片面撥水性二重織物および繊維製品
【課題】二重織物であって、織物の厚さや織密度を高めることなく、片面のみが撥水性を呈することによりべとつきを防止できる片面撥水性二重織物および繊維製品を提供する。
【解決手段】二重織物であって、糸条の段階で撥水加工された糸条Ａで表面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで裏面側が構成されてなることを特徴とする片面撥水性二重織物。
【解決手段】二重織物であって、糸条の段階で撥水加工された糸条Ａで表面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで裏面側が構成されてなることを特徴とする片面撥水性二重織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明はべとつき防止織物に関する。さらに詳しくは、二重織物であって、裏面のみが撥水性を呈することによりべとつきを防止できる片面撥水性二重織物および該片面撥水性二重織物を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【０００２】
スポーツ時などに多量の汗をかくと、衣服が肌に貼りつき、べとついた感覚を生じるため、従来、布帛の肌側面（裏面）のみに撥水性を付与することが提案されている。例えば、撥水性布帛と非撥水性布帛とを貼り合せる方法（例えば特許文献１参照）や布帛の片面のみに撥水加工を施す方法（例えば特許文献２参照）などが知られている。
【０００３】
しかしながら、撥水性布帛と非撥水性布帛とを貼り合せたものでは、生地が重くなってしまい着用快適性が損なわれるという問題があった。一方、布帛の片面のみに撥水加工を施すには、布帛の厚みを厚くするか布帛の織編密度をあげないと、反対側面に撥水加工剤が抜け出してしまうという問題があった。
なお、撥水加工を施した糸条を肌側表面に配した編地は、特許文献３で提案されている。
【０００４】
【特許文献１】特開２００３−１７１８１４号公報
【特許文献２】特開平９−１３７３８０号公報
【特許文献３】特開平３−１８５１５９号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、二重織物であって、織物の厚さや織密度を高めることなく、片面のみが撥水性を呈することによりべとつきを防止できる片面撥水性二重織物および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【０００６】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、二重織物において、糸条の段階で撥水加工された糸条で裏面側を構成し、かつ撥水加工されていない糸条で表面側を構成することにより、べとつきを防止できる片面撥水性二重織物が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【０００７】
かくして、本発明によれば「二重織物であって、糸条の段階で撥水加工された糸条Ａで裏面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで表面側が構成されてなることを特徴とする片面撥水性二重織物。」が提供される。
【０００８】
その際、前記の糸条Ａおよび糸条Ｂがともにポリエステル繊維からなることが好ましい。また、前記の糸条Ａの単糸繊度が１．５ｄｔｅｘ以下であることが好ましい。かかる糸条Ａが仮撚捲縮加工糸条であることが好ましい。また、前記の糸条Ａにおいて、フッ素系撥水剤により撥水加工されていることが好ましい。前記の糸条Ａにおいて、撥水剤の付着量が糸条Ａの重量に対し１〜４０重量％の範囲内であることが好ましい。本発明の片面撥水性多層構造織物において、目付けが３００ｇ／ｍ２以下であることが好ましい。
【０００９】
また、本発明によれば、前記の片面撥水性二重織物を用いてなる、インナーウエアー、スキーウエアー、ウインドブレーカー、ゴルフウエアー、Ｔシャツ、コート、ジャケット、およびパンツから群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【００１０】
本発明によれば、二重織物であって、織物の厚さや織密度を高めることなく、片面のみが撥水性を呈することによりべとつきが防止できる片面撥水性二重織物および繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１１】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の二重織物において、二重織物を使用する際に外気側に位置する側を表面側、一方、肌側に位置する側を裏面側とする。
本発明の片面撥水性二重織物において、糸条の段階で撥水加工された糸条Ａで裏面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで表面側が構成される。
【００１２】
前記の糸条Ａを構成する繊維としては特に限定されず、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、綿や麻などの天然繊維などいずれでもよい。なかでも、繊維強度や取扱いの容易さの点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、第３成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステル系繊維が好ましく例示される。かかる繊維の繊維形態も特に限定されず、長繊維（マルチフィラメント糸条）でもよいし、短繊維でもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもよい。特に長繊維に仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸であると、さらに優れた撥水性が得られ好ましい。
【００１３】
糸条Ａの繊度は特に限定されないが、優れた撥水性を得る上で単糸繊度は小さいほどよく、１．５ｄｔｅｘ以下（好ましくは０．１〜１．２ｄｔｅｘ）であることが好ましい。また、糸条Ａのフィラメント数は優れた撥水性を得る上で多いほどよく、３０本以上（好ましくは４０〜３００本）であることが好ましい。糸条Ａの総繊度としては、布帛強度や風合いの点や、総繊度で３３〜５００ｄｔｅｘの範囲が適当である。また、単糸の横断面形状も特に限定されるものではなく、通常の丸型だけでなく、扁平、三角、Ｙ型、Ｔ型、Ｕ型などの異型であってもよい。
【００１４】
なお、前記糸条Ａの繊維中には、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、帯電防止剤、無機微粒子等が１種又は２種以上含まれていてもよい。
前記の糸条Ａは、糸条の段階で撥水加工されている必要がある。織物に製織した後に撥水加工を施すと、織物の反対側面に撥水加工剤が抜け出してしまい好ましくない。
【００１５】
撥水加工の際に用いる撥水加工剤としては特に限定されないが、フッ素系撥水剤（例えば、旭硝子（株）製アサヒガードＬＳ−３１７（商品名）など）が好適である。また、撥水加工剤の付着量としては、糸条Ａの重量に対し１〜４０重量％の範囲内であることが好ましい。該付着量が１重量％よりも小さいと十分な撥水性が得られないおそれがある。逆に、該付着量が４０重量％よりも大きいとコストアップとなるおそれがある。
【００１６】
一方、糸条Ｂは通常の糸条でよく、繊維表面に撥水剤が付着していないこと以外は、糸条Ａと同様でよい。もちろん、繊維種類や繊度等を糸条Ａと異ならせても何らさしつかえない。
【００１７】
本発明の片面撥水性二重織物において、裏面側は糸条Ａのみで構成される必要はなく、裏面側表面に下記式で定義する露出度で１０％以内糸条Ｂが露出していてもよい。ただし、裏面側の表面に凹凸がある場合は、肌と接触する凸部表面について露出度を測定する。
裏面層（凸部）表面に露出した糸条Ｂの露出度（％）＝（ＳＢ／Ｓ１）×１００
ただし、ＳＢは裏面層（凸部）表面に露出した糸条Ｂの総面積（ｍｍ２）であり、Ｓ１は織物裏面層（凸部）の表面積（ｍｍ２）である。
【００１８】
同様に、裏面層は糸条Ｂのみで構成される必要はなく、裏面層の表面に下記式で定義する露出度で１０％以内糸条Ａが露出していてもよい。
表面層表面に露出した糸条Ａの露出度（％）＝（ＳＡ／Ｓ２）×１００
ただし、ＳＡは表面層表面に露出した糸条Ａの総面積（ｍｍ２）であり、Ｓ２は織物表面積（ｍｍ２）である。
【００１９】
本発明の片面撥水性二重織物において、織組織としては、たて二重織、よこ二重織等の片二重織組織、完全二重織組織などが例示され、表裏組織は同一でも異なっていてもよい。
【００２０】
次に、本発明の片面撥水性二重織物の製造方法を例示する。
まず、撥水加工剤と必要に応じてメラミン樹脂などのバインダー樹脂を含む水溶液を準備し加工液とする。かかる加工液には、増粘剤などが含まれていてもよい。
【００２１】
次いで、該加工液を糸条に付与する。その際、付与方法は特に限定されず、例えば、１本糊付機等の糸加工機を用いて、加工液を受け皿状のトレイに入れ、その液中に糸条を通過させることにより加工液を付与することが好ましく例示される。糸条に加工液を付与した後、１３０〜１８０℃の温度で乾熱またはスチームで熱処理を施し糸条Ａとする。熱処理の前に必要に応じて絞りや乾燥を行ってもよい。
次いで、かかる糸条Ａと、撥水加工されていない糸条Ｂとを用いて、糸条Ａが裏面側に配され、かつ糸条Ｂが表面側に配された二重織物を製織する。
【００２２】
かくして得られた片面撥水性二重織物において、裏面側が糸条Ａで構成されているので、肌側表面は優れた撥水性を呈し織物が肌にべとつくことがない。また、外気側表面は非撥水性なので、汗は表面側に吸収される。その結果、優れた着用快適性が得られる。さらに、本発明の片面撥水性二重織物は生地の厚さや織密度が小さくても、片面のみが撥水性を呈する片面撥水性が得られる。織物の目付けとしては特に限定されないが、目付けが３００ｇ／ｍ２以下（好ましくは３０〜２００ｇ／ｍ２）であると本発明の効果が発揮されやすく好ましい。
【００２３】
なお、本発明の片面撥水性二重織物には、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、常法のアルカリ減量加工、染色加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【００２４】
次に、本発明の繊維製品は、前記の片面撥水性二重織物を用いてなる、インナーウエアー、スキーウエアー、ウインドブレーカー、ゴルフウエアー、Ｔシャツ、コート、ジャケット、およびパンツから群より選択されるいずれかの繊維製品である。これらの繊維製品は前記の片面撥水性二重織物を用いているので、肌側表面は優れた撥水性を呈し織物が肌にべとつくことがない。また、外気側表面は非撥水性なので、汗は表面層側に吸収される。さらに、生地の厚さが小さくても、片面のみが撥水性を呈する片面撥水性が得られる。
【実施例】
【００２５】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【００２６】
（１）糸条の露出度（％）
織編物から織編物と経緯が同じ方向に１０ｃｍ×１０ｃｍの試料を切り取り、その表面および裏面を写真撮影し、下記式により糸条の露出度を算出した。なお、ｎ数は５で平均値を算出した。
裏面層（凸部）表面に露出した糸条Ｂの露出度（％）＝（ＳＢ／Ｓ１）×１００
ただし、ＳＢは裏面層（凸部）表面に露出した糸条Ｂの総面積（ｍｍ２）であり、Ｓ１は織物裏面層（凸部）の表面積（ｍｍ２）である。
表面層表面に露出した糸条Ａの露出度（％）＝（ＳＡ／Ｓ２）×１００
ただし、ＳＡは表面層表面に露出した糸条Ａの総面積（ｍｍ２）であり、Ｓ２は織物表面積（ｍｍ２）である。
（２）撥水性
水平板上に取り付けた平面状の被測定試料に０．２ｃｃの水を静かに滴下し、この平板を等速度で静かに傾斜させ、水滴がころがりはじめるときの角度を測定した。角度の数字の小さいほうが撥水性良好である。
（３）着用快適性
試験者３名により、「べとつき感がなく良好」、「普通」、「肌に汗が残り不良」の３段階に評価した。
【００２７】
［実施例１］
まず、下記の加工液を得た。
［処理液の組成］
・水 ９１．６重量％
・ フッ素系撥水剤 ８重量％
（旭硝子（株）製「アサヒガードＡＧ７１０」）
・ メラミン系バインダー樹脂 ０．３重量％
（住友化学（株）製「スミテックス レジンＭ−３」 接触角６７．５度）
・ 触媒 ０．１重量％
（スミテックス アクセレーター ＡＣＸ）
【００２８】
次いで、一本糊付機（（株）ヤマダ製）の糊剤用トレイに該加工液を入れ、この液中に通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸８４ｄｔｅｘ／７２ｆｉｌ（帝人ファイバー（株）製）を走行速度１００ｍ／分、乾燥速度１００℃で走行させ、加工液を糸条の繊維表面に塗布した。その後、別工程で非接触式スリットヒーターにて１６０℃で乾熱処理し、糸条Ａ（撥水加工剤の付着量１０重量％）を得た。
一方、糸条Ｂとして通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸５６ｄｔｅｘ／３６ｆｉｌ（帝人ファイバー（株）製）を準備した。
【００２９】
次いで、通常の織機を用いて緯、図１に示す織組織図に従い、経糸密度５５本／ｃｍ、緯糸密度７１本／ｃｍで二層構造織物を製織し常法の染色加工を施すことにより、撥水加工された糸条Ａで裏面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで表面側が構成された片面撥水性二重織物（目付け１３４ｇ／ｍ２）を得た。
得られた織物において、裏面層表面のころがり角は２０°と優れた撥水性を呈していた。一方、表面層表面のころがり角は６５°と非撥水性であった。また、表面側表面に露出した糸条Ａの露出度は１０％以下、裏面側（凸部）表面に露出した糸条Ｂの露出度は１０％以下であった。
次いで、該織物を用いてＴシャツを縫製して着用したところ、べとつき感がなく着用快適性が良好であった。
【００３０】
［比較例１］
実施例１において、糸条Ａのかわりに、撥水加工を施していないポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸８４ｄｔｅｘ／７２ｆｉｌ（帝人ファイバー（株）製）を用いて織物を製織し、染色加工の際に、裏面層側表面に実施例１と同じ処理液を用いてプリントすること以外は実施例１と同様にした。
得られた織物において、裏面層の表面のころがり角は２０°、表面層の表面のころがり角は３０°と、両面とも撥水性であり片面撥水性を呈するものではなかった。
次いで、該織物を用いてＴシャツを縫製して着用したところ、汗が表面層側に吸収されることなく肌に残り、着用快適性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【００３１】
本発明によれば、二重織物であって、織物の厚さや織密度を高めることなく、片面のみが撥水性を呈することによりべとつきを防止できる片面撥水性二重織物および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【００３２】
【図１】本発明の片面撥水性二重織物において、採用することのできる織物組織図の１例である。ただし、白丸○に糸条Ｂを配し、黒丸●に糸条Ａを配した。×は結節点である。
【技術分野】
【０００１】
本発明はべとつき防止織物に関する。さらに詳しくは、二重織物であって、裏面のみが撥水性を呈することによりべとつきを防止できる片面撥水性二重織物および該片面撥水性二重織物を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【０００２】
スポーツ時などに多量の汗をかくと、衣服が肌に貼りつき、べとついた感覚を生じるため、従来、布帛の肌側面（裏面）のみに撥水性を付与することが提案されている。例えば、撥水性布帛と非撥水性布帛とを貼り合せる方法（例えば特許文献１参照）や布帛の片面のみに撥水加工を施す方法（例えば特許文献２参照）などが知られている。
【０００３】
しかしながら、撥水性布帛と非撥水性布帛とを貼り合せたものでは、生地が重くなってしまい着用快適性が損なわれるという問題があった。一方、布帛の片面のみに撥水加工を施すには、布帛の厚みを厚くするか布帛の織編密度をあげないと、反対側面に撥水加工剤が抜け出してしまうという問題があった。
なお、撥水加工を施した糸条を肌側表面に配した編地は、特許文献３で提案されている。
【０００４】
【特許文献１】特開２００３−１７１８１４号公報
【特許文献２】特開平９−１３７３８０号公報
【特許文献３】特開平３−１８５１５９号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、二重織物であって、織物の厚さや織密度を高めることなく、片面のみが撥水性を呈することによりべとつきを防止できる片面撥水性二重織物および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【０００６】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、二重織物において、糸条の段階で撥水加工された糸条で裏面側を構成し、かつ撥水加工されていない糸条で表面側を構成することにより、べとつきを防止できる片面撥水性二重織物が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【０００７】
かくして、本発明によれば「二重織物であって、糸条の段階で撥水加工された糸条Ａで裏面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで表面側が構成されてなることを特徴とする片面撥水性二重織物。」が提供される。
【０００８】
その際、前記の糸条Ａおよび糸条Ｂがともにポリエステル繊維からなることが好ましい。また、前記の糸条Ａの単糸繊度が１．５ｄｔｅｘ以下であることが好ましい。かかる糸条Ａが仮撚捲縮加工糸条であることが好ましい。また、前記の糸条Ａにおいて、フッ素系撥水剤により撥水加工されていることが好ましい。前記の糸条Ａにおいて、撥水剤の付着量が糸条Ａの重量に対し１〜４０重量％の範囲内であることが好ましい。本発明の片面撥水性多層構造織物において、目付けが３００ｇ／ｍ２以下であることが好ましい。
【０００９】
また、本発明によれば、前記の片面撥水性二重織物を用いてなる、インナーウエアー、スキーウエアー、ウインドブレーカー、ゴルフウエアー、Ｔシャツ、コート、ジャケット、およびパンツから群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【００１０】
本発明によれば、二重織物であって、織物の厚さや織密度を高めることなく、片面のみが撥水性を呈することによりべとつきが防止できる片面撥水性二重織物および繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１１】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の二重織物において、二重織物を使用する際に外気側に位置する側を表面側、一方、肌側に位置する側を裏面側とする。
本発明の片面撥水性二重織物において、糸条の段階で撥水加工された糸条Ａで裏面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで表面側が構成される。
【００１２】
前記の糸条Ａを構成する繊維としては特に限定されず、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、綿や麻などの天然繊維などいずれでもよい。なかでも、繊維強度や取扱いの容易さの点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、第３成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステル系繊維が好ましく例示される。かかる繊維の繊維形態も特に限定されず、長繊維（マルチフィラメント糸条）でもよいし、短繊維でもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもよい。特に長繊維に仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸であると、さらに優れた撥水性が得られ好ましい。
【００１３】
糸条Ａの繊度は特に限定されないが、優れた撥水性を得る上で単糸繊度は小さいほどよく、１．５ｄｔｅｘ以下（好ましくは０．１〜１．２ｄｔｅｘ）であることが好ましい。また、糸条Ａのフィラメント数は優れた撥水性を得る上で多いほどよく、３０本以上（好ましくは４０〜３００本）であることが好ましい。糸条Ａの総繊度としては、布帛強度や風合いの点や、総繊度で３３〜５００ｄｔｅｘの範囲が適当である。また、単糸の横断面形状も特に限定されるものではなく、通常の丸型だけでなく、扁平、三角、Ｙ型、Ｔ型、Ｕ型などの異型であってもよい。
【００１４】
なお、前記糸条Ａの繊維中には、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、帯電防止剤、無機微粒子等が１種又は２種以上含まれていてもよい。
前記の糸条Ａは、糸条の段階で撥水加工されている必要がある。織物に製織した後に撥水加工を施すと、織物の反対側面に撥水加工剤が抜け出してしまい好ましくない。
【００１５】
撥水加工の際に用いる撥水加工剤としては特に限定されないが、フッ素系撥水剤（例えば、旭硝子（株）製アサヒガードＬＳ−３１７（商品名）など）が好適である。また、撥水加工剤の付着量としては、糸条Ａの重量に対し１〜４０重量％の範囲内であることが好ましい。該付着量が１重量％よりも小さいと十分な撥水性が得られないおそれがある。逆に、該付着量が４０重量％よりも大きいとコストアップとなるおそれがある。
【００１６】
一方、糸条Ｂは通常の糸条でよく、繊維表面に撥水剤が付着していないこと以外は、糸条Ａと同様でよい。もちろん、繊維種類や繊度等を糸条Ａと異ならせても何らさしつかえない。
【００１７】
本発明の片面撥水性二重織物において、裏面側は糸条Ａのみで構成される必要はなく、裏面側表面に下記式で定義する露出度で１０％以内糸条Ｂが露出していてもよい。ただし、裏面側の表面に凹凸がある場合は、肌と接触する凸部表面について露出度を測定する。
裏面層（凸部）表面に露出した糸条Ｂの露出度（％）＝（ＳＢ／Ｓ１）×１００
ただし、ＳＢは裏面層（凸部）表面に露出した糸条Ｂの総面積（ｍｍ２）であり、Ｓ１は織物裏面層（凸部）の表面積（ｍｍ２）である。
【００１８】
同様に、裏面層は糸条Ｂのみで構成される必要はなく、裏面層の表面に下記式で定義する露出度で１０％以内糸条Ａが露出していてもよい。
表面層表面に露出した糸条Ａの露出度（％）＝（ＳＡ／Ｓ２）×１００
ただし、ＳＡは表面層表面に露出した糸条Ａの総面積（ｍｍ２）であり、Ｓ２は織物表面積（ｍｍ２）である。
【００１９】
本発明の片面撥水性二重織物において、織組織としては、たて二重織、よこ二重織等の片二重織組織、完全二重織組織などが例示され、表裏組織は同一でも異なっていてもよい。
【００２０】
次に、本発明の片面撥水性二重織物の製造方法を例示する。
まず、撥水加工剤と必要に応じてメラミン樹脂などのバインダー樹脂を含む水溶液を準備し加工液とする。かかる加工液には、増粘剤などが含まれていてもよい。
【００２１】
次いで、該加工液を糸条に付与する。その際、付与方法は特に限定されず、例えば、１本糊付機等の糸加工機を用いて、加工液を受け皿状のトレイに入れ、その液中に糸条を通過させることにより加工液を付与することが好ましく例示される。糸条に加工液を付与した後、１３０〜１８０℃の温度で乾熱またはスチームで熱処理を施し糸条Ａとする。熱処理の前に必要に応じて絞りや乾燥を行ってもよい。
次いで、かかる糸条Ａと、撥水加工されていない糸条Ｂとを用いて、糸条Ａが裏面側に配され、かつ糸条Ｂが表面側に配された二重織物を製織する。
【００２２】
かくして得られた片面撥水性二重織物において、裏面側が糸条Ａで構成されているので、肌側表面は優れた撥水性を呈し織物が肌にべとつくことがない。また、外気側表面は非撥水性なので、汗は表面側に吸収される。その結果、優れた着用快適性が得られる。さらに、本発明の片面撥水性二重織物は生地の厚さや織密度が小さくても、片面のみが撥水性を呈する片面撥水性が得られる。織物の目付けとしては特に限定されないが、目付けが３００ｇ／ｍ２以下（好ましくは３０〜２００ｇ／ｍ２）であると本発明の効果が発揮されやすく好ましい。
【００２３】
なお、本発明の片面撥水性二重織物には、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、常法のアルカリ減量加工、染色加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【００２４】
次に、本発明の繊維製品は、前記の片面撥水性二重織物を用いてなる、インナーウエアー、スキーウエアー、ウインドブレーカー、ゴルフウエアー、Ｔシャツ、コート、ジャケット、およびパンツから群より選択されるいずれかの繊維製品である。これらの繊維製品は前記の片面撥水性二重織物を用いているので、肌側表面は優れた撥水性を呈し織物が肌にべとつくことがない。また、外気側表面は非撥水性なので、汗は表面層側に吸収される。さらに、生地の厚さが小さくても、片面のみが撥水性を呈する片面撥水性が得られる。
【実施例】
【００２５】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【００２６】
（１）糸条の露出度（％）
織編物から織編物と経緯が同じ方向に１０ｃｍ×１０ｃｍの試料を切り取り、その表面および裏面を写真撮影し、下記式により糸条の露出度を算出した。なお、ｎ数は５で平均値を算出した。
裏面層（凸部）表面に露出した糸条Ｂの露出度（％）＝（ＳＢ／Ｓ１）×１００
ただし、ＳＢは裏面層（凸部）表面に露出した糸条Ｂの総面積（ｍｍ２）であり、Ｓ１は織物裏面層（凸部）の表面積（ｍｍ２）である。
表面層表面に露出した糸条Ａの露出度（％）＝（ＳＡ／Ｓ２）×１００
ただし、ＳＡは表面層表面に露出した糸条Ａの総面積（ｍｍ２）であり、Ｓ２は織物表面積（ｍｍ２）である。
（２）撥水性
水平板上に取り付けた平面状の被測定試料に０．２ｃｃの水を静かに滴下し、この平板を等速度で静かに傾斜させ、水滴がころがりはじめるときの角度を測定した。角度の数字の小さいほうが撥水性良好である。
（３）着用快適性
試験者３名により、「べとつき感がなく良好」、「普通」、「肌に汗が残り不良」の３段階に評価した。
【００２７】
［実施例１］
まず、下記の加工液を得た。
［処理液の組成］
・水 ９１．６重量％
・ フッ素系撥水剤 ８重量％
（旭硝子（株）製「アサヒガードＡＧ７１０」）
・ メラミン系バインダー樹脂 ０．３重量％
（住友化学（株）製「スミテックス レジンＭ−３」 接触角６７．５度）
・ 触媒 ０．１重量％
（スミテックス アクセレーター ＡＣＸ）
【００２８】
次いで、一本糊付機（（株）ヤマダ製）の糊剤用トレイに該加工液を入れ、この液中に通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸８４ｄｔｅｘ／７２ｆｉｌ（帝人ファイバー（株）製）を走行速度１００ｍ／分、乾燥速度１００℃で走行させ、加工液を糸条の繊維表面に塗布した。その後、別工程で非接触式スリットヒーターにて１６０℃で乾熱処理し、糸条Ａ（撥水加工剤の付着量１０重量％）を得た。
一方、糸条Ｂとして通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸５６ｄｔｅｘ／３６ｆｉｌ（帝人ファイバー（株）製）を準備した。
【００２９】
次いで、通常の織機を用いて緯、図１に示す織組織図に従い、経糸密度５５本／ｃｍ、緯糸密度７１本／ｃｍで二層構造織物を製織し常法の染色加工を施すことにより、撥水加工された糸条Ａで裏面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで表面側が構成された片面撥水性二重織物（目付け１３４ｇ／ｍ２）を得た。
得られた織物において、裏面層表面のころがり角は２０°と優れた撥水性を呈していた。一方、表面層表面のころがり角は６５°と非撥水性であった。また、表面側表面に露出した糸条Ａの露出度は１０％以下、裏面側（凸部）表面に露出した糸条Ｂの露出度は１０％以下であった。
次いで、該織物を用いてＴシャツを縫製して着用したところ、べとつき感がなく着用快適性が良好であった。
【００３０】
［比較例１］
実施例１において、糸条Ａのかわりに、撥水加工を施していないポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸８４ｄｔｅｘ／７２ｆｉｌ（帝人ファイバー（株）製）を用いて織物を製織し、染色加工の際に、裏面層側表面に実施例１と同じ処理液を用いてプリントすること以外は実施例１と同様にした。
得られた織物において、裏面層の表面のころがり角は２０°、表面層の表面のころがり角は３０°と、両面とも撥水性であり片面撥水性を呈するものではなかった。
次いで、該織物を用いてＴシャツを縫製して着用したところ、汗が表面層側に吸収されることなく肌に残り、着用快適性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【００３１】
本発明によれば、二重織物であって、織物の厚さや織密度を高めることなく、片面のみが撥水性を呈することによりべとつきを防止できる片面撥水性二重織物および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【００３２】
【図１】本発明の片面撥水性二重織物において、採用することのできる織物組織図の１例である。ただし、白丸○に糸条Ｂを配し、黒丸●に糸条Ａを配した。×は結節点である。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
二重織物であって、糸条の段階で撥水加工された糸条Ａで裏面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで表面側が構成されてなることを特徴とする片面撥水性二重織物。
【請求項２】
前記の糸条Ａおよび糸条Ｂがともにポリエステル繊維からなる、請求項１に記載の片面撥水性二重織物。
【請求項３】
前記の糸条Ａの単糸繊度が１．５ｄｔｅｘ以下である、請求項１または請求項２に記載の片面撥水性二重織物。
【請求項４】
前記の糸条Ａが仮撚捲縮加工糸条である、請求項１〜３のいずれかに記載の片面撥水性二重織物。
【請求項５】
前記の糸条Ａにおいて、フッ素系撥水剤により撥水加工されてなる、請求項１〜４のいずれかに記載の片面撥水性二重織物。
【請求項６】
前記の糸条Ａにおいて、撥水剤の付着量が糸条Ａの重量に対し１〜４０重量％の範囲内である、請求項１〜５のいずれかに記載の片面撥水性二重織物。
【請求項７】
目付けが３００ｇ／ｍ２以下である、請求項１〜６のいずれかに記載の片面撥水性二重織物。
【請求項８】
請求項１〜７のいずれかに記載の片面撥水性二重織物を用いてなる、インナーウエアー、スキーウエアー、ウインドブレーカー、ゴルフウエアー、Ｔシャツ、コート、ジャケット、およびパンツから群より選択されるいずれかの繊維製品。
【請求項１】
二重織物であって、糸条の段階で撥水加工された糸条Ａで裏面側が構成され、かつ撥水加工されていない糸条Ｂで表面側が構成されてなることを特徴とする片面撥水性二重織物。
【請求項２】
前記の糸条Ａおよび糸条Ｂがともにポリエステル繊維からなる、請求項１に記載の片面撥水性二重織物。
【請求項３】
前記の糸条Ａの単糸繊度が１．５ｄｔｅｘ以下である、請求項１または請求項２に記載の片面撥水性二重織物。
【請求項４】
前記の糸条Ａが仮撚捲縮加工糸条である、請求項１〜３のいずれかに記載の片面撥水性二重織物。
【請求項５】
前記の糸条Ａにおいて、フッ素系撥水剤により撥水加工されてなる、請求項１〜４のいずれかに記載の片面撥水性二重織物。
【請求項６】
前記の糸条Ａにおいて、撥水剤の付着量が糸条Ａの重量に対し１〜４０重量％の範囲内である、請求項１〜５のいずれかに記載の片面撥水性二重織物。
【請求項７】
目付けが３００ｇ／ｍ２以下である、請求項１〜６のいずれかに記載の片面撥水性二重織物。
【請求項８】
請求項１〜７のいずれかに記載の片面撥水性二重織物を用いてなる、インナーウエアー、スキーウエアー、ウインドブレーカー、ゴルフウエアー、Ｔシャツ、コート、ジャケット、およびパンツから群より選択されるいずれかの繊維製品。
【図１】
【公開番号】特開２００７−９２１９１（Ｐ２００７−９２１９１Ａ）
【公開日】平成１９年４月１２日（２００７．４．１２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００５−２７９８８７（Ｐ２００５−２７９８８７）
【出願日】平成１７年９月２７日（２００５．９．２７）
【出願人】（３０２０１１７１１）帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成１９年４月１２日（２００７．４．１２）
【国際特許分類】
【出願日】平成１７年９月２７日（２００５．９．２７）
【出願人】（３０２０１１７１１）帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Ｆターム（参考）】
[ Back to top ]