説明

爆風圧低減構造体

【課題】安価かつ容易に、爆発による対象空間内部の被害を低減させることができる爆風圧低減構造体を提供することを目的としている。
【解決手段】爆発が発生し得る対象空間と対象空間の外部とを仕切る構造体本体2と、構造体本体2の対象空間側に配設されて構造体本体2の内面を被覆すると共に爆風圧を緩衝する緩衝板3と、が備えられ、緩衝板3が構造体本体2の内面から離間して配設されて構造体本体2と緩衝板3との間に間隙部Yが形成され、緩衝板3に、対象空間と間隙部Yとを連通させる複数の開口30が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面に作用する爆風圧(圧力波)を低減可能な爆風圧低減構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば水素等の可燃性ガスを製造したり貯蔵したりする施設等では、万一の爆発事故に備えて、爆発の爆風に耐え得る耐爆風構造体(躯体)によって建物の壁やスラブを形成することが好ましい。
【0003】
ところで、上記した施設等の閉鎖空間や半閉鎖空間で爆発事故が発生すると、その圧力波(衝撃波)が壁面や天井面、床面等で何度も反射を繰り返し、この圧力波の多重反射によって施設内の機器類などに甚大な被害が及ぶおそれがある。そこで、上記した被害を抑制するために、閉鎖空間の壁面や天井面、床面等に圧力波を吸収する吸収板を設置して爆風圧を低減させる方法が考えられる。上記した吸収板としては、圧力波を受けて変形或いは破壊することによって爆風エネルギーを吸収するものがあるが、圧力波は非常に高速であるため、圧力波に対して極めて短時間で応答可能な吸収板が必要である。このような吸収板として、従来、例えば下記特許文献1に記載されているように、複数の減衰材を組み合わせて形成された吸収板が知られている。この吸収板を閉鎖空間の壁面等に設置することにより、爆風エネルギーを吸収することができ、爆発による空間内部の被害を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−500837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の技術では、吸収板による爆風エネルギーの吸収性能を確保するために複雑な破壊メカニズムの解明が必要であり、吸収板の設置には相当な手間を要するという問題がある。また、上記した吸収板は、複数の減衰材を必要とするので製作コストが高いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、安価かつ容易に、爆発による対象空間内部の被害を低減させることができる爆風圧低減構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る爆風圧低減構造体は、爆発が発生し得る対象空間と該対象空間の外部とを仕切る構造体本体と、該構造体本体の対象空間側に配設されて該構造体本体の内面を被覆すると共に爆風圧を緩衝する緩衝板と、が備えられ、該緩衝板が前記構造体本体の内面から離間して配設されて該構造体本体と前記緩衝板との間に間隙部が形成され、該緩衝板に、前記対象空間と前記間隙部とを連通させる複数の開口が形成されていることを特徴としている。
【0008】
このような特徴により、対象空間において爆発が発生すると、その圧力波のうちの一部が緩衝板で反射され、残りの圧力波が緩衝板の開口を通過して構造体本体と緩衝板との間(間隙部)に入射される。この間隙部に入射された圧力波は構造体本体の内面で反射するが、圧力波の波形の位相のずれによって爆風圧のピーク値が低減される。
【0009】
また、本発明に係る爆風圧低減構造体は、前記構造体本体と前記緩衝板との間に、爆風エネルギーを吸収する吸収部材が配設されていることが好ましい。
これにより、構造体本体と緩衝板との間の間隙部において爆風エネルギーが吸収部材によって吸収される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る爆風圧低減構造体によれば、圧力波の一部が緩衝板で反射し、残りが緩衝板の開口から通過することで爆風圧のピーク値が低減されるので、圧力波の多重反射による対象空間内の被害を低減させることができる。また、複数の開口が形成された緩衝板を構造体本体の内面に離間して配設するだけであるので、安価かつ容易に爆風圧低減構造体を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態を説明するための爆風圧低減構造体の斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態を説明するための爆風圧低減構造体の断面図である。
【図3】本発明に係る爆風圧低減構造体における爆発発生時の圧力のコンター図である。
【図4】本発明に係る爆風圧低減構造体における反射圧力の時刻歴波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る爆風圧低減構造体の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0013】
図1に示す爆風圧低減構造体1は、例えば水素ガス等の可燃性ガスを製造或いは貯蔵する施設の壁やスラブ等の躯体構造であり、閉鎖空間或いは半閉鎖空間を画成する構造体である。この爆風圧低減構造体1の概略構成としては、図1、図2に示すように、構造体本体2と、緩衝板3と、吸収部材4と、を備えている。
【0014】
構造体本体2は、爆発が発生し得る対象空間Xとその対象空間Xの外部とを仕切る壁或いはスラブであり、例えば鉄筋コンクリート造の構造体である。なお、構造体本体2の構造は適宜変更可能であり、例えば鋼製の構造体であってもよい。
【0015】
緩衝板3は、構造体本体2の内面を被覆する板部材であり、構造体本体2の対象空間X側に配設されている。詳しく説明すると、緩衝板3は、構造体本体2の内面から離間して構造体本体2の内面と平行に配設されている。そして、この緩衝板3の裏面と構造体本体2の内面との間には、間隙部Yが形成されている。
【0016】
また、緩衝板3は、対象空間X内における爆風圧を緩衝する部材であり、例えば鋼板などのような高強度の板材からなり、また、上記した対象空間Xと間隙部Yとを連通させる複数の開口30が形成されている。具体的に説明すると、緩衝板3は、例えば円形或いは楕円形の複数の開口30が全体的に均等に形成されたパンチングメタルからなり、それら複数の開口30は、縦方向及び横方向にそれぞれに均等に並列されている。また、複数の開口30が形成された緩衝板3の開口率は50%程度である。つまり、緩衝板3の表面31の面積(開口30部分を除いた面積)と複数の開口30の総面積とが略等しくなっている。
【0017】
吸収部材4は、構造体本体2と緩衝板3との間に配設されて爆風エネルギーを吸収する部材であり、例えば多孔質材料からなる。この吸収部材4は、上記した開口30と重ならない位置に配設されており、構造体本体2の内面と緩衝板3の裏面との間に挟み込まれている。
【0018】
次に、上記した構成からなる爆風圧低減構造体1の作用及び効果について説明する。
【0019】
上記した爆風圧低減構造体1で囲繞された対象空間Xにおいて爆発が生じると、図3に示すように、その圧力波のうちの一部が緩衝板3の表面31で反射し、残りの圧力波が緩衝板3の開口30を通過して構造体本体2と緩衝板3との間の間隙部Yに入射される。詳しく説明すると、開口30が形成された緩衝板3の開口率は50%程度であるため、圧力波のうちの半分が緩衝板3の表面31で反射し、残りの半分が緩衝板3の開口30を通過して間隙部Yに入射される。この間隙部Yに入射された圧力波は構造体本体2の内面で反射するが、圧力波の波形の位相のずれによって爆風圧が低く抑えられ、図4に示すように爆風圧のピーク値が低減される。このように、上記した緩衝板3によって圧力波を緩衝することができるので、圧力波の多重反射による対象空間X内の被害を低減させることができる。
【0020】
また、構造体本体2と緩衝板3との間に吸収部材4が配設されているので、一定の時間、間隙部Yに圧力波が閉じ込められるが、上記した間隙部Yにおいて爆風エネルギーが吸収部材4によって吸収される。これにより、対象空間X内における爆風圧を低減させることができ、対象空間X内の被害を効果的に低減させることができる。
【0021】
また、上記した爆風圧低減構造体1では、複数の開口30が形成された緩衝板3を構造体本体2の内面に離間して配設するだけであるので、安価かつ容易に爆風圧低減構造体1を形成することができる。したがって、上記した爆風圧低減構造体1は、例えば地下室などのような広い対象空間Xの壁やスラブに好適である。
【0022】
以上、本発明に係る爆風圧低減構造体の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、建物等の室内空間を画成する壁及びスラブ(天井及び床)について説明しているが、本発明に係る爆風圧低減構造体は、対象空間Xに配設された柱や梁等であってもよい。さらに、本発明に係る爆風圧低減構造体は、建物を構成する構造体でなくてもよく、例えば、機械や装置を収容する筐体(ハウジング)や、コンテナ等の箱体であってもよい。
【0023】
また、上記した実施の形態では、開口30が形成された緩衝板3の開口率は50%程度であるが、上記開口率は適宜変更可能であり、この開口率を変化させることで、緩衝板3で反射させる圧力波や緩衝板3を透過させる圧力波を調整することができる。
【0024】
また、上記した実施の形態では、緩衝板3に円形又は楕円形の開口30が形成されているが、本発明は、矩形状や長孔状など、他の形状の開口が形成された緩衝板であってもよく、また、形状の異なる複数の開口が形成された緩衝板であってもよい。
【0025】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 爆風圧低減構造体
2 構造体本体
3 緩衝板
4 吸収部材
30 開口
X 対象空間
Y 間隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
爆発が発生し得る対象空間と該対象空間の外部とを仕切る構造体本体と、
該構造体本体の対象空間側に配設されて該構造体本体の内面を被覆すると共に爆風圧を緩衝する緩衝板と、
が備えられ、
該緩衝板が前記構造体本体の内面から離間して配設されて該構造体本体と前記緩衝板との間に間隙部が形成され、
該緩衝板に、前記対象空間と前記間隙部とを連通させる複数の開口が形成されていることを特徴とする爆風圧低減構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の爆風圧低減構造体において、
前記構造体本体と前記緩衝板との間に、爆風エネルギーを吸収する吸収部材が配設されていることを特徴とする爆風圧低減構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate