説明

特異的かつ選択的な電気シグナル及び電磁シグナルを用いたタイプIIコラーゲン遺伝子発現の制御方法

【解決手段】 患部関節軟骨細胞若しくは損傷関節軟骨細胞の治療における、特異的かつ選択的な電気シグナル及び電磁シグナルによって発生した特異的かつ選択的な電界の適用を介した、軟骨細胞中のタイプIIコラーゲン遺伝子発現を制御するための方法及び装置。遺伝子発現とは、ヒトゲノム(DNA)の特異的な部分(遺伝子)がmRNAに転写され、その後にタンパク質へ翻訳される工程の上方制御若しくは下方制御を指している。損傷組織若しくは患部軟骨組織を標的とする治療用の方法及び装置を提供し、これらはタイプIIコラーゲン遺伝子発現に対して最適化された特異的かつ選択的な電界を発生する特異的かつ選択的な電気シグナル及び電磁シグナルを発生する工程と、軟骨組織を、前記軟骨組織中のタイプIIコラーゲン遺伝子発現を制御するように、特異的かつ選択的なシグナルによって発生した前記特異的かつ選択的な電界にさらす工程とを含む。結果として生じる方法及び装置は、変形関節炎、リウマチ性関節炎、軟骨損傷、及び軟骨欠損を標的とした治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、米国特許番号第297,454号(これは2001年2月23日出願の国際出願番号第PCT/US01/05991号の米国国内段階特許明細書である)の一部継続出願であり、言い換えると、2000年2月23日出願の米国仮出願番号第60/184,491号の出願日に対して優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、損傷若しくは罹患関節軟骨を治療するために、特異的かつ選択的な電気シグナル及び電磁シグナルによって発生される特異的かつ選択的な電界を適用することによって、軟骨細胞中のタイプIIコラーゲン遺伝子発現を制御する方法に関するものであり、さらにその様なシグナルを発生ための装置にも関するものである。
【背景技術】
【0003】
様々な生物組織及び細胞に存在すると信じられている生体電気相互作用及び活動は、生理学的過程において最も理解がされていないものの1つである。しかしながら、最近、いくつかの組織及び細胞の成長や修復に関するこれらの相互作用及び活動に対する多くの研究がなされている。特に、電場や電磁場による刺激、及び骨や軟骨の成長や修復へのその効果に対して多くの研究がなされてきた。研究者らは、そのような研究が様々な医学的問題に対する新規治療方法の開発に有用であると信じている。
【0004】
変性関節疾患としても知られている変形性関節炎は、関節軟骨の変性や、肋軟骨下骨の増殖や組織再構築(リモデリング)によって特徴付けられている。通常の症状としては、凝り、動作の制限や痛みである。変形性関節炎は、関節炎の最も一般的な形態であり、罹患率は年齢と共に著しく増加する。変形性関節炎を有すると自己申告する高齢患者は、高齢者で罹患していない人の2倍の頻度で医者を訪問する、ということが示されていた。その様な患者は、同年代の他の人に比べて、それ以上の日数の活動の制限やベット拘束も経験している。ある研究において、症候性患者の多くは8年の追跡期間の間で著しく不自由になった(Massardo et al.、Ann Rheum Dis 48:893〜7(1989))。
【0005】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、相変わらず変形性関節炎に対する一次治療様式である。NSAIDsの効果がその鎮痛性特性或いは抗炎症性特性によるものなのか、若しくは軟骨の変性過程の緩徐によるものなのかは知られていない。また、NSAIDsが患者に対して有害であるとの懸念もある。例えば、NSAIDsは胃、消化管、肝臓及び腎臓に対して毒性効果を有していることが良く知られてきた。しかしながら、アスピリンは、動物においてプロテオグリカン合成及び正常軟骨修復過程を阻害する。ヒトに対するある研究では、インドメタシンが臀部(股)軟骨の分解を早める恐れがあると示唆された。全ての有害な効果は変形性関節炎の影響を最も受けやすい集団の高齢者でより一般的に現れる。
【0006】
変形性関節炎として一般的に知られた疾患において、骨は鉱質除去(脱灰)し異常に希薄化する。骨は、細胞及び基質の有機成分と、無機若しくはミネラル成分とから成る。前記細胞及び基質はコラーゲン性繊維の枠組みから成り、このコラーゲン性線維は、骨に硬性を与える、リン酸カルシウム(85%)及び炭酸カルシウム(10%)のミネラル成分で満たされている。変形性関節炎は一般的に高齢者を冒す疾患として考えられているが、ある種の変形性関節炎は、骨に機能的ストレスを受けていない全世代の人に発症する可能性がある。そのような場合、患者は長期間にわたる運動不足の間に皮質骨及び海綿骨の著しい損失を経験する。高齢者の患者は、骨折の後の固定化の際の不使用が原因で骨損失を経験することは良く知られており、これによりすでに骨粗鬆症骨格であり最終的に二次骨折につながる場合がある。骨密度の減少は、まともに生活ができないほどの痛みに加えて、椎骨破壊や、臀部、前腕、手関節、及び足首の骨折の原因となる可能性がある。これら疾患に対する代替非外科的治療が必要とされている。
【0007】
パルス電磁場(Pulsed electromagnetic fields:PEMF)及び静電結合方式(capacitive coupling:CC)は、1979年の食品医薬品局による承認以来、非治癒性骨折や骨折治癒に関連する問題を処置するために広く用いられていた。この治療形態の試行のための原型は、骨への肉体的ストレスによって、力学的緊張に加えてわずかな電流が出現したという観察に基づいており、この電流は骨形成を促進するシグナルへの肉体的ストレスの伝達の基礎となるメカニズムであると考えられていた。癒着不能の治療において成功した直接的電場刺激に加えて、PEMFや静電結合方式(電極は治療領域の皮膚上に設置される)を用いた非侵襲性技術も有効であると発見された。パルス電磁場は、高導電性細胞外液で小さな誘導電流(ファラデー電流)を発生し、一方、静電結合方式は、組織内に直接電流を生じ、それによってPEMFs及びCCの両方は内因性電流を再現する。
【0008】
骨のクリスタル表面で起こる現象に起因していると元来考えられていた前記内因性電流は、骨のチャネル内の電解質を含有する液体の移動に主として起因すると示されており、この骨のチャネルは"流動電位"と呼ばれるものを生じる固定負電荷を有する有機構成要素を含むものである。軟骨における電気現象の研究は、骨で現れるメカニズムと共通していて、軟骨が機械的に圧迫された時に現れ、軟骨基質内のプロテオグリカン及びコラーゲンにおける固定負電荷の表面を覆う溶液と電解質の移動を引き起こす、力学的−電気的伝達メカニズムを明らかにした。これらの流動電位は、骨内の場合と同様に軟骨内の目的に明らかに適合し、力学的緊張と共に、軟骨細胞の基質成分合成を刺激することができるシグナル伝達を引き起こす。
【0009】
直接電流、静電結合方式、及びPEMFsの主な適用は、整形外科での癒着不能な骨折の治療においてである(Brighton et al.、J.Bone and Joint Surgery、63:2〜13、1981;Brighton and Pollack,J Bone and Joint Surgery、67:577〜585、1985;Bassett et al.、Crit.Rev.Biomed.Eng.、17:451〜529(1989);Bassett et al.、J AMA 247:623〜8(1982))。臨床反応は、成人における臀部の無血管性ネクローシス、及び小児におけるレッグ−ペルテス疾患(Legg−Perthes’s disease)で報告された(Basett et al.、Clin Orthop 246:172〜6(1989);Aaron et al.、Clin Orthop 249:209〜19(1989);Harrison et al.、J Pediatr Orthop 4:579〜84(1984))。PEMFs(Mooney、Spine、15:708〜712、1990)及び静電結合方式(Goodwin,Brighton et al.、Spine、24:1349〜1356、1999)は腰融着の成功率を著しく増加することができるということも示された。さらに、末梢神経制御や機能の増強、及び血管新生の促進も報告されている(Bassett、Bioassays 6:36〜42(1987))。ステロイド注入や他の従来処置に不応である持続性回旋筋腱板腱炎を患う患者は、プラセボ(偽薬)治療された患者と比較して、著しい利益を示した(Binder et al.、Lancet 695〜8(1984))。最終的に、Brightonらは、適切な静電結合方式電場が腰椎の椎骨骨粗鬆症を予防する、及び拮抗することの両方ができることをラットにおいて示した(Brighton et al.、J.Orthop.Res.6:676〜684、1988;Brighton et al.、J.Bone and Joint Surgery、71:228〜236、1989)。
【0010】
最近のこの分野における研究は、組織及び細胞への刺激の効果が中心であった。例えば、直接電流は細胞膜を貫通せず、調節は細胞外マトリクス分化を介して達成されると推測されていた(Grodzinsky、Crit.Rev.Biomed.Engng 9:133(1983))。直接電流と対照的に、PEMFsは細胞膜を貫通でき、それらを刺激する若しくは細胞内オルガネラに直接影響を与えると報告された。細胞外マトリクス、及びin vivo軟骨内骨形成に対するPEMFsの影響の試験によって、軟骨分子の合成が増加し、骨梁が成熟することが明らかになった(Aaron et al.、J.Bone Miner.Res.4:227〜233(1989))。最近になり、LorichとBrightonらは、静電結合方式電気シグナルのシグナル伝達が電位型カルシウムチャネルを介しており、それに続く活性化(細胞骨格)カルモジュリンを伴うサイトゾルカルシウムの増加を導くことを報告した。
【0011】
多くの研究は、反応メカニズムを理解するために組織培養を実験することに向けられていた。ある実験において、電場は軟骨細胞のDNAへの[H]−チミジンの取り込みを増加したことが発見され、これはNa及びCa2+流動が電気刺激誘因(トリガー)DNA合成によって生じるという概念を支持するものであった(Rodan et al.、Science 199:690〜692(1978))。研究によって、二次メッセンジャーであるcAMPでの変化と、電気的拡散(electrical perturbations)に起因する細胞骨格再構成とが発見された(Ryaby et al.、Trans.BRAGS 6(1986);Jones et al.、Trans.BRAGS 6:51(1986);Brighton and Townsend、J.Orthop.Res.6:552〜558、1988)。他の研究によって、グリコサミノグリカン、硫酸化(sulphation)、ヒアルロン酸、リゾチーム活性、及びポリペプチド配列への影響を発見した(Norton et al.、J.Orthop.Res.6:685〜689(1988);Goodman et al.、proc.Natn.Acad.Sci.USA 85:3928〜3932(1988))。
【0012】
1996年に本願出願人により、環状2軸性0.17%力学的緊張が、培養MC3T3−E1骨細胞におけるTGF−β mRNAの著しい増加を生産することが報告された(Brighton et al.、Biochem.Biophys.Res.Commun.229:449〜453(1996))。いくつかの重要な実験が1997年に追随した。1つの実験では、同じ環状2軸性0.17%力学的緊張が、同様な骨細胞におけるPDGF−A mRNAの著しい増加を生産することが報告された(Brighton et al.、Biochem.Biophys.Res.Commun.43:339〜346(1997))。さらに、20mV/cmの60kHz静電結合方式電場が、同様な骨細胞におけるTGF−βの著しい増加を生産することも報告された(Brighton et al.、Biochem.Biophys.Res.Commun.237:225〜229(1996))。しかしながら、他の遺伝子に対するその様な電界の効果は前記文献には報告されていなかった。
【0013】
発明の名称"特異的かつ選択的な電気シグナル及び電磁シグナルの適用を介する遺伝子の制御(Regulation of Genes Via Application of Specific and Selective Electrical and Electromagnetic Signals)"の上記親出願において、患部組織の若しくは損傷組織の標的遺伝子を制御するために創出電界(creating fields)を用いる、前記特異的かつ選択的な電気シグナル及び電磁シグナルを決定するための方法が開示されている。本発明は、軟骨疾患(関節炎)、軟骨損傷、及び軟骨欠陥を治療するために、特異的かつ選択的な電気シグナル及び電磁シグナルによって生じた電界の適用を介して、ある標的遺伝子発現、すなわちタイプIIコラーゲン遺伝子発現を制御する方法を記載することにより、そこに説明された技術を踏まえている。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0014】
本発明は、特異的かつ選択的な電気シグナル及び/若しくは電磁シグナルによって生じる、特異的かつ選択的な電界の適用を介して、軟骨細胞中のタイプIIコラーゲン遺伝子発現の制御方法に関するものである。電場持続期間、振幅、周波数、及び負荷サイクルに対して用量反応曲線を実行することによって、関節軟骨細胞中のタイプIIコラーゲンmRNAを上方制御(up−regulating)するための最適シグナルが発見された。前記最適シグナルは、振幅20mV/cm、持続期間30分、負荷サイクル8.3%(1分オン、11分オフ、30サイクル)、周波数60kHzであり、正弦波配置を有する静電結合方式電場を発生した。特に本発明は、その様なシグナルによって発生する電場の適用を介した、軟骨細胞中のタイプIIコラーゲン遺伝子を上方制御することに関するものである。
【0015】
本発明の好ましい実施例において、静電結合方式電場、電磁場、若しくは合成電界を用いて、特異的かつ選択的にタイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現を上方制御する方法を提供する。変形関節炎、リウマチ性関節炎、軟骨損傷、軟骨欠損、及びそれと同様なものは、タイプIIコラーゲンmRNAの発現を上方制御する、約20mV/cm、約30分の電場持続期間、約60kHzの周波数、約8.3%の負荷サイクル、及び正弦波配置を有する静電結合方式電場で治療される。本発明の方法に従うと、"特異的かつ選択的な"シグナルは、タイプIIコラーゲン遺伝子の発現を上方制御する、振幅、持続期間、負荷サイクル、周波数、及び波形のあらかじめ定められた特性を有しているシグナルである(特異性)。これにより、特定の生物学的若しくは治療学的反応を達成するために、タイプIIコラーゲン遺伝子発現を上方制御する異なるシグナルを選択することが可能になる(選択性)。本発明はさらに、タイプIIコラーゲン遺伝子の発現を上方制御するための特異的かつ選択的な電界を作る特異的かつ選択的なシグナルを発生するための、ここに記載された方法を用いる装置に関するものである。
【0016】
関連した観点において、本発明は、変形関節炎、リウマチ性関節炎、軟骨損傷、及び軟骨欠損の治療のための方法及び装置に関するものである。本発明の方法は、タイプIIコラーゲンの細胞性産生を増加すると知られている若しくは推測されている始動シグナルの持続期間を計画的に変更することによって、タイプIIコラーゲン遺伝子に対する"特異的かつ選択的な"シグナルを決定するための方法論も含む。最適な持続期間を選択した後、タイプIIコラーゲンの遺伝子発現を基にして、前記シグナルの振幅を最適な持続期間に対して変更する。他のシグナル特性を一定に保ったまま、負荷サイクル、周波数、及び波形を計画的に変更する。この過程は、タイプIIコラーゲンの発現を最大限に増加するような最適なシグナルが決定されるまで繰り返される。
【0017】
本分野の当業者であれば、タイプIIコラーゲン遺伝子の発現は、様々な電気及び電磁シグナルに晒された軟骨細胞中のアグリカン遺伝子発現に対して機能的に相補的または相乗的であることが理解される。アグリカン遺伝子発現を制御する特異的及び選択的なシグナルについては、同時係属中の同発明者の米国出願番号第WO2004/029210号明細書に記載される。本発明のこれら及び他の観点は、以下に続く本発明の詳細な説明において明らかにされるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、図1〜9の参照と共に以下で詳細に記載されるであろう。本分野の当業者は、ここに記載された図面に関する詳細が模範的な目的のためのみであり、本発明の範囲を何らかに限定することを意図したものではないことを理解するであろう。本発明の技術的範囲に関するすべての質問は、添付された特許請求の範囲を参照することによって解決される。
【0019】
本発明は、特定の遺伝子の発現が特異的かつ選択的な電気シグナル及び/若しくは電磁シグナルによって発生した電界を適用することによって制御され得るという発見に基づいている。言い換えると、骨、軟骨、及び他の組織細胞中の各遺伝子を制御するための電界を発生する特異的な電気シグナル及び/若しくは電磁シグナルが存在し、これらの特異的なシグナルはそのような細胞内で特異的かつ選択的な遺伝子の制御することができるということが、本発明によって発見された。特に、有益な臨床効果を生み出すために、組織若しくは細胞の成長、維持、修復、及び変性或いは劣化を管理する遺伝子発現は、特異的かつ選択的な電気シグナル及び/若しくは電磁シグナルによって発生した電界の適用を介した本発明に従って制御され得る。そのような発見は、骨折や骨欠損、変形関節炎、骨粗鬆症、癌や他の疾患を含む特定の病状を標的とする治療方法の発展や、そのような方法を用いた装置の発展に有用である。
【0020】
特に、本発明は、タイプIIコラーゲンの発現を大幅に上方制御して、関節軟骨中のコラーゲン生成を増加させることが可能であることを実証するものである。タイプIIコラーゲンは、アグリカンと共に、関節軟骨の主な構成要素であり、関節炎の過程の初期において損なわれたり、劣化するものである。本発明は、本明細書で記載される最適化された電場によりタイプIIコラーゲンmRNAを大幅に上方制御でき、その結果、IL−1βの存在下でもタイプIIコラーゲンの合成を増加させることを明らかに示す。本分野の当業者であれば、本明細書に記載される静電結合方式、または任意のどの電場適用技術を使用しても同様に効果的である、適切な電場を使用して関節炎(変形関節炎及びリウマチ性関節炎)、軟骨損傷及び軟骨欠損を治療することが可能であることも理解される。
【0021】
ここで用いられているように、"シグナル"という用語は、装置によって出力された力学的シグナル、超音波シグナル、電磁シグナル、及び電気シグナルを含む様々なシグナルを言及するために用いられている。ここで用いられているように"電界"という用語は、標的組織内の電場を言及し、これは合成電界若しくはパルス電磁場、または直流、静電結合方式若しくは誘導結合方式によって発生した電界である。
【0022】
"遠隔(remote)"という用語は、遠くから作動される若しくは制御される動作を意味するために用いられる。"遠隔"制御は、遠くから遺伝子の発現を制御することを言及する。例えば、遠隔供給源から特異的かつ選択的なシグナルを提供することは、組織若しくは細胞に少し距離を置いた供給源からのシグナル、若しくは体の表面若しくは外側の供給源からのシグナルを提供することを意味することができる。
【0023】
"特異的かつ選択的な"シグナルという用語は、標的とされた遺伝子もしくは標的とされた機能性相補遺伝子を上方制御若しくは下方制御する、振幅、持続期間、負荷サイクル、周波数、及び波形のあらかじめ定められた特性を有する電場を発生するシグナルを意味する(特異性)。これによって、生物学的若しくは治療学的反応を達成するために、様々な遺伝子発現を上方制御若しくは下方制御する異なる"特異的かつ選択的な"シグナルを選択することが可能になる(選択性)。
【0024】
"制御"という用語は、遺伝子発現を調節することを意味している。制御は、上方制御と下方制御の両方を含むと理解されている。上方制御とは、遺伝子の発現を増加することを意味し、一方、下方制御とは遺伝子の発現を阻害若しくは阻止することを意味する。
【0025】
"機能性相補"は、特定の細胞若しくは組織における2若しくはそれ以上の遺伝子の発現が相補的である若しくは相乗的であることを言及する。
【0026】
"組織"は、患者の構造物質の1つを形成する細胞外物質と共に集まった細胞の集合体を言及する。ここで用いられたように、"組織"という用語は、骨若しくは軟骨組織と同様に、筋肉及び器官組織を含むことを意味している。さらにここで用いられたように、"組織"という用語は個々の細胞も意味する。
【0027】
"患者"という用語は、動物を意味し、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを意味する。
【0028】
本発明は、特定の組織、細胞若しくは疾患を標的とした治療方法及び装置を提供する。特に、損傷組織、患部組織若しくは細胞における修復過程に関連した遺伝子発現を、標的組織若しくは細胞で制御される遺伝子に対して特異的かつ選択的な電気シグナルにより発生した電界を適用することによって制御できるものである。遺伝子発現は、有益な臨床効果を産生するように、各遺伝子若しくは相補遺伝子の各セットに特異的かつ選択的なシグナルを適用することによって、上方制御若しくは下方制御され得る。例えば、特定の特異的かつ選択的なシグナルは、特定の望ましい遺伝子発現を上方制御する電場を発生し、同じ若しくは別の特定の得意的で選択的なシグナルは、特定の望ましくない遺伝子発現を下方制御する電場を発生する。特定の遺伝子は、1つの特定の特異的かつ選択的なシグナルによって発生した電界によって上方制御され、別の特異的かつ選択的なシグナルによって発生した電界によって下方制御される。本分野の当業者には、特定の患部組織若しくは損傷組織が、組織の成長、維持、修復、及び変性或いは劣化を管理するこれらの遺伝子を制御することによる治療の標的になり得るということが理解されるであろう。
【0029】
本発明の方法及び装置は、特定の標的患部組織若しくは損傷組織と関連した遺伝子発現に対して特異的かつ選択的な電界を発生するそれらのシグナルを同定することに基づいている。例えば、様々な形態の電気(例えば、静電結合方式、誘導結合、合成電界など)は、選択された各遺伝子に適用する特異的かつ選択的な電界の周波数、振幅、波形、若しくは負荷サイクルを変化することによって、患者の体の標的組織若しくは細胞中の遺伝子発現の特異的かつ選択的な制御が可能である。電気にさらされる持続時間も、患者の体の標的組織若しくは細胞中の遺伝子発現を特異的かつ選択的に制御するための電気の能力に影響を及ぼす。特異的かつ選択的なシグナルは、遺伝子発現における望ましい効果を提供する周波数、振幅、波形、負荷サイクル、及び持続期間の適切な組合わせが発見されるまで、各遺伝子へ系統的に適用するための電場を発生する。
【0030】
特定の遺伝子発現に対する電場の特異性と選択性はいくつかの因子によって影響を受けるので、様々な患部組織或いは損傷組織、若しくは様々な病状が治療の標的となり得ることが理解される。特に、適切な周波数、振幅、波形、及び/若しくは負荷サイクルの電場が、特定の遺伝子の発現に対して特異的かつ選択的になり、従って標的治療が提供される。時間的な因子(例えば電場にさらす持続時間など)も、特定な遺伝子発現に対する電場の特異性と選択性に影響を与える。遺伝子発現の制御は、特定の持続期間の特異的かつ選択的な電場の適用を介するとより効果的である(若しくは可能となる)。従って、本発明は様々な患部組織或いは損傷組織若しくは疾患を標的とする治療を提供するために、電場が特定の遺伝子発現に対して特異的かつ選択的になると見出されるまで、電場適用の周波数、振幅、波形、負荷サイクル及び/若しくは持続期間の変更を行うことを本分野の当業者は理解するであろう。
【0031】
従って本発明は標的治療を可能にする、なぜなら適切な持続期間で、適切な周波数、振幅、波形、及び/若しくは負荷サイクルである特異的かつ選択的なシグナルによって発生した特異的かつ選択的な電界の適用を介して、特定の患部組織或いは損傷組織に関連した特定の遺伝子の発現を制御することができるからである。特異的かつ選択的な電界を発生するシグナルの特異性と選択性は、特定の患部組織或いは損傷組織若しくは病状を治療の標的とするために、特定の遺伝子の発現を制御するように操作される。特に、本発明は、変形関節炎、リウマチ性関節炎、軟骨損傷及び軟骨欠損の標的治療を提供する。
【0032】
本発明は、タイプIIコラーゲン遺伝子発現に対して特異的かつ選択的な少なくとも1つのシグナルの供給源を含む装置も提供する。本発明の前記装置は、特異的かつ選択的なシグナルによって発生した特異的かつ選択的な電界を適用するように構成された少なくとも1つの電極による、軟骨細胞へ適用するためのその様なシグナルの生成を提供することができる。特に、ここに記載された前記最適電界は、ペア若しくは帯状で、2若しくはそれ以上の衣服、装具、布、若しくはギブス包帯に組み込まれた適切な表面電極を介してあらゆる関節に適用され、静電結合方式、誘導結合(電磁場)、若しくは合成電界の手段によって伝達され得る。
【0033】
本発明の前記装置は、患部組織或いは損傷組織に直接に、及び/若しくは患者の皮膚に直接に、特異的かつ選択的なシグナルによって発生した特異的かつ選択的な電界を適用することが可能である。当然ながら、容量結合(capacitively coupled)装置は対象となる皮膚に接触している必要があるのだが、本発明の前記装置は、特異的かつ選択的な電界の遠隔適用(例えば、患部組織或いは損傷組織から少し離れての電界の適用など)も提供する。例えば、図9に示されるように、自己粘着導電性電極を、変性関節炎を患った膝関節の両側で患者の皮膚に取着される。また図9に示すように、本発明の前記装置10は、前記装置10を患者の体に取着するための自己粘着電極12を有する。例えば、本発明の前記装置10は、裏面にVELCRO(登録商標)パッチ16を有する電源装置14と接続された電極12を含み、前記電源装置14は患者のふくらはぎ、大腿部若しくは腰の周りに取り付けられたVELCRO(登録商標)ストラップ(図示せず)に接続できる。
【0034】
本発明の前記装置10は、様々な方法で用いることが出来る。前記装置10は携帯用で、若しくは一時的に或いは取り外せないように患者の体に取着されるものである。本発明の前記装置10は非侵襲性であることが好ましい。例えば、本発明の前記装置10は、前記あらかじめ定められた特異的かつ選択的なシグナルによって発生した特異的かつ選択的な電界の適用のために患者の皮膚との接触に適応した電極の適用によって患者の皮膚に適用される。その様なシグナルは、電流を変更し、組織を貫通する特異的かつ選択的な電磁場を生成する時にはコイルを介しても適用される。本発明の前記装置10は、患者の皮膚の下へ移植することを含み、患者に埋め込むことも可能である。
【0035】
以下の実施例は、本発明の前記方法は軟骨成長及び修復を提供することを説明している。軟骨成長及び修復は、変性関節炎患者の関節軟骨修復を刺激するように、軟骨細胞内のタイプIIコラーゲン発現の制御に特異的かつ選択的なシグナルを介して刺激され得る。特に、本発明の前記方法は、軟骨を修復するタイプIIコラーゲン遺伝子の上方制御を提供することができる。関節軟骨細胞を含み、関節軟骨、硝子軟骨、及び成長板軟骨を含む様々な軟骨細胞が、本発明の前記方法の標的となり得る。
【0036】
以下の実施例はさらに、本発明の前記方法は関節軟骨細胞内の遺伝子発現の制御を提供することを説明している。例えば、以下の実施例において、胎児関節軟骨細胞は、20V/cmの静電結合60kHz電場に0.5、2.0、6.0、及び24.0時間さらされた。35SO/μg DNAの統計的に有意な取り込み(有意なプロテオグリカン合成を意味している)が刺激からわずか0.5時間後に見られた。同一の実験を繰り返し、主要な軟骨プロテオグリカンのメッセンジャーであるタイプIIコラーゲンmRNAレベルを観察した。電気刺激のわずか0.5時間後に、タイプIIコラーゲンmRNAの有意な増加が見られた。従って、時間な因子は、関節軟骨細胞中の遺伝子発現を制御するための特異的かつ選択的な電場を発生する前記シグナルの特異性や選択性に影響を及ぼす。
【0037】
本分野の当業者は、様々な他の軟骨疾患や損傷が、本発明の前記方法を介した治療の標的となることを理解するであろう。
【0038】
本分野の当業者は、本発明の装置は、1対若しくは複数対の電極へ適用するためのプログラム化された複数の切替可能な特異的かつ選択的なシグナルを有する静電結合電源装置と、切替可能な複数の特異的かつ選択的なシグナルと共に電源装置に接続された電磁コイルと、特異的かつ選択的なシグナルを発生するための電源を有する超音波刺激装置とを含む、様々な形態で提供され得ることを理解するであろう。一般的に言えば、装置の選択は患者の許容性と患者の適応性に基づくものである。現時点の本分野で利用可能な最小で携帯用のユニット(装置一式)は静電結合ユニットであるが、非常に敏感肌である患者は誘導結合ユニットを用いることが好ましい。一方、超音波ユニットは多大な患者の協力を必要とするが、特定の患者による使用には望ましい。
【実施例】
【0039】
本発明は、以下に続く実施例によって説明の目的で明示されるが、本発明の範囲の制限を意図するものではない。
【0040】
物質及び方法
軟骨細胞培養は、ウシ胎児関節軟骨より準備された。軟骨細胞(5X10 cells/cm)を特別に修飾したCooperディッシュにまいた。前記細胞は実験条件を始める直前に培地交換し、7日間培養した。これらの研究を通じて実験用細胞培養を、最大振幅44.81ボルトの発電量で、静電結合60kHz正弦波シグナル電場にさらした。これにより、300μA/cmの電流密度を有する20mV/cmのディッシュの培養液中に計算された電界強度が生成された。対照細胞培養ディッシュは、電極が機能発生器と連結していない以外は刺激されるディッシュの条件と同一である。
【0041】
総RNAは、使用説明書に従ってTRIzolを用いて単離され、SuperScript II逆転写酵素を用いた逆転写を実行した。競合的PCR技術で用いられるオリゴヌクレオチドプライマーは、刊行されたcDNA配列から選択した。PCR産物の定量分析はScionImage softwareを用いて実行した。
【0042】
望ましい遺伝子制御に対する最適なシグナルは、以下に続くように系統的に見出された。特定のタンパク質の細胞内産生を増加すると知られている(若しくは増加すると推測されている)電気シグナルを、そのタンパク質の遺伝子発現(mRNA)に対する特異的かつ選択的な電界を発生するための特定のシグナルを決定するための始動シグナルとして用いた。用量反応曲線を、他のシグナル特性(振幅、負荷サイクル、周波数、及び波形)は一定に保ったまま、まずシグナルの持続期間を変更することによって実行した(図1)。これは、このタンパク質の遺伝子発現に対する始動シグナルの最適な持続期間を決定するものである。第2の用量反応曲線を、前記最適な持続期間(図2)で電界振幅を変更することによって実行した(図3)。これは、目的のタンパク質の遺伝子発現を基にして、前記最適な持続期間で最適な電界振幅を決定するものである。第3の用量反応曲線を次に実行し、今回は負荷サイクルを100%(一定)から5%以下で変更し、前記最適な振幅と他のシグナル特性は一定に保ったままであった(図5)。用量反応は、他のシグナル特性は一定に保ったまま、4回目(周波数を変更)(図6)を繰り返した。示していないが、用量反応は、他のシグナル特性は一定に保ったまま5回目(波形を変更)も繰り返した。この方法によって、目的のタンパク質の遺伝子発現における著しい増加を産生するための最適なシグナルを決定した。
【0043】
遺伝子発現は、例えば、逆転写(酵素)PCR、ノーザン解析など、本分野で知られているあらゆる方法によって決定され、タンパク質発現は、分光学的、蛍光等の免疫測定法(イムノアッセイ)及びそのようなものによって決定される。
【0044】
関節軟骨細胞によるタイプIIコラーゲンの産生
関節軟骨細胞は、60kHzで20mV/cmの静電結合電場にさらされた。この結果は図1〜8に図示されている。
【0045】
図1は、関節軟骨細胞(attomole/μl)を、様々な持続期間(0.5、2、6、及び24時間)で20mV/cmの静電結合電場にさらした時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。図示されるように、最適なタイプIIコラーゲンmRNA産生は、30分のシグナル持続期間で生じた。
【0046】
図2は、関節軟骨細胞(attomole/μl)を、30分間20mV/cmの静電結合電場にさらした時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。様々な反応時間の後に産生されたタイプIIコラーゲンmRNAの量を対照のもの(電気なし)と比較して示す。これも図示されるように、最適なタイプIIコラーゲンmRNA産生は、電気刺激の終了後5.5時間で発生する。
【0047】
図3は、関節軟骨細胞を、30分の持続期間で様々な振幅の静電結合電界にさらし、電気刺激の終了後5.5時間で採集した時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。図示されるように、最適なタイプIIコラーゲンmRNA産生は、20mV/cmの電場振幅で生じた。比較すると、アグリカンmRNAで確立された最適な振幅は10〜20mV/cmであることが本発明者により発見されている。
【0048】
図4は、関節軟骨細胞を、30分の持続期間で20mV/cmの静電結合電場にさらし、電気刺激の終了後5.5時間で採集した時のタイプIIコラーゲン発現(白い棒線)とタイプIIコラーゲンmRNA発現(影付き棒線)のノーザンブロット分析をグラフで示したものである。図示されるように、前記タイプIIコラーゲンmRNAのノーザンブロット分析は、刺激されていない対照のものより3.5倍大きく、RT−PCRで測定されたタイプIIコラーゲンmRNAの量は刺激されていない対照のものより6.5倍大きい。
【0049】
図5は、関節軟骨細胞を、30分のON時間の持続期間と20mV/cmの振幅で様々な負荷サイクルの静電結合電界にさらし、電気刺激の終了後5.5時間で採集した時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。図示されるように、最適な負荷サイクルは、8.3%(1分ON,11分OFF、30サイクル)である。比較すると、アグリカンmRNAの最適な負荷サイクルは50%(1分ON,1分OFF、30サイクル)であることが本発明者により発見されている。
【0050】
図6は、関節軟骨細胞を、30分(ON時間)の持続期間で20mV/cmの振幅の静電結合電界に8.3%の負荷サイクル(1分ON,11分OFF、30サイクル)で様々な周波数にさらし、電気刺激の終了後5.5時間で採集した時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。図示されるように、最適な周波数は、60 kHzであった。
【0051】
図7は、関節軟骨細胞を7日間培養した後に、20mV/cmの振幅、50%の負荷サイクル(1分ON,1分OFF、30サイクル)、60 kHzの周波数、及び正弦波配置の静電結合電界にさらした時の関節軟骨細胞の増殖をグラフで示したものである。前記関節軟骨細胞は、この電界に7日間、1日1時間さらされた。対照の関節軟骨細胞は、同じ条件で培養されたが、電気刺激には一切晒されなかった。インターロイキンI−β(IL−1β)、関節軟骨細胞の分解を刺激するサイトカインはこれらの培養液中には存在しなかった。図示されるように、コラーゲンの特徴的な成分であるアミノ酸のヒドロキシプロリンは、軟骨細胞が電場にさらされた場合、前記電場にさらされていない対照軟骨細胞と比較して1.7倍に増加した。当業者であれば、この実験に使用された負荷サイクル(50%)はタイプIIコラーゲンに最適な負荷サイクルではないので(図5を参照)、最適な負荷サイクル(8.3%)が使用されると更に顕著な反応が予測されることが理解される。
【0052】
図8は、関節軟骨細胞を7日間培養した後に、20mV/cmの振幅、50%の負荷サイクル(1分ON,1分OFF、30サイクル)、60 kHzの周波数、及び正弦波配置の静電結合電界にさらした時の関節軟骨細胞の増殖をグラフで示したものである。インターロイキン1β(10ng/ml)を7日目に培養液中に添加した。次に前記関節軟骨細胞は、この電界に7日間、1日1時間さらされた。対照の関節軟骨細胞は、同じ条件で培養液中にインターロイキンを入れて培養したが、電気刺激には一切晒されていなかった。図示されるように、インターロイキンが培養液中に存在していたにもかかわらず、ヒドロキシプロリンは、軟骨細胞が電界にさらされた場合、前記電場にさらされていない対照軟骨細胞と比較して1.4倍に増加した。当業者であれば、この実験に使用された負荷サイクル(50%)はタイプIIコラーゲンに最適な負荷サイクルではないので(図5を参照)、最適な負荷サイクル(8.3%)が使用されると更に顕著な反応が予想されることが理解される。
【0053】
図9は、膝の変形関節炎を患った患者を治療するために用いられた、本発明に従った装置10を図示したものである。図示されたように、2つの円形で柔らかい導電性自己粘着電極12は、関節のつなぎ目の位置で膝の両側の皮膚に設置された。前記電極12は、裏面にVELCRO(登録商標)パッチ16を有する電源装置14に接続され、前記電源装置14は患者のふくらはぎ、大腿部若しくは腰の周りに取り付けられたVELCRO(登録商標)ストラップ(図示せず)に接続可能であった。前記電極12は、患者が毎晩ベットに行く前に、若しくは他の便利な時間に皮膚へ設置された。もちろん、他の適切な種類の電極12を用いることもある。
【0054】
前記電源装置14は、小さく(例えば、6〜8オンス)、皮膚に設置された前記電極12に最大5ボルト、6〜10mAmp、20mV/cm、60kHzの正弦波配置を発生するために標準9ボルトバッテリーを装備しているものであることが好ましい。このシグナルが1日当たり約30分、適切な負荷サイクル(8.3%)で提供された場合、タイプIIコラーゲンをコード化している遺伝子の有意な上方制御が観察された。この治療により、関節軟骨細胞のさらなる劣化を阻止若しくは最小化し、すでに損傷している若しくは変性している関節軟骨細胞を治癒するであろう。
【0055】
上述した実施例は、関節炎(変性関節炎とリウマチ性関節炎の両方)、軟骨損傷、及び軟骨欠損を治療するように、タイプIIコラーゲン遺伝子の発現が有意に上方制御され、関節軟骨細胞中のプロテオグリカンの産生が増加したことを説明している。タイプIIコラーゲンと同様に、プロテオグリカンは、関節軟骨の主な構成物であり、関節の発達の初期段階に分解され破壊されるものである。本発明は、実施例に記載された前記最適な電場がタイプIIコラーゲンmRNAを有意に上方制御することができ、IL−βが存在していてもプロテオグリカン合成を増加するということを明らかに示している。本分野の当業者は、ここで記載された静電結合を有するような適切な電場は、同等若しくはほぼ同等の電場特性を産生するありとあらゆる電磁システムでも同様に効果的であるということを十分に理解するであろう。本分野の当業者は、より詳しく述べられたシグナル特性が、より多くのデータポイントでのさらなる実験を通じて発見され得るということも理解するが、各シグナル特性におけるそのような比較的小さな変更は、ここにおいて教示された本分野の当業者のレベルの範囲内であると考えられるであろう。
【0056】
本分野の当業者は、本発明の他多数の修正が本発明の範囲内で可能であることを理解するであろう。例えば、ここに記載された前記最適電界は、ペア若しくは帯状で、2若しくはそれ以上の適切な表面電極を介してあらゆる関節に適用され、衣服、装具、布、若しくはギブス包帯に組み込まれ、静電結合方式、誘導結合(電磁場)、若しくは合成電界の手段によって伝達され得る。従って、本発明の範囲は、上述の好ましい実施形態に限定されることを意図しておらず、添付の請求の範囲にのみ限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
本発明は、添付された図面と併せた以下に続く本発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図1】図1は、関節軟骨細胞を、様々な持続期間で20mV/cmの静電結合電場にさらした時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。図示されるように、最適なタイプIIコラーゲンmRNA産生は、30分のシグナル持続期間で生じた。
【図2】図2は、関節軟骨細胞を、30分間20mV/cmの静電結合電場にさらした時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。様々な反応時間の後に産生されたタイプIIコラーゲンmRNAの量を、対照のもの(電気なし)と比較して示す。これも図示されるように、最適なタイプIIコラーゲンmRNA産生は、電気刺激の終了後5.5時間で発生した。
【図3】図3は、関節軟骨細胞を、30分の持続期間で様々な振幅の静電結合電界にさらし、電気刺激の終了後5.5時間で採集した時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。図示されるように、最適なタイプIIコラーゲンmRNA産生は、20mV/cmの電場振幅で生じた。
【図4】図4は、関節軟骨細胞を、30分の持続期間で20mV/cmの静電結合電場にさらし、電気刺激の終了後5.5時間で採集した時のタイプIIコラーゲン発現(白い棒線)とタイプIIコラーゲンmRNA発現(影付き棒線)のノーザンブロット分析をグラフで示したものである。図示されるように、前記タイプIIコラーゲンmRNAのノーザンブロット分析は、刺激されていない対照のものより3.5倍大きく、RT−PCRで測定されるタイプIIコラーゲンmRNAの量は刺激されていない対照のものより6.5倍大きかった。
【図5】図5は、関節軟骨細胞を、30分のON時間の持続期間と20mV/cmの電場振幅で様々な負荷サイクルの静電結合電界にさらし、電気刺激の終了後5.5時間で採集した時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。図示されるように、最適な負荷サイクルは、8.3%(1分ON,11分OFF、30サイクル)であった。
【図6】図6は、関節軟骨細胞を、30分(ON時間)の持続期間、20mV/cmの振幅で8.3%の負荷サイクル(1分ON,11分OFF、30サイクル)で様々な周波数の静電結合電界にさらし、電気刺激の終了後5.5時間で採集した時のタイプIIコラーゲンmRNA発現をグラフで示したものである。図示されるように、最適な周波数は、60 kHzであった。
【図7】図7は、関節軟骨細胞を7日間培養した後に、20mV/cmの振幅、50%の負荷サイクル(1分ON,1分OFF、30サイクル)、60 kHzの周波数、及び正弦波配置の静電結合電界にさらした時の関節軟骨細胞の増殖をグラフで示したものである。前記関節軟骨細胞は、この電界に7日間、1日1時間晒された。対照の関節軟骨細胞は、同じ条件で培養されたが、電気刺激には一切晒されていなかった。インターロイキンI−β(IL−1β)、関節軟骨細胞の分解を刺激するサイトカインはこれらの培養液中には存在しなかった。図示されるように、コラーゲンの特徴的な成分であるアミノ酸のヒドロキシプロリンは、軟骨細胞を電場にさらした場合、前記電場にさらさなかった対照軟骨細胞と比較して1.7倍増加した。
【図8】図8は、関節軟骨細胞を7日間培養した後に、20mV/cmの振幅、50%の負荷サイクル(1分ON,1分OFF、30サイクル)、60 kHzの周波数、及び正弦波配置の静電結合電界にさらした時の関節軟骨細胞の増殖をグラフで示したものである。インターロイキン1β(10ng/ml)を7日目に培養液中に添加した。次に前記関節軟骨細胞は、この電界に7日間、一日1時間晒された。対照の関節軟骨細胞は、同じ条件で培養液中にインターロイキンを入れて培養したが、電気刺激には一切晒されていなかった。図示されるように、インターロイキンが培養液中に存在していたにもかかわらず、ヒドロキシプロリンは、軟骨細胞を電場にさらした場合、前記電場にさらさなかった対照軟骨細胞と比較して1.4倍増加した。
【図9】図9は、膝の変形関節炎を患った患者を治療するために用いられた、本発明に従った装置10を図示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨組織中のタイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現を特異的かつ選択的に上方制御する方法であって、
タイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現を上方制御するように実質的に最適化された、少なくとも1つの特異的かつ選択的なシグナルを発生する工程と、
タイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現を上方制御するようにあらかじめ定められた持続期間、あらかじめ定められた間隔で、前記特異的かつ選択的なシグナルによって発生した特異的かつ選択的な電界に前記軟骨組織をさらす工程とを有するものである、方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、
前記発生する工程は、前記特異的かつ選択的なシグナルの振幅、持続期間、負荷サイクル、周波数、及び波形を、前記軟骨組織中のタイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現が実質的に最適化されるまで、選択的に変更する工程を有するものである。
【請求項3】
請求項1の方法において、
前記さらす工程は、あらかじめ定められた持続期間、あらかじめ定められた1日1回の間隔で、前記特異的かつ選択的なシグナルによって発生した前記特異的かつ選択的な電界に関節軟骨細胞をさらす工程を有するものである。
【請求項4】
請求項1の方法において、
前記発生する工程は、遠隔供給源で前記特異的かつ選択的なシグナルを発生する工程を有し、前記さらす工程は、前記特異的かつ選択的なシグナルによって発生した前記特異的かつ選択的な電界を前記軟骨組織へ適用する工程を有するものである。
【請求項5】
請求項4の方法において、
前記さらす工程は、前記軟骨組織の近くに設置された電極に、前記特異的かつ選択的なシグナルを適用する工程を有するものである。
【請求項6】
請求項5の方法において、
前記さらす工程は、静電結合及び誘導結合の1つを通じて、前記特異的かつ選択的なシグナルによって発生した前記特異的かつ選択的な電界を前記軟骨組織へ適用する工程を有するものである。
【請求項7】
請求項6の方法において、
前記特異的かつ選択的なシグナルは、前記電極が静電結合方式電場、電磁場、及び合成電界の1つを発生するようにもたらすものである。
【請求項8】
変形関節炎、リウマチ性関節炎、軟骨損傷、及び軟骨欠損の少なくとも1つを治療するための方法であって、
タイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現を上方制御する少なくとも1つの特異的かつ選択的なシグナルを発生する工程と、
タイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現を選択的に上方制御するようにあらかじめ定められた持続期間、あらかじめ定められた間隔で、前記特異的かつ選択的なシグナルによって発生した特異的かつ選択的な電界に軟骨組織をさらす工程とを有する、方法。
【請求項9】
請求項8の方法において、
前記さらす工程は、前記軟骨組織を特異的かつ選択的な電界に静電結合する工程を有するものである。
【請求項10】
請求項8の方法において、
前記さらす工程は、電磁場及び合成電界の1つを前記軟骨組織へ適用する工程を有するものである。
【請求項11】
請求項8の方法において、
前記発生する工程は、約20mV/cmの振幅、正弦波配置、約1/12の負荷サイクル、及び約60kHzの周波数を有する特異的かつ選択的な電場を発生する工程を有するものである。
【請求項12】
請求項11の方法において、
前記さらす工程は、前記軟骨組織に24時間毎に約30分の持続期間で前記特異的かつ選択的な電場を適用する工程を有するものである。
【請求項13】
請求項8の方法において、
前記発生する工程は、前記特異的かつ選択的なシグナルの振幅、持続期間、負荷サイクル、周波数、及び波形を、発生した電界による軟骨組織中のタイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現の上方制御が実質的に最適化されるまで、選択的に変更する工程を有するものである。
【請求項14】
請求項13の方法において、
前記さらす工程は、静電結合方式及び誘導結合の1つを通じて、前記特異的かつ選択的なシグナルによって発生した前記特異的かつ選択的な電界を前記軟骨組織へ適用する工程を有するものである。
【請求項15】
請求項14の方法において、
前記特異的かつ選択的なシグナルは、前記電極が静電結合方式電場、電磁場、及び合成電界の1つを発生するようにもたらすものである。
【請求項16】
変形関節炎、リウマチ性関節炎、軟骨損傷、及び軟骨欠損の少なくとも1つを治療するための装置であって、
タイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現を上方制御するための電界を特異的かつ選択的にする少なくとも1つのシグナルを提供するシグナル供給源と、
前記シグナル供給源と接続され、軟骨組織中のタイプIIコラーゲンmRNAの遺伝子発現を選択的に上方制御するようにあらかじめ定められた持続期間、あらかじめ定められた間隔で前記軟骨組織へ前記電界を適用するための、前記少なくとも1つの特異的かつ選択的なシグナルを受信する電極とを有する装置。
【請求項17】
請求項16の装置であって、さらに
前記シグナル供給源を動かす携帯用電源装置を有するものである。
【請求項18】
請求項16の装置であって、さらに
患者の体の軟骨組織の傍に前記電極を取着するための手段を有するものである。
【請求項19】
請求項16の装置であって、さらに
患者の体に前記シグナル供給源を取着するための手段を有するものである。
【請求項20】
請求項16の装置において、
前記少なくとも1つの特異的かつ選択的なシグナルによって発生した前記電界は、静電結合方式及び誘導結合の1つを介して前記軟骨組織へ適用されるものである。
【請求項21】
請求項20の装置において、
前記特異的かつ選択的なシグナルは、正弦波配置を有しており、60kHzで約20mV/cmの振幅、約1/12負荷サイクルを有する特異的かつ選択的な電場を発生するものである。
【請求項22】
変形関節炎、リウマチ性関節炎、軟骨損傷、及び軟骨欠損の少なくとも1つを治療するための方法であって、
前記軟骨組織中のタイプIIコラーゲンmRNAの発現を上方制御するように、軟骨組織を、請求項21の前記装置によって発生した前記特異的かつ選択的な電界にさらす工程を有する、方法。
【請求項23】
タイプIIコラーゲンを上方制御する特異的かつ選択的な電場を発生する選択的なシグナルを決定する方法であって、
タイプIIコラーゲンの細胞性産生を増加すると知られている若しくは影響を及ぼすと推測されている始動シグナルを選択する工程と、
最適なタイプIIコラーゲン産生を提供する最適持続期間が見出されるまで、前記始動シグナルの適用の持続期間を選択的に変更する工程と、
最適なタイプIIコラーゲン産生が見出されるまで、前記最適な持続期間で前記始動シグナルの振幅を変更する工程と、
最適なタイプIIコラーゲン産生が見出されるまで、前記シグナルの負荷サイクルを変更する工程とを有する、方法。
【請求項24】
請求項23の方法であって、さらに
他のシグナル特性を一定に保ったまま、タイプIIコラーゲンの遺伝子発現の最大増加が見出されるまで前記シグナルの周波数と波形を選択的に変更する工程を有するものである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−501853(P2006−501853A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−543486(P2004−543486)
【出願日】平成15年10月7日(2003.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/031793
【国際公開番号】WO2004/033644
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】