説明

燃焼装置

【課題】煤塵を発生させないために可及的に完全燃焼可能な暖房装置を提案する。
【解決手段】触媒6は、一次燃焼室3に上部に設けられた触媒収納部12と触媒設置部7との間を移動可能に設けられ、一次燃焼室3の燃焼を優先する燃焼状態と一次排気口5を横切る触媒6により排気抑制して二次燃焼を促す排気抑制状態を無段階で切り替え可能になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば薪ストーブ、ペレットストーブ、石炭ストーブなどの燃焼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薪或いは石炭などの固形燃料を用いたストーブは、現在から250年ほど前に発明され実用化されてきたが、固形燃料を比較的低い温度で燃焼させているので未燃焼ガスが煙となって大量に発生する。この未燃焼ガスは着火温度が600度程度と非常に高く通常の燃焼では完全に燃やすことができない。従って、未燃焼ガス中に含まれている微粒子、CO、タール等の不純物が煙とともに煙突を介して大気中へ排出され、スモッグ発生の要因となる。
【0003】
しかしながら、近年、石炭、石油などの化石燃料の枯渇や地球温暖化防止の観点から木質バイオマスを燃料とする薪ストーブは再び見直されている。また、再生可能エネルギーへの転換が世界的規模ではかられておりこの点でも森林資源は好適である。さらには、近年、大気汚染が規制された結果、固形燃料を一次燃焼させる際に発生する未燃焼ガスをストーブ内で再燃焼させる以下の方式が知られている。
【0004】
蜂の巣状に形成したセラミックスに白金パラジウムやロジウム等の貴金属を付着させた酸化触媒等に未燃焼ガスを接触させて250度程度の低い温度で煙中の未燃焼ガスを燃焼させるようにした触媒方式と、ストーブの燃焼室内に高温の再燃焼用の空気を供給してこの再燃焼用の空気を未燃焼ガスと撹拌させて600度以上の高温で未燃焼ガスを再燃焼させるようにしたクリーンバーニング方式である。
【0005】
触媒方式のストーブは、薪を燃焼させる燃焼室の上方であって煙突の手前に連通口を介して燃焼室と連通された二次燃焼室を形成し、この二次燃焼室内に未燃焼ガスの燃焼を促進する酸化触媒を配置して構成されている。そして、燃焼室内で発生した未燃焼ガスを二次燃焼室内へ導入するとともにこの二次燃焼室に配置されている酸化触媒の内部を通過させ、この触媒の酸化作用によって250度程度の低い温度で未燃焼ガスを再燃焼させ未燃焼ガス中のCO量を削減させるようにしている(特許文献1参照)。
【0006】
また、クリーンバーニング方式のストーブは、薪を燃焼させるようにした燃焼室と、一端側が燃焼室の外側に開口されるとともに他端側に前記燃焼室内に開口されている流出口が形成された空気供給管を設けて構成されており、煙突によるドラフト効果によって前記空気供給管を介して燃焼室の外から取り入れた空気を流出口から再燃焼用空気として燃焼室内へ噴出させて、この再燃焼用空気を未燃焼ガスと撹拌させて600度以上の高温にして未燃焼ガスを再燃焼させるようにしている(特許文献2参照)。なお排気煙の燃焼成分を再燃焼させることは、浄化と同時に発熱が増加し燃焼効率も向上する特長を併せ持つ。
【0007】
また、薪ストーブは火力調整がむずかしい欠点がありそれを解決するために一次燃焼と二次燃焼の給気を調整する機構も開発されている。例えば、ストーブの焚き始めや煙突による十分なドラフト効果が得られない場合を想定して再燃焼用の空気を強制給気するようにしたストーブや(特許文献3)、未燃焼ガスを滞留させた二次燃焼室に給気することで燃焼させるストーブ(特許文献4)なども提案されている。或いは焼却炉ではあるが、燃焼室の排気に含まれる煙の微粒子をヒーターによって再燃焼させ触媒を併用して無臭化させる技術も提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−46334号公報
【特許文献2】特開2004−77060号公報
【特許文献3】特開2006−52912号公報
【特許文献4】特開2007−285660号公報
【特許文献5】特開2007−78206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した各薪ストーブには、以下に述べる課題があった。
即ち、触媒を利用した二次燃焼型のストーブは、煤塵を触媒による再燃焼を促して排気ガスの浄化を行っている。このため、煤塵除去効率を上げるためには、排気抵抗を大きくして排気と触媒との反応時間を長くする工夫がされている。
しかしながら触媒による再燃焼もすべての煤塵を燃焼できるわけではなくかなり未燃焼で通過する。また排気抵抗が大きいことから限界燃焼量が低く制限され、触媒を経由させることでかえって不完全燃焼を誘発し排気煙を増加させている。さらに不完全燃焼による低温の排気ガスが触媒温度を下げますます煤塵除去率が下がる。
そこで、何とか排気抵抗を下げようとしてストーブ本体を強火力で加熱して高温にする予熱運転が長時間行われているが、直接排気されるために再燃焼は行われておらず、予熱運転の期間は大量の煤塵を排出してしまう。
【0010】
また、従来の薪ストーブは燃焼量に応じて吸気量が変化するオープンループシステムである。よって完全燃焼すればますます火力は強くなり、不完全燃焼すれば火力は弱くなる。
不完全燃焼時は可燃成分が未燃焼で排気され燃焼効率が低下し煤塵が増加することから、完全燃焼が望まれる。燃料と温度が一定の場合、酸素量を最適化すれば完全燃焼できる。理論空燃比は15であり、水蒸気生成現象等から18が採用される。
従来ストーブでは無制御状態で燃焼が行われていることから、最適燃焼せず塵埃が大量に排出され燃焼効率も悪化している。そして最適燃焼に手動で調整することも困難である。
また、最新型のストーブでは触媒を備えているが、フライアッシュが付着して触媒性能が経時的に低下するため煤塵除去効率には限界がある。
【0011】
そこで、排気ガス中の可燃成分は不完全燃焼の反映であるから、触媒の再燃焼作用は完全燃焼からの誤差量の検出と誤差演算を行っていることになる。演算結果は排気圧の増減となって現れて、不完全燃焼時は排気圧が強い負圧となってそれは一次燃焼室の空気に伝達され、最終的に給気量に負帰還がかかる。即ち、二次燃焼室における触媒は、不完全燃焼のセンサであり誤差増幅器に相当し、システム入力部に補正量をフィードバック制御する閉ループを形成するに等しい。燃焼装置を燃焼ガスの自然対流を演算および補正装置を駆動するエネルギー源とし、触媒により誤差演算を行い、燃焼室内の気体を使って補正信号を伝達するフィードバックシステム、即ち一種の気体演算装置とみなして本発明を提案するに至った。
本発明の目的は、煤塵を発生させないために可及的に完全燃焼可能な燃焼装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る燃焼装置は、以下の構成を備える。
給気口から排気口まで気密性が保たれた燃焼装置であって、ストーブ本体に設けられた開閉扉から燃焼材を収容して一次給気しながら燃焼させる一次燃焼室と、前記一次燃焼室の上方が仕切られ、火炎到達範囲に設けられた一次排気口を横切って触媒を設置可能な触媒設置部と、前記触媒設置部に設置された前記触媒を通過する際に排気中に含まれる可燃成分を再燃焼させる二次燃焼部と、前記二次燃焼させた排気を前記ストーブ本体の二次排気口より排気する排気量を抑制可能な排気抑制部と、を具備し、前記触媒は、前記一次燃焼室に上部に設けられた触媒収納部と前記触媒設置部との間を移動可能に設けられ、前記一次燃焼室の燃焼を優先する燃焼状態と前記一次排気口を横切る前記触媒により排気抑制して二次燃焼を促す排気抑制状態を無段階で切り替え可能になっていることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、触媒は一次燃焼室に上部に設けられた触媒収納部と触媒設置部との間を移動可能に設けられているので、触媒を例えば触媒収納部と触媒設置部との中間位置に移動させることで、触媒を経由しない排気通路が形成され、排気抵抗が減少するため、閉ループゲインは増大し一次燃焼室の燃焼が拡大する。よって、一次燃焼室の燃焼材が点火直後の上昇気流が極めて小さいときに触媒を触媒収納部側へ移動させておくことが有効である。点火時の排気ガス量は少ないことから触媒を触媒設置から移動させても支障はない。
また、一次燃焼室の燃焼材に点火した後、触媒を触媒設置部に設置することで、排気抑制によるフィードバックを行って二次燃焼を促し、煤塵を再燃焼させることができるので排煙を大幅に減らすことができる。触媒は一次燃焼室の火炎到達範囲に設けられるので、触媒動作温度まで上昇するのに時間を要さない。
また、一次燃焼室の燃焼を優先する燃焼状態と一次排気口を横切る触媒により排気抑制して二次燃焼を促す排気抑制状態を無段階で切り替え可能になっているので、一次燃焼室の燃焼状態に応じて触媒を最適な位置まで移動させて燃焼状態を安定させることができる。
【0014】
また、触媒はストーブ本体内からストーブ本体外に延設された操作レバーに連結する触媒ケース内に収容されており、操作レバーの進退操作量により触媒を燃焼状態と排気抑制状態との間を無段階で切り替えられる。これにより、ストーブ本体外に延設された操作レバーの進退操作だけで排気状態を切り替えることができ、操作性が向上する。
【0015】
また、前記排気抑制部は、前記ストーブ本体の天板に対して可動する排気抑制板を備え、当該排気抑制板の前記天板からの突出量を調整することにより、前記触媒を通過した二次燃焼排気の排気通路断面積が変更されることを特徴とする。
この排気抑制部に設けられた排気抑制板の突出量を調整することにより、二次燃焼の状態を見ながら排気通路断面積を変更して排気抵抗を最適に調節することができる。具体的には、排気抑制板の突出量による排気抵抗は、給気抵抗×(1.35×排気温度(°K)/300)×給気流速/排気流速により調整される。
【0016】
また、前記触媒収納部の底部にはハニカム構造の触媒ブロックの目詰まりを清掃する清掃ブラシが回転操作可能に設けられていることを特徴とする。
これにより一次燃焼室の火炎到達範囲に設置される触媒には、一次燃焼により上昇したフライアッシュが付着し易く触媒能力を低下させる。このためは、触媒収納部へ触媒を退避させて清掃ブラシを回転させるだけでハニカム状の触媒に付着した煤を掻き落として触媒能力を復元させることができる。この操作は燃焼中も行えるので、触媒のメンテナンスが簡単かつ容易に行える。
【0017】
前記触媒設置部の上流側近傍にはストーブ本体外より二次給気する二次給気口が設けられていることを特徴とする。この二次給気口が触媒設置部の上流側近傍に設けられていると二次燃焼が安定し、該二次燃焼の揺らぎにより一次燃焼が不安定になるのを防ぐことができる。
【0018】
さらには、前記触媒収納部の上部は開閉可能な蓋体が設けられ、当該蓋体を開放して前記触媒ケースに収容された触媒が交換可能になっていることを特徴とする。
これにより、触媒収納部へ触媒ケースを移動させて、蓋体を開放することで触媒ケースより触媒を取り出して交換することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、触媒により完全燃焼を維持することで煙がほとんど発生しない一次燃焼を実現できる。また、一次燃焼で発生した可燃成分は二次燃焼によりかなり除去できる。これら二重の煤塵除去により極めてきれいな排気を実現できる。点火時の数分間以外の大半の時間帯においてまったく煙の見えない状態が続くことを実験で確認済みである。これにより都市部での薪ストーブ利用拡大が可能となる。
また、完全燃焼しさらに2次燃焼の発熱も加わることから燃焼効率が向上し、燃料消費を削減できる。また、完全燃焼することから針葉樹も燃料化でき、間伐材利用の道を開き資源再生可能エネルギーへの転換とともに、カーボンニュートラルによる地球温暖化防止にも大きな効果がある。即ち燃料コスト削減が環境負荷軽減を促進することになる。
また、燃焼室内が透明となり明るい火炎を発するので視覚上の効果が大きい。従来はくすぶりながら発煙しガラス窓も黒くすすけたが、本案であれば火室内がくっきりと透明になり明るい炎が室内を照らし出すようになる。美しい燃焼シーンは個人住宅だけでなく商業施設・事業所等ビジネスユースへの展開にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】燃焼装置の正面図、右側面図、平面図である。
【図2】触媒を触媒設置部に設置した状態を示す燃焼装置の断面説明図である。
【図3】触媒を触媒収納部に退避した状態を示す燃焼装置の断面説明図である。
【図4】排気抑制板の突出量を調整した場合の排気通路面積を示す説明図である。
【図5】触媒収納部における触媒ブロックの清掃作業を示す状態説明図である。
【図6】触媒収納部から触媒を交換する状態を示す説明図である。
【図7】燃焼装置をフィードバック制御系に例えた原理説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る燃焼装置の実施形態について図1乃至図7を参照して説明する。以下の実施例では、燃焼装置の一例として薪ストーブを例示して説明するものとする。
【0022】
まず、図7を参照して、燃焼装置をフィードバック制御系に例えた動作原理について説明する。図7において、一次燃焼室までが給気部、一次燃焼室および触媒(二次燃焼部)が出力アンプ、触媒排出口から後方が排気部である。仮に触媒上流側に格子などの排気抵抗手段があっても、それは排気抵抗とはせず一次燃焼のゲインに含まれる。排気ガス中の可燃成分は不完全燃焼の反映であるから、触媒の再燃焼作用は完全燃焼からの誤差量の検出と誤差演算を行っていることになる。演算結果は排気圧の増減となって出力され、不完全燃焼時は排気圧が強い負圧となり、それは一次燃焼室の空気に伝達され、最終的に給気量に負帰還がかかる。即ち、本システムにおける触媒は、不完全燃焼のセンサであり誤差増幅器であり、システム入力部に補正量をフィードバックする制御ループを駆動する。
本システムは燃焼ガスの自然対流を演算および補正装置を駆動するエネルギー源とし、触媒により誤差演算を行い、燃焼室内の気体による動圧を使って補正信号を伝達するフィードバックシステムである。いわばある種の気体演算装置と言える。本発明に係る燃焼装置は、通常であれば電気的センサ、CPU,電動ファンなどを使用してシステムを構築するところ、それらをまったく用いずに実現したところに大きな意義がある。
【0023】
上記制御系においてループゲインは排気抵抗/給気抵抗であり、1/ループゲインがフィードバックゲインとなる。また補正量=誤差量×フィードバックゲインである。ループ応答時間は伝達遅延時間+燃焼遅れ時間である。以下、ループゲインについて説明する。
給気流量に対し、排気流量は燃焼反応による生成物流量であり約1.35倍になる。給気中の酸素は約20%を占め、またO2→CO2、分子量32→44より、燃焼後は(44/32)×0.2=0.275つまり7.5%増となる。また、窒素はN2→N2より、変化なく約0.8(80%)のままである。水蒸気はCO2と等量発生とすると0.275つまり27.5%増となる。よって生成物流量は0.275+0.8+0.275=1.35となる。さらにボイルシャルルの法則により温度上昇が350℃であれば流量は約2.2倍に膨張することから最終的に排気流量(生成物流量)は約3倍になる。
【0024】
また給気流量/給気抵抗=排気流量/排気抵抗より、排気抵抗=給気抵抗×3となる。仮に排気抵抗が給気抵抗の約3倍より大きいと(排気流量/排気抵抗)の値は小さくなるから給気抵抗が一定の場合は給気流量も小さくなる。限界燃焼量も給気量に応じて小さくなるから火力が小さくなる。反対に排気抵抗が給気抵抗の3倍よりも小さいと(排気流量/排気抵抗)の値が大きくなるから給気流量も大きくなる。限界燃焼量も給気量に応じて大きくなるから火力が大きくなる。このように給気抵抗と排気抵抗の関係によって火力が決定することからこの比率は制御ループのゲインを決めているに等しい。よってこれをループゲインGと呼ぶことにする。
以上より排気抵抗Roは、流速と排気温度を考慮すると、
Ro=(1.35×T/300)×RiVi/Voとなる(ただし室温27℃)。
Ro=排気抵抗、T=排気温度(°K)、Ri=給気抵抗、Vi=給気流速
Vo=排気流速
よって本システムの最適なループゲインG=Ro/Riは(1.35×排気温度(°K)/300)×給気流速/排気流速であり、フィードバックゲインはその逆数(1/G)である。すでに見てきたとおり流速が等しく排気温度が+350℃の場合は、Ro=3Riとなり、最適なループゲインGは3、フィードバックゲイン(1/G)は0.33であることが判る。
【0025】
排気抵抗は(煙突まで含めたストーブ固有値)+(排気抑制板による抵抗)であり、排気抑制板の排気抵抗は排気調整手段により適宜調整できることから、排気抵抗は最適値に設定することが可能である。ただし煙突が詰まっているなどして排気抵抗が大きい時は調整板では調整しきれず煙突掃除を行って排気抵抗を小さくする必要がある。
【0026】
給気口を絞った場合は流速が早くなりループゲインに応じた給気流量を保つようにフィードバックがかかる。よって完全燃焼は維持される。しかしそれは不完全燃焼状態にして小火力にすることはできないことを意味している。火力は投入された燃料により支配的に決められる。本システムは燃料量に応じて常に完全燃焼するように動作する。
ただし、給気流速が早くなり限界速度になるとフィードバックがかかっても給気流量は大きくならない状態が発生する。その時は不完全燃焼をおこし煤塵が発生し火力が小さくなる。しかし不完全燃焼の程度はわずかであり短時間で給気流量に見合った火力の小さな完全燃焼状態に遷移し煤塵も発生しなくなる。
【0027】
従来の触媒付薪ストーブでは触媒反応時間を長くするため排気抵抗を大きくとっている。例えば触媒後方の排気通路位置を触媒排出口より低い位置に配置して排気しにくくするなどの対策を講じている。その結果、フィードバックゲインが非常に小さくなりフィードバック効果はほとんどなく不完全燃焼を、さらには立ち消えを招いている。
また排気抵抗が小さくフィードバックゲインが大きすぎる場合は限界燃焼量で燃える。これは従来ストーブが排気ダンパーを開けて直通排気にした状態に相当し過剰燃焼に至ることが多い。従来ストーブはこのようにほぼ無制御状態で燃焼していたことから最適燃焼を維持することは困難であった。
【0028】
ループ応答時間は主に給気が補正されてから燃焼が追従するまでの時間であり概ね10秒程度以上である。それに対し、演算時間および信号伝達時間は排気ガスの流速により決まり流速は概ね0.5m/sec程度である。従って演算時間即ち触媒の再燃焼時間は触媒長さを0.05mとすれば0.1秒程度であり、信号伝達時間は1次燃焼室長さを0.5mとすれば1秒程度である。よって制御ループの位相マージンはπ×(8.9秒/10秒)=160°となり位相マージン最小値45°に対し充分な余裕があり発振の恐れはない。
【0029】
なお薪ストーブが発振すると、不完全燃焼による可燃性ガスが火室内に充満しやがて発火し一気に燃える爆燃現象が周期的に繰り返される。あるいはダンパーを開けて排気抵抗が小さい状態で強火力燃焼させるともっと高い周波数例えば1Hz〜10Hzが起こることもありストーブのドアが開いていると大きな騒音を伴ってドアあるいはストーブ本体が振動することもある。
【0030】
ノイズ成分としては0.1秒〜1秒程度の周期の燃焼ゆらぎが恒常的に発生している。そこで、後述するように触媒の上流側近傍に、給気能力が制限された二次給気手段を設ける。するとこの二次給気ループにより触媒再燃焼の0.1秒程度の短時間のフラッター成分は打ち消され1次燃焼に影響しなくなる。すなわち二次給気はノイズ除去のローパスフィルターとして機能する。これによって一次燃焼は安定し負帰還がかかっていても1Hz〜10Hz帯域での発振はなくなり、燃焼は連続的になり火炎が安定する。
【0031】
次に燃焼装置の一例について、図1乃至図6を参照して具体的に説明する。
図1(a)に示すように、キューブ状のストーブ本体1の前面には、開閉扉2が設けられている。開閉扉2を開けると図1(b)に示すように一次燃焼室3へ燃焼材(木材、木質ペレット、石炭など)を投入することができる。開閉扉2は透視窓2aより一次燃焼室3の燃焼状態が透視することができるのが望ましい。また、開閉扉2の直下には一次給気口4が設けられている。一次給気口4は、一次燃焼室3へ外気を給気することで一次燃焼を促す。一次給気口4は、ストーブ本体1の前面に設けられた一次給気絞り4aを操作することで一次給気口4を絞ることができる。
【0032】
また、一次燃焼室3の上方は仕切られており中央部に一次排気口5が設けられている。この一次排気口5は、図1(b)(c)に示すように、一次燃焼室3の火炎到達範囲に設けられている。また、後述するように排気口5を横切って触媒6が設置可能な触媒設置部7が設けられる。触媒設置部7に触媒6が設置されることで二次燃焼部8が形成され、一次燃焼した一次排気が触媒6を通過する際に排気中に含まれる可燃成分を再燃焼させる。
また、図1(b)に示すように、二次燃焼部8の下流側には、二次燃焼させた二次排気をストーブ本体1より排気する排気量を抑制可能な排気抑制部9が設けられている。排気抑制部9より下流側にはストーブ本体1の天板10に二次排気口11が設けられている(図1(c)参照)。二次排気口11には本実施例では省略したが、排気用の煙突が接続される。
【0033】
また、図1(b)において、一次排気口5を挟んで排気抑制部9と反対側には、触媒収納部12が設けられる。触媒6は、触媒収納部12と触媒設置部7との間を移動可能に設けられる。これにより、一次燃焼室3の燃焼を優先する燃焼状態と一次排気口5を横切る触媒6により排気抑制して二次燃焼を促す排気抑制状態を無段階で切り替え可能になっている。
【0034】
また触媒6はストーブ本体1内からストーブ本体1外に延設された操作レバー13に連結する触媒ケース13内に収容されている。この操作レバー13の進退操作量により触媒6を燃焼状態と排気抑制状態との間で無段階に切り替えられる。
【0035】
図4(a)(b)において、排気抑制部9は、ストーブ本体1の天板10に対して可動する排気抑制板9aを備えている。排気抑制板9aは、天板10に設けられた調整ねじ9bとねじ嵌合している。この調整ねじ9bにより排気抑制板9aの突出量を最小にした状態が図4(a)である。この状態は、触媒ケース14と天板10との間に形成される排気通路断面積が最大になり二次排気抵抗が最小となることから、二次燃焼を促す。
【0036】
また、調整ねじ9bにより排気抑制板9aの突出量を最大にした状態が図4(b)である。この状態は、触媒ケース14と天板10との間に形成される排気通路断面積が最小になり二次排気抵抗が最大となることから、二次燃焼を抑制する。
このように、排気抑制板9aの天板10からの突出量を調整することにより、触媒6を通過した二次燃焼排気の排気通路断面積が変更される。
【0037】
図5(a)(b)において、触媒収納部12の底部にはハニカム構造の触媒6(触媒ブロック)の目詰まりを清掃する清掃ブラシ15が回転操作可能に設けられている。
清掃ブラシ15は触媒6の円形サイズのプレート15aにステンレスワイヤを植毛したブラシ15bを備えている。触媒収納部12に底部には、カム軸16aにカム16bが設けられたアクチュエータ16が回転可能に軸支されている。清掃ブラシ15はプレート15aが2本のカム軸16aによって支持されている。ストーブ本体1の前面には回転ハンドル17が回転可能に軸支され、その軸端は触媒収納部12内に挿入されている。回転ハンドル17に接続するカム軸16aにはギヤ16cが設けられており、中央部に軸支されたギヤ16dを介して他方のカム軸16aに組み付けられたギヤ16cと噛み合っている。
【0038】
触媒収納部12に触媒ケース14に収納された触媒6が収納された状態で、図5(a)に示す清掃ブラシ15が下降した状態から、図5(b)に示す回転ハンドル17を90°回転させた状態にするとカム16bがプレート15aを押し上げるブラシ15bが触媒6に当接して煤を掻き落とすようになっている。回転ハンドル17を図5(a)に示す状態から時計回り若しくは反時計回り方向に90°ずつ回転させると効率よく清掃ブラシ15を上下動させることができる。触媒6の上流側端面(下面)は毎日清掃ブラシ15で清掃する必要がある。また、触媒6の下流側端面(上面)は例えば1週間ごとに掃除機等で吸引するのが好ましい。
【0039】
図6に示すように、触媒収納部12の上部は開閉可能な蓋体18が設けられている。この該蓋体18を開放して触媒ケース14に収容された触媒6が交換可能になっている。
触媒6を取り外すと触媒収納ケース14を触媒設置部7へ移動させると、清掃ブラシ15を掃除機等により吸引して清掃することができる。
また、清掃ブラシ15の交換は、操作レバー13を分解除去してから、蓋体18が開放した開口部19を通じてブラシ5bを上方に取り出して交換することができる。
【0040】
また、図2において、触媒設置部7の上流側にはストーブ本体1外より二次給気する二次給気口20が設けられている。二次給気口20より取り込まれた外気が触媒6の上流側に供給されることにより二次燃焼を促すことができる。
【0041】
次に、上述した構成の燃焼装置の燃焼動作並びにメンテナンス作業について説明する。
図3に示すように、一次燃焼室3に燃焼材を投入して点火する前は、操作レバー13をストーブ本体1の手前側に引いて触媒6を収容した触媒ケース14を触媒収納部12に待機させておく。このとき、一次排気口5が触媒6を介さずに二次排気口11と連通し、触媒6を経由しない排気通路が形成される。この触媒ケース14の移動に応じて触媒6による排気抵抗は減少してゆきループゲインは増大してゆく。触媒6が完全に通路外(触媒収納部12)に移動すると排気抵抗最少・ループゲイン最大となり激しく燃焼するオープンループ特性となる。これは従来燃焼装置が排気ダンパーを切り替えて直通排気にした状態に相当する。
【0042】
この状態は点火時など1次燃焼による上昇気流が極めて小さい時に燃焼を開始するために有効である。点火時の排気ガス量は少ないことから触媒6を触媒収納部12と触媒設置部7との中間位置にスライドさせても燃焼に支障はない。こうすれば点火時から触媒6は加熱されることになり、触媒6が触媒設置部7へ設置した直後から機能する。
一次燃焼室3に点火完了直後に、操作レバー13を押し込んで図2に示すように触媒6を触媒設置部7(一次排気口5を横切る位置)に戻す。これにより二次燃焼(フィードバック)により完全燃焼させ、発生した煤塵は触媒6で再燃焼させることが可能となる。よって、従来はもっとも煤塵を排出していた点火時の排煙を大幅に低減できる。
【0043】
一次燃焼により上昇した数mm大のフライアッシュは、従来は煙突内壁に付着するか屋外に排出されていたが、本実施形態では触媒6の上流側端面(下面)に付着する。煙突へのスス付着は低減され屋外排出は阻止されるがその代り大量のフライアッシュが触媒6の上流側端面(下面)に付着することになり、触媒能力を低下させるので頻繁な触媒清掃が必要となる。
【0044】
そこで、図5(a)に示すように、触媒収納部12に触媒収納ケース14を移動させ、図5(b)に示すように回転ハンドル17を時計回り若しくは反時計回り方向におよそ90°ずつ交互に回転させる。このとき、清掃ブラシ15がアクチュエータ16によって押し上げられて、ブラシ15bが触媒6に付着した煤を掻き落とすことができる。この操作は数秒で行え、燃焼中でも清掃が可能であり極めて容易に触媒性能を復活できる。触媒収納部12の底部に落下した煤がある程度溜まったら蓋体18を開放して掃除機などで吸い取ればよい。尚、触媒ケース14は触媒収納部12に移動すると一次排気口5を遮断するので、蓋体18を開放すれば容易に触媒6を取り出すことができる。
【0045】
また、図4(a)(b)に示すように、排気抑制板9aを設け、一次燃焼室3の燃焼状態を見ながら排気通路断面積を変えるなどすればよい。あるいは触媒ケース14の底面にスペーサーを挿入して触媒6高さを上げれば、排気抑制板9a(排気熱集熱板が兼ねることもある)との空隙が小さくなることで排気抵抗を大きくすることができる。スペーサーは触媒と同様の要領で簡単に脱着でき、厚さの異なるスペーサーを適宜交換して燃焼状態を確かめながら最適な排気抵抗を得ることができる。
【0046】
図1(c)に示すように、一次排気口5及び触媒収納部12はストーブ本体1の左右対称軸上に配置することが望ましい。触媒6が退避する触媒収納部12はそれ以外の部位と比較して放熱がよいことから温度が低くなり触媒6への排気ガス吸入量は減る。つまり触媒6の再燃焼エリアがアンバランスになる。仮に左右対称軸から外れていた場合、触媒6への排気ガス吸入がストーブ本体1の中心軸からずれることになり火炎が左右のいずれかに偏って上昇する。そのため一次燃焼室3内の発熱がアンバランスになりストーブひずみが増大し、透視窓2a中央からずれた位置での火炎は視覚的にも好ましくない。反対に左右対称軸上に触媒6及び触媒収納部12が配置されていると、火炎はストーブ中央に集まり上昇することになり熱バランスがよく視覚的にも安定感がでる。
【0047】
触媒6の触媒設置位置を一次排気口5ではなく天板10部分に配置すると、天板10は排気抑制板9aと排気熱集熱板とを兼用することになる。この場合、天板10は一次燃焼および二次燃焼の際の排気熱回収器となり、暖房効率が向上する。ストーブ本体1の中央部が最も高温となることから熱の伝導効率も高いものがある。さらに天板10をクッキンググリドルとするなどの排熱を利用した用途も拡大する。
【符号の説明】
【0048】
1 ストーブ本体
2 開閉扉
2a 透視窓
3 一次燃焼室
4 一次給気口
4a 一次給気絞り
5 一次排気口
6 触媒
7 触媒設置部
8 二次燃焼部
9 排気抑制部
9a 排気抑制板
9b 調整ねじ
10 天板
11 二次排気口
12 触媒収納部
13 操作レバー
14 触媒ケース
15 清掃ブラシ
15a プレート
15b ブラシ
16 アクチュエータ
16a カム軸
16b カム
16c,16d ギヤ
17 回転ハンドル
18 蓋体
19 開口部
20 二次給気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給気口から排気口まで気密性が保たれた燃焼装置であって、
ストーブ本体に設けられた開閉扉から燃焼材を収容して一次給気しながら燃焼させる一次燃焼室と、
前記一次燃焼室の上方が仕切られ、火炎到達範囲に設けられた一次排気口を横切って触媒を設置可能な触媒設置部と、
前記触媒設置部に設置された前記触媒を通過する際に排気中に含まれる可燃成分を再燃焼させる二次燃焼部と、
前記二次燃焼させた排気を前記ストーブ本体の二次排気口より排気する排気量を抑制可能な排気抑制部と、を具備し、
前記触媒は、前記一次燃焼室に上部に設けられた触媒収納部と前記触媒設置部との間を移動可能に設けられ、前記一次燃焼室の燃焼を優先する燃焼状態と前記一次排気口を横切る前記触媒により排気抑制して二次燃焼を促す排気抑制状態を無段階で切り替え可能になっていることを特徴する燃焼装置。
【請求項2】
前記触媒は前記ストーブ本体内からストーブ本体外に延設された操作レバーに連結する触媒ケース内に収容されており、前記移動レバーの進退操作量により前記触媒を燃焼状態と排気抑制状態との間で無段階に切り替えられる請求項1記載の燃焼装置。
【請求項3】
前記排気抑制部は、前記ストーブ本体の天板に対して可動する排気抑制板を備え、当該排気抑制板の前記天板からの突出量を調整することにより、前記触媒を通過した二次燃焼排気の排気通路断面積が変更される請求項1又は請求項2記載の燃焼装置。
【請求項4】
前記排気抑制板の突出量による排気抵抗は、給気抵抗×(1.35×排気温度(°K)/300)×給気流速/排気流速により調整される請求項3記載の燃焼装置。
【請求項5】
前記触媒収納部の底部にはハニカム構造の触媒ブロックの目詰まりを清掃する清掃ブラシが回転操作可能に設けられている請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の燃焼装置。
【請求項6】
前記触媒設置部の上流側にはストーブ本体外より二次給気する二次給気口が設けられている請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の燃焼装置。
【請求項7】
前記触媒収納部の上部は開閉可能な蓋体が設けられ、当該蓋体を開放して前記触媒ケースに収容された触媒が交換可能になっている請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の燃焼装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−193868(P2012−193868A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56145(P2011−56145)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(594055170)北斗制御株式会社 (19)
【Fターム(参考)】