物質を固相支持体に固定するための組成物および方法
本発明は、生体分子などの物質を簡便に固相支持体に固定する方法を開発すること。固相支持体への固定後に、特定の溶液に溶解したときに固定された生体分子などの物質が徐放され、あるいは細胞などの生体への親和性が実質的に保持または改善されるような効果を達成する固定方法を開発することを課題とする。
本発明は、物質を固相支持体に固定するための組成物であって、a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;およびb)塩、を含む、組成物を提供することによって上記課題を解決する。本発明はまた、このような組成物が固定された固相支持体(デバイス)、および物質の固定方法にも関する。
本発明は、物質を固相支持体に固定するための組成物であって、a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;およびb)塩、を含む、組成物を提供することによって上記課題を解決する。本発明はまた、このような組成物が固定された固相支持体(デバイス)、および物質の固定方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子などの物質の固定技術に関する。より詳細には、本発明は、固相支持体に生体分子などの物質を固定するための新規組成物およびそのための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロタイタープレートなどの固相支持体に生体分子などの物質を固定して種々の分析を行う試みが広く行われている。
【0003】
従来の固相支持体に生体分子を固定するやり方としては、例えば、共有結合を介する方法、疎水性相互作用、吸着、シラン化などの固相の表面処理などの方法がある。
【0004】
例えば、Nikiforov et al.は、陽イオン性界面活性剤を媒体としたオリゴマーのポリスチレンウエルへの結合を利用する方法を開示した(Nikiforov et al.、Nucleic Acids Res.22:4167〜4175、1994)。
【0005】
Nagata et al.は、未知量のクローニングDNAを0.1M MgCl2の存在下でマイクロタイターウエルに結合させる技術を開示した(Nagata et al.、FEBS Letters 183:379〜382(1985))。Dahlen,P. et al.は、マイクロタイターウエル中でのサンドイッチハイブリダイゼーションにおいて、クローニング捕捉DNAをウエルに吸着させることを記載している(Dahlen et al.、Mol.Cell.Probes 1:159〜168(1987))。NaClを媒体としたオリゴマーのポリスチレンウエルへの結合がNikiforov et al.(PCR Methods Applic.3:285〜291,1994)により検討されている。
【0006】
しかし、これらの方法は、固定工程において、一定の工数を必要とするか、特殊な処理を必要とすることから、より簡便な生体分子などの物質の固定方法への需要は大いにある。
【0007】
また、固定後に徐放することが望ましい場合も多い。そのような場合として、例えば、マイクロタイタープレートなどのプレート上でいったん生体分子を固定した後、アッセイにおいてアッセイ溶液にそのプレートを浸した後にその固定された生体分子が徐々に放出することが必要な場合などが挙げられる。あるいは、細胞などの生体に対して固定後に親和性を保持することが求められる場合もあるが、従来の方法では達成されていないか、あるいは固定後の生体への親和性が大いに低減することが多く、満足な固定方法が開発されていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、生体分子などの物質を簡便に固相支持体に固定する方法を開発することを課題の一つとした。本発明はまた、(i)固相支持体への固定後に、特定の溶液に溶解したときに固定された生体分子などの物質が徐放され、あるいは(ii)細胞などの生体への親和性が実質的に保持または改善されるような効果を達成する固定方法を開発することも課題の一つとした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を、DNA、RNA、ポリペプチドなどの生体分子のような物質を、それとは反対の電荷を有する物質と複合体を形成させ、その複合体に塩(有機塩、無機塩(例えば、培地に含まれるリン酸カルシウムなどの無機塩))を添加したものが、予想外に、簡便に固相支持体に固定されることを本発明者らが見いだしたことによって解決した。
【0010】
本発明者らはまた、上記構成を有する固定された生体分子などの物質が、固定された後、アッセイ溶液などの溶液に固相支持体(例えば、プレート)を浸すと徐放されることを予想外に見いだした。本発明者らはまた、上記構成を有する物質は、生体(例えば、組織、細胞)に対する親和性が保持または改善されることを見いだした。
【0011】
このように、本発明は、以下を提供する。
1. 物質を固相支持体に固定するための組成物であって、
a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;および
b)塩、
を含む、組成物。
2. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、項目1に記載の組成物。
3. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、項目1に記載の組成物。
4. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、項目1に記載の組成物。
5. 前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、項目4に記載の組成物。
6. 前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
7. 前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
8. 前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
9. 前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、項目4に記載の組成物。
10. 前記複合体および塩は薬学的に受容可能である、項目1に記載の組成物。
11. 目的の物質が固定されたデバイスであって、
a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;
b)塩;および
c)該複合体および該塩が固定された固相支持体、
を含み、該目的の物質は、該正に荷電した物質および/ または該負に荷電した物質である、デバイス。
12. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、項目11に記載のデバイス。
13. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、項目11に記載のデバイス。
14. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、項目11に記載のデバイス。
15. 前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、項目14に記載のデバイス。
16. 前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、項目11に記載のデバイス。
17. 前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、項目11に記載のデバイス。
18. 前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、項目11に記載のデバイス。
19. 前記固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含む、項目11に記載のデバイス。
20. 前記固相支持体は、コーティングによって処理される、項目11に記載のデバイス。
21. 前記コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含むコーティング剤によって行われる、項目20に記載のデバイス。
22. 前記固相支持体はチップである、項目11に記載のデバイス。
23. 前記固相支持体はチップであり、前記複合体は該チップ上にアレイ状に配列される、項目11に記載のデバイス。
24. 前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、項目14に記載のデバイス。
25. 前記複合体、前記塩および前記固体支持体に含まれる材料は薬学的に受容可能である、項目11に記載のデバイス。
26. 物質を固相支持体に固定する方法であって、
a)固相支持体を提供する工程;
b)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体を提供する工程;
c)塩と該複合体との混合物を提供する工程;および
d)該塩と該複合体との該混合物を固相支持体に付着させる工程、
を包含する、方法。
27. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、項目26に記載の方法。
28. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、項目26に記載の方法。
29. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、項目26に記載の方法。
30. 前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、項目29に記載の方法。
31. 前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、項目25に記載の方法。
32. 前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、項目26に記載の方法。
33. 前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、項目26に記載の方法。
34. 前記固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含む、項目26に記載の方法。
35. 前記固相支持体は、コーティングによって処理される、項目26に記載の方法。
36. 前記コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含むコーティング剤によって行われる、項目35に記載の方法。
37. 前記固相支持体はチップである、項目26に記載の方法。
38. 前記固相支持体はチップであり、前記複合体は該チップ上にアレイ状に配列される、項目26に記載の方法。
39. 前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、項目29に記載の方法。
40. 前記複合体および塩は薬学的に受容可能である、項目26に記載の方法。
41. 前記工程b)は、生体分子を破壊しない条件下で行われる、項目29に記載の方法。
42. 前記工程c)は、生体分子を破壊しない条件下で行われる、項目29に記載の方法。
43. 前記混合物を前記固相支持体に付着した後、その混合物中の溶媒を低減または除去する工程をさらに包含する、項目26に記載の方法。
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および付随する図面、ならびに当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(発明の実施の形態)
以下に本発明の好ましい形態を説明する。
【0014】
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0016】
本明細書において使用される用語「物質」は、当該分野において用いられる最も広義な意味と同じ意味で用いられ、正または負に荷電することができるものを含む。
【0017】
本明細書において「正に荷電した物質」は、正荷電を有するすべての物質を包含する。そのような物質としては、例えば、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質などのカチオン性物質が含まれるがそれらに限定されない。そのような正に荷電した物質は、複合体を形成することができる物質であることが有利である。そのような複合体を形成することができる正に荷電した物質としては、例えば、カチオン性ポリマーのようにある程度の分子量を有する物質、あるいは、カチオン性脂質のように特定の溶媒(例えば、水、水溶液など)中においてある程度溶解せずに残存することができる物質などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような好ましい正に荷電した物質としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリLリシン、合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体などが挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、正に荷電した物質としては、ヒストン、合成ポリペプチドなどのような生体分子が挙げられるがそれらに限定されない。そのような好ましい正に荷電した物質の種類は、複合体を形成するパートナーである負に荷電した物質の種類に応じて変動する。好ましい複合体形成パートナーを選択することは、当業者には容易であり、そのような選択は、当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような好ましい複合体形成パートナーの選択においては、種々のパラメータを考慮することができる。そのようなパラメータとしては、例えば、電荷、分子量、疎水性、親水性、置換基の性質、pH、温度、塩濃度、圧力などの種々の物理的パラメータ、化学的パラメータなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0018】
本明細書において「カチオン性ポリマー」は、カチオン性の官能基を有するポリマーをいい、例えば、ポリエチレンイミン、ポリLリシン、合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0019】
本明細書において「カチオン性脂質」は、カチオン性の官能基を有する脂質をいい、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、及びその誘導体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0020】
ここで、カチオン性の官能基としては、例えば、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0021】
本明細書において「負に荷電した物質」は、負荷電を有するすべての物質を包含する。そのような物質としては、例えば、生体分子ポリマー、アニオン性脂質などのアニオン性物質が含まれるがそれらに限定されない。そのような負に荷電した物質は、複合体を形成することができる物質であることが有利である。そのような複合体を形成することができる負に荷電した物質としては、例えば、DNAのようなアニオン性ポリマーのようにある程度の分子量を有する物質、あるいは、アニオン性脂質のように特定の溶媒(例えば、水、水溶液など)中においてある程度溶解せずに残存することができる物質などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような好ましい負に荷電した物質としては、例えば、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。ならびに、負に荷電した物質としては、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような好ましい負に荷電した物質の種類は、複合体を形成するパートナーである正に荷電した物質の種類に応じて変動する。好ましい複合体形成パートナーを選択することは、当業者には容易であり、そのような選択は、当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような好ましい複合体形成パートナーの選択においては、種々のパラメータを考慮することができる。そのようなパラメータもまた、上述の正に荷電した物質において考慮すべきパラメータと同様、種々のものを包含する。
【0022】
本明細書において「アニオン性ポリマー」は、アニオン性の官能基を有するポリマーをいい、例えば、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0023】
本明細書において「アニオン性脂質」は、アニオン性の官能基を有する脂質をいい、例えば、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0024】
ここで、アニオン性の官能基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基が挙げられるがそれらに限定されない。
【0025】
また、目的の物質に対して、正電荷または負電荷を有する置換基などの部分を付加することによって、その目的の物質の電荷を変換することも可能である。好ましい複合体パートナーが固定を目的とする物質と同じ電荷を有している場合に、いずれかの電荷を変換することによって複合体形成を促進することが可能である。
【0026】
本明細書において「複合体」とは、二つ以上の物質が互いに直接的または間接的に相互作用する結果、それらの物質の総体があたかも1つの物質のように挙動するものをいう。
【0027】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物体について言及するとき、その2つの物体が相互に力を及ぼしあうことをいう。そのような相互作用としては、例えば、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力、イオン性相互作用、非イオン性相互作用、疎水性相互作用、静電的相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、相互作用は、水素結合、疎水性相互作用などである。本明細書において「共有結合」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、電子対が2つの原子に共有されて形成する化学結合をいう。本明細書において「水素結合」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、電気的陰性度の高い原子に一つしかない水素原子の核外電子が引き寄せられて水素原子核が露出し、これが別の電気的陰性度の高い原子を引き寄せて生じる結合をいい、例えば、水素原子と電気的陰性度の高い(フッ素、酸素、窒素などの)原子との間にできる。
【0028】
本明細書において「複合体パートナー」とは、複合体を形成するあるメンバーについて言及するとき、そのメンバーと直接的または間接的に相互作用する別のメンバーをいう。
【0029】
本明細書において複合体を形成する条件は、複合体パートナーの種類に応じて変動する。そのような条件は、当業者は容易に理解することができ、当該分野において周知の技法を用いて任意の複合体パートナー(例えば、正に荷電した物質および負に荷電した物質)から複合体を形成させることができる。
【0030】
本明細書において使用される用語「生体物質」または「生体分子」とは、本明細書において互換可能に用いられ、生体に関連する物質または分子をいう。生体分子は、生体から抽出される分子を包含するが、それに限定されない。生体に影響を与え得る分子であれば生体分子の定義に入る。したがって、コンビナトリアルケミストリで合成された分子も生体への効果を目的としている限り、生体物質の定義に入る。生体物質には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、低分子(例えば、有機低分子など)、これらの複合分子などが包含されるがそれらに限定されない。従って、ポリマー分子と複合体を形成し得る限り、生体物質には、細胞自体、組織の一部、他の物質も包含され得る。
【0031】
本明細書において「ポリマー分子」とは、ポリマーが重合してできる高分子量の物質をさし、通常、分子量が約5000以上のものをいう。
【0032】
本明細書において使用される用語「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において互換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸またはその改変体のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものも包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この用語の定義は、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変体が包含される。
【0033】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」は、本明細書において互換可能に使用され、任意の長さのヌクレオチドまたはその改変体のポリマーをいう。これらの用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0034】
本明細書において「塩」は、当該分野において通常用いられる意味と同じ意味で用いられ、無機塩および有機塩の両方を含む。塩は、通常、酸と塩基との中和反応によって生成する。塩には中和反応で生成するNaCl、K2SO4などといったもののほかに、金属と酸との反応で生成するPbSO4、ZnCl2など種々の種類があり、これらは、直接中和反応によって生成したものでなくても、酸と塩基との中和反応から生成したとみなすことができる。塩としては、正塩(酸のHや塩基のOHが塩に含まれていないもの、例えば、NaCl、NH4Cl、CH3COONa、Na2CO3)、酸性塩(酸のHが塩に残っているもの、例えば、NaHCO3、KHSO4、CaHPO4)、塩基性塩(塩基のOHが塩の中に残っているもの、例えば、MgCl(OH)、CuCl(OH))などに分類することができるがそれらの分類は、本発明においてはそれほど重要ではない。好ましい塩としては、培地を構成する塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸、ビタミン)、緩衝液を構成する塩(例えば、塩化カリウム、塩化マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)などが好ましい。細胞に対する親和性を保持または改善する効果がより高いからである。これらの塩は、単独で用いてもよいし、複数用いてもよい。複数用いることが好ましい。細胞に対する親和性が高くなる傾向があるからである。従って、NaClなどを単独で用いるよりも、培地中に含まれる塩(例えば、塩化カリウム、塩化マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)を複数用いることが好ましく、より好ましくは、培地中に含まれる塩全部をそのまま使用することが有利であり得る。別の好ましい実施形態では、グルコースを加えてもよい。
【0035】
本明細書において使用される「支持体」または「基板」は交換可能であり、本明細書において、生体分子のような物質を固定することができる要素(element)をいう。支持体の材料としては、共有結合かまたは非共有結合のいずれかで、本発明において使用される生体分子のような物質に結合する特性を有するかまたはそのような特性を有するように誘導体化され得る、任意の固体材料が挙げられる。
【0036】
支持体として使用するためのそのような材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)などが挙げられるがそれらに限定されない。支持体は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素などの無機絶縁材料を使用することができる。ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホンなどの有機材料を用いることができる。本発明においてはまた、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、PVDF膜など、ブロッティングに使用される膜を用いることもできる。支持体を構成する材料が固相である場合、本明細書において特に「固相支持体」という。固相支持体は、本明細書において、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズ、金属(表面)などの形態をとり得る。
【0037】
本明細書において「コーティング」とは、固相支持体について用いられるとき、その固相支持体の表面上にある物質の膜を形成させることおよびそのような膜をいう。コーティングは種々の目的で行われ、例えば、固相支持体の品質向上(例えば、寿命の向上、耐酸性などの耐環境性の向上)、固相支持体に結合されるべき物質の親和性の向上などを目的とすることが多い。そのようなコーティングのための物質としては、種々の物質が用いられ得、上述の固相支持体に使用される物質のほか、DNA、RNA、タンパク質、脂質などの生体物質、ポリマー(例えば、ポリ−L−リジン、APS(例えば、γ−アミノプロピルシラン)、MAS、疎水性フッ素樹脂)、シラン、金属(例えば、金など)が使用され得るがそれらに限定されない。そのような物質の選択は当業者の技術範囲内にあり、当該分野において周知の技術を用いて場合ごとに選択することができる。一つの好ましい実施形態では、そのようなコーティングは、ポリ−L−リジン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、エポキシシランまたはメルカプトシランのようなシラン、金のような金属を用いることが有利であり得る。このような物質は、細胞または細胞を含む物体(例えば、生体、臓器など)に適合する物質を用いることが好ましくあり得る。
【0038】
本明細書において「固定」とは、固相支持体について用いられるとき、その対象となる物質(例えば、生体分子)がその支持体において少なくともある一定の時間の間保持される状態またはそのような状態にさせることをいう。従って、物質が固相支持体上で固定された後、条件が変化する(例えば、別の溶媒中に浸される)場合は、その固定状態が解除されてもよい。
【0039】
本明細書において用いられる「細胞親和性」とは、ある物質が細胞(例えば、細菌細胞、動物細胞、酵母、植物細胞など)または細胞を含む物体(例えば、組織、臓器、生体など)と相互作用が可能な状態に置かれたときに、その細胞または細胞を含む物体に対して有害な影響を与えない性質をいう。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、細胞が優先的に相互作用する物質であり得るがそれに限定されない。本発明では、固定されるべき物質(例えば、正に荷電した物質および/または負に荷電した物質)は、細胞親和性を有することが好ましいがそれに限定されない。固定されるべき物質が細胞親和性を有する場合、その物質が本発明にしたがって固定されると、細胞親和性が保持または改善されることが予想外に見いだされた。通常、細胞親和性を有する物質が固相支持体に固定される場合は、必ずしも細胞親和性が保持されるとは限らなかったことに鑑みると、本発明の効果は計り知れない。
【0040】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0041】
本明細書において「組織」(tissue)とは、多細胞生物において、実質的に同一の機能および/または形態をもつ細胞集団をいう。通常「組織」は、同じ起源を有するが、異なる起源を持つ細胞集団であっても、同一の機能および/または形態を有するのであれば、組織と呼ばれ得る。
【0042】
本明細書において「臓器」または「器官」とは、互換可能に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、血管系に関連する臓器または器官が挙げられる。1つの実施形態では、本発明が対象とする臓器は、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0043】
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、「単離された細胞」とは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。
【0044】
本発明で用いられる細胞または細胞を含む物体(例えば、臓器、組織)は、どの生物由来の細胞(たとえば、原核生物(例えば、大腸菌など)、真核生物の単細胞生物(酵母など)、任意の種類の多細胞生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物)、植物(たとえば、単子葉植物、双子葉植物など)など))でもよい。好ましくは、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、カニクイサル、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞が用いられる。ヒト由来の細胞が用いられてもよい。
【0045】
本明細書において「徐放」とは、ある物質がその物質を溶解する溶媒に浸される場合に、一定時間は固相を保ちつつ徐々に溶解することをいう。従って、ある物質が徐放性を有する場合は、通常、溶媒に浸された後も約5分間は固定された状態が保たれ、好ましくは少なくとも約10分間、より好ましくは少なくとも約15分間は、さらに好ましくは少なくとも約30分間固定された状態が保たれる。医薬として用いられる場合は、徐放性は、少なくとも約30分間、好ましくは少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約3時間、さらに好ましくは少なくとも約6〜12時間固定された状態が保たれることが有利である。DNAのトランスフェクションなど、細胞に直接固定された物質を導入する目的で使用される場合は、通常、少なくとも約15分間固定された状態が保たれる。
【0046】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプタ−への結合を包含する。そのような生物学的活性は、測定対象となる活性に応じて当該分野において周知の技術によって測定することができる。
【0047】
本明細書において「生体分子を破壊しない条件」とは、生体分子が発揮する少なくとも一つの生物学的活性(例えば、遺伝子発現活性、酵素活性など)が損なわれない条件をいう。そのような条件については、当業者はその生体分子に応じ、種々の考慮事項(例えば、温度、pH、圧力、化学的条件など)を考慮することによって、適宜設定することができる。また、生体分子を破壊しない条件が未知の場合でも、その生体物質について試験されるべき条件に曝し、その後目的とする生物学的活性が保持されているかを調べることによってあらかじめ決定することができる。従って、本発明を実施する際には、そのような条件は、目的とする生物学的活性が保たれている限り、どのような条件であってもよいことが当業者に理解される。
【0048】
本明細書において溶媒(例えば、水、有機溶媒(例えば、ヘキサンなど))の「低減」または「除去」は、その溶媒を含む混合物または組成物を、ある条件に置くことにより、その混合物または組成物中の溶媒比率が減少またはなくなることによって達成される。
【0049】
本明細書において「薬学的に受容可能」とは、ある物質について言及するとき、その物質が医薬として投与され得る性質をいう。
【0050】
本明細書において使用され得る「薬学的に受容可能な物質」としては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、目的とする化合物(生物学的活性または医薬品の有効成分としての活性を有する化合物)、またはその改変体もしくは誘導体は、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で提供される。
【0051】
本明細書で使用される薬学的に受容可能な物質は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸塩;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0052】
(生体分子チップ・アレイ)
本明細書において「チップ」とは、多様の機能をもち、システムの一部となる超小型集積回路をいう。本明細書では、積載される物質に応じて、「DNAチップ」、「プロテインチップ」などと称することがある。
【0053】
本明細書において用いられる用語「アレイ」とは、基板または膜上の固定物体の固定されたパターンまたはパターン化された基板そのものをいう。アレイの中で、小さな基板(例えば、10×10 mm上など)上にパターン化されているものは「マイクロアレイ」というが、本明細書では、「マイクロアレイ」と「アレイ」とは互換可能に使用される。従って、上述の基板より大きなものにパターン化されたものでも「マイクロアレイ」と呼ぶことがある。例えば、アレイはそれ自身固相表面または膜に固定されている所望のポリヌクレオチドのセットで構成される。アレイは好ましくは異なるポリヌクレオチドを少なくとも102個、より好ましくは少なくとも103個、およびさらに好ましくは少なくとも104個、さらにより好ましくは少なくとも105個を含む。これらのポリヌクレオチドは、例えば、125×80 mm、10×10 mmのような規格化されたフォーマット上に配置される。
【0054】
本明細書において使用される用語「アドレス」とは、基板上のユニークな位置をいい、他のユニークな位置から弁別可能であり得るものをいう。アドレスは、そのアドレスを伴う微粒子との関連づけに適切であり、そしてすべての各々のアドレスにおける存在物が他のアドレスにおける存在物から識別され得る(例えば、光学的)、任意の形状を採り得る。アドレスの形は、例えば、円状、楕円状、正方形、長方形であり得るか、または不規則な形であり得る。
【0055】
各々のアドレスのサイズは、とりわけ、その基板の大きさ、特定の基板上のアドレスの数、分析物の量および/または利用可能な試薬、微粒子のサイズおよびそのアレイが使用される任意の方法のために必要な解像度の程度に依存する。大きさは、例えば、1−2nmから数cmの範囲であり得るが、そのアレイの適用に一致した任意の大きさが可能である。
【0056】
アドレスの空間配置および形状は、そのマイクロアレイが使用される特定の適用に適合するように設計される。アドレスは、密に充填され得、広汎に分散され得るか、または特定の型の分析物に適切な所望のパターンへとサブグループ化され得る。
【0057】
マイクロアレイ(基板上にDNAが配置されている場合、「DNAマイクロアレイ」とも呼ばれる)については、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。
【0058】
合成型DNAマイクロアレイにおける標識方法としては、例えば、二蛍光標識法が挙げられる。この方法では、2つの異なるmRNAサンプルをそれぞれ異なる蛍光で標識し、同一マイクロアレイ上で競合的ハイブリダイゼーションを行って、両方の蛍光を測定し、それを比較することで遺伝子発現の相違を検出する。蛍光色素としては、例えば、Cy5およびCy3などが最も用いられているが、それらに限定されない。Cy3およびCy5の利点は、蛍光波長の重なりが殆どないという点である。二蛍光標識法は、遺伝子発現の相違のみならず、変異または多型性を検出するためにも使用され得る。
【0059】
DNAマイクロアレイを用いたアッセイにおいては、DNAマイクロアレイ上でハイブリダイズした蛍光シグナルを蛍光検出器等で検出する。このような検出器は、現在までに種々の検出器が利用可能である。例えば、Stanford Universityのグループは、オリジナルスキャナを開発しており、このスキャナは、蛍光顕微鏡と稼動ステージとを組み合わせたものである(http://cmgm.stanford.edu/pbrownを参照のこと)。従来型のゲル用蛍光イメージアナライザであるFMBIO(日立ソフトウェアエンジニアリング)、Storm(Molecular Dynamics)などでも、スポットがそれほど高密度でなければ、DNAマイクロアレイの読み取りを行い得る。その他に利用可能な検出器としては、Scanarray 4000、同5000(GeneralScanning;スキャン型(共焦点型))、GMS418 Array Scanner(宝酒造;スキャン型(共焦点型))、Gene Tip Scanner(日本レーザー電子;スキャン型(非共焦点型))、Gene Tac 2000(Genomic Solutions;(CCDカメラ型))などが挙げられる。
【0060】
マイクロアレイから得られるデータは膨大であることから、クローンとスポットとの対応の管理、データ解析などを行うためのデータ解析ソフトウェアが重要である。そのようなソフトウェアとしては、各種検出システムに付属のソフトウェアが利用可能である(Ermolaeva Oら(1998)Nat.Genet.20:19−23)。また、データベースのフォーマットとしては、例えば、Affymetrixが提唱しているGATC(genetic analysis technology consortium)と呼ばれる形式が挙げられる。
【0061】
本発明において固相支持体に配置される生体分子(例えば、DNA、RNA、ポリペプチドなど)は、生体由来物質(例えば、mRNA)を用いて分子生物学的手法で作製され得、あるいは、当業者に公知の方法によって化学的に合成され得る。例えば、自動固相ペプチド合成機を用いた合成方法は、以下により記載される:Stewart,J.M.et al.(1984).Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.;Grant,G.A.(1992).Synthetic Peptides:A User’s Guide,W.H.Freeman;Bodanszky,M.(1993).Principles of Peptide Synthesis,Springer-Verlag;Bodanszky,M.et al.(1994).The Practice of Peptide Synthesis,Springer-Verlag;Fields,G.B.(1997).Phase Peptide Synthesis,Academic Press;Pennington,M.W.et al.(I 994).Peptide Synthesis Protocols,Humana Press;Fields,G.B.(1997).Solid-Phase Peptide Synthesis,Academic Press。オリゴヌクレオチドは、Applied Biosystemsなどにより市販されるDNA合成機の何れかを用いて、自動化学合成により調製され得る。自動オリゴヌクレオチドの合成のための組成物および方法は、例えば、米国特許第4,415,732号,Caruthers et al.(1983);米国特許第4,500,707号およびCaruthers(1985);米国特許第4,668,777号,Caruthers et al.(1987)に開示されており、当業者は、これらの方法を利用して、本発明において使用される生体分子を調製することができる。
【0062】
(本発明の好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明するが、これらの好ましい実施形態の説明は、例示のために提供され、本発明の範囲を限定すべきでないことが理解されるべきである。
【0063】
1つの局面において、本発明は、生体分子のような物質を固相支持体に固定するための組成物を提供する。この組成物は、固定されるべき物質と、その物質とは反対の電荷を有する物質との複合体、および塩(例えば、培地中に含まれる塩類)を含む。これらの複合体と塩との混合による予想外の効果で、固定されるべき物質が、固相支持体に簡便に固定されることが見いだされた。このような固定による効果は、例えば、(i)固定後の物質の拡散が徐放であること、および(ii)固定後の物質が細胞親和性を保つか改善されていることなどが挙げられる。本発明の組成物は、a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;およびb)塩、を含む。ここで、固定を目的とする物質は、正に荷電した物質および負に荷電した物質のいずれでも、あるいはその両方でもよい。
【0064】
1つの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する。ある物質の細胞親和性は、その物質と細胞とを混合したときに、その物質が存在しないときに比べて、その細胞の生存が維持されるか否かを評価することによって判断することができる。そのような細胞の生存の維持は、細胞の種々のパラメータを測定することによって具体的に判断することができる。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、その細胞の生存を改善することが有利であり得る。
【0065】
1つの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の両方が細胞親和性を有することが有利である。このような場合、両方の物質が複合体を形成したときにも細胞親和性を喪失しないことが好ましいがそれに限定されない。
【0066】
1つの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子であり得る。ここで、この生体分子が固定の目的の対象であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0067】
本発明の好ましい実施形態において使用され得るそのような生体分子としては、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNAなど)、RNA(例えば、mRNAなど)、ペプチド、脂質、糖、有機低分子(例えば、コンビナトリアルケミストリのライブラリーメンバー)、およびこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、糖脂質、核酸ペプチド、リポタンパク質などが含まれるがそれらに限定されない)が挙げられるがそれらに限定されない。
【0068】
1つの特定の実施形態では、本発明において固定されるべき生体分子は、DNAのような遺伝子コード分子であり得る。本発明において達成された固定方法を用いることによって、DNAがトランスフェクトのような遺伝子導入のための処置がされるときに、処置の完了に必要な時間(例えば、約15分から約30分程度)、継続して徐放が起こることによって、そのような分子の導入が効率よく行われるという効果が達成された。このような徐放効果は、従来の固定方法では達成されなかったか、十分ではなかったことから、このような効果は、本発明の特筆すべき効果として挙げることができる。また、本発明の組成物は、固定された後に、細胞に対する親和性が保持されるかあるいは改善され、特に、トランスフェクションのような遺伝子の導入において従来の固定方法よりも効率よくかつ細胞に対するダメージなしにそのような導入が行われることが見いだされた。
【0069】
本発明の好ましい実施形態において、固定されるべき負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ペプチド及びその複合体のような生体分子でもよく、アニオン性ポリマー、アニオン性脂質のように生体分子でなくてもよい。
【0070】
本発明の好ましい実施形態において、固定されるべき正に荷電した物質は、生体分子でもよく、生体分子でなくてもよく、例えば、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質ポリLリシンなど合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体などであり得る。本発明の好ましい実施形態において、正に荷電した物質としては、例えば、ポリイミンポリマー、ポリLリシン、合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体などのトランスフェクション試薬などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0071】
固相上のトランスフェクションを目的とした特定の実施形態において、固定されるべき物質として負に荷電したDNAが選択され、その複合体パートナーとしてはポリイミンポリマーのような正に荷電したDNAが選択されることが好ましい。この場合、塩としては、細胞に親和性のある塩(例えば、培地に用いられる塩類、緩衝液中で用いられる塩類など)が挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、トランスフェクションを目的とする場合は、培地または緩衝液中に含まれる塩類すべての組み合わせを用いることが有利であり得る。このような塩類の組み合わせは、通常細胞にとって好ましい組み合わせであるからである。そのような培地の例示としては、例えば、ダルベッコMEM、HAM12培地、αMEM培地、RPM1640(例えば、ニチレイから市販)が挙げられるがそれらに限定されない。そのような培地に含まれる塩類としては、例えば、塩化カルシウム、塩化カリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。そのような塩の濃度は、当業者が適宜選択して調整することができるが、好ましくは、細胞の浸透圧とほぼ等しいことが有利であり得る。
【0072】
好ましい実施形態では、固定される生体分子は、細胞に導入され、その細胞内で生物学的活性(例えば、薬効、酵素、シグナル伝達、遺伝子発現など)を発揮することが有利であり得る。遺伝子発現が目的とされる場合には、生体分子はその遺伝子をコードする配列を含むDNAであり得る。シグナル伝達が目的とされる場合には、生体分子はシグナル伝達刺激因子(例えば、サイトカイン、特定のリガンドなど)などであり得る。薬効が目的とされる場合は、生体分子は薬効を有する化学物質であり得る。そのような薬効を有する化学物質としては、例えば、中枢神経系用薬;末梢神経用剤;感覚器官用薬;循環器官用薬;呼吸器官用薬;消化器官用薬;ホルモン剤;泌尿生殖器官および肛門用薬;外皮用薬;歯科口腔用剤;その他の個々の器官系用薬;ビタミン剤;滋養強壮薬;血液および体液用薬;人工透析用薬;その他の代謝性医薬品(例えば、臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、他に分類されない代謝性薬など);細胞賦活用剤;腫瘍用薬;放射性医薬品;アレルギー用薬;抗生物質製剤;化学療法剤;生物学的製剤;調剤用薬;診断用薬;体外診断用医薬品;分類されない治療を主目的としない薬剤;ならびに麻薬などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0073】
医薬としての使用を目的とする場合は、本発明の組成物において含まれる複合体および塩は、薬学的に受容可能であることが好ましい。
【0074】
別の局面において、本発明はまた、目的の物質が固定されたデバイスを提供する。このデバイスでは、目的の物質(例えば、DNAのような生体分子)と、その物質とは反対の電荷を有する物質との複合体、および塩(例えば、培地中に含まれる塩類)が混合されその固相支持体に固定されている。これらの複合体と塩との混合による予想外の効果で、固定されるべき物質が、固相支持体に簡便に固定されることが見いだされた。このような固定による効果により、本発明のデバイスは、例えば、(i)固体支持体上に固定された物質の徐放性を有し、および/または(ii)固定された物質が細胞親和性を保つかまたは改善されていることなどが達成される。従って、本発明のデバイスは、細胞などの生体またはその一部を用いたアッセイなどに用いられるマイクロタイタープレート、アレイ(チップ)などの形態として提供され、固定されるべき物質(活性成分、発現遺伝子をコードするDNAなど)が徐放されることおよび/または細胞親和性が保持されることが所望されるアッセイなどにおいて有用である。あるいは、ある有効成分が徐放されることが好ましい場合において、医薬送達媒体として使用され得る。そのような場合は、複合体を構成する物質、塩および固相支持体は、生体適合性であり、好ましくは薬学的に受容可能であることが所望される。従って、本発明のデバイスは、a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;b)塩;およびc)その複合体とその塩とが(好ましくは混合されて)固定された固相支持体を含む。ここで、目的の物質は、上記正に荷電した物質であっても、負に荷電した物質であってもその両方であってもよい。あるいは、形成された複合体自体が目的の物質であってもよい。
【0075】
本発明のデバイスの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、その細胞の生存を改善し得るがそれに限定されない。より好ましくは、正に荷電した物質および負に荷電した物質の両方が細胞親和性を有することが有利である。このような場合、両方の物質が複合体を形成したときにも細胞親和性を喪失しないことがさらに好ましいがそれに限定されない。
【0076】
本発明のデバイスの好ましい実施形態において使用され得るそのような生体分子としては、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、あるいはゲノムDNA/cDNAライブラリーのメンバーなど)、RNA(例えば、mRNA、またはRNAiなど)、ペプチド(例えば、プロテオミクスライブラリーのメンバー)、脂質、糖、有機低分子(例えば、コンビナトリアルケミストリのライブラリーメンバー)、およびこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、糖脂質、核酸ペプチド組成物、リポタンパク質などが含まれるがそれらに限定されない)、薬剤などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0077】
本発明のデバイスの好ましい実施形態では、正に荷電した物質および/または負に荷電した物質および/または塩としては、本発明の組成物の好ましい実施形態において列挙される物質であってもよいが、それに限定されない。そのような物質および/または塩は、目的とする物質の種類または性質に応じて適宜変更することができる。あるいは、それらの物質および/または塩は、固相支持体の種類に応じて当業者が適切に選択することができる。そのような適切な物質/塩の選択は、おのおのがすでに選択した固相支持体の種類について適切な性質(例えば、細胞親和性)を有していることが公知であるようなものを選択することができるし、あるいは、デバイスの調製の前に予備的な試験を行うことによって確認してもよい。
【0078】
本発明のデバイスにおいて使用される固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含むがそれに限定されない。
【0079】
本発明のデバイスの1つの好ましい実施形態において、固相支持体は、コーティングによって処理されていてもよい。コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、金属など、通常固相支持体において使用することが企図される物質を利用して行うことができる。好ましい実施形態では、細胞培養において利用されるコーティング剤(例えば、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、金属)などを使用することができる。
【0080】
本発明のデバイスの1つの好ましい実施形態では、固相支持体はチップであってもよい。本発明のデバイスにおける固相支持体がチップである場合、好ましくは、複合体はチップ上にアレイ状に配列される。このような場合、本発明のデバイスは、「アレイ」とも称され得る。
【0081】
本発明のデバイスの1つの好ましい実施形態では、生体分子は、細胞に導入された後、生物学的活性を有するものであることが所望され得る。このような場合、生物学的活性としては、例えば、薬効、遺伝子発現、酵素活性、シグナル伝達活性などが挙げられるがそれらに限定されない。遺伝子発現が目的とされる場合には、生体分子はその遺伝子をコードする配列を含むDNAであり得る。シグナル伝達が目的とされる場合には、生体分子はシグナル伝達刺激因子(例えば、サイトカイン、特定のリガンドなど)などであり得る。薬効が目的とされる場合は、生体分子は薬効を有する化学物質であり得る。薬効を有する化合物は、本明細書において別の場所において記載されるように種々の化合物の中から選択することができる。
【0082】
固相上のトランスフェクションを目的とした1つの特定の実施形態において、固定されるべき物質として負に荷電したDNAが選択され、その複合体パートナーとしてはポリイミンポリマーのような正に荷電したDNAが選択されることが好ましい。この場合、塩としては、細胞に親和性のある塩(例えば、培地に用いられる塩類、緩衝液中で用いられる塩類など)が挙げられるがそれらに限定されない。好ましい実施形態において使用される固相支持体の材料としては、例えば、スライドガラス(ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、好ましくはポリ−L−リジンなどによってコーティングされる)、ポリスチレン樹脂などが挙げられるがそれらに限定されない。ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂などでコーティングされた固相支持体が好ましい。細胞との親和性、トランスフェクションの効率に好ましい効果を有することが知られているからである。
【0083】
本発明のデバイスの1つの特定の実施形態では、固定されるべき生体分子は、DNAのような遺伝子コード分子であり得る。本発明のデバイスを用いることによって、DNAがトランスフェクトのような遺伝子導入のための処置がされるときに、処置の完了に必要な時間(例えば、約15分から約30分程度)、継続して徐放が起こることによって、そのような分子の導入が効率よく行われるという効果が達成された。このような徐放効果は、従来の固定方法では達成されなかったか、十分ではなかったことから、このような効果は、本発明の特筆すべき効果として挙げることができる。また、本発明のデバイスは、細胞に対する親和性が保持されるかあるいは改善され、特に、トランスフェクションのような遺伝子の導入において従来のデバイスよりも効率よくかつ細胞に対するダメージなしにそのような導入が行われることが見いだされた。
【0084】
本発明のデバイスは、医薬デバイスとして使用される場合、複合体、固相支持体および塩は薬学的に受容可能であることが好ましい。
【0085】
さらに別の局面において、本発明は、物質を固相支持体に固定する方法を提供する。このような物質の固定方法では、固定されるべき物質と、その物質とは反対の電荷を有する物質との複合体、および塩(例えば、培地中に含まれる塩類)が提供され、これらの複合体と塩との混合による予想外の効果で、固定されるべき物質が、固相支持体に簡便に、かつ、特殊な固定条件を選択することも必要とせずに固定されることが見いだされた。本発明の固定方法による効果により、(i)固体支持体上に固定された物質の徐放性を有し、および/または(ii)固定された物質が細胞親和性を保つかまたは改善されていることなどが挙げられる。従って、本発明の固定方法は、a)固相支持体を提供する工程;b)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体を提供する工程;c)塩と上記複合体との混合物を提供する工程;およびd)上記混合物を固相支持体に付着させる工程、を包含する。ここで、目的の物質は、上記正に荷電した物質であっても、負に荷電した物質であってもその両方であってもよい。あるいは、形成された複合体自体が目的の物質であってもよい。
【0086】
ここで、上記固相支持体、上記複合体および上記塩の提供は、当業者の技術常識の範囲内にあり、当該分野において周知の技術を利用して当業者が容易に実施することができる。例えば、固相支持体は、市販のものを購入してもよいし(例えば、スライドガラス、マイクロタイタープレートなど)、塩、目的の物質の複合体パートナーもまた、市販のものを購入してもよい。あるいは、化学的または生化学的にそのような固相支持体、塩または目的の物質の複合体パートナーを合成または加工してもよい。塩と複合体との混合は、塩と複合体との相互作用が発揮されるような形態であればどのような方法を用いてもよい。本発明の固定方法は、アッセイ用のデバイスまたは医薬送達デバイスを作製する際に使用することができ、その有用性は広い範囲に及ぶ。
【0087】
本発明の固定方法において、塩と複合体との混合物を付着する工程は、どのような技術を用いてもよく、手動(ピペッティングなど)でも、自動(例えば、インクジェットプリンターなどのプリンター技術)でもよい。好ましくは、混合物はインクジェットプリンターのプリントピンを用いて付着させることができる。
【0088】
本発明の方法の好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、その細胞の生存を改善し得るが本発明はそれに限定されない。より好ましくは、正に荷電した物質および負に荷電した物質の両方が細胞親和性を有する。このような場合、両方の物質が複合体を形成したときにも細胞親和性を喪失しないことがさらに好ましいが、本発明はそれに限定されない。
【0089】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態において固定が企図される生体分子としては、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、あるいはゲノムDNA/cDNAライブラリーのメンバーなど)、RNA(例えば、mRNAまたはRNAiなど)、ペプチド(例えば、プロテオミクスライブラリーのメンバー)、脂質、糖、有機低分子(例えば、コンビナトリアルケミストリのライブラリーメンバー)、およびこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、糖脂質、核酸ペプチド、リポタンパク質などが含まれるがそれらに限定されない)、薬剤などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0090】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、正に荷電した物質および/または負に荷電した物質および/または塩としては、本発明の組成物の好ましい実施形態において列挙される物質であってもよいが、それに限定されない。そのような物質および/または塩は、目的とする物質の種類または性質に応じて適宜変更することができる。あるいは、それらの物質および/または塩は、固相支持体の種類に応じて当業者が適切に選択することができる。そのような適切な物質/塩の選択は、おのおのがすでに選択した固相支持体の種類について適切な性質(例えば、細胞親和性)を有していることが公知であるようなものを選択することができるし、あるいは、本発明の方法を実施する前に予備的な試験を行うことによって確認してもよい。
【0091】
本発明の方法において使用される固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含むがそれに限定されない。このような固相支持体は、本発明の方法において、新たに調製することもできるし、リサイクルすることもできる。好ましくは、コーティングすることが有利であり得る。コーティングは特に、リサイクリングを目的とする場合には有利であり得る。
【0092】
本発明の方法では、使用される固相支持体がコーティングによって処理されたものでもよいし、方法の実施の際に固相支持体をコーティングする工程を包含していてもよい。このようなコーティングに使用される物質としては、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、金属などあるいはそれらの混合物を用いることができるが、それらに限定されず、通常固相支持体において使用することが企図される物質を利用して行うことができる。
【0093】
本発明の方法の好ましい実施形態では、固相支持体はチップであり得る。本発明の方法は、チップのような小型および集積されたデバイスのようなものを製造する際にも適用可能であり、その有用性は広範な範囲に及ぶ。この場合、チップ上に固定される物質は、アレイ状に配置されることが好ましい。このようにアレイ状に配置される場合、そのデバイスは「アレイ」とも呼ばれる。従って、本発明の方法は、生体分子アレイまたは生体分子チップを製造する際に応用することができる。そのような方法によって製造されたチップまたはアレイは、徐放および/または細胞親和性が要求されるチップまたはアレイの用途において使用される場合に特に有用である。本発明の方法はまた、高い集積度が必要とされるアレイにおいて、簡便な固定従って簡便にかつ細かいスポッティングが必要とされる場合において特に有用性が高い。
【0094】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、生体分子は、細胞に導入された後、生物学的活性を有するものであることが所望され得る。このような場合、生物学的活性としては、例えば、薬効、遺伝子発現、酵素活性、シグナル伝達活性などが挙げられるがそれらに限定されない。遺伝子発現が目的とされる場合には、生体分子はその遺伝子をコードする配列を含むDNAであり得る。シグナル伝達が目的とされる場合には、生体分子はシグナル伝達刺激因子(例えば、サイトカイン、特定のリガンドなど)などであり得る。薬効が目的とされる場合は、生体分子は薬効を有する化学物質であり得る。薬効を有する化合物は、本明細書において別の場所において記載されるように種々の化合物の中から選択することができる。
【0095】
このような種々の目的において本発明の方法が使用される場合は、本発明の固定が達成された後に引き続いて上述の工程(例えば、トランスフェクションなどの遺伝子導入、シグナル伝達測定、薬剤送達など)が行われてもよく、あるいは、固定した後一定期間保存された後に上述の工程が行われてもよい。保存される場合は、本発明の方法によって固定された後に、徐放が開始しないような処置(徐放に使用される溶媒とは異なる保存溶媒に浸すか、あるいは、乾燥させるなど)を行うことが好ましい。
【0096】
固相上のトランスフェクションを目的とした特定の実施形態において、固定されるべき物質として負に荷電したDNAが選択され、その複合体パートナーとしてはポリイミンポリマーのような正に荷電したDNAが選択されることが好ましい。この場合、塩としては、細胞に親和性のある塩(例えば、培地に用いられる塩類、緩衝液中で用いられる塩類など)が挙げられるがそれらに限定されない。好ましい実施形態において使用される固相支持体の材料としては、例えば、スライドガラス(好ましくはポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂などによってコーティングされる)、ポリスチレン樹脂などが挙げられるがそれらに限定されない。ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂などでコーティングされた固相支持体が好ましい。細胞との親和性、トランスフェクションの効率に好ましい効果を有することが知られているからである。このような場合、本発明の方法は、好ましくは、コーティング工程を包含し得る。
【0097】
本発明の方法の1つの特定の実施形態では、固定されるべき生体分子は、DNAのような遺伝子コード分子であり得る。本発明の方法で固定することによって、DNAがトランスフェクトのような遺伝子導入のための処置がされるときに、処置の完了に必要な時間(例えば、約15分から約30分程度)、継続して徐放が起こることによって、そのような分子の導入が効率よく行われるという効果が達成された。このような徐放効果は、従来の固定方法では達成されなかったか、十分ではなかったことから、このような効果は、本発明の特筆すべき効果として挙げることができる。また、本発明の固定方法により、細胞に対する親和性が保持されるかあるいは改善されることから、そのような効果が期待される状態(例えばトランスフェクションのような遺伝子の導入)において従来の方法に対して有利な効果を達成する。
【0098】
本発明の方法では、医薬を処方する際に利用される場合は、使用される物質、塩および固相支持体などの少なくとも一つ、好ましくはそのすべてが薬学的に受容可能であることが好ましい。
【0099】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、複合体を提供する工程は、生体分子を破壊しない条件下で行われる。このような生体分子を破壊しない条件は、当業者であれば、提供されるおのおのの複合体パートナーの種類、複合体形成の他の条件(例えば、pH、温度など)を考慮することによって適切に選択することができ、あるいは、予備的に適切な条件を試験することによって容易に選択することができる。そのような適切な条件の選択または試験は、当業者の技術常識の範囲内であり、当業者は過度な実験をすることなく決定することができる。
【0100】
本発明の1つの好ましい実施形態において、塩と複合体との混合物の提供は、生体分子を破壊しない条件下で行われ得る。このような生体分子を破壊しない条件は、当業者であれば、提供される複合体および塩の種類、複合体形成の他の条件(例えば、pH、温度など)を考慮することによって適切に選択することができ、あるいは、予備的に適切な条件を試験することによって容易に選択することができる。そのような適切な条件の選択または試験は、当業者の技術常識の範囲内であり、当業者は過度な実験をすることなく決定することができる。
【0101】
本発明の1つの好ましい実施形態において、混合物を固相支持体に付着した後、その混合物中の溶媒を低減または除去する工程をさらに包含することが有利であり得る。そのような溶媒の低減または除去は、自然乾燥、凍結乾燥、乾燥剤を用いた乾燥などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0102】
本発明の組成物、デバイスおよび方法は、ヒト用途でも使用され得るが、その他の宿主(例えば、哺乳動物など)を対象として使用されてもよい。従って、本発明の組成物は、農薬として使用されてもよい。
【0103】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら (1987)Molecular Cloning: A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその3rd Edition(2001),Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験化学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、当業者は適宜そのような周知文献を当たることにより本発明を実施することができる。
【0104】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0105】
以下に本発明の例示を具体的な実施例を提示して示す。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma、和光純薬などから市販されるものを用いた。
【0106】
(実施例1:固定組成物の作製)
本実施例では、目的の物質としてDNAを選択し、DNAを固相支持体に固定するための組成物を調製した。
【0107】
DNAとしてトランスフェクションのためのプラスミドを調製した。プラスミドとして、pEGFP−N1およびpDsRed2−N1(ともにBD Biosciences,Clontech、CA、USA)を用いた。これらのプラスミドでは、遺伝子発現はサイトメガロウイルス(CMV)の制御下にある。プラスミドDNAを、E.coli(XL1 blue、Stratgene,TX,USA)中で増幅し増幅したプラスミドDNAを複合体パートナーの一方として用いた。DNAは、DNaseもRNaseも含まない蒸留水中に溶解した。
【0108】
複合体の他方のパートナーとして、トランスフェクション試薬を用いた。使用したトランスフェクション試薬は以下の通りである:Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA,USA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI,USA),TfxTM−20 Reagent(E2391,Promega,WI,USA),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA,USA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA,USA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019,Invitrogen Corporation,CA,USA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus−transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD,USA)。
【0109】
これらのDNAプラスミドとトランスフェクション試薬とを、DNaseもRNaseも含まない蒸留水、NaCl溶液(0.9%)、PBS緩衝液(Sigma)およびダルベッコMEM培地(グルコース(4.5g/L)、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウム(ナカライテスク、京都、日本)添加、10%仔ウシ血清アルブミン(大日本製薬、大阪、日本)を補充)中に溶解した。
【0110】
固相支持体としては、本発明では、スライドガラス、ならびにポリ−L−リジン、シラン、APS、PLLまたはMASでコーティングされたスライドガラス、およびポリスチレン製のマイクロタイタープレートを用いた。
【0111】
溶解された複合体と塩との混合溶液を、おのおのの固相支持体上にスポッティングし、スポットを自然乾燥させることによって目的の生体分子を固定した。
【0112】
次に、固定された生体分子をPBSに浸すことによって、固定の状況を確認した。確認は、PBSへの浸潤直後(0分)、5分後、10分後、15分後、20分後、25分後、30分後、40分後、50分後、60分後に目視することおよびDNA定量によって行った。
【0113】
(結果)
本発明の複合体と塩との混合物で調整した組成物を使用した例(NaCl溶液、PBS緩衝液、ダルベッコ培地)では、15分後でも固定が破壊されていないことが確認されたのに対して、蒸留水で調製した組成物の例では、PBSの浸した直後に固定が破壊され、DNAが流出していたことが明らかになった。従って、本発明の方法の物質固定効果は、顕著であることが明らかになった。塩を使用した例のうち、単塩(NaCl)では、固定が破壊される時間が比較的早かったが、複合塩を使用した例(PBSおよびダルベッコMEM培地)では、単塩よりも効果が持続した。特にダルベッコMEMを使用した例では、その効果は顕著であり、30分後でも固定の効果が持続した。
【0114】
(実施例2:細胞親和性の確認)
次に、本発明の細胞親和性の効果を確認するために、上記において調製したDNA固定固相支持体を用いて、細胞のトランスフェクション実験を行った。
【0115】
本実施例では、以下の5種類の細胞を利用して、効果を確認した:ヒト間葉系幹細胞(hMSCs、PT−2、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD,USA)、ヒト胚性腎細胞 (HEK293、RCB1637、RIKEN Cell Bank,日本)、NIH3T3−3細胞(RCB0150,RIKEN Cell Bank,日本)、HeLa細胞(RCB0007、RIKEN Cell Bank,日本)およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,日本)。
【0116】
実施例1においてDNAが固定されたプレートをディッシュに入れ、その上に、上記細胞を含む培地を各々滴下した。その後、プレートを含むディッシュをインキュベーターに移し、37℃で、5%CO2の雰囲気下で2日または3日間そのプレートをインキュベートしてトランスフェクトさせた。
【0117】
(遺伝子発現の観察)
遺伝子発現の観察は、各々の遺伝子発現の発現産物(EFP、EGFPおよびDsRed2)が発する蛍光を観察することによって行った。蛍光の観察には、蛍光顕微鏡(IX−71、Olympus PROMARKETING Inc.,日本)を用いた。細胞は、反応後にパラホルムアルデヒド(PFA)固定を行うこと(4% PFA、室温で10分間処理)により、観察した。
【0118】
(結果)
図1にトランスフェクションの結果の一部を示す。図1は、複合体化していないDNA(上)と、正に荷電した物質と複合体化させたDNA(下、NP10処理)とを対比した結果を示す。固相に対して複合体を添加した直後(0分)ならびに、添加の1分後、5分後および10分後に細胞含有液を加えた後のトランスフェクションの様子を示す。
【0119】
この結果から明らかなように、複合体の組成物および塩の固相支持体に固定された系では、組成物は固定され、DNAが徐放されることも明らかになった。
【0120】
また、このほかの本発明の塩を含む混合物が固定された固相支持体を使用した場合はいずれも、トランスフェクションが起こっていたことが判明した。これは、トランスフェクションが起こるために必要なDNAの細胞への移入が、いずれの例でも起こっていたことを示す。従って、本発明の組成物は、細胞親和性を維持または改善していたことになる。また、実施例1における放出のデータに加え、トランスフェクションが起こっていたことは固定された物質が徐々に放出されたことも間接的に示すことになる。
【0121】
このような効果は、塩を用いない溶液では、観察されなかった。従って、この結果は、本発明の効果が顕著であることを示す。特に、固定の際に塩を培地において利用した系では、単塩を用いた系よりもトランスフェクション効率が高かったことから、固定の際に細胞に適合する塩類の組み合わせを用いることが、細胞親和性の維持または改善にも適切であることがわかる。
【0122】
(実施例3:複合体パートナーと塩との比率の影響)
次に、複合体パートナーであるトランスフェクション試薬と塩との比率が、固定および細胞親和性の指標としてのトランスフェクションの効率に影響するかどうかを評価した。
【0123】
トランスフェクション試薬としては、Jet−PEI(ポリエチレンイミン)を用い、塩としては実施例で用いたダルベッコ改変MEM(DMEM、塩量:CaCL(200mg/L)、Fe(NO3)3・9H2O(0.1mg/L)、KCL(400mg/L)、MgSO4(97.67mg/L)、NaCL(6400mg/ml)、NaHCO3(3700mg/L)、NaH2PO4・H2O(125mg/L))を用いた。
【0124】
DNAと、Jet−PEIと、培地との比率は以下の通りである。
【0125】
DNA量(1μg/μl) 1.0μl 1.5μl 2.0μl
(1)NP3
Jet−PEI(7.5mM) 1.2μl 1.8μl 2.4μl
DMEM 12.8μl 11.7μl 10.6μl
(2)NP5
Jet−PEI(7.5mM) 2μl 3μl 4μl
DMEM 12μl 10.5μl 9μl
(3)NP10
Jet−PEI(7.5mM) 4μl 6μl 8μl
DMEM 10μl 7.5μl 5μl
(4)NP15
Jet−PEI(7.5mM) 6μl 9μl 12μl
DMEM 8μl 4.5μl 1μl。
【0126】
(結果)
固定後の結果を図2に示す。より具体的には、図2は、NP3、NP5およびNP10のそれぞれの徐放の様子を示すグラフである。
【0127】
図からも明らかなように、どの処方を用いても、徐放されることが明らかになった。
【0128】
上記NP3、NP5、NP10を用いた結果を比較すると、いずれの場合でも、徐放効果およびトランスフェクション活性はほぼ同じであることが明らかになった。従って、塩とトランスフェクション試薬(すなわち複合体)との量比は、本発明の効果に影響しないことがわかった。
【0129】
(実施例4:アレイを用いた応用)
次に、上述の効果がアレイを用いた場合でも実証されるかどうかを確認するために規模を拡大して実験を行った。
【0130】
(実験プロトコル)
(細胞供給源、培養培地、および培養条件)
この実施例では、5種類の異なる細胞株を使用した:ヒト間葉系幹細胞(hMSC、PT−2501、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)、ヒト胚性腎細胞HEK293(RCB1637、RIKEN Cell Bank,日本)、NIH3T3−3(RCB0150、RIKEN Cell Bank,日本)、HeLa(RCB0007、RIKEN Cell Bank,日本)、およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,日本)。ヒトMSC細胞の場合、この細胞を、市販のヒト間葉細胞基底培地(MSCGM BulletKit PT−3001,Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)中で維持した。HEK293細胞、NIH3T3−3細胞、HeLa細胞およびHepG2細胞の場合、これらの細胞を、10% ウシ胎仔血清(FBS、29−167−54、Lot No.2025F、Dainippon Pharmaceutical CO.,LTD.,日本)を有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを有する高グルコース(4.5g/L);14246−25、Nakalai Tesque,日本)中で維持した。全ての細胞株を、37℃、5% CO2に制御されたインキュベーター中で培養した。hMSCを含む実験において、本発明者らは、表現型の変化を回避するために、5継代未満のhMSCを使用した。
【0131】
(プラスミドおよびトランスフェクション試薬)
トランスフェクションの効率を評価するために、pEGFP−N1ベクターおよびpDsRed2−N1ベクター(カタログ番号6085−1、6973−1、BD Biosciences Clontech,CA)を使用した。共に遺伝子発現は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下であった。トランスフェクトされた細胞は、それぞれ、連続的にEGFPまたはDsRed2を発現した。プラスミドDNAを、Escherichia coli、XL1−blue株(200249,Stratagene,TX)を使用して増幅し、そしてEndoFree Plasmid Kit(EndoFree Plasmid Maxi Kit 12362、QIAGEN、CA)によって精製した。全ての場合において、プラスミドDNAを、DNaseおよびRNaseを含まない水に溶解した。トランスフェクション試薬は以下のものを使用した:Effectene Transfection Reagent(カタログ番号301425、Qiagen、CA)、TransFastTM Transfection Reagent(E2431、Promega、WI)、TfxTM−20 Reagent(E2391、Promega、WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305、Qiagen、CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105、Qiagen、CA)、LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019、Invitrogen corporation、CA)、JetPEI(×4)conc.(101−30、Polyplus−transfection、France)、およびExGen 500(R0511、Fermentas Inc.,MD)。
【0132】
(固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)の生成)
「リバーストランスフェクション」についてのプロトコルの詳細は、ウェブサイト http://staffa.wi.mit.edu/sabatini_public/reverse_transfection.htm の「Reverse Transfection Homepage」に記載されていた。本発明者らの固相系トランスフェクション(SPTA方法)において、疎水性フッ素樹脂コーティングによって分離した48平方パターン(3mm×3mm)を有する3つの型のスライドガラス(シラン処理したスライドガラス;APSスライド、およびポリ−L−リジンでコーティングしたスライドガラス;PLLスライド、およびMASでコーティングしたスライド;Matsunami Glass,日本)を研究した。
【0133】
(プラスミドDNAプリンティング溶液の調製)
SPTAを生成するための2つの異なる方法を開発した。その主な違いは、プラスミドDNAプリンティング溶液の調製にある。
【0134】
(方法A)
Effectene Transfection Reagentを使用する場合、プリンティング溶液は、プラスミドDNAおよび細胞接着分子(4mg/mLの濃度で超純水に溶解したウシ血漿フィブロネクチン(カタログ番号16042−41、Nakalai Tesque、日本))を含んだ。上記の溶液を、インクジェットプリンター(synQUADTM、Cartesian Technologies,Inc.,CA)を用いてか、または手動で0.5〜10μLチップを用いて、スライドの表面に適用した。このプリントしたスライドガラスを安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。トランスフェクションの前に、総Effectene試薬を、DNAプリントしたスライドガラス上に静かに注ぎ、そして室温にて15分間インキュベートした。過剰のEffectene溶液を、吸引アスピレーターを用いてスライドガラスから除去し、そして安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。得られたDNAプリントしたスライドガラスを、100mm培養ディッシュの底に置き、そして約25mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を、このディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。
【0135】
(方法B)
他のトランスフェクション試薬(TransFastTM、TfxTM−20、SuperFect、PolyFect、LipofectAMINE 2000、JetPEI(×4)conc.またはExGen)の場合、プラスミドDNA、フィブロネクチン、およびトランスフェクション試薬を、製造業業者が配布する指示書に示される比率に従って1.5mLのマイクロチューブ中で均一に混合し、そしてチップ上にプリンティングする前に室温にて15分間インキュベートした。プリンティング溶液を、インクジェットプリンターまたは0.5〜10μLチップを用いてスライドガラスの表面上に適用した。このプリントしたスライドガラスを、安全キャビネットの内側で室温にて10分間かけて完全に乾燥させた。プリントしたスライドガラスを100mm培養ディッシュの底に置き、そして約3mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を添加し、安全キャビネットの内側で室温にて15分間にわたってインキュベートした。インキュベーション後、新鮮な培地をこのディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。インキュベーション後、本発明者らは、蛍光顕微鏡(IX−71、Olympus PROMARKETING,INC.,日本)を用いて、増強された蛍光タンパク質(EFP、EGFP、およびDsRed2)の発現に基づいてトランスフェクト体を観察した。位相差画像を同じ顕微鏡を用いて撮った。両プロトコルにおいて、細胞をパラホルムアルデヒド(PFA)固定方法(PBS中の4% PFA、処理時間は、室温にて10分間)を用いることによって固定した。
【0136】
(レーザー走査および蛍光強度定量)
トランスフェクション効率を定量するために、本発明者らは、DNAマイクロアレイスキャナ(GeneTAC UC4×4、Genomic Solutions Inc.,MI)を使用した。総蛍光強度(任意の単位)を測定した後、表面積あたりの蛍光強度を計算した。
【0137】
(結果)
(ヒト間葉系幹細胞の固相系トランスフェクションアレイ)
多様な種類の細胞に分化するヒト間葉系幹細胞(hMSC)の能力は、組織再生および組織復活を標的化する研究にとって特に興味深いものになっている。特に、これらの細胞の形質転換体についての解析は、hMSCの多能性を制御する因子を解明する上で、関心が高まっている。従来のhMSCの研究における重大な障害は、所望の遺伝物質を用いたトランスフェクションが不可能(または、非常に困難)な点にある。
【0138】
これを達成するための従来の方法は、ウイルスベクターまたはエレクトロポレーションのいずれかの技術を含む。本発明者らが開発した複合体−塩という系を用いることにより、種々の細胞株(hMSCを含む)に対して高いトランスフェクション効率ならびに密集したアレイ中での空間的な局在の獲得を可能にする固相系トランスフェクションが達成された。固相系トランスフェクションの概略を、図3Aに示す。
【0139】
固相系トランスフェクションにより、インビボ遺伝子送達のために使用され得る「トランスフェクションパッチ」の技術的な達成ならびにhMSCにおける高スループットの遺伝子機能研究のための固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)が可能になることが判明した。
【0140】
哺乳動物細胞をトランスフェクトするための多数の標準的な方法が存在するが、遺伝物質のhMSCへの導入については、HEK293、HeLaなどの細胞株と比較して不便かつ非常に困難であることが知られている。従来使用されるウイルスベクター送達またはエレクトロポレーションのいずれも重要であるが、潜在的な毒性(ウイルス技術)、ゲノムスケールでの高スループット分析を受けにくいこと、およびインビボ研究に対して制限された適用性(エレクトロポレーションに関して)のような不便さが存在する。
【0141】
本発明者らにより、固相支持体に簡便に固定することができ、かつ徐放性および細胞親和性を保持した固相支持体固定系が開発されたことにより、これらの欠点のほとんど克服することができた。
【0142】
上述の実験の結果の一例を、図3Bに示す。マイクロプリンティング技術を使用する本発明者らの技術を用いて、選択された遺伝物質、トランスフェクション試薬および適切な細胞接着分子、ならびに塩を含む混合物を、固体支持体上に固定化し得た。混合物を固定化した支持体の上での細胞培養は、その培養細胞に対する、混合物中の遺伝子の取り込みを可能にした。その結果、支持体−接着細胞における、空間的に分離したDNAの取り込みを可能にした(図3B)。
【0143】
本実施例の結果、いくつかの重要な効果が達成された:高いトランスフェクション効率(その結果、統計学的に有意な細胞集団が研究され得る)、異なるDNA分子を支持する領域間の低い相互夾雑(その結果、個々の遺伝子の効果が、別々に研究され得る)、トランスフェクト細胞の長期生存、高スループットの互換性のある形式および簡便な検出方法。これらの基準を全て満たすSPTAの開発は、さらなる研究のための適切な基盤となる。
【0144】
これらの目的の達成を確立するために、上述のように本発明者らは、5種類の異なる細胞株(HEK293、HeLa、NIH3T3、HepG2およびhMSC)を、本発明者らの方法論(固相系でのトランスフェクション)(図3Aを参照のこと)および従来の液相系トランスフェクションの両方を用いて一連のトランスフェクション条件下で研究した。SPTAの場合、相互夾雑を評価するために、本発明者らは、チェック模様のパターンでガラス支持体上にプリントした赤色蛍光タンパク質(RFP)および緑色蛍光タンパク質(GFP)を使用し、一方、従来の液相系トランスフェクションを含む実験の場合(ここで、本来、トランスフェクト細胞の自発的な空間的分離は達成され得ない)、本発明者らは、GFPを使用した。いくつかのトランスフェクション試薬を評価した:4つの液体トランスフェクション試薬(Effectene、TransFastTM、TfxTM−20、LopofectAMINE 2000)、2つのポリアミン(SuperFect、PolyFect)、ならびに2つの型のポリイミン(JetPEI(×4)およびExGen 500)。
【0145】
トランスフェクション効率:トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定した(図4A)。使用した細胞株に従って、最適な液相の結果を、異なるトランスフェクション試薬を用いて得た(図4C〜Dを参照のこと)。次いで、これらの効率的なトランスフェクション試薬を、固相系プロトコルの最適化に使用した。いくつかの傾向が観察された:容易にトランスフェクト可能な細胞株(例えば、HEK293、HeLa、NIH3T3)の場合、固相系プロトコルで観察されたトランスフェクション効率は、標準的な液相系プロトコルと比較してわずかに優れていたが、本質的に類似したレベルで達成されている(図4B
)。
【0146】
しかし、細胞をトランスフェクトするのが困難な場合(例えば、hMSCおよびHepG2)においてSPTA方法論に最適化した条件を用いることによって、本発明者らは、細胞の特徴を維持しながら、トランスフェクション効率が40倍まで増加したことを観察した(上述のプロトコルおよび図4C〜Dを参照のこと)。結果を、図4Bに示す。
【0147】
hMSCの場合(図5Aおよび図5B)、最良条件は、ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション試薬の使用を含んだ。予想したように、高いトランスフェクション効率を実現するための重要な因子は、ポリマー内の窒素原子(N)の数とプラスミドDNA内のリン酸残基(P)の数との間の電荷バランス(N/P比率)、ならびにDNA濃度である。一般的に、N/P比率および濃度における増大は、トランスフェクション効率の増大を生じる。並行して、本発明者らは、hMSCの溶液トランスフェクション実験における高いDNAおよび高いN/P比率の場合に、細胞生存率の有意な低下を観察した。これら2つの拮抗因子に起因して、hMSCの液相系トランスフェクションは、相対的に低い細胞生存率(N/P比率>10で観察された)であった。しかし、SPTAプロトコルは、細胞生存率にも細胞形態にも有意に影響を与えることなく、非常に高い(固体支持体に固定された)N/P比率およびDNA濃度を許容し(おそらく、細胞膜に対する固体支持体の安定化効果に起因する)、従って、このことがおそらく、トランスフェクション効率の劇的な改善の原因となっている。SPTAの場合、10のN/P比率が最適であることが見出され、細胞毒性を最小化しながら十分なトランスフェクションレベルを提供する。SPTAプロトコルにおいて観察されたトランスフェクション効率の増大に関するさらなる理由は、高い局所的なDNA濃度/トランスフェクション試薬濃度(これは、液相系トランスフェクション実験において使用される場合は細胞死を生成する)の達成である。
【0148】
チップ上での高いトランスフェクション効率の達成のための重要な点は、使用されるコーティングに使用する物質の種類である。ガラスチップを使用した際のコーティング剤として、PLLがトランスフェクション効率および相互夾雑の両方に関して、最良の結果を提供することを発見した(下記に考察する)。フィブロネクチンコーティングしない場合、少数のトランスフェクト体を観察した(他のすべての実験条件は一定に保った)。完全に確立したわけではないが、フィブロネクチンの役割はおそらく、細胞接着プロセスを加速し(データは示していない)、ゆえに、表面を離れたDNA拡散が可能になる時間を制限するということである。
【0149】
低い相互夾雑:SPTAプロトコルで観察されたより高いトランスフェクション効率は別として、本技術の重要な利点は、別個に分離された細胞アレイの実現であり、その各位置では、選択した遺伝子が発現する。本発明者らは、フィブロネクチンでコーティングしたガラス表面上に、JetPEI(「実験プロトコル」を参照のこと)およびフィブロネクチンと混合した2つの異なるレポーター遺伝子(RFPおよびGFP)をプリントした。得られたトランスフェクションチップを適切な細胞培養に供した。最良であると見出された実験条件下において、発現されたGFPおよびRFPは、それぞれのcDNAがスポットされた領域に局在した。相互夾雑はほとんど観察されなかった(図6A〜図6D)。しかし、フィブロネクチンまたはPLLの非存在下において、相互夾雑は重大な障害であり、そしてトランスフェクション効率は、有意に低かった(図7)。このことは、細胞接着および支持体表面から離れて拡散するプラスミドDNAの相対的な割合が、高いトランスフェクション効率および高い相互夾雑の両方に対して重要な因子であるという仮説を立証する。
【0150】
相互夾雑のさらなる原因は、固体支持体上のトランスフェクション細胞の移動性であり得る。本発明者らは、数個の支持体上での細胞接着速度(図6C)およびプラスミドDNAの拡散速度の両方を測定した。その結果は、最適条件下においてDNA拡散はほとんど生じなかった。しかし、高い相互夾雑条件下では、細胞接着が完了するまでの時間に、相当の量のプラスミドDNAが固相表面から拡散して枯渇した。
【0151】
この確立された技術は、経済的な高スループットの遺伝子機能スクリーニングの状況において特に重要である。実際に、必要とされる少量のトランスフェクション試薬およびDNA、ならびに全プロセス(プラスミドの単離から検出まで)を自動化する可能性は、上記の方法の有用性を増大する。
【0152】
結論として、本発明者らは、複合体−塩を用いた系で、hMSCトランスフェクションアレイを好首尾に実現した。このことは、多能性幹細胞の分化を制御する遺伝子機構の解明など、固相系トランスフェクションを利用した種々の研究における高スループット研究を可能にすることになる。固相系トランスフェクションの詳細な機構ならびに高スループットのリアルタイム遺伝子発現モニタリングに対するこの技術の使用に関する方法論は種々の目的に応用可能であることが明らかになった。
【0153】
(実施例5:RNAiトランスフェクションマイクロアレイ)
上記実施例に記載のようにアレイを作製し、今度は、遺伝物質として、プラスミドDNA(pDNA)とshRNAの混合物を使用した。その組成を以下の表1に示す。
【0154】
【表1】
【0155】
結果を図8に示す。この図の結果を数値化したデータを、5種類の細胞について、図9A〜図9Eにまとめた。
【0156】
このように、どのような細胞を用いたとしても、本発明の技術が適用可能であることが判明した。
【0157】
(実施例6:RNAiマイクロアレイ=siRNAを用いた場合)
上記実施例と同様のプロトコルを用いて、今度はshRNAの代わりにsiRNAを用いて、RNAiトランスフェクションマイクロアレイを構築した。
【0158】
以下の表の18種類の転写因子レポーターおよびActinプロモータベクターを用いて、各転写因子に対して28種類のsiRNAを合成した。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用いて、siRNAが標的転写因子をノックアウトするか評価した。また、ネガティブコントロールとしては、scramble RNAを用いて、これらの比を取って評価した。
【0159】
【表2】
【0160】
各細胞を固相系トランスフェクション後、2日間培養し、蛍光イメージスキャナにて画像取得後、蛍光量を定量化した。
【0161】
(結果)
結果を図10に示す。この結果を遺伝子ごとにまとめたものを図11A〜図11Dに示す。
【0162】
図10および図11A〜図11Dから明らかなように、RNAiを用いた場合、各遺伝子は特異的に発現が抑制されていることが示された。RNAiを用いた複数の遺伝物質のアレイを実現することができ、RNAiであっても、塩の固定効果およびそれによる遺伝子導入の増強効果が確認された。
【0163】
(実施例7:PCR断片を用いたトランスフェクションアレイ)
次に、PCR断片を遺伝物質として用いた場合でも、本発明が実現可能であることを実証した。以下にその手順を示す。
【0164】
PCRにより、図12に記載のような核酸断片を取得し、トランスフェクションマイクロアレイに用いる遺伝物質とした。その手順を以下に示す。
【0165】
PCRプライマーとしては、
GG ATAACCGTAT TACCGCCATG CAT(配列番号1)と
ccctatctcggtctattcttttg CAAAAGAATAGACCGAGATA GGG(配列番号2)とを使用して、テンプレートとして、pEGFP−N1を用いた(図13を参照)。PCRの条件は、以下の表3に記載される。
【0166】
【表3】
サイクル条件:94℃2min→(94℃ 15sec→60℃30sec→68℃ 3min)→ 4℃(括弧内を30サイクル)
【0167】
得られたPCR フラグメントは、フェノール/クロロフォルム抽出を行い、エタノール沈殿法にて精製した。そのPCR断片の配列は、
【0168】
【表4−1】
【0169】
【表4−2】
に記載のとおりである。
【0170】
PCRフラグメントを用いて作製したチップに、MCF7を播種し、2日後に蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。その結果を図14に示す。図14では、環状DNAとPCRフラグメントとの比較を行っている。どちらの場合も、トランスフェクションがうまく行われており、PCR断片を遺伝物質として使用した場合でも、全長プラスミドと同様に細胞にトランスフェクションされ、塩の固定効果およびそれによる遺伝子導入の増強効果が確認された。
【0171】
(実施例8:支持体の種類)
次に、固相支持体として、ガラスの他に、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチックを用いた場合に、同様の塩の効果が見られることを確認する。
【0172】
これらの材料を松浪硝子などから入手する。そして、上記実施例に記載されるように、アレイを作製する。
【0173】
その結果、使用した材料において、同様の塩の効果が見られることが示される。
【0174】
(実施例9:支持体のコーティングの種類)
次に、ガラス上に、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂をそれぞれコーティングした支持体を用いて、同様の塩の効果が見られることを確認する。
【0175】
これらの材料を松浪硝子などから入手する。そして、上記実施例に記載されるように、アレイを作製する。
【0176】
その結果、使用した材料において、同様の塩の効果が見られることが示される。
【0177】
(実施例10:塩の種類)
次に、塩の種類として、単塩である塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、Tris、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミン(ここでは、ビタミンBおよびビタミンC)を用いた場合に同様の効果が見られるかどうかを確認する。
【0178】
これらの材料を和光純薬(大阪、日本)などから入手する。そして、上記実施例に記載されるように、アレイを作製する。
【0179】
その結果、使用した材料において、同様の塩の効果が見られることが示される。
【0180】
(実施例11:負に荷電した物質の種類)
次に、負に荷電した物質の種類として、DNA以外にRNA、PNA、ポリペプチドおよび糖ペプチドを用いて、上記実施例に記載されるような実験を行って同じ固定効果があるかどうかを確認する。
【0181】
固定効果があるかどうかは、目視および特異的な抗体の支持体への付着により確認することができる。
【0182】
その結果、使用した材料において、同様の塩の効果が見られることが示される。
【0183】
以上のように、本発明の特定の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明により、予想外に簡便で、生体適合性(例えば、細胞親和性)および/または徐放性を提供する物質の固相支持体への固定方法が提供された。このような効果を利用することにより、種々の生体現象、例えば、遺伝子導入、シグナル伝達、薬効などを、固相支持体を用いて発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】図1は、実施例2における代表的な結果例である。図1は、複合体化していないDNA(上)と、正に荷電した物質と複合体化させたDNA(下、NP10処理)とを対比した結果を示す。固相に対して複合体を添加した直後(0分)ならびに、添加の1分後、5分後および10分後に細胞含有液を加えた後のトランスフェクションの様子を示す。
【図2】図2は、実施例3(種々の処方)における代表的な結果例である。図2は、NP3、NP5およびNP10のそれぞれの徐放の様子を示すグラフである。
【図3A】図3Aは、実施例4における本発明の固相トランスフェクションによって、空間的に分離したDNAの細胞内への取り込みを示す図である。図3Aは、固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)作製方法を模式的に示した図である。この図は、固相トランスフェクションの方法論を示す。
【図3B】図3Bは、固相トランスフェクションの結果を示す。HEK293細胞株を用いてSPTAを作製した結果を示す。緑色の部分は、トランスフェクションされた付着細胞を示す。この結果から、本発明の方法によって、空間的に分離された、異なる遺伝子によってトランスフェクトされた細胞の集団を調製することが可能となった。
【図3C】図3Cは、従来の液相トランスフェクションとSPTAとの間の差をしめす。
【図4A】図4Aおよび図4Bは、液相トランスフェクションとSPTAの比較を示す結果である。図4Aは、実験に用いた5つの細胞株について、GFP強度/mm2を測定した結果を示す。図4Aは、トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定する方法を示す。
【図4B】図4Aおよび図4Bは、液相トランスフェクションとSPTAの比較を示す結果である。図4Bは、図4Aの示すデータに対応する、EGFPを発現する細胞の蛍光画像である。図4Bにおいて、白丸で示された領域は、プラスミドDNAを固定化した領域を示す。プラスミドDNAを固定化した領域以外の領域では、細胞が固相に固定化されたにもかかわらず、EGFPを発現する細胞は観察されなかった。白棒は、500μmを示す。
【図4C】図4Cは、固相トランスフェクション法の代表的プロトコル例を示す。
【図4D】図4Dは、固相トランスフェクション法の代表的プロトコル例を示す。
【図5】図5Aおよび5Bは、チップのコーティングによって相互夾雑が低減された結果を示す。 図5Aおよび5Bは、HEK293細胞、HeLa細胞、NIT3T3細胞(「3T3」として示す)、HepG2細胞、およびhMSCを用いて、液相トランスフェクション法およびSPTAを行った結果を示す。トランスフェクション効率を、GFP強度で示す。
【図6A】図6Aおよび6Bは、各スポット間の相互夾雑に関する様子を示す図である。APSまたはPLL(ポリ−L−リジン)でコーティングしたチップに対して、所定の濃度のフィブロネクチンを含む核酸混合物を固定化し、その固定化したチップを用いて細胞トランスフェクションした結果、相互夾雑は観察されなかった(上段および中段)。これに対して、チップをコーティングしなかった場合、固定化核酸の有意な相互夾雑が観察された(下段)。
【図6B】図6Aおよび6Bは、各スポット間の相互夾雑に関する様子を示す図である。APSまたはPLL(ポリ−L−リジン)でコーティングしたチップに対して、所定の濃度のフィブロネクチンを含む核酸混合物を固定化し、その固定化したチップを用いて細胞トランスフェクションした結果、相互夾雑は観察されなかった(上段および中段)。これに対して、チップをコーティングしなかった場合、固定化核酸の有意な相互夾雑が観察された(下段)。
【図6C】図6Cは、核酸の固定化において使用する混合物中に使用される物質の種類と、細胞接着速度との相関関係を示す。
【図6D】図6Dは、時間経過に伴う、接着細胞の割合の増加を示す。グラフの傾きが緩やかな場合は、グラフの傾き急な場合と比較して、より多くの時間が細胞接着に必要なことを示す。
【図6E】図6Eは、HEK293細胞を用いた場合の種々のアクチン作用物質およびコントロールとしてのゼラチンを用いた結果の一例を示す。図Eは、トランスフェクション効率に関する各接着物質(HEK細胞)の効果を示す。HEK細胞は、Effectene試薬を用いて、pEGFD−N1と共にトランスフェクトした。 図6Cおよび図6Dの結果と、図6Eの結果は、最適条件下においてDNA拡散がほとんど生じなかったことを示す。しかし、高い相互夾雑条件下では、細胞接着が完了するまでの時間に、相当の量のプラスミドDNAが固相表面から拡散して枯渇したことを示す。
【図7】図7は、APSコーティングも、PLLコーティングも行わない、相互夾雑を生じる条件下では、APSコーティングまたはPLLコーティングを行った場合と比較して、トランスフェクション効率が有意に低かったことを示す図である。
【図8】図8は、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を示す。固相基板上に表3に示す各レポーター遺伝子を一遺伝子あたり4スポットになるようプリントし、乾燥後、各転写因子に対してのsiRNA(28種類)を対応したレポーター遺伝子がプリントされている座標上にプリントし、乾燥させた。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用い、ネガティブコントロールとしては、scramble RNAをもちいた。その後、LipofectAMINE2000を各遺伝子プリント同一座標にプリントし乾燥させた。その後、フィブロネクチン溶液を同一座標に重ねてプリントし乾燥させた。これに、HeLa−K細胞を播種し、2日間培養を行った後に、蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。
【図9A】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図9B】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図9C】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図9D】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図9E】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図10】図10は、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を示す。固相基板上に表3に示す各レポーター遺伝子発現ユニットPCR断片を一遺伝子あたり4スポットになるようプリントし、乾燥後、各転写因子に対してのsiRNA(28種類)を対応したレポーター遺伝子がプリントされている座標上にプリントし、乾燥させた。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用い、ネガティブコントロールとしては、スクランブルRNAをもちいた。その後、LipofectAMINE2000を各遺伝子プリント同一座標にプリントし乾燥させた。その後、フィブロネクチン溶液を同一座標に重ねてプリントし乾燥させた。これに、各細胞を播種し、2日間培養を行った後に、蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。
【図11A】図11A〜11Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図11B】図11A〜11Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図11C】図11A〜11Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図11D】図11A〜11Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図12】図12は、実施例7において得たPCR断片の構造を示す。
【図13】図13は、pEGFP−N1の構造を示す。
【図14】図14は、環状DNAとPCR断片とを用いたトランスフェクションマイクロアレイのトランスフェクト効率の比較を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0186】
(配列の説明)
配列番号1は、実施例7で使用したプライマー1である。
配列番号2は、実施例7で使用したプライマー2である。
配列番号3は、実施例7で作製したPCR断片である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子などの物質の固定技術に関する。より詳細には、本発明は、固相支持体に生体分子などの物質を固定するための新規組成物およびそのための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロタイタープレートなどの固相支持体に生体分子などの物質を固定して種々の分析を行う試みが広く行われている。
【0003】
従来の固相支持体に生体分子を固定するやり方としては、例えば、共有結合を介する方法、疎水性相互作用、吸着、シラン化などの固相の表面処理などの方法がある。
【0004】
例えば、Nikiforov et al.は、陽イオン性界面活性剤を媒体としたオリゴマーのポリスチレンウエルへの結合を利用する方法を開示した(Nikiforov et al.、Nucleic Acids Res.22:4167〜4175、1994)。
【0005】
Nagata et al.は、未知量のクローニングDNAを0.1M MgCl2の存在下でマイクロタイターウエルに結合させる技術を開示した(Nagata et al.、FEBS Letters 183:379〜382(1985))。Dahlen,P. et al.は、マイクロタイターウエル中でのサンドイッチハイブリダイゼーションにおいて、クローニング捕捉DNAをウエルに吸着させることを記載している(Dahlen et al.、Mol.Cell.Probes 1:159〜168(1987))。NaClを媒体としたオリゴマーのポリスチレンウエルへの結合がNikiforov et al.(PCR Methods Applic.3:285〜291,1994)により検討されている。
【0006】
しかし、これらの方法は、固定工程において、一定の工数を必要とするか、特殊な処理を必要とすることから、より簡便な生体分子などの物質の固定方法への需要は大いにある。
【0007】
また、固定後に徐放することが望ましい場合も多い。そのような場合として、例えば、マイクロタイタープレートなどのプレート上でいったん生体分子を固定した後、アッセイにおいてアッセイ溶液にそのプレートを浸した後にその固定された生体分子が徐々に放出することが必要な場合などが挙げられる。あるいは、細胞などの生体に対して固定後に親和性を保持することが求められる場合もあるが、従来の方法では達成されていないか、あるいは固定後の生体への親和性が大いに低減することが多く、満足な固定方法が開発されていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、生体分子などの物質を簡便に固相支持体に固定する方法を開発することを課題の一つとした。本発明はまた、(i)固相支持体への固定後に、特定の溶液に溶解したときに固定された生体分子などの物質が徐放され、あるいは(ii)細胞などの生体への親和性が実質的に保持または改善されるような効果を達成する固定方法を開発することも課題の一つとした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を、DNA、RNA、ポリペプチドなどの生体分子のような物質を、それとは反対の電荷を有する物質と複合体を形成させ、その複合体に塩(有機塩、無機塩(例えば、培地に含まれるリン酸カルシウムなどの無機塩))を添加したものが、予想外に、簡便に固相支持体に固定されることを本発明者らが見いだしたことによって解決した。
【0010】
本発明者らはまた、上記構成を有する固定された生体分子などの物質が、固定された後、アッセイ溶液などの溶液に固相支持体(例えば、プレート)を浸すと徐放されることを予想外に見いだした。本発明者らはまた、上記構成を有する物質は、生体(例えば、組織、細胞)に対する親和性が保持または改善されることを見いだした。
【0011】
このように、本発明は、以下を提供する。
1. 物質を固相支持体に固定するための組成物であって、
a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;および
b)塩、
を含む、組成物。
2. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、項目1に記載の組成物。
3. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、項目1に記載の組成物。
4. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、項目1に記載の組成物。
5. 前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、項目4に記載の組成物。
6. 前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
7. 前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
8. 前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
9. 前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、項目4に記載の組成物。
10. 前記複合体および塩は薬学的に受容可能である、項目1に記載の組成物。
11. 目的の物質が固定されたデバイスであって、
a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;
b)塩;および
c)該複合体および該塩が固定された固相支持体、
を含み、該目的の物質は、該正に荷電した物質および/ または該負に荷電した物質である、デバイス。
12. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、項目11に記載のデバイス。
13. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、項目11に記載のデバイス。
14. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、項目11に記載のデバイス。
15. 前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、項目14に記載のデバイス。
16. 前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、項目11に記載のデバイス。
17. 前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、項目11に記載のデバイス。
18. 前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、項目11に記載のデバイス。
19. 前記固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含む、項目11に記載のデバイス。
20. 前記固相支持体は、コーティングによって処理される、項目11に記載のデバイス。
21. 前記コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含むコーティング剤によって行われる、項目20に記載のデバイス。
22. 前記固相支持体はチップである、項目11に記載のデバイス。
23. 前記固相支持体はチップであり、前記複合体は該チップ上にアレイ状に配列される、項目11に記載のデバイス。
24. 前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、項目14に記載のデバイス。
25. 前記複合体、前記塩および前記固体支持体に含まれる材料は薬学的に受容可能である、項目11に記載のデバイス。
26. 物質を固相支持体に固定する方法であって、
a)固相支持体を提供する工程;
b)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体を提供する工程;
c)塩と該複合体との混合物を提供する工程;および
d)該塩と該複合体との該混合物を固相支持体に付着させる工程、
を包含する、方法。
27. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、項目26に記載の方法。
28. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、項目26に記載の方法。
29. 前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、項目26に記載の方法。
30. 前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、項目29に記載の方法。
31. 前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、項目25に記載の方法。
32. 前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、項目26に記載の方法。
33. 前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、項目26に記載の方法。
34. 前記固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含む、項目26に記載の方法。
35. 前記固相支持体は、コーティングによって処理される、項目26に記載の方法。
36. 前記コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含むコーティング剤によって行われる、項目35に記載の方法。
37. 前記固相支持体はチップである、項目26に記載の方法。
38. 前記固相支持体はチップであり、前記複合体は該チップ上にアレイ状に配列される、項目26に記載の方法。
39. 前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、項目29に記載の方法。
40. 前記複合体および塩は薬学的に受容可能である、項目26に記載の方法。
41. 前記工程b)は、生体分子を破壊しない条件下で行われる、項目29に記載の方法。
42. 前記工程c)は、生体分子を破壊しない条件下で行われる、項目29に記載の方法。
43. 前記混合物を前記固相支持体に付着した後、その混合物中の溶媒を低減または除去する工程をさらに包含する、項目26に記載の方法。
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および付随する図面、ならびに当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(発明の実施の形態)
以下に本発明の好ましい形態を説明する。
【0014】
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0016】
本明細書において使用される用語「物質」は、当該分野において用いられる最も広義な意味と同じ意味で用いられ、正または負に荷電することができるものを含む。
【0017】
本明細書において「正に荷電した物質」は、正荷電を有するすべての物質を包含する。そのような物質としては、例えば、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質などのカチオン性物質が含まれるがそれらに限定されない。そのような正に荷電した物質は、複合体を形成することができる物質であることが有利である。そのような複合体を形成することができる正に荷電した物質としては、例えば、カチオン性ポリマーのようにある程度の分子量を有する物質、あるいは、カチオン性脂質のように特定の溶媒(例えば、水、水溶液など)中においてある程度溶解せずに残存することができる物質などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような好ましい正に荷電した物質としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリLリシン、合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体などが挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、正に荷電した物質としては、ヒストン、合成ポリペプチドなどのような生体分子が挙げられるがそれらに限定されない。そのような好ましい正に荷電した物質の種類は、複合体を形成するパートナーである負に荷電した物質の種類に応じて変動する。好ましい複合体形成パートナーを選択することは、当業者には容易であり、そのような選択は、当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような好ましい複合体形成パートナーの選択においては、種々のパラメータを考慮することができる。そのようなパラメータとしては、例えば、電荷、分子量、疎水性、親水性、置換基の性質、pH、温度、塩濃度、圧力などの種々の物理的パラメータ、化学的パラメータなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0018】
本明細書において「カチオン性ポリマー」は、カチオン性の官能基を有するポリマーをいい、例えば、ポリエチレンイミン、ポリLリシン、合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0019】
本明細書において「カチオン性脂質」は、カチオン性の官能基を有する脂質をいい、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、及びその誘導体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0020】
ここで、カチオン性の官能基としては、例えば、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0021】
本明細書において「負に荷電した物質」は、負荷電を有するすべての物質を包含する。そのような物質としては、例えば、生体分子ポリマー、アニオン性脂質などのアニオン性物質が含まれるがそれらに限定されない。そのような負に荷電した物質は、複合体を形成することができる物質であることが有利である。そのような複合体を形成することができる負に荷電した物質としては、例えば、DNAのようなアニオン性ポリマーのようにある程度の分子量を有する物質、あるいは、アニオン性脂質のように特定の溶媒(例えば、水、水溶液など)中においてある程度溶解せずに残存することができる物質などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような好ましい負に荷電した物質としては、例えば、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。ならびに、負に荷電した物質としては、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような好ましい負に荷電した物質の種類は、複合体を形成するパートナーである正に荷電した物質の種類に応じて変動する。好ましい複合体形成パートナーを選択することは、当業者には容易であり、そのような選択は、当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような好ましい複合体形成パートナーの選択においては、種々のパラメータを考慮することができる。そのようなパラメータもまた、上述の正に荷電した物質において考慮すべきパラメータと同様、種々のものを包含する。
【0022】
本明細書において「アニオン性ポリマー」は、アニオン性の官能基を有するポリマーをいい、例えば、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0023】
本明細書において「アニオン性脂質」は、アニオン性の官能基を有する脂質をいい、例えば、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0024】
ここで、アニオン性の官能基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基が挙げられるがそれらに限定されない。
【0025】
また、目的の物質に対して、正電荷または負電荷を有する置換基などの部分を付加することによって、その目的の物質の電荷を変換することも可能である。好ましい複合体パートナーが固定を目的とする物質と同じ電荷を有している場合に、いずれかの電荷を変換することによって複合体形成を促進することが可能である。
【0026】
本明細書において「複合体」とは、二つ以上の物質が互いに直接的または間接的に相互作用する結果、それらの物質の総体があたかも1つの物質のように挙動するものをいう。
【0027】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物体について言及するとき、その2つの物体が相互に力を及ぼしあうことをいう。そのような相互作用としては、例えば、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力、イオン性相互作用、非イオン性相互作用、疎水性相互作用、静電的相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、相互作用は、水素結合、疎水性相互作用などである。本明細書において「共有結合」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、電子対が2つの原子に共有されて形成する化学結合をいう。本明細書において「水素結合」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、電気的陰性度の高い原子に一つしかない水素原子の核外電子が引き寄せられて水素原子核が露出し、これが別の電気的陰性度の高い原子を引き寄せて生じる結合をいい、例えば、水素原子と電気的陰性度の高い(フッ素、酸素、窒素などの)原子との間にできる。
【0028】
本明細書において「複合体パートナー」とは、複合体を形成するあるメンバーについて言及するとき、そのメンバーと直接的または間接的に相互作用する別のメンバーをいう。
【0029】
本明細書において複合体を形成する条件は、複合体パートナーの種類に応じて変動する。そのような条件は、当業者は容易に理解することができ、当該分野において周知の技法を用いて任意の複合体パートナー(例えば、正に荷電した物質および負に荷電した物質)から複合体を形成させることができる。
【0030】
本明細書において使用される用語「生体物質」または「生体分子」とは、本明細書において互換可能に用いられ、生体に関連する物質または分子をいう。生体分子は、生体から抽出される分子を包含するが、それに限定されない。生体に影響を与え得る分子であれば生体分子の定義に入る。したがって、コンビナトリアルケミストリで合成された分子も生体への効果を目的としている限り、生体物質の定義に入る。生体物質には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、低分子(例えば、有機低分子など)、これらの複合分子などが包含されるがそれらに限定されない。従って、ポリマー分子と複合体を形成し得る限り、生体物質には、細胞自体、組織の一部、他の物質も包含され得る。
【0031】
本明細書において「ポリマー分子」とは、ポリマーが重合してできる高分子量の物質をさし、通常、分子量が約5000以上のものをいう。
【0032】
本明細書において使用される用語「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において互換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸またはその改変体のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものも包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この用語の定義は、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変体が包含される。
【0033】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」は、本明細書において互換可能に使用され、任意の長さのヌクレオチドまたはその改変体のポリマーをいう。これらの用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0034】
本明細書において「塩」は、当該分野において通常用いられる意味と同じ意味で用いられ、無機塩および有機塩の両方を含む。塩は、通常、酸と塩基との中和反応によって生成する。塩には中和反応で生成するNaCl、K2SO4などといったもののほかに、金属と酸との反応で生成するPbSO4、ZnCl2など種々の種類があり、これらは、直接中和反応によって生成したものでなくても、酸と塩基との中和反応から生成したとみなすことができる。塩としては、正塩(酸のHや塩基のOHが塩に含まれていないもの、例えば、NaCl、NH4Cl、CH3COONa、Na2CO3)、酸性塩(酸のHが塩に残っているもの、例えば、NaHCO3、KHSO4、CaHPO4)、塩基性塩(塩基のOHが塩の中に残っているもの、例えば、MgCl(OH)、CuCl(OH))などに分類することができるがそれらの分類は、本発明においてはそれほど重要ではない。好ましい塩としては、培地を構成する塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸、ビタミン)、緩衝液を構成する塩(例えば、塩化カリウム、塩化マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)などが好ましい。細胞に対する親和性を保持または改善する効果がより高いからである。これらの塩は、単独で用いてもよいし、複数用いてもよい。複数用いることが好ましい。細胞に対する親和性が高くなる傾向があるからである。従って、NaClなどを単独で用いるよりも、培地中に含まれる塩(例えば、塩化カリウム、塩化マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)を複数用いることが好ましく、より好ましくは、培地中に含まれる塩全部をそのまま使用することが有利であり得る。別の好ましい実施形態では、グルコースを加えてもよい。
【0035】
本明細書において使用される「支持体」または「基板」は交換可能であり、本明細書において、生体分子のような物質を固定することができる要素(element)をいう。支持体の材料としては、共有結合かまたは非共有結合のいずれかで、本発明において使用される生体分子のような物質に結合する特性を有するかまたはそのような特性を有するように誘導体化され得る、任意の固体材料が挙げられる。
【0036】
支持体として使用するためのそのような材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)などが挙げられるがそれらに限定されない。支持体は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素などの無機絶縁材料を使用することができる。ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホンなどの有機材料を用いることができる。本発明においてはまた、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、PVDF膜など、ブロッティングに使用される膜を用いることもできる。支持体を構成する材料が固相である場合、本明細書において特に「固相支持体」という。固相支持体は、本明細書において、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズ、金属(表面)などの形態をとり得る。
【0037】
本明細書において「コーティング」とは、固相支持体について用いられるとき、その固相支持体の表面上にある物質の膜を形成させることおよびそのような膜をいう。コーティングは種々の目的で行われ、例えば、固相支持体の品質向上(例えば、寿命の向上、耐酸性などの耐環境性の向上)、固相支持体に結合されるべき物質の親和性の向上などを目的とすることが多い。そのようなコーティングのための物質としては、種々の物質が用いられ得、上述の固相支持体に使用される物質のほか、DNA、RNA、タンパク質、脂質などの生体物質、ポリマー(例えば、ポリ−L−リジン、APS(例えば、γ−アミノプロピルシラン)、MAS、疎水性フッ素樹脂)、シラン、金属(例えば、金など)が使用され得るがそれらに限定されない。そのような物質の選択は当業者の技術範囲内にあり、当該分野において周知の技術を用いて場合ごとに選択することができる。一つの好ましい実施形態では、そのようなコーティングは、ポリ−L−リジン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、エポキシシランまたはメルカプトシランのようなシラン、金のような金属を用いることが有利であり得る。このような物質は、細胞または細胞を含む物体(例えば、生体、臓器など)に適合する物質を用いることが好ましくあり得る。
【0038】
本明細書において「固定」とは、固相支持体について用いられるとき、その対象となる物質(例えば、生体分子)がその支持体において少なくともある一定の時間の間保持される状態またはそのような状態にさせることをいう。従って、物質が固相支持体上で固定された後、条件が変化する(例えば、別の溶媒中に浸される)場合は、その固定状態が解除されてもよい。
【0039】
本明細書において用いられる「細胞親和性」とは、ある物質が細胞(例えば、細菌細胞、動物細胞、酵母、植物細胞など)または細胞を含む物体(例えば、組織、臓器、生体など)と相互作用が可能な状態に置かれたときに、その細胞または細胞を含む物体に対して有害な影響を与えない性質をいう。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、細胞が優先的に相互作用する物質であり得るがそれに限定されない。本発明では、固定されるべき物質(例えば、正に荷電した物質および/または負に荷電した物質)は、細胞親和性を有することが好ましいがそれに限定されない。固定されるべき物質が細胞親和性を有する場合、その物質が本発明にしたがって固定されると、細胞親和性が保持または改善されることが予想外に見いだされた。通常、細胞親和性を有する物質が固相支持体に固定される場合は、必ずしも細胞親和性が保持されるとは限らなかったことに鑑みると、本発明の効果は計り知れない。
【0040】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0041】
本明細書において「組織」(tissue)とは、多細胞生物において、実質的に同一の機能および/または形態をもつ細胞集団をいう。通常「組織」は、同じ起源を有するが、異なる起源を持つ細胞集団であっても、同一の機能および/または形態を有するのであれば、組織と呼ばれ得る。
【0042】
本明細書において「臓器」または「器官」とは、互換可能に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、血管系に関連する臓器または器官が挙げられる。1つの実施形態では、本発明が対象とする臓器は、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0043】
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、「単離された細胞」とは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。
【0044】
本発明で用いられる細胞または細胞を含む物体(例えば、臓器、組織)は、どの生物由来の細胞(たとえば、原核生物(例えば、大腸菌など)、真核生物の単細胞生物(酵母など)、任意の種類の多細胞生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物)、植物(たとえば、単子葉植物、双子葉植物など)など))でもよい。好ましくは、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、カニクイサル、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞が用いられる。ヒト由来の細胞が用いられてもよい。
【0045】
本明細書において「徐放」とは、ある物質がその物質を溶解する溶媒に浸される場合に、一定時間は固相を保ちつつ徐々に溶解することをいう。従って、ある物質が徐放性を有する場合は、通常、溶媒に浸された後も約5分間は固定された状態が保たれ、好ましくは少なくとも約10分間、より好ましくは少なくとも約15分間は、さらに好ましくは少なくとも約30分間固定された状態が保たれる。医薬として用いられる場合は、徐放性は、少なくとも約30分間、好ましくは少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約3時間、さらに好ましくは少なくとも約6〜12時間固定された状態が保たれることが有利である。DNAのトランスフェクションなど、細胞に直接固定された物質を導入する目的で使用される場合は、通常、少なくとも約15分間固定された状態が保たれる。
【0046】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプタ−への結合を包含する。そのような生物学的活性は、測定対象となる活性に応じて当該分野において周知の技術によって測定することができる。
【0047】
本明細書において「生体分子を破壊しない条件」とは、生体分子が発揮する少なくとも一つの生物学的活性(例えば、遺伝子発現活性、酵素活性など)が損なわれない条件をいう。そのような条件については、当業者はその生体分子に応じ、種々の考慮事項(例えば、温度、pH、圧力、化学的条件など)を考慮することによって、適宜設定することができる。また、生体分子を破壊しない条件が未知の場合でも、その生体物質について試験されるべき条件に曝し、その後目的とする生物学的活性が保持されているかを調べることによってあらかじめ決定することができる。従って、本発明を実施する際には、そのような条件は、目的とする生物学的活性が保たれている限り、どのような条件であってもよいことが当業者に理解される。
【0048】
本明細書において溶媒(例えば、水、有機溶媒(例えば、ヘキサンなど))の「低減」または「除去」は、その溶媒を含む混合物または組成物を、ある条件に置くことにより、その混合物または組成物中の溶媒比率が減少またはなくなることによって達成される。
【0049】
本明細書において「薬学的に受容可能」とは、ある物質について言及するとき、その物質が医薬として投与され得る性質をいう。
【0050】
本明細書において使用され得る「薬学的に受容可能な物質」としては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、目的とする化合物(生物学的活性または医薬品の有効成分としての活性を有する化合物)、またはその改変体もしくは誘導体は、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で提供される。
【0051】
本明細書で使用される薬学的に受容可能な物質は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸塩;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0052】
(生体分子チップ・アレイ)
本明細書において「チップ」とは、多様の機能をもち、システムの一部となる超小型集積回路をいう。本明細書では、積載される物質に応じて、「DNAチップ」、「プロテインチップ」などと称することがある。
【0053】
本明細書において用いられる用語「アレイ」とは、基板または膜上の固定物体の固定されたパターンまたはパターン化された基板そのものをいう。アレイの中で、小さな基板(例えば、10×10 mm上など)上にパターン化されているものは「マイクロアレイ」というが、本明細書では、「マイクロアレイ」と「アレイ」とは互換可能に使用される。従って、上述の基板より大きなものにパターン化されたものでも「マイクロアレイ」と呼ぶことがある。例えば、アレイはそれ自身固相表面または膜に固定されている所望のポリヌクレオチドのセットで構成される。アレイは好ましくは異なるポリヌクレオチドを少なくとも102個、より好ましくは少なくとも103個、およびさらに好ましくは少なくとも104個、さらにより好ましくは少なくとも105個を含む。これらのポリヌクレオチドは、例えば、125×80 mm、10×10 mmのような規格化されたフォーマット上に配置される。
【0054】
本明細書において使用される用語「アドレス」とは、基板上のユニークな位置をいい、他のユニークな位置から弁別可能であり得るものをいう。アドレスは、そのアドレスを伴う微粒子との関連づけに適切であり、そしてすべての各々のアドレスにおける存在物が他のアドレスにおける存在物から識別され得る(例えば、光学的)、任意の形状を採り得る。アドレスの形は、例えば、円状、楕円状、正方形、長方形であり得るか、または不規則な形であり得る。
【0055】
各々のアドレスのサイズは、とりわけ、その基板の大きさ、特定の基板上のアドレスの数、分析物の量および/または利用可能な試薬、微粒子のサイズおよびそのアレイが使用される任意の方法のために必要な解像度の程度に依存する。大きさは、例えば、1−2nmから数cmの範囲であり得るが、そのアレイの適用に一致した任意の大きさが可能である。
【0056】
アドレスの空間配置および形状は、そのマイクロアレイが使用される特定の適用に適合するように設計される。アドレスは、密に充填され得、広汎に分散され得るか、または特定の型の分析物に適切な所望のパターンへとサブグループ化され得る。
【0057】
マイクロアレイ(基板上にDNAが配置されている場合、「DNAマイクロアレイ」とも呼ばれる)については、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。
【0058】
合成型DNAマイクロアレイにおける標識方法としては、例えば、二蛍光標識法が挙げられる。この方法では、2つの異なるmRNAサンプルをそれぞれ異なる蛍光で標識し、同一マイクロアレイ上で競合的ハイブリダイゼーションを行って、両方の蛍光を測定し、それを比較することで遺伝子発現の相違を検出する。蛍光色素としては、例えば、Cy5およびCy3などが最も用いられているが、それらに限定されない。Cy3およびCy5の利点は、蛍光波長の重なりが殆どないという点である。二蛍光標識法は、遺伝子発現の相違のみならず、変異または多型性を検出するためにも使用され得る。
【0059】
DNAマイクロアレイを用いたアッセイにおいては、DNAマイクロアレイ上でハイブリダイズした蛍光シグナルを蛍光検出器等で検出する。このような検出器は、現在までに種々の検出器が利用可能である。例えば、Stanford Universityのグループは、オリジナルスキャナを開発しており、このスキャナは、蛍光顕微鏡と稼動ステージとを組み合わせたものである(http://cmgm.stanford.edu/pbrownを参照のこと)。従来型のゲル用蛍光イメージアナライザであるFMBIO(日立ソフトウェアエンジニアリング)、Storm(Molecular Dynamics)などでも、スポットがそれほど高密度でなければ、DNAマイクロアレイの読み取りを行い得る。その他に利用可能な検出器としては、Scanarray 4000、同5000(GeneralScanning;スキャン型(共焦点型))、GMS418 Array Scanner(宝酒造;スキャン型(共焦点型))、Gene Tip Scanner(日本レーザー電子;スキャン型(非共焦点型))、Gene Tac 2000(Genomic Solutions;(CCDカメラ型))などが挙げられる。
【0060】
マイクロアレイから得られるデータは膨大であることから、クローンとスポットとの対応の管理、データ解析などを行うためのデータ解析ソフトウェアが重要である。そのようなソフトウェアとしては、各種検出システムに付属のソフトウェアが利用可能である(Ermolaeva Oら(1998)Nat.Genet.20:19−23)。また、データベースのフォーマットとしては、例えば、Affymetrixが提唱しているGATC(genetic analysis technology consortium)と呼ばれる形式が挙げられる。
【0061】
本発明において固相支持体に配置される生体分子(例えば、DNA、RNA、ポリペプチドなど)は、生体由来物質(例えば、mRNA)を用いて分子生物学的手法で作製され得、あるいは、当業者に公知の方法によって化学的に合成され得る。例えば、自動固相ペプチド合成機を用いた合成方法は、以下により記載される:Stewart,J.M.et al.(1984).Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.;Grant,G.A.(1992).Synthetic Peptides:A User’s Guide,W.H.Freeman;Bodanszky,M.(1993).Principles of Peptide Synthesis,Springer-Verlag;Bodanszky,M.et al.(1994).The Practice of Peptide Synthesis,Springer-Verlag;Fields,G.B.(1997).Phase Peptide Synthesis,Academic Press;Pennington,M.W.et al.(I 994).Peptide Synthesis Protocols,Humana Press;Fields,G.B.(1997).Solid-Phase Peptide Synthesis,Academic Press。オリゴヌクレオチドは、Applied Biosystemsなどにより市販されるDNA合成機の何れかを用いて、自動化学合成により調製され得る。自動オリゴヌクレオチドの合成のための組成物および方法は、例えば、米国特許第4,415,732号,Caruthers et al.(1983);米国特許第4,500,707号およびCaruthers(1985);米国特許第4,668,777号,Caruthers et al.(1987)に開示されており、当業者は、これらの方法を利用して、本発明において使用される生体分子を調製することができる。
【0062】
(本発明の好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明するが、これらの好ましい実施形態の説明は、例示のために提供され、本発明の範囲を限定すべきでないことが理解されるべきである。
【0063】
1つの局面において、本発明は、生体分子のような物質を固相支持体に固定するための組成物を提供する。この組成物は、固定されるべき物質と、その物質とは反対の電荷を有する物質との複合体、および塩(例えば、培地中に含まれる塩類)を含む。これらの複合体と塩との混合による予想外の効果で、固定されるべき物質が、固相支持体に簡便に固定されることが見いだされた。このような固定による効果は、例えば、(i)固定後の物質の拡散が徐放であること、および(ii)固定後の物質が細胞親和性を保つか改善されていることなどが挙げられる。本発明の組成物は、a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;およびb)塩、を含む。ここで、固定を目的とする物質は、正に荷電した物質および負に荷電した物質のいずれでも、あるいはその両方でもよい。
【0064】
1つの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する。ある物質の細胞親和性は、その物質と細胞とを混合したときに、その物質が存在しないときに比べて、その細胞の生存が維持されるか否かを評価することによって判断することができる。そのような細胞の生存の維持は、細胞の種々のパラメータを測定することによって具体的に判断することができる。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、その細胞の生存を改善することが有利であり得る。
【0065】
1つの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の両方が細胞親和性を有することが有利である。このような場合、両方の物質が複合体を形成したときにも細胞親和性を喪失しないことが好ましいがそれに限定されない。
【0066】
1つの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子であり得る。ここで、この生体分子が固定の目的の対象であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0067】
本発明の好ましい実施形態において使用され得るそのような生体分子としては、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNAなど)、RNA(例えば、mRNAなど)、ペプチド、脂質、糖、有機低分子(例えば、コンビナトリアルケミストリのライブラリーメンバー)、およびこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、糖脂質、核酸ペプチド、リポタンパク質などが含まれるがそれらに限定されない)が挙げられるがそれらに限定されない。
【0068】
1つの特定の実施形態では、本発明において固定されるべき生体分子は、DNAのような遺伝子コード分子であり得る。本発明において達成された固定方法を用いることによって、DNAがトランスフェクトのような遺伝子導入のための処置がされるときに、処置の完了に必要な時間(例えば、約15分から約30分程度)、継続して徐放が起こることによって、そのような分子の導入が効率よく行われるという効果が達成された。このような徐放効果は、従来の固定方法では達成されなかったか、十分ではなかったことから、このような効果は、本発明の特筆すべき効果として挙げることができる。また、本発明の組成物は、固定された後に、細胞に対する親和性が保持されるかあるいは改善され、特に、トランスフェクションのような遺伝子の導入において従来の固定方法よりも効率よくかつ細胞に対するダメージなしにそのような導入が行われることが見いだされた。
【0069】
本発明の好ましい実施形態において、固定されるべき負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ペプチド及びその複合体のような生体分子でもよく、アニオン性ポリマー、アニオン性脂質のように生体分子でなくてもよい。
【0070】
本発明の好ましい実施形態において、固定されるべき正に荷電した物質は、生体分子でもよく、生体分子でなくてもよく、例えば、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質ポリLリシンなど合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体などであり得る。本発明の好ましい実施形態において、正に荷電した物質としては、例えば、ポリイミンポリマー、ポリLリシン、合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体などのトランスフェクション試薬などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0071】
固相上のトランスフェクションを目的とした特定の実施形態において、固定されるべき物質として負に荷電したDNAが選択され、その複合体パートナーとしてはポリイミンポリマーのような正に荷電したDNAが選択されることが好ましい。この場合、塩としては、細胞に親和性のある塩(例えば、培地に用いられる塩類、緩衝液中で用いられる塩類など)が挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、トランスフェクションを目的とする場合は、培地または緩衝液中に含まれる塩類すべての組み合わせを用いることが有利であり得る。このような塩類の組み合わせは、通常細胞にとって好ましい組み合わせであるからである。そのような培地の例示としては、例えば、ダルベッコMEM、HAM12培地、αMEM培地、RPM1640(例えば、ニチレイから市販)が挙げられるがそれらに限定されない。そのような培地に含まれる塩類としては、例えば、塩化カルシウム、塩化カリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。そのような塩の濃度は、当業者が適宜選択して調整することができるが、好ましくは、細胞の浸透圧とほぼ等しいことが有利であり得る。
【0072】
好ましい実施形態では、固定される生体分子は、細胞に導入され、その細胞内で生物学的活性(例えば、薬効、酵素、シグナル伝達、遺伝子発現など)を発揮することが有利であり得る。遺伝子発現が目的とされる場合には、生体分子はその遺伝子をコードする配列を含むDNAであり得る。シグナル伝達が目的とされる場合には、生体分子はシグナル伝達刺激因子(例えば、サイトカイン、特定のリガンドなど)などであり得る。薬効が目的とされる場合は、生体分子は薬効を有する化学物質であり得る。そのような薬効を有する化学物質としては、例えば、中枢神経系用薬;末梢神経用剤;感覚器官用薬;循環器官用薬;呼吸器官用薬;消化器官用薬;ホルモン剤;泌尿生殖器官および肛門用薬;外皮用薬;歯科口腔用剤;その他の個々の器官系用薬;ビタミン剤;滋養強壮薬;血液および体液用薬;人工透析用薬;その他の代謝性医薬品(例えば、臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、他に分類されない代謝性薬など);細胞賦活用剤;腫瘍用薬;放射性医薬品;アレルギー用薬;抗生物質製剤;化学療法剤;生物学的製剤;調剤用薬;診断用薬;体外診断用医薬品;分類されない治療を主目的としない薬剤;ならびに麻薬などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0073】
医薬としての使用を目的とする場合は、本発明の組成物において含まれる複合体および塩は、薬学的に受容可能であることが好ましい。
【0074】
別の局面において、本発明はまた、目的の物質が固定されたデバイスを提供する。このデバイスでは、目的の物質(例えば、DNAのような生体分子)と、その物質とは反対の電荷を有する物質との複合体、および塩(例えば、培地中に含まれる塩類)が混合されその固相支持体に固定されている。これらの複合体と塩との混合による予想外の効果で、固定されるべき物質が、固相支持体に簡便に固定されることが見いだされた。このような固定による効果により、本発明のデバイスは、例えば、(i)固体支持体上に固定された物質の徐放性を有し、および/または(ii)固定された物質が細胞親和性を保つかまたは改善されていることなどが達成される。従って、本発明のデバイスは、細胞などの生体またはその一部を用いたアッセイなどに用いられるマイクロタイタープレート、アレイ(チップ)などの形態として提供され、固定されるべき物質(活性成分、発現遺伝子をコードするDNAなど)が徐放されることおよび/または細胞親和性が保持されることが所望されるアッセイなどにおいて有用である。あるいは、ある有効成分が徐放されることが好ましい場合において、医薬送達媒体として使用され得る。そのような場合は、複合体を構成する物質、塩および固相支持体は、生体適合性であり、好ましくは薬学的に受容可能であることが所望される。従って、本発明のデバイスは、a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;b)塩;およびc)その複合体とその塩とが(好ましくは混合されて)固定された固相支持体を含む。ここで、目的の物質は、上記正に荷電した物質であっても、負に荷電した物質であってもその両方であってもよい。あるいは、形成された複合体自体が目的の物質であってもよい。
【0075】
本発明のデバイスの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、その細胞の生存を改善し得るがそれに限定されない。より好ましくは、正に荷電した物質および負に荷電した物質の両方が細胞親和性を有することが有利である。このような場合、両方の物質が複合体を形成したときにも細胞親和性を喪失しないことがさらに好ましいがそれに限定されない。
【0076】
本発明のデバイスの好ましい実施形態において使用され得るそのような生体分子としては、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、あるいはゲノムDNA/cDNAライブラリーのメンバーなど)、RNA(例えば、mRNA、またはRNAiなど)、ペプチド(例えば、プロテオミクスライブラリーのメンバー)、脂質、糖、有機低分子(例えば、コンビナトリアルケミストリのライブラリーメンバー)、およびこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、糖脂質、核酸ペプチド組成物、リポタンパク質などが含まれるがそれらに限定されない)、薬剤などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0077】
本発明のデバイスの好ましい実施形態では、正に荷電した物質および/または負に荷電した物質および/または塩としては、本発明の組成物の好ましい実施形態において列挙される物質であってもよいが、それに限定されない。そのような物質および/または塩は、目的とする物質の種類または性質に応じて適宜変更することができる。あるいは、それらの物質および/または塩は、固相支持体の種類に応じて当業者が適切に選択することができる。そのような適切な物質/塩の選択は、おのおのがすでに選択した固相支持体の種類について適切な性質(例えば、細胞親和性)を有していることが公知であるようなものを選択することができるし、あるいは、デバイスの調製の前に予備的な試験を行うことによって確認してもよい。
【0078】
本発明のデバイスにおいて使用される固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含むがそれに限定されない。
【0079】
本発明のデバイスの1つの好ましい実施形態において、固相支持体は、コーティングによって処理されていてもよい。コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、金属など、通常固相支持体において使用することが企図される物質を利用して行うことができる。好ましい実施形態では、細胞培養において利用されるコーティング剤(例えば、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、金属)などを使用することができる。
【0080】
本発明のデバイスの1つの好ましい実施形態では、固相支持体はチップであってもよい。本発明のデバイスにおける固相支持体がチップである場合、好ましくは、複合体はチップ上にアレイ状に配列される。このような場合、本発明のデバイスは、「アレイ」とも称され得る。
【0081】
本発明のデバイスの1つの好ましい実施形態では、生体分子は、細胞に導入された後、生物学的活性を有するものであることが所望され得る。このような場合、生物学的活性としては、例えば、薬効、遺伝子発現、酵素活性、シグナル伝達活性などが挙げられるがそれらに限定されない。遺伝子発現が目的とされる場合には、生体分子はその遺伝子をコードする配列を含むDNAであり得る。シグナル伝達が目的とされる場合には、生体分子はシグナル伝達刺激因子(例えば、サイトカイン、特定のリガンドなど)などであり得る。薬効が目的とされる場合は、生体分子は薬効を有する化学物質であり得る。薬効を有する化合物は、本明細書において別の場所において記載されるように種々の化合物の中から選択することができる。
【0082】
固相上のトランスフェクションを目的とした1つの特定の実施形態において、固定されるべき物質として負に荷電したDNAが選択され、その複合体パートナーとしてはポリイミンポリマーのような正に荷電したDNAが選択されることが好ましい。この場合、塩としては、細胞に親和性のある塩(例えば、培地に用いられる塩類、緩衝液中で用いられる塩類など)が挙げられるがそれらに限定されない。好ましい実施形態において使用される固相支持体の材料としては、例えば、スライドガラス(ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、好ましくはポリ−L−リジンなどによってコーティングされる)、ポリスチレン樹脂などが挙げられるがそれらに限定されない。ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂などでコーティングされた固相支持体が好ましい。細胞との親和性、トランスフェクションの効率に好ましい効果を有することが知られているからである。
【0083】
本発明のデバイスの1つの特定の実施形態では、固定されるべき生体分子は、DNAのような遺伝子コード分子であり得る。本発明のデバイスを用いることによって、DNAがトランスフェクトのような遺伝子導入のための処置がされるときに、処置の完了に必要な時間(例えば、約15分から約30分程度)、継続して徐放が起こることによって、そのような分子の導入が効率よく行われるという効果が達成された。このような徐放効果は、従来の固定方法では達成されなかったか、十分ではなかったことから、このような効果は、本発明の特筆すべき効果として挙げることができる。また、本発明のデバイスは、細胞に対する親和性が保持されるかあるいは改善され、特に、トランスフェクションのような遺伝子の導入において従来のデバイスよりも効率よくかつ細胞に対するダメージなしにそのような導入が行われることが見いだされた。
【0084】
本発明のデバイスは、医薬デバイスとして使用される場合、複合体、固相支持体および塩は薬学的に受容可能であることが好ましい。
【0085】
さらに別の局面において、本発明は、物質を固相支持体に固定する方法を提供する。このような物質の固定方法では、固定されるべき物質と、その物質とは反対の電荷を有する物質との複合体、および塩(例えば、培地中に含まれる塩類)が提供され、これらの複合体と塩との混合による予想外の効果で、固定されるべき物質が、固相支持体に簡便に、かつ、特殊な固定条件を選択することも必要とせずに固定されることが見いだされた。本発明の固定方法による効果により、(i)固体支持体上に固定された物質の徐放性を有し、および/または(ii)固定された物質が細胞親和性を保つかまたは改善されていることなどが挙げられる。従って、本発明の固定方法は、a)固相支持体を提供する工程;b)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体を提供する工程;c)塩と上記複合体との混合物を提供する工程;およびd)上記混合物を固相支持体に付着させる工程、を包含する。ここで、目的の物質は、上記正に荷電した物質であっても、負に荷電した物質であってもその両方であってもよい。あるいは、形成された複合体自体が目的の物質であってもよい。
【0086】
ここで、上記固相支持体、上記複合体および上記塩の提供は、当業者の技術常識の範囲内にあり、当該分野において周知の技術を利用して当業者が容易に実施することができる。例えば、固相支持体は、市販のものを購入してもよいし(例えば、スライドガラス、マイクロタイタープレートなど)、塩、目的の物質の複合体パートナーもまた、市販のものを購入してもよい。あるいは、化学的または生化学的にそのような固相支持体、塩または目的の物質の複合体パートナーを合成または加工してもよい。塩と複合体との混合は、塩と複合体との相互作用が発揮されるような形態であればどのような方法を用いてもよい。本発明の固定方法は、アッセイ用のデバイスまたは医薬送達デバイスを作製する際に使用することができ、その有用性は広い範囲に及ぶ。
【0087】
本発明の固定方法において、塩と複合体との混合物を付着する工程は、どのような技術を用いてもよく、手動(ピペッティングなど)でも、自動(例えば、インクジェットプリンターなどのプリンター技術)でもよい。好ましくは、混合物はインクジェットプリンターのプリントピンを用いて付着させることができる。
【0088】
本発明の方法の好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、その細胞の生存を改善し得るが本発明はそれに限定されない。より好ましくは、正に荷電した物質および負に荷電した物質の両方が細胞親和性を有する。このような場合、両方の物質が複合体を形成したときにも細胞親和性を喪失しないことがさらに好ましいが、本発明はそれに限定されない。
【0089】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態において固定が企図される生体分子としては、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、あるいはゲノムDNA/cDNAライブラリーのメンバーなど)、RNA(例えば、mRNAまたはRNAiなど)、ペプチド(例えば、プロテオミクスライブラリーのメンバー)、脂質、糖、有機低分子(例えば、コンビナトリアルケミストリのライブラリーメンバー)、およびこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、糖脂質、核酸ペプチド、リポタンパク質などが含まれるがそれらに限定されない)、薬剤などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0090】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、正に荷電した物質および/または負に荷電した物質および/または塩としては、本発明の組成物の好ましい実施形態において列挙される物質であってもよいが、それに限定されない。そのような物質および/または塩は、目的とする物質の種類または性質に応じて適宜変更することができる。あるいは、それらの物質および/または塩は、固相支持体の種類に応じて当業者が適切に選択することができる。そのような適切な物質/塩の選択は、おのおのがすでに選択した固相支持体の種類について適切な性質(例えば、細胞親和性)を有していることが公知であるようなものを選択することができるし、あるいは、本発明の方法を実施する前に予備的な試験を行うことによって確認してもよい。
【0091】
本発明の方法において使用される固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含むがそれに限定されない。このような固相支持体は、本発明の方法において、新たに調製することもできるし、リサイクルすることもできる。好ましくは、コーティングすることが有利であり得る。コーティングは特に、リサイクリングを目的とする場合には有利であり得る。
【0092】
本発明の方法では、使用される固相支持体がコーティングによって処理されたものでもよいし、方法の実施の際に固相支持体をコーティングする工程を包含していてもよい。このようなコーティングに使用される物質としては、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、金属などあるいはそれらの混合物を用いることができるが、それらに限定されず、通常固相支持体において使用することが企図される物質を利用して行うことができる。
【0093】
本発明の方法の好ましい実施形態では、固相支持体はチップであり得る。本発明の方法は、チップのような小型および集積されたデバイスのようなものを製造する際にも適用可能であり、その有用性は広範な範囲に及ぶ。この場合、チップ上に固定される物質は、アレイ状に配置されることが好ましい。このようにアレイ状に配置される場合、そのデバイスは「アレイ」とも呼ばれる。従って、本発明の方法は、生体分子アレイまたは生体分子チップを製造する際に応用することができる。そのような方法によって製造されたチップまたはアレイは、徐放および/または細胞親和性が要求されるチップまたはアレイの用途において使用される場合に特に有用である。本発明の方法はまた、高い集積度が必要とされるアレイにおいて、簡便な固定従って簡便にかつ細かいスポッティングが必要とされる場合において特に有用性が高い。
【0094】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、生体分子は、細胞に導入された後、生物学的活性を有するものであることが所望され得る。このような場合、生物学的活性としては、例えば、薬効、遺伝子発現、酵素活性、シグナル伝達活性などが挙げられるがそれらに限定されない。遺伝子発現が目的とされる場合には、生体分子はその遺伝子をコードする配列を含むDNAであり得る。シグナル伝達が目的とされる場合には、生体分子はシグナル伝達刺激因子(例えば、サイトカイン、特定のリガンドなど)などであり得る。薬効が目的とされる場合は、生体分子は薬効を有する化学物質であり得る。薬効を有する化合物は、本明細書において別の場所において記載されるように種々の化合物の中から選択することができる。
【0095】
このような種々の目的において本発明の方法が使用される場合は、本発明の固定が達成された後に引き続いて上述の工程(例えば、トランスフェクションなどの遺伝子導入、シグナル伝達測定、薬剤送達など)が行われてもよく、あるいは、固定した後一定期間保存された後に上述の工程が行われてもよい。保存される場合は、本発明の方法によって固定された後に、徐放が開始しないような処置(徐放に使用される溶媒とは異なる保存溶媒に浸すか、あるいは、乾燥させるなど)を行うことが好ましい。
【0096】
固相上のトランスフェクションを目的とした特定の実施形態において、固定されるべき物質として負に荷電したDNAが選択され、その複合体パートナーとしてはポリイミンポリマーのような正に荷電したDNAが選択されることが好ましい。この場合、塩としては、細胞に親和性のある塩(例えば、培地に用いられる塩類、緩衝液中で用いられる塩類など)が挙げられるがそれらに限定されない。好ましい実施形態において使用される固相支持体の材料としては、例えば、スライドガラス(好ましくはポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂などによってコーティングされる)、ポリスチレン樹脂などが挙げられるがそれらに限定されない。ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂などでコーティングされた固相支持体が好ましい。細胞との親和性、トランスフェクションの効率に好ましい効果を有することが知られているからである。このような場合、本発明の方法は、好ましくは、コーティング工程を包含し得る。
【0097】
本発明の方法の1つの特定の実施形態では、固定されるべき生体分子は、DNAのような遺伝子コード分子であり得る。本発明の方法で固定することによって、DNAがトランスフェクトのような遺伝子導入のための処置がされるときに、処置の完了に必要な時間(例えば、約15分から約30分程度)、継続して徐放が起こることによって、そのような分子の導入が効率よく行われるという効果が達成された。このような徐放効果は、従来の固定方法では達成されなかったか、十分ではなかったことから、このような効果は、本発明の特筆すべき効果として挙げることができる。また、本発明の固定方法により、細胞に対する親和性が保持されるかあるいは改善されることから、そのような効果が期待される状態(例えばトランスフェクションのような遺伝子の導入)において従来の方法に対して有利な効果を達成する。
【0098】
本発明の方法では、医薬を処方する際に利用される場合は、使用される物質、塩および固相支持体などの少なくとも一つ、好ましくはそのすべてが薬学的に受容可能であることが好ましい。
【0099】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、複合体を提供する工程は、生体分子を破壊しない条件下で行われる。このような生体分子を破壊しない条件は、当業者であれば、提供されるおのおのの複合体パートナーの種類、複合体形成の他の条件(例えば、pH、温度など)を考慮することによって適切に選択することができ、あるいは、予備的に適切な条件を試験することによって容易に選択することができる。そのような適切な条件の選択または試験は、当業者の技術常識の範囲内であり、当業者は過度な実験をすることなく決定することができる。
【0100】
本発明の1つの好ましい実施形態において、塩と複合体との混合物の提供は、生体分子を破壊しない条件下で行われ得る。このような生体分子を破壊しない条件は、当業者であれば、提供される複合体および塩の種類、複合体形成の他の条件(例えば、pH、温度など)を考慮することによって適切に選択することができ、あるいは、予備的に適切な条件を試験することによって容易に選択することができる。そのような適切な条件の選択または試験は、当業者の技術常識の範囲内であり、当業者は過度な実験をすることなく決定することができる。
【0101】
本発明の1つの好ましい実施形態において、混合物を固相支持体に付着した後、その混合物中の溶媒を低減または除去する工程をさらに包含することが有利であり得る。そのような溶媒の低減または除去は、自然乾燥、凍結乾燥、乾燥剤を用いた乾燥などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0102】
本発明の組成物、デバイスおよび方法は、ヒト用途でも使用され得るが、その他の宿主(例えば、哺乳動物など)を対象として使用されてもよい。従って、本発明の組成物は、農薬として使用されてもよい。
【0103】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら (1987)Molecular Cloning: A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその3rd Edition(2001),Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験化学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、当業者は適宜そのような周知文献を当たることにより本発明を実施することができる。
【0104】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0105】
以下に本発明の例示を具体的な実施例を提示して示す。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma、和光純薬などから市販されるものを用いた。
【0106】
(実施例1:固定組成物の作製)
本実施例では、目的の物質としてDNAを選択し、DNAを固相支持体に固定するための組成物を調製した。
【0107】
DNAとしてトランスフェクションのためのプラスミドを調製した。プラスミドとして、pEGFP−N1およびpDsRed2−N1(ともにBD Biosciences,Clontech、CA、USA)を用いた。これらのプラスミドでは、遺伝子発現はサイトメガロウイルス(CMV)の制御下にある。プラスミドDNAを、E.coli(XL1 blue、Stratgene,TX,USA)中で増幅し増幅したプラスミドDNAを複合体パートナーの一方として用いた。DNAは、DNaseもRNaseも含まない蒸留水中に溶解した。
【0108】
複合体の他方のパートナーとして、トランスフェクション試薬を用いた。使用したトランスフェクション試薬は以下の通りである:Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA,USA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI,USA),TfxTM−20 Reagent(E2391,Promega,WI,USA),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA,USA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA,USA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019,Invitrogen Corporation,CA,USA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus−transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD,USA)。
【0109】
これらのDNAプラスミドとトランスフェクション試薬とを、DNaseもRNaseも含まない蒸留水、NaCl溶液(0.9%)、PBS緩衝液(Sigma)およびダルベッコMEM培地(グルコース(4.5g/L)、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウム(ナカライテスク、京都、日本)添加、10%仔ウシ血清アルブミン(大日本製薬、大阪、日本)を補充)中に溶解した。
【0110】
固相支持体としては、本発明では、スライドガラス、ならびにポリ−L−リジン、シラン、APS、PLLまたはMASでコーティングされたスライドガラス、およびポリスチレン製のマイクロタイタープレートを用いた。
【0111】
溶解された複合体と塩との混合溶液を、おのおのの固相支持体上にスポッティングし、スポットを自然乾燥させることによって目的の生体分子を固定した。
【0112】
次に、固定された生体分子をPBSに浸すことによって、固定の状況を確認した。確認は、PBSへの浸潤直後(0分)、5分後、10分後、15分後、20分後、25分後、30分後、40分後、50分後、60分後に目視することおよびDNA定量によって行った。
【0113】
(結果)
本発明の複合体と塩との混合物で調整した組成物を使用した例(NaCl溶液、PBS緩衝液、ダルベッコ培地)では、15分後でも固定が破壊されていないことが確認されたのに対して、蒸留水で調製した組成物の例では、PBSの浸した直後に固定が破壊され、DNAが流出していたことが明らかになった。従って、本発明の方法の物質固定効果は、顕著であることが明らかになった。塩を使用した例のうち、単塩(NaCl)では、固定が破壊される時間が比較的早かったが、複合塩を使用した例(PBSおよびダルベッコMEM培地)では、単塩よりも効果が持続した。特にダルベッコMEMを使用した例では、その効果は顕著であり、30分後でも固定の効果が持続した。
【0114】
(実施例2:細胞親和性の確認)
次に、本発明の細胞親和性の効果を確認するために、上記において調製したDNA固定固相支持体を用いて、細胞のトランスフェクション実験を行った。
【0115】
本実施例では、以下の5種類の細胞を利用して、効果を確認した:ヒト間葉系幹細胞(hMSCs、PT−2、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD,USA)、ヒト胚性腎細胞 (HEK293、RCB1637、RIKEN Cell Bank,日本)、NIH3T3−3細胞(RCB0150,RIKEN Cell Bank,日本)、HeLa細胞(RCB0007、RIKEN Cell Bank,日本)およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,日本)。
【0116】
実施例1においてDNAが固定されたプレートをディッシュに入れ、その上に、上記細胞を含む培地を各々滴下した。その後、プレートを含むディッシュをインキュベーターに移し、37℃で、5%CO2の雰囲気下で2日または3日間そのプレートをインキュベートしてトランスフェクトさせた。
【0117】
(遺伝子発現の観察)
遺伝子発現の観察は、各々の遺伝子発現の発現産物(EFP、EGFPおよびDsRed2)が発する蛍光を観察することによって行った。蛍光の観察には、蛍光顕微鏡(IX−71、Olympus PROMARKETING Inc.,日本)を用いた。細胞は、反応後にパラホルムアルデヒド(PFA)固定を行うこと(4% PFA、室温で10分間処理)により、観察した。
【0118】
(結果)
図1にトランスフェクションの結果の一部を示す。図1は、複合体化していないDNA(上)と、正に荷電した物質と複合体化させたDNA(下、NP10処理)とを対比した結果を示す。固相に対して複合体を添加した直後(0分)ならびに、添加の1分後、5分後および10分後に細胞含有液を加えた後のトランスフェクションの様子を示す。
【0119】
この結果から明らかなように、複合体の組成物および塩の固相支持体に固定された系では、組成物は固定され、DNAが徐放されることも明らかになった。
【0120】
また、このほかの本発明の塩を含む混合物が固定された固相支持体を使用した場合はいずれも、トランスフェクションが起こっていたことが判明した。これは、トランスフェクションが起こるために必要なDNAの細胞への移入が、いずれの例でも起こっていたことを示す。従って、本発明の組成物は、細胞親和性を維持または改善していたことになる。また、実施例1における放出のデータに加え、トランスフェクションが起こっていたことは固定された物質が徐々に放出されたことも間接的に示すことになる。
【0121】
このような効果は、塩を用いない溶液では、観察されなかった。従って、この結果は、本発明の効果が顕著であることを示す。特に、固定の際に塩を培地において利用した系では、単塩を用いた系よりもトランスフェクション効率が高かったことから、固定の際に細胞に適合する塩類の組み合わせを用いることが、細胞親和性の維持または改善にも適切であることがわかる。
【0122】
(実施例3:複合体パートナーと塩との比率の影響)
次に、複合体パートナーであるトランスフェクション試薬と塩との比率が、固定および細胞親和性の指標としてのトランスフェクションの効率に影響するかどうかを評価した。
【0123】
トランスフェクション試薬としては、Jet−PEI(ポリエチレンイミン)を用い、塩としては実施例で用いたダルベッコ改変MEM(DMEM、塩量:CaCL(200mg/L)、Fe(NO3)3・9H2O(0.1mg/L)、KCL(400mg/L)、MgSO4(97.67mg/L)、NaCL(6400mg/ml)、NaHCO3(3700mg/L)、NaH2PO4・H2O(125mg/L))を用いた。
【0124】
DNAと、Jet−PEIと、培地との比率は以下の通りである。
【0125】
DNA量(1μg/μl) 1.0μl 1.5μl 2.0μl
(1)NP3
Jet−PEI(7.5mM) 1.2μl 1.8μl 2.4μl
DMEM 12.8μl 11.7μl 10.6μl
(2)NP5
Jet−PEI(7.5mM) 2μl 3μl 4μl
DMEM 12μl 10.5μl 9μl
(3)NP10
Jet−PEI(7.5mM) 4μl 6μl 8μl
DMEM 10μl 7.5μl 5μl
(4)NP15
Jet−PEI(7.5mM) 6μl 9μl 12μl
DMEM 8μl 4.5μl 1μl。
【0126】
(結果)
固定後の結果を図2に示す。より具体的には、図2は、NP3、NP5およびNP10のそれぞれの徐放の様子を示すグラフである。
【0127】
図からも明らかなように、どの処方を用いても、徐放されることが明らかになった。
【0128】
上記NP3、NP5、NP10を用いた結果を比較すると、いずれの場合でも、徐放効果およびトランスフェクション活性はほぼ同じであることが明らかになった。従って、塩とトランスフェクション試薬(すなわち複合体)との量比は、本発明の効果に影響しないことがわかった。
【0129】
(実施例4:アレイを用いた応用)
次に、上述の効果がアレイを用いた場合でも実証されるかどうかを確認するために規模を拡大して実験を行った。
【0130】
(実験プロトコル)
(細胞供給源、培養培地、および培養条件)
この実施例では、5種類の異なる細胞株を使用した:ヒト間葉系幹細胞(hMSC、PT−2501、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)、ヒト胚性腎細胞HEK293(RCB1637、RIKEN Cell Bank,日本)、NIH3T3−3(RCB0150、RIKEN Cell Bank,日本)、HeLa(RCB0007、RIKEN Cell Bank,日本)、およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,日本)。ヒトMSC細胞の場合、この細胞を、市販のヒト間葉細胞基底培地(MSCGM BulletKit PT−3001,Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)中で維持した。HEK293細胞、NIH3T3−3細胞、HeLa細胞およびHepG2細胞の場合、これらの細胞を、10% ウシ胎仔血清(FBS、29−167−54、Lot No.2025F、Dainippon Pharmaceutical CO.,LTD.,日本)を有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを有する高グルコース(4.5g/L);14246−25、Nakalai Tesque,日本)中で維持した。全ての細胞株を、37℃、5% CO2に制御されたインキュベーター中で培養した。hMSCを含む実験において、本発明者らは、表現型の変化を回避するために、5継代未満のhMSCを使用した。
【0131】
(プラスミドおよびトランスフェクション試薬)
トランスフェクションの効率を評価するために、pEGFP−N1ベクターおよびpDsRed2−N1ベクター(カタログ番号6085−1、6973−1、BD Biosciences Clontech,CA)を使用した。共に遺伝子発現は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下であった。トランスフェクトされた細胞は、それぞれ、連続的にEGFPまたはDsRed2を発現した。プラスミドDNAを、Escherichia coli、XL1−blue株(200249,Stratagene,TX)を使用して増幅し、そしてEndoFree Plasmid Kit(EndoFree Plasmid Maxi Kit 12362、QIAGEN、CA)によって精製した。全ての場合において、プラスミドDNAを、DNaseおよびRNaseを含まない水に溶解した。トランスフェクション試薬は以下のものを使用した:Effectene Transfection Reagent(カタログ番号301425、Qiagen、CA)、TransFastTM Transfection Reagent(E2431、Promega、WI)、TfxTM−20 Reagent(E2391、Promega、WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305、Qiagen、CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105、Qiagen、CA)、LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019、Invitrogen corporation、CA)、JetPEI(×4)conc.(101−30、Polyplus−transfection、France)、およびExGen 500(R0511、Fermentas Inc.,MD)。
【0132】
(固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)の生成)
「リバーストランスフェクション」についてのプロトコルの詳細は、ウェブサイト http://staffa.wi.mit.edu/sabatini_public/reverse_transfection.htm の「Reverse Transfection Homepage」に記載されていた。本発明者らの固相系トランスフェクション(SPTA方法)において、疎水性フッ素樹脂コーティングによって分離した48平方パターン(3mm×3mm)を有する3つの型のスライドガラス(シラン処理したスライドガラス;APSスライド、およびポリ−L−リジンでコーティングしたスライドガラス;PLLスライド、およびMASでコーティングしたスライド;Matsunami Glass,日本)を研究した。
【0133】
(プラスミドDNAプリンティング溶液の調製)
SPTAを生成するための2つの異なる方法を開発した。その主な違いは、プラスミドDNAプリンティング溶液の調製にある。
【0134】
(方法A)
Effectene Transfection Reagentを使用する場合、プリンティング溶液は、プラスミドDNAおよび細胞接着分子(4mg/mLの濃度で超純水に溶解したウシ血漿フィブロネクチン(カタログ番号16042−41、Nakalai Tesque、日本))を含んだ。上記の溶液を、インクジェットプリンター(synQUADTM、Cartesian Technologies,Inc.,CA)を用いてか、または手動で0.5〜10μLチップを用いて、スライドの表面に適用した。このプリントしたスライドガラスを安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。トランスフェクションの前に、総Effectene試薬を、DNAプリントしたスライドガラス上に静かに注ぎ、そして室温にて15分間インキュベートした。過剰のEffectene溶液を、吸引アスピレーターを用いてスライドガラスから除去し、そして安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。得られたDNAプリントしたスライドガラスを、100mm培養ディッシュの底に置き、そして約25mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を、このディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。
【0135】
(方法B)
他のトランスフェクション試薬(TransFastTM、TfxTM−20、SuperFect、PolyFect、LipofectAMINE 2000、JetPEI(×4)conc.またはExGen)の場合、プラスミドDNA、フィブロネクチン、およびトランスフェクション試薬を、製造業業者が配布する指示書に示される比率に従って1.5mLのマイクロチューブ中で均一に混合し、そしてチップ上にプリンティングする前に室温にて15分間インキュベートした。プリンティング溶液を、インクジェットプリンターまたは0.5〜10μLチップを用いてスライドガラスの表面上に適用した。このプリントしたスライドガラスを、安全キャビネットの内側で室温にて10分間かけて完全に乾燥させた。プリントしたスライドガラスを100mm培養ディッシュの底に置き、そして約3mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を添加し、安全キャビネットの内側で室温にて15分間にわたってインキュベートした。インキュベーション後、新鮮な培地をこのディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。インキュベーション後、本発明者らは、蛍光顕微鏡(IX−71、Olympus PROMARKETING,INC.,日本)を用いて、増強された蛍光タンパク質(EFP、EGFP、およびDsRed2)の発現に基づいてトランスフェクト体を観察した。位相差画像を同じ顕微鏡を用いて撮った。両プロトコルにおいて、細胞をパラホルムアルデヒド(PFA)固定方法(PBS中の4% PFA、処理時間は、室温にて10分間)を用いることによって固定した。
【0136】
(レーザー走査および蛍光強度定量)
トランスフェクション効率を定量するために、本発明者らは、DNAマイクロアレイスキャナ(GeneTAC UC4×4、Genomic Solutions Inc.,MI)を使用した。総蛍光強度(任意の単位)を測定した後、表面積あたりの蛍光強度を計算した。
【0137】
(結果)
(ヒト間葉系幹細胞の固相系トランスフェクションアレイ)
多様な種類の細胞に分化するヒト間葉系幹細胞(hMSC)の能力は、組織再生および組織復活を標的化する研究にとって特に興味深いものになっている。特に、これらの細胞の形質転換体についての解析は、hMSCの多能性を制御する因子を解明する上で、関心が高まっている。従来のhMSCの研究における重大な障害は、所望の遺伝物質を用いたトランスフェクションが不可能(または、非常に困難)な点にある。
【0138】
これを達成するための従来の方法は、ウイルスベクターまたはエレクトロポレーションのいずれかの技術を含む。本発明者らが開発した複合体−塩という系を用いることにより、種々の細胞株(hMSCを含む)に対して高いトランスフェクション効率ならびに密集したアレイ中での空間的な局在の獲得を可能にする固相系トランスフェクションが達成された。固相系トランスフェクションの概略を、図3Aに示す。
【0139】
固相系トランスフェクションにより、インビボ遺伝子送達のために使用され得る「トランスフェクションパッチ」の技術的な達成ならびにhMSCにおける高スループットの遺伝子機能研究のための固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)が可能になることが判明した。
【0140】
哺乳動物細胞をトランスフェクトするための多数の標準的な方法が存在するが、遺伝物質のhMSCへの導入については、HEK293、HeLaなどの細胞株と比較して不便かつ非常に困難であることが知られている。従来使用されるウイルスベクター送達またはエレクトロポレーションのいずれも重要であるが、潜在的な毒性(ウイルス技術)、ゲノムスケールでの高スループット分析を受けにくいこと、およびインビボ研究に対して制限された適用性(エレクトロポレーションに関して)のような不便さが存在する。
【0141】
本発明者らにより、固相支持体に簡便に固定することができ、かつ徐放性および細胞親和性を保持した固相支持体固定系が開発されたことにより、これらの欠点のほとんど克服することができた。
【0142】
上述の実験の結果の一例を、図3Bに示す。マイクロプリンティング技術を使用する本発明者らの技術を用いて、選択された遺伝物質、トランスフェクション試薬および適切な細胞接着分子、ならびに塩を含む混合物を、固体支持体上に固定化し得た。混合物を固定化した支持体の上での細胞培養は、その培養細胞に対する、混合物中の遺伝子の取り込みを可能にした。その結果、支持体−接着細胞における、空間的に分離したDNAの取り込みを可能にした(図3B)。
【0143】
本実施例の結果、いくつかの重要な効果が達成された:高いトランスフェクション効率(その結果、統計学的に有意な細胞集団が研究され得る)、異なるDNA分子を支持する領域間の低い相互夾雑(その結果、個々の遺伝子の効果が、別々に研究され得る)、トランスフェクト細胞の長期生存、高スループットの互換性のある形式および簡便な検出方法。これらの基準を全て満たすSPTAの開発は、さらなる研究のための適切な基盤となる。
【0144】
これらの目的の達成を確立するために、上述のように本発明者らは、5種類の異なる細胞株(HEK293、HeLa、NIH3T3、HepG2およびhMSC)を、本発明者らの方法論(固相系でのトランスフェクション)(図3Aを参照のこと)および従来の液相系トランスフェクションの両方を用いて一連のトランスフェクション条件下で研究した。SPTAの場合、相互夾雑を評価するために、本発明者らは、チェック模様のパターンでガラス支持体上にプリントした赤色蛍光タンパク質(RFP)および緑色蛍光タンパク質(GFP)を使用し、一方、従来の液相系トランスフェクションを含む実験の場合(ここで、本来、トランスフェクト細胞の自発的な空間的分離は達成され得ない)、本発明者らは、GFPを使用した。いくつかのトランスフェクション試薬を評価した:4つの液体トランスフェクション試薬(Effectene、TransFastTM、TfxTM−20、LopofectAMINE 2000)、2つのポリアミン(SuperFect、PolyFect)、ならびに2つの型のポリイミン(JetPEI(×4)およびExGen 500)。
【0145】
トランスフェクション効率:トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定した(図4A)。使用した細胞株に従って、最適な液相の結果を、異なるトランスフェクション試薬を用いて得た(図4C〜Dを参照のこと)。次いで、これらの効率的なトランスフェクション試薬を、固相系プロトコルの最適化に使用した。いくつかの傾向が観察された:容易にトランスフェクト可能な細胞株(例えば、HEK293、HeLa、NIH3T3)の場合、固相系プロトコルで観察されたトランスフェクション効率は、標準的な液相系プロトコルと比較してわずかに優れていたが、本質的に類似したレベルで達成されている(図4B
)。
【0146】
しかし、細胞をトランスフェクトするのが困難な場合(例えば、hMSCおよびHepG2)においてSPTA方法論に最適化した条件を用いることによって、本発明者らは、細胞の特徴を維持しながら、トランスフェクション効率が40倍まで増加したことを観察した(上述のプロトコルおよび図4C〜Dを参照のこと)。結果を、図4Bに示す。
【0147】
hMSCの場合(図5Aおよび図5B)、最良条件は、ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション試薬の使用を含んだ。予想したように、高いトランスフェクション効率を実現するための重要な因子は、ポリマー内の窒素原子(N)の数とプラスミドDNA内のリン酸残基(P)の数との間の電荷バランス(N/P比率)、ならびにDNA濃度である。一般的に、N/P比率および濃度における増大は、トランスフェクション効率の増大を生じる。並行して、本発明者らは、hMSCの溶液トランスフェクション実験における高いDNAおよび高いN/P比率の場合に、細胞生存率の有意な低下を観察した。これら2つの拮抗因子に起因して、hMSCの液相系トランスフェクションは、相対的に低い細胞生存率(N/P比率>10で観察された)であった。しかし、SPTAプロトコルは、細胞生存率にも細胞形態にも有意に影響を与えることなく、非常に高い(固体支持体に固定された)N/P比率およびDNA濃度を許容し(おそらく、細胞膜に対する固体支持体の安定化効果に起因する)、従って、このことがおそらく、トランスフェクション効率の劇的な改善の原因となっている。SPTAの場合、10のN/P比率が最適であることが見出され、細胞毒性を最小化しながら十分なトランスフェクションレベルを提供する。SPTAプロトコルにおいて観察されたトランスフェクション効率の増大に関するさらなる理由は、高い局所的なDNA濃度/トランスフェクション試薬濃度(これは、液相系トランスフェクション実験において使用される場合は細胞死を生成する)の達成である。
【0148】
チップ上での高いトランスフェクション効率の達成のための重要な点は、使用されるコーティングに使用する物質の種類である。ガラスチップを使用した際のコーティング剤として、PLLがトランスフェクション効率および相互夾雑の両方に関して、最良の結果を提供することを発見した(下記に考察する)。フィブロネクチンコーティングしない場合、少数のトランスフェクト体を観察した(他のすべての実験条件は一定に保った)。完全に確立したわけではないが、フィブロネクチンの役割はおそらく、細胞接着プロセスを加速し(データは示していない)、ゆえに、表面を離れたDNA拡散が可能になる時間を制限するということである。
【0149】
低い相互夾雑:SPTAプロトコルで観察されたより高いトランスフェクション効率は別として、本技術の重要な利点は、別個に分離された細胞アレイの実現であり、その各位置では、選択した遺伝子が発現する。本発明者らは、フィブロネクチンでコーティングしたガラス表面上に、JetPEI(「実験プロトコル」を参照のこと)およびフィブロネクチンと混合した2つの異なるレポーター遺伝子(RFPおよびGFP)をプリントした。得られたトランスフェクションチップを適切な細胞培養に供した。最良であると見出された実験条件下において、発現されたGFPおよびRFPは、それぞれのcDNAがスポットされた領域に局在した。相互夾雑はほとんど観察されなかった(図6A〜図6D)。しかし、フィブロネクチンまたはPLLの非存在下において、相互夾雑は重大な障害であり、そしてトランスフェクション効率は、有意に低かった(図7)。このことは、細胞接着および支持体表面から離れて拡散するプラスミドDNAの相対的な割合が、高いトランスフェクション効率および高い相互夾雑の両方に対して重要な因子であるという仮説を立証する。
【0150】
相互夾雑のさらなる原因は、固体支持体上のトランスフェクション細胞の移動性であり得る。本発明者らは、数個の支持体上での細胞接着速度(図6C)およびプラスミドDNAの拡散速度の両方を測定した。その結果は、最適条件下においてDNA拡散はほとんど生じなかった。しかし、高い相互夾雑条件下では、細胞接着が完了するまでの時間に、相当の量のプラスミドDNAが固相表面から拡散して枯渇した。
【0151】
この確立された技術は、経済的な高スループットの遺伝子機能スクリーニングの状況において特に重要である。実際に、必要とされる少量のトランスフェクション試薬およびDNA、ならびに全プロセス(プラスミドの単離から検出まで)を自動化する可能性は、上記の方法の有用性を増大する。
【0152】
結論として、本発明者らは、複合体−塩を用いた系で、hMSCトランスフェクションアレイを好首尾に実現した。このことは、多能性幹細胞の分化を制御する遺伝子機構の解明など、固相系トランスフェクションを利用した種々の研究における高スループット研究を可能にすることになる。固相系トランスフェクションの詳細な機構ならびに高スループットのリアルタイム遺伝子発現モニタリングに対するこの技術の使用に関する方法論は種々の目的に応用可能であることが明らかになった。
【0153】
(実施例5:RNAiトランスフェクションマイクロアレイ)
上記実施例に記載のようにアレイを作製し、今度は、遺伝物質として、プラスミドDNA(pDNA)とshRNAの混合物を使用した。その組成を以下の表1に示す。
【0154】
【表1】
【0155】
結果を図8に示す。この図の結果を数値化したデータを、5種類の細胞について、図9A〜図9Eにまとめた。
【0156】
このように、どのような細胞を用いたとしても、本発明の技術が適用可能であることが判明した。
【0157】
(実施例6:RNAiマイクロアレイ=siRNAを用いた場合)
上記実施例と同様のプロトコルを用いて、今度はshRNAの代わりにsiRNAを用いて、RNAiトランスフェクションマイクロアレイを構築した。
【0158】
以下の表の18種類の転写因子レポーターおよびActinプロモータベクターを用いて、各転写因子に対して28種類のsiRNAを合成した。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用いて、siRNAが標的転写因子をノックアウトするか評価した。また、ネガティブコントロールとしては、scramble RNAを用いて、これらの比を取って評価した。
【0159】
【表2】
【0160】
各細胞を固相系トランスフェクション後、2日間培養し、蛍光イメージスキャナにて画像取得後、蛍光量を定量化した。
【0161】
(結果)
結果を図10に示す。この結果を遺伝子ごとにまとめたものを図11A〜図11Dに示す。
【0162】
図10および図11A〜図11Dから明らかなように、RNAiを用いた場合、各遺伝子は特異的に発現が抑制されていることが示された。RNAiを用いた複数の遺伝物質のアレイを実現することができ、RNAiであっても、塩の固定効果およびそれによる遺伝子導入の増強効果が確認された。
【0163】
(実施例7:PCR断片を用いたトランスフェクションアレイ)
次に、PCR断片を遺伝物質として用いた場合でも、本発明が実現可能であることを実証した。以下にその手順を示す。
【0164】
PCRにより、図12に記載のような核酸断片を取得し、トランスフェクションマイクロアレイに用いる遺伝物質とした。その手順を以下に示す。
【0165】
PCRプライマーとしては、
GG ATAACCGTAT TACCGCCATG CAT(配列番号1)と
ccctatctcggtctattcttttg CAAAAGAATAGACCGAGATA GGG(配列番号2)とを使用して、テンプレートとして、pEGFP−N1を用いた(図13を参照)。PCRの条件は、以下の表3に記載される。
【0166】
【表3】
サイクル条件:94℃2min→(94℃ 15sec→60℃30sec→68℃ 3min)→ 4℃(括弧内を30サイクル)
【0167】
得られたPCR フラグメントは、フェノール/クロロフォルム抽出を行い、エタノール沈殿法にて精製した。そのPCR断片の配列は、
【0168】
【表4−1】
【0169】
【表4−2】
に記載のとおりである。
【0170】
PCRフラグメントを用いて作製したチップに、MCF7を播種し、2日後に蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。その結果を図14に示す。図14では、環状DNAとPCRフラグメントとの比較を行っている。どちらの場合も、トランスフェクションがうまく行われており、PCR断片を遺伝物質として使用した場合でも、全長プラスミドと同様に細胞にトランスフェクションされ、塩の固定効果およびそれによる遺伝子導入の増強効果が確認された。
【0171】
(実施例8:支持体の種類)
次に、固相支持体として、ガラスの他に、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチックを用いた場合に、同様の塩の効果が見られることを確認する。
【0172】
これらの材料を松浪硝子などから入手する。そして、上記実施例に記載されるように、アレイを作製する。
【0173】
その結果、使用した材料において、同様の塩の効果が見られることが示される。
【0174】
(実施例9:支持体のコーティングの種類)
次に、ガラス上に、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂をそれぞれコーティングした支持体を用いて、同様の塩の効果が見られることを確認する。
【0175】
これらの材料を松浪硝子などから入手する。そして、上記実施例に記載されるように、アレイを作製する。
【0176】
その結果、使用した材料において、同様の塩の効果が見られることが示される。
【0177】
(実施例10:塩の種類)
次に、塩の種類として、単塩である塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、Tris、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミン(ここでは、ビタミンBおよびビタミンC)を用いた場合に同様の効果が見られるかどうかを確認する。
【0178】
これらの材料を和光純薬(大阪、日本)などから入手する。そして、上記実施例に記載されるように、アレイを作製する。
【0179】
その結果、使用した材料において、同様の塩の効果が見られることが示される。
【0180】
(実施例11:負に荷電した物質の種類)
次に、負に荷電した物質の種類として、DNA以外にRNA、PNA、ポリペプチドおよび糖ペプチドを用いて、上記実施例に記載されるような実験を行って同じ固定効果があるかどうかを確認する。
【0181】
固定効果があるかどうかは、目視および特異的な抗体の支持体への付着により確認することができる。
【0182】
その結果、使用した材料において、同様の塩の効果が見られることが示される。
【0183】
以上のように、本発明の特定の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明により、予想外に簡便で、生体適合性(例えば、細胞親和性)および/または徐放性を提供する物質の固相支持体への固定方法が提供された。このような効果を利用することにより、種々の生体現象、例えば、遺伝子導入、シグナル伝達、薬効などを、固相支持体を用いて発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】図1は、実施例2における代表的な結果例である。図1は、複合体化していないDNA(上)と、正に荷電した物質と複合体化させたDNA(下、NP10処理)とを対比した結果を示す。固相に対して複合体を添加した直後(0分)ならびに、添加の1分後、5分後および10分後に細胞含有液を加えた後のトランスフェクションの様子を示す。
【図2】図2は、実施例3(種々の処方)における代表的な結果例である。図2は、NP3、NP5およびNP10のそれぞれの徐放の様子を示すグラフである。
【図3A】図3Aは、実施例4における本発明の固相トランスフェクションによって、空間的に分離したDNAの細胞内への取り込みを示す図である。図3Aは、固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)作製方法を模式的に示した図である。この図は、固相トランスフェクションの方法論を示す。
【図3B】図3Bは、固相トランスフェクションの結果を示す。HEK293細胞株を用いてSPTAを作製した結果を示す。緑色の部分は、トランスフェクションされた付着細胞を示す。この結果から、本発明の方法によって、空間的に分離された、異なる遺伝子によってトランスフェクトされた細胞の集団を調製することが可能となった。
【図3C】図3Cは、従来の液相トランスフェクションとSPTAとの間の差をしめす。
【図4A】図4Aおよび図4Bは、液相トランスフェクションとSPTAの比較を示す結果である。図4Aは、実験に用いた5つの細胞株について、GFP強度/mm2を測定した結果を示す。図4Aは、トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定する方法を示す。
【図4B】図4Aおよび図4Bは、液相トランスフェクションとSPTAの比較を示す結果である。図4Bは、図4Aの示すデータに対応する、EGFPを発現する細胞の蛍光画像である。図4Bにおいて、白丸で示された領域は、プラスミドDNAを固定化した領域を示す。プラスミドDNAを固定化した領域以外の領域では、細胞が固相に固定化されたにもかかわらず、EGFPを発現する細胞は観察されなかった。白棒は、500μmを示す。
【図4C】図4Cは、固相トランスフェクション法の代表的プロトコル例を示す。
【図4D】図4Dは、固相トランスフェクション法の代表的プロトコル例を示す。
【図5】図5Aおよび5Bは、チップのコーティングによって相互夾雑が低減された結果を示す。 図5Aおよび5Bは、HEK293細胞、HeLa細胞、NIT3T3細胞(「3T3」として示す)、HepG2細胞、およびhMSCを用いて、液相トランスフェクション法およびSPTAを行った結果を示す。トランスフェクション効率を、GFP強度で示す。
【図6A】図6Aおよび6Bは、各スポット間の相互夾雑に関する様子を示す図である。APSまたはPLL(ポリ−L−リジン)でコーティングしたチップに対して、所定の濃度のフィブロネクチンを含む核酸混合物を固定化し、その固定化したチップを用いて細胞トランスフェクションした結果、相互夾雑は観察されなかった(上段および中段)。これに対して、チップをコーティングしなかった場合、固定化核酸の有意な相互夾雑が観察された(下段)。
【図6B】図6Aおよび6Bは、各スポット間の相互夾雑に関する様子を示す図である。APSまたはPLL(ポリ−L−リジン)でコーティングしたチップに対して、所定の濃度のフィブロネクチンを含む核酸混合物を固定化し、その固定化したチップを用いて細胞トランスフェクションした結果、相互夾雑は観察されなかった(上段および中段)。これに対して、チップをコーティングしなかった場合、固定化核酸の有意な相互夾雑が観察された(下段)。
【図6C】図6Cは、核酸の固定化において使用する混合物中に使用される物質の種類と、細胞接着速度との相関関係を示す。
【図6D】図6Dは、時間経過に伴う、接着細胞の割合の増加を示す。グラフの傾きが緩やかな場合は、グラフの傾き急な場合と比較して、より多くの時間が細胞接着に必要なことを示す。
【図6E】図6Eは、HEK293細胞を用いた場合の種々のアクチン作用物質およびコントロールとしてのゼラチンを用いた結果の一例を示す。図Eは、トランスフェクション効率に関する各接着物質(HEK細胞)の効果を示す。HEK細胞は、Effectene試薬を用いて、pEGFD−N1と共にトランスフェクトした。 図6Cおよび図6Dの結果と、図6Eの結果は、最適条件下においてDNA拡散がほとんど生じなかったことを示す。しかし、高い相互夾雑条件下では、細胞接着が完了するまでの時間に、相当の量のプラスミドDNAが固相表面から拡散して枯渇したことを示す。
【図7】図7は、APSコーティングも、PLLコーティングも行わない、相互夾雑を生じる条件下では、APSコーティングまたはPLLコーティングを行った場合と比較して、トランスフェクション効率が有意に低かったことを示す図である。
【図8】図8は、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を示す。固相基板上に表3に示す各レポーター遺伝子を一遺伝子あたり4スポットになるようプリントし、乾燥後、各転写因子に対してのsiRNA(28種類)を対応したレポーター遺伝子がプリントされている座標上にプリントし、乾燥させた。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用い、ネガティブコントロールとしては、scramble RNAをもちいた。その後、LipofectAMINE2000を各遺伝子プリント同一座標にプリントし乾燥させた。その後、フィブロネクチン溶液を同一座標に重ねてプリントし乾燥させた。これに、HeLa−K細胞を播種し、2日間培養を行った後に、蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。
【図9A】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図9B】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図9C】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図9D】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図9E】図9A〜9Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図10】図10は、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を示す。固相基板上に表3に示す各レポーター遺伝子発現ユニットPCR断片を一遺伝子あたり4スポットになるようプリントし、乾燥後、各転写因子に対してのsiRNA(28種類)を対応したレポーター遺伝子がプリントされている座標上にプリントし、乾燥させた。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用い、ネガティブコントロールとしては、スクランブルRNAをもちいた。その後、LipofectAMINE2000を各遺伝子プリント同一座標にプリントし乾燥させた。その後、フィブロネクチン溶液を同一座標に重ねてプリントし乾燥させた。これに、各細胞を播種し、2日間培養を行った後に、蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。
【図11A】図11A〜11Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図11B】図11A〜11Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図11C】図11A〜11Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図11D】図11A〜11Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図12】図12は、実施例7において得たPCR断片の構造を示す。
【図13】図13は、pEGFP−N1の構造を示す。
【図14】図14は、環状DNAとPCR断片とを用いたトランスフェクションマイクロアレイのトランスフェクト効率の比較を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0186】
(配列の説明)
配列番号1は、実施例7で使用したプライマー1である。
配列番号2は、実施例7で使用したプライマー2である。
配列番号3は、実施例7で作製したPCR断片である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を固相支持体に固定するための組成物であって、
a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;および
b)塩、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
前記複合体および塩は薬学的に受容可能である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
目的の物質が固定されたデバイスであって、
a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;
b)塩;および
c)該複合体および該塩が固定された固相支持体、
を含み、該目的の物質は、該正に荷電した物質および/または該負に荷電した物質である、デバイス。
【請求項12】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項15】
前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、およびその複合体からなる群より選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項17】
前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項18】
前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項19】
前記固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項20】
前記固相支持体は、コーティングによって処理される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項21】
前記コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含むコーティング剤によって行われる、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記固相支持体はチップである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項23】
前記固相支持体はチップであり、前記複合体は該チップ上にアレイ状に配列される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項24】
前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、請求項14に記載のデバイス。
【請求項25】
前記複合体、前記塩および前記固体支持体に含まれる材料は薬学的に受容可能である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項26】
物質を固相支持体に固定する方法であって、
a)固相支持体を提供する工程;
b)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体を提供する工程;
c)塩と該複合体との混合物を提供する工程;および
d)該塩と該複合体との該混合物を固相支持体に付着させる工程、
を包含する、方法。
【請求項27】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記固相支持体は、コーティングによって処理される、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
前記コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含むコーティング剤によって行われる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記固相支持体はチップである、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
前記固相支持体はチップであり、前記複合体は該チップ上にアレイ状に配列される、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
前記複合体および塩は薬学的に受容可能である、請求項26に記載の方法。
【請求項41】
前記工程b)は、生体分子を破壊しない条件下で行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項42】
前記工程c)は、生体分子を破壊しない条件下で行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項43】
前記混合物を前記固相支持体に付着した後、該混合物中の溶媒を低減または除去する工程をさらに包含する、請求項26に記載の方法。
【請求項1】
物質を固相支持体に固定するための組成物であって、
a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;および
b)塩、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
前記複合体および塩は薬学的に受容可能である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
目的の物質が固定されたデバイスであって、
a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;
b)塩;および
c)該複合体および該塩が固定された固相支持体、
を含み、該目的の物質は、該正に荷電した物質および/または該負に荷電した物質である、デバイス。
【請求項12】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項15】
前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、およびその複合体からなる群より選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項17】
前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項18】
前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項19】
前記固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項20】
前記固相支持体は、コーティングによって処理される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項21】
前記コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含むコーティング剤によって行われる、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記固相支持体はチップである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項23】
前記固相支持体はチップであり、前記複合体は該チップ上にアレイ状に配列される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項24】
前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、請求項14に記載のデバイス。
【請求項25】
前記複合体、前記塩および前記固体支持体に含まれる材料は薬学的に受容可能である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項26】
物質を固相支持体に固定する方法であって、
a)固相支持体を提供する工程;
b)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体を提供する工程;
c)塩と該複合体との混合物を提供する工程;および
d)該塩と該複合体との該混合物を固相支持体に付着させる工程、
を包含する、方法。
【請求項27】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の両方が、細胞親和性を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記正に荷電した物質および前記負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記生体分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子、およびこれらの複合体からなる群より選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド、化学化合物、及びその複合体からなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記正に荷電した物質は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、カチオン性ポリアミノ酸及びその複合体からなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記塩は、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸およびビタミンからなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記固相支持体は、コーティングによって処理される、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
前記コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含むコーティング剤によって行われる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記固相支持体はチップである、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
前記固相支持体はチップであり、前記複合体は該チップ上にアレイ状に配列される、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
前記生体分子は、細胞に導入されて生物学的活性を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
前記複合体および塩は薬学的に受容可能である、請求項26に記載の方法。
【請求項41】
前記工程b)は、生体分子を破壊しない条件下で行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項42】
前記工程c)は、生体分子を破壊しない条件下で行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項43】
前記混合物を前記固相支持体に付着した後、該混合物中の溶媒を低減または除去する工程をさらに包含する、請求項26に記載の方法。
【図2】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図1】
【図3A】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【図14】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図1】
【図3A】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【図14】
【公表番号】特表2006−519025(P2006−519025A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507659(P2006−507659)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002692
【国際公開番号】WO2004/079331
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002692
【国際公開番号】WO2004/079331
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]