説明

物質精製法及び物質精製装置

【課題】高い精製効率が得られるとともに、冷却体との密着性も良く、冷却体の回転に起因する遠心力による剥離を抑制でき、精製物質の回収量の多い物質精製法及び精製装置を提供する。
【解決手段】溶融物質中に冷却体を浸漬し、その冷却体の表面に前記物質の結晶を晶出、成長させる精製法である。冷却体の周速が700mm/s以上8000mm/s未満となるように冷却体を回転させながら溶融物質中に浸漬させていき、且つ溶融物質に浸漬するときの冷却体の温度を、前記物質の固相線温度×0.7以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は金属等の物質の精製法及び装置に関し、更に詳しく言えば、偏析凝固法の原理を利用して、共晶不純物を含む物質から、共晶不純物の含有量を元の物質よりも少なくし、高純度の物質を精製する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム中に不純物、特にアルミニウムと共晶を生成するFe、Si、Cu等の不純物が含まれている場合、これらの不純物を除去して高純度のアルミニウムを得るためには、このアルミニウムを溶融し、これを冷却して凝固させる際の初晶アルミニウムを選択的に取り出すことが効果的であるという原理は周知である。
【0003】
従来から上記原理を利用した種々のアルミニウムの精製法が提案されている。例えば、特許文献1には、冷却体の外周部と溶融アルミニウムとの相対速度が1600mm/s〜8000mm/sとなるように冷却体を回転させることによって、凝固界面近傍の不純物の濃縮層を薄くし、精製アルミニウムの純度を高くすることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、冷却体を中心に冷却体の周囲で溶融アルミニウムに働く遠心加速度が0.01m/s2以上1500m/s2以下になるよう溶融アルミニウムを回転させ、且つガス気泡を溶融アルミニウム中に導入し、ガス気泡を溶融アルミニウムに働く遠心力の反作用の力によって、凝固界面に移動させ、浮上しながら該凝固界面及びその近傍を擦過することにより、凝固界面に生じる不純物濃化層を効率よく除去できる手段が提案されている。
【特許文献1】特公昭61−3385号公報
【特許文献2】特許第3674322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来の技術においては、得られるアルミニウムの不純物を十分に除去できておらず、また生産性および操業上の不具合があった。
【0006】
即ち、特許文献1及び特許文献2に記載の技術においては、冷却体を溶融アルミニウム中に浸漬する際にその冷却体の温度がアルミニウムの融点よりも低いと、冷却体を回転させる前に冷却体の外周表面にアルミニウムが晶出しはじめる。その後アルミニウムを凝固成長させても、冷却体の外周表面に近い部分に晶出した結晶は不純物濃度が高く、この部分が晶出したアルミニウム全体の不純物濃度を高める要因になるため、十分な精製効率が得られないという問題があった。
【0007】
また、上記のように冷却体周面の温度が低い冷却体を精製すべき溶融アルミニウム中に浸漬すると、冷却体近傍では凝固速度が大きくなる。このような凝固速度が大きい状態で晶出したアルミニウムは冷却体との密着性が悪く、回転による遠心力によって、非常に剥離しやすく、一定時間の精製後に剥離すると精製アルミニウムの回収量が少なくなったり、塊の剥離時及び塊の変形により溶湯の飛び、跳ねが起こりやすく、作業性に問題があった。
【0008】
このような問題は、アルミニウムだけでなく、偏析凝固法の原理を利用して精製を行うことのできる他の金属や、金属以外の物質においても、同様に生じるものであった。
【0009】
この発明は、このような背景に鑑みてなされたものであって、高い精製効率が得られるとともに、冷却体との密着性も良く、冷却体の回転に起因する遠心力による剥離を抑制でき、精製物質の回収量の多い物質精製法及び精製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0011】
(1)溶融物質中に冷却体を浸漬し、その冷却体の表面に前記物質の結晶を晶出、成長させる精製法において、前記冷却体の周速が700mm/s以上8000mm/s未満となるように冷却体を回転させながら溶融物質中に浸漬させていき、且つ溶融物質に浸漬するときの冷却体の温度を、前記物質の固相線温度×0.7以上とすることを特徴とする物質精製法。
【0012】
(2)冷却体の周速を1500mm/s以上6000mm/s未満とする前項1に記載の物質精製法。
【0013】
(3)前記冷却体の表面に前記物質の結晶を晶出、成長させた後に冷却体を溶融物質から引き上げるときに、冷却体に晶出した結晶部分の溶融物質との界面における周速が700mm/s以上、8000mm/s未満となるように冷却体を回転させながら引き上げを行う前項1または2に記載の物質精製法。
【0014】
(4)冷却体に晶出した結晶部分の溶融物質との界面における周速が1500mm/s以上、7000mm/s未満となるように冷却体を回転させる前項3に記載の物質精製法。
【0015】
(5)溶融物質に浸漬するときの冷却体の温度を、前記物質の固相線温度×0.8以上とする前項1〜4の何れかに記載の物質精製法。
【0016】
(6)溶融物質に浸漬するときの冷却体の温度を、前記物質の固相線温度×0.9以上とするとする前項1〜4の何れかに記載の物質精製法。
【0017】
(7)冷却体浸漬後の精製初期の冷却体の最大周速がその後の平均周速より高速である前項1〜6の何れかに記載の物質精製法。
【0018】
(8)冷却体浸漬後の精製初期の冷却体の最大周速がその後の平均周速×1.1以上である前項7に記載の物質精製法。
【0019】
(9)精製初期とは精製開始から全精製時間×0.1まで(但し、10秒以上120秒以下)である前項7または8に記載の物質精製法。
【0020】
(10)前記物質が金属である前項1〜9のいずれかに記載の物質精製法。
【0021】
(11)前記金属がアルミニウムである前項10に記載の物質精製法。
【0022】
(12)精製すべき物質を溶融状態で収容する炉体と、前記炉体に収容された溶融物質中に浸漬される回転可能な冷却体とを備えた精製装置において、前記冷却体の周速が700mm/s以上8000mm/s未満に設定され、かつ冷却体の温度が前記物質の固相線温度×0.7以上に設定された状態で、冷却体が前記溶融物質中に浸漬されるものとなされていることを特徴とする物質精製装置。
【0023】
(13)冷却体の温度が前記物質の固相線温度×0.8以上に設定される前項12に記載の物質精製装置。
【0024】
(14)冷却体の温度が前記物質の固相線温度×0.9以上に設定される前項12に記載の物質精製装置。
【0025】
(15)精製初期の冷却体の最大周速がそれ以降の平均周速よりも大きくなるように、冷却体の回転速度を制御する制御手段を備えている前項12に記載の物質精製装置。
【0026】
(16)前記制御手段は、精製初期の冷却体の最大周速がそれ以降の平均周速×1.1以上となるように冷却体の回転速度を制御する前項15に記載の物質精製装置。
【0027】
(17)前記精製初期が、精製開始から全精製時間×0.1までである前項15または16に記載の物質精製装置。
【発明の効果】
【0028】
前項(1)に記載の発明によれば、溶融物質の固相線温度×0.7以上の温度の冷却体を周速700mm/s以上で回転させながら、溶融物質中に浸漬させていくから、精製初期の段階から冷却体との密着性の良い高純度の結晶を晶出させることができ、冷却体との剥離を防止し得て精製物質の回収量を多くすることができる。しかも、冷却体を周速8000mm/s未満とするから、溶融物質の飛び散り等の操業上の問題が発生するのを防止することができる。
【0029】
前項(2)に記載の発明によれば、さらに高純度の精製物質を溶融物質の飛び散り等をさらに抑制しながら得ることができる。
【0030】
前項(3)に記載の発明によれば、晶出した結晶部分の表面にさらに不純物濃度の高い溶融物質が付着して精製効率が悪化するのを防止できる。
【0031】
前項(4)に記載の発明によれば、晶出した結晶部分の表面にさらに不純物濃度の高い溶融物質が付着するのをさらに抑制できる。
【0032】
前項(5)に記載の発明によれば、溶融物質の凝固速度をさらに小さくでき、冷却体との密着性をさらに高くでき、剥離を防止して精製物質の回収量をさらに増大できる。
【0033】
前項(6)に記載の発明によれば、溶融物質の凝固速度をより一層小さくでき、冷却体との密着性をさらに高くでき、剥離を防止して精製物質の回収量をさらに増大できる。
【0034】
前項(7)に記載の発明によれば、精製初期の冷却体の最大周速をそれ以降の平均周速よりも大きく設定して精製を行うから、冷却体を精製すべき溶融物質中に浸漬した際の精製初期に、たとえ凝固速度が大きく密着性の良くない晶出物が精製されても、これを回転冷却体から積極的に剥離させ、溶融物質中に再溶解させることができる。こうして、冷却体との密着性の良くない晶出物はごく初期に除去されるので、凝固速度が大きな状態で晶出した物質がある程度成長した後に冷却体から剥離する事態を回避でき、積極剥離後の精製物質を剥離することなく成長させることができ、精製物質の回収量を大きくすることができる。
【0035】
前項(8)に記載の発明によれば、凝固速度が大きく冷却体との密着性が悪い晶出物の初期の積極的剥離効果を有効に発揮させることができる。
【0036】
前項(9)に記載の発明によれば、精製効率の安定的な向上を期待できる。
【0037】
前項(10)に記載の発明によれば、精製初期の段階から冷却体との密着性の良い高純度の金属結晶を晶出させることができ、冷却体との剥離を防止し得て精製金属の回収量を多くすることができる。
【0038】
前項(11)に記載の発明によれば、冷却体との密着性の良い高純度のアルミニウムを晶出させることができ、冷却体との剥離を防止し得て精製アルミニウムの回収量を多くすることができる。
【0039】
前項(12)に記載の発明によれば、精製初期の段階から冷却体との密着性の良い高純度の結晶を晶出させることができ、冷却体との剥離を防止し得て精製物質の回収量を多くすることができる精製装置となしうる。
【0040】
前項(13)に記載の発明によれば、溶融物質の凝固速度をさらに小さくでき、冷却体との密着性をさらに高くでき、剥離を防止して精製物質の回収量をさらに増大できる精製装置となしうる。
【0041】
前項(14)に記載の発明によれば、溶融物質の凝固速度をより一層小さくでき、冷却体との密着性をさらに高くでき、剥離を防止して精製物質の回収量をさらに増大できる精製装置となしうる。
【0042】
前項(15)に記載の発明によれば、精製初期の冷却体の最大周速をそれ以降の平均周速よりも大きく設定して精製を行うから、凝固速度が大きく冷却体との密着性の悪い晶出物質を精製初期に積極的に剥離させることができる精製装置となしうる。
【0043】
前項(16)に記載の発明によれば、凝固速度が大きく冷却体との密着性が悪い晶出物の初期の積極的剥離効果を有効に発揮させることができる精製装置となしうる。
【0044】
前項(17)に記載の発明によれば、精製効率の安定的な向上を期待できる精製装置となしうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、この発明の一実施形態を説明する。
【0046】
図1はこの発明の一実施形態に係るアルミニウム精製装置の概略構成と、これを用いた精製方法を説明するための図である。
【0047】
図1において、1は溶湯保持炉であり、この溶湯保持炉1の内部に溶融アルミニウム(溶湯ともいう)2が収容保持されている。保持炉1の上方には回転冷却体3が、図示しない回転駆動装置及び移動装置により回転可能にかつ上下左右移動自在に配置されるとともに、アルミニウムの精製時には冷却体3を回転させながら下方移動させ、冷却体3を溶湯保持炉1内の溶融アルミニウム2中に浸漬させるものとなされている。なお、冷却体3を下方移動させるのではなく、溶湯保持炉1を上方移動させて、冷却体3を溶融アルミニウム2中に浸漬させても良い。
【0048】
また、冷却体3の内部には冷却流体が供給され、アルミニウム精製中に冷却体を内部から冷却するものとなされている。
【0049】
また、図1(c)に示すように、溶湯保持炉1と平行する配置で、精製金属掻き落とし装置4が設置されている。
【0050】
また、図示は省略したが、溶湯保持炉1内の溶融金属2は、一定の温度となるよう加熱炉内に配置され、保持炉1の外側から加熱されるようになっている。
図1(a)に示すように、前記回転冷却体3を回転させながら溶湯保持炉1内の溶融金属2に浸漬し、内部に冷却流体を供給しつつ冷却体の回転を持続すると、図1(b)に示すように、冷却体1の周面にアルミニウムの結晶つまり精製アルミニウム5がゆっくり晶出する。
【0051】
回転冷却体3を保持炉1内の溶融アルミニウム2中に浸漬する際、上述したように冷却体3を回転させながら溶融アルミニウム中に浸漬すると、冷却体3が溶融アルミニウム2と接触しているときは必ず冷却体の外周表面と溶融アルミニウムが相対的な運動をすることになるので、冷却体3の外周表面に十分に精製されたアルミニウムが晶出する。
この場合、冷却体3を溶融アルミニウム2中に浸漬するときの冷却体3の外周表面の周速が、700mm/s以上、8000mm/s未満の範囲である必要があり、より好ましくは1500mm/s以上、6000mm/s未満の範囲である。ここでいう周速とは冷却体3の外周表面の移動速度そのものをいい、溶融アルミニウム2の移動速度とは無関係な値である。
【0052】
また、ここでは、冷却体3の下端が溶湯に触れてから最大深さまで冷却体3を浸漬するまでの時間を「浸漬するとき」とする。つまり、冷却体3の下端が溶湯2に触れてから規定の深さまで冷却体3が浸漬されるまでの間、冷却体3の外周表面の周速を、700mm/s以上、8000mm/s未満に保持する必要がある。周速が700mm/s未満の場合には冷却体3の外周表面の近傍で晶出するアルミニウム中の不純物濃度が高く、結果的に、晶出したアルミニウム中の不純物濃度が高くなる。高純度塊を得るためには冷却体3の外周表面の周速はできるだけ速い方が好ましいが、8000mm/s以上では周速が速すぎて、冷却体3の浸漬時に溶湯の湯面が飛び散り、操業上の問題を発生する。
【0053】
また、冷却体3の形状は特に限定されることはなく、外径が一定の円柱形に形成されていても良いし、下端に到るに従って外径が連続的に縮小した逆円錐台形状(テーパー形状)に形成されていても良いし、他の形状であっても良いが、冷却体3の溶湯に浸漬される全ての部分において、外周表面の周速を700mm/s以上、8000mm/s未満に保持する必要がある。
【0054】
また、冷却体3を浸漬するときには、冷却体3の温度をアルミニウムの固相線温度×0.7以上である470℃以上にしておく。必要ならヒーター等の加熱装置により加熱すればよい。冷却体3の温度がアルミニウムの固相線温度×0.7未満では、溶融アルミニウムの凝固速度が大きくなりすぎて、冷却体3との密着性が悪く、回転による遠心力によって非常に剥離しやすく、精製金属回収量が減る。溶融アルミニウムに浸漬するときの冷却体3の好ましい温度は、固相線温度×0.8以上であり、さらに好ましくは固相線温度×0.9以上である。
【0055】
溶湯2に浸漬された回転冷却体3の回転によって、冷却体3の外周表面にはアルミニウムが晶出する。所定量のアルミニウムの晶出後、冷却体3の回転を停止させた状態で溶融アルミニウム中から冷却体3を引き上げると、次のような不具合が発生する恐れがある。
即ち、冷却体3に晶出したアルミニウムと溶湯との界面における相対運動が停止してしまうため、冷却体3の冷却のための冷却媒体の供給を停止したとしても、停止前までに晶出した精製アルミニウム5の表面に、冷却体3の回転停止後引き上げが完了するまでに、不純物濃度の高いアルミニウムが晶出してしまう上、この晶出したアルミニウムの表面にさらに不純物濃度の高い溶融アルミニウムが付着したりするため、精製効率が悪化する恐れがある。
【0056】
そこで、この実施形態では、冷却体3を回転させながら溶融アルミニウム2から引き上げることで、晶出した精製アルミニウム5の表面と溶融アルミニウムとの界面の相対運動が常に行なわれる状態を保つことが望ましい。これにより、晶出した精製アルミニウム5中の不純物濃度を低くすることができるし、精製アルミニウム2の表面に溶融アルミニウムが付着しにくくなり、精製アルミニウム5の全体の不純物濃度が高くなることを防止することができる。
【0057】
この観点からすれば、冷却体3を溶融アルミニウム2から引き上げるときの冷却体3の周速はできるだけ速い方が好ましい。具体的には、冷却体3に付着(晶出)した精製アルミニウム5の溶融アルミニウム2との界面における周速を700mm/s以上に設定するのがよい。周速が700mm/s未満の場合には、精製アルミニウム5の表面に不純物濃度の高いアルミニウムが晶出してしまい、結果的に精製アルミニウム全体の不純物濃度が高くなる恐れがある。より好ましくは1500mm/s以上に設定するのがよい。
【0058】
一方、冷却体3を引き上げるときの冷却体3に付着(晶出)した精製アルミニウム5の溶融アルミニウム2との界面における周速が8000mm/s以上では、遠心力が大きすぎるため、精製アルミニウム5の表面に付着した溶融アルミニウム2が液面の上方で飛び散る恐れがある。好ましくは、7000mm/s未満に設定するのがよい。
【0059】
なお、ここでは、冷却体3に晶出している精製アルミニウム5の最上部が溶湯2より引き上げられてから精製アルミニウム5の最下端が溶湯2から離れるまでを「引き上げるとき」とする。つまり、精製アルミニウム5の最上部が溶湯2より引き上げられてから精製アルミニウム5の最下端が溶湯から離れるまで、精製アルミニウム6の溶湯2との界面における周速を700mm/s以上、8000mm/s未満に保持するのが望ましい。
【0060】
さらに、この実施形態では、精製初期には冷却体3の周速を意図的に大きくして遠心力を増大させることで、精製初期の短時間の間に、回転冷却体との密着の弱い塊を積極的に剥離させるのがよい。つまり、冷却体3の浸漬直後からの精製初期の間、冷却体3の最大周速を、精製初期経過後の冷却体3の平均周速よりも大きく設定して精製を行うのが良い。具体的には、精製初期の冷却体の最大周速を、精製初期経過後の冷却体3の平均周速の1.1倍以上に設定するのが好ましい。1.1倍を下回ると、十分な遠心力が得られずに、冷却体3との密着性の弱い精製アルミニウムを十分に剥離させることができない恐れがある。
【0061】
精製初期とは精製開始から全精製時間の0.1倍までの時間をいう。但し、10秒以上120秒以下の範囲である。ここでいう精製開始とは、冷却体3が規定の深さまで溶融アルミニウム2に浸漬された時をいう。全精製時間の0.1倍を越えて以降に、また精製開始から120秒を超えた後に冷却体3の周速を大きくしても、精製アルミニウム5の剥離タイミングが遅すぎて、一定時間における精製アルミニウム5の回収量の減少を引き起こすので好ましくない。また、冷却体3の周速を大きくする時間が精製開始から10秒未満では、冷却体3と密着性の弱い精製アルミニウム5を十分に剥離することができず、好ましくない。
【0062】
溶湯2から引き上げられた回転冷却体3は、図1(d)のように掻き落とし装置4によって周面に晶出した精製アルミニウム5を掻き落とす。その後、保持炉1に移動し、次の精製を行う。
【0063】
このような回転冷却体3の浸漬⇒精製アルミニウムの晶出⇒精製アルミニウムを回転冷却体3ともに引き上げ⇒精製アルミニウムを掻き落として回収、の工程を繰り返すことにより、連続的に精製が行われる。
【0064】
なお、以上の説明では、アルミニウムを精製するものとしたが、アルミニウム以外のシリコン、マグネシウム等の他の金属であっても良いし、金属以外の物質であっても良いし、偏析凝固法の原理を利用して高純度塊を精製しうる物質であれば何でも良い。アルミニウム以外の物質を精製する場合においても、冷却体3の溶融物質への浸漬時の温度は、固相線温度×0.7以上に設定すればよいし、冷却体3の周速に関する条件等も、アルミニウムの精製おいて説明した数値を適用すればよい。
【実施例】
【0065】
不純物として主に、Fe:490〜510ppm、Si:390〜410ppmが含まれるアルミニウム溶湯を用いて以下のような試験を実施した。
【0066】
(実施例1)
上記の組成のアルミニウム溶湯を精製保持炉内に入れ、精製炉ヒーターを調整し、665℃の温度に保持した。その後、温度を470℃(アルミニウムの固相線温度×0.7)に調整した上端部の外径が150mm、下端部の外径が100mm、長さ200mmのテーパー形状の回転冷却体を回転させながら、冷却体の下端部から上170mmの位置まで溶融アルミニウム中に浸漬した。浸漬時の冷却体の浸漬部分の最下端部における外周面の周速は2100mm/sに設定した。
冷却体をそのまま周速2100mm/sで回転させながら、7分間、回転冷却体周面に精製アルミニウムを晶出させた。
その後、冷却体を回転させながら溶融アルミニウムから引き上げた。引き上げたときの冷却体に晶出した精製アルミニウムの最下端部の表面の周速を2100mm/sに設定し、冷却体の下端部が溶融アルミニウムから完全に引き上げられるまで、その回転速度を維持した。なお、回転冷却体内には圧縮エアーを供給して冷却させた。
【0067】
(実施例2)
冷却体の回転を停止して溶融アルミニウム中から引き上げる以外は実施例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率
を表1に示す。
【0068】
(実施例3)
溶湯への浸漬時の冷却体の浸漬部分の最下端部における外周面の周速を1000mm/sに設定したこと、及び冷却体の回転を停止して溶融アルミニウムから引き上げたこと以外は実施例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率
を表1に示す。
【0069】
(実施例4)
冷却体に晶出した精製アルミニウムの最下端部における溶湯との界面の周速を1000mm/sに設定して、冷却体を溶融アルミニウムから引き上げたこと以外は実施例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率を表1に示す。
【0070】
(実施例5)
冷却体の溶融アルミニウムへの浸漬時の温度を530℃(アルミニウムの固相線温度×0.8)に設定した以外は実施例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率
を表1に示す。
【0071】
(実施例6)
冷却体の溶融アルミニウムへの浸漬時の温度を600℃(アルミニウムの固相線温度×0.9)に設定した以外は実施例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
冷却体を回転させることなく溶融アルミニウムに浸漬し、回転を停止して引き上げたこと以外は実施例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率
を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
溶湯への浸漬時の冷却体の浸漬部分の最下端部における外周面の周速を350mm/sに設定したこと以外は比較例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率
を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
冷却体に晶出した精製アルミニウムの最下端部における溶湯との界面の周速を350mm/sに設定して、冷却体を溶融アルミニウムから引き上げたこと以外は比較例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率
を表1に示す。
【0075】
(比較例4)
冷却体の溶融アルミニウムへの浸漬時の温度を300℃に設定した以外は実施例1と同じ条件で精製を行った。
冷却体に晶出しているアルミニウム精製塊の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率を表1に示す。
以上の実施例1〜6、比較例1〜4のそれぞれについて、溶湯から引き上げた冷却体に晶出している精製アルミニウム(アルミニウム精製塊)の重量、精製後のFe、Siの濃度及び精製効率を調べた。その結果を表1に示す。
表1に示されるように、本発明の実施品は比較品に較べて、精製アルミニウムの不純物濃度が低く、精製効率が良いことがわかる。
【0076】
(実施例7)
実施例1の条件において、5回の精製実験を行った結果、精製塊重量は平均で6.08kgであった。また、精製中に発生した剥離回数を精製開始からの時間経過とともに調査したところ、表2のとおりであり、精製開始から全精製時間×0.1以降に2回の剥離が発生し、実施例8、9よりも精製塊重量が低くなった。
【0077】
(実施例8)
実施例1の条件において、精製開始から全精製時間×0.05まで、冷却体の浸漬部分の最上端部における外周面の周速を3500mm/s、それ以降の周速を3000mm/sに設定して、5回の精製実験を行った結果、精製塊重量は平均で6.12kgであった。また、精製中に発生した剥離回数を精製開始からの時間経過とともに調査したところ、表3のとおりであり、ほとんどのものは精製開始から全精製時間×0.1以内での剥離のみであったが、5回の試験中1回(実験番号4)は精製開始から全精製時間×0.1〜全精製時間×0.15で剥離が発生した。
【0078】
(実施例9)
実施例1の条件において、精製開始から全精製時間×0.1まで、冷却体の浸漬部分の最上端部における外周面の周速を3500mm/s、それ以降周速を3000mm/sに設定して、表4のように、5回の精製実験を行った結果、精製塊重量は平均で6.14kgであった。また、精製中に発生した剥離回数を精製開始からの時間経過とともに調査したところ、精製開始から全精製時間×0.1以降の剥離は発生しなかったため、精製塊重量は実施例7、8の場合に比べて増大した。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】この発明の一実施形態に係る精製装置の概略構成と、これを用いた金属精製方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0084】
1 溶湯保持炉
2 溶融アルミニウム(溶湯)
3 冷却体
5 精製アルミニウム
6 加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融物質中に冷却体を浸漬し、その冷却体の表面に前記物質の結晶を晶出、成長させる精製法において、
前記冷却体の周速が700mm/s以上8000mm/s未満となるように冷却体を回転させながら溶融物質中に浸漬させていき、且つ溶融物質に浸漬するときの冷却体の温度を、前記物質の固相線温度×0.7以上とすることを特徴とする物質精製法。
【請求項2】
冷却体の周速を1500mm/s以上6000mm/s未満とする請求項1に記載の物質精製法。
【請求項3】
前記冷却体の表面に前記物質の結晶を晶出、成長させた後に冷却体を溶融物質から引き上げるときに、冷却体に晶出した結晶部分の溶融物質との界面における周速が700mm/s以上、8000mm/s未満となるように冷却体を回転させながら引き上げを行う請求項1または2に記載の物質精製法。
【請求項4】
冷却体に晶出した結晶部分の溶融物質との界面における周速が1500mm/s以上、7000mm/s未満となるように冷却体を回転させる請求項3に記載の物質精製法。
【請求項5】
溶融物質に浸漬するときの冷却体の温度を、前記物質の固相線温度×0.8以上とする請求項1〜4の何れかに記載の物質精製法。
【請求項6】
溶融物質に浸漬するときの冷却体の温度を、前記物質の固相線温度×0.9以上とする請求項1〜4の何れかに記載の物質精製法。
【請求項7】
冷却体浸漬後の精製初期の冷却体の最大周速がその後の平均周速より高速である請求項1〜6の何れかに記載の物質精製法。
【請求項8】
冷却体浸漬後の精製初期の冷却体の最大周速がその後の平均周速×1.1以上である請求項7に記載の物質精製法。
【請求項9】
精製初期とは精製開始から全精製時間×0.1まで(但し、10秒以上120秒以下)である請求項7または8に記載の物質精製法。
【請求項10】
前記物質が金属である請求項1〜9のいずれかに記載の物質精製法。
【請求項11】
前記金属がアルミニウムである請求項10に記載の物質精製法。
【請求項12】
精製すべき物質を溶融状態で収容する炉体と、前記炉体に収容された溶融物質中に浸漬される回転可能な冷却体とを備えた精製装置において、
前記冷却体の周速が700mm/s以上8000mm/s未満に設定され、かつ冷却体の温度が前記物質の固相線温度×0.7以上に設定された状態で、冷却体が前記溶融物質中に浸漬されるものとなされていることを特徴とする物質精製装置。
【請求項13】
冷却体の温度が前記物質の固相線温度×0.8以上に設定される請求項12に記載の物質精製装置。
【請求項14】
冷却体の温度が前記物質の固相線温度×0.9以上に設定される請求項12に記載の物質精製装置。
【請求項15】
精製初期の冷却体の最大周速がそれ以降の平均周速よりも大きくなるように、冷却体の回転速度を制御する制御手段を備えている請求項12に記載の物質精製装置。
【請求項16】
前記制御手段は、精製初期の冷却体の最大周速がそれ以降の平均周速×1.1以上となるように冷却体の回転速度を制御する請求項15に記載の物質精製装置。
【請求項17】
前記精製初期が、精製開始から全精製時間×0.1までである請求項15または16に記載の物質精製装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−167526(P2009−167526A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324569(P2008−324569)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】