説明

物質の測定方法ならびに測定用組成物

【課題】蛍光物質等を用いた高感度なプロテインアレイを用いた物質の測定法の提供。
【解決手段】高密度にかつ生物活性を安定に保持できる3次元高分子化合物を有する支持体上に、抗体や抗原・レクチンなどの生理活性物質を固定化したプロテインアレイを用い、光学的検出においてきわめて安定な量子ドット蛍光物質を併用することで、高感度で煩雑な増幅操作ステップを必要としない、簡便かつ実用的な測定系が可能となる。この測定系で得られる検出スポットおよび蛍光シグナルは安定で均一であり、信頼性の高い測定結果をもたらす。このプロテインアレイと量子ドット蛍光利用した検出試薬によって、疾患マーカーあるいは疾患予防マーカーの複数項目同時測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料、食品試料、環境試料中などに存在する特定物質の測定法ならびにそれらの方法に使用する試薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗体やレセプター、レクチンなどのタンパク質を用いた測定系が、医学・薬学・生物学・環境工学など多岐にわたる分野で現在用いられており、物質の測定系・評価系として欠かすことのできないものとなっている。これらの測定系は単一対象を測定するものであることが多いが、少量の対象サンプルを用いて、同時に複数の対象を測定できる、効率の良い評価方法が望まれている。これらの要求を満たす評価法として、多種類の測定対象を評価するためのプロテインアレイ、抗体アレイ(シェーナら、ニールセンら 及び ワンら)、などが近年報告されている。
【0003】
【非特許文献1】 「シェーナ編 プロテインアレイ (2004年) ジョーンズ&バートレット パブリッシャー」 (Schena M.et.al.Protein Array(2004)Jones and Bartlett Publishers)。
【非特許文献2】 「カムハームパティ編 プロテイン マイクロアレイ テクノロジー(2004) ワイリーVCH ヴェルラグ GmbH & Co. KGaA」(Protein Microarray Technology(2004)Wiley−VCH Verlag GmbH & Co.KGaA)。
【特許文献1】 ワンら 特表2005−504309
【0004】
プロテインアレイ用途として光学的スライドやポリマー素材からなるメンブレンが使用される場合が多い。 スライドとしては、表面にニトロセルロースがコートされた FASTスライド(S&S バイオサイエンス社製:Schleicher and Schuell Bioscience GmbH)、疎水性ポリマーがコートされた SuperProtein スライド(テレコムインターナショナル社製: TeleChem International INC.)、ブラックポリマーがコートされた Maxisorp スライド(ナルジェヌンク社製:Nalge Nunc INC.)などがある。またガラススライドをベースとして表面にアミノ基、カルボキシル基、チオール基を導入し、タンパク質と化学的に架橋可能としたものも市販されている。
【0005】
これらの各種スライドに対して、タンパク溶液を各種のアレイヤー・スポッターを用いて、若しくは用手法で、各種形状のスポットを作製してプロテインアレイが作製されている。
【0006】
これらのプロテインアレイは、例えばアポトーシスに関わる測定対象、セルシグナルに関する測定対象など研究分野の枠ごとにあるいは、特定の疾患、ウイルス感染症に関する測定対象(マーカー)の集団毎に、あるいはそれらを複数含んだ形で構成されており、また構成が想定されている。
【0007】
商用化されたプロテインアレイは現在大きく分類して、1)網羅的抗体アレイであってディファレンシャル解析に使用される抗体アレイ(クローンテック社(Clontech Laboratories INC.)製:ClontechTM Ab Microarray 500 など)、2)複数の項目が測定できる抗体アレイ(インビトロジェン社(Invitrogen Corp.)製:Cartesian ArrayTM AKit Human cytokine など)があるが研究段階として、ケミカルアレイ(ベッターら)、ペプチドアレイ(チアリら)、P450アレイ(サカイ−カトーら)、レクチンアレイ(ピロベロら)など、種々のものが存在する。
【0008】
【非特許文献3】ベッターら、ジャーナル セル バイオケム サプル 39巻 79頁−84頁(2002)(Vetter D.et.al., J.Cell Biochem.Suppl.(2002)Vol.39,pp79−pp84)
【非特許文献4】チアリら、プロテオミクス 5巻 3600頁−3603頁(Chiari M.et.al.,Proteomics(2005)Vol.5,pp3600−pp3603)
【非特許文献5】サカイ−カトーら、アナリテイカル ケミストリー 77巻 7080頁−7083頁(2005年)(Sakai−Kato,K.et.al., Anal.Chem.(2005)Vol.77,pp7080−pp7083)
【非特許文献6】ピロベロら、ケムバイオケム 6巻 985頁−989頁(2005年)(Pilobello KT.et.al., Chembiochem.(2005)Vol.6,pp985−pp989)
【0009】
プロテインアレイに用いられている標識物質としては、フルオレセイン、ローダミン、Cy−5、Cy−3あるいはアレクサ、量子ドット(Quantum Dot)(エンペドクレスら)等の蛍光物質、FLAGなどのタグペプチド、ビオチン・修飾ビオチンあるいはアルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素がある。
【0010】
【特許文献2】エンペドクレスら 特表2003−522962
【0011】
さらにアルカリフォスターゼを標識酵素として用い、検出するアルカリフォスファターゼの領域の周辺にビオチン化チラミドを固定化して蛍光標識ストレプトアビジンにて増感させて検出する方法が報告されている(ゲホら)。
【0012】
【非特許文献7】 ゲホら バイオコンジュゲート ケム 16巻 559頁−566頁(2005年)(Geho D.et.al.Bioconjugate(2005)Vol.16,pp559−pp566)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
プロテインアレイスライドの主なものは、タンパク質を吸着できる絶対的容量が少なく、また安定剤を使用しないと、抗体などのタンパク質の活性を保持しにくいという難点がある。また表面にアミノ基、カルボキシル基を導入したスライドは、抗体などのタンパク質、リガンドのアミノ基等と2価性架橋基でランダムに結合することが多いが、この結合は抗体・タンパク質・リガンド側のどのアミノ基等を使用するかという点で問題がある。特定部位のアミノ基等は、抗原結合活性などに極めて甚大な影響を直接与える。また直接では結合活性を低減させないとしても、結合部位によっては、立体構造的に、測定対象との結合を低減させる場合があり、制御されていない架橋様式はプロテインアレイの作製に好ましくない。
【0014】
スライド表面のチオール基・アミノ基を制御してタンパク質との架橋に活用する場合もある。固定化対象のタンパク質においては一般的に利用できるチオール基の数は限られており(特に抗体・(Fab)2・(Fab)・(Fab’)2・(Fab’)等)、タンパク質側のアミノ基をマレイミド試薬などで処理した後、スライド表面上のアミノ基と結合させることが可能である。またタンパク質の遊離(還元型)チオール基とスライド表面の還元型チオール基を酸化縮合させて固定化することも可能である。チオール基を利用した場合は、固定化のステップによって本来のタンパク質などの活性を低減する可能性は少ない。しかしながら抗体分子(IgG)から(Fab)2・(Fab)・(Fab’)2・(Fab’)を調製する際の、還元処理の実施、目的標品の回収・精製などの処理過程で抗原結合活性は低下し、また収率が低くなる。これらの煩雑な処理ステップは、特にたくさんの種類の抗体を取り扱ってプロテインアレイを作製する場合、抗体のロット管理・処理ステップの品質管理・全体のアレイ性能の管理等を考慮すると、極めて大きな障害となる。
【0015】
以上に述べた各種スライドに対して、タンパク溶液を各種のアレイヤー・スポッターを用いて、若しくは用手法で、円形・方形状などのスポットを構築することができる(グレイナー バイオ ワン社製 マニュアルマイクロアレイヤー: Greiner bio−one GmbH Manual Micro Arrayer for DNA & Protein Chip あるいはパーキンエルマー社製 ピエゾアレイ バイオチップシステム: PerkinElmer INC.Piezoarray Biochip System)。
【0016】
網羅的抗体アレイであってディファレンシャル解析に使用される抗体アレイは、比較するサンプル中に含まれるタンパク質のトータル量を等しくした上で、それぞれのサンプルに含まれるタンパク質の全てを2種以上の蛍光色素で標識する必要がある(前述クローンテック社の製品マニュアル参照)。異なる蛍光色素で標識する場合、タンパク質の結合性の変化を生じる可能性もある。
【0017】
ニトロセルロース等の疎水性担体(スライド・メンブレン)の表面上に複数の抗体をスポット(固定)したアレイが商用化されている。測定法としてはまず、サンプル溶液(測定対象抗原含む)をアレイ上の固定抗体で結合させた後、さらに2次抗体溶液加え複合体を形成させる。さらにこの2次抗体に対するアルカリフォスファターゼやペルオキシダーゼ標識抗体を反応させ、1次抗体−抗原−2次抗体−酵素標識抗2次抗体複合体と、所定の化学合成基質と反応させ、その発光を写真フィルム等に露光し、最終的にシグナルスポットを得る。測定の模式図を[図1]に示す。あるいは酵素反応で可視性の色素として視覚化する方法も可能である。しかしながら酵素反応で生じたプロダクトの拡散性、酵素反応を一律にコントロールすることの難しさ、スポットの形状を均一にすることの困難性などから、これら標識酵素を用いた方法は、ばらつきの大きな測定系となっている。また最終シグナルの範囲が重なりあったりする場合も多く、定量性に疑問が生じる場合もある。この測定形式では、高密度にスポットされたアレイを使用することは限界があり、一般にはマイクロアレイではなくマクロアレイとして使用されている。ケミカルアレイ、ペプチドアレイ、P450アレイ、レクチンアレイなどが、学術上報告されているが、実用性の高いアレイとするにはコスト・再現性・安定性・測定感度など解決すべき問題が多く残されているのが現状である。
【0018】
標識物質として使用されている、フルオレセイン、ローダミン、Cy−5、Cy−3は励起光による退色現象が急速に生じるため、解析に必要な時間変化なく蛍光シグナルを維持することは困難である。このことは検出可能となった時点から、できるだけ速やかに測定を完了させることが要求されていることを意味する。また繰り返し同じスライド等を用いて再測定をすることが困難であることも意味する。アレクサ等の蛍光物質は光安定性が改善されてはいるものの、長時間の露光では前述の蛍光色素と同様の問題を生じる
【0019】
量子ドットによる蛍光物質は光安定性に富み、長時間励起光を照射しても安定である。量子ドット粒子をポリエチレングリコール等でコーテイングし水溶性をあげ、バックグランドを低減させた例もある。しかしながら前述のスライドと水溶性を高めた量子ドットを用いても十分な測定感度が得られないことが多く、必要な感度を得るためには、ペルオキシダーゼなどの標識酵素を用いて、ビオチン化チラミドを標識酵素の周囲に固定化し、シグナル増幅した上でストレプトアビジン標識量子ドットを作用させるという、物理的シグナルの増幅過程が必要となる(前述 ゲホら)。このため酵素反応実施後あらためて、追加の反応ステップを必要とするため、煩雑であり、ばらつきの多い検出方法となる。また抗体反応における非特異的反応だけでなく、ビオチン化チラミドの非特異的反応もあわせて考慮する必要があり、最終的なシグナル・ノイズ比(S/N)が減少する場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、以上のプロテインアレイによるアッセイ系の問題点を解決すべく鋭意努力を重ねた結果、従来よりも量的に高密度にタンパク質を固定化でき、同時にタンパク質等の活性を保持し、シグナル形成が均一となる手法として、光学的に極めて高い安定性を有する量子ドットによる蛍光物質を検出系として用い、生理活性タンパク質等の固定化を、親水性構造を内包する3次元構造を持った高分子ゲル上で行う方法が極めて適切であることを見出し、またこれによって従来のプロテインアレイの抱える問題点を解決できることを見出し、本発明を完成した。本発明による測定系の例を[図2]に模式図として示す。
【0021】
すなわち本発明は、
1) 測定対象物質を認識するタンパク質または測定対象物質の全体・一部・類似物から選択される物質を、3次元ゲル化合物内に物理的または化学的に固定化した基板上において、量子ドット蛍光化合物を標識体として、試料中の対象物質を測定することを特徴とするアッセイ方法
に関するものであり、
2) ポリビニルピロリドン・ポリエチレングリコール・ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド・ポリアクリル酸・ポリメタクリル酸・ポリカーボネート・ポリ乳酸・多糖類・アミノ多糖類・複合糖類・核酸・ペプチド・複合高分子の内、1種以上を含有する水溶性ポリマーの粉末あるいは水溶液を用いて製造された3次元ゲル化合物を使用することを特徴とする1)に記載の方法
に関するものであり、
3) ポリビニルピロリドン・ポリエチレングリコール・ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド・ポリアクリル酸・ポリメタクリル酸・ポリカーボネート・ポリ乳酸・多糖類・アミノ多糖類・複合糖類・核酸・ペプチド・複合高分子のうち、1種以上を含有する水溶性ポリマーの水溶液を、放射線・電子ビーム・ガンマ線・ラジカル発生試薬・架橋試薬 の内1種以上に対して曝露することにより、架橋して製造された3次元ゲル化合物を使用することを特徴とする1)に記載の方法
に関するものであり、
4) 測定対象物質が、タンパク質・ペプチド・糖質・脂質・糖脂質・低分子化合物である1)〜3)に記載の方法
に関するものであり、
5) 測定対象物質を認識するタンパク質が、抗体・レセプター・レクチンであることを特徴とする1)−4)の方法
に関するものであり、
6) 固定化した基板が非蛍光性のガラス・プラスチック・金属基板であることもしくは、蛍光検出時に測定を妨害しないガラス・プラスチック・金属基板であることを特徴とする1)−5)の方法
に関するものであり、
7) 測定系において、アビジンもしくはアビジン様物質及びビオチンを使用することを特徴とする1)−6)の方法、
に関するものであり、
8) 測定系において、物理的シグナルの増幅を行うことを特徴とする1)−7)の方法
に関するものであり、
9) 測定系において、チラミド化合物を使用することを特徴とする8)の方法
に関するものであり、
10) 2以上のスポットからなる1以上のアレイ配列を備えた基板を使用することを特徴とする1)−9)の方法
に関するものであり、
11) 2以上のスポットからなる1以上のアレイ配列内に基準スポットを備えた基板を使用することを特徴とする1)−10)の方法
に関するものであり、
12) 2以上のスポットからなる1以上のアレイ配列内に2種類以上の基準スポットを備えた基板を使用することを特徴とする1)−11)の方法
に関するものであり、
13) 使用する量子ドット蛍光化合物の粒子の直径が0.1〜200nmであることを特徴とする1)−12)の方法
に関するものであり、
14) 疾患マーカーおよび疾患予防マーカーを測定対象とするものであることを特徴とする1)−13)の方法
に関するものであり、
15) 1)−14)の方法に使用するための基板
に関するものであり、
16) 1)−15)の方法に使用するための試薬組成物
に関するものである。
【0022】
本発明に使用する固定化の支持基板としてはガラス、ナイロン、ポリカーボネート、ポリスチレン、金属板等を使用することができ、数センチ×数センチ以下の大きさのものが望ましい。基板の厚みは基板の硬度に応じて設定できるが、取扱いの容易な、0.1〜5mm程度のものの使用が好ましい。スライド基板は各種の官能基(アミノ基、カルボキシル基、チオール基等)を有していても良いが、3次元ゲルをそれら基板の上に構築する妨げとなるものを避けるべきである。また3次元ゲルとスライド基板が、反応終了の後、光学的に蛍光を検出できる素材の組み合わせであることが必要である。光学的に透明な基板を使用する場合、蛍光測定は基板の1方向から光を照射し、生じる蛍光を上部で検出すればよいが、金属板のように光学的に不透明な基板を用いる場合は、1方向から光を照射し、生じる蛍光を入射と同じ側で検出する。
【0023】
本発明に使用する3次元ゲルの構成物としては、ポリビニルピロリドン・ポリエチレングリコール・ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド・ポリアクリル酸・ポリメタクリル酸・ポリカーボネート・ポリ乳酸・多糖類・アミノ多糖類・複合糖類・核酸・ペプチド・複合高分子の内、1種以上を含有する水溶性ポリマーの粉末あるいは水溶液を用いて製造された3次元ゲル化合物を使用することが可能であり、これらのうち、1種以上を含有する水溶性ポリマーの水溶液を、放射線・電子ビーム・ガンマ線・ラジカル発生試薬・架橋試薬 の内1種以上へ曝露することにより、架橋して製造された3次元ゲル化合物を使用することも可能である。ラジカル発生試薬としては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、光増感剤であるベンゾフェノン、フォトフィリン、レザフィリン、ポルフィリン系色素、ピロール環等を有する金属錯体、過酸化物等が利用できる。架橋剤としては、ビニルエーテル、アルデヒド化合物、EMCSなどのマレイミド化合物等が使用できる。これらの3次元ゲル化合物を担持したスライドを独自の条件にて自作して使用することも出来るが、トラヴィスらあるいはシーら既報に従って作製することができる。また市販品として例えば、グライナー バイオ ワン製 HTAスライドやパーキンエルマー社製 ハイドロゲルスライド などを使用することも可能である。
【0024】
【特許文献3】 トラヴィスら 特表2003−524150
【特許文献4】 シーら 特表2004−518138
【0025】
3次元ゲルは内部で架橋構造をとることがきるが、その構造はゲル内部の細孔のサイズのコントロールに重要である。抗体やレクチン・レセプター・各種抗原等の活性を保持した状態で固定化後、反応時に固定化物以外の各要素が自由に動きうる孔径(20〜1000nm)となっている必要がある。また3次元ゲルの厚みは1μm〜500μmの間で選択することができる。蛋白質等はスライド基板の上に、用手あるいはプロテインアレイヤー等の自動機械にてスポットでき、プロテインアレイを作製することができる(グレイナー バイオ ワン社製 マニュアルマイクロアレイヤー: Greiner bio−one GmbH Manual Micro Arrayer for DNA & Protein Chip あるいはパーキンエルマー社製 ピエゾアレイバイオチップシステム: PerkinElmer INC.Piezoarray Biochip System、カケンジェネティクス社製 DNA/抗体 マイクロアレイヤー など)。用手の場合は数スポット〜数百スポット、アレイヤーの使用により、数スポット〜数千スポットが一度に作製できる。なおアレイの作製は、アレイヤー・スポッターの性能に応じて、コンタクト形式(サンプルを保持したピンが基板と直接接触する形式)あるいはノンコンタクト形式(ピンが基板と接触しない)で実施可能である。数スポット〜千スポットからなるアレイは、目的に応じて基板上に複数設けることができる。
【0026】
必要な蛋白質をスポット(または塗布)・固定後、ウシ血清アルブミン・ゼラチン等の動物由来の蛋白質、ポリエチレングリコール等の高分子化合物を含む溶液に浸漬または塗布して、3次元ゲルをコーテイングすることができる(この操作はブロッキング操作とも称される)。また糖・アミノ酸・有機酸等の溶液にも浸漬または塗布することができる。糖としてはグルコース・サッカロース・マルトノースの還元糖及び非還元糖、単糖・多糖類を使用でき、アミノ酸としてはグリシン、グルタミン酸等、有機酸としてはマレイン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸等を使用することができる。さらにはアジ化ナトリウム、プロクリン等の防腐剤を含む溶液を同様に併用することができる。組成物中の各試薬の濃度は、通常免疫血清学分野で使用されている濃度範囲で、適宜選択して設定できる。
各溶液は滅菌フィルター等でろ過し、無菌化したものを使用することが好ましい。
【0027】
本発明に使用する基板等は真空乾燥機、減圧乾燥機あるいは風乾操作にて乾燥させることができる。作業は、防腐性能等を考慮すると、無菌化されたクリーンベンチやクリーンルーム中で行うことが好ましい。
【0028】
本発明に使用する量子ドット蛍光物質は、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム等の半導体粒子をそのまま使用することができるが、非特異的反応の抑制のため、ポリエチレングリコールなどの親水性高分子で粒子表面をコーテイングしておくことが好ましい。量子ドットはその粒子径により、発する蛍光の波長が異なるが、0.1nm〜200nmの範囲のものを目的に応じて使用することができる。なお粒子径1.5nm以下ではいわゆるホールトラッピング現象の割合が高くなり、蛍光ではなく、白色のりん光を呈することが知られている(バウアーら)。粒子径は基板上の高分子ゲルのポアサイズより小さいだけでなく、各種のタンパク質と連結した場合の全体の大きさもポアサイズより小さいことが、ゲル内での諸反応のために必要である。量子ドットは、クウォンタムドット社(QuantumDot Corp.)やエビデントテクノロジー社(Evident Technology)の市販品などを利用できる。
【0029】
【非特許文献8】 バウアーら ジャーナル アメリカン ケミカル ソサエテイ127巻 15378頁−15379頁(2005)(Bowers,M.J.et.al.J.Am.Chem.Soc.(2005)Vol.127,pp15378−15379)。
【0030】
タンパク質と量子ドットの間は、2価性架橋基など種々のリンカー介して連結することができる。またタンパク質とそのタンパク質に対して特異的な結合力を持つタンパク質あるいはリガンドとそのリガンドに対して特異的な結合力を持つタンパク質の関係を利用して連結することも可能である。これらの例として、ビオチン化マウスモノクロナル抗体と量子ドット標識ストレプトアビジンの複合体、ウサギポリクロナル抗体と量子ドット標識プロテインGの複合体、などが挙げられる。
【0031】
量子ドットを検出するための光源としては、蛍光発生に必要な励起が可能であればよいが、レーザー光源、紫外線ランプなどが一般に使用できる。励起光を照射するのに必要な時間は、量子ドットが光照射に対して安定であるため特に制限はなく、数時間連続照射も可能である。また測定完了後改めて再測定することも可能である。
【0032】
本発明に使用する抗体は、研究用試薬、臨床診断薬として市販されているものを使用できる他、免疫原を調製してマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウシ、ヒツジなどに免疫して作製することができる。免疫原としては天然蛋白、人為的に加工したタンパクやペプチドを使用することができる。低分子ペプチドや糖鎖・脂質等の天然低分子、合成化学物質に対する抗体を作製する場合は、それらをハプテンとして血清アルブミンやヘモシアニン等に結合させた蛋白質を免疫原として使用することができる。糖化蛋白などの様に、修飾が天然に生じたものを用いても良い。抗体は、ハーローらの方法に従って作製すればよい。また抗体は完全な形態だけでなく、(Fab)2・(Fab)・(Fab’)2・(Fab’)等のフラグメントの形態をも使用できるし、組換えDNA技術によって調製された抗体、抗体フラグメント(Fab,Fv,scFv等)も使用可能である。
【0033】
【非特許文献7】 ハーローら 「抗体の使用法:ラボラトリーマニュアル」(1998年)コールドスプリング・ハーバー(Harlow E.et.al.,Using Antibodies:Laboratory Manual(1998)Cold Spring Harbor)。
【0034】
本発明に使用する抗体以外のタンパク質は、市販品及び血清等の各種生体試料や組換えDNA技術によって調製した生体より採取・精製したものを使用することができる。それらの取扱いは相互作用や結合に必要な活性を保つ工夫をして調製されたものが好ましい。またタンパク質は、目的に応じて、完全なものだけでなく、糖鎖や脂質等が脱落した不完全なものも使用することができる。さらに完全長のタンパク質だけでなく一部の断片、ペプチドを使用することも、場合に応じて可能である。
【0035】
本発明で、抗体等のタンパク質にビオチンやジゴキシゲニンなどの低分子化学物質、タグペプチド等を導入し、検出時に利用することができる。例えばビオチンを導入したタンパク質は、量子ドット標識アビジンあるいは量子ドット標識ストレプトアビジン等で検出可能である。アビジン、ストレプトアビジンは天然由来、組換えタンパク質いずれも使用できる。タンパク質に低分子化学物質、タグペプチドを導入した場合は、それらに対する量子ドット標識抗体を用いて検出することができる。
【0036】
本発明では、量子ドットシグナルを増幅することなく測定できるが、アルカリフォスファターゼ標識体とチラミド化合物により、ビオチン化チラミドを生成させる増幅系を併用することも可能である。この系は極めて高感度であるため、より短時間の測定が可能である。ビオチン化チラミドの増幅試薬としてダコ社(Dako A/S)の製品などが利用できる。
【0037】
本発明で使用するプロテインアレイ上のスポット数は、目的により2〜数千個の範囲で複数設けることができる。このスポット数は疾患対象の同時評価で必要とするマーカーの種類、各測定対象の予測される濃度範囲などで要求される個数を設定することができるが、プロテインアレイのパフォーマンスと製造コストに大きな影響を与えるため、最適なアレイデザインを実施すべきである。
【0038】
本発明でいう基準スポットとは、陽性スポット、陰性スポットあるいはアレイスポットの位置確認目的のスポットのことをいう。これらのスポットは測定対象数、測定目的に応じて適宜設定し作製することができるが、それらすべての種類の基準スポットが本発明において不可欠ではなく、取捨選択が可能である。1種以上の基準スポットは測定の規格化、管理のために設置が好ましい。
【0039】
本発明では種々の測定対象物質を評価・測定することができるが、特に疾患マーカー群の測定および疾患予防マーカーの測定は重要である。疾患関連マーカーとは、例えば糖尿病、腎疾患、癌、高血圧、肝臓疾患、心筋梗塞、リウマチ、アレルギー、アトピー、ストレス、痴呆症、感染症などで特異的に量が増減するマーカー(タンパク質その他)をいい、複数のマーカー(マルチマーカー)を評価することでより、疾患の症状・程度あるいは疾患であることの確度を知ることができる。例えば酸化ストレスを受けた場合、酸化還元に関わる酵素・タンパク質である、スーパーオキサイドデイスムターゼ(SOD)、グルタチオントランスフェラーゼ(GST)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、インターロイキン−18(IL−18)、8−ヒドロキシグアノシン(8−OHdG)、ヘキサノイルリジン等の量が変動する。これらのタンパク質は酸化ストレスを受けた場合や糖尿病などの疾患時に変動する。それらのマーカーは疾患者と健常人由来の生体試料中のタンパク質をそれぞれ、例えばSELDI−TOF−MSシステム(サイファージェン・バイオシステムズ社:Ciphergen Biosystems INC.)や2次元電気泳動システム(ヴィタ社:WITA GmbH)等を用いて比較することで、発見することが可能である。これらのマーカーは同時に複数活用される場合もある。各マーカーは量的に確保可能であれば、アミノ酸配列・構造決定などをすることなく、定量を目的とした特異的抗体の作製が原則可能である。
【0040】
病気になった患者の生体試料中において疾患マーカーの存在量が変動するのに対して、疾患予防マーカーは健常時においても変動が認められるものであり、疾患発症前段階としてのリスクを示すものである。疾患予防マーカーとは、例えば糖尿病予防マーカー、高血圧予防マーカー、酸化ストレス傷害予防マーカーなどのことをいう。疾患予防マーカーの変動を適宜知ることができれば、例えば生活習慣を変更・改善したり、あるいは運動療法などを早期に取り入れることで、疾患発症に進むことを防いだり、遅らせたりすることが可能である。これは治療法ではなく、予防法を健常者に提起するよい指標となりうると考えられている。疾患に対して社会全体が費やしている膨大なコストを考えれば、疾患に陥る人の数を予防マーカーの活用で減らすことは、予防マーカー測定に費やすコストに対して、十分見合ったものとなる。
【0041】
本発明で構成する試薬組成物は、プロテインアレイとして構成された、抗体等のタンパク質を固定化した基板を主体として、例えばサンプル希釈溶液、2次抗体溶液、量子ドット標識抗(2次抗体)抗体溶液、洗浄溶液、測定標準溶液などで構成される。各試薬は一般に免疫血清分野やバイオテクノロジー分野にて知られている研究用試薬、臨床診断薬調製の技術を活用することができる。
【0042】
本発明で使用するスライド基板等上の蛍光シグナルは、蛍光顕微鏡、蛍光スライドスキャナーなどで適宜測定が可能であり、所望のデータを取得することができる。なお量子ドットはUV光励起・レーザー光励起が可能であるが、励起光の検出には量子ドットの種類に応じて適宜必要な光学フィルターを選択して使用できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、複数の測定対象物質量に対応した安定したシグナル変化を同時に捉えることができ、それぞれ感度よく測定することができ、実用的なアッセイ系を供することが可能である。また多種類のシグナルを色調の変化として捉えることも可能となり、多種蛍光マルチプレックスアッセイが可能となる
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下本発明の実施の態様を説明するが、本発明は実施例の記述、方法等によって限定されるものではなく、本発明の開示は、本質的に同一の方法、試薬組成物に対して等しく影響をもたらすものである。
【0045】
本発明で実施するステップを、抗体をアレイした場合を例としてつぎに示す。 1)3次元高分子ゲルを表面に担持した基板(スライドグラス)をまず抗体をスポットする前に、純水・バッファーによる膨潤、洗浄、加温等の操作を実施し、固定化に好適な状態とする。 2)この状態の基板を先述のアレイヤー・スポッターを用いて所定のアレイデザインに従って、必要な濃度・組成に調製された、特定抗原に対するマウスモノクロナル抗体(1次抗体)溶液をそれぞれスポットする。 3)スポット後、一定時間保持し、ブロッキング剤、保護剤、安定化剤の溶液とアレイを接触させ、そのままもしくは乾燥させて測定に供する。 4)所定の容積が確保できる様に構成された、中抜きのフレームシールをアレイの周辺に貼り付ける。 5)測定開始前にブロッキング溶液とアレイを接触させる(フレームシール内。以下のステップは全てこのフレームシール内で実施する)。場合によってはこのステップは省略可能である。 6)希釈した生体試料を含む溶液とアレイを所定時間接触させる。 7)生体試料を含む溶液を取り除き、所定容量の洗浄液を加え数10秒〜数分経過後取り除く(洗浄操作)。この操作を所定回数繰り返す。 8)特定抗原に対するラビット抗体(2次抗体)溶液をアレイと所定時間接触させる。 9)洗浄操作を所定回数繰り返す。
10)量子ドット標識された抗(2次抗体)溶液をアレイと接触させる。 11)洗浄操作を所定回数繰り返す。 12)基板(スライド)を蛍光スキャナーもしくは蛍光顕微鏡で読み取り、各スポットで生じた蛍光シグナル(蛍光強度)を測定する。露光時間等、測定条件は全て揃えておくことが好ましい。
【0046】
以上の一連の操作に対する変更・追加は適宜可能であり、それらは本発明のバリエーションのひとつとして考慮される。例えば2次抗体と、量子ドット標識抗(2次抗体)抗体の組み合わせは、2次抗体に対して量子ドットを直接標識したものに置き換えて使用が可能であるし、2次抗体にビオチンを導入し、量子ドット標識ストレプトアビジンを使用することも可能である。
【実施例1】
【0047】
パーキンエルマー社製ハイドロゲルスライドを、メーカーのマニュアルに従い前処理した後、コンタクトスポッテイング法により、[図3]のアレイデザインの様に、抗ヒトSODマウスモノクロナル抗体(ラボフロンテイア社製:LabFronteier:韓国)を各濃度で約8nLずつスポットし、その後終夜で静置した。基準スポットとしてヒトSODとは結合性のない、マウスポリクロ抗体(マウス血清由来IgG:シグマ社製)及び抗ヒトGSTマウスモノクロナル抗体を陰性コントロールとして配置した。また陽性コントロールとしてラビット抗体(ラビット血清由来IgG:シグマ社製)を配置している。1%BSA、0.15M NaClを含む燐酸緩衝液(pH7.2)(以下BSA−PBSと略)100μLを、フレームシール(MJリサーチ社:MJ Research INC.米国)で囲まれた1つのアレイ上に添加し、ブロッキングを室温で1時間行った。溶液をピペットで除去後BSA−PBSをベースとしたヒトSOD(ヒト赤血球由来精製品;シグマ社製)の標準溶液または BSA−PBSで5倍希釈したヒトプール血清(ケミコンインターナショナル社製:Chemicon International:米国)溶液100μLを、フレームシールで囲まれた1つのアレイ上に添加した。スライドを保湿状態としたチャンバーの中で、2時間室温で保持させた後、溶液を取り除き、0.15M NaClを含む燐酸緩衝液(pH7.2)(以下PBSと略)100μLで3回洗浄した。ついで抗ヒトSOD(Cu/Zn)ラビット抗体(ストレスジェン バイオテクノロジー社製:Stressgen Biotechnologies:カナダ)溶液(約0.2ng/mL)100μLを添加し、先と同様にチャンバー内で2時間室温にて静置した。PBS 100μLで3回洗浄した後、量子ドット標識(655)抗ラビットIgG抗体(クウォンタムドット社製:Quantum Dot Corp.:米国)をBSA−PBSで200分の1希釈した溶液を加え、チャンバー内で1時間室温静置した。再度PBS 100μLで3回洗浄した後、蛍光顕微鏡(ニコン社研究用倒立顕微鏡 ECLIPSE TE2000E−U)で観察し、測定画像を転送し、画像解析ソフト Aqua−Lite Ver.1.2.0.0(浜松ホトニクス社製)にて解析した。取得した画像を[図4](ヒトSOD標準溶液の測定)、[図5](ヒトプール血清の測定)に示す。なお画像のバックグランドは黒色であり、シグナルの生じた各スポットはグレイで表示されている。
【0048】
[図3][図4]及び[図3][図5]より、陰性コントロールである、測定抗原とは結合性の無いマウス抗体を固定化したスポット部分では、シグナルが全く認められず、反応性のある1次抗体のスポット部分では明瞭なシグナルを確認できた。
【実施例2】
【0049】
実施例1で使用した抗ヒトSODマウスモノクロナル抗体を固定化したスライドと同一のスライドを用い、フレームシールで囲まれた1つのアレイを、実施例1と同様にブロッキンングした。ブロッキング後、量子ドット標識(655)抗マウスIgG抗体(クウォンタムドット社製)を、BSA−PBSにて200分の1に希釈した溶液100μLを加え、チャンバー内で1時間室温静置した。さらにPBS100μLで3回洗浄し、実施例1と同様に蛍光顕微鏡で観察し、画像解析を行った。この時の画像を[図6]に示す。なお画像のバックグランドは黒色であり、シグナルの生じた各スポットはグレイで表示されている。
【0050】
[図6]より、1次抗体が全て、濃度に応じてスライド上にスポットされていることが判明し、実施例1で陰性コントロールとしてマウス抗体を固定化した部分も全て検出できていることから、実施例1の結果と併せて、プロテインアレイ上でヒトSODのサンドイッチアッセイが成立していることが判断できた。
【実施例3】
【0051】
実施例1の1次抗体である抗ヒトSODマウスモノクロナル抗体に換えて、抗ヒトIL−18マウスモノクロナル抗体(医学生物学研究所(MBL)社製)を用いてプロテインアレイを同様に作製した。基準スポットとして実施例1のマウス抗体を陰性コントロールとして配置した。アレイデザインを[図7]に示す。ついで実施例1同様にブロッキングを行った後、BSA−PBSをベースとしたヒトIL−18(組換えヒトIL−18;MBL社製)の標準溶液100μLを、フレームシールで囲まれた1つのアレイ上に添加した。スライドを保湿状態としたチャンバーの中で保持し、2時間室温で反応させた後、PBS100μLで3回洗浄した。ついで抗ヒトIL−18ラットモノクロナル抗体(MBL社製)溶液(約0.3ng/mL)100μLを添加し、チャンバー内で2時間室温静置した。PBS 100μLで3回洗浄した後、量子ドット(655)標識抗ラットIgG抗体(クウォンタムドット社製)をBSA−PBSで200分の1に希釈した溶液を加え、チャンバー内で1時間室温静置した。PBS 100μLで3回洗浄した後、実施例1と同様に蛍光顕微鏡で観察し、測定画像を転送し、画像解析ソフトにて解析した。取得した画像を[図8]に示す。なお画像のバックグランドは黒色であり、シグナルの生じた各スポットはグレイで表示されている。
【0052】
[図7][図8]より、陰性コントロールである、結合性の無いマウス抗体を固定化したスポット部分はシグナルが全く認められず、反応性のある1次抗体のスポットで明瞭なシグナルを確認できた。
【実施例4】
【0053】
実施例3で使用した抗ヒトIL−18マウスモノクロナル抗体を固定化したスライドと同一のスライドを用い、フレームシールで囲まれた1つのアレイを、実施例1と同様にブロッキンングした。ブロッキング後、量子ドット標識(655)抗マウスIgG抗体(クウォンタムドット社製)を、BSA−PBSにて200分の1に希釈した溶液100μLを加え、チャンバー内で1時間室温静置した。さらにPBS100μLで3回洗浄し、実施例1と同様に蛍光顕微鏡で観察し、画像解析を行った。この時の画像を[図9]に示す。なお画像のバックグランドは黒色であり、シグナルの生じた各スポットはグレイで表示されている。
【0054】
[図9]より、1次抗体が全て、濃度に応じてスライド上にスポットされていることが判明し、実施例3で陰性コントロールとしてマウス抗体を固定化した部分も全て検出できていることから、実施例3の結果と併せて、プロテインアレイ上でヒトIL−18のサンドイッチアッセイが成立していることが判断できた。
【実施例5】
【0055】
実施例1のアッセイのうち、ヒトSOD標準溶液の濃度を10〜2000ng/mLの範囲で変えてそれぞれ1アレイずつ用いてアッセイを実施した。得られたそれぞれの濃度における蛍光強度(n=9)とSOD濃度との関係を[図10]に示す。なお1次抗体をスポットした時の濃度は400ng/mL、200ng/mLである。
【0056】
[図10]より、2水準の1次抗体濃度何れにおいても、SOD濃度と蛍光強度は相関した。バラツキを考慮しても、少なくとも10ng/mLの濃度のヒトSODを検出できることが判明した。
【実施例6】
【0057】
実施例3のアッセイのうち、ヒトIL−18標準溶液の濃度を10〜1000ng/mLの範囲で変えてそれぞれ1アレイずつ用いて実施した。得られたそれぞれの濃度における蛍光強度(n=9)IL−18濃度との関係を[図11]に示す。なお1次抗体をスポットした時の濃度は400ng/mL、200ng/mLである。
【0058】
[図11]より、2水準の1次抗体濃度何れにおいても、IL−18濃度と蛍光強度は相関した。バラツキを考慮しても、少なくとも10ng/mLの濃度のヒトIL−18を検出できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、生体液、食品、環境試料中などに存在するさまざまな物質を単独であるいは複数同時に評価・定量するために、研究者、一般消費者が利用することができる。本発明は医学・薬学・理学・工学分野など広範囲において応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】 従来のプロテインアレイにおける測定系の模式図。
【図2】 本発明によるプロテインアレイにおける測定系の模式図(例)。
【図3】 本発明で作製したヒトSOD測定のためのプロテインアレイの1次抗体のアレイデザイン。
【図4】 本発明によって標準溶液中のヒトSODの存在を視覚化した画像。(バックグランドは黒色であり、シグナルはグレイで表示)。
【図5】 本発明によってヒトプール血清中のヒトSODの存在を視覚化した画像。(バックグランドは黒色であり、シグナルはグレイで表示)。
【図6】 プロテインアレイに固定化された抗SODマウスモノクロナル抗体(1次抗体)の存在を視覚化した画像。(バックグランドは黒色であり、シグナルはグレイで表示)。
【図7】 本発明で作製したヒトIL−18測定のためのプロテインアレイの1次抗体のアレイデザイン。
【図8】 本発明によって標準溶液中のヒトIL−18を視覚化した画像。(バックグランドは黒色であり、シグナルはグレイで表示)。
【図9】 プロテインアレイに固定化された抗IL−18マウスモノクロナル抗体(1次抗体)の存在を視覚化した画像。(バックグランドは黒色であり、シグナルはグレイで表示)。
【図10】 本発明による測定系で評価した場合の、SOD濃度と各濃度での蛍光シグナルとの関係図
【図11】 本発明による測定系で評価した場合の、IL−18濃度と各濃度での蛍光シグナルとの関係図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質を認識するタンパク質または測定対象物質の全体・一部・類似物から選択される物質を、3次元ゲル化合物内に物理的または化学的に固定化した基板上において、量子ドット蛍光化合物を標識体として、試料中の対象物質を測定することを特徴とするアッセイ方法。
【請求項2】
ポリビニルピロリドン・ポリエチレングリコール・ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド・ポリアクリル酸・ポリメタクリル酸・ポリカーボネート・ポリ乳酸・多糖類・アミノ多糖類・複合糖類・ペプチド・複合高分子のうち、1種以上を含有する水溶性ポリマーの粉末あるいは水溶液を用いて製造された3次元ゲル化合物を使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリビニルピロリドン・ポリエチレングリコール・ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド・ポリアクリル酸・ポリメタクリル酸・ポリカーボネート・ポリ乳酸・多糖類・アミノ多糖類・複合糖類・ペプチド・複合高分子のうち、1種以上を含有する水溶性ポリマーの水溶液を、放射線・電子ビーム・ガンマ線・ラジカル発生試薬・架橋試薬 の内1種以上に対して曝露することにより、架橋して製造された3次元ゲル化合物を使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
測定対象物質が、タンパク質・ペプチド・糖質・脂質・糖脂質・低分子化合物である請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
測定対象物質を認識するタンパク質が、抗体・レセプター・レクチンであることを特徴とする請求項1−4の方法。
【請求項6】
固定化した基板が非蛍光性のガラス・プラスチック・金属基板であることもしくは、蛍光検出時に測定を妨害しないガラス・プラスチック・金属基板であることを特徴とする請求項1−5の方法。
【請求項7】
測定系において、アビジンもしくはアビジン様物質及びビオチンを使用することを特徴とする請求項1−6の方法。
【請求項8】
測定系において、物理的シグナルの増幅を行うことを特徴とする請求項1−7の方法。
【請求項9】
測定系において、チラミド化合物を使用することを特徴とする請求項8の方法。
【請求項10】
2以上のスポットからなる1以上のアレイ配列を備えた基板を使用することを特徴とする請求項1−9の方法。
【請求項11】
2以上のスポットからなる1以上のアレイ配列内に基準スポットを備えた基板を使用することを特徴とする請求項1−10の方法。
【請求項12】
2以上のスポットからなる1以上のアレイ配列内に2種類以上の基準スポットを備えた基板を使用することを特徴とする請求項1−11の方法。
【請求項13】
使用する量子ドット蛍光化合物の粒子の直径が0.1〜200nmであることを特徴とする請求項1−12の方法。
【請求項14】
疾患マーカーおよび疾患予防マーカーを測定対象とするものであることを特徴とする1)−13)の方法。
【請求項15】
請求項1−14の方法に使用するための基板。
【請求項16】
請求項1−15の方法に使用するための試薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−155691(P2007−155691A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380839(P2005−380839)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第28回日本分子生物学会年会 講演要旨集 発行日 平成17年11月25日 第28回日本分子生物学会年会 開催期日 平成17年12月7日〜10日 発表日 平成17年12月8日 日本分子生物学会 主催
【出願人】(506133792)住商ファーマインターナショナル株式会社 (2)
【Fターム(参考)】