物理ゲルの製造方法および物理ゲル
【課題】広範な種類のセルロースを出発原料として好適に物理ゲルを製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程と、セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えることで、基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、セルロースナノファイバーをゲル化する工程と、を有することを特徴とする物理ゲルの製造方法。
【解決手段】カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程と、セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えることで、基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、セルロースナノファイバーをゲル化する工程と、を有することを特徴とする物理ゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理ゲルの製造方法および物理ゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材に代表されるセルロースは、代表的な天然高分子であり、再生可能なエネルギーおよび材料原料として利用されてきた。近年では、天然セルロースを改質することにより材料原料として利用する開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、天然セルロースを溶解又は結晶膨潤(マーセル化)処理することにより改質した物質である「再生セルロース」を用い、合成高分子と複合化することで、セルロースと合成高分子との長所を併せ持つナノ複合材料を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述の方法では、天然セルロースを一度再生セルロースとすることにより、材料としての利用価値を高めることとしているが、本発明者らは別の観点から天然セルロースの改質を行うことを提案している。
【0005】
詳しくは、本発明者らは、セルロースなどの天然繊維材料をTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)触媒の存在下で酸化させ、機械的な解繊処理を施すことで、直径数ナノメートルの高結晶性極細繊維(ナノファイバー)を製造する方法をすでに提案した(特許文献2参照)。この製造方法により、水中で1本1本のセルロースナノファイバーが分離され、種々の用途への応用展開が可能な新規材料であるセルロースナノファイバー分散液を得ることができた。
【0006】
ところで近年、機能性材料として物理ゲルの研究がなされている。物理ゲルは、高分子が水素結合やイオン結合、配位結合などによって架橋されることにより三次元的な網目構造を形成してなるものであり、網目構造の中に液体または気体を含むものである。網目構造内に水が含まれる場合には「ヒドロゲル」と呼ばれ、流体として有機溶媒を含む溶媒が含まれる場合には「オルガノゲル」と呼ばれ、網目構造内に空気が含まれる場合には「エアロゲル」と呼ばれている。
【0007】
例えばエアロゲルは、軽量、低熱伝導率、大比表面積などの特徴を有し、断熱材、微粒子補足用のフィルタ、触媒の担体などの応用が期待されている。
【0008】
近年では、物理ゲルを形成する場合の有機系の形成材料として、セルロースを機能性材料として着目した応用研究がなされ、セルロースを形成材料とする物理ゲルの調製がなされている(例えば、特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−185248号公報
【特許文献2】特開2008−001728号公報
【特許文献3】特開2009−185248号公報
【特許文献4】特開2008−001728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の方法では、セルロースを用いて物理ゲルを形成する場合には、セルロースを予め再生セルロースとする必要があり、またセルロースを高分子材料と複合化する必要があるなど制限が多く、セルロースを原料として簡便に物理ゲルを形成することはできなかった。
【0011】
加えて、セルロースを原料とした物理ゲルについて、従来は得られた物理ゲルの立体構造について着目されており、物理ゲルに化学的な機能性を付与することに関してはほとんど検討がなされていなかった。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、広範な種類のセルロースを出発原料として好適に物理ゲルを製造することができる製造方法を提供することを目的の一つとする。
また、機能性を付与した物理ゲルを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の第1の物理ゲルの製造方法は、カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程と、前記セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えることで、前記基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、前記セルロースナノファイバーをゲル化する工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、広範な種類のセルロースを出発原料として、容易にセルロース系の物理ゲルを製造することができる。
【0014】
また、本発明の第2の物理ゲルの製造方法は、カルボン酸塩型の基を有するパルプを水系溶媒に分散させてパルプスラリーを調製する工程と、前記パルプスラリーに酸を加えることで、前記基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、前記パルプをゲル化する工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、広範な種類のセルロースを出発原料として、さらにパルプスラリーから解繊処理を行うことなく容易にセルロース系の物理ゲルを製造することができる。
【0015】
本発明においては、前記ゲル化する工程の後に、前記水系溶媒を除去し乾燥させる工程を有することが望ましい。
この方法によれば、乾燥させることによりセルロースナノファイバーやパルプを形成材料としたエアロゲルを得ることができる。そのため、簡便な方法により、広範な種類のセルロースを出発原料としたエアロゲルを形成することが可能となる。
【0016】
また、本発明の物理ゲルは、表面にカルボン酸型の基を有するセルロース成分が凝集してなることを特徴とする。
ここで、「セルロース成分」とは、パルプやパルプを解繊することによって得られるセルロースファイバー、セルロースナノファイバーを含むものである。
この構成によれば、セルロース成分の表面にカルボン酸型の基を導入することにより、好適に凝集させて物理ゲルとすることができ、製造性に優れた物理ゲルを提供することができる。また、カルボン酸型の基を有することにより陽イオン吸着性を有し、更には種々の機能性を付与することが容易な物理ゲルとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、広範な種類のセルロースを出発原料とする物理ゲルの製造を簡便な手法で行うことができる。
また、製造性に優れるとともに機能性を付与することが容易な物理ゲルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】分散液中における酸化セルロースナノファイバーを示す模式図である。
【図2】作製した物理ゲルの様子を示す写真である。
【図3】TEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液について観察した写真である。
【図4】TOCN分散液についてpH変化前後の様子を観察した写真である。
【図5】pH変化前後のTOCN分散液について濁度を測定した測定結果である。
【図6】各pHに調製した後のTOCNについて測定したFT−IRスペクトルである。
【図7】形成される物理ゲルを容器から出した様子を観察した写真である。
【図8】pH調製前後のTOCN水分散体について機械的特性を示したグラフを示す。
【図9】エアロゲルの外観の写真を示す。
【図10】エアロゲルの割断面について観察したSEM像である。
【図11】酸化処理前の漂白広葉樹クラフトパルプの様子を観察した写真である。
【図12】酸化処理後の漂白広葉樹クラフトパルプの様子を観察した写真である。
【図13】広葉樹クラフトパルプスラリーのpH変化による外観変化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る物理ゲルの製造方法について説明する。本実施形態に係る物理ゲルの製造方法は、セルロースを酸化することでセルロースの構造中にカルボン酸塩型の置換基を導入し、次いで、カルボン酸塩型の置換基を導入したセルロースの水分散液のpHを下げることにより、カルボン酸塩型の置換基をカルボン酸型の置換基とすることにより、セルロースのゲルを製造するものである。
【0020】
なお、本願において、「物理ゲル」とは、セルロースが形成する三次元的な網目構造の間に流体として水が含まれる「ヒドロゲル」や、流体として有機溶媒を含む溶媒が含まれる「オルガノゲル」、また流体として空気が含まれる「エアロゲル」を含むものとする。
【0021】
物理ゲルの第1の製造方法は、以下の工程1A、1Bを有する。
(1A)カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程
(1B)セルロースナノファイバー水分散液のpHを低下させる工程
【0022】
「工程1A」
[セルロースの酸化工程]
まず、工程1Aについて説明する。工程1Aは、原料であるセルロースを酸化する酸化工程と、酸化されたセルロースを解繊して分散液とする分散工程とを含んでいる。
【0023】
[セルロースの酸化工程]
まず、セルロースの酸化工程について説明する。
酸化工程は、カルボン酸塩型の基を有するセルロースの水分散液を作製する工程である。上記の構成を備えたセルロース水分散液が得られるならば、そのセルロースの酸化処理方法は特に限定されないが、本発明者らによりすでに提案されているTEMPO触媒酸化を用いたセルロースの酸化処理を用いることが好ましい。
【0024】
すなわち、天然セルロースを原料とし、水系溶媒中においてTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)などのN−オキシル化合物を酸化触媒とし、酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化させる酸化処理工程を含む製造方法により酸化したセルロース水分散液を作製することが好ましい。
【0025】
酸化処理により、天然セルロースのパルプ繊維を構成するミクロフィブリルの表面に露出している1級水酸基(約1.7基/nm2)が、カルボキシル基へと酸化される。
【0026】
酸化処理工程では、まず、水中に天然セルロースを分散させた分散液を調製する。天然セルロースは、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースである。具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどを例示することができる。
【0027】
また、単離、精製された天然セルロースに対して、叩解等の表面積を拡大する処理を施してもよい。これにより反応効率を高めることができ、生産性を高めることができる。また、天然セルロースは、単離、精製の後、未乾燥状態で保存したものを用いることが好ましい。未乾燥状態で保存することで、ミクロフィブリルの集束体を膨潤しやすい状態に保持することができるので、反応効率を高めるとともに、後述の分散工程において繊維径の細いセルロースナノファイバーを得やすくなる。
【0028】
酸化処理工程において、反応溶液における天然セルロースの分散媒には典型的には水が用いられる。反応溶液中の天然セルロース濃度は、試薬(酸化剤、触媒等)の十分な溶解が可能であれば特に限定されない。通常は、反応溶液の重量に対して5%程度以下の濃度とすることが好ましい。
【0029】
反応溶液に添加される触媒としては、N−オキシル化合物が用いられている。N−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンーN−オキシル)及びC4位に各種の官能基を有するTEMPO誘導体を用いることができる。TEMPO誘導体としては、4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシTEMPO、4−フォスフォノオキシTEMPOなどを挙げることができる。特に、TEMPO及び4−アセトアミドTEMPOは、反応速度において好ましい結果が得られている。
N−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、具体的には、反応溶液に対して0.1〜4mmol/Lの範囲で添加すればよい。好ましくは、0.1〜2mmol/Lの添加量範囲である。
【0030】
さらに、酸化剤の種類によっては、N−オキシル化合物に、臭化物やヨウ化物を組み合わせた触媒成分を用いてもよい。例えば、アンモニウム塩(臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム)、臭化又はヨウ化アルカリ金属(臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウムなどの臭化物、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物)、臭化又はヨウ化アルカリ土類金属(臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウムなど)を用いることができる。これらの臭化物及びヨウ化物は、単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0031】
酸化剤としては、次亜ハロゲン酸又はその塩(次亜塩素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩、次亜ヨウ素酸又はその塩など)、亜ハロゲン酸又はその塩(亜塩素酸又はその塩、亜臭素酸又はその塩、亜ヨウ素酸又はその塩など)、過ハロゲン酸又はその塩(過塩素酸又はその塩、過ヨウ素酸又はその塩など)、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素など)、ハロゲン酸化物(ClO、ClO2、Cl2O6、BrO2、Br3O7など)、窒素酸化物(NO、NO2、N2O3など)、過酸(過酸化水素、過酢酸、過硫酸、過安息香酸など)が含まれる。これらの酸化剤は単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。また、ラッカーゼなどの酸化酵素と組み合わせて用いてもよい。酸化剤の含有量は、1〜50mmol/Lの範囲とすることが好ましい。
【0032】
次亜ハロゲン酸塩としては、次亜塩素酸の場合に、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、次亜塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0033】
亜ハロゲン酸塩としては、例えば亜塩素酸の場合、亜塩素酸リチウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、亜塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する亜臭素酸塩、亜ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0034】
過ハロゲン酸塩としては、例えば過塩素酸塩の場合、過塩素酸リチウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、過塩素酸カルシウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、過塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0035】
本発明における好ましい酸化剤としては、次亜ハロゲン酸アルカリ金属塩、あるいは亜ハロゲン酸アルカリ金属塩を挙げることができ、次亜塩素酸アルカリ金属塩又は亜塩素酸アルカリ金属塩を用いることがより好ましい。
先に記載の触媒については、酸化剤の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、次亜塩素酸アルカリ金属塩を酸化剤とする場合には、N−オキシル化合物と、臭化物又はヨウ化物とを組み合わせた触媒成分を用いることが好ましく、亜塩素酸アルカリ金属塩を酸化剤とする場合には、N−オキシル化合物を単独で触媒成分として用いることが好ましい。
【0036】
以下、代表的な酸化処理工程について2種類の具体例を呈示して説明する。
【0037】
[酸化処理工程の第1の例]
酸化処理工程の第1の例では、セルロース原料を水に懸濁したものに、N−オキシル化合物(TEMPO等)及びアルカリ金属臭化物(又はアルカリ金属ヨウ化物)と、酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸塩)とを添加した反応溶液を調製し、0℃〜室温(10℃〜30℃)の温度条件下、必要に応じて攪拌しながら酸化反応を進行させる。
【0038】
反応終了後は、必要に応じて酸化剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)を分解する処理を行い、その後、反応溶液のろ過と水洗洗浄を繰り返すことで、精製した繊維状TEMPO触媒酸化セルロース(以下、酸化セルロースと称する)を得る。
【0039】
第1の例の酸化処理工程では、反応の進行に伴ってカルボキシル基が生成するために反応溶液のpHが低下する。そこで、酸化反応を十分に進行させるためには、反応系をアルカリ性領域、例えばpH9〜12(好ましくは10〜11)の範囲に維持することが好ましい。反応系のpH調製は、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ金属成分を含む水溶液など)を反応系に適宜添加することにより行うことができる。また第1の例の酸化処理工程では、酸化反応の進行に伴って反応溶液のpHが低下するため、pH低下の進行が認められなくなった時点を反応終点とすることができる。
【0040】
なお、第1の例の酸化処理工程における反応温度は室温より高くすることもでき、高温で反応させることで反応効率を高めることができる。その一方で、次亜塩素酸ナトリウムから塩素ガスが発生しやすくなるので、高温で反応させる場合には塩素ガスの処理系を用意することが好ましい。
【0041】
[酸化処理工程の第2の例]
次に、酸化反応の第2の例では、セルロース原料を水に懸濁したものに、N−オキシル化合物と、酸化剤としての亜塩素酸ナトリウム(亜塩素酸塩)とを添加した反応溶液を調製し、室温〜100℃程度の温度条件下、必要に応じて攪拌しながら酸化反応を進行させる。酸化反応終了後の酸化セルロースを抽出する処理は、上述した第1の例の場合と同様である。
【0042】
第2の例の酸化処理工程では、反応溶液のpHは中性から酸性の範囲で維持される。より具体的には、4以上7以下のpH範囲とすることが好ましい。特に、反応溶液のpHが8以上とならないように留意すべきである。これは、セルロースのC6位に一時的に生成するアルデヒド基によるベータ脱離反応が生じないようにするためである。
【0043】
さらに、反応溶液に緩衝液を添加することが好ましい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液等、種々の緩衝液を用いることができる。
緩衝液を用いて反応中のpH変化を抑えるようにすることで、pHを維持するための酸やアルカリの連続的な添加が不要になり、またpHメーターの設置も不要になる。そして、酸やアルカリの添加が不要であることから、反応容器を密閉することができる。
【0044】
第2の例では、酸化剤として、水酸基の酸化によって生成するアルデヒド基も酸化することができる酸化剤を用いる。このような酸化剤としては、亜塩素酸ナトリウムなどの亜ハロゲン酸又はその塩や、過酸化水素と酸化酵素(ラッカーゼ)の混合物、過酸(過硫酸(過硫酸水素カリウムなど)、過酢酸、過安息香酸など)を例示することができる。
【0045】
アルデヒド基をカルボキシル基に酸化することができる酸化剤を用いることで、C6位のアルデヒド基の生成を防ぐことができる。N−オキシル化合物を触媒とした酸化反応では、グルコース成分の1級水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基を含む中間体が生成する可能性がある。しかし第2の例の酸化反応では、アルデヒド基を酸化する酸化剤を含むため、この中間体のアルデヒド基は速やかに酸化されてカルボキシル基に変換される。
したがって、アルデヒド基によって引き起こされるベータ脱離反応を防止することができ、高分子量の酸化セルロースを得ることができる。
【0046】
また、上述した酸化剤を主酸化剤として用いるのを前提として、次亜ハロゲン酸又はその塩を添加することが好ましい。例えば、少量の次亜塩素酸ナトリウムを添加することで、反応速度を大きく向上させることができる。反応溶液に添加された次亜塩素酸ナトリウムは、TEMPOの酸化剤として機能し、酸化されたTEMPOがセルロースのC6位の1級水酸基を酸化してC6位にアルデヒド基を生成する。そして、生成したアルデヒド基は、主酸化剤である亜塩素酸ナトリウムによって迅速にカルボキシル基に酸化される。また、アルデヒド基の酸化の際に、亜塩素酸ナトリウムが次亜塩素酸ナトリウムに変化する。さらに、生成した次亜塩素酸ナトリウムはTEMPOの酸化剤として補充される。
このように、反応溶液に次亜塩素酸ナトリウム等を添加することで、TEMPOの酸化反応を促進することができ、反応速度を高めることができる。次亜ハロゲン酸塩等の添加量は、1mmol/L程度以下とすることが好ましい。
【0047】
以上のような酸化処理工程を経て、酸化セルロースを得ることができる。
【0048】
[分散工程]
次に、分散工程では、酸化処理工程で得られた酸化セルロース又は精製工程を経た酸化セルロースを、媒体中に分散させる。
分散に用いる媒体(分散媒)としては、水系溶媒が用いられる。本実施形態における水系溶媒は、不可避的に混入する成分を除いて水のみである溶媒、若しくは20重量%未満の水と相溶性のアルコール等の有機溶媒と水との混合溶媒である。上記分散媒としては、典型的には、水が用いられる。
【0049】
分散工程により、酸化セルロースが解繊され、セルロースナノファイバーが媒体に分散されたセルロースナノファイバー分散液が得られる。この分散工程で作製されるセルロースナノファイバー水分散液は、セルロースの一部のC6位の1級水酸基がカルボン酸ナトリウム塩(カルボキシル基のナトリウム塩)に酸化されたセルロースナノファイバーが水系溶媒中に均一に分散されたものである。
【0050】
本実施形態の場合、セルロースナノファイバー水分散液の濃度は、0.05重量%以上4重量%以下の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは0.1重量%以上2重量%以下である。このような範囲とすることで、後段の工程1Bにおいて、セルロースナノファイバーを良好にゲル化させることができる。
【0051】
分散工程において用いる分散装置(解繊装置)としては、種々のものを使用することができる。例えば、家庭用ミキサー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練り装置、石臼等の解繊装置を用いることができる。これらのほかにも、家庭用や工業生産用に汎用的に用いられる解繊装置で容易にセルロースナノファイバーの分散液を得られる。また、各種ホモジナイザーや各種レファイナーのような強力で叩解能力のある解繊装置を用いると、より効率的に繊維径の細いセルロースナノファイバーが得られる。
【0052】
また、工程1Aにおける酸化処理および分散処理においては、セルロースの主鎖骨格を切断するような化学的な処理が行われないため、生成するセルロースナノファイバーは、原料として用いる天然セルロースのミクロフィブリルの長さを有するものとなる。したがって、生成するセルロースナノファイバーは、幅が例えば数nmであるのに対し、長さが数μmにも達するミクロフィブリル単位の寸法を有するものとなる。
【0053】
このようなセルロースナノファイバーの水分散液は、ごく低濃度(例えば0.1%)であっても、静置状態で明瞭な複屈折を示す。図1は、分散液中における酸化セルロースナノファイバーを示す模式図である。図に示すように、酸化セルロースナノファイバー1は高いアスペクト比を有するため大きな排除体積効果を有し、互いに自己配列する。これにより酸化セルロースナノファイバー1のドメイン2が複数生じ、ポリドメインを有するネマチック液晶状の物性を示すものと考えられる。
【0054】
「工程1B」
工程1Bは、セルロースナノファイバーに含まれるカルボン酸ナトリウム基のナトリウムを水素に置換し、カルボン酸型の置換基(−COOH基)とする工程である。
【0055】
表面にカルボン酸ナトリウム塩型の基を有するセルロースナノファイバーは、水中ではカルボン酸がイオン化し、カルボン酸イオン同士の荷電反発力によりセルロースナノファイバーを良好に分散させることができる。本工程では、セルロースナノファイバーが分散する水分散液のpHを下げることで、カルボン酸型の置換基とするため、上述の荷電反発力が失われて凝集する。
【0056】
すなわち、セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えて酸性溶液にすると、セルロースナノファイバーの分散性に寄与しているカルボン酸イオンが塩基となって水素を受け取り、カルボン酸型の基となる。高密度の表面カルボキシル基の電離によって分散安定化していたセルロースナノファイバーは、pHの低下により粒子間斥力を失って凝集する。凝集したセルロースナノファイバーは、主として水素結合によって互いに架橋され、三次元的な網目構造を形成し、物理ゲルとなる。
【0057】
セルロースナノファイバーに含まれるカルボン酸ナトリウム基が残存していると、上述の荷電反発力が残存するため、物理ゲルの形成を阻害する。したがって、カルボン酸ナトリウム基を残存させることには理由が無く、全てのカルボン酸ナトリウム基をカルボン酸型の基に置換することが好ましい。この観点から、所望の置換率となるようにセルロースナノファイバーを酸性溶液(酸を加えた分散液)に保持する時間を管理する。
【0058】
保持時間は、加えた酸の種類や酸性溶液のpH、セルロースナノファイバーの含有量などに応じて設定する。酸性溶液のpHが一定であれば、カルボン酸型の基への置換率は、保持時間を長くするほど高くなり、保持時間の変化に対して単調に変化するので、保持時間によって管理するのが簡便である。
なお、処理後のセルロースナノファイバーにおけるカルボン酸塩型の基(カルボン酸ナトリウム塩)とカルボン酸型の基との比率は、FT−IR等の分析装置を用いて測定することができる。
【0059】
工程1Bでは、セルロースナノファイバー水分散液を酸性に維持できればよいため、酸の種類は特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、過酸化水素などの無機酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、セバシン酸ソーダ、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマール酸、グルコン酸などの有機酸のいずれであっても用いることができる。酸によるセルロースナノファイバーの変質や損傷を回避でき、廃液処理の容易さなどの観点から、塩酸を用いることが好ましい。
【0060】
以上の工程1A、1Bにより、セルロースナノファイバーが凝集して、セルロースナノファイバー水分散液の分散媒である水をほぼ全て内包した物理ゲル(ヒドロゲル)を作製することができる。
【0061】
pHの低下により、セルロースナノファイバー水分散液は、濁度が増加し流動性を失うといった、外見上の変化を生じる。一方で、上述した複屈折には全体的な変化は見られない。また、セルロースナノファイバー水分散液から物理ゲルへと変化したときの体積収縮率は3%〜7%程度である。
【0062】
生じる物理ゲルは水分率が非常に高く、例えば0.4%セルロースナノファイバー水分散液を用いて作製した物理ゲルでは、水分率は99.6%となる。であるにもかかわらず、図2に示すように、一定形状に切り出し(図2(a))、つまみ上げることができるほどの(図2(b))機械的特性を有している。生じる物理ゲルの機械的特性は、動的粘弾性によって評価することができる。
【0063】
また、物理ゲルを構成するセルロースナノファイバーは、表面にカルボン酸基が露出しているため、カルボン酸に種々の陽イオンを吸着させることが可能である。例として、カチオン性染料のトルイジンブルーを吸着させることにより、青色に染色された物理ゲルが作製されることを確認している。
【0064】
[第2実施形態]
物理ゲルの第2の製造方法は、以下の工程2A〜2Cを有する。
(2A)カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程
(2B)セルロースナノファイバー水分散液のpHを低下させる工程
(2C)pH低下処理により得られた物理ゲルから水を除去する工程
【0065】
「工程2A.2B」
工程2A,2Bは、先に説明した第1の製造方法における工程1A、1Bと同様である。かかる工程2A,2Bにおいてセルロースナノファイバーを形成材料とする物理ゲルを得る。
【0066】
「工程2C」
工程2Cは、流体として水を含むセルロースナノファイバーの物理ゲルから水分を乾燥除去し、流体として空気を含むエアロゲルとする工程である。
【0067】
工程2Cでは、乾燥により水分を直接除去するのではなく、まず物理ゲル中の水を溶媒置換により水よりも低沸点の有機溶媒に置換し、その後、置換した有機溶媒を除去することにより行う。
【0068】
溶媒置換に用いる溶媒としては、水と相溶可能なアルコール類を用いることが好ましく、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、iso-プロパノール、tert-ブタノールや、これらの混合液体を用いることが好ましい。また、溶媒置換は、溶媒の種類を変えて複数回行っても良い。
【0069】
溶媒置換は、物理ゲルを十分量の置換溶媒中に浸漬し、緩やかに振とうすることにより行う。溶媒の除去は、凍結乾燥により行うことが好ましい。凍結乾燥は通常知られた装置を用いることができる。
【0070】
以上の工程2Cにより、セルロースナノファイバーが凝集してなり、網目構造に空気を内包したエアロゲルを作製することができる。
【0071】
このようにして得られるエアロゲルは、軽量、低熱伝導率という特性を有し、大比表面積であるため、断熱材、微粒子補足用のフィルタ、触媒の担体などの応用が期待される。また、吸着剤、緩衝材、吸音材、コンポジット材料などにも用いることができる。
【0072】
さらに、本発明のエアロゲルを構成するセルロースナノファイバーは、表面に高密度のカルボキシル基を有しているため、セルロースナノファイバーが有するカルボン酸基に金属化合物を吸着させたり、さらにエアロゲルを炭化処理したりすることにより、電子材料、電磁波遮蔽材、磁性材料、燃料電池の電極用触媒への応用も期待できる。
【0073】
[第3実施形態]
上述した第1の製造方法および第2の製造方法では、あらかじめセルロースナノファイバーの水分散液を形成した後に、pHを調製することにより物理ゲルを得ることとした。すなわち、上記方法では一度セルロースナノファイバーの水分散液の状態を経ることで、細かい繊維が自己集合した組織を有する物理ゲルを形成することが可能であるという利点を有する。
【0074】
これに対し、以下に示す第3の製造方法から第4の製造方法では、セルロースナノファイバーの水分散液の状態を経ることなく、酸化セルロースを用いた物理ゲルを得ることができる。以下、順に説明する。
【0075】
物理ゲルの第3の製造方法は、以下の工程3A,3Bを有する。
(3A)カルボン酸塩型の基を有する酸化セルロースパルプを水系溶媒に分散させて酸化セルローススラリーを調製する工程
(3B)酸化セルローススラリーのpHを低下させる工程
【0076】
「工程3A」
工程3Aでは、先に説明した第1の製造方法における工程1Aに示した方法と同様の方法にて、酸化セルロース(酸化パルプ)を得る。
【0077】
酸化パルプのスラリーは、未処理の木材パルプ繊維であれば、通常、強い機械的剪断を加えないとフロック(floc、綿状の凝塊物)を形成するようなパルプ濃度範囲において、ネマチック状に自己配列する。これは、酸化パルプ繊維がその表面に高密度のカルボキシル基を有するために分散性が向上し、酸化セルロースナノファイバーと同様に、排除体積効果が発現したものと考えられる。
【0078】
「工程3B」
工程3Bでは、先に説明した第1の製造方法における工程1Bに示した方法と同様の方法にて、酸化パルプに含まれるカルボン酸ナトリウム基のナトリウムを水素に置換し、カルボン酸型の置換基(−COOH基)とする。
【0079】
本工程におけるpH制御により、酸化パルプ繊維の表面に存在するカルボン酸ナトリウム塩型の基がカルボン酸型の基となるため、高密度の表面カルボキシル基の電離によって分散安定化していた酸化パルプは、粒子間斥力を失って凝集する。凝集した酸化パルプは、主として水素結合によって互いに架橋され、三次元的な網目構造を形成して物理ゲルとなる。
【0080】
[第4実施形態]
物理ゲルの第4の製造方法は、上述の第3の製造方法における工程3A、3Bに加え、以下の工程4Cを有する。
(4A)カルボン酸塩型の基を有する酸化セルロースパルプを水系溶媒に分散させて酸化セルローススラリーを調製する工程
(4B)酸化セルローススラリーのpHを低下させる工程
(4C)物理ゲルから水を除去する工程
【0081】
「工程4A,4B」
工程4A,4Bは、先に説明した第3の製造方法における工程3A、3Bとほぼ同様である。かかる工程4A,4Bにおいて酸化パルプを形成材料とする物理ゲルを得る。
酸化パルプを原料とする場合には、パルプ濃度は、0.1重量%以上10重量%以下の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは1重量%以上5重量%以下である。
【0082】
「工程4C」
工程4Cでは、先に説明した第2の製造方法における工程2Cに示した方法と同様の方法にて、流体として水を含むセルロースナノファイバーの物理ゲルから水分を乾燥除去し、流体として空気を含むエアロゲルとする工程である。
【0083】
工程4Cにおいても、第2の製造方法における工程2Cと同様に、まず物理ゲル中の水を溶媒置換により水よりも低沸点の有機溶媒に置換し、その後、置換した有機溶媒を除去することにより、物理ゲルに含まれる水を除去する。
【0084】
なお、本実施形態の場合、酸化パルプの繊維により形成される空隙がナノファイバーゲルと比較して大きくなるため、溶媒置換を行うことなく物理ゲルから直接水を除去してもよい。上記空隙が物理ゲルを凍結させたときの氷の結晶サイズよりも大きいサイズであるため、物理ゲルの多孔構造が損傷されることはほぼないからである。
工程の簡便さでは水を直接除去した方が有利であるが、有機溶媒への置換後に乾燥させる工程の方が比表面積の大きいエアロゲルが得られやすいと考えられるため、これらを勘案して工程を選択するとよい。
【0085】
以上の工程4Cにより、酸化パルプが凝集してなり、網目構造に空気を内包したエアロゲルを作製することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
(第1実施例)
第1実施例では、上記実施形態の第1の製造方法を用いてセルロースナノファイバーを形成材料とする物理ゲル(ヒドロゲル)を作製した。
【0088】
(TEMPO触媒酸化)
漂泊した針葉樹クラフトパルプの1%スラリー(脱イオン水、100mL)にTEMPO(0.1mmol)と臭化ナトリウム(1mmol)を溶解させた後、2M次亜塩素酸ナトリウム(3.8mmol)を加えて反応を開始させた。反応中はpHが低下し続けるため、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10に保ち続けた。
pHが低下しなくなった時点を反応終了(ca.80min)と見なし、ろ過して蒸留水で十分に洗浄することにより、酸化パルプを得た。
電導度滴定法により求めた導入カルボキシル基量は、パルプ1g当り1.2mmolであった。
【0089】
(ナノファイバー化)
TEMPO酸化した針葉樹クラフトパルプの0.12%スラリーを二重円筒型ホモジナイザー(7500rpm、20mm径シャフト)で1分間処理し、次いで超音波ホモジナイザー(300W、19.5kHz、7mm径チップ)で4分間処理した後、遠心分離(12000g、20min)により未解繊パルプ等の粗大物を除去することにより、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(以下、TOCN)分散液を得た。
分散液の濃度調製を、蒸留水による希釈、またはエバポレーターによる濃縮で行い、0.1%および0.4%の濃度のTOCN分散液を得た。
【0090】
図3は、TOCN分散液について観察した写真であり、図3(a)は、TOCNのTEM写真、図3(b)は、0.1%TOCN分散液について偏光板を介して観察した複屈折像である。
【0091】
図3(a)に示すTOCNのTEM像から、ナノファイバーの幅と長さを計測し、平均値を算出した。平均値の算出には、150本以上のナノファイバーについての計測値を用いた。計測結果から、ナノファイバーの幅は4nm、長さは930nmであった。
【0092】
図3(b)に示すように、TOCN分散液は、0.1%というごく低濃度であっても、静置状態で明瞭な複屈折を示すことが分かり、分散液中で自己配列しドメインを形成していることが示唆された。
【0093】
(物理ゲル化)
0.1%TOCN分散液12mLに、0.1M塩酸1mLを静かに壁面流下させて3時間静置した。この工程で分散液のpHは約8から3以下に低下し、分散液は物理ゲル化した。
また、同様の方法にて、0.4%TOCN分散液についても物理ゲル化した。
【0094】
図4は、0.4%TOCN分散液について、pH変化前後の様子を観察した写真であり、図4(a)はpH8の分散液の外観、図4(b)はpH8の分散液の偏光板を介した観察像、図4(c)はpH2.5の分散液の外観、図4(d)はpH2.5の分散液の偏光板を介した観察像である。
【0095】
分散液のpHを変化させたところ、図4(a)に示すような透明な分散液から、図4(c)に示すような濁った外観となった。図5には、pH変化前後の分散液について濁度を測定した測定結果を示す。測定の結果、pHを2.5に低下させると濁度が低下していた。
【0096】
また、図4(b)(d)に示すように、pH変化の前後で、偏光板を介した観察において複屈折性を示し、pHが変化してもセルロースナノファイバーが自己配列しドメインを形成していることが示唆された。
【0097】
図6は、各pHに調製した後のTOCNについて測定したFT−IRスペクトルである。FT−IRスペクトルは、0.4%TOCN水分散体(分散液または物理ゲル)をエタノール置換した後、大気下で乾燥させてフィルムを形成し、該フィルムについて測定を行うことにより得られたものである。
【0098】
図に示すように、FT−IRスペクトルの主要な変化として、ナトリウム塩型に特有の1604cm−1の吸収がなくなり、カルボン酸型(フリー型)に特有の1723cm−1の吸収が現れていることが確認でき、pH制御によりナトリウム塩型のカルボキシル基が、フリー型に変換されていることが分かる。
【0099】
図7は、上述の0.4%TOCN水分散液のpHを調製して形成される物理ゲルを容器から出した様子を観察した写真であり、図7(a)(b)は外観、図7(c)は偏光板を介した観察像である。
【0100】
図に示すように、得られた物理ゲルは、TOCN濃度が0.4%、すなわち水分率が99.6%で有りながら、自立するほどの機械的特性を有していることが分かる。
【0101】
図8には、酸を加える前後のTOCN水分散体(水分散液、物理ゲル)について動的粘弾性関数の周波数依存性を示したグラフを示す。図8(a)がTOCN濃度0.1%のTOCN水分散体、図8(b)がTOCN濃度0.4%のTOCN水分散体について示したグラフである。
【0102】
図に示すように、簡便なpH制御により、TOCN/水分散体の動的弾性率G’が動的損失G”を1桁以上上回り、周波数軸に対して両者が平坦となることから、pH調製の結果得られる物理ゲルは、安定な弾性ゲルを形成したことが分かる。
【0103】
従来なされていた検討として、再生セルロースを用いたゲルについて貯蔵弾性率G’が非特許文献「J. Cai and L. Zhang “Unique Gelation Behavior of Cellulose in NaOH/Urea Aqueous Solution” Biomacromolecules 2006, 7, 183-189.」に報告されている。この報告では、本実施例の図8(b)と同様の測定域において、10倍のセルロース濃度(4%)としたものであっても、ゴム状平坦部のG’は100Paにすら到達していない。それに対して、本実施例の物理ゲルは0.4%でも貯蔵弾性率G’が1000Pa以上であり、従来知られている再生セルロースゲルの10分の1の固形分濃度でありながら、10倍以上の値を示した。これは、本発明のゲルが天然セルロースの結晶構造を有することに起因と考えられる。
【0104】
本実施例の物理ゲルは、このように高い機械的特性を示すため、機械加工や上記実施形態の第2の製造方法で採用されるような乾燥処理のような追加的な処理においても、物理ゲルのナノ構造維持が容易であると考えられる。
【0105】
(第2実施例)
第2実施例では、上記実施形態の第2の製造方法を用いてセルロースナノファイバーを形成材料とするエアロゲルを作製した。
【0106】
(エアロゲル化)
第1実施例で作製したTEMPO酸化ナノファイバー物理ゲルを、25%エタノールで溶媒置換し、次いで50%、75%、100%とエタノール分率を高くして同様の溶媒置換を行った。溶媒置換は、物理ゲルを十分量の置換溶媒中に浸漬し、ゆっくりと振とうしながら行った。
エタノールに置換した後、更にt-ブチルアルコールに置換した。各置換工程は1日かけて行い、100%エタノールとt-ブチルアルコールへの置換はそれぞれ3回(3日)以上行った。
t-ブチルアルコールに置換したゲルを液体窒素で冷凍し、凍結乾燥してエアロゲルを作製した。図9には、形成されるエアロゲルの外観の写真を示す。図9のエアロゲルは、図7(a)のヒドロゲルに対応したものである。
【0107】
図10は、上述の方法を用いて形成されるエアロゲルの割断面について観察したSEM像である。図10(a)(b)は、TOCNを形成材料としたエアロゲルについて観察したSEM像であり、図10(c)(d)は、ホヤセルロースを形成材料としたエアロゲルについて観察したSEM像である。
【0108】
いずれも、セルロースが規則正しく配列した組織構造となっていることが確認できる。また、エアロゲル内の空隙が細密化していることも見て取れる。
【0109】
従来なされていた検討として、特許文献(特開2008−231258号公報)や非特許文献「J. Cai et al. “Cellulose Aerogels from Aqueous Alkali Hydroxide-Urea Solution” ChemSusChem 2008, 1, 149-154.」による報告がなされている。これらの検討で報告された再生セルロースエアロゲルは、幅約20nmのナノファイバーで構成されており、その比表面積は最大で485m2g−1と報告されている。
【0110】
それに対して、本実施例のエアロゲルを構成するセルロースは、非特許文献「T. Saito et al. “Cellulose Nanofibers Prepared by TEMPO-Mediated Oxidation of Native Cellulose” Biomacromolecules 2007, 8, 2485-2491.」で報告されている幅3nm〜4nmの結晶性ナノファイバーであり、それらが図10に示すように配列しながらも部分的に凝集してネットワークを構築している。
【0111】
このような幅3nm〜4nmの結晶性ナノファイバーの比表面積は、625〜833m2g−1と見積もることができる。つまり、本実施例のエアロゲルは、従来技術と比較して極めて大きな比表面積を提供できる特性を潜在的に有している。
【0112】
なお、上記比表面積の見積りでは、非特許文献「磯貝明編“セルロースの科学”朝倉書店 2003.」及び「J.-F. Revol “ON THE CROSS-SECTIONAL SHAPE OF CELLULOSE CRYSTALLITES IN VALONIA VENTRICOSA” Carbohydr. Polym. 1982, 2, 123-134.」に記載の方法に従って、天然セルロース結晶の密度が1.6g/cm3、そしてナノファイバー断面は正方形であるとして算出した。
【0113】
(第3実施例)
第3実施例では、上記実施形態の第3の製造方法を用いて酸化セルロース(酸化パルプ)を形成材料とする物理ゲルを作製した。
【0114】
(TEMPO触媒酸化)
本実施例では、酸化パルプの原料として、第1実施例で用いた漂白した針葉樹クラフトパルプの代わりに、漂白した広葉樹クラフトパルプを用いた以外は、第1実施例における「TEMPO触媒酸化」と同様の方法にて、酸化パルプを作製した。
【0115】
図11、12は、漂白した広葉樹クラフトパルプに対する酸化処理前後の様子を観察した写真であり、図11は酸化処理前、図12は酸化処理後のクラフトパルプを示す。いずれも、(a)はパルプ繊維のスラリー(濃度3.2%)をガラス板上に塗布(キャスト)した様子、(b)はガラス板上にキャストしたパルプ繊維の表面の光学顕微鏡像、(c)は同じくガラス板上にキャストしたパルプ繊維の内部の共焦点レーザー顕微鏡像、を示している。
【0116】
図11(a)に示すように、酸化処理前の木材パルプ繊維は、スラリー中でフロックを形成しており、ガラス板上にキャストしたスラリーを振とうしても均質に濡れ広がることはない。対して、12(a)に示すように、酸化パルプのスラリーは、ガラス板上で容易に濡れ広がり、フロックのない平坦なシートを形成することが分かった。これにより、酸化パルプスラリーは、塗布による塗膜の形成が可能であることが分かる。
【0117】
また、図11(b),(c)に示すように、酸化処理前の木材パルプ繊維は、キャストシート内でランダムに堆積しているが、図12(b),(c)に示すように、酸化処理後の酸化パルプ繊維は、キャストシート内で明瞭な配列秩序に従って堆積していることが確認された。
【0118】
また、図11(c)と図12(c)とを比べると、酸化パルプをキャストして形成した膜内では、パルプ密度が向上し、空隙が細密化していることが分かる。
【0119】
(物理ゲル化)
3.2%酸化パルプスラリーに、0.1M塩酸0.5mLを静かに壁面流下させて6時間静置した。この工程でスラリーのpHは約8から3以下に低下し、スラリーは物理ゲル化した。
【0120】
図13は、漂白広葉樹クラフトパルプのスラリーについて、pH変化における外観の変化を酸化処理の有無について比較した写真であり、図13(a),(b)は酸化処理なし(漂白広葉樹クラフトパルプ)、図13(c),(d)は酸化処理あり(酸化パルプ繊維)について示している。
【0121】
まず、酸化パルプスラリーは酸化前のクラフトパルプスラリーに比べて水によく分散して流動性が高いことが分かる(図13(a),(c))。そして、酸化パルプスラリーは、pH3以下で物理ゲル化することが確認できた。体積収縮率は7%であった。
【0122】
以上により、従来の方法のように再生セルロースを用いることなく、天然セルロースを用いて物理ゲルを作製することができることが確かめられた。これにより本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0123】
1…酸化セルロースナノファイバー、2…ドメイン、
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理ゲルの製造方法および物理ゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材に代表されるセルロースは、代表的な天然高分子であり、再生可能なエネルギーおよび材料原料として利用されてきた。近年では、天然セルロースを改質することにより材料原料として利用する開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、天然セルロースを溶解又は結晶膨潤(マーセル化)処理することにより改質した物質である「再生セルロース」を用い、合成高分子と複合化することで、セルロースと合成高分子との長所を併せ持つナノ複合材料を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述の方法では、天然セルロースを一度再生セルロースとすることにより、材料としての利用価値を高めることとしているが、本発明者らは別の観点から天然セルロースの改質を行うことを提案している。
【0005】
詳しくは、本発明者らは、セルロースなどの天然繊維材料をTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)触媒の存在下で酸化させ、機械的な解繊処理を施すことで、直径数ナノメートルの高結晶性極細繊維(ナノファイバー)を製造する方法をすでに提案した(特許文献2参照)。この製造方法により、水中で1本1本のセルロースナノファイバーが分離され、種々の用途への応用展開が可能な新規材料であるセルロースナノファイバー分散液を得ることができた。
【0006】
ところで近年、機能性材料として物理ゲルの研究がなされている。物理ゲルは、高分子が水素結合やイオン結合、配位結合などによって架橋されることにより三次元的な網目構造を形成してなるものであり、網目構造の中に液体または気体を含むものである。網目構造内に水が含まれる場合には「ヒドロゲル」と呼ばれ、流体として有機溶媒を含む溶媒が含まれる場合には「オルガノゲル」と呼ばれ、網目構造内に空気が含まれる場合には「エアロゲル」と呼ばれている。
【0007】
例えばエアロゲルは、軽量、低熱伝導率、大比表面積などの特徴を有し、断熱材、微粒子補足用のフィルタ、触媒の担体などの応用が期待されている。
【0008】
近年では、物理ゲルを形成する場合の有機系の形成材料として、セルロースを機能性材料として着目した応用研究がなされ、セルロースを形成材料とする物理ゲルの調製がなされている(例えば、特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−185248号公報
【特許文献2】特開2008−001728号公報
【特許文献3】特開2009−185248号公報
【特許文献4】特開2008−001728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の方法では、セルロースを用いて物理ゲルを形成する場合には、セルロースを予め再生セルロースとする必要があり、またセルロースを高分子材料と複合化する必要があるなど制限が多く、セルロースを原料として簡便に物理ゲルを形成することはできなかった。
【0011】
加えて、セルロースを原料とした物理ゲルについて、従来は得られた物理ゲルの立体構造について着目されており、物理ゲルに化学的な機能性を付与することに関してはほとんど検討がなされていなかった。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、広範な種類のセルロースを出発原料として好適に物理ゲルを製造することができる製造方法を提供することを目的の一つとする。
また、機能性を付与した物理ゲルを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の第1の物理ゲルの製造方法は、カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程と、前記セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えることで、前記基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、前記セルロースナノファイバーをゲル化する工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、広範な種類のセルロースを出発原料として、容易にセルロース系の物理ゲルを製造することができる。
【0014】
また、本発明の第2の物理ゲルの製造方法は、カルボン酸塩型の基を有するパルプを水系溶媒に分散させてパルプスラリーを調製する工程と、前記パルプスラリーに酸を加えることで、前記基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、前記パルプをゲル化する工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、広範な種類のセルロースを出発原料として、さらにパルプスラリーから解繊処理を行うことなく容易にセルロース系の物理ゲルを製造することができる。
【0015】
本発明においては、前記ゲル化する工程の後に、前記水系溶媒を除去し乾燥させる工程を有することが望ましい。
この方法によれば、乾燥させることによりセルロースナノファイバーやパルプを形成材料としたエアロゲルを得ることができる。そのため、簡便な方法により、広範な種類のセルロースを出発原料としたエアロゲルを形成することが可能となる。
【0016】
また、本発明の物理ゲルは、表面にカルボン酸型の基を有するセルロース成分が凝集してなることを特徴とする。
ここで、「セルロース成分」とは、パルプやパルプを解繊することによって得られるセルロースファイバー、セルロースナノファイバーを含むものである。
この構成によれば、セルロース成分の表面にカルボン酸型の基を導入することにより、好適に凝集させて物理ゲルとすることができ、製造性に優れた物理ゲルを提供することができる。また、カルボン酸型の基を有することにより陽イオン吸着性を有し、更には種々の機能性を付与することが容易な物理ゲルとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、広範な種類のセルロースを出発原料とする物理ゲルの製造を簡便な手法で行うことができる。
また、製造性に優れるとともに機能性を付与することが容易な物理ゲルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】分散液中における酸化セルロースナノファイバーを示す模式図である。
【図2】作製した物理ゲルの様子を示す写真である。
【図3】TEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液について観察した写真である。
【図4】TOCN分散液についてpH変化前後の様子を観察した写真である。
【図5】pH変化前後のTOCN分散液について濁度を測定した測定結果である。
【図6】各pHに調製した後のTOCNについて測定したFT−IRスペクトルである。
【図7】形成される物理ゲルを容器から出した様子を観察した写真である。
【図8】pH調製前後のTOCN水分散体について機械的特性を示したグラフを示す。
【図9】エアロゲルの外観の写真を示す。
【図10】エアロゲルの割断面について観察したSEM像である。
【図11】酸化処理前の漂白広葉樹クラフトパルプの様子を観察した写真である。
【図12】酸化処理後の漂白広葉樹クラフトパルプの様子を観察した写真である。
【図13】広葉樹クラフトパルプスラリーのpH変化による外観変化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る物理ゲルの製造方法について説明する。本実施形態に係る物理ゲルの製造方法は、セルロースを酸化することでセルロースの構造中にカルボン酸塩型の置換基を導入し、次いで、カルボン酸塩型の置換基を導入したセルロースの水分散液のpHを下げることにより、カルボン酸塩型の置換基をカルボン酸型の置換基とすることにより、セルロースのゲルを製造するものである。
【0020】
なお、本願において、「物理ゲル」とは、セルロースが形成する三次元的な網目構造の間に流体として水が含まれる「ヒドロゲル」や、流体として有機溶媒を含む溶媒が含まれる「オルガノゲル」、また流体として空気が含まれる「エアロゲル」を含むものとする。
【0021】
物理ゲルの第1の製造方法は、以下の工程1A、1Bを有する。
(1A)カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程
(1B)セルロースナノファイバー水分散液のpHを低下させる工程
【0022】
「工程1A」
[セルロースの酸化工程]
まず、工程1Aについて説明する。工程1Aは、原料であるセルロースを酸化する酸化工程と、酸化されたセルロースを解繊して分散液とする分散工程とを含んでいる。
【0023】
[セルロースの酸化工程]
まず、セルロースの酸化工程について説明する。
酸化工程は、カルボン酸塩型の基を有するセルロースの水分散液を作製する工程である。上記の構成を備えたセルロース水分散液が得られるならば、そのセルロースの酸化処理方法は特に限定されないが、本発明者らによりすでに提案されているTEMPO触媒酸化を用いたセルロースの酸化処理を用いることが好ましい。
【0024】
すなわち、天然セルロースを原料とし、水系溶媒中においてTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)などのN−オキシル化合物を酸化触媒とし、酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化させる酸化処理工程を含む製造方法により酸化したセルロース水分散液を作製することが好ましい。
【0025】
酸化処理により、天然セルロースのパルプ繊維を構成するミクロフィブリルの表面に露出している1級水酸基(約1.7基/nm2)が、カルボキシル基へと酸化される。
【0026】
酸化処理工程では、まず、水中に天然セルロースを分散させた分散液を調製する。天然セルロースは、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースである。具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどを例示することができる。
【0027】
また、単離、精製された天然セルロースに対して、叩解等の表面積を拡大する処理を施してもよい。これにより反応効率を高めることができ、生産性を高めることができる。また、天然セルロースは、単離、精製の後、未乾燥状態で保存したものを用いることが好ましい。未乾燥状態で保存することで、ミクロフィブリルの集束体を膨潤しやすい状態に保持することができるので、反応効率を高めるとともに、後述の分散工程において繊維径の細いセルロースナノファイバーを得やすくなる。
【0028】
酸化処理工程において、反応溶液における天然セルロースの分散媒には典型的には水が用いられる。反応溶液中の天然セルロース濃度は、試薬(酸化剤、触媒等)の十分な溶解が可能であれば特に限定されない。通常は、反応溶液の重量に対して5%程度以下の濃度とすることが好ましい。
【0029】
反応溶液に添加される触媒としては、N−オキシル化合物が用いられている。N−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンーN−オキシル)及びC4位に各種の官能基を有するTEMPO誘導体を用いることができる。TEMPO誘導体としては、4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシTEMPO、4−フォスフォノオキシTEMPOなどを挙げることができる。特に、TEMPO及び4−アセトアミドTEMPOは、反応速度において好ましい結果が得られている。
N−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、具体的には、反応溶液に対して0.1〜4mmol/Lの範囲で添加すればよい。好ましくは、0.1〜2mmol/Lの添加量範囲である。
【0030】
さらに、酸化剤の種類によっては、N−オキシル化合物に、臭化物やヨウ化物を組み合わせた触媒成分を用いてもよい。例えば、アンモニウム塩(臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム)、臭化又はヨウ化アルカリ金属(臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウムなどの臭化物、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物)、臭化又はヨウ化アルカリ土類金属(臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウムなど)を用いることができる。これらの臭化物及びヨウ化物は、単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0031】
酸化剤としては、次亜ハロゲン酸又はその塩(次亜塩素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩、次亜ヨウ素酸又はその塩など)、亜ハロゲン酸又はその塩(亜塩素酸又はその塩、亜臭素酸又はその塩、亜ヨウ素酸又はその塩など)、過ハロゲン酸又はその塩(過塩素酸又はその塩、過ヨウ素酸又はその塩など)、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素など)、ハロゲン酸化物(ClO、ClO2、Cl2O6、BrO2、Br3O7など)、窒素酸化物(NO、NO2、N2O3など)、過酸(過酸化水素、過酢酸、過硫酸、過安息香酸など)が含まれる。これらの酸化剤は単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。また、ラッカーゼなどの酸化酵素と組み合わせて用いてもよい。酸化剤の含有量は、1〜50mmol/Lの範囲とすることが好ましい。
【0032】
次亜ハロゲン酸塩としては、次亜塩素酸の場合に、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、次亜塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0033】
亜ハロゲン酸塩としては、例えば亜塩素酸の場合、亜塩素酸リチウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、亜塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する亜臭素酸塩、亜ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0034】
過ハロゲン酸塩としては、例えば過塩素酸塩の場合、過塩素酸リチウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、過塩素酸カルシウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、過塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0035】
本発明における好ましい酸化剤としては、次亜ハロゲン酸アルカリ金属塩、あるいは亜ハロゲン酸アルカリ金属塩を挙げることができ、次亜塩素酸アルカリ金属塩又は亜塩素酸アルカリ金属塩を用いることがより好ましい。
先に記載の触媒については、酸化剤の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、次亜塩素酸アルカリ金属塩を酸化剤とする場合には、N−オキシル化合物と、臭化物又はヨウ化物とを組み合わせた触媒成分を用いることが好ましく、亜塩素酸アルカリ金属塩を酸化剤とする場合には、N−オキシル化合物を単独で触媒成分として用いることが好ましい。
【0036】
以下、代表的な酸化処理工程について2種類の具体例を呈示して説明する。
【0037】
[酸化処理工程の第1の例]
酸化処理工程の第1の例では、セルロース原料を水に懸濁したものに、N−オキシル化合物(TEMPO等)及びアルカリ金属臭化物(又はアルカリ金属ヨウ化物)と、酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸塩)とを添加した反応溶液を調製し、0℃〜室温(10℃〜30℃)の温度条件下、必要に応じて攪拌しながら酸化反応を進行させる。
【0038】
反応終了後は、必要に応じて酸化剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)を分解する処理を行い、その後、反応溶液のろ過と水洗洗浄を繰り返すことで、精製した繊維状TEMPO触媒酸化セルロース(以下、酸化セルロースと称する)を得る。
【0039】
第1の例の酸化処理工程では、反応の進行に伴ってカルボキシル基が生成するために反応溶液のpHが低下する。そこで、酸化反応を十分に進行させるためには、反応系をアルカリ性領域、例えばpH9〜12(好ましくは10〜11)の範囲に維持することが好ましい。反応系のpH調製は、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ金属成分を含む水溶液など)を反応系に適宜添加することにより行うことができる。また第1の例の酸化処理工程では、酸化反応の進行に伴って反応溶液のpHが低下するため、pH低下の進行が認められなくなった時点を反応終点とすることができる。
【0040】
なお、第1の例の酸化処理工程における反応温度は室温より高くすることもでき、高温で反応させることで反応効率を高めることができる。その一方で、次亜塩素酸ナトリウムから塩素ガスが発生しやすくなるので、高温で反応させる場合には塩素ガスの処理系を用意することが好ましい。
【0041】
[酸化処理工程の第2の例]
次に、酸化反応の第2の例では、セルロース原料を水に懸濁したものに、N−オキシル化合物と、酸化剤としての亜塩素酸ナトリウム(亜塩素酸塩)とを添加した反応溶液を調製し、室温〜100℃程度の温度条件下、必要に応じて攪拌しながら酸化反応を進行させる。酸化反応終了後の酸化セルロースを抽出する処理は、上述した第1の例の場合と同様である。
【0042】
第2の例の酸化処理工程では、反応溶液のpHは中性から酸性の範囲で維持される。より具体的には、4以上7以下のpH範囲とすることが好ましい。特に、反応溶液のpHが8以上とならないように留意すべきである。これは、セルロースのC6位に一時的に生成するアルデヒド基によるベータ脱離反応が生じないようにするためである。
【0043】
さらに、反応溶液に緩衝液を添加することが好ましい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液等、種々の緩衝液を用いることができる。
緩衝液を用いて反応中のpH変化を抑えるようにすることで、pHを維持するための酸やアルカリの連続的な添加が不要になり、またpHメーターの設置も不要になる。そして、酸やアルカリの添加が不要であることから、反応容器を密閉することができる。
【0044】
第2の例では、酸化剤として、水酸基の酸化によって生成するアルデヒド基も酸化することができる酸化剤を用いる。このような酸化剤としては、亜塩素酸ナトリウムなどの亜ハロゲン酸又はその塩や、過酸化水素と酸化酵素(ラッカーゼ)の混合物、過酸(過硫酸(過硫酸水素カリウムなど)、過酢酸、過安息香酸など)を例示することができる。
【0045】
アルデヒド基をカルボキシル基に酸化することができる酸化剤を用いることで、C6位のアルデヒド基の生成を防ぐことができる。N−オキシル化合物を触媒とした酸化反応では、グルコース成分の1級水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基を含む中間体が生成する可能性がある。しかし第2の例の酸化反応では、アルデヒド基を酸化する酸化剤を含むため、この中間体のアルデヒド基は速やかに酸化されてカルボキシル基に変換される。
したがって、アルデヒド基によって引き起こされるベータ脱離反応を防止することができ、高分子量の酸化セルロースを得ることができる。
【0046】
また、上述した酸化剤を主酸化剤として用いるのを前提として、次亜ハロゲン酸又はその塩を添加することが好ましい。例えば、少量の次亜塩素酸ナトリウムを添加することで、反応速度を大きく向上させることができる。反応溶液に添加された次亜塩素酸ナトリウムは、TEMPOの酸化剤として機能し、酸化されたTEMPOがセルロースのC6位の1級水酸基を酸化してC6位にアルデヒド基を生成する。そして、生成したアルデヒド基は、主酸化剤である亜塩素酸ナトリウムによって迅速にカルボキシル基に酸化される。また、アルデヒド基の酸化の際に、亜塩素酸ナトリウムが次亜塩素酸ナトリウムに変化する。さらに、生成した次亜塩素酸ナトリウムはTEMPOの酸化剤として補充される。
このように、反応溶液に次亜塩素酸ナトリウム等を添加することで、TEMPOの酸化反応を促進することができ、反応速度を高めることができる。次亜ハロゲン酸塩等の添加量は、1mmol/L程度以下とすることが好ましい。
【0047】
以上のような酸化処理工程を経て、酸化セルロースを得ることができる。
【0048】
[分散工程]
次に、分散工程では、酸化処理工程で得られた酸化セルロース又は精製工程を経た酸化セルロースを、媒体中に分散させる。
分散に用いる媒体(分散媒)としては、水系溶媒が用いられる。本実施形態における水系溶媒は、不可避的に混入する成分を除いて水のみである溶媒、若しくは20重量%未満の水と相溶性のアルコール等の有機溶媒と水との混合溶媒である。上記分散媒としては、典型的には、水が用いられる。
【0049】
分散工程により、酸化セルロースが解繊され、セルロースナノファイバーが媒体に分散されたセルロースナノファイバー分散液が得られる。この分散工程で作製されるセルロースナノファイバー水分散液は、セルロースの一部のC6位の1級水酸基がカルボン酸ナトリウム塩(カルボキシル基のナトリウム塩)に酸化されたセルロースナノファイバーが水系溶媒中に均一に分散されたものである。
【0050】
本実施形態の場合、セルロースナノファイバー水分散液の濃度は、0.05重量%以上4重量%以下の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは0.1重量%以上2重量%以下である。このような範囲とすることで、後段の工程1Bにおいて、セルロースナノファイバーを良好にゲル化させることができる。
【0051】
分散工程において用いる分散装置(解繊装置)としては、種々のものを使用することができる。例えば、家庭用ミキサー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練り装置、石臼等の解繊装置を用いることができる。これらのほかにも、家庭用や工業生産用に汎用的に用いられる解繊装置で容易にセルロースナノファイバーの分散液を得られる。また、各種ホモジナイザーや各種レファイナーのような強力で叩解能力のある解繊装置を用いると、より効率的に繊維径の細いセルロースナノファイバーが得られる。
【0052】
また、工程1Aにおける酸化処理および分散処理においては、セルロースの主鎖骨格を切断するような化学的な処理が行われないため、生成するセルロースナノファイバーは、原料として用いる天然セルロースのミクロフィブリルの長さを有するものとなる。したがって、生成するセルロースナノファイバーは、幅が例えば数nmであるのに対し、長さが数μmにも達するミクロフィブリル単位の寸法を有するものとなる。
【0053】
このようなセルロースナノファイバーの水分散液は、ごく低濃度(例えば0.1%)であっても、静置状態で明瞭な複屈折を示す。図1は、分散液中における酸化セルロースナノファイバーを示す模式図である。図に示すように、酸化セルロースナノファイバー1は高いアスペクト比を有するため大きな排除体積効果を有し、互いに自己配列する。これにより酸化セルロースナノファイバー1のドメイン2が複数生じ、ポリドメインを有するネマチック液晶状の物性を示すものと考えられる。
【0054】
「工程1B」
工程1Bは、セルロースナノファイバーに含まれるカルボン酸ナトリウム基のナトリウムを水素に置換し、カルボン酸型の置換基(−COOH基)とする工程である。
【0055】
表面にカルボン酸ナトリウム塩型の基を有するセルロースナノファイバーは、水中ではカルボン酸がイオン化し、カルボン酸イオン同士の荷電反発力によりセルロースナノファイバーを良好に分散させることができる。本工程では、セルロースナノファイバーが分散する水分散液のpHを下げることで、カルボン酸型の置換基とするため、上述の荷電反発力が失われて凝集する。
【0056】
すなわち、セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えて酸性溶液にすると、セルロースナノファイバーの分散性に寄与しているカルボン酸イオンが塩基となって水素を受け取り、カルボン酸型の基となる。高密度の表面カルボキシル基の電離によって分散安定化していたセルロースナノファイバーは、pHの低下により粒子間斥力を失って凝集する。凝集したセルロースナノファイバーは、主として水素結合によって互いに架橋され、三次元的な網目構造を形成し、物理ゲルとなる。
【0057】
セルロースナノファイバーに含まれるカルボン酸ナトリウム基が残存していると、上述の荷電反発力が残存するため、物理ゲルの形成を阻害する。したがって、カルボン酸ナトリウム基を残存させることには理由が無く、全てのカルボン酸ナトリウム基をカルボン酸型の基に置換することが好ましい。この観点から、所望の置換率となるようにセルロースナノファイバーを酸性溶液(酸を加えた分散液)に保持する時間を管理する。
【0058】
保持時間は、加えた酸の種類や酸性溶液のpH、セルロースナノファイバーの含有量などに応じて設定する。酸性溶液のpHが一定であれば、カルボン酸型の基への置換率は、保持時間を長くするほど高くなり、保持時間の変化に対して単調に変化するので、保持時間によって管理するのが簡便である。
なお、処理後のセルロースナノファイバーにおけるカルボン酸塩型の基(カルボン酸ナトリウム塩)とカルボン酸型の基との比率は、FT−IR等の分析装置を用いて測定することができる。
【0059】
工程1Bでは、セルロースナノファイバー水分散液を酸性に維持できればよいため、酸の種類は特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、過酸化水素などの無機酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、セバシン酸ソーダ、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマール酸、グルコン酸などの有機酸のいずれであっても用いることができる。酸によるセルロースナノファイバーの変質や損傷を回避でき、廃液処理の容易さなどの観点から、塩酸を用いることが好ましい。
【0060】
以上の工程1A、1Bにより、セルロースナノファイバーが凝集して、セルロースナノファイバー水分散液の分散媒である水をほぼ全て内包した物理ゲル(ヒドロゲル)を作製することができる。
【0061】
pHの低下により、セルロースナノファイバー水分散液は、濁度が増加し流動性を失うといった、外見上の変化を生じる。一方で、上述した複屈折には全体的な変化は見られない。また、セルロースナノファイバー水分散液から物理ゲルへと変化したときの体積収縮率は3%〜7%程度である。
【0062】
生じる物理ゲルは水分率が非常に高く、例えば0.4%セルロースナノファイバー水分散液を用いて作製した物理ゲルでは、水分率は99.6%となる。であるにもかかわらず、図2に示すように、一定形状に切り出し(図2(a))、つまみ上げることができるほどの(図2(b))機械的特性を有している。生じる物理ゲルの機械的特性は、動的粘弾性によって評価することができる。
【0063】
また、物理ゲルを構成するセルロースナノファイバーは、表面にカルボン酸基が露出しているため、カルボン酸に種々の陽イオンを吸着させることが可能である。例として、カチオン性染料のトルイジンブルーを吸着させることにより、青色に染色された物理ゲルが作製されることを確認している。
【0064】
[第2実施形態]
物理ゲルの第2の製造方法は、以下の工程2A〜2Cを有する。
(2A)カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程
(2B)セルロースナノファイバー水分散液のpHを低下させる工程
(2C)pH低下処理により得られた物理ゲルから水を除去する工程
【0065】
「工程2A.2B」
工程2A,2Bは、先に説明した第1の製造方法における工程1A、1Bと同様である。かかる工程2A,2Bにおいてセルロースナノファイバーを形成材料とする物理ゲルを得る。
【0066】
「工程2C」
工程2Cは、流体として水を含むセルロースナノファイバーの物理ゲルから水分を乾燥除去し、流体として空気を含むエアロゲルとする工程である。
【0067】
工程2Cでは、乾燥により水分を直接除去するのではなく、まず物理ゲル中の水を溶媒置換により水よりも低沸点の有機溶媒に置換し、その後、置換した有機溶媒を除去することにより行う。
【0068】
溶媒置換に用いる溶媒としては、水と相溶可能なアルコール類を用いることが好ましく、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、iso-プロパノール、tert-ブタノールや、これらの混合液体を用いることが好ましい。また、溶媒置換は、溶媒の種類を変えて複数回行っても良い。
【0069】
溶媒置換は、物理ゲルを十分量の置換溶媒中に浸漬し、緩やかに振とうすることにより行う。溶媒の除去は、凍結乾燥により行うことが好ましい。凍結乾燥は通常知られた装置を用いることができる。
【0070】
以上の工程2Cにより、セルロースナノファイバーが凝集してなり、網目構造に空気を内包したエアロゲルを作製することができる。
【0071】
このようにして得られるエアロゲルは、軽量、低熱伝導率という特性を有し、大比表面積であるため、断熱材、微粒子補足用のフィルタ、触媒の担体などの応用が期待される。また、吸着剤、緩衝材、吸音材、コンポジット材料などにも用いることができる。
【0072】
さらに、本発明のエアロゲルを構成するセルロースナノファイバーは、表面に高密度のカルボキシル基を有しているため、セルロースナノファイバーが有するカルボン酸基に金属化合物を吸着させたり、さらにエアロゲルを炭化処理したりすることにより、電子材料、電磁波遮蔽材、磁性材料、燃料電池の電極用触媒への応用も期待できる。
【0073】
[第3実施形態]
上述した第1の製造方法および第2の製造方法では、あらかじめセルロースナノファイバーの水分散液を形成した後に、pHを調製することにより物理ゲルを得ることとした。すなわち、上記方法では一度セルロースナノファイバーの水分散液の状態を経ることで、細かい繊維が自己集合した組織を有する物理ゲルを形成することが可能であるという利点を有する。
【0074】
これに対し、以下に示す第3の製造方法から第4の製造方法では、セルロースナノファイバーの水分散液の状態を経ることなく、酸化セルロースを用いた物理ゲルを得ることができる。以下、順に説明する。
【0075】
物理ゲルの第3の製造方法は、以下の工程3A,3Bを有する。
(3A)カルボン酸塩型の基を有する酸化セルロースパルプを水系溶媒に分散させて酸化セルローススラリーを調製する工程
(3B)酸化セルローススラリーのpHを低下させる工程
【0076】
「工程3A」
工程3Aでは、先に説明した第1の製造方法における工程1Aに示した方法と同様の方法にて、酸化セルロース(酸化パルプ)を得る。
【0077】
酸化パルプのスラリーは、未処理の木材パルプ繊維であれば、通常、強い機械的剪断を加えないとフロック(floc、綿状の凝塊物)を形成するようなパルプ濃度範囲において、ネマチック状に自己配列する。これは、酸化パルプ繊維がその表面に高密度のカルボキシル基を有するために分散性が向上し、酸化セルロースナノファイバーと同様に、排除体積効果が発現したものと考えられる。
【0078】
「工程3B」
工程3Bでは、先に説明した第1の製造方法における工程1Bに示した方法と同様の方法にて、酸化パルプに含まれるカルボン酸ナトリウム基のナトリウムを水素に置換し、カルボン酸型の置換基(−COOH基)とする。
【0079】
本工程におけるpH制御により、酸化パルプ繊維の表面に存在するカルボン酸ナトリウム塩型の基がカルボン酸型の基となるため、高密度の表面カルボキシル基の電離によって分散安定化していた酸化パルプは、粒子間斥力を失って凝集する。凝集した酸化パルプは、主として水素結合によって互いに架橋され、三次元的な網目構造を形成して物理ゲルとなる。
【0080】
[第4実施形態]
物理ゲルの第4の製造方法は、上述の第3の製造方法における工程3A、3Bに加え、以下の工程4Cを有する。
(4A)カルボン酸塩型の基を有する酸化セルロースパルプを水系溶媒に分散させて酸化セルローススラリーを調製する工程
(4B)酸化セルローススラリーのpHを低下させる工程
(4C)物理ゲルから水を除去する工程
【0081】
「工程4A,4B」
工程4A,4Bは、先に説明した第3の製造方法における工程3A、3Bとほぼ同様である。かかる工程4A,4Bにおいて酸化パルプを形成材料とする物理ゲルを得る。
酸化パルプを原料とする場合には、パルプ濃度は、0.1重量%以上10重量%以下の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは1重量%以上5重量%以下である。
【0082】
「工程4C」
工程4Cでは、先に説明した第2の製造方法における工程2Cに示した方法と同様の方法にて、流体として水を含むセルロースナノファイバーの物理ゲルから水分を乾燥除去し、流体として空気を含むエアロゲルとする工程である。
【0083】
工程4Cにおいても、第2の製造方法における工程2Cと同様に、まず物理ゲル中の水を溶媒置換により水よりも低沸点の有機溶媒に置換し、その後、置換した有機溶媒を除去することにより、物理ゲルに含まれる水を除去する。
【0084】
なお、本実施形態の場合、酸化パルプの繊維により形成される空隙がナノファイバーゲルと比較して大きくなるため、溶媒置換を行うことなく物理ゲルから直接水を除去してもよい。上記空隙が物理ゲルを凍結させたときの氷の結晶サイズよりも大きいサイズであるため、物理ゲルの多孔構造が損傷されることはほぼないからである。
工程の簡便さでは水を直接除去した方が有利であるが、有機溶媒への置換後に乾燥させる工程の方が比表面積の大きいエアロゲルが得られやすいと考えられるため、これらを勘案して工程を選択するとよい。
【0085】
以上の工程4Cにより、酸化パルプが凝集してなり、網目構造に空気を内包したエアロゲルを作製することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
(第1実施例)
第1実施例では、上記実施形態の第1の製造方法を用いてセルロースナノファイバーを形成材料とする物理ゲル(ヒドロゲル)を作製した。
【0088】
(TEMPO触媒酸化)
漂泊した針葉樹クラフトパルプの1%スラリー(脱イオン水、100mL)にTEMPO(0.1mmol)と臭化ナトリウム(1mmol)を溶解させた後、2M次亜塩素酸ナトリウム(3.8mmol)を加えて反応を開始させた。反応中はpHが低下し続けるため、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10に保ち続けた。
pHが低下しなくなった時点を反応終了(ca.80min)と見なし、ろ過して蒸留水で十分に洗浄することにより、酸化パルプを得た。
電導度滴定法により求めた導入カルボキシル基量は、パルプ1g当り1.2mmolであった。
【0089】
(ナノファイバー化)
TEMPO酸化した針葉樹クラフトパルプの0.12%スラリーを二重円筒型ホモジナイザー(7500rpm、20mm径シャフト)で1分間処理し、次いで超音波ホモジナイザー(300W、19.5kHz、7mm径チップ)で4分間処理した後、遠心分離(12000g、20min)により未解繊パルプ等の粗大物を除去することにより、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(以下、TOCN)分散液を得た。
分散液の濃度調製を、蒸留水による希釈、またはエバポレーターによる濃縮で行い、0.1%および0.4%の濃度のTOCN分散液を得た。
【0090】
図3は、TOCN分散液について観察した写真であり、図3(a)は、TOCNのTEM写真、図3(b)は、0.1%TOCN分散液について偏光板を介して観察した複屈折像である。
【0091】
図3(a)に示すTOCNのTEM像から、ナノファイバーの幅と長さを計測し、平均値を算出した。平均値の算出には、150本以上のナノファイバーについての計測値を用いた。計測結果から、ナノファイバーの幅は4nm、長さは930nmであった。
【0092】
図3(b)に示すように、TOCN分散液は、0.1%というごく低濃度であっても、静置状態で明瞭な複屈折を示すことが分かり、分散液中で自己配列しドメインを形成していることが示唆された。
【0093】
(物理ゲル化)
0.1%TOCN分散液12mLに、0.1M塩酸1mLを静かに壁面流下させて3時間静置した。この工程で分散液のpHは約8から3以下に低下し、分散液は物理ゲル化した。
また、同様の方法にて、0.4%TOCN分散液についても物理ゲル化した。
【0094】
図4は、0.4%TOCN分散液について、pH変化前後の様子を観察した写真であり、図4(a)はpH8の分散液の外観、図4(b)はpH8の分散液の偏光板を介した観察像、図4(c)はpH2.5の分散液の外観、図4(d)はpH2.5の分散液の偏光板を介した観察像である。
【0095】
分散液のpHを変化させたところ、図4(a)に示すような透明な分散液から、図4(c)に示すような濁った外観となった。図5には、pH変化前後の分散液について濁度を測定した測定結果を示す。測定の結果、pHを2.5に低下させると濁度が低下していた。
【0096】
また、図4(b)(d)に示すように、pH変化の前後で、偏光板を介した観察において複屈折性を示し、pHが変化してもセルロースナノファイバーが自己配列しドメインを形成していることが示唆された。
【0097】
図6は、各pHに調製した後のTOCNについて測定したFT−IRスペクトルである。FT−IRスペクトルは、0.4%TOCN水分散体(分散液または物理ゲル)をエタノール置換した後、大気下で乾燥させてフィルムを形成し、該フィルムについて測定を行うことにより得られたものである。
【0098】
図に示すように、FT−IRスペクトルの主要な変化として、ナトリウム塩型に特有の1604cm−1の吸収がなくなり、カルボン酸型(フリー型)に特有の1723cm−1の吸収が現れていることが確認でき、pH制御によりナトリウム塩型のカルボキシル基が、フリー型に変換されていることが分かる。
【0099】
図7は、上述の0.4%TOCN水分散液のpHを調製して形成される物理ゲルを容器から出した様子を観察した写真であり、図7(a)(b)は外観、図7(c)は偏光板を介した観察像である。
【0100】
図に示すように、得られた物理ゲルは、TOCN濃度が0.4%、すなわち水分率が99.6%で有りながら、自立するほどの機械的特性を有していることが分かる。
【0101】
図8には、酸を加える前後のTOCN水分散体(水分散液、物理ゲル)について動的粘弾性関数の周波数依存性を示したグラフを示す。図8(a)がTOCN濃度0.1%のTOCN水分散体、図8(b)がTOCN濃度0.4%のTOCN水分散体について示したグラフである。
【0102】
図に示すように、簡便なpH制御により、TOCN/水分散体の動的弾性率G’が動的損失G”を1桁以上上回り、周波数軸に対して両者が平坦となることから、pH調製の結果得られる物理ゲルは、安定な弾性ゲルを形成したことが分かる。
【0103】
従来なされていた検討として、再生セルロースを用いたゲルについて貯蔵弾性率G’が非特許文献「J. Cai and L. Zhang “Unique Gelation Behavior of Cellulose in NaOH/Urea Aqueous Solution” Biomacromolecules 2006, 7, 183-189.」に報告されている。この報告では、本実施例の図8(b)と同様の測定域において、10倍のセルロース濃度(4%)としたものであっても、ゴム状平坦部のG’は100Paにすら到達していない。それに対して、本実施例の物理ゲルは0.4%でも貯蔵弾性率G’が1000Pa以上であり、従来知られている再生セルロースゲルの10分の1の固形分濃度でありながら、10倍以上の値を示した。これは、本発明のゲルが天然セルロースの結晶構造を有することに起因と考えられる。
【0104】
本実施例の物理ゲルは、このように高い機械的特性を示すため、機械加工や上記実施形態の第2の製造方法で採用されるような乾燥処理のような追加的な処理においても、物理ゲルのナノ構造維持が容易であると考えられる。
【0105】
(第2実施例)
第2実施例では、上記実施形態の第2の製造方法を用いてセルロースナノファイバーを形成材料とするエアロゲルを作製した。
【0106】
(エアロゲル化)
第1実施例で作製したTEMPO酸化ナノファイバー物理ゲルを、25%エタノールで溶媒置換し、次いで50%、75%、100%とエタノール分率を高くして同様の溶媒置換を行った。溶媒置換は、物理ゲルを十分量の置換溶媒中に浸漬し、ゆっくりと振とうしながら行った。
エタノールに置換した後、更にt-ブチルアルコールに置換した。各置換工程は1日かけて行い、100%エタノールとt-ブチルアルコールへの置換はそれぞれ3回(3日)以上行った。
t-ブチルアルコールに置換したゲルを液体窒素で冷凍し、凍結乾燥してエアロゲルを作製した。図9には、形成されるエアロゲルの外観の写真を示す。図9のエアロゲルは、図7(a)のヒドロゲルに対応したものである。
【0107】
図10は、上述の方法を用いて形成されるエアロゲルの割断面について観察したSEM像である。図10(a)(b)は、TOCNを形成材料としたエアロゲルについて観察したSEM像であり、図10(c)(d)は、ホヤセルロースを形成材料としたエアロゲルについて観察したSEM像である。
【0108】
いずれも、セルロースが規則正しく配列した組織構造となっていることが確認できる。また、エアロゲル内の空隙が細密化していることも見て取れる。
【0109】
従来なされていた検討として、特許文献(特開2008−231258号公報)や非特許文献「J. Cai et al. “Cellulose Aerogels from Aqueous Alkali Hydroxide-Urea Solution” ChemSusChem 2008, 1, 149-154.」による報告がなされている。これらの検討で報告された再生セルロースエアロゲルは、幅約20nmのナノファイバーで構成されており、その比表面積は最大で485m2g−1と報告されている。
【0110】
それに対して、本実施例のエアロゲルを構成するセルロースは、非特許文献「T. Saito et al. “Cellulose Nanofibers Prepared by TEMPO-Mediated Oxidation of Native Cellulose” Biomacromolecules 2007, 8, 2485-2491.」で報告されている幅3nm〜4nmの結晶性ナノファイバーであり、それらが図10に示すように配列しながらも部分的に凝集してネットワークを構築している。
【0111】
このような幅3nm〜4nmの結晶性ナノファイバーの比表面積は、625〜833m2g−1と見積もることができる。つまり、本実施例のエアロゲルは、従来技術と比較して極めて大きな比表面積を提供できる特性を潜在的に有している。
【0112】
なお、上記比表面積の見積りでは、非特許文献「磯貝明編“セルロースの科学”朝倉書店 2003.」及び「J.-F. Revol “ON THE CROSS-SECTIONAL SHAPE OF CELLULOSE CRYSTALLITES IN VALONIA VENTRICOSA” Carbohydr. Polym. 1982, 2, 123-134.」に記載の方法に従って、天然セルロース結晶の密度が1.6g/cm3、そしてナノファイバー断面は正方形であるとして算出した。
【0113】
(第3実施例)
第3実施例では、上記実施形態の第3の製造方法を用いて酸化セルロース(酸化パルプ)を形成材料とする物理ゲルを作製した。
【0114】
(TEMPO触媒酸化)
本実施例では、酸化パルプの原料として、第1実施例で用いた漂白した針葉樹クラフトパルプの代わりに、漂白した広葉樹クラフトパルプを用いた以外は、第1実施例における「TEMPO触媒酸化」と同様の方法にて、酸化パルプを作製した。
【0115】
図11、12は、漂白した広葉樹クラフトパルプに対する酸化処理前後の様子を観察した写真であり、図11は酸化処理前、図12は酸化処理後のクラフトパルプを示す。いずれも、(a)はパルプ繊維のスラリー(濃度3.2%)をガラス板上に塗布(キャスト)した様子、(b)はガラス板上にキャストしたパルプ繊維の表面の光学顕微鏡像、(c)は同じくガラス板上にキャストしたパルプ繊維の内部の共焦点レーザー顕微鏡像、を示している。
【0116】
図11(a)に示すように、酸化処理前の木材パルプ繊維は、スラリー中でフロックを形成しており、ガラス板上にキャストしたスラリーを振とうしても均質に濡れ広がることはない。対して、12(a)に示すように、酸化パルプのスラリーは、ガラス板上で容易に濡れ広がり、フロックのない平坦なシートを形成することが分かった。これにより、酸化パルプスラリーは、塗布による塗膜の形成が可能であることが分かる。
【0117】
また、図11(b),(c)に示すように、酸化処理前の木材パルプ繊維は、キャストシート内でランダムに堆積しているが、図12(b),(c)に示すように、酸化処理後の酸化パルプ繊維は、キャストシート内で明瞭な配列秩序に従って堆積していることが確認された。
【0118】
また、図11(c)と図12(c)とを比べると、酸化パルプをキャストして形成した膜内では、パルプ密度が向上し、空隙が細密化していることが分かる。
【0119】
(物理ゲル化)
3.2%酸化パルプスラリーに、0.1M塩酸0.5mLを静かに壁面流下させて6時間静置した。この工程でスラリーのpHは約8から3以下に低下し、スラリーは物理ゲル化した。
【0120】
図13は、漂白広葉樹クラフトパルプのスラリーについて、pH変化における外観の変化を酸化処理の有無について比較した写真であり、図13(a),(b)は酸化処理なし(漂白広葉樹クラフトパルプ)、図13(c),(d)は酸化処理あり(酸化パルプ繊維)について示している。
【0121】
まず、酸化パルプスラリーは酸化前のクラフトパルプスラリーに比べて水によく分散して流動性が高いことが分かる(図13(a),(c))。そして、酸化パルプスラリーは、pH3以下で物理ゲル化することが確認できた。体積収縮率は7%であった。
【0122】
以上により、従来の方法のように再生セルロースを用いることなく、天然セルロースを用いて物理ゲルを作製することができることが確かめられた。これにより本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0123】
1…酸化セルロースナノファイバー、2…ドメイン、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えることで、前記基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、前記セルロースナノファイバーをゲル化する工程と、を有することを特徴とする物理ゲルの製造方法。
【請求項2】
カルボン酸塩型の基を有するパルプを水系溶媒に分散させてパルプスラリーを調製する工程と、
前記パルプスラリーに酸を加えることで、前記基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、前記パルプをゲル化する工程と、を有することを特徴とする物理ゲルの製造方法。
【請求項3】
前記ゲル化する工程の後に、前記水系溶媒を除去し乾燥させる工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の物理ゲルの製造方法。
【請求項4】
表面にカルボン酸型の基を有するセルロース成分が凝集してなることを特徴とする物理ゲル。
【請求項1】
カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えることで、前記基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、前記セルロースナノファイバーをゲル化する工程と、を有することを特徴とする物理ゲルの製造方法。
【請求項2】
カルボン酸塩型の基を有するパルプを水系溶媒に分散させてパルプスラリーを調製する工程と、
前記パルプスラリーに酸を加えることで、前記基をカルボン酸塩型からカルボン酸型に置換し、前記パルプをゲル化する工程と、を有することを特徴とする物理ゲルの製造方法。
【請求項3】
前記ゲル化する工程の後に、前記水系溶媒を除去し乾燥させる工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の物理ゲルの製造方法。
【請求項4】
表面にカルボン酸型の基を有するセルロース成分が凝集してなることを特徴とする物理ゲル。
【図1】
【図6】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−1626(P2012−1626A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137566(P2010−137566)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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