燃料電池
【課題】簡単な構成で、電解質膜に作用する応力を良好に抑制することができ、前記電解質膜の損傷を有効に阻止することを可能にする。
【解決手段】燃料電池10を構成する酸化剤ガス流路24と燃料ガス流路30とは、それぞれのジグザグ形状の位相が反転している。酸化剤ガス流路24を形成する複数の第1突起部26及び燃料ガス流路30を形成する複数の第2突起部32では、第1傾斜部26a及び第4傾斜部32bが、触媒領域Sの一方の対角線L1と同一の傾斜角度に設定されている。さらに、第2傾斜部26b及び第3傾斜部32aが、触媒領域Sの他方の対角線L2と同一の傾斜角度に設定される。
【解決手段】燃料電池10を構成する酸化剤ガス流路24と燃料ガス流路30とは、それぞれのジグザグ形状の位相が反転している。酸化剤ガス流路24を形成する複数の第1突起部26及び燃料ガス流路30を形成する複数の第2突起部32では、第1傾斜部26a及び第4傾斜部32bが、触媒領域Sの一方の対角線L1と同一の傾斜角度に設定されている。さらに、第2傾斜部26b及び第3傾斜部32aが、触媒領域Sの他方の対角線L2と同一の傾斜角度に設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側に、それぞれ矩形状の触媒領域を有するアノード側電極及びカソード側電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、前記電解質膜・電極構造体の両側にセパレータが積層される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持した単位セルを備えている。この種の燃料電池は、通常、所定の数の単位セルを積層することにより、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
上記の燃料電池では、一方のセパレータの面内に、アノード側電極に対向して燃料ガスを流すための燃料ガス流路が設けられるとともに、他方のセパレータの面内に、カソード側電極に対向して酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路が設けられている。さらに、各燃料電池を構成し、互いに隣接するセパレータ間には、電極範囲内に冷却媒体を流すための冷却媒体流路が形成されている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている燃料電池は、図13に示すように、電解質膜・電極構造体1を第1及び第2金属セパレータ2、3により挟持して構成されている。
【0005】
燃料電池の長辺方向の上端縁部には、酸化剤ガス供給連通孔4a及び燃料ガス供給連通孔5aが設けられる一方、長辺方向の下端縁部には、燃料ガス排出連通孔5b及び酸化剤ガス排出連通孔4bが設けられている。燃料電池の短辺方向の一端縁部には、冷却媒体供給連通孔6aが設けられるとともに、短辺方向の他端縁部には、冷却媒体排出連通孔6bが設けられている。
【0006】
電解質膜・電極構造体1は、固体高分子電解質膜1aと、前記固体高分子電解質膜1aを挟持するアノード側電極1b及びカソード側電極1cとを備えている。
【0007】
第1金属セパレータ2のアノード側電極1bに対向する面2aには、燃料ガス流路7が複数の蛇行状(波状)突起部7a間に形成されている。第1金属セパレータ2の面2bには、燃料ガス流路7の裏面形状である冷却媒体流路8の一部が形成されている。第2金属セパレータ3のカソード側電極1cに対向する面3aには、酸化剤ガス流路9が複数の蛇行状(波状)突起部9a間に形成されている。第2金属セパレータ3の面3bには、酸化剤ガス流路9の裏面形状である冷却媒体流路8の一部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−234438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の燃料電池では、燃料ガス流路7を形成する各突起部7aと、酸化剤ガス流路9を構成する各突起部9aとは、電解質膜・電極構造体1を挟んで互いに同一の位相で対向している。このため、電解質膜・電極構造体1は、各突起部7a、9aによって蛇行形状に沿って拘束されており、拘束領域が大きくなっている。従って、電解質膜・電極構造体1の膨脹や収縮による応力を逃がすことができず、特に固体高分子電解質膜1に損傷が惹起するというおそれがある。
【0010】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、電解質膜に作用する応力を良好に抑制することができ、前記電解質膜の損傷を有効に阻止することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電解質膜の両側に、それぞれ矩形状の触媒領域を有するカソード側電極及びアノード側電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、前記電解質膜・電極構造体の両側にセパレータが積層される燃料電池に関するものである。
【0012】
この燃料電池では、カソード側電極に対向する一方のセパレータの面内には、複数の第1突起部間にジグザグ形状のカソード側ガス流路が形成され、且つ前記第1突起部は、互いに異なる方向に傾斜する第1及び第2傾斜部を有している。アノード側電極に対向する他方のセパレータの面内には、複数の第2突起部間にジグザグ形状のアノード側ガス流路が形成され、且つ前記第2突起部は、互いに異なる方向に傾斜する第3及び第4傾斜部を有している。
【0013】
そして、カソード側ガス流路とアノード側ガス流路とは、積層方向一方から見てそれぞれのジグザグ形状の位相が反転するとともに、第1及び第4傾斜部は、触媒領域の一方の対角線と同一の傾斜角度に設定される一方、第2及び第3傾斜部は、前記触媒領域の他方の対角線と同一の傾斜角度に設定されている。
【0014】
ここで、第1〜第4傾斜部の傾斜角度が、対角線の傾斜角度よりも大きいと、流路に直交する方向への変形が大きくなり、流路左右端での電解質膜の損傷が発生し易くなる。また、第1〜第4傾斜部の傾斜角度が、対角線の傾斜角度よりも小さいと、流れ方向の変形応力が大きくなり、流路上流及び流路下流で電解質膜の損傷が惹起される。従って、第1〜第4傾斜部の傾斜角度が、対角線の傾斜角度と同一に設定されることにより、電解質膜が伸縮できる距離が最大になって応力を緩和することが可能になる。
【0015】
また、この燃料電池では、電解質膜・電極構造体を挟んで互いに対向する第1突起部と第2突起部とは、それぞれのジグザグ形状のいずれかの頂点同士が、互いに積層方向に重なり合うことが好ましい。
【0016】
さらに、この燃料電池では、電解質膜・電極構造体を挟んで互いに対向する第1突起部と第2突起部とは、それぞれのジグザグ形状の凸部幅が、互いに異なる寸法に設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カソード側ガス流路とアノード側ガス流路とは、それぞれのジグザグ形状の位相が反転するため、第1突起部及び第2突起部により電解質膜を拘束する領域(面積)が削減されている。従って、電解質膜の膨張及び収縮による応力が良好に緩和され、前記電解質膜の損傷を有効に阻止することができる。
【0018】
しかも、第1突起部及び第2突起部では、第1及び第4傾斜部が触媒領域の一方の対角線と同一の傾斜角度に設定される一方、第2及び第3傾斜部が前記触媒領域の他方の対角線と同一の傾斜角度に設定されている。これにより、簡単な構成で、電解質膜に作用する応力を良好に抑制することができ、前記電解質膜の損傷を阻止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面図である。
【図3】前記燃料電池を構成する第1セパレータの一方の正面の説明図である。
【図4】前記燃料電池を構成する第2セパレータの一方の正面の説明図である。
【図5】前記燃料電池の要部説明図である。
【図6】前記燃料電池の、図5中、VI−VI線断面説明図である。
【図7】前記燃料電池の、図5中、VII−VII線断面説明図である。
【図8】突起部の傾斜角度が大きい場合の説明図である。
【図9】突起部の傾斜角度が小さい場合の説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池の要部説明図である。
【図11】前記燃料電池の、図10中、XI−XI線断面説明図である。
【図12】前記燃料電池の、図10中、XII−XII線断面説明図である。
【図13】特許文献1に開示されている燃料電池の分解斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、矢印A方向(水平方向)に複数積層されて、例えば車載用燃料電池スタック11を構成する。燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12と、前記電解質膜・電極構造体12を挟持する第1セパレータ14及び第2セパレータ16とを備える。
【0021】
第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板により構成される。第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、平面が矩形状を有するとともに、金属製薄板を波形状にプレス加工することにより、断面凹凸形状に成形される。なお、第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、金属セパレータに代えて、例えば、カーボンセパレータを使用してもよい。
【0022】
図1に示すように、第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、縦長形状を有するとともに、長辺が重力方向(矢印C方向)に向かい且つ短辺が水平方向(矢印B方向)に向かう(水平方向の積層)ように構成される。なお、長辺が水平方向に向かい且つ短辺が重力方向に向かうように構成してもよく、また、セパレータ面が水平方向に向かう(鉛直方向の積層)ように構成してもよい。
【0023】
燃料電池10の長辺方向(矢印C方向)の上端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔18aと、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔20aとが設けられる。
【0024】
燃料電池10の長辺方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス排出連通孔20bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出連通孔18bとが設けられる。
【0025】
燃料電池10の短辺方向(矢印B方向)の両端縁部上方には、矢印A方向に連通して、冷却媒体を供給するための2つの冷却媒体供給連通孔22aが対称位置に設けられる。燃料電池10の両端縁部下方には、矢印A方向に連通して、冷却媒体を排出するための2つの冷却媒体排出連通孔22bが対称位置に設けられる。
【0026】
図3に示すように、第1セパレータ(一方のセパレータ)14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、酸化剤ガス供給連通孔18aと酸化剤ガス排出連通孔18bとを連通して鉛直方向に延在する酸化剤ガス流路(カソード側ガス流路)24が形成される。
【0027】
酸化剤ガス流路24は、複数の第1突起部26間にジグザグ形状に形成される複数の流路溝24aを有する。なお、ジグザグ形状とは、各先端が鋭角に形成された形状の他、各先端にRを設けた形状も含む。以下のジグザグ形状も、同様である。
【0028】
第1突起部26は、酸化剤ガスの流れ方向を上下方向である矢印C方向に設定するとともに、この矢印C方向に向かって互いに異なる方向(矢印B1方向及び矢印B2方向)に傾斜する第1傾斜部26a及び第2傾斜部26bを有する。第1及び第2傾斜部26a、26bは、ジグザグ形状の頂点26cで連結される。
【0029】
第1セパレータ14の面14a内には、電解質膜・電極構造体12の触媒領域Sに対応して酸化剤ガス流路24の領域が設定される。触媒領域Sの一方の対角線L1と第1傾斜部26aとは、同一の傾斜角度に設定されるとともに、前記触媒領域Sの他方の対角線L2と第2傾斜部26bとは、同一の傾斜角度に設定される。
【0030】
酸化剤ガス流路24の入口近傍及び出口近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部27a及び出口バッファ部27bが設けられる。第1セパレータ14の面14b(面14aとは反対の面)には、後述する冷却媒体流路28の一部が構成される。
【0031】
図4に示すように、第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、燃料ガス供給連通孔20aと燃料ガス排出連通孔20bとを連通する燃料ガス流路30が鉛直方向に延在して形成される。
【0032】
燃料ガス流路30は、複数の第2突起部32間にジグザグ形状に形成される複数の流路溝30aを有する。第2突起部32は、燃料ガス流れ方向を矢印C方向に設定するとともに、この矢印C方向に向かって互いに異なる方向(矢印B2方向及び矢印B1方向)に傾斜する第3傾斜部32a及び第4傾斜部32bを有する。
【0033】
第4傾斜部32bは、触媒領域Sの一方の対角線L1と同一の傾斜角度に設定される一方、第3傾斜部32aは、前記触媒領域Sの他方の対角線L2と同一の傾斜角度に設定される。第3傾斜部32aと第4傾斜部32bとは、ジグザグ形状の頂点32cで連結される。
【0034】
図5に示すように、酸化剤ガス流路24と燃料ガス流路30とは、同一方向(燃料電池10の積層方向一端側)から見た際に、それぞれのジグザグ形状の位相が反転する。電解質膜・電極構造体12を挟んで互いに対向する第1突起部26と第2突起部32は、それぞれのジグザグ形状のいずれかの頂点26c、32cが互いに積層方向に重なり合う(図5及び図7参照)。
【0035】
図6及び図7に示すように、第1突起部26と第2突起部32とは、それぞれのジグザグ形状の凸部幅t1、t2が互いに異なる寸法に設定される。具体的には、酸化剤ガス流路24を形成する第1突起部26の凸部幅t1は、燃料ガス流路30を形成する第2突起部32の凸部幅t2よりも小さな寸法に設定される(t1<t2)。
【0036】
図4に示すように、燃料ガス流路30の入口近傍及び出口近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部33a及び出口バッファ部33bが設けられる。
【0037】
第2セパレータ16の面16bと第1セパレータ14の面14bとの間には、冷却媒体供給連通孔22a、22aと冷却媒体排出連通孔22b、22bとに連通する冷却媒体流路28が形成される(図1及び図3参照)。冷却媒体流路28の入口近傍及び出口近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部34a及び出口バッファ部34bが設けられる。
【0038】
第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端縁部を周回して第1シール部材36が一体成形される。第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端縁部を周回して第2シール部材38が一体成形される。第1シール部材36及び第2シール部材38としては、例えば、弾性を有するEPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0039】
図1に示すように、第1セパレータ14の面14aには、第1シール部材36を切り欠いて、酸化剤ガス供給連通孔18aと酸化剤ガス流路24とを連通する複数の連結通路40aが形成される。面14aには、第1シール部材36を切り欠いて、酸化剤ガス排出連通孔18bと酸化剤ガス流路24とを連通する複数の連結通路40bが形成される。
【0040】
図4に示すように、第2セパレータ16の面16aには、第2シール部材38を切り欠いて、燃料ガス供給連通孔20aと燃料ガス流路30とを連通する複数の連結通路42aが形成される。面16aには、第2シール部材38を切り欠いて、燃料ガス排出連通孔20bと燃料ガス流路30とを連通する複数の連結通路42bが形成される。
【0041】
図1に示すように、第2セパレータ16の面16bには、第2シール部材38を切り欠いて、一対の冷却媒体供給連通孔22a、22aと冷却媒体流路28とを連通する複数の連結通路44aが形成される。面16bには、第2シール部材38を切り欠いて、一対の冷却媒体排出連通孔22b、22bと冷却媒体流路28とを連通する複数の連結通路44bが形成される。
【0042】
図2に示すように、電解質膜・電極構造体12は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜46と、前記固体高分子電解質膜46を挟持するカソード側電極48及びアノード側電極50とを備える。
【0043】
カソード側電極48及びアノード側電極50は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層48a、50aと、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層48a、50aの表面に一様に塗布されて形成される電極触媒層48b、50bとを有する。電極触媒層48b、50bは、固体高分子電解質膜46の両面に形成される。カソード側電極48及びアノード側電極50は、発電部領域である触媒領域Sを有する。
【0044】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0045】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス供給連通孔18aには、酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス供給連通孔20aには、水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、一対の冷却媒体供給連通孔22aには、純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0046】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給連通孔18aから第1セパレータ14の酸化剤ガス流路24に導入される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路24に沿って矢印C方向(重力方向)に移動し、電解質膜・電極構造体12のカソード側電極48に供給される。
【0047】
一方、燃料ガスは、燃料ガス供給連通孔20aから第2セパレータ16の燃料ガス流路30に供給される。燃料ガスは、図4に示すように、燃料ガス流路30に沿って重力方向(矢印C方向)に移動し、電解質膜・電極構造体12のアノード側電極50に供給される(図1及び図2参照)。
【0048】
従って、電解質膜・電極構造体12では、カソード側電極48に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極50に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0049】
次いで、電解質膜・電極構造体12のカソード側電極48に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス排出連通孔18bに沿って矢印A方向に排出される。一方、電解質膜・電極構造体12のアノード側電極50に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス排出連通孔20bに沿って矢印A方向に排出される。
【0050】
また、一対の冷却媒体供給連通孔22aに供給された冷却媒体は、図1に示すように、第1セパレータ14及び第2セパレータ16間の冷却媒体流路28に導入される。冷却媒体は、一旦矢印B方向(水平方向)に沿って流動した後、矢印C方向(重力方向)に移動して電解質膜・電極構造体12を冷却する。この冷却媒体は、矢印B方向両側に移動した後、一対の冷却媒体排出連通孔22bに排出される。
【0051】
この場合、第1の実施形態では、図1及び図5に示すように、酸化剤ガス流路24と燃料ガス流路30とは、それぞれのジグザグ形状の位相が反転している。このため、酸化剤ガス流路24を形成する第1突起部26及び燃料ガス流路30を形成する第2突起部32を介し、固体高分子電解質膜46を拘束する領域(面積)が削減されている。従って、固体高分子電解質膜46の膨張及び収縮による応力が良好に緩和され、前記固体高分子電解質膜46の損傷を有効に阻止することができる。
【0052】
しかも、第1突起部26及び第2突起部32では、第1傾斜部26a及び第4傾斜部32bが、触媒領域Sの一方の対角線L1と同一の傾斜角度に設定されている。一方、第2傾斜部26b及び第3傾斜部32aが、触媒領域Sの他方の対角線L2と同一の傾斜角度に設定されている。
【0053】
ここで、図8に示すように、傾斜部60a、60bの傾斜角度θ1が、対角線L1、L2の傾斜角度φよりも大きいと、流路左右方向の固体高分子電解質膜46の変形が大きくなってしまう。これにより、固体高分子電解質膜46に応力が発生するおそれがある。
【0054】
一方、図9に示すように、傾斜部62a、62bの傾斜角度θ2が、対角線L1、L2の傾斜角度φよりも小さいと、流れ方向(上下方向)の変形応力が大きくなる。このため、流路上流及び流路下流で、固体高分子電解質膜46の損傷が惹起されるおそれがある。
【0055】
これにより、第1の実施形態では、簡単な構成で、固体高分子電解質膜46に作用する応力を良好に抑制することができ、前記固体高分子電解質膜46の損傷を阻止することが可能になるという効果が得られる。
【0056】
さらに、第1の実施形態では、図5に示すように、第1突起部26と第2突起部32とは、積層方向に沿って固体高分子電解質膜46を挟んで互いに重なり合う部分を有するとともに、特に頂点26c、32cのいずれか同士が、前記積層方向に重なり合っている。
【0057】
従って、固体高分子電解質膜46に作用する応力は、斜め方向(矢印方向)に逃がすことができ、応力の緩和が容易且つ確実に図られるという利点が得られる。
【0058】
また、図6及び図7に示すように、電解質膜・電極構造体12を挟んで互いに対向する第1突起部26と第2突起部32とは、それぞれのジグザグ形状の凸部幅t1、t2が互いに異なる寸法(t1<t2)に設定されている。このため、酸化剤ガス流路24を形成するリブ幅寸法を狭くすることにより、固体高分子電解質膜46の拘束面積を有効に削減することが可能になる。これにより、固体高分子電解質膜46の膨脹及び収縮によって、前記固体高分子電解質膜46に作用する応力を良好に抑制することができるという利点がある。
【0059】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池70の要部説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0060】
燃料電池70では、酸化剤ガス流路24は、複数の第1突起部72間にジグザグ形状に形成される複数の流路溝24aを有するとともに、燃料ガス流路30は、複数の第2突起部74間にジグザグ形状に形成される複数の流路溝30aを有する。第1突起部72は、第1傾斜部72aと第2傾斜部72bとを頂点72cを介して交互に設ける。第2突起部74は、第3傾斜部74aと第4傾斜部74bとを頂点74cを介して交互に設ける。
【0061】
第1突起部72と第2突起部74とは、積層方向に対して第1傾斜部72a及び第2傾斜部72bと第3傾斜部74a及び第4傾斜部74bとが交差する部位で重なり合っている。それぞれの頂点72c、74cは、積層方向に重なり合う部位を有していない。
【0062】
第1突起部72及び第2突起部74は、頂点72c、74cのいずれもが積層方向に重なり合わない他、上記の第1の実施形態の第1突起部26及び第2突起部32と同様に構成される(図10〜図12参照)。
【0063】
このように構成される第2の実施形態では、第1突起部72と第2突起部74とによる固体高分子電解質膜46の拘束点が、縦方向及び横方向に配列されている。従って、固体高分子電解質膜46に作用する応力は、縦方向及び横方向(矢印方向)に良好に逃がすことができ、応力の緩和が図られる他、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0064】
10…燃料電池 11…燃料電池スタック
12…電解質膜・電極構造体 14、16…セパレータ
18a…酸化剤ガス供給連通孔 18b…酸化剤ガス排出連通孔
20a…燃料ガス供給連通孔 20b…燃料ガス排出連通孔
22a…冷却媒体供給連通孔 22b…冷却媒体排出連通孔
24…酸化剤ガス流路 24a、30a…流路溝
26、32…突起部 26a、26b、32a、32b…傾斜部
26c、32c…頂点 30…燃料ガス流路
46…固体高分子電解質膜 48…カソード側電極
50…アノード側電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側に、それぞれ矩形状の触媒領域を有するアノード側電極及びカソード側電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、前記電解質膜・電極構造体の両側にセパレータが積層される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持した単位セルを備えている。この種の燃料電池は、通常、所定の数の単位セルを積層することにより、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
上記の燃料電池では、一方のセパレータの面内に、アノード側電極に対向して燃料ガスを流すための燃料ガス流路が設けられるとともに、他方のセパレータの面内に、カソード側電極に対向して酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路が設けられている。さらに、各燃料電池を構成し、互いに隣接するセパレータ間には、電極範囲内に冷却媒体を流すための冷却媒体流路が形成されている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている燃料電池は、図13に示すように、電解質膜・電極構造体1を第1及び第2金属セパレータ2、3により挟持して構成されている。
【0005】
燃料電池の長辺方向の上端縁部には、酸化剤ガス供給連通孔4a及び燃料ガス供給連通孔5aが設けられる一方、長辺方向の下端縁部には、燃料ガス排出連通孔5b及び酸化剤ガス排出連通孔4bが設けられている。燃料電池の短辺方向の一端縁部には、冷却媒体供給連通孔6aが設けられるとともに、短辺方向の他端縁部には、冷却媒体排出連通孔6bが設けられている。
【0006】
電解質膜・電極構造体1は、固体高分子電解質膜1aと、前記固体高分子電解質膜1aを挟持するアノード側電極1b及びカソード側電極1cとを備えている。
【0007】
第1金属セパレータ2のアノード側電極1bに対向する面2aには、燃料ガス流路7が複数の蛇行状(波状)突起部7a間に形成されている。第1金属セパレータ2の面2bには、燃料ガス流路7の裏面形状である冷却媒体流路8の一部が形成されている。第2金属セパレータ3のカソード側電極1cに対向する面3aには、酸化剤ガス流路9が複数の蛇行状(波状)突起部9a間に形成されている。第2金属セパレータ3の面3bには、酸化剤ガス流路9の裏面形状である冷却媒体流路8の一部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−234438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の燃料電池では、燃料ガス流路7を形成する各突起部7aと、酸化剤ガス流路9を構成する各突起部9aとは、電解質膜・電極構造体1を挟んで互いに同一の位相で対向している。このため、電解質膜・電極構造体1は、各突起部7a、9aによって蛇行形状に沿って拘束されており、拘束領域が大きくなっている。従って、電解質膜・電極構造体1の膨脹や収縮による応力を逃がすことができず、特に固体高分子電解質膜1に損傷が惹起するというおそれがある。
【0010】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、電解質膜に作用する応力を良好に抑制することができ、前記電解質膜の損傷を有効に阻止することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電解質膜の両側に、それぞれ矩形状の触媒領域を有するカソード側電極及びアノード側電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、前記電解質膜・電極構造体の両側にセパレータが積層される燃料電池に関するものである。
【0012】
この燃料電池では、カソード側電極に対向する一方のセパレータの面内には、複数の第1突起部間にジグザグ形状のカソード側ガス流路が形成され、且つ前記第1突起部は、互いに異なる方向に傾斜する第1及び第2傾斜部を有している。アノード側電極に対向する他方のセパレータの面内には、複数の第2突起部間にジグザグ形状のアノード側ガス流路が形成され、且つ前記第2突起部は、互いに異なる方向に傾斜する第3及び第4傾斜部を有している。
【0013】
そして、カソード側ガス流路とアノード側ガス流路とは、積層方向一方から見てそれぞれのジグザグ形状の位相が反転するとともに、第1及び第4傾斜部は、触媒領域の一方の対角線と同一の傾斜角度に設定される一方、第2及び第3傾斜部は、前記触媒領域の他方の対角線と同一の傾斜角度に設定されている。
【0014】
ここで、第1〜第4傾斜部の傾斜角度が、対角線の傾斜角度よりも大きいと、流路に直交する方向への変形が大きくなり、流路左右端での電解質膜の損傷が発生し易くなる。また、第1〜第4傾斜部の傾斜角度が、対角線の傾斜角度よりも小さいと、流れ方向の変形応力が大きくなり、流路上流及び流路下流で電解質膜の損傷が惹起される。従って、第1〜第4傾斜部の傾斜角度が、対角線の傾斜角度と同一に設定されることにより、電解質膜が伸縮できる距離が最大になって応力を緩和することが可能になる。
【0015】
また、この燃料電池では、電解質膜・電極構造体を挟んで互いに対向する第1突起部と第2突起部とは、それぞれのジグザグ形状のいずれかの頂点同士が、互いに積層方向に重なり合うことが好ましい。
【0016】
さらに、この燃料電池では、電解質膜・電極構造体を挟んで互いに対向する第1突起部と第2突起部とは、それぞれのジグザグ形状の凸部幅が、互いに異なる寸法に設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カソード側ガス流路とアノード側ガス流路とは、それぞれのジグザグ形状の位相が反転するため、第1突起部及び第2突起部により電解質膜を拘束する領域(面積)が削減されている。従って、電解質膜の膨張及び収縮による応力が良好に緩和され、前記電解質膜の損傷を有効に阻止することができる。
【0018】
しかも、第1突起部及び第2突起部では、第1及び第4傾斜部が触媒領域の一方の対角線と同一の傾斜角度に設定される一方、第2及び第3傾斜部が前記触媒領域の他方の対角線と同一の傾斜角度に設定されている。これにより、簡単な構成で、電解質膜に作用する応力を良好に抑制することができ、前記電解質膜の損傷を阻止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面図である。
【図3】前記燃料電池を構成する第1セパレータの一方の正面の説明図である。
【図4】前記燃料電池を構成する第2セパレータの一方の正面の説明図である。
【図5】前記燃料電池の要部説明図である。
【図6】前記燃料電池の、図5中、VI−VI線断面説明図である。
【図7】前記燃料電池の、図5中、VII−VII線断面説明図である。
【図8】突起部の傾斜角度が大きい場合の説明図である。
【図9】突起部の傾斜角度が小さい場合の説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池の要部説明図である。
【図11】前記燃料電池の、図10中、XI−XI線断面説明図である。
【図12】前記燃料電池の、図10中、XII−XII線断面説明図である。
【図13】特許文献1に開示されている燃料電池の分解斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、矢印A方向(水平方向)に複数積層されて、例えば車載用燃料電池スタック11を構成する。燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12と、前記電解質膜・電極構造体12を挟持する第1セパレータ14及び第2セパレータ16とを備える。
【0021】
第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板により構成される。第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、平面が矩形状を有するとともに、金属製薄板を波形状にプレス加工することにより、断面凹凸形状に成形される。なお、第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、金属セパレータに代えて、例えば、カーボンセパレータを使用してもよい。
【0022】
図1に示すように、第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、縦長形状を有するとともに、長辺が重力方向(矢印C方向)に向かい且つ短辺が水平方向(矢印B方向)に向かう(水平方向の積層)ように構成される。なお、長辺が水平方向に向かい且つ短辺が重力方向に向かうように構成してもよく、また、セパレータ面が水平方向に向かう(鉛直方向の積層)ように構成してもよい。
【0023】
燃料電池10の長辺方向(矢印C方向)の上端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔18aと、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔20aとが設けられる。
【0024】
燃料電池10の長辺方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス排出連通孔20bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出連通孔18bとが設けられる。
【0025】
燃料電池10の短辺方向(矢印B方向)の両端縁部上方には、矢印A方向に連通して、冷却媒体を供給するための2つの冷却媒体供給連通孔22aが対称位置に設けられる。燃料電池10の両端縁部下方には、矢印A方向に連通して、冷却媒体を排出するための2つの冷却媒体排出連通孔22bが対称位置に設けられる。
【0026】
図3に示すように、第1セパレータ(一方のセパレータ)14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、酸化剤ガス供給連通孔18aと酸化剤ガス排出連通孔18bとを連通して鉛直方向に延在する酸化剤ガス流路(カソード側ガス流路)24が形成される。
【0027】
酸化剤ガス流路24は、複数の第1突起部26間にジグザグ形状に形成される複数の流路溝24aを有する。なお、ジグザグ形状とは、各先端が鋭角に形成された形状の他、各先端にRを設けた形状も含む。以下のジグザグ形状も、同様である。
【0028】
第1突起部26は、酸化剤ガスの流れ方向を上下方向である矢印C方向に設定するとともに、この矢印C方向に向かって互いに異なる方向(矢印B1方向及び矢印B2方向)に傾斜する第1傾斜部26a及び第2傾斜部26bを有する。第1及び第2傾斜部26a、26bは、ジグザグ形状の頂点26cで連結される。
【0029】
第1セパレータ14の面14a内には、電解質膜・電極構造体12の触媒領域Sに対応して酸化剤ガス流路24の領域が設定される。触媒領域Sの一方の対角線L1と第1傾斜部26aとは、同一の傾斜角度に設定されるとともに、前記触媒領域Sの他方の対角線L2と第2傾斜部26bとは、同一の傾斜角度に設定される。
【0030】
酸化剤ガス流路24の入口近傍及び出口近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部27a及び出口バッファ部27bが設けられる。第1セパレータ14の面14b(面14aとは反対の面)には、後述する冷却媒体流路28の一部が構成される。
【0031】
図4に示すように、第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、燃料ガス供給連通孔20aと燃料ガス排出連通孔20bとを連通する燃料ガス流路30が鉛直方向に延在して形成される。
【0032】
燃料ガス流路30は、複数の第2突起部32間にジグザグ形状に形成される複数の流路溝30aを有する。第2突起部32は、燃料ガス流れ方向を矢印C方向に設定するとともに、この矢印C方向に向かって互いに異なる方向(矢印B2方向及び矢印B1方向)に傾斜する第3傾斜部32a及び第4傾斜部32bを有する。
【0033】
第4傾斜部32bは、触媒領域Sの一方の対角線L1と同一の傾斜角度に設定される一方、第3傾斜部32aは、前記触媒領域Sの他方の対角線L2と同一の傾斜角度に設定される。第3傾斜部32aと第4傾斜部32bとは、ジグザグ形状の頂点32cで連結される。
【0034】
図5に示すように、酸化剤ガス流路24と燃料ガス流路30とは、同一方向(燃料電池10の積層方向一端側)から見た際に、それぞれのジグザグ形状の位相が反転する。電解質膜・電極構造体12を挟んで互いに対向する第1突起部26と第2突起部32は、それぞれのジグザグ形状のいずれかの頂点26c、32cが互いに積層方向に重なり合う(図5及び図7参照)。
【0035】
図6及び図7に示すように、第1突起部26と第2突起部32とは、それぞれのジグザグ形状の凸部幅t1、t2が互いに異なる寸法に設定される。具体的には、酸化剤ガス流路24を形成する第1突起部26の凸部幅t1は、燃料ガス流路30を形成する第2突起部32の凸部幅t2よりも小さな寸法に設定される(t1<t2)。
【0036】
図4に示すように、燃料ガス流路30の入口近傍及び出口近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部33a及び出口バッファ部33bが設けられる。
【0037】
第2セパレータ16の面16bと第1セパレータ14の面14bとの間には、冷却媒体供給連通孔22a、22aと冷却媒体排出連通孔22b、22bとに連通する冷却媒体流路28が形成される(図1及び図3参照)。冷却媒体流路28の入口近傍及び出口近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部34a及び出口バッファ部34bが設けられる。
【0038】
第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端縁部を周回して第1シール部材36が一体成形される。第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端縁部を周回して第2シール部材38が一体成形される。第1シール部材36及び第2シール部材38としては、例えば、弾性を有するEPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0039】
図1に示すように、第1セパレータ14の面14aには、第1シール部材36を切り欠いて、酸化剤ガス供給連通孔18aと酸化剤ガス流路24とを連通する複数の連結通路40aが形成される。面14aには、第1シール部材36を切り欠いて、酸化剤ガス排出連通孔18bと酸化剤ガス流路24とを連通する複数の連結通路40bが形成される。
【0040】
図4に示すように、第2セパレータ16の面16aには、第2シール部材38を切り欠いて、燃料ガス供給連通孔20aと燃料ガス流路30とを連通する複数の連結通路42aが形成される。面16aには、第2シール部材38を切り欠いて、燃料ガス排出連通孔20bと燃料ガス流路30とを連通する複数の連結通路42bが形成される。
【0041】
図1に示すように、第2セパレータ16の面16bには、第2シール部材38を切り欠いて、一対の冷却媒体供給連通孔22a、22aと冷却媒体流路28とを連通する複数の連結通路44aが形成される。面16bには、第2シール部材38を切り欠いて、一対の冷却媒体排出連通孔22b、22bと冷却媒体流路28とを連通する複数の連結通路44bが形成される。
【0042】
図2に示すように、電解質膜・電極構造体12は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜46と、前記固体高分子電解質膜46を挟持するカソード側電極48及びアノード側電極50とを備える。
【0043】
カソード側電極48及びアノード側電極50は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層48a、50aと、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層48a、50aの表面に一様に塗布されて形成される電極触媒層48b、50bとを有する。電極触媒層48b、50bは、固体高分子電解質膜46の両面に形成される。カソード側電極48及びアノード側電極50は、発電部領域である触媒領域Sを有する。
【0044】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0045】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス供給連通孔18aには、酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス供給連通孔20aには、水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、一対の冷却媒体供給連通孔22aには、純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0046】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給連通孔18aから第1セパレータ14の酸化剤ガス流路24に導入される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路24に沿って矢印C方向(重力方向)に移動し、電解質膜・電極構造体12のカソード側電極48に供給される。
【0047】
一方、燃料ガスは、燃料ガス供給連通孔20aから第2セパレータ16の燃料ガス流路30に供給される。燃料ガスは、図4に示すように、燃料ガス流路30に沿って重力方向(矢印C方向)に移動し、電解質膜・電極構造体12のアノード側電極50に供給される(図1及び図2参照)。
【0048】
従って、電解質膜・電極構造体12では、カソード側電極48に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極50に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0049】
次いで、電解質膜・電極構造体12のカソード側電極48に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス排出連通孔18bに沿って矢印A方向に排出される。一方、電解質膜・電極構造体12のアノード側電極50に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス排出連通孔20bに沿って矢印A方向に排出される。
【0050】
また、一対の冷却媒体供給連通孔22aに供給された冷却媒体は、図1に示すように、第1セパレータ14及び第2セパレータ16間の冷却媒体流路28に導入される。冷却媒体は、一旦矢印B方向(水平方向)に沿って流動した後、矢印C方向(重力方向)に移動して電解質膜・電極構造体12を冷却する。この冷却媒体は、矢印B方向両側に移動した後、一対の冷却媒体排出連通孔22bに排出される。
【0051】
この場合、第1の実施形態では、図1及び図5に示すように、酸化剤ガス流路24と燃料ガス流路30とは、それぞれのジグザグ形状の位相が反転している。このため、酸化剤ガス流路24を形成する第1突起部26及び燃料ガス流路30を形成する第2突起部32を介し、固体高分子電解質膜46を拘束する領域(面積)が削減されている。従って、固体高分子電解質膜46の膨張及び収縮による応力が良好に緩和され、前記固体高分子電解質膜46の損傷を有効に阻止することができる。
【0052】
しかも、第1突起部26及び第2突起部32では、第1傾斜部26a及び第4傾斜部32bが、触媒領域Sの一方の対角線L1と同一の傾斜角度に設定されている。一方、第2傾斜部26b及び第3傾斜部32aが、触媒領域Sの他方の対角線L2と同一の傾斜角度に設定されている。
【0053】
ここで、図8に示すように、傾斜部60a、60bの傾斜角度θ1が、対角線L1、L2の傾斜角度φよりも大きいと、流路左右方向の固体高分子電解質膜46の変形が大きくなってしまう。これにより、固体高分子電解質膜46に応力が発生するおそれがある。
【0054】
一方、図9に示すように、傾斜部62a、62bの傾斜角度θ2が、対角線L1、L2の傾斜角度φよりも小さいと、流れ方向(上下方向)の変形応力が大きくなる。このため、流路上流及び流路下流で、固体高分子電解質膜46の損傷が惹起されるおそれがある。
【0055】
これにより、第1の実施形態では、簡単な構成で、固体高分子電解質膜46に作用する応力を良好に抑制することができ、前記固体高分子電解質膜46の損傷を阻止することが可能になるという効果が得られる。
【0056】
さらに、第1の実施形態では、図5に示すように、第1突起部26と第2突起部32とは、積層方向に沿って固体高分子電解質膜46を挟んで互いに重なり合う部分を有するとともに、特に頂点26c、32cのいずれか同士が、前記積層方向に重なり合っている。
【0057】
従って、固体高分子電解質膜46に作用する応力は、斜め方向(矢印方向)に逃がすことができ、応力の緩和が容易且つ確実に図られるという利点が得られる。
【0058】
また、図6及び図7に示すように、電解質膜・電極構造体12を挟んで互いに対向する第1突起部26と第2突起部32とは、それぞれのジグザグ形状の凸部幅t1、t2が互いに異なる寸法(t1<t2)に設定されている。このため、酸化剤ガス流路24を形成するリブ幅寸法を狭くすることにより、固体高分子電解質膜46の拘束面積を有効に削減することが可能になる。これにより、固体高分子電解質膜46の膨脹及び収縮によって、前記固体高分子電解質膜46に作用する応力を良好に抑制することができるという利点がある。
【0059】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池70の要部説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0060】
燃料電池70では、酸化剤ガス流路24は、複数の第1突起部72間にジグザグ形状に形成される複数の流路溝24aを有するとともに、燃料ガス流路30は、複数の第2突起部74間にジグザグ形状に形成される複数の流路溝30aを有する。第1突起部72は、第1傾斜部72aと第2傾斜部72bとを頂点72cを介して交互に設ける。第2突起部74は、第3傾斜部74aと第4傾斜部74bとを頂点74cを介して交互に設ける。
【0061】
第1突起部72と第2突起部74とは、積層方向に対して第1傾斜部72a及び第2傾斜部72bと第3傾斜部74a及び第4傾斜部74bとが交差する部位で重なり合っている。それぞれの頂点72c、74cは、積層方向に重なり合う部位を有していない。
【0062】
第1突起部72及び第2突起部74は、頂点72c、74cのいずれもが積層方向に重なり合わない他、上記の第1の実施形態の第1突起部26及び第2突起部32と同様に構成される(図10〜図12参照)。
【0063】
このように構成される第2の実施形態では、第1突起部72と第2突起部74とによる固体高分子電解質膜46の拘束点が、縦方向及び横方向に配列されている。従って、固体高分子電解質膜46に作用する応力は、縦方向及び横方向(矢印方向)に良好に逃がすことができ、応力の緩和が図られる他、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0064】
10…燃料電池 11…燃料電池スタック
12…電解質膜・電極構造体 14、16…セパレータ
18a…酸化剤ガス供給連通孔 18b…酸化剤ガス排出連通孔
20a…燃料ガス供給連通孔 20b…燃料ガス排出連通孔
22a…冷却媒体供給連通孔 22b…冷却媒体排出連通孔
24…酸化剤ガス流路 24a、30a…流路溝
26、32…突起部 26a、26b、32a、32b…傾斜部
26c、32c…頂点 30…燃料ガス流路
46…固体高分子電解質膜 48…カソード側電極
50…アノード側電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側に、それぞれ矩形状の触媒領域を有するカソード側電極及びアノード側電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、前記電解質膜・電極構造体の両側にセパレータが積層される燃料電池であって、
前記カソード側電極に対向する一方のセパレータの面内には、複数の第1突起部間にジグザグ形状のカソード側ガス流路が形成され、且つ前記第1突起部は、互いに異なる方向に傾斜する第1及び第2傾斜部を有し、
前記アノード側電極に対向する他方のセパレータの面内には、複数の第2突起部間にジグザグ形状のアノード側ガス流路が形成され、且つ前記第2突起部は、互いに異なる方向に傾斜する第3及び第4傾斜部を有し、
前記カソード側ガス流路と前記アノード側ガス流路とは、積層方向一方から見てそれぞれのジグザグ形状の位相が反転するとともに、
前記第1及び第4傾斜部は、前記触媒領域の一方の対角線と同一の傾斜角度に設定される一方、
前記第2及び第3傾斜部は、前記触媒領域の他方の対角線と同一の傾斜角度に設定されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記電解質膜・電極構造体を挟んで互いに対向する前記第1突起部と前記第2突起部とは、それぞれのジグザグ形状のいずれかの頂点同士が、互いに前記積層方向に重なり合うことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池において、前記電解質膜・電極構造体を挟んで互いに対向する前記第1突起部と前記第2突起部とは、それぞれのジグザグ形状の凸部幅が、互いに異なる寸法に設定されることを特徴とする燃料電池。
【請求項1】
電解質膜の両側に、それぞれ矩形状の触媒領域を有するカソード側電極及びアノード側電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、前記電解質膜・電極構造体の両側にセパレータが積層される燃料電池であって、
前記カソード側電極に対向する一方のセパレータの面内には、複数の第1突起部間にジグザグ形状のカソード側ガス流路が形成され、且つ前記第1突起部は、互いに異なる方向に傾斜する第1及び第2傾斜部を有し、
前記アノード側電極に対向する他方のセパレータの面内には、複数の第2突起部間にジグザグ形状のアノード側ガス流路が形成され、且つ前記第2突起部は、互いに異なる方向に傾斜する第3及び第4傾斜部を有し、
前記カソード側ガス流路と前記アノード側ガス流路とは、積層方向一方から見てそれぞれのジグザグ形状の位相が反転するとともに、
前記第1及び第4傾斜部は、前記触媒領域の一方の対角線と同一の傾斜角度に設定される一方、
前記第2及び第3傾斜部は、前記触媒領域の他方の対角線と同一の傾斜角度に設定されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記電解質膜・電極構造体を挟んで互いに対向する前記第1突起部と前記第2突起部とは、それぞれのジグザグ形状のいずれかの頂点同士が、互いに前記積層方向に重なり合うことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池において、前記電解質膜・電極構造体を挟んで互いに対向する前記第1突起部と前記第2突起部とは、それぞれのジグザグ形状の凸部幅が、互いに異なる寸法に設定されることを特徴とする燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−43556(P2012−43556A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181541(P2010−181541)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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