物質の混合物を分析する質量分析方法
【課題】3連4重極質量分析器を用いて物質の混合物を分析する質量分析方法に関する。
【解決手段】この方法が、a)第1分析用4重極(I)におけるイオン化によって形成されたイオンの質量/電荷比(m/z)を選択するステップと、b)衝突ガスで満たされた後続の4重極(II)において、加速電圧を印加することによってステップ(a)で選択されたイオンを断片化するステップと、c)後続の4重極(III)において、ステップ(b)の断片化プロセスによって生成されたイオンの質量/電荷比を選択するステップとを含み、ステップ(a)〜(c)を少なくとも1回実施し、(d)イオン化した結果として物質混合物中に存在するすべてのイオンの質量/電荷比を分析するステップをさらに含み、分析中に4重極(II)は衝突ガスで満たされているが加速電圧は印加されない。ステップ(a)〜(c)およびステップ(d)は、逆の順序で実行することもできる。
【解決手段】この方法が、a)第1分析用4重極(I)におけるイオン化によって形成されたイオンの質量/電荷比(m/z)を選択するステップと、b)衝突ガスで満たされた後続の4重極(II)において、加速電圧を印加することによってステップ(a)で選択されたイオンを断片化するステップと、c)後続の4重極(III)において、ステップ(b)の断片化プロセスによって生成されたイオンの質量/電荷比を選択するステップとを含み、ステップ(a)〜(c)を少なくとも1回実施し、(d)イオン化した結果として物質混合物中に存在するすべてのイオンの質量/電荷比を分析するステップをさらに含み、分析中に4重極(II)は衝突ガスで満たされているが加速電圧は印加されない。ステップ(a)〜(c)およびステップ(d)は、逆の順序で実行することもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3連4重極質量分析器を用いて物質の混合物を分析する質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物および/または化学起源の複合的な物質混合物の分析では、分析者には、混合物中に存在する個々の物質の構造を同定する作業だけでなく、可能であれば、混合物中に存在するすべての物質を捕捉し、それらを定量化するという問題が常につきまとう。これは、極めて迅速かつ高精度に、すなわち誤りの偏差を小さくして進行させるべきである。これは、例えば、ある種の発酵条件下で成長させた微生物、または様々な環境条件下で成長させた植物、あるいは微生物または植物などの遺伝子操作した変異体と比較したそれら微生物または植物の野生型生物など、生物系に関する情報を得ようとするときにますます重要になる。このような比較は、これらの生物のゲノム中の未知の遺伝子の変異体を、ある種の代謝表現型に割り当てることができるようにするのに必要である。
【0003】
コンビナトリアル・ケミストリからの化学合成混合物、あるいは微生物、植物または植物の部分からの抽出物からの化学合成混合物など、これらの物質混合物の分析が成功するかどうかは、用いられる分析の迅速性および再現性に大きく依存する。このようなスクリーニングでは、大量のサンプルを綿密に検査しなければならず、したがって、迅速で、簡単で、極めて高感度かつ極めて特異的な分析方法が求められる。
【0004】
こうした分析の主な問題は、混合物中に存在する物質を、迅速に、簡単に、再現性よく、かつ定量可能に同定することである。一般に、これらの生成物は、TLC(薄層クロマトグラフィー)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、またはGC(ガス・クロマトグラフィー)などの分離プロセスを用いて分析する。しかし、これらのクロマトグラフィー法を用いて、迅速かつ簡単に広範囲の物質を同定し定量化することは不可能である。このような作業を行うために、NMR法または質量分析法などの方法も述べられている。ただし、これらの分析方法では一般に、サンプルをある程度調製することが求められる。この調製とは、例えば、サンプルの塩析沈殿および/またはその後のクロマトグラフィー、濃縮、脱塩、サンプル中に存在する緩衝液の交換または洗浄剤の除去などによる処理である。このような前処理の後で、これらのサンプルを用いて上記分析を行うことができ、選択されたサンプル中の個々の物質を同定し定量することが可能である。しかし、これらのプロセスは、時間がかかり、サンプルの処理量も制限されたものしか得られず、そのため、このような分析方法は、HTS(ハイ・スループット・スクリーニング)、あるいは生物または化学サンプル中の物質混合物の広範なスクリーニングでは用いられない。NMR法やIR分光法など、極めて精確な方法の利点は、構造に関する情報と、場合によっては物質の量に関する情報がともに得られることである。
【0005】
HTSにおいてサンプルの処理量をより多くすることができるように、多くの場合、間接的かつ容易に測定可能なプロセス、例えば、可視領域の呈色反応、曇り度測定、蛍光、導電率測定などが用いられる。これらは原理上極めて高感度であるが、誤りも生じ易い。特にこのような場合の欠点は、このような手順では多数の偽陽性サンプルが分析されることと、これらは間接的な検出プロセスなので、化合物の構造および/または量についての情報がないことである。後続の手順においてこれらの偽陽性物を取り除くことができるように、第1の迅速な分析の後で、一般に、別の分析方法、例えば、NMR、IR、HPLC−MSまたはGC−MSが用いられる。この場合も極めて時間がかかる。
【0006】
一般に、検出プロセスの感度および確実性を向上させると、分析のスピードが遅くなると言える。
【0007】
微生物、植物および/または動物からの抽出物などの複合的な生物混合物を扱うとき、分析を行うのに、個々の化合物が極めて少ない量しか混合物中に存在しないか、あるいは、分析に利用可能な個々のサンプル自体が極めて少ない量しかないことも考慮に入れなければならず、そのため、用いられる方法の感度が高くなければならない。さらに、生物サンプル中にしばしば存在する不揮発性緩衝液および/または塩により、一部の分析方法では問題が生じる。というのは、それらが、これらの方法の感度、あるいはこれらの方法を用いること自体に悪影響を及ぼすからである。同じことが、これらのサンプル中に存在する界面活性剤に当てはまる。
【0008】
複合的なサンプル混合物の分析に関して、従来技術では、例えば、合成化学、石油化学からのサンプル、環境サンプル、および生物材料の分析に及ぶ質量分析方法が開示されている。しかし、これらの方法は、これらのサンプル中の個々の既知の化合物の分析にしか用いられない。例えば、HTSの状況、あるいはこれらのサンプル中の大量の化合物の同定および定量化における広範な測定は述べられていない。
【0009】
物質混合物から抽出可能な揮発性の物質に用いられる一方法は、ガス・クロマトグラフィーと質量分析法を組み合わせること(GC−MS)である。容易に気相に移行させることができないか、あるいは単にそれが難しく、そのため存在する大量の過剰な溶媒を除去しなければならない物質または検出物の分析には、液体クロマトグラフィー、または高速液体クロマトグラフィー−質量分析法(HPLC−MS)が用いられる。様々なLC−MS法およびそれらの機器の検討結果が、Niessenらの刊行物(非特許文献1)から得られる。米国文献(特許文献1および2)では、質量分析器およびそれらの構造が記載され、特許請求されている。
【0010】
上記方法を用いて、100kD(キロダルトン)までの分子量範囲の物質を決定することが可能である。すなわち、約5000D(ダルトン)までの比較的質量の範囲が小さい物質では、脂肪酸、アミノ酸、カルボン酸、オリゴまたはポリサッカライド、ステロイドなど、および/または、5000Dよりも大きい比較的質量の範囲が大きい物質では、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、およびオリゴサッカライドその他のポリマーなど、広範囲な物質を決定することが可能である。コール・タール、フミン酸、フルボ酸、またはケローゲン(非特許文献2)など、分子量の大きな材料を分析することも可能である。物質の同定および構造をともに決定することが可能であるが、構造分析には必ずしも曖昧さがないとは言えず、そのため、例えばNMRなど他の方法を用いて確認しなければならない。
【0011】
(非特許文献3)は、LC−MSを用いて、in vitroまたはin vivoで形成された既知構造化合物の代謝生成物をスクリーニングする方法を述べている。これらの代謝生成物は、活性成分形成の様々な相における活性成分としてのものである。この方法は、次の2つのステップで進行する。第1探索ステップでは、迅速な「フル・スキャン・モード」で対象とするイオンを捕捉する。前記イオンは、さらなる検査の候補とし得るものである。これらは、特に強度が大きいイオンに相当するイオン、あるいは、活性成分の可能な分解生成物または代謝生成物の候補である。これらのイオンは、質量分析器の衝突室内で断片化された後、これらのイオンまたは化合物の化学構造を同定する第2スキャンで用いられる。イオンまたは代謝生成物構造を迅速に解明することができるように、衝突室には常に衝突ガスが入っている。この構造決定における欠点は、前駆イオン、断片またはイオン付加物について既知の質量が必要とされることである。有利な点としては、これらの実験では、検査すべき物質の開始構造は、HPLC−MSでは既知であるべきである。完全に構造を決定するにはHPLC−MSだけでは不適切ではあるが、開始化合物の構造が既知なので、任意の代謝生成物の構造について示すことが可能である。活性成分として形成されることになる物質の構造が既知なので、ある確度でこれらの活性成分の未知の代謝生成物の構造について示すことができる。しかし、これは、不純物として存在する同じ質量をもつ他の化合物が重なり合うことがあり得るために複雑にしか示せないか、あるいは全く示すことができない。この方法によって化合物を定量化することは不可能である。
【0012】
利用可能な純粋な物質を含まない物質混合物中の大量の、あるいはすべての個々の成分の同定および定量化には、現在でも依然として質量分析法における未解決の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,540,884号明細書
【特許文献2】米国特許第5,397,894号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Niessen et al., Journal of Chromatography A, 703, 1995: 37〜57
【非特許文献2】Zenobie and Knochenmuss, Mass Spec. Rev., 17, 337-366
【非特許文献3】G. Hopfgartner and F. Vilbois, Analysis, 2001, 28, No. 10, 906-914
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、大量の化合物を分析し、好ましくはそれらを定量化する方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、3連4重極質量分析器を用いて物質混合物を分析する質量分析方法によって達成される。前記物質混合物は分析の前にイオン化される。この方法は、
a)質量分析器の第1分析用4重極(I)におけるイオン化によって形成されたイオンの質量/電荷比(m/z)を選択するステップと、
b)衝突ガスで満たされ、衝突室として機能する後続の別の4重極(II)において加速電圧を印加することによって、ステップ(a)で選択されたイオンを断片化するステップと、
c)さらに下流の4重極(III)において、断片化ステップ(b)によって形成されたイオンの質量/電荷比を選択するステップであって、これらの方法ステップ(a)〜(c)を少なくとも1回実施するステップと、
d)イオン化の結果として物質混合物中に存在するすべてのイオンの質量/電荷比を分析するステップであって、分析中に、4重極(II)は衝突ガスで満たされているが、加速電圧は印加されないステップ
ステップ(a)〜(c)およびステップ(d)は、逆の順序で実行することもできる。
【0017】
本発明の文脈において、物質混合物は、原則的に2つ以上の物質を含むあらゆる混合物を指す。これらの混合物は、例えば、コンビナトリアル・ケミストリからの合成生成物など化学合成物の複合的な反応混合物、あるいは好気性発酵または嫌気性発酵の発酵ブロス、血液などの体液、リンパ液、尿または大便など生物起源の物質混合物、1つまたは複数の遊離または結合の酵素を利用した生物工学合成の反応生成物、異なる器官または組織からの抽出物など動物材料の抽出物、あるいは植物全体または根、茎、葉、花または種子などの個々の器官あるいはそれらの混合物の抽出物などの植物抽出物である。この方法では、動物または植物起源、有利には植物起源の抽出物など生物起源の物質混合物を用いると有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】分析プロセスを示す概略図である。
【図2】MRM+フル・スキャン分析のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図3】MRM+FS分析からのMRM実験のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図4】MRM+FS分析からのMRM実験のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図5】FS実験のTICを示す図である。
【図6】FS実験のTICを示す図である。
【図7】FS実験のTICを示す図である。
【図8】MRM実験のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図9】m/z遷移863.7から197までの抽出クロマトグラム(補酵素Q10)を示す図である。
【図10】m/z遷移585.4から109.1までの抽出クロマトグラム(カプサンシン)を示す図である。
【図11】m/z遷移395.1から91.1までの抽出クロマトグラム(ビキシン)を示す図である。
【図12】FS実験のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図13】信号m/z 518.4からの抽出クロマトグラム(メタノミクス検出物600000038)を示す図である。
【図14】信号m/z 609.2からの抽出クロマトグラム(メタノミクス検出物600000049)を示す図である。
【図15】信号m/z 210.0からの抽出クロマトグラム(メタノミクス検出物600000007)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一般に、この方法で使用可能な質量分析器は、サンプル導入システム、イオン化室、インターフェース、イオン光学系、1つまたは複数の質量フィルタ、および検出器から構成される。
【0020】
この方法でイオンを生成するために、当業者には周知のあらゆるイオン源を原理的に用いることができる。用いられるイオン源に応じて、これらのイオン源は、インターフェースを介して質量分析器の後続のコンポーネント、例えば、イオン光学系、1つまたは複数の質量フィルタあるいは検出器に連結される。インターフェースにより中間を連結すると、遅延なく分析を行うことができるという利点が得られる。さらに、不揮発性および/または揮発性の物質、好ましくは不揮発性の物質を、イオン源を用いて直接気相状態にすることが可能である。そのため、有利なクロマトグラフィー分離によって、分析において物質の流れの幅が異なる物質混合物をあらかじめ精製することも可能である。というのは、このインターフェースにより、これらの物質の流れを処理することができるからである。こうすると、分析すべきサンプルまたはその中に存在する物質を濃縮することもできる。さらに、サンプルの損失が極めて少ない状態で広範囲な溶媒を処理することができる。
【0021】
イオン化において、本質的に以下の3つのプロセスを用いて、帯電粒子(イオン)を生成する。
【0022】
a)例えば、イオン化室内で電子ビームを用いて(10−2Pa未満の)低圧で分子を蒸発させるEI(電子衝撃イオン化法)の場合と同様に、あるいは、約100Paの高圧でイオンが生成される、反応ガスを用いるCI(化学イオン化法)の場合と同様に、物質混合物を蒸発させ、分子または気相の物質混合物をイオン化する。典型的な反応ガスは、例えば、メタン、イソブタン、アンモニウム、アルゴン、または水素である。大気圧で化学イオン化を実施する場合、これをAPCI(大気圧化学イオン化法)と称する。
【0023】
b)例えば、PD(プラズマ脱離法)、LSIMS(液体2次イオン質量分析法)、FAB(高速原子衝撃法)、LD(レーザ脱離法)、またはMALDI(マトリックス支援レーザ脱離イオン化法)などの場合と同様に、表面から物質混合物を脱離させる。これらすべての方法において、物質混合物は、高エネルギー入射粒子(放射性分解、UVフォトン、IRフォトン、アルゴン・イオンまたはセシウム・イオン、レーザ・ビーム)によって衝突カスケードの状態で振動励起されてイオン化する。
【0024】
c)ESI(エレクトロスプレー・イオン化法)の場合と同様に、電界中で物質混合物を霧化する。電界中での物質混合物の霧化では、大気圧でサンプルを霧化する。エレクトロスプレー・イオン化法は、極めて穏やかな方法である。ESIでは、イオンが連続的に形成される。このように連続的にイオンが形成されるので、エレクトロスプレー・イオン化法は、ほとんどすべての検出器のタイプに組み合わせて無理なく連結することができ、かつ、CE(キャピラリ電気泳動)、LC(液体クロマトグラフィー)、またはHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による分離などのクロマトグラフィー分離に何の問題もなくつなげることができるという利点がある。というのは、エレクトロスプレー・イオン化法は、最大2ml/分という大きな流量の溶出液に対して優れた耐性を有するからである。溶出液のスプレー化は、窒素などの霧化ガスによる空気圧で助長される。この目的のために、溶出物の導入キャピラリを取り囲むキャピラリから最大4barr、有利には最大2barrの圧力下でガスを吹き付ける。原理的には、より高い圧力も可能である。上流のクロマトグラフィー分離では、順相(例えば、シリカ・ゲル・カラム、アルミナ・カラム、アミノデオキシヘキシトール・カラム、アミノデオキシ−d−グルコース・カラム、トリエチレンテトラアミン・カラム、酸化ポリエチレン・カラム、またはアミノジカルボキシ・カラム)、および/または逆相カラム、好ましくは、C4、C8、またはC18の固定相を有するカラムなどの逆相カラムが好ましい。標準状態では、エレクトロスプレー技術により、極めて穏やかなイオン化の結果、(疑)分子イオンが得られる。これらは通常、サンプル溶液中にすでに存在するイオン(例えば、陽子、アルカリ金属イオン、および/またはアンモニウム・イオン)を伴う付加物である。多価イオンも検出することができ、そのため、100000ダルトンまでの分子量を有するイオンを検出できることも利点である。有利には、本発明による方法では、1〜10000ダルトンの範囲、好ましくは50〜8000ダルトンの範囲、より好ましくは100〜4000ダルトンの範囲の分子量を検出することが可能である。別の方法の例には、イオン・スプレー・イオン化法、APCI(大気圧イオン化法)、またはサーモスプレー・イオン化法が含まれる。
【0025】
上記イオン化プロセスでは、イオン化プロセスは大気圧下で進行し、本質的に以下の3つの段階に分けられる。まず、2〜10kV、有利には2〜6kVの電位差を導入キャピラリと対向電極の間に印加することによって生成される強い静電界中で分析すべき溶液をスプレーする。導入キャピラリ先端と質量分析器の間の電界は、検出物溶液を貫通し、電界中でイオンを分離する。ポジティブ・モードで、正イオンは液体の表面に、負イオンは反対方向に引きつけられる。あるいは、ポジティブ・モードの測定の場合にはその逆になる。その後、表面に蓄積された正イオンは、カソードの方向にさらに引きつけられる。圧力を加えても検査すべき溶液がキャピラリから外に出ないスプレー・キャピラリ(NanoSpray)を用いると、テイラー・コーンとして知られる液体コーンが形成される。というのは、液体の表面張力が電界に対して反対に作用するからである。電界が十分に強いと、このコーンは安定になり、その注入部で液体の流れを連続的に放出する。(例えばHPLCによる)検査すべき溶液を圧力の助けでスプレーする場合には、テイラー・コーンはそれほど顕著にならない。
【0026】
いずれの場合でも、検出物および溶媒からなるエーロゾルが形成される。後続の段階では、形成された小液の脱溶媒が生じ、この小液が徐々に小さくなり液滴サイズになる。この溶媒の蒸発は、例えば、高温不活性ガスを供給することによる熱作用によって実現される。蒸発と静電力により、内部にスプレーされた物質混合物の液滴の表面で電荷密度が一定の割合で増加する。(レイリー・リミットとして知られる)電荷密度またはその電荷反発力が最終的に液滴の表面張力よりも大きくなると、これらの液滴は爆発して(クーロン爆発)、より小さな副液滴になる。この「溶媒蒸発/クーロン爆発」のプロセスは、イオンが最終的に気相になるまで繰り返し実行される。良好な分析結果を得るためには、インターフェースのガス流量、印加する加熱温度、加熱ガスの流量、霧化ガスの圧力、およびキャピラリ電圧を精確に監視し制御しなければならない。
【0027】
様々なイオン化プロセスにより、1価または多価イオンを生成することができる。本発明による方法では、用いられるイオン化プロセスが、サーモスプレー法、ES(エレクトロスプレー法)、またはAPCI(大気圧化学イオン化法)など、電界中で物質混合物を霧化するプロセスであると有利である。APCIイオン化法では、イオン化はコロナ放電で実施される。サーモスプレー法またはエレクトロスプレー法が好ましいが、エレクトロスプレー法が特に好ましい。イオン化室は、インターフェースを介して、すなわち(100μmの)微小開口を介して後続の質量分析器に結合される。イオン化室の側面には、より大きな開口を有するインターフェース・プレートも装着される。このプレートとオリフィスの間に、窒素などの加熱されたキャリア・ガス(カーテン・ガス)を吹き込む。この窒素は、例えばエレクトロスプレーによって生成されたイオンと衝突する。これらのイオンは、物質混合物中ですでに生成されたものである。有利な方式でカーテン・ガスを吹き込むと、中性粒子が、下流の質量分析器の高真空中に吸い込まれるのが妨げられる。さらに、このカーテン・ガスはイオンの脱溶媒を支援する。
【0028】
本発明による方法は、3連4重極質量分析器など、当業者に周知のあらゆる4重極質量分析器を用いて実施することができる。Paulらの米国特許第2,939,952号明細書には、最初のこのような装置が記載され、特許請求されている。この装置は、m/zが約4000までという有利な質量範囲を有し、500〜約5000という分解能の値を実現する。この装置では、イオン源から検出器までのイオン透過率が高く、収束および較正を行い易く、有利には長時間動作での較正の安定度が高い。3連4重極装置は、低エネルギー衝突による活性化研究用の標準装置である。典型的には、これらの装置は、(約10−5torrの)高真空中でイオン化させた後で物質混合物中に存在するイオンの質量/電荷比(m/z)を分析するのに適した第1の4重極からなり、個々のイオン、または複数のイオン、あるいはすべてのイオンの1つ(または複数)の質量を測定することができる。この第1分析用4重極(IまたはQ1)の前には、一般にイオンを収束するのに使用する1つまたは複数の4重極(Q0)を配置することができる。これら1つ(または複数)の先行する4重極の代わりに、「コーン」、すなわち、複数のレンズすなわちレンズ系を用いてイオンを収束させ、それらを第1分析用4重極に導入することができる。4重極とコーンの組合せもすでに実現されており、それを用いることができる。
【0029】
Q1に続く別の4重極(IIまたはQ2)は衝突室として働く。有利には、その中で、断片化電圧を印加することによってイオンが断片化される。断片化では、5〜11eV(電子ボルト)、好ましくは8〜11eV(電子ボルト)の範囲のイオン化電位が印加される。本発明による方法における断片化では、Q2にはアルゴンまたはヘリウムなどの希ガス、あるいは二酸化炭素または窒素などの別のガス、もしくはアルゴン/ヘリウムまたはアルゴン/窒素など、これらのガスの混合物などの衝突ガスも充填する。コストの理由から、アルゴンおよび/または窒素が好ましい。本発明による方法では、衝突ガスは衝突室内で1×10−5〜1×10−1torr、好ましくは10−2torrの圧力で存在することが好ましい。窒素が特に好ましい。断片化電圧を印加しなくても、衝突ガスの存在下で衝突室内には分離されたイオンの断片が存在し得る。4重極Q1とQ2の間に、イオンを方向づける別の4重極またはコーンを存在させることができる。
【0030】
最後に、衝突室として働く4重極Q2の下流に別の4重極(IIIまたはQ3)を配設する。このQ3では、個々の選択された断片のm/z比か、あるいはイオン化の後で物質混合物中に存在する複数のまたはすべてのm/z比(本出願では簡単にするために1つまたは複数の質量と称する)を求めることができる。4重極Q2とQ3の間に、イオンを方向づける別の4重極またはコーンを存在させることもできる。
【0031】
本発明による方法では、個々の4重極は、イオンを収集するイオン・トラップとしても動作し得る。次いで、このイオン・トラップから、イオンが再度放出されて、ある時間の後で分析を行うことができる。
【0032】
3連4重極質量分析器で用いられる4重極は、生成されたイオンを保持するか、あるいは方向づけることができる3次元電界を生成する。一般に、これらの4重極は、4個、6個、または8個のロッドまたは極からなり、これらを用いて振動する電界の生成を助長し、対向するロッドは電気的に接続される。4重極という用語に加えて、6重極または8重極という用語を用いることもできる。本出願では、4重極という用語を用いるときは、これらの用語も含まれる。イオンが、数ボルト、好ましくは数十ボルトというわずかな加速電圧しか用いずに、3連4重極質量分析器の4重極内で方向づけられると有利である。
【0033】
本発明による方法では、動物または植物の抽出物、好ましくは植物の抽出物などの物質混合物を用いると有利である。
【0034】
本発明による方法では、物質混合物のイオン化の後で以下の別の方法ステップを実行する。
【0035】
I)方法ステップ(a)〜(c)では、Q1におけるイオン化の後で物質混合物中に存在する少なくとも1つのイオンの質量を分析し選択する。その後、この選択されたイオンは、Q2において衝突ガスおよび断片化電圧の存在下で断片化され、次いで、これら形成された断片イオンの1つが、別の分析用4重極Q3内で同定され、有利には定量化も行われる。この分析すべき断片イオンは、このイオンが有利には高強度および容易に同定可能な特徴の質量を有し、またこの方法の有利な実施形態において簡単に定量化を行うことができるように選択される。
【0036】
II)その後、方法ステップ(d)で、イオン化後に物質混合物中に存在するすべてのイオンの質量を分析する。この場合、衝突室として使用される4重極Q2には常に衝突ガスを充填されているが、方法ステップ(d)ではQ2には断片化電圧は印加しない。この分析は原理的には、Q2およびQ3で実施し得るが、Q3で分析するほうがより有利である。というのは、衝突室として使用される4重極Q2は、Q1と、質量分析器の下流の検出器の間に配設されるからである。断片化電圧が印加されないにも関わらずQ2で断片化が生じても、このような断片化が生じても、検出器でイオン質量を捕捉し得ることに対する影響はない。しかし、Q1を使用する質量分析の場合には、Q2におけるこのような断片化により、誤った検出結果につながることになる。したがって、Q3を使用する質量検出が好ましい。というのは、可能な誤差源がなくなるか、あるいは無視できる程度になるからである。
【0037】
上記で詳細に述べた方法ステップ(I)および(II)は、逆の順序でも実施することができる。本発明による方法の推移は図1から得られる。本発明による方法では、方法ステップ(b)〜(d)および(e)は、0.1秒〜10秒以内に少なくとも1回、好ましくは0.2秒〜6秒以内に少なくとも1回、より好ましくは0.2秒〜2秒以内、最も好ましくは0.3秒〜2秒未満の範囲で少なくとも1回実施すると有利である。結果の統計学的評価を有利に行うことができるように、これらの方法ステップを、0.2〜6秒以内に2〜3回、好ましくは3回実施する。このような迅速な測定を連続して迅速に行うことができるように、衝突室として機能する4重極Q2に常に衝突ガスを満たす。社内での測定値が示しているように、こうしても測定値の再現性に対する悪影響はない。
【0038】
本発明による方法では分析中に、ステップ(a)で形成され選択された様々なイオンのうち、質量/電荷比が1〜100のものを分析することができる。比が少なくとも20m/z、好ましくは比が少なくとも40m/z、より好ましくは比が少なくとも60m/z、最も好ましくは比が少なくとも80m/zの様々なイオンその他を同定し、かつ/または定量化すると有利である。
【0039】
本発明による方法を用いて、物質混合物に存在するすべての質量の分析に加えて、個々の物質またはそれらの質量を分析し、かつ有利には定量化することも可能であると有利である。
【0040】
本発明による方法では、物質混合物の精製は原理的には必要とされない。これらの物質混合物は、イオン源への導入後、直接分析することができる。これは複合的な物質混合物にも当てはまる。これらの物質混合物に、内標準として、混合物中に存在し得る物質のうち任意の標識した、あるいは無標識の純粋な物質を付加することも不必要であるが、こうすることはもちろん可能であり、それによって、混合物中に存在する物質の後続の定量化が簡略化される。
【0041】
ただし、クロマトグラフィー法など、当業者には周知のプロセスによる精製が有利である。本発明による方法において好ましいイオン化方法に基づいて、電界中で物質混合物を霧化することによって、極めて簡単なやり方で、例えばクロマトグラフィーによる物質混合物の精製および/または事前精製を質量分析法による分析に結びつけることが可能である。用いられるクロマトグラフィー法は、LC、HPLC、またはキャピラリ電気泳動など、当業者に周知のあらゆる分離方法とし得る。吸着、ゲル浸透、イオン対、イオン交換、排除、親和性、順相または逆相クロマトグラフィーに基づく分離プロセスを用いることができるが、これらはほんの一例である。順相および/または逆相に基づくクロマトグラフィー、好ましくは、C4、C8またはC18相などの様々な改変された疎水性の材料を有する逆相カラムを用いると有利である。
【0042】
本発明による方法では、例えば、精製プロセス、有利にはクロマトグラフィー法と、溶出物(検出物と溶媒を合わせたもの)の流量とを結びつけることが可能である。溶出物の流量は、有利には1μl/分〜2000μl/分、好ましくは5μl/分〜600μl/分、より好ましくは10μl/分〜500μl/分とする。本発明による方法では無理なく、これらの流量よりも多くして用いることもできるし、少なくして用いることもできる。
【0043】
精製プロセスに用いられる溶媒は原理上、後続の分析に適合する任意のプロトン性または非プロトン性、有極性または非極性の溶媒とし得る。ある溶媒が質量分析法に適合するかどうかは、当業者による簡単な抜取り検査によって容易に決定することができる。適切な溶媒は、例えば、低比誘電率(Eτ<15)、低双極子モーメント(μ<2.5D)、および低ETN値(0.0〜0.5)によって特徴づけられる非プロトン性非極性溶媒など、電荷をもっているとしてもそれが少ない溶媒である。しかし、双極性有機溶媒またはそれらの混合物も、本発明による方法の溶媒として適切である。ここで適切な溶媒の例は、メタノール、エタノール、アセトニトリル、エーテル、ヘプタンである。0.01〜0.1%のギ酸、酢酸、またはトリフルオロ酢酸などの弱い酸性溶媒も適切である。さらに、0.01〜0.1%のトリエチルアミン、またはアンモニアなどの弱い塩基性溶媒も適切である。5%塩酸または5%トリエチルアミンなど、強い酸性または強い塩基性溶媒も溶媒として原理上適切である。上記溶媒の混合物も有利である。生化学で普通に使われる緩衝液も溶媒として適切であり、200mM未満、好ましくは100mM未満、より好ましくは50mm未満、最も好ましくは20mM未満の緩衝液を用いるのが有利である。物質混合物の調製に100mMよりも濃い緩衝液を用いるときに、例えば透析によって緩衝液を完全にまたは部分的に除去するとさらに有利である。緩衝液の例には、例えば、アセテート、ホルメート、ホスフェート、トリス、MOPS、HEPES、またはそれらの混合物が含まれる。緩衝液および/または塩の濃度が高いと、イオン化プロセスに悪影響を及ぼすので、場合によっては避けるべきである。
【0044】
本発明による方法では、100D(ダルトン)〜100kD(キロダルトン)、好ましくは100D〜20kD、より好ましくは100D〜10kD、最も好ましくは100D〜2000Dの物質混合物中に存在する分子を検出すなわち同定することが可能であり、適切な場合には定量化することも可能である。
【0045】
本発明による方法に用いる物質混合物が、可能だとしても普通なら検出するのが難しい場合、分析前にそれを誘導体化して最後に分析すると有利である。この誘導体化は、有利にはイオン性官能基を有したままである親水基を、疎水性または揮発性化合物、例えば、エステル、アミド、ラクトン、アルデヒド、ケトン、アルコールなどに導入する場合に特に有利である。このような誘導体化の例は、例えば対称または混合無水物による、アルデヒドまたはケトンからオキシム、ヒトラゾンまたはその誘導体への転換、あるいはアルコールからエステルへの転換である。これにより、この方法の検出スペクトルを広げることができると有利である。
【0046】
物質混合物を分析する本発明による方法では、例えば、ペプチド、アミノ酸、補酵素、糖、アルコール、共役アルケン、有機酸または有機塩基などの内標準を付加すると有利である。有利には、この内標準により、混合物中の化合物を定量化することができる。そのため、物質混合物中に存在する物質をより容易に分析し、最終的に定量化することができる。
【0047】
用いられる内標準が標識した物質であると有利であるが、無標識物質も原理的に内標準として用いることができる。このような類似の化学化合物は、例えば、構成要素のうち例えば追加のメチレン基だけが異なる一連の相同な化合物である。好ましくは、用いられる内標準は、2H、13C、15N、17O、18O、33S、34S、36S、35Cl、37Cl、29Si、30Si、74Se、またはそれらの混合物の群から選択された少なくとも1つの同位体によって標識された物質である。コストの理由および入手のし易さの理由から、用いられる同位体は2Hまたは13Cが好ましい。分析を行うのに、これらの内標準を完全に標識する必要はない。部分的に標識すれば十分である。また、標識した内標準の場合には、分析すべき混合物中の物質に対して極めて高い相同性を有する物質、すなわち、分析すべき化学化合物に構造的に類似した物質を選択すると有利である。構造上の類似性が大きいほど、分析結果が良好になり、この化合物をより精確に定量化することができる。
【0048】
本発明による方法では、特に混合物中に存在する物質の定量化の場合、分析すべき物質に対する内標準の比が好ましいものであると有利である。検出物(決定すべき化合物)と内標準の比を1:15よりも大きくすることは原理上可能であるが、分析結果は全く改善しない。検出物と内標準の比を10:1〜6:1の範囲、好ましくは6:1〜4:1の範囲、より好ましくは2:1〜1:1の範囲に設定すると有利である。
【0049】
本発明による方法では、物質混合物サンプルは、手作業で、あるいは有利には普通に用いられる実験室用ロボットによって自動的に調製することができる。任意のクロマトグラフィー分離後の質量分析器による分析も、手作業で、あるいは有利には自動的に行うことができる。本発明による方法を自動化することにより、ハイ・スループット・スクリーニングにおいて、植物抽出物など様々な物質混合物の迅速なスクリーニングに質量分析法を有利に用いることができる。本発明による方法は、サンプルの消費量が極めて少ない状態で、感度が高く、定量可能性に優れており、再現性に極めて優れていることを特徴とする。したがって、この方法を用いて、例えば突然変異誘発後の既知または未知の酵素活性による新規の変異体など、生物起源の混合物を迅速に見つけることもできる。この突然変異誘発の例には、NTGなどの化学的な作用物質、紫外線またはX線などの放射を利用する古典的な突然変異生成、あるいは、部位特異的突然変異誘発、PCR突然変異誘発、トランスポゾン突然変異誘発、または遺伝子シャッフリングがある。
【0050】
本発明による方法により、分解能が良好〜極めて良好の範囲にあり、イオン源から検出器へのイオン透過率が高く、物質混合物中のすべての物質のフル・スキャン・モードおよび複数反応モニタリング・モード(MRM、方法ステップ(a)〜(c))のいずれにおいてもスキャン速度が速い状態で、広い分析範囲の広範囲な物質を分析することができる。さらに、この方法は、取込み感度が非常に高く、較正安定性が極めて優れている。さらに、この方法は、長時間動作に極めて適しており、そのため、HTSスクリーニングに用いられる。
【0051】
下記の実施例によって本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0052】
MRM+FS分析の例
a)MRM+FS分析のTIC
図2に、MRM+フル・スキャン分析の全イオン・クロマトグラムを示す(ただし、MRMは複数反応モニタリング、FSはフル・スキャン、TICは全イオン・クロマトグラム、XITは複数の全イオン・クロマトグラムの合計である)。品質管理サンプルを分析した。このタイプのサンプルは、規定数の検出物を含む。これらの検出物は市販品であり、それらを既知濃度の適切な溶媒に溶解させた。
【0053】
図2で選択した分析のグラフに、MRM(複数反応モニタリング)およびFS(フル・スキャン)の2種類の質量分析法による実験から、特定の時間(x軸)に検出器で測定された強度合計(y軸)を示す。したがって、図2のクロマトグラムは、2種類の上記質量分析法による実験のTICクロマトグラムを合わせたものになる。
【0054】
b)MRM実験のTICおよびFS実験のTIC
図3に、MRM+FS分析からのMRM実験の全イオン・クロマトグラムを示す。
【0055】
図3で選択したMRM分析のグラフに、このMRM実験のあらかじめ規定したすべての質量遷移から、特定の時間(x軸)に検出器で測定された強度合計(y軸)を示す。図4で選択したグラフに、1組の軸に関する個々の質量遷移(ここでは30個)の特定の分析結果を示す。
【0056】
c)FS実験のTIC
図5のTICに、MRM実験に変えて測定したFS実験を示す。
【0057】
図6に、FS実験のTICを示す。図7に、ハッチングで示す時間ウインドウ中に記録したすべてのFS質量スペクトルの合計を示す。
【0058】
d)MRM実験のTIC
図2の場合と同様に、図8に、MRM+フル・スキャン分析の全イオン・クロマトグラムを示す。較正サンプルを分析した。
【0059】
図8で選択した分析のグラフに、複数反応モニタリングの質量分析実験から、特定の時間(x軸)に検出器で測定された強度合計(y軸)を示す。
【0060】
図9は、補酵素Q10が同定された抽出クロマトグラムを再現したものである。
【0061】
図10および図11はそれぞれ、カプサンシンおよびビキシンの同定を再現したものである。
【0062】
図12は、植物抽出物のフル・スキャンの全イオン・クロマトグラムを再現したものである。
【0063】
図13〜図15に、抽出クロマトグラム中の様々な検出物の質量を示す。さらに、これらの質量を特定の構造に割り当てなければならない。
【0064】
以上説明した方法で、これまでのところ200個の別の検出物を選択的に検出することができた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、3連4重極質量分析器を用いて物質の混合物を分析する質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物および/または化学起源の複合的な物質混合物の分析では、分析者には、混合物中に存在する個々の物質の構造を同定する作業だけでなく、可能であれば、混合物中に存在するすべての物質を捕捉し、それらを定量化するという問題が常につきまとう。これは、極めて迅速かつ高精度に、すなわち誤りの偏差を小さくして進行させるべきである。これは、例えば、ある種の発酵条件下で成長させた微生物、または様々な環境条件下で成長させた植物、あるいは微生物または植物などの遺伝子操作した変異体と比較したそれら微生物または植物の野生型生物など、生物系に関する情報を得ようとするときにますます重要になる。このような比較は、これらの生物のゲノム中の未知の遺伝子の変異体を、ある種の代謝表現型に割り当てることができるようにするのに必要である。
【0003】
コンビナトリアル・ケミストリからの化学合成混合物、あるいは微生物、植物または植物の部分からの抽出物からの化学合成混合物など、これらの物質混合物の分析が成功するかどうかは、用いられる分析の迅速性および再現性に大きく依存する。このようなスクリーニングでは、大量のサンプルを綿密に検査しなければならず、したがって、迅速で、簡単で、極めて高感度かつ極めて特異的な分析方法が求められる。
【0004】
こうした分析の主な問題は、混合物中に存在する物質を、迅速に、簡単に、再現性よく、かつ定量可能に同定することである。一般に、これらの生成物は、TLC(薄層クロマトグラフィー)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、またはGC(ガス・クロマトグラフィー)などの分離プロセスを用いて分析する。しかし、これらのクロマトグラフィー法を用いて、迅速かつ簡単に広範囲の物質を同定し定量化することは不可能である。このような作業を行うために、NMR法または質量分析法などの方法も述べられている。ただし、これらの分析方法では一般に、サンプルをある程度調製することが求められる。この調製とは、例えば、サンプルの塩析沈殿および/またはその後のクロマトグラフィー、濃縮、脱塩、サンプル中に存在する緩衝液の交換または洗浄剤の除去などによる処理である。このような前処理の後で、これらのサンプルを用いて上記分析を行うことができ、選択されたサンプル中の個々の物質を同定し定量することが可能である。しかし、これらのプロセスは、時間がかかり、サンプルの処理量も制限されたものしか得られず、そのため、このような分析方法は、HTS(ハイ・スループット・スクリーニング)、あるいは生物または化学サンプル中の物質混合物の広範なスクリーニングでは用いられない。NMR法やIR分光法など、極めて精確な方法の利点は、構造に関する情報と、場合によっては物質の量に関する情報がともに得られることである。
【0005】
HTSにおいてサンプルの処理量をより多くすることができるように、多くの場合、間接的かつ容易に測定可能なプロセス、例えば、可視領域の呈色反応、曇り度測定、蛍光、導電率測定などが用いられる。これらは原理上極めて高感度であるが、誤りも生じ易い。特にこのような場合の欠点は、このような手順では多数の偽陽性サンプルが分析されることと、これらは間接的な検出プロセスなので、化合物の構造および/または量についての情報がないことである。後続の手順においてこれらの偽陽性物を取り除くことができるように、第1の迅速な分析の後で、一般に、別の分析方法、例えば、NMR、IR、HPLC−MSまたはGC−MSが用いられる。この場合も極めて時間がかかる。
【0006】
一般に、検出プロセスの感度および確実性を向上させると、分析のスピードが遅くなると言える。
【0007】
微生物、植物および/または動物からの抽出物などの複合的な生物混合物を扱うとき、分析を行うのに、個々の化合物が極めて少ない量しか混合物中に存在しないか、あるいは、分析に利用可能な個々のサンプル自体が極めて少ない量しかないことも考慮に入れなければならず、そのため、用いられる方法の感度が高くなければならない。さらに、生物サンプル中にしばしば存在する不揮発性緩衝液および/または塩により、一部の分析方法では問題が生じる。というのは、それらが、これらの方法の感度、あるいはこれらの方法を用いること自体に悪影響を及ぼすからである。同じことが、これらのサンプル中に存在する界面活性剤に当てはまる。
【0008】
複合的なサンプル混合物の分析に関して、従来技術では、例えば、合成化学、石油化学からのサンプル、環境サンプル、および生物材料の分析に及ぶ質量分析方法が開示されている。しかし、これらの方法は、これらのサンプル中の個々の既知の化合物の分析にしか用いられない。例えば、HTSの状況、あるいはこれらのサンプル中の大量の化合物の同定および定量化における広範な測定は述べられていない。
【0009】
物質混合物から抽出可能な揮発性の物質に用いられる一方法は、ガス・クロマトグラフィーと質量分析法を組み合わせること(GC−MS)である。容易に気相に移行させることができないか、あるいは単にそれが難しく、そのため存在する大量の過剰な溶媒を除去しなければならない物質または検出物の分析には、液体クロマトグラフィー、または高速液体クロマトグラフィー−質量分析法(HPLC−MS)が用いられる。様々なLC−MS法およびそれらの機器の検討結果が、Niessenらの刊行物(非特許文献1)から得られる。米国文献(特許文献1および2)では、質量分析器およびそれらの構造が記載され、特許請求されている。
【0010】
上記方法を用いて、100kD(キロダルトン)までの分子量範囲の物質を決定することが可能である。すなわち、約5000D(ダルトン)までの比較的質量の範囲が小さい物質では、脂肪酸、アミノ酸、カルボン酸、オリゴまたはポリサッカライド、ステロイドなど、および/または、5000Dよりも大きい比較的質量の範囲が大きい物質では、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、およびオリゴサッカライドその他のポリマーなど、広範囲な物質を決定することが可能である。コール・タール、フミン酸、フルボ酸、またはケローゲン(非特許文献2)など、分子量の大きな材料を分析することも可能である。物質の同定および構造をともに決定することが可能であるが、構造分析には必ずしも曖昧さがないとは言えず、そのため、例えばNMRなど他の方法を用いて確認しなければならない。
【0011】
(非特許文献3)は、LC−MSを用いて、in vitroまたはin vivoで形成された既知構造化合物の代謝生成物をスクリーニングする方法を述べている。これらの代謝生成物は、活性成分形成の様々な相における活性成分としてのものである。この方法は、次の2つのステップで進行する。第1探索ステップでは、迅速な「フル・スキャン・モード」で対象とするイオンを捕捉する。前記イオンは、さらなる検査の候補とし得るものである。これらは、特に強度が大きいイオンに相当するイオン、あるいは、活性成分の可能な分解生成物または代謝生成物の候補である。これらのイオンは、質量分析器の衝突室内で断片化された後、これらのイオンまたは化合物の化学構造を同定する第2スキャンで用いられる。イオンまたは代謝生成物構造を迅速に解明することができるように、衝突室には常に衝突ガスが入っている。この構造決定における欠点は、前駆イオン、断片またはイオン付加物について既知の質量が必要とされることである。有利な点としては、これらの実験では、検査すべき物質の開始構造は、HPLC−MSでは既知であるべきである。完全に構造を決定するにはHPLC−MSだけでは不適切ではあるが、開始化合物の構造が既知なので、任意の代謝生成物の構造について示すことが可能である。活性成分として形成されることになる物質の構造が既知なので、ある確度でこれらの活性成分の未知の代謝生成物の構造について示すことができる。しかし、これは、不純物として存在する同じ質量をもつ他の化合物が重なり合うことがあり得るために複雑にしか示せないか、あるいは全く示すことができない。この方法によって化合物を定量化することは不可能である。
【0012】
利用可能な純粋な物質を含まない物質混合物中の大量の、あるいはすべての個々の成分の同定および定量化には、現在でも依然として質量分析法における未解決の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,540,884号明細書
【特許文献2】米国特許第5,397,894号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Niessen et al., Journal of Chromatography A, 703, 1995: 37〜57
【非特許文献2】Zenobie and Knochenmuss, Mass Spec. Rev., 17, 337-366
【非特許文献3】G. Hopfgartner and F. Vilbois, Analysis, 2001, 28, No. 10, 906-914
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、大量の化合物を分析し、好ましくはそれらを定量化する方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、3連4重極質量分析器を用いて物質混合物を分析する質量分析方法によって達成される。前記物質混合物は分析の前にイオン化される。この方法は、
a)質量分析器の第1分析用4重極(I)におけるイオン化によって形成されたイオンの質量/電荷比(m/z)を選択するステップと、
b)衝突ガスで満たされ、衝突室として機能する後続の別の4重極(II)において加速電圧を印加することによって、ステップ(a)で選択されたイオンを断片化するステップと、
c)さらに下流の4重極(III)において、断片化ステップ(b)によって形成されたイオンの質量/電荷比を選択するステップであって、これらの方法ステップ(a)〜(c)を少なくとも1回実施するステップと、
d)イオン化の結果として物質混合物中に存在するすべてのイオンの質量/電荷比を分析するステップであって、分析中に、4重極(II)は衝突ガスで満たされているが、加速電圧は印加されないステップ
ステップ(a)〜(c)およびステップ(d)は、逆の順序で実行することもできる。
【0017】
本発明の文脈において、物質混合物は、原則的に2つ以上の物質を含むあらゆる混合物を指す。これらの混合物は、例えば、コンビナトリアル・ケミストリからの合成生成物など化学合成物の複合的な反応混合物、あるいは好気性発酵または嫌気性発酵の発酵ブロス、血液などの体液、リンパ液、尿または大便など生物起源の物質混合物、1つまたは複数の遊離または結合の酵素を利用した生物工学合成の反応生成物、異なる器官または組織からの抽出物など動物材料の抽出物、あるいは植物全体または根、茎、葉、花または種子などの個々の器官あるいはそれらの混合物の抽出物などの植物抽出物である。この方法では、動物または植物起源、有利には植物起源の抽出物など生物起源の物質混合物を用いると有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】分析プロセスを示す概略図である。
【図2】MRM+フル・スキャン分析のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図3】MRM+FS分析からのMRM実験のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図4】MRM+FS分析からのMRM実験のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図5】FS実験のTICを示す図である。
【図6】FS実験のTICを示す図である。
【図7】FS実験のTICを示す図である。
【図8】MRM実験のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図9】m/z遷移863.7から197までの抽出クロマトグラム(補酵素Q10)を示す図である。
【図10】m/z遷移585.4から109.1までの抽出クロマトグラム(カプサンシン)を示す図である。
【図11】m/z遷移395.1から91.1までの抽出クロマトグラム(ビキシン)を示す図である。
【図12】FS実験のTIC(全イオン・クロマトグラム)を示す図である。
【図13】信号m/z 518.4からの抽出クロマトグラム(メタノミクス検出物600000038)を示す図である。
【図14】信号m/z 609.2からの抽出クロマトグラム(メタノミクス検出物600000049)を示す図である。
【図15】信号m/z 210.0からの抽出クロマトグラム(メタノミクス検出物600000007)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一般に、この方法で使用可能な質量分析器は、サンプル導入システム、イオン化室、インターフェース、イオン光学系、1つまたは複数の質量フィルタ、および検出器から構成される。
【0020】
この方法でイオンを生成するために、当業者には周知のあらゆるイオン源を原理的に用いることができる。用いられるイオン源に応じて、これらのイオン源は、インターフェースを介して質量分析器の後続のコンポーネント、例えば、イオン光学系、1つまたは複数の質量フィルタあるいは検出器に連結される。インターフェースにより中間を連結すると、遅延なく分析を行うことができるという利点が得られる。さらに、不揮発性および/または揮発性の物質、好ましくは不揮発性の物質を、イオン源を用いて直接気相状態にすることが可能である。そのため、有利なクロマトグラフィー分離によって、分析において物質の流れの幅が異なる物質混合物をあらかじめ精製することも可能である。というのは、このインターフェースにより、これらの物質の流れを処理することができるからである。こうすると、分析すべきサンプルまたはその中に存在する物質を濃縮することもできる。さらに、サンプルの損失が極めて少ない状態で広範囲な溶媒を処理することができる。
【0021】
イオン化において、本質的に以下の3つのプロセスを用いて、帯電粒子(イオン)を生成する。
【0022】
a)例えば、イオン化室内で電子ビームを用いて(10−2Pa未満の)低圧で分子を蒸発させるEI(電子衝撃イオン化法)の場合と同様に、あるいは、約100Paの高圧でイオンが生成される、反応ガスを用いるCI(化学イオン化法)の場合と同様に、物質混合物を蒸発させ、分子または気相の物質混合物をイオン化する。典型的な反応ガスは、例えば、メタン、イソブタン、アンモニウム、アルゴン、または水素である。大気圧で化学イオン化を実施する場合、これをAPCI(大気圧化学イオン化法)と称する。
【0023】
b)例えば、PD(プラズマ脱離法)、LSIMS(液体2次イオン質量分析法)、FAB(高速原子衝撃法)、LD(レーザ脱離法)、またはMALDI(マトリックス支援レーザ脱離イオン化法)などの場合と同様に、表面から物質混合物を脱離させる。これらすべての方法において、物質混合物は、高エネルギー入射粒子(放射性分解、UVフォトン、IRフォトン、アルゴン・イオンまたはセシウム・イオン、レーザ・ビーム)によって衝突カスケードの状態で振動励起されてイオン化する。
【0024】
c)ESI(エレクトロスプレー・イオン化法)の場合と同様に、電界中で物質混合物を霧化する。電界中での物質混合物の霧化では、大気圧でサンプルを霧化する。エレクトロスプレー・イオン化法は、極めて穏やかな方法である。ESIでは、イオンが連続的に形成される。このように連続的にイオンが形成されるので、エレクトロスプレー・イオン化法は、ほとんどすべての検出器のタイプに組み合わせて無理なく連結することができ、かつ、CE(キャピラリ電気泳動)、LC(液体クロマトグラフィー)、またはHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による分離などのクロマトグラフィー分離に何の問題もなくつなげることができるという利点がある。というのは、エレクトロスプレー・イオン化法は、最大2ml/分という大きな流量の溶出液に対して優れた耐性を有するからである。溶出液のスプレー化は、窒素などの霧化ガスによる空気圧で助長される。この目的のために、溶出物の導入キャピラリを取り囲むキャピラリから最大4barr、有利には最大2barrの圧力下でガスを吹き付ける。原理的には、より高い圧力も可能である。上流のクロマトグラフィー分離では、順相(例えば、シリカ・ゲル・カラム、アルミナ・カラム、アミノデオキシヘキシトール・カラム、アミノデオキシ−d−グルコース・カラム、トリエチレンテトラアミン・カラム、酸化ポリエチレン・カラム、またはアミノジカルボキシ・カラム)、および/または逆相カラム、好ましくは、C4、C8、またはC18の固定相を有するカラムなどの逆相カラムが好ましい。標準状態では、エレクトロスプレー技術により、極めて穏やかなイオン化の結果、(疑)分子イオンが得られる。これらは通常、サンプル溶液中にすでに存在するイオン(例えば、陽子、アルカリ金属イオン、および/またはアンモニウム・イオン)を伴う付加物である。多価イオンも検出することができ、そのため、100000ダルトンまでの分子量を有するイオンを検出できることも利点である。有利には、本発明による方法では、1〜10000ダルトンの範囲、好ましくは50〜8000ダルトンの範囲、より好ましくは100〜4000ダルトンの範囲の分子量を検出することが可能である。別の方法の例には、イオン・スプレー・イオン化法、APCI(大気圧イオン化法)、またはサーモスプレー・イオン化法が含まれる。
【0025】
上記イオン化プロセスでは、イオン化プロセスは大気圧下で進行し、本質的に以下の3つの段階に分けられる。まず、2〜10kV、有利には2〜6kVの電位差を導入キャピラリと対向電極の間に印加することによって生成される強い静電界中で分析すべき溶液をスプレーする。導入キャピラリ先端と質量分析器の間の電界は、検出物溶液を貫通し、電界中でイオンを分離する。ポジティブ・モードで、正イオンは液体の表面に、負イオンは反対方向に引きつけられる。あるいは、ポジティブ・モードの測定の場合にはその逆になる。その後、表面に蓄積された正イオンは、カソードの方向にさらに引きつけられる。圧力を加えても検査すべき溶液がキャピラリから外に出ないスプレー・キャピラリ(NanoSpray)を用いると、テイラー・コーンとして知られる液体コーンが形成される。というのは、液体の表面張力が電界に対して反対に作用するからである。電界が十分に強いと、このコーンは安定になり、その注入部で液体の流れを連続的に放出する。(例えばHPLCによる)検査すべき溶液を圧力の助けでスプレーする場合には、テイラー・コーンはそれほど顕著にならない。
【0026】
いずれの場合でも、検出物および溶媒からなるエーロゾルが形成される。後続の段階では、形成された小液の脱溶媒が生じ、この小液が徐々に小さくなり液滴サイズになる。この溶媒の蒸発は、例えば、高温不活性ガスを供給することによる熱作用によって実現される。蒸発と静電力により、内部にスプレーされた物質混合物の液滴の表面で電荷密度が一定の割合で増加する。(レイリー・リミットとして知られる)電荷密度またはその電荷反発力が最終的に液滴の表面張力よりも大きくなると、これらの液滴は爆発して(クーロン爆発)、より小さな副液滴になる。この「溶媒蒸発/クーロン爆発」のプロセスは、イオンが最終的に気相になるまで繰り返し実行される。良好な分析結果を得るためには、インターフェースのガス流量、印加する加熱温度、加熱ガスの流量、霧化ガスの圧力、およびキャピラリ電圧を精確に監視し制御しなければならない。
【0027】
様々なイオン化プロセスにより、1価または多価イオンを生成することができる。本発明による方法では、用いられるイオン化プロセスが、サーモスプレー法、ES(エレクトロスプレー法)、またはAPCI(大気圧化学イオン化法)など、電界中で物質混合物を霧化するプロセスであると有利である。APCIイオン化法では、イオン化はコロナ放電で実施される。サーモスプレー法またはエレクトロスプレー法が好ましいが、エレクトロスプレー法が特に好ましい。イオン化室は、インターフェースを介して、すなわち(100μmの)微小開口を介して後続の質量分析器に結合される。イオン化室の側面には、より大きな開口を有するインターフェース・プレートも装着される。このプレートとオリフィスの間に、窒素などの加熱されたキャリア・ガス(カーテン・ガス)を吹き込む。この窒素は、例えばエレクトロスプレーによって生成されたイオンと衝突する。これらのイオンは、物質混合物中ですでに生成されたものである。有利な方式でカーテン・ガスを吹き込むと、中性粒子が、下流の質量分析器の高真空中に吸い込まれるのが妨げられる。さらに、このカーテン・ガスはイオンの脱溶媒を支援する。
【0028】
本発明による方法は、3連4重極質量分析器など、当業者に周知のあらゆる4重極質量分析器を用いて実施することができる。Paulらの米国特許第2,939,952号明細書には、最初のこのような装置が記載され、特許請求されている。この装置は、m/zが約4000までという有利な質量範囲を有し、500〜約5000という分解能の値を実現する。この装置では、イオン源から検出器までのイオン透過率が高く、収束および較正を行い易く、有利には長時間動作での較正の安定度が高い。3連4重極装置は、低エネルギー衝突による活性化研究用の標準装置である。典型的には、これらの装置は、(約10−5torrの)高真空中でイオン化させた後で物質混合物中に存在するイオンの質量/電荷比(m/z)を分析するのに適した第1の4重極からなり、個々のイオン、または複数のイオン、あるいはすべてのイオンの1つ(または複数)の質量を測定することができる。この第1分析用4重極(IまたはQ1)の前には、一般にイオンを収束するのに使用する1つまたは複数の4重極(Q0)を配置することができる。これら1つ(または複数)の先行する4重極の代わりに、「コーン」、すなわち、複数のレンズすなわちレンズ系を用いてイオンを収束させ、それらを第1分析用4重極に導入することができる。4重極とコーンの組合せもすでに実現されており、それを用いることができる。
【0029】
Q1に続く別の4重極(IIまたはQ2)は衝突室として働く。有利には、その中で、断片化電圧を印加することによってイオンが断片化される。断片化では、5〜11eV(電子ボルト)、好ましくは8〜11eV(電子ボルト)の範囲のイオン化電位が印加される。本発明による方法における断片化では、Q2にはアルゴンまたはヘリウムなどの希ガス、あるいは二酸化炭素または窒素などの別のガス、もしくはアルゴン/ヘリウムまたはアルゴン/窒素など、これらのガスの混合物などの衝突ガスも充填する。コストの理由から、アルゴンおよび/または窒素が好ましい。本発明による方法では、衝突ガスは衝突室内で1×10−5〜1×10−1torr、好ましくは10−2torrの圧力で存在することが好ましい。窒素が特に好ましい。断片化電圧を印加しなくても、衝突ガスの存在下で衝突室内には分離されたイオンの断片が存在し得る。4重極Q1とQ2の間に、イオンを方向づける別の4重極またはコーンを存在させることができる。
【0030】
最後に、衝突室として働く4重極Q2の下流に別の4重極(IIIまたはQ3)を配設する。このQ3では、個々の選択された断片のm/z比か、あるいはイオン化の後で物質混合物中に存在する複数のまたはすべてのm/z比(本出願では簡単にするために1つまたは複数の質量と称する)を求めることができる。4重極Q2とQ3の間に、イオンを方向づける別の4重極またはコーンを存在させることもできる。
【0031】
本発明による方法では、個々の4重極は、イオンを収集するイオン・トラップとしても動作し得る。次いで、このイオン・トラップから、イオンが再度放出されて、ある時間の後で分析を行うことができる。
【0032】
3連4重極質量分析器で用いられる4重極は、生成されたイオンを保持するか、あるいは方向づけることができる3次元電界を生成する。一般に、これらの4重極は、4個、6個、または8個のロッドまたは極からなり、これらを用いて振動する電界の生成を助長し、対向するロッドは電気的に接続される。4重極という用語に加えて、6重極または8重極という用語を用いることもできる。本出願では、4重極という用語を用いるときは、これらの用語も含まれる。イオンが、数ボルト、好ましくは数十ボルトというわずかな加速電圧しか用いずに、3連4重極質量分析器の4重極内で方向づけられると有利である。
【0033】
本発明による方法では、動物または植物の抽出物、好ましくは植物の抽出物などの物質混合物を用いると有利である。
【0034】
本発明による方法では、物質混合物のイオン化の後で以下の別の方法ステップを実行する。
【0035】
I)方法ステップ(a)〜(c)では、Q1におけるイオン化の後で物質混合物中に存在する少なくとも1つのイオンの質量を分析し選択する。その後、この選択されたイオンは、Q2において衝突ガスおよび断片化電圧の存在下で断片化され、次いで、これら形成された断片イオンの1つが、別の分析用4重極Q3内で同定され、有利には定量化も行われる。この分析すべき断片イオンは、このイオンが有利には高強度および容易に同定可能な特徴の質量を有し、またこの方法の有利な実施形態において簡単に定量化を行うことができるように選択される。
【0036】
II)その後、方法ステップ(d)で、イオン化後に物質混合物中に存在するすべてのイオンの質量を分析する。この場合、衝突室として使用される4重極Q2には常に衝突ガスを充填されているが、方法ステップ(d)ではQ2には断片化電圧は印加しない。この分析は原理的には、Q2およびQ3で実施し得るが、Q3で分析するほうがより有利である。というのは、衝突室として使用される4重極Q2は、Q1と、質量分析器の下流の検出器の間に配設されるからである。断片化電圧が印加されないにも関わらずQ2で断片化が生じても、このような断片化が生じても、検出器でイオン質量を捕捉し得ることに対する影響はない。しかし、Q1を使用する質量分析の場合には、Q2におけるこのような断片化により、誤った検出結果につながることになる。したがって、Q3を使用する質量検出が好ましい。というのは、可能な誤差源がなくなるか、あるいは無視できる程度になるからである。
【0037】
上記で詳細に述べた方法ステップ(I)および(II)は、逆の順序でも実施することができる。本発明による方法の推移は図1から得られる。本発明による方法では、方法ステップ(b)〜(d)および(e)は、0.1秒〜10秒以内に少なくとも1回、好ましくは0.2秒〜6秒以内に少なくとも1回、より好ましくは0.2秒〜2秒以内、最も好ましくは0.3秒〜2秒未満の範囲で少なくとも1回実施すると有利である。結果の統計学的評価を有利に行うことができるように、これらの方法ステップを、0.2〜6秒以内に2〜3回、好ましくは3回実施する。このような迅速な測定を連続して迅速に行うことができるように、衝突室として機能する4重極Q2に常に衝突ガスを満たす。社内での測定値が示しているように、こうしても測定値の再現性に対する悪影響はない。
【0038】
本発明による方法では分析中に、ステップ(a)で形成され選択された様々なイオンのうち、質量/電荷比が1〜100のものを分析することができる。比が少なくとも20m/z、好ましくは比が少なくとも40m/z、より好ましくは比が少なくとも60m/z、最も好ましくは比が少なくとも80m/zの様々なイオンその他を同定し、かつ/または定量化すると有利である。
【0039】
本発明による方法を用いて、物質混合物に存在するすべての質量の分析に加えて、個々の物質またはそれらの質量を分析し、かつ有利には定量化することも可能であると有利である。
【0040】
本発明による方法では、物質混合物の精製は原理的には必要とされない。これらの物質混合物は、イオン源への導入後、直接分析することができる。これは複合的な物質混合物にも当てはまる。これらの物質混合物に、内標準として、混合物中に存在し得る物質のうち任意の標識した、あるいは無標識の純粋な物質を付加することも不必要であるが、こうすることはもちろん可能であり、それによって、混合物中に存在する物質の後続の定量化が簡略化される。
【0041】
ただし、クロマトグラフィー法など、当業者には周知のプロセスによる精製が有利である。本発明による方法において好ましいイオン化方法に基づいて、電界中で物質混合物を霧化することによって、極めて簡単なやり方で、例えばクロマトグラフィーによる物質混合物の精製および/または事前精製を質量分析法による分析に結びつけることが可能である。用いられるクロマトグラフィー法は、LC、HPLC、またはキャピラリ電気泳動など、当業者に周知のあらゆる分離方法とし得る。吸着、ゲル浸透、イオン対、イオン交換、排除、親和性、順相または逆相クロマトグラフィーに基づく分離プロセスを用いることができるが、これらはほんの一例である。順相および/または逆相に基づくクロマトグラフィー、好ましくは、C4、C8またはC18相などの様々な改変された疎水性の材料を有する逆相カラムを用いると有利である。
【0042】
本発明による方法では、例えば、精製プロセス、有利にはクロマトグラフィー法と、溶出物(検出物と溶媒を合わせたもの)の流量とを結びつけることが可能である。溶出物の流量は、有利には1μl/分〜2000μl/分、好ましくは5μl/分〜600μl/分、より好ましくは10μl/分〜500μl/分とする。本発明による方法では無理なく、これらの流量よりも多くして用いることもできるし、少なくして用いることもできる。
【0043】
精製プロセスに用いられる溶媒は原理上、後続の分析に適合する任意のプロトン性または非プロトン性、有極性または非極性の溶媒とし得る。ある溶媒が質量分析法に適合するかどうかは、当業者による簡単な抜取り検査によって容易に決定することができる。適切な溶媒は、例えば、低比誘電率(Eτ<15)、低双極子モーメント(μ<2.5D)、および低ETN値(0.0〜0.5)によって特徴づけられる非プロトン性非極性溶媒など、電荷をもっているとしてもそれが少ない溶媒である。しかし、双極性有機溶媒またはそれらの混合物も、本発明による方法の溶媒として適切である。ここで適切な溶媒の例は、メタノール、エタノール、アセトニトリル、エーテル、ヘプタンである。0.01〜0.1%のギ酸、酢酸、またはトリフルオロ酢酸などの弱い酸性溶媒も適切である。さらに、0.01〜0.1%のトリエチルアミン、またはアンモニアなどの弱い塩基性溶媒も適切である。5%塩酸または5%トリエチルアミンなど、強い酸性または強い塩基性溶媒も溶媒として原理上適切である。上記溶媒の混合物も有利である。生化学で普通に使われる緩衝液も溶媒として適切であり、200mM未満、好ましくは100mM未満、より好ましくは50mm未満、最も好ましくは20mM未満の緩衝液を用いるのが有利である。物質混合物の調製に100mMよりも濃い緩衝液を用いるときに、例えば透析によって緩衝液を完全にまたは部分的に除去するとさらに有利である。緩衝液の例には、例えば、アセテート、ホルメート、ホスフェート、トリス、MOPS、HEPES、またはそれらの混合物が含まれる。緩衝液および/または塩の濃度が高いと、イオン化プロセスに悪影響を及ぼすので、場合によっては避けるべきである。
【0044】
本発明による方法では、100D(ダルトン)〜100kD(キロダルトン)、好ましくは100D〜20kD、より好ましくは100D〜10kD、最も好ましくは100D〜2000Dの物質混合物中に存在する分子を検出すなわち同定することが可能であり、適切な場合には定量化することも可能である。
【0045】
本発明による方法に用いる物質混合物が、可能だとしても普通なら検出するのが難しい場合、分析前にそれを誘導体化して最後に分析すると有利である。この誘導体化は、有利にはイオン性官能基を有したままである親水基を、疎水性または揮発性化合物、例えば、エステル、アミド、ラクトン、アルデヒド、ケトン、アルコールなどに導入する場合に特に有利である。このような誘導体化の例は、例えば対称または混合無水物による、アルデヒドまたはケトンからオキシム、ヒトラゾンまたはその誘導体への転換、あるいはアルコールからエステルへの転換である。これにより、この方法の検出スペクトルを広げることができると有利である。
【0046】
物質混合物を分析する本発明による方法では、例えば、ペプチド、アミノ酸、補酵素、糖、アルコール、共役アルケン、有機酸または有機塩基などの内標準を付加すると有利である。有利には、この内標準により、混合物中の化合物を定量化することができる。そのため、物質混合物中に存在する物質をより容易に分析し、最終的に定量化することができる。
【0047】
用いられる内標準が標識した物質であると有利であるが、無標識物質も原理的に内標準として用いることができる。このような類似の化学化合物は、例えば、構成要素のうち例えば追加のメチレン基だけが異なる一連の相同な化合物である。好ましくは、用いられる内標準は、2H、13C、15N、17O、18O、33S、34S、36S、35Cl、37Cl、29Si、30Si、74Se、またはそれらの混合物の群から選択された少なくとも1つの同位体によって標識された物質である。コストの理由および入手のし易さの理由から、用いられる同位体は2Hまたは13Cが好ましい。分析を行うのに、これらの内標準を完全に標識する必要はない。部分的に標識すれば十分である。また、標識した内標準の場合には、分析すべき混合物中の物質に対して極めて高い相同性を有する物質、すなわち、分析すべき化学化合物に構造的に類似した物質を選択すると有利である。構造上の類似性が大きいほど、分析結果が良好になり、この化合物をより精確に定量化することができる。
【0048】
本発明による方法では、特に混合物中に存在する物質の定量化の場合、分析すべき物質に対する内標準の比が好ましいものであると有利である。検出物(決定すべき化合物)と内標準の比を1:15よりも大きくすることは原理上可能であるが、分析結果は全く改善しない。検出物と内標準の比を10:1〜6:1の範囲、好ましくは6:1〜4:1の範囲、より好ましくは2:1〜1:1の範囲に設定すると有利である。
【0049】
本発明による方法では、物質混合物サンプルは、手作業で、あるいは有利には普通に用いられる実験室用ロボットによって自動的に調製することができる。任意のクロマトグラフィー分離後の質量分析器による分析も、手作業で、あるいは有利には自動的に行うことができる。本発明による方法を自動化することにより、ハイ・スループット・スクリーニングにおいて、植物抽出物など様々な物質混合物の迅速なスクリーニングに質量分析法を有利に用いることができる。本発明による方法は、サンプルの消費量が極めて少ない状態で、感度が高く、定量可能性に優れており、再現性に極めて優れていることを特徴とする。したがって、この方法を用いて、例えば突然変異誘発後の既知または未知の酵素活性による新規の変異体など、生物起源の混合物を迅速に見つけることもできる。この突然変異誘発の例には、NTGなどの化学的な作用物質、紫外線またはX線などの放射を利用する古典的な突然変異生成、あるいは、部位特異的突然変異誘発、PCR突然変異誘発、トランスポゾン突然変異誘発、または遺伝子シャッフリングがある。
【0050】
本発明による方法により、分解能が良好〜極めて良好の範囲にあり、イオン源から検出器へのイオン透過率が高く、物質混合物中のすべての物質のフル・スキャン・モードおよび複数反応モニタリング・モード(MRM、方法ステップ(a)〜(c))のいずれにおいてもスキャン速度が速い状態で、広い分析範囲の広範囲な物質を分析することができる。さらに、この方法は、取込み感度が非常に高く、較正安定性が極めて優れている。さらに、この方法は、長時間動作に極めて適しており、そのため、HTSスクリーニングに用いられる。
【0051】
下記の実施例によって本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0052】
MRM+FS分析の例
a)MRM+FS分析のTIC
図2に、MRM+フル・スキャン分析の全イオン・クロマトグラムを示す(ただし、MRMは複数反応モニタリング、FSはフル・スキャン、TICは全イオン・クロマトグラム、XITは複数の全イオン・クロマトグラムの合計である)。品質管理サンプルを分析した。このタイプのサンプルは、規定数の検出物を含む。これらの検出物は市販品であり、それらを既知濃度の適切な溶媒に溶解させた。
【0053】
図2で選択した分析のグラフに、MRM(複数反応モニタリング)およびFS(フル・スキャン)の2種類の質量分析法による実験から、特定の時間(x軸)に検出器で測定された強度合計(y軸)を示す。したがって、図2のクロマトグラムは、2種類の上記質量分析法による実験のTICクロマトグラムを合わせたものになる。
【0054】
b)MRM実験のTICおよびFS実験のTIC
図3に、MRM+FS分析からのMRM実験の全イオン・クロマトグラムを示す。
【0055】
図3で選択したMRM分析のグラフに、このMRM実験のあらかじめ規定したすべての質量遷移から、特定の時間(x軸)に検出器で測定された強度合計(y軸)を示す。図4で選択したグラフに、1組の軸に関する個々の質量遷移(ここでは30個)の特定の分析結果を示す。
【0056】
c)FS実験のTIC
図5のTICに、MRM実験に変えて測定したFS実験を示す。
【0057】
図6に、FS実験のTICを示す。図7に、ハッチングで示す時間ウインドウ中に記録したすべてのFS質量スペクトルの合計を示す。
【0058】
d)MRM実験のTIC
図2の場合と同様に、図8に、MRM+フル・スキャン分析の全イオン・クロマトグラムを示す。較正サンプルを分析した。
【0059】
図8で選択した分析のグラフに、複数反応モニタリングの質量分析実験から、特定の時間(x軸)に検出器で測定された強度合計(y軸)を示す。
【0060】
図9は、補酵素Q10が同定された抽出クロマトグラムを再現したものである。
【0061】
図10および図11はそれぞれ、カプサンシンおよびビキシンの同定を再現したものである。
【0062】
図12は、植物抽出物のフル・スキャンの全イオン・クロマトグラムを再現したものである。
【0063】
図13〜図15に、抽出クロマトグラム中の様々な検出物の質量を示す。さらに、これらの質量を特定の構造に割り当てなければならない。
【0064】
以上説明した方法で、これまでのところ200個の別の検出物を選択的に検出することができた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3連4重極質量分析器を用いて物質混合物を分析する質量分析方法であって、前記物質混合物が前記分析の前にイオン化され、前記方法が、
a)前記質量分析器の第1分析用4重極(I)において、イオン化によって形成されたイオンの質量/電荷比(m/z)を選択するステップと、
b)衝突ガスで満たされ、衝突室として機能する後続の別の4重極(II)において加速電圧を印加することによって、ステップ(a)で選択された前記イオンを断片化する断片化ステップと、
c)下流の別の4重極(III)において、前記断片化ステップ(b)によって形成されたイオンの質量/電荷比を選択するステップと、
d)前記イオン化の結果として前記物質混合物中に存在するすべてのイオンの前記質量/電荷比を分析するステップであって、分析中に、前記4重極(II)は衝突ガスで満たされているが、加速電圧は印加されないステップと、
を含み、
前記ステップ(a)〜(d)は、ステップ(a)、(b)、(c)及び(d)の順番か、またはステップ(d)、(a)、(b)及び(c)の順番で実行され、前記方法ステップ(a)〜(c)は少なくとも1回実施される、方法。
【請求項2】
ステップ(a)〜(d)を、0.1〜10秒以内で少なくとも1回実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)〜(d)を、0.2〜2秒以内で少なくとも1回実施する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記物質混合物を蒸発させ、気相中でイオン化することによって、前記物質混合物を表面上で脱離することによって、または前記物質混合物を電界中で霧化することによって前記イオン化を実施する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記物質混合物を電界中で霧化することによって前記イオン化を実施する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)で、イオン化によって形成され選択された異なるイオンのうち、質量/電荷比が1〜100のものを分析する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記物質混合物が生物または化学起源のものである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
手作業で実施されるか、あるいは自動的に実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ハイ・スループット・スクリーニングで用いられる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記物質混合物中に存在するすべてのイオンについて、ステップ(c)で分析される前記断片化ステップ(b)によって形成されたイオンおよびステップ(d)で分析される前記質量/電荷比(m/z)、または、前記物質混合物中に存在するすべてのイオンについて、ステップ(c)で分析される前記断片化ステップ(b)によって形成されたイオン若しくはステップ(d)で分析される前記質量/電荷比(m/z)を定量化する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記物質混合物の前記イオン化が、クロマトグラフィー分離の上流で行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記クロマトグラフィー分離がHPLC分離である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分析の前に前記物質混合物が誘導体化される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記クロマトグラフィー分離の前に前記物質混合物が誘導体化される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項1】
3連4重極質量分析器を用いて物質混合物を分析する質量分析方法であって、前記物質混合物が前記分析の前にイオン化され、前記方法が、
a)前記質量分析器の第1分析用4重極(I)において、イオン化によって形成されたイオンの質量/電荷比(m/z)を選択するステップと、
b)衝突ガスで満たされ、衝突室として機能する後続の別の4重極(II)において加速電圧を印加することによって、ステップ(a)で選択された前記イオンを断片化する断片化ステップと、
c)下流の別の4重極(III)において、前記断片化ステップ(b)によって形成されたイオンの質量/電荷比を選択するステップと、
d)前記イオン化の結果として前記物質混合物中に存在するすべてのイオンの前記質量/電荷比を分析するステップであって、分析中に、前記4重極(II)は衝突ガスで満たされているが、加速電圧は印加されないステップと、
を含み、
前記ステップ(a)〜(d)は、ステップ(a)、(b)、(c)及び(d)の順番か、またはステップ(d)、(a)、(b)及び(c)の順番で実行され、前記方法ステップ(a)〜(c)は少なくとも1回実施される、方法。
【請求項2】
ステップ(a)〜(d)を、0.1〜10秒以内で少なくとも1回実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)〜(d)を、0.2〜2秒以内で少なくとも1回実施する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記物質混合物を蒸発させ、気相中でイオン化することによって、前記物質混合物を表面上で脱離することによって、または前記物質混合物を電界中で霧化することによって前記イオン化を実施する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記物質混合物を電界中で霧化することによって前記イオン化を実施する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)で、イオン化によって形成され選択された異なるイオンのうち、質量/電荷比が1〜100のものを分析する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記物質混合物が生物または化学起源のものである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
手作業で実施されるか、あるいは自動的に実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ハイ・スループット・スクリーニングで用いられる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記物質混合物中に存在するすべてのイオンについて、ステップ(c)で分析される前記断片化ステップ(b)によって形成されたイオンおよびステップ(d)で分析される前記質量/電荷比(m/z)、または、前記物質混合物中に存在するすべてのイオンについて、ステップ(c)で分析される前記断片化ステップ(b)によって形成されたイオン若しくはステップ(d)で分析される前記質量/電荷比(m/z)を定量化する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記物質混合物の前記イオン化が、クロマトグラフィー分離の上流で行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記クロマトグラフィー分離がHPLC分離である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分析の前に前記物質混合物が誘導体化される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記クロマトグラフィー分離の前に前記物質混合物が誘導体化される、請求項11または12に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−19848(P2010−19848A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218884(P2009−218884)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2003−572064(P2003−572064)の分割
【原出願日】平成15年2月10日(2003.2.10)
【出願人】(504324660)メタノミクス ゲーエムベーハー ウント ツェーオー.カーゲーアーアー (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2003−572064(P2003−572064)の分割
【原出願日】平成15年2月10日(2003.2.10)
【出願人】(504324660)メタノミクス ゲーエムベーハー ウント ツェーオー.カーゲーアーアー (1)
【Fターム(参考)】
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