説明

燃料電池

【課題】触媒層カーボンの酸化を抑制しつつ、犠牲酸化による強度低下等を抑制する。
【解決手段】MEA10と、ガス拡散シート12と、セパレータ20とを備える燃料電池セルにおいて、ガス拡散シート12の発電面内に、セパレータ20の水素含有ガス流路として機能する凹部22aの延在方向に略垂直となるように、触媒層カーボンよりも低結晶化度のカーボンを犠牲剤として添加する。冷媒流路24として機能する凸部24がリブとして機能し、犠牲酸化に伴う強度低下を補強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池に関し、特に触媒層のカーボンの酸化抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池では、プロトン伝導性を備えた固体高分子電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散層が順に積層された構成を有する。このような固体高分子型燃料電池では、燃料欠乏時にはアノード側においてプロトン生成のために発電生成水の電気分解反応が生じ、この電気分解反応により電解質膜にプロトンを供給することができるが、水の電気分解反応が進行しなくなると燃料極が酸化により劣化するおそれがある。
【0003】
下記の特許文献1には、燃料電池用燃料極が、水素のプロトン化を促進するためのアノード触媒層と、燃料ガスを拡散するためのガス拡散層と、水電解触媒を含有する複数の水電解触媒層とを備え、複数の水電解触媒層をアノード触媒層とガス拡散層との間に積層する構成が開示されている。水電解触媒層により、燃料欠乏時に水の電気分解を促進して触媒層の劣化、具体的には触媒層のカーボンの酸化を抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−265929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、長期間の使用により水電解触媒層が溶出、酸化するおそれがあり、その触媒機能が低下して触媒層のカーボンの酸化が進んでしまうおそれがある。勿論、長時間の使用を前提として、水電解触媒の添加量を増大させることも考えられるが、触媒層に燃料電池反応に寄与しない材料を大量に添加すると、ガス拡散性やプロトン伝導性を阻害するおそれがあるため、そのバランスを調整するのが困難である。
【0006】
そこで、ガス拡散層の基材中に触媒層のカーボンよりも結晶化度の低いカーボンを混入させることで、結晶化度の低いカーボンを触媒層のカーボンよりも選択的ないし優先的に酸化させ(犠牲酸化)、結果として触媒層のカーボンの酸化を抑制する方法が考えられる。
【0007】
但し、この場合においても、犠牲酸化の進行に伴ってガス拡散性の阻害やガス拡散層の強度低下が生じ得るため、ガス拡散層内において均一に犠牲酸化を生じさせることが好ましい。すなわち、水素湿潤状態や電位状況により犠牲酸化の程度にばらつきが生じ得るので、このばらつきを考慮して犠牲酸化を生じさせる必要がある。
【0008】
本発明の目的は、ガス拡散層の強度低下等を抑制しつつ、触媒層カーボンの酸化を抑制することができる燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、燃料電池であって、アノード触媒層と、前記アノード触媒層に隣接形成され、水素含有ガスを拡散させて前記アノード触媒層に供給するガス拡散層と、前記ガス拡散層に隣接形成され、前記ガス拡散層に前記水素含有ガスを供給するセパレータとを備え、前記セパレータは、表面に凹凸が形成され、凹部において前記水素含有ガス流路が形成されるとともに凸部において冷媒流路が形成され、前記ガス拡散層の発電面内には、前記アノード触媒層のカーボンよりも相対的に低結晶化度のカーボンが添加されて犠牲酸化領域として機能し、かつ、前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記水素含有ガス流路の延在方向に対して一定の角度をなすように形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記水素含有ガス流路の延在方向に対して略垂直となるように形成される。
【0011】
また、本発明は、燃料電池であって、アノード触媒層と、前記アノード触媒層に隣接形成され、水素含有ガスを拡散させて前記アノード触媒層に供給するガス拡散層と、前記ガス拡散層に隣接形成され、前記ガス拡散層に前記水素含有ガスを供給するセパレータとを備え、前記セパレータは、表面に凹凸が形成され、凹部において前記水素含有ガス流路が形成されるとともに凸部において冷媒流路が形成され、前記ガス拡散層の発電面内には、前記アノード触媒層のカーボンよりも相対的に低結晶化度のカーボンが添加されて犠牲酸化領域として機能し、かつ、前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記凸部に対向する領域に形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明の1つの実施形態では、前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記発電面内において相対的に電流密度が大きい領域において相対的にその面積を小さく、相対的に電流密度が小さい領域において相対的にその面積を大きく形成される。
【0013】
また、本発明の他の実施形態では、前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記発電面内において相対的に電流密度が大きい領域において相対的に添加量が少なく、相対的に電流密度が小さい領域において相対的に添加量が大きく設定される。
【0014】
本発明において、前記ガス拡散層の発電面内には、前記アノード触媒層のカーボンよりも相対的に低結晶化度のカーボンとともに電解質が添加されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガス拡散層の強度低下等を抑制しつつ、アノード触媒層のカーボン酸化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】燃料電池セルの断面図である。
【図2】ガス拡散シートとセパレータの一部拡大斜視図である。
【図3】ガス拡散シートへの低結晶化度カーボンの添加説明図である。
【図4】ガス拡散シートへの低結晶化度カーボンと電解質の添加説明図である。
【図5】ガス拡散シートの平面図である。
【図6】ガス拡散シートとセパレータの他の一部拡大斜視図である。
【図7】ガス拡散シートの他の平面図である。
【図8】発電面の電流密度分布を示す説明図である。
【図9】電流密度が大における領域説明図である。
【図10】電流密度が小における領域説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。但し、以下に示す実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
1.基本原理
本実施形態における基本原理は、ガス拡散層の発電面内に、触媒層のカーボンよりも相対的に結晶化度の低いカーボンを添加し、低結晶化度カーボンを犠牲酸化させることで触媒層の酸化を抑制する技術を前提とし、低結晶化度カーボンを添加する領域、すなわち犠牲酸化させる領域の形成位置やその大きさを調整するものである。
【0019】
ガス拡散層に添加した低結晶化度カーボンの犠牲酸化により、触媒層のカーボンの酸化を抑制することができるが、同時に、犠牲酸化によってガス拡散層の強度が低下する、あるいはガス拡散性が低下するおそれがある。
【0020】
一方、燃料電池セルは、膜電極接合体(MEA)を一対のセパレータで挟持して構成され、ガス拡散層はセパレータに当接して存在するから、セパレータによりガス拡散層を支持し、ガス拡散層の強度を補強することができる。セパレータには、その表面に凹凸が形成され、凹部において燃料ガスとしての水素含有ガス流路を形成し、凸部において冷媒流路を形成する。また、セパレータの凸部は、リブとしても機能し得る。
【0021】
そこで、ガス拡散層に犠牲酸化される領域を形成する際に、このリブを基準とし、このリブに対して一定の関係を有するように形成する。具体的には、リブに対して一定の角度をなすように犠牲酸化される領域を形成することで、たとえ犠牲酸化により部分的に強度が低下しても、セパレータのリブによりガス拡散層の強度が補強される。例えば、犠牲酸化される領域の延在方向を、リブの延在方向に対して略垂直とすることで、犠牲酸化による強度低下の影響を抑えることができる。リブは水素含有ガス流路も同時に規定するから(リブと水素含有ガス流路は凹凸の関係にあるため)、水素含有ガス流路を基準とし、水素含有ガス流路に対して一定の角度をなすように犠牲酸化領域を形成するということもできる。
【0022】
また、犠牲酸化によるガス拡散性の低下に対しては、ガス拡散性の低下が発電性能にできるだけ影響を与えないように犠牲酸化される領域を形成する。発電面の発電性能は必ずしも均一ではなく、種々の原因により発電性能がばらつき、電流密度が相対的に大きい領域と小さい領域が存在する。発電面に対応するガス拡散シートの領域のうち、相対的に電流密度の大きい領域では、犠牲酸化によるガス拡散性の低下が発電性能に与える影響が相対的に大きいことから、犠牲酸化される領域を小さく設定する。他方、発電面に対応するガス拡散シートの領域のうち、相対的に電流密度の小さい領域では、犠牲酸化によるガス拡散性の低下が発電性能に与える影響が相対的に小さいことから、犠牲酸化される領域を大きく設定する。
【0023】
以上の原理により、犠牲酸化により触媒層カーボンの酸化を抑制するとともに、犠牲酸化に伴うガス拡散層の強度低下やガス拡散性の低下を抑制することができる。
【0024】
以下、本実施形態について、より具体的に説明する。なお、本実施形態における「結晶化度」とは、高分子が部分的に結晶化している場合において、結晶化された部分の全体に対する割合を意味するものである。
【0025】
2.第1実施形態
本実施形態における燃料電池のセルの基本構成は、以下の通りである。すなわち、電極としてそれぞれ機能する一対の触媒層(アノード触媒層及びカソード触媒層)で電解質膜を挟んで形成された膜電極接合体(MEA)の両面に、それぞれ炭素繊維からなる層と撥水層とが積層してなるガス拡散層が設けられ、さらに膜電極接合体とそれぞれのガス拡散層を挟むようにそれぞれセパレータが配置されて形成される。炭素繊維からなる層は、炭素繊維の集合体からなり、この炭素繊維の集合体が撥水層に接合されて、ガス拡散層が形成される。燃料ガスとしての水素含有ガスが供給されるガス拡散層はアノード側ガス拡散層として機能し、空気等の酸化剤ガスが供給されるガス拡散層はカソード側ガス拡散層として機能する。
【0026】
水素含有ガスは、燃料ガス流路を通ってアノード側電極に供給され、電極の触媒の作用により電子と水素イオンに分解される。電子は外部回路を通ってカソード側電極に移動する。一方、水素イオンは電解質膜を通過してカソード電極に達し、酸素および外部回路を通ってきた電子と結合し、反応水になる。カソード電極側の生成水は、カソード側から排出される。
【0027】
次に、本実施形態の構成について、具体的に説明する。
【0028】
図1に、本実施形態における燃料電池の断面構成を示す。燃料電池は、セパレータ20、セパレータ30、多孔質体層34、ガス拡散シート14、MEA10、ガス拡散シート12、セパレータ20、セパレータ30を順次積層して構成される。図において、MEA10を基準としてその下側に位置するガス拡散シート12、セパレータ20、セパレータ30がアノード側、MEA10を基準としてその上側に位置するセパレータ20、セパレータ30、多孔質体層34、ガス拡散シート14がカソード側である。ガス拡散シート14、MEA10、ガス拡散シート12は互いに接合される。
【0029】
セパレータ20及びセパレータ30は、矩形状の外形を有しており、外周側には複数の貫通孔が設けられて各種マニホールドが形成される。セパレータ20は、1枚の金属板をプレス加工することにより形成され、表面と裏面との間で凹凸形状が反転する。セパレータ20は、凹部22aと凹部22bとを有する。セパレータ20を平面視した場合、凹部22aと凹部22bはそれぞれ櫛状のパターンとなっており、2つの櫛状のパターンが互いに噛み合うように配置される。アノード側のセパレータ20の外周側に設けられた貫通孔により形成されるマニホールドを介して凹部22aには高圧の水素ガスが供給される。また、凹部22bは、セパレータ20の外周側に設けられた他の貫通孔により形成されるマニホールドを介してアノードガス排気系に接続される。従って、凹部22aに供給された水素ガスは、セパレータ20に接するガス拡散シート12を経由して隣接する凹部22bに流れ込む。この流れの過程で、ガス拡散シート12からMEA10のアノード側電極触媒層に水素が供給される。また、セパレータ20の凸部24は、セパレータ面内を蛇行して形成され、セパレータ30とともに冷却水等の冷媒を流す冷媒流路として機能する。
【0030】
このような構成において、アノード側のガス拡散層であるガス拡散シート14に、MEA10の触媒層カーボンよりも相対的に結晶化度の低いカーボンを添加し、このガス拡散シート14に添加したカーボンを選択的または優先的に酸化させて(犠牲酸化)、触媒層カーボンの酸化を抑制する。さらに、ガス拡散シート14に相対的に結晶化度の低いカーボンを添加する際には、均一に添加するのではなく、燃料ガスとしての水素含有ガスの流路を基準とし、これに対して一定の関係となるように添加する。
【0031】
図2に、図1におけるガス拡散シート12とセパレータ20の一部拡大斜視図を示す。セパレータ20は、上記のように水素含有ガスが流れる凹部22aと冷媒流路としての凸部24を備える。そして、水素含有ガスが流れる凹部22aの延在方向に対し、略垂直方向に低結晶化度カーボンをガス拡散シート12に添加する。図において、ガス拡散シート12に形成されるストライプ状の領域50は、低結晶化度カーボンが添加された領域を示す。
【0032】
結晶化度の低いカーボンを犠牲酸化させることで、触媒層のカーボンの酸化を抑制することができるが、犠牲酸化の進行に伴ってガス拡散シート12の強度低下が生じ得るが、このように凹部22aの延在方向に対して略垂直にカーボンを添加することにより、たとえガス拡散シート12の強度が部分的に低下しても、セパレータ20の凸部24がリブとして機能し、このリブに対して略垂直な方向に強度低下が生じることとなるから、ガス拡散シート12の全体強度低下を抑制することができる。
【0033】
図3に、領域50を模式的を示す。ガス拡散シート12は、カーボン繊維12aと、カーボン繊維12aを結着するバインダ12bを備えるが、このバインダ12bに低結晶度カーボン12cを犠牲剤として添加する。触媒層カーボンとしてVulcan(バルカン)を用いた場合、これよりも相対的に低結晶化度のカーボンとしては、例えばKetjen Black(ケチェンブラック)を用いることができる。
【0034】
なお、本実施形態では、ガス拡散シート12に相対的に低結晶化度カーボンを添加しているが、低結晶化度カーボンに加え、ガス拡散シート12に電解質を含有させてもよい。電解質を含有させることで、アノードの水素欠時において、
C+HO→CO+4H+4e
の反応をガス拡散シート12内で促進することができる。
【0035】
図4に、この場合の領域50の模式図を示す。ガス拡散シート12は、カーボン繊維12aと、カーボン繊維12aを結着するバインダ12bを備えるが、さらに低結晶化度のカーボン12cと電解質12dを混合したものをカーボン繊維12aにコーティングする。低結晶化度カーボン12cとしては、図3と同様にKetjen Black(ケチェンブラック)を用いることができ、電解質12dとしては、Nafion(登録商標)(ナフィオン)等のアイオノマを用いることができる。
【0036】
このように、本実施形態では、ガス拡散シート12に添加する低結晶化度カーボン、あるいは低結晶化度カーボンと電解質の混合物を、水素含有ガスの流路に対して略垂直となるようにストライプ状に形成することで、犠牲酸化に伴うガス拡散シート12の強度低下を抑制することができる。ここで、「略垂直」とは、必ずしも厳密な意味における垂直を要求するものではなく、水素含有ガス流路とストライプ状の領域50とのなす角度が90度近傍であってもよいことを意味するものである。さらに、水素含有ガス流路とストライプ状の領域50とのなす角度は、必ずしも略垂直である必要はなく、平行ではなく一定の角度を有していればよい。
【0037】
図5に、ストライプ状の領域50の形成例を示す。図5(a)は、水素含有ガス流路とストライプ状の領域50とのなす角度θ、すなわち、水素含有ガス流路の延在方向とストライプ状の領域50の延在方向とのなす角度θが90度の場合を示す。また、図5(b)は、水素含有ガス流路とストライプ状の領域50とのなす角度θが略45度の場合を示す。一般的に、犠牲酸化に伴うガス拡散シート12の強度低下を抑制するためには、角度θは45度以上90度以下であることが望ましく、60度以上90度以下であることがさらに望ましい。
【0038】
3.第2実施形態
図6に、本実施形態におけるガス拡散シート12とセパレータ20の一部拡大斜視図を示す。本実施形態では、領域50、すなわち低結晶化度カーボン、または低結晶化度カーボンと電解質の混合物が添加され犠牲酸化される領域50は、ストライプ状ではなく点状に散在する。また、領域50は、ガス拡散シート12のうち、セパレータ20の凸部24に当接する領域に散在する。
【0039】
図7に、ガス拡散シート12の平面図を示す。領域50は、水素含有ガス流路である凹部22aに対応する領域には形成されず、冷媒流路である凸部24に対向する(当接する)領域にのみ散在して形成される。凸部24はリブとして機能し得るところ、領域50をこのリブに対向する領域に選択的に形成することで、犠牲酸化に伴って部分的に強度低下が生じても、リブにより補強され得る。
【0040】
また、犠牲酸化により強度低下のみならず、ガス拡散性の低下が生じ得るが、凸部24は冷媒流路であるから、たとえ犠牲酸化に伴うガス拡散性の低下が生じたとしても、発電性能への影響を抑制することが可能である。
【0041】
4.第3実施形態
第2実施形態においては、ガス拡散シート12のうち、セパレータ20の凸部24に当接する領域にほぼ同じ大きさで散在させているが、各領域50の大きさは必ずしも同一である必要はなく、大きさを変化させてもよい。本実施形態では、散在して形成される領域50の大きさを変化させる場合について説明する。
【0042】
図8に、燃料電池セルの発電面内における発電性能分布を模式的に示す。発電性能は、発電面の全面において均一であることが望ましいが、実際には水素含有ガス流量や面圧分布が存在するため均一ではなく、ばらつきがある。従って、例えば図8に模式的に示すように、相対的に電流密度が大きい領域と、相対的に電流密度が小さい領域が存在する。そこで、この発電面内における発電性能分布に対応し、ガス拡散シート12において、電流密度が相対的に大きい領域では犠牲酸化に伴うガス拡散性の低下を抑制するために領域50の面積を小さくし、その一方、電流密度が相対的に小さい領域では犠牲酸化に伴うガス拡散性の低下は相対的に影響が小さいことから領域50の面積を大きくする。
【0043】
なお、図8においては発電面内を4つの領域に分けて相対的な電流密度の大小を示しているが、発電面をより細かく分けてもよいのは言うまでもない。本願出願人は、発電面内を54分割し、それぞれの分割領域において平均電流密度を測定し、相対的に電流密度の大きい領域と小さい領域が存在することを確認している。
【0044】
図9に、ガス拡散シート12のうち、電流密度が相対的に大きい領域における領域50の配置を示す。ガス拡散シート12において、セパレータ20の凸部24が当接する領域に領域50が点状に散在する。領域50の面積は相対的に小さい。
【0045】
これに対し、図10に、ガス拡散シート12のうち、電流密度が相対的に小さい領域における領域50の配置を示す。図9と同様に、ガス拡散シート12において、セパレータ20の凸部24が当接する領域に領域50が点状に散在する。但し、領域50の面積は図9に比べて相対的に大きい。
【0046】
このように、電流密度が相対的に大きい領域では犠牲酸化される領域50の面積を相対的に小さくし、電流密度が相対的に小さい領域では領域50の面積を相対的に大きくすることにより、触媒層カーボンの酸化を抑制するとともに、犠牲酸化に伴うガス拡散シート12の強度低下を抑制し、かつ発電性能の低下を抑制することができる。
【0047】
5.変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、他の変形例も可能である。
【0048】
例えば、第1実施形態では、水素含有ガス流路に略垂直となるようにストライプ状の領域50を形成しているが、ガス拡散シート12のうち、ストライプ状の領域50以外は低結晶化度カーボン、または低結晶化度カーボンと電解質の混合物を全く添加しない場合の他、領域50よりも相対的に低い密度で添加してもよい。第2実施形態及び第3実施形態についても同様である。
【0049】
また、第3実施形態において、領域50の平面形状は点状として示されているが、これはあくまで模式的な説明であって、領域50の平面形状は円、矩形、多角形を含む任意の形状であってもよい。
【0050】
また、第3実施形態において、電流密度が相対的に大きい領域では犠牲酸化される領域50の面積を相対的に小さくし、電流密度が相対的に小さい領域では領域50の面積を相対的に大きく設定しているが、電流密度が相対的に大きい領域では低結晶化度カーボンの添加量を少なくし、電流密度が相対的に小さい領域では低結晶化度カーボンの添加量を多くしてもよい。すなわち、電流密度の大小(あるいは発電性能の高低)に応じ、領域50の大きさあるいは密度の少なくともいずれかを適応的に調整すればよい。
【0051】
さらに、本実施形態では、低結晶化度カーボン、あるいは低結晶化度カーボンと電解質の混合物を拡散シート12の特定位置に選択的に添加しているが、低結晶化カーボンを略均一に拡散シート12に添加するとともに、電解質を拡散シート12の特定位置に添加してもよい。要するに、
(1)ガス拡散シート12に、低結晶化度カーボンを選択的に添加する
(2)ガス拡散シート12に、低結晶化度カーボンと電解質を選択的に添加する
(3)ガス拡散シート12に、低結晶化度カーボンを略均一に添加し、電解質を選択的に添加する
のいずれかの方法を用いることができる。(2)の場合、犠牲酸化領域としての領域50のみに低結晶化度カーボンと電解質が含まれ、(3)の場合、低結晶化カーボンは領域50だけでなく他の領域にも含まれる(電解質は領域50のみ)相違がある点に留意されたい。また、(3)の場合、犠牲酸化領域は電解質を選択的に添加した領域であり、その他の領域に比して優先的に犠牲酸化が進行する。
【符号の説明】
【0052】
10 MEA(膜電極接合体)、12,14 ガス拡散シート、20,30 セパレータ、22a,22b 凹部、24 凸部、50 領域(犠牲酸化領域)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
アノード触媒層と、
前記アノード触媒層に隣接形成され、水素含有ガスを拡散させて前記アノード触媒層に供給するガス拡散層と、
前記ガス拡散層に隣接形成され、前記ガス拡散層に前記水素含有ガスを供給するセパレータと、
を備え、
前記セパレータは、表面に凹凸が形成され、凹部において前記水素含有ガス流路が形成されるとともに凸部において冷媒流路が形成され、
前記ガス拡散層の発電面内には、前記アノード触媒層のカーボンよりも相対的に低結晶化度のカーボンが添加されて犠牲酸化領域として機能し、かつ、
前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記水素含有ガス流路の延在方向に対して一定の角度をなすように形成される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、
前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記水素含有ガス流路の延在方向に対して略垂直となるように形成される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
燃料電池であって、
アノード触媒層と、
前記アノード触媒層に隣接形成され、水素含有ガスを拡散させて前記アノード触媒層に供給するガス拡散層と、
前記ガス拡散層に隣接形成され、前記ガス拡散層に前記水素含有ガスを供給するセパレータと、
を備え、
前記セパレータは、表面に凹凸が形成され、凹部において前記水素含有ガス流路が形成されるとともに凸部において冷媒流路が形成され、
前記ガス拡散層の発電面内には、前記アノード触媒層のカーボンよりも相対的に低結晶化度のカーボンが添加されて犠牲酸化領域として機能し、かつ、
前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記凸部に対向する領域に形成される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項3記載の燃料電池において、
前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記発電面内において相対的に電流密度が大きい領域において相対的にその面積を小さく、相対的に電流密度が小さい領域において相対的にその面積を大きく形成される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項3記載の燃料電池において、
前記ガス拡散層の前記犠牲酸化領域は、前記発電面内において相対的に電流密度が大きい領域において相対的に添加量が少なく、相対的に電流密度が小さい領域において相対的に添加量が大きく設定される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池において、
前記ガス拡散層の発電面内には、前記アノード触媒層のカーボンよりも相対的に低結晶化度のカーボンとともに電解質が添加される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項6記載の燃料電池において、
前記低結晶化度のカーボン及び前記電解質は、前記ガス拡散層の前記発電面内において選択的に添加される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項6記載の燃料電池において、
前記低結晶化度のカーボンは、前記ガス拡散層の前記発電面内において略均一に添加され、前記電解質は、前記ガス拡散層の前記発電面内において選択的に添加される
ことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−169173(P2012−169173A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29858(P2011−29858)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】