説明

燃料電池

【課題】本発明は、燃料電池に関し、ガス流路の出口付近において、酸化剤ガスの十分な供給を可能とする燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】セパレータ30のカーボンペーパー28側の表面には、酸化剤ガスとしての空気を流通させるための酸化剤ガス流路32が形成されている。酸化剤ガス流路32の下流側においては、上流側に比べ、生成水の量が多く、酸素濃度が低いので、酸素分圧としては低くなっている。そこで、酸化剤ガス流路32の下流側に対向するカソード触媒層16の表面(A)に、他の部位のアイオノマーよりも酸素溶解度が高いアイオノマーを設ける。酸素溶解度が高いアイオノマーを設けることで、酸素分圧の低下分を補完できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関し、より詳細には、固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、触媒層が、EW(Equivalent Weight:イオン交換当量)の異なる2種類のアイオノマーにより被覆された燃料電池の電極が開示されている。EWはアイオノマーの特性を表す指標であり、一般に低いほどプロトン伝導性や親水性が高いと言える。そのため、EWの高いアイオノマーで触媒を被覆し、それらをEWの低いアイオノマーで更に被覆するような構成とすれば、各アイオノマーの特性の利点を活用できる。具体的に、低EWのアイオノマーにプロトン伝導の役割を担わせ、高EWのアイオノマーに排水の役割を担わせることが可能となる。従って、低電流密度から高電流密度まで安定した電池電圧を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−284087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、固体高分子型燃料電池は、上記の様な触媒層と、電解質膜とからなる膜電極接合体を一対のセパレータによって挟持した構成となっている。各セパレータには、燃料ガスや酸化剤ガスの入口部と出口部とが形成されている。また、各セパレータの表面には、各電極にこれらガスをそれぞれ供給するための流路が形成されている。そのため、外部から供給された燃料ガスや酸化剤ガスは、セパレータの入口部から流入し、表面を流れて触媒層に供給される。触媒層に供給されれば電気化学反応が起こり、アノード側ではプロトンが、カソード側では水がそれぞれ生じる。
【0005】
ここで、カソード側セパレータの表面に形成されたガス流路に着目する。酸化剤ガスは、触媒層に供給されるに従い、濃度が薄まりながらこのガス流路を流れる。ところが、このガス流路には、電気化学反応で生じた生成水も流れている。従って、ガス流路においては、その出口方向ほど高加湿、低酸化剤ガスの環境にあると言える。そのため、より良好な電池電圧を得るためには、ガス流路が形成されたセパレータ表面の環境を考慮することが望ましい。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のアイオノマーは、このようなセパレータ表面の環境を考慮したものではない。従って、ガス流路の出口付近において、酸化剤ガスが十分に触媒層に供給されない可能性がある。よって、必ずしも安定した電池電圧を得られるとは限らず、例えば燃料電池の高負荷運転時に、電池電圧が低下する可能性があった。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ガス流路の出口付近において、酸化剤ガスの十分な供給を可能とする燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池であって、
表面にガス流路が形成されたセパレータと、
前記ガス流路の形成面とガス拡散層を介して対向配置され、酸素溶解度の異なる複数のアイオノマーにより表面が被覆されたカソード触媒層と、を備え、
前記カソード触媒層のセパレータ対向面において、前記ガス流路の出口部を含む所定の領域が、前記複数のアイオノマーの内で最も酸素溶解度の高いアイオノマーにより形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記所定の領域が、前記出口部から上流側に遡った流域を含んだ前記セパレータ対向面の総面積の1/6〜1/3を占めることを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記所定の領域において、前記カソード触媒層中のカーボンに対するアイオノマーの重量比率が0.5〜0.8であることを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池であって、
表面にガス流路が形成されたセパレータと、
前記ガス流路の形成面とガス拡散層を介して対向配置され、酸素溶解度の異なる複数のアイオノマーにより表面が被覆されたカソード触媒層と、を備え、
前記カソード触媒層のセパレータ対向面において、前記ガス流路の出口部を含む所定の下流域を形成するアイオノマーの酸素溶解度が、前記ガス流路の入口部を含む所定の上流域を形成するアイオノマーの酸素溶解度よりも高いことを特徴とする。
【0012】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記所定の下流域が、前記出口部から上流側に遡った流域を含んだ前記セパレータ対向面の総面積の1/6〜1/3を占め、前記所定の上流域が、前記入口部から下流側の流域を含んだ前記セパレータ対向面の総面積の5/6〜2/3を占めることを特徴とする。
【0013】
また、第6の発明は、第4または第5の発明において、
前記所定の上流域および前記所定の下流域において、前記カソード触媒層中のカーボンに対するアイオノマーの重量比率が0.5〜0.8であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1乃至第4の発明によれば、ガス流路の出口付近において、酸化剤ガスの十分な供給を可能な燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の燃料電池10の断面構成の模式図である。
【図2】セパレータ30側から見た燃料電池10の分解斜視図である。
【図3】酸素透過係数の異なるアイオノマーを使用したMEAに対し、加湿感度の試験を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0017】
[燃料電池10の構成]
図1は、本実施形態の燃料電池10の断面構成の模式図である。図1に示すように、燃料電池10は、電解質膜12の両側に、これを挟むようにアノード触媒層14、カソード触媒層16が、それぞれ設けられている。アノード触媒層14の外側には、カーボン層18、カーボンペーパー20、セパレータ22がこの順に設けられている。同様に、カソード触媒層16の外側には、カーボン層26、カーボンペーパー28、セパレータ30がこの順に設けられている。電解質膜12と、これを挟む一対のアノード触媒層14、カソード触媒層16とにより、MEA34が構成される。
【0018】
電解質膜12は、プロトンをアノード触媒層14からカソード触媒層16へ伝導する役割をもつプロトン交換膜である。電解質膜12の膜厚は特に限定されないが、通常、1〜100μm程度である。電解質膜12は、炭化水素系の高分子電解質が膜状に形成されたものである。
【0019】
炭化水素系の高分子電解質としては、(i)主鎖が脂肪族炭化水素からなる炭化水素系高分子、(ii)主鎖が脂肪族炭化水素からなり、主鎖の一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換された高分子や、(iii)主鎖が芳香環を有する高分子等が挙げられる。また、高分子電解質としては、酸性基を有する高分子電解質、塩基性基を有する高分子電解質のいずれも用いることができる。このうち、酸性基を有する高分子電解質を用いると、発電性能に優れた燃料電池が得られる傾向にあるため好ましい。酸性基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基などが挙げられる。このうち、スルホン酸基又はホスホン酸基が好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。
【0020】
このような電解質膜12としては、具体的に、NAFION(デュポン社、登録商標)、FLEMION(旭硝子(株)、登録商標)、ACIPLEX(旭化成ケミカルズ(株)、登録商標)等が挙げられる。
【0021】
アノード触媒層14、カソード触媒層16は、実質的に、燃料電池の電極として機能する層である。アノード触媒層14、カソード触媒層16の両方には、カーボン粒子に担持された触媒が設けられている。
【0022】
アノード触媒層14、カソード触媒層16に使用されるカーボン粒子としては、カーボンブラックが最も一般的であるが、その他にも黒鉛、炭素繊維、活性炭等やこれらの粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等が使用できる。
【0023】
また、アノード触媒層14、カソード触媒層16に使用される触媒としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等が使用できる。これらの金属は、単独で用いてもよいし、2種類以上を同時に用いてもよい。
【0024】
アノード触媒層14、カソード触媒層16には、上記触媒を被覆するようにアイオノマーが設けられている。アイオノマーとしては、プロトン導電性を有する高分子材料であって、例えば電解質膜12として挙げた炭化水素系の高分子電解質が用いられる。また、カソード触媒層16のうち、(A)で図示する箇所には、他の部位のアイオノマーよりも酸素溶解度が高いアイオノマーが設けられている。酸素溶解度が高いアイオノマーを設ける点に関しては、後述する。
【0025】
カーボン層18,26は、反応ガスや水をその厚み方向に通過可能にする無数の孔を有する多孔質カーボンから構成される。カーボン層18,26は、アノード触媒層14、カソード触媒層16に反応ガスを均一に拡散させると共に、MEA34の乾燥を抑制する機能を有する。カーボン層18,26としては、ポリイミドを炭化したもの、カーボンブラックとフッ素樹脂との混合物やカーボン不織布にフッ素をコートしたものが使用できる。
【0026】
カーボンペーパー20,28は、カーボン層18,26と共に、燃料電池のガス拡散層として機能する。カーボンペーパー20,28は、反応ガスや水をその厚み方向に通過可能にする無数の孔を有する多孔質カーボンから構成される。尚、本実施形態ではカーボンペーパー20,28を使用しているが、通気性、通水性および弾性を有する他の材料を使用してもよい。他の材料としては、金属や導電性樹脂からなる導電性繊維の織布又は不織布、若しくは通気性を有する程度に気孔が連通した導電性発泡シートなどが挙げられる。
【0027】
セパレータ22,30は、電子伝導性を有する材料から構成されている。セパレータ22,30に使用できるこのような材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。セパレータ22のカーボンペーパー20側の表面には、燃料ガスとしての水素を流通させるための燃料ガス流路24が形成されている。同様に、セパレータ30のカーボンペーパー28側の表面には、酸化剤ガスとしての空気を流通させるための酸化剤ガス流路32が形成されている。
【0028】
尚、図1においては、上記のように構成されたMEA34と、その両側に配置されたカーボン層18,26、カーボンペーパー20,28とから構成される積層体を1組のみ図示したが、実際の燃料電池10は、この積層体がセパレータ22,30を介して複数積層されたスタック構造を有している。
【0029】
次に、図2を用いて、燃料ガスおよび酸化剤ガスの流れを示しながら、アノード、カソードの両極で進行する電気化学反応について説明する。図2は、セパレータ30側から見た燃料電池10の分解斜視図である。
【0030】
先ず、アノード側で進行する電気化学反応について説明する。水素は、圧力および供給量が調整された状態で、セパレータ30に形成された燃料ガス通過口30aを経由して、セパレータ22に形成された燃料ガス流入口22aに供給される。燃料ガス流入口22aから流入した水素は、燃料ガス流路24を流れ、カーボンペーパー20及びカーボン層18の細孔を経由してアノード触媒層14に流入する。そして、アノード触媒層14において、水素からプロトンを生成する反応が進行する(H→2H+2e)。未反応の水素は、燃料ガス流入口22a同様にセパレータ22に形成された燃料ガス排出口(図示しない)、セパレータ30に形成された燃料ガス通過口30bの順に流れ、燃料電池10の外部に排出される。
【0031】
次に、カソード側で進行する電気化学反応について説明する。空気は、圧縮された状態でセパレータ30に形成された酸化剤ガス流入口30cに供給される。酸化剤ガス流入口30cから流入した空気は、酸化剤ガス流路32を流れ、カーボンペーパー28及びカーボン層26の細孔を経由してカソード触媒層16側に流入する。そして、カソード触媒層16において、アノード触媒層14側から運搬されてきたプロトンと、空気中の酸素とから水を生成する反応が進行する(4H+O+4e→2HO)。未反応の酸素は、酸化剤ガス流路32を流れ、セパレータ30に形成された酸化剤ガス排出口30dを経由して燃料電池10の外部に排出される。
【0032】
ここで、未反応の酸素の流れと、上記反応により生じた生成水の流れについて説明する。未反応の酸素は、酸化剤ガス流路32を流れるに従って徐々に上記反応に供される。よって、酸化剤ガス流路32においては、その下流側ほど酸素の濃度が低くなる。一方、生成水は、カソード触媒層16側に流入する酸素と反対の経路を流れる。即ち、カーボン層26及びカーボンペーパー28の細孔を経由して酸化剤ガス流路32に流入する。そして、生成水は、未反応の酸素と共に酸化剤ガス流路32の下流側へ流れていく。従って、酸化剤ガス流路32の下流側ほど生成水が多く存在することになる。
【0033】
酸化剤ガス流路32の下流側ほど酸素の濃度が低く、生成水が多く存在することから、カソード触媒層16の面方向(面水平方向、面鉛直方向)においては、酸化剤ガス流路32の下流の対向面ほど酸素が反応しにくい環境にあることが分かる。
【0034】
ところで、カソード触媒層16においては、異常電位に伴いカーボン粒子が消失するという問題がある。ここで、異常電位とは、上述した電気化学反応により、カソードが極端に高電位に達した場合に起こる現象であり、特に燃料電池の車載時に起こり易い。これは、燃料電池が様々な使用・放置環境にさらされるためと考えられている。異常電位に達すると、カーボン粒子が水と反応して二酸化炭素に変化して消失してしまう。カーボン粒子が消失すれば、例えば、触媒を担持できなくなるので、カソード触媒層16から触媒が脱離し消失する可能性もある。
【0035】
異常電位に伴うカーボン粒子の消失を抑制するために、カソード触媒層16には高結晶化されたカーボン粒子が使用されている。しかしながら、その一方で、高結晶化カーボン粒子は、高結晶化されているが故に、通常のカーボン粒子に比べて活性点が少ない。そのため、高結晶化カーボン粒子に触媒を担持させようとしても、十分に分散できずに触媒粒径が大きくなる傾向がある。触媒粒径が大きくなれば、触媒表面積としては狭くなるので、電圧特性の低下に繋がる可能性が高くなる。
【0036】
また、異常電位に関して言えば、触媒が溶出するという問題もある。これは、異常電位に達した結果、触媒がイオン化したことに起因するものである。触媒が溶出し、燃料電池の外部に流出した場合には、カソード触媒層16の触媒表面積としては狭くなる。従って、電圧特性の低下に繋がる可能性が高くなる。
【0037】
電圧特性に関して、一般に、燃料電池の限界電流iORRは次式で表される。
【数1】

上式から、iまたは酸素分圧PO2を向上させれば、限界電流iORRを向上できることが分かる。このうち、iは、触媒の活性に関するパラメータであるので、同一の触媒を使用する場合には変わらない。しかしながら、触媒の使用量を減らした場合、当然、触媒表面積が狭くなる。従って、限界電流iORRの低下に繋がる可能性が高くなる。そこで、使用量低減による限界電流iORR低下を補完するためにも、酸素分圧PO2を向上させることが望ましいことになる。このことは、酸化剤ガス流路32の下流側に対向するカソード触媒層16の対向面においては、特に望ましい。上述したように、酸化剤ガス流路32の下流側においては、上流側に比べ、生成水の量が多く、酸素濃度が低い。そのため、酸素分圧としては低くなっているので、酸化剤ガス流路32の下流側対向面において限界電流iORRの低下が生じ易いからである。
【0038】
そこで、本実施形態においては、この下流側対向面に、酸素溶解度の高いアイオノマーを用いることとした。具体的には、図2に示す領域(A)に酸素溶解度の高いアイオノマー(以下、「アイオノマー(a)」とも言う。)を設け、領域(A)以外の領域(B)にそれよりも低いアイオノマー(以下、「アイオノマー(b)」とも言う。)を設ける。このように、領域(A)にアイオノマー(a)を設けることで、酸素の反応性を高めることができる。従って、仮に、上述した各種影響によって触媒表面積が狭くなったとしても、限界電流iORRの低下を抑制することが可能となる。
【0039】
アイオノマー(a)を設ける面積は、下流側対向面の総面積の1/6〜1/3であることが好ましい。領域(A)の占有面積を上記範囲とすれば、限界電流iORRの低下を良好に抑制できるので、安定した電圧特性を得ることが可能となる。
【0040】
図3は、酸素透過係数の異なるアイオノマーを使用したMEAに対し、加湿感度の試験を行った結果を示す図である。試験は、MEAを単セルに組み込み、両極に水素及び空気を60℃に加湿して供給し、電流密度1.5A/cmの際の電圧を測定することで行った。セル温度は、40℃、50℃、60℃、65℃と変化させた。MEAは、酸素透過係数6.0×10−12および2.8×10−11(単位は何れもcm・cm/cm・s・Pa)のアイオノマーからそれぞれ作製した。
【0041】
図3から、セル温度が低いほど、即ちMEAとしては高加湿状態であるほど、性能差が大きくなることが分かる。本試験においては、酸素分圧は同じであるので、アイオノマーの酸素溶解拡散性が性能差に起因していることが推定される。そして、酸化剤ガス流路32の下流側対向面での環境は、過加湿環境化にある。従って、カソード触媒層16において、酸化剤ガス流路32の下流側対向面に酸素溶解度の高いアイオノマーを適用することで、電圧特性の向上が期待できる。
【0042】
[燃料電池10の製造方法]
次に、本実施形態の燃料電池10の製造方法について説明する。燃料電池10の製造に際しては、先ず、触媒を担持するための担持用カーボン粒子を用意する。次に、この担持用カーボン粒子上に、触媒金属を溶液中で担持させる。触媒金属を担持させる方法としては、担持用カーボン粒子を、触媒金属を含む化合物の溶液中に分散させて、含浸法や共沈法、あるいはイオン交換法を行う方法が挙げられる。その後、溶媒を乾燥・焼成することにより触媒粒子を分散担持するカーボン粒子が得られる。
【0043】
例えば、触媒に白金を用いる場合、触媒金属を含む化合物の溶液としては、テトラアミン白金塩溶液やジニトロジアンミン白金溶液、白金硝酸塩溶液、塩化白金酸溶液などを用いることができる。そして、例えば、含浸法による場合では、カーボン粒子を、上記白金塩溶液中に分散させた後に、溶媒を蒸発させて乾燥し、還元処理する。これにより、カーボン粒子に白金粒子を担持させることができる。
【0044】
続いて、触媒担持カーボン粒子を適当な水及び溶剤中に分散させ、その中にアイオノマー(a)またはアイオノマー(b)を添加し、インク(a)またはインク(b)を作製し、マスキングプレートを用いてポリテトラフルオロエチレン等の基材上にこれらのインク(a)、インク(b)を塗工した後に乾燥させる。これにより、触媒担持カーボン層の所望箇所を、アイオノマー(a)、(b)でそれぞれ被覆したカソード触媒層16を作製する。アノード触媒層14は、アイオノマー(a)、(b)何れか一方を含む溶液または他のアイオノマーを含む溶液を触媒担持カーボン層の表面に塗布し、溶液中の溶媒を除去することで作製する。
【0045】
また、各溶液の塗布に際しては、塗布箇所の触媒層中のカーボンに対するアイオノマーの重量比率(I/C)が0.5〜0.8となるように塗布することが好ましい。具体的に、カソード触媒層16において、アイオノマー(a)の塗布箇所のI/C、アイオノマー(b)の塗布箇所のI/Cが、それぞれ上記範囲となるように塗布することが好ましい。アノード触媒層14においても同様である。一般に、I/Cを大きくすると、プロトン伝導性は高くなるが、反応物や生成物の物質拡散が遅くなる。逆に、I/Cを小さくすると、物質拡散速度が高くなるが、プロトン伝導性が低くなる。本実施の形態では、I/Cを上記範囲とすることで、プロトン伝導性と、反応物や生成物の物質拡散とのバランスを取ることができるので好ましい。
【0046】
続いて、アノード触媒層14およびカソード触媒層16を電解質膜12にホットプレスする。ホットプレスは、例えば、電解質膜12を構成する高分子のガラス転移点以上に電解質膜12側を加温しながら両触媒層側と接合する。具体的に、電解質膜12にNAFION(登録商標)を用いた場合には、ガラス転移温度が120〜130℃付近であるため、電解質膜12側を120℃〜170℃に加温し、両触媒層側を60℃〜120℃に加温する。これにより、MEA34を作製する。
【0047】
続いて、MEA34の両側にカーボン層18,26およびカーボンペーパー20,28を積層する。具体的には、先ず、カーボンペーパー20(または28)上に、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン分散液とを混合した溶液を塗布し、乾燥、焼成してカーボン層18(または26)を形成する。次に、カーボン層18をアノード触媒層14の側面に配置し、カーボン層26をカソード触媒層16の側面に配置する。これにより、MEA34と、その両側に配置されたカーボン層18,26、カーボンペーパー20,28とから構成される積層体を作製する。
【0048】
続いて、一対のセパレータ22,30で、上記積層体を挟持する。この際、アイオノマー(a)を設けた領域が、酸化剤ガス排出口30d側に位置するようにセパレータ30を配置する。以上により、セパレータ30の酸化剤ガス流路の下流側対向面に、酸素溶解性の高いアイオノマーを設けた燃料電池10が製造できる。
【符号の説明】
【0049】
10 燃料電池
12 電解質膜
14 アノード触媒層
16 カソード触媒層
18,26 カーボン層
20,28 カーボンペーパー
22,30 セパレータ
24 燃料ガス流路
30a 燃料ガス通過口
30b 燃料ガス通過口
30c 酸化剤ガス流入口
30d 酸化剤ガス排出口
32 酸化剤ガス流路
34 MEA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にガス流路が形成されたセパレータと、
前記ガス流路の形成面とガス拡散層を介して対向配置され、酸素溶解度の異なる複数のアイオノマーにより表面が被覆されたカソード触媒層と、を備え、
前記カソード触媒層のセパレータ対向面において、前記ガス流路の出口部を含む所定の領域が、前記複数のアイオノマーの内で最も酸素溶解度の高いアイオノマーにより形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記所定の領域が、前記出口部から上流側に遡った流域を含んだ前記セパレータ対向面の総面積の1/6〜1/3を占めることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記所定の領域において、前記カソード触媒層中のカーボンに対するアイオノマーの重量比率が0.5〜0.8であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
表面にガス流路が形成されたセパレータと、
前記ガス流路の形成面とガス拡散層を介して対向配置され、酸素溶解度の異なる複数のアイオノマーにより表面が被覆されたカソード触媒層と、を備え、
前記カソード触媒層のセパレータ対向面において、前記ガス流路の出口部を含む所定の下流域を形成するアイオノマーの酸素溶解度が、前記ガス流路の入口部を含む所定の上流域を形成するアイオノマーの酸素溶解度よりも高いことを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
前記所定の下流域が、前記出口部から上流側に遡った流域を含んだ前記セパレータ対向面の総面積の1/6〜1/3を占め、前記所定の上流域が、前記入口部から下流側の流域を含んだ前記セパレータ対向面の総面積の5/6〜2/3を占めることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記所定の上流域および前記所定の下流域において、前記カソード触媒層中のカーボンに対するアイオノマーの重量比率が0.5〜0.8であることを特徴とする請求項4または5に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−171253(P2011−171253A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36401(P2010−36401)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】