説明

爆薬用乳化剤及びそれを用いた爆薬

【課題】装填機で容易に装填が可能で、経時安定性に優れ、荷重等により凝集や固化し難い油中水滴型エマルション爆薬の成型体を得ること。
【解決手段】酸化剤、油類、乳化剤及び微小中空球体を含有する油中水滴型エマルション爆薬において、多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が炭素数8〜30の飽和脂肪酸及び炭素数8〜30の不飽和脂肪酸を含む乳化剤を含有した油中水滴型エマルション爆薬を成型してなることを特徴とする爆薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆薬用乳化剤及びそれを用いた爆薬に関する。更に詳しくは隧道掘進、採石、採鉱等の産業用爆破作業に利用される油中水滴型(以下W/O型という)エマルション爆薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
爆破作業等に用いられる産業用爆薬としては、ダイナマイト、含水爆薬、硝安爆薬、硝安油剤爆薬(以下ANFO爆薬と呼ぶ)等が良く知られている。これらの爆薬のうち含水爆薬は、組成物中に火薬成分が含まれていないことから従来のダイナマイトよりも比較的安全であり、産業用爆薬として広く用いられるようになっている。この含水爆薬はスラリー爆薬とエマルション爆薬の2つに大きく分類されるが、エマルション爆薬の方が成型性や耐候性に優れているという特徴がある。このエマルション爆薬は油中水滴型エマルション爆薬として特許文献1にて公開されて以来、さまざまな改良が行われてきており、現在では耐水性、安全性の点で、従来の爆薬よりすぐれた性能を有しているものが得られている。
【0003】
他方、発破現場においては、爆薬の装薬作業の簡便化や爆薬取扱時の安全性の確保という観点から、爆薬の装薬作業の機械化が要望されるようになってきている。爆薬の機械装填作業を行うためには、使用される爆薬がより安全である必要があり、ANFO爆薬をローダー等によって機械装填する方法が鉱山や採石場等で実用化されている。また油中水滴型エマルション爆薬については、例えば諸外国において、非特許文献1にあるように、バルクエマルション爆薬と呼ばれる油中水滴型エマルション爆薬を、エア駆動のモノポンプ等を利用して、直接発破孔に自動装填するバルクエマルション爆薬システムと呼ばれる方法が既に実用化されている。しかしバルクエマルション爆薬システムにおいては、高粘度の油中水滴型エマルション爆薬を使用するために、装薬作業後の清掃作業や残留爆薬の管理が繁雑になるため高コスト化を招く恐れがある。また、バルクエマルション爆薬を装填するためには、安全性の確保のためにも高価な装填用機械が必要となる。
【0004】
ところがANFO爆薬は、W/O型エマルション爆薬と比較すると、発破後の後ガスが劣るために充分な排気装置を設ける必要がある。また、発破孔中に水が存在する場合、ANFO爆薬が水に溶解して所定の爆発性能が得られなくなるために、使用することが困難になる。このため水が存在する発破孔や湧水孔においては、あらかじめ発破孔中の水を排出してからポリチューブ等を挿入した後、そのポリチューブ内にANFO爆薬を装薬するといった煩雑な方法が行われる場合がある。またバルクエマルション爆薬システムについては、高粘度の油中水滴型エマルション爆薬を使用するために、装薬作業後の清掃作業や残留爆薬の管理が繁雑になるため高コスト化を招く恐れがある。また、バルクエマルション爆薬を装填するためには、安全性の確保のためにも高価な装填用機械が必要となる。
【0005】
このため、空気装填機のように比較的簡単な機械で装填が可能で、比較的多くの水が存在する発破孔でも使用可能で、安全性の高い爆薬が要望されている。これらの問題を解決する方法として、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5に記載された、顆粒あるいは粒状の油中水滴型エマルション爆薬の開発が進められている。
【0006】
【特許文献1】米国特許3,161,551号公報
【特許文献2】特開平7−223888号公報(第2−3頁)
【特許文献3】特開平11−278975号公報(第2−3頁)
【特許文献4】特開2001−172096号公報(第2−3頁)
【特許文献5】特開2001−206797号公報(第2−3頁)
【非特許文献1】「効果的なトンネル技術に関する検討報告書」(社)日本トンネル技術協会発行(平成10年3月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが上記の特許文献2や特許文献3に記載されている油中水滴型エマルション爆薬の顆粒あるいは粒状化の方法は、エマルション内の無機酸化剤水溶液を結晶化させ、エマルション構造を破壊させてから粒状化するというものである。一般的に油中水滴型エマルション爆薬の酸化剤水溶液を結晶化させると、その結晶化部分からエマルションが崩壊するために、爆薬としての感度や性能を維持することができなくなることが知られている。
【0008】
このような使用形態の爆薬であっても、現地混合方式あるいはこれに近い方式であるならば、爆薬製造から使用までの時間が数時間ないし、数日と極めて短時間なので、それほど大きな問題にはならない。しかしながら爆薬は、製造されてから使用するまでに通常でも数ヶ月、長い場合は6ヶ月から1年近くも経過する場合がある。したがって、顆粒あるいは粒状の油中水滴型エマルション爆薬についても、酸化剤水溶液を結晶化させることなく、かつ数ヶ月以上経時的に安定なものが要求される。特に、爆薬を機械装填に対応させるためにも長期間油中水滴型エマルション爆薬の性状が変わらないように安定しているものが望ましい。また、粒状に成型した爆薬を長期間の貯蔵、機械による装填等荷重がかかる場合、薬が凝集し、使用時に薬がほぐれず、使い難い場合が生じることがある。したがって、粒状の油中水滴型エマルション爆薬は、長期貯蔵、機械による装填等、荷重がかかる場合でも薬が凝集しない、または凝集してもほぐれやすいものが望ましい。
【0009】
本発明は、(i)経時安定性に優れ、(ii)1年程度の長期保存においても、爆薬性能の低下や塊化を起こしにくく、(iii)塊化を起こす場合でも容易に解きほぐすことのできる程度であり、(iv)長期保存後においても、装填機で容易に装填が可能であり、かつ(v)優れた耐水性を有し、水孔での発破にも好適に使用できる爆薬及びそれに用いる爆薬用乳化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、一般式(1)で表される脂肪酸エステル(A)を含む爆薬用乳化剤、及びこれを用いてなる油中水滴型エマルション爆薬からなることを要旨とする。
【0011】
【化2】

(式中、Cは炭素原子、Hは水素原子、Oは酸素原子、Rは炭素数8〜30のアルキル基、Rは炭素数8〜30のアルケニル基、Rは炭素数3〜6の直鎖の脂肪族飽和炭化水素基、m及びnは平均が0.3〜2の実数、pは平均が0〜5の実数、m+nは平均が1〜3の実数、m+n+pは平均が3〜6の実数を表す。ここで、平均とは、混合物の相加平均である。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
としては直鎖アルキル基が好ましく、具体的には、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基及びトリアコンチル基等が含まれる。
【0013】
の炭素数は8〜30が好ましく、さらに好ましくは10〜24、特に好ましくは16〜20である。この範囲であると爆薬に対する乳化性がさらに優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上し好ましい。
【0014】
としては、直鎖アルケニル基が好ましく、具体的には、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、エイコセニル基、ヘンエイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基及びオレイル基等が含まれる。
【0015】
の炭素数は8〜30が好ましく、さらに好ましくは10〜24、特に好ましくは16〜20である。この範囲であると、爆薬に対する乳化性がさらに優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上し好ましい。
【0016】
は直鎖の脂肪族飽和炭化水素基であり、Rの炭素数は3〜6が好ましく、さらに好ましくは5〜6、特に好ましくは6である。この範囲であると、爆薬用乳化剤の乳化性がさらに優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上し好ましい。
【0017】
に含まれる全ての炭素原子が、水素原子及び酸素原子と結合しているとさらに乳化性が優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上するため好ましい。1個あたり、価数は3〜6価の炭化水素基であり、好ましくは5〜6価、特に好ましくは6価である。
【0018】
としては、グリセリン、1,2,3,4−ブタンテトラオール、ペンチット及びソルビトールからヒドロキシル基を除いた残基が含まれる。
【0019】
m及びnは平均が0.3〜2の実数が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.5、特に好ましくは0.7〜1.3である。mとnは同じでも互いに異なっていてもよい。ここで、平均とは、混合物の相加平均(算術平均)である(以下同様である)。この範囲であると、乳化性がさらに優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上し好ましい。
【0020】
m+nは平均が1〜3の実数が好ましく、さらに好ましくは1.5〜2.3、特に好ましくは1.9〜2.1である。この範囲であると、乳化性がさらに優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上し好ましい。
【0021】
pは平均が0〜5の実数が好ましく、さらに好ましくは3〜5、特に好ましくは4である。この範囲であると、乳化性がさらに優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上し好ましい。
【0022】
m+n+pは平均が3〜6の実数が好ましく、さらに好ましくは4〜6、特に好ましくは6である。この範囲であると、乳化性がさらに優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上し好ましい。
【0023】
脂肪酸エステル(A)には、−OCOR、−OCOR及び−OHがRに結合する位置に関して全ての構造異性体が含まれる。脂肪酸エステル(A)は、製造の容易さ等の観点から、m、n及びpの少なくとも1つが互いに異なる混合物が好ましく、例えば、m=1、n=1及びp=4の脂肪酸エステル(A1)とm=1、n=2及びp=3の脂肪酸エステル(A2)との等モル混合物等が含まれる。この場合、脂肪酸エステル(A)のmが平均で1、nが平均で1.5、pが平均で3.5、m+nが平均で2.5、m+n+pが平均で6である。
【0024】
脂肪酸エステル(A)は、単一成分であってもよい。脂肪酸エステル(A)が単一成分であれば、平均は単一成分の値を用いる。
【0025】
本発明の爆薬用乳化剤は、脂肪酸エステル(A)以外に、他の乳化剤{一般式(1)におけるm又はnが0又は3〜6の脂肪酸エステル等}及び溶媒(水等)等を含有してもよい。
【0026】
他の乳化剤を含有する場合、脂肪酸エステル(A)の含有量は、脂肪酸エステル(A)及び他の乳化剤の合計重量に基いて、50〜99重量%が好ましく、さらに好ましくは70〜95重量%、特に好ましくは80〜90重量%である。この範囲であると、爆薬の経時安定性が優れる。
【0027】
溶媒を含有する場合、溶媒の含有量は、脂肪酸エステル(A)の重量に基づいて、0.01〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜5重量%、特に好ましくは0.5〜3重量%である。この範囲であると、爆薬の経時安定性がさらに優れる。
【0028】
一般式(1)におけるmとnとの比(m/n)は0.5〜1.0が好ましく、さらに好ましくは0.6〜0.9、特に好ましくは0.6〜0.8である。この範囲であると、乳化性がさらに優れ、安定したエマルションが得られるため、爆薬の経時安定性が向上し好ましい。
【0029】
m/nはH−NMRを用いて、Rのカルボキシル基のβ位の水素原子と、Rの炭素−炭素不飽和結合の隣の炭素原子(アリル位)に結合した水素原子のピークの面積比を測定することで測定することができる。
【0030】
m、n及びpの平均の数は、次のようにして求めることができる。pは、脂肪酸エステル(A)の水酸基価(JIS K0070−1992、7.水酸基価に記載の方法で測定できる)から計算できる。m、nは、m/n及びpの値と、m+n+pの値から計算できる。m+n+pは原料となる多価アルコール(脂肪酸エステル(A)を加水分解して得ることができる)から計算できる。
【0031】
次に、爆薬用乳化剤の製造方法について説明する。
脂肪酸エステル(A)は、飽和脂肪酸(K)、不飽和脂肪酸(L)及び多価アルコール(M)を撹拌混合装置内に入れ、185〜190℃で6〜7時間、攪拌混合しながら、反応途中生成する水分をディーンシュタルクトラップ(Dean-Stark Trap)で除去することにより得ることができる。
【0032】
撹拌混合装置としては、特に限定されないが、撹拌翼を備えた反応釜等が使用できる。
【0033】
飽和脂肪酸(K)は、Rにカルボキシル基が結合した飽和脂肪酸である。
飽和脂肪酸(K)としては、炭素数9〜31の飽和脂肪酸が含まれ、例えば、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、及びトリアコンタン酸等が挙げられる。
【0034】
不飽和脂肪酸(L)は、Rにカルボキシル基が結合した不飽和脂肪酸である。
不飽和脂肪酸(L)としては、炭素数9〜31の不飽和脂肪酸が含まれ、例えば、オレイン酸、エライジン酸及びリノール酸等が挙げられる。
【0035】
多価アルコール(M)としては、グリセリン、1,2,3,4−ブタンテトラオール、ペンチット、ソルビトール及びソルビタン等が含まれる。これらのうち、グリセリン、1,2,3,4−ブタンテトラオール、ペンチット及びソルビトールが好ましく、さらに好ましくはペンチット及びソルビトール、特に好ましくはソルビトールである。
【0036】
、R及びRの組み合わせとしては、Rがオクタデシル基(ステアリル基)、Rがオレイル基、Rがソルビトールからヒドロキシル基をRとRの合計数だけ除いた残基の組み合わせ等が好ましい。
【0037】
脂肪酸エステル(A)の製造には、必要により反応触媒(C)及び反応溶媒(S)の少なくとも一方を用いることができる。
【0038】
反応触媒(C)としては、酸触媒及び塩基触媒のいずれも使用できるが、(A)の着色防止の観点から、塩基触媒が好ましい。
【0039】
酸触媒としては、ハロゲン化水素(塩化水素等)、カルボン酸(酢酸、シュウ酸等)、リン酸、スルホン酸(メタンスルホン酸等)等が挙げられる。
【0040】
塩基触媒としては、水酸化アルカリ金属塩(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、トリエチルアミン、ピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU:サンアプロ社の登録商標)、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)}等が挙げられる。
【0041】
反応溶媒(S)としては、水及び芳香族炭化水素(トルエン及びキシレン等)等が使用できる。反応溶媒(S)が水である場合、反応速度等の観点から、反応溶媒(S)の使用は(K)、(L)及び(M)の合計重量に基づいて、30重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0042】
反応溶媒(S)は、必要により、飽和脂肪酸(K)、不飽和脂肪酸(L)及び多価アルコール(M)を溶解したものを用いても良い。例えば、飽和脂肪酸(K)、不飽和脂肪酸(L)又は多価アルコール(M)の水溶液を原料として使用することができる。
【0043】
本発明の油中水滴型エマルション爆薬において本発明の爆薬用乳化剤は、他の爆薬用乳化剤と併用してもよい。併用する場合、本発明の爆薬用乳化剤が全乳化剤中に占める割合は、5重量%以上とするのが好ましい。ここで、併用できる他の乳化剤としては、ステアリン酸アルカリ金属塩、ステアリン酸アンモニウム塩、ステアリン酸カルシウム塩、ポリオキシエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸エステル(A)以外のソルビトール脂肪酸エステル等が挙げられる。本発明の油中水滴型エマルション爆薬において使用される乳化剤は、油中水滴型エマルション爆薬中に0.3〜5重量%好ましくは1〜4重量%含有される。
【0044】
以下、本発明の爆薬を詳細に説明する。本発明の油中水滴型エマルション爆薬において使用される乳化剤は、一般式(1)で表される脂肪酸エステル(A)を含む爆薬用乳化剤で、油中水滴型エマルション爆薬中に0.3〜5重量%好ましくは1〜4重量%含有される。
【0045】
本発明の爆薬に使用される油類としては、軽油、灯油、ミネラルオイル、潤滑油、重油等の石油系油類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス類、その他の疎水性の植物油、植物性ワックス、動物油、動物性ワックス等が挙げられる。また上述の油類にエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリブデン、ポリイソブチレン、石油樹脂、ブタジエン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン樹脂等の樹脂類を配合し変性した油類も使用できる。これらの油類の合計使用量は、油中水滴型エマルション爆薬中に0.5〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%含有される。
【0046】
本発明の爆薬に使用される酸化剤はその水溶液として用いるのが好ましい。使用しうる酸化剤の具体例としては硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウムのようなアルカリ金属硝酸塩類、硝酸カルシウムのようなアルカリ土類金属硝酸塩類、塩素酸ナトリウムのようなアルカリ金属塩素酸塩類、塩素酸カルシウムのようなアルカリ土類金属塩素酸塩類、過塩素酸カリウムのようなアルカリ金属過塩素酸塩類、過塩素酸カルシウムのようなアルカリ土類金属過塩素酸塩類、過塩素酸アンモニウム等が挙げられ、これらは単独または混合して使用することができる。これらの酸化剤のうち特に好ましいものは硝酸アンモニウム及び硝酸ナトリウムである。
【0047】
また本発明の爆薬において使用される酸化剤水溶液には、所望により硝酸モノメチルアミン、硝酸モノエチルアミン、硝酸ヒドラジン、二硝酸ジメチルアミン等の水溶性アミン硝酸塩類、硝酸メタノールアミン、硝酸エタノールアミン等の水溶性アルカノールアミン硝酸塩類及び水溶性の一硝酸エチレングリコール等を補助鋭感剤として添加する事が可能である。
【0048】
本発明に好ましく使用される酸化剤水溶液中における水の含有量は、酸化剤水溶液の結晶析出温度が30〜90℃になるような量だけ使用される事が好ましく、酸化剤水溶液に対して、通常5〜40重量%、好ましくは7〜30重量%の範囲で使用される。酸化剤水溶液中には結晶析出温度を下げる為にメチルアルコール、エチルアルコール、ホルムアマイド、エチレングリコール、グリセリン等の水溶性有機溶剤が補助溶媒として使用可能である。本発明の爆薬においては、酸化剤水溶液は爆薬中に50〜95重量%の範囲で含有される。
【0049】
本発明の爆薬は適切な量の微小中空体を含有せしめることによって雷管起爆性からブースター起爆に至る広範囲な感度性能が得られる。微小中空体としては、例えば、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン等の無機質中空球体、発泡スチレン、樹脂バルーン等の有機質中空球体の1種又は2種以上の混合物が使用される。微小中空球体の量は、当該爆薬の用途に応じ広い範囲で変化し、また微小中空球体の比重にもよるので一概には言えないが、通常、当該爆薬の比重を1.4g/ml以下、好ましくは1.3g/ml以下になるような量が使用される。
【0050】
本発明の爆薬にはアルミニウム粉、マグネシウム粉等の金属粉末、木粉、澱粉等の有機粉末の添加も可能である。これらは、添加する物質の種類及び添加の目的にもよるが、通常爆薬中に0.3〜10重量%の範囲で含有される。本発明の爆薬の形状については特に限定されるものではなく、球状、円柱状、円盤状、角柱状等いずれもでもよく成形に使用する成形機によって任意な形に成形される。
【0051】
本発明の爆薬には成形体同士の付着を軽減する付着防止剤の添加も可能である。付着防止剤の種類としては、平均粒度が500μm以下の粉体であれば、どのようなものでも使用できる。例えばタルク・カオリン等の鉱物類、シラスバルーン、樹脂中空体などが挙げられる。添加量は、用いる粉体の比重により変化するため一概には言えないが、本発明の爆薬組成物に対して、通常0.01〜10重量%の範囲で添加される。
【0052】
本発明において爆薬を製造する方法としては、一般によく使われる押し出し成型機による方法や、造粒機等で球状化する方法等が挙げられる。本発明の爆薬においては、あまり成型物を大きくすると爆薬を発破孔に装填した際に、空隙率が大きくなり、爆薬としての伝爆性が低下するため、爆薬の一粒あたりの重量が0.03〜5gとなる大きさに成型することが望ましい。
【0053】
本発明において爆薬を製造する方法としては、一般によく使われる押し出し成型機による方法や、造粒機等で球状化する方法等が挙げられる。本発明の爆薬は例えば次のようにして製造される。即ち、前記の酸化剤及び、必要により、前記の補助鋭感剤を約85〜95℃で水に溶解させ酸化剤水溶液を得る。次いで約85〜95℃に加熱された油類と乳化剤の混合物に、十分撹拌しながら前述の酸化剤水溶液を徐々に添加する。できあがった油中水滴型エマルションに微小中空体、必要に応じて他の添加剤を加えて、捏和機で混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得る。次いでこの油中水滴型エマルション爆薬を押し出し成型機等の成型機で成型し、本発明の爆薬を得ることができる。なお、上記の成型工程において、油中水滴型エマルション爆薬の形状については取扱易い粒状であれば特に限定されるものではなく、球形、円柱、円盤状、角柱状等いずれもでもよく、成型に使用する成型機によって任意な形に成型される。また、本発明の爆薬においては、あまり成型物を大きくすると爆薬を発破孔に装填した際に、空隙率が大きくなり、爆薬としての伝爆性が低下するため、爆薬の一粒あたりの平均重量が0.03〜5gとなる大きさに成型することが好ましい。
【0054】
本発明の爆薬は、油中水滴型エマルション爆薬で構成されているが、粒状を呈しているので、空気装填等の装填機を用いて、容易に発破孔に装填することができる。また本発明の爆薬は耐水性が高く、かつ比重が1よりも大きいので、縦穴の水孔に装填された場合でも、乾燥孔と同様に支障なく使用することができる。従って、本発明の爆薬によれば、従来の油中水滴型エマルション爆薬と同等の爆発性能及び長期経時安定性能を維持し、かつ比較的簡略な機械で製造できることから、製造時において安全であり、また、優れた耐水性を有しているため水孔においても使用することができ、発破後の残留ガスもANFO爆薬と比較して低毒性である。さらに形状が粒状を呈していることから機械による装填が容易で、装薬時の作業および発破作業を簡略にしかつ短縮することができる。
【0055】
次に実施例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。以下、特に記載のない限り、%は重量%を表す。
【実施例1】
【0056】
ディーンシュタルクトラップを備えた反応容器に、70%ソルビトール水溶液160.5重量部、ステアリン酸123.0重量部及びオレイン酸183.1重量部を入れ、この混合物を90℃に加熱して液状にした後、120℃に昇温した。この反応溶液に50%水酸化ナトリウム水溶液2.8重量部を加え、反応途中で生成する水をディーンシュタルクトラップで除きながら190℃で7時間、攪拌混合して一般式(1)で表される脂肪酸エステル(E1)を得た。脂肪酸エステル(E1)を本発明の爆薬用乳化剤(1)とした。なお、脂肪酸エステル(E1)のm/nは、0.64、mは0.82、nは1.27、pは3.91であった。m/nは以下の条件で測定した。m、n、pの数は前記の方法で測定した。
【0057】
<m/nの測定条件>
爆薬用乳化剤をNMR試料管内で重クロロホルムに溶解し、下記の装置でH−NMRを測定した。H−NMRピークの1.9〜2.1ppmのピーク面積(a)と1.5〜1.7ppmのピーク面積(b)との比(a/b)をm/nとした。
装置:Avance300型NMR(周波数300MHz)、ブルカー・バイオスピン株式会社
溶媒:重クロロホルム
積算回数:15回
硝酸アンモニウム75.0重量部、硝酸ナトリウム4.8重量部、水10.6重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス(日本精鑞株式会社製 商品名:Himic2065)2.4重量部、エチレン酢酸ビニルコポリマー(東ソー株式会社製、商品名:ウルトラセン727)1.1重量部、脂肪酸エステル(E1)3.0重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン6.0重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。この油中水滴型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出し成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断した後、本発明の爆薬を得た。
【実施例2】
【0058】
70%ソルビトール水溶液160.5重量部をペンチット148.6重量部に変更し、ステアリン酸123.0重量部をヘプタデカン酸117.1重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、脂肪酸エステル(E2)からなる本発明の爆薬用乳化剤を得た。
【0059】
脂肪酸エステル(E2)のm/nは、0.63、mは0.79、nは1.25、pは3.96であった。
【0060】
硝酸アンモニウム75.0重量部、硝酸ナトリウム4.8重量部、水10.6重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス(日本精鑞株式会社製 商品名:Himic2065)2.4重量部、エチレン酢酸ビニルコポリマー(東ソー株式会社製、商品名:ウルトラセン727)1.1重量部、脂肪酸エステル(E2)3.0重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン6.0重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。この油中水滴型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出し成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断した後、本発明の爆薬を得た。
【実施例3】
【0061】
硝酸アンモニウム75.0重量部、硝酸ナトリウム4.8重量部、水10.6重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス2.4重量部、エチレン酢酸ビニルコポリマー(東ソー株式会社製、商品名:ウルトラセン727)1.1重量部、脂肪酸エステル(E1)2.7重量部及び比較用の脂肪酸エステル(E3){オレイン酸183.1重量部を305.2重量部に変更し、ステアリン酸を使用しない以外は脂肪酸エステル(E1)と同様にして製造できる}0.3重量部の混合物に加え、十分撹拌混合してW/O型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン6.0重量部を加えて撹拌混合し、W/O型エマルション爆薬を得た。このW/O型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出し成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断した後、本発明の爆薬を得た。
【0062】
(比較例1)
硝酸アンモニウム75.0重量部、硝酸ナトリウム4.8重量部、水10.6重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス2.4重量部、エチレン酢酸ビニルコポリマー(東ソー株式会社製、商品名:ウルトラセン727)1.1重量部、比較用の脂肪酸エステル(E3)3.0重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン6.0重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。この油中水滴型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出し成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断して比較例用の油中水滴型エマルション爆薬を得た。
【0063】
(比較例2)
硝酸アンモニウム75.0重量部、硝酸ナトリウム4.8重量部、水10.6重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス3.3重量部、エチレン酢酸ビニルコポリマー(東ソー株式会社製、商品名:ウルトラセン727)1.4重量部、比較用の脂肪酸エステル(E3)1.8重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン6.0重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。この油中水滴型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出し成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断して比較例用の油中水滴型エマルション爆薬を得た。
【0064】
表1に実施例1〜3及び比較例1、2で得られた各油中水滴型エマルション爆薬の組成比を示す。
【0065】
試験例
成型体の荷重による付着性、塊化性を調べるために簡易的な荷重試験を実施した。試験方法は、内径80mmの一方に栓をした円筒管に押出し成型したW/O型エマルション爆薬を300g入れ、開放端からピストンにより2.34kgfの一定荷重を掛けつづけたまま35℃に設定した恒温槽内に放置し、1週間後に取り出して爆薬の状態を評価した。また、20kgの爆薬を実包装して(袋に入れてダンボールに収函)、室温で6ヶ月及び1年貯蔵した。6ヶ月及び1年貯蔵後の爆薬の状態を観察し評価した。結果を表2に示す。
【0066】
エマルション爆薬の硬さを調べるために、針入度硬さ(mm)を測定した。針入度硬さは、65gの針(先端の角度:46.5°、針径:8mm)を36mmの高さから落下させたときの侵入度深さ(mm)である。試料は、エマルション爆薬を内径30mm、高さ30mmの塩ビ管に充填し薬温を35℃にする。針入度硬さが小さいものほど、エマルション爆薬が硬く貯蔵中に変形しにくいということがいえる。その試験結果を表2に示す。
【0067】
実施例1、2及び比較例1、2で得られた爆薬を、内径48.6mm、長さ1m、肉厚3.5mmの鋼管中に空気装填機を用いて装薬し、ブースターとして日本化薬(株)製の含水爆薬(商品名:アルテックス)50gを用いて起爆し、ドートリッシュ法により爆轟速度を測定した。また、同じ鋼管中に予め水を満たした後、上記と同様に空気装填機を用いて各爆薬を装填し、水孔中での爆轟速度も測定した。さらに、経時試験として、室温で6ヶ月及び1年貯蔵しておいてものを上記と同様の方法で爆轟速度を乾燥孔及び水孔において測定した。その結果を表3に示す。
【0068】
表2〜4の結果から明白なように、本発明の爆薬は変形しにくく、荷重により塊化しにくく、かつ装填機で装填が可能で、1年程度貯蔵したものでも、爆薬としての性能を十分維持していることが明白である。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
(発明の効果)
荷重により変形や凝集し難く、凝集しても容易に解す事ができ、長期経時安定性があり、水孔でも使用できる機械装填可能な爆薬が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される脂肪酸エステル(A)を含む爆薬用乳化剤。
【化1】

(式中、Cは炭素原子、Hは水素原子、Oは酸素原子、Rは炭素数8〜30のアルキル基、Rは炭素数8〜30のアルケニル基、Rは炭素数3〜6の直鎖の脂肪族飽和炭化水素基、m及びnは平均が0.3〜2の実数、pは平均が0〜5の実数、m+nは平均が1〜3の実数、m+n+pは平均が3〜6の実数を表す。ここで、平均とは、混合物の相加平均である。)
【請求項2】
請求項1に記載の爆薬用乳化剤、酸化剤、油類及び微小中空球体を含有する油中水滴型エマルション爆薬。
【請求項3】
請求項2に記載の油中水滴型エマルション爆薬が一粒あたり0.03〜5gの成形体である爆薬。
【請求項4】
脂肪酸エステル(A)の含有量が、油中水滴型エマルション爆薬の重量に基づいて、0.3〜5重量%である請求項2又は3に記載の油中水滴型エマルション爆薬。

【公開番号】特開2007−261924(P2007−261924A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93050(P2006−93050)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】