説明

燃料電池

【課題】燃料電池の発電部材である膜電極接合体の界面に生じる応力集中を緩和することによって、長期の連続使用において安定した出力を維持できる燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料極、空気極、および燃料極と空気極とに挟持された電解質膜15を備えた膜電極接合体を備える燃料電池10であって、燃料極は、電解質膜15の一方の面に対向して配置された燃料極触媒層11と、燃料極触媒層11と対向して配置された燃料極ガス拡散層12と、を有し、空気極は、電解質膜15の他方の面に対向して配置された空気極触媒層13と、空気極触媒層13と対向した配置された空気極ガス拡散層14と、を有し、燃料極ガス拡散層12と空気極ガス拡散層14との少なくともいずれか一方は、複数に分割されている燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に小型の液体燃料直接供給型の燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩により、電子機器の小型化、高性能化、ポータブル化が進んでいる。携帯用電子機器では、使用される電池の高エネルギ密度化の要求が強まっている。このため、軽量で小型でありながら高容量の二次電池が要求されている。
【0003】
上記のような二次電池への要求に対して、従来、例えばリチウムイオン二次電池が開発されてきた。近年、携帯電子機器のオペレーション時間は、さらに増加する傾向にあり、リチウムイオン二次電池では、材料の観点からも構造の観点からもエネルギ密度の向上はほぼ限界にきており、更なる要求に対応することが困難な状況である。
【0004】
このような状況のもと、リチウムイオン二次電池に代わって、小型の燃料電池が注目を集めている。特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、水素ガスを使用する燃料電池に比べ、水素ガスの取り扱いの困難さや、有機燃料を改質して水素を作り出す装置等が必要なく、小型化に優れている。
【0005】
DMFCでは、燃料極においてメタノールが酸化分解され、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。一方、空気極では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトン、および燃料極から外部回路を通じて供給される電子によって水が生成される。また、この外部回路を通る電子によって、電力が供給されることになる。
【0006】
DMFCでは、このような構成で発電を進めるために、空気極と燃料極とで生成物質が異なり、かつ、電解質膜を通じてプロトンだけではなく、水が移動する特徴を持っている。
【0007】
またメタノールもクロスオーバーと呼ばれる現象によって、電解質膜を通じて燃料極から空気極へ移動することが知られている。さらには電解質膜を通じて燃料極で精製する二酸化炭素が空気極へ移動するという報告もある。
【0008】
従来、各電極のガス拡散層ではなく、ガス拡散層と触媒層間にカーボン層を敷設し、そのカーボン層を分割形状にすることによって水の滞留を防ぐことが試みられている(特許文献1参照)。
【0009】
しかし、電解質膜中を物質が移動することにより、電解質膜は体積変化を生じる。特に水が移動する際、電解質膜内に一度吸収されるため、電解質膜は膨潤し、体積変動を起こすことになる。
【0010】
このような電解質膜の体積変動は、燃料電池の稼動状態によって変動するため、燃料電池の発電部材である膜電極接合体ではその接合界面に応力を生じる場合があった。そこでこの膜電極接合体を燃料電池に組み付けるときに、燃料供給や空気が供給可能なように加工された剛体材料で挟み込み、発生する界面応力を押さえ込むことが成されてきた。
【特許文献1】特開2004−164903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のように膜電極接合体を剛体材料で挟み込んでも、電解質膜と触媒層との間の微細な応力集中を回避することが難しかった。このため、燃料電池を長期に渡って稼動させた場合、部分的に電解質膜と触媒層との間や触媒層とガス拡散層との間に、微細な剥離が生じて、燃料電池の出力が低下する場合があった。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、電解質膜の体積変動が生じても、触媒層と電解質膜との間、あるいは触媒層とガス拡散層との間に剥離を起こす応力集中を回避して寿命の長い燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様による燃料電池は、燃料極、空気極、および前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜を備えた膜電極接合体を備える燃料電池であって、前記燃料極は、前記電解質膜の一方の面に対向して配置された燃料極触媒層と、前記燃料極触媒層と対向して配置された燃料極ガス拡散層と、を有し、前記空気極は、前記電解質膜の他方の面に対向して配置された空気極触媒層と、前記空気極触媒層と対向した配置された空気極ガス拡散層と、を有し、前記燃料極ガス拡散層と前記空気極ガス拡散層との少なくともいずれか一方は、複数に分割されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池によれば、燃料電池の発電部材である膜電極接合体の界面で剥離を抑制できるため、長期の連続使用において安定した出力を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池は、直接メタノール型の燃料電池10である。図1に示すように、燃料電池10は、燃料極触媒層11および燃料極ガス拡散層12を有する燃料極と、空気極触媒層13および空気極ガス拡散層14を有する空気極と、燃料極触媒層11と空気極触媒層13との間に挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜15とから構成される膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly )16を起電部として備えている。
【0016】
燃料極触媒層11および空気極触媒層13に含有される触媒としては、例えば、白金族元素である、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の単体金属、白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。
【0017】
具体的には、燃料極触媒層11として、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなど、空気極触媒層13として、白金やPt−Niなどを用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒、あるいは無担持触媒を使用してもよい。
【0018】
電解質膜15を構成するプロトン伝導性材料としては、例えば、スルホン酸基を有する、例えば、パーフルオロスルホン酸重合体等のフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
燃料極触媒層11の一方の面に対向するように燃料極ガス拡散層12が配置されている。図1および図2に示すように、燃料極触媒層11に積層された燃料極ガス拡散層12は、燃料極触媒層11に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、燃料極触媒層11の集電体も兼ねている。
【0020】
一方、空気極触媒層13の一方の面に対向するように空気極ガス拡散層14が配置されている。空気極触媒層13に積層された空気極ガス拡散層14は、空気極触媒層13に酸化剤である酸素を均一に供給する役割を果たすと同時に、空気極触媒層13の集電体も兼ねている。
【0021】
また、燃料極ガス拡散層12および空気極ガス拡散層14は、ガスを通過させるため、多孔質体からなる導電性材料で構成される。燃料極ガス拡散層12および空気極ガス拡散層14は、例えば、カーボンペーパ、カーボン織布、などで構成されるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
例えば、燃料極ガス拡散層12や空気極ガス拡散層14は、気孔率を調整することができる材料で構成されることが好ましく、例えば、圧縮することで体積、すなわち密度を変化させることが可能なカーボンペーパなどを用いることが好ましい。
【0023】
図2に示すように、上面にある空気極ガス拡散層14は複数に分割されているとともに、空気極触媒層13を挟んで電解質膜15の一方の面に接合されている。図2に示す膜電極接合体では、電解質膜15に対して空気極ガス拡散層14が配置された側の裏面に燃料極が設置されている。燃料極の燃料極ガス拡散層12は複数に分割されているとともに、燃料極触媒層11を挟んで電解質膜15の相対する面に接合されている。すなわち、空気極ガス拡散層14と燃料極ガス拡散層12とは、電解質膜15を挟むように配置されている。
【0024】
また、図1に示すように、燃料極ガス拡散層12上には、集電体である燃料極導電層17が積層されている。燃料極導電層18は、分割された燃料極ガス拡散層12を電気的に並列に接続する。空気極ガス拡散層14上には、集電体である空気極導電層18が積層されている。空気極導電層17は、分割された空気極ガス拡散層14を電気的に並列に接続する。
【0025】
燃料極導電層17および空気極導電層18は、例えば、金などの導電金属材料からなり、開いた箔やメッシュなどの多孔質構造材料で構成される。なお、燃料極導電層17および空気極導電層18は、それらの周縁から燃料や酸化剤が漏れないように構成されている。
【0026】
燃料極導電層17と電解質膜15との間には、矩形枠状を有する燃料極シール材19が配置されるとともに、燃料極触媒層11および燃料極ガス拡散層12の周囲を囲んでいる。空気極導電層18と電解質膜15との間には、矩形枠状の空気極シール材20が配置されているとともに、空気極触媒層13および空気極ガス拡散層14の周囲を囲んでいる。
【0027】
燃料極シール材19および空気極シール材20は、例えば、ゴム製のOリングなどで構成され、膜電極接合体16からの燃料漏れおよび酸化剤漏れを防止している。なお、燃料極シール材19および空気極シール材20の形状は、矩形枠状に限られず、燃料電池10の外縁形に対応するように適宜に構成される。
【0028】
図1に示すように、液体燃料Fを収容する液体燃料タンク21の開口部を覆うように、気液分離膜22が配設されている。気液分離膜22上には、燃料電池10の外縁形に対応した形状で構成されたフレーム23が配置されている。本実施形態に係る燃料電池の場合、フレーム23は略矩形状である。
【0029】
フレーム23上には、膜電極接合体16が燃料極導電層17がフレーム23側となるように積層配置されている。ここで、フレーム23は、電気絶縁材料で構成され、具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)のような熱可塑性ポリエステル樹脂などで形成される。
【0030】
液体燃料タンク21に貯留される液体燃料Fは、濃度が50モル%を超えるメタノール水溶液、または純メタノールである。液体燃料Fとして採用する純メタノールの純度は、95重量%以上100重量%以下にすることが好ましい。
【0031】
また、液体燃料Fの気化成分とは、液体燃料Fとして液体のメタノールを使用した場合には、気化したメタノールを意味し、液体燃料Fとしてメタノール水溶液を使用した場合には、メタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合気を意味する。
【0032】
気液分離膜22は、液体燃料Fの気化成分と液体燃料Fとを分離し、その気化成分を燃料極触媒層11側に透過させるものである。この気液分離膜22は、液体燃料Fに対して不活性で溶解しない材料でシート状に構成され、具体的には、シリコーンゴム、低密度ポリエチレン(LDPE)薄膜、ポリ塩化ビニル(PVC)薄膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)薄膜、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)微多孔膜などの材料で構成される。なお、気液分離膜22は、周縁から燃料などが漏れないように構成されている。なお、気液分離膜に限らず液体燃料を気体状態で送ることができるものであれば何ら限定されるものではない。
【0033】
気液分離膜22、燃料極導電層17およびフレーム23で囲まれた空間である気化燃料収容室24は、気液分離膜22を透過してきた液体燃料Fの気化成分を一時的に収容し、さらに気化成分における燃料の濃度分布を均一にする空間として機能する。
【0034】
空気極導電層18上には、燃料電池10の外縁形に対応した形状で構成されたフレーム25を介して、保湿層26が積層されている。本実施形態に係る燃料電池10では、フレーム25は略矩形状である。
【0035】
また、保湿層26は、空気極触媒層13において生成した水の一部を含浸して、水の蒸散を抑制する役割をなすとともに、空気極ガス拡散層14に酸化剤を均一に導入することにより、空気極触媒層13への酸化剤の均一拡散を促す補助拡散層としての機能も有している。
【0036】
この保湿層26は、例えば、ポリエチレン多孔質膜などの材料で構成され、その最大の孔径が20〜50μm程度の膜が使用される。最大の孔径をこの範囲とするのは、孔径が20μmより小さい場合には空気透過量が低下するためであり、50μmより大きい場合には水分蒸発が過多となるからである。
【0037】
保湿層26上には、表面層として機能し、酸化剤である空気を取り入れるための空気導入口28が複数個形成された表面カバー層27が積層されている。
【0038】
表面カバー層27は、膜電極接合体16を含む積層体を加圧して、その密着性を高める役割も果たしているため、例えば、SUS304のような金属で形成される。また、フレーム25は、上記したフレーム23と同様に、電気絶縁材料で構成され、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような熱可塑性ポリエステル樹脂などで形成される。
【0039】
なお、浸透圧現象による空気極触媒層13側から燃料極触媒層11側への水の移動は、保湿層26上に設置された表面カバー層27における空気導入口28の個数やサイズを変えて、開口部の面積などを調整することで制御することができる。
【0040】
なお、燃料電池10の構成は、上記した構成に限られるものではなく、例えば、燃料極導電層17とフレーム23との間に疎水性の多孔膜を設けてもよい。この多孔膜を設けることで、多孔膜を介する燃料極ガス拡散層12側から気化燃料収容室24側への水の侵入を防止することができる。具体的な多孔膜の材料として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、撥水化処理したシリコーンシートなどが挙げられる。
【0041】
また、この気液分離膜22のさらに液体燃料タンク21側に、気液分離膜22と同様の気液分離機能を有するとともに燃料の気化成分の透過量を調整する透過量調整膜(図示せず)を設けてもよい。この透過量調整膜による気化成分の透過量の調整は、透過量調整膜に設けられた開孔部の径を調整して行われる。
【0042】
この透過量調整膜は、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの材料で構成することができる。この透過量調整膜を設けることで、燃料極触媒層11側に供給される燃料の気化成分の供給量を調整することができる。
【0043】
次に、本実施形態に係る燃料電池10の作用について説明する。液体燃料タンク21内の液体燃料F(例えば、メタノール水溶液)が気化し、気化したメタノールと水蒸気との混合気は、気液分離膜22を透過し、気化燃料収容室24に一旦収容され、濃度分布が均一にされる。
【0044】
気化燃料収容室24に一旦収容された混合気は、燃料極導電層17を通過し、さらに燃料極ガス拡散層12で拡散され、燃料極触媒層11に供給される。燃料極触媒層11に供給された混合気は、次の式(1)に示すメタノールの内部改質反応を生じる。
【0045】
CHOH+HO → CO+6H+6e …式(1)
なお、液体燃料Fとして、純メタノールを使用した場合には、液体燃料タンク21からの水蒸気の供給がないため、空気極触媒層13で生成した水や電解質膜15中の水などがメタノールと上記した式(1)の内部改質反応を生じる。
【0046】
内部改質反応で生成されたプロトン(H)は、電解質膜15を伝導し、空気極触媒層13に到達する。表面カバー層27の空気導入口28から取り入れられた空気は、保湿層26、空気極導電層18、空気極ガス拡散層14を拡散して、空気極触媒層13に供給される。
【0047】
空気極触媒層13に供給された空気は、次の式(2)に示す反応を生じる。この反応によって、水が生成され、発電反応が生じる。
【0048】
(3/2)O+6H+6e → 3HO …式(2)
この反応によって空気極触媒層13中に生成した水は、空気極ガス拡散層14を拡散して保湿層26に到達し、一部の水は、保湿層26上に設けられた表面カバー層27の空気導入口28から蒸散されるが、残りの水は保湿層26に一旦停滞し、空気極ガス拡散層14を通過して空気極触媒層13まで達する。
【0049】
さらに式(2)の反応が進行すると、生成水量が増し、空気極触媒層13中の水分貯蔵量が増加する。この場合、式(2)の反応の進行に伴って、空気極触媒層13の水分貯蔵量が、燃料極触媒層11の水分貯蔵量よりも多い状態となる。
【0050】
その結果、浸透圧現象によって、空気極触媒層13に生成した水が、電解質膜15を通過して燃料極触媒層11に移動する現象が促進される。そのため、燃料極触媒層11への水分の供給を液体燃料タンク21から気化した水蒸気のみに頼る場合に比べて、水分の供給が促され、前述した式(1)におけるメタノールの内部改質反応を促進させることができる。一方、空気極においては、空気極触媒層13で生じる反応に必要な酸素を空気中から多く取り込む必要がある。
【0051】
また、液体燃料Fとして、メタノールの濃度が50モル%を超えるメタノール水溶液、または純メタノールを使用する場合でも、空気極触媒層13から燃料極触媒層11に移動してきた水を内部改質反応に使用することができるので、燃料極触媒層11への水の供給を安定して行うことが可能となる。
【0052】
これによって、メタノールの内部改質反応の反応抵抗をさらに低下することができ、長期出力特性と負荷電流特性をより向上させることができる。さらに、液体燃料タンク21の小型化を図ることも可能である。
【0053】
このような燃料電池において、発電を行うためには電解質膜中をプロトンが移動する必要があり、水も電解質膜を通じて移動する。さらには燃料極側から空気極側に電解質膜を通じてメタノールが移動するメタノールクロスオーバー現象も生じる。このために電解質膜は水の吸収やメタノールの吸収によって膨潤し、DMFCの稼動状態によって体積変化を生じる。
【0054】
このとき、燃料極および空気極のガス拡散層が剛体であり、剛性を持つことによって電解質膜の体積変動に追随できず、燃料極ガス拡散層と燃料極触媒層、空気極ガス拡散層と空気極触媒層、燃料極触媒層と電解質膜、空気極触媒層と電解質膜といった界面に応力を生じるため、接合界面に悪影響を及ぼし、剥離現象を引き起こすことが考えられる。
【0055】
本発明では、このガス拡散層を分割することによって電解質膜の体積変動に燃料極あるいは空気極が追随できるようにした。これによって応力集中が回避され、長期にわたって上記のDMFCを駆動させても、界面剥離といった最悪の事態を回避することができる。
【0056】
したがって上記したように、本実施形態の直接メタノール型の燃料電池10によれば、燃料極ガス拡散層12を複数に分割すること、または、空気極ガス拡散層14を複数に分割することで、電解質膜の体積変動に追随し、接合界面の応力集中を抑制することで、長期の連続したDMFC運転でも膜電極接合体内での界面剥離と言いう事態を回避することができる。
【0057】
なお、上記した実施の形態では、液体燃料に、メタノール水溶液、または純メタノールを使用した直接メタノール型の燃料電池について説明したが、液体燃料は、これらに限られるものではない。例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ジメチルエーテル等、または、これらの水溶液を用いた液体燃料直接供給型の燃料電池にも応用することができる。
【0058】
また、上記の燃料電池は、1つの膜電極接合体を有するものについて説明したが、図3に示すように、上記の膜電極接合体を複数有する燃料電池にも本発明を適用することができる。その場合には、図3に示すように、複数の膜電極接合体で電解質膜15を共有し、それぞれの膜電極接合体の燃料極と空気極とを電解質膜15を挟むように配置する。このような場合であっても、膜電極接合体が1つの場合と同様の効果を得ることができる。
【0059】
さらに、空気極ガス拡散層14が複数に分割されている場合に、空気極触媒層13を空気極ガス拡散層14と同一形状となるように分割しても良く、燃料極ガス拡散層11が複数に分割されている場合には、燃料極触媒層12を燃料極ガス拡散層11と同一形状となるように分割しても良い。それぞれの触媒層を分割することによって、応力集中をさらに回避することが可能となり、上述の第1実施形態に係る燃料電池10と同様の効果を得ることができる。
【0060】
次に、燃料極ガス拡散層12あるいは空気極ガス拡散層14を複数に分割しそれぞれ電気的に並列に接続した膜電極接合体にすることで、長期連続運転でも優れた出力特性を維持できることを以下の実施例で説明する。
【0061】
第1実施例に係る燃料電池は、燃料極ガス拡散層12と空気極ガス拡散層14との両方に溝を設けて、燃料極ガス拡散層12と空気極ガス拡散層14を複数に分割している。第2実施例に係る燃料電池は、燃料極ガス拡散層12のみに溝を設けて、燃料極ガス拡散層12を複数に分割し、空気極ガス拡散層14は連続する単一の層としている。第1比較例に係る燃料電池は、燃料極ガス拡散層12と空気極ガス拡散層14とのいずれにも溝を設けず、それぞれを連続する単一の層としている。
【0062】
図4に上記の第1実施例、第2実施例、および第1比較例に係る燃料電池について、その出力電力の経過を測定した結果を示す。図4に示すように、第1実施例および第2実施例に係る燃料電池では溝を設けることにより拡散層の面積が比較例に係る燃料電池の拡散層よりも小さくなるため、運転を開始した当初は第1比較例に係る燃料電池と比較してその出力電力が小さくなる。
【0063】
しかし、第1比較例に係る燃料電池では、運転開始から時間が経過するとともに、その出力電力が、第1実施例および第2実施例にかかる燃料電池と比較して急激に低下している。第1実施例および第2実施例に係る燃料電池では、運転開始から時間が経過しても、その出力電力は緩やかに低下し、一定時間が経過後には第1実施例および第2実施例にかかる燃料電池の出力電力は、第1比較例にかかる燃料電池の出力電力よりも大きくなる。
【0064】
すなわち、第1実施例および第2実施例に係る燃料電池の場合、その出力電力の大きさの時間経過伴う変化が緩やかであって、第1比較例に係る燃料電池よりも長時間にわたって電力を供給することが可能である。
【0065】
従って、上述の第1実施形態に係る燃料電池10によれば、電解質膜の体積変動が生じても、触媒層と電解質膜との間、あるいは触媒層とガス拡散層との間に剥離を起こす応力集中を回避して寿命の長い燃料電池を提供することができる。
【0066】
次に、本発明の第2実施形態に係る燃料電池について図面を参照して以下に説明する。なお、以下の説明において、上述の第1実施形態に係る燃料電池10と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
図5に示すように、本実施形態に係る燃料電池は、第1実施形態に係る燃料電池と同様に、直接メタノール型の燃料電池10である。燃料電池10は、起電部を構成する膜電極接合体と、この膜電極接合体に燃料を供給する燃料分配機構3と、液体燃料を収容する燃料供給部4と、これら燃料分配機構3と燃料供給部4とを接続する流路5とを有している。流路5には、燃料供給部4に終了された燃料を燃料分配機構3へ送り出すポンプが取り付けられている。
【0068】
燃料供給部4には、膜電極接合体に対応した液体燃料Fが収容されている。液体燃料Fは、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料供給部4には膜電極接合体に応じた液体燃料が収容される。
【0069】
膜電極接合体の燃料極側には、燃料分配機構3が配置されている。燃料分配機構3は液体燃料の流路5を介して燃料供給部4と接続されている。燃料分配機構3には燃料供給部4から流路5を介して液体燃料が導入される。
【0070】
ここで、流路5は燃料分配機構3や燃料供給部4と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構3と燃料供給部4とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。燃料分配機構3は流路5を介して燃料供給部4と接続されていればよい。
【0071】
燃料分配機構3は示すように、液体燃料Fが流路5を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口INと、液体燃料Fやその気化成分を燃料電池セル2に排出する複数個の燃料排出口OUTとを有する燃料分配板33を備えている。
【0072】
燃料分配板33の内部には図5に示すように、燃料注入口INから導かれた液体燃料の通路となる細管31が設けられている。細管31は例えば内径が0.05〜5mmの貫通孔であることが好ましい。複数の燃料排出口OUTは燃料通路として機能する細管31にそれぞれ直接接続されている。
【0073】
燃料注入口INから燃料分配機構3に導入された液体燃料は細管31に入り、この燃料通路として機能する細管31を介して複数の燃料排出口OUTにそれぞれ導かれる。
【0074】
複数の燃料排出口OUTには、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示せず)を配置してもよい。これによって、膜電極接合体の燃料極には液体燃料の気化成分が供給される。
【0075】
なお、気液分離体は燃料分配機構3と燃料極との間に気液分離膜等として設置してもよい。液体燃料の気化成分は複数の燃料排出口OUTから燃料極の複数個所に向けて排出される。
【0076】
本実施形態に係る燃料電池10では、上述の第1実施形態に係る燃料電池の場合と同様に、空気極ガス拡散層14と燃料極ガス拡散層12との少なくとも一方が複数に分割されている。
【0077】
複数に分割された空気極ガス拡散層14は、空気極ガス拡散層14に対して空気極触媒層13と逆側に配置された空気極導電層18によって並列に接合されている。複数に分割された燃料極ガス拡散層12は、燃料極ガス拡散層12に対して燃料極触媒層11と逆側に配置された燃料極導電層17によって並列に接合されている。
【0078】
燃料分配機構3から放出された燃料は、上述したように膜電極接合体の燃料極に供給される。膜電極接合体内において、燃料は燃料極ガス拡散層12を拡散して燃料極触媒層11に供給される。液体燃料としてメタノール燃料を用いた場合、燃料極触媒層11で前述の第1実施形態で説明した式(1)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。
【0079】
なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、空気極触媒層13で生成した水や電解質膜15中の水をメタノールと反応させて式(1)の内部改質反応を生起させる。
【0080】
この反応で生成した電子(e-)は集電体を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、空気極に導かれる。また、式(1)の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は電解質膜15を経て空気極に導かれる。空気極には酸化剤として空気が供給される。空気極に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、空気極触媒層13で空気中の酸素と前述の第1実施形態で説明した式(2)にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
【0081】
さらに、燃料分配機構3と燃料極との間には、多孔体(図示せず)を挿入することが有効である。多孔体の構成材料としては各種樹脂が使用され、多孔質状態の樹脂フィルム等が多孔体として用いられる。
【0082】
このような多孔体を配置することによって、燃料極に対する燃料供給量をより一層平均化することができる。すなわち、燃料分配機構3の燃料排出口OUTから噴出した液体燃料は一旦多孔体に吸収され、多孔体の内部で面内方向に拡散する。この後、多孔体から燃料極に燃料が供給されるため、膜電極接合体への燃料供給量をより一層平均化することが可能となる。
【0083】
上記の実施形態では、流路5にポンプ40が取り付けられている。ポンプ40は制御部CTRによって制御される。制御部CTRが膜電極接合体における出力電力から、ポンプ40の出力量を制御することにより、効果的に燃料電池の出力を制御することが可能となる。
【0084】
次に、燃料極ガス拡散層12と空気極ガス拡散層13の少なくとも一方を複数に分割し、それぞれ電気的に並列に接続した膜電極接合体にすることで、長期連続運転でも優れた出力特性を維持できることを以下の実施例で説明する。
【0085】
第1実施例に係る燃料電池は、燃料極ガス拡散層と空気極ガス拡散層との両方に溝を設けて、燃料極ガス拡散層と空気極ガス拡散層を複数に分割している。第2実施例に係る燃料電池は、燃料極ガス拡散層のみに溝を設けて、燃料極ガス拡散層を複数に分割し、空気極ガス拡散層は連続する単一の層としている。第1比較例に係る燃料電池は、燃料極ガス拡散層と空気極ガス拡散層とのいずれにも溝を設けず、それぞれを連続する単一の層としている。
【0086】
図6に上記の第1実施例、第2実施例、および第1比較例に係る燃料電池について、その出力電力の経過を測定した結果を示す。図6に示すように、第1実施例および第2実施例に係る燃料電池では溝を設けることにより拡散層の面積が比較例に係る燃料電池の拡散層よりも小さくなるため、運転を開始した当初は第1比較例に係る燃料電池と比較してその出力電力が小さくなる。
【0087】
しかし、第1比較例に係る燃料電池では、運転開始から時間が経過するとともに、その出力電力が、第1実施例および第2実施例にかかる燃料電池と比較して急激に低下している。
【0088】
これに対し、第1実施例および第2実施例に係る燃料電池では、運転開始から時間が経過しても、その出力電力は緩やかに低下し、一定時間が経過後には第1実施例および第2実施例にかかる燃料電池の出力電力は、第1比較例にかかる燃料電池の出力電力よりも大きくなる。
【0089】
すなわち、第1実施例および第2実施例に係る燃料電池の場合、その出力電力の大きさの時間経過伴う変化が緩やかであって、第1比較例に係る燃料電池よりも長時間にわたって電力を供給することが可能である。
【0090】
従って、上述の第2実施形態に係る燃料電池10によれば、電解質膜の体積変動が生じても、触媒層と電解質膜との間、あるいは触媒層とガス拡散層との間に剥離を起こす応力集中を回避して寿命の長い燃料電池を提供することができる。
【0091】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0092】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0093】
また、MEAへ供給される液体燃料の気体においても、全て液体燃料の気体を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池の一構成例を概略的に示す図。
【図2】図1に示す燃料電池の膜電極接合体を燃料極側から見たときの一構成例を示す図。
【図3】図1に示す燃料電池の燃料極拡散層の一構成例を説明するための図。
【図4】本発明の第1実施形態に係る燃料電池についての実施例および比較例に係る燃料電池を駆動したときの時間経過に伴う出力電力の変化の一例を示す図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る燃料電池の一構成例を概略的に示す図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る燃料電池についての実施例および比較例に係る燃料電池を駆動したときの時間経過に伴う出力電力の変化の一例を示す図。
【符号の説明】
【0095】
15…電解質膜、10…燃料電池、11…燃料極触媒層、12…燃料極ガス拡散層、13…空気極触媒層、14…空気極ガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極、空気極、および前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜を備えた膜電極接合体を備える燃料電池であって、
前記燃料極は、前記電解質膜の一方の面に対向して配置された燃料極触媒層と、前記燃料極触媒層と対向して配置された燃料極ガス拡散層と、を有し、
前記空気極は、前記電解質膜の他方の面に対向して配置された空気極触媒層と、前記空気極触媒層と対向した配置された空気極ガス拡散層と、を有し、
前記燃料極ガス拡散層と前記空気極ガス拡散層との少なくともいずれか一方は、複数に分割されている燃料電池。
【請求項2】
分割された前記燃料極ガス拡散層、又は、分割された前記空気極ガス拡散層は集電部材によって並列に接合されている請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
複数の前記膜電極接合体を有する燃料電池であって、
複数の前記膜電極接合体の前記燃料極ガス拡散層は、前記電解質膜の一方の面に沿って同一平面上に配列しているとともに、共通の集電部材によって並列に接合され、
複数の前記膜電極接合体の前記空気極ガス拡散層は、前記電解質膜の他方の面に沿って同一平面状に配列しているとともに、共通の集電部材によって並列に接合され、
複数の前記膜電極接合体のそれぞれは、電気的に直列に連結されたことを特徴とする燃料電池の発電部材、およびその発電部材を具備したことを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料極が分割された前記燃料極ガス拡散層を有する燃料電池であって、前記燃料極触媒層が分割された燃料極ガス拡散層と同一形状に分割されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項5】
前記空気極が分割された前記空気極ガス拡散層を有する燃料電池であって、前記空気極触媒層が分割された前記空気極ガス拡散層と同一形状に分割されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項6】
前記燃料極分割された前記燃料極ガス拡散層を有するとともに、前記空気極が分割された前記空気極ガス拡散層を有する燃料電池であって、
前記燃料極触媒層が分割された前記燃料極ガス拡散層と同一形状に分割され、
前記空気極触媒層が分割された空気極ガス拡散層と同一形状に分割されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項7】
前記燃料極が分割された前記燃料極ガス拡散層を有する燃料電池であって、前記燃料極触媒層が分割された燃料極ガス拡散層の形状によらず、分割された前記燃料極ガス拡散層間にも存在する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項8】
前記空気極が分割された前記空気極ガス拡散層を有する燃料電池であって、前記空気極触媒層が分割された前記空気極ガス拡散層の形状によらず、分割された前記空気極ガス拡散層間にも存在する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項9】
前記燃料極が分割された前記燃料極ガス拡散層を有するとともに、前記空気極が分割された前記空気極ガス拡散層を有する燃料電池であって、
前記燃料極触媒層が分割された前記燃料極ガス拡散層の形状によらず、分割された前記燃料極ガス拡散層間にも存在し、
前記空気極触媒層が分割された前記空気極ガス拡散層の形状によらず、分割された前記空気極ガス拡散層間にも存在する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された燃料電池。
【請求項10】
液体燃料を収容した燃料供給部と、
前記燃料供給部と前記膜電極接合体とを接続する流路と、
前記液体燃料を前記膜電極接合体に供給するポンプと、を有している請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−293856(P2008−293856A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139590(P2007−139590)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】