説明

片状黒鉛鋳鉄の製造方法

【課題】片状黒鉛鋳物の外面にひけによる凹み、内部にひけ巣を生じやすい。肉厚の大きい部分の組織が粗大化して強度が低下し、加工面粗度が低下する。また肉薄部の組織が硬化して切削性が低下する傾向がある。
ひけ傾向が小さいと共に、材質的肉厚感度の小さい片状黒鉛鋳鉄鋳物を製造すること。
【解決手段】(i)ひけ傾向を小さくするため、鋳物が凝固するときに晶出する黒鉛量を多くする。このための手段としてシリコン含有量を低くする。シリコン含有量を0.9〜1.4%の範囲に、炭素含有量を3.0〜3.4%の範囲にする。シリコン含有量と炭素含有量の関係を次の式の範囲にする。
C%+0.23×Si%≦4.23%
(ii)肉厚感度を小さくするために、シリコン含有量を低くする。
(iii)前項および前々項の目的を促進し、同時に肉薄部の組織硬化を防ぐために種々の接種を行うが、特に鋳型に流入する溶湯に接種を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種機械および金型粗材の主要部分に使用される片状黒鉛鋳鉄の材質を根本的に改良する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
片状黒鉛鋳鉄は適切な引張り強さ(200〜350N/mm)と耐圧力、低い溶融温度(1200℃以下)と、それに基づく良好な流動性をもち種々な形状の鋳物を作りやすい。このため一般の機械構造用部品や金型粗材に多く用いられている。一般的に片状黒鉛鋳鉄の基本的性質を定めるものはその化学成分と溶解方法である。このうち化学成分は5成分と呼ばれる炭素、シリコン、マンガン、リン、硫黄および避けることの出来ない微量元素から成っている。通常の場合、鋳鉄の性質に最も支配的影響を及ぼす元素は炭素とシリコンであって、この2つの元素含有量を必要とする強度と製品形状によって決定する。従来技術においては炭素含有量は3.0〜3.5%,シリコン含有量は1.5〜2.2%の範囲にある。溶解方法としては、これらの成分の材料を約1400℃以上の温度で溶解し、溶解炉から出湯するときに接種剤を投入して金属組織の均一化を図ることが一般的方式である。
これらの方式で製造された片状黒鉛鋳鉄の材質強度をより高くする場合(例えば300N/mm以上)、最も確実に目的を達成する方法は炭素含有量を低目に調整することであるが、この操作によって鋳物が凝固するときの収縮量が大きくなりひけ欠陥を生じやすい。
さらに片状黒鉛鋳鉄は一般的に肉厚感度が大きく、製品の肉厚部、すなわち冷却速度の遅い部分は金属組織が粗くなりやすく、希望する強度ならびに緻密な仕上げ面が得られない。逆に肉薄部、すなわち冷却速度の速い部分は材質が硬くなり、極端な場合は鉄と炭素の化合物を含むチル組織が発生して材質が脆くなり、また機械加工が困難になるという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】中江秀雄 新版鋳造工学p.177。
【非特許文献2】R.W.Heine The Carbon Eqivalent Fe−C−Si Diagram and its Application to Cast Irons。AFS Cast Metals Journal June 1971 p.49。
【非特許文献3】E.Piwowarsky GuBeisen p.88。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は片状黒鉛鋳鉄の強度を大きくする場合の欠点であるところの鋳物が凝固するときの外面のひけ、内部に発生するひけ巣の発生をなくするか、より少なくすることを目的とする。
本発明はさらに鋳物の肉厚部と肉薄部の金属組織の差をより小さくする、とくに肉厚部組織の粗大化とフェライト相の析出を防止して緻密な仕上げ面を得ることを目的とする。
本発明はこれに加えて鋳物肉薄部の金属組織を脆くし機械加工を困難にするチル組織の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明者は片状黒鉛鋳鉄のひけ傾向を小さくするために、鋳物が凝固するときに内部に晶出してくる黒鉛の量を多くしなければならないことに着目した。このためにシリコン含有量をできるだけ少なくすること、炭素含有量をある程度多くすることおよび溶湯の接種操作を強力に行わなければならないことを突きとめた。
(2)次に鋳物肉厚部の金属組織をより緻密にし、かつフェライト相の析出をより少なくするために、同様にシリコン含有量を少なくするとともに接種を十分に行わなければならないことを突きとめた。
(3)さらに鋳物の肉薄部が硬くなり、最悪の場合チル組織を生ずることを防ぐために接種操作を十分に行う。この操作はこれら3項目に共通しており(1)および(2)の手段を強化する役割も持っている。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、鋳物の外部および内部ともにひけ現象が認められず、同時に肉厚部、例えば肉厚300mm以上の部分においても組織が緻密でありフェライト相の析出がより少ないと同時に、肉薄部、例えば肉厚10mmの部分の角部においてもチル組織が現れず良好な切削性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の片状黒鉛鋳鉄のシリコン含有量は0.9〜1.4%の範囲であることが好ましく、1.0〜1.3%であることがより好ましい。鋳物の最少肉厚によって調整することができるが接種操作を十分に行ってより低いシリコン含有量を選択することが望ましい。
【0008】
本発明の片状黒鉛鋳鉄の炭素含有量は3.0〜3.4%が好ましく、3.2〜3.25%であることがより好ましい。より高い強度を望む場合は低めの炭素含有量を、ひけ傾向をより小さくする場合ならびに切削性をより高めたい場合は、高い炭素含有量範囲を選択する。
【0009】
本発明の片状黒鉛鋳鉄の炭素含有量とシリコン含有量の関係は、次に示す式に従うことが好ましい。
C%+0.23×Si%≦4.23%
【0010】
本発明の片状黒鉛鋳鉄溶湯への接種操作は次の順序によって3回以上行うことが好ましい。
(1)溶解炉から出湯する直前に炉内溶湯に接種剤を添加する。
(2)溶解炉から受湯取鍋へ出湯するときに接種剤を添加する。
(3)鋳込み取鍋または注湯炉から鋳型へ注湯するとき、注湯流に接種剤を添加するか、もしくは接種剤を予め鋳込み用堰鉢、注湯用樋または鋳型内にセットしておいて注湯する。
【0011】
本発明の片状黒鉛鋳鉄溶湯への接種操作は前項の(1)もしくは(2)の操作は、状況によって省略することはできる。しかし(3)の接種操作を省略することはできない。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、外部内部ともにひけ現象が認められない片状黒鉛鋳鉄鋳物を製造することができる。
本発明により、肉厚部、例えば肉厚が200mm以上であってもその金属組織が緻密であり、良好な機械加工面を有する片状黒鉛鋳鉄鋳物を製造することができる。
本発明により、肉薄部、例えば肉厚が10mmであっても硬いチル組織等がなく切削性のよい片状黒鉛鋳鉄を製造することができる。
【実施例】
【0013】
実験の概要は次のとおりである。シリコン含有量および炭素含有量を規定の量に調整した溶湯に接種処理を施した後、鋳型に注湯した。鋳型にはJIS 5501に従って本体付き供試材を取り付け、その供試材から機械加工によってJIS 8号試験片を製作し機械的性質試験、顕微鏡組織検査および化学成分分析を行った。その結果この材質はFC350であることが判明した。
【0014】
実験を行った片状黒鉛鋳鉄溶湯の成分と溶湯処理は次のとおり。実験溶湯の目標化学成分は、シリコン含有量は1.3%、炭素含有量は3.2%であった。この溶湯を低周波電気誘導炉によって1540℃まで昇温し、出湯直前にシリコンカーバイドを主体とする炉中接種剤を0.1%添加した.次に受湯取鍋に出湯する際にカルシウムシリコン接種剤0.1%を出湯流に乗せて添加した。この溶湯を鋳込み温度である1380℃まで冷却した後、鋳型に注湯する期間中、カルシウムおよびバリウムを少量含む、フェロシリコンを基本とする塊状接種剤0.13%を堰鉢内に継続して添加し、鋳込み溶湯中に均一分布させた。
【0015】
前項の溶湯を鋳込んだ鋳型は断面が巾300mm、高さ275mm、質量1,490kgのブロックであった。この鋳型の側面にJIS G5501に従って本体付き供試材を取り付けた。製品と供試材の距離は55mmであり、製品の肉厚が80mm以上であるから供試材の直径はφ80mmであった。
【0016】
この本体付き供試材をJIS 8号試験片に機械加工して機械的性質と顕微鏡組織を調査した。その結果は引張り強さ234N/mm、ブリネル硬さはHB 156であった。顕微鏡組織検査の結果、基地は基本的にパーライトであり、黒鉛に付随して少量のフェライト相が認められた。その状況を図1に示した。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本体付き供試材から採取した引張り試験片の顕微鏡組織。倍率は×100。
【0018】
引張り試験片の残材の湿式化学成分分析を行った結果は、シリコン含有量1.33%、炭素含有量3.19%、マンガン含有量0.70%、リン含有量0.040%および硫黄含有量0.088%であった。
【0019】
この実験によって製造した片状黒鉛鋳鉄の本体付き供試材の引張り強さは234N/mmであった。この値をJIS 5501の本体付き供試材の規格と照合した結果、鋳鉄品肉厚150以上300mmの項目に該当して規格値210N/mm以上を満足しており、FC350相当であることが判明した。
【0020】
この溶湯を鋳込んだブロック材の各部を任意に分断して、金型粗材として深く切削した結果において、ひけ欠陥は一切発見されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)シリコン含有量を0.9〜1.4%、炭素含有量を3.0〜3.4%、硫黄を0.05〜0.2%その他避けることの出来ない元素成分を含む片状黒鉛鋳鉄溶湯を溶製する。
(ロ)シリコン含有量と炭素含有量の関係は次の式による。
C%+0.23×Si%≦4.23%
(ハ)この溶湯に各種接種操作を行う。その最後の1回は鋳型に鋳込む際に接種剤を、鋳込み取鍋又は注湯炉からの溶湯流に添加するか、もしくは予め鋳込み用堰鉢、注湯用樋又は鋳型内にセットしておく。
以上の如く構成された片状黒鉛鋳鉄の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−231392(P2011−231392A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114738(P2010−114738)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【特許番号】特許第4636395号(P4636395)
【特許公報発行日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(510138202)
【Fターム(参考)】