説明

特殊シリカ、特殊シリカを含有するゴム組成物及びその部材を有する製品

【課題】ゴム組成物の補強充填剤として混合する際に、硫黄によるゴム混合物の粘度増大を起こすことのない特殊シリカ及び該シリカを含有するゴム組成物、特に硫黄硬化ゴム組成物、及び該ゴム組成物の部材を有する製品の提供。
【解決手段】特定の式で定められた少なくとも一つのアリル基の置換基を含有し、(A)120〜300m2/gの範囲のBET窒素表面積、(B)100〜300m2/gの範囲のCTAB表面積、及び(C)0.8〜1.3の範囲の前記BET/CTAB表面積の比率を有するアリル官能化沈降シリカ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年7月7日出願の米国仮特許出願第61/223,434号に基づく優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、アリル官能化沈降シリカ、そのようなシリカを含有するゴム組成物、特に硫黄硬化ゴム組成物、及び該ゴム組成物の部材を有する製品、例えばタイヤに関する。本発明は特に、アリルシランで処理された合成アモルファスシリカ、特に沈降シリカ、特にアリル官能基を含有する沈降シリカに関する。
【背景技術】
【0003】
ゴム組成物は、ゴム補強カーボンブラック及び合成アモルファスシリカ(例えば沈降シリカ)の少なくとも一つのような補強充填剤で補強されることが多い。
【0004】
様々な製品は、そのようなゴム組成物で構成される少なくとも一つの部材を含有する。例えばタイヤなどである。
【0005】
沈降シリカのゴム補強効果を増強するために、典型的には、カップリング剤が沈降シリカと組み合わせて使用される。
【0006】
そのようなカップリング剤は、典型的には、沈降シリカ上のヒドロキシル基(例えばシラノール基)と反応する部分(例えばアルコキシシラン基)及び炭素−炭素二重結合を含有するエラストマー(例えばジエン系エラストマー)と相互作用する別の異なる部分(例えば硫黄が働く部分としてのポリスルフィド)を含有している。
【0007】
シリカカップリング剤のそのようなポリスルフィド部分の典型的な不利益は、高温での未硬化ゴム組成物へのその硫黄の働きである。例えば、未硬化ゴム組成物の物理的混合中、それがゴム組成物中のエラストマーの炭素−炭素二重結合と相互作用してゴム組成物の粘度の顕著な増大を促進するので、ゴム加工の困難性の増大、又は課題をもたらす。このような現象は当業者にはよく知られている。
【0008】
本発明の場合、BET窒素表面積が120〜300m/gの範囲;CTAB表面積が100〜300m/gの範囲であるとともに、BET/CTAB表面積の比率が0.8〜1.3の範囲といった、ゴム組成物の補強に使用される合成沈降シリカに典型的な性質を有することを通常特徴としうるゴム補強沈降シリカが使用される。
【0009】
BET窒素表面積はASTM D1993又はその均等物に従って、CTAB表面積はDIN53535に従って測定できる。
【0010】
ゴム補強目的のために必要なBET/CTAB比を有する沈降シリカを提供することの意義は、例えば120〜300m/gのBET表面積及び例えば100〜300m/gのCTAB表面積とともに、例えば0.8〜1.3の範囲の値として特許文献中で例証されている。例えば、米国特許出願第2008/0293871号、米国特許第6,013,234号及び欧州特許公開第0901986号参照。
【0011】
DBP吸収値(又は吸収係数)は、DIN53601又は同等の規格に従って測定できる。
【0012】
一態様において、そのような沈降シリカは、例えば、水銀ポロシメーターのパラメーターによって特徴付けすることもできるであろう。例えば、CARLO−ERBAポロシメーター2000又は同等の装置による測定で、100〜240m/gの範囲の表面積、及び20〜75nm(ナノメートル)の範囲の孔径分布最大値である。
【0013】
本発明の場合、アリル官能化されたゴム補強沈降シリカがゴム組成物用のシリカ補強剤として使用できることが見出された。そのようなアリル官能化シリカは、ポリスルフィド部分を含有していないので、硫黄がゴム組成物中のエラストマーとの時期尚早な相互作用に利用されることがない。アリル官能化沈降シリカが、例えば沈降シリカをアリルトリアルコキシシラン又はアリルハロシランで処理することによって形成される場合、アリルアルコキシシランのアルコキシシラン部分又はアリルハロシランのハロゲン部分が、例えば、沈降シリカのヒドロキシル基(例えばシラノール基)及び/又は水素基と反応することが想定される。これによって、処理されたシリカはアリル炭化水素基を含有することになり、これがゴム組成物のその後の加硫中に硫黄硬化剤の存在下でジエン系エラストマー(ジエン炭化水素を含有するモノマーの重合によって形成されるエラストマー)と相互作用できるので、それによってシリカとジエン系エラストマーがカップリングされる。
【0014】
さらに、所望であれば、硫黄及び硫黄硬化促進剤をゴム混合物に添加する前に、硫黄によるゴム混合物の粘度増大を伴うことなく、アリル官能化シリカをエラストマーと比較的高温で有益に混合することも想定される。ゴム組成物のそのような高温混合は、より短い混合時間でゴム組成物のより効率的な混合の機会を提供すると考えられる。
【0015】
さらに、シリカ(例えば沈降シリカ)表面におけるアリル官能基の存在は、シリカ表面にある程度の疎水性を提供することになるので、ゴム混合物内でのシリカの分散が増強又は改良され、結果としてシリカによるゴム組成物の補強が増強又は改良されることも考えられる。
【0016】
アリル官能化シリカを製造するための様々なアリルシランの代表例は、例えば、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、ジアリルクロロメチルシラン、ジアリルジクロロシラン及びトリアリルクロロシランである。
【0017】
本発明の記載において、“phr”という用語は、100重量部のエラストマーあたりの材料又は成分の重量部のことである。“ゴム”及び“エラストマー”という用語は、特に断りのない限り、互換的に使用される。“硬化”及び“加硫”という用語も、特に断りのない限り、互換的に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願第2008/0293871号
【特許文献2】米国特許第6,013,234号
【特許文献3】欧州特許公開第0901986号
【発明の概要及び発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に従って、アリルシラン処理された(改質された)合成アモルファスシリカ(沈降シリカ)を提供する。本明細書中ではこれをアリル官能化沈降シリカと呼ぶこともできる。
【0020】
そのようなアリル官能性沈降シリカは、合成アモルファスシリカ(沈降シリカ)を少なくとも一つのアリルシランで処理することによって提供される。
【0021】
本発明の場合、少なくとも一つのアリル基の置換基を含有する沈降シリカを含むアリル官能性沈降シリカが提供される。ここで、前記沈降シリカは、
(A)120〜300m/gの範囲のBET窒素表面積、
(B)100〜300m/gの範囲のCTAB表面積、と共に
(C)0.8〜1.3の範囲の前記BET/CTAB表面積の比率
を有し、前記アリル官能化沈降シリカは、一般式(I):
【0022】
【化1】

【0023】
[式中、Zは沈降シリカを表し;R及びRは、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、及び3〜18個の炭素原子を含有するアルケン基又は5〜8個の炭素原子を有するシクロアルケン基を含む同じ又は異なる基であり;そしてRはアリル水素含有炭化水素基であり、望ましくは、前記アリル含有炭化水素基は、
−CH−CH=CH(アリル炭化水素基)、
−CH−CH=CH−CH(2−ブテン基)、
−CH−CH=C−(CH(ジメタリル炭化水素基)及び
−CH−C(CH)=CH−CH(2−メチル−2−ブテン基)
の少なくとも一つを含み、
式中、aは0〜2の範囲の整数であり、bは0〜2の範囲の整数であり、そしてcは1〜3の範囲の整数である]によって表される。
【0024】
一態様において、前記沈降シリカは、例えば、
(A)100〜240m/gの範囲の表面積、及び
(B)20〜75nmの範囲の孔径分布最大値
という水銀ポロシメーターのパラメーターを有していてもよい。
【0025】
実際、前記アリル官能化沈降シリカは、融合したその一次粒子の凝集体の形態であり得、平均の凝集体サイズは、例えば約0.8〜約1.2ミクロンの範囲である。
【0026】
さらに本発明に従って、前記アリルシランは、一般式(II):
【0027】
【化2】

【0028】
[式中、R及びRは、同じ又は異なり、1〜8個の炭素原子を含有するアルコキシ基、5〜8個の炭素原子を含有するシクロアルコキシ基、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、3〜18個の炭素原子を含有するアルケン、又は5〜8個の炭素原子を有するシクロアルケンを含み;
式中、Xは、塩素、ヒドロキシ、又は水素であり;
式中、Rはアリル水素含有炭化水素基であり、望ましくは、前記アリル水素含有炭化水素基は、
−CH−CH=CH(アリル炭化水素基)、
−CH−CH=CH−CH(2−ブテン基)、
−CH−CH=C−(CH(ジメチルアリル炭化水素基)及び
−CH−C(CH)=CH−CH(2−メチル−2−ブテン基)
の少なくとも一つを含み;
式中、aは0〜3の範囲の整数であり、bは0〜3の範囲の整数であり、cは1〜3の範囲の整数であり、そしてdは0〜3の範囲の整数であり、a、b、c及びdの合計は4であり;
前記X、R及びRの少なくとも一つは存在し;
前記d=0の場合、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である]を有する。
【0029】
アリル官能化沈降シリカの場合、前記アリルシランのR及びRは、同じ又は異なっており、
(A)エトキシ又はメトキシ基を含むアルコキシ基、
(B)シクロアルコキシ基、
(C)メチル、エチル又はプロピル基を含むアルキル基、
(D)シクロアルキル基、
(E)フェニル基、及び
(F)アリル水素含有アルケン基
の少なくとも一つから選ばれうると考えられる。そのようなアルケン基は、望ましくは、アリル、2−ブテンジメチルアリル又は2−メチル−2−ブタン基を含む。
【0030】
沈降シリカを官能化するための前記アリル官能化シランの代表例は、例えば、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシランの少なくとも一つを含むアリルアルコキシシラン、及びアリルジメチルクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、ジアリルクロロメチルシラン、及びジアリルジクロロシランの少なくとも一つを含むアリルハロシランである。望ましいアリル官能化シランはアリルトリクロロシランである。
【0031】
さらに本発明に従って、前記アリル官能化沈降シリカを含む補強充填剤を含有し、さらにゴム補強カーボンブラック及び追加の、アリル官能基を含有しない沈降シリカの少なくとも一つを含有していてもよいゴム組成物を提供する。そのようなゴム組成物は、前記ゴム組成物中に含有されるエラストマーへの前記沈降シリカのカップリングを補助するための少なくとも一つのシリカカップリング剤をさらに含有していてもよい。実際、前記カップリング剤は、前記シリカ上のヒドロキシル基(例えばシラノール基)と反応する部分及び前記ゴム組成物に含有されているエラストマーと相互作用する別の異なる部分を有する。
【0032】
例えば、100重量部のゴムあたりの重量部(phr)を基にして、
(A)100phrの少なくとも一つの共役ジエン系エラストマーと;
(B)約10〜約120、あるいは約40〜約100phrの補強充填剤、ここで前記補強充填剤は、
(1)約40〜約100、あるいは約50〜約80phrのアリル官能化沈降シリカ(アリルシラン処理沈降シリカ);
(2)0〜約60、あるいは約3〜約30phrのゴム補強カーボンブラック、及び
(3)所望により約70phrまでの沈降シリカ(アリル官能化沈降シリカ以外)
を含む補強充填剤と
を含むゴム組成物を提供する。
【0033】
沈降シリカの製造中にアリルシラン官能化沈降シリカを製造するための様々な方法が考えられるが、想起される一つの方法は、米国特許第5,723,529号に記載の方法に基づくゴム補強目的のための沈降シリカの製造に関するものである。前記方法は、
(A)少なくとも二つの無機材料を水の存在下で強塩基と反応させてその生成物の水溶液を形成し;
ここで前記無機材料は、その100重量部を基にして、
(1)60〜99.9部の二酸化ケイ素、及び
(2)0.1〜40部の、前記水溶液を形成することが可能な少なくとも一つの追加の無機材料を含み、前記無機材料は、
(a)アルミニウム、鉄、マグネシウム、ホウ素、チタン、ジルコニウム、亜鉛、バナジウム及びニオブの酸化物、
(b)アルミニウム、鉄、マグネシウム、ホウ素、チタン、ジルコニウム、亜鉛、バナジウム及びニオブのリン酸塩、硫酸塩及びハロゲン化物としての塩、及び
(c)天然及び合成ケイ酸アルミニウム
の少なくとも一つから選ばれ;
(B)前記生成物と反応させるために前記水溶液を鉱酸の添加によって処理してその反応生成物を形成させ、該溶液のpHを下げることによって前記反応生成物の沈殿粒子を沈殿物として生成させ;
(C)所望により、前記水溶液へのステップ(B)の前記酸添加を中断して、前記沈殿物をしばらくの間熟成させた後、酸の添加を再開し、次いで、所望pHに達するまで更なる酸を添加して前記反応及び反応生成物の沈殿を完了させ;
(D)所望により、ステップ(B)及び/又は使用した場合ステップ(C)の前記酸添加の完了後、沈殿物をしばらくの間熟成させ;
(E)沈殿物をろ過及び水洗し、該沈殿物を乾燥させて粒子をその凝集体の形態で回収し;
(F)炭酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、チタン酸塩及びジルコン酸塩の少なくとも一つから選ばれる、ステップ(B)、(C)及び(D)のいずれかにおけるアニオン、及びリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム及び/又はカルシウムの少なくとも一つから選ばれるカチオンを有する少なくとも一つの電解質を添加し;
(G)前記沈殿物を少なくとも一つのイオン性及び/又は非イオン性界面活性剤で処理し;そして
(F)前記(本明細書の上文に記載した)アリルシランの少なくとも一つを(C)、(B)、(D)及び(E)のいずれかのステップの最中又は後に添加する
ことを含みうる。従って、望ましくは、前記アリルシランは、
CH−CH=CH(アリル炭化水素)、
CH−CH=CH−CH(2−ブテン)、
CH−CH=C−(CH(ジメチルアリル炭化水素)及び
CH−C(CH)=CH−CH(2−メチル−2−ブテン)
の少なくとも一つを含む。
【0034】
実際、前記アリル官能化沈降シリカは、それをゴム組成物に添加する前に、沈降シリカを前記アリルシランで前処理することによって形成されても、又は前記沈降シリカ及び前記アリルシランを個別にゴム組成物に添加することによってゴム組成物内でその場(in situ)で処理されてもよい。
【0035】
さらに本発明に従って、前記ゴム組成物を含む少なくとも一つの部材を有する、例えばタイヤのような製品を提供する。そのようなタイヤ部材は、例えば、タイヤサイドウォール、タイヤサイドウォールインサート、タイヤサイドウォールアペックス、プライの被覆、ワイヤの被覆、及びトレッドの少なくとも一つでありうる。
【0036】
歴史的観点から言うと、米国特許第5,708,069号、7,550,610号及び5,789,514号によれば、シリカゲルは、例えば、シリカヒドロゲルを例えば有機メルカプトシラン及びアルキルシランで疎水性としし、生成物を乾燥することによって誘導できる。得られた疎水化シリカゲルは、天然ゴム及び/又は合成ゴムとブレンドすることができる。
【0037】
シリカゲル及び沈降シリカに関する一般的記述は、例えば、Encyclopedia of Chemical Technology,第4版(1997),21巻,Kirk−Othmer,1020〜1023ページに見ることができる。
【0038】
シリカゲルは沈降シリカの形態であるが、本発明は、欧州特許公開EP0643015及び米国特許出願公開第2008/0293871号に提示及び記載されているような、10〜130m/gのBET表面積及び10〜70m/gのCTAB表面積と共に約1〜5.2のBET対CTABの表面積比を有する、(適切なゴム補強剤というより)練り歯磨きにおける研磨及び/又は増粘成分として有用であることが示されている著しく異なる沈降シリカではなく、前述の所要のBET及びCTAB表面積の特徴と共に0.8〜1.3の範囲というその狭い所要比率も併せ持つという意味において、それからは著しくかけ離れていることを意図している。
【0039】
ゴム組成物は、ジエン系ゴム、カーボンブラック、及び硫黄系ゴム硬化剤以外のその他のゴム配合成分を、高剪断ゴム混合条件下、高温になる通常“ノンプロダクティブ”混合ステップ(又は段階)と呼ばれる少なくとも一つの逐次混合ステップで、少なくとも一つの機械的ミキサーを用いて混合し、次いで最終混合ステップ(又は段階)で、硫黄系硬化剤、例えば硫黄及び硫黄硬化促進剤を加え、混合段階中にゴム混合物が不必要に早期硬化しないように低い混合温度で混合することによって製造されることが多い。“ノンプロダクティブ”及び“プロダクティブ”混合段階という用語は、ゴム混合分野の技術者にはよく知られている。
【0040】
ゴム組成物は、通常、前述の混合段階間で約40℃未満の温度に冷却されることは理解されるはずである。
【0041】
硫黄加硫性エラストマーは、例えば、イソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つのポリマー及びスチレンとイソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つとのコポリマーの少なくとも一つを含みうる。
【0042】
所望であれば、硫黄加硫性エラストマーの少なくとも一つは、
(A)イソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つのポリマー及びスチレンとイソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つとのコポリマーを含むカップリングさせたエラストマー、ここで前記カップリングさせたエラストマーは、スズ及びシリカでカップリングさせたエラストマーの少なくとも一つである、又は
(B)スチレン/ブタジエンコポリマーエラストマー(SBR)、シス1,4−ポリブタジエンエラストマー及びシス1,4−ポリイソプレンエラストマーの少なくとも一つの官能化エラストマー;ここで前記官能化エラストマーは、
(1)前記アリル官能化沈降シリカと反応するアミン官能基、又は
(2)前記アリル官能化沈降シリカ充填剤のゴム補強剤と反応するシロキシ官能基、又は
(3)前記アリル官能化シリカと反応するアミン及びシロキシ官能基の組合せ、又は
(4)前記アリル官能化シリカと反応するシラン/チオール官能基、又は
(5)前記アリル官能化沈降シリカと反応するヒドロキシル官能基、又は
(6)前記アリル官能化沈降シリカと反応するエポキシ基、又は
(7)前記アリル官能化沈降シリカと反応するカルボキシル基
を含む官能基を含有する、
を含みうる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、分で表した時間に対して150℃の定温におけるトルクをプロットしたグラフである。
【実施例】
【0044】
以下の実施例は本発明をさらに説明するために提供される。実施例中、材料の量及びパーセンテージは、特に断りのない限り、重量による。
【0045】
実施例I
アリル官能化沈降シリカの製造
沈降シリカ(合成アモルファスシリカ凝集体がアグロメレーションしたもの)は、Rhodia社の製品であるZeosil(登録商標)1165MP(Micropearl)として入手した。
【0046】
そのアグロメレーション形態の沈降シリカを高速ブレンダーに3分間入れ、これより低密度の沈降シリカ凝集体の形態に破砕した(すなわち、幾分アグロメレーションを解いた)。
【0047】
破砕された(アグロメレーションが解かれた)シリカ凝集体を本明細書ではシリカAとする。
【0048】
(A)アリルトリクロロシランによる処理
30グラムの沈降シリカ凝集体を、ディーン・ストークトラップを備えた丸底フラスコに乾燥トルエンと共に入れた。
【0049】
シリカ/トルエン懸濁液をフラスコ中で加熱及び還流し、約1.65mlの水を含有する水/トルエン混合物を共沸蒸留により回収した(還流懸濁液から除去した)。回収(除去)された水/混合物は、もとのシリカの約5.5重量パーセントを含有していた。
【0050】
残りのシリカ/トルエン混合物に2.6グラムのアリルトリクロロシランをフラスコ内の還流懸濁液に1滴ずつ加えた。アリルトリクロロシランを加えると、懸濁液は低粘性及びより透明になり、溶液形成中であることが示された。該溶液を還流条件下で2時間撹拌した後、冷却し、ろ過して、処理された(アリル官能化された)沈降シリカを得た。
【0051】
回収された処理(アリル官能化)沈降シリカを本明細書ではシリカBとする。
【0052】
(B)アリルクロロジメチルシランによる処理
30グラムの沈降シリカ凝集体を1.19グラムのアリルクロロジメチルシランを用いて同様に処理した。
【0053】
回収された処理(アリル官能化)沈降シリカを本明細書ではシリカCとする。
【0054】
(C)アリルトリエトキシシランによる処理
30グラムの沈降シリカ凝集体を1.82グラムのアリルトリエトキシシランを用いて同様に処理した。
【0055】
回収された処理(アリル官能化)沈降シリカを本明細書ではシリカDとする。
【0056】
(D)N−プロピルトリエトキシシラン(アリルアルコキシシランでない)による処理
30グラムの沈降シリカ凝集体を1.83グラムのN−プロピルトリエトキシシランを用いて同様に処理した。
【0057】
回収された処理沈降シリカを本明細書ではシリカEとする。
【0058】
実施例II
予備処理された沈降シリカの評価
実施例Iの沈降シリカの処理サンプルをゴム組成物中で評価した。以下の表Aに一般的なゴム配合表を示す。部及びパーセンテージは特に断りのない限り重量による。
【0059】
【化3】

【0060】
ゴム組成物のサンプルは、密閉式ゴムミキサー内で成分を二つの別個の逐次混合段階又はステップ、すなわち、比較的高温になる第一のノンプロダクティブ混合段階(NP)と、その後の、著しく低い混合温度に下げて硫黄、硫黄硬化促進剤及び酸化亜鉛を添加する第二のプロダクティブ混合段階(PR)を用いてブレンドすることによって製造した。そのようなゴム混合手順は当業者には周知である。
【0061】
ノンプロダクティブ混合段階(NP)の場合、成分を約4分間混合すると、密閉式ゴムミキサー内での高剪断混合によって自己生成的に生じた約150℃の落下温度になる。この時点でバッチは、関係した密閉式ゴムミキサーから“落下”又は取り出される。該バッチをシートに伸ばして40℃未満の温度に放冷する。次に、このバッチをプロダクティブ混合段階(PR)で混合する。この間に遊離硫黄、加硫促進剤及び酸化亜鉛を添加し、約2分間混合すると約110℃の落下温度になる。
【0062】
各サンプルの硬化挙動及び硬化後の様々な物理的性質を以下の表1に示す。硬化ゴムサンプルについては、サンプルを個別に約30分間約150℃の温度で硬化した。
【0063】
ゴムサンプルは、対照ゴムサンプルA及び実験ゴムサンプルB、C、D及びEと識別される。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から、100パーセント及び300パーセントの両モジュラス値は、アリルシラン処理(アリル官能化)シリカB、C及びDをそれぞれ用いたゴムサンプルB、C及びDのほうが、プロピルシラン処理シリカEを使用した実験ゴムサンプルEと比べて高かったことが分かる。
【0066】
300パーセント歪を達成するためのエネルギーも、アリルシラン処理(アリル官能化)シリカを用いたゴムサンプルB、C及びDのほうが、プロピルトリエトキシシラン(非アリル含有シラン)処理シリカEを使用したゴムサンプルEと比べて高いことが分かる。300パーセント歪を達成するためのエネルギーは、ポリマーの架橋、絡み合い及びポリマー/充填剤相互作用の尺度とみなされる。硬化系及びゴム(天然ゴム)はゴムサンプルで同一なので、300パーセント歪を達成するためのエネルギーの増加は、アリルシラン処理(アリル官能化)沈降シリカのポリマー/充填剤相互作用の増加を示している。
【0067】
最大トルク及び最小トルク間のMDR差は、アリルシラン処理(アリル官能化)沈降シリカB及びシリカDをそれぞれ含有するゴムサンプルB及びDのほうが、プロピルアルコキシシラン処理シリカFを含有するゴムサンプルFと比べて低いことが分かる。
【0068】
最大トルク及び最小トルク間のMDR差は、アリルシラン処理(アリル官能化)沈降シリカCを含有するゴムサンプルCの場合、プロピルアルコキシシラン処理シリカFを含有するゴムサンプルFと比べてわずかに高いことが分かる。
【0069】
低い又は実質的に等しい最大及び最小トルク差と高いモジュラス値の組合せは、アリルシラン処理(アリル官能化)沈降シリカを含有するゴムサンプルB、C、及びDのゴム/充填剤相互作用の量が、プロピルアルコキシシラン処理シリカFを含有するゴムサンプルFと比べて増加していることをさらに示していると考えられる。
【0070】
本明細書においては、アリルシラン処理(アリル官能化)沈降シリカ上のアリル基は、沈降シリカからゴムへのカップリング結合を創製するという様式で硫黄加硫プロセスに関与していると結論付けられる。
【0071】
実施例III
その場で処理された沈降シリカの評価
沈降シリカ(合成アモルファスシリカ凝集体がアグロメレーションしたもの)は、Rhodia社の製品であるZeosil(登録商標)1165MP(Micropearl)として入手した。
【0072】
ゴムサンプルは、アリルアルコキシシラン及びプロピルアルコキシシラン(非アリルシラン)を、別々及び個別に、沈降シリカ含有ゴム組成物とブレンドすることによって製造した。
【0073】
このようにして、沈降シリカは、密閉式ゴムミキサー内のゴム組成物中でその場でアリルアルコキシシラン又はプロピルアルコキシシランで処理される。
【0074】
このゴムサンプルは、本明細書中ではゴムサンプルX及びゴムサンプルYとする。
【0075】
ゴムサンプルXの場合、アリルアルコキシシランはアリルトリエトキシシランであった。
【0076】
ゴムサンプルYの場合、プロピルシランはN−プロピルトリエトキシシランであった。
【0077】
ゴム組成物のサンプルは、沈降シリカ、及びアリルアルコキシシラン又はプロピルアルコキシシランを別々に添加した以外は、実施例Iのようにして製造した。
【0078】
以下の表Bに一般的なゴム配合表を示す。部及びパーセンテージは特に断りのない限り重量による。
【0079】
【化4】

【0080】
成分は、アグロメレーション形態の沈降シリカ以外は、実施例IIの表Aで使用されたものであった。
【0081】
各サンプルの硬化挙動及び硬化後の様々な物理的性質を以下の表3に示す。硬化ゴムサンプルについては、サンプルを個別に約30分間約150℃の温度で硬化した。
【0082】
【表2】

【0083】
表2から、100パーセント及び300パーセントの両モジュラス値は、アリルアルコキシシランでその場で処理されたシリカを用いたゴムサンプルFのほうが、プロピルアルコキシシランでその場で処理されたシリカを使用したゴムサンプルGと比べて高かったことが分かる。
【0084】
300パーセント歪を達成するためのエネルギーも、アリルアルコキシシランでその場で処理されたシリカを用いたゴムサンプルFの場合、プロピルシランでその場で処理されたシリカを使用したゴムサンプルGと比べて高く、MDRの最大及び最小トルク値間の差は実質的に等しいことが分かる。300パーセント歪を達成するためのエネルギーが高いことと最大及び最小トルク値間の差が実質的に等しいことは、サンプルFのゴム/充填剤相互作用が、プロピルアルコキシシランを使用して沈降シリカをその場で処理したゴムサンプルGと比べて改良されたことを示している。
【0085】
損失正接(tan delta)は、シリカをアリルアルコキシシランでその場で処理したゴムサンプルFのほうが、シリカをプロピルアルコキシシランでその場で処理したゴムサンプルGと比べて低い。このことは、ゴムサンプルFのゴム/充填剤相互作用が改良されたことを示しており、ひいてはサンプルFのゴム組成物の内部発熱が低く、そのようなゴム組成物のトレッドを有する自動車タイヤの転がり抵抗が有益なことに低いことを示している。
【0086】
本明細書においては、アリルアルコキシシランでその場で処理された沈降シリカ上のアリル基は、ゴムへのカップリング結合を創製するという様式で硫黄加硫プロセスに関与していると結論付けられる。
【0087】
実施例IV
追加の処理沈降シリカを実施例Iのように製造し、本明細書ではシリカX及びシリカYとして識別された。
【0088】
シリカXは、沈降シリカをアリルトリエトキシシランで処理することによって製造され、その表面上に3パーセントのアリル基を含有していた。
【0089】
シリカYは、沈降シリカをプロピルトリエトキシシランで処理することによって製造され、その表面上に3パーセントのプロピル基を含有していた。
【0090】
ゴム組成物は、シリカX及びシリカYをそれぞれ用いて個別に製造されたほか、本明細書中でシリカZとして識別された未処理シリカを用いても製造された。
【0091】
シリカZは、Evonic Degussa社製Si69(登録商標)のような、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドで構成される沈降シリカで、そのポリスルフィド橋(2つの3−エトキシシリルプロピル基を橋渡ししている部分)中に平均約3.4〜3.8個の範囲の連結硫黄原子を有する。
【0092】
以下の表Cに一般的なゴム配合表を示す。部及びパーセンテージは特に断りのない限り重量による。
【0093】
【化5】

【0094】
ゴムサンプルH〜Mは、実施例Iのようにして製造した。
【0095】
各サンプルの硬化挙動及び硬化後の様々な物理的性質を以下の表3に示す。硬化ゴムサンプルについては、サンプルを個別に約30分間約150℃の温度で硬化した。
【0096】
ゴムサンプルは、対照S−SBRゴムサンプルH及び実験S−SBRゴムサンプルI及びJと識別される。対照天然ゴムはサンプルKであり、実験天然ゴムはサンプルL及びMである。
【0097】
【表3】

【0098】
表3から、シリカX(アリルトリアルコキシシラン処理沈降シリカ)を含有するゴムサンプルIは、シリカY(プロピルアルコキシシラン処理沈降シリカ)を含有するゴムサンプルJよりも高いモジュラス値、高い引張強さ及び高いエネルギー(300パーセントモジュラス時)を有することが分かる。これは、沈降シリカ上にアリル基が存在することによるゴム/充填剤相互作用の増加を示すものである。
【0099】
また、表3から、サンプルIは、ゴムサンプルHよりも高いモジュラス値、高い引張強さ及び300パーセント歪を達成するのに高いエネルギーを有することも分かる。ゴムサンプルHはシリカカップリング剤を使用しているので、このことは本明細書においては驚くべきことと考えられる。これもまた、沈降シリカ上にアリル基が存在することによるゴム/充填剤相互作用の増加を示すものである。
【0100】
表3には、ゴムサンプルH〜Mのスコーチ時間TS1及びTS2が報告されている。プロピルアルコキシシラン処理シリカ(シリカY)を含有するゴムサンプルJ及びMは最長のスコーチ時間を有していたことが分かる。これは、ゴム組成物を早期硬化又はスコーチなしに加工する能力を示している。プロピル基はエラストマーと反応しないので、このことは本明細書中では驚くべきこととはみなされない。
【0101】
アリルシラン処理(アリル官能化)沈降シリカ(シリカX)を含有するゴムサンプルI及びLは次に長いスコーチ時間を有していたことが分かる。このことは本明細書中では利益とみなされる。なぜならば、シリカXはエラストマーと結合する能力を有しているのに、カップリング剤を包含する従来のカップリングを使用したゴムサンプルH及びKと比べて増加した加工時間(スコーチまでの)を有しているからである。
【0102】
図面
本実施例IVで示した本発明をさらに図示するために図1(FIG1)として図面を提供する。この図面は、分で表した時間(x軸)対150℃の定温におけるトルクをプロットしたグラフである。トルク(y軸)はdNmで報告されている。
【0103】
図において
図1から、非処理シリカを使用した対照ゴムサンプルHの場合、トルクは直ちに増加し始めていることが分かる。この現象は、高温でのゴム組成物の混合中、シリカと結合したカップリング剤とゴムとの間の反応を示している。
【0104】
このトルクの即時上昇は、ゴム組成物のムーニー粘度の急速な増加を示しているため、本明細書においては製造工場のゴム加工にとって好適でないとみなされる。ゴム粘度の増加は、ゴム組成物の密閉式ゴムミキサー内でのその混合中のみならず、その後のその加工にとって一般的に好適でない。その後の加工とは、例えば成形による(例えば押出による)加工及び例えばゴムタイヤの製造におけるようなゴム組成物の成形及び硬化のためのゴム用金型内でのゴムの流れに抵抗性を付与することによる加工などである。
【0105】
実験ゴムサンプルIの場合、トルクは安定を保っており、混合の最初の4分間の間、著しく上昇しなかったことが分かる。この遅延効果は、本明細書においては、ゴム組成物のムーニー粘度上昇の削減のために重要であると考えられており、それによって密閉式ゴムミキサー内でのより良好で効率的な加工が促進される。
【0106】
また、実験ゴムサンプルIは、前述の4分間の混合時間後はトルク上昇速度が速いことも分かる。このことは、ゴム製品の製造にとってより速い(短い)ゴム成形時間が可能であることを示すものである。
【0107】
実施例V
アリル処理沈降シリカ及びアリル処理シリカゲルのゴム補強効果を評価する。
【0108】
沈降シリカはここではシリカPとして識別され、アリル処理沈降シリカはここではシリカA−Pとして識別される。
【0109】
シリカゲルはここではシリカGとして識別され、アリル処理シリカゲルはここではシリカA−Gとして識別される。
【0110】
本実施例の場合、使用された沈降シリカは、Rhodia社製のZeosil 1165MP(登録商標)であった。
【0111】
本実施例の場合、使用されたシリカゲルは、Silicycle社製のSiliaBond(登録商標)であった。
【0112】
以下の表Dに一般的なゴム配合表を示す。部及びパーセンテージは特に断りのない限り重量による。
【0113】
【化6】

【0114】
ゴムサンプルN、O、及びPは、実施例Iのようにして製造した。各サンプルの硬化挙動及び物理的性質を以下の表4に示す。硬化ゴムサンプルについては、サンプルを約30分間約150℃の温度で硬化した。
【0115】
ゴムサンプルは、対照ゴムサンプルN(沈降シリカ補強剤入り)、実験ゴムサンプルO(アリル処理沈降シリカA−P入り)及び実験ゴムサンプルP(アリル処理シリカゲルA−G入り)と識別される。
【0116】
【表4】

【0117】
表4から、シリカA−P(アリル処理沈降シリカ)を含有するゴムサンプルOは、沈降シリカ(アリル処理されていない)と共に従来のシリカカップリング剤を含有するゴムサンプルNと同様の、引張強さ、モジュラス及び伸びなどの硬化ゴムの応力−歪の物理的性質並びに貯蔵弾性率(G’)及び損失正接などの動的物理的性質(RPA測定)を有していたことが分かる。
【0118】
このことは、シリカカップリング剤を包含しないアリル処理沈降シリカと同様の硬化ゴムの性質を達成するのに、沈降シリカ(非アリル処理沈降シリカ)はシリカカップリング剤を必要としたという意味で特に重要である。
【0119】
この観察は、真に注目に値するもので、従来の技術から著しくかけ離れていると考えられる。
【0120】
さらに、ゴムサンプルNのそのような総体的なゴムの性質は、300パーセント歪を達成するためのエネルギーの顕著な低下を含む、ゴムサンプルO(アリル処理シリカゲルを使用)の総体的なゴムの性質よりも劇的及び顕著に良好である。
【0121】
このことは、有益な硬化ゴムの性質の達成も観察されたのは、アリル処理シリカゲルではなくアリル処理沈降シリカ(ゴム補強剤品質のシリカ)のみであったという意味において特に重要である。
【0122】
これらの顕著な物理的相違は、本明細書においては、アリル処理沈降シリカ(シリカA−P)は、アリル処理シリカゲル(シリカA−G)よりも著しく大きいゴム補強能力を有していることの明白な表れであると考えられている。
【0123】
さらに、アリルシランによるシリカゲルの処理は、シリカゲルをゴムの補強剤として適切なものにするには不十分であったことが分かる。
【0124】
従って、シリカの構造が重要であることは明らかで、特に沈降シリカの場合、BET窒素表面積、CTAB表面積及び0.8〜1.3の範囲のBET/CTAB比の組合せが重要である。
【0125】
ゆえに、本明細書においては、特定の沈降シリカ構造及びそのアリル処理の組合せが、ゴム補強剤を提供するための本発明の重要な側面であると考えられている。
【0126】
本発明を説明する目的で、ある代表的態様及び詳細を示してきたが、本発明の精神又は範囲から離れることなく、様々な変形及び変更がその中でなされうることは当業者には明白であろう。[本発明の態様]
1 少なくとも一つのアリル基の置換基を含有する沈降シリカを含むアリル官能化沈降シリカであって、
前記アリル官能化沈降シリカは、一般式(I):
【0127】
【化7】

【0128】
[式中、Zは沈降シリカを表し;R及びRは、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、及び3〜18個の炭素原子を含有するアルケン基又は5〜8個の炭素原子を有するシクロアルケン基を含む同じ又は異なる基であり;そしてRは、
−CH−CH=CH
−CH−CH=CH−CH
−CH−CH=C−(CH及び
−CH−C(CH)=CH−CH
の少なくとも一つを含むアリル水素含有基であり、
式中、aは0〜2の範囲の整数であり、bは0〜2の範囲の整数であり、そしてcは1〜3の範囲の整数である]によって表されるアリル官能化沈降シリカ。
【0129】
2 前記R及びRが、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基を含む同じ又は異なる基である、1に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【0130】
3 Rが、−CH−CH=CHとして表されるアリル水素含有基である、1に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【0131】
4 Rが、−CH−CH=CH−CHとして表されるアリル水素含有基である、1に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【0132】
5 Rが、−CH−CH=C−(CHとして表されるアリル水素含有基である、1に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【0133】
6 Rが、−CH−C(CH)=CH−CHとして表されるアリル水素含有基である、1に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【0134】
7 少なくとも一つのアリルシランで処理された沈降シリカを含むアリル官能化沈降シリカであって、
前記アリルシランは、一般構造式(II):
【0135】
【化8】

【0136】
[式中、R及びRは、同じ又は異なり、1〜8個の炭素原子を含有するアルコキシ基、5〜8個の炭素原子を含有するシクロアルコキシ基、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、3〜18個の炭素原子を含有するアルケン、又は5〜8個の炭素原子を有するシクロアルケンを含み;
式中、Xは、塩素、ヒドロキシ、又は水素であり;
式中、Rは、
−CH−CH=CH
−CH−CH=CH−CH
−CH−CH=C−(CH及び
−CH−C(CH)=CH−CH
の少なくとも一つを含むアリル水素含有基であり;
式中、aは0〜3の範囲の整数であり、bは0〜3の範囲の整数であり、cは1〜3の範囲の整数であり、そしてdは0〜3の範囲の整数であり、a、b、c及びdの合計は4であり;
前記X、R及びRの少なくとも一つは存在し;
前記d=0の場合、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である]を有するアリル官能化沈降シリカ。
【0137】
8 前記アリルシランが、アリルアルコキシシラン又はアリルクロロシランである、7に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【0138】
9 前記アリルシランが、アリルジメチルクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、ジアリルクロロメチルシラン、ジアリルジクロロシラン及びトリアリルクロロシランの少なくとも一つを含む、7に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【0139】
10 アリル官能化沈降シリカの製造法であって、前記方法は、ヒドロキシル基をその上に有する沈降シリカを少なくとも一つのアリルシラン化合物で処理することを含み、
前記沈降シリカは、
(A)120〜300m/gの範囲のBET窒素表面積、
(B)100〜300m/gの範囲のCTAB表面積、及び
(C)0.8〜1.3の範囲の前記BET/CTAB表面積の比率
を有し、
前記アリルシラン化合物は、一般構造式(II):
【0140】
【化9】

【0141】
[式中、R及びRは、同じ又は異なり、1〜8個の炭素原子を含有するアルコキシ基、5〜8個の炭素原子を含有するシクロアルコキシ基、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、3〜18個の炭素原子を含有するアルケン、又は5〜8個の炭素原子を有するシクロアルケンを含み;
式中、Xは、塩素、ヒドロキシ、又は水素であり;
式中、Rは、
−CH−CH=CH
−CH−CH=CH−CH
−CH−CH=C−(CH及び
−CH−C(CH)=CH−CH
の少なくとも一つを含むアリル水素含有基であり;
式中、aは0〜3の範囲の整数であり、bは0〜3の範囲の整数であり、cは1〜3の範囲の整数であり、そしてdは0〜3の範囲の整数であり、a、b、c及びdの合計は4であり;
前記X、R及びRの少なくとも一つは存在し;
前記d=0の場合、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である]を有する方法。
【0142】
11 前記アリルシランが、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、ジアリルクロロメチルシラン、ジアリルジクロロシラン及びトリアリルクロロシランの少なくとも一つを含む、10に記載の方法。
【0143】
12 10の方法によって製造されたアリル官能化沈降シリカ。
【0144】
13 1の前記アリル官能化沈降シリカを含む少なくとも一つの補強充填剤を含有する少なくとも一つの硫黄硬化硫黄加硫性エラストマーを含むゴム組成物。
【0145】
14 前記補強充填剤が、カーボンブラック及びアリル置換基のない前記沈降シリカの少なくとも一つを含む、13に記載のゴム組成物。
【0146】
15 前記沈降シリカ上に含有されるヒドロキシル基と反応する部分及び前記硫黄加硫性エラストマーと相互作用する別の異なる部分を有するシリカカップリング剤を含有する、13に記載のゴム組成物。
【0147】
16 前記沈降シリカ上に含有されるヒドロキシル基と反応する部分及び前記硫黄加硫性エラストマーと相互作用する別の異なる部分を有するシリカカップリング剤を含有する、14に記載のゴム組成物。
【0148】
17 前記硫黄加硫性エラストマーが、
(A)イソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つのポリマー及びスチレンとイソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つとのコポリマー、
(B)イソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つのポリマー及びスチレンとイソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つとのコポリマーを含むカップリング化エラストマー、ここで前記カップリング化エラストマーは、スズ及びシリカでカップリングされたエラストマーの少なくとも一つである、及び
(C)スチレン/ブタジエンコポリマーエラストマー(SBR)、シス1,4−ポリブタジエンエラストマー及びシス1,4−ポリイソプレンエラストマーの少なくとも一つの官能化エラストマー、ここで前記官能化エラストマーは、
(1)前記アリル官能化沈降シリカと反応するアミン官能基、又は
(2)前記アリル官能化沈降シリカ充填剤のゴム補強剤と反応するシロキシ官能基、又は
(3)前記アリル官能化シリカと反応するアミン及びシロキシ官能基の組合せ、又は
(4)前記アリル官能化シリカと反応するシラン/チオール官能基、又は
(5)前記アリル官能化沈降シリカと反応するヒドロキシル官能基、又は
(6)前記アリル官能化沈降シリカと反応するエポキシ基、又は
(7)前記アリル官能化沈降シリカと反応するカルボキシル基
を含む官能基を含有する、
の少なくとも一つを含む、13に記載のゴム組成物。
【0149】
18 前記沈降シリカが、
(A)前記沈降シリカを前記ゴム組成物に添加する前に前記アリルシランで処理する、又は
(B)前記沈降シリカをゴム組成物内でその場で前記アリルシランで処理する
ことによってアリル官能化される、13に記載のゴム組成物。
【0150】
19 13のゴム組成物を含む少なくとも一つの部材を有する製品。
【0151】
20 13のゴム組成物を含む少なくとも一つの部材を有するタイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのアリル基の置換基を含有する沈降シリカを含むことを特徴とするアリル官能化沈降シリカであって、
前記沈降シリカは、
(A)120〜300m/gの範囲のBET窒素表面積、
(B)100〜300m/gの範囲のCTAB表面積、及び
(C)0.8〜1.3の範囲の前記BET/CTAB表面積の比率
を有し;
前記アリル官能化沈降シリカは、一般式(I):
【化1】

[式中、Zは沈降シリカを表し;R及びRは、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、及び3〜18個の炭素原子を含有するアルケン基又は5〜8個の炭素原子を有するシクロアルケン基を含む同じ又は異なる基であり;そしてRは、
−CH−CH=CH
−CH−CH=CH−CH
−CH−CH=C−(CH及び
−CH−C(CH)=CH−CH
の少なくとも一つを含むアリル水素含有基であり、
式中、aは0〜2の範囲の整数であり、bは0〜2の範囲の整数であり、そしてcは1〜3の範囲の整数である]によって表されるアリル官能化沈降シリカ。
【請求項2】
前記R及びRが、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基を含む同じ又は異なる基である、請求項1に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【請求項3】
が、−CH−CH=CHとして表されるアリル水素含有基である、請求項1及び2のいずれかに記載のアリル官能化沈降シリカ。
【請求項4】
が、−CH−CH=CH−CHとして表されるアリル水素含有基である、請求項1及び2のいずれかに記載のアリル官能化沈降シリカ。
【請求項5】
が、−CH−CH=C−(CHとして表されるアリル水素含有基である、請求項1及び2のいずれかに記載のアリル官能化沈降シリカ。
【請求項6】
が、−CH−C(CH)=CH−CHとして表されるアリル水素含有基である、請求項1及び2のいずれかに記載のアリル官能化沈降シリカ。
【請求項7】
少なくとも一つのアリルシランで処理された沈降シリカを含むアリル官能化沈降シリカであって、
(A)前記沈降シリカは、
(B)120〜300m/gの範囲のBET窒素表面積、
(C)100〜300m/gの範囲のCTAB表面積、及び
(D)0.8〜1.3の範囲の前記BET/CTAB表面積の比率
を有し;そして
前記アリルシランは、一般構造式(II):
【化2】

[式中、R及びRは、同じ又は異なり、1〜8個の炭素原子を含有するアルコキシ基、5〜8個の炭素原子を含有するシクロアルコキシ基、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、3〜18個の炭素原子を含有するアルケン、又は5〜8個の炭素原子を有するシクロアルケンを含み;
式中、Xは、塩素、ヒドロキシ、又は水素であり;
式中、Rは、
−CH−CH=CH
−CH−CH=CH−CH
−CH−CH=C−(CH及び
−CH−C(CH)=CH−CH
の少なくとも一つを含むアリル水素含有基であり;
式中、aは0〜3の範囲の整数であり、bは0〜3の範囲の整数であり、cは1〜3の範囲の整数であり、そしてdは0〜3の範囲の整数であり、a、b、c及びdの合計は4であり;
前記X、R及びRの少なくとも一つは存在し;
前記d=0の場合、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である]を有するアリル官能化沈降シリカ。
【請求項8】
前記アリルシランが、アリルアルコキシシラン又はアリルクロロシランである、請求項7に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【請求項9】
前記アリルシランが、アリルジメチルクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、ジアリルクロロメチルシラン、ジアリルジクロロシラン及びトリアリルクロロシランの少なくとも一つを含む、請求項7に記載のアリル官能化沈降シリカ。
【請求項10】
アリル官能化沈降シリカの製造法であって、前記方法は、ヒドロキシル基をその上に有する沈降シリカを少なくとも一つのアリルシラン化合物で処理することを含み、
前記沈降シリカは、
(A)120〜300m/gの範囲のBET窒素表面積、
(B)100〜300m/gの範囲のCTAB表面積、及び
(C)0.8〜1.3の範囲の前記BET/CTAB表面積の比率
を有し;
前記アリルシラン化合物は、一般構造式(II):
【化3】

[式中、R及びRは、同じ又は異なり、1〜8個の炭素原子を含有するアルコキシ基、5〜8個の炭素原子を含有するシクロアルコキシ基、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、3〜18個の炭素原子を含有するアルケン、又は5〜8個の炭素原子を有するシクロアルケンを含み;
式中、Xは、塩素、ヒドロキシ、又は水素であり;
式中、Rは、
−CH−CH=CH
−CH−CH=CH−CH
−CH−CH=C−(CH及び
−CH−C(CH)=CH−CH
の少なくとも一つを含むアリル水素含有基であり;
式中、aは0〜3の範囲の整数であり、bは0〜3の範囲の整数であり、cは1〜3の範囲の整数であり、そしてdは0〜3の範囲の整数であり、a、b、c及びdの合計は4であり;
前記X、R及びRの少なくとも一つは存在し;
前記d=0の場合、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である]を有する方法。
【請求項11】
前記アリルシランが、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、ジアリルクロロメチルシラン、ジアリルジクロロシラン及びトリアリルクロロシランの少なくとも一つを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10及び11のいずれかの方法によって製造されるアリル官能化沈降シリカ。
【請求項13】
請求項1〜9及び12のいずれかの前記アリル官能化沈降シリカを含む少なくとも一つの補強充填剤を含有する少なくとも一つの硫黄硬化硫黄加硫性エラストマーを含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項14】
前記補強充填剤が、カーボンブラック及びアリル置換基のない前記沈降シリカの少なくとも一つを含む、請求項13に記載のゴム組成物。
【請求項15】
前記沈降シリカ上に含有されるヒドロキシル基と反応する部分及び前記硫黄加硫性エラストマーと相互作用する別の異なる部分を有するシリカカップリング剤を含有する、請求項13及び14のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項16】
前記硫黄加硫性エラストマーが、
(A)イソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つのポリマー及びスチレンとイソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つとのコポリマー、
(B)イソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つのポリマー及びスチレンとイソプレン及び1,3−ブタジエンの少なくとも一つとのコポリマーを含むカップリング化エラストマー、ここで前記カップリング化エラストマーは、スズ及びシリカでカップリングされたエラストマーの少なくとも一つである、及び
(C)スチレン/ブタジエンコポリマーエラストマー(SBR)、シス1,4−ポリブタジエンエラストマー及びシス1,4−ポリイソプレンエラストマーの少なくとも一つの官能化エラストマー、ここで前記官能化エラストマーは、
(1)前記アリル官能化沈降シリカと反応するアミン官能基、又は
(2)前記アリル官能化沈降シリカ充填剤のゴム補強剤と反応するシロキシ官能基、又は
(3)前記アリル官能化シリカと反応するアミン及びシロキシ官能基の組合せ、又は
(4)前記アリル官能化シリカと反応するシラン/チオール官能基、又は
(5)前記アリル官能化沈降シリカと反応するヒドロキシル官能基、又は
(6)前記アリル官能化沈降シリカと反応するエポキシ基、又は
(7)前記アリル官能化沈降シリカと反応するカルボキシル基
を含む官能基を含有する、
の少なくとも一つを含む、請求項13〜15のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項17】
前記沈降シリカが、
(A)前記沈降シリカを前記ゴム組成物に添加する前に前記アリルシランで処理する、又は
(B)前記沈降シリカをゴム組成物内でその場で前記アリルシランで処理する
ことによってアリル官能化される、請求項13〜16のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれかのゴム組成物を含む少なくとも一つの部材を有する製品。
【請求項19】
請求項13〜17のいずれかのゴム組成物を含む少なくとも一つの部材を有するタイヤ。
【請求項20】
請求項13〜17のいずれかのゴム組成物を含むトレッドを有するタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−16715(P2011−16715A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−154863(P2010−154863)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(590002976)ザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー (256)
【氏名又は名称原語表記】THE GOODYEAR TIRE & RUBBER COMPANY
【住所又は居所原語表記】1144 East Market Street,Akron,Ohio 44316−0001,U.S.A.
【Fターム(参考)】