説明

特定タンパク質の糖化割合測定方法及び特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具

【課題】使い捨て測定カード等に適用できる特定タンパク質の糖化割合測定法及び特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具の提供。
【解決手段】当該検査具は、血液中の特定タンパク質の糖化割合を測定するための使い捨て検査具であり、測定すべき血液を導入する血液導入部と、前記血液導入部に連通し、導入された血液に、特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼとを混合し、血液中の特定タンパク質を切断する切断処理部と、前記切断処理部において生成された糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、これらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させると共に、前記切断処理部において生成された非糖化アミノ酸の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させる反応処理部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の特定タンパク質の糖化割合を測定する方法及び同糖化割合の測定用に用いられる使い捨て検査具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、糖尿病患者等の血糖レベルを観察するために血液中のアルブミンの糖化割合(相対濃度)を測定することが行われている。
ここで、アルブミンは血液(血漿)中の主なタンパク質であり、糖化されたアルブミンは糖化アルブミン又はグリコアルブミン(GA)と呼ばれる。アルブミンの糖化割合は、グリコアルブミン濃度とトータルアルブミン濃度との比により決まる。
この糖化アルブミン相対濃度は、過去2〜3週間の血糖レベルの平均と比例するため、糖尿病患者の過去2〜3週間の血糖平均レベルを反映する安定な血糖指標として広く使用されてきている。
また、安定な血糖レベルを反映する他の指標として、ヘモグロビンの糖化割合(HbA1C、相対濃度)及びフルクトサミンの糖化割合(FA、相対濃度)等がある。グリコヘモグロビンは、過去1ヶ月〜2ヶ月の血糖レベルを反映する指標として広く認識され、またフルクトサミンは約過去1〜2週間の血糖レベルを反映する指標と認識されている。
上記した糖化アルブミン相対濃度を測定するためには血液中の糖化アルブミンと総アルブミンとを測定する必要があり、グリコヘモグロビン相対濃度を測定するためには糖化グリコヘモグロビンと総ヘモグロビンとを測定する必要があり、また、フルクトサミン相対濃度を測定するためには、総糖化タンパク質と血漿総タンパク質とを測定する必要がある。
このような糖化アルブミン及び総アルブミン、糖化グリコヘモグロビン及び総ヘモグロビン、又は総糖化タンパク質及び血漿総タンパク質の測定には、通常、液クロマトグラフィ(HPLC)、電気泳動、免疫等の方法が用いられる。
最近ではタンパク質分解酵素プロテアーゼを用いてアルブミンの糖化割合を測定する方法も開発され応用されてきている。
この従来の酵素測定方法では、患者の血液サンプル(血漿、又は血清)にプロテアーゼを混合してアルブミン中の糖化アルブミンを切断し、糖化ε―リジンを生成させる。次に、この糖化ε―リジンをフルクトシルアミンオキシダーゼ(FAOD)酸化酵素で過酸化水素へ酸化し、呈色反応で酸化反応により生成された過酸化水素濃度を測定し、糖化ε―リジンの量を得る。得た糖化ε―リジンの量に基づいて糖化アルブミンの量を求める。そして、別途、同じ血液サンプルを用いて非酵素法の呈色反応でアルブミン総量を測定する。最後に、二つの異なる測定から得られた糖化アルブミンの量と総アルブミンの量との比でアルブミンの糖化割合を求める(特許文献1、2)。ここの総アルブミンの量を測定するための非酵素法では、BCG(ブロムクレゾールグリーン)又はBCP(ブロムクレゾールパープル)等の発色試薬を使用している。この発色試薬を血液中のアルブミンと結合させ、生成する色素の光学的な吸収特性の変化によってアルブミンは測定される。
別の方法として、プロテアーゼを用いて血液中の特定タンパク質から糖化ペプチド及び非糖化ペプチドに切断し、生成された糖化ペプチド及び非糖化ペプチドを分離精製した後に、それぞれ測定し、その比率から特定タンパク質の糖化割合(相対濃度)を得る方法も提案されている(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】WO 02/061119 A1
【特許文献2】特開2001-258593
【特許文献3】特許第2920092号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した従来の特定タンパク質の糖化割合測定方法で用いられるHPLC、電気泳動及び免疫法等は、煩雑な操作及び高価かつ大型な専用装置が必要である。
また、特許文献1及び2に開示された方法は、糖化アルブミンの量と総アルブミンの量とは全く別々の方法で測定するので、煩雑である。又、これらの方法は、アルブミン総量を測定するためにBCG又はBCPのような発色試薬が用いられているが、これらの発色試薬はアルブミンに対する特異性が低いため、交差反応によりアルブミン濃度測定の誤差が生じる場合がある。例えば、低アルブミン血症の血液や、A/G(アルブミン対グロブリンの比)の低い血液では、総アルブミン測定の高値が生じ易い(文献:生物試料分析、2004 Vol.27、No.2, P97;文献:日本臨床検査自動化学会第35回大会抄録集、演題241〜演題246)。このような測定誤差は間接的にアルブミン糖化割合に影響するので好ましくない。また、特許文献1及び2に開示された方法では、糖化アルブミンの量と総アルブミンの量は異なる方法で測定するため使い捨ての測定カード等の検査具では実施することが困難である。
特許文献3に提案された測定方法は、血液とプロテアーゼと反応させて生成された糖化ペプチドと非糖化ペプチドとを分離・精製してから測定する。このため、糖化ペプチドと非糖化ペプチドとを分離・精製工程が必須である。しかし、糖化ペプチド及び非糖化ペプチドの分離・精製処理は非常に煩雑であり、大型な装置及び高価な材料を必要とする。そのため特許文献3に提案された方法は、使い捨ての測定カード等の検査具では実施することが困難である。
一方で、糖尿病患者の血糖レベルを反映する安定な指標としてのタンパク質の糖化割合は定期的に検査する必要があり、使い捨ての測定カード等の簡易検査具により簡単に、かつ、安価に測定することが望ましい。
本発明は、上記した従来の問題点を解決し、使い捨ての測定カード等に適用することが可能な特定タンパク質の糖化割合測定方法及び特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために本発明に係る特定タンパク質の糖化割合測定方法は、血液中の特定タンパク質の糖化割合を測定する方法であって、前記特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼと血液とを混合し、血液中の特定タンパク質から糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを切断すると共に、血液中の特定タンパク質から非糖化アミノ酸及び非糖化ペプチドを切断する工程と、前記切断により生成された糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、これらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させて反応により生成又は消費される物質の濃度を測定する工程Aと、前記切断により生成された非糖化アミノ酸の中の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させて反応により生成又は消費される物質の濃度を測定する工程Bと、前記工程Aと前記工程Bとで測定した生成又は消費される物質の濃度に基づいて特定タンパク質中の糖化タンパクの量及び特定タンパク質の総量を演算する工程と、求めた特定糖化タンパクの量及び特定タンパク質の総量の比率に基づいて特定タンパク質の糖化割合を求める工程とより成ることを特徴とする。
【0006】
好ましくは、プロテアーゼと混合して反応させた後の血液を、二つに分ける工程を有する。その場合には、一方の血液に、特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドに特異的に反応する酸化酵素を混合し、特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと前記酸化酵素との酵素反応により生成又は消費された物質濃度を測定すると共に、他方の血液に、特定の非糖化アミノ酸に特異的に反応する酸化酵素を混合し、特定の非糖化アミノ酸と前記酸化酵素との酵素反応により生成又は消費された物質濃度を測定し、一方の血液から測定した物質濃度と、他方の血液から測定した物質濃度から特定タンパク質中糖化タンパク質の量及び特定タンパク質総量を演算し出し、演算した特定糖化タンパク質の量及び特定タンパク質総量との比率に基づいて特定タンパク質の糖化割合が求められ得る。
【0007】
前記特定タンパク質として、アルブミン、グリコヘモグロビン、又はフルクトサミン等が測定され得る。
タンパク質の種類、使用するタンパク分解酵素プロテアーゼの種類、特異性及び反応条件等によって切断産物が異なる。切断産物の中には、様々な種類の糖化アミノ酸、糖化ペプチド及び非糖化アミノ酸が含まれる。
本発明では、これらの糖化アミノ酸、糖化ペプチド及び非糖化アミノ酸の中から、特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチド、又は特定の非糖化アミノ酸を選択し、それらに特異的に作用する酸化酵素を用いて測定対象物質を測定する。
【0008】
前記プロテアーゼは、
少なくとも、特定タンパク質以外の他タンパク質から測定対象となる特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチド、並びに特定の非糖化アミノ酸を切断せず、血液中の特定のタンパク質に特異的作用し、効率よく、糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを切断すると共に、非糖化アミノ酸及び非糖化ペプチドを切断することができる種のプロテアーゼが用いられ得る。
具体的には、例えば、
動物由来のエラスターゼ、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン等、又は、
植物由来のカリクレイン、フィシン、パパイン、キモパパイン等、又は、
微生物由来のバチルス属由来プロテアーゼ、ズブチリシン、プロテアーゼタイプ-VIII, -IX, -X, -XV, -XXIV, -XXVII, -XXXI(シグマ社)、ナガーゼ(和光純薬)、オリエンターゼー90N、−10NL、−22BF、−Y、−5BL、ヌクレイシン(阪急バイオインタダストリー社)、プロレザー、プロテアーゼ-N、−NL、−S(天野)、プロチンーA、−P、デスキン、デピレイス、ビオソーク、サモアーゼ(大和化成)、ニュートラーゼ、エスペラーゼ、サビナーゼ、アルカラーゼ、ピラーゼ(ノボノルディスクバイオ)、エンチロンーNBS、−SA(洛東)、アルカリプロテアーゼGL440、オプティクリンーM375プラス、−L1000、−ALP440(協和発酵)、ビオプラーゼAPL-30、SP-4FG、XL-416F、AL-15FG(ナガセ)、アロアーゼAP-10、プロテアーゼY(ヤクルト)、コロラーゼーN、−7089、ベロンW(樋口商会)、キラザイムP-1(ロシュ)等
がプロテアーゼとして用いられ得る。
【0009】
特定タンパク質総量は、プロテアーゼ反応により切断された非糖化アミノ酸の中の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素との反応により生成又は消費される物質の濃度に基づいて算出される。
この場合、酸化酵素の種類は限定されることがない。例えば、特定の非糖化アミノ酸として、非糖化リジンを酸化酵素法で測定する場合には、LyODが用いることができる。また、特定の非糖化アミノ酸として非糖化グルタミン酸を酸化酵素法で測定する場合には、グルタミン酸オキシダーゼを用いることができる。
【0010】
特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの量を測定するために用いられる酸化酵素は、測定すべき糖化アミノ酸及び糖化ペプチドに特異的に反応する酸化酵素であれば任意の酸化酵素を利用することができる。具体的には、例えば、特定の糖化アミノ酸が糖化ε―リジンの場合、フルクトシルリジンオキシダーゼ、ケトアミンオキシダーゼ、又はフルクトシルアミンオキシダーゼ等を用いることができる。
プロテアーゼを利用して特定糖化タンパク質を切断する場合、プロテアーゼの種類や反応条件によってアミノ酸配列の切断する箇所が異なる為、生成される産物の中に通常糖化アミノ酸及び糖化ペプチド両方が含まれる。特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチド両方に反応する酸化酵素を使用することにより、より高い感度を得ることができる。
具体的には、特定糖化タンパク質が糖化アルブミンの場合、糖化ε―リジンと糖化ε―リジン残基を含むペプチドと両方に反応する酸化酵素のFPOXを用いる事が好ましい。
これらの酸化酵素の酸化反応により生成した過酸化水素又は消費した酸素の量は、公知の検出手段によって測定する事ができる。例えば過酸化水素を検出する場合、光学的に測定する場合、ペルオキシダーゼ(POD)及び発色試薬を用いた呈色反応を利用し、過酸化水素の濃度に比例した色素の吸光度変化を反射光又は透過光で検出する事ができる。また、電気的に測定する場合、アンペロメトリック電極法等が利用できる。具体的には、貴金属又はカーボン等の作用極と対極(必要に応じて参照極も)から構成した電極に、一定の電位を印加することによって、作用極表面の過酸化水素が酸化される。この電極表面の酸化反応で発生した酸化電流は過酸化水素濃度に比例するので、過酸化水素の濃度を測定する事ができる。
【0011】
使用する酸化酵素の種類によっては、血液中に残留するプロテアーゼの影響を受ける酵素もあるので、必要に応じて、特定タンパク質の切断後の血液に、酸化酵素を混合する前に、プロテアーゼ阻害物質を混合し、プロテアーゼを失活させ得る。プロテアーゼの種類によって、使用する阻害物質の種類も異なる。
例えば、
セリンプロテアーゼの場合は、DFP(ヂイソプロピルフルオロリン酸)、PMSF(フェニルメタンスルホニルフルオリド)等、
チオールプロテアーゼの場合は、NEM(N-エチルマレイミド)、ロイペプチン等、
カルポキシルプロテアーゼの場合は、ペプスタチンA等、又、
メタロプロテアーゼの場合は、EDTA、O-フェナンスロリン、TIMP-1等
が用いられ得る。
また、場合によっては複数種類の阻害物質を選んで混合して使用することもできる。
【0012】
また、酵素法を用いて血液中の特定タンパク質から切断した糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの量を測定する場合、切断前から血液中に遊離している特定の糖化アミノ酸及び/又は特定の糖化ペプチドの影響を受ける事がある。なぜなら、これらの遊離している特定の糖化アミノ酸及び/又は特定の糖化ペプチドが、測定すべき特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと同一物質である場合、これら遊離している特定の糖化アミノ酸及び/又は糖化ペプチドが前記酸化酵素により酸化され、測定目的物質である特定糖化タンパク質から切断した糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの測定に正の誤差を与えることになる。具体的には、例えば、糖化アルブミンを測定する場合、切断前から血液中に遊離する糖化ε―リジン(血液中の内因性糖化ε―リジン及びビタミン製剤由来の糖化アミノ酸)が、測定目的物質である糖化アルブミンから切断した糖化ε―リジンと同様に特異的な酸化酵素と反応する為、酸化酵素としてのFPOXとを混合する時に、切断前から血液中に遊離していた糖化ε―リジンもFPOXにより酸化されてしまうため、結果として、糖化アルブミン濃度測定に正の誤差を与えることになる。
そのため、血液とプロテアーゼを混合する前に、必要に応じて、予め血液中に遊離する特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを除去する工程を設け、血液中に遊離する特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを除去しておくことができる。具体的な方法としては、公知の夾雑物質除去する方法が用いられ得る。
例えば、文献(生体成分の酵素的分析法、P205、村地孝著、講談社出版、1985)に記載されている方法がある。例えば、予め、血液をFPOX、POD、及びカタラーゼと混合させ、血液中に遊離する特定の糖化アミノ酸(糖化ε―リジン)及び特定の糖化ペプチドを過酸化水素へ変換する。さらに、生成された過酸化水素をカタラーゼにより消費させる。残ったカタラーゼは次の工程においてアジ化ナトリウムを混合することにより失活させることができる。また、残ったFPOXは、次の工程において混合されるプロテアーゼにより失活される。これにより、以降の処理工程に影響を及ぼすことなく、血液中の内因性特定糖化アミノ酸及び特定糖化ペプチドを血液から除去することができる。
同文献(生体成分の酵素的分析法、P205、村地孝著、講談社出版、1985)には、もう一つの内因性物質除去する方法が開示されている。具体的には、例えば、FPOX-POD-TOOS-4AA発色系を利用して糖化ε―リジンを測定する場合、まず、FPOX、POD、TOOS(4AA除き)を検体と混合させ、FPOXと血液中に遊離する糖化ε―リジンとを反応させる。生成した過酸化水素はPOD-TOOSと反応して測定に影響しない物質へ変化させる。4AAはプロテアーゼ反応の後に測定系に添加してから発色させるので、血液中遊離する内因性糖化ε―リジンの影響を受けずに正確に測定する事ができる。
【0013】
また、酵素法を用いて特定の非糖化アミノ酸を測定して特定タンパク質の総量を測定する場合、血液中に遊離する特定の非糖化アミノ酸の影響を受ける場合がある。
例えば、プロテアーゼとアルブミンの反応で切断したリジンを測定してアルブミンの濃度を定量する場合、血液中に切断前から遊離している内因性リジンが存在していると、測定に正の誤差を与える。
本発明に係る測定方法では、血液とプロテアーゼを混合する前に、必要に応じて、予め血液中に遊離する特定アミノ酸を除去する工程を設け、血液中に遊離する特定のアミノ酸を除去しておくことができる。
具体的には、特定タンパク質がアルブミンの場合、血液とプロテアーゼとを混合させる前に、血液中に遊離するリジンをイオン交換法で除去する方法がある。具体的には、リジンは酸性又は中性溶媒の中にはプラスチャージを持つ為、陽イオン交換樹脂を用いてイオン交換法で除去する事ができる。
【0014】
また、本発明に係る特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具は、測定すべき血液を導入する血液導入部と、前記血液導入部に連通し、血液導入部から導入されてきた血液に、特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼとを混合し、血液中の特定タンパク質から糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを切断すると共に、血液中の特定タンパク質から非糖化アミノ酸及び非糖化ペプチドを切断する切断処理部と、前記切断処理部において生成された糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、これらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させると共に、前記切断処理部において生成された非糖化アミノ酸の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させる少なくとも一つの反応処理部とを備えていることを特徴とする
この構成により、適当な分析装置を用いて、反応処理部において特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、それらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させることにより生成又は消費される物質の濃度を測定すると共に、特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させることにより生成又は消費される物質の濃度を測定することができる。そして、両方の測定結果の比率から特定タンパク質の糖化割合を得ることができる。
【0015】
前記切断処理部にて血液に混合されるプロテアーゼは、例えば、特定タンパク質がアルブミンの場合、血液中の糖化アルブミンから、少なくとも、糖化ε―リジン及び糖化ε―リジン残基を含むペプチドを切断すると共に、血液中のアルブミンから非糖化リジンを切断することができるプロテアーゼであり得る。プロテアーゼの種類は限定されることなく、特定タンパク質に対して特異的に切断性が高いものであれば任意のプロテアーゼが用いられ得る。
【0016】
また、プロテアーゼは、切断処理部に予め設けられ、切断処理部に血液が導入されると自動的にプロテアーゼが血液に混合されるように構成され得る。しかし、本発明に係る検査具は、この構成に限定されることなく、必要に応じて、切断処理部に切断処理部の外部からプロテアーゼを供給するように構成してもよい。
【0017】
前記反応処理部は、必要に応じて、二つの分離した第1反応処理部及び第2反応処理部で構成され得る。特定タンパク質がアルブミンであり、特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドが糖化ε―リジン及び糖化ε―リジン残基を含むペプチドである場合、前記第1反応処理部では酸化酵素としてFPOX が混合され得る。また、特定の非糖化アミノ酸が非糖化リジンである場合には、第2反応処理部では酸化酵素としてLyODが混合され得る。
これらの酸化酵素は、予め第1反応処理部及び第2反応処理部内に設けられ、血液が各処理部に導入されると自動的に酸化酵素が血液に混合されるように構成され得る。しかし、本発明に係る検査具は、この構成に限定されることなく、必要に応じて、第1反応処理部に第1反応処理部の外部からFPOX等の酸化酵素を供給するように構成してもよく、また、第2反応処理部に第2反応処理部の外部からLyOD等の酸化酵素を供給するように構成してもよい。
【0018】
本発明は、使用する酸化酵素によって血液中に残留するプロテアーゼの影響を受けることもあるので、必要に応じて、前記切断処理部と反応処理部との間にプロテアーゼ失活処理部を設け、プロテアーゼ失活処理部内で切断処理部にて処理された血液にプロテアーゼ阻害物質を混合し、血液中に残留するプロテアーゼを失活させるように構成してもよい。
プロテアーゼ阻害物質は、予めプロテアーゼ失活処理部部内に設けられ得るが、本発明に係る検査具は、この構成に限定されることなく、必要に応じて、プロテアーゼ失活処理部の外部からプロテアーゼ失活処理部内にプロテアーゼ阻害物質を供給するように構成してもよい。
【0019】
また、本発明に係る検査具は、血液中遊離する特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドからの影響を解決する為に、切断処理部の前、好ましくは、血球分離工程と切断処理部との間に、血液中に遊離する特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを除去する処理部を設け、血液中に遊離する特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを除去することができる。具体的には、特定タンパク質がアルブミンであり、特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドが糖化ε―リジン及び糖化ε―リジン残基を含むペプチドである場合、血球濾過層の下に、FPOX、POD及びカタラーゼを含有する処理層を設け、血液が前記FPOX、POD、及びカタラーゼ含有層を通過する時に、血液中に遊離する糖化リジン及び糖化ペプチドを過酸化水素へ変換し、カタラーゼにより生成された過酸化水素を消費するように構成され得る。残ったカタラーゼは切断処理部内にアジ化ナトリウムを設けておけば、このアジ化ナトリウムにより失活させることができる。また、残ったFPOXは切断処理部にて混合されるプロテアーゼにより失活するので、この以降の反応に影響しない。
もう一つの具体的な方法としては、例えばFPOX-POD-TOOS-4AA発色系を利用して糖化アルブミン割合を測定する場合、まず、FPOX、POD、TOOSを血液と混合させ、FPOXと血液中に遊離する糖化ε―リジン及び糖化ε―リジン残基を含むペプチドと反応させる。生成した過酸化水素はPOD-TOOSと反応して測定に影響しない物質へ変化させる。4AAはプロテアーゼ反応の後に測定系に添加すれば、血液中遊離する内因性糖化ε―リジンの影響を受けずに正確に測定することができる。
【0020】
また、本発明に係る検査具は、血液中に遊離する特定の非糖化アミノ酸の影響を解決する為、血液とプロテアーゼを混合する前、好ましくは、血球分離工程と切断処理部との間に、血液中に遊離する特定のアミノ酸を除去する処理部を設け、血液中に遊離する特定のアミノ酸を除去するように構成することができる。
具体的には、特定タンパク質がアルブミンであり、特定の非糖化アミノ酸が非糖化リジンである場合には、血液導入部に血球分離層を設け、該血球分離層の下方に陽イオン交換層を設け、血液中に遊離するリジンを陽イオン交換方法で除去するように構成することができる。
【0021】
また、本発明に係る検査具は、第1反応処理部又は第2反応処理部において酸化酵素を利用して過酸化水素を生成するか酸素を消費されるように構成されている場合、前記生成された過酸化水素又は消費された酸素は、公知の検出手段によって測定され得る。
例えば、光学的に過酸化水素を測定する場合、第1及び第2反応処理部に対応する位置に発光素子及び受光素子により成る測光ユニットを設け、ペルオキシダーゼ(POD)及び発色試薬を用いた呈色反応を利用し、前記測定ユニットにおいて、第1及び第2反応処理部内の血液サンプルの反射光又は透過光を検出することにより、過酸化水素の濃度に比例した色素の吸光度変化を測定することができる。
また、電気化学的に過酸化水素を測定する場合、アンペロメトリック電極法等が利用できる。具体的には、貴金属又はカーボン等の材料の作用極と対極(必要に応じて参照極も)から構成した電極を第1反応処理部又は第2反応処理部に各々設け、電極に、一定の電位を印加することによって、作用極表面の過酸化水素を酸化させる。この電極表面の酸化反応で発生した酸化電流は過酸化水素濃度に比例するので、酸化電流を検出することで過酸化水素の濃度を測定する事ができる。
【0022】
また、本発明に係る検査具は、血液中特定タンパク質の糖化割合を測定すると同時に、他の測定項目を測定するように構成することもできる。
例えば、血液中アルブミン糖化割合の測定とグルコース濃度の測定を同時に実行したい場合、血液導入部と切断処理部との間の流路を分岐させ、分岐された流路に、グルコース測定用試薬を配置したグルコース濃度測定部を設けることで、グルコース濃度の測定を可能にする。この場合、具体的な例としては、グルコース濃度測定部の中に、グルコースに特異的に反応する酸化酵素であるグルコースオキシダーゼ(GOD)と、発色試薬の4AA、TOOSを反応層として配置しておく。分岐された流路から流れてくる血液(血漿)はこれらの試薬と反応し、血液中グルコースの濃度に比例して紫色の色素が生成されるので、生成された色素を光学的に検出することで、グルコース濃度を測定することができる。
このように、血液導入部と切断処理部との間の流路を分岐させ、分岐された流路で別の測定項目を測定するように構成することで、分岐された流路に、糖化割合測定に関連する処理の影響を受けない血液を流すことが可能になる。特に、血液導入部と切断処理部とを繋ぐ流路に、希釈液を供給する希釈液供給部を接続し、血液導入部と切断処理部とを繋ぐ流路に、血液が溜まった状態で同流路に希釈液を供給し、供給された希釈液で同流路に溜まった血液を切断処理部に押し流すように構成した場合、血液導入部と切断処理部との間の流路を分岐させることで、始めに希釈されていない血液を、分岐された流路に流し、次いで、希釈液と共に希釈された血液を切断処理部に流すことも可能になる。これにより、分岐された流路から別の測定項目を測定するための測定部に供給される血液は希釈させることがないため、血液中のグルコース濃度を同時に正確に測定することも可能になる。
また、ここで他の測定項目はグルコースに限定されなく、様々な生化学測定項目の測定を実施することができる。例えば、クレアチニン、尿酸、尿素窒素、コレステロール、乳酸、等が挙げられる。また、必要に応じて、特定糖化タンパク質と複数の生化学項目を同時に測定することもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る特定タンパク質の糖化割合測定方法は、血液中の特定タンパク質の糖化割合を測定する方法であって、前記特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼと血液とを混合し、血液中の特定タンパク質から糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを切断すると共に、血液中の特定タンパク質から非糖化アミノ酸及び非糖化ペプチドを切断する工程と、前記切断により生成された糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、これらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させて反応により生成又は消費される物質の濃度を測定する工程Aと、前記切断により生成された非糖化アミノ酸の中の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させて反応により生成又は消費される物質の濃度を測定する工程Bと、前記工程Aと前記工程Bとで測定した生成又は消費される物質の濃度に基づいて特定タンパク質中の糖化タンパクの量及び特定タンパク質の総量を演算する工程と、求めた特定糖化タンパクの量及び特定タンパク質の総量の比率に基づいて特定タンパク質の糖化割合を求める工程とより成るので、血液とプロテアーゼ反応の混合液から測定対象物質である特定の非糖化アミノ酸及び糖化アミノ酸、並びに特定の糖化ペプチドとを分離精製する工程を必要としない。
従来の測定方法の特定非糖化アミノ酸と特定糖化アミノ酸とを分離精製する工程及び特定非糖化ペプチドと特定糖化ペプチドとを分離精製する工程は、非常に煩雑で大型の装置を必要とするため、これらの工程を必要としない本発明に係る測定方法は、特定タンパク質の糖化割合の測定が非常に簡単に行えるようになるという効果を奏する。また、このように分離精製処理を必要とせず、その結果、複雑な処理構造を備える必要がないため、使い捨てのセンサカード等の検査具にも適用することが可能になる。
また、本発明に係る測定方法は、特定糖化タンパク質の測定と、特定タンパク質総量の測定との両方を、血液とプロテアーゼとの反応から生成した産物に特異的に反応する酸化酵素との反応を利用して測定するため、従来の酵素測定方法と比べ、例えば、特定タンパク質がアルブミンの場合、特異性の低いBCGやBCP発色試薬を使わない為、正確に測定することができる。また、大型、専用装置を必要としなく、簡易測定装置でも容易に、正確に実現することができる。特に、使い捨ての測定カード等の検査具を用いても測定することが可能になるため、より安価に特定タンパク質の糖化割合の測定が可能になる。
【0024】
また、本発明に係る特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具は、測定すべき血液を導入する血液導入部と、前記血液導入部に連通し、血液導入部から導入されてきた血液に、特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼとを混合し、血液中の特定タンパク質から糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを切断すると共に、血液中の特定タンパク質から非糖化アミノ酸及び非糖化ペプチドを切断する切断処理部と、前記切断処理部において生成された糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、これらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させると共に、前記切断処理部において生成された非糖化アミノ酸の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させる少なくとも一つの反応処理部とを備えているので、任意の分析方法を用いて、反応処理部において酸化酵素との反応により消費又は生成される物質の濃度を測定することにより、特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの量と、特定の非糖化アミノ酸の量とを得ることができ、結果として、血液中の特定タンパク質の糖化割合を得ることができる。
本発明に係る検査具は、特定糖化タンパク質の測定と、特定タンパク質総量の測定との両方を、血液とプロテアーゼとの反応から生成した産物に特異的に反応する酸化酵素との反応を利用して測定するため、簡単に、正確に、安価に実現することができる。
また、本発明に係る検査具は、特定タンパク質を切断する切断処理部の混合液から特定非糖化アミノ酸と特定糖化アミノ酸特定糖化ペプチドとを分離精製する構造を備える必要がないので、構造が簡単であり、安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面に示した一実施例を参照して本発明に係る特定タンパク質の糖化割合測定方法及び特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具の実施の形態について説明する。
始めに、アルブミンの糖化割合測定方法を例に挙げて、本発明に係る特定タンパク質の糖化割合測定方法について説明していく。
始めに、糖尿病患者から採血した血液から血球を分離する。そして、血球が分離された血液(血漿)にプロテアーゼを混合させる。
ここで用いられるプロテアーゼとしては、血液中の測定対象であるアルブミン(糖化アルブミンを含む)に効率よく、特異的作用するものであればよい。具体的には、例えば、動物由来プロテアーゼ、植物由来プロテアーゼ、又は微生物由来プロテアーゼ等が用いられる。
プロテアーゼを混合することにより、血液中のアルブミンから糖化アミノ酸及び糖化ペプチドが切断されると共に、血液中のアルブミンから非糖化アミノ酸が切断される。
次いで、血液は二つに分けられ、一方の血液には、
特定の糖化アミノ酸としての糖化ε―リジンと、
特定の糖化ペプチドとしての糖化ε―リジン残基を含むペプチドと
の両方に特異的に反応する酸化酵素であるFPOXが混合され、
他方の血液には、
特定の非糖化アミノ酸である非糖化リジンに特異的に反応する酸化酵素であるLyODが混合される。
酸化酵素を混合することにより、一方の血液では、糖化ε―リジン及び糖化ε―リジン残基を含むペプチドとFPOXとの酸化反応により過酸化水素が生成され、他方の血液では、非糖化リジンとLyODとの酸化反応により過酸化水素が生成される。
次いで、適当な分析装置を用いて、各血液の過酸化水素の量を測定される。そして、これら測定した過酸化水素の量に基づき、予め分析装置本体のメモリに内蔵された標準検量式により糖化アルブミン及び総アルブミンの量に演算される。この糖化アルブミン及び総アルブミンの量は同一の希釈血液で測定された為、両者の比率で血液中のアルブミンの糖化割合を知ることができる。
好ましくは、プロテアーゼと血液との混合切断反応の後に、血液にプロテアーゼ阻害物質を添加し、プロテアーゼを失活させ、その後に、酸化酵素が血液に添加され得る。これにより、酸化酵素がプロテアーゼの影響を受けることがない。
【0026】
次に、図1〜図10に示した実施例を参照して、本発明に係る特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具の実施の形態について説明する。
図1は、特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具の一実施例である使い捨て測定カードの概略上面図である。
この測定カードは、
血球分離層(図示せず)を備えた血液導入部1と、
希釈液パックが設けられた希釈液保持部2と、
希釈されていない血液の反応処理及び測定を行う非希釈血液反応兼測定部3と、
血液と希釈液とを混合すると共に、血液にプロテアーゼを添加するタンパク質分解処理部4(本発明に係る切断処理部)と、
血液にプロテアーゼ阻害物質を添加するプロテアーゼ失活処理部5と、
血液に、酸化酵素としてFPOXを添加する酸化反応処理部6(本発明に係る反応処理部又は第1反応処理部)と、
血液に、酸化酵素としての LyODを添加する酸化反応処理部7(本発明に係る反応処理部又は第2反応処理部)と
を備えている。
血液導入部1に繋がる流路10aと希釈液保持部2に繋がる流路10bには、それぞれ電磁弁11及び12が設けられている。流路10aと10bとは電磁弁11及び12の下流側で合流し流路10cを形成する。流路10cの下流端にはポンプ13が設けられている。
流路10cはポンプ13の上流側で流路10dに枝分かれしている。流路10dには、電磁弁14が設けられている。流路10dの下流端は、非希釈血液反応兼測定部3に接続されている。非希釈血液反応兼測定部3には流路10eが設けられており、この流路10eの下流端には電磁弁15が設けられている。
流路10eは、電磁弁14の下流側で流路10fに枝分かれしている。この流路10fの下流端はタンパク質分解処理部4に接続されている。
タンパク質分解処理部4には、流路10fの他に二つの流路10g及び10hが接続されている。一方の流路10gの下流端には電磁弁16が設けられている。他方の流路10hはプロテアーゼ失活処理部5に接続されている。
プロテアーゼ失活処理部5には二つの流路10i及び10jが接続されている。流路10iは酸化反応処理部6に接続され、流路10jは酸化反応処理部7に接続されている。
酸化反応処理部6には、流路10kが接続されており、この流路10kの下流端には電磁弁17が設けられている。
酸化反応処理部7には、流路10lが接続されており、この流路10lの下流端には電磁弁18が設けられている。
【0027】
上記した希釈液保持部2、タンパク質分解処理部4及びプロテアーゼ失活処理部5は、図2に示すように、何れも、上面又は裏面から適当な押圧手段によって押圧すると若干変形できるように構成されている。分析装置等に設けられた押圧手段で各処理部2、4及び5を押圧することにより、内部の血液が所望の流路に押し流される。
【0028】
次に、上記したように構成された測定カードの作用について説明していく。
始めは電磁弁11、12、14、15、16、17及び18は閉弁されており、ポンプ13も停止している。
図3に示すように、血液を血液導入部1に導入した後、電磁弁11を開弁し、ポンプ13の吸引を開始する。これにより、血液は不図示の血球分離層を介して、流路10aから流路10cに流れ込む。血液が流路10cに満たされた後、ポンプ13は停止され、かつ、電磁弁11は閉弁される。
次に、図4に示すように、電磁弁12、電磁弁14及び電磁弁15が開弁される。この状態で希釈液保持部2が押圧される。希釈液保持部2が押圧されると、内部の希釈液保持パックが開き、希釈液が流路10bを通過して流路10cに流れ込む。そして、希釈液は流路10cに貯まっている血液を押出しながら流路10dに流れる。これにより、希釈されていない血液が非希釈血液反応兼測定部3に満たされる。
非希釈血液反応兼測定部3に血液が満たされると、図5に示すように、電磁弁15が閉弁され、電磁弁16が開弁される。そして、さらに希釈液保持部2を押圧し続けると、血液及び希釈液は共にタンパク質分解処理部4に流れ込む。
タンパク質分解処理部4の内部には、プロテアーゼが設けられており、同処理部4の内部で血液は希釈液と混合されると同時に、プロテアーゼを溶解され、血液と混合される。
タンパク質分解処理部4において、必要に応じて加温処理をしながらプロテアーゼにより、血液中のアルブミンから糖化アミノ酸及び糖化ペプチドが切断されると共に、アルブミンから非糖化アミノ酸が切断される。
次に、図6に示すように、電磁弁12、14及び16が閉弁され、電磁弁17及び18が開弁される。この状態でタンパク質分解処理部4を押圧すると、血液は流路10hを介してプロテアーゼ失活処理部5に流れ込む。
プロテアーゼ失活処理部5には、プロテアーゼ阻害物質が設けられており、このプロテアーゼ阻害物質により、血液中に残留しているプロテアーゼは全て失活される。
さらに、図7に示すように、プロテアーゼ失活処理部5を押圧すると、血液は酸化反応処理部6及び7に流れ込む。
酸化反応処理部6には、FPOXが設けられている。酸化反応処理部6内に血液が流れ込むと、血液にFPOXが混合され、血液中の特定の糖化アミノ酸である糖化ε―リジン及び特定の糖化ペプチドであるε―リジン残基を含むペプチドと、FPOXとが酸化反応を起こし、この酸化反応により過酸化水素が生成される。
酸化反応処理部7には、LyODが設けられている。酸化反応処理部7内に血液が流れ込むと、血液にLyODが混合され、血液中の特定の非糖化アミノ酸である非糖化リジンとLyODとが酸化反応を起こし、この酸化反応により過酸化水素が生成される。
上記した酸化反応処理部6及び7において生成された過酸化水素量は、検出装置により光学的又は電気化学的に測定される。
過酸化水素量を光学的に測定する場合には、各酸化酵素を添加する段階で発色試薬も添加される。測定カード本体は光が透過可能な透明なプラスチック等で成形される。また、過酸化水素量を電気化学的に測定する場合には、測定カードに適当な電極(図示せず)が設けられる。
また、図示されていないが、必要に応じて、血球分離層を設けた血液導入部1の下流にと、タンパク質分解処理部4との間に、血液中に遊離する糖化ε―リジン及び糖化ε―リジン残基を含むペプチド、又は非糖化リジンを処理して除去する処理部を設ける事が出来る。
また、図示されていないが、電磁弁14、15、16、17、18、及びポンプ吸引口13に、吸水性高分子材料を設けることによって、空気と通させ、水や血液等を通せず、電磁弁と合わせて使うと、より安定に液流れをコントロールすることができる。
尚、前記した電磁弁の制御、ポンプの制御及び各処理部の押圧制御、加温処理等は、不図示の分析装置により行われる。
【0029】
図8は、測定カードと分析装置との関係の一例を示す図である。最終的な過酸化水素量の測定を光学的手段により行う場合には、図8に示すように、測定カードを垂直に立てた状態で分析装置にセットできるように分析装置を構成するのが好ましい。
測定カードを横に寝かせた状態で最終的な測定を行おうとすると、図9(a)及び(b)に示すように、酸化反応処理部6及び7に達した血液の量によって、光の透過距離が変わってしまうという問題がある。
しかし、測定カードを垂直に立てた状態で分析装置にセットすることで、図10(a)及び(b)に示すように、酸化反応処理部6及び7に達する血液の量が多くても少なくても、常に同じ光透過距離を得ることができるので、安定した測定を行うことが可能になる。
【0030】
以上説明した実施例では、特定タンパク質としてのアルブミンの糖化割合を測定するために、プロテアーゼを用いて、アルブミンから糖化ε―リジンと、糖化ε―リジン残基を含むペプチド及び非糖化リジンを切断して測定しいるが、測定すべきタンパク質は本実施例に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具の一実施例である使い捨て測定カードの概略上面図である。
【図2】希釈液保持部2、タンパク質分解処理部4及びプロテアーゼ失活処理部5の構成を説明する図である。
【図3】図2に示した測定カードの作用を説明する図である。
【図4】図2に示した測定カードの作用を説明する図である。
【図5】図2に示した測定カードの作用を説明する図である。
【図6】図2に示した測定カードの作用を説明する図である。
【図7】図2に示した測定カードの作用を説明する図である。
【図8】測定カードと分析装置との関係の一例を示す図である。
【図9】(a)及び(b)は測定カードを横に寝かせた状態で最終的な測定を光学的に行う例を示している。
【図10】(a)及び(b)は測定カードを垂直に立てた状態で最終的な測定を光学的に行う例を示している。
【符号の説明】
【0032】
1 血液導入部
2 希釈液保持部
3 非希釈血液反応兼測定部
4 タンパク質分解処理部
5 プロテアーゼ失活処理部
6 酸化反応処理部
7 酸化反応処理部

10a 流路
10b 流路
10c 流路
10d 流路
10e 流路
10f 流路
10g 流路
10h 流路
10i 流路
10j 流路
10k 流路
10l 流路


11 電磁弁
12 電磁弁
13 ポンプ
14 電磁弁
15 電磁弁
16 電磁弁
17 電磁弁
18 電磁弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中の特定タンパク質の糖化割合を測定する方法であって、
前記特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼと血液とを混合し、
血液中の特定タンパク質から糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを切断すると共に、
血液中の特定タンパク質から非糖化アミノ酸及び非糖化ペプチドを切断する
工程と、
前記切断により生成された糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、これらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させて反応により生成又は消費される物質の濃度を測定する工程Aと、
前記切断により生成された非糖化アミノ酸の中の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させて反応により生成又は消費される物質の濃度を測定する工程Bと、
前記工程Aと前記工程Bとで測定した生成又は消費される物質の濃度に基づいて特定タンパク質中の糖化タンパクの量及び特定タンパク質の総量を演算する工程と、
求めた特定糖化タンパクの量及び特定タンパク質の総量の比率に基づいて特定タンパク質の糖化割合を求める工程と
より成ることを特徴とする特定タンパク質の糖化割合測定方法。
【請求項2】
前記特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼと血液とを混合し、血液中の特定タンパク質から糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを切断すると共に、血液中の特定タンパク質から非糖化アミノ酸及び非糖化ペプチドを切断した後に、血液を二つに分ける工程を有し、
一方の血液と、切断により生成された糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、それらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させて、酵素反応により生成又は消費される物質濃度を測定し、
他方の血液と、切断により生成された非糖化アミノ酸の中の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させて、酵素反応により生成又は消費される物質濃度を測定する
ことを特徴とする請求項1に記載の特定タンパク質の糖化割合測定方法。
【請求項3】
前記特定タンパク質がアルブミンである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の糖化割合測定方法。
【請求項4】
特定の糖化アミノ酸が糖化ε―リジンであり、特定の糖化ペプチドが糖化ε―リジン残基を含むペプチドであり、又、特定の非糖化アミノ酸がリジンであり、
糖化ε―リジン及び糖化ε―リジン残基を含むペプチドに特異的に反応する酸化酵素がフルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)であり、
非糖化リジンに特異的に反応する酸化酵素がリジンオキシダーゼ(LyOD)である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の糖化割合測定方法。
【請求項5】
特定タンパク質の切断後の血液に酸化酵素を混合する前に、
前記血液に、プロテアーゼ阻害物質を混合し、プロテアーゼを失活させる工程を含む
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の糖化割合測定方法。
【請求項6】
血液と特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼとを混合する前に、血液中に遊離する特定のアミノ酸を除去する工程を含む
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の糖化割合測定方法。
【請求項7】
血液と特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼとを混合する前に、血液中に遊離する特定の糖化アミノ酸及び特定の糖化ペプチドを除去する工程を含む
ことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の糖化割合測定方法。
【請求項8】
血液中の特定タンパク質の糖化割合を測定するために用いられる使い捨て検査具であって、
測定すべき血液を導入する血液導入部と、
前記血液導入部に連通し、血液導入部から導入されてきた血液に、特定タンパク質に特異的に作用するプロテアーゼとを混合し、血液中の特定タンパク質から糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを切断すると共に、血液中の特定タンパク質から非糖化アミノ酸及び非糖化ペプチドを切断する切断処理部と、
前記切断処理部において生成された糖化アミノ酸及び糖化ペプチドの中の特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、これらに特異的に反応する酸化酵素とを反応させると共に、前記切断処理部において生成された非糖化アミノ酸の特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させる少なくとも一つの反応処理部と
を備えている
ことを特徴とする特定タンパク質の糖化割合測定用使い捨て検査具。
【請求項9】
前記反応処理部が、二つの分離した第1反応処理部及び第2反応処理部を備え、
第1反応処理部及び第2反応処理部が各々と前記切断処理部と連通され、
第1反応処理部が、特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドと、これらと特異的に反応する酸化酵素とを反応させるように構成され、
第2反応処理部が、特定の非糖化アミノ酸と、それに特異的に反応する酸化酵素とを反応させるように構成されている
ことを特徴とする請求項8に記載の使い捨て検査具。
【請求項10】
前記特定タンパク質がアルブミンであり、
前記切断処理部が、アルブミンに特異的に作用するプロテアーゼと血液とを混合するように構成されている
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の使い捨て検査具。
【請求項11】
前記特定の糖化アミノ酸が、糖化ε―リジンであり、
特定の糖化ペプチドが、糖化ε―リジン残基を含むペプチドであり、
第1反応処理部で混合される酸化酵素がフルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)であり、
前記特定の非糖化アミノ酸が、リジンであり、
第2処理部で混合される酸化酵素が、リジンオキシダーゼ(LyOD)である
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の使い捨て検査具。
【請求項12】
前記切断処理部と、前記反応処理部との間に、プロテアーゼ失活処理部を設け、
該プロテアーゼ失活処理部が、切断処理部にて処理された血液にプロテアーゼ阻害物質を混合し、血液中のプロテアーゼを失活させるように構成されている
ことを特徴とする請求項8〜11の何れか一項に記載の使い捨て検査具。
【請求項13】
前記血液導入部と切断処理部との間に、
血液導入部から流れてくる血液の中に遊離する特定の糖化アミノ酸及び糖化ペプチドを除去する処理部が設けられている
ことを特徴とする請求項8〜12の何れか一項に記載の使い捨て検査具。
【請求項14】
前記血液導入部と切断処理部との間に、
血液導入部から流れてくる血液の中に遊離する特定の非糖化アミノ酸を除去する処理部が設けられている
ことを特徴とする請求項8〜13の何れか一項に記載の使い捨て検査具。
【請求項15】
前記反応処理部が、酸化酵素との反応により生成又は消費された物質を光学的手段で検出できるように構成されている
ことを特徴とする請求項8〜14の何れか一項に記載の使い捨て検査具。
【請求項16】
前記反応処理部が、酸化酵素との反応により生成又は消費された物質を電気化学的手段で測定できるように構成されている
ことを特徴とする請求項8〜14の何れか一項に記載の使い捨て検査具。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−61019(P2006−61019A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243976(P2004−243976)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(591086854)株式会社テクノメデイカ (50)
【Fターム(参考)】