説明

物理量測定装置、異常診断装置および異常診断方法

【課題】車両のカーブ走行に起因する振動の影響を抑制して、より正確な異常診断を行うことができる物理量測定装置および異常診断装置、異常診断方法を提供する。
【解決手段】鉄道車両100に取付けられる車輪101、回転支持装置110から発せられる振動を検出する振動センサ111と、前記車両100の異常診断装置150内の電子回路基板上に配設されるジャイロセンサ117と、を備えて、前記ジャイロセンサ117は、前記鉄道車両100の進行方向に対し、前記鉄道車両100のヨー方向の運動を検出し、且つ前記ジャイロセンサ117の出力信号に基づいて、前記振動センサ111の出力信号を処理し、この処理された出力信号により異常検出を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両、自動車、搬送車等の車両に用いられる転動装置(車軸軸受、歯車、車輪または軸受など)の異常診断装置に関し、特に当該転動装置の異常の有無や前兆、あるいはその異常部位を特定するための物理量測定装置、および異常診断装置、異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械装置に取付けられる転動装置(車軸軸受、歯車、車輪または軸受など)は、一定期間使用した後に、回転軸受やその他の回転部品について、損傷や摩耗等の異常の有無が定期的に検査される。この検査において、当該転動装置が取付けられる車両を分解することなく、実稼動状態で転動装置の異常診断を行なうことができるものが種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。最も代表的なものとしては、特許文献1に記載されるように、例えば軸受部に振動センサを設置して計測し、さらにこの信号にFFT(高速フーリエ変換)処理を行なって振動発生周波数成分の信号を抽出して診断を行なう方法が知られている。
【0003】
また、鉄道車両、自動車、搬送車などの車両に関しては、例えば鉄道車両の車輪の転動面において、ブレーキの誤動作等による車輪のロックや滑走によるレールとの摩擦・摩耗によって生じるフラットと呼ぶ平坦部の検出方法が種々提案されている(例えば、特許文献4〜6参照)。特に特許文献4では、振動センサや回転測定装置等により鉄道車両車輪、および列車が通過する線路の欠陥状態を検出する装置が提案されている。
【0004】
また、回転部品の2軸方向の振動を検出するセンサを備えた車輪用回転検出装置(例えば、特許文献7)、地面に垂直方向の振動の分力として発生する転がり軸受の軸方向の振動を検出するセンサを備えたセンサ付軸受装置(例えば、特許文献8)、鉄道車両の車輪及び当該車両が通過する線路の異常を検出する装置(例えば、特許文献9)なども提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−22617号公報
【特許文献2】特開2003−202276号公報
【特許文献3】特開2004−257836号公報
【特許文献4】特開平9−113416号公報
【特許文献5】特開平4−148839号公報
【特許文献6】特表2003−535755号公報
【特許文献7】特開2002−340922号公報
【特許文献8】特開2005−20516号公報
【特許文献9】米国特許第5433111号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、鉄道車両などの車両における車軸軸受および車輪の異常診断では、車輪にかかる荷重が変動して検出条件が不安定になると、振動検出信号の出力が安定しない。即ち、例えば鉄道車両の車軸軸受部の振動を検出して異常診断を行った場合、車軸の損傷、車輪のフラット、車輪とレールとの摩耗、あるいは車両の運動の影響、のいずれかによるのか特定できない場合があり、特にカーブの多い構内走行などで車軸軸受および車輪の異常診断を行う場合には、検出条件が常に安定しないことで、車輪フラットの誤検出、あるいは軸受剥離などの異常診断の検知精度の低下が起こってしまうという問題があった。
【0007】
ここで、この問題に対しては、特許文献4、9に記載の異常状態の検出装置では、その異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのか、あるいは線路または他の異常によるものなのかを識別できない限界がある上、検出条件の安定性について考慮されているものではなかった。
【0008】
同じく、特許文献8に記載のセンサ付軸受装置においても、FFTによって処理された振動発生周波数成分の帯域の違いにより、振動発生周波数成分の車輪の振動と車軸軸受の振動とを区別して検出しているが、車両のカーブ走行に起因する振動の影響により検知精度が左右されやすいという問題があった。
【0009】
また、発明者は、鉄道車両、自動車、搬送車などの車両に取付けられる転動装置の異常診断において、振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みなどを検出する検出手段などを用いて異常診断を行う際、これら車両走行時において直線あるいはカーブを走行しているのかなどによって、異常診断の検知精度が変動してしまうことを見出した。即ち、検出対象である転がり軸受や車輪などの回転部品の状態は同じであるにも係らず、カーブ時に発生する遠心力などによって、転動装置にかかる荷重が変動して、検出信号にノイズが含まれてしまい出力レベルが異なってしまうことを発見した。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両に取付けられる転動装置の振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みなどの物理量を検出する検出手段の出力信号から車軸軸受や車輪などの異常振動を検出して、その異常振動が車軸軸受によるものか、車輪のフラットによるものかを特定して異常診断を行う際、車両のカーブ走行に起因する振動の影響を抑制して、より正確な異常診断を行うことができる物理量測定装置および異常診断装置、異常診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、下記の構成により達成される。
(1) 軸受装置が取付けられる車両に付設される物理量測定装置であって、少なくとも前記車両の1箇所に配設される角速度検出手段を有し、当該角速度検出手段は車両に係る物理量を検出することを特徴とする物理量測定装置。
(2) 前記角速度検出手段は、前記車両の進行方向に対し、前記車両のヨー方向の運動を検出することを特徴とする上記(1)に記載の物理量測定装置。
(3) さらに前記転動装置から発せられる振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みの少なくともいずれかの物理量を検出する検出手段を有し、前記角速度検出手段の出力信号に基づいて、当該検出手段の出力信号を処理することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の物理量測定装置。
(4) 前記検出手段と前記角速度検出手段とは、装置筐体内に一体的に組み込まれていることを特徴とする上記(3)に記載の物理量測定装置。
(5) 前記角速度検出手段は、前記車両に実装されて前記転動装置の異常診断を行う異常診断装置内に配設されることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれかに記載の物理量測定装置。
(6) 車両に取付けられる転動装置から発せられる振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みの少なくともいずれかの物理量を検出する検出手段と、前記車両の少なくとも1箇所に配設される角速度検出手段と、を備えて、前記転動装置の異常を検出する異常診断装装置であって、前記角速度検出手段は、前記車両の進行方向に対し、前記車両のヨー方向の運動を検出し、且つ前記角速度検出手段の出力信号に基づいて、前記検出手段の出力信号を処理し、この処理された出力信号により前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする異常診断装置。
(7) 前記角速度検出手段の出力値が予め設定された閾値以下であるときに限り、前記検出手段の出力値を取り込んで、前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする上記(6)に記載の異常診断装置。
(8) 前記角速度検出手段の出力値が予め設定された閾値以上であるときに、前記角速度検出手段の出力値に基づき前記検出手段の出力値を補正して、前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする上記(6)に記載の異常診断装置。
(9) 車両に取付けられる転動装置から発せられる振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みの少なくともいずれかの物理量を検出するとともに、前記車両の進行方向に対し、前記車両のヨー方向の運動を検出して、前記転動装置の異常を検出する異常診断方法であって、前記検出されたヨー方向の運動の値に基づいて、前記検出された物理量の値を処理し、この処理された物理量の値により前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする異常診断方法。
(10) 前記検出されたヨー方向の運動の値が予め設定された閾値以下であるときに限り、前記検出された物理量の値を取り込んで、前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする上記(9)に記載の異常診断方法。
(11) 前記検出されたヨー方向の運動の値が予め設定された閾値以上であるときに、前記検出されたヨー方向の運動の値に基づき前記検出された物理量の値を補正して、前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする上記(9)に記載の異常診断方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の異常診断装置および異常診断方法によれば、鉄道車両、自動車、搬送車などの車両に取付けられる転動装置の振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みなどの物理量を検出する検出手段の出力信号から車軸軸受や車輪などの異常振動を検出して、その異常振動が車軸軸受によるものか、車輪のフラットによるものかを特定して異常診断を行う際、車両のカーブ走行に起因する振動の影響を抑制して、より正確な異常診断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について図を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1(a)は本発明の異常診断装置を搭載した鉄道車両の概略平面図、図1(b)は同鉄道車両の概略側面図であり、図2は車軸軸受と振動センサとの位置関係を例示する概略図であり、図3は本発明に係る異常診断装置の第1実施形態のブロック構成図であり、図4は第1実施形態に係る異常診断の動作フロー図であり、(a)は車軸軸受に係る動作フロー図、(b)は車輪に係る動作フロー図であり、図5は第2実施形態に係る異常診断の動作フロー図であり、(a)は車軸軸受に係る動作フロー図、(b)は車輪に係る動作フロー図あり、図6は本発明に係る別の変形例を示す鉄道車両の概略平面図であり、図7はさらに別の変形例を示す鉄道車両の概略平面図である。
【0015】
(第1実施形態)
まず、図1〜図3に従って、本発明に係る第1実施形態の異常診断装置を搭載した鉄道車両について説明する。
図1に示すように、一両の鉄道車両(車両)100は前後2つの車台によって支持され、各車台には4個の車輪(転動装置)101が取付けられている。また、車両に係る様々な物理情報を取得するため物理量測定装置が鉄道車両100に付設されており、当該物理量測定装置は振動センサ(振動検出手段)111とジャイロセンサ(角速度検出手段)117とを備えて構成されている。
【0016】
ここで、各車輪101の回転支持装置(転動装置)110には、運転中に当該回転支持装置110から発生する振動を検出する振動センサ111が取付けられている。
【0017】
鉄道車両100の制御盤115には、4チャネル分の前記振動センサ111から出力されたセンサ信号(振動信号)を略同時に取り込んで診断処理を実施する異常診断装置150が2つ搭載されている。即ち、各車台に設けられている4つの振動センサ111の出力信号が各々信号線(有線)116を介して車台毎に別の異常診断装置150に絶えず入力される。また、異常診断装置150には、車輪101の回転速度を検出する回転速度センサ(不図示)からの回転速度パルス信号も入力されるとともに、当該異常診断装置150内にはジャイロセンサ117が配設され、当該ジャイロセンサ117から出力されたセンサ信号(角速度信号)も合わせて入力される。なお、信号線116の有線に代えて、無線による信号伝達を行っても構わない。
【0018】
前記ジャイロセンサ117は、鉄道車両100の進行方向に対し、ヨー方向の運動を検出するように異常診断装置150内の電子回路基板上に配設され、鉄道車両100のヨー方向の角速度あるいはヨーレートなどを検出するように構成されている。このため、異常診断装置150は鉄道車両100がカーブにさしかかった否かを推定することができる。
【0019】
また、前記ジャイロセンサ117には、種々のものを採用することができるが、MEMSセンサが比較的安価で精度がよいので好適である。MEMSセンサを採用することで、電子部品として異常診断装置150の電子回路基板などに実装でき、且つ安価にすることができる。
【0020】
次に図2に示すように、回転支持装置110には、例えば車軸軸受130が組込まれており、当該車軸軸受130は例えば複列円すいころ軸受などであり、回転軸(不図示)に外嵌される回転輪である内輪131と、ハウジング(不図示)に内嵌される固定輪である外輪132と、内輪131および外輪132との間に配置された複数の転動体である玉133と、玉133を転動自在に保持する保持器(不図示)とを備えて構成されている。振動センサ111は、重力方向の振動加速度を検出し得る姿勢に保持されてハウジングの外輪132近傍に固定されている。当該振動センサ111には、加速度センサ、AE(acoustic emission)センサ、超音波センサ、ショックパルスセンサなど、種々のものを採用することができるが、加速度の検出方向性と回路の組込み容易性などを考慮するとMEMS加速度センサが好適である。
【0021】
次に図3に示すように、異常診断装置150は、診断処理部(MPU)150Aと、センサ信号処理部150Bと、を有する。センサ信号処理部150Bは、5つの増幅・濾波器(AFILTER)151を備えており、4つの振動センサ111と1つのジャイロセンサ117との出力信号が5つの増幅・濾波器151にそれぞれ個別に入力されるようになっている。当該増幅・濾波器151は、アナログアンプの機能とアンチエリアシングフィルタの機能とを兼ね備えており、これら5つの増幅・濾波器151で増幅且つ濾波された5チャネルのアナログ信号は、診断処理部(MPU)150Aに取り込まれる。診断処理部(MPU)150Aは、マルチプレクサ(MUX)152およびAD変換器(ADC)153を備えており、入力された5チャネルのアナログ信号を、マルチプレクサ(MUX)152にて1チャネルごとの信号に切換えて、AD変換器(ADC)153にてデジタル信号に変換する。
【0022】
一方、回転速度センサからの速度比例正弦波または回転速度パルス信号などの回転速度信号が波形整形回路155に入力される。当該回転速度信号は、波形整形回路155によって整形された後、タイマカウンタ(不図示)により単位時間当りのパルス数がカウントされ、その値が回転速度信号として診断処理部(MPU)150Aに入力される。
【0023】
診断処理部(MPU)150Aは、ジャイロセンサ117により検出された角速度信号を参照するとともに、振動センサ111により検出された振動信号と回転速度センサにより検出された回転速度信号とに基づきに異常検出を実施する。診断処理部(MPU)150Aによる異常検出結果はラインドライバ(LD)156を介して通信回線120(図1参照)に出力される。通信回線120は警報機に接続されており、車輪101のフラット等の異常発生時には然るべき警報動作がなされるようになっている。
【0024】
また、この異常診断装置150は、電源が供給されなくてもデータを保持するために、バックアップ電池(Batt)161を有するスタティックランダムアクセスメモリー(SRAM)162を備え、後述する角速度信号に係る閾値などを記録保持している。
【0025】
ここで、車軸軸受130に発生する異常の中で、静止輪の外輪軌道の剥離が最も起こりやすい。そこで、車軸軸受130の異常診断については、静止輪の外輪軌道の剥離(以下、車軸軸受の剥離とも記す)を検出対象として以下説明を行う。
【0026】
振動信号などから検出する異常は、車軸軸受130の剥離と車輪101のフラットである。車軸軸受130の剥離による異常周波数と車輪101のフラットによる異常周波数は、振動センサ111からの振動信号の周波数分布のピークとして表出する。また、両異常周波数も、1kHz付近までの周波数帯域の振動信号として検知できる。さらに、車軸軸受130の剥離による異常周波数と車輪101のフラットによる異常周波数とでは、周波数帯域が10倍程度異なるので、AD変換器(ADC)153にてデジタル信号に変換されたデータをソフトウエア処理により車軸軸受診断用と車輪診断用とに分離して、両者の異常診断を行なう。
【0027】
車輪101のフラットによる異常基本周波数は、車輪101の回転速度(r/s)に等しい。したがって、診断すべき回転速度の範囲は新幹線を想定した場合には3〜30r/sとなるので、車輪101のフラットの異常基本周波数は3〜30Hzとなる。これに対して、車軸軸受130の剥離による異常基本周波数は、車輪101のフラットの欠陥周波数の約10倍、22〜220Hzとなる。どちらも4次までの高調波を検査する場合、車輪101については3〜120Hz、車軸軸受130については22〜880Hzが各々の必要とされるDFT(離散フーリエ変換)の周波数分析範囲となる。
【0028】
ここで、車軸軸受130の診断の際のDFTの周波数分解能は1.0Hzで十分であるが、車輪101の診断については車輪101のフラットによる異常周波数は低周波領域に偏っているため、1.0Hzでは分解能が不足する。したがって、車輪101の診断の際のDFTの周波数分解能を0.25Hzになるようにデータを別々に調整する必要がある。
【0029】
そこで、本実施形態では、AD変換器(ADC)153にてデジタル信号に変換(サンプリング)したデータを、車軸軸受剥離解析用(以下「軸受用」とも記す)と車輪フラット解析用(以下、「車輪用」とも記す)とのサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換して、絶対処理を施した後、DFTのFFTアルゴリズムに基づいて、周波数スペクトルを算出する。なお、FFTを実施する前処理として、振動信号の包絡線を求めるエンベロープ処理を行ってよい。
【0030】
さらにここで、図4に従って、診断処理部(MPU)150Aの動作フローについて説明する。
軸受用のデータについては、図4(a)に示すように、FFT処理後(即ち、S201)、回転速度と軸受内部諸元から得られる軸受130の剥離における異常周波数Zfcを求めるとともに(表1参照)、得られたデータに対し基本波から4次までのピーク検出を行なう(即ち、S202)。ここで、診断処理部150Aは、ジャイロセンサ117から出力された角速度信号のレベルを算出する(即ち、S203)。そして、当該角速度信号のレベルが、予め設定されてSRAM162に記録保持されている閾値以下である場合(即ち、S204のYES)には、鉄道車両100がカーブ走行していない、即ち直線走行にあると推定して、当該ピーク検出結果より得られたピーク値を示す周波数と、値Zfcとを比較し、両者の一致具合を判定する(即ち、S205)。このような処理を一定回数繰り返して行い、この一連の判定により得られる一致度合計点数に基づいて車軸軸受130の異常判定を行なう。
なお、角速度信号が閾値以上である場合(即ち、S204のNO)には、診断処理部150Aは、一致具合の判定を行う工程を省略するかあるいは無効化して異常診断を行えず、処理を終了する。
【0031】
【表1】

【0032】
一方、車輪用のデータについては、図4(b)に示すようにFFT処理後(即ち、S301)、得られたデータについてピーク検出を行なうとともに、回転速度パルス信号から異常周波数を算出する(即ち、S302)。ここで、車軸軸受130の異常判定の場合と同じく、角速度信号のレベルが、予め設定されてSRAM162に記録保持されている閾値以下である場合(即ち、S303、S304のYES)には、鉄道車両100が直線走行にあるとして推定して、ピーク値を示す周波数と車輪101のフラットでの異常を示す周波数との比較し、両者の一致具合を判定する(即ち、S305)。そして、角速度信号が閾値以上の場合(即ち、S304のNO)には両者の一致具合の判定を省略あるいは無効化して異常診断を行わず、処理を終了する。このような処理を一定回数繰り返して行い、この一連の判定により得られる一致度合計点数に基づいて車輪101の異常判定を行なう。
なお、車輪のフラットによる異常を示す周波数は、車輪101の回転速度(r/s)に等しい。したがって、車輪101のフラットでの異常を示す周波数は、タイマカウンタ(図示省略)により回転速度パルス信号の単位時間当りのパルス数をカウントすることにより求めることができる。
【0033】
したがって、本実施形態では、ジャイロセンサ117が異常診断装置150内に配設されて鉄道車両100のヨー方向の運動を検出することにより、鉄道車両100のカーブ走行と直線走行とのいずれにあるのかを推定する。即ち、当該ジャイロセンサ117により検出された角速度信号のレベルが予め設定された閾値以下のときに限り、振動信号に影響を及ぼさない程度の角加速度の変動で検出状態が安定しているとして判断して、異常検出を実施する。
【0034】
また、異常判定については、種々の方法が採用できるが、例えば過去にN回の有効な角加速度のレベルにおいてK回以上の一致度合計点数がカウントされた場合に異常と判定するか、あるいは周波数スペクトルのレベルに応じて点数をつけ、過去にN回の有効な角加速度のレベルにおいて、その点数の合計点がP点以上となったときに異常を判定することなどが挙げられる。
なお、この場合には、前記値N、K、Pはスタティックランダムアクセスメモリー(SRAM)162に予め記録保持される。
【0035】
また、角速度信号のレベルが閾値を超える時間が長い場合には、診断不可能の警報を出力するか、あるいは診断不可能時刻を記録して過去の直前の有効な診断結果に基づいて行うようにしてもよい。
【0036】
したがって、本実施形態によれば、鉄道車両100にジャイロセンサ117を配設するようにしたので、カーブ時などに発生する遠心力などによるノイズの影響を排除して、より正確に異常診断を行うことができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、図5を参照しながら第1次実施形態の変形例である第2実施形態を説明する。
なお、以下説明する実施形態において、上述した第1実施形態と重複する構成要素および機能的に同様な構成要素などについては、図中に同一あるいは相当符号を付すことによって説明を簡略化あるいは省略する。
【0038】
本発明に係る異常診断装置の第2実施形態は、鉄道車両100がカーブ走行している場合においても、ジャイロセンサ117から出力された角加速度信号に基づき、そのカーブ走行時に伴う振動の変動を補正して異常診断を実施する構成である。
【0039】
図6に従って、第2実施形態の動作フローについて詳細に説明する。
即ち、軸受用のデータにおいては、FFT処理後(即ち、S401)、回転速度と軸受内部諸元から得られる軸受130の剥離における異常を示す周波数Zfcを求める(即ち、S402)とともに、ジャイロセンサ117から出力された角速度信号のレベルを算出する(即ち、S403)。次に、当該角速度信号のレベルが、予め設定されてSRAM162に記録保持されている閾値以下であるか否かを判定する(即ち、S405)。当該角速度信号のレベルが閾値以下でない場合(即ち、S405のNO)には、得られた軸受用データ(振動信号)に対し、ジャイロセンサ117から連続して出力される角速度信号のレベルに逐次対応して補正を行い、この補正結果に基づき基本波から4次までのピーク検出を行なう(即ち、S406)。そして、当該ピーク検出結果より得られたピーク値を示す周波数と、値Zfcとを比較し、両者の一致具合を判定する(即ち、S407)。
【0040】
一方、前記角速度信号のレベルが、前記閾値以下である場合(即ち、S405のYES)には、得られた軸受用データに対して補正を行わず、そのままピーク検出を行って(即ち、S408)、このピーク値を示す周波数と、値Zfcとを比較して異常検出を実施する。それ以外の態様は、第1実施形態と同様である。
【0041】
また、車輪用のデータについても、軸受用のデータと同様に処理を実施する。即ち、FFT処理後(即ち、S501)、回転速度パルス信号から異常周波数を算出する(即ち、S502)とともに、ジャイロセンサ117から出力された角速度信号のレベルを算出する(即ち、S503)。次に、当該角速度信号のレベルが、予め設定されてSRAM162に記録保持されている閾値以下であるか否かを判定する(即ち、S505)。当該角速度信号のレベルが閾値以下でない場合(即ち、S505のNO)には、得られた車輪用データ(振動信号)に対し、ジャイロセンサ117から連続して出力される角速度信号のレベルに逐次対応して補正を行い、この補正結果に基づき基本波から4次までのピーク検出を行なう(即ち、S506)。その後に、ピーク値を示す周波数と車輪101のフラットでの異常を示す周波数との比較を行ない、両者の一致具合を判定する(即ち、S507)。それ以外の態様は、第1実施形態と同様である。
【0042】
一方、前記角速度信号のレベルが、前記閾値以下である場合(即ち、S505のYES)には、得られた車輪用データに対して補正を行わず、そのままピーク検出を行って(即ち、S508)、このピーク値を示す周波数と値Zfcとを比較して異常検出を実施する。
【0043】
したがって、本実施形態によれば、鉄道車両が直線走行あるいはカーブ走行にあるかを問わず、異常診断をより正確に行うことができる。なお、補正としては周知の補正方法が種々採用できるが、カルマンフィルタが、非定常における迅速な逐次推定アルゴリズムであるので好適である。
【0044】
なお、ここでは、角速度信号のレベルに逐次対応して補正を行うとして説明したが、これに代えて検出される角速度を所定の時間区間に区切り、この区間内で平均値を算出してこの結果に基づき補正するようにしてもよい。
【0045】
さらに、本実施形態では角速度信号に基づいて振動センサ111の出力信号を補正するとして説明したが、これに代えてに回転支持装置110に荷重センサを付設し、この荷重センサから出力された荷重信号を補正するようにしてもよい。この場合には、車輪101および車軸軸受130の負荷状態を直接把握することができるので、より正確に補正することができて好適である。
【0046】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。例えば、図6に示すように回転支持装置110毎にジャイロセンサ317を付設して振動センサ111装置筐体内に一体的に組み込むように構成してもよく、この場合には各軸受装置における各速度検出の応答性を向上させることができる。
【0047】
また、図7に示すように異常診断装置150内に電子回路基板にジャイロのみならず2軸のMEMSセンサ401を付設してもよく、この場合には横方向の加速度および進行方向の加速度をも含めて異常診断することができるので、より精度よく異常診断を行うことができる。
【0048】
さらに、転動装置としては、転がり軸受、歯車、車軸、ボールねじ等の回転部品や、リニアガイド、リニアボールベアリング等の部品であってもよく、損傷によって周期的な振動を発生する部品であれば良い。また、回転部品の損傷に起因する周波数成分を算出するための速度信号としては、回転速度信号を例示して説明したが、摺動部品の場合の速度信号として移動速度信号も用いることができる。
【0049】
また、これら実施形態では、デジタル処理の大部分をソフトウエアによって行なっているが、その一部またはすべてをFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウエアで実現してもよい。さらに、入力される信号のSN比を向上させるため、フィルタ処理部の前段に増幅処理ないしはアンチエリアシングフィルタ処理を施す演算部を設けてもよい。
【0050】
そして、車両は異常診断対象である転動装置を備えたものであればよく、上述したもの以外に、普通乗用車、フォークリフトなどの車両も含むことができる。
【0051】
さらに、上記複数の実施形態では検出される信号を振動または荷重として例示して説明したが、これに代えて音、超音波(AE)、応力、変位、歪みなどの機械量、物理量を含み、これらの信号では、回転あるいは摺動部品を含む転動装置に異常がある場合に、その異常を示す信号成分を含んでいるので、異常診断の対象信号とすることができる。
【0052】
またさらに、上記構成におけるジャイロセンサの出力信号は、異常診断に限らず、例えばカーブ時に所定以上の角速度を検出した場合に速度を緩める速度制御など、種々の車両の運行を制御する信号としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(a)は本発明の異常診断装置を搭載した鉄道車両の概略平面図であり、(b)は同鉄道車両の概略側面図である。
【図2】車軸軸受と振動センサとの位置関係を例示する概略図である。
【図3】本発明に係る異常診断装置の第1実施形態のブロック図である。
【図4】第1実施形態に係る異常診断の動作フロー図であり、(a)は車軸軸受に係る動作フロー図であり、(b)は車輪に係る動作フロー図である。
【図5】第2実施形態に係る異常診断の動作フロー図であり、(a)は車軸軸受に係る動作フロー図であり、(b)は車輪に係る動作フロー図である。
【図6】本発明に係る別の変形例を示す鉄道車両の概略平面図である。
【図7】さらに別の変形例を示す鉄道車両の概略平面図である。
【符号の説明】
【0054】
100 鉄道車両
101 車輪(転動装置)
110 回転支持装置(転動装置)
111 振動センサ(振動検出手段)
117 ジャイロセンサ(角速度検出手段)
130 車軸軸受
150 異常診断装置
150A 診断処理部
150B センサ信号処理部
162 スタティックランダムアクセスメモリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受装置が取付けられる車両に付設される物理量測定装置であって、
少なくとも前記車両の1箇所に配設される角速度検出手段を有し、
当該角速度検出手段は車両に係る物理量を検出することを特徴とする物理量測定装置。
【請求項2】
前記角速度検出手段は、前記車両の進行方向に対し、前記車両のヨー方向の運動を検出することを特徴とする請求項1に記載の物理量測定装置。
【請求項3】
さらに前記転動装置から発せられる振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みの少なくともいずれかの物理量を検出する検出手段を有し、
前記角速度検出手段の出力信号に基づいて、当該検出手段の出力信号を処理することを特徴とする請求項1または2に記載の物理量測定装置。
【請求項4】
前記検出手段と前記角速度検出手段とは、装置筐体内に一体的に組み込まれていることを特徴とする請求項3に記載の物理量測定装置。
【請求項5】
前記角速度検出手段は、前記車両に実装されて前記転動装置の異常診断を行う異常診断装置内に配設されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の物理量測定装置。
【請求項6】
車両に取付けられる転動装置から発せられる振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みの少なくともいずれかの物理量を検出する検出手段と、
前記車両の少なくとも1箇所に配設される角速度検出手段と、を備えて、前記転動装置の異常を検出する異常診断装装置であって、
前記角速度検出手段は、前記車両の進行方向に対し、前記車両のヨー方向の運動を検出し、且つ
前記角速度検出手段の出力信号に基づいて、前記検出手段の出力信号を処理し、
この処理された出力信号により前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする異常診断装置。
【請求項7】
前記角速度検出手段の出力値が予め設定された閾値以下であるときに限り、前記検出手段の出力値を取り込んで、前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする請求項6に記載の異常診断装置。
【請求項8】
前記角速度検出手段の出力値が予め設定された閾値以上であるときに、前記角速度検出手段の出力値に基づき前記検出手段の出力値を補正して、前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする請求項6に記載の異常診断装置。
【請求項9】
車両に取付けられる転動装置から発せられる振動、音、超音波、荷重、応力、変位または歪みの少なくともいずれかの物理量を検出するとともに、
前記車両の進行方向に対し、前記車両のヨー方向の運動を検出して、前記転動装置の異常を検出する異常診断方法であって、
前記検出されたヨー方向の運動の値に基づいて、前記検出された物理量の値を処理し、
この処理された物理量の値により前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする異常診断方法。
【請求項10】
前記検出されたヨー方向の運動の値が予め設定された閾値以下であるときに限り、前記検出された物理量の値を取り込んで、前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする請求項9に記載の異常診断方法。
【請求項11】
前記検出されたヨー方向の運動の値が予め設定された閾値以上であるときに、前記検出されたヨー方向の運動の値に基づき前記検出された物理量の値を補正して、前記転動装置の異常検出を実施することを特徴とする請求項9に記載の異常診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−209229(P2008−209229A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45930(P2007−45930)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】