説明

燃料電池

【課題】MEAに炭化水素系電解質が含有される場合であっても触媒の機能低下を抑制することが可能な、燃料電池を提供する。
【解決手段】電解質膜1と、電解質膜1の一方の面に配設されるアノード触媒層2aと、電解質膜1の他方の面に配設されるカソード触媒層3aと、備える膜電極接合体4を具備し、膜電極接合体4は、電解質膜1、アノード触媒層2a、及び、カソード触媒層3aの少なくとも1つに炭化水素系電解質を含有し、アノード触媒層2a及び/又はカソード触媒層3aは、白金と、少なくとも1種以上の遷移金属と、を含有する合金触媒を含有する、燃料電池100とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に、MEAに炭化水素系電解質が含有される場合であっても、触媒の機能低下を抑制することが可能な、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質層(以下、「電解質膜」という。)と、電解質膜の両面側にそれぞれ配設される電極(アノード及びカソード)とを備える膜電極接合体(以下、「MEA(Membrane Electrode Assembly)」と記述することがある。)における電気化学反応により発生した電気エネルギーを、MEAの両側にそれぞれ配設される集電体(例えば、セパレータ)を介して外部に取り出している。燃料電池の中でも、家庭用コージェネレーション・システムや自動車等に使用される固体高分子型燃料電池(以下において、「PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)」と記述することがある。)は、低温領域での運転が可能である。また、PEFCは、高いエネルギー変換効率を示し、起動時間が短く、かつシステムが小型軽量であることから、電気自動車や携帯用電源の最適な動力源として注目されている。
【0003】
PEFCの単セルは、電解質膜と、少なくとも触媒層を備えるカソード及びアノードと、を具備し、その理論起電力は1.23Vである。PEFCでは、アノードに水素含有ガスが、カソードに酸素含有ガスが、それぞれ供給される。アノードへと供給された水素は、アノードの触媒層(以下、「アノード触媒層」という。)に含まれる触媒上でプロトンと電子に分離し、水素から生じたプロトンは、アノード触媒層及び電解質膜を通ってカソードの触媒層(以下、「カソード触媒層」という。)へと達する。一方、電子は、外部回路を通ってカソード触媒層へと達し、かかる過程を経ることにより、電気エネルギーを取り出すことが可能になる。そして、カソード触媒層へと達したプロトン及び電子と、カソード触媒層へと供給される酸素とが反応することにより、水が生成される。
【0004】
すなわち、電気エネルギーを取り出すためには、アノード触媒層、電解質膜、及び、カソード触媒層を、プロトンが伝導可能であることが必要とされる。かかる観点から、電解質膜、アノード触媒層、及び、カソード触媒層には、プロトンの通り道となり得るイオン交換基を具備する電解質樹脂が備えられる。そして、アノード触媒層及びカソード触媒層には、当該電解質樹脂に加え、さらに、電気化学反応の触媒として機能する金属粒子(例えば、Pt等)が備えられている。
【0005】
PEFCに関する技術として、例えば、特許文献1には、金属触媒にポリマアイオノマー、アルコール系溶媒及び沸点が30〜200℃の極性有機溶媒を混合して触媒層形成用組成物を製造する段階と、高分子電解質膜の両面に前記触媒層形成用組成物をコーティングして電極触媒層をそれぞれ形成する段階と、前記電極触媒層に電極支持体を配置する段階とを含むことを特徴とする燃料電池単位体の製造方法に関する技術が開示されている。かかる技術によれば、高分子電解質膜の材質に関係なく、電極の触媒層形成用組成物を高分子電解質膜に直接コーティングできるので、製造工程が容易であり、かつ、製造工程数が減って製造コスト及び時間が節減できる、としている。
【0006】
また、特許文献2には、長時間使用しても、固体高分子型燃料電池の低下を大幅に引き起こすことのない固体高分子型燃料電池用電極触媒に関する技術が開示されており、当該特許文献2には、電解質膜としてNafion(「Nafion」は米国デュポン社の登録商標。以下、単に「Nafion」と記述することがある。)が備えられる形態の固体高分子型燃料電池が例示されている。加えて、特許文献3には、高い触媒活性が安定して得られる燃料電池用電極触媒の製造方法に関する技術が開示されており、当該燃料電池用電極触媒として、Pt、Pd、Ru、Os、Ir、Rh、Auから選ばれた1種または2種以上の貴金属と、Fe、Ni、Cr、Mn、Coから選ばれた1種または2種以上の卑金属を含むものが例示されている。
【特許文献1】特開2004−146367号公報
【特許文献2】特開2004−335328号公報
【特許文献3】特開2001−68120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1にも開示されているように、触媒層を作製する際には、多くの場合、有機溶媒が用いられる。しかし、電解質膜、アノード触媒層、及び/又は、カソード触媒層に、炭化水素系電解質が備えられる形態の燃料電池では、燃料電池の作動時等に、上記有機溶媒によって触媒の機能が損なわれ、発電性能が低下するという問題があった。ところが、特許文献1〜特許文献3には、この問題に関する記載がなく、これを解決するための手段についても明示されていない。そのため、特許文献1〜特許文献3にかかる技術によっては、触媒の機能低下を抑制することは困難であった。
【0008】
そこで本発明は、MEAに炭化水素系電解質が含有される場合であっても、触媒の機能低下を抑制することが可能な燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
請求項1に記載の発明は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に配設されるアノード触媒層と、電解質膜の他方の面に配設されるカソード触媒層と、備える膜電極接合体を具備し、該膜電極接合体は、電解質膜、アノード触媒層、及び、カソード触媒層の少なくとも1つに炭化水素系電解質を含有し、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層に、白金と、少なくとも1種以上の遷移金属と、を含有する合金触媒を含有することを特徴とする、燃料電池により、上記課題を解決する。
【0010】
ここに、炭化水素系電解質の具体例としては、下記式1で表わされるS−PEEK、下記式2で表されるS−PES、下記式3で表わされるS−PPBPのほか、スルホン化ポリエーテルケトン(S−PEK)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、スルホン化ポリイミド(SPI)等を挙げることができる。炭化水素系電解質が備えられ得る箇所としては、電解質膜、アノード触媒層、カソード触媒層、電解質膜及びアノード触媒層、電解質膜及びカソード触媒層、アノード触媒層及びカソード触媒層、並びに、電解質膜、アノード触媒層、及び、カソード触媒層、を挙げることができる。さらに、合金触媒の成分としての遷移金属の具体例としては、Co、Ru、Ir、Au、Ag、Cu、Ni、Fe、Cr、Mn、V、Ti、Mo、Pd、Rh、Wを挙げることができる。なお、MEAの中で炭化水素系電解質が備えられない箇所に備えられる電解質成分としては、パーフルオロスルホン酸系電解質を例示することができ、当該パーフルオロスルホン酸系電解質としては、Nafion等を例示することができる。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の燃料電池において、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層は、炭化水素系電解質を含有することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の燃料電池において、合金触媒は、白金及びコバルトを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、MEAは炭化水素系電解質を含有するとともに、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層が白金と遷移金属とを含有する合金触媒を含有する。当該合金触媒は有機溶媒による機能低下が生じ難いので、かかる構成とすれば、MEAに炭化水素系電解質が含有される場合であっても、触媒の機能低下を抑制することが可能な、燃料電池を提供できる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層は炭化水素系電解質を含有し、当該触媒層に、有機溶媒による機能低下が生じ難い合金触媒が含有される。そのため、かかる構成とすることで、MEAの触媒層に炭化水素系電解質が含有される場合であっても、触媒の機能低下を抑制することが可能な、燃料電池を提供できる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、合金触媒は、白金及びコバルトを含有する(以下、白金及びコバルトを含有する合金を、「PtCo合金」と記述することがある。「PtCo合金」は、白金及びコバルトと不可避的不純物からなる合金、又は、Ru、Ir、Au、Ag、Cu、Ni、Fe、Cr、Mn、V、Ti、Mo、Pd、Rh、Wからなる群より選択される少なくとも1種以上の遷移金属と白金及びコバルトと不可避的不純物からなる合金を意味する。)。PtCo合金は、有機溶媒による機能低下が生じ難いので、かかる構成とすることで、触媒の機能低下を抑制しやすい燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
PEFCの触媒層は、溶解させた電解質樹脂に触媒を分散させて作製したインク状物質(以下、「触媒インク」という。)を電解質膜へ塗布し乾燥させる等の方法により、作製される。PEFCに用いられる電解質樹脂(以下、「電解質」という。)としては、パーフルオロスルホン酸系電解質や、炭化水素系電解質が知られており、なかでも、炭化水素系電解質が備えられるPEFCでは、その作動時等に触媒活性が低下し、発電性能が低下することが知られている。鋭意研究の結果、本発明者は、上記触媒インク作製時等に使用されMEA内に残留する有機溶媒が、触媒活性低下の一因になることを知見した。触媒活性の低下を防止するには、有機溶媒による機能低下が生じ難い触媒を用いることが重要であり、このような性質の触媒を用いれば、炭化水素系の電解質を有するPEFCの発電性能を向上させることが可能になると考えられる。
【0020】
本発明は、かかる観点からなされたものであり、その要旨は、白金と少なくとも1種以上の遷移金属とを含有する合金を、MEAに炭化水素系電解質を含有する燃料電池の触媒として用いることで、触媒の機能低下を抑制し得る燃料電池を提供することにある。
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の燃料電池について具体的に説明する。なお、以下の説明において、アノード触媒層及びカソード触媒層をまとめて、単に「触媒層」と表記することがある。
【0022】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態にかかる本発明の燃料電池の一部構成例を概略的に示す断面図である。
図1に示すように、第1実施形態にかかる本発明の燃料電池100は、電解質膜1と、電解質膜1の一方の側に備えられるアノード触媒層2a、及び、他方の側に備えられるカソード触媒層3aと、を備えるMEA4と、MEA4の一方の側に配設されるアノード拡散層2b、及び、他方の側に配設されるカソード拡散層3bと、アノード拡散層2b側に配設されるセパレータ5と、カソード拡散層3b側に配設されるセパレータ6と、を備えている。燃料電池100のアノード2は、アノード触媒層2a及びアノード拡散層2bを備え、同カソード3は、カソード触媒層3a及びカソード拡散層3bを備えている。アノード拡散層2b及びカソード拡散層3bは、例えば、カーボンペーパー等により構成され、セパレータ5及びセパレータ6は、金属材料や炭素材料等により構成される。アノード拡散層2b側に配設されるセパレータ5には、水素含有ガスが流通すべき流路7、7、…が備えられ、カソード拡散層3b側に配設されるセパレータ6には、酸素含有ガスが流通すべき流路8、8、…が備えられている。そして、燃料電池100の作動時には、セパレータ5、6に備えられる、図示されていない熱媒体流路内を流れる熱媒体によって、MEA4が所定の温度以下(例えば、90℃以下)に保たれる。
【0023】
燃料電池100において、電解質膜1を構成する電解質は、炭化水素系電解質(例えば、S−PEEK等)であり、アノード触媒層2a及びカソード触媒層3aは、触媒として、合金触媒(例えば、PtCo合金)を含有するとともに、プロトン伝導体として機能する炭化水素系電解質(例えば、S−PEEK等)を含有する。このような形態とすれば、MEA4の内部に有機溶媒(例えば、アルコール等)が残留していても、合金触媒は当該有機溶媒によって機能を損なわれ難いので、炭化水素系電解質を含有する従来の燃料電池よりも良好な発電性能を有する、燃料電池100とすることができる。
【0024】
2.第2実施形態
図2は、第2実施形態にかかる本発明の燃料電池の一部構成例を概略的に示す断面図である。図2において、図1と同じ構成を採るものには、図1にて使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。
図2に示すように、第2実施形態にかかる本発明の燃料電池200は、電解質膜1と、電解質膜1の一方の側に備えられるアノード触媒層22a、及び、他方の側に備えられるカソード触媒層23aと、を備えるMEA24と、MEA24の一方の側に配設されるアノード拡散層2b、及び、他方の側に配設されるカソード拡散層3bと、アノード拡散層2b側に配設されるセパレータ5と、カソード拡散層3b側に配設されるセパレータ6と、を備えている。燃料電池200のアノード22は、アノード触媒層22a及びアノード拡散層2bを備え、同カソード23は、カソード触媒層23a及びカソード拡散層3bを備えている。セパレータ5には、流路7、7、…が備えられ、セパレータ6には、流路8、8、…が備えられている。そして、燃料電池200の作動時には、セパレータ5、6に備えられる、図示されていない熱媒体流路内を流れる熱媒体によって、MEA24が所定の温度以下(例えば、90℃以下)に保たれる。
【0025】
燃料電池200において、アノード触媒層22a及びカソード触媒層23aは、触媒として、合金触媒(例えば、PtCo合金)を含有するとともに、プロトン伝導体として機能するNafionを含有する。ところで、電解質膜を作製する際にも、有機溶媒が使用されることがあり、作製された電解質膜に有機溶媒が残留していると、燃料電池の作動時等に当該有機溶媒がアノード触媒層やカソード触媒層等へ移動し、これによって触媒の機能が低下する虞がある。したがって、MEA中の電解質膜にのみ炭化水素系電解質が備えられる場合であっても、触媒の機能低下が懸念される。ここで、燃料電池200には、アノード触媒層22a及びカソード触媒層23aに、有機溶媒による機能低下が生じ難い合金触媒が含有されている。したがって、燃料電池200によれば、上記触媒の機能低下を抑制できる。
【0026】
上記説明では、電解質膜、アノード触媒層、及び、カソード触媒層に炭化水素系電解質が含有される形態(第1実施形態)、並びに、電解質膜に炭化水素系電解質が含有される形態(第2実施形態)を例示したが、本発明の燃料電池が採り得る形態は上記形態に限定されない。本発明の燃料電池が採り得る他の形態としては、炭化水素系電解質が、アノード触媒層に含有される形態、カソード触媒層に含有される形態、アノード触媒層及びカソード触媒層に含有される形態、アノード触媒層及び電解質膜に含有される形態、並びに、電解質膜及びカソード触媒層に含有される形態、を挙げることができる。これらの中でも、本発明では、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層に合金触媒が含有されるので、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層に炭化水素系電解質が含有される場合に、本発明の効果が得られやすい。
【0027】
さらに、上記説明では、アノード触媒層及びカソード触媒層に、合金触媒が含有される形態(第1実施形態、第2実施形態)を例示したが、本発明の燃料電池は、アノード触媒層又はカソード触媒層にのみ、合金触媒が含有されていても良い。ただし、触媒の機能低下を抑制して燃料電池の発電性能を向上させる等の観点からは、アノード触媒層及びカソード触媒層に合金触媒が含有される形態とすることが好ましい。
【0028】
また、炭化水素系電解質として、S−PEEKを例示したが、本発明の燃料電池に含有され得る炭化水素系電解質はS−PEEKに限定されるものではない。当該炭化水素系電解質の他の具体例としては、S−PES、S−PPBP、S−PEK、PBI、SPI等を挙げることができる。
【0029】
また、触媒層に含有される合金触媒として、PtCo合金を例示したが、本発明において、触媒層に含有される合金触媒は、PtCo合金に限定されない。本発明にかかる燃料電池の触媒層に含有される合金触媒の他の具体例としては、Ru、Ir、Au、Ag、Cu、Ni、Fe、Cr、Mn、V、Ti、Mo、Pd、Rh、Wからなる群より選択される少なくとも1種以上の遷移金属とPtとを含有する合金触媒を挙げることができる。
【0030】
また、有機溶媒として、アルコールを例示したが、電解質膜や触媒層を作製する際に使用される有機溶媒は、アルコールに限定されるものではない。有機溶媒の他の具体例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水を含むエタノール溶液や、水とメタノールと2−プロパノールとの混合液のほか、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメテルアセトアミド(DMAC)、ジメチルエーテル(DME)、アセトン等を挙げることができる。
【0031】
なお、図1及び図2では、アノード及びカソードに拡散層が備えられる形態の燃料電池を例示したが、本発明にかかる燃料電池は当該形態に限定されるものではなく、アノード及び/又はカソードに拡散層が備えられない形態であっても良い。
また、図1及び図2では、アノード側のセパレータ及びカソード側のセパレータに流路が備えられる形態の燃料電池を例示したが、本発明にかかる燃料電池は当該形態に限定されず、アノード側のセパレータ及び/又はカソード側のセパレータに流路が備えられていなくても良い。セパレータに流路が備えられない場合、燃料電池に拡散層が備えられる形態であれば、発泡金属や焼結金属等からなる拡散層に、水素含有ガスや酸素含有ガスが供給される形態とすることができ、拡散層が備えられない形態であれば、触媒層に水素含有ガスや酸素含有ガスが供給される形態とすることができる。
さらに、上記説明では、いわゆる平板型の燃料電池を例示したが、本発明にかかる燃料電池の形態は平板型に限定されるものではなく、ディンプル形状、円筒状(チューブ型)等の形態の燃料電池であっても本発明を適用することができる。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
(1)サンプルの作製
水を含むエタノール溶液に、PtCo合金が担持された炭素(以下、「PtCo/C触媒」という。)を分散させた分散液を、グラッシーカーボン電極に滴下した後、室温下で10分間に亘って乾燥させることにより、実施例1に係る電極を作製した。これに対し、PtCo/C触媒に代えて、Ptが担持された炭素(以下、「Pt/C触媒」という。)を分散させた他は実施例1に係る電極と同様の手順により、比較例1に係る電極を作製した。なお、実施例1に係るPtCo/C触媒において、PtCo/C触媒の質量を100質量部とするとき、PtCoは51質量部であり、当該51質量部の内訳は、Ptが48質量部、Coが3質量部であった。
【0033】
(2)CV測定
ガラス製三極式電気化学測定用セル(以下、「電気化学セル」という。)及び回転装置を用いて、CV(Cyclic Voltammetry)測定を行うことにより、触媒の酸化還元特性を調べた。上記手順により作製した実施例1に係る電極又は比較例1に係る電極を、電気化学セルの作用極とし、Pt線を対極、水素可逆電極(RHE)を参照極とした。
0.1[mol/l]の硫酸水溶液を入れた電気化学セルに、全ての電極(作用極、対極、及び、参照極)をセットした後、電解液をNガスでバブリングすることにより脱気し、CV測定を行った。CV測定では、作用極の電位が参照極に対して0.05〜1.4[V]となるように繰り返し電位を走査した。ここで、電位の走査速度は100[mV/sec]、作用極の回転速度は400[rpm]とし、参照極に対する作用極の電位が0.5[V]の状態で、|酸化電流|=|還元電流|となったところで脱気完了と判断した。その後、バブリングガスをOガスに切り替えてバブリングを行った。CV波形が安定した後、1.2[V]から0.4[V]へ、走査速度10[mV/sec]で電位を走査し、酸素還元電流を測定した。その後、濃度が10[ppm]となるように、DMSOを0.1[mol/l]の硫酸水溶液へ添加し、同様に、1.2[V]から0.4[V]へ、走査速度10[mV/sec]で電位を走査し、酸素還元電流を測定した。作用極として実施例1に係る電極を用いた場合における、電位と酸素還元電流との関係、及び、作用極として比較例1に係る電極を用いた場合における、電位と酸素還元電流との関係を、図3にあわせて示す。図3の縦軸は、参照極に対する作用極の電位[V vs. RHE]、図3の横軸は、触媒1g当たりの酸素還元電流[A/g]である。なお、DMSOがMEA中に残留すると、燃料電池の作動時等に触媒の機能が低下する。
【0034】
(3)結果
図3より、実施例1に係る電極は、比較例1に係る電極よりも、優れた酸素還元特性を示した。したがって、触媒としてPtCo合金を用いることで、触媒の機能低下を抑制可能であることが確認された。
【0035】
<実施例2>
(1)試験用セルの作製
PtCo/C触媒の質量を100質量部とするとき、PtCoが51質量部であり、当該51質量部の内訳が、Ptが48質量部、Coが3質量部であるPtCo/C触媒1gに、水1.5gを加え混錬する一方、炭化水素系電解質(S−PEEK)を10質量%含むDMSO1.84gとエタノール20gとを混合して混合溶液を調製した。そして、ホモジナイザーを用いて、混錬した上記PtCo/C触媒を混合溶液へ分散させることにより、実施例2に係る触媒インクを調製した。このようにして調製した触媒インクを、炭化水素系電解質を含有する電解質膜へ、アノード側の触媒インク目付け量が0.2mg/cm、カソード側の触媒インク目付け量が0.4mg/cmとなるように直接塗布し、100℃に設定した真空乾燥機で12時間乾燥させることにより、実施例2に係るMEAを作製した。その後、一対の拡散層(カーボンペーパー)の間に当該MEAを配設して熱圧着することにより、アノード拡散層、MEA、及びカソード拡散層を備える積層体を作製し、さらに、当該積層体の両側へカーボンセパレータを配設することにより、実施例2に係るセルを作製した。
【0036】
これに対し、Pt/C触媒の質量を100質量部とするとき、Ptが45質量部であるPt/C触媒1gに水1.5gを加え混錬する一方、S−PEEKを10質量%含むDMSO2.06gとエタノール20gとを混合して混合溶液を調製した。そして、ホモジナイザーを用いて、混錬した上記Pt/C触媒を混合溶液へ分散させることにより、比較例2に係る触媒インクを調整した。このようにして調製した触媒インクを、炭化水素系電解質からなる電解質膜へ、アノード側の触媒インク目付け量が0.2mg/cm、カソード側の触媒インク目付け量が0.4mg/cmとなるように直接塗布し、100℃に設定した真空乾燥機で12時間乾燥させることにより、比較例2に係るMEAを作製した。その後、一対の拡散層(カーボンペーパー)の間に当該MEAを配設して熱圧着することにより、アノード拡散層、MEA、及びカソード拡散層を備える積層体を作製し、さらに、当該積層体の両側へカーボンセパレータを配設することにより、比較例2に係るセルを作製した。
【0037】
(2)IV測定
実施例2に係るセル及び比較例2に係るセルを用いて、IV測定を行うとともに、各セルの抵抗を調べた。いずれのセルも、セル温度は80℃とし、アノードにはフル加湿のHガスを供給するとともに、カソードにはフル加湿の空気を供給した。IV測定及びセル抵抗の結果を、図4にあわせて示す。図4の縦軸は、電圧[V]、抵抗[mΩ]であり、図4の横軸は、電流密度[A/cm]である。
【0038】
(3)結果
図4より、比較例2に係るセルの、電圧0.2V時における電流密度が1.0[A/cm]よりも小さい値であったのに対し、実施例2に係るセルの、電圧0.2V時における電流密度は、1.4[A/cm]よりも大きい値であった。また、図4より、実施例2に係るセルの抵抗は、比較例2に係るセルの抵抗よりも低い値であった。したがって、触媒としてPtCo合金を用いることで、燃料電池の発電性能を向上可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態にかかる本発明の燃料電池の一部構成例を概略的に示す断面図である。
【図2】第2実施形態にかかる本発明の燃料電池の一部構成例を概略的に示す断面図である。
【図3】電位と酸素還元電流との関係を示す図である。
【図4】電位及び抵抗と電流密度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電解質膜
2、22 アノード
2a、22a アノード触媒層
2b、22b アノード拡散層
3、23 カソード
3a、23a カソード触媒層
3b、23b カソード拡散層
4、24 MEA(膜電極接合体)
5、6 セパレータ
100、200 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、該電解質膜の一方の面に配設されるアノード触媒層と、前記電解質膜の他方の面に配設されるカソード触媒層と、を備える膜電極接合体を具備し、
前記膜電極接合体は、前記電解質膜、前記アノード触媒層、及び、前記カソード触媒層の少なくとも1つに炭化水素系電解質を含有し、
前記アノード触媒層及び/又は前記カソード触媒層は、白金と、少なくとも1種以上の遷移金属と、を含有する合金触媒を含有することを特徴とする、燃料電池。
【請求項2】
前記アノード触媒層及び/又は前記カソード触媒層は、炭化水素系電解質を含有することを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記合金触媒は、白金及びコバルトを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−27685(P2008−27685A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197660(P2006−197660)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】