説明

燃料電池

【課題】安定して高い出力を得ることが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 電解質膜をアノードとカソードとで挟持した膜電極接合体と、前記膜電極接合体のアノード側に配置されアノードに向けて燃料を供給する燃料供給機構と、複数の開口部が形成されるとともに前記膜電極接合体のカソード側に配置され前記燃料供給機構との間に前記膜電極接合体を保持するカバープレートと、を有する燃料電池本体と、複数の貫通孔が形成され、前記燃料電池本体のカソード側の少なくとも一部を覆うとともに前記カバープレートから離間した放熱体と、を備えたことを特徴とする燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体燃料を用いた燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電しないで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は燃料と空気とを供給するだけで発電することができ、燃料を補給することにより連続して長時間発電することが可能であるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
例えば、特許文献1によれば、高温域で作動する燃料電池において、燃料電池を収納する機器の筐体が高温になることを防止する目的で、燃料電池を覆う断熱体の外表面を伝熱体で覆う技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2によれば、酸化剤導入口を有するカバーの外面及び内面のうち少なくともいずれかに積層され且つ酸化剤導入口と対向する箇所に開口部を有する第1の断熱性部材を具備した燃料電池が開示されている。また、この特許文献2によれば、上記の第1の断熱性部材に加えて、カソード集電部及びアノード集電部に積層され且つガス透過孔を有する第2の断熱性部材を具備した燃料電池も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−202611号公報
【特許文献2】国際公開第2007/086432号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料電池として、例えば、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯用電子機器の電源として有望視されている。
【0007】
DMFCにおける液体燃料の供給方式としては、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式、また燃料収容部内の液体燃料を電池内部で気化させて燃料極に供給する内部気化型等のパッシブ方式が知られている。
【0008】
これらのうち、内部気化型等のパッシブ方式はDMFCの小型化に対して特に有利である。パッシブ型DMFCは、例えばアノード(燃料極)、カソード(空気極)、及び、電解質膜を有する膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を備えて構成されている。
【0009】
このような膜電極接合体のアノード側に燃料を供給するとともにカソード側に空気(特に酸素)を供給することにより、アノード側及びカソード側で発電反応が生ずる。特に、カソード側の反応においては、熱を生じる。また、アノードに供給された燃料のうち、未反応分が電解質膜を透過してカソード側に達する、いわゆるクロスオーバー現象が生じるが、そのクロスオーバーによってカソード側に達した燃料の少なくとも一部は、カソード側において空気と燃焼反応を生じ、その燃焼反応によっても熱を生じる。
【0010】
これら反応によって生じた熱は、外気に放熱することになるが、この放熱量が反応によって生じる発熱量に比べて少なければDMFCの温度は上昇し続け、放熱量が反応によって生じる発熱量に比べて多すぎればDMFCの温度は低下してしまう。
【0011】
ここで、DMFCの構成が一定であっても、外気の温度やDMFCに当たる風の強さ(風速)等の外部条件によって、DMFCから外気への放熱量は変動することが問題となる。仮に、外気の温度が高い場合や風速が小さい場合などの放熱が行われにくい条件において最適の放熱量が得られるように設計した場合には、外気の温度が低い場合や風速が大きい場合などの放熱が行われやすい条件においては放熱量が過大となる。その場合、放熱量に見合うだけの燃料をDMFCに供給することになるが、アノード側に大量の燃料が供給されるため、上記のクロスオーバーする燃料の量もまた多くなり、結果としてDMFCの出力は低下してしまう。
【0012】
逆に、放熱が行われやすい条件において最適の放熱量が得られるように設計した場合には、放熱が行われにくい条件においては放熱量が過少となり、DMFCへの燃料供給量は少なくなるよう制御される。このため、アノード側において反応を生じる量も減少し、結果としてDMFCの出力は低下することになる。
【0013】
この発明の目的は、安定して高い出力を得ることが可能な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の一態様によれば、
電解質膜をアノードとカソードとで挟持した膜電極接合体と、前記膜電極接合体のアノード側に配置されアノードに向けて燃料を供給する燃料供給機構と、複数の開口部が形成されるとともに前記膜電極接合体のカソード側に配置され前記燃料供給機構との間に前記膜電極接合体を保持するカバープレートと、を有する燃料電池本体と、
複数の貫通孔が形成され、前記燃料電池本体のカソード側の少なくとも一部を覆うとともに前記カバープレートから離間した放熱体と、
を備えたことを特徴とする燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、安定して高い出力を得ることが可能な燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明の一実施の形態における燃料電池のカソード側の外観を示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示した燃料電池本体を備えた燃料電池を第1方向Xに沿って切断した断面を概略的に示す図である。
【図3】図3は、他の実施形態における燃料電池本体を備えた燃料電池の概略断面図である。
【図4】図4は、性能評価を行った際の出力密度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の一実施の形態に係る燃料電池について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、この実施の形態に係る燃料電池(DMFC)本体0のカソード側の外観を示す平面図である。
【0019】
この燃料電池本体0は、略矩形平板状に形成されている。図1に示した平面図では、燃料電池本体0は、長方形状であり、第1方向Xに沿って延びた一対の長辺L1及び長辺L2と、第1方向Xに直交する第2方向Yに沿って延びた一対の短辺S1及び短辺S2と、を有している。
【0020】
燃料電池本体0は、起電部を構成する膜電極接合体(MEA)2を備えている。この膜電極接合体2は、略矩形状に形成されている。この膜電極接合体2は、その詳細な構造については後に説明するが、ここでは複数、たとえば4つの単セルCL1乃至CL4を備えている。単セルCL1乃至CL4のそれぞれは、同一平面上において、第1方向Xに沿って延在した略長方形状であり、第2方向Yに間隔をおいて並んで配置されている。
【0021】
膜電極接合体2のカソード側に位置する燃料電池本体0の表面には、カバープレート21が配置されている。カバープレート21は、外観が略矩形状であり、例えばステンレス鋼(SUS)によって形成されている。このカバープレート21には、主として酸化剤である空気、特に酸素の取り込みを可能とする複数の開口部21Hが形成されている。
【0022】
なお、膜電極接合体2のアノード側には、膜電極接合体2に燃料を供給する燃料供給機構(図示しない)が配置されている。カバープレート21は、燃料供給機構との間に膜電極接合体2を保持した状態で、燃料電池1の各長辺L1及びL2、及び、各短辺S1及びS2において燃料供給機構に締結されている。
【0023】
図2は、図1に示した燃料電池本体0を備えた燃料電池1を第1方向Xに沿って切断した断面を概略的に示す図である。
【0024】
燃料電池本体0は、膜電極接合体2を備えている。膜電極接合体2は、アノード(燃料極)13と、カソード(空気極あるいは酸化剤極)16と、アノード13とカソード16とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜17と、を備えて構成されている。アノード13は、アノード触媒層11と、このアノード触媒層11に積層されたアノードガス拡散層12とを有している。アノード触媒層11は、電解質膜17の一方の面17Aに積層されている。カソード16は、カソード触媒層14と、このカソード触媒層14に積層されたカソードガス拡散層15とを有している。カソード触媒層14は、電解質膜17の他方の面17Cに積層されている。
【0025】
図1に示した各単セルCL1乃至CL4は、電解質膜17を挟んで対向するアノード13及びカソード16によって構成されている。つまり、図1に示した4つの単セルCL1乃至CL4を備えた膜電極接合体2では、詳述しない4つのアノード13が単一の電解質膜17における一方の面17Aの上において第2方向Yに間隔をおいて配置され、また、4つのカソード16が電解質膜17における他方の面17Cの上において第2方向Yに間隔をおいて配置されている。
【0026】
このような膜電極接合体2は、集電体18によって挟持されている。集電体18は、ベース絶縁層BF、ベース絶縁層BFの上に配置されたアノード集電部18A、及び、ベース絶縁層BFのアノード集電部18Aが配置された同一面上に配置されたカソード集電部18Cを有している。
【0027】
アノード集電部18A及びカソード集電部18Cは、例えば、金、銅、ニッケルなどの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材などをそれぞれ使用して形成可能であり、さらには、グラファイト(黒鉛)などの炭素質材料を使用して形成しても良い。
【0028】
図2に示した例では、アノード集電部18Aは、アノードガス拡散層12に積層されている。このアノード集電部18Aには、アノード13に向けて発電反応に必要な燃料の供給を可能とする開口部18AHが形成されている。また、カソード集電部18Cは、カソードガス拡散層15に積層されている。このカソード集電部18Cには、カソード16に向けて発電反応に必要な酸素の供給を可能とするとともに発電反応に伴って生成された二酸化炭素や過剰な水蒸気などの気体の外部への排出を可能とする開口部18CHが形成されている。このような構成の集電体18は、図1に示したような膜電極接合体2に備えられた複数の単セルCL1乃至CL4を電気的に直列に接続している。
【0029】
膜電極接合体2は、電解質膜17の一方の面17Aと集電体18との間及び電解質膜17の他方の面17Cと集電体18との間にそれぞれ挟持されたゴム製のOリング等のシール部材19によってシールされている。これにより、膜電極接合体2からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。なお、膜電極接合体2において、電解質膜17のうち、アノード触媒層11及びカソード触媒層14にともに接しておらず、かつシール部材19によって囲まれた内側に相当する位置に、1個乃至複数個のガス排出孔(図示せず)を設けても良い。
【0030】
膜電極接合体2のカソード16の側において、集電体18とカバープレート21との間には、通気性を有する絶縁材料によって形成された板状体20が配置されている。この板状体20は、主に保湿層として機能する。すなわち、この板状体20は、カソード触媒層14で生成された水の一部が含浸されて水の蒸散を抑制するとともに、カバープレート21の開口部21Hから取り込んだ空気のカソード触媒層14への取入れ量を調整し且つ空気の均一拡散を促進するものである。このような板状体20は、例えば、ポリエチレン製多孔質フィルム等からなる平板で構成される。
【0031】
膜電極接合体2のアノード13の側には、燃料供給機構3が配置されている。つまり、膜電極接合体2は、アノード13の側に配置された燃料供給機構3とカソード16の側に配置されたカバープレート21との間に配置されている。燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13に対して燃料を供給するように構成されているが、特に、特定の構成に限定されるものではない。このような燃料供給機構3は、液体燃料Fを収容する燃料収容部4に流路5を介して接続されている。
【0032】
流路5は、配管などで構成されている。流路5は、燃料供給機構3や燃料収容部4と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料供給機構3と燃料収容部4とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料Fの流路であってもよい。すなわち、燃料供給機構3は、流路等を介して燃料収容部4と連通されていればよい。
【0033】
燃料収容部4に収容された液体燃料Fは、重力を利用して流路5を介して燃料供給機構3まで落下させて送液することができる。また、流路5に多孔体等を充填して、毛細管現象により燃料収容部4に収容された液体燃料Fを燃料供給機構3まで送液してもよい。さらに、流路5の一部にポンプ6を介在させて、燃料収容部4に収容された液体燃料Fを燃料供給機構3まで強制的に送液してもよい。
【0034】
なお、適用されるポンプ6は、燃料を循環させる循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部4から燃料供給機構3に向けて液体燃料Fを送液する燃料供給ポンプである。燃料供給機構3から膜電極接合体2に供給された燃料は、発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部4に戻されることはない。ポンプ6の種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料Fを制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能なものが好ましい。
【0035】
この実施の形態の燃料電池1は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、液体燃料の供給にポンプ6を使用しており、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。図2に示す燃料電池1は、例えばセミパッシブ型と呼称される方式を適用したものである。
【0036】
また、燃料供給機構3において、ポンプ6と直列に燃料遮断バルブを配置してもよい。また、燃料収容部4や流路5には、燃料収容部4内の圧力を外気とバランスさせるバランスバルブを装着してもよい。
【0037】
燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料Fが収容されている。液体燃料Fとしては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。なお、液体燃料Fは、必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料Fは、例えば、エタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料Fであってもよい。いずれにしても、燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料Fが収容される。
【0038】
以下に、燃料供給機構3の一例について説明する。
【0039】
燃料供給機構3は、箱状に形成された容器30、及び、膜電極接合体2のアノード13の面方向(つまり、図中のX−Y平面内の方向)に燃料を分散並びに拡散させつつ供給する燃料分配板31を備えている。容器30は、流路5が接続される図示しない燃料導入口を有している。このような容器30を形成する樹脂材料としては、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状オレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、ポリフェニルサルファイド(PPS)などが挙げられる。また、この容器30は、樹脂材料に代えてステンレス(SUS)や金属クラッド材などの金属材料を用いて形成することも可能である。
【0040】
燃料分配板31は、容器30の内側に形成された凹部に配置されている。この燃料分配板31は、平板状に形成されている。このような燃料分配板31には、複数の燃料排出口33が形成されている。このような燃料分配板31は、容器30の燃料導入口から供給された液体燃料をアノード13に向けて燃料排出口33から排出する。このような燃料分配板31は、液体燃料やその気化成分を透過させない材料によって形成され、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリイミド系樹脂などの各種樹脂材料を用いて形成されている。
【0041】
なお、この燃料分配板31は、たとえば、液体燃料とその気化成分とを分離し、気化成分を膜電極接合体2に向けて透過させる気液分離膜で構成しても良い。この気液分離膜には、例えば、シリコーンゴム、低密度ポリエチレン(LDPE)薄膜、ポリ塩化ビニル(PVC)薄膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)薄膜、フッ素樹脂(たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)微多孔膜などが適用可能である。
【0042】
上述した燃料電池本体0においては、燃料収容部4から流路5を介して燃料分配板31に導入された液体燃料Fは、液体成分のまま、もしくは液体成分と気体成分とが混在する状態で、燃料分配板31の燃料排出口33から排出される。排出された燃料は、集電体18のアノード集電部18Aを介して膜電極接合体2のアノード13に供給される。
【0043】
アノード13に供給された燃料の気体成分は、アノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給される。燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11で下記の(1)式に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起させる、あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0044】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
この反応で生成した電子(e-)は、集電体18を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、集電体18を経由してカソード16に導かれる。(1)式の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は、電解質膜17を経てカソード16に導かれる。カソード16には、酸化剤として空気が供給される。カソード16に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、カソード触媒層14で空気中の酸素と下記の(2)式にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
【0045】
6e-+6H++(3/2)O2 → 3H2O …(2)
上述した燃料電池本体0の発電反応において、発電する電力を増大させるためには触媒反応を円滑に行わせるとともに、膜電極接合体2の電極全体に均一に燃料を供給し、電極全体をより有効に発電に寄与させることが重要となる。
【0046】
本実施形態の燃料電池1は、図2に示すように、燃料電池本体0のカソード16の側の少なくとも一部を覆う放熱体40を備えている。この放熱体40は、カバープレート21の上方に位置し、カバープレート21から離間している。このような放熱体40には、複数の貫通孔40Hが形成されている。これらの貫通孔40Hのそれぞれは、カバープレート21の開口部21Hの直上に位置している。貫通孔40Hの個数は、開口部21Hの個数と同数であるが、特にこの例に限らない。このような放熱体40に貫通孔40Hが形成されたことにより、燃料電池本体0のカソード16の側に発電反応に必要な酸素を取り込むことが可能である。
【0047】
上述した放熱体40としては、液体燃料や水、酸素等によって溶解や腐食、酸化等を生じることがなく、かつ熱伝導率の高い材料によって形成されることが望ましい。具体的には、放熱体40としては、熱伝導性に優れた銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン等の金属、または、ステンレスなどのこれらの金属の合金などが適用可能である。また、放熱体40としては、グラファイト(黒鉛)等の炭素質材料も使用可能である。
【0048】
放熱体40としては、熱伝導率が高く、かつ肉厚が薄くても強度が高いという点からは、金属材料を適用することが最も望ましい。特に、銅(20℃における熱伝導率370W/mK)、アルミニウム(20℃における熱伝導率204W/mK)、タングステン(20℃における熱伝導率198W/mK)は比較的熱伝導率が高いために好ましい。本実施形態において、放熱体40として適用可能な材料は、10W/mK以上の熱伝導率を有する材料である。好ましくは、50W/mK以上、より好ましくは200W/mK以上の熱伝導性を有する材料である。なお、ここで説明した熱伝導率は、レーザーフラッシュ法によって測定したものである。
【0049】
より好ましくは、放熱体40は、その表面がアルマイト処理(陽極酸化処理)される。外気への放熱性を高めるためには、特に、放熱体40の表面が黒色アルマイト処理されることが好ましい。
【0050】
放熱体40として金属材料を用いた場合、カソード16で生成した水や、大気中に含まれる酸素や水蒸気等によって酸化、腐食を生じる可能性がある。それを防ぐために、放熱体40としては、ステンレス等の腐食しにくい材料を用いるか、または、放熱体40の表面に、金などの酸化しにくい金属をメッキしたり、炭素質の物質や、樹脂もしくはゴムでコーティングを施したり、液体燃料の気化成分に溶解しない塗料で塗装する等しても良い。
【0051】
上記のようにコーティングを施すための樹脂もしくはゴムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス社商標)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、シリコーン樹脂等の樹脂、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム等のゴムが使用可能である。これらの樹脂やゴムは、金属材料に比べて熱伝導率が低いため、コーティングを施す場合には、コーティングする樹脂もしくはゴムはできるだけ薄くするのが望ましい。
【0052】
図2に示した例では、カバープレート21と放熱体40とを離間させるために、カバープレート21の表面(板状体20と接する面とは反対側の面)21Aと放熱体40の背面40Aとの間にスペーサ50が配置している。このようなスペーサ50は、カバープレート21の開口部21Hが形成された領域あるいは放熱体40の貫通孔40が形成された領域の外側に配置されている。このスペーサ50は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの絶縁体によって形成された矩形枠状の板状体である。
【0053】
これにより、カバープレート21と放熱体40との間には空気層51が形成される。この空気層51のZ方向に沿った厚み、つまり、カバープレート21の表面21Aと放熱体40の背面40Aとの間の間隔は、図中のX−Y平面内のいずれの場所においても略同一である。
【0054】
なお、このような空気層51を形成するためには、スペーサ50を省略してもよく、例えば、放熱体40が燃料電池1の筐体の一部であったり、この筐体に支持されていたり、あるいは、燃料電池1を搭載した電子機器に放熱体40が支持されていたりする場合には、スペーサ50を介することなくカバープレート21と放熱体40との間に空気層51を形成可能である。
【0055】
このような構成の燃料電池1において、カバープレート21から放熱体40への熱伝導は主に、両者が接触した部分での直接の伝熱ではなく、輻射または空気等の気体の対流によって行われる。本実施形態によれば、外気の温度が高い場合や風速が小さい場合などの放熱が行われにくい条件においては、カバープレート21と放熱体40とが密着して直接の伝熱によって熱伝導する場合とほぼ同じ放熱量が得られる。従って、放熱体40を設けることによって燃料電池本体0からの放熱が促進され、放熱体40から外気への放熱量が増加し、それに見合う量の燃料が供給されるので、燃料電池本体0の出力が向上する。
【0056】
一方、外気の温度が低い場合や風速が大きい場合などの放熱が行われやすい条件においては、放熱体40から外気への放熱量は増加するが、カバープレート21から放熱体40への熱伝導量は、放熱体40から外気への放熱量ほどには増加しない。このため、放熱体40の表面温度は低下するが、燃料電池本体0からの放熱量が過大となることは防止でき、燃料供給量の過剰な増加によって生じるクロスオーバーの増加等に伴う燃料電池の出力低下を抑制することが可能となる。
【0057】
また、カバープレート21の表面温度と外気温との差がA(℃)のときの、カバープレート21の表面温度と放熱体40の表面温度との間の温度差をB(℃)としたときに、0.05<B/A<0.3であることが望ましい。すなわち、B/A≦0.05のときは、カバープレート21から放熱体40への熱伝導が、直接の伝熱と同程度に行われていることを示し、放熱が行われやすい条件の下では燃料供給量の過剰な増加等によって生じる燃料電池の出力低下を抑制することが難しくなる。また、B/A≧0.3のときは、カバープレート21から放熱体40への熱伝導が余り行われていないことを示し、放熱が行われにくい条件の下では放熱量の減少によって生じる燃料電池の出力低下を抑制することが難しくなる。
【0058】
更に、カバープレート21の表面21Aから放熱体40の外表面40Bまでの間の距離をC(mm)としたときに、B/C>2(℃/mm)であることが望ましい。カソード触媒層14で反応によって生じた水蒸気の少なくとも一部は、カバープレート21に設けられた開口部21を通り、更に放熱体40に設けられた貫通孔40Hに達するが、B/C>2(℃/mm)であるときには、カバープレート21と放熱体40との間に大きな温度勾配が生じていることを示し、カバープレート21と放熱体40との間の水蒸気分圧の勾配も大きくなるため、放熱体40に設けられた貫通孔40Hを通して外気に放散される水蒸気の量が減少する。即ち、膜電極接合体2に含まれる水の量が増加することになり、この膜電極接合体2に含まれる水がクロスオーバーの増加を抑制する機能を果たして、燃料電池本体0の出力低下を抑制することが可能となる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、安定して高い出力を得ることが可能となる。
【0060】
次に、本実施形態で採用可能な燃料電池1のバリエーションについて説明する。なお、図2に示した例と同一の構成については同一の参照符号を付して詳細な説明を省略する。
【0061】
図3は、他の実施形態における燃料電池本体0を備えた燃料電池1の概略断面図である。
【0062】
ここに示した例では、図2に示した例と比較して、カバープレート21と放熱体40と離間させるために、カバープレート21と放熱体40との間に通気性を有する断熱体60を配置した点で相違している。断熱体60は、カバープレート21の表面21Aに接するとともに、放熱体40の背面40Aにも接している。このような断熱体60は、カバープレート21の開口部21H及び放熱体40の貫通孔40に重なっているが、通気性を有しているため、燃料電池本体0への発電反応に必要な外気(特に酸素)の取り込みを阻害することはない。
【0063】
この断熱体60は、例えば、多孔質ポリエチレン膜などの絶縁体によって形成されている。また、この断熱体60のZ方向に沿った厚みは、図中のX−Y平面内のいずれの場所においても略同一である。なお、本実施形態において、断熱体60として適用可能な材料は、2W/mK以下の熱伝導率を有する材料である。より好ましくは、0.5W/mK以下の熱伝導性を有する材料である。
【0064】
図3に示した例においても、図2に示した例と同様の効果が得られる。
【0065】
本実施形態において、カバープレート21の表面21Aと放熱体40の背面40Aとの間の間隔は、0.1mm以上3.0mm以下であることが望ましい。カバープレート21と放熱体40との間に0.1mm未満の一定の間隔を形成することは困難であり、間隔のバラツキが生ずると、放熱性のバラツキを生むことになり、望ましくない。カバープレート21と放熱体40との間に3.0mmを越える場合には、燃料電池本体0から放熱体40への熱伝導性が低下し、放熱性のバラツキを生むことになり、望ましくない。
【0066】
《性能評価》
(実施例1)
アノード用触媒粒子(Pt:Ru=1:1)を担持したカーボンブラックに、プロトン伝導性樹脂としてパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、アノード用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをアノードガス拡散層12としての多孔質カーボンペーパ(55.5mm×8.7mmの長方形)に塗布することにより、厚さが100μmのアノード触媒層11を得た。
【0067】
カソード用触媒粒子(Pt)を担持したカーボンブラックに、プロトン伝導性樹脂としてパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、カソード用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをカソードガス拡散層15としての多孔質カーボンペーパに塗布することにより、厚さが100μmのカソード触媒層14を得た。
【0068】
なお、アノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15は、同一形状かつ同一の大きさであり、厚さも等しく、それぞれのガス拡散層に塗布されたアノード触媒層11及びカソード触媒層14も同一形状かつ同一の大きさである。
【0069】
上記したように作製したアノード触媒層11とカソード触媒層14との間に、電解質膜17として厚さが30μmで、含水率が10〜20重量%のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(商品名:nafion膜、デュポン社製)を、4つのアノードガス拡散層12および4つのカソードガス拡散層15が、それぞれの長手方向が略平行で、その間隔が1.2mmとなるように並んで配置し、アノード触媒層11とカソード触媒層14とが対向するように位置を合わせた状態で、ホットプレスを施すことにより、膜電極接合体2を得た。
【0070】
このように作成した膜電極接合体2は、集電体18によって挟持され、アノードガス拡散層12とアノード集電部18Aとが対向するとともに、カソードガス拡散層15とカソード集電部18Cとが対向している。すなわち、カソード集電部18Cとして、カソードガス拡散層15の上に金箔を積層した。また、アノード集電部18Aとして、アノードガス拡散層12の上に金箔を積層した。これらのアノード集電部18A及びカソード集電部18Cは、上記した4対のアノード触媒層11とカソード触媒層14とが電気的に直列に接続されるように形成されている。なお、アノード集電部18Aには、燃料分配板31の燃料排出口33に対応した位置に開口が形成されている。また、カソード集電部18Cには、カバープレート21の開口部21Hに対応した位置に開口が形成されている。
【0071】
膜電極接合体2の電解質膜17と集電体18との間には、アノード側及びカソード側の双方について、シール部材19として、それぞれ幅が2mmのゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0072】
カソード集電部18Cの上には、板状体20として、厚さが0.75mmであり、透気度が3.0秒/100cm(JIS P 8117:2009に規定の測定方法による)であり、透湿度が3000g/(m・24h)(JIS L 1099:2006 A−1に規定の測定方法による)のポリエチレン製多孔質フィルムを、長さ59.5mm、幅42.4mmの長方形に切り、積層した。外気からカソード16に供給される空気は、この板状体20を透過することとなる。
【0073】
この板状体20の上には、カバープレート21として、外形が64.5mm×44.5mmの長方形であり、厚さが0.3mmのステンレス板(SUS304)を積層した。このカバープレート21には、5.6mm×2.8mmの長方形の64個の開口部21Hが均等に形成されている。
【0074】
このようにして燃料電池本体0を形成した。
【0075】
放熱体40としては、厚さが0.5mmであり、外形が100mm×56mmの長方形のアルミニウム板を適用し、断面が図2に示す形になるように折り曲げた。この放熱体40には、カバープレート21に形成した開口部21と同一形状かつ同一の大きさである貫通孔40Hが64個形成されている。このような放熱体40は、貫通孔40Hが開口部21の直上に位置するように配置される。
【0076】
カバープレート21と放熱体40との間には、厚さ0.5mmであり、外形が矩形枠状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板をスペーサ50として挟み、カバープレート21と放熱体40との間隔が0.5mmとなるように固定した。
【0077】
このようにして形成した燃料電池1について、図2に示したように、カバープレート21の中央部における表面21Aの温度を測定する熱電対TM1と、放熱体40の中央部における外表面40Bの温度を測定する熱電対TM2とを取り付け、データーロガーによって、熱電対TM1と熱電対TM2とで測定される温度の値を記録した。
【0078】
(実施例2)
カバープレート21と放熱体40との間に配置するスペーサ50の厚さを0.1mmとして、カバープレート21と放熱体40との間隔を0.1mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0079】
(実施例3)
カバープレート21と放熱体40との間に、断熱体60として、厚さ0.5mmであり、気孔率が26%の多孔質ポリエチレン膜を挿入し、カバープレート21と断熱体60、断熱体60と放熱体40とが相互に密着するようにした以外は、実施例1と同様である。
【0080】
(比較例1)
実施例1で説明した燃料電池1において、放熱体40を設けない以外は、実施例1と同様である。
【0081】
(比較例2)
実施例1で説明した燃料電池1において、スペーサ50を挿入せず、放熱体40をカバープレート21に密着させた以外は、実施例1と同様である。
【0082】
(比較例3)
実施例1で説明した燃料電池1において、カバープレート21と放熱体40との間に挿入するスペーサ50の厚さが3mmであり、カバープレート21と放熱体40との間隔を3mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0083】
上述した実施例1乃至3及び比較例1乃至3の各燃料電池1について、性能評価を行った。
【0084】
まず、温度が25℃、相対湿度が50%の環境の下、上記したように作成した各燃料電池1に、純度99.9重量%の純メタノールを供給した。ここで、カバープレート21の中央部の表面21Aに取り付けた熱電対TM1で測定した温度が45℃で一定になるように、純メタノールの供給量を制御した。
【0085】
そして、定電圧電源を接続して、燃料電池1の出力電圧が直列に接続した4対の単セルの中の1対あたり0.35Vで一定になるように、燃料電池1に流れる電流を制御し、このとき、燃料電池1から得られる出力密度を計測した。
【0086】
ここで、燃料電池1の出力密度(mW/cm)とは、燃料電池1に流れる電流密度(発電部の面積1cm当りの電流値(mA/cm))に燃料電池1の出力電圧を乗じたものである。また、発電部の面積とは、アノード触媒層11とカソード触媒層14とが対向している部分の面積である。ここで説明した各実施例及び各比較例では、アノード触媒層11とカソード触媒層14の面積が等しく、かつ完全に対向しているので、発電部の面積はこれらの触媒層の面積に等しい。
【0087】
ここで、燃料電池1に当たる風の風速(熱線式風速計で1分間以上連続して測定し、その測定時間で平均した値)が0.02m/s以下となるように、燃料電池1を透明ポリエチレンシート製のカバーで覆った場合と、送風ファンを用いて風速0.04m/sの風が当たるようにした場合とのそれぞれで、カバープレート21の表面21Aおよび放熱体40の外表面40Bの温度および燃料電池1の出力密度を測定した。
【0088】
以上の測定結果を纏めて示したものが、図4である。なお、燃料電池1の出力密度を計測した結果は、比較例1の風速0.02m/s以下の環境で測定したときの出力密度の値を100とした相対値で示してある。
【0089】
実施例1では、風速0.02m/s以下のとき、放熱体40の外表面40Bの温度が42℃であったので、カバープレート21と放熱体40との間の温度差B1は3℃であり、B1/A=3/20=0.15である。カバープレート21の表面21Aと、放熱体40の外表面40Bとの間の距離Cは、両者の間の間隔0.5mmと、放熱体40の厚さ0.5mmを足した1.0mmであるため、温度勾配B1/C=3(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、107であった。
【0090】
一方、実施例1において風速0.04m/sのとき、放熱体40の外表面40Bの温度が40℃であったので、カバープレート21と放熱体40との間の温度差B2は5℃であり、B2/A=0.25であり、B2/C=5(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、125であった。
【0091】
実施例2において、燃料電池1を実施例1と同条件下で発電させたとき、風速0.02m/s以下のときの放熱体40の外表面40Bの温度が43℃であったので、温度差B1は2℃であり、B1/A=0.1となる。また、カバープレート21の表面21Aと、放熱体40の外表面40Bとの間の距離Cは、両者の間の間隔0.1mmと、放熱体40の厚さ0.5mmを足した0.6mmであるため、温度勾配B1/C=3.33(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、108であった。
【0092】
一方、実施例2において風速0.04m/sのとき、放熱体40の外表面40Bの温度が41℃であったので、カバープレート21と放熱体40との間の温度差B2は4℃であり、B2/A=0.2であり、B2/C=6.67(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、123であった。
【0093】
実施例3において、燃料電池1を実施例1と同条件下で発電させたとき、風速0.02m/s以下のときの放熱体40の外表面40Bの温度が42.5℃であったので、温度差B1は2.5℃であり、B1/A=0.125であり、B1/C=2.5(℃/mm)となる。このときの燃料電池1の出力密度は、106であった。
【0094】
一方、実施例3において風速0.04m/sのとき、放熱体40の外表面40Bの温度が41.5℃であったので、カバープレート21と放熱体40との間の温度差B2は3.5℃であり、B2/A=0.175であり、B2/C=3.5(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、122であった。
【0095】
これに対して、比較例1の燃料電池1においては、放熱体40が存在しないので、風速に関わらず温度差Bは0と見なすことができ、B/A=0となる。但し、カバープレート21の表面21Aと放熱体40の外表面との距離Cも0と見なされるので、温度勾配B/Cは算出することができない。風速0.02m/s以下の条件での出力密度が100であり、風速0.04m/sの条件での出力密度が113である。
【0096】
比較例2において、燃料電池1を実施例1と同条件下で発電させたとき、風速0.02m/s以下のときの放熱体40の外表面40Bの温度が44.5℃であったので、温度差B1は0.5℃で、B1/A=0.025となる。また、カバープレート21の表面21Aと、放熱体40の外表面40Bとの間の距離Cは、放熱体40の厚さ0.5mmに等しいため、温度勾配B1/C=1(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、110であった。
【0097】
一方、比較例2において風速0.04m/sのとき、放熱体40の外表面40Bの温度が44℃であったので、カバープレート21と放熱体40との間の温度差B2は1℃であり、B2/A=0.05であり、B2/C=2(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、105であった。
【0098】
比較例3において、燃料電池1を実施例1と同条件下で発電させたとき、風速0.02m/s以下のときの放熱体40の外表面40Bの温度は38℃であったので、温度差B1は7℃であり、B1/A=0.35となる。また、カバープレート21の表面21Aと、放熱体40の外表面40Bとの間の距離Cは、両者の間の間隔3mmと、放熱体40の厚さ0.5mmを足した3.5mmであるため、温度勾配B1/C=2(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、101であった。
【0099】
一方、比較例3において、風速0.04m/sのとき、放熱体40の外表面40Bの温度が34℃であったので、カバープレート21と放熱体40との間の温度差B2は11℃であり、B2/A=0.55であり、B2/C=3.14(℃/mm)である。このときの燃料電池1の出力密度は、111であった。
【0100】
図4に示した結果より、0.05<B/A<0.3であってかつB/C>2(℃/mm)を満たす実施例1〜3の燃料電池が、風速が0.02m/s以下の場合であっても、風速が0.04m/sの場合であっても、どちらの条件においても高い出力密度が得られることが分かる。
【0101】
放熱体40を設けない比較例1や、燃料電池本体0と放熱体40との間に大きな間隔を設けた比較例3では、風速が0.02m/s以下の場合と、風速が0.04m/sの場合のどちらの条件においても、実施例1〜3よりも低い出力密度となる。これは、燃料電池から放熱できる熱の絶対量が少なく、従って少量の燃料供給量でもカバープレート中央の温度が45℃に維持されるので、その供給量に見合う発電反応しか行なわれないためである。
【0102】
一方、燃料電池と放熱体40とを密着させた比較例2では、風速が0.02m/s以下のときの出力密度は、実施例1〜3や比較例1,3よりも高い値である。しかし、風速が0.04m/sのときの出力密度は、実施例1〜3や比較例1,3よりも低い値となっている。これは、燃料電池本体0と放熱体40とが密着しているため、燃料電池本体0から放熱体40への熱伝導が過剰に行なわれ、燃料電池1から放熱できる熱の絶対量が多くなるためである。このため、カバープレート中央の温度を45℃に維持するために多量の燃料が供給され、その供給量に見合う発電反応が行なわれる。但し、風速が0.04m/sの条件では、燃料電池から放熱される熱の絶対量が過大となり、従って大量の燃料が供給されるため、アノードから電解質膜を透過してカソードへクロスオーバーする燃料の量が増加するためと考えられる。
【0103】
以上説明したように、この実施の形態によれば、燃料電池1から外気への放熱の行われやすさの如何にかかわらず、安定して高い出力を得ることが可能となる。
【0104】
上述した実施形態の燃料電池1は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、燃料を面方向に分散させつつ供給する燃料分配板31は、特に燃料濃度が濃い場合に有効である。このため、実施形態の燃料電池1は、濃度が80wt%以上のメタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。したがって、実施形態は、メタノール濃度が80wt%以上のメタノール水溶液や純メタノールを液体燃料として用いた燃料電池1に好適である。
【0105】
さらに、上述した実施形態は、本発明をセミパッシブ型の燃料電池1に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、内部気化型の純パッシブ型の燃料電池に対しても適用可能である。
【0106】
なお、本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではなく、膜電極接合体に供給される燃料の全てが液体燃料Fの蒸気、全てが液体燃料F、または一部が液体状態で供給される液体燃料Fの蒸気等、種々形態に本発明を適用することができる。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組み合わせたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除したりする等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0107】
1…燃料電池
2…膜電極接合体 13…アノード 16…カソード 17…電解質膜
21…カバープレート 21H…開口部
3…燃料供給機構
40…放熱体 40H…貫通孔
50…スペーサ 51…空気層
60…断熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜をアノードとカソードとで挟持した膜電極接合体と、前記膜電極接合体のアノード側に配置されアノードに向けて燃料を供給する燃料供給機構と、複数の開口部が形成されるとともに前記膜電極接合体のカソード側に配置され前記燃料供給機構との間に前記膜電極接合体を保持するカバープレートと、を有する燃料電池本体と、
複数の貫通孔が形成され、前記燃料電池本体のカソード側の少なくとも一部を覆うとともに前記カバープレートから離間した放熱体と、
を備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
さらに、前記カバープレートと前記放熱体との間に配置された通気性を有する断熱体、あるいは、前記カバープレートと前記放熱体との間に空気層を形成するためのスペーサを備えたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記カバープレートと前記放熱体との間隔は、0.1mm以上3.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記放熱体は、その表面が黒色アルマイト処理されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記カバープレートの表面温度と外気温との差がA(℃)のときの、前記カバープレートと前記放熱体との間の温度差をB(℃)としたときに、0.05<B/A<0.3であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記カバープレートと前記放熱体との間の温度差をB(℃)とし、前記カバープレートの表面と前記放熱体の外表面との間の間隔をC(mm)としたときに、B/C>2(℃/mm)であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−113883(P2011−113883A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270600(P2009−270600)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】