説明

特定分子構造により化学物質を検出、分類するセンサ

【課題】本発明は、環境、衛生、防災等の分野で管理すべき低分子化学物質を測定現場において濃縮、分離等の工程を経ずに迅速、かつ高感度に検出できる化学物質検出装置を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために生物が有する嗅覚システムに倣い化学物質の特定分子構造を抗体や分子鋳型によって捕捉することによって当該化学物質を一群の化学物質として分類し、迅速に検出する。また、化学物質が有する複数の特定分子構造の組み合わせにより当該化学物質を化学物質グループとして分類し、検出する。さらに、検出感度の増強方法を付加することで超高感度な検出を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質が有する特定分子構造に基づいて化学物質を群、若しくはグループのレベルで分類することにより当該化学物質を迅速、かつ高感度に検出する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境、衛生、防災等の分野で管理すべき化学物質は非常に多岐に渡り、その種類も極めて多い。例えば、環境ホルモン問題における内分泌攪乱物質、工場跡地の土壌汚染物質、建築資材から発生するアスベスト、食品や容器、若しくはそれらの製造装置から発生する異臭や異味の原因となる化学物質、爆弾テロによる爆発物、そして密輸による覚醒剤等が挙げられる。そのような化学物質の多くは低分子であり、通常測定物中に極めて微量しか含まれていない。しかしながら、それらの化学物質を迅速に、また高感度に検出することは各分野での安全性等を確保する上で極めて重要な作業である。
【0003】
現在の測定技術は、高度に洗練された分離技術、濃縮技術、分析手法の選択等によってppt(1兆分の1)レベル以下であっても様々な化学物質の分析が可能となっている。通常、そのように微量なレベルの分析の場合には検出対象物に合わせた最適な分離、濃縮、定性分析、及び定量分析等の各工程を経なければならない。必然的にそれは、多大な労力と多くの時間、そして高い分析コストを必要とすることになる。したがって、このような複雑多数の工程を必要とする分析手法は研究室内での測定手法として特化したものであり、測定現場における手法としては適していない。
【0004】
測定現場で要求されるのは化学物質をその場で検出できる測定手法である。センサ技術は、そのようなニーズに基づいて分析技術とは異なる技術を発展させてきた。センサ手法では化学物質の簡易、かつ迅速な検出やモニタリングが可能であり、加えて測定装置の小型化も容易である。一方、現在のセンサ技術は分析技術のように高感度で分子の組成解析を行うことができるまでには至っていない。しかし、前述の各分野で検出対象となる化学物質は、測定物中に存在することすら不明の状態から出発することが一般的である。また、例え存在しても通常その量は極めて微量である。したがって、濃縮や分離の組み合わせが測定上必須となるが、そのような工程を経る測定手法は分析手法に他ならず、前述のように測定現場での手法としては馴染まない。また、前述のように現在のセンサ技術の分析能力では、技術的に対応できないという問題があった。
【0005】
ところで、生物は極めて優れた化学物質の識別、検出能力を有している。例えば、生物の嗅覚は、大気中に極微量に存在する匂い物質を瞬時に認識することができる。嗅覚は、鼻腔粘膜等に存在する臭気物質受容体(odorant receptor)が匂い物質を受容し、その受容信号が脳へ伝達され、匂い情報として処理されることによって認識されている。臭気物質受容体は、人で約350種、マウスで約1000種と、多くの種類が知られている(非特許文献1)。このような臭気物質受容体はそれぞれが特定の匂い物質を捕捉しているわけではなく、一つの臭気物質受容体が類似する分子構造を有する複数の匂い物質を捕捉していると言われている。逆に、これは一種類の匂い物質が複数の異なる種類の臭気物質受容体によって捕捉されることを意味している。つまり、生物の嗅覚システムは、一つの匂い物質によって活性化された異なる複数の臭気物質受容体の組み合わせに基づいて、その匂い物質の匂いの質を記憶と照らし合わせて認識しているのである。臭気物質受容体が匂い物質に対して曖昧な認識を行うことができるのは、当該受容体が匂い物質の分子構造全体を厳密に認識しているのではなく、部分的な構造を認識しているためであると考えられている(非特許文献2)。
【0006】
本発明者らは前述の問題を解決するために、生物の嗅覚システムに着目した。すなわち、化学物質を選択的に捕捉することにより濃縮や分離の工程を必要としないシステム、及び化学物質を一群のグループとして検出することで迅速性を高めるシステムに倣いセンサ技術を開発するというものである。実際の測定現場では分子種を特定する詳細な分析結果までは要求されないことが多い。例えば、地雷除去作業では、地雷から発せられる僅かなTNT(trinitrotoluene)を定性分析により時間をかけて特定して、その濃度等を測定する必要などない。重要なのは迅速、かつ高感度な検知である。地雷除去作業では、TNTを芳香族ニトロ化合物に属する化学物質であるというカテゴリーレベルで検出できれば十分と言える。また、TNTと類似する構造を有し、同じ芳香族ニトロ化合物に属するDNT(dinitrotoluene)やDNB(dinitrotobenzen)等と敢えて識別する必要もない。むしろ、それらをまとめて検出できる方が実際の測定現場では有用性が高い。つまり、測定現場においてセンサ装置として使用する場合、化学物質の性質は大まかなグループとして判断できれば十分な場合が多いのである。
【非特許文献1】Buck L. & Axel R., Cell,1991,65,175−187.
【非特許文献2】Malnic B., Hirono J., Sato T., Buck L.B.: Cell,1999,96,713−723.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、検出対象の化学物質が有する部分的な分子構造を捕捉することにより、当該化学物質を迅速に、高感度で、かつ緩やかに識別する化学物質検出方法とその装置を提供することである。本発明の他の課題は、前記検出対象の化学物質を超高感度で検出することのできる化学物質検出方法とその装置を提供することである。発明のさらなる課題は、前記二つの方法を基本として検出対象の化学物質が有する複数の部分的な分子構造を捕捉し、当該検出結果から当該化学物質が属する化学物質グループを特定する化学物質検出方法とその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために生物が有する嗅覚システムに着目し、当該システムに倣った化学物質検出方法の研究を行った。本発明はその研究に基づいて成されたものである。つまり、本発明の化学物質検出方法とその装置は、化学物質の部分的な分子構造を抗体や分子鋳型によって緩やかに捕捉することで、化学物質が有する一の特定分子構造によって当該化学物質を一群の化学物質として分類し、検出するものである。あるいは、化学物質が有する複数の特定分子構造の組み合わせによって当該化学物質を化学物質グループとして分類し、検出するものである。また、本発明の化学物質検出方法は捕捉した化学物質の検出感度を増強可能とすることにより超高感度な検出能力を有するものである。即ち、本発明は以下の発明を提供する。
【0009】
請求項1に記載の本発明は、特定の化学物質を利用して生成した捕捉体であって、前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉可能な捕捉体をその表面に有する分子捕捉部と、分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測部とを有する化学物質検出装置を提供する。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、前記捕捉体が抗体又は分子鋳型であることを特徴とする化学物質検出装置を提供する。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、特定の化学物質を利用して生成した捕捉体であって、前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉可能な捕捉体と、特定の化学物質が有する特定分子構造体を表面に配置した第二捕捉体とを有する分子捕捉部と、分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測部とを有する化学物質検出装置を提供する。
【0012】
請求項4に記載の本発明は、請求項3の捕捉量計測部が間接競合法によって分子捕捉部で捕捉された化学物質の検出感度を増強するように構成されていることを特徴とする化学物質検出装置を提供する。
【0013】
請求項5に記載の本発明は、請求項1から3のいずれか一の捕捉量計測部が置換法によって分子捕捉部で捕捉された化学物質の検出感度を増強するように構成されていることを特徴とする化学物質検出装置を提供する。
【0014】
請求項6に記載の本発明は、前記分子捕捉部が複数の群の化学物質を捕捉するために複数種類あり、既知の化学物質グループが有する特定分子構造を示す情報を蓄積したデータベース部と、前記分子捕捉部で捕捉された化学物質の前記捕捉量計測部による計測結果と、前記データベース部に蓄積された情報とに基づいて、前記分子捕捉部で捕捉された化学物質の属する一以上の化学物質グループを特定するグループ特定部とを有する化学物質検出装置を提供する。
【0015】
請求項7に記載の本発明は、前記分子捕捉部を着脱可能な着脱部を有する化学物質検出装置を提供する。
【0016】
請求項8に記載の本発明は、前記捕捉部計測部における化学物質の定量が表面プラズモン共鳴測定法、水晶振動子マイクロバランス測定法、電気化学インピーダンス法、比色法、又は蛍光法のいずれかの方法で行われることを特徴とする化学物質検出装置を提供する。
【0017】
請求項9に記載の本発明は、前記特定分子構造がベンゼン環、又は/及びいずれかの官能基を構成する分子構造であることを特徴とする化学物質検出装置を提供する。
【0018】
請求項10に記載の本発明は、前記特定の化学物質が揮発性化学物質であることを特徴とする化学物質検出装置を提供する。
【0019】
請求項11に記載の本発明は、特定の化学物質を利用して生成した捕捉体を表面に配置した分子捕捉部において、当該捕捉体によって前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉する分子捕捉工程と、分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測工程とを有する化学物質検出方法を提供する。
【0020】
請求項12に記載の本発明は、前記捕捉量計測工程が、分子捕捉部で捕捉された化学物質の検出感度を増強する検出感度増強工程を含む化学物質検出方法を提供する。
【0021】
そして、請求項13に記載の本発明は、特定の化学物質を利用して生成した捕捉体を特定の化学物質が有する特定分子構造体であり分子捕捉部の表面に配置された第二捕捉体によって、測定物中の検出すべき化学物質との間で捕捉し合う第二分子捕捉工程と、
分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測工程とを有する化学物質検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の化学物質検出方法とその装置によれば、検出対象の化学物質を厳密に特定せず、その化学物質の部分的な構造である特定分子構造を認識することで当該化学物質が属する一群の化学物質として検出することができる。この機能により迅速かつ簡便に検出すべき化学物質の存在の有無を判断することができる。
【0023】
本発明の化学物質検出方法とその装置によれば、検出結果である複数の群の組み合わせから、当該化学物質が属する一以上の化学物質グループを特定することができる。
【0024】
本発明の化学物質検出方法とその装置によれば、捕捉体により濃縮工程や分離工程を必要とすることなく検出すべき化学物質を選択的に検出することができる。
【0025】
本発明の化学物質検出方法とその装置によれば、検出すべき化学物質がpptレベルでも超高感度で検出することができる。
【0026】
本発明の化学物質検出方法とその装置によれば、従来の化学分析装置やセンサ装置では困難であった匂いの質を客観的に評価できる。
【0027】
本発明の化学物質検出装置によれば、最も重要なセンサ部分に相当する分子捕捉部が小型化可能であることから可搬性のある化学物質検出装置を提供できる。
【0028】
本発明の化学物質検出装置によれば、防災分野で特に大きな効果が期待できる。例えば、戦場跡地に設置されたままの地雷の探知や、多発する国際的テロ行為等による航空機内への爆発物の持ち込みの探知、また密輸される麻薬や覚醒剤の探知等が可能となる。従来、これらの探知は地雷犬や麻薬犬と呼ばれる特別な訓練を受けた訓練犬によって行われてきた。しかし、このような訓練犬は量産できず、また一定水準に達する訓練犬一匹を養成するまでには多大な時間と労力を要する。本発明によれば、高い検出感度を有する一定品質以上の化学物質検出装置の量産も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、各発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。
【0030】
以下、実施形態1は、主に請求項1、2、5、及び7から12等に関する。実施形態2は、主に請求項3から5、7から10、及び13に関する。実施形態3は、主に請求項6から10に関する。
【0031】
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要> 実施形態1について説明する。本実施形態の化学物質検出装置は、特定の化学物質を利用して生成した捕捉体をその表面に有する分子捕捉部と当該分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測部とから構成されている。前記捕捉体は、前記特定の化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉することができる。本実施形態の化学物質検出装置は、この技術を基本として化学物質の緩やかな分子認識を行うことを特徴とする。
【0032】
図1に本実施形態の中心となる分子捕捉部の概念の一例を示す。この図で示す分子捕捉部(0101)は、特定の化学物質A(0102)によって生成された捕捉体である抗体(0103)を支持体(0110)上に有している。この抗体は、化学物質Aが有する抗原決定基(0104)を抗原抗体反応によって捕捉可能なことから、測定物中では化学物質Aだけでなく、共通する抗原決定基を有する化学物質B(0105)も捕捉することができる。さらに、この抗体は異なる抗原決定基(0106)を有する化学物質C(0107)をも捕捉することができる。これは、化学物質Cが当該抗体の交差反応性(cross reactivity)によって認識される特定分子構造を有しているためである。この場合の特定分子構造は、抗原決定基の部分構造に相当し、交差反応性も含めて当該抗体によって捕捉される全ての化学物質が共通して有する部分的な化学構造を意味する。このように本実施形態の化学物質検出装置では、化学物質A、B、Cは一の捕捉体(抗体)によって共通する特定分子構造を有する一群の化学物質(0108)として一まとめに選択される。これが、本発明で言う緩やかな分子認識である。
【0033】
<実施形態1:構成> 図2は本実施形態の化学物質検出装置を構成する概念の一例である。この図に示すように、本実施形態の化学物質検出装置(0200)は分子捕捉部(0201)と捕捉量計測部(0202)とを有する。以下、各構成について詳細に説明する。
【0034】
「分子捕捉部」(0201)は、捕捉体(0203)と支持体(0204)とから構成されている。また、当該捕捉体は当該分子捕捉体の表面に配置されている。ここで、「支持体」とは当該捕捉体を担持し、分子捕捉部の主たる形状を成す固相を言う。当該支持体の材質は、一定の形状を保持できるものであれば、特には限定しない。具体的には、プラスチック、金属、ガラス、合成ゴム、セラミックス、耐水処理や強化処理した紙、又はそれらの組み合わせ等が該当する。当該分子捕捉部において捕捉体を有する表面は、当該分子捕捉部の全部であってもよいし、一部であってもよい。
【0035】
分子捕捉部は、別個、独立に作製された捕捉体と支持体とを結合して構成されていてもよい。例えば、捕捉体がタンパク質であり、支持体がガラス基板である場合等が該当する。支持体は異なる構成成分からなる多層で構成されていてもよい。例えば、ガラス基板と、金(Au)の薄膜の二層からなる場合が該当する。捕捉体と支持体との結合方法は、化学物質の捕捉情報を後述する捕捉量計測部へ出力可能なように構成されていれば特に問わない。例えば、両者はお互い直接結合していてもよいし、両者を連結する二以上の他の連結物質を介して結合していてもよい。例えば、結合用介在タンパク質などが該当する。また、分子捕捉部は、同一素材からなる捕捉体と支持体とを一体化して構成されていても良い。例えば、分子鋳型を有する高分子ポリマーそれ自身が支持体を兼ねる場合等が該当する。
【0036】
本実施形態の分子捕捉部は、一の特定分子構造に依存して当該特定分子構造を有する一群の化学物質を捕捉できる。したがって、当該分子捕捉部は同一の特定分子構造を捕捉する捕捉体であれば一以上の種類の捕捉体を有していてもよい。また、当該分子捕捉部は一の化学物質検出装置に複数あってもよい。
【0037】
分子捕捉部は、少なくとも捕捉体を有する表面が測定物に直接接触できるように構成されている。これは、捕捉体が検出すべき化学物質を捕捉できるようにするためである。ここで、「測定物」とは、測定の対象となる気体、若しくは液体を言う。また、「検出すべき化学物質」とは、本発明の化学物質検出装置を用いて測定物の中からその存在を検出したい化学物質、すなわち検出対象の化学物質であって、「一群の化学物質」に含まれる。通常この検出すべき化学物質は、後述する「特定の化学物質」と同義である。
【0038】
「捕捉」とは、結合によって捉えることを言う。当該捕捉は、直接的捕捉、間接的捕捉を問わない。例えば、本実施形態の分子捕捉部の捕捉体による検出すべき化学物質、若しくは一群の化学物質の直接的な捕捉であってもよいし、後述する実施形態2の分子捕捉部のように第二捕捉体を介する検出すべき化学物質、若しくは一群の化学物質の間接的な捕捉であってもよい。
【0039】
「捕捉体」(0203)とは、特定の化学物質を利用して生成したものであって、当該化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉できるものである。当該捕捉体の材質は、特定分子構造に依存して捕捉可能な機能を有するものであれば特に限定しない。例えば、タンパク質であってもよいし、高分子ポリマーであってもよいし、また金属であってもよい。具体的には抗体や分子鋳型などが該当する。
【0040】
「抗体」とは、生体内で生成される特定の抗原に対して反応するタンパク質であって、医学生物学分野における一般的な定義と同一である。当該抗体は、モノクローナル抗体だけでなく、一の特定分子構造に依存して捕捉可能であればポリクローナル抗体であってもよい。
【0041】
本発明で使用する抗体の作製方法は、医学生物分野で広く一般に用いられている方法に準ずればよい。例えば、モノクローナル抗体を作製する場合には、まず、免疫原(抗原)として目的とする特定の化学物質をマウス等に接種して免疫する。一定期間当該免疫原で免疫した後、当該マウスから血清を採取して抗体価を測定する。次に、当該抗体価が一定値に達している場合には、当該マウスからリンパ球(Bリンパ球が好ましい)を採取してミエローマ細胞等との細胞融合を行う。最後に、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞をスクリーニングによって前記融合細胞群から得ればよい。抗体の作製は時間と手間を要する。したがって、コストはかかるが抗体作製の受託サービスを行っている各バイオサイエンス関連企業に委託して作製したものを使用してもよい。なお、本発明の化学物質検出装置では、検出すべき化学物質が低分子である場合が多い。通常、低分子の化学物質には抗原性がなく、当該化学物質単独の接種では目的の抗体は得られない。したがって、低分子である特定の化学物質を抗原とする場合には、血清アルブミン(以下BSAとする。)、卵白アルブミン(以下OVAとする。)、又はスカシ貝ヘモシアニン(以下KLHとする。)等のキャリアタンパク質とコンジュゲートさせた複合体抗原を免疫原として接種することが望ましい。
【0042】
分子捕捉部の支持体に抗体を固定化する方法は、物理的吸着や化学的吸着によって行えばよい。例えば、物理的吸着であれば、支持体の抗体固定化面が金属の場合には金属と有機化合物との高い親和性によって固定化すればよいし、また、化学的吸着であれば、支持体と抗体とをチオール化合物などで架橋して固定化すればよい。
【0043】
なお、抗原抗体反応は通常液相内にて行われることから、捕捉体が抗体の場合には分子捕捉部の抗体は少なくとも測定時には液相中にする。当該液相の厚さは特に限定しない。例えば、測定物が気体の場合には当該抗体が抗原抗体反応をする上で十分なだけ浸漬していれば薄い水膜状の液相であってもよい。また、測定物が液体の場合には当該測定物自体が液相となるため、その液体に直接浸漬すればよい。測定物が気体の場合には検出の対象となり得る気化した化学物質、若しくは気相中の極微小な固体粒子は液相中に取り込まれた後に抗体に捕捉されることとなる。
【0044】
「分子鋳型」とは、機能性モノマーを用いて標的分子の形状や化学的性質を鋳型として記憶させた高分子媒体であり、MIP(molecularly imprinted polymer)とも呼ばれる。当該分子鋳型は標的分子を選択的に認識、捕捉することができる。
【0045】
本発明で使用する分子鋳型の作製方法は、センサ分野等で一般に用いられる分子インプリント法に準ずればよい。例えば、まず、標的分子とイオン結合や水素結合によってクロスリンク可能な機能性モノマーを高分子媒体と共に合成する。次に、標的分子を当該高分子媒体内に固定する。その後、洗浄によって高分子媒体から当該標的分子を除去する。高分子媒体に残ったキャビティー(空間)は標的分子の形状を記憶すると共に、キャビティー内に固定されている機能性モノマーによって化学的認識能も備えている。
【0046】
「特定の化学物質」とは、前記分子捕捉部での捕捉を目的とした化学物質である。例えば、捕捉体が抗体である場合には、当該抗体を作成する際に使用した免疫原が該当し、また捕捉体が分子鋳型である場合には鋳型形成に使用した標的分子が該当する。通常の場合、当該特定の化学物質が後述する特定分子構造を有する一群の化学物質の中で優先的に捕捉される。
【0047】
特定の化学物質は、常温常圧下で気化した状態、又は液体状態(溶媒中に溶解した場合等を含む)で存在する。例えば、揮発性化学物質、電解質、酸、塩基、糖質、脂質、タンパク質等が該当する。また、当該特定の化学物質は、常温常圧下では固体状態でのみ存在可能な物質であっても、気体中、若しくは液体中で微粒子として存在できる化学物質も含むものとする。分子捕捉部に対して腐蝕効果、溶解効果、変性効果等を有する化学物質は特定の化学物質から除くものとする。当該効果を有する物質は通常捕捉体を生成できないためである。例えば、分子捕捉部が高分子ポリマーからなる分子鋳型である場合、当該高分子ポリマーの溶剤の成分である化学物質等が該当する。ただし、希釈等によって捕捉体の生成が可能なレベルにまで当該効果を弱めることが可能な場合や、あるいは捕捉体の材質を変える事により捕捉体の生成が可能となる場合はその限りではない。
【0048】
特定の化学物質の分子量は、捕捉体が捕捉可能な分子量であれば特に限定はしないが、低分子化学物質の検出を主たる目的とする本発明においては、数十から数百程度の低分子であることが好ましい。
【0049】
段落番号0047に挙げた例示の「揮発性化学物質」とは、常温常圧下で比較的容易に気化、若しくは昇華する化学物質を言う。天然に存在する物質、人工的に化学合成された物質のいずれであってもよい。当該揮発性化学物質の臭気の有無は問わないが、匂い物質(臭気性物質:odorant)は揮発性化学物質の典型例である。具体的に匂い物質とは、例えば、精油に含有されるテルペン系化合物や芳香族化合物、トルエンやジクロロメタン等の揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOC)、アンモニア、低級アルコール類、アルデヒド類、二酸化硫黄等の硫化物、ナフタレン等が該当する。
【0050】
「特定分子構造」とは、捕捉体を生成するために用いた一の特定の化学物質が有する全部、又は一部の分子構造であって、当該生成された捕捉体が捕捉することのできる一群の化学物質において、共通して見られる特有の部分分子構造を言う。特定分子構造は、捕捉体を生成するために用いた特定の化学物質の分子構造の部位を限定しない。即ち、当該特定の化学物質における母核の部分であってもよいし、官能基等の側鎖の部分であってもよいし、またそれらの組み合わせであってもよい。具体的には、TNTを特定の化学物質とするとき、特定分子構造は母核のベンゼン環でもよいし、側鎖官能基のニトロ基であってもよいし、トルエンの部分であってもよいし、また、TNTの全体構造であってもよい。
【0051】
「官能基」とは、ある一つの化学物質の集団に共通して含まれ、かつ当該集団において共通した化学的物性や反応性を示す原子団である。例えば、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基、スルホン基、アゾ基などが該当する。
【0052】
捕捉体が抗体や分子鋳型である場合には、前記特定分子構造は必ずしもそれぞれの抗原決定基やキャビティーの形状とは一致しない。なぜなら、抗体や一般的な分子鋳型はいずれも分子選択性に誤差を有しており、異なる分子構造をも選択してしまうためである。抗体や分子鋳型等による標的分子認識には厳密な特異性が要求されるため、通常このような誤差は敬遠視される。しかしながら、本発明においては、むしろこの分子選択性の誤差を積極的に利用して、誤差認識を含めた一群の化学物質として分子認識することを最大の特徴としている。以下、当該誤差について抗体を例に挙げて説明するが、分子鋳型においても同様の理由による。
【0053】
抗体は抗原が有する抗原決定基を抗原抗体反応によって特異的に認識する。しかし、この認識は必ずしも厳密ではなく、若干の誤差(ブレ)を生じる場合がある。交差反応性(cross reactivity)と呼ばれる現象であり、このような反応性を有する抗体は、抗原決定基と構造的に類似する分子構造を有する物質に対しても応答する場合がある。本発明においては、当該抗体の交差反応性によって捕捉された化学物質も検出の対象とする。これは、例え抗原決定基と一致せずとも、類似した分子構造を有する化学物質はその性質も抗原と類似する可能性が高いためである。つまり、類似した分子構造を有する化学物質をある程度の幅を持って認識できるのであれば、それは緩やかな分子認識を目的とする本発明の趣旨に即することになる。したがって、本発明における特定分子構造とは、交差反応性によって捕捉された化学物質をも含めた一群の化学物質が共通して有する分子構造であり、通常その具体的構造は一群の化学物質を構成する全化学物質から導き出される。捕捉体が抗体の場合には、当該特定分子構造は抗原決定基の部分構造であることが多い。
【0054】
図3に、交差反応性を有する抗体による緩やかな分子認識の概念の一例を示す。ジニトロフェノール(dinitrophenol)―グリシン−KLH複合体(以下、DNP−gly−KLHとする。:0301)を免疫原(抗原)として作製された一の抗DNP−gly−KLH抗体(0302)は、抗原決定基(破線部内:0303)を有するDNP−gly(0304)を優先的に認識する(図3で優先性を◎で示す。)。また、抗原決定基と構造的に類似するDNT(dinitrotoluene:0305)や2ADNT(2−amino−4,6−dinitrotoluene:0306)等も交差反応性によって認識できる(図3で認識を○で示す。)。したがって、当該抗体によればDNP−gly、DNT、そして2ADNTが一群の化学物質として一まとめに捕捉されることになる。当該一群の化学物質はいずれも爆発物TNTの派生物質である。このように抗体の特異性が厳密でないことを逆手に利用して緩やかな分子認識を行う事により、抗原決定基を有しない爆発物TNTの派生物質をも検知可能とすることができる。一方、類似した分子構造を有していても、当該抗DNP−gly−KLH抗体では4ADNT(4−amino−2,6−dinitrotoluene:0307)やTNT(0308)を認識できない(図3で非認識を×で示す。)。しかし、このような同属でありながら言わば選に漏れた化学物質があっても問題ではない。なぜなら、本実施形態の特徴は、厳密性を重視しない緩やかな分子認識であり、捕捉された化学物質のみが対象となるという、いわゆるフェイルセーフ的な使用を前提としているからである。なお、図3の例の場合には、一群の化学物質に属する化学物質が上記3つの化学物質に限定されるのであれば、当該特定分子構造はニトロベンゼンのうち2,4いずれか一方のメタ位にニトロ基を有し、パラ位にはメチル基若しくはグリシンの付加を有する構造(0309)であると判断される。
【0055】
「特定分子構造に依存して」とは、特定分子構造を選択してという意味である。当該作用により前記分子捕捉部は測定物中に存在する検出すべき化学物質、若しくは後述する一群の化学物質を濃縮することが可能となる。なぜなら、測定物中から特定分子構造を有する化学物質を選択的に捕捉することは、目的とする化学物質の濃縮に資する事になるからである。
【0056】
「一群の化学物質」とは、一の特定の化学物質を利用して生成された捕捉体によって捕捉される化学物質の集団である。前述のように当該一群の化学物質は、検出すべき化学物質の他、捕捉体の分子選択性の誤差によって捕捉される化学物質も含み、いずれの化学物質も分子構造に共通の特定分子構造を有することを特徴とする。
【0057】
前記分子捕捉部は、「着脱部」によって当該化学物質検出装置から着脱可能なように構成されていてもよい。測定環境、又は、測定物の状態等に応じて最適な分子捕捉部を選択可能にするため、又は一度使用した分子捕捉部の洗浄の手間を省くため、さらに、連続使用によるコンタミの危険性を排除するためである。当該着脱部によって着脱される分子捕捉部は必ずしも全部である必要はなく、例えば、捕捉体を有する一部のみであってもよい。
【0058】
「着脱部」(0205)は、例えば、前記分子捕捉部を化学物質検出装置に固定する固定部材や分子捕捉部との情報の授受を行うための端子等を有していてもよい。また、一の化学物質検出装置が複数の分子捕捉部を有する場合には、当該着脱部も複数あってもよい。
【0059】
「捕捉量計測部」(0202)は前記分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量可能なように構成されている。
【0060】
「化学物質を定量」とは、測定物に前記分子捕捉部を所定の時間曝露した時に、前記一群の化学物質の分子がどれほど捕捉体に捕捉されたかを計測することである。ここで、「所定の時間」とは、定量前に予め決められた任意の一定時間を言う。例えば、1秒間であってもよいし、1分間であってもよい。当該定量は、捕捉体が測定物中に存在する一群の化学物質を捕捉した時の当該捕捉体の動的な変化を電気信号に変換し、その強度等によって捕捉した分子を計測している。捕捉体の動的な変化を電気信号に変換できれば、当該定量の方法は特に限定しない。例えば、表面プラズモン共鳴測定法、水晶振動子マイクロバランス測定法、電気化学インピーダンス法、そして比色法、若しくは蛍光法等であってもよい。これらの方法による定量は、いずれも100ms(0.1秒)以下で測定が可能である。
【0061】
「表面プラズモン共鳴測定法」とは、SPR法(surface plasmon resonance法)とも呼ばれ、金属薄膜へのレーザー光の入射角度の変化に伴って反射光強度が減衰するという表面プラズモン共鳴現象を利用して、当該金属薄膜上への微量の捕捉物を高感度に測定する方法である。
【0062】
「水晶振動子マイクロバランス測定法」とは、QCM法(quartz crystal microbalance法)とも呼ばれ、水晶振動子表面への物質の付着による水晶振動子の共振周波数の変化量に基づいて極微量な付着物を定量的に捕らえる質量測定方法である。
【0063】
「電気化学インピーダンス法」とは、表面分極制御法とも呼ばれ、金属の表面分極を電極電位によって制御することで、電極表面と当該電極表面に付着した物質との相互作用を変化させ、付着した物質に関する情報を引き出す方法である。
【0064】
「比色法」と「蛍光法」は、検出に用いる基質の性質が異なるだけで、その原理はほとんど同じである。即ち、基質が発色物質を生じる場合には比色法、また蛍光物質を生じる場合には蛍光法と呼ぶ。いずれの方法も、検出用プローブとしての基質等を捕捉体、若しくは介在物質等に担持させておき、標的分子との結合を当該基質に基づいた発色濃度や蛍光強度を吸光光度計やルミノメータ等により定量する方法である。当該方法は、捕捉体が抗体の場合には、ELISA法等が該当する。ELISA法は、酵素免疫吸着分析法とも呼ばれる。その原理は、標的分子と結合した一次抗体を、酵素標識された介在物質である二次抗体等を介して、当該酵素の作用により発色物質、若しくは蛍光物質を生じさせて、その発色濃度や蛍光強度によって標的分子を定量するものである。また分子鋳型の場合には、基質プローブ等を担持した機能性モノマーをキャビティー内に有する分子鋳型などが該当する。例えば、標的分子が当該分子鋳型に捕捉されることで、キャビティー内の基質プローブの状態が変化して発色、若しくは蛍光を発するのを利用してその発色濃度や蛍光強度によって標的分子を定量することができる。
【0065】
図4に上記定量方法の一例として表面プラズモン共鳴測定法を用いた場合を説明する。図4のAは当該測定法を用いた場合の分子捕捉部の一例である。ガラス板(0401)上の金(Au)薄膜(0402)の裏面にレーザー光(0403)を照射すると、レーザー光が全反射をすると同時に金薄膜でエバネッセント波(evanescent wave)(0404)が発生する。このとき、金薄膜表面側では表面プラズモン(0405)が発生する。このエバネッセント波と表面プラズモンの波数が一致した時、共鳴により光子エネルギーが表面プラズモンを励起するために使用されることから反射光が減衰する現象が生じる。これはレーザーの入射角度を変化させたとき、それに伴う反射光強度の減衰として捉えることができる。図4のBで示すように入射光強度に対する反射光強度の比率である反射光強度比が最小となる時の入射角度(共鳴角度θとする)(0406)は、金属表面で生じる物質間の相互作用によって影響される。したがって、物質の相互作用をその前後の共鳴角度θの変化として捕らえることができる。例えば、図4のA、及びBで示すように、金薄膜表面に担持させた抗体(0407)が何も捕捉していない状態の共鳴角度をθ(0413)とする時、当該抗体が抗原(0408)である化学物質を捕捉すると共鳴角度がθ(0414)に変化する。この場合、図4のB、及びCで示すように、θとθとの差であるΔθ(0415)の値の変化を見ることにより、抗体が化学物質をどれほど捕捉したかの定量することが可能となる。捕捉体が分子鋳型の場合には、当該分子鋳型を抗体に替えて前記金薄膜上に配置すれば、前記と同様の方法で目的の化学物質を定量することができる。
【0066】
なお、前記他の定量方法はいずれも公知の確立された定量測定方法であり、従来技術に準じて行えばよいので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0067】
また、捕捉量計測部は置換法によって分子捕捉部で捕捉された化学物質の検出感度を増強するように構成されていてもよい。
【0068】
本実施形態の「置換法」は、捕捉体に予め捕捉させた特定分子構造を有する化学物質と、測定物中の検出すべき化学物質との間で生じる捕捉体に対する競合を利用する方法である。例えば、捕捉体が抗体である場合には、当該抗体を支持体に固定しておき、特定分子構造を有する複合体抗原を当該抗体に捕捉させておく。当該状態で検出すべき化学物質を含んだ測定物を分子捕捉部に曝露させると、結合力の差により複合体抗原が抗体から解離し、代わって測定物中の検出すべき化学物質が抗体に捕捉される。この置換反応による変化を前記定量法で測定することができる。例えば、表面プラズモン共鳴測定法であれば、当該置換反応による共鳴角度θの変化を捉えればよい。当該置換法による検出感度の増強は、後述する間接競合法と同様にpptレベルの濃度の化学物質でも検出可能となる。
【0069】
捕捉量計測部で取得される電気信号は通常微弱であることが多いため、取得された電気信号を必要に応じて増幅してもよい。当該増幅は増幅器を当該捕捉量計測部に設置する等の手段により解決できる。また、取得された電気信号がアナログ信号である場合には、当該電気信号を必要に応じてAD変換してもよい。当該AD変換はコンパレータ等のAD変換器を当該捕捉量計測部に設置する等の手段により解決できる。
【0070】
捕捉量計測部は、計測結果を出力可能なように構成されている。測定結果の出力先は特には問わない。例えば、当該計測結果を表示可能なモニタ等の外部表示部に出力してもよいし、後述する実施形態3の場合であればグループ特定部に出力してもよい。例えば、出力形式も問わない。直接配線を介した出力でもよいし、USB端子等の接続端子を設けてケーブルを介した出力でもよい。また、無線によって送出してもよい。
【0071】
<実施形態1:処理の流れ> 本実施形態における化学物質検出装置における処理の流れ、即ち本実施形態の化学物質検出方法について説明する。
【0072】
図5は、本実施形態の処理の流れの一例である。本実施形態の化学物質検出方法はその処理の相違から、以下で説明する(A)と(B)に大別できる。
【0073】
(A)図5のAに示すように、まず、特定の化学物質を利用して生成した捕捉体によって前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉する(S0501:分子捕捉工程)。次に、前記分子捕捉工程で捕捉体に捕捉された化学物質を定量する(S0502:捕捉量計測工程)。以上の工程によって、検出すべき化学物質を当該化学物質が属する一群の化学物質として検出することができる。
【0074】
(B)図5のBに示すように、まず、特定の化学物質を利用して生成した捕捉体によって前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉する(S0503:分子捕捉工程)。ここまでは、前記Aと同様である。次に、置換法によって分子捕捉部で捕捉された分子の検出感度を増強する(S0504:検出感度増強工程)。最後に、前記検出感度増強工程で増強された検出結果に基づいて化学物質の分子を定量する(S0505:捕捉量計測工程)。以上の工程によって、検出すべき化学物質を高感度に当該化学物質が属する一群の化学物質として検出することができる。
【0075】
なお、本実施形態の化学物質検出装置の各工程を装置を用いて処理する場合には、当該装置を上記手順で操作する計算機に実行させるためのプログラムの一例は、以下の通りとなる。即ち、分子捕捉工程では測定物の流入量、流入時間、曝露時間、洗浄、又は捕捉体の再生等を管理するプログラム、また検出感度増強工程では、0値の測定の計算プログラムや捕捉体量、競合時間等を管理するプログラム、そして捕捉量計測工程では、基準値、応答値の測定と算出、検量線の算出等の計算プログラムの他、定量方法に応じた管理プログラム(例えば、表面プラズモン共鳴測定方法では、レーザー光の照射時間や入射角度の調整等)等である。また、このプログラムを記録媒体に記録して利用することも出来る(本明細書の全体を通して同様である。)。
【0076】
<実施形態1:効果> 本実施形態によれば、検出すべき化学物質を厳密に特定せず、その化学物質の特定分子構造を認識することで当該化学物質が属する一群の化学物質として検出することができる。この機能により迅速かつ簡便に検出すべき化学物質の存在の有無を判断することができる。また、本発明の化学物質検出装置によれば、分子捕捉部が着脱可能であることから、測定物に応じて最適な分子捕捉部に迅速に変更することが可能である。
【0077】
<<実施形態2>>
<実施形態2:概要> 実施形態2について説明する。本実施形態の化学物質検出装置は、前記実施形態1と基本は同じである。実施形態1との相違点は、本実施形態の分子捕捉部では特定の化学物質が有する特定分子構造体を表面に配置した第二捕捉体を有する点にある。すなわち、実施形態1とは捕捉する対象が逆の構成をとることを最大の特徴とする。前記捕捉体は本実施形態においても必須の構成要件である。しかし、本実施形態では分子捕捉部の表面に配置せずにフリーの状態で用いられる。本実施形態の化学物質検出装置は、これらの構成に基づいて超高感度な化学物質の検出が可能なことを特徴とする。
【0078】
<実施形態2:構成> 本実施形態の化学物質検出装置の構成は図2で示す前記実施形態1の構成と概ね同様である。前記実施形態1の構成と異なる点は、分子捕捉部(0201)の支持体(0204)上に捕捉体(0203)ではなく第二捕捉体を配置している点である。したがって、本実施形態の構成のうち前記実施形態1と同様のものはその説明を省略し、以下に本実施形態に特徴的な構成について説明する。
【0079】
本実施形態の「分子捕捉部」は、捕捉体と第二捕捉対と支持体とから構成されている。また、当該第二捕捉体は当該分子捕捉体の表面に配置されている。当該分子捕捉部の他の構成については、前記実施形態1の分子捕捉部に準ずる。ただし、段落番号0034の最後の一文から0037までの「捕捉体」は「第二捕捉体」に、段落番号0035の「分子鋳型を有する高分子ポリマー」は「標的分子」に、段落番号0036の「一群の化学物質を捕捉できる」は「一群の化学物質を捕捉する捕捉体を捕捉できる」に、同段落番号の「同一の特定分子構造を捕捉する捕捉体であれば」は「一の捕捉体を捕捉可能であれば」に、また、段落番号0037の「捕捉体が検出すべき化学物質を捕捉できるように」は「第二捕捉体が検出すべき化学物質との間で捕捉体を捕捉し合えるように」に、それぞれ読み替えるものとする。
【0080】
本実施形態の「捕捉体」は、前記実施形態1と同じく特定の化学物質を利用して生成したもので、前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉可能な構成をとる。実施形態1と異なる点は、本実施形態の捕捉体が分子捕捉部の表面に配置されずにフリーの状態にある点である。当該捕捉体は、検出感度を増強するために測定物と混合して分子捕捉部に供されるように構成されている。
【0081】
本実施形態の「支持体」は、前記実施形態1と同様の構成をとる。
【0082】
「第二捕捉体」とは、特定の化学物質が有する特定分子構造体である。当該第二捕捉体は特定分子構造体そのものであってもよいし、特定分子構造を有する化学物質であってもよい。特定分子構造を有する化学物質である場合には、当該特定分子構造が第二捕捉体として機能し得る状態で分子捕捉部表面に露出している必要がある。当該第二捕捉体は特定分子構造を有することから、当該特定分子構造を有する特定の化学物質を利用して生成した捕捉体を優先的に捕捉できる。通常、当該第二捕捉体は標的分子、若しくは標的分子が有する特定分子構造体が該当する。
【0083】
本実施形態は検出感度を増強したい場合に有効な形態である。具体的には、間接競合法、又は置換法において第二捕捉体が固定化されて捕捉体がフリーの場合等が挙げられる。本実施形態によれば、検出すべき化学物質を超高感度で検出することができる。後述する実施例1で示すようにpptレベルの化学物質でも検出可能となる。
【0084】
「間接競合法」とは、第二捕捉体に予め捕捉体を捕捉させておき、当該第二捕捉体と検出すべき化学物質との間で生じる捕捉体に対する競合を利用して、当該検出すべき化学物質を間接的に定量測定する方法である。
【0085】
図6に間接競合法を用いて表面プラズモン共鳴測定法で測定する概念の一例を示す。図6のA−1、B−1、C−1は表面プラズモン共鳴測定法による共鳴角度の変化と時間の関係を示したものである。また、A−2、B−2、C−2はそれぞれA−1、B−1、C−1の分子捕捉部における状態を示した概念図である。また、DはB−1とC−1の結果を統合した図である。なお、この図ではA−2のように分子捕捉部表面に第二捕捉体のみが固定されている状態での共鳴角度変化はA−1で示すように0となっている。しかし、実際には第二捕捉体のみが固定されている状態での共鳴角度変化は0ではなく、グラフの判別のし易さから単にA−2状態時の共鳴角度を0値として設定しているに過ぎない。これはB−1、C−1、Dについても同様である。図6では捕捉体が抗体の場合を示している。まず、第二捕捉体(0601)を支持体である金薄膜(0602)に固定化しておく(A−2)。この例では固定化用のタンパク質(0603)とコンジュゲートした状態で第二捕捉体を固定化している。次に、当該第二捕捉体を捕捉可能な抗体(0604)を一定量、液相中で第二捕捉体と反応させる(B−2)。そのときに捕捉量計測部(0605は当該部より照射されたレーザー光を示す。)で取得される一定時間後の共鳴角Δθ0(0606)を基準値としておく(B−1)。続いて、抗原抗体反応で結合している抗体を一旦全て解離させた後、既知の濃度の検出すべき化学物質である抗原(0607)と共に前記と同一量の抗体(0604)を再び加える(C−2)。ここで、当該既知濃度の検出すべき化学物質の量に相当する抗体が、第二捕捉体(0601)と結合できなくなる分、一定時間後の共鳴角Δθ1(0608)は前記基準値よりも得られる電気信号が小さくなる(C−1)。これを応答値とする。得られた基準値と応答値の比Δθ0/Δθ1(0609)を算出することにより、応答特性である検量線を得ることができる。
【0086】
本実施形態の「置換法」は、前記実施形態の置換法とその機序をやや異にする。すなわち、本実施形態の置換法は前記間接競合法と同様に、第二捕捉体に予め捕捉体を捕捉させておき、当該第二捕捉体と検出すべき化学物質との間で生じる捕捉体に対する競合を利用して、当該検出すべき化学物質を間接的に定量測定する方法である。例えば、捕捉体が抗体の場合、第二捕捉体である特定分子構造体に一定量の抗体を捕捉させておく。当該状態で検出すべき化学物質を含んだ測定物を分子捕捉部に曝露させると、結合力の差により抗体が第二捕捉部から解離し、代わって測定物中の検出すべき化学物質が抗体に捕捉される。この置換反応による変化を前記実施形態の置換法と同様の方法で測定することができる。
【0087】
<実施形態2:処理の流れ> 本実施形態における化学物質検出装置における処理の流れ、即ち本実施形態の化学物質検出方法について説明する。
【0088】
図7は、本実施形態の処理の流れの一例である。まず、特定の化学物質を利用して生成した捕捉体を、特定の化学物質が有する特定分子構造体であり分子捕捉部の表面に配置された第二捕捉体と測定物中の検出すべき化学物質との間で捕捉し合う(S0701:第二分子捕捉工程)。次に、分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する(S0702:捕捉量計測工程)。以上の工程によって、検出すべき化学物質を超高感度に当該化学物質が属する一群の化学物質として検出することができる。
【0089】
<実施形態2:効果> 本実施形態によれば、検出感度増幅工程を得る事により検出すべき化学物質をppt(1兆分の1)レベルの超高感度で検出することができる。
【0090】
<<実施形態3>>
<実施形態3:概要> 実施形態3について説明する。本実施形態の化学物質検出装置は
前記実施形態1、又は2基本として、複数種類の分子捕捉部を有することにより複数の群の化学物質を捕捉可能なように構成されている。さらに本実施形態の化学物質検出装置は、捕捉量計測部による測定物の計測結果をデータベース部が蓄積する既知の化学物質グループが有する特定分子構造を示す情報に基づいて前記分子捕捉部で捕捉された化学物質の属する一以上の化学物質グループを特定できることを特徴とする。
【0091】
図8に本実施形態の概念の一例を示す。この図で示す化学物質検出装置は実施形態1を基本としている。当該化学物質検出装置の分子捕捉部は、I(0801)、II(0802)、III(0803)の3つあり、それぞれが異なる特定分子構造を優先的に捕捉する抗体を有している。例えば、分子捕捉部Iの抗体(0804)はa(ベンゼン環とする。:0807)を、分子捕捉部IIの抗体(0805)はb(ニトロ基を構成する分子構造とする。:0808)を、そして分子捕捉部IIIの抗体(0806)はc(ハロゲン基に共通する分子構造とする。:0809)を、それぞれ特定分子構造として捕捉することができる。当該化学物質検出装置を用いて化学物質の検出を行う時、測定物中にaのベンゼン環とbのニトロ基を共に有する化学物質(A:0810、B:0811)が存在すれば、当該化学物質は分子捕捉部IとIIで同時に捕捉される。したがって、本実施形態では測定物中に化学物質A、Bのような異なる化学物質が存在していても、それらが有する複数の特定分子構造が同一であれば一の化学物質グループに属するものとして特定され、両者の区別はなされない。前記分子捕捉部が捕捉した情報は、捕捉量計測部(0813)を介してグループ特定部(0814)に送られる。グループ特定部は当該測定結果の特定分子構造の情報(図8ではベンゼン環とニトロ基)をキーとしてデータベース部(0815)内に蓄積されたデータ(0816)を検索する。グループ特定部は、キーである情報(0817)に合致するデータがあれば、キーである情報と関連付けられて保存されている化学物質グループデータ(図8では芳香族ニトロ化合物)(0818)を取得する。また、取得された化学物質グループの化学的性質(図8では爆発物、若しくは爆発物類似物)も同時に取得することができる。このように測定現場で本実施形態の化学物質検出装置を用いることで、測定物中に「芳香族ニトロ化合物に属し、爆発物、若しくは爆発物類似物質である化学物質」が含まれていることが検知される。
【0092】
一方、化学物質C(0812)のようにaのベンゼン環とcのハロゲン基は有するが、bのニトロ基を有さない化学物質のみが測定物に含まれている場合には、分子捕捉部Iからの捕捉信号がグループ特定部に入力されても、分子捕捉部IIからの捕捉信号は入力されず、代わって分子捕捉部IIIからの捕捉信号が入力される。したがって、当該化学物質Cは芳香族ニトロ化合物の化学物質グループとしては特定されないが、「芳香族ハロゲン化合物」として特定されることになる。即ち、この場合には測定物中に「内分泌攪乱物質である芳香族ハロゲン化合物に属する化学物質」が含まれていると検知されることになる。本実施形態の化学物質検出装置は以上のような特徴を有している。
【0093】
<実施形態3:構成> 図9は本実施形態の構成の一例である。この図で示す化学物質検出装置は実施形態1を基本としている。当該化学物質検出装置(0900)は前記実施形態1の構成要素である分子捕捉部(0901)と捕捉量計測部(0902)に加えて、データベース部(0906)とグループ特定部(0907)を有する。また、この図で示す化学物質検出装置は着脱部(0905)を有する場合を示している。以下、各構成要素のうち本実施形態に特徴的な構成要素について説明する。なお、図9で示す本実施形態の化学物質検出装置は実施形態1を基本とする場合であるが、実施形態2を基本とするものであってもよい。その場合には、分子捕捉部が捕捉体に代わって第二捕捉体を有する点のみ異なる。
【0094】
本実施形態の「分子捕捉部」(0901)は、実施形態1、又は2の「分子捕捉部」の構成を基本とするが、複数の群の化学物質を捕捉するために複数種類を有する点で相違する。すなわち、実施形態1、又は2の分子捕捉部はその数のいかんにかかわらずそれぞれ一の特定分子構造、又は一の捕捉体を捕捉可能なように構成されていたが、本実施形態の分子捕捉部は二以上の特定分子構造、又は捕捉体を捕捉可能なように構成されている。
【0095】
「データベース部」(0906)は、既知の化学物質グループが有する特定分子構造を示す情報を蓄積するように構成されている。
【0096】
データベース部は、後述するグループ特定部における情報処理の結果、測定結果の情報がデータベース部に未蓄積な新規の化学物質グループであるとの情報であった場合には、それが有する特定分子構造をグループ特定部から取得し、蓄積するように構成されていてもよい。また、既知の化学物質グループが有する特定分子構造を示す情報は、図9の0908で示す外部蓄積部から取得できるようにも構成されている。外部蓄積部からの情報を取得するために、当該データベース部は、CD−RWドライブディスク等の記録媒体読込、又は/及び書込み手段を有していてもよい。
【0097】
「化学物質グループ」とは、複数の群に属し、共通する複数の特定分子構造を有するグループを言う。すなわち、一群の化学物質は共通する一の特定分子構造を有することから、複数の群からなる化学物質グループは、各群がそれぞれ有する特定分子構造の組み合わせを当該化学物質グループの特徴として有することになる。例えば、TNTとDNTはいずれもニトロ基を構成する分子構造を特定分子構造とする群にも、芳香族の母核であるベンゼン環を特定分子構造とする群にも属する。したがって、TNTとDNTの属する化学グループは「芳香族系ニトロ化合物」となる。
【0098】
「化学物質グループが有する特定分子構造を示す情報」とは、化学物質グループが有する特定分子構造に関連する情報を意味する。例えば、その化学物質グループが有する特定分子構造の構造的な情報、その化学物質グループに属する化学物質種の情報、あるいはそのグループに属する化学物質が共通して有する一以上の化学的性質などが該当する。例えば、前述の「芳香族系ニトロ化合物」という化学グループの場合であれば、ニトロ基とベンゼン環という二つの特定分子構造の構造的な情報、TNT、DNT、DNB等の化学物質種が属すると言う情報、また「爆発物、若しくは爆発物類似物」という化学的性質を共通して有していること等である。
【0099】
「グループ特定部」(0907)は、前記分子捕捉部で捕捉された分子の前記捕捉量計測部による計測結果と、前記データベース部に蓄積された情報とに基づいて、前記特定の化学物質の属する一以上の化学物質グループを特定するように構成されている。すなわち、当該グループ特定部は、前記捕捉量計測部による計測結果に基づいて、前記データベース部に蓄積された情報を検索可能なように構成されている。
【0100】
化学物質グループを特定する方法は、捕捉量計測部による計測結果で得られた複数の群情報、すなわち複数の特定分子構造の情報をキーとして前記データベース部を検索する。当該キーに合致する特定分子構造の組み合わせを有した化学物質グループの情報が、データベース部に存在している場合には当該化学物質グループの情報を取得する。その際、化学物質グループ名だけでなく、それと関連付けて蓄積されている前記化学物質グループが有する特定分子構造を示す情報を共に取得することが望ましい。もしも、当該キーに合致する化学物質グループの情報がデータベース部に存在しない場合には、該当する化学物質グループがないと判断すると共に、特定分子構造の組み合わせを最も多く重複して有する化学物質グループの情報を関連する化学物質グループの情報として取得するようにしてもよい。当該類似化学物質情報は、特定分子構造の組み合わせを最も多く重複して有する化学物質グループだけでなく、重複度の高いものから低いものへ順次取得できるようにしてもよい。
【0101】
グループ特定部は前記捕捉量計測部による計測結果、及び蓄積部に蓄積された情報を取得可能なように構成されている。当該取得の形式は捕捉量計測部、及び蓄積部に合わせればよい。例えば、捕捉量計測部、蓄積部がいずれもUSB端子等のインターフェースを有しているのであれば当該グループ特定部もUSB端子を有することによってUSBケーブルを介して取得可能にすればよいし、捕捉量計測部が無線送出手段を有し、蓄積部がUSB端子を有しているのであれば当該グループ特定部は無線取得手段とUSB端子を共に有することによって、無線とケーブルを介して取得するようにすればよい。
【0102】
また、グループ特定部は特定した化学物質グループの情報を当該化学物質グループが有する特定分子構造を示す情報と共に出力可能なようにも構成されている。出力先は、前記蓄積部であってもよいし、モニタ部であってもよい。当該出力の形式は、前記取得の形式と同様の方法で行えばよい。
【0103】
<実施形態3:効果> 本実施形態によれば、検出結果である複数の群の組み合わせから、当該化学物質が属する一以上の化学物質グループを特定することができる。また、従来の化学分析装置やセンサ装置では困難であった匂いの質を客観的に評価できる。
【実施例1】
【0104】
以下の実施例1、及び2をもって本発明を具体的に説明する。ただし、以下の実施例は単に例示するのみであり、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0105】
<表面プラズモン共鳴測定法を用いた本発明の化学物質検出装置によるTNTの検出>
本実施例の化学物質検出装置は、間接競合法と表面プラズモン共鳴測定法とを用いた実施形態2を基本とするものである。当該化学物質検出装置を用いて、分子捕捉部の捕捉体を複合体抗原とした場合のTNTの検出感度等について確認をする。
【0106】
1.表面プラズモン共鳴測定装置と測定条件
表面プラズモン共鳴測定装置は、フローシステム採用のSRP670(日本レーザー電子)を用いた。分子捕捉部は、20×13×0.7mmのガラス板表面に約50nm厚で金薄膜を形成させたものを支持体として、当該金薄膜表面に複合体抗原を捕捉体として後述の方法で固定化したものを用いた。測定物を含むキャリア溶液は、0.1Mリン酸緩衝液pH7.2(以下、PBSとする。)/1%(W/V)エタノールを用いた。抗原、抗体の希釈は前記PBSで行った。測定温度は25℃±1℃、測定物の導入量は200μlとした。流速、及び流通時間は以下に詳述する。他は、当該装置の使用法に従った。
【0107】
2.複合体抗原の金薄膜上への固定化(分子捕捉部の形成)
(1)まず、表面プラズモン共鳴測定法を行うにあたり、分子捕捉部を形成するために支持体の一部である金薄膜に複合体抗原を固定化した。当該複合体抗原はトリニトロフェノール(trinitrophenol:以下TNPとする。)をOVAとコンジュゲートしたものである(以下、本実施例において当該複合体抗原をTNP−OVAとする。)。当該TNP−OVAをPBSで200ppmに希釈し、200μlを流速15μl/minで約14分間流して、前記金薄膜上にTNP−OVAを物理的吸着させた。TNP−OVAの吸着後、約200μlのPBSを流して、当該金薄膜を洗浄した。
【0108】
(2)次に、TNP−OVAが前記金薄膜上に物理吸着されずに隙間となっている箇所をブロッキングするために、PBSで1000ppmに溶解した牛血清アルブミン(以下、BSAとする。)を200μl流した。当該BSAによるブロッキング後、約200μlのPBSを流速15μl/minで流して、当該金薄膜を洗浄した。
【0109】
(3)図10は捕捉量計測部にて測定された上記(1)から(2)の工程における共鳴角度の変化を示したものである。縦軸は共鳴角度の変化(単位:degree/deg./°)、横軸は時間(単位:分)を示す。また、図10のA点は、200ppmのTNP−OVAの流入起点、B点は1000ppmのBSAの流入起点、C点とD点は洗浄用PBS流入起点をそれぞれ示す。さらに、エリアIは金薄膜のみの状態、エリアIIは金薄膜状に複合体抗原が物理的吸着をしており、かつ複合体抗原が吸着されずに金薄膜の露出した部分が残っている状態、エリアIIIはエリアIIの露出した金薄膜にBSAがブロッキング吸着している状態を示す。図10から、TNP−OVAが金薄膜上に物理吸着することにより表面プラズモン共鳴の共鳴角度が0.17°(洗浄済状態)変化している。また、これにBSAが物理吸着されることで共鳴角がさらに0.06°(洗浄済状態)変化していることがわかる。これらの変化の和である0.23°が当該分子捕捉部の0値となる。
【0110】
3.TNTの測定
(1)まず、基準値を得るために前記分子捕捉部に20ppmに希釈した抗TNP−KLH抗体溶液200μlを流速65μl/minで約10分間流して反応させた。その後、約200μlのPBSを流して洗浄した。当該抗TNP−KLH抗体は、TNP−KLH複合体を抗原としてマウスに接種して作製したTNT等を捕捉可能なポリクローナル抗体である。前記TNP−KLH複合体は、以下のようにして作製した。まず、10 mg KLH を含む480 mM 炭酸水素ナトリウム(NaHCO)溶液(pH8.5)とトリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(2,4,6−trinitrobenzenesulfonate sodium salt)1mg/ml HOを40℃で2時間反応させた。その後、4℃で3日間、5回水を交換しながら透析を行った。最後に、透析液を凍結乾燥して目的のTNP−KLH複合体抗原を得た。前記抗TNP−KLH抗体と金薄膜上に固定したTNP−OVAによる抗原抗体反応によって得られる共鳴角度の値から上記2.(3)で得られた0値0.23°を減じた値が基準値となる。
【0111】
(2)次に、前記抗TNP−KLH抗体とTNP−OVAとの結合を解離させるために32.5μlの再生溶液を流速65μl/minで分子捕捉部に流した。当該再生溶液の組成は、グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)にペプシンを20ppmになるように希釈したものである。
【0112】
(3)続いて、各濃度のTNTを含む前記20ppm抗TNP−KLH抗体溶液200μlを、流速65μl/minで約3分間流した。その後、約200μlのPBSで洗浄し、一定値に達したときの値を測定値として得た。測定値から前記0値を減じた値を応答値とした。異なる濃度のTNTを含む20ppm抗TNP−KLH抗体溶液を新たに流す際には、事前に前記3.(2)と同様の解離処理を行った。
【0113】
4.測定結果
図11に上記実験の測定結果を示す。縦軸は共鳴角度の変化(単位:deg.)を、また横軸は時間(単位:分)を示している。図11のA点は基準値を得るための20ppmの抗TNP−KLH抗体溶液(以下、Ab溶液とする。)のみの流入起点であり、B点からE点までが各濃度のTNTを含む20ppmAb溶液の流入起点である。具体的には、B点が20ppmAb溶液+10ppb(ppb=10億分の1量)TNTの流入起点、C点が20ppmAb溶液+10pptTNTの流入起点、D点が20ppmAb溶液+1ppm(ppm=100万分の1量)TNTの流入起点、E点が20ppmAb溶液+1ppbTNTの流入起点をそれぞれ示している。また、F点は再度基準値を確認するために流した20ppmAb溶液のみの流入起点を示す。さらに、aは洗浄用PBS流入起点、bは再生溶液流入起点を示す。各濃度時に示す%は、基準値に対する応答値の割合(%)である。当該%は前記間接競合法で説明したように、検出すべき化学物質(この場合はTNT)の濃度が低いほど大きく、濃度が高いほど小さくなる。この%値に基づいて検量線(応答特性)を得ることができる。以上の結果から本実施例の間接競合法と表面プラズモン共鳴測定法とを用いた化学物質検出装置により、TNTがpptレベルであっても測定可能であることが証明された。
【実施例2】
【0114】
<比色法を用いた本発明の化学物質検出装置によるTNT等の検出>
本実施例の化学物質検出装置は、捕捉量計測部で間接競合法と比色法(以下、ELISA法とする。)との組み合わせによる間接競合ELISA法を用いた場合の例である。当該化学物質検出装置で分子捕捉部の捕捉体を複合体抗原とした抗体を用いて、当該抗体の交差反応性によりTNT等の緩やかな分子認識による検出等について確認をする。
【0115】
図12は間接競合ELISA法について示したものである。以下、本実施例の手順を当該図に沿って説明する。
【0116】
1.複合体抗原のプレートへの固定化(分子捕捉部の形成):図12のA
まず、50mM炭酸塩緩衝液(pH9.8)で希釈した10μg/mlTNP−OVA(1201)を96穴プレートの各ウェルに100μl滴下し、一晩室温で静置して当該プレート底面(1202)に固定化させた。翌日、0.05%Tween20を含むリン酸緩衝液(以下、PBSTとする。)で3回洗浄した。その後、1%ゼラチン溶液を当該ウェルに滴下し、室温で1時間静置することでTNP−OVAの隙間をブロッキングした。以上の工程により、間接競合ELISA法による分子捕捉部を形成した。
【0117】
2.間接競合による抗原抗体反応:図12のB
次に、既知濃度の抗原溶液と抗体溶液を混合し、前記プレートの各ウェルに一定量滴下した。具体的には前記分子捕捉部を形成後のプレートの各ウェルに10μg/mlのマウスIgG抗TNP−KLH抗体(1203)と、10−5から10−10まで10−1毎に段階的に希釈した抗原(TNT等)(1204)を等量混合した混合溶液100μlを滴下し、1時間室温で抗原抗体反応をさせた。当該抗TNP−KLH抗体は実施例1で使用したものと同様である。その後、PBSTで3回洗浄し、ウェル内に残った未反応の抗体等を除去した(図12のC)。
【0118】
3.ELISA法による検出反応:図12のD
以降は、捕捉量計測部での処理による。アルカリフォスファターゼ(以下、ALPとする。)(1205)でラベル化された抗マウスIgG抗体(1206)をPBSにより1000倍希釈したものを前記各ウェルに100μl滴下した。そのまま1時間、室温で前記マウスIgG抗TNP−KLH抗体を抗原として抗原抗体反応をさせた。反応後ウェル内をPBSTで3回洗浄し、パラニトロフェニルフォスフェート:以下、p−NPPとする。)をALP基質(1207)とした基質溶液を100μl加えた。当該基質溶液の組成は、50 mM炭酸塩緩衝液(pH9.8)に溶解した2mg/ml p−NPP(ナカライテスク)、1mM MgCl、及び0.1mM ZnClからなる。反応は室温で30分間行った。ALP活性により、黄色の発色物質パラニトロフェノール(以下、p−NPとする。)(1208)がp−NPPから遊離する。マイクロプレートリーダー(Spectra 1:Wako)を用いて、405nmでの吸光度として当該発色を測定した。
【0119】
4.抗TNP−KLH抗体のTNT等に対する結合性評価
図13は、本実施例の前記間接競合ELISA法による測定結果の一例である。縦軸は抗原を添加しない抗体溶液のみの場合に得られる405nmでの吸光度Aに対する各濃度の抗原を添加した際に得られる同波長の吸光度Aの割合(単位:%)を、また横軸は各種抗原の濃度(単位:g/ml)をそれぞれ示している。検出に用いた各濃度における抗原の当該割合を求めることで当該抗原の検量線(応答特性)を得ることができる。例えば、1301は、TNTにおける検量線を表す。また、各プロットはそれぞれ以下の抗原を示す。すなわち、△は2,6−DNTを、■は4−アミノ−2,6−DNTを、▲は2,4−DNTを、□は2−アミノ−4,6−DNTを、◇はTNP−グリシンを、そして●はTNTである。各種抗原よりIC50値を算出し、得られた抗体の各化合物に対する結合の強さを見積もった。IC50値とは、抗体との結合を50%阻害する抗原濃度である。各種抗原よりIC50値を算出し、得られた抗体の各化合物に対する結合の強さを見積もった。IC50値とは、抗体との結合を50%阻害する抗原濃度である。各種抗原の当該IC50値は、2,6−DNTが>5.5X10−5M、4−アミノ−2,6−DNTが2.3X10−5M、2,4−DNTが5.5X10−6M、2−アミノ−4,6−DNTが5.6X10−6M、TNP−グリシンが4.5×10−8M、そしてTNTが2.6×10−8Mであった。したがって、本実施例に使用した抗TNP−KLH抗体は、共通の特定分子構造を有するTNT以外の化学物質も捕捉可能な交差反応性を有するが、TNTとTNP−グリシンに対して高い捕捉性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施形態1の分子捕捉部における分子認識の概念図。
【図2】実施形態1の化学物質検出装置の構成を説明するための概念図。
【図3】交差反応性を有する抗体によるに緩やかな分子認識の概念図。
【図4】表面プラズモン共鳴測定法を用いた定量の概念図。
【図5】実施形態1の処理の流れ。
【図6】間接競合法の概念図。
【図7】実施形態2の処理の流れ。
【図8】実施形態3の概念の一例。
【図9】実施形態3の化学物質検出装置の構成を説明するための概念図。
【図10】実施例1で複合体抗原の固定における表面プラズモン共鳴測定値の変化。
【図11】実施例1のTNT測定結果。
【図12】実施例2の間接競合ELISAを説明するための概念図。
【図13】実施例2の抗TNP−KLH抗体のTNT等に対する結合性評価結果。
【符号の説明】
【0121】
0801:分子捕捉部I
0802:分子捕捉部II
0803:分子捕捉部III
0804:分子捕捉部Iの捕捉体である抗体
0805:分子捕捉部IIの捕捉体である抗体
0806:分子捕捉部IIIの捕捉体である抗体
0807:ベンゼン環
0808:ニトロ基を構成する分子構造
0809:ハロゲン基に共通する分子構造
0810:ベンゼン環とニトロ基を共に有する化学物質A
0811:ベンゼン環とニトロ基を共に有する化学物質B
0812:ベンゼン環とハロゲン基を共に有する化学物質C
0813:捕捉量計測部
0814:グループ特定部
0815:データベース部
0816:データベース部内に蓄積されたデータ
0817:検索に際してキーとなる情報
0818:化学物質グループデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の化学物質を利用して生成した捕捉体であって、前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉可能な捕捉体をその表面に有する分子捕捉部と、
分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測部と、
を有する化学物質検出装置。
【請求項2】
前記捕捉体は、抗体又は分子鋳型である請求項1に記載の化学物質検出装置。
【請求項3】
特定の化学物質を利用して生成した捕捉体であって、前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉可能な捕捉体と、
特定の化学物質が有する特定分子構造体を表面に配置した第二捕捉体とを有する分子捕捉部と、
分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測部と、
を有する化学物質検出装置。
【請求項4】
前記捕捉量計測部は、間接競合法によって分子捕捉部で捕捉された化学物質の検出感度を増強するように構成されている請求項3のいずれか一に記載の化学物質検出装置。
【請求項5】
前記捕捉量計測部は、置換法によって分子捕捉部で捕捉された化学物質の検出感度を増強するように構成されている請求項1から3のいずれか一に記載の化学物質検出装置。
【請求項6】
前記分子捕捉部は、複数の群の化学物質を捕捉するために複数種類あり、
既知の化学物質グループが有する特定分子構造を示す情報を蓄積したデータベース部と、
前記分子捕捉部で捕捉された化学物質の前記捕捉量計測部による計測結果と、前記データベース部に蓄積された情報とに基づいて、前記分子捕捉部で捕捉された化学物質の属する一以上の化学物質グループを特定するグループ特定部と、
を有する請求項1から5のいずれか一に記載の化学物質検出装置。
【請求項7】
前記分子捕捉部を着脱可能な着脱部を有する請求項1から6のいずれか一に記載の化学物質検出装置。
【請求項8】
前記捕捉部計測部における化学物質の定量は、表面プラズモン共鳴測定法、水晶振動子マイクロバランス測定法、電気化学インピーダンス法、比色法、蛍光法のいずれかの方法で行われる定量である請求項1から7のいずれか一に記載の化学物質検出装置。
【請求項9】
前記特定分子構造は、ベンゼン環、又は/及びいずれかの官能基を構成する分子構造である請求項1から8のいずれか一に記載の化学物質検出装置。
【請求項10】
前記特定の化学物質は、揮発性化学物質である請求項1から9のいずれか一に記載の化学物質検出装置。
【請求項11】
特定の化学物質を利用して生成した捕捉体を表面に配置した分子捕捉部において、当該捕捉体によって前記化学物質を含む一群の化学物質をその化学物質が有する特定分子構造に依存して捕捉する分子捕捉工程と、
分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測工程と、
を有する化学物質検出方法。
【請求項12】
前記捕捉量計測工程は、分子捕捉部で捕捉された化学物質の検出感度を増強する検出感度増強工程を含む請求項11に記載の化学物質検出方法。
【請求項13】
特定の化学物質を利用して生成した捕捉体を、特定の化学物質が有する特定分子構造体であり分子捕捉部の表面に配置された第二捕捉体によって、測定物中の検出すべき化学物質との間で捕捉し合う第二分子捕捉工程と、
分子捕捉部で捕捉された化学物質を定量する捕捉量計測工程とを有する化学物質検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−93559(P2007−93559A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287143(P2005−287143)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 外国語で記載されている刊行物に関しては、刊行物名、発行時期、著者の氏名、発行所の訳文を以下に併記する。 (1) 発行者名:Electric Department, Physics Faculty, Barcelona Universi−ty(バルセロナ大学 物理学部 電気学科) 刊行物名:Proceeding of the Eleventh International Symposium on Olfaction and Electronic Nose−ISOEN’2005(第11回 嗅覚とエレクトロニックノーズ国際シンポジュウム会報−ISOEN‘2005) 巻・頁数:Vol.11, pp.280−283 ISBN(国際標準図書番号):84−689−1133−X 著者名 :Ryosuke Izumi,Shinichi Etoh,Kenshi Hayashi,Kiyoshi Toko(泉 龍介、江藤 信一、林 健司、都甲 潔) 発行年月日:April 2005.(平成17年4月:発行日の記載がないため月の最先である4月1日とした。) (2) 発行者名:IEEE (アイイーイーイー:米国電気電子学会) 刊行物名:TRANSDUCERS‘05 Digest of Tech−nical Papers(トランスデューサーズ‘05 技術論文要約集) 巻・頁数:Vol.2,pp.1884−1887 著者名 :Ryosuke Izumi,Shinichi Etoh,Kenshi Hayashi,Kiyoshi Toko(泉 龍介、江藤 信一、林 健司、都甲 潔) ISBN(国際標準図書番号):0−7803−8994−8 発行年月日:June 5,2005(平成17年6月5日:発行年月日の記載がないため学会初日とした。) (3) 発行者名:China Electric Power Research Institute(中国電力科学研究院) 刊行物名:The International Conference on Electrical Engineering 2005 (ICEE 2005)PAPER ABST−RACTS(電気工学国際会議 2005 論文要旨集) 発表番号:ICEE−F0576 著者名 :Takeshi Onodera,Kazuhisa Miyahara,Munehi
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(502240607)株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー (10)
【Fターム(参考)】