説明

特にワクチンに適用される外来分子の提示のための分割コア粒子およびそれらの産生方法

B型肝炎ウイルスのコアタンパク質のコアNドメインおよびコアCドメインを別々のポリペプチドとして含み、さらに免疫応答を誘導する少なくとも1つの外来分子を含む分割コアキャリア物質。本発明によれば、外来分子(特に異種外来アミノ酸配列)は、コアNドメインのC末端、またはコアCドメインのN末端と融合している。また、コアタンパク質はカプシド様粒子を形成できる。また本発明は、上記に関連する産生方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチンおよび他の分子のための、B型肝炎ウイルスコア抗原由来の新規キャリアに関する。病原体などに由来する外来アミノ酸配列は、B型肝炎ウイルスコア抗原に組み込まれ、ワクチンは、このようなタンパク質配列に対する抗体、好ましくは防御抗体または中和抗体の産生を目的とするものである。また、本発明の粒子は、細胞性免疫応答(T細胞)を賦活してもよい。B型肝炎コアタンパク質は、複数のコピーからカプシド様粒子を形成することができるという特性を持つ。このカプシド様粒子(CLP)は、免疫系を賦活し、その結果として抗体産生が増大するので、特にワクチンの製造に適している。本出願において、「ワクチン」とは、好ましくは体液性および細胞性免疫応答のいずれも誘発することが可能なキャリアシステムを意味する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルスのカプシドは、ウイルスコアタンパク質の180コピーまたは240コピーで構成される、正二十面体対称性を持つナノ粒子(直径:約30nm)である。このコアタンパク質は、HBcAgと呼ばれている。カプシドは、外来分子用の粒子状キャリアとして機能し、好ましくはワクチン用の免疫増強作用を有する抗原キャリアとして適用される。コアタンパク質を適切に修飾することによって、粒子表面(必要に応じて内部でも)に外来分子を提示することができる。コアタンパク質のアミノ酸配列の中央に位置するアミノ酸残基(73位〜94位付近のアミノ酸領域)は免疫優性B細胞エピトープである「c/e1」を含み、3次元構造において粒子表面に最も多く提示される。そのため、外来分子をこのアミノ酸残基に結合させることによって、外来分子の粒子表面への提示が最適化される。
【0003】
WO01/77158には、B型肝炎コア抗原融合タンパク質が記載されており、このタンパク質は、好ましくは61位と90位の間の領域に異種性エピトープが挿入されている。US2003/0198649には、リガンド構造を介してB型肝炎ウイルス(HBV)コアタンパク質に免疫抗原が結合したB型肝炎ウイルスコア抗原粒子が記載されている。Kratzら(PNAS (1999), pp.1915−1920)は、HBVコアタンパク質の表面にGFP(緑色蛍光タンパク質)が提示されたことを報告している。このHBVコアタンパク質では、79位と80位のアミノ酸が238個のアミノ酸からなるGFPのアミノ酸配列で置換されている。
【0004】
Nassalら(Eur. J. Immunol.(2005), pp.655−665)は、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)のOspA全長タンパク質とB型肝炎ウイルスカプシドタンパク質との融合生成物について報告している。このカプシドタンパク質でもまた、79位と80位のアミノ酸がOspAの18位〜273位のアミノ酸で置換されているが、コアタンパク質とOspAの間にリンカー配列が導入されている。Skamelら(Journal of Biological Chemistry, 2006., pp.17474−17481)は、B型肝炎ウイルスのカプシド様粒子によって、ボレリア・ブルグドルフェリのOspC完全長タンパク質が提示されたことを報告している。しかしながら、先行技術において解決手段として開示された修飾コアタンパク質は、所望通りにカプシド様粒子(CLP)を形成する傾向を持たないことがわかっているため、この修飾コアタンパク質では免疫応答が十分に増強されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この事実は、ペプチドまたはタンパク質由来の外来分子をコアタンパク質へ遺伝子的に挿入する場合、外来配列がそのN末端およびC末端の両方を介してコアタンパク質に結合することを意味している。外来配列が両末端で結合することによって、好適な外来配列の種類が大幅に狭まり、選択の余地が限られることが分かっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載の分割コアシステムは、コアタンパク質を2つの部分に分けて生成することによって、このような制限を排除できる。この2つの部分は、驚くほど自然に結合して、元の一続きのタンパク質鎖と同様にカプシド粒子を形成する。外来分子は、キャリアタンパク質のN末端断片(「コアN」)またはC末端断片(「コアC」)に融合すればよいため、いずれか一方の末端のみを介してキャリアタンパク質に結合する。その結果、コアタンパク質の一続きのペプチド鎖へ外来配列を挿入する際に、外来配列の両末端が結合することにより生じる構造上の制限が、本質的に排除される。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本発明の分割コアシステムによって、
(i) 従来の一続きのコアタンパク質においては、サイズ上および/または構造上の原因によってほとんどまたは全く提示できない外来分子を提示すること;
(ii) ヘテロダイマー性の外来タンパク質を提示すること;
(iii) 所望のパートナー分子との相互作用を実質的に促進するような、柔軟かつ十分に接触可能な状態で相互作用性の外来分子を提示すること;および
(iv) 従来の一続きのコアシステムには存在せず、本分割コアシステムには存在する、新たに表面に露出したN末端およびC末端を介して、さらなる外来分子を提示すること
が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】コアタンパク質構造の概略図を示す。
【図2】分割コアシステムの原理を示す。
【図3】微生物由来の発現ベクターを用いて、コアNとコアCの2つの断片をそれぞれほぼ等モル産生する2つの例の概略図を示す。
【図4】Aは、誘導されたOspA−特異的抗体の血中動態を示し、Bは、OspAに対する総抗体量とLA2と同等の抗体量とを比較したグラフを示す。
【図5】分割コアシステムにおいて、外来タンパク質に対する抗体が領域特異的に誘導される原理を示す。
【図6】相互作用可能な外来分子が柔軟な構造で提示される分割コア融合を示す。
【図7】相互作用可能な外来分子(本図ではGB1)を表面に提示する自己蛍光性の分割コアCLPの原理を示す。
【図8】ボレリア・ブルグドルフェリで惹起したSCIDマウスにおける種々の抗OspA免疫血清の防御能力を示す。
【図9】本図に記載の免疫抗原でB10マウスを1回または2回免疫した後のCSPおよびコアキャリアに対するB細胞応答性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
B型肝炎ウイルス(HBV)はエンベロープウイルスである。内側のヌクレオカプシドは、コア粒子(「コア」)とも呼ばれ、血清学的にはB型肝炎コア抗原(HBcAg)として定義される。コアは、183〜185個のアミノ酸からなるコアタンパク質(HBVのサブタイプに応じて異なる)の180コピーまたは240コピーから構成される。コアタンパク質を、異種で(微生物、酵母、真核細胞で)発現させて、「カプシド様粒子」(=CLP)を自然に形成させてもよい。カプシド様粒子は、ウイルスゲノムも外側エンベロープも含まないため、非感染性である。このようなCLPは、より近縁の哺乳類(例えば、ヤマネズミ、リスなど)のHBV、およびより遠縁である鳥類のHBV(例えば、アヒル、アオサギなど)からも得られる。本発明においては、原則として任意のHBV配列を使用できるが、ヒトへの感染能力を持つHBV配列が好ましい。
【0010】
HBVコアタンパク質のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、Galibert et al., Nature (1979), pp.646−650、 Nassal, Gene (1988), pp.279−294およびWO01/77158で開示されており、これらの出版物を参照する。aywサブタイプのコアタンパク質配列を用いることが好ましいが、他の哺乳類または鳥類のHBV配列のようなHBV配列の変異体や改変体も同様に使用できる。これらの配列は、一般に入手可能な遺伝子ライブラリーで保存されている。
【0011】
ヒト病原性のB型肝炎ウイルス(狭義のHBV)以外に、動物に特異的な多数の関連B型肝炎ウイルスが存在する。例えば北アメリカヤマネズミ(動物学名:Marmota monax;ヤマネズミB型肝炎ウイルス=WHV)HBV(ヤマネズミB型肝炎ウイルス=WHV)や、カリフォルニアジリス(動物学名:Spermophilus beecheyi)HBV(ジリスB型肝炎ウイルス=GSHV)などが挙げられる。
【0012】
これらのウイルスは、ヒトHBVと同様の遺伝子構造を有するが、ヌクレオチド配列においては明確な差異があるため、タンパク質のアミノ酸配列も明確に異なる。
【0013】
ヒトHBVコアをワクチンキャリアとして使用する際には、次のような2つの制限が予想される。
【0014】
1. 慢性のHBV感染患者は、HBV抗原に対してある程度寛容を示す(このような免疫応答の欠如も感染が長引く一因となっている)。コアも、T細胞依存性抗原として作用するため、HBVコアCLPに基づくワクチンの強力な免疫原性には、コアタンパク質配列のT細胞エピトープが関与している。HBVに慢性的に感染している患者では、HBVコアに対してT細胞が免疫寛容を示すため、ヒトHBVコアをワクチンキャリアとして使用しても、効果が表れない可能性がある。しかし、WHVおよび他の動物のHBVのコアに対しては、上記のような寛容性は示さない(Billaud JN. et al. Advantages to the use of rodent hepadnavirus core proteins as vaccine platforms. Vaccine. 2007 Feb 19;25(9): pp.1593−606参照)。したがって、キャリアとして動物のHBVコアタンパク質を使用することは、ワクチン接種を受けようとする対象者がこのような特別な集団にいる場合には有利かもしれない。
【0015】
2. コアは、非常に強力な免疫原性を有するため、HBVに急性的にまたは慢性的に感染したすべての対象者で、コアに対する強力なB細胞応答(抗HBcAg)が誘発される。感染が治癒した場合は、さらにHBVエンベロープタンパク質に対する抗体(抗HBsAg抗体)が見られるのが特徴である。HBV感染に対する現在の予防ワクチンは、もっぱらHBVエンベロープタンパク質(HBsAg)由来である。したがって、ワクチン接種に成功した場合は、感染が治癒した場合と同様に、抗HBsAg抗体が出現する。対象者が感染とHBsAgワクチン接種のいずれによって抗HBsAg抗体を獲得したのかは、時に診断上興味深い問題であり、感染後にのみ生じる抗HBcAg抗体の検出の有無によって判断することができる。
【0016】
また、ヒトHBVコアに基づいたワクチンでは、挿入した外来タンパク質に対する所望の応答以外に、コアに対する特定の応答(抗HBcAg)が誘発される。このワクチンでは、抗HBsAg抗体も同時に生じるため、HBV感染とHBsAgワクチン接種を区別するのがより困難になると考えられる。
【0017】
本発明の分割コアシステムでは、主要エピトープすなわちc/e1が物理的に分断され、大部分の抗HBcAg抗体はこのエピトープを認識できなくなっているため、本発明の分割コアシステムは、抗HBcAg抗体の産生を最小限に抑えられる。しかし、コアタンパク質の他の配列領域に対するHBcAgへの応答は残存する。ヒト以外のHBVコアタンパク質、好ましくはWHVコアタンパク質をキャリアベースとして使用することによって、このような応答を一層抑える、または避けることができる。
【0018】
本発明の分割コアキャリアシステムの基本的な構成要素は、第1にB型肝炎ウイルスのコアタンパク質であり、第2に免疫応答を誘発する外来分子である。
【0019】
本発明の最も広範な実施形態において、コアタンパク質は、任意のB型肝炎ウイルス由来である。種々のB型肝炎ウイルスが知られているが、本発明においては、哺乳類から単離された、該哺乳類に特異的なB型肝炎ウイルス由来の配列を使用することが好ましい。特に、ヒトHBVを使用することが好ましい。しかし、上記に加えて、コアタンパク質配列を提供するB型肝炎ウイルスは、例えば、アヒルまたはアオサギのような鳥類などの他の動物由来であってもよい。
【0020】
もう一方の構成要素、すなわち免疫応答を誘発する外来分子としては、原則として、任意の分子が挙げられる。本発明においては、タンパク質配列が好ましく、病原体の表面に存在し、免疫系と接触するタンパク質配列が特に好ましい。免疫系が、このような病原体の表面構造に対する抗体を産生できれば、病原体は、ワクチン接種を受けた患者の体内で免疫系の個々の要素と接した後に不活性化され、通常このような病原性の感染菌は殺滅される。
【0021】
データベースから入手可能なヤマネズミB型肝炎ウイルス(WHV)アミノ酸配列を、HBVコアタンパク質(aywサブタイプ)と比較すると、両者の相同性は約60%であった。配列の違いは、66位と94位の間のアミノ酸領域で特に顕著である。また、この領域は、c/e1エピトープを含み、HBV分割コアシステムにおいてはコアタンパク質のN末端領域とC末端領域の間に位置する分割部位もさらに含む。特に好ましい実施形態において、このような分割部位は、79位のアミノ酸と81位のアミノ酸の間に存在する。
【0022】
核酸レベルにおいて、WHVコアタンパク質配列を79位(グルタミン酸をコードする)と80位(グルタミンをコードする)の間で分割し、本発明のWHV分割コアキャリアシステムを作製した。ヌクレオチドレベルでは、WHVコアタンパク質のN末端セグメント(以下、WコアNと略記する)のカルボキシ末端にBamH1切断部位をコードする配列を付加した。その下流に、第2のリボソーム結合部位およびNde1制限酵素切断部位が続き、この切断部位は、WHVコアC(WコアC)セグメントの開始コドンと重複している。この配列構造は、対応するHBV分割コアコンストラクトにおける好ましい配列構造と一致している。このため、BamH1−Nde1消化によって、一方のシステムからもう一方のシステムへ直接挿入を行うことができる。本明細書に記載の事例では、BamH1切断部位の導入により、WコアNは、保存的置換(すなわちE79D)を伴い、さらにC末端アミノ酸としてプロリン(P)が付加されている。このことが、粒子形成能に対して悪影響を及ぼすことはない。また、C末端のプロリンは、プロテアーゼ耐性に関与するため、分割タンパク質の安定性が増大する。HBV分割コアと同様に、WコアCではQ80(HBVではS81)の上流に開始メチオニンが付加されている。このWHV分割コアコンストラクトは、対応するHBV分割コアコンストラクトと同様に均一な粒子を形成した。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態において、コアタンパク質のC末端領域およびN末端領域は、それぞれ別のB型肝炎ウイルス由来であってもよい。この場合、本発明のハイブリッド分割コアキャリアシステムは、本質的には3つの構成要素、すなわち、あるB型肝炎ウイルス(例えば、ヒトB型肝炎ウイルス)由来のコアタンパク質のN末端領域、免疫応答を誘発する外来分子、および別のB型肝炎ウイルス(例えば、WHV)由来のコアタンパク質のC末端領域を有する。このようなハイブリッド分割コアコンストラクトも、粒子を問題なく形成した。異なるB型肝炎ウイルス間では、コアタンパク質のアミノ酸配列が異なるので、それぞれのB細胞エピトープおよびT細胞エピトープも異なる。したがって、ハイブリッド分割コアシステムは、粒子状キャリアに対する免疫応答に特に影響を及ぼす可能性がある。
【0024】
核酸レベルにおいて、WHVコアタンパク質配列を79位(グルタミン酸をコードする)と80位(グルタミンをコードする)の間で分割し、本発明の好ましいハイブリッド分割コアキャリアシステムを作製した。ヌクレオチドレベルでは、WHVコアタンパク質のN末端セグメント(以下、WコアNと略記する)のカルボキシ末端にBamH1切断部位をコードする配列を付加した。その下流に、第2のリボソーム結合部位およびNde1制限酵素切断部位が続き、この切断部位は、WHVコアC(WコアC)セグメントの開始コドンと重複している。この配列構造は、対応するHBV分割コアコンストラクトにおける好ましい配列構造と一致している。このため、BamH1−Nde1消化によって、一方のシステムからもう一方のシステムへ直接挿入を行うことができる。本明細書に記載の事例では、BamH1切断部位の導入により、WコアNは、保存的置換(すなわちE79D)を伴い、さらにC末端アミノ酸としてプロリン(P)が付加されている。このことが、粒子形成能に対して悪影響を及ぼすことはない。また、C末端のプロリンは、プロテアーゼ耐性に関与するため、分割タンパク質の安定性が増大する。HBV分割コアと同様に、WコアCではQ80(HBVではS81)の上流に開始メチオニンが付加されている。このコンストラクトは、問題なく粒子を形成することができた。
【0025】
天然HBcAgと同様に、組換えHBV CLPも、高い免疫原性を有する(T細胞非依存性抗原およびT細胞依存性抗原として)。本明細書において、対称的な多重体粒子構造はコア粒子にとって不可欠である。慣用のネガティブ染色電子顕微鏡検査法や電子低温顕微鏡検査法によって、前記構造を視覚化することができる。ショ糖密度勾配遠心法(沈降係数は、変異体に応じて60〜80Sの範囲;比較として、可溶性モノマータンパク質:約1〜5S;真核生物のリボソームサブユニット:40S+60S)により、粒子の性質を生化学的に確認することができる。また粒子は、非変性アガロースゲル電気泳動において明確な泳動挙動を示し、その挙動は非粒子状のものとは異なる。このことから、CLPの形成能、またはタンパク質のCLP構造の有無を判断することができる。
【0026】
HBVコアタンパク質は、183個または185個のアミノ酸(WHVタンパク質は187個のアミノ酸)を有し、2つのドメインから構成される。CLPの構築には、N末端から約140個のアミノ酸(会合ドメイン)が必要十分条件である。C末端領域は塩基性アミノ酸に富み、核酸と結合している。従来の大腸菌発現システムにおいて、C末端切断型のコアタンパク質変異体(1−149)は、全長タンパク質より実質的に良好な発現を示した。よって、1位〜149位のアミノ酸からなるコアタンパク質のCLP、すなわち核酸結合ドメインを持たないCLPを、中〜高解像度の電子顕微鏡による構造研究に用いた。このようにして、上記CLPおよびコアタンパク質の結晶構造を決定することができた。生化学的な性質から予想された通り、コアタンパク質は、安定性の高い対称的なダイマーを形成しており、これらのダイマーが会合して90または120のダイマーを含むCLPが形成される。
【0027】
コア粒子は、特徴的なスパイクを有する。各ダイマーは、4つのヘリックスを1組として構成されるスパイクを形成し、各モノマーは、アミノ酸配列の中央部に長い2つのαヘリックスを有する。スパイク先端は、74位〜85位のアミノ酸領域に位置するアミノ酸を含む。この領域は、さらにHBcAgの免疫優性B細胞エピトープ(c/e1エピトープ)を有する。また、この領域の残基が表面に現れることから、c/e1エピトープが特に高い免疫原性を持つことを説明できる。
【0028】
図1は、コアタンパク質構造を概略的に示したものである。図1の左側にHBVコアタンパク質の一次配列を表す。全長タンパク質は、183個のアミノ酸(いくつかのHBVサブタイプでは185個のアミノ酸)で構成される。そのうち、CLPの形成に必要とされるのは、N末端の約140個のアミノ酸(会合ドメイン)のみである。C末端アミノ酸が、149位であることが好ましい。149位、および149位の下流で183位までの任意のアミノ酸であれば、CLPの形成を妨げることなくHisタグと融合することができる。c/e1エピトープは、78位〜83位のアミノ酸領域に位置し、中央に位置する2つのαヘリックス間のループの一部を形成している(左下参照)。ヘリックス自体は、切断型でもよいが、コアNではGly73までのアミノ酸残基が、コアCではGly94から下流のアミノ酸残基が、恐らく最低限必要である。図1の右側は、コアタンパク質ダイマーを概略的に示したものである。各モノマーの中央に位置する2つのへリックスのみが示されている。図中のc/e1エピトープは、粒子表面に位置する。
【0029】
粒子を形成させるためには、コアアミノ酸配列は、少なくとも140位まで、好ましくは少なくとも149位まで必要であるが、HBVサブタイプに応じて、C末端の183位または185位までさらに伸長させてもよい。140位より下流、好ましくは149位より下流のアミノ酸配列を外来配列で置換して、該外来配列が通常CLPの内部に存在するようにしてもよい。このような外来アミノ酸は、主として抗体産生を促すものではなく、他の機能を発揮してもよい。
【0030】
HBcAgは、非常に高い免疫原性を有するため、組換えHBV CLPは、外来抗原用の免疫原性を増強するキャリアとして使用する上で注目されている。
【0031】
他の解決手段としては、既に形成されたCLPに外来分子を化学的に結合させる方法が挙げられる。本発明により、外来アミノ酸配列のコアタンパク質への遺伝子融合が提供される。X線結晶構造が決定される前にすでに経験的な試みに基づいて、強力なB細胞応答の誘発にはc/e1エピトープの領域が最適であることがわかっていた。現在、X線結晶構造に基づいて、上記の融合によって、中央に位置する2つのヘリックス間のループに挿入が起こっていることが明らかになっている。このループ自体は、いかなる構造的な機能も持たないので、外来配列が挿入されても少なくとも原理的には、コアタンパク質の3次元構造は保持される。挿入された外来配列にもよるが、規則的なCLPの形成を維持できる融合タンパク質もある。しかし、外来アミノ酸配列は融合タンパク質構造の形成に悪影響を及ぼす可能性があるので、CLPの形成が必ずしも保証されているわけではない。粒子構造自体は、高い免疫原性を示す上で不可欠である。
【0032】
これまでにも様々な外来配列がコアタンパク質に挿入され、その一部で免疫原性の増大が実験的に確認されている(Ulrich et al., Adv. Virus Res. (1998), pp.141−182)。しかし、約40個を超えるアミノ酸からなる比較的長い外来配列を挿入する数多くの試みが失敗に終わっている(粒子の形成は認められなかった)ことから、挿入可能な外来配列の長さにはおのずと制限があると考えられており、通常最大40個までのアミノ酸、または特別な場合には最大120個までのアミノ酸が限度とされていた。
【0033】
少なくとも下記の2つの本質的な基準を満たす場合、コアタンパク質のC末端およびN末端に融合した外来アミノ酸配列は、粒子のみを形成することが分かった。
(i)外来タンパク質は、そのN末端とC末端が、コアタンパク質の結合点(N末端コア部分(つまりおよそ1位〜およそ78位までのコアアミノ酸(コアN))のC末端;C末端コア部分(つまりおよそ80位〜149位または183位までのコアアミノ酸(コアC))のN末端)の空間配置に適合するような3次元構造でなければならない。
(ii)外来タンパク質自体がホモメリックな相互作用をしてダイマー、トリマー等を形成する場合、このホモオリゴマーの構造も、同様に2つのコアタンパク質部分の構造と適合しなければならない。
【0034】
したがって、天然の3次元構造でN末端とC末端が近接している外来タンパク質は、先に開示された融合タンパク質で提示されるのに十分な構造をしている。GFPは、上記必要条件をいずれも満たすが、他の多くのタンパク質はこの条件を満たさない。後者の1つの例は、ライム病病原体(ボレリア・ブルグドルフェリ)の表層タンパク質A(OspA)であり、その長い3次元構造においてN末端とC末端は反対側に位置する。
【0035】
OspAまたは同様に不都合な構造を有する他のタンパク質を挿入すると、融合タンパク質に張力が生じる。外来タンパク質が、正しく折りたたまれたままで、2つのコアタンパク質部分が互いに接触できない場合、コアタンパク質が折りたたまれて起こる二量化および粒子形成が妨げられる。あるいは、コアタンパク質部分が折りたたまれていると、外来タンパク質の折りたたみに支障をきたす。その結果、外来タンパク質は、天然の構造をとれなくなる(抗原性が変異する)、または著しく異常に折りたたまれた場合は、凝集してしまう。
【0036】
OspAの場合には、非常に長いリンカー配列を利用することで、部分的ではあるが、この問題を回避することができた。このリンカー配列は、それ自体が望ましくない抗原性を有する可能性があり、その結果、例えば内因性の抗原と有害な交差反応を起こす可能性があるという点で、特にワクチンへの応用を考慮すると潜在的な問題がある。さらに、これに対応するタンパク製剤においては、規則的なCLPを形成する能力はきわめて限定的なものであった。
【0037】
さらに、コアタンパク質キャリアのダイマー構造や、キャリア粒子の表面が幾何学上制限されている(CLPの「球面」での有効なスペースが制限されている)ことから、非常に大きな外来タンパク質、または球状構造から大幅に外れる外来タンパク質では、全般的な立体障害が問題になる可能性がある。外来タンパク質の最大サイズは、複数の要因に依存する。本発明の方法によって、約320個のアミノ酸からなる外来タンパク質(CSP)を提示することに既に成功している。
【0038】
したがって、本発明は、B型肝炎ウイルスのコアタンパク質のコアNドメインおよびコアCドメインを別々のポリペプチドとして有し、さらに体液性免疫応答および必要に応じて細胞性免疫応答を誘発する少なくとも1つの外来アミノ酸配列を有する分割コアワクチンに関する。前記外来アミノ酸配列は、コアNドメインのC末端、またはコアCドメインのN末端と融合し、前記コアタンパク質は、カプシド様粒子を形成することができる。また、中和抗体を誘導するキャリアシステムが好ましい。
【0039】
本発明の分割コアワクチンにおいて、コアタンパク質は、c/e1エピトープ領域、すなわちおよそ73位のアミノ酸と94位のアミノ酸の間で分断、すなわち分割されていることが不可欠である。次いで、コアN領域のC末端に外来アミノ酸配列を融合させてもよい。この場合、コアC部分のN末端は、コアNタンパク質が切り離された位置のアミノ酸で始まる。さらに、c/e1エピトープの一部を欠失させる、すなわち73位と94位の間のアミノ酸領域から1つ以上のアミノ酸を欠失させることも可能である。あるいは、コアC領域のN末端に、抗体を産生させることが可能な外来アミノ酸配列を融合することも可能である。この場合、コアNのC末端領域は、コアタンパク質を分断した位置のアミノ酸が終端となる。分割コアワクチンの本質的な作用として、外来アミノ酸配列が融合した分割コアワクチン粒子でも、コアカプシド様粒子を形成する能力を保持していなければならない。この形成能は、ショ糖密度勾配遠心法または非変性アガロースゲル電気泳動法によって調べることができる。さらに、電子顕微鏡による検査も可能である。
【0040】
抗体を産生させることが可能な外来アミノ酸配列としては、微生物の表面構造由来の配列が好適である。上記の微生物は、ヒトでは通常疾病の原因となる。この表面構造に対する中和抗体を産生できれば、免疫防御システムが働き、侵入する微生物を非常に速やかに排除することができる。既にワクチン開発がかなり進展している微生物としては、ボレリア・ブルグドルフェリ(ライム病病原体)が挙げられる。本発明の範囲内で好ましく使用される外来アミノ酸配列は、ボレリア・ブルグドルフェリの表面タンパク質OspAおよびOspCである。しかし、外来アミノ酸配列は、病原性生物由来の他の配列であってもよい。一例として、マラリア病原体である熱帯熱マラリア原虫が挙げられる。
【0041】
抗体を産生させることが可能な外来アミノ酸配列としては、他にウイルス由来の配列が挙げられる。宿主生物の免疫系と接するウイルスタンパク質由来のアミノ酸配列を用いることが好ましい。通常、宿主生物の免疫系とまず初めに接するのは表面タンパク質であるため、前記タンパク質は、主として表面タンパク質である。しかし、ウイルスが、自身の生命サイクルの中で分泌するタンパク質であってもよい。上記タンパク質は、ウイルスの種類に応じて、例えば、ウイルスコアタンパク質またはヌクレオカプシドタンパク質であってもよい。
【0042】
しかし、本発明の分割コアワクチンは、外因性のアミノ酸配列に対する抗体の産生だけでなく、例えば腫瘍マーカーのような望ましくない内因性の構造に対する抗体の産生にも使用してよい。腫瘍細胞は、多くの場合、正常細胞とは異なる表面マーカーを発現している。したがって、分割コアワクチンで上記の内因性のアミノ酸配列が提示されると、免疫応答が誘発され、生体内で漸増的に前記腫瘍細胞に対する抗体が産生される。この抗体によって免疫防御システムが働き、腫瘍細胞を容易に認識して最終的には排除する。また本発明のキャリアシステムは、さらに効率を向上させるために細胞性免疫応答を誘発してもよい。
【0043】
さらに本出願は、異種タンパク質配列に対するワクチンを作製する方法にも関する。上記分割コアワクチンは、2つの部分に分かれたB型肝炎ウイルスのコア抗原で構成され、異種タンパク質配列がコアN領域に融合しているか、コアCタンパク質が異種タンパク質配列のC末端に融合しているかのいずれかである。コア抗原のアミノ酸鎖において、2つのドメインに分割される位置は73位と94位の間である。このアミノ酸領域は、c/e1エピトープに相当し、この領域の個々のアミノ酸を欠失させてもよい。
【0044】
本発明の方法は、原則として2つの異なる方法で実行できる。本発明において、2つの部分の分割コア抗原をたった1本のポリペプチド鎖として発現する場合、所望の位置にプロテアーゼ認識配列を挿入する。これにより、発現したポリペプチドは、プロテアーゼによって先に定義した2つの部分に切断される。この実施形態において、ポリペプチドを所望の切断部位で切断するプロテアーゼを共発現することも可能である。上記プロテアーゼをコードする遺伝子配列を、同じベクターまたは別のベクターに導入してもよい。
【0045】
一方、別の好ましい実施形態においては、特別のベクターを使用して、上記2つのポリペプチドを発現する。好ましくは「バイシストロン性の」ベクターを使用する。バイシストロン性のベクターでは、分割コアワクチンの第1の部分が1本のポリペプチド鎖として発現され、そのC末端に終止コドンが位置する。その直後に、リボソームが再び付着し、第2のポリペプチドが発現される。これにより、分割コアワクチンの2つの部分が、ほぼ同量産生されることが保証される。また、分割コアワクチンのどちらか一方の部分しか得られないベクターの場合と異なり、宿主生物がベクターの一方を欠損しないよう注意する必要もない。
【0046】
「融合タンパク質」または「融合した」とは、2つの異なるタンパク質またはポリペプチドがペプチド結合によって互いと結合していることを意味する。融合タンパク質をコードする核酸配列を発現させることによって、一続きになった融合タンパク質を産生する。
【0047】
本発明において、HBV−CLPキャリアシステムのより広い有用性(一般的には外来分子の提示を目的とし、具体的にはワクチンキャリアとして)を実現するためには、挿入された外来タンパク質がN末端およびC末端の両方を介して結合してしまうことが、タンパク化学上の主な問題であった。2つの共有結合のいずれか一方(挿入断片のN末端側またはC末端側)を解消できれば、挿入可能な外来タンパク質の数および種類は大幅に増加する。分割されたコアタンパク質部分(分割コア)は、互いを見つけて正しく折りたたまれるため、この場合でも粒子は形成される。これが、本発明の本質的な態様である。
【0048】
図2は、不都合な3次元構造を有する外来タンパク質(例えばOspA)の挿入によって、コアタンパク質キャリアの粒子形成可能な構造の形成が妨げられる様子を概略的に示したものである(上ルート)。もう一方は、コアタンパク質キャリアの正しい3次元構造が形成されることによって、外来タンパク質の天然の3次元構造の形成が妨げられる様子を示している(下ルート)。このような現象は、所望の抗体の結合に悪影響を及ぼす。外来タンパク質挿入断片とキャリアとの間に形成された2つの共有結合のいずれか一方(挿入断片のC末端側またはN末端側)が切断されると(矢印)、この立体構造上の問題は解消される。これを達成するための1つの方法は、一続きの融合タンパク質を続いて切断することである。そのために、特定のプロテアーゼによる切断部位をさらに導入することが必要である。したがって、最初から2つの断片を別々に発現させることが好ましい。
【0049】
本発明の解決手段によって、さらに別の効果が生じる。
(i)c/e1エピトープは粒子表面に存在するため、新たなN末端およびC末端が、この粒子表面で形成される。これによりさらなる誘導(派生)が可能になる。例えば、コアN断片に外来分子Xを融合し、コアC断片に外来分子Yを融合できる。これは、ヘテロダイマー性の外来分子の提示に適用可能である。しかし、ここで、融合によって付加されたこの2つの部分によって立体障害が起こらないよう考慮する必要がある。
(ii)粒子表面のN末端とC末端のいずれに結合するかによって、挿入された外来配列の特定のサブ領域(例えば、特に重要なエピトープ)が、粒子表面に近い位置、および粒子表面から離れた位置のいずれかに配向される。一例としては、ボレリア・ブルグドルフェリのOspAの「LA2エピトープ」が挙げられ、これはC末端領域に位置することが分かっている。このエピトープを認識する抗体は、中和作用を有する。
【0050】
また、このことは、さらに相互作用性の表面を提示する外来配列を挿入する場合は重要である(第3の分子を付加した例を参照)。相互作用可能な外来配列を片側にのみ結合するので、不自然な3次元構造を強いられない。むしろ、種類に応じて柔軟な構造、または妨げられることなく正しい3次元構造を形成できる。これによって、相互作用パートナーとの相互作用が実質的に促進される。
【0051】
本発明は、また分割コアシステムに基づいたカプシド様粒子を含む医薬、特にワクチンに関する。
【0052】
本発明の医薬は、本発明のカプシド様粒子を含有する。また、本発明の医薬が、免疫系にプラスの影響を及ぼすことが好ましい。通常、本発明の分割コアキャリアシステムは、免疫系に外来アミノ酸配列を提示し、その結果免疫系がその外来アミノ酸配列に対する抗体、好ましくは中和抗体を産生する。次いで、これらの抗体は、生体内に侵入した微生物またはウイルスの制御に決定的な役割を担う。または、望ましくない腫瘍細胞を特異的に破壊するよう補助的に働く。
【0053】
さらに別の実施形態において、診断用および/または分析的な手段として、本発明の分割コアキャリアシステムを使用してもよい。このような適用については、実施例12および実施例13でより詳細に示す。例えば、上記の手段により、抗原と結合してその抗原を蛍光によって可視化する、接触可能な自己蛍光性の抗体結合粒子を作製することが可能である。さらに別の実施形態において、本発明の分割コアキャリアシステムは、特定の金属イオン/ランタニド元素と特異的に結合するペプチド配列を含んでもよい。分割コアシステムにこのようなペプチドを導入すると、1つの粒子につき、この種のリポーター原子/イオンを複数含有する粒子が得られ、よりよく検出することができる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
TEVプロテアーゼ認識配列が挿入された野生型コアタンパク質
野生型コアタンパク質(1−149)(アミノ酸P79およびA80がGGGGT−ENLYFQGT−GGGGで置換されたコアタンパク質。残基Gは、プロテアーゼが認識配列に接触しやすいように付加されたリンカーである)のc/e1エピトープにタバコエッチウイルス(TEV)プロテアーゼ認識配列を導入した。組換え発現されたタンパク質は粒子を形成した。このタンパク質をTEVプロテアーゼとともにインキュベートし、SDS PAGEで切断反応が成功したかどうかを確認した。次いで、プロテアーゼ分解物をショ糖密度勾配遠心法により沈殿させた。ほぼ同じサイズの断片が2つ生成されたことから、予想された位置でほぼ完全に切断が起こったことが示された。このタンパク質は、切断されているにもかかわらず、切断されていない野生型コアタンパク質(1−149)とほぼ同じ濃度勾配位置で沈殿した。全長コアタンパク質(1−183)に基づいた融合タンパク質でも、同様の結果が得られた。
【0055】
(実施例2)
比較的大きな外来配列が挿入されたコアタンパク質変異体
やや大きな断片が挿入された融合タンパク質の例としては、人工ペプチド配列「ACID」のための配列(65個のアミノ酸からなる、グリシンに富んだリンカーに挟まれた配列)を、c/e1エピトープに挿入した例が挙げられる。この「ACID」は、その相補的なペプチドである「BASE」と相互作用することが可能である。(O’Shea et al., Curr. Biol. (1993), 656−667)。そこで、コアタンパク質の下流に、TEVプロテアーゼ認識配列GGGGSGGGVEDGGGGSGGGGT−AQLEKELQALEKENAQLEWELQALEKELAQTG−ENLYFQGTGGGGを挿入した。
【0056】
この融合タンパク質はCLPを形成した。これを単離し、上記と同様TEVプロテアーゼとともにインキュベートした。この場合も、特異的な切断が生じたが、粒子は完全なままだった。この場合、TEVによる切断断片は、それぞれサイズが異なるため、SDSゲルで直接識別できる。TEVによる切断が起こっても、これらの断片は、CLPに特異的な濃度勾配画分に共沈した。
【0057】
本実施例により、65個のアミノ酸からなるペプチド(リンカー+ACID+TEV切断部位)が挿入されたコアタンパク質で構成されるCLPも、特異的に切断されているにもかかわらず、粒子構造が保持されることが示された。
【0058】
(実施例3)
別の実施例として、ボレリア・ブルグドルフェリOspAタンパク質の18位〜273位のアミノ酸配列を含有するコアタンパク質を用いた上記と同様の実験を示す。これに対応するTEV切断部位のないコアタンパク質については、Nassalらによる2005年の論文に記載がある。このタンパク質では、規則的な粒子を形成したのはごく一部にすぎなかった。この結果は、ショ糖密度勾配遠心法で広い分布が見られたことからも明らかだった。このような切断されないワクチンは、限られた程度でしか用いることができない。さらに、調製物の少なくとも一部をCLPとして得るためには、非常に長いリンカー配列を付加することが必要であり、その上、このリンカー配列は内因性の望ましくない抗原性を有する可能性があるため、このような切断されないワクチンを医学的にヒトに適用するのは困難であった。
【0059】
TEV切断部位を導入した後、実施例2と同様にTEVプロテアーゼで融合タンパク質を処理し、次いで、ショ糖密度勾配遠心法で沈殿させた。この場合も特異的な切断が生じたが、融合タンパク質は、完全には切断されなかった(OspAによる立体障害により、プロテアーゼのTEV切断部位への接触が困難だったと推測される)。N末端コア部分またはC末端コア部分を特異的に認識するモノクローナル抗体によって断片を分類すると、結果として、a−コアN抗体は、切断されていない融合タンパク質およびN末端側切断断片に反応する。このタンパク質は、部分的に切断されているにもかかわらず粒子特有の泳動挙動を示した。これらのデータより、コアキャリアと、挿入された外来タンパク質との結合部2箇所のうちいずれか一方が開裂することによって、粒子形成が著しく向上したことがわかる。
【0060】
本実施例によって、大きな外来タンパク質(255個のアミノ酸からなるOspA+リンカー+TEV切断部位)が挿入されたコア融合タンパク質は、効率的とは言えないが、特異的に切断されることが示された。前述の一続きのコアOspA融合タンパク質は、濃度勾配全体にわたって広く分布するが(Nassalら、2005年)、(部分的に)切断された融合タンパク質は、粒子特有の濃度勾配画分に明らかに集中している。これは、切断によって粒子形成の効率が向上していることを示している。
【0061】
さらに別の実験より、(互換性のあるプラスミドによって)共発現されたTEVプロテアーゼは、TEV切断部位を有するコア融合タンパク質を切断し、場合によっては、続いてin vitro切断するよりも効率的に切断できることが示されている。微生物の体内で既に切断された融合タンパク質を、ショ糖密度勾配遠心法で沈殿させることにより、粒子形成も確認された。実施例1〜実施例3は、既に形成されたCLPが、c/e1エピトープの領域が切断された後も、完全なまま保たれることを示している。スパイクを形成する2つのヘリックス間をつなぐループは、それ自体構造的な機能を持たず、そのような機能を持つとも考えられないことから、この実験結果を構造的にも説明することができる。この結果を得たことが、一続きのタンパク質鎖を続いて切断する代わりに、別々のタンパク質断片としてコアN部分とコアC部分を直接発現させ、これらの断片が自然に結合して粒子を形成するといったさらに好ましい実施形態につながることになった。この手法には少なくとも3つの本質的な長所が挙げられる。
(i) TEVプロテアーゼ(または他のプロテアーゼ)によるさらなる切断工程が不要となり、手法が簡略化されること。
(ii) 特定のプロテアーゼ認識配列ペプチドを融合タンパク質に付加する必要がなくなること。
(iii) OspAのような立体構造上好ましくない外来タンパク質が挿入された融合タンパク質を部分的にでも粒子形成させるには、非常に長いリンカー配列が必要であったが、外来タンパク質がコアキャリアタンパク質と両末端で結合する必要がなくなることにより立体障害が回避され、長いリンカーが不要になること。
【0062】
付加する配列は、いかなる配列であっても、予測不可能な免疫学的影響をもたらす可能性がある(付加した配列によって新たなエピトープが出現し、内因性のエピトープと交差反応することがある)ので、(ii)および(iii)は、ワクチンへ応用する上で特に重要である。
【0063】
(実施例4)
コアN断片とコアC断片をほぼ等モル発現するための発現コンストラクト
当然のことながら、一続きのペプチド鎖は、後の切断により生じる2つの切断産物を等モル量含んでいる。したがって、2つの部分を別々に発現させる場合も同様に、2つの部分をほぼ等モル量生成することによって効率的に結合させるのがよい。第1の実験において、キャリアタンパク質の2つの部分を発現させるために、互換性のある2つの別個のプラスミドを使用したが、並みの成功確率しか得られなかった。
【0064】
好ましい実施形態において、バイシストロン性のベクターを使用する。バイシストロン性のベクターには、別の抗生物質(別の方法の場合には、第2のプラスミドが必要となり、このプラスミドを維持するために使用する)による選択を実施する必要がないという長所もある。
【0065】
タイプ1のコンストラクトは、共有プロモーター(ここでは、T7ファージRNAポリメラーゼプロモーター)の下流に、それぞれリボソーム結合部位(RBS;シャイン−ダルガルノ配列)を上流に有する2つの発現カセットを含有する。ここに示すベクターでは、アミノ酸プロリン79(P79)の下流にある人工的な終止コドンによって、コアN断片の翻訳が終了する。また、アミノ酸セリン81(S81)の上流にある人工的な開始コドンによって、第2の断片の翻訳が開始される。この種のオペロン構造は、微生物でよく見られる(「ポリシストロン性mRNA」;mRNAの各RBSに対して比較的独立してリボソームが結合し、3’末端から遺伝子の翻訳を開始する)。ここに示すコンストラクトにおいて、第2のRBSは、もともとpETベクターが持っている第1のRBSと全く同一のものである。もちろん同様に、RBS配列をさらに含有することも可能である。第2のシストロンの開始コドンATGは、外来配列のクローニングを容易に行うために設けたNde切断部位(CATATG)の一部である。
【0066】
タイプ2のコンストラクト(「終止/開始」)は、別のRBSを含有しない、すなわち第2のRBSを含有しない。正確に述べると、下流の遺伝子(NNA TGA)の開始コドンは、リーディングフレームが1つシフトした状態で、上流の遺伝子(NNN TGA)の終止コドンと重複している。この場合、リボソームは第1の遺伝子を解読した後、このまま第2の遺伝子のATGから翻訳を再開することができる。このような配列構造により、2つの遺伝子を共発現することができる。バクテリオファージの中には、同様の「終止/開始」の配列構造が見られるものもある。また、前記配列構造は、ある真核生物の非LTR型レトロトランスポゾン(ORF1/ORF2ジャンクション領域)でも使われている。例えば大腸菌Trpオペロンにおける公知の配列に基づいた、終止/開始コドンが隣接または重複している他の組み合わせ(例えばTAA TG, TGA TG,など)も同様に好適である。
【0067】
図3は、好ましい発現ベクターを概略的に示したものである。
【0068】
上段:タイプ1のコンストラクト。
プロモーター、例えばT7RNAポリメラーゼのプロモーターによって、バイシストロン性mRNAの転写が起こる(効率的に転写を終了させるために、3’末端にターミネーター配列を挿入してもよい)。第1のシストロンは、HBVコアタンパク質の1位〜79位のアミノ酸配列をコードする。上流のリボソーム結合部位(RBS1)によって、翻訳が開始される(大小それぞれのリボソームサブユニットを卵形で表示)。終止コドンは、P79を表すコドンの3’末端の下流に位置する。コアC断片の翻訳を開始するための、もう一つのRBS(RBS2)が、第2のシストロンの5’末端に位置する。この断片自体も開始コドン(ATG)を有する。この例に示すように、コアC配列はAla80から始まり、140位、好ましくは149位、または本来の末端に相当する183位のアミノ酸まで伸長されていてもよい。140位より下流、好ましくは149位より下流のアミノ酸配列を、外来配列で置換してもよい。
【0069】
下段:タイプ2のコンストラクト。
このコンストラクトは、第1のシストロンの上流にRBSを1つだけ含有している。例に示すように、コアNの終止コドン(TGA)と重複するコアCの人工的な開始コドン(ATG)により、翻訳が再開され、コアC断片が翻訳される。この例では、コアC配列はSer81から始まる。
【0070】
コアタンパク質の77位、78位および79位のアミノ酸は、それぞれグルタミン酸(E;対応するコドンはGAAまたはGAG)、アスパラギン酸(D;対応するコドンはGACまたはGAT)、およびアミノ酸79プロリン(P;対応するコドンはCCN)である。ここに示すタイプ1コンストラクトにおいて、アミノ酸配列EDPとして、ヌクレオチド配列GAG GAT CCNを選択した。この配列によって、BamHI切断部位(GGATCC)が生じる。この唯一存在するBamHI切断部位によって、コアNとコアCをそれぞれコードするDNA断片を簡単にクローニングできる。プロリンに相当するコドンCCNのヌクレオチドNは、限定されない。終止コドンとしては、TAA,TAGまたはTGAが挙げられる。
【0071】
タイプ2コンストラクトにおける第1の遺伝子の末端部分の配列は、G GAT CCa TGAである。この配列には、コアNまたはコアCを別々にコードするDNA断片をクローニングするための、BamHI切断部位(下線で表示)も含まれる。ここに示すタイプ2コンストラクトには、P79としてコドンCCaが含まれており、終止コドンは、第2の遺伝子と重複して開始コドンATGを生じるために、TGAでなければならない(よって、CCa TGaとなる)。よって、第2の遺伝子において、開始コドンATGの次に位置する第1のアミノ酸のコドンは、Aで始まらなければならない。他の「終止/開始」ヌクレオチド配列としては、大腸菌Trpオペロンと同様に、TrpEとTrpDとの間またはTrpBとTrpAとの間に位置するTGA TGまたはTAA TGが挙げられる(Das and Yanofsky(1989), Nucl. Acids Res.,pp.9333−9340;Oppenheim and Yanofsky(1960),Genetics,pp.785−795)。
【0072】
ここに示すベクター(pET28a2−xxx)の基本構成は、市販のベクターpET−28のカナマイシン耐性遺伝子をアンピシリン耐性遺伝子で置換したものに基づいている。しかし、他のベクターの基本構成要素(他の複製開始点、他の耐性遺伝子、他のプロモーター、他のRBSなど)ももちろん適用できる。2つの別個のRBS、または「終止/開始」配列構造を用いて、コアNおよびコアCをそれぞれコードする遺伝子のバイシストロン性配列構造を作製することは不可欠である。我々が行った実験において、タイプ1およびタイプ2コンストラクトのいずれも、複数の分割コアタンパク質を発現することが可能であった。ただし、タイプ2(終止/開始)コンストラクトの数はタイプ1より少なく、しかもタイプ2コンストラクトでは配列の多様性に乏しい(上記参照)。したがって、タイプ1コンストラクトの方がより広い範囲で適用可能である。
【0073】
プロリンが特にプロテアーゼ耐性であるため断片の分解が最小限に抑えられるので、コアN部分のC末端アミノ酸としてP79を選択した。公知の3次元構造および記載の中央部分の欠失変異体から、以下のことが推測される。
(i) コアN断片の終点が、およそ72位〜74位のアミノ酸、特にGly73に位置する場合、および
(ii) コアC断片の開始点が、およそ78位〜86位(場合により94位グリシンまで可能)のアミノ酸に位置する場合では、ここで選択した条件(コアNの終点がP79、コアCの開始点がS81、上流に開始コドンATGが位置する)を用いた場合と実質的に同じ結果を得ることができる。
【0074】
真核細胞では転写および翻訳機構が異なるため、記載のコンストラクトをこのまま真核細胞で発現させることはできない。この場合、原核生物のプロモーターではなく真核生物のプロモーターを用いる必要がある(例えばCMV−IEなど)。また、ポリアデニル化信号(例えばSV40ウイルスなどに由来するもの)を、オープンリーディングフレームの終点の下流に導入する必要がある。
【0075】
(i)2つのプラスミド(コアNとコアCに対してそれぞれ1つずつ)のコトランスフェクション、
(ii)2つの独立した発現カセットを含むプラスミドのトランスフェクション、および
(iii)機能的にバイシストロン性のmRNAを有するプラスミドのトランスフェクション(例えば、第2の遺伝子は上流の内部リボソーム導入部位(IRES)によって発現される)
によって、真核生物においてコアNおよびコアCをほぼ同等に発現させることができる。
また、
(iv) タイプ2ベクター様の終止/開始配列構造も、真核生物において機能し得る。
【0076】
(実施例5)
別々に発現した野生型コアN断片およびコアC断片による完全なCLPの産生
タイプ1(図3)の発現ベクターを用いて、野生型コアタンパク質の2つの部分を大腸菌BL21細胞で発現させた。野生型コアタンパク質としては、1位〜149位のアミノ酸配列に基づくコアタンパク質、または1位〜183位のアミノ酸配列に基づくコアタンパク質を用いた。予想された2つの断片が産生され、会合して完全なCLPが得られた。このことは、ショ糖密度勾配遠心法および非変性アガロースゲル電気泳動法を用いて確認された。C末端にHis6タグが付加された1位〜183位の一続きのアミノ酸鎖で構成される粒子と、これに対応する分割コアシステムで構成される粒子とを電子顕微鏡を用いて比較(ネガティブ染色)して、CLPの形成を直接確認した。この解決手段では、両者に差は見られなかった。
【0077】
野生型HBV CLPは、非常に強く、様々なモル濃度の尿素に対して耐性がある。C末端切断型のコアタンパク質(1−149)で構成されるCLPは、3〜5M尿素によってダイマーに解離するが、バッファー条件を変える(尿素を取り除く、中性pH、塩濃度を上げる)と、in vitroで再びCLPを形成することができる。分割コアで構成されるCLPの安定性に関して比較実験を行ったところ、分割コアCLPも同様に高い安定性を示した。この結果は、コアN部分とコアC部分が互いに高い親和性を持つことを示すと同時に、外来分子用キャリアシステムとして使用する上で重要である。
【0078】
(実施例6)
野生型コアC断片と、外来タンパク質が融合したコアN断片とを別々に発現させ完全なCLPを産生する、あるいは野生型コアN断片と、外来タンパク質が融合したコアC断片とを別々に発現させ完全なCLPを産生する。
分割コアシステムが、CLPの形成および外来タンパク質の提示に原則として好適であることを実証するために、モデル外来タンパク質としてコアNまたはコアCに融合したGFPを用いた。コアNコンストラクトに、タイプ1(第2のRBSを有する)ベクターまたはタイプ2(終止/開始)ベクターを用いた。生成物をショ糖密度勾配遠心法で沈殿させたところ、すべてのコンストラクトで粒子が形成され、緑色蛍光タンパク質が発現された。
【0079】
このコアN断片およびコアC断片が物理的に結合していることをさらに証明するために、濃度勾配画分を分取して、非変性アガロースゲル電気泳動を行った。この場合、粒子もGFP発色団も完全なままであった。コアNに融合したGFPおよびコアCに融合したGFPのいずれの画分でも、明確な緑色蛍光性のバンドが見られた。会合していないGFP融合タンパク質は、上部に位置する濃度勾配画分に残存し、異なる泳動挙動やより広い分布を示した(180または240サブユニットで構成される粒子と比較すると、実質的により小さな構造であるため、アガロースゲルにおいてより速く移動した)。また、コアNに融合したGFP、およびコアCに融合したGFPのいずれの場合も、緑色蛍光性の(つまり、GFP含有する)バンドから、α−コアC抗体によってコアCが検出された。
【0080】
本実施例によって、下記の2つのことが示された。すなわち、
(i) 分割コアシステムにおいて、約240個のアミノ酸からなる外来タンパク質(本実施例においてはGFP)は、CLPの形成を妨げずにコアNにもコアCにも融合できる。
(ii) タイプ1およびタイプ2の分割コアベクターはいずれも、融合によって外来配列が付加されたコアNおよびコアCの共発現に適している。
【0081】
(実施例7)
分割コアシステムを用いた、CLPによる医学的に重要な外来タンパク質の提示(これは、従来の方法では不可能、または非常に限定的であった)
ボレリア・ブルグドルフェリのOspA
冒頭で説明したように、挿入された外来タンパク質が両末端を介してキャリアタンパク質と結合することは従来のシステムでは必要であるが、このことによって、大幅に位相幾何学的な制限が課せられる。GFPとは異なり、OspAは、自然な状態ではキャリアタンパク質の構造に「適合」しない。したがって、分割コアシステムにおいて、OspAを不都合な構造を有する外来タンパク質の好例として用い、コアNまたはコアCと融合させた。濃度勾配において広い分布を示した前述の一続きのコンストラクト(Nassalら、2005年の論文に記載)とは対照的に、いずれの融合タンパク質も、粒子特有の画分に明確に蓄積した。電子顕微鏡検査法で分析したところ、従来の一続きのコンストラクトと比較して、コアNとOspAの融合、およびコアCとOspAの融合のいずれの場合も、CLPの形成効率が大幅に改善されることが示された。
【0082】
本実施例によって下記のことが示された。
(i) 従来の一続きのコアシステムではCLPの形成の妨げになる構造を持つ外来タンパク質でも、分割コアシステムによって、CLPとして提示することができる。
(ii) 分割コアシステムは、外来タンパク質をコアNおよびコアCのいずれに融合しても、CLPを効率的に形成できる。
【0083】
同様に、本発明の分割コアシステムを用いてボレリア・ブルグドルフェリのOspCを提示させることも可能であった。
【0084】
(実施例8)
マラリア病原体である熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト周囲タンパク質
ワクチンへの応用を考慮すると、別の非常に重要な病原性タンパク質として、マラリア病原体である熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト周囲タンパク質(CSP)が挙げられる。CSP(本明細書で用いられるCSPは、全長319個のアミノ酸からなる)は、約110個のアミノ酸からなる、テトラペプチドNANPモチーフとNVDPモチーフの繰り返し構造を含有している。CSPの構造はまだ知られていない。配列相同性から、トロンボスポンジン−1の繰り返し構造と同様に、4つのシステイン残基を含む約50個のアミノ酸からなるC末端ドメインは折りたたまれている可能性が高い。この繰り返し構造は免疫原性を有するが、他のCSPの領域も、恐らく重要なエピトープを含有している。従来の一続きのコアシステムでは、CLPの状態で全長CSPを調製することは不可能であったが、分割コアシステムでは、非常に容易に達成できた。現在のところ、明確なデータが得られているのは、コアNとCSPを融合した場合である。コアCが、149位までのアミノ酸からなるコンストラクト、および183位までのアミノ酸からなるコンストラクトのいずれであっても、コアCと共発現させることによって、効率的に粒子構造が形成される。
【0085】
一続きのコアシステムまたは分割コアシステムを用いて、一連のコンストラクト(コア1−149およびコア1−183の両方に基づく)、すなわち繰り返し配列のみ含有しているコンストラクト、またはシステインに富んだドメインを持たない切断型CSPを含有しているコンストラクトを調製した。これに加えて、完全長のCSPをコアNと融合させた。マウスを用いた免疫原性に関する比較実験において、上記調製したCLPを用いた。しかし、実験はまだ終了していない。これまでのデータより、分割コアシステムで調製されたワクチンは、優れた特性を持つことが示されている。これは、本発明のキャリアシステムを適用した場合のみ、完全長のCSPがCLPを形成できるという事実に基づく。一方、他のシステムではCLPは形成されない。その結果、本発明のキャリアシステムによって調製されたCSPのワクチンは、優れた免疫原性を有し、特に中和抗体を誘導するだろう。
【0086】
(実施例9)
外来タンパク質用キャリアとしての分割コアCLPは、外来タンパク質に対するB細胞応答性を増強する。
マウスを用いた免疫原性実験で、分割コアシステムによる5つのコア−OspAコンストラクトを、コアと融合していない、脂質付加されたOspA(LipOspA)と比較した。市販のLymerix(ライム病ワクチン)は、脂質付加されたOspAに基づいており、したがって、これがライム病ワクチンの現在の「ゴールドスタンダード」である。LipOspA(トリス−パルミトイル−システイン−(Pam3−Cys))は比較的高い免疫原性を示すが、そのために脂質部分は不可欠である。脂質付加されていないOspAは、非常に弱い免疫原性しか示さない(Nassalら、2005年参照)。コア−OspAコンストラクトのうち3つは、全長OspA(アミノ酸18位〜273位)を含有している。また、残りの2つは、切断型OspA(アミノ酸185位〜273位)を含有している。
【0087】
この目的のために、BALB/cマウスを5匹ずつ6つのグループに分け、各抗原10μgで4回免疫した(0、14、29、49日目)。
グループ1:LipOspA
グループ2:コアNに融合した全長OspA(アミノ酸18位〜273位)とコアアミノ酸81位〜183位のコアC
グループ3:コアNに融合した全長OspA(アミノ酸18位〜273位)とコアアミノ酸81位〜149位のコアC
グループ4:コアNに融合した切断型OspA(アミノ酸185位〜273位)とコアアミノ酸81位〜183位のコアC
グループ5:コアNに融合した切断型OspA(アミノ酸185位〜273位)とコアアミノ酸81位〜149位のコアC
グループ6:コア183のコアCに融合した全長OspA(アミノ酸18位〜273位)とアミノ酸1位〜79位のコアN
【0088】
−1日目(初回免疫の1日前;免疫前血清に相当する)と、8、26、36および57日目に採血を行い、誘導された抗体量を測定した。ELISAによって、産生されたOspA−特異的抗体の血中動態と、各群におけるLA2と同等の抗体の割合を求めた。LA2は、中和作用があることが知られているモノクローナル抗体で、OspAの185位のアミノ酸の下流に位置する不連続なアミノ酸配列からなる複雑な立体構造を有するエピトープを認識する。図4に、この実験の詳細な結果を示す。
【0089】
図4Aは、OspAに対して誘導された総抗体量の血中動態を示す(特異的抗体μg/血清ml)。全長OspA分割コアコンストラクトで免疫したマウスの血清は、2回目の免疫後でも、OspAに対して検出可能なレベルの抗体価を示し、これはLipOspAで免疫した場合の抗体価と同等である。3回目と4回目の免疫後、分割コア全長OspAで免疫したマウスのOspAに対する抗体価は、LipOspAで免疫したマウスのOspAに対する抗体価を顕著に上回っていた。コアCに融合したOspA18−273(グループ6)で免疫した場合の抗体価は、特に高い。コア149およびコア183に融合した切断型OspA185−273(それぞれグループ5および4)は、非常に低いレベルでしかOspA特異的な応答を誘発しなかった。
【0090】
図4Bは、OspAに対する総抗体価を、OspAのC末端領域に位置する公知のLA2中和エピトープに対する抗体価と直接比較したものである。コア149およびコア183を用いた場合、コアNに融合した全長OspA(それぞれグループ2および3)が誘導するLA2と同等の抗体は、LipOspAが誘導する場合より高い抗体価を示したが、コアCに融合した全長OspAは、顕著に低い抗体価を示した。それぞれの中和抗体含有量(ボレリア・ブルグドルフェリ病原体で惹起された場合の防御能力)に関する実験は現在継続中である。
【0091】
本実施例より、分割コアCLPは、提示された全長OspA外来タンパク質に対する特異的抗体を誘導し、その抗体価は、脂質部分が免疫原性にとって不可欠である従来の脂質付加されたLipOspAよりも高いことが示された。コアNに融合したOspAで免疫した場合と、コアCに融合したOspAで免疫した場合とでは、LA2と同等の抗体の割合が異なる(コアN(約30%)、コアC(5%未満))ことから、結合の種類によって産生される抗体の種類に影響が現れることがわかる。これに関しては、実施例10を参照のこと。
【0092】
(実施例10)
コアNまたはコアCと融合することによって、外来タンパク質に対する領域特異的な抗体を特異的に誘導する。
GFPとは異なり、N末端とC末端が互いに近接していないタンパク質は、コアNに融合する場合と、コアCに融合する場合とでは粒子表面における配向性が異なる(コアN:外来タンパク質のC末端が外向きになる;コアC:外来タンパク質のN末端が外向きになる)。このようなタンパク質をB細胞ワクチンとして用いた場合、それぞれ溶媒中で最も遠くに突き出たタンパク部分が、最も強力な抗体産生応答を誘発すると予想される。したがって、外来タンパク質をコアN(外来タンパク質のC末端側が外向き)またはコアC(外来タンパク質のN末端側が外向き)と融合させることによって、異なる領域特異的抗体を誘導できる。
【0093】
図5は、細長い構造の外来タンパク質(本明細書におけるOspAなど)をコアNまたはコアCと融合することによって、外来分子の中でCLPの表面から最も離れて外向きに位置する部分を調べることが可能な方法を概略的に示したものである。十分にマッピングされたOspAのエピトープの1つは、C末端領域に位置するLA2である。モノクローナル中和抗体(LA2)がこれを認識する。予想通りに、OspAがコアNに融合した分割コアOspA CLP(したがって、OspA C末端が露出する)は、LA2と同等の応答を強く誘導したが、OspAがコアCに融合したCLPは、弱い応答しか誘導しなかった。その代わり、OspAの他の領域に対する反応は増強される。
【0094】
外来タンパク質としてOspAがコアNに融合することによって、OspAC末端領域のLA2エピトープに接触しやすくなると考えられる。一方、OspAがコアCに融合することによって、これまで十分に免疫学的に特徴づけされていない領域ではあるが、OspAN末端領域に接触しやすくなると考えられる。この考察は、上記のデータ(コアCに融合したOspAでは、OspAに対する総抗体価は非常に高いが、LA2と同等の抗体の抗体価は低い)によって、見事に裏付けられている。
【0095】
このように、分割コアシステムは、コアNと外来タンパク質との融合、およびコアCと外来タンパク質との融合のいずれにおいても、高い免疫増強作用を有する。
【0096】
結合部位(コアNまたはコアC)を選択することにより、誘導される抗体の種類/領域特異性を調整できる。ワクチン接種によって最良の結果を得るためには、異種外来アミノ酸配列の一方の部分がコアN部分に融合した分割コアワクチンと、もう一方の部分がコアC部分に融合した分割コアワクチンとの混合物を使用してもよい。これにより、種々のエピトープを最適に提示することができる。
【0097】
(実施例11)
ワクチン応用以外の意義を有する融合
このようなキャリアプラットフォームは、ペプチドおよび本明細書においては特にタンパク質や抗原ワクチンのために用いる、免疫増強作用を有する粒子状キャリアとして、直接的な意義があるものだが、それ以外にも様々な応用が考えられる。いずれの場合も、提示される多数の分子(180または240)は、互いに対称的に近接して配置される。前記分子が相互作用可能な外来分子(ワクチンは抗体と相互作用する特例である)である場合、この外来分子の複数のコピーを有する粒子は、モノマーの外来分子と比較して、大幅に親和性が増大する(免疫診断学の分野における、天然IgMペンタマーやMHCテトラマーを参照)。このような相互作用可能な外来分子は、相互作用パートナーと反応できるようにCLP表面上で接触可能な状態でなければならない。従来の一続きのシステムと比較して、分割コアシステムでは、これが実質的に促進される。
【0098】
分割コアシステムで、多くのモデル外来配列を発現したところ、分析したいずれの挿入断片もCLPを形成していた。そのうちいくつかの外来配列に関して、相互作用能力が直接確認された。
【0099】
この分割構造システムによって、CLP表面に新たな末端が生じ、接触可能な状態になるため、さらなる誘導(派生)が可能になる。図6は、コアNに融合したACIDペプチドを含む分割コアダイマーを示す。ACIDペプチドは相補的なBASEペプチドと相互作用することが可能である。前記BASEペプチドが融合した分子Xが、ACID CLPに結合する。この分割構造システムによって、ACIDは柔軟な構造をとることができる。一続きのコアシステムに挿入されたACIDは、BASEペプチドと相互作用するが、ACIDペプチドとBASEペプチドが二重らせん状の強固なコイルドコイル構造を形成するため(O’Sheaら、1993年)、コアキャリアの構造が不安定になり、CLPが崩壊する。一方、分割構造システムでは、CLPは安定して維持される。このカップリングを一般化することができる。ACIDペプチド以外の相互作用可能な分子AをコアNまたはコアCと融合させてもよい。次いで、これに対応するCLPが、Aの特異的な相互作用パートナーであるBと相互作用してもよい。このような相互作用パートナーの組み合わせとしては、His6とNi−NTa、ビオチンアクセプターペプチドとストレプトアビジン、およびZ33と免疫グロブリンが挙げられる。
【0100】
以下に他の可能なカップリングについてより詳細に説明する。
【0101】
a) His6タグ:
His6タグは、Gly2リンカーを介してコアNに融合し、Ni2NTAアガロースと結合する粒子を形成する。一続きのシステムの場合とは異なって、Hisタグには自由に接触できる。一続きのコアシステムのc/e1へ類似の配列(His7)を挿入しても、立体構造上、His6タグ残基への接触が可能でないため、タンパク質はほとんど産生されない。
【0102】
b) ビオチンアクセプター(BA)ペプチド:
ビオチンアクセプター(BA23)は、13個のアミノ酸(GLNDIFEAQKIEWH)からなる人工ペプチドで、大腸菌ビオチンリガーゼであるBirAによりビオチン化される。効率的なビオチン化を行うには、ビオチンアクセプターに対して自由に接触できることが必要である。分割コアシステムでは自由に接触することができるが、一続きのコアシステムでは接触できない、または限られた程度でしか接触できない。分割コア−BA融合タンパク質は、CLPを形成し、大腸菌体内でビオチン化される。このCLPに提示されたビオチンに、アビジン/ストレプトアビジンまたはそれらの複合体が結合できる。
【0103】
c) プロテインAのZ33ドメイン
黄色ブドウ球菌プロテインAは、免疫グロブリンと高い親和性で結合する(免疫沈降で「プロテインAセファロース」として利用されている)。プロテインAは、構造上類似した5つのIg結合ドメインで構成される。Z33は、このようなドメインの一つで、そのアミノ酸配列(全長33個のアミノ酸)は修飾されているが、Igへの高い親和性を維持している(Kd 40nm)。種々のIgと結合するには、構造的な柔軟性も必要だが、さらに接触可能でなければならない。長いリンカー配列を介して、Z33配列をコアNに融合した。
GGGGSGGGVEDGGGGSGGGGT−FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIREDP
【0104】
分割コアシステムによって、CLPが形成された。FITC標識免疫グロブリンを加えて、再び沈殿させたところ、粒子特有の濃度勾配画分に蛍光の一部が検出された。Z33融合の分割コアシステムではなく、野生型コアタンパク質CLPを用いたところ、このような結果は得られなかった。
【0105】
d) ACIDペプチド挿入断片
一続きのコアシステムに挿入されたACIDペプチドは、相補的BASEペプチド(「ベルクロペプチド」)とコイルドコイル構造を形成して、相補的BASEペプチドと相互作用し(O’Sheaら、1993年)、元のコア構造は大幅に変化し崩壊する。これは、ACIDペプチド自体が、コア構造にいかなる応力もかけないように柔軟な構造をとることが原因である。BASEペプチドを添加すると、ACID配列と相互作用し、その結果、2つのペプチド配列がらせん状の強固なコイルドコイル構造をとる。ACID配列が両末端を介して結合しているため、張力が発生する。片側のみ固定されたACIDペプチドは、BASEペプチド、または別のパートナーに融合したBASEペプチドを添加すると、張力を生じることなくこれらのペプチドと相互作用できるだろう。従来の一続きのコアシステムでも、TEVプロテアーゼでコアキャリアとのC末端連結部分を切断すると、ACID融合タンパク質の粒子構造は、完全な状態で維持される。
【0106】
ACID配列が露出した分割コアに、相補的なBASEペプチドに結合している外来タンパク質を付加してもよい。分割コアCLPに、選択された外来分子を後で付加する方法はいくつか考えられるが、この方法はそのうちの一つである。
【0107】
上記詳述されたカップリング機構によって、カップリング構造の一方の部分を有するCLPが得られる。カップリング構造のもう一方の部分に融合したタンパク質は、前記CLPに容易に結合できる。このようにして、例えば免疫系に非ペプチド様構造を提示することができる。
【0108】
e) 異なる外来分子とコアNおよびコアCとの同時融合
先の実施例はいずれも、1つの外来配列をコアNまたはコアCに融合したものである。理論的には、2つの異なる外来分子をそれぞれコアNとコアCに同時に融合させることも可能である。この例としては、2つのサブユニットからなるヘテロダイマー性の外来タンパク質が考えられる。モデルタンパク質として、2つの部分に分けられたGFPを使用した。第1のセグメントは、11本のGFPβ鎖のうち最初の10本を含みコアNと融合しており、第2のセグメントは11番目のGFPβ鎖を含みコアCと融合している。タイプ1ベクターを用いて共発現させることによって、緑色蛍光性のCLPが形成された。このようにして、コアNおよびコアCドメインが会合し、会合可能なCLP構造が得られた。GFPの2つの部分は互いに補いあって正しい3次元構造をとり、GFP発色団を形成した。
【0109】
本実施例により、コアNおよびコアCと2つの異なる外来配列との同時融合が可能であり、その際、分割コアキャリア、およびコアNとコアCに融合した2つの異なる外来配列のいずれも機能的な構造が形成されることが示された。
【0110】
(実施例12)
表面にプロテインGのGB1ドメインを提示する分割コアCLP
別の具体例は、連鎖球菌属の免疫グロブリン結合タンパク質「プロテインG」に存在する「GB1」ドメインのHBV分割コアシステムへの導入である。プロテインGは、プロテインAと機能的に関連している。プロテインGも、複数の類似したドメインから構成される。プロテインAと同様に、プロテインGは免疫グロブリンと結合するが、IgGの種起源およびサブタイプに関してプロテインAとは異なる特異性を有する。プロテインGとプロテインAは、このように相補的な機能を持つため、それぞれ異なる種類の免疫グロブリンと結合することを利用して免疫学的な検出試薬として市販されている。プロテインAと同様に、プロテインG、およびプロテインG由来のGB1ドメインもまた、抗体の定常(Fc)領域に結合する。一方、抗体の可変領域である抗原認識領域は、抗原と結合できるように接触しやすい状態を保っている。このようにして、多くの異なる抗体を結合させることが可能である。
【0111】
本実施例において、分割コアシステムへGB1ドメインを導入したところ、(i)CLPを形成すること、および(ii)GB1を持たないコントロールCLP以外のCLPは様々な抗体と結合できることが示された。
【0112】
上述の実施例と同様に、GB1ドメインをコアNまたはコアCと遺伝子的に融合し、それぞれ融合に用いなかったコアC断片またはコアN断片と共発現させた。
【0113】
具体的に、GB1ドメインは、プロテインG前駆体タンパク質(SwissProt Accession;P06654)の229位〜284位のアミノ酸配列に相当する。その3次元構造は、公知である(PDB Accession:1PGA;Gallagher T,Alexander P,Bryan P,Gililand GL(1994) Two crystal structures of the B1 immunoglobulin−binding domain of streptococcal protein G and comparison with NMR Biochemistry 33: 4721−4729参照)。
coreD78−GGGGSGGGGTQ−YKLILNGKTLKGETTTEAVDAATAEKVFKQYANDNGVDGEWTYDDATKTFTVTEdP
【0114】
上記のGB1ドメインは、G4SG4TQリンカーを介して、コアNと結合している。最後から2番目のアミノ酸(K)を、D(配列中、小文字で表示)で置換した。下流のアミノ酸残基Eは、X線構造解析で目に見える最後のアミノ酸である。KからDへ置換することによって、ヌクレオチドレベルでBamHI切断部位を導入できる(Gag gat cct TAG)。したがって、このBamHI切断部位は前述の複数のコンストラクトと同様の位置にある。
【0115】
他の実施例と同様、効率的に粒子が形成され、このことは、ショ糖密度勾配遠心法による沈殿、非変性アガロースゲル電気泳動による泳動挙動、および電子顕微鏡検査法により確認された。
【0116】
免疫グロブリンとともに粒子をインキュベートし、次いで、ショ糖密度勾配遠心法で再び沈殿させることによって、CLPをキャリアとするGB1ドメインの相互作用能力が確認された。この過程で、抗体は明確に粒子と共沈した。SDSゲル電気泳動後に行ったウエスタンブロット法においてコアN−GB1断片が二次抗体複合体と直接反応した事実から、IgG結合能も確認された。したがって、この修飾を加えたGB1はコアNと融合していても、効率的に再生し、そのリガンドであるIgGと結合できることがわかった。
【0117】
粒子に結合したGB1が、実際に免疫グロブリンと結合することを確認するために、対応するショ糖密度勾配画分を分取して5nmの金標識抗体とインキュベートし、ショ糖密度勾配遠心法で再び沈殿させることによって非結合の抗体を除去した後、粒子画分を電子顕微鏡検査法で分析した。その結果、電子密度の高い金の粒子によって完全なCLPと抗体との結合が示された。
【0118】
(実施例13)
相互作用可能な外来分子を提示し、自己蛍光性のGFPおよびGFP変異体を含有している分割コアCLP
実施例11e)では、ワクチン応用以外の意義を有する融合を例示するために、GFP分子を用いた。このGFP分子は2つの部分(GFPβ1−10およびGFPβ11)に分かれ、GFPβ1−10がコアNに、GFPβ11がコアCに融合した状態で互いに結合して天然のGFP構造(緑色蛍光性)をとり、CLPを形成した。
【0119】
本実施例において、さらに外来配列をGFPβ11に融合した。この外来配列は、すなわちプロテインGのGB1ドメイン、ならびにヒトHBV、アヒルHBVおよびアオサギHBVの表面タンパク質のpreSドメインである。このようなことが可能であるのは、単に、分割構造システムによって新たに生じたGFPβ11のN末端が、分割コアCLPにおける配向特異性によってCLP表面で外向きに位置しているからである。これらの発現プラスミドは、上記の方法と同様、コアN断片およびコアC断片を別々にコードする分割コアベクター(この場合既にコアNとGFPβ1−10、およびコアCとGFPβ11は結合している)を用いて構築した。
【0120】
前出のデータより、GFPβ11セグメントのN末端がCLPの表面から離れて外向きに位置すること、および、したがって別の外来ドメインが存在しても、コアN部分およびコアC部分の粒子構造形成能や、GFPβ1−10部分およびGFPβ11部分の天然GFP構造形成能は、原則として妨げられないことが予想された。図7に、本実施例の結果を概略的に示す。この図のA〜Dは、下記の通りである。
【0121】
A. 2つの部分で構成される融合タンパク質の基本構造。
GFPβ1−10はコアNと融合し、GFPβ11はコアCと融合している。GFPβ11により、新たにN末端が生じるので、このN末端に別のドメイン(本図ではGB1)を融合することができる。
B. 上述の通り、コアNがコアCと相互作用し(CLPの形成)、GFPβ1−10がGFPβ11と相互作用する(GFP発色団の形成)ことによって、自己蛍光性のCLPが生じる。しかも、このCLPは、GB1を接触可能な状態でCLP表面に提示している。
C. 様々な抗体が、Fc領域を介してGB1ドメインと結合することができる。
D. 抗体はそれぞれ異なる可変領域を介して、特異的抗原と相互作用することができる。
このように、分割コアGFP−GB1 CLPは、間接蛍光抗体法で通常用いられる蛍光標識二次抗体の代わりになり得る。図7は、チューブリンの蛍光標識への応用を、2つの異なる細胞を用いて示したものである。抗体が抗原と結合することを利用して、他へ応用することも同様に可能である。
【0122】
ショ糖密度勾配遠心法による沈殿、および非変性アガロースゲル電気泳動の泳動挙動により、さらなる修飾を加えたこれらの断片を大腸菌で効率的に共発現させること、およびこれらの断片からCLPを形成することが実際に可能であることがわかった。さらに、このCLPが典型的なGFP蛍光を示したことから、GFP部分同士も正しく結合していた。本実施例によって、GB1部分もまたCLP表面で正しく折りたたまれ、接触可能な状態であることが示された。
【0123】
自己蛍光性のGB1提示CLPの、抗原に結合した抗体に対する結合能を調べるために、HeLa(ヒト)細胞またはLMH(ニワトリ)細胞を膜透過処理した後、チューブリンに対するマウス一次抗体でインキュベートした。一方は、従来通り化学蛍光標識(Cy2)二次抗体(ヤギ抗マウス抗体)で、もう一方は、自己蛍光性のGB1提示分割コアCLPで上記細胞をインキュベートし、その後洗浄した。最後に、細胞を蛍光顕微鏡で観察した。
【0124】
いずれの場合も、同等の蛍光画像が得られた(予想通り、核を除いて細胞質が染色された)。したがって、GB1ドメインは、チューブリンに結合した抗チューブリン一次抗体と結合することが可能であったと考えられる。
【0125】
このように、自己蛍光性のGB1提示分割コアCLPを、抗原に結合した一次抗体を検出するために従来から使用されている蛍光標識二次抗体複合体の代わりとして使用してもよい。以上の結果から、GB1ドメインがIgGとの相互作用能を維持していることが実証され、これにより、GB1ドメインが正しく折りたたまれていると考えられる。さらに、自己蛍光性のGB1提示CLPを一般的な検出試薬として(蛍光標識二次抗体と同等に)使用できることも実証された。
【0126】
部位特異的突然変異誘発法によって、吸光および発光スペクトルを変更する公知の変異を本発明のGFPコンストラクトへ導入し、色の異なるGFP変異体を有する同様のコンストラクトを得た。具体的には、黄色蛍光タンパク質(YFP)変異体とシアン蛍光タンパク質(CFP)変異体を調製した。いずれの変異体も、それぞれ特有の吸光度スペクトルを示すCLPを形成した。このように、種々の発色団の特性を有する、GB1提示分割コアGFP CLPを生成することが可能であり、このCLPは、マルチカラー免疫蛍光法への応用に適している。
【0127】
分割コアシステムによって、さらに相互作用可能な外来分子を表面に提示する、自己蛍光性のCLPを調製できる。この外来分子がGB1である場合、免疫グロブリンが標的抗原と結合していても、その免疫グロブリンと特異的に相互作用することができる。この結果、ワクチン応用以外の新たな応用として、自己蛍光性のCLPを用いて、種々の抗原を蛍光によって直接検出することができる。このような自己蛍光性の、相互作用可能な分割コアCLPは、診断上および分析的な応用に特に適している。
【0128】
プロテインGに存在するGB1以外の外来ドメインを提示する自己蛍光性の分割コアCLP
上記の結果は、2つの部分からなるGFPが付加された分割コアCLP上に、さらに付加した外来ドメイン(GB1)を機能的な状態(つまり、特定のリガンドであるIgGと相互作用することができる状態)で提示できることを示す。しかし、60個未満のアミノ酸からなるGB1は、比較的小さなドメインである。この手法を一般化できることを確認するために、GB1をヒトHBV(HBV)、アヒルHBV(DHBV)またはアオサギHBV(HHBV)に存在するエンベロープタンパク質のpreSドメインで置換した同様のコンストラクトをそれぞれ調製した。このドメインは、それぞれのウイルスが天然標的細胞(つまり対応する宿主動物の肝細胞)に特異的に結合するのを媒介する。HBVでは108個のアミノ酸、DHBVおよびHHBVでは約160個のアミノ酸からなるpreSドメインは、GB1より明らかに大きく、さらに、それらの配列は互いに異なり、またGB1とも異なる。GB1と同様に、3つのドメインをそれぞれ分割コア−GFP融合タンパク質に挿入した(図7参照;GB1を対応するpreSドメインで置き換える)。ショ糖密度勾配遠心法による沈殿、非変性アガロースゲル電気泳動の泳動挙動、および電子顕微鏡検査法で確認したところ、3つの分割コア−GFP融合タンパク質はすべて効率的にCLPを形成していた。各CLPは、特有のGFP蛍光を示した(つまり、GFP部分同士が結合して、GFPの正しい3次元構造をとっていた)。さらに、HBV−preS CLPおよびDHBV−preS CLPは、HBV preSおよびDHBV preSに対するモノクローナル抗体と反応した。アオサギHBV preSに対するモノクローナル抗体は現在入手できない。
【0129】
別の応用としては、特定のウイルスに対する細胞レセプターを同定することを含む。1つの粒子当たりのpreSドメインの数が多い(240)ので、前記レセプターに対するCLPの親和性は、著しく増大していると考えられる。よって、レセプターは安定した結合状態を保つことができるので、この方法で同定することが可能になる。CLPのGFP蛍光により、蛍光顕微鏡検査法またはFACSを用いて、レセプターを有する細胞が識別される。このような細胞から得られる可溶化されたレセプター分子をCLPとインキュベートした後、ショ糖密度勾配遠心法で沈殿させることよって、レセプター分子は粒子特有の濃度勾配画分に蓄積すると考えられる。
【0130】
(実施例14)
OspAがコアNに融合した分割コアOspA CLPによって誘導されるOspAに対する防御抗体は、LipOspAで誘導される場合より高い抗体価を示し、OspAがコアCに融合した分割コアOspA CLPで誘導される場合の抗体価は低い。
図5に示すように、外来タンパク質をコアNとコアCのいずれに結合させるかによって、提示される外来タンパク質の配向性に狙い通りに影響を与えることができる。したがって、OspAの場合には、モノクローナル抗体LA−2が認識する公知のC末端中和エピトープ(コアNに融合する場合)、およびいかなる公知の中和エピトープも含まないN末端OspA領域(コアCに融合する場合)のいずれかが、特に良好に提示される。図4に示すように、いずれの分割コア−OspA CLP(グループ2はコアNに融合したOspA、グループ6はコアCに融合したOspA)も、OspAに対する総抗体価を示した。しかし、LA−2と同等の抗体の割合は、構造から予想された通り、コアNに融合した場合の方が実質的に高い。
【0131】
しかし、これはin vitroのデータである。誘導された抗体の防御能力を直接in vivoで測定するために、確立されたモデルマウスを用いて、人工的に誘発したボレリア・ブルグドルフェリ感染に対する中和能力をそれぞれの免疫血清について測定した(Nassal et al., European. J. Immunol. 2005; pp. 655−665参照)。適当な免疫血清をSCIDマウスの腹腔内に接種し、それぞれ2時間後に各マウスに10個のスピロヘータを皮下接種して免疫応答を惹起した。これにより、通常、免疫防御されていないマウスは感染し、関節炎様の症状が現われる。左右の脛骨足根骨の関節の診察所見より、この症状を半定量化できる。単に正常マウス血清を接種したマウス群(3匹)をネガティブコントロールとした。公知の中和抗体であるLA2精製モノクローナル抗体を接種したマウス群とLipOspAで誘導される抗体を接種したマウス群(各群6匹)をポジティブコントロールとした。被検群(同様に各群6匹)には、OspAがコアNに融合した分割コアOspA、またはOspAがコアCに融合した分割コアOspAで得られた免疫血清を接種した。群間差を定量化するために、LA2に関しては、まず5μg、次いで1μgで受動免疫を行い、LipOspA、またはOspAがコアNに融合した分割コアOspAでワクチン接種した動物から得られる免疫血清に関しては、上記LA2量に相当する量で受動免疫を行った。図8にこの結果を示す。
【0132】
OspAがコアCに融合した分割コアOspAにより得られた免疫血清は、LA2と同等の抗体の割合が低いため、その抗体価とは無関係に、OspAがコアNに融合した分割コアOspAにより得られた免疫血清と同量の血清を用いた。13、17、21、28、35、45、および52日目に、関節炎スコアを測定した。図8に52日目の結果をまとめた。
【0133】
予想通りに、正常マウス血清を接種した動物は、すべて関節炎を発症した。モノクローナル抗体LA−2の接種量を5μgから1μgに減らすと、感染防御される動物の割合は4/6匹から1/6匹に減少した。一方、LipOspA免疫血清では、6匹中5匹の動物が感染防御された。OspAがコアNに融合した分割コアOspAにより得られた免疫血清で受動免疫したところ、低用量でもすべての動物(6/6匹)が感染防御された。コアCに融合したOspAにより得られた免疫血清は、非常に低い防御作用しか示さなかった(高用量で4/6匹、低用量で1/6匹)。
【0134】
OspAがコアNに融合した分割コアOspA CLPによって産生されるLAと同等の抗体は、抗体価が高く、in vivoでの防御能力を有する。その防御能力は、LipOspAで誘導された抗体を上回る。OspAがコアCに融合した分割コアOspA CLPによって誘導される抗OspA抗体は、総抗体価は高いが、そのうちLA−2と同等の抗体の割合が低いため、低い中和能力しか持たない。このように、外来抗原をコアNに融合すると、コアCに融合した場合とは定量的に明確に異なる免疫応答を示す。
【0135】
(実施例15)
マラリア病原体である熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト周囲タンパク質(CSP)
分割コアシステムを用いた全長CSPは、従来の一続きのコアシステムを用いたCSPの免疫優性の繰り返し配列より、広範囲にわたって強力な免疫応答を誘導する。
【0136】
先に示したように、全長319個のアミノ酸を含む完全長のCSPは、分割コアシステムにおいてのみ発現およびCLPの形成が可能であり、これは従来の一続きのシステムでは不可能だった。従来の一続きのシステムでも、システインに富んだC末端ドメインを持たない切断型CSP(以下、短鎖CSP)を調製することは可能だったが、このタンパク質は、数日後に沈殿する傾向がはっきりと見られた(これは分割コアシステムでは見られなかった)。この事実は、分割コアシステムを用いたCSPが優れたタンパク質化学的性質を有することを立証するものである。
【0137】
CSPの特異性は、テトラペプチドであるNANPモチーフおよびNVDPモチーフによる多重繰り返し構造(本明細書に用いた全長CSPには、24個のNANPモチーフと3個のNVDPモチーフが存在する)が存在することである。これらのモチーフは公知の免疫抗原で、従来の一続きのコアシステムに基づいた試験的なワクチンはこれまで報告されている。よって、これに対応する従来のコンストラクトを免疫原性に関する比較実験用に調製した。このコンストラクトは、コアアミノ酸D78とS81との間に繰り返し配列NANPNVDP(NANP)NVDPを含み、挿入断片が小さいため予想通りにCLPを形成した。前記コンストラクトを用いて、免疫原性実験を行い、全長CSPおよびC末端切断型短鎖CSPと比較した。それぞれ同量(20μg/マウス)のCLPで、マウスを免疫した。免疫の2、4、6および8週間後に産生された抗体量をELISAにより測定した。続いて追加免疫を(初回と同様に)行い、追加免疫の2、4および6週間後に抗体価を再び測定した。キャリアに対するB細胞応答性を調べるために、検体(抗原)として組換えCSP(大腸菌で産生させた融合タンパク質)、NANPペプチドとNVDPペプチド、および組換えHBcAgを用いた。ELISAプレートに抗原を固定し、2倍階段希釈した免疫血清を用いて分析した。図9に、バックグラウンドより高いシグナルが得られた最大希釈倍率を示す。
【0138】
以上より、以下の結論が導かれる。
【0139】
a) 組換えCSPに対するB細胞応答性
3つのいずれの免疫抗原を用いた場合も、CSPに対して非常に強力な反応を示した。ただし、免疫抗原として全長CSPを用いた場合の反応は他よりさらに4倍高く(抗体価:繰り返し構造含有CSPと切断型CSPの1:3×10に対して、1:12×10)、これは、免疫血清を1200万倍希釈(!)しても、CSPタンパク質を認識できることを示す。
【0140】
b) ペプチドNANPおよびNVDP繰り返し構造に対するB細胞応答性
予想された通り、NANPペプチドに対する反応は、すべてのコンストラクトで類似している。繰り返し構造において頻度の低いNVDPペプチドに対する反応は、いずれの場合も同程度であるが、全長CSPのコンストラクトでは、初回免疫後(追加免疫なし)でも、明らかに他より高い(抗体価:他の1:5×10に対して1:2.5×10)。
【0141】
c) 繰り返し構造の中にないCSP配列に対するB細胞応答性
短鎖CSPおよび全長CSPのみが、ペプチドCSP12(EEPSDKHIEQYLKKIQNSLS;分割コア全長コンストラクトの246位〜264位)およびCSP8(GNGIQVRIKPGSANKPKDELD;分割コア全長コンストラクトの274位〜294位)に対する応答を誘導する。一続きのコアシステムを用いた繰り返し構造のペプチドで免疫を行っても、該ペプチドにはCSP8およびCSP12の配列が存在しないため、対応する応答は見られないと考えられる。この結果は、とりわけ分割コアシステムを用いたときのみ全長CSPを産生できるという点で重要である。このように、分割コアシステムを用いることにより、ワクチン接種による防御作用に関わるエピトープを付加し取り扱うことができる。
【0142】
d) コアキャリアに対するB細胞応答性
分割コアシステムの短鎖CSPおよび全長CSPのいずれの場合も、コアキャリアに対する反応は、一続きのシステムの繰り返し構造ペプチドの場合に対して約1/25と非常に弱い(抗体価:一続きのシステムの1:3×10に対して、1:1.25×10)。また、外来タンパク質に対する所望の反応は、一続きのコアシステムの繰り返し構造ペプチドを用いた場合と比較して、少なくとも同程度(短鎖CSPを用いた場合)、あるいはより高い(全長CSPを用いた場合)。このため、挿入された外来配列に対する特異的免疫原性は、分割コアシステムにおいて切断型CSPを用いる方が、また特に全長CSPを用いる方が、実質的に高くなる。さらに、コアキャリアに対して強力な応答が生じると、抗HBsAg陽性者(感染者およびワクチン接種による抗HBsAg陽性者)の鑑別診断がより困難になる。したがって、コアキャリアに対する応答は低いことが望ましい。
【0143】
e) 分割コアシステムの全長CSPによるT細胞の活性化
特異的に免疫したマウスの脾細胞を、組換えHBcAgもしくは公知のT細胞ペプチド(HBc120−140)で、または組換えCSPもしくはCSPペプチドであるNANPおよびCSP8で刺激し、IL−2産生量を測定することによって、T細胞応答が誘導されるかどうかを確認した。いずれのコンストラクトで免疫した場合も、HBcAg、HBc120−140、組換えCSPおよびNANPにより活性可能なT細胞が出現した。しかし、分割コアシステムの全長CSPで免疫したマウスの脾細胞のみが、CSP8ペプチドの刺激によってIL−2を産生することができた。
【0144】
したがって、全長CSPのコンストラクトは、T細胞レベルにおいても、一続きの繰り返し構造ペプチドのみを含有するコンストラクトより広い範囲にわたって応答を誘発する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルスのコアタンパク質のコアNドメインおよびコアCドメインを別々のポリペプチドとして含み、さらに免疫応答を誘発する少なくとも1つの外来分子を含む分割コアキャリアシステムであって、
前記外来分子は、コアNドメインのC末端、またはコアCドメインのN末端に融合し、
前記コアタンパク質は、カプシド様粒子を形成することが可能で、
前記外来分子はコアタンパク質の73位と94位の間に位置するコアタンパク質アミノ酸に融合していることを特徴とする分割コアキャリアシステム。
【請求項2】
B型肝炎ウイルスが、哺乳類特異的であることを特徴とする請求項1に記載の分割コアキャリアシステム。
【請求項3】
コアタンパク質が、ヒトB型肝炎ウイルスの配列を有することを特徴とする請求項2に記載の分割コアキャリアシステム。
【請求項4】
コアタンパク質が、WHVのアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項2に記載の分割コアキャリアシステム。
【請求項5】
外来分子が、病原性細菌のタンパク質のアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分割コアキャリアシステム。
【請求項6】
外来分子が、病原性真核生物のタンパク質、特にマラリア病原体である熱帯熱マラリア原虫のタンパク質のアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分割コアキャリアシステム。
【請求項7】
外来分子が、ウイルスのタンパク質のアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分割コアキャリアシステム。
【請求項8】
外来分子が、病原性に基づく潜在的能力を有するタンパク質、特に腫瘍マーカータンパク質のアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分割コアキャリアシステム。
【請求項9】
外来分子が、
a) ビオチンアクセプターペプチド配列
b) ACIDペプチド配列
c) プロテインA由来のZ33ドメイン配列、および
d) プロテインGのGB1ドメイン配列
からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分割コアキャリアシステム。
【請求項10】
免疫応答を誘発する外来分子、特に外来タンパク質のためのキャリア作製方法であって、
前記キャリアは、第1にB型肝炎ウイルスのコア抗原のタンパク質配列を有し、第2に外来分子、特に異種タンパク質配列を有し、
前記外来分子、特に異種タンパク質配列は、B型肝炎コア領域の73位の下流、または94位の上流でコアNドメインまたはコアCドメインと融合し、
前記キャリアのポリペプチド鎖は、コアNドメインの下流、またはコアCドメインの上流で分断されており、
i)コアNドメインおよび外来分子、特に異種タンパク質配列、またはコアCドメインおよび外来分子、特に異種タンパク質配列を、それぞれ融合タンパク質として発現させるか、または、
ii)コアNと外来分子、特に異種タンパク質配列との間に、またはコアCと外来分子、特に異種タンパク質配列との間にプロテアーゼ認識配列を挿入して分割コアワクチンを発現させた後、使用前にプロテアーゼによって2つのポリペプチドに切断し、
その後続いてカプシド様粒子が形成されることを特徴とするキャリア作製方法。
【請求項11】
融合によって、B型肝炎コア抗原の74位のアミノ酸の下流、または85位のアミノ酸の上流に異種タンパク質配列を付加することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
異種外来タンパク質配列が、少なくとも全長40個のアミノ酸からなることを特徴とする請求項10〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
異種外来タンパク質配列が、少なくとも全長120個のアミノ酸からなることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
バイシストロン性のベクターによって2つのポリペプチドを別々に発現し、第1のポリペプチドはコアNドメインを含み、第2のポリペプチドはコアCドメインを含み、異種タンパク質配列はコアNドメインのC末端またはコアCドメインのN末端に融合していることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかに記載の分割コアキャリアシステムを有するカプシド様粒子を含む医薬。
【請求項16】
ワクチンであることを特徴とする請求項14に記載の医薬。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれかに記載の分割コアキャリアシステムを有するカプシド様粒子を含む診断薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−502658(P2010−502658A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527024(P2009−527024)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006190
【国際公開番号】WO2008/028535
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(501476605)ウニヴェルシテートクリニクム フライブルグ (3)
【Fターム(参考)】