説明

燃料電池

【課題】出力特性が改善された燃料電池を提供する。
【解決手段】カソード2は、電解質膜4の一方の面と対向するカソード触媒層5と、カソードガス拡散層7と、カソード触媒層5及びカソードガス拡散層7の間に配置されたカソード疎水性多孔質層6と、カソードガス拡散層7におけるカソード疎水性多孔質層6と対向する面の反対側に配置された水蒸気透過抑制層8とを含み、カソードガス拡散層7の透湿度は、カソード疎水性多孔質層6及び水蒸気透過抑制層8の透湿度よりも大きく、アノード3は、電解質膜4の他方の面と対向するアノード触媒層9と、アノードガス拡散層11と、アノード触媒層9及びアノードガス拡散層11の間に配置されたアノード疎水性多孔質層10とを含み、アノード疎水性多孔質層10は、アノード触媒層9と対向する面10aの透気抵抗度が、アノードガス拡散層11と対向する面10bの透気抵抗度に比して大きい燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するもので、特に小型の液体燃料直接供給型燃料電池に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代わって、小型の燃料電池が注目を集めている。特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は、水素ガスを使用する燃料電池に比べ、水素ガスの取り扱いの困難さや、有機燃料を改質して水素を作り出す装置等が必要なく、小型化に優れている。
【0003】
DMFCでは、アノード(例えば燃料極)においてメタノールが酸化分解され、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成する。一方、カソード(例えば空気極)では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトン、および燃料極から外部回路を通じて供給される電子によって水が生成する。また、この外部回路を通る電子によって、電力が供給されることになる。
【0004】
特許文献1には、水素やメタノールなどの還元性ガスまたは空気、酸素等の酸化性ガスを電極触媒層に導入するための拡散電極として、撥水性材料としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子と、電子伝導性材料としてのカーボンブラックとを含むものを使用することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2は、触媒層に燃料もしくは酸素を導入する拡散層として、導電性カーボンと疎水性高分子とを含むものを使用することを開示している。
【0006】
さらに、特許文献3は、触媒層とガス拡散層との界面に、少なくとも電子伝導性物質、撥水性樹脂及び造孔剤の混合物からなる微多孔層を形成することにより、ガス流路におけるMEAの面方向の拡散性を改善することを開示している。
【0007】
一方、特許文献4には、ガス拡散層としてカーボンペーパーもしくはカーボンクロスを使用することが記載されている。
【特許文献1】特開2004−214173号公報
【特許文献2】特開2005−100748号公報
【特許文献3】特開2006−120508号公報
【特許文献4】特開2007−317391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、出力特性が改善された燃料電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る燃料電池は、カソードと、アノードと、前記カソード及び前記アノードの間に配置された電解質膜とを具備する燃料電池であって、
前記カソードは、前記電解質膜の一方の面と対向するカソード触媒層と、カソードガス拡散層と、前記カソード触媒層及び前記カソードガス拡散層の間に配置されたカソード疎水性多孔質層と、前記カソードガス拡散層における前記カソード疎水性多孔質層と対向する面の反対側に配置された水蒸気透過抑制層とを含み、
前記カソードガス拡散層の透湿度は、前記カソード疎水性多孔質層及び前記水蒸気透過抑制層の透湿度よりも大きく、
前記アノードは、前記電解質膜の他方の面と対向するアノード触媒層と、アノードガス拡散層と、前記アノード触媒層及び前記アノードガス拡散層の間に配置されたアノード疎水性多孔質層とを含み、
前記アノード疎水性多孔質層は、前記アノード触媒層と対向する面の透気抵抗度が、前記アノードガス拡散層と対向する面の透気抵抗度に比して大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、出力特性が改善された燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る燃料電池を図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る燃料電池に用いられる膜電極接合体の断面図である。図1に示すように、膜電極接合体1は、カソード(空気極)2と、アノード(燃料極)3と、カソード2及びアノード3の間に配置されたプロトン伝導性電解質膜4とを備える。カソード2は、電解質膜4の一方の面と対向し、積層されたカソード触媒層5と、カソード触媒層5の電解質膜4と対向する面と反対側の面に積層されたカソード疎水性多孔質層6と、カソード疎水性多孔質層6のカソード触媒層5と対向する面と反対側の面に積層されたカソードガス拡散層7と、カソードガス拡散層7のカソード疎水性多孔質層6と対向する面と反対側の面に積層された水蒸気透過抑制層8とを含む。カソードガス拡散層7の透湿度は、カソード疎水性多孔質層6及び水蒸気透過抑制層8の透湿度よりも大きい。
【0013】
一方、アノード3は、電解質膜4の反対側の面と対向し、積層されたアノード触媒層9と、アノード触媒層9の電解質膜4と対向する面と反対側の面に積層されたアノード疎水性多孔質層10と、アノード疎水性多孔質層10のアノード触媒層9と対向する面と反対側の面に積層されたアノードガス拡散層11とを含む。アノード疎水性多孔質層10は、アノード触媒層9と対向する面10aの透気抵抗度が、アノードガス拡散層11と対向する面10bの透気抵抗度に比して大きい。
【0014】
上述した図1に示す膜電極接合体1では、カソード疎水性多孔質層6の透湿度がカソードガス拡散層7の透湿度に比して小さいため、発電によりカソード触媒層5に生成した水は、カソード疎水性多孔質層6の透過を抑制される。その結果、カソード触媒層5とカソード疎水性多孔質層6との間に水が保持され、アノード3への水の透過を早くすることができる。
【0015】
さらに、水蒸気透過抑制層8の透湿度がカソードガス拡散層7の透湿度に比して小さいため、水蒸気透過抑制層8は、カソード疎水性多孔質層6から拡散した生成水の拡散を抑制し、水蒸気透過抑制層8からカソードガス拡散層7までの水分子濃度を安定にすることができる。その結果、カソード疎水性多孔質層6とカソードガス拡散層7との間の水分子濃度勾配が小さくなり、カソード疎水性多孔質層6の生成水の透過をより抑制することができる。
【0016】
以上のことにより、カソード2からアノード3への水の供給が安定して、かつ速やかになされる。なお、カソードガス拡散層7の透湿度がカソード疎水性多孔質層6または水蒸気透過抑制層8もしくは両者の透湿度に比して小さい場合、カソード触媒層5から水蒸気透過抑制層8までに水による目詰まりが起こり、空気の拡散が阻害される。
【0017】
また、アノード触媒層9とアノードガス拡散層11との間にアノード疎水性多孔質層10を配置し、アノード疎水性多孔質層10において、アノード触媒層9と対向する面10aの透気抵抗度を、アノードガス拡散層11と対向する面10bの透気抵抗度に比して大きくすることによって、電解質膜4を透過してアノード触媒層9に速やかに供給された生成水が、アノードガス拡散層11まで不要に透過することを阻止し、アノード疎水性多孔質層10とアノード触媒層9の間に水を貯めることができる。これにより、アノードガス拡散層11の水による目詰まりを抑制することができる。さらに、アノード疎水性多孔質層10のアノードガス拡散層11と対向する面10bからは、燃料が速やかに導入されるため、アノード触媒層9へ円滑に燃料を供給することができる。その結果、アノード疎水性多孔質層10とアノード触媒層9の間で水と燃料が混合されるので、燃料効率が良化する。
【0018】
以上説明した通りに、水による目詰まりが防止され、カソードへの酸化剤供給と、アノードへの水供給並びに燃料供給とが同時に改善されるため、燃料電池の最大出力を向上することができる。
【0019】
前述した図1に示す膜電極接合体1において、水蒸気透過抑制層8の透湿度を、カソード疎水性多孔質層6の透湿度の値以上にすることが望ましい。これにより、カソード2からアノード3への水の拡散をさらに促すことができるため、最大出力をさらに向上することができる。
【0020】
また、カソード疎水性多孔質層6の透湿度をA、カソードガス拡散層7の透湿度をBとした際、A:B=1:2〜1:3であることが望ましい。A:Bが1:2よりも小さいと、生成水に対する拡散抑制の効果が得られ難い。一方、A:Bが1:3を超えていると、カソード触媒層から水蒸気透過抑制層までの水分子濃度が大きくなり、空気の拡散が阻害される恐れがある。
【0021】
膜電極接合体1を構成する各部材について説明する。
【0022】
1)カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10
カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10は、超微多孔質構造を有することが望ましく、具体的には、孔径が50nm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0023】
カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂のような撥水剤を含有することが望ましい。
【0024】
カソード疎水性多孔質層6の透湿度は、30000〜70000g/m2・24hr・atm(30〜70kg/m2・24hr・atm)の範囲内にすることが望ましい。透湿度がこの範囲内にあるものは、気体の燃料の透過が可能で、かつ十分な疎水性を有する。透湿度のより好ましい範囲は、45000〜65000g/m2・24hr・atm(45〜65kg/m2・24hr・atm)である。
【0025】
一方、アノード疎水性多孔質層10の透気抵抗度は、アノード触媒層9と対向する面10aの透気抵抗度がアノードガス拡散層11と対向する(接する)面10bの透気抵抗度よりも大きい。
【0026】
このような構成によると、燃料電池の発電反応によりカソード2に生成した水が電解質膜を通してアノード触媒層9に速やかに供給されるだけでなく、アノード触媒層9と対向する面10aが水の透過を阻止することができるため、アノード疎水性多孔質層10とアノード触媒層9との間に水を溜めることができる。その結果、アノードガス拡散層11の水による目詰まりを低減することができるため、燃料室およびアノードガス拡散層11からの燃料供給が阻害されない。
【0027】
また、アノード疎水性多孔質層10とアノード触媒層9で保持できる水の量が増加することにより、燃料が純粋なもの(たとえば、純メタノール)を使用した場合には、アノード疎水性多孔質層10とアノード触媒層9との間で純粋な燃料が効率的に混合、希釈され、燃料効率が良化するため、出力が向上すると共に、出力も安定化する。
【0028】
さらに、アノードガス拡散層11と対向する面10bでは燃料の気体(例えばメタノール)が速やかに拡散するため、燃料供給が促進される。
【0029】
これらの結果、高出力な燃料電池が得られる。
【0030】
アノード疎水性多孔質層10は、アノードガス拡散層11と対向する面10bの透気抵抗度を20ガーレ秒未満とし、かつアノード触媒層9と対向する面10aの透気抵抗度を20〜500ガーレ秒の範囲内でアノードガス拡散層11と対向する面10bよりも大きい値にすることが望ましい。アノードガス拡散層11と対向する面10bの透気抵抗度を20ガーレ秒未満にすることによって、燃料の気体の拡散性を十分なものにすることができる。また、アノード触媒層9と対向する面10aの透気抵抗度を20〜500ガーレ秒の範囲内でアノードガス拡散層11と対向する面10bよりも大きい値にすることによって、アノード疎水性多孔質層とアノード触媒層との間に十分な量の水を溜めることができる。これらの結果、出力をさらに改善することができる。アノード触媒層9と対向する面10aの透気抵抗度のより好ましい範囲は、30ガーレ秒以上、300ガーレ秒以下である。アノードガス拡散層11に対向する面の透気抵抗度のより好ましい範囲は、10ガーレ秒以下である。
【0031】
カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10は、カソード触媒層5とカソードガス拡散層7間の電気抵抗を小さくするため、導電性物質を含有することが望ましい。導電性物質としては、例えば、炭素材料を挙げることができる。炭素材料には、ケッチェンブラック、プリンテックス、カーボンナノチューブなどが挙げられ、粒子(例えば、球状粒子、扁平状粒子)もしくは繊維の形態を有する炭素材料であれば特に限定されるものではない。特に、炭素材料の微粒子もしくは炭素材料のナノ繊維が好適である。
【0032】
カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10の厚さは、300μm〜360μmの範囲にあることが望ましい。
【0033】
カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10は、例えば、以下の(a)〜(c)に説明する方法で作製される。
【0034】
(a)基材としてのカーボンペーパーに、炭素材料と撥水剤と溶媒とを含むスラリーをスプレーコート法、キャスト法もしくはディップ法等にて塗布し、乾燥もしくは焼成することにより、カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10が得られる。また、カーボンペーパーの片面のみにスラリーを塗布し、乾燥もしくは焼成することによっても、カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10が得られる。なお、カーボンペーパーには、撥水処理が施されていても、いなくても良い。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。
【0035】
(b)カーボンペーパー以外の基材に上記スラリーをスプレーコート法、キャスト法もしくはディップ法等にて塗布し、乾燥もしくは焼成した後、得られた層を基材から剥離することによっても、カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10を作製することが可能である。
【0036】
上記(a)及び(b)の方法に示す通りに、カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10には、カーボンペーパーを含むもの、あるいは含まないものを使用することができる。
【0037】
(c)スラリー中に撥水剤を添加する代わりに、撥水剤を含まないスラリーを用いて多孔質層を作製した後、得られた多孔質層を撥水剤の溶液に浸漬処理しても良い。
【0038】
カソード疎水性多孔質層6の透湿度及びアノード疎水性多孔質層10の透気抵抗度は、例えば、下記の(1)〜(5)の方法により調整することができる。
【0039】
(1)カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10が導電性物質として炭素材料を含む場合には、炭素材料のかさ密度や形状を選択することにより、透湿度及び透気抵抗度を目的とする範囲内に設定することができる。
【0040】
(2)カソード疎水性多孔質層6及びアノード疎水性多孔質層10が炭素材料及び撥水剤を含む場合、炭素材料と撥水剤との比率を調整することにより、透湿度及び透気抵抗度を目的とする範囲内に設定することができる。炭素材料の量を増加させると、透湿度を増加させることができ、また、透気抵抗度を低下させることができる。撥水剤の量を増加させると、透湿度を低くすることができ、また、透気抵抗度を高くすることができる。
【0041】
(3)基材に塗布するスラリー量を調整することによって、透湿度及び透気抵抗度を目的とする範囲内に設定することができる。塗布量を増やすと、透湿度を低くすることができ、また、透気抵抗度を高くすることができる。一方、塗布量を減らすと、透湿度を増加させることができ、また、透気抵抗度を低くすることができる。
【0042】
(4)上記(a)〜(c)の方法における基材にスラリーを塗布する工程でノズルを使用する場合には、ノズル条件、例えばノズル種類、吐出圧、吐出量、吐出距離、吐出時間等を変更すると、スラリーの塗布により形成された膜の密度や膜の表面状態が変わるため、透湿度及び透気抵抗度を目的とする範囲内に設定することができる。一般に、膜の表面の平滑性を高めることにより、透湿度については低くすることができ、また、透気抵抗度については増加させることができる。表面粗さを大きくすることにより、透湿度を増加させることができ、また、透気抵抗度を低下させることができる。また、塗布膜の密度を低くすることにより、透湿度を増加させることができ、透気抵抗度については低下させることができる。
【0043】
(5)上記(a)〜(c)の方法により得られた膜にプレスを施すと、物理的に膜の密度が高くなるため、膜の表面が滑らかになり、透湿度を低くすることができ、また、透気抵抗度を高くすることができる。
【0044】
2)カソードガス拡散層7
カソードガス拡散層7は、カソード触媒層5に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層5の集電体も兼ねている。カソードガス拡散層7には、例えば、撥水処理の施されたカーボンペーパーもしくはカーボンクロスを使用することができる。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。カソードガス拡散層7は、60〜90重量%の導電性物質及び10〜40重量%のフッ素系樹脂を含むことが望ましい。導電性物質としては、例えば、カーボンペーパー及びカーボンクロスの主原料である炭素材料を挙げることができる。
【0045】
3)アノードガス拡散層10
アノードガス拡散層10は、アノード触媒層9に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層9の集電体も兼ねている。アノードガス拡散層10は、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロスから形成される。カーボンペーパー及びカーボンクロスには、撥水性を付与しても良いし、撥水性を付与しなくてもよい。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。
【0046】
4)アノード触媒層9、カソード触媒層5及び電解質膜4
アノード触媒層9およびカソード触媒層5に含有される触媒としては、例えば、白金族元素である、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の単体金属、白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。具体的には、燃料極側の触媒として、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなど、空気極側の触媒として、白金やPt−Niなどを用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒、あるいは無担持触媒を使用してもよい。
【0047】
また、アノード触媒層9、カソード触媒層5及び電解質膜4に含まれるプロトン伝導性材料としては、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂(デュポン社製の商品名ナフィオン(登録商標)や旭硝子社製の商品名フレミオン(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸重合体等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、無機物(例えば、タングステン酸、リンタングステン酸、硝酸リチウムなど)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
5)水蒸気透過抑制層8
水蒸気透過抑制層8はカソード触媒層5で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制すると共に、カソード触媒層5への空気の均一拡散を促進するものである。水蒸気透過抑制層8としては、ポリエチレン系高分子、ポリオレフィン系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリプロピレン系高分子、ポリエステル系高分子、フッ素系高分子またはポリイミド系高分子の多孔質膜等を挙げることができる。具体例としては、日東電工製の商品名サンマップ、デュポン製の商品名PTFEなどの水蒸気透過抑制層を挙げることができる。
【0049】
アノードガス拡散層10及びカソードガス拡散層7には、必要に応じて導電層が積層される。これら導電層としては、例えば、金、ニッケルなどの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材などが用いられる。電解質膜4と燃料分配機構20およびカバープレート23との間には、それぞれゴム製のOリング24が介在されており、これらによって膜電極接合体(MEA)1からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。
【0050】
図1に示す膜電極接合体を備えた燃料電池を図2〜図3を参照して説明する。
【0051】
図2に示す燃料電池は、図1に示す膜電極接合体1と、この膜電極接合体1に燃料を供給する燃料分配機構20と、液体燃料を収容する燃料収容部21と、これら燃料分配機構20と燃料収容部21とを接続する流路22とから主として構成されている。
【0052】
図示を省略したが、カバープレート23は酸化剤である空気を取入れるための開口部を有している。カバープレート23と水蒸気透過抑制層8との間には、必要に応じて表面層が配置される。表面層は空気の取入れ量を調整するものであり、空気の取入れ量に応じて個数や大きさ等が調整された複数の空気導入口を有している。このようなカバープレート23を備えることにより、酸化剤を供給するためのブロワを用いることなく、酸化剤をカソード2に自然供給することができる。なお、酸化剤は、空気に限定されるものではなく、O2を含むガスを使用可能である。
【0053】
燃料収容部21には、膜電極接合体1に対応した液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部21には膜電極接合体1に応じた液体燃料が収容される。
【0054】
液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、複数の燃料排出口25を有する燃料分配機構20の特徴がより顕在化するのは燃料濃度が濃い場合である。このため、燃料電池は、濃度が80%以上のメタノール水溶液もしくは純メタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。
【0055】
膜電極接合体1のアノード(燃料極)3側には、燃料分配機構20が配置されている。燃料分配機構20は配管のような液体燃料の流路22を介して燃料収容部21と接続されている。燃料分配機構20には燃料収容部21から流路22を介して液体燃料が導入される。流路22は燃料分配機構20や燃料収容部21と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構20と燃料収容部21とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。燃料分配機構20は流路22を介して燃料収容部21と接続されていればよい。
【0056】
液体燃料を燃料収容部21から燃料分配機構20まで送る機構は特に限定されるものではない。例えば、使用時の設置場所が固定される場合には、重力を利用して液体燃料を燃料収容部21から燃料分配機構20まで落下させて送液することができる。また、多孔体等を充填した流路22を用いることによって、毛細管現象で燃料収容部21から燃料分配機構20まで送液することができる。さらに、燃料収容部21から燃料分配機構20への送液は、図2に示すように、ポンプ26で実施してもよい。あるいは、燃料分配機構20から膜電極接合体1への燃料供給が行われる構成であればポンプ26に代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0057】
燃料分配機構20は、図3に示すように、液体燃料が流路22を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口27と、液体燃料やその気化成分を排出する複数個の燃料排出口25とを有する燃料分配板28を備えている。燃料分配板28の内部には図3に示すように、燃料注入口27から導かれた液体燃料の通路となる空隙部29が設けられている。複数の燃料排出口25は燃料通路として機能する空隙部29にそれぞれ直接接続されている。
【0058】
燃料注入口27から燃料分配機構20に導入された液体燃料は空隙部29に入り、この燃料通路として機能する空隙部29を介して複数の燃料排出口25にそれぞれ導かれる。複数の燃料排出口25には、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示せず)を配置してもよい。これによって、膜電極接合体1のアノード3には液体燃料の気化成分が供給される。なお、気液分離体は燃料分配機構20とアノード3との間に気液分離膜等として設置してもよい。液体燃料の気化成分は複数の燃料排出口25からアノード3の複数個所に向けて排出される。
【0059】
燃料排出口25は膜電極接合体1の全体に燃料を供給することが可能なように、燃料分配板28のアノード3と対向する面に複数設けられている。燃料排出口25の個数は2個以上であればよいが、膜電極接合体1の面内における燃料供給量を均一化する上で、0.1〜10個/cm2の燃料排出口25が存在するように形成することが好ましい。燃料排出口25の個数が0.1個/cm2未満であると、膜電極接合体1に対する燃料供給量を十分に均一化することができない。燃料排出口25の個数を10個/cm2を超えて形成しても、それ以上の効果が得られない。
【0060】
上述した燃料分配機構20に導入された液体燃料は空隙部29を介して複数の燃料排出口25に導かれる。燃料分配機構20の空隙部29はバッファとして機能するため、複数の燃料排出口25からそれぞれ規定濃度の燃料が排出される。そして、複数の燃料排出口25は膜電極接合体1の全面に燃料が供給されるように配置されているため、膜電極接合体1に対する燃料供給量を均一化することができる。
【0061】
燃料分配機構20から均一に放出された燃料は、アノードガス拡散層11及びアノード疎水性多孔質層10を拡散してアノード触媒層9に供給される。燃料としてメタノール燃料を使用する場合には、次の式(A)に示すメタノールの内部改質反応を生じさせる。
【0062】
CHOH+HO → CO+6H+6e …式(A)
内部改質反応で生成されたプロトン(H)は、電解質膜4を伝導し、カソード触媒層5に到達する。カバープレート23の開口部から水蒸気透過抑制層8を通してカソードガス拡散層7に供給される気体燃料(たとえば空気)は、カソードガス拡散層7及びカソード疎水性多孔質層6を拡散して、カソード触媒に供給される。カソード触媒に供給された空気は、次の式(B)に示す反応を生じる。この反応によって、水が生成され、発電反応が生じる。
【0063】
(3/2)O+6H+6e → 3HO …式(B)
<透湿度の測定方法>
カソード疎水性多孔質層6、カソードガス拡散層7及び水蒸気透過抑制層8の透湿度の測定方法を説明する。
【0064】
まず、膜電極接合体(MEA)1より各層を評価するためのサンプルを一辺が5mmの正方形で切り出す。具体的には、カソード疎水性多孔質層の測定用サンプルはMEAの中央の位置(例えば、矩形状のMEAの場合には、その縦横中央の位置)、カソードガス拡散層の測定用サンプルはカソード疎水性多孔質層の測定用サンプルの一辺に隣接した位置、及び水蒸気透過抑制層の測定用サンプルはカソード疎水性多孔質層の前試料のカソードガス拡散層の測定用サンプルを切り出した辺と相対する一辺に隣接した位置とする。
【0065】
得られた各サンプルについて、後工程での研磨を容易とするために、樹脂で固定する。具体的には、エポキシ樹脂の基材(BUEHLER社製 EPO-MIX EPOXIDE)にサンプル(MEA)を浸漬する。次いで、室温で6〜8時間放置することにより、エポキシ樹脂を硬化させる。これにより、サンプルの固定が終了する。
【0066】
固定処理の済んだサンプルを研磨機にて研磨し、それぞれのサンプルで評価面(各層)を出す。なお、研磨条件は、紙やすりとして2,400番を使用すると共に、ディスク回転速度を150〜300RPMに設定するものである。
【0067】
次いで、サンプルの調整を行う。まず、直径がφ20 mm〜35 mmのAlテープの中心に直径がφ2 mmの孔を開ける。評価面を出したサンプルの両面にAlテープを貼り付ける。この際、サンプルの中心がAlテープの中心の孔と同じ位置になるように位置調整をする。
【0068】
上記位置調整の済んだサンプルについて、JIS K7126-2(制定年月日が2006/08/20)の規格に従い、GTRテック株式会社製の装置名がGTR-10XFTBの装置にて透湿度を測定する。
【0069】
なお、測定は、サンプルの一方に高湿潤の窒素ガスを流し、他方に乾燥したヘリウムガスを流し、流れ出てきたヘリウムガス中の水分量を確認することにより透湿度が測定される。そこで、測定時の窒素ガスは温度40℃、湿度90RH%、流量200ccmの条件とし、ヘリウムガスは温度40℃、湿度0RH%、流量20ccmの条件とする。
【0070】
<透気抵抗度の測定方法>
アノード疎水性多孔質層11の透気抵抗度について説明する。透気抵抗度は、王研式透気度試験機により測定される。透気抵抗度の単位であるガーレ秒は、ガーレ法(JIS P8117)に準ずるもので、圧力差0.0132 Kgf/cm2の下で100 cm3の空気が64.5 cm2広さの紙(サンプル)を通過する時間(秒)を意味する。
【0071】
王研式透気度試験機の規格は、J. TAPPI NO5B(紙パルプ技術協会規格)であり、型式はEGO-2Sである。また、測定端の直径はφ30mmでノズル型名はG,100、またはφ10mmでノズル型名は1/10G,100である。
【0072】
以下に測定原理を図4〜図6を参照して説明する。
【0073】
図4は、王研式(背圧式)透気度測定機の模式図を示す。測定端101には、測定サンプル102(例えばアノード多孔質層)が配置されている。測定端101には、細管103を介して水柱圧力計104が接続されている。水柱圧力計104は、細管103に接続された側圧室(B室)105と、ノズルと呼ばれる細管106を介して接続された定圧室(A室)107とを有する。水柱圧力計104の定圧室(A室)107は、細管108を介して外部圧縮源109に接続されている。細管108には、圧力ゲージ110が設けられている。
【0074】
測定サンプル102には、外部圧縮源109から配管108、定圧室(A室)107、細管106、側圧室(B室)105、及び細管103を通して供給された空気圧が加わる。外部圧縮源109から供給された時点での空気圧は、圧力ゲージ110により測定される。空気圧が加わるのと反対側の面に加わる圧力は、大気圧に保たれる。
【0075】
測定サンプル102を透過する空気圧は、水柱圧力計104により測定される。測定サンプル102のガーレの透気度TGは、以下に説明する原理に基づいて得られる。
【0076】
図5に、図4の測定機の流路に関する模式図を示す。図5では、図4で説明したのと同様な部材については同符号を付しているが、側圧室(B室)105の右側に接続されている細管111は、測定サンプル102を見立てたものである。
【0077】
図5に関して、両細管内の流れが層流の場合は、流量と差圧の関係はハーゲン=ポアゼイユの法則に従う。また、流速が小さい場合は、流路系に連続の法則が適用できる。
【0078】
C=Q=π/8μ・(PC−P)・R4/L …(1)
Q=π/8μ・P・r4/l …(2)
Cは定圧室(A室)107の圧力で、500mmH2Oの定圧に保たれており、Pは側圧室(B室)105の圧力で、QCはノズル106での流量(cm3/sec)で、Qは細管111での流量(cm3/sec)で、Lはノズル106の長さ(mm)、lは細管111の長さ(mm)で、Rはノズル106の内径(mm)で、rは細管111の内径(mm)で、μは空気の粘性係数である。
【0079】
図6は、ガーレ式測定機の流路についての模式図で、定圧PGに保たれるG室112の空気が細管113を通じて大気中に放出されることを示している。また、細管113は、測定サンプル102を見立てたものである。図6のG室112及び細管113は、図4で説明したのと同様な法則に従う。
【0080】
G=π/8μ・PG・r4/l …(3)
G=100/QG…(4)
G=4W/πD2=0.0132(kgf/cm2)…(5)
Gは、JIS P8117により規定される測定部の内筒(W=567g,D=74mm)から算出される。QGは細管113での流量(cm3/sec)で、TGは透気度(sec)である。
【0081】
上記の式(1),(2),(3),(4)よりTGとPの関係は次式(6)で与えられる。測定機の定数Kが決定されれば、図4の水柱圧力計に直接ガーレの透気度TGを見積もることができる。
【0082】
G=800μ/πPG・L/R4・P/(PC−P)
=K・P/(PC−P)…(6)
ここで、Kは測定機の定数(K=800μ/πPG・L/R4)であり、細管106の長さL(mm)及び内径R(mm)は設計上定められる。
【0083】
本発明に適用可能な燃料電池は、その形態から、液体燃料と酸化剤の供給をポンプなどの補器を用いて行うアクティブ型燃料電池、液体燃料の気化成分をアノードに供給するパッシブ型(内部気化型)燃料電池、前述した図2〜図3に示すセミパッシブ型の燃料電池などが挙げられる。アクティブ型燃料電池では、メタノール水溶液からなる燃料について、その量が一定になるようにポンプで調整しながらMEAのアノードへ供給する一方、カソードに対しても空気をポンプで供給する方式が採られる。パッシブ型燃料電池では、MEAのアノードに気化したメタノールを自然供給で送り、一方カソードに対しても外部の空気を自然供給することで、ポンプなどの余計な機器を装備しない方式が採られる。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料収容部から膜電極接合体に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部に戻されることはない。セミパッシブ型の燃料電池では、燃料を循環させないことから、アクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、セミパッシブ型の燃料電池は、燃料の供給にポンプを使用しており、内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。なお、このセミパッシブ型の燃料電池では、燃料収容部から膜電極接合体への燃料供給が行われる構成であればポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられる。
【0084】
[実施例]
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0085】
(実施例1)
<燃料極疎水性多孔質層の作製>
カーボンペーパーの一方の面(ガス拡散層(GDL)側)に、グラファイト粒子(VALCAN)とPTFE溶液とを混合してスラリーを作製してスプレーコート法により塗布し、またもう一方の面(触媒層側)に、グラファイト粒子(VALCAN)とPTFE溶液とを混合してスラリーを作製してスプレーコート法により塗布、常温で自然乾燥した後に焼成し、撥水性を持たせた超微多孔層(撥水MPL)を形成した。このときの撥水MPLの各面(GDL側及び触媒層側)の透気抵抗度を王研式透気抵抗度試験機で測定した。その結果を表1に示す。なお、前述の方法により測定された透気抵抗度が表1に示した値となるよう、気孔率、孔径、孔形状、層厚、材料組成、積層構造等を適宜変更した。
【0086】
<空気極疎水性多孔質層の作製>
炭素材料としてのグラファイト粒子(VALCAN)とPTFE溶液とを混合してスラリーを作製した。得られたスラリーをカーボンペーパーの両面にスプレーコート法により塗布、常温で自然乾燥した後に焼成し、疎水性を持たせた超微多孔質層(撥水MPL)を空気極疎水性多孔質層として形成した。なお、前述の方法により測定された透湿度が表1に示した値となるよう、気孔率、孔径、孔形状、層厚、材料組成、積層構造等を適宜変更した。
【0087】
<燃料極ガス拡散層の作製>
燃料極ガス拡散層として、気孔率が75%のカーボンペーパー(東レ(株)製TGP-090)を用意した。
【0088】
<燃料極触媒層の作製>
白金ルテニウム合金微粒子を担持したカーボン粒子とパーフルオロスルホン酸重合体溶液(デュポン社製のナフィオン溶液DE2020)と溶媒をホモジナイザで混合して約15%固形分のスラリーを作製し、これを基材の一方の面にダイコーターを用いて塗布した。そしてこれを常温乾燥して、基材から剥離し、燃料極触媒層を形成した。
【0089】
<空気極ガス拡散層の作製>
空気極ガス拡散層としてカーボンペーパーを用意した。なお、前述の方法により測定された透湿度が表1に示した値となるよう、気孔率、孔径、孔形状、層厚、材料組成、積層構造等を適宜変更した。
【0090】
<空気極触媒層の作製>
白金微粒子を担持したカーボン粒子とパーフルオロスルホン酸重合体溶液(デュポン社製のナフィオン溶液DE2020)と溶媒とをホモジナイザで混合して約15%固形分のスラリーを作製した。得られたスラリーを、基材の一方の面にダイコーターを用いて塗布した。そしてこれを常温乾燥して、基材から剥離し、空気極触媒層を形成した。
【0091】
<膜電極接合体(MEA)の作製>
電解質膜として、パーフルオロスルホン酸重合体を含む固体電解質膜ナフィオン112(デュポン社製)を用い、最初にこの電解質膜と空気極触媒層を重ね合わせ、さらに空気極触媒層に空気極疎水性超微多孔質層を重ね、さらに空気極ガス拡散層を重ね合わせ、温度が135℃、圧力が40kgf/cm2の条件でプレスした。続いて、電解質膜の空気極を重ね合わせたのと反対側の面に燃料極触媒層を重ね、さらに燃料極触媒層に透気抵抗度の大きい面が接するように燃料極疎水性超微多孔質層を重ね、これに燃料極ガス拡散層を重ね合わせ、温度が135℃、圧力が10kgf/cm2の条件でプレスし、膜電極接合体(MEA)を作製した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cm2とした。
【0092】
<燃料電池の組み立て>
続いて、この膜電極接合体を、空気および気化したメタノールを取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み、燃料極導電層および空気極導電層を形成した。
【0093】
上記の膜電極接合体(MEA)、燃料極導電層、空気極導電層が積層された積層体を樹脂製の2つのフレームで挟み込んだ。なお、膜電極接合体の空気極側と一方のフレームとの間、膜電極接合体の燃料極側と他方のフレームとの間には、それぞれゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0094】
また、燃料極側のフレームは、気液分離膜を介して、液体燃料収容室にネジ止めによって固定した。気液分離膜には、厚さ0.2mmのシリコーンシートを使用した。一方、空気極側のフレーム上には、前述の方法により測定された透湿度が表1に示した値となるよう、気孔率、孔径、孔形状、層厚、材料組成、積層構造等を適宜変更した高分子製多孔質板を配置し、水蒸気透過抑制層を形成した。この水蒸気透過抑制層上には、空気取り入れのための空気導入口(口径4mm、口数64個)が形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を配置してカバープレートを形成し、ネジ止めによって固定した。
【0095】
上記したように形成された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノールを10ml注入し、温度35℃、相対湿度55%の環境で、出力の最大値(最大出力)を電流値と電圧値から測定した。その結果を下記表1に示す。
【0096】
また、水蒸気透過抑制層、空気極ガス拡散層、疎水性多孔質層の透湿度を、前述の方法により測定し、その結果を下記表1に示す。
【0097】
(実施例2〜3)
燃料極の疎水性超微多孔質層の透気抵抗度を気孔率、孔径、孔形状、層厚、材料組成、積層構造等を適宜変更して表1に示す値に設定すると共に、空気極の疎水性超微多孔質層、ガス拡散層及び水蒸気透過抑制層の透湿度も同様に変更して表1に示す値に設定すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして燃料電池を作製し、最大出力の測定を行った。その結果を下記表1に示す。
【0098】
(比較例1)
燃料極に疎水性超微多孔質層を使用しないこと以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成の燃料電池を作製し、最大出力を実施例1で説明したのと同様な条件で測定し、その結果を下記表1に示す。
【0099】
(比較例2)
燃料極の疎水性超微多孔質層の透気抵抗度を気孔率、孔径、孔形状、層厚、材料組成、積層構造等を適宜変更して表1に示す値に設定し、透気抵抗度の大きい面をGDL側に配置すると共に、空気極の疎水性超微多孔質層の透湿度も同様に変更して表1に示す値に設定すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして燃料電池を作製し、最大出力の測定を行った。その結果を下記表1に示す。
【表1】

【0100】
表1から明らかなように、実施例1〜3の燃料電池は、比較例1、2の燃料電池に比して最大出力が大きい。実施例1〜3は、いずれも、空気極疎水性多孔質層の透湿度をA、空気極ガス拡散層の透湿度をBとした際、A:Bが1:2〜1:3の範囲内であり、かつ水蒸気透過抑制層の透湿度が疎水性多孔質層の透湿度の値に比して大きかった。
【0101】
上記実施の形態ではパッシブ型DMFCを例に説明を行ったが、パッシブ型に限らず反応によって生成した水を燃料極側で利用する構造のものであれば、何らその燃料電池の方式について限定されるものではない。
【0102】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。また、アクティブ型燃料電池及びセミパッシブ型の燃料電池においても、上記した説明と同様の作用効果が得られる。MEAへ供給される液体燃料の蒸気においても、全て液体燃料の蒸気を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本実施形態に係る燃料電池に用いる膜電極接合体の拡大断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池を示す内部透視断面図。
【図3】図2の燃料電池の燃料分配機構を示す斜視図。
【図4】王研式(背圧式)透気抵抗度測定機の模式図。
【図5】図4の測定機の流路に関する模式図。
【図6】ガーレ式測定機の流路についての模式図。
【符号の説明】
【0104】
1…膜電極接合体(MEA)、2…カソード(空気極)、3…アノード(燃料極)、4…電解質膜、5…空気極触媒層、6…空気極疎水性多孔質層、7…空気極ガス拡散層、8…水蒸気透過抑制層、9…燃料極触媒層、10…燃料極疎水性多孔質層、10a…燃料極疎水性多孔質層10における燃料極触媒層9と対向する面、10b…燃料極疎水性多孔質層10における燃料極ガス拡散層11と対向する面、11…燃料極ガス拡散層、20…燃料分配機構、21…燃料収容部、22…流路、23…カバープレート、24…Oリング、25…燃料排出口、26…ポンプ、27…燃料注入口、28…燃料分配板、29…空隙部、101…測定端、102…測定サンプル、103,108,111,113…細管、104…水柱圧力計、105…側圧室(B室)、106…ノズル、107…定圧室(A室)、109…外部圧縮源、110…圧力ゲージ、112…G室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、アノードと、前記カソード及び前記アノードの間に配置された電解質膜とを具備する燃料電池であって、
前記カソードは、前記電解質膜の一方の面と対向するカソード触媒層と、カソードガス拡散層と、前記カソード触媒層及び前記カソードガス拡散層の間に配置されたカソード疎水性多孔質層と、前記カソードガス拡散層における前記カソード疎水性多孔質層と対向する面の反対側に配置された水蒸気透過抑制層とを含み、
前記カソードガス拡散層の透湿度は、前記カソード疎水性多孔質層及び前記水蒸気透過抑制層の透湿度よりも大きく、
前記アノードは、前記電解質膜の他方の面と対向するアノード触媒層と、アノードガス拡散層と、前記アノード触媒層及び前記アノードガス拡散層の間に配置されたアノード疎水性多孔質層とを含み、
前記アノード疎水性多孔質層は、前記アノード触媒層と対向する面の透気抵抗度が、前記アノードガス拡散層と対向する面の透気抵抗度に比して大きいことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記水蒸気透過抑制層の透湿度が、前記カソード疎水性多孔質層の透湿度の値以上であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記カソード疎水性多孔質層の透湿度をA、前記カソードガス拡散層の透湿度をBとした際、A:B=1:2〜1:3であることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記カソード疎水性多孔質層及び前記アノード疎水性多孔質層は、導電性物質を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の燃料電池。
【請求項5】
前記水蒸気透過抑制層は、ポリエチレン系高分子、ポリオレフィン系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリプロピレン系高分子、ポリエステル系高分子、フッ素系高分子またはポリイミド系高分子の多孔質膜であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−86678(P2010−86678A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251708(P2008−251708)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】