説明

燃料電池

【課題】バイオ燃料電池の使用において、発電性能を低下させずに正極の触媒、電解質膜を繰り返し使用することを前提とした、負極独立交換型のバイオ燃料電池を提供する。
【解決手段】正極60と負極90とが電解質膜70を介して対向する構造を有する燃料電池であり、負極90が正極60と独立して取替え交換可能な燃料電池100にかかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に電極に酵素、メディエータ又はその両方を固定化した電極使い捨て型のバイオ燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料の持つ化学エネルギーを高効率で電気エネルギーに変換する発電装置であり、従来から大規模発電用途などとしての研究開発が活発に行われている。
【0003】
近年では、固体高分子型燃料電池など、室温から90℃程度の比較的低温の作動温度域を示す燃料電池も開発され、これらは自動車の駆動用電源、パーソナルコンピュータやモバイル機器などのポータブル電源などの小型システムへの応用も考えられている。
【0004】
さらに最近では固体高分子型燃料電池と生物内で行われている生体代謝反応を融合させたバイオ燃料電池も考案されている。バイオ燃料電池は、主に酵素により液体燃料を酸化し、プロトンと電子とを取り出すもので、燃料としてメタノール、エタノール、グリセロールのようなアルコール類あるいはグルコースのような単糖類を溶解した水溶液あるいはデンプンのような多糖類を用いることができる。バイオ燃料電池は、水素と酸素のような気体燃料を用いる通常の燃料電池と比較し、取り扱いやすく、人体に安全である。また、グルコースのようなバイオマス由来の燃料を部分酸化、または完全酸化することにより、大きなエネルギーを獲得することができ、環境にやさしい、次世代の高エネルギー密度電池としても注目されている。
【0005】
しかしながら、上述したバイオ燃料電池は、現時点で実用化されているものはなく、特に出力(電流密度)の向上、耐久性の向上が望まれている。
出力の向上をはかるために、酵素やメディエータが電気化学的な機能を発揮できるよう、これらを安定なかたちで電極上に固定化することは主要な技術課題であり、様々な検討がなされている。
例えば、当業者に知られている(1)グルタルアルデヒドを利用したメディエータと酵素の固定化、(2)ポリアニオンとポリカチオンから成るポリイオンコンプレックスによるメディエータと酵素の固定化(特許文献1)、(3)酵素の大きさに合わせた適切な大きさのメソ孔を有すると同時に、効率的な物質輸送を可能とするマクロ孔が発達した三次元網目状構造をもつ炭素電極の利用(特許文献2)、(4)カーボンペーパー上にリン脂質、またはその誘導体を塗布することによりメディエータの拡散速度を増加させる手法(特許文献3)、(5)電解重合を利用することで電極表面にメディエータを修飾し、これを介して配向制御しつつ酵素を固定化する方法(非特許文献1)などが挙げられる。
【0006】
また、耐久性を向上させる方法としては、酵素のサイズにあった細孔をもつ電極に固定化して安定化する方法や、トレハロースなどの糖を酵素と共に電極上に塗布する方法などが報告されている。
【0007】
上述のような検討、すなわち、酵素活性が長期間損なわれない状態を維持しつつ、固定化酵素と電極間の速い電子移動や、酵素への迅速な基質の供給を実現するための固定化改良検討等が進められているが、いずれもバイオ燃料電池を実用化する上で十分ではなく、1週間〜約10日間で性能が初日の10%程度に低下してしまう(非特許文献2:バイオ燃料電池の耐久性に関するグラフの記載)。
【0008】
ところで、より実用化に近い液体燃料電池、例えばダイレクトメタノール燃料電池に目を向けると、使い捨て・取替え式の燃料カートリッジ技術が開示されており(特許文献4、5)、これと同様に考えると劣化した酵素固定化電極を交換することにより、バイオ燃料電池の機能を回復させることが出来ると容易に推定できる。
【0009】
例えば、組み立て・解体式の液体燃料電池に関する発明が開示されており(特許文献6、7)、この技術によれば、負極、電解質膜、正極の密着を解除し、劣化した電極を交換することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−305559号公報(燃料電池および電子機器)
【特許文献2】WO2007/088975号公報(生体分子固定化炭素膜)
【特許文献3】特開2008−243380号公報(酵素固定化電極、燃料電池、電子機器、酵素反応利用装置および酵素固定化基体)Bioelectronics 20 (2005) 1962-1967
【特許文献4】特開2005−525676号公報(燃料電池システム用の携帯型使い捨て燃料―バッテリーユニット)
【特許文献5】特開2007−538364号公報(カートリッジを備えた/又はカートリッジなしの使い捨て燃料電池、および燃料電池およびカートリッジの製造方法および使用方法)
【特許文献6】JPA_2005259547(組立式燃料電池)
【特許文献7】JPA_2007012304(組立式液体燃料電池)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chem.Commun 2002,1936-1937
【非特許文献2】Biofuel cell based on direct bioelectrocatalysis Biosensors and
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、燃料電池、特にバイオ燃料電池には、正極、負極ともに生体物質(酵素)・メディエータを固定化した電極を用いる形態と、どちらか一方のみの電極に生体物質(酵素)・メディエータを固定化した電極を用いる形態の2種類がある。
【0013】
ここで、後者のような形態、特に正極に貴金属触媒(Pt触媒での酸素の還元)、またはカーボンアロイ触媒を用い、負極には酵素またはメディエータ(または酵素とメディエータの両方)が固定化されている場合には、負極は正極と比較して劣化が早く、負極をより高頻度に交換することが必要である。
【0014】
ところが、前述のような負極、電解質膜、正極が一体となって密着されている液体燃料電池(例:特許文献1、2,3、6、7)では、この密着を解除すると、電解質膜と正極の間に挟まれているPt触媒が散逸し、コストの面から大変な問題となる。なぜなら、負極のみを交換して繰り返し使用したい場合においても、正極表面に触媒を塗布しなおし、電解質膜を交換するなどの作業が必要となるためである。また一般の人がこうした液体燃料電池を使用し、このような交換作業等を行うことを考えると、種々の問題がある。
【0015】
また、バイオ燃料電池全体を入れ替える形式の液体燃料電池(例:特開2009−94008号公報)においても、電解質膜を廃棄することとなり、コストの面から同様に問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで本発明の目的は、燃料電池、特にバイオ燃料電池の使用において、発電性能を低下させずに正極の触媒、電解質膜を繰り返し使用することを前提とした、負極独立交換型のバイオ燃料電池を含む燃料電池を提供することにある。
【0017】
すなわち本発明は、正極と負極とが電解質膜を介して対向する構造を有する燃料電池であって、負極が正極と独立して取替え交換可能なことを特徴とする燃料電池に係る。
【0018】
また本発明は、前記燃料電池において、正極側プレートと正極密着プレートにより、正極、電解質膜および燃料漏洩防止用ガスケットを密着させて組み立ててなり、さらに正極側プレートと負極側プレートにより、前記電解質膜および負極を密着させて組み立ててなり、前記電解質膜および負極の密着を解除しても前記正極、電解質膜および燃料漏洩防止用ガスケットの密着が維持される燃料電池に係る。
【0019】
また、前記燃料電池において、正極がカーボンペーパー又はカーボンクロスであること、電解質膜が固体高分子電解質膜であること、正極に貴金属触媒が付与されていることのうち、少なくともいずれかの構成を有することとしてもよい。
【0020】
また、前記燃料電池において、負極には燃料を酸化することが可能な生体物質のみ、またはメディエータのみ、又はその両方が固定化されているとしてもよい。
【0021】
また、前記燃料電池において、燃料を酸化することが可能な生体物質が酵素ないしは酵素を含んだ菌体であるとしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
前述のような負極を正極と独立して交換することができる構成をもつバイオ燃料電池を含む燃料電池を使用することによって、負極の劣化にともなう出力の低下時には負極のみを簡便に交換できる。これにより、燃料電池全体の密着を解除することによって起こるような正極触媒の散逸がなくなる。また電解質膜の交換等をする必要もない。
【0023】
すなわち本発明によれば、用意してある負極を新規にセットし、再度密着させるだけで燃料電池を繰り返し使用することができ、また一般の人にとっても燃料電池の簡便、安全な使用が可能となる。
【0024】
また、付加的な効果としては、正極反応を固定し(例えばPt触媒、カーボンアロイ触媒での酸素の還元反応)、負極に用いる酵素そのものや酵素の固定化等を変更して負極の性能を評価する研究において、負極のみ自在に交換可能であるため、効率的な負極の比較、評価を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態のバイオ燃料電池の組み立て構成例1(正極側からの斜視図)を示す図である。
【図2】本実施形態におけるバイオ燃料電池の組み立て構成例1(正面図)を示す図である。
【図3】本実施形態における正極密着プレートの構造例を示す図である。
【図4】本実施形態における正極側プレートの構造例を示す図である。
【図5】本実施形態における負極側プレートの構造例を示す図である。
【図6】本実施形態におけるバイオ燃料電池の組み立て構成例2を示す図である。
【図7】本実施形態におけるバイオ燃料電池の組み立て手順例を示す図である。
【図8】本実施形態における測定電流値のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
−−−バイオ燃料電池の構成−−−
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の燃料電池として、本実施形態に係るバイオ燃料電池の組み立て構成例1(正極側からの斜視図)であり、図2は本実施形態におけるバイオ燃料電池の組み立て構成例1(正面図)を示す図である。ここで例示した燃料電池たるバイオ燃料電池100は、負極密着用ネジ10、正極密着用ネジ20、負極側プレート30、負極側集電体30a、正極密着プレート40、正極側プレート50、正極側集電体50a、正極60、電解質膜70、燃料漏洩防止用ガスケット80、負極90とから構成されている。またこの例では、電極と接触する正極側集電体50aと負極側集電体30aは、それぞれ正極側プレート50、負極側プレート30に付加されており、外部回路に接続する際に用いられる。
【0027】
前記バイオ燃料電池100を組み立てる際には通常、図2のように正極側プレート50を水平な台の上に載置し、この中央の円柱状の凹部50dに正極60、電解質膜70、燃料漏洩防止用ガスケット80を順次セットする。円柱状の凹部50dの深さは、正極60、電解質膜70、燃料漏洩防止用ガスケット80を重ねて載置した際の合計厚より所定長深いものであり、前記正極60、電解質膜70、燃料漏洩防止用ガスケット80らを容易に収容できる。また、正極60が電解質膜70と接する面60a(図2においては上面)には、酸素還元反応用の触媒が塗布されている。
【0028】
正極密着プレート40と正極側プレート50は、例えば2本の正極密着用ネジ20を正極密着プレート40側の正極密着用ネジガイド孔40cを介して、正極密着プレート用ネジ孔50cにねじ込んで固定することで互いに密着する。この正極密着プレート40と正極側プレート50との密着により、正極側プレート50の凹部50dに、正極密着プレート40における正極密着用凸部40a(前記凹部50dとほぼ同形状・同サイズで、凹部50dの内空に挿入可能)が自ずと挿入され、凹部50dにおいて正極60、電解質膜70、燃料漏洩防止用ガスケット80を適宜な圧力で密着、固定させることになる。
【0029】
こうして正極側のセットの後、負極90を、燃料漏洩防止用ガスケット80中央の内空80aに向けて、正極密着プレート40の貫通孔40dを介してセットする。燃料漏洩防止用ガスケット80中央部にある内空80aの形状およびサイズと、負極90の形状およびサイズは略等しい。また、燃料漏洩防止用ガスケット80と負極90のそれぞれの厚みは略同じであり、両者の表面はほぼ平滑である。当然ながら、燃料漏洩防止用ガスケット80は、ガスケットとして必要な機能を発現する素材からなる。
【0030】
続いて、例えば4本の負極密着用ネジ10を、負極側プレート30の負極密着用ネジガイド孔30bおよび正極密着プレート40の負極密着用ネジガイド孔40bを介して、正極側プレート50の負極密着用ネジ孔50bにねじ込んで固定することで、負極側プレート30を、既に一体に固定されている正極側プレート50および正極密着プレート40に密着させる。この密着により、負極側プレート30の凸部30dが負極90を正極側プレート50方向(図面上における下方)に押しつけることとなり、ひいては負極90と電解質膜70とを適宜な圧力で密着させることとなる。
【0031】
なお、負極側プレート30には、正極密着用ネジ20のネジ頭を収納するための正極密着プレートネジ用貫通部30cが設けてある。この正極密着プレートネジ用貫通部30cは、負極側プレート30と、正極側プレート50および正極密着プレート40との密着に伴って、正極密着用ネジガイド孔40cより突起している正極密着用ネジ20のネジ頭を収納する。
【0032】
以上のような構成によりにバイオ燃料電池100は組み立てされ、正極密着プレート40は正極側プレート50と互いに密着して一体化することで、正極60、電解質膜70、および燃料漏洩防止用ガスケット80を、正極側(正極密着プレート40+正極側プレート50)のみで保持し、負極90とは独立させることができる。したがって、たとえ負極側プレートと正極側との密着を解除しても、正極60、電解質膜70および燃料漏洩防止用ガスケット80の密着は維持されることになる。
【0033】
組み立て後のバイオ燃料電池100においては、負極側プレート30の開口部30eから、例えば、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、マルトース、スクロース、ラクトースなどの燃料が注入されることで発電を行うことが出来る。
【0034】
−−−正極密着プレートの例−−−
図3は本実施形態における正極密着プレート40の構造例を示す図である。正極密着プレート40は、上述のとおり、正極密着用ネジ20を正極密着プレート40側の正極密着用ネジガイド孔40cを介して、正極密着プレート用ネジ孔50cにねじ込んで固定することで正極側プレート50と互いに密着するプレートである。
【0035】
この正極密着プレート40と正極側プレート50との密着により、正極側プレート50の凹部50dに、正極密着プレート40における正極密着用凸部40a(前記凹部50dとほぼ同形状・同サイズで、凹部50dの内空に挿入可能)が自ずと挿入され、凹部50dにおいて正極60、電解質膜70、燃料漏洩防止用ガスケット80が適宜な圧力で密着、固定される。
【0036】
このように、この正極密着プレート40は正極側プレート50と互いに密着して一体化することで、正極60、電解質膜70、および燃料漏洩防止用ガスケット80を、正極側(正極密着プレート40+正極側プレート50)のみで保持し、負極90とは独立させることができる。
【0037】
正極密着プレート40には、正極密着用ネジ20の径より若干大きい内径を備えた貫通孔である、正極密着用ネジガイド孔40cが設けられており、バイオ燃料電池100の組み立て時に正極密着用ネジ20をガイドする。また正極密着プレート40には、正極密着用凸部40aが設けてある。この正極密着用凸部40aの形状およびサイズは、正極側プレート50の凹部50dの形状およびサイズと対応している。これにより、バイオ燃料電池100の組み立てが完了した際、正極密着用凸部40aと凹部50dの底面の間で挟まれる部品、すなわち正極60、電解質膜70および燃料漏洩防止用ガスケット80が適切な圧力で保持される。
【0038】
また、正極密着プレート40(およびこれと一体化した正極側プレート50)は、負極密着用ネジ10が負極密着用ネジガイド孔40bを介して正極側プレート50の負極密着用ネジ孔50bにねじ込まれることで、負極側プレート30と密着する。
【0039】
−−−正極側プレートの例−−−
図4は本実施形態における正極側プレート50の構造例を示す図である。正極側プレート50は、上述のとおり、正極密着用ネジ20が正極密着プレート40側の正極密着用ネジガイド孔40cを介して、正極密着プレート用ネジ孔50cにねじ込まれることで正極密着プレート40と互いに密着し一体化するプレートである。
【0040】
この正極密着プレート40との密着により、正極側プレート50の凹部50dに、正極密着プレート40における正極密着用凸部40a(前記凹部50dとほぼ同形状・同サイズで、凹部50dの内空に挿入可能)が自ずと挿入され、凹部50dにおいて正極60、電解質膜70、燃料漏洩防止用ガスケット80が適宜な圧力で密着、固定される。
【0041】
このように、この正極側プレート50は正極密着プレート40と互いに密着して一体化することで、正極60、電解質膜70、および燃料漏洩防止用ガスケット80を、正極側(正極密着プレート40+正極側プレート50)のみで保持し、負極90とは独立させることができる。
【0042】
こうした正極側プレート50においては、負極密着用ネジ10が負極密着用ネジガイド孔40bを介して負極密着用ネジ孔50bにねじ込まれることで、負極側プレート30と固定されることとなるが、一方で、負極密着用ネジ10をゆるめて負極密着用ネジ孔50bから抜き去ることで、負極側プレート30を正極側から脱着することもできる。
【0043】
正極側プレートは好ましくは図4に示すように凹部50dを持ち、この凹部50dの形状に合わせた正極60、電解質膜70および燃料漏洩防止用ガスケット80を用いることで組み立てが容易となる。凹部50dの深さは、正極密着プレート40、負極側プレート30を密着させたときに、挟まれた部品(正極60、電解質膜70および燃料漏洩防止用ガスケット80)が適切な圧力で保持されるように設定されている。
【0044】
正極60と接する領域の一部には厚み方向に貫通する複数の空気流路スリット50e(酸素を用いる場合には酸素流路スリット)があり(図4の例では、3個所)、ここから空気中の酸素が供給され、正極60で還元反応がおこる。また同様に正極60と接する領域の一部に正極側集電体50aが配置されており外部回路と接続することができる。
【0045】
−−−負極側プレートの例−−−
図5は本実施形態における負極側プレート30の構造例を示す図である。負極側プレート30は、負極密着用ネジ10が負極密着用ネジガイド孔30bおよび負極密着用ネジガイド孔40bを介して正極側プレート50の負極密着用ネジ孔50bにねじ込まれることで、正極密着プレート40(およびこれと一体化した正極側プレート50)と密着するプレートである。一方で、負極密着用ネジ10をゆるめて負極密着用ネジ孔50bから抜き去ることで、一体化している正極側から脱着することもできる。
【0046】
この負極側プレート30は、負極密着用ネジ10より径が若干大きい貫通孔である負極密着用ネジガイド孔30bを備えている。この負極密着用ネジガイド孔30bは、負極密着用ネジ10が負極密着用ネジガイド孔40bを介して正極側プレート50の負極密着用ネジ孔50bにねじ込まれる際のガイドとして作用する。またこのとき、正極密着プレートネジ用貫通部30cには、正極密着用ネジ20のネジ頭が収納されることとなる。
【0047】
また、負極側プレート30は凸部30dをもち、この凸部30dに接続されている集電体30aまたは凸部30dの外周により、負極90を電解質膜70に密着させ、適切な圧力で保持することができる。負極集電体30aは、凸部30dの開口部30eを橋渡しするよう設置されているものでも、或いは凸部30dの全面に渡るものでもよいが、全面に渡るものでは燃料が負極90に到達可能なもの、例えばパンチングメタルを用いる。いずれにしろ、負極側プレート30の凸部30d、凸部30dに設置された負極集電体30aにより、負極90が適切な圧力で電解質膜70に密着する。
【0048】
また、負極側プレート30には、液体燃料電池単セルに液体燃料を供給するとともに、その供給のために液体燃料を貯留する空間を有していてもよい。図5の例では、中央部に液体燃料貯留部30fが設けられており、この負極側プレート30に一度液体燃料を注入すれば、適宜な時間、液体燃料の補給を行うこと無く、バイオ燃料電池100における発電を継続することができる。
【0049】
−−−正極の構成−−−
続いて、本実施形態における正極60についてその構成を説明する。本実施形態のバイオ燃料電池100における正極60は、カーボンの成型体やカーボンの焼結体(例えばカーボンペーパー、カーボンクロス)、焼結金属、発泡金属又は金属繊維集合体などの多孔性基体を撥水処理したものなどを用いることができる。特に、カーボンペーパー、カーボンクロスは、金属類の電極と比べて表面積が広く、酵素、菌体をより多く電極に固定することが可能であり、また化学的な安定性が高いことから、正極60として好ましい。
【0050】
こうした正極60では、効率的に酸素の還元反応が起こることが望ましく、貴金属触媒を付与して使用してもよい。使用される貴金属触媒としては、白金が好ましいが、近年Pt代替触媒として研究が進んでいるカーボンアロイ触媒でもよい。Pt触媒を用いる場合、希望する発電量にもよるが、正極60に対する使用量として、0.01mg/cm〜10mg/cm、好ましくは0.1mg/cm〜0.5mg/cmが想定できる。
【0051】
また、触媒層は以下の方法で正極60に取りつけることができる。例えば、白金の微粉末をそのまま、あるいは表面積の大きいカーボン上に担持させ、結着剤および撥水剤として働くポリテトラフルオロエチレンや固体高分子電解質を含むアルコール溶液と混合し、カーボンペーパーなどの多孔性電極上に吹き付け、ホットプレスなどによって固体高分子電解質と接合する方法(米国特許第5,599,638号)や、白金微粉末を固体高分子電解質を含むアルコール溶液と混合して、この触媒混合溶液をポリテトラフルオロエチレン板上に塗布し、乾燥後ポリテトラフルオロエチレン板から引き剥がして、カーボンペーパーなどの多孔性電極上に転写する方法(文献例:X.Renら、J.Electrochem.Soc.,143,L12(1996))などがある。
【0052】
正極60と電解質膜70を一体とした場合には、これを正極側プレート50にセットし、その上から燃料漏洩防止用ガスケット80を置いて前述の方法と同様にもちいることができる。
【0053】
−−−電解質膜の構成−−−
また、電解質膜70は、負極90において発生したプロトンを正極60に輸送するためのもので、電子伝導性を持たず、プロトンを輸送することが可能な材料により構成される。また、液体が透過すると正極60へ浸潤し、気体の輸送が極端に遅くなって還元反応が妨げられるため、液体が透過しないものが好ましい。このような材料としては、固体高分子電解質膜、すなわちフッ素系電解質膜(例えば、デュポン社製のNafion膜など)、炭化水素系電解質膜、無機/有機複合電解質膜などあげられる。
【0054】
−−−負極の構成−−−
また、本実施形態における負極90は、正極60と同様、カーボン、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンの成型体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属、金属繊維集合体などの多孔性基体を撥水処理したものなどを用いることができる。
【0055】
負極90には、燃料を酸化することが可能な生体物質(例えば酵素)、メディエータのうちどちらかひとつ、もしくは両方を固定化しておく。固定化しなかった場合には、固定化しなかったものを適量燃料に添加することで発電することができる。
【0056】
バイオ燃料電池100の負極90においては、電極への燃料を酸化することができる生体物質の固定化が非常に重要であり、出力特性、寿命、効率などに非常に大きな影響を与えることが知られている。したがって、固定化電極の製造過程において生体物質にダメージをなるべく与えずに固定化することが非常に重要である。従来の固定化方法としては、共有結合法、物理的包括法、ゲル包括法などが知られている。特に光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂による酵素を含む物質の固定化方法は簡便で好ましい。しかしながら電流密度が高くなり、耐久性が向上するのであれば、どのような方法を用いて固定化してもよい。
【0057】
燃料を酸化することができる生体物質であれば、多種類の酵素を負極に固定化してもよく、さらには多種類の酵素を含んだ菌体を固定化してもよい。燃料として用いることができるのは、上記の生体物質によって酸化されるものであれば何でもよい。また、多段階に酸化されるものであってもよい。よくもちいられるものとしては、具体的には、例えば、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、マルトース、スクロース、ラクトースなどが挙げられる。
【0058】
多段階に酸化する例としては、グリセロールから二酸化炭素まで酸化する例(文献例:FUEL CELLS 09, 2009, No. 1, 63-69 Complete Oxidation ofGlycerol in an Enzymatic Biofuel Cell)が報告されており、この報告のように3種類の酵素を負極に固定化しておいてもよい。
【0059】
本実施形態で用いる負極90は交換可能な使い捨てのものであってよく、負極90に固定化してある酵素が徐々に失活し、出力が低下してきた場合には、適切に保存しておいた次の負極90に取替え、再度性能を回復させて使用することが出来る。
【0060】
−−−メディエータの構成−−−
本実施形態のバイオ燃料電池100におけるメディエータとしては、基本的にはどのようなものを用いてもよく、例えば、キノン骨格、ナフトキノン骨格を有する化合物として2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK1などが用いられる。また必要に応じて、アントラキノンやその誘導体を用いることもでき、一種または二種以上の他の化合物を含ませてもよい。これらメディエータは電解重合や、イオンコップレックス法により、負極90に固定化することができる。
【0061】
−−−バイオ燃料電池の形状−−−
本実施形態におけるバイオ燃料電池100は図1、図2にて示した形態のみならず、例えば図6に示すような乾電池の規格に合わせた形状を採用してもよい。例えば、単一電池に模した場合、組み立てたときの大きさが直径33mm程度、高さ60mm程度になるような形状がよい。このとき集電体(負極側集電体30a、正極側集電体50a)はバイオ燃料電池100の筐体外側に出るように配置し、外部に容易に接続できるようにする。
【0062】
−−−他電源との組み合わせ−−−
先行文献(文献例:特開2009-94008、乾電池型燃料電池、乾電池型燃料電池の製造方法)に示されるように、図6に示すバイオ燃料電池100の適宜な空隙部には、当該バイオ燃料電池100から出力される電力によって充電される二次電池を実装してもよい。先行文献においてはバイオ燃料電池全体を交換しなければならないが、本実施形態におけるバイオ燃料電池100では、高価な正極触媒、電解質膜を繰り返し使用できるという点で大きく異なっている。
【0063】
−−−バイオ燃料電池の作成手順例−−−
以下、本実施形態におけるバイオ燃料電池100の作成手順例について説明する。ここでは、一例として、既存のダイレクトメタノール燃料電池の部品を転用して本実施形態のバイオ燃料電池100の部品(図3〜5で示した各部)を作製した。以下、各部品の作製手順につき述べる。
【0064】
1.燃料漏洩防止用ガスケットの作製
0.5mm厚のシリコンシートをクラフト用パンチ(直径7/8インチ)を用いて円形に切り出した。またここで切り出した円形シリコンシートの内部を、負極90のサイズにあわせて円形に切り抜き(直径5/8インチ)、図1、2に見られるようなドーナツ形状の燃料漏洩防止用ガスケット80を作製した。
2.正極の作製
触媒付電極Pt0.5mg/cm2(5×5cm)を、触媒保護シートがついたままクラフト用パンチ(直径7/8インチ)を用いて円形に切り出した。触媒保護シートは実際の正極使用前にはずすこととした。
3.負極の作製
カーボンペーパー、グルコースデヒドロゲナーゼ(PQQ)、アントラキノンー2、6ージスルホン酸2ナトリウム、既存の酵素固定化キット(以下固定化キットと呼ぶ)を採用した。まず、負極の切り出しであるが、カーボンペーパーをクラフト用パンチ(直径5/8インチ)を用いて円形に切り出して負極90に用いることとした。また、酵素・メディエータ混合溶液の準備として、1M リン酸bufffer(pH7.0)を200ml作成し、メディエータ(アントラキノンー2,6−ジスルホン酸2ナトリウム100mg)を加え、室温で攪拌した。攪拌後、0.25μmのフィルターでろ過し、薄黄色の溶液を得た。
【0065】
またグルコースデヒドロゲナーゼ(PQQ) GDH 825U/mg(10mg入り)の容器に100μlの上記溶液を加え、酵素・メディエータ混合溶液を作成した(82.5U/μl)。
続いて、負極への酵素・メディエータの固定化であるが、酵素・メディエータ混合溶液20μlと固定化キット中の4%BIOSURFINE−AWP水溶液20μlを混合して40μlとした後、負極電極表面に滴下し、全体に塗布した。これを37℃で90分間乾燥させた後、UVランプ(固定化キット付属ランプ)を3cm離れたところから5分間照射して架橋し、酵素・メディエータが固定化された負極90を得た。以上と同じ操作を繰り返すことにより、負極90を4枚作成した。1枚を使用し、のこり3枚は4℃の冷蔵庫に保存した。なお、液体燃料溶液は、0.4Mグルコース、1Mリン酸buffer(pH7.0)を作成し、液体燃料として用いることとした。
【0066】
以上のように用意した各部品を用いて、図7に例示するように、正極密着プレート40、正極60、電解質膜70、燃料漏洩防止用ガスケット80を重ねて正極側プレート50にセットし固定した。更に、正極密着プレート40と正極側プレート50とを上述のとおり正極密着用ネジ20で密着させた。また、酵素・メディエータが固定化された負極90を燃料漏洩防止用ガスケット80を介して電解質膜70上に重ね、負極側プレート30により、負極90を電解質膜70と密着させた。これら正極密着プレート40、正極側プレート50、負極側プレート30らの一体化の処理詳細については上述の通りである。
【0067】
−−−出力特性−−−
こうして作製したバイオ燃料電池100において、負極側プレート30の液体燃料貯留部30fに0.4Mグルコース、1Mリン酸buffer(pH7.0)1mlを加え、発電による出力値の測定を行った。負極90、正極60にテスターを繋ぎ、液体燃料添加後の電流値を測定した結果を図8のグラフに示す。このグラフでは、X軸に燃料添加後の経過時間、Y軸にバイオ燃料電池100における出力電流値(μA)をとっている。
【0068】
測定手順としては、まず液体燃料を添加し3時間が経過するまで出力電流値を計測した(1回目)、その後、液体燃料貯留部30fに残る液体燃料を捨て、再度0.4Mグルコース、1Mリン酸buffer(pH7.0)1mlを加え、再び3時間が経過するまで出力電流値を計測した(2回目)。こうした実験の後、バイオ燃料電池100は次回時(3日後)に使用するまで室温に放置しておいた。そして3日後、7日後に、再度同様の実験を実施した。
【0069】
7日後の電流値を測定した後、保存しておいた負極90をバイオ燃料電池100から取り出し、新しいものに交換した。交換方法は図7および上述のとおり、負極密着用ネジ10をゆるめて負極密着用ネジ孔50bから抜き去ることで、一体化している正極側から負極側プレート30を脱着して負極90を取り出す。このとき、Pt触媒の散逸はなく、電解質膜70は繰り返し使用することとした。
【0070】
負極90の交換後、前述と同様に負極側プレート30の液体燃料貯留部30fに0.4Mグルコース、1Mリン酸buffer(pH7.0)1mlを加え、電流を測定した。図8のグラフに示すように、1回目の測定で得られた電流値とほぼ同じ電流値に回復している。つまり、正極触媒の散逸や電解質膜交換を経ずして負極90のみの交換でバイオ燃料電池100の、繰り返し使用が可能となっている。
【0071】
以上説明したように本実施形態によれば、負極を正極と独立して交換することができる構成をもつバイオ燃料電池などの液体燃料電池を使用することによって、負極の劣化にともなう出力の低下時には負極のみを簡便に交換できる。これにより、燃料電池全体の密着を解除することによって起こるような正極触媒の散逸がなくなる。また電解質膜の交換等をする必要もない。
【0072】
すなわち本発明によれば、用意してある負極を新規にセットし、再度密着させるだけで燃料電池を繰り返し使用することができ、また一般の人にとっても燃料電池の簡便、安全な使用が可能となる。
【0073】
また、付加的な効果としては、正極反応を固定し(例えばPt触媒、カーボンアロイ触媒での酸素の還元反応)、負極に用いる酵素そのものや酵素の固定化等を変更して負極の性能を評価する研究において、負極のみ自在に交換可能であるため、効率的な負極の比較、評価を実施することが可能となる。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 負極密着用ネジ
20 正極密着用ネジ
30 負極側プレート
30a 負極側集電体
30b 負極密着用ネジガイド孔
30c 正極密着プレートネジ用貫通部
40 正極密着プレート
40a 正極密着用凸部
40b 負極密着用ネジガイド孔
40c 正極密着用ネジガイド孔
40d 貫通孔
50 正極側プレート
50a 正極側集電体
50b 負極密着用ネジ孔
50c 正極密着プレート用ネジ孔
50d 凹部
60 正極
70 電解質膜
80 燃料漏洩防止用ガスケット
90 負極
100 バイオ燃料電池(液体燃料電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とが電解質膜を介して対向する構造を有する燃料電池であって、負極が正極と独立して取替え交換可能であることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
正極側プレートと正極密着プレートにより、正極、電解質膜および燃料漏洩防止用ガスケットを密着させて組み立ててなり、さらに正極側プレートと負極側プレートにより、前記電解質膜および負極を密着させて組み立ててなり、前記電解質膜および負極の密着を解除しても前記正極、電解質膜および燃料漏洩防止用ガスケットの密着が維持されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
少なくとも以下のいずれかの構成を有することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
・ 前記正極がカーボンペーパー又はカーボンクロスである
・ 前記電解質膜が固体高分子電解質膜である
・ 前記正極に貴金属触媒が付与されている
【請求項4】
前記負極には燃料を酸化することが可能な生体物質またはメディエータ又はその両方が固定化されたことを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−165464(P2011−165464A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26366(P2010−26366)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】