説明

爆発物の処理材料およびその除去方法

【課題】除去対象の過酸化アセトン、特には、三量体型の過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体を新たに創製し、創製された抗体を利用して、抗原抗体反応を応用して、該三量体型の過酸化アセトンを、固定化された抗体に結合させ、回収することで、完全に拭き取り除去する方法と、該拭き取り除去作業に利用される、抗体を固定化した、拭き取り処理材料を提供する。
【解決手段】過酸化アセトンと類似する構造を有する3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸に対するモノクローナル抗体のうち、該過酸化アセトンに対する交叉反応性を示すものを選択し、過酸化アセトンを、固定化された抗体に結合させ、回収することで、完全に拭き取り除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆薬として使用される、過酸化物誘導体に対する結合能を有するモノクローナル抗体を利用して、該過酸化物誘導体を回収・処理し、安全に拭き取り除去する方法、ならびに、該拭き取り除去作業に利用される拭き取り処理材料に関する。
【背景技術】
【0002】
爆薬として使用される有機化合物、例えば、TNT(2,4,6-トリニトロトルエン)、RDX(ヘキソーゲン;1,3,5-トリニトロ-1,3,5-トリアジナン)、ペンスリット(四硝酸ペンタエリスリット:C(CH2ONO2)4)は、その分子内にニトロ基を有している。これら爆薬として、広汎に利用される、ニトロ化合物は、その摩擦感度、衝撃感度は、比較的に低い。
【0003】
一方、爆薬として使用される、有機過酸化物誘導体は、その摩擦感度、衝撃感度は相対的に高い。そのため、有機過酸化物誘導体型爆薬は、摩擦や衝撃を加えると、容易に爆発する危険な物質である。実際、有機過酸化物誘導体型爆薬である、過酸化アセトン、特には、三量体型のTATP(C9186:トリアセトントリペルオキシド)、あるいは、ヘキサメチレントリペルオキシドジアミン(HMTD)は、非常に摩擦や衝撃に敏感であるという特徴を利用して、一次爆薬として利用可能である。
【0004】
なかでも、過酸化アセトン、特には、下記の式(I)に示す構造を有する、三量体型のTATP(C9186:トリアセトントリペルオキシド)は、比較的に入手が容易な原料、アセトンと過酸化水素水、ならびに、酸触媒として利用する、硫酸、塩酸を使用して、実験室的規模で合成ができる。また、結晶性がよく、融点91℃の白色結晶として、単離、精製ができる。
【0005】
【化1】

【0006】
三量体型のTATPは、この作製の容易さが災いして、爆薬テロで使用されることもある。
【0007】
単離、精製された、三量体型のTATPの結晶は、非常に摩擦や衝撃に敏感であるため、微量な結晶を回収・処理する際、爆発する危険性があり、取扱に注意する必要がある。一方、三量体型のTATPは、アセトニトリルなどの有機溶媒に溶解させる、あるいは、浸漬させると、その摩擦感度、衝撃感度は大幅に低下するので、結晶を回収・処理する際、前記有機溶媒を染み込ませたスポンジ等の吸収材料で拭き取る手法が利用されている。この有機溶媒に溶解させる、あるいは、浸漬させた状態として、拭き取る手法では、三量体型のTATPが溶解している液が僅かであるが、残余する。その残余している液に含まれる有機溶媒が蒸散すると、三量体型のTATPの微細な粉末が析出する。そのため、有機溶媒に溶解させる、あるいは、浸漬させた後、拭き取る手法では、三量体型のTATPを完全に回収し、除去することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−23985号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006)
【非特許文献2】Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機溶媒に溶解させる、あるいは、浸漬させた後、拭き取る手法を利用して、回収・処理を行った後、不可避的に残余する三量体型のTATPの微細な粉末を、完全に除去する手法の開発が求められている。
【0011】
例えば、有害な物質を完全に除去する、あるいは、無害化する技術として、病原性を示すウイルス粒子である、インフルエンザ・ウイルスに対する抗体を利用し、抗原抗体反応を応用して、該ウイルス粒子を固定化し、除去する手法が提案されている(特開2009−23985号公報を参照)。抗原抗体反応を応用して、対象のウイルス粒子を固定化し、除去する手法は、大気中に飛散するインフルエンザ・ウイルスを完全に除去する手段としては有効である。除去対象に対する結合能を有する抗体が利用可能である場合、予め、該抗体を固定化した上で、除去対象物質と抗原抗体反応を行い、抗体に除去対象物質を結合させることで、完全に除去することが可能である。
【0012】
この抗原抗体反応を応用した除去手段を、微細粉末状の三量体型のTATPの回収、除去に適用する上では、三量体型のTATPに対する結合能を有する抗体が必要である。例えば、式(I)に示す構造を有する、三量体型のTATPを初めとする、有機過酸化物型の爆薬化合物自体は、免疫原性を示さないため、該有機過酸化物型の爆薬化合物に特異的な抗体は、これまで報告されていない。仮に、該有機過酸化物型の爆薬化合物に対して選択的な結合能を有する抗体が入手できれば、この選択的な結合能を有する抗体を利用する、該有機過酸化物型の爆薬化合物の固定化、除去方法の開発に適用できる可能性が高い。
【0013】
本発明は、前記の課題を解決するものである。すなわち、本発明の目的は、対象となる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体を新たに創製し、創製された抗体を利用して、抗原抗体反応を応用して、対象の過酸化物誘導体型の爆薬を、固定化された抗体に結合させ、回収することで、完全に拭き取り除去する方法と、該除去作業に利用される、抗体を固定化した、拭き取り処理材料を提供することにある。
【0014】
本発明の目的は、例えば、除去対象の過酸化物誘導体型の爆薬、過酸化アセトン、特には、下記の式(I)に示す構造を有する、三量体型のTATP(C9186:トリアセトントリペルオキシド)に対する結合能を有する抗体を新たに創製し、創製された抗体を利用して、抗原抗体反応を応用して、該式(I)に示す三量体型のTATPを、固定化された抗体に結合させ、回収することで、完全に拭き取り除去する方法と、該拭き取り除去作業に利用される、抗体を固定化した、拭き取り処理材料を提供することにある。
【0015】
TATP(3,3,6,6,9,9-hexamethyl-1,2,4,5,7,6-hexaoxacyclononane):
【0016】
【化2】

【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、先ず、対象の過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体を新たに創製する手法を検討した。
【0018】
対象の過酸化物誘導体型の爆薬自体は免疫原性を示さないことは、既に判明している。一方、免疫原性を持たない低分子量化合物であっても、キャリア・タンパク質上に該低分子量化合物を結合させ、該低分子量化合物により修飾された修飾タンパク質とすると、免疫原として機能する場合がある(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))。この手法を利用して、免疫原性を持たない低分子量化合物に対して特異的な反応性を示す抗体を作製した事例は少なくないが、全ての低分子量化合物に対して有効というものではない。すなわち、修飾タンパク質において、該低分子量化合物が結合されている部位が、実際に、免疫原性を示すか否かは、その部位の立体構造に依存するため、全ての低分子量化合物に対して有効というものではない。
【0019】
但し、例えば、式(I)に示す構造を有する、三量体型の過酸化アセトン(TATP)自体は、キャリア・タンパク質上に結合させ、修飾タンパク質を作製する際に利用可能な官能基を有してなく、前記の手法を適用できない。
【0020】
さらに、本発明者らは、抗原抗体反応においては、抗体は、本来の抗原と類似する構造を有する物質に対しても反応性を示す現象、所謂、交叉反応性を示す場合があることに着目した。すなわち、対象の低分子量化合物に代えて、該低分子量化合物と類似する構造を有する抗原に対する特異的な抗体を多数種創製すると、この多数種の抗体群のうちに、対象の低分子量化合物に対して、交叉反応性を示す抗体が存在する可能性があることに想到した。
【0021】
本発明者らは、実際に、式(I)に示す構造を有する、三量体型の過酸化アセトン(TATP)において、特徴的な構造は、その環構造であり、該環構造と構造的な類似性を有する低分子量化合物多数種のうち、キャリア・タンパク質上に結合された際、得られる修飾タンパク質が免疫原性を示すものを探索した。次いで、探索された、修飾タンパク質を免疫原として、マウスを免疫することで創製される抗体多数種のうち、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対して、交叉反応性を示す抗体が存在するか、否かについて、探索を行った。上記の二段回の探索過程を実施したところ、幸運にも、下記の式(II)に示す化合物が、キャリア・タンパク質上に結合された際、得られる修飾タンパク質が免疫原性を示し、該修飾タンパク質を免疫原として、マウスを免疫することで創製される抗体多数種のうちに、交叉反応性を示す抗体が存在することが見出された。
【0022】
3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)
【0023】
【化3】

【0024】
具体的には、式(II)に示すジカルボン酸化合物をキャリア・タンパク質上に結合させて得られる修飾タンパク質を免疫原として、マウスを免疫することで創製された、式(II)に示す化合物に対する抗体を産生する、一群のハイブリドーマ細胞株を作製し、この一群のハイブリドーマ細胞株から、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対して、交叉反応性を示す抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞株数種を選別することができた。
【0025】
この選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体は、少なくとも、免疫動物として利用したマウスの内因性物質とは、交叉反応性を示さないが、式(II)に示すジカルボン酸化合物と、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する反応性を具えていることが確認された。
【0026】
以上の一連の知見に加えて、本発明者らは、該選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体を固定化した上で、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)と抗原抗体反応を行わせた際、該モノクローナル抗体に一旦結合された式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)は、抗原抗体反応に利用した水性溶媒が蒸散した段階でも、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)は該モノクローナル抗体と安定に結合していることも確認した。
【0027】
前記モノクローナル抗体を固定化する基材として、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)を溶解可能な溶媒に対する吸液性を有する吸液材料を選択すると、該溶媒に溶解させた式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)の溶液を、前記吸液材料で吸い取ることができる。その際、前記吸液材料に吸い取られた溶液中に含まれる、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)は、該吸液材料中に固定化されている前記モノクローナル抗体と接触し、抗原抗体反応を行うことが可能であることも確認した。該溶液中において、該モノクローナル抗体と安定に結合した式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)は、該溶液中に含まれる溶媒を蒸散除去した段階でも、該モノクローナル抗体と安定に結合していることも確認した。
【0028】
従って、式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量に溶解させ、前記溶媒に対する吸液性を有する吸液材料で作製された、拭き取り処理材料を用いて、前記式(I)の過酸化アセトンが溶解した液を該拭き取り処理材料に吸液させて、拭き取り除去することができること;
その際、前記拭き取り処理材料は、前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体を、前記吸液材料中に固定化させる構成とすることで、該拭き取り処理材料に吸液させた、前記式(I)の過酸化アセトンの溶液中に溶解されている、式(I)の過酸化アセトンは、抗原抗体反応によって、固定化されている前記モノクローナル抗体と複合体を形成することができること;
結果として、目的の式(I)の過酸化アセトンの固体粉末の拭き取り除去が行えることを見出した。
【0029】
さらに、本発明者らは、上記の式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)と、該式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)における特徴的構造と類似性を具えた構造を持つ式(II)に示すジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体の組み合わせのみならず、対象の過酸化物誘導体型の爆薬自体は免疫原性を示さない場合、該過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクノーナル抗体を同様の手法で創製することが可能であることも見出した。その際、該過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクノーナル抗体多数種のうち、対象の過酸化物誘導体型の爆薬に対して交叉反応性を示す抗体を選別することが可能であり、選別される交叉反応性を示す抗体は、上記の抗原抗体反応を利用する、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)の拭き取り処理材料の作製に必要な特質を具えていることも見出した。
【0030】
本発明者らは、上述する一連の知見、ならびに、検証結果に基づき、本発明を完成させた。
【0031】
すなわち、本発明にかかる爆発物の拭き取り除去方法は、
過酸化物誘導体型の爆薬である、下記の式(I)の過酸化アセトン(TATP:3,3,6,6,9,9-hexamethyl-1,2,4,5,7,6-hexaoxacyclononane)の固体粉末を拭き取り除去する方法であって、
【0032】
【化4】

【0033】
該拭き取り除去する方法は、
式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、該式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量に溶解させ、
前記溶媒に対する吸液性を有する吸液材料で作製された、拭き取り処理材料を用いて、前記式(I)の過酸化アセトンが溶解した液を該拭き取り処理材料に吸液させて、拭き取り除去する工程を具え、
前記拭き取り処理材料は、
前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体を、前記吸液材料中に固定化しており、
該拭き取り処理材料に吸液させた、前記式(I)の過酸化アセトンの溶液中に溶解されている、式(I)の過酸化アセトンは、抗原抗体反応によって、固定化されている前記モノクローナル抗体と複合体を形成する
ことを特徴とする、爆発物の拭き取り除去方法である。
【0034】
特には、
前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体は、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)の過酸化アセトン過酸化物に対して交叉反応性を有することが好ましい。
【0035】
その際、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)であることが好ましい。
【0036】
【化5】

【0037】
上記の構成を有する本発明にかかる爆発物の拭き取り除去方法では、
前記式(I)の過酸化アセトンに対する結合能を有するモノクローナル抗体は、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、
該式(I)の過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する抗体であることが好ましい。
【0038】
その際、前記ヒト以外の哺乳動物は、マウスであることが好ましい。
【0039】
また、前記低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することが好ましい。
【0040】
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、その分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を選択し、
該分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質は、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)を介して、前記分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物の結合がなされていることが好ましい。
【0041】
例えば、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)の形成は、カルボジイミド法を利用してなされていることが好ましい。
【0042】
さらには、前記吸液材料中に固定化するモノクローナル抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 3B-7E(FERM BP−11125)が産生する、前記式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体を用いる形態とすることができる。
【0043】
上記の構成を有する本発明にかかる爆発物の拭き取り除去方法においては、
前記モノクローナル抗体は、ポリビニルアルコールによって、前記吸液材料中に固定化されていることが好ましい。
【0044】
あるいは、前記モノクローナル抗体は、少なくともタンパク質からなるリンカーを介して、前記吸液材料中に固定化されていることが好ましい。
【0045】
その際、前記少なくともタンパク質からなるリンカーは、プロテインAまたはプロテインGの少なくともどちらか一種類であることがより好ましい。
【0046】
一方、前記拭き取り処理材料は、少なくとも、水または前記溶媒を吸収させてから、拭き取り除去する工程に用いることが望ましい。
【0047】
さらに、前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、該式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量に溶解させる操作においては、
該式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量を用いて、前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を溶解して、溶液とすることは好ましい。
【0048】
その際、前記式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒は、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、エタノールアミン、メチルエチルケトンからなる有機溶媒の群から選択される、少なくとも1つの有機溶媒を含むことが好ましい。
【0049】
加えて、本発明は、上記の爆発物の拭き取り除去方法に好適に利用される、爆発物の拭き取り処理材料をも提供する。
【0050】
すなわち、本発明にかかる爆発物の拭き取り処理材料は、
過酸化物誘導体型の爆薬である、下記の式(I)の過酸化アセトン(TATP:3,3,6,6,9,9-hexamethyl-1,2,4,5,7,6-hexaoxacyclononane)の固体粉末の拭き取り除去に使用可能な拭き取り処理材料であって、
【0051】
【化6】

【0052】
前記拭き取り処理材料は、
前記式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒に対する吸液性を有する吸液材料で作製され、
前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体を、前記吸液材料中に固定化している
ことを特徴とする、爆発物の拭き取り処理材料である。
【0053】
特には、
前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体は、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)の過酸化アセトン過酸化物に対して交叉反応性を有することが好ましい。
【0054】
その際、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)であることが好ましい。
【0055】
【化7】

【0056】
上記の構成を有する本発明にかかる爆発物の拭き取り処理材料においては、
前記式(I)の過酸化アセトンに対する結合能を有するモノクローナル抗体は、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、
該式(I)の過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する抗体であることが好ましい。
【0057】
その際、前記ヒト以外の哺乳動物は、マウスであることが好ましい。
【0058】
また、前記低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することが好ましい。
【0059】
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、その分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を選択し、
該分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質は、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)を介して、前記分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物の結合がなされていることが好ましい。
【0060】
例えば、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)の形成は、カルボジイミド法を利用してなされていることが好ましい。
【0061】
さらには、前記吸液材料中に固定化するモノクローナル抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 3B-7E(FERM BP−11125)が産生する、前記式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体を用いる形態とすることができる。
【0062】
上記の構成を有する本発明にかかる爆発物の拭き取り処理材料においては、
前記モノクローナル抗体は、ポリビニルアルコールによって、前記吸液材料中に固定化されていることが好ましい。
【0063】
あるいは、前記モノクローナル抗体は、少なくともタンパク質からなるリンカーを介して、前記吸液材料中に固定化されていることが好ましい。
【0064】
その際、前記少なくともタンパク質からなるリンカーは、プロテインAまたはプロテインGの少なくともどちらか一種類であることが好ましい。
【発明の効果】
【0065】
本発明にかかる爆発物の拭き取り除去方法では、過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体を利用しており、吸液材料中に固定化されている、該モノクローナル抗体の該過酸化物誘導体型の爆薬に対する交叉反応性によって、抗原抗体反応を介して、対象の過酸化物誘導体型の爆薬を選択的に結合させ、除去することが可能である。例えば、対象の過酸化物誘導体型の爆薬が、三量体型の過酸化アセトン(TATP)である際には、該三量体型の過酸化アセトン(TATP)と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)に対するモノクローナル抗体を利用しており、吸液材料中に固定化されている、該モノクローナル抗体の該過酸化物誘導体型の爆薬に対する交叉反応性によって、抗原抗体反応を介して、対象の過酸化物誘導体型の爆薬を選択的に結合させ、除去することが可能である。
【0066】
具体的には、式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量に溶解させ、前記溶媒に対する吸液性を有する吸液材料で作製された、拭き取り処理材料を用いて、前記式(I)の過酸化アセトンが溶解した液を該拭き取り処理材料に吸液させて、拭き取り除去することができ、その際、前記拭き取り処理材料は、前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体を、前記吸液材料中に固定化させる構成とすることで、該拭き取り処理材料に吸液させた、前記式(I)の過酸化アセトンの溶液中に溶解されている、式(I)の過酸化アセトンは、抗原抗体反応によって、固定化されている前記モノクローナル抗体と複合体を形成することができるため、目的の式(I)の過酸化アセトンの固体粉末の拭き取り除去を安全に実施することが可能となる。特には、本発明にかかる爆発物の拭き取り処理材料を利用することによって、対象の過酸化物誘導体型の爆薬:式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を簡便に拭き取り除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる拭き取り除去方法において利用可能な、3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)に対するモノクローナル抗体の、対象の過酸化物誘導体型の爆薬、三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性をELISA法により評価した結果を示すグラフである。
【図2】本発明の第一の実施態様にかかる爆薬の拭き取り処理材料の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第二の実施態様にかかる爆薬の拭き取り処理材料の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第一の実施形態にかかる拭き取り除去方法を実施する手順の一例を模式に示す図である。
【図5】本発明の第一の実施形態にかかる拭き取り除去方法を実施する手順の他の一例を模式に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下に、本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の拭き取り除去方法と、その拭き取り除去作業に利用される拭き取り処理材料に関して、詳細に説明する。
【0069】
まず、本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の拭き取り除去方法に利用される、過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体と、その製造方法に関して、より詳しく説明する。
【0070】
低分子量の有機化合物に対する抗体を創製する手段として、対象の低分子量の有機化合物自体は免疫原性を示さない場合、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法がある(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))。
【0071】
具体的には、低分子量の有機化合物が反応性の官能基、例えば、アミノ基(−NH2)、ヒドロキシル基(−OH)、スルファニル基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)を具えている場合、該反応性の官能基を利用して、他の反応性官能基を有する有機化合物を共有結合的に連結することが可能である。キャリア・タンパク質は、複数のアミノ酸残基が連結されてなるペプチド鎖で構成される、三次元構造を有しているが、その表面には、側鎖上に反応性官能基を有するアミノ酸残基が複数個存在している。従って、三次元構造を有している、キャリア・タンパク質の表面に存在する、アミノ酸残基の側鎖上の反応性官能基を利用して、反応性の官能基を具えている、低分子量の有機化合物を結合させることが可能である。この表面に低分子量の有機化合物に因る修飾が施された、修飾キャリア・タンパク質は、非天然型タンパク質分子であり、哺乳動物自体の内因性タンパク質分子と相違する、異質な物質として、認識される頻度が高い。特に、低分子量の有機化合物に因る修飾が施された部位は、免疫原性を発揮する頻度が高い。修飾キャリア・タンパク質表面の、低分子量の有機化合物に因る修飾が施された部位が、免疫原性を発揮する場合、該修飾キャリア・タンパク質を用いて、哺乳動物を免疫すると、該修飾キャリア・タンパク質に対する、特異的な抗体が創製される。
【0072】
該修飾キャリア・タンパク質の表面において、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)が複数存在する可能性がある。その場合、前記複数の免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)のそれぞれに特異的な抗体複数種が創製される。創製された、修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちには、その修飾に利用した低分子量の有機化合物自体を、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)とする抗体が存在する頻度が高い。修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に対する結合能に基づき、スクリーニングを行うことで、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体を、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)とする抗体を選別することが可能である。
【0073】
但し、修飾キャリア・タンパク質の表面に存在する抗原決定基に対して、高い交叉反応性を示す抗体を、免疫対象の哺乳動物が既に保持している場合には、この交叉反応性を示す抗原決定基に対する、新たな抗体の創製は起こらない。すなわち、免疫対象の哺乳動物が既に保持している抗体が示す高い交叉反応性を利用して、該修飾キャリア・タンパク質に対する免疫反応が可能である場合、この交叉反応性を示す抗原決定基に対する、新たな抗体の創製は起こらない。
【0074】
さらには、修飾が施された部位が、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)として機能する場合であっても、該抗原決定基に特異的な抗体は、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に対する結合能は高くない場合も、少なくない。
【0075】
すなわち、前記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法を利用して、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に特異的な抗体を創製できる、否かは、下記の要因に依存している。具体的には、対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造、利用するキャリア・タンパク質との組み合わせ、ならびに、該キャリア・タンパク質上への結合形態、その修飾部位の選択、以上4つの要因に依存している。
【0076】
実際には、対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造は既に決定されているため、残る3つの要因に関して、適切な組み合わせを選択できるか、否かは、多分に偶然性に依存したものである。すなわち、キャリア・タンパク質上への結合形態、その修飾部位は、利用するキャリア・タンパク質の種類に依存しており、また、対象の低分子量の有機化合物が有する反応性官能基の種類によって、制限される。対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造によっては、残る3つの要因に関して、適切な組み合わせが選択できない場合もある。
【0077】
一方、過酸化物誘導体型の爆薬自体が、その分子内に反応性官能基を保持していない場合には、上記の前記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法を適用できない。勿論、過酸化物誘導体型の爆薬は、低分子量の有機化合物であり、それ自体は免疫原性を示さない。
【0078】
そのため、本発明では、対象の過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体多数を創製し、その類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体多数のうち、対象の過酸化物誘導体型の爆薬に対して交叉反応性を有する抗体を選別する方法を採用している。
【0079】
以下に、対象の過酸化物誘導体型の爆薬として、下記の式(I)に示す構造を有する三量体型の過酸化アセトン(TATP:3,3,6,6,9,9-hexamethyl-1,2,4,5,7,6-hexaoxacyclononane)を例に採り、本発明で利用される抗体の作製方法をより具体的に説明する。
【0080】
【化8】

【0081】
式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)の構造的特徴は、その環構造そのものである。この環構造の特徴を具え、分子内に反応性官能基を有する、低分子量の過酸化物型化合物のうち、哺乳動物自体に対する毒性は高くなく、また、キャリア・タンパク質上に結合させる際、その環構造を保持可能なものを探索した。
【0082】
その探索の結果、毒性が低い抗マラリア薬剤としての利用が検討されている、低分子量の過酸化物型化合物の一群のうち、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)が前記の要件を満足する候補として、選択された。
【0083】
【化9】

【0084】
本発明では、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の分子内に存在する反応性官能基である、カルボキシル基(−COOH)を利用して、キャリア・タンパク質表面に存在する反応性官能基、特に、アミノ基(−NH2)との間で、アミド結合(−CO−NH−)を形成させることで、キャリア・タンパク質の表面に結合させる形態を選択することが好ましい。
【0085】
その際、キャリア・タンパク質は、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に利用されている、各種のキャリア・タンパク質を利用することができる。キャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)などが好適に利用できる。
【0086】
キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する場合、免疫操作を施した哺乳動物中では、該修飾キャリア・タンパク質に対する特異的な抗体が創製される。その際、利用するキャリア・タンパク質自体も、一般に、免疫原性を具えているため、該修飾キャリア・タンパク質中の修飾部位に特異的な抗体以外に、キャリア・タンパク質自体の抗原決定基に特異的な抗体の創製もなされる。
【0087】
その点を考慮すると、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質に対して、未修飾のキャリア・タンパク質の混入比率が低いことが好ましい。勿論、未修飾のキャリア・タンパク質の混入が無い、修飾キャリア・タンパク質を使用することがより好ましい。
【0088】
一方、利用されるキャリア・タンパク質上には、対象の低分子量の有機化合物を結合させ、修飾を行うことが可能な部位(修飾可能部位)が、一般に、複数箇所存在している。この修飾可能部位は、それぞれ、反応性官能基が存在しているが、その反応性には、一般に、差違が存在している。従って、反応性の高い修飾可能部位から優先的に、対象の低分子量の有機化合物の結合が進行し、対象の低分子量の有機化合物が消費されるため、反応性の低い修飾可能部位に対して、対象の低分子量の有機化合物の結合が達成される効率は一層低下する傾向がある。キャリア・タンパク質上に存在する、複数の修飾可能部位の全てに、対象の低分子量の有機化合物の結合を達成させるためには、反応に使用する対象の低分子量の有機化合物の量は、複数の修飾可能部位の合計に対して、相当に過剰な量に選択することが望ましい。例えば、キャリア・タンパク質上に存在する、修飾可能部位がN箇所である場合、反応に使用する対象の低分子量の有機化合物の量は、キャリア・タンパク質1分子当たり、最低限、N分子が必要であるが、少なくとも、少なくとも、50分子以上、好ましくは、60分子以上に選択することが望ましい。
【0089】
免疫操作は、該対象の低分子量の有機化合物を結合させた、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液を、例えば、免疫対象の哺乳動物に対して、注射により投与することにより行うことが望ましい。その注射による投与の形態では、皮下注射、皮内注射、静脈注射、または腹腔内投与の形態が利用可能である。通常、皮下注射によって、前記溶液を投与する。その際、前記修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液に、各種のアジュバンドを添加することが好ましい。通常、該アジュバンドとしては、従来から免疫操作に利用されているアジュバンドが利用できる。利用可能なアジュバントとしては、フロイント完全アジュバントや水中油中水型乳剤、水中油乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲル、シリカアジュバンドがある。フロイント完全アジュバンドは、汎用されており、本発明でも、好適に利用できる。例えば、初回の免疫操作(感作)時には、該アジュバンドとして、フロイント完全アジュバントを利用することが好ましい。
【0090】
また、免疫操作では、初回の免疫操作(感作)後、所定の期間が経過した時点で、追加免疫を行う。この追加免疫においても、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液に、各種のアジュバンドを添加することが好ましい。例えば、追加免疫時にも、該アジュバンドとして、フロイント完全アジュバントを利用することが好ましいが、フロイント不完全アジュバントを利用することでも、相当の効果が得られる。
【0091】
初回の免疫操作(感作)後、実施される追加免疫は、複数回行うことが望ましい。その間隔は、前回の免疫操作(感作)に対する免疫反応に伴う、血液中の抗体濃度が極大を示し、抗体濃度の減少期となった時点で、追加免疫を行うことが望ましい。前回の免疫操作(感作)後、血液中の抗体濃度が極大に達するまでの日数は、通常、用いる免疫原の体内での代謝速度に依存する。従って、追加免疫の間隔は、用いる免疫原の種類、対象の免疫動物の種類、その健康状態に依存する。マウスなどの小動物を免疫動物に利用する際には、初回の免疫操作(感作)後、例えば、2週間、4週間、6週間、8週間後に、追加免疫を実施する形態を選択できる。
【0092】
科学的には、免疫対象の哺乳動物の種類は問わないが、倫理的な観点から、ヒト以外の哺乳動物から選択する。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を創製する場合、免疫対象の哺乳動物に利用可能な、ヒト以外の哺乳動物としては、マウス、ラット、ヤギなどを選択することができる。
【0093】
免疫対象の哺乳動物としては、該修飾キャリア・タンパク質に対して、交叉反応性を示す抗体を既に保持している哺乳動物は好ましくない。すなわち、当該免疫対象の哺乳動物は、後天的に獲得した免疫が無い個体であることが、一般に好ましい。前記の要件を考慮すると、各種の免疫原性物質に曝される機会が本質的にない環境下において、出産後、生育された哺乳動物を利用することが好ましい。あるいは、出産後、免疫操作を施すことが可能な程度に生育するまでの期間が短い哺乳動物を利用することが好ましい。これらの条件を考慮すると、医学的な研究に利用される、血統的に確立されている小型の哺乳動物を利用することがより好ましい。具体的には、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどが好ましく、特には、マウスまたはラット、更には、マウスを利用することがより好ましい。
【0094】
免疫操作に先立ち、免疫動物として利用される、ヒト以外の哺乳動物において、該修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、キャリア・タンパク質自体の免疫原性と、該キャリア・タンパク質に対する特異的な抗体が創製される免疫条件を予め調査することが望ましい。上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に利用されている、各種のキャリア・タンパク質に関しては、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどについて、前記の事項は、既に調査されており、その報告が利用できる。
【0095】
また、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に報告されている成功例を参照して、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどについて、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を相当の確度で推定することも可能である。
【0096】
各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどに対する、免疫操作の手順は、既に報告されている成功例で利用された手順に沿って、選択することが望ましい。
【0097】
免疫対象の哺乳動物として、マウスまたはラットを選択する場合、初回の免疫操作(感作)を実施する齢は、その後の追加免疫の回数、その間隔を考慮して、選択される。具体的には、複数回の追加免疫を終了した後、当該免疫動物の血液中に、免疫原に特異的な抗体が存在することを検証する必要がある。従って、複数回の追加免疫を終了する時点で、当該免疫動物が抗体を生産する能力が低下する齢に達しないように、初回の免疫操作(感作)を実施する齢を選択することが好ましい。初回の免疫操作(感作)後、複数回の追加免疫を終了するまでの期間を、8週間程度に選択する場合、マウスまたはラットでは、初回の免疫操作(感作)を実施する齢は、10〜15週齢の範囲に選択することが好ましく、通常、12週齢程度に選択することがより好ましい。マウスまたはラットでは、12週齢程度に達すると、十分な抗体を生産する能力を有しており、新規な抗体を創製する能力が最も高くなることが知られている。
【0098】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物は、公知の化合物であり、その合成方法は、文献に既に報告されている(非特許文献3:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))。該式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物は、室温において、固体であるため、キャリア・タンパク質上に該化合物を結合させる反応は、該化合物を溶解可能な反応溶媒を利用して実施する必要がある。一方、利用されるキャリア・タンパク質は、溶媒の種類によっては、変性を受ける場合がある。従って、利用されるキャリア・タンパク質の変性を引き起こさず、同時に、該化合物を溶解可能な反応溶媒を選択する必要がある。
【0099】
従来、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、修飾キャリア・タンパク質を調製する際に利用された、各種の反応溶媒中から、前記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を溶解可能な反応溶媒を選択することが好ましい。実際に、前記の反応溶媒の選択を進めたところ、特に、好ましい反応溶媒として、ジメチルスルホン(DMSO:(CH32SO)とホウ酸緩衝液が選択された。
【0100】
ジメチルスルホン(DMSO:(CH32SO)は、非水溶媒であるが、キャリア・タンパク質を変性させずに溶解可能であり、また、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を相当に高濃度で溶解可能な溶媒である。
【0101】
また、ホウ酸緩衝液は、その緩衝作用が発揮できるpH領域は、6.8〜9.2の範囲であるが、上記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を溶解可能な溶媒系としては、通常、pHを8.2〜8.7の範囲に選択する組成、特には、pHを、8.5前後に調整可能な組成を選択することが好ましい。
【0102】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の分子内に存在する反応性官能基である、カルボキシル基(−COOH)を利用して、キャリア・タンパク質表面に存在する反応性官能基、特に、アミノ基(−NH2)との間で、アミド結合(−CO−NH−)を形成させる場合、カルボジイミドを利用するアミド結合形成法を利用することが好ましい。カルボジイミドを利用するアミド結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N−[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド(EDC)、N−[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC)などを利用することができる。該結合剤カルボジイミドの量は、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物1分子当たり、5分子〜20分子の範囲に選択することが好ましい。
【0103】
一方、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の使用量は、キャリア・タンパク質の表面に露呈する、アミノ基(−NH2)の総数に基づき、決定する。その際、キャリア・タンパク質1分子の表面に露呈する、アミノ基(−NH2)の総数がN個である場合、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の使用量を、該キャリア・タンパク質1分子当たり、N×3分子〜N×10分子の範囲に選択することが好ましい。その結果として、該キャリア・タンパク質1分子当たり、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物が、1/2×N分子〜N分子の範囲で、結合している、修飾キャリア・タンパク質を調製することが望ましい。
【0104】
本発明では、上記の免疫操作に利用する、免疫原として、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を利用している。免疫操作によって、新たに創製される、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちに、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体が実際に存在することを、先ず検証する。
【0105】
上記の最終回の追加免疫を終了した後、免疫原として利用する、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体の血液中濃度の有意な上昇が見出される時点で、当該免疫動物から採血し、採取した血液から、抗血清を調製する。この抗血清中に含まれる、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちに、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体が実際に存在することを、検証する。
【0106】
すなわち、該低分子量の有機化合物自体を抗原決定基とする、ポリクローナル抗体の有無を検証する。複数種の抗体を含有している抗血清中に、特定の抗原決定基に特異的に結合する抗体が存在することを検証する手段としては、酵素免疫測定法(ELISA法)が好適に利用される。酵素免疫測定法(ELISA法)は、特定の抗原決定基に対する抗体の特異的な反応性を利用するため、選択性が高く、特に、抗血清中に含有されている、特定の抗原決定基に対する抗体の濃度が不明な場合に、その抗体価を簡便に評価することが可能である。
【0107】
本発明では、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体の検出を行うため、酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原として、該低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を利用する。勿論、その別種のキャリア・タンパク質自体は、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種と反応しないことが必要である。
【0108】
免疫原の作製に利用されるキャリア・タンパク質と、前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質を、免疫原の作製に好適に利用されるキャリア・タンパク質の群から、互いに相違する二種のキャリア・タンパク質の組み合わせを選択することが好ましい。
【0109】
前記のキャリア・タンパク質の組み合わせでは、該キャリア・タンパク質自体の抗原決定基は、通常、相違しており、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種が、前記別種のキャリア・タンパク質自体に反応性を示す可能性を排除できる。また、前記の互いに相違する二種のキャリア・タンパク質の組み合わせでは、該低分子量の有機化合物を結合可能な部位の局所的な構造(部分アミノ酸配列)が実質的に一致する可能性も極めて低い。従って、前記の組み合わせでは、免疫原の修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうち、該低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質に対して結合能を示す抗体は、該低分子量の有機化合物自体に結合する抗体と見做すことができる。
【0110】
特に、前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質として、ブロッキング用タンパク質として、汎用されるウシ血清アルブミンを選択し、一方、免疫原の作製に利用されるキャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミン以外の汎用のキャリア・タンパク質、例えば、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することがより好ましい。前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する、修飾キャリア・タンパク質型の抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミンを選択すると、その修飾キャリア・タンパク質型の抗原の、ウシ血清アルブミン部分に非選択的に抗体分子が結合する現象も排除される。さらに、ウシ血清アルブミンをキャリア・タンパク質とする、該修飾キャリア・タンパク質型の抗原は、ELISAプレート上に、高密度で固定することが可能である。
【0111】
取得された抗血清中に、免疫原の作製に利用している、該低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有する抗体が存在することを検証した後、該低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するポリクローナル抗体が、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す構造を有する三量体型の過酸化アセトン(TATP)自体に対して、交叉反応性を示すか否かを検証する。
【0112】
本発明において、前記抗体の交叉反応性の検証は、二種の抗原の抗体に対する競合反応を利用することが好ましい。
【0113】
目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す構造を有する三量体型の過酸化アセトン(TATP)自体は、低分子量の有機化合物であり、抗体との抗原抗体反応を行う際、その結合は、抗体分子の相補性決定部位の一つにより達成されると考えられる。また、上記の免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物も、抗体との抗原抗体反応を行う際、その結合は、抗体分子の相補性決定部位の一つにより達成されると考えられる。
【0114】
従って、抗体が交叉反応性を有する場合、免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物との結合に関与する、該抗体分子の相補性決定部位と、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)自体の結合に関与する、該抗体分子の相補性決定部位とは一致する可能性が極めて高い。その場合、該抗体分子の相補性決定部位に、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)が結合すると、免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物の結合を阻害する。この競争阻害の現象を利用することで、当該抗体分子の特定の相補性決定部位に対して、交叉反応性を示すか否かを検証することができる。
【0115】
具体的には、上記の免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性に検証に利用した、該類似の構造を有する低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を、ELISAプレート上に固定化する。一方、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)は、該ELISA法において、抗原抗体反応を行わせる反応液中に、ポリクローナル抗体の含む抗血清とともに溶解させる。
【0116】
上記の競合反応が進行すると、前記反応液中に存在する、交叉反応性を示す抗体は、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)と抗原抗体反応する結果、プレート上に固定化されている、修飾キャリア・タンパク質型の抗原との抗原抗体反応を介して、固定化される抗体分子の量が減少する。この競合反応に起因する、プレート上に固定化されている、修飾キャリア・タンパク質型の抗原との抗原抗体反応を介して、固定化される抗体分子量の減少を、酵素免疫測定法(ELISA法)を応用して検出する。
【0117】
この手法を利用することで、抗血清中に含有される、上記の免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対するポリクローナル抗体中、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)と交叉反応性を示す抗体が含まれることを検証することができる。
【0118】
換言すると、前記の検証がなされた抗血清は、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するポリクローナル抗体を含むものである。
【0119】
前記の目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)と交叉反応性を示す抗体を産生していることの検証がなされた免疫動物の抗体産生細胞群を採取し、この抗体産生細胞群と、骨髄腫由来の細胞株の細胞とを細胞融合させ、一群のハイブリドーマ細胞を作製する。
【0120】
通常、前記の検証がなされた免疫動物から、その脾臓を摘出して、脾臓細胞群を調製する。この脾臓細胞群と、骨髄腫由来の細胞株の細胞とを細胞融合させ、一群のハイブリドーマ細胞を作製する。
【0121】
前記の細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株は、融合対象である、免疫動物由来の脾臓細胞と適合性を有することが必要である。また、細胞融合で創製されるハイブリドーマ細胞の増殖能は、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株に依っており、増殖能力の優れた骨髄腫由来の細胞株を利用することが好ましい。
【0122】
例えば、免疫動物として、マウスを選択する場合、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株として、マウスの骨髄腫由来の細胞株である、P3X63 Ag8.653、P3X63Ag8U、Sp2/O Ag14、FO・1、S194/5.XX0 BU.1等が好適に使用される。特に、細胞株P3X63Ag8Uの利用は、創製されるハイブリドーマ細胞の増殖能が高く、また、該ハイブリドーマ細胞の産生する抗体分子は、適正な組み立てがなされた全抗体であり、組み立ての完了していない抗体分子の断片を含まないので、より好ましい。
【0123】
例えば、免疫動物として、ラットを選択する場合、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株として、ラットの骨髄腫由来の細胞株、210、RCY3.Ag1.2.3、YB2/0などが挙げられる。
【0124】
上記のハイブリドーマ細胞を創製するための細胞融合の手法として、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などが挙げられる。ポリエチレングリコール法は、細胞毒性が少なく、融合操作も容易であり、特に、再現性が高いので、本発明により適している。すなわち、本発明では、免疫原の修飾キャリア・タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体を産生する、一群のハイブリドーマ細胞のうち、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選別する必要がある。創製される、一群のハイブリドーマ細胞のうち、前記の交叉反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞が含まれる頻度は、決して高く無いので、スクリーニング対象の一群のハイブリドーマ細胞の細胞株数(母数)を大きくする必要がある。従って、より再現性の高い細胞融合手法を選択することが好ましく、ポリエチレングリコール法は、前記の要請に適合している。
【0125】
創製された、一群のハイブリドーマ細胞は、分散した上で、マイクロプレートに分注して、利用した骨髄腫由来の細胞株に応じて、適宜選択される公知の培養条件で増殖させる。上記の培養により確立される、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株について、各ハイブリドーマ細胞の細胞株が産生するモノクローナル抗体について、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)と交叉反応性を示す抗体か否かを検証する。
【0126】
培養により確立される、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株について、各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清を採取する。各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清は、該細胞株の産生するモノクローナル抗体を含んでいる。
【0127】
各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清に含まれるモノクローナル抗体が、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するか、否かを先ず検証する。
【0128】
その検証には、該類似の構造を有する低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を抗原とする、酵素免疫測定法(ELISA法)による検証手法が利用できる。その具体的な測定法は、上記の抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の反応性に関する検証と、原理的には同じである。
【0129】
この検証によって、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株中から、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞の細胞株が選別される。この一次スクリーニングで選別される、ハイブリドーマ細胞の細胞株の群について、該ハイブリドーマ細胞の細胞株の産生するモノクローナル抗体は、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、すなわち、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体か否かを検証する。
【0130】
この交叉反応性に関する検証は、上記の抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性に関する検証と、原理的には同じ手法を適用することで行うが可能である。
【0131】
前記目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、すなわち、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性の検証(二次スクリーニング)によって、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、すなわち、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞の細胞株が選別される。なお、選択されるモノクローナル抗体のタイプは、酵素免疫測定法(ELISA法)に利用される、抗Ig抗体の示す抗体タイプ特異性に依存する。
【0132】
この二次スクリーニングによって、選別されるハイブリドーマ細胞の細胞株を使用して、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を生産することができる。
【0133】
選別されたハイブリドーマ細胞の細胞株のin vitro細胞培養を行い、その培養上清を回収し、含有されるモノクローナル抗体を精製することができる。また、選別されたハイブリドーマ細胞の細胞株を、免疫に利用したヒト以外の哺乳動物の腹腔内に接種すると、該腹腔内で増殖し、腹水内に産生されたモノクローナル抗体が蓄積される。その後、該腹水を採取して、含有されるモノクローナル抗体を精製することができる。
【0134】
腹水または培養上清中に含まれる、モノクローナル抗体の精製は、例えば、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法,エタノール分画法などを、適宜組み合わせ、目的の純度まで精製を施す。望ましい純度は、95%以上、より好ましくは98%以上である。例えば、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を、当該過酸化物誘導体型の爆薬の固定化に利用する場合、前記の純度まで精製を行うことが望ましい。
【0135】
(受託番号)
なお、
本発明に利用される、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 3B-7Eが、ブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6、郵便番号305−8566)に、国際寄託(平成21年 5月12日付け)がなされている。
【0136】
【表1】

【0137】
上記のハイブリドーマ細胞株は、後述する第一の実施態様に開示する手順によって、創製され、選別されたハイブリドーマ細胞株である。なお、ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 3B-7Eは、後述のモノクローナル抗体mAb−T003を産生するハイブリドーマ細胞株である。
【0138】
本発明においては、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を利用することで、下記の構成を有する拭き取り処理材料を作製することが好ましい。
【0139】
本発明の第一の実施形態にかかる爆薬の拭き取り処理材料は、該爆薬が溶解されている液を吸い取る機能を具えた吸液材料、例えば、吸水材料1に、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体2を保持させた構成を有している。本発明の第一の実施形態にかかる爆薬の拭き取り処理材料の一例を、図2を用いて詳細に説明する。
【0140】
図2に例示する、本発明の第一の実施形態にかかる爆薬の拭き取り処理材料の一例では、該爆薬が溶解されている液を吸い取る機能を具えた吸液材料、例えば、吸水材料1を基剤として、該基剤に対して、モノクローナル抗体2をポリビニルアルコール10の被覆層を利用することで固定化している。
【0141】
利用される吸液材料は、前記式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒に対する吸液性を有する材料である。具体的には、該吸液材料の示す、前記溶媒に対する吸液性は、毛管現象によって、該吸水材料1中に存在する隙間空間に、前記溶媒が浸入し、その浸入した状態に保持されることで達成される。従って、利用される吸液材料は、その内部に、微小な隙間空間を高い密度で保持する形状、例えば、スポンジ形状、綿形状、不織布形状を示す材料である。また、該吸液材料を構成する物質は、前記溶媒が良好な濡れ性を示すものである。例えば、前記式(I)の過酸化アセトンを溶解する際、水性溶媒を使用する場合、前記吸液材料として、吸水材料が好適に利用される。前記溶媒が良好な濡れ性を示す上では、該吸液材料を構成する物質は、前記溶媒に対する親和性が高いことが好ましい。例えば、水性溶媒を使用する場合、該吸液材料を構成する物質は、水に対する親和性が高いことが好ましい。具体的には、水性溶媒を使用する場合、該吸液材料を構成する物質として、ポリウレタン、セルロース、セルロース誘導体を選択することが好ましい。例えば、スポンジ形状のポリウレタン、セルロースやセルロース誘導体を主成分とする繊維で構成される綿形状、不織布形状の材料を、水性溶媒を使用する場合、該吸液材料として、利用することが好ましい。
【0142】
上記のスポンジ形状、綿形状、不織布形状を示す材料中に存在する隙間空間のサイズは、前記溶媒が、毛管現象によって、該隙間空間に浸入し、その浸入した状態を保持可能なサイズに選択される。実際には、該吸液材料を構成する物質の、前記溶媒との濡れ性、すなわち、前記溶媒に対する親和性を考慮して、隙間空間のサイズの選択を行う。
【0143】
該吸液材料中に存在する隙間空間が占める体積の総和は、吸液すべき、前記式(I)の過酸化アセトンを溶解した溶液の液量より大きいことが必要である。該吸液材料中、隙間空間が占める体積の比率、すなわち、空隙率は、乾燥状態において、通常、50%〜90%の範囲、60%〜80%の範囲に選択することが好ましい。
【0144】
前記隙間空間に溶液を吸液した際、乾燥状態と比較し、該吸液材料全体の嵩体積が増加し、膨潤する場合もある。膨潤性の吸液材料の場合には、乾燥状態における空隙率は、前記の範囲を下回るが、膨潤後における、浸潤している溶液の占める体積比率は、前記の範囲となることが好ましい。
【0145】
本発明の第一の実施形態にかかる爆薬の拭き取り処理材料を、前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、水性溶媒によって溶解し、拭き取り除去する作業に利用する場合、前記吸液材料として、上記の水に対する親和性が高い物質で構成される、スポンジ形状、綿形状、不織布形状を示す材料を選択することが好ましい。
【0146】
前記吸液材料中に、前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体を固定化する手順の一例を以下に示す。
【0147】
固定すべき、前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体を溶解した溶液中に、前記吸液材料を浸漬する。この浸漬処理によって、前記吸液材料全体が、該モノクローナル抗体の溶液で浸潤された状態となる。
【0148】
前記モノクローナル抗体の溶液から取り出した、浸潤状態の吸液材料を乾燥させる。該乾燥過程では、吸液材料の上面から、該溶液中に含まれる溶媒の蒸散が進行する。該溶液中に含まれるモノクローナル抗体は、前記吸液材料を構成する親溶媒性物質からなる構造体の表面に非選択的に吸着している。乾燥に伴って、親溶媒性物質からなる構造体の表面に、モノクローナル抗体の固着がなされる。
【0149】
例えば、スポンジ・シート状の吸液材料においては、該溶液中に含まれる溶媒の蒸散が進行すると、前記モノクローナル抗体の溶液の濃縮が進行する。部分的に乾燥された状態では、濃縮された溶液は、その自重のため、前記吸液材料の下面側の領域のみを浸潤している状態となる。前記吸液材料を構成する、親溶媒性物質からなる構造体の表面に非選択的に吸着するモノクローナル抗体の吸着密度は、溶液中のモノクローナル抗体濃度に比例する。そのため、乾燥の進行に伴う、溶液の濃縮に起因して、前記吸液材料の上面から下面に向かって、モノクローナル抗体の吸着密度が、上昇する状態となる。下面からの厚さをdとすると、モノクローナル抗体の吸着密度:Cab(d)は、近似的にCab(d)∝1/dの関係を満たすような分布を示す。すなわち、前記吸液材料の上面側と比較し、下面側には、相対的にモノクローナル抗体が高い密度で固着された状態となる。
【0150】
上記のモノクローナル抗体の固着過程に使用される、モノクローナル抗体の溶液は、通常、水性溶媒を利用して調製する。具体的には、モノクローナル抗体に適合する緩衝液を利用して調製する。また、該溶液中に溶解されるモノクローナル抗体濃度は、拭き取り除去する、前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末の量に応じて、選択される。具体的には、吸液材料を浸潤させた際、該吸液材料中に浸入する、モノクローナル抗体溶液の液量中に存在するモノクローナル抗体の量(モル量)は、拭き取り除去する、前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末の量(モル量)に応じて、選択される。通常、前記モノクローナル抗体溶液の液量中に存在するモノクローナル抗体の量(モル量)は、拭き取り除去する、前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末の量(モル量)以上となるように、溶液中に溶解されるモノクローナル抗体濃度を選択することが好ましい。但し、該溶液中に含まれる溶媒の蒸散が進行し、濃縮が進む際、モノクローナル抗体濃度が、当初の濃度の4倍程度まで上昇した時点でも、含有されるモノクローナル抗体濃度は、飽和濃度を超えない範囲であることが望ましい。浸漬処理に使用される、該モノクローナル抗体の溶液の当初の濃度は、通常、10mg/ml〜20mg/mlの範囲、好ましくは、12mg/ml〜18mg/mlの範囲に選択することが好ましい。
【0151】
親溶媒性物質からなる構造体の表面に固着しているモノクローナル抗体の固定化を行うため、例えば、ポリビニルアルコールからなる被覆層を、前記親溶媒性物質からなる構造体の表面に形成する。具体的には、前記乾燥処理を終えた吸液材料を、ポリビニルアルコールを溶解した溶液で浸潤させる。この浸潤状態の吸液材料を乾燥させる過程でも、該ポリビニルアルコールの溶液中に含まれる溶媒は、主に、吸液材料の上面から蒸散する。浸潤状態において、該溶液中に含まれるポリビニルアルコールは、親溶媒性物質からなる構造体の表面全体を被覆するような、吸着層を構成しており、溶媒の蒸散に伴って、該ポリビニルアルコールの吸着層は、ポリビニルアルコールからなる被覆層へと変換される。
【0152】
例えば、スポンジ・シート状の吸液材料においては、該ポリビニルアルコールの溶液中に含まれる溶媒の蒸散が進行すると、前記ポリビニルアルコールの溶液の濃縮が進行する。部分的に乾燥された状態では、濃縮された溶液は、その自重のため、前記吸液材料の下面側の領域のみを浸潤している状態となる。前記吸液材料を構成する、親溶媒性物質からなる構造体の表面に吸着するポリビニルアルコールの吸着密度は、ポリビニルアルコールの溶液の濃度に比例する。そのため、乾燥の進行に伴う、溶液の濃縮に起因して、前記吸液材料の上面から下面に向かって、ポリビニルアルコールの吸着密度が、上昇する状態となる。下面からの厚さをdとすると、ポリビニルアルコールの吸着密度:Cpv(d)は、近似的にCpv(d)∝1/dの関係を満たすような分布を示す。すなわち、前記吸液材料の上面側と比較し、下面側には、相対的にポリビニルアルコールが高い密度で被覆している状態となる。
【0153】
前記ポリビニルアルコール被覆層の形成過程に使用される、ポリビニルアルコールの溶液は、通常、水性溶媒を利用して調製する。具体的には、前記吸液材料を構成する親溶媒性物質に対して、良好な濡れ性を有する水性溶媒を利用して調製する。なお、既に固着されている、モノクローナル抗体の遊離を促進する機能を示さない水性溶媒を利用することが好ましい。また、該溶液中に溶解されるポリビニルアルコール濃度は、被覆層を形成する、吸液材料の隙間空間の内表面積の総和に応じで、選択される。具体的には、吸液材料を浸潤させた際、該吸液材料中に浸入する、ポリビニルアルコール溶液の液量中に存在するポリビニルアルコールの量は、被覆層を形成すべき、吸液材料の隙間空間の内表面積の総和と、形成する被覆層の膜厚に応じて、選択される。通常、形成されるポリビニルアルコールの被覆層の平均膜厚は、0.5μm〜5μmの範囲に選択される。前記の平均膜厚の範囲とする場合、浸潤処理に使用される、ポリビニルアルコール溶液の当初の濃度は、通常、0.5w/v%〜3w/v%の範囲、好ましくは、1w/v%〜3w/v%の範囲に選択することが好ましい。
【0154】
前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、水性溶媒によって溶解し、拭き取り除去する作業に利用するため、形成される被覆層は、高い親水性を示し、また、該被覆層は、水透過性を有する必要があるため、ポリビニルアルコールからなる被覆層を好適に使用できる。形成される被覆層は、高い親水性を示し、また、該被覆層は、水透過性を有する限り、ポリビニルアルコール以外の材料を利用して、被覆層を形成する形態を採用できる。ポリビニルアルコール以外に、例えば、ゼラチンなどの親水性のポリマー材料を使用して、被覆層を形成する形態も採用できる。
【0155】
本発明の第二の実施形態にかかる爆薬の拭き取り処理材料は、該爆薬が溶解されている液を吸い取る機能を具えた吸液材料、例えば、吸水材3に、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体2を、リンカー9、例えば、タンパク質を介して、固定化させた構成を有している。本発明の第二の実施形態にかかる爆薬の拭き取り処理材料の一例を、図3を用いて詳細に説明する。
【0156】
図3に例示する、本発明の第二の実施形態にかかる爆薬の拭き取り処理材料の一例では、該爆薬が溶解されている水性溶液を吸収する機能を具えた吸液材料、例えば、吸水材3を基剤として、該基剤に対して、モノクローナル抗体2に対して、高い結合能を有するリンカー9を予め固定化し、該リンカー9とモノクローナル抗体2との結合を介して、モノクローナル抗体2の固定化を行っている。さらに、ポリビニルアルコール10の被覆層を設けることで、固定化されたモノクローナル抗体2の解離を防止している。
【0157】
利用される吸液材料は、前記式(I)の過酸化アセトンを溶解する水性溶液に対する吸液性を有する吸水材である。具体的には、該吸水材の示す、水性溶媒に対する吸液性は、毛管現象によって、該吸水材3中に存在する隙間空間に、水性溶媒が浸入し、その浸入した状態に保持されることで達成される。従って、利用される吸水材は、その内部に、微小な隙間空間を高い密度で保持する形状を示す吸水材料である。また、該吸水材を構成する物質は、水性溶媒が良好な濡れ性を示すものである。該吸液材料を構成する物質は、例えば、水性溶媒中に含まれる水に対する親和性が高く、その隙間空間に浸入する水性溶媒を保持する能力が優れていることが好ましい。具体的には、保水性に優れるヒアルロン酸と、カルボキシメチルセルロースを成分とする、フィルム状の吸水性材料である、Genzyme社のSeprafilmRが好適に利用できる。
【0158】
これら保水性を有する吸水材は、水性溶媒によって浸潤されると、乾燥状態と比較し、該吸水材全体の嵩体積が若干増加し、膨潤した状態となる。この膨潤後における、浸潤している水性溶媒の占める体積比率は、通常、5%〜35%の範囲、10%〜20%の範囲となることが好ましい。
【0159】
一方、前記吸水材3は、繊維の構成成分の糖鎖骨格上に存在する、親水性基として、カルボキシル基を有しており、該カルボキシル基を利用して、リンカー9、例えば、モノクローナル抗体2に対して、高い結合能を有するタンパク質分子を固定する。
【0160】
具体的には、前記吸水材3が有している、カルボキシル基の活性化を行い、活性化されたカルボキシル基と、リンカー用のタンパク質分子との反応によって、該リンカー用のタンパク質分子を、前記吸水材3を構成する繊維材料の表面に、共有結合的に固定化する。カルボキシル基の活性化は、例えば、カルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドを用いる方法により行うことができる。カルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドを用いる手法は、前記吸水材の隙間空間の表面に露呈するカルボキシル基の活性化を、簡単に、また、確実に行うことができ、本発明の第二の実施形態では、好適に利用される。
【0161】
例えば、前記のカルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドを用いる方法では、カルボジイミドとして、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N−[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド(EDC)、N−[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC)などを利用することができる。
【0162】
リンカー9として利用できる、モノクローナル抗体2に対して、高い結合能を有するタンパク質分子として、プロテインAやプロテインGが好適に利用できる。プロテインAとプロテインGは、上記の活性化処理を施したカルボキシル基を利用する固定化に広く利用されており、また、抗体分子に対する結合能も高く、さらに、安価であるため、本発明の第二の実施形態で利用するリンカーとして、好適である。勿論、活性化処理を施したカルボキシル基を利用する固定化が可能であり、また、抗体分子に対する結合能も高いタンパク質である限り、プロテインAやプロテインG以外のタンパク質も、リンカー9として利用できる。
【0163】
前記の固定化反応に利用される、リンカー9を溶解した溶液中に含まれるリンカー9の濃度は、最終的に前記吸水材3に固定化すべき、モノクローナル抗体2の量に応じて、選択する。すなわち、該吸水材3に予め固定化されるリンカー9の量(モル量)は、最終的に前記吸水材3に固定化すべき、モノクローナル抗体2の量(モル量)以上となるように、該溶液中に含まれるリンカー9の濃度を選択する。具体的には、該固定化反応に利用される溶液中に含まれるリンカー9の濃度は、例えば、プロテインAやプロテインGの濃度は、通常、0.5mg/ml〜10mg/mlの範囲、好ましくは、1mg/ml〜5mg/mlの範囲に選択することが好ましい。
【0164】
リンカー9の固定化を完了した、吸水材3を、モノクローナル抗体2を含有する水性溶液中に浸漬する。この浸漬処理を施すことで、吸水材3に固定化されている、リンカー9に、モノクローナル抗体2が結合される。その後、モノクローナル抗体2を含有する水性溶液を洗浄して、除去した後も、モノクローナル抗体2は、リンカー9に結合された状態に保持される。前記洗浄を行った後、該吸水材3を乾燥させる。この状態でも、モノクローナル抗体2は、リンカー9に結合された状態となっており、その後、水性溶媒を吸収させた際、モノクローナル抗体2の解離は僅かにしか進行しない。
【0165】
前記リンカー9に結合させる際、水性溶液中に含まれるモノクローナル抗体2の濃度は、通常、10mg/ml〜20mg/mlの範囲、好ましくは、12mg/ml〜18mg/mlの範囲に選択することが好ましい。
【0166】
図3に示す事例では、さらに、ポリビニルアルコール10の被覆層を形成することで、モノクローナル抗体2の解離を防止している。
【0167】
前記ポリビニルアルコール10の被覆層の形成過程に使用される、ポリビニルアルコールの溶液は、通常、水性溶媒を利用して調製する。具体的には、前記吸水材3を構成する親水性物質に対して、良好な濡れ性を有する水性溶媒を利用して調製する。また、該溶液中に溶解されるポリビニルアルコール濃度は、被覆層を形成する、該吸水材3の隙間空間の内表面積の総和に応じで、選択される。具体的には、該吸水材3を水性溶液で浸潤させた際、該吸水材3に浸入する、ポリビニルアルコール溶液の液量中に存在するポリビニルアルコールの量は、被覆層を形成すべき、吸水材3の隙間空間の内表面積の総和と、形成する被覆層の膜厚に応じて、選択される。通常、形成されるポリビニルアルコールの被覆層の平均膜厚は、0.5μm〜5μmの範囲に選択される。前記平均膜厚の範囲とする場合、浸潤処理に使用される、ポリビニルアルコール溶液の当の濃度は、通常、0.5w/v%〜3w/v%の範囲、好ましくは、1w/v%〜3w/v%の範囲に選択することが好ましい。
【0168】
前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、水性溶媒によって溶解し、拭き取り除去する作業に利用するため、形成される被覆層は、高い親水性を示し、また、該被覆層は、水透過性を有する必要があるため、ポリビニルアルコールからなる被覆層を好適に使用できる。形成される被覆層は、高い親水性を示し、また、該被覆層は、水透過性を有する限り、ポリビニルアルコール以外の材料を利用して、被覆層を形成する形態を採用できる。ポリビニルアルコール以外に、例えば、ゼラチンなどの親水性のポリマー材料を使用して、被覆層を形成する形態も採用できる。
【0169】
本発明にかかる爆薬の拭き取り除去方法では、前記の第一の実施形態、あるいは、第二の実施形態にかかる、爆薬の拭き取り処理材料を利用して、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末を拭き取り除去を、以下に説明する手順で実施することができる。
【0170】
すなわち、式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、該式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量に溶解させる。該適量の溶媒中に溶解した、式(I)の過酸化アセトンの溶液を、前記第一の実施形態、あるいは、第二の実施形態にかかる、爆薬の拭き取り処理材料に吸収させることによって、前記式(I)の過酸化アセトンが溶解した溶液の拭き取り処理を実施している。
【0171】
前記の一連の操作を実施する、具体的な手順の一例を、図4、図5を用いて説明する。
【0172】
図4に示す手順では、シート状の拭き取り処理材料として、上記第一の実施形態、あるいは、第二の実施形態に記載する手順により作製される、抗体が保持された吸水材4を利用している。
【0173】
図4の(a)は、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5が、ガラス基板6上に残留している状況を模式的に示す。拭き取り除去に利用する、シート状の拭き取り処理材料4は、当初、乾燥状態である。
【0174】
図4の(b)は、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の溶解に使用する溶媒8を、適量、該シート状の拭き取り処理材料4の上面に、ピペット7で滴下する操作を模式的に示す。具体的には、シート状の拭き取り処理材料4全体が、前記溶媒8によって、浸潤される状態とする。
【0175】
図4の(c)は、溶媒8によって浸潤される状態となった、シート状の拭き取り処理材料4を、その下面が、ガラス基板6上に残留している式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5全体を覆うように、載せた状態を模式的に示す。この状態では、シート状の拭き取り処理材料4の下面に接する、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5は、溶媒8によって、浸潤され、徐々に溶解する。シート状の拭き取り処理材料4の下面では、溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)の濃度は、当初、飽和濃度である。一方、シート状の拭き取り処理材料4の上面側の溶媒8中では、濃度は零であり、シート状の拭き取り処理材料4中には、過酸化アセトン(TATP)の濃度の勾配が存在する。この濃度勾配のため、シート状の拭き取り処理材料4の下面側から、上面側に向かって、溶解している過酸化アセトン(TATP)の拡散が進行する。それに伴い、シート状の拭き取り処理材料4の下面に接していた、過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5は完全に溶媒8中に溶解し、シート状の拭き取り処理材料4を浸潤している溶媒8中に、実質的に均一な濃度で溶解している状態が達成される。
【0176】
シート状の拭き取り処理材料4中には、式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体が固定化されており、溶媒8中において抗原抗体反応が進行すると、該モノクローナル抗体に、溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)が結合した状態となる。溶媒8中において抗原抗体反応が十分に進行した段階では、固定化されているモノクローナル抗体の量(モル量)が、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5の量(モル量)より十分に多い場合には、溶媒8中に溶解した過酸化アセトン(TATP)は、実質的に、その全てが、モノクローナル抗体と結合している状態に達する。換言すると、シート状の拭き取り処理材料4中に浸潤されている、溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)の濃度は、実質的に、零に相当する状態に達する。
【0177】
上記の状態に達した時点で、式(I)の過酸化アセトンの溶液で浸潤されたシート状の拭き取り処理材料4を、ガラス基板6上から取り除くと、ガラス基板6の表面に残留していた、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5は拭き取り除去された状態となっている。ガラス基板6の表面には、シート状の拭き取り処理材料4の下面と接していた領域には、溶媒8の極く薄い液皮膜が残余する場合もある。その場合でも、溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)の濃度は、実質的に、零に相当する状態となっているため、残余している、溶媒8の極く薄い液皮膜中に含まれる、過酸化アセトン(TATP)の量は、実質的に、零となっている。
【0178】
一方、ガラス基板6上から取り除いた、シート状の拭き取り処理材料4は、溶媒8で浸潤された状態であるが、該溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)の濃度は、実質的に、零に相当する状態となっている。そのため、拭き取り除去に用いたシート状の拭き取り処理材料4を、焼却処理する際、安全に焼却を行うことができる。
【0179】
図5に示す手順でも、シート状の拭き取り処理材料として、上記第一の実施形態、あるいは、第二の実施形態に記載する手順により作製される、抗体が保持された吸水材4を利用している。
【0180】
図5の(a)は、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5が、ガラス基板6上に残留している状況を模式的に示す。拭き取り除去に利用する、シート状の拭き取り処理材料4は、当初、乾燥状態である。
【0181】
図5の(b)は、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の溶解に使用する溶媒8を、適量、ガラス基板6上に残留している過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5の上面に、ピペット7で滴下する操作を模式的に示す。具体的には、過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5全体が、前記溶媒8によって、浸潤される状態とする。
【0182】
図5の(c)は、シート状の拭き取り処理材料4の下面が、溶媒8によって浸潤される状態となった、過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5全体を覆うように、シート状の拭き取り処理材料4をガラス基板6上に載せた状態を模式的に示す。この状態では、シート状の拭き取り処理材料4の下面に接する、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5は、溶媒8によって、浸潤され、徐々に溶解する。シート状の拭き取り処理材料4の下面から、溶媒8が浸入し、シート状の拭き取り処理材料4を浸潤している状態となる。当初、過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5は、一部、滴下された溶媒8中に溶解しているが、大半の部分は、未だ溶解していない。その結果、シート状の拭き取り処理材料4を浸潤している溶媒8中の過酸化アセトン(TATP)の濃度は、低い状態である。
【0183】
その後、シート状の拭き取り処理材料4の下面側では、過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5の溶解が進行するため、この部分では、溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)の濃度は、飽和濃度である。一方、シート状の拭き取り処理材料4の上面側の溶媒8中では、濃度は低い状態であり、シート状の拭き取り処理材料4中には、過酸化アセトン(TATP)の濃度の勾配が存在する。この濃度勾配のため、シート状の拭き取り処理材料4の下面側から、上面側に向かって、溶解している過酸化アセトン(TATP)の拡散が進行する。それに伴い、シート状の拭き取り処理材料4の下面に接していた、過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5は完全に溶媒8中に溶解し、シート状の拭き取り処理材料4を浸潤している溶媒8中に、実質的に均一な濃度で溶解している状態が達成される。
【0184】
シート状の拭き取り処理材料4中には、式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体が固定化されており、溶媒8中において抗原抗体反応が進行すると、該モノクローナル抗体に、溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)が結合した状態となる。溶媒8中において抗原抗体反応が十分に進行した段階では、固定化されているモノクローナル抗体の量(モル量)が、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5の量(モル量)より十分に多い場合には、溶媒8中に溶解した過酸化アセトン(TATP)は、実質的に、その全てが、モノクローナル抗体と結合している状態に達する。換言すると、シート状の拭き取り処理材料4中に浸潤されている、溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)の濃度は、実質的に、零に相当する状態に達する。
【0185】
上記の状態に達した時点で、式(I)の過酸化アセトンの溶液で浸潤されたシート状の拭き取り処理材料4を、ガラス基板6上から取り除くと、ガラス基板6の表面に残留していた、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末5は拭き取り除去された状態となっている。ガラス基板6の表面には、シート状の拭き取り処理材料4の下面と接していた領域には、溶媒8の極く薄い液皮膜が残余する場合もある。その場合でも、溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)の濃度は、実質的に、零に相当する状態となっているため、残余している、溶媒8の極く薄い液皮膜中に含まれる、過酸化アセトン(TATP)の量は、実質的に、零となっている。
【0186】
図5の(d)は、ガラス基板6上から取り除いた、シート状の拭き取り処理材料4中において、固定化されたモノクローナル抗体に過酸化アセトン(TATP)が結合した状態を模式的に示す。
【0187】
一方、ガラス基板6上から取り除いた、シート状の拭き取り処理材料4は、溶媒8で浸潤された状態であるが、該溶媒8中に溶解している過酸化アセトン(TATP)の濃度は、実質的に、零に相当する状態となっている。そのため、拭き取り除去に用いたシート状の拭き取り処理材料4を、焼却処理する際、安全に焼却を行うことができる。
【0188】
上記拭き取り除去の工程では、乾燥状態の過酸化アセトンの固体粉末に、不要な摩擦や衝撃を加えず、まず、該固体粉末を溶媒によって浸潤した状態としている。この溶媒に浸潤した状態に保ち、室温(例えば、25℃)で静置することで、該固体粉末を徐々に溶媒で溶解している。すなわち、式(I)の過酸化アセトン(TATP)の固体粉末は、乾燥状態では、摩擦や衝撃に敏感であるが、溶媒に浸潤した状態とすることで、摩擦や衝撃に対する感度を格段に低減させている。さらに、浸潤した状態に保ち、室温(例えば、25℃)で静置したまま、溶媒に溶解し、溶液とすると、摩擦や衝撃に対する感度は更に低下している。
【0189】
その際、溶媒で浸潤した過酸化アセトンの固体粉末を覆っている、拭き取り処理材料も該溶媒によって、浸潤された状態となり、該拭き取り処理材料の基材は、柔軟性を示す状態となる。従って、上記の拭き取り除去の工程は、過酸化アセトンの固体粉末に対して、不要な摩擦や衝撃が加わる可能性を排除している。
【0190】
そのため、除去対象の過酸化アセトンの固体粉末を全て溶媒中に溶解させ、溶液とする必要があり、通常、使用される溶媒の液量は、除去対象の過酸化アセトンの固体粉末の量と、当該溶媒に対する溶解度に基づき、完全溶解を達成できる液量に選択する。
【0191】
除去対象の過酸化アセトンの固体粉末の溶解に利用される溶媒は、該式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒中から選択され、該式(I)の過酸化アセトンが高い溶解度を示す溶媒中から選択することが好ましい。
【0192】
該式(I)の過酸化アセトンを溶解した溶液は、拭き取り処理材料に吸い取られた状態とするため、該拭き取り処理材料の基材中に存在する、微細な隙間空間に毛管現象によって、浸入する必要がある。従って、溶媒自体は、十分な流動性を示すことが必要であり、通常、微細な隙間空間に毛管現象によって、浸入可能な程度に液粘度が低いことが好ましい。加えて、該拭き取り処理材料の基材中に存在する、微細な隙間空間中に浸潤している溶液中において、過酸化アセトンの固体粉末と接する下面側と、上面側に存在する、式(I)の過酸化アセトンの濃度勾配に起因する拡散過程が利用される。この拡散過程を速やかに進行するためにも、溶媒自体の液粘度が低いことが好ましい。
【0193】
水は、液粘度が低く、該式(I)の過酸化アセトンの溶解に適する溶媒である。従って、式(I)の過酸化アセトンの固体粉末の溶解に使用する溶媒として、水、ならびに、抗原抗体反応に利用される緩衝液などの水性溶媒を利用することができる。
【0194】
加えて、液粘度が低く、該式(I)の過酸化アセトンが高い溶解度を示す有機溶媒として、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、エタノールアミン、メチルエチルケトンを例示することができる。式(I)の過酸化アセトンの固体粉末の溶解に使用する溶媒として、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、エタノールアミン、メチルエチルケトンからなる有機溶媒の群から選択される、少なくとも1つの有機溶媒を含む溶媒を好適に利用することができる。前記有機溶媒を含む溶媒は、通常、水、ならびに、抗原抗体反応に利用される緩衝液などの水性溶媒と該有機溶媒との混合液の形態とする。この混合液中に含有される有機溶媒の含有比率は、一般に、50v/v%以下の範囲、通常、5v/v%〜50v/v%の範囲、好ましくは、5v/v%〜25v/v%の範囲に選択することが望ましい。
【0195】
前記混合液を利用して、該式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を溶解する過程では、該有機溶媒が示す高い親和性によって、式(I)の過酸化アセトンの溶解が進行する。混合液中に含有される有機溶媒の含有比率が、50v/v%以下、例えば、25v/v%以下である場合、溶解した式(I)の過酸化アセトンは、当初、有機溶媒によって溶媒和されているが、その後、有機溶媒分子と水分子の交換によって、水分子によって溶媒和されている比率が増加する。モノクローナル抗体との抗原抗体反応は、主に、水分子によって溶媒和されている式(I)の過酸化アセトンとの間で進行する。抗原抗体反応の進行に伴って、水分子によって溶媒和されている式(I)の過酸化アセトンの濃度が減少すると、平衡関係によって、有機溶媒によって溶媒和されている状態から、水分子によって溶媒和されている状態への変換が進行する。最終的には、前記混合液中に溶解した式(I)の過酸化アセトンは、抗原抗体反応によって、モノクローナル抗体と複合体を形成した状態となり、前記混合液中に溶存している、式(I)の過酸化アセトンの濃度は、モノクローナル抗体と複合体の解離平衡により決定される、極めて低い濃度レベルとなる。
【0196】
一方、混合液中に含有される有機溶媒の含有比率が、50v/v%を超えると、有機溶媒によって溶媒和されている状態と、水分子によって溶媒和されている状態との間の平衡関係に起因して、有機溶媒によって溶媒和されている状態から、水分子によって溶媒和されている状態への変換過程が抑制を受ける。この現象は、式(I)の過酸化アセトンに対する有機溶媒の親和性が、水分子の親和性と比較して、高いほど顕著に生じる。加えて、複数種の有機溶媒を添加する場合、複数種の有機溶媒によって溶媒和されている状態から、水分子によって溶媒和されている状態への移行する平衡関係は、単一の有機溶媒を添加する場合と比較して、相対的に有機溶媒の含有比率が低い領域に分岐点が移行する。すなわち、一つ種類の有機溶媒を、他の種類の有機溶媒で置換する過程と、水分子で置換する過程との競争関係が存在するため、水分子によって溶媒和されている状態への移行するためには、水分子の含有比率を一層高くする必要がある。その点を考慮すると、混合液中に含有される有機溶媒の含有比率は、5v/v%〜25v/v%の範囲に選択することがより好ましい。
【0197】
一方、本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の拭き取り除去方法では、拭き取り処理材料中に固定化されている、式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体と、溶媒中に溶解させた式(I)の過酸化アセトンとの抗体抗原反応を行わせる。すなわち、式(I)の過酸化アセトンの溶解に使用する溶媒は、前記抗原抗体反応を行わせることが可能な溶媒であることが必要である。
【0198】
勿論、上述する水、ならびに、抗原抗体反応に利用される緩衝液などの水性溶媒は、前記の要件をも満足する溶媒である。
【0199】
上記の有機溶媒を含む溶媒を使用する際には、前記抗原抗体反応を行わせることが可能な有機溶媒、あるいは、有機溶媒を含む溶媒混合物を使用することが好ましい。具体的には、使用される有機溶媒、あるいは、有機溶媒を含む溶媒混合物中において、抗原抗体反応で形成される、式(I)の過酸化アセトンとモノクローナル抗体の複合体が容易に解離しないことが好ましい。
【0200】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の拭き取り除去方法では、上述する、式(I)の過酸化アセトンの固体粉末の溶解過程、溶解された式(I)の過酸化アセトンとモノクローナル抗体の抗原抗体反応の過程を終えた後、溶液で浸潤されている拭き取り処理材料を取り除く。この拭き取り処理材料を取り除く過程では、溶液中に溶解している式(I)の過酸化アセトンの濃度は、実質的に零の状態となっているが、除去対象の過酸化アセトンの固体粉末が存在していた表面に残余する溶液の量を可能な限り少なくすることが好ましい。従って、拭き取り処理材料を取り除く過程において、拭き取り処理材料を圧縮し、浸潤している溶液を押し出す状況を排除することが好ましい。
【0201】
従って、本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の拭き取り除去方法では、拭き取り処理材料は、除去対象の式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を覆った状態において、拭き取り処理材料の下面と、過酸化アセトンの固体粉末が存在していた表面の間に、隙間が無く、密に接する状態であることが好ましい。すなわち、一般的な拭き取り処理のような、拭き取り処理材料によって、表面に存在する除去対象を掻き取る操作に代えて、拭き取り処理材料で除去対象を覆って、形成される溶液を吸い取る操作を選択することが好ましい。
【0202】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の拭き取り除去方法の第一の実施態様、第二の実施態様を例に挙げ、本発明をより具体的に説明する。
【0203】
以下に例示する第一の実施態様、第二の実施態様の具体例は、本発明の最良の実施形態の一例であるが、本発明の技術的範囲は、該具体例に例示する形態に限定されるものではない。
【0204】
(第一の実施態様)
以下に説明する、本発明の第一の実施態様にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の拭き取り除去方法では、拭き取り除去対象の過酸化物誘導体型の爆薬として、下記の式(I)に示す構造を有する、三量体型の過酸化アセトン(TATP:3,3,6,6,9,9-hexamethyl-1,2,4,5,7,6-hexaoxacyclononane)を選択している。
【0205】
【化10】

【0206】
(i) 式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の合成
前記式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)における特徴的な環構造と類似性を具えた環構造を内在している、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)の合成法を説明する。以下、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物をTATP3と略称する。
【0207】
【化11】

【0208】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)の合成法は、文献に既に報告されている(非特許文献2:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))。合成される式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)の精製手法と、その純度の評価方法も、該文献に開示されている。
【0209】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)において、そのスピロ環構造:7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカンの環上の9位の炭素原子と、12位の炭素原子は、ともに、不斉中心(キラル中心)となっている。該9位の炭素原子と、12位の炭素原子の立体配置に関して、(9R、12S)と表記可能なメソ体型のジカルボン酸化合物(TATP3)は、二回回転対称性を有する立体構造を具えている。該9位の炭素原子と、12位の炭素原子の立体配置に関して、(9R、12R)と表記可能なシス体型のジカルボン酸化合物(TATP3)は、対称面を有する立体構造を具えている。
【0210】
本第一の実施態様では、前記二種の立体異性体が混合したものを利用している。なお、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)自体は、免疫原性を示さない。
【0211】
(ii) キャリア・タンパク質上への式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)の固定
キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択している。
【0212】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本第一の実施態様では、下記の二種の修飾キャリア・タンパク質を調製し、免疫操作に利用する免疫原とした。
【0213】
(ii-a) 修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)の調製
反応溶媒として、DMSO((CH32SO:和光純薬工業社製)を用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。
【0214】
DMSOに溶解したTATP3、10mg/0.3mlと、DMSOに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン(シグマアルドリッチジャパン社製)、10mg/1.7mlとを混合する。混合した後、DMSOに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0215】
該DMSOを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−DMSO(TATP3−KLH−DMSO免疫原)溶液とした。
【0216】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が結合される。
【0217】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)上には、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が、平均して、150〜200箇所結合している。すなわち、キャリア・タンパク質KLH表面のリジン残基側鎖のアミノ基に対して、TATP3が結合されている状態に相当する。
【0218】
(ii-b) 修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0219】
ホウ酸バッファーとDMSOの混合液に溶解したTATP3、10mg/(0.3mlDMOS+0.2mlホウ酸バッファー)と、ホウ酸バッファーに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン、10mg/1.5mlとを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0220】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−ホウ酸バッファー(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液とした。
【0221】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が結合される。
【0222】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)上には、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が、平均して、150〜200箇所結合している。
【0223】
(iii) 式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)により修飾された、抗原用修飾キャリア・タンパク質の調製
キャリア・タンパク質として、牛血清アルブミン(BSA)を選択している。
【0224】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本第一の実施態様では、下記の修飾キャリア・タンパク質を調製し、抗体の反応性の確認に利用する抗原とした。
【0225】
抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、牛血清アルブミン(BSA)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0226】
DMSOに溶解したTATP3、10mg/0.1mlと、純水に溶解した牛血清アルブミン(BSA)、30mg/1.5mlと、ホウ酸バッファー0.9mlを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.25mlを添加する。
【0227】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に5時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.3mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液とした。
【0228】
(iv) 免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いる免疫操作
対象のヒト以外の哺乳動物に対して、上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いて、感作を行う。本第一の実施態様では、免疫操作を施す、ヒト以外の哺乳動物として、マウス(SLC:C57BL/6)を選択している。
【0229】
また、免疫には、上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を混合し、フロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を添加した溶液を用いる。該溶液の組成は、0.01mlのTATP3−DMSO(TATP3−KLH−DMSO免疫原)溶液、0.01mlのTATP3−ホウ酸バッファー(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液、0.07mlのPBS、およびは0.01mlのフロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を均一に混合したものである。
【0230】
感作(免疫操作)は、前記溶液1.0mlを、12週齢のマウス(SLC:C57BL/6)に皮下注射を行うことで行った。初回感作(初日)後、22日目、35日目、および49日目に、それぞれ、前記溶液1.0mlを皮下注射し、追加免疫を実施した。
【0231】
初回感作(初日)後、66日目に、該免疫したマウスから採血を行った。採血された血液から、抗血清を調製した。
【0232】
(v) 取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性の検証
取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体が、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すことを、競合ELISA法を利用して検証する。
【0233】
取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体は、免疫操作に利用した、上記二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種が混在していると推定される。該ポリクローナル抗体中に、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することを先ず検証する。
【0234】
具体的には、キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)に代えて、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体が存在することを、ELISA法を利用して検証する。
【0235】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。
【0236】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と反応した抗体に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0237】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。図1中に、「バッファー」と表記する測定結果は、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応した抗体の量に相当している。
【0238】
上記のTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体は、牛血清アルブミン(BSA)上に結合されている、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応している抗体である。従って、取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体中に、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することが検証された。
【0239】
次に、取得された抗血清のポリクローナル抗体中に含まれる、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示す抗体複数種のうちに、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在することを、競合ELISA法を利用して検証する。
【0240】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、終濃度が100ppmとなるように、TATP(アキュースタンダード社製)PBS溶液を50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。なお、反応液中に含まれるTATP(分子量222.4)の終濃度100ppmは、0.45mMに相当している。
【0241】
前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPと抗体との間で抗原抗体反応が進行すると、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じる。結果的に、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応を介して、プレート上に固定化される抗体の量が減少する。
【0242】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0243】
また、TATPのPBS溶液に代えて、PBSを加えて、同様に反応を行う。
【0244】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。
【0245】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0246】
TATPのPBS溶液を添加した際に測定される、450nmの吸光度と、PBSを添加した際に測定される、450nmの吸光度とを比較する。その結果、PBSを添加した場合と比較して、TATPのPBS溶液を添加した際、450nmの吸光度の低下が生じていることが確認された。すなわち、取得された抗血清中には、TATPに対する交叉反応性を有する抗体が存在していることが確認された。
【0247】
従って、取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された。
【0248】
また、前記抗マウスIgG−POD標識抗体は、マウスIgG1型抗体に特異性を有しており、前記式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体のタイプは、IgG1型であることが確認された。
【0249】
(vi) 式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)に対するモノクノーナル抗体の創製
取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された、マウスの抗体生産細胞群を利用して、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞の作製を行っている。
【0250】
この検証がなされた、初回感作(初日)後、66日目のマウスから、脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製する。
【0251】
調製されたマウスの脾臓細胞と、P3−X63−Ag8−Uマウスミエローマ細胞とを、細胞数5:1の比率で、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)中、重合度1500の50%ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製)存在下で、37℃、2分間混合し、細胞融合させる。前記細胞融合処理後、得られるハイブリドーマ細胞は、HAT培地(20%牛胎児血清)に懸濁した後、マイクロプレートに分注する。該マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、炭酸ガスインキュベータ中、37℃、5%CO2の条件で培養する。前記培養中、4日に1回の割合で、培地の半量を、新しいHT培地(10%牛胎児血清)に交換する。
【0252】
HAT培地は、RPMI1640培地に、HATサプリメント(インビトロジェン社製)を適量添加したものである。本第一の実施態様では、RPMI1640培地1ml当たり、HATサプリメント20μlを添加している。
【0253】
HT培地は、RPMI1640培地に、HTサプリメント(インビトロジェン社製)を適量添加したものである。本第一の実施態様では、RPMI1640培地1ml当たり、HTサプリメント20μlを添加している。
【0254】
上記の培養条件で、マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、2週間培養して、それぞれハイブリドーマ細胞株を確立した。
【0255】
次に、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に産生されているモノクローナル抗体が、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であるか、否かの確認を行った。さらに、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であることの検証がなされたもののうち、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体の選別を行った。
【0256】
(vi-a) 式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であるか、否かの検証
具体的には、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に含まれるモノクローナル抗体が、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有するモノクローナル抗体であるか、否かを、ELISA法を利用して検証する。
【0257】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に、モノクローナル抗体を反応させる。
【0258】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と反応した抗体に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0259】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0260】
上記のTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有するモノクローナル抗体は、牛血清アルブミン(BSA)上に結合されている、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応しているモノクローナル抗体である。
【0261】
このスクリーニング手順に従って、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体が存在するか、否かの検証を行った。その結果、ハイブリドーマ細胞株合計13クローン中、13クローンが式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応しているモノクローナル抗体を産生していることが確認された。
【0262】
(vi-b) 式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体の選別
前記(vi-a)の一次スクリーニングで選別された、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体複数種から、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を、競合ELISA法を利用して選別する。
【0263】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、終濃度が100ppmとなるように、TATPのPBS溶液を50μl加える。次いで、選別された各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。なお、反応液中に含まれるTATPの終濃度100ppmは、0.45mMに相当している。
【0264】
前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPと抗体との間で抗原抗体反応が進行すると、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じる。結果的に、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応を介して、プレート上に固定化される抗体の量が減少する。
【0265】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0266】
抗原抗体反応時に、プレート上の液中に、TATPを添加していない場合と比較し、TATPを添加した際に、前記酵素反応による反応産物の濃度が減少を示す結果が得られると、TATPを添加した際に、競合が生じていると判断される。すなわち、かかる競合が生じている場合、そのハイブリドーマ細胞株の培養上清中に含まれるモノクローナル抗体は、TATPに対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体と判断できる。
【0267】
このスクリーニング手順に従って、(vi-a)の一次スクリーニングで選別された、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体複数種から、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体の選別を行った。
【0268】
その結果、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体が複数種選別された。図1に、この二次スクリーニングにより、選別されたモノクローナル抗体複数種のうち、4種のモノクローナル抗体:mAb−T001〜mAb−T004について、測定結果を一例として、示す。
【0269】
図1中に、「Borate buffer」と表記する測定結果は、上記(vi-a)の一次スクリーニングにおけるELISA法による測定結果、すなわち、TATPが存在していない状況において、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応したモノクローナル抗体の量に相当している。図1中に、「100ppm TATP」と表記する測定結果は、上記のTATPが共存している状況において、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応したモノクローナル抗体の量に相当している。
【0270】
図1に示す結果は、前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPとモノクローナル抗体との間で抗原抗体反応が進行するため、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じていることを明確に示している。すなわち、該4種のモノクローナル抗体は、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体であり、さらに、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体でもあることを検証する結果である。
【0271】
従って、前記の(vi-a)の一次スクリーニングと、(vi-b)の二次スクリーニングによって、選別されるモノクローナル抗体は、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体であることが確認された。
【0272】
なお、図1に示す結果は、抗原抗体反応を行う反応液中に、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)を終濃度0.45mMとなるように添加すると、
mAb−T001〜mAb−T004では、少なくとも、その10%程度は、TATPと結合している
ことを示唆する結果である。
【0273】
続いて、吸水材へのモノクローナル抗体の固定化方法を以下に記載する。
【0274】
本第一の実施態様では、モノクローナル抗体の固定化する際、その基材となる、吸液性を有する吸液材料として、高吸液性・耐溶剤性セルロース不織布からなる吸水材を使用する。
【0275】
具体的には、吸水材として、高吸液性・耐溶剤性セルロース不織布の一例である、旭化成せんい(株)社製のBEMCOT高品位ワイパーM−3IIを採用している。該セルロース不織布を、濃度15mg/mlのモノクローナル抗体:mAb−T003の溶液16mlに、1時間浸漬する。浸漬処理を行う間に、該セルロース不織布を構成する繊維の表面に、該モノクローナル抗体が非選択的に吸着する。その吸着している、モノクローナル抗体の密度は、溶液中のモノクローナル抗体の濃度に比例している。
【0276】
非選択的に吸着するモノクローナル抗体の量は、該セルロース不織布の5cm×5cm当たり、220mg〜240mgの範囲となっている。
【0277】
モノクローナル抗体の溶液から引き上げた後、1時間、室温下で放置し、水分を蒸散させる。水分を蒸散させる過程では、該セルロース不織布の上面側から水分の蒸散が進み、一方、下面側は浸潤された状態がさらに継続する。水分の蒸散とともに、残余しているモノクローナル抗体の溶液の濃縮が進行し、該セルロース不織布の下面側では、吸着している、モノクローナル抗体の密度は、上面側よりも高い密度となる。
【0278】
その後、濃度1w/v%のポリビニルアルコールの水溶液中に、1時間浸漬する。該セルロース不織布を構成する繊維の表面は、ポリビニルアルコールで被覆された状態となる。同時に、繊維の表面に吸着している、モノクローナル抗体分子も、ポリビニルアルコールで被覆された状態となる。
【0279】
なお、該セルロース不織布の内部には、繊維の表面に吸着したモノクローナル抗体分子以外に、浸漬していた、モノクローナル抗体の溶液中に溶解していたモノクローナル抗体が残余している。ポリビニルアルコールの水溶液中に浸漬した際、この残余しているモノクローナル抗体は該水溶液中に再溶解する。再溶解したモノクローナル抗体分子も、ポリビニルアルコールが部分的に被覆した状態となる。そのため、該セルロース不織布の内部から、ポリビニルアルコールで被覆されている、モノクローナル抗体分子が拡散によって、溶出する頻度は格段に低下している。
【0280】
従って、該セルロース不織布の内部は、実質的にモノクローナル抗体の溶液で満たされた状態に維持される。その状態では、繊維の表面に吸着しているモノクローナル抗体分子の脱着は進行せず、吸着しているモノクローナル抗体分子と繊維の表面を覆うように、ポリビニルアルコールの吸着層が形成される。
【0281】
ポリビニルアルコールの水溶液から引き上げた後、室温下で放置し、含まれる水分を蒸散させ、十分に乾燥させる。乾燥処理を施すと、吸着しているモノクローナル抗体分子と繊維の表面を覆うように形成されている、ポリビニルアルコールの吸着層に含まれる、溶媒和水分子の除去が進み、ポリビニルアルコールの被覆層に変換される。
【0282】
最終的に作製される、拭き取り処理材料は、基材のセルロース不織布を構成する繊維の表面に、モノクローナル抗体分子が吸着し、吸着しているモノクローナル抗体分子と繊維の表面を覆うように、ポリビニルアルコールの被覆層が形成されている。
【0283】
上記の手順で作製される、該拭き取り処理材料を使用して、三量体型の過酸化アセトンの固体粉末を拭き取り除去できることを検証した。
【0284】
三量体型の過酸化アセトンの溶液として、AccuStandard社の0.01%溶液を用いて、三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を作製する。
【0285】
前記0.01%溶液を、ガラス基板上に5ml滴下し、室温下で蒸発乾固させる。含有されている、0.5mgの三量体型の過酸化アセトンは、微小な結晶として、析出する。この三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末が表面に析出している、ガラス基板を多数枚用意し、下記の3条件で比較実験を行った。
【0286】
(条件1)
上記の拭き取り処理材料に、純水に濃度5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%で溶解したアセトニトリル/水混合液、ならびに、アセトニトリル(100v/v%)を、それぞれ2ml吸収させ、浸潤された状態とした上で、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を覆う。その状態で、合計0.5mgの三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を、浸潤しているアセトニトリル/水混合液、あるいはアセトニトリルによって溶解させた後、拭き取り処理材料を取り除く。
【0287】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0288】
目視で観察した範囲では、アセトニトリル濃度が5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%のアセトニトリル/水混合液を使用している場合、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余は確認されなかった。すなわち、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出されなかった。
【0289】
一方、アセトニトリル(100v/v%)を使用している場合、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残り、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0290】
(条件2)
ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末0.5mgを浸すように、メタノールとアセトニトリルの1:1(v/v)混合溶媒を、純水に5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%の比率で混合した(メタノール/アセトニトリル)/水混合液、あるいは、メタノールとアセトニトリルの1:1(v/v)混合溶媒を、それぞれ2ml滴下する。この混合液、ならびに、混合溶媒により、微小結晶粉末が溶解した時点で、上記の拭き取り処理材料で該溶液を覆う。覆った拭き取り処理材料中に溶液は浸入し、拭き取り処理材料中に吸い取られ、浸潤状態となることを確認する。その時点で、拭き取り処理材料を取り除く。
【0291】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0292】
目視で観察した範囲では、混合比率が5v/v%、10v/v%、25v/v%の(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用している場合、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余は確認されなかった。すなわち、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出されなかった。
【0293】
一方、メタノールとアセトニトリルの1:1(v/v)混合溶媒、ならびに、混合比率が50v/v%の(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用している場合も、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残る。その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0294】
(条件3)
上記の拭き取り処理材料に、純水に濃度5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%で溶解したアセトン/水混合液、ならびに、アセトン(100v/v%)を、それぞれ2ml吸収させ、浸潤された状態とした上で、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を覆う。その状態で、合計0.5mgの三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を、浸潤しているアセトン/水混合液、あるいはアセトンによって溶解させた後、拭き取り処理材料を取り除く。
【0295】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0296】
目視で観察した範囲では、アセトン濃度が、5v/v%、10v/v%、25v/v%のアセトン/水混合液を用いた場合、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余は確認されなかった。すなわち、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出されなかった。
【0297】
一方、アセトン(100v/v%)、あるいは、アセトン濃度が50v/v%のアセトン/水混合液を使用している場合も、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残る。その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0298】
(条件4)
上記の拭き取り処理材料に、純水に濃度5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%で溶解したエタノール/水混合液、ならびに、エタノール(100v/v%)を、それぞれ2ml吸収させ、浸潤された状態とした上で、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を覆う。その状態で、合計0.5mgの三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を、浸潤しているエタノール/水混合液、あるいはエタノールによって溶解させた後、拭き取り処理材料を取り除く。
【0299】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0300】
目視で観察した範囲では、エタノール/水混合液、あるいはエタノールのいずれを使用した場合も、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余は確認されなかった。すなわち、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出されなかった。
【0301】
(条件5)
上記の拭き取り処理材料に、純水に濃度10v/v%、25v/v%、50v/v%、80v/v%で溶解したエタノールアミン/水混合液、ならびに、エタノールアミン(100v/v%)を、それぞれ2ml吸収させ、浸潤された状態とした上で、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を覆う。その状態で、合計0.5mgの三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を、浸潤しているエタノールアミン/水混合液、あるいはエタノールアミンによって溶解させた後、拭き取り処理材料を取り除く。
【0302】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0303】
目視で観察した範囲では、エタノールアミン濃度が10v/v%、25v/v%、50v/v%のエタノールアミン/水混合液を使用している場合、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余は確認されなかった。すなわち、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出されなかった。
【0304】
一方、エタノールアミン(100v/v%)、あるいは、エタノールアミン濃度が80v/v%のエタノールアミン/水混合液を使用している場合も、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残る。その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0305】
(条件6)
上記の拭き取り処理材料に、純水に濃度5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%、80v/v%で溶解したメチルエチルケトン/水混合液、ならびに、メチルエチルケトン(100v/v%)を、それぞれ2ml吸収させ、浸潤された状態とした上で、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を覆う。その状態で、合計0.5mgの三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を、浸潤しているメチルエチルケトン/水混合液、あるいはメチルエチルケトンによって溶解させた後、拭き取り処理材料を取り除く。
【0306】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0307】
目視で観察した範囲では、メチルエチルケトン濃度が、5v/v%、10v/v%、25v/v%のメチルエチルケトン/水混合液を用いた場合、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余は確認されなかった。すなわち、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出されなかった。
【0308】
一方、メチルエチルケトン(100v/v%)、あるいは、メチルエチルケトン濃度が、50v/v%、80v/v%のメチルエチルケトン/水混合液を使用している場合も、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残る。その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0309】
(条件7)
上記のモノクローナル抗体の吸着処理を施していない、基材のセルロース不織布を使用して、拭き取りを行う。
【0310】
該セルロース不織布に、純水に濃度50v/v%で溶解したアセトニトリル/水混合液2mlを吸収させ、浸潤された状態とした上で、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を覆う。その状態で、合計0.5mgの三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を、浸潤しているアセトニトリル/水混合液によって溶解させた後、該セルロース不織布を取り除く。
【0311】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0312】
目視で観察した範囲で、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余が確認された。すなわち、該セルロース不織布を取り除く際、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒は蒸散し、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0313】
上記の条件1〜条件7において、拭き取り処理材料、あるいは、該セルロース不織布を取り除く際、ガラス基板上に、僅かに液の皮膜層が残る現象は、同様に見出されている。
【0314】
勿論、条件7では、僅かに残余する液の皮膜層は、アセトニトリル/水混合液中に、濃度0.5mg/2mlで三量体型の過酸化アセトンが溶解している溶液である。
【0315】
また、
条件1において、アセトニトリル(100v/v%)を使用している場合;
条件2において、メタノールとアセトニトリルの1:1(v/v)混合溶媒、混合比率が50v/v%の(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用している場合;
条件3において、アセトン(100v/v%)、あるいは、アセトン濃度が50v/v%のアセトン/水混合液を使用している場合;
条件5において、エタノールアミン(100v/v%)、あるいは、エタノールアミン濃度が80v/v%のエタノールアミン/水混合液を使用している場合;ならびに、
条件5において、メチルエチルケトン(100v/v%)、あるいは、メチルエチルケトン濃度が50v/v%、80v/v%のメチルエチルケトン/水混合液を使用している場合も、僅かに残余する液の皮膜層は、各混合溶媒中に、三量体型の過酸化アセトンが相当の濃度で溶解している溶液であると判断される。その濃度は、当初の濃度0.5mg/2mlと比較すると、相当に減少しているが、残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際には、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣を生じさせるに十分な濃度となっている。
【0316】
一方、
条件1において、アセトニトリル濃度が5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%のアセトニトリル/水混合液を使用している場合;
条件2において、混合比率が5v/v%、10v/v%、25v/v%の(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用している場合;
条件3において、アセトン濃度が、5v/v%、10v/v%、25v/v%のアセトン/水混合液を用いている場合;
条件4において、エタノール濃度が5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%のエタノール/水混合液、あるいは、エタノール(100v/v%)を用いている場合;
条件5において、エタノールアミン濃度が10v/v%、25v/v%、50v/v%のエタノールアミン/水混合液を使用している場合;ならびに、
条件6において、メチルエチルケトン濃度が、5v/v%、10v/v%、25v/v%のメチルエチルケトン/水混合液を使用している場合、僅かに残余する液の皮膜層は、三量体型の過酸化アセトンを実質的に含んでいない液であると判断される。
【0317】
従って、前記混合比率のアセトニトリル/水混合液、(メタノール/アセトニトリル)/水混合液、アセトン/水混合液、エタノール/水混合液、エタノールアミン/水混合液、メチルエチルケトン/水混合液を使用し、モノクローナル抗体の固定化がなされた、上記の拭き取り処理材料を利用することで、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を効率的に拭き取り除去できていることが検証された。
【0318】
(第二の実施態様)
本第二の実施態様でも、モノクローナル抗体:mAb−T003を利用して、拭き取り処理材料を作製している。
【0319】
本第二の実施態様で作製する拭き取り処理材料における、吸水材へのモノクローナル抗体の固定化方法を以下に記載する。
【0320】
本第二の実施態様では、モノクローナル抗体の固定化する際、その基材となる、吸液性を有する吸液材料として、保水性に優れるヒアルロン酸と、カルボキシメチルセルロースを成分とする、フィルム状の吸水性材料、具体的には、Genzyme社のSeprafilm(登録商標)を利用している。
【0321】
Genzyme社のSeprafilm(登録商標)の、5cm×5cmのフィルムを使用する。予め、該フィルム状の吸水性材料を構成する、ヒアルロン酸と、カルボキシメチルセルロースに存在するカルボキシル基の活性化処理を行う。カルボキシル基の活性化処理では、カルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドを用いている。前記カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。
【0322】
具体的には、0.2Mの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩と0.05MのN−ヒドロキシスクシンイミドを含む活性化処理溶液3ml中に、前記のフィルムを浸漬し、室温で、1時間静置する。該活性化処理後、活性化処理溶液から取り出されたフィルムを、リン酸緩衝液を含む生理食塩水中に浸し、フィルム中に浸潤している活性化処理溶液を十分に希釈、洗浄する。
【0323】
次いで、活性化されたカルボキシル基に、プロテインAを作用させ、プロテインAを固定化する。
【0324】
プロテインAのゲル(PIERCE,IL,USA)の溶液7ml中に、カルボキシル基の活性化処理を施したフィルムを浸漬し、室温で、1時間静置する。該固定化処理後、プロテインAのゲル溶液から取り出されたフィルムを、リン酸緩衝液を含む生理食塩水中に浸し、十分に洗浄する。このプロテインAのゲルは、1ml当たり35mgのIgG抗体を固定化することができる。
【0325】
上記の固定化処理条件において、5cm×5cmのフィルムに固定化されているプロテインAよって、固定化できる抗体の総量は、約240mgである。
【0326】
次いで、該プロテインAの固定化処理を施したフィルムを、濃度15mg/mlのモノクローナル抗体:mAb−T003の溶液16mlに、2時間浸漬する。モノクローナル抗体:mAb−T003は、プロテインAに結合され、該プロテインAをリンカーとして、基材のSeprafilm(登録商標)に固定化される。
【0327】
5cm×5cmのフィルムに固定化されているモノクローナル抗体の総量は、およそ240mgである。
【0328】
その後、濃度1w/v%のポリビニルアルコールの水溶液中に、1時間浸漬する。該フィルムの外表面と内表面全体は、ポリビニルアルコールで被覆された状態となる。同時に、該プロテインAをリンカーとして、基材のSeprafilm(登録商標)に固定化されているモノクローナル抗体分子も、ポリビニルアルコールで被覆された状態となる。
【0329】
ポリビニルアルコールの水溶液から引き上げた後、室温下で放置し、含まれる水分を蒸散させ、十分に乾燥させる。乾燥処理を施すと、固定化されているモノクローナル抗体分子と基材のフィルム表面を覆うように形成されている、ポリビニルアルコールの吸着層に含まれる、溶媒和水分子の除去が進み、ポリビニルアルコールの被覆層に変換される。
【0330】
最終的に作製される、拭き取り処理材料は、基材のフィルム表面に、モノクローナル抗体分子が固定化され、固定化されたモノクローナル抗体分子と基材のフィルム表面を覆うように、ポリビニルアルコールの被覆層が形成されている。
【0331】
上記の手順で作製される、該拭き取り処理材料を使用して、三量体型の過酸化アセトンの固体粉末を拭き取り除去できることを検証した。
【0332】
三量体型の過酸化アセトンの溶液として、AccuStandard社の0.01%溶液を用いて、三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を作製する。
【0333】
前記0.01%溶液を、ガラス基板上に5ml滴下し、室温下で蒸発乾固させる。含有されている、0.5mgの三量体型の過酸化アセトンは、微小な結晶として、析出する。この三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末が表面に析出している、ガラス基板を多数枚用意し、下記の3条件で比較実験を行った。
【0334】
(条件1)
上記の拭き取り処理材料に、純水に濃度5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%で溶解したアセトニトリル/水混合液、ならびに、アセトニトリル(100v/v%)を、それぞれ2ml吸収させ、浸潤された状態とした上で、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を覆う。その状態で、合計0.5mgの三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を、浸潤しているアセトニトリル/水混合液、あるいはアセトニトリルによって溶解させた後、拭き取り処理材料を取り除く。
【0335】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0336】
目視で観察した範囲では、アセトニトリル濃度が5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%のアセトニトリル/水混合液を使用している場合、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余は確認されなかった。すなわち、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出されなかった。
【0337】
一方、アセトニトリル(100v/v%)を使用している場合、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0338】
(条件2)
ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末0.5mgを浸すように、メタノールとアセトニトリルの1:1(v/v)混合溶媒を、純水に5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%の比率で混合した(メタノール/アセトニトリル)/水混合液、あるいは、メタノールとアセトニトリルの1:1(v/v)混合溶媒を、それぞれ2ml滴下する。この混合液、ならびに、混合溶媒により、微小結晶粉末が溶解した時点で、上記の拭き取り処理材料で該溶液を覆う。覆った拭き取り処理材料中に溶液は浸入し、拭き取り処理材料中に吸い取られ、浸潤状態となることを確認する。その時点で、拭き取り処理材料を取り除く。
【0339】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0340】
目視で観察した範囲では、混合比率が5v/v%、10v/v%、25v/v%の(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用している場合、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余は確認されなかった。すなわち、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出されなかった。
【0341】
一方、メタノールとアセトニトリルの1:1(v/v)混合溶媒、ならびに、混合比率が50v/v%の(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用している場合、拭き取り処理後に、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0342】
(条件3)
上記のモノクローナル抗体の固定化処理を施していない、基材のSeprafilm(登録商標)を使用して、拭き取りを行う。
【0343】
該基材のフィルムに、純水に濃度50v/v%で溶解したアセトニトリル/水混合液2mlを吸収させ、浸潤された状態とした上で、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を覆う。その状態で、合計0.5mgの三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を、浸潤しているアセトニトリル/水混合液によって溶解させた後、該基材のフィルムを取り除く。
【0344】
前記の拭き取り処理を終えた後、ガラス基板の表面を観察する。
【0345】
目視で観察した範囲で、ガラス基板上に、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残余が確認された。すなわち、該基材のフィルムを取り除く際、ガラス基板上に、僅かに溶液の皮膜層が残るが、その残余する溶液の皮膜層中の溶媒は蒸散し、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣が見出された。
【0346】
上記の条件1〜条件3において、拭き取り処理材料、あるいは、該基材のフィルムを取り除く際、ガラス基板上に、僅かに液の皮膜層が残る現象は、同様に見出されている。
【0347】
勿論、条件3では、僅かに残余する液の皮膜層は、アセトニトリル/水混合液中に、濃度0.5mg/2mlで三量体型の過酸化アセトンが溶解している溶液である。
【0348】
また、条件1において、アセトニトリル(100v/v%)を使用している場合、なたびに、条件2において、メタノールとアセトニトリルの1:1(v/v)混合溶媒、混合比率が50v/v%の(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用している場合、僅かに残余する液の皮膜層は、各混合溶媒中に、三量体型の過酸化アセトンが相当の濃度で溶解している溶液であると判断される。その濃度は、当初の濃度0.5mg/2mlと比較すると、相当に減少しているが、残余する溶液の皮膜層中の溶媒が蒸散した際には、三量体型の過酸化アセトンの微細な結晶の残渣を生じさせるに十分な濃度となっている。
【0349】
一方、条件1において、アセトニトリル濃度が5v/v%、10v/v%、25v/v%、50v/v%のアセトニトリル/水混合液を使用している場合、ならびに、条件2において、混合比率が5v/v%、10v/v%、25v/v%の(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用している場合、僅かに残余する液の皮膜層は、三量体型の過酸化アセトンを実質的に含んでいない液であると判断される。
【0350】
従って、前記混合比率のアセトニトリル/水混合液、(メタノール/アセトニトリル)/水混合液を使用し、モノクローナル抗体の固定化がなされた、上記の拭き取り処理材料を利用することで、ガラス基板上の三量体型の過酸化アセトンの微小結晶粉末を効率的に拭き取り除去できていることが検証された。
【産業上の利用可能性】
【0351】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の処理材料、ならびに、該処理材料を利用する除去方法は、処理対象となる過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、三量体型の過酸化アセトン(TATP)を簡便に、かつ安全に除去する目的に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0352】
1.吸水材料
2.モノクローナル抗体
3.吸水材
4.抗体が保持された吸水材
5.過酸化アセトン
6.ガラス基板
7.ピペット
8.溶媒
9.リンカー
10.ポリビニルアルコール
【受託番号】
【0353】
(受託番号)
本発明に利用される、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 3B-7Eが、ブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6、郵便番号305−8566)に、国際寄託(平成21年 5月12日付け)がなされている。
【0354】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物誘導体型の爆薬である、下記の式(I)の過酸化アセトン(TATP:3,3,6,6,9,9-hexamethyl-1,2,4,5,7,6-hexaoxacyclononane)の固体粉末を拭き取り除去する方法であって、
【化1】

該拭き取り除去する方法は、
式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、該式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量に溶解させ、
前記溶媒に対する吸液性を有する吸液材料で作製された、拭き取り処理材料を用いて、前記式(I)の過酸化アセトンが溶解した液を該拭き取り処理材料に吸液させて、拭き取り除去する工程を具え、
前記拭き取り処理材料は、
前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体を、前記吸液材料中に固定化しており、
該拭き取り処理材料に吸液させた、前記式(I)の過酸化アセトンの溶液中に溶解されている、式(I)の過酸化アセトンは、抗原抗体反応によって、固定化されている前記モノクローナル抗体と複合体を形成する
ことを特徴とする、爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項2】
前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体は、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)の過酸化アセトン過酸化物に対して交叉反応性を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項3】
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)である
【化2】

ことを特徴とする、請求項2に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項4】
前記式(I)の過酸化アセトンに対する結合能を有するモノクローナル抗体は、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、
該式(I)の過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする、請求項2または3に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項5】
前記ヒト以外の哺乳動物は、マウスである
ことを特徴とする、請求項4に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項6】
前記低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択する
ことを特徴とする、請求項4または5に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項7】
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、その分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を選択し、
該分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質は、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)を介して、前記分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物の結合がなされている
ことを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項8】
該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)の形成は、カルボジイミド法を利用してなされている
ことを特徴とする、請求項7に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項9】
前記吸液材料中に固定化するモノクローナル抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 3B-7E(FERM BP−11125)が産生する、前記式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体を用いる
ことを特徴とする、請求項4に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体は、ポリビニルアルコールによって、前記吸液材料中に固定化されている
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項11】
前記モノクローナル抗体は、少なくともタンパク質からなるリンカーを介して、前記吸液材料中に固定化されている
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項12】
前記少なくともタンパク質からなるリンカーは、プロテインAまたはプロテインGの少なくともどちらか一種類である
ことを特徴とする、請求項11に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項13】
前記拭き取り処理材料は、少なくとも、水または前記溶媒を吸収させてから、拭き取り除去する工程に用いる
ことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項14】
前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を、該式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量に溶解させる操作においては、
該式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒の適量を用いて、前記式(I)の過酸化アセトンの固体粉末を溶解して、溶液とする
ことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項15】
前記式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒は、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、エタノールアミン、メチルエチルケトンからなる有機溶媒の群から選択される、少なくとも1つの有機溶媒を含む
ことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り除去方法。
【請求項16】
過酸化物誘導体型の爆薬である、下記の式(I)の過酸化アセトン(TATP:3,3,6,6,9,9-hexamethyl-1,2,4,5,7,6-hexaoxacyclononane)の固体粉末の拭き取り除去に使用可能な拭き取り処理材料であって、
【化3】

前記拭き取り処理材料は、
前記式(I)の過酸化アセトンを溶解可能な溶媒に対する吸液性を有する吸液材料で作製され、
前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体を、前記吸液材料中に固定化している
ことを特徴とする、爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項17】
前記式(I)の過酸化アセトンに対して結合能を有するモノクローナル抗体は、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)の過酸化アセトン過酸化物に対して交叉反応性を有する
ことを特徴とする、請求項16に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項18】
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)である
【化4】

ことを特徴とする、請求項17に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項19】
前記式(I)の過酸化アセトンに対する結合能を有するモノクローナル抗体は、
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、
該式(I)の過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする、請求項17また18に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項20】
前記ヒト以外の哺乳動物は、マウスである
ことを特徴とする、請求項19に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項21】
前記低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択する
ことを特徴とする、請求項19または20に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項22】
前記式(I)の過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、その分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を選択し、
該分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質は、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)を介して、前記分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物の結合がなされている
ことを特徴とする、請求項19〜21のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項23】
該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)の形成は、カルボジイミド法を利用してなされている
ことを特徴とする、請求項22に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項24】
前記吸液材料中に固定化するモノクローナル抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 3B-7E(FERM BP−11125)が産生する、前記式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体を用いる
ことを特徴とする、請求項19に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項25】
前記モノクローナル抗体は、ポリビニルアルコールによって、前記吸液材料中に固定化されている
ことを特徴とする、請求項16〜24のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項26】
前記モノクローナル抗体は、少なくともタンパク質からなるリンカーを介して、前記吸液材料中に固定化されている
ことを特徴とする、請求項16〜24のいずれか一項に記載の爆発物の拭き取り処理材料。
【請求項27】
前記少なくともタンパク質からなるリンカーは、プロテインAまたはプロテインGの少なくともどちらか一種類である
ことを特徴とする、請求項26に記載の爆発物の拭き取り処理材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−21145(P2011−21145A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168916(P2009−168916)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】