説明

燃料電池

【課題】燃料電池の空気極へ適切な空気量を均一に供給可能とする。このとき、補機や加圧された空気供給系を何ら用いることなく、燃料電池の小型化・低コスト化を達成する。
【解決手段】空気極20の表面に沿って空気を流通させて供給する空気流路が形成された燃料電池であって、前記空気流路は、前記空気を通す複数の貫通穴42が形成された流路セパレータ41によって前記空気極20側の主流路45と前記空気極20の反対側の副流路43とに分離されており、前記空気極20の表面に均一に空気が供給されるように、
前記主流路45・副流路43における貫通穴42間の区間流路抵抗Rを前記貫通穴自体の流路抵抗Rpより充分小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
資源保護及びエコロジーの観点から燃料電池の実用化が求められている。
燃料電池実用化のため、小型・低コスト化が求められ、運転条件は「高温・無加湿(冷却・加湿系簡略化)」、「空気常圧・低流量(加圧ポンプ排除、小型ファン・低補機動力)」、「水素加圧デッドエンド・循環なし(循環ポンプ排除)」が主流になると予測される。
「高温・無加湿」では電解質が乾燥しプロトン伝導が低下、「空気常圧・低流量」では上流の酸素消費に伴う下流側の酸素が不足、 「水素加圧デッドエンド・循環なし」では乾燥対策として一般的なアノード/カソードのガス流れ方向を逆にする対向流の効果が水蒸気キャリアとなる水素流れが流路末端で止まるため低下するなど、各々の影響により発電特性が低下する。「高温・無加湿」における乾燥の根本原因は下流側の消費分を含む過剰なガスを上流側に流す点にあり、最も効果のある対策は、適切なガス量をMEA面の各部に対し分散供給することである。この手法では上流側に過剰なガスが流れることがなくMEA面内の水分布が一定に保たれる他、下流の酸素不足問題も解消することができる。
【0003】
この問題を解決する手法が特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示の手法を、当該文献の記載を引用して説明する。
本発明の燃料電池は電解質膜の両面に、それぞれガス拡散電極を接合してなる膜電極接合体を、セパレータによって挟持した燃料電池であって、セパレータは、該セパレータの内部に形成され、ガス拡散電極に供給すべき反応ガスを流すための反応ガス流路と、ガス拡散電極側のセパレータの表面から反応ガス流路に貫通し、反応ガス流路からガス拡散電極の表面に反応ガスを供給するための複数の反応ガス供給口と、を備え、複数の反応ガス供給口は、表面に、二次元的に分散させて配置されており、複数の反応ガス供給口のうちの少なくとも一部は、表面からガス拡散電極側に突出するとともに、反応ガス供給口の側壁をなす突出部を備える。
このように構成された燃料電池よれば、セパレータの内部に反応ガス流路が形成されており、ガス拡散電極側のセパレータの表面に、二次元的に分散させて配置された複数の反応ガス供給口を備えているので、ガス拡散電極のほぼ全面に、濃度が等しい反応ガスを供給することができる。
【特許文献1】特開2008−140721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の燃料電池によれば、ガス拡散層にガスを注入するため、流路の圧力損失が大きく常圧システムには適用困難である。即ち、供給空気の圧力を高めるための補機が必要となり、燃料電池の小型・低コスト化の要求を満足できなくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、次のように規定される。
空気極の表面に沿って空気を流通させて供給する空気流路が形成された燃料電池であって、
前記空気流路は、前記空気を通す複数の貫通穴が形成された流路セパレータによって前記空気極側の主流路と前記空気極の反対側の副流路とに分離されており、前記空気極の表面に均一に空気が供給されるように、前記主・副流路における貫通穴間の区間流路抵抗が前記貫通穴自体の流路抵抗より充分小さい、ことを特徴とする、燃料電池。
【0006】
このように形成された燃料電池によれば、主流路及び副流路の流路抵抗に比べて貫通穴の流路抵抗を極端に大きくすることにより、流路セパレータの全面に分配して形成された貫通穴より副流路から主流路へ均一な流量で空気が導入される。即ち、燃料電池本体((MEA (Membrane Electrode Assembly)、この明細書において同じ)の空気極側拡散層の全面に等しい濃度の酸素が供給されることとなる。ここに、流路セパレータが配設されても燃料電池の空気供給系全体をみたときその流路抵抗の増大は僅かであり、常圧システムをそのまま適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
流路セパレータに一定の間隔で同一形状の貫通穴を形成したとき、次の設計理論に従うことにより、各貫通穴の空気流量を均一化することができる。なお、流路セパレータに複数の貫通穴を形成する場合、これら貫通穴を同一形状とすることが製造コスト削減等の見地から好ましいことは言うまでもない。
常圧ベースでのガスの均一分割を簡便な構造により実現するため、図1(A)に示すとおり、主・副両流路は共通部品として同一形状とし、流路セパレータに設けた貫通穴も同一形状のものを前記貫通穴群の形成列数nに応じて配置することを前提に層流ベースで計算した。酸素の発電消費量は空気ストイキ2相当で全体積の約1/10と少ないため考慮していない。
層流では流路圧損=流路抵抗×流量で示され、電気回路と同様に図1(B)に示す抵抗回路のモデルで考えられ、キルヒホッフ則を用いて計算すると主・副両流路の区間流路抵抗Rと貫通穴抵抗Rpの比が0(R/Rp=0)となる点が理想的な分割条件と言える。即ち、Rに対しRpが大きいほど均一な流量分割が可能である。
【0008】
R/Rpに対する分割流量Q1〜Qnの関係を同様にキルヒホッフ則より算出すると図2(貫通穴群の形成列数n=4、10のときのR/Rpと分割流量及び分割流量誤差との関係)が得られ、本図(A),(C)より上述した通りR/Rpが小さいと狙い値に収束することがわかる。一方、R/Rpが大きいと導入側と排出側に2分割され、中央部のガス供給は0となってしまう。このため、送りガス総量に対して分割狙い量が低くなる多分割流路では、R/Rpに対する流量の変動幅が大きく、即ち、分割流量誤差が大きくなる。
【0009】
図2の流量分割誤差の最大値をR/Rpに対してプロットすると図3が得られる(本図では分割数に対する影響を把握するため、n=7、15、20分割についても計算しプロットした)。図3のプロットから貫通穴群の形成列数n とR/Rpの関係は図4のように変換できる。このプロットから燃料電池仕様に応じて許容可能な最大分割流量誤差と分割数を決めると、R/Rpの最適値を知ることが可能である。本プロットの近似式から、
最大50%まで流量誤差を許容する場合、R/Rp≦40.248n-2.8256
最大40%まで流量誤差を許容する場合、R/Rp≦23.792n-2.7244
最大30%まで流量誤差を許容する場合、R/Rp≦14.315n-2.6541
最大20%まで流量誤差を許容する場合、R/Rp≦8.0891n-2.6044
最大10%まで流量誤差を許容する場合、R/Rp≦3.4077n-2.5521
となる。分割数は多いほど空気極内の湿度分布が軽減されるため好ましいが、分割数が多いとRとRpの差が大きくなり、流路形状の制約(貫通穴微小化に伴い加工精度が必要、主・副流路の増大)が大きいため、現実的な数値としては分割数は10程度までが望ましい。
【0010】
上記より次のことが導きだせる。
主・副二系統のガス流路と両流路間を遮断しガス分散供給口となる貫通穴を流れ方向に対し一定間隔で開けた流路セパレータを持つ流路で、貫通穴群の形成列数nとしたとき、主・副流路の流路抵抗Rと貫通穴の流路抵抗Rpが R/Rp≦40.248n-2.8256 を満足するように、主・副流路の流路断面積が、貫通穴の流路断面積よりも大きくすることが好ましい。なお、貫通穴は空気流れ方向に直交した長穴や一列に並んだ多数の円穴等で構成することができる。
【0011】
効果
流路セパレータに設けた複数の貫通穴からガスが均一分散(流量差±50%以内)されて主流路に供給されるため、燃料電池本体の空気極内の湿度分布が改善され従来セル(流路セパレータを持たないもの)のような局所的乾燥に伴う発電分布が発生しなくなる。また、付随効果として、各部の必要ガス量が均一に供給されるため、従来例で見られた下流の酸素不足問題が解消する
【実施例】
【0012】
図5(A)に実施例の燃料電池1を示す。図5(B)は燃料電池本体の空気極における湿度分布を示す。
実施例の燃料電池1は燃料電池本体3、アノードセパレータ30及びカソードセパレータ40を備えてなる。
燃料電池本体3は電解質膜−電極接合体(MEA (Membrane Electrode Assembly)であり、パーフルオロスルホン酸型のイオン交換樹脂(例えば、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupont社製))からなる固体高分子電解質膜5に水素極10と空気極20とを接合した構成である。
水素極10及び空気極20はそれぞれ触媒層11,21と拡散層13,23を備える。各触媒層11,21は白金担持カーボンからなる。各拡散層13,23はマイクロ孔を有するカーボン織物、カーボン紙又はカーボン不織布等からなり、ガスは透過可能であるが水等の液体の透過を禁止する。
白金担持カーボンをペースト状にして水素極10及び空気極20の拡散層13,23の一面に塗布して触媒層11,21とし、この触媒層11,21の間に電解質膜5を介在させて、加熱圧着により図5(A)に示す構成が得られる。
【0013】
この燃料電池本体3を一対のセパレータ30、40で挟持して燃料電池の単位セルが構成される。
アノードセパレータ30と水素極10との間に水素ガスが流通され、カソードセパレータ40と空気極20との間に空気が流通される。水素ガスと空気とを対向する方向へ流通させることが好ましい。燃料電池本体3は各ガスの入口側で乾燥され、出口側で加湿されるので、水素ガスと空気との流通方向を対向させることにより燃料電池本体3の含水状況が均一化されるからである。
各セパレータ30,40はカーボン等の導電性の材料で形成され、その燃料電池本体対向面にガス流路が形成される。
【0014】
この実施例のカソードセパレータ40は流路セパレータ41、副流路43及び主流路45を備える。
これらの要素を次のように設計した。
上辺0.9mm、下辺0.5mm、高さ1mmの台形溝流路125本からなる主流路45・副流路43と、両流路を隔てる厚さ0.4mmの流路セパレータ41と、流路セパレータ41の主流路45・副流路43の長さ方向に15mm間隔で1列に並んだ直径0.1mmの貫通穴250箇所を10列設けた図6に示す10分割流路。
本構成の主流路45・副流路43の溝一本の区間流路抵抗はハーゲンポアズイユ式より以下のように計算され、得られた値を溝本数(125本)で割って主・副両流路の流路抵抗R=202682[Pa・s/m3]を得た。
【数1】

一方、貫通穴42の1つあたりの流路抵抗は同様に以下のように計算され、得られた値を穴数250で割って貫通穴の流路抵抗Rp=11864555 [Pa・s/m3]を得た。
【数2】

以上からR/Rp=0.017となり、図5よりこの例の流路によれば±20%弱の精度で導入ガスを10分割してMEAに供給することが可能である。
【0015】
これらのパラメータをシミュレーションソフトで解析した結果を図7に示す。
層流を想定して回路シミュレータを用いたため、結果は電流(A)、抵抗(Ω)、電圧(V)で表示されるが、各々、流量(m3/s)、抵抗(Pa・s/m3)、圧力(Pa)に置き換えて考える。
即ち、図7において、単位Iはガス流量[m3/sec](1A=1m3/sec)であり、Vは圧力[Pa](1V=1Pa)であり、Rは流路抵抗[Pa・sec/m3]である。なお、シミュレータには電気回路シミュレータQuite Universal Circuit Simulator Ver1.0.11(商品名)を使用した。
【0016】
流量は1A/cm2のストイキ5電極面積375cm2として530×10-6[m3/s]とした。10分割流路に伴い狙い流量は53×10-6[m3/s]である。シミュレーション結果は最大値が63.1122×10-6[m3/s]、最小値が46.4248×10-6[m3/s]で、あることから、本流路は+19.1%、-12.4%の精度で分割供給されることがわかる。よって先に述べたMEA内の湿度分布が改善され、局所的乾燥に伴う発電分布が発生しなくなり発電特性が向上する。また本流路の圧力損失は1.4[kPa]と概ね常圧で機能することを示し、加圧のためのコンプレッサーを必要とせず、ファン・ブロア等の利用が可能となる。
【0017】
また、流路セパレータ41は予め貫通穴を開けた板をプレス成型した後、主流路の導入部と、副流路の末端部を各々接着剤等で埋めるなど、比較的簡便な手法で実現可能である。本構成ではプレスにより多少穴位置がずれても、主流路45と副流路43を貫通する機能があればよいので加工精度が要求されない点で有利である。また、本案では断面形状は台形としたが、波板形状等でも良い。
【0018】
図8は上記実施例の燃料電池のスタックを示す。図5と同一の要素には同一の符号を付してその説明を部分的に省略する。
図8のスタックでは、燃料電池1の間に冷却水ジャケットを介在させて、スタックの温度制御をしている。
【0019】
このように構成された燃料電池1によれば、常圧の、即ち大気開放型の空気供給系によりカソードセパレータ40の空気導入口51へ空気を導入すると、その空気は空気副流路43へ供給される。そして、流路セパレータ41の貫通穴42を通過して空気主流路45へ導入される。このとき、各貫通穴42の空気流量は実質的に等しいので、空気極20へ供給される空気中の酸素濃度は空気極20の全面において等しくなる。
その結果、燃料電池1を運転しているときの空気極20における湿度分布は図5(B)に示すものとなり、燃料電池1はその特性(出力)を最大限に発揮できることとなる。
【0020】
以上の説明では、空気極の改良としてこの発明を説明してきたが、水素極(デッドエンドタイプを除く)においても適用可能である。
即ち、この発明は次のように規定することができる。
燃料電池の電極極において、反応ガスを流通させるスペースが流路セパレータにより、燃料電池本体側の主流路と燃料電池本体の反対側の副流路とに分離され、
前記流路セパレータにはその全面に分配して複数の貫通穴が形成され、
前記副流路へ供給された空気が前記各貫通穴を均一な流量で通過して前記主流路へ導入されるように、前記主・副流路における貫通穴間の区間流路抵抗が前記貫通穴自体の流路抵抗より充分小さい、ことを特徴とする、燃料電池。
【0021】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1はこの発明の燃料電池の原理を説明する模式図である。
【図2】図2は前記貫通穴群の形成列数n=4のときのR/Rpと分割流量及び分割流量誤差との関係(A,B)、及びn=10の場合のR/Rpと分割流量及び分割流量誤差との関係(C,D)を示す。
【図3】図3は最大流量誤差とR/Rpとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は流路分割数(=n)とR/Rpとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は実施例の燃料電池の基本構成を示す断面図である。
【図6】図6は実施例で用いる流路セパレータ41を示す。
【図7】図7は実施例の燃料電池の空気流路のシミュレーション結果を示す。
【図8】図8は実施例の燃料電池をスタックを示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 … 燃料電池
3 … 燃料電池本体(MEA)
5 … 電解質膜
10 … 水素極
20 … 空気極
30 … アノードセパレータ
40 … カソードセパレータ
41 … 流路セパレータ
42 … 貫通穴
43 … 空気副流路
45 … 空気主流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極の表面に沿って空気を流通させて供給する空気流路が形成された燃料電池であって、
前記空気流路は、前記空気を通す複数の貫通穴が形成された流路セパレータによって前記空気極側の主流路と前記空気極の反対側の副流路とに分離されており、前記空気極の表面に均一に空気が供給されるように、前記主・副流路における貫通穴間の区間流路抵抗が前記貫通穴自体の流路抵抗より充分小さい、ことを特徴とする、燃料電池。
【請求項2】
前記貫通穴は前記流路セパレータにおいて前記空気流れ方向に一定の間隔をとって空気流れ方向に直交する一列に並んだ貫通穴群がn列形成され、前記主・副流路の前記各貫通穴間の区間流路抵抗Rと前記貫通穴の流路抵抗Rpが前記貫通穴群の形成列数nに対してR/Rp≦40.248n-2.8256の関係を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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