られた。すなわち、本発明の燃料電池は、従来の燃料電池に比べて燃料の利用効率が1桁程度向上することが確認できた。
【0055】
(第2の実施の形態)
次に、図7に、この発明の第2の実施形態としての燃料電池を模式的に示す。この第2実施形態は、上記の第1の実施形態の燃料電池の構成に加えて、流路板6の供給口7に順に接続された圧力調整部81と燃料貯蔵部82、および流路板6の排出口8に接続されたガス排出部83と、蓋部20の酸化剤導入口20に接続された酸化剤圧送部84とを備えた。したがって、この第2の実施形態では、第1実施形態と同じ構成の部分には同じ符号を付して、第1の実施形態と異なる点を主に説明する。
【0056】
燃料貯蔵部82は流路85で圧力調整部81に接続され、圧力調整部81は流路86で供給口7に接続されている。また、蓋部20と酸化剤極3との間に形成された流路21は、酸化剤極3に酸化剤の一例としての酸素あるいは空気を供給するための第3の通路をなす。酸化剤圧送部84は、酸化剤を酸化剤導入口20Aから流路21に供給する。
この蓋部20の排出口20Bには、流路21からの排出ガス(例えば水蒸気)が導入される第4の流路87の一端が接続され、第4の流路87の他端はガス排出部83に接続されている。このガス排出部83は、排出口8に一端が接続された第5の流路88の他端が接続されている。この第5の流路88には第2の流路15からの排出ガス(例えば二酸化炭素)が導入される。
【0057】
燃料貯蔵部82は、燃料に対して耐性を有する材料からなる容器であってよい。このような材料としては、硬質塩化ビニル樹脂、PTFEやエポキシの硬質樹脂、PDMSなどシリコン樹脂、ガラス繊維や炭素繊維などを複合した樹脂などの樹脂材料、アルミニウムやチタン、防食処理したマグネシウム合金などの金属材料が挙げられる。
流路85、86,87及び88は、燃料に対して耐性を有する材料からなる管状部材からなるものである。該材料としては、硬質塩化ビニル樹脂、PTFEやエポキシの硬質樹脂、シリコン樹脂などが挙げられる。
【0058】
この第2実施形態によれば、燃料貯蔵部82に貯蔵された液体燃料(例えばメタノールと水との混合物)を、減圧弁又は圧力調整弁などで構成され得る圧力調整部81を用いて、液体燃料を第1の流路13から燃料極1へ安定に供給でき、燃料電池としての出力向上を図ることができる。また、常に運転するポンプを使用する場合に比べて電力消費が少なくてすむことから、電力の損失を抑えて燃料電池としての出力を高めることができる。
【0059】
また、この第2実施形態によれば、燃料極1からの使用済み燃料としての排出ガスと酸化剤極3からの水蒸気などの排出ガスとの両方の排出ガスを同じ1つのガス排出部83から排出できるので、排出ガスの回収が容易になる。
【0060】
第2の実施形態において、第1の流路13内の圧力と第2の流路15内の圧力との圧力差を検知する手段としての圧力センサ(図示せず)を備えてもよい。この場合には、この圧力センサが検知した圧力差に基づいて、圧力調整部81が第1の流路13内の圧力を調整することで、上記の圧力差を所定の範囲(例えば、0.0001気圧〜0.1気圧程度)に保つことが可能となる。よって、温度変化や気圧変化などの環境変化が生じた場合においても、燃料の供給量を安定させ、燃料電池の出力を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の燃料電池の第1実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】図1のB−B’断面図である。
【図4】浸透抑制層の断面図である。
【図5】本発明の燃料電池の第1実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の燃料電池の第1実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明の燃料電池の第2実施形態を示す模式図である。
【図8】従来の直接型メタノール燃料電池の断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 燃料極
2 電解質膜
3 酸化剤極
5 ハウジング
6 流路板
7 供給口
8 排出口
10 第1の流路溝
11 第2の流路溝
12 壁
13 第1の流路
15 第2の流路
16 電極層
17 拡散層
18 電極層
20 蓋部
21 酸化剤極側の流路
22 拡散層
51 浸透抑制層
52 貫通孔
53 導電体
61 配線層
81 圧力調整部
82 燃料貯蔵部
83 ガス排出部
84 酸化剤圧送部
85 流路
86 流路
87 第4の流路
88 第5の流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料から陽イオンと電子を生成させる燃料極と、
前記燃料極に対向するように配置され、前記燃料極から生成される陽イオンが透過できる電解質膜と、
前記電解質膜に対向するように配置され、前記電解質膜を透過した前記陽イオンと酸化剤とを反応させる酸化剤極と、
前記燃料極に対向するように配置され、前記燃料極に前記液体燃料を供給する第1の流路と前記燃料極からの排出ガスを排出する第2の流路とを形成する流路板を備え、
前記第1の流路と前記第2の流路とは分離されており、
前記燃料極は、
前記電解質膜側に触媒を含有する電極層と前記流路板側に拡散層とを有し、
前記第1の流路から前記拡散層への前記液体燃料の供給を抑制する浸透抑制層を備え、
前記浸透抑制層は、厚み方向に貫通孔または貫通溝を有し、
前記貫通孔または貫通溝内に導電体が配置されている
燃料電池。
【請求項2】
前記貫通孔または貫通溝が、前記第1の流路と第2の流路とを隔てる流路壁に対向する位置に少なくとも配置されている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記貫通孔または貫通溝が、少なくとも前記第1の流路の周辺を取り囲むように配置されている請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第1の流路に接続され、前記液体燃料を貯蔵する燃料貯蔵部と、
前記燃料貯蔵部と前記第1の流路との間を接続し、前記燃料貯蔵部から前記第1の流路に供給される液体燃料の圧力を調整する圧力調整部と
を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記酸化剤極に前記酸化剤を供給するための第3の流路と、
前記第3の流路に接続された前記第3の流路からの排出ガスが導入される第4の流路と、
前記第2の流路に接続された前記第2の流路からの排出ガスが導入される第5の流路と、
前記第4の流路と第5の流路とに接続された、前記第4の流路からの排出ガスと前記第5の流路からの排出ガスを合流させて排出するガス排出部と
を備える請求項4に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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