説明

燃料電池

【課題】電極及びその近傍からの排水性をこれまで以上に十分に且つ安定的に向上させることが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池の単位セルは、電解質膜を挟んでカソード2aとアノードとが配置されたMEAの両面外側にガス拡散層22が一体に形成されたものであり、その両側にカソードセパレータ及びアノードセパレータが設けられている。また、ガス拡散層22は、カソード2a側に配置された撥水部221と、カソードセパレータ側に配置された基材部222とを有している。そして、撥水部221には細孔Hが複数形成されており、その孔径分布範囲が0.1μm〜0.6μmとされていることにより、撥水部221における透水圧が十分に低く抑えられるとともに、撥水部221における細孔Hの飽和度が過度に高まることが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に、燃料電池の内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜がカソード及びアノードの両電極間に挟持された構造を有しており、空気等の酸素を含むカソードガス(酸化ガス)がカソードに接触する一方、水素を含むアノードガス(燃料ガス)がアノードに接触することにより、両電極で電気化学反応が生じ、その結果、両電極間に電圧が生起されるように構成されている。また、一般に、燃料電池には、生成・凝縮された水分をガス流路側に効率よく排出することと、十分に加湿されたガスを電解質膜に均等に供給することの互いに相反する特性が要求される。
【0003】
かかる燃料電池の構造としては、種々のものが提案されており、例えば、特許文献1には、ガス拡散層基材と導電性撥水層を含む燃料電池用ガス拡散層を備えており、その導電性撥水層が、導電性材料と撥水性材料とを含有し、且つ、孔径分布範囲が0.2μm〜2μmである細孔を有する燃料電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−59524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の燃料電池は、電極からの排水性を向上させることを企図したものであるものの、本発明者が鋭意検討を行ったところ、上述した構成の導電性撥水層では、水の透過性が不都合な程度に低下する場合があり、その結果、電極及びその近傍からの排水性を未だ十分に高めることができない可能性があることが判明した。
【0006】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、撥水部を有するガス拡散層を備えており、電極及びその近傍からの排水性を十分に且つ安定的に向上させることが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明による燃料電池は、電解質膜の両面にそれぞれカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、膜電極接合体の両面に対向して設けられており、且つ、カソードガスが流通するカソードガス流路、及び、アノードガスが流通するアノードガス流路を画成するセパレータと、膜電極接合体とセパレータとの間に配置されたガス拡散層とを備えており、ガス拡散層が、膜電極接合体側に配置され且つ細孔を有する撥水部と、セパレータ側に配置された基材部とを有しており、撥水部における細孔の孔径分布範囲が0.1μm〜0.6μmとされている。
【0008】
このように構成された本発明による燃料電池においては、膜電極接合体(のカソード)近傍で生じた水分が、ガス拡散層を、膜電極接合体に当接する撥水部、及び、セパレータに当接する基材部の順に通過して、セパレータのガス流路側へ排出される。このとき、撥水部に形成された細孔の孔径分布範囲が0.1μm〜0.6μmとされていることにより、撥水部の透水圧が十分に低く抑えられるとともに、撥水部の細孔の飽和度(水による細孔の内部空間の占有度合い、つまり水詰まり具合を表す指標のひとつ)が過度に高まることが抑制される。これにより、撥水部を流通する水の流動性が阻害されることを抑止して、膜電極接合体の近傍からの排水性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
したがって、本発明の燃料電池によれば、電極及びその近傍からの排水性をこれまで以上に十分に且つ安定的に高めることが可能となり、これにより、出力が不都合な程度に低下したり不安定になったりすることを抑止して運転性能を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による燃料電池の好適な一実施形態の構成の一部を模式的に示す断面図である。
【図2】(A)〜(C)は、図1に示す燃料電池の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、これらのうち(B)が実施形態のものに該当し、また、(D)は、ガス拡散層の撥水部に形成された細孔の径に対する撥水部の透水圧及び飽和度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0012】
図1は、本発明による燃料電池の好適な一実施形態の構成の一部を模式的に示す断面図である。燃料電池スタック10は、固体高分子分離膜(電解質膜)を備えた固体高分子型の燃料電池(PEMFC)であり、主として燃料電池自動車等に搭載されるものである。この燃料電池スタック10(燃料電池)は、単位セル20を複数積層したスタック構造を有している(なお、図示においては一単位のみ示す)。また、単位セル20は、電解質膜2を挟んでカソード2aとアノード2b(ともに電極触媒層)とが配置されたMEA21(膜電極接合体:Membrane Electrode Assembly)の両面外側に、ガス拡散層22,22がシールガスケット(図示せず)によって一体に形成された発電体23、及び、隣接する発電体23,23を隔離する例えばステンレス鋼やチタン等の導電性金属材料からなるカソードセパレータ26及びアノードセパレータ28から構成されている。
【0013】
なお、隣接する発電体23,23を隔てるセパレータは、例えば、上記のカソードセパレータ26、中間プレート(図示せず;主として冷却水の流路となる)、及び、上記のアノードセパレータ28が積層された3層積層型のユニットをなしており、図示との整合をとるべく、ここでは、単位セル20を上述の如く定義した。
【0014】
また、カソードセパレータ26と発電体23との間には、カソードガスが流通するカソードガス流路30が画成されており、さらに、アノードセパレータ28と発電体23との間には、アノードガスが流通するアノードガス流路40が画成されている。なお、発電体23、カソードセパレータ26及びアノードセパレータ28のそれぞれの縁周部には、カソードガス流路30に連通するカソード入口及び同カソード出口、並びに、アノードガス流路40に連通するアノード入口及び同アノード出口(いずれも図示を省略)が設けられている。
【0015】
ここで、図2(A)〜(C)は、図1に示す燃料電池スタック10の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、主として、MEA21のカソード2aとカソードガス流路30が画成されたセパレータ26との間に配置されたガス拡散層22の断面構成を示す。なお、図示の都合上、相互比較のために図2(A)〜(C)の3つの態様を併記したが、これらのうち図2(B)が、本実施形態のものに該当し、図2(A)及び図2(C)に示す態様は、いわば比較例である。
【0016】
同図に示す如く、ガス拡散層22は、カソード2a側に配された撥水部221とそれに隣接する基材部222を有している。この撥水部221は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の撥水性樹脂とカーボンブラック等の導電性材料を主成分とするコーティング薄膜からなるマイクロポーラス層(MPL)から構成されており、複数の細孔Hが形成されている。
【0017】
また、図2(D)は、本発明者が実施した試験評価結果を示すものであり、ガス拡散層22の撥水部221に形成された細孔Hの径(μm)に対する撥水部221の透水圧(kPa)、及び、上述した撥水部221の細孔Hの飽和度(%)の変化を示すグラフである。図中、黒塗丸印のプロットが透水圧を示し(左縦軸)、黒塗四角印のプロットが飽和度を示す(右縦軸)。
【0018】
この試験評価結果からも明らかなとおり、細孔Hの径が0.1μm未満になると、撥水部221の透水圧が急激に上昇してしまう傾向にある。こうなると、図2(A)に模式的に示す如く、ガス拡散層22の撥水部222の細孔Hは、発電によって生成しカソード2a側から排出されずに滞留する水Wによって閉塞された状態となり、基材部222を流通してきたカソードガスに含まれる例えば酸素分子(O2)が細孔Hからカソード2a側に流入することが阻害されてしまい、その結果、カソード2aに十分な酸素ガスを供給することが困難となる。
【0019】
一方、細孔Hの径が0.6μmを超えると、撥水部221の細孔Hの飽和度が過度に大きくなってしまう。こうなると、図2(C)に模式的に示す如く、ガス拡散層22の撥水部222の細孔Hの内部が水Wで充填された(詰まった)状態となり、基材部222を流通してきたカソードガスに含まれる酸素分子(O2)は、細孔Hの内部を挿通し難くなり、この場合にも、カソード2aに十分な酸素ガスを供給することが困難になってしまう。
【0020】
これに対し、燃料電池スタック10のガス拡散層22においては、細孔Hの孔径分布範囲が0.1μm〜0.6μmとされており、図2(D)に示すように、細孔Hの径が0.1μm以上であるので、撥水部221の透水圧が十分に低い状態に維持され、また、細孔Hの径が0.6μm以下であるので、撥水部221の細孔Hの飽和度を急激に低下させることができる。これにより、図2(B)に模式的に示す如く、水Wは、ガス拡散層22の撥水部222の細孔Hを容易に挿通することができ、カソード2a側から基材部222側へ透過し易くなる。その結果、基材部222を流通してきたカソードガスに含まれる酸素分子(O2)は、細孔Hを通過してカソード2a側に極めて流入し易くなり、カソード2aに十分な量の酸素ガスを供給することができる。
【0021】
換言すれば、燃料電池スタック10によれば、ガス拡散層22における透水圧低減効果により、ガス拡散層22の撥水部221を流通する水Wの流動性が阻害されることを抑止して、MEA21の近傍からの排水性を格段に高めることができ、これにより、ガス拡散抵抗を十分に低減することができる。また、ガス拡散層22における飽和度低減効果により、ガス拡散層22の撥水部221の細孔Hの水詰まりを抑制することができ、これによっても、ガス拡散抵抗を十分に低減することができる。以上のことから、燃料電池スタック10の出力が不都合な程度にまで低下したり不安定になったりしてしまうことを確実に抑止することができ、運転性能、特に冷間性能を格段に向上させることが可能になる。
【0022】
なお、上述したとおり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、燃料電池スタック10におけるカソードガス流路30及びアノードガス流路40の具体的な形状は、ストレート流路であってもよいし、サーペンタイン流路であってもよく、両者は流路方向が対向していてもよく、或いは、交差又は直交していてもよい。また、スタック状に構成されていない燃料電池も本発明の構成に含まれ得る。さらに、ガス拡散層22における細孔Hの孔径分布形状も特に制限されない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上説明したとおり、本発明によれば、電極及びその近傍からの排水性をこれまで以上に十分に且つ安定的に高めることが可能となり、これにより、出力が不都合な程度に低下したり不安定になったりすることを抑止して運転性能を向上させることが可能になるので、本発明は、燃料電池全般、燃料電池を備える車両、機器、システム、設備等、及び、それらの製造に広く且つ有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0024】
2 電解質膜
2a カソード
2b アノード
10 燃料電池スタック(燃料電池)
20 単位セル
21 MEA
22 ガス拡散層
23 発電体、
26 カソードセパレータ
28 アノードセパレータ
30 カソードガス流路
40 アノードガス流路
221 撥水部
222 基材部
H 細孔
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面にそれぞれカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の両面に対向して設けられており、且つ、カソードガスが流通するカソードガス流路、及び、アノードガスが流通するアノードガス流路を画成するセパレータと、
前記膜電極接合体と前記セパレータとの間に配置されたガス拡散層と、
を備えており、
前記ガス拡散層は、前記膜電極接合体側に配置され且つ細孔を有する撥水部と、前記セパレータ側に配置された基材部とを有しており、且つ、前記撥水部における前記細孔の孔径分布範囲が0.1μm〜0.6μmのものである、
燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−62117(P2013−62117A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199433(P2011−199433)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】