説明

珪化鉄スパッタリングターゲットの製造方法及び珪化鉄スパッタリングターゲット

【課題】珪化鉄粉末に含まれるガス成分である酸素が少なく粉砕が容易であり、したがって粉砕が不良である場合に伴う不純物の混入が少なく、また珪化鉄粉末の比表面積が大きく、焼結する際に密度を上げることが可能である珪化鉄粉末を提供する。
【解決手段】酸化鉄を水素で還元して鉄粉末を作製し、この鉄粉末とSi粉末を非酸化性雰囲気中で加熱して主にFeSiからなる合成粉末を作製し、さらに再度Si粉末を添加混合し非酸化性雰囲気で加熱して主にFeSiからなる珪化鉄粉末を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、珪化鉄粉末及び珪化鉄粉末の製造方法に関し、特に遷移型半導体特性を有し光通信用素子や太陽電池用材料として使用するβFeSi薄膜の形成に使用するためのスパッタリングターゲットの製造に好適な珪化鉄粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LSI用半導体材料としては、シリコンが最もポピュラーな材料であるが、光通信用(LE/LED)としてはインジウム・燐、ガリウム・砒素等の化合物半導体が使用されている。
しかし、インジウムは資源寿命が極めて少なく、20年程度が採掘可能年数と云われており、また砒素は周知のように毒性の強い元素である。このようなことから、現在広範囲に使用されている光通信用半導体材料は、使用上に大きな問題があると云わざるを得ない。
特に、製品寿命の短い携帯電話に使用されているガリウム・砒素の半導体素子は、強い毒性を持つ砒素があるために、これらの廃棄処理が大きな問題となっている。
【0003】
このような情況において、βFeSiが遷移型半導体特性を有することが分かり、好ましい光通信用素子や太陽電池用材料であるとの指摘がなされている。このβFeSiの大きな利点は、いずれも地球上で極めて豊富な材料であること、また毒性等の心配が全くないことである。このようなことから、これらの材料は地球環境にやさしい材料と言われている所以である。
しかし、このβFeSiは問題がないわけではなく、現在のところインジウム・燐、ガリウム・砒素等の化合物半導体に匹敵するような高品質な材料に作製するための技術が確立されていないことである。
【0004】
現在、FeSi薄膜を形成する技術としては、FeターゲットをスパッタリングしてSi基板上にFe膜を形成し、その後成膜したSi基板を加熱することによって基板材料であるSiとFe膜との間でシリサイド化反応を起こさせ、βFeSiを形成する技術が提案されている。
しかし、この方法では成膜時及びアニール時に基板を長時間、高温に加熱する必要があるため、デバイス設計に制限があり、またシリサイド化反応が基板からのSiの拡散によるため、厚いβFeSi膜を形成することが困難であるという問題がある。
この方法に類似する方法として、基板をFeとSiが反応する温度、すなわち470°Cに維持しながら、Si基板上にFeを堆積していく方法も提案されているが、同様の問題がある。
【0005】
また、他の方法として、FeターゲットとSiターゲットを別々にスパッタリングする手法、すなわちコスパッタ法によりFe層とSi層を幾層か積層させて、これを加熱することによりシリサイド化反応を起こさせてβFeSi膜を形成することも提案されている。
しかし、この方法ではスパッタ工程が複雑になり、また膜の厚さ方向の均一性をコントロールするのが難しいという問題がある。
上記の方法は、いずれもSi基板上にFeを成膜した後にアニールすることを前提としているが、長時間の高温で加熱するこれらの方法においては、膜状に形成されていたものが、アニールの進行とともにβFeSiが島状に凝集するという問題も指摘されている。
【0006】
さらに、上記の方法では、Feターゲットは強磁性体であるので、マグネトロンスパッタが困難で、大きな基板に均一な膜を形成することは困難である。したがって、その後のシリサイド化によって組成のバラツキの少ない、均一なβFeSi膜を得ることはできなかった。
また、FeとSiのブロックを所定の面積比で配置したターゲット(モザイクターゲット)の提案もなされたが、FeとSiのスパッタのされ方(スパッタレート)が大きく異なるため、所定の膜組成を大きな基板に成膜することは困難であり、さらにFeとSiの接合界面でのアーキングやパーティクル発生が避けられなかった。
【0007】
従来、FeSiを用いる技術としては、FeSi粒子の核粒子に所定の重量比のSi粒子を被覆させてカプセル粒子を形成し、このカプセル粒子の粉末集合体を通電焼結して、FeSiの金属間化合物を生成させる熱電材料の製造方法に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、Fe粉末とSi粉末を含む原料粉末を粉砕混合する工程と、粉砕混合された粉末を成型する工程と、成形された材料を焼結する工程よりなるβFeSiの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、フェロシリコンと鉄粉末を混合し、ついで焼結温度900〜1100°Cの不活性雰囲気で加圧焼結する鉄シリサイド熱電材料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
また、不活性ガスでジェットミル粉砕して得た微粉砕粉に所定量の遷移金属粉末を混合することにより、残留酸素量が少なく平均粒径数μm以下の微粉末が容易に得られ、されに、スプレードライヤー装置によりスプレー造粒した後、プレス、焼結することによりFeSi系熱電変換素子用原料粉末の製造方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
さらにまた、粒径がナノメートルオーダーの金属シリサイド半導体粒子であるβ−鉄シリサイド半導体素子が、多結晶シリコン中に粒子状に分散した金属シリサイド発光材料が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−283751号公報
【特許文献2】特開平6−81076号公報
【特許文献3】特開平7−162041号公報
【特許文献4】特開平10−12933号公報
【特許文献5】特開2000−160157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するために、珪化鉄粉末に含まれるガス成分である酸素が少なく粉砕が容易であり、したがって粉砕が不良である場合に伴う不純物の混入が少なく、また珪化鉄粉末の比表面積が大きく、焼結する際に密度を上げることが可能であり、さらも焼結によって得られたターゲットによるスパッタ成膜時におけるβFeSiの厚膜化が可能であり、またスパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、ユニフォーミティと膜組成が均一であり、スパッタ特性が良好であるターゲットを安定して製造できる珪化鉄粉末及びその方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
1.ガス成分である酸素が1500ppm以下であることを特徴とする珪化鉄粉末
2.ガス成分である酸素が1000ppm以下であることを特徴とする珪化鉄粉末
3.比表面積が0.15m/g以上であることを特徴とする上記1又は2記載の珪化鉄粉末
4.比表面積が0.6m/g以上であることを特徴とする上記1又は2記載の珪化鉄粉末
5.粉末の結晶構造が実質的にζα相であるか又は主要相がζα相であることを特徴とする上記1〜4のそれぞれに記載の珪化鉄粉末
6.ガス成分を除く不純物が500ppm以下であることを特徴とする上記1〜5のそれぞれに記載の珪化鉄粉末
7.ガス成分を除く不純物が50ppm以下であることを特徴とする上記1〜5のそれぞれに記載の珪化鉄粉末
8.ガス成分を除く不純物が10ppm以下であることを特徴とする上記1〜5のそれぞれに記載の珪化鉄粉末、を提供する。
【0011】
また、本発明は、
9.酸化鉄を水素で還元して鉄粉末を作製し、この鉄粉末とSi粉末を非酸化性雰囲気中で加熱して主にFeSiからなる合成粉末を作製し、さらに再度Si粉末を添加混合し非酸化性雰囲気で加熱加熱することを特徴とする珪化鉄粉末の製造方法。
10.酸化鉄を水素で還元して鉄粉末を作製し、この鉄粉末とSi粉末を非酸化性雰囲気中で加熱して主にFeSiからなる合成粉末を作製し、さらに再度Si粉末を添加混合し非酸化性雰囲気で加熱加熱することを特徴とする上記1〜9のそれぞれに記載の珪化鉄粉末の製造方法。
11.酸化鉄を水素還元する際に、600°C以下の水素気流中で還元して比表面積0.2m/g以上の鉄粉末を作製することを特徴とする上記9又は10記載の珪化鉄粉末の製造方法
12.酸化鉄を水素還元する際に、500°C以下の水素気流中で還元して比表面積0.2m/g以上の鉄粉末を作製することを特徴とする上記9又は10記載の珪化鉄粉末の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の珪化鉄粉末は、ガス成分である酸素が少なく粉砕が容易であり、したがって粉砕が不良である場合に伴う不純物の混入が少なく、また珪化鉄粉末の比表面積が大きく、焼結の際に密度を上げることが可能であるという優れた効果が得られた。また、本発明の珪化鉄粉末を使用して得られた焼結体ターゲットを使用して得たスパッタ成膜、すなわちβFeSiの厚膜化が可能であり、またスパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、ユニフォーミティと膜組成が均一であり、スパッタ特性が良好であるという特徴を有し、このようなスパッタリングターゲットを安定して製造できる珪化鉄粉末及びその方法を得ることができるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の珪化鉄粉末は、特に言及しない限りFeSiの分子式で表示するが、これはFeSx(x:1.5〜2.5)の範囲を含む。
また、本明細書において使用する珪化鉄粉末は、珪化鉄及び珪化鉄を主成分とし少量の他の添加元素を含む粉末を意味し、本発明はこれらを全て包含する。
【0014】
本発明の珪化鉄粉末は、ガス成分である酸素が1500ppm以下、好ましくは1000ppm以下である。これによって、珪化鉄スパッタリングターゲット中に含まれる酸素量をより低減できる効果を有する。
ターゲット中のガス成分である酸素を低減させることによって、スパッタリングの際の、パーティクルの発生を抑制し、ユニフォーミティと膜組成が均一な成膜が可能となる。ガス成分を除く不純物は500ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらには10ppm以下とし、純度の高い珪化鉄粉末を得ることができ、上記と同様の効果を得ることができる。なお、ガス成分とは、定量分析を行なう際に、ガス状態になって検出される元素を意味する。
【0015】
また、珪化鉄粉末の比表面積を0.15m/g以上、好ましくは0.6m/g以上とする。これによって、焼結によって製造する珪化鉄ターゲットの相対密度を90%以上、さらには95%以上とすることが可能である。
以上の珪化鉄粉末を使用することによって、ターゲット組織の平均結晶粒径を300μm以下に、又は150μm以下に、さらには75μm以下とすることが可能となる。このように結晶粒径の小さい珪化鉄ターゲットは、アーキングやパーティクルの発生を抑制し、安定した特性を持つβFeSi薄膜を製造することができる。
【0016】
本発明は、さらに粉末の結晶構造が実質的にζα相であるか又は主要相がζα相である珪化鉄粉末であることを特徴とする。このような組成の珪化鉄粉末を用いて焼結体ターゲットを製造すると、珪化鉄ターゲット組織も同様に実質的にζα相であるか又は主要相がζα相を持つターゲットを得ることができる。
このような珪化鉄ターゲットの場合、すなわちβ相(半導体相)への相変態が抑制されζα相が残存する場合には、ターゲットに安定したバイアス電圧を印加できるので、プラズマ密度が上げ易く、スパッタガス圧を低く抑えることができるので、ガス損傷の少ない良好な膜を得ることができるという優れた効果が得られる。
【0017】
本発明の珪化鉄粉末の製造に際しては、一般に製造されている純度3N(ガス成分除き99.9%)レベルの鉄を、例えば湿式精製プロセス(例えばイオン交換膜、溶媒抽出、有機金属錯体分解、電解精製などの組合せ)で不純物を除去し、5N(ガス成分を除く)レベルに精製した原料を使用することができる。
その具体例を示すと、例えば純度3N(ガス成分除く)レベルの鉄を塩酸で溶解してイオン交換膜・溶離法で精製し、この高純度鉄塩溶液を乾固・酸化焙焼(酸素気流中で加熱することが望ましい)して、酸化鉄(Fe)とする。これによって、4〜5N(ガス成分を除く)レベルの高純度酸化鉄を得ることができる。以上の高純度酸化鉄を得る方法については、特に制限はない。
【0018】
本発明は、このような高純度酸化鉄(ガス成分を除き高純度化された)原料を使用し、この酸化鉄を水素で還元して鉄粉末を作製し、この鉄粉末とSi粉末を非酸化性雰囲気中で加熱して主にFeSiからなる合成粉末を作製し、さらに再度Si粉末を添加混合し非酸化性雰囲気で加熱して主にFeSiからなる珪化鉄粉末を製造するものである。
酸化鉄を水素還元する際には600°C以下、好ましくは500°C以下の水素気流中で還元して比表面積0.2m/g以上の鉄粉末を作製し、この鉄粉末を用いて珪化鉄粉末を製造することが望ましい。なお、400°C以下では還元時間がかかり過ぎるので、それ以上が望ましい。
【0019】
上記のように、合成をFeSi及びさらにFeSiへと2段にすることによって、発熱反応を抑えつつ高温(液相が出現しない温度)まで加熱できるので、比表面積が大きく(粉砕良好で粉砕時の不純物混入が少なくなる)、低酸素の珪化鉄粉末を容易に製造できるという著しい特徴を有する。また、これによって、焼結体ターゲットの製造も容易となる。
以上によって、ζα(αFeSi相又はαFeSi相とも言われる)(金属相)の残存率が高い微粉末が得られる。
このようにして得られた珪化鉄微粉末は、ホットプレス、熱間静水圧プレス又は放電プラズマ焼結法で焼結しターゲットとすることができる。焼結に際しては、特に放電プラズマ焼結法が望ましい。この放電プラズマ焼結法によれば、結晶粒成長を抑え、高密度、高強度のターゲットを焼成することができる。
【0020】
また、短時間で焼結でき急速に冷えるので、β相(半導体相)への相変態を抑制し、ζα相(金属相)の残存率が高いターゲットを作製することができる。ターゲットとしては、異なる相が存在するとスパッタのされ方が違うので、パーティクルの原因となり好ましくない。
主に、ζα相(金属相)単相であると、スパッタリング時にターゲットに安定したバイアス電圧を印加できるので、プラズマ密度が上げ易く、スパッタガス圧が低く抑えられるのでガス損傷の少ない良好な膜を得ることができる。
本発明の珪化鉄微粉末を使用することによって、ガス成分を除去し、パーティクルの発生が少なく、ユニフォーミティと膜組成が均一で、スパッタ特性が良好であるスパッタリングターゲットを得ることができる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例について説明する。なお、本実施例は発明の一例を示すためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に含まれる他の態様及び変形を含むものである。
【0022】
(実施例1)
高純度透明石英の管状炉で精製した塩化鉄を焙焼し、この酸化鉄を連続して水素気流中(水素流量20リットル/min)、500°Cで約3時間水素還元して鉄粉末を作製した。
この鉄粉末の比表面積(BET法による)は0.62m/gであった。この微粉末と純度5NのSi粉末(比表面積1.6m/g)とをFe:Si=1:1の混合比で混合し、真空中1350°C(液相が出現する1410°C以下)で、FeSiを合成した。
【0023】
次に、Fe:Si=1:2になるように、不足分のSi粉末をボールミルで混合粉砕を行った。この混合微粉砕粉末を真空中1050°Cで合成した。この合成塊の比表面積は0.6m/gであり、ボールミルで極めて容易に粉砕することができた。ガス分析(LECO法)の結果、この珪化鉄(FeSi)粉末の酸素量は820ppmであった。
また、XRD測定(CuKα線回折ピーク)からβFeSiのメインピーク(2θ=29°)は観察されなかった。
【0024】
この得られた珪化鉄粉末を、グラファイト製ダイスに充填してホットプレス法で1150°C、真空雰囲気、面圧275kgf/cmで2時間焼結した。得られた焼結体の表面を平面研削盤で表面汚染層を除去し、φ300mm×4mmの珪化鉄ターゲットを作製した。得られたターゲットの相対密度は98%の高密度が得られ、また焼結体の酸素含有量は520ppmとなった。
実施例1の水素還元温度、原料鉄粉末の比表面積、合成工程(2段階)、粉砕性、得られた珪化鉄粉末の比表面積、酸素含有量、焼結体ターゲットの相対密度、焼結体の酸素含有量を、それぞれ表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例2)
高純度透明石英の管状炉で精製した塩化鉄を焙焼し、この酸化鉄を連続して水素気流中(水素流量20リットル/min)、900°Cで約3時間水素還元して鉄粉末を作製した。
この鉄粉末の比表面積(BET法による)は0.21m/gであった。この微粉末と純度5NのSi粉末(比表面積1.6m/g)とをFe:Si=1:1の混合比で混合し、真空中1350°C(液相が出現する1410°C以下)で、FeSiを合成した。
【0027】
次に、Fe:Si=1:2になるように、不足分のSi粉末をボールミルで混合粉砕を行った。この混合微粉砕粉末を真空中1050°Cで合成した。この合成塊の比表面積は0.15m/gであり、ボールミルで容易に粉砕することができた。ガス分析(LECO法)の結果、この珪化鉄(FeSi)粉末の酸素量は690ppmであった。
また、XRD測定(CuKα線回折ピーク)からβFeSiのメインピーク(2θ=29°)は観察されなかった。
【0028】
この得られた珪化鉄粉末を、グラファイト製ダイスに充填してホットプレス法で1150°C、真空雰囲気、面圧275kgf/cmで2時間焼結した。得られた焼結体の表面を平面研削盤で表面汚染層を除去し、φ300mm×4mmの珪化鉄ターゲットを作製した。得られたターゲットの相対密度は94%の高密度が得られ、また焼結体の酸素含有量は390ppmとなった。
実施例2の水素還元温度、原料鉄粉末の比表面積、合成工程(2段階)、粉砕性、得られた珪化鉄粉末の比表面積、酸素含有量、焼結体ターゲットの相対密度、焼結体の酸素含有量を、それぞれ表1に示す。
【0029】
(実施例3)
高純度透明石英の管状炉で精製した塩化鉄を焙焼し、この酸化鉄を連続して水素気流中(水素流量20リットル/min)、650°Cで約3時間水素還元して鉄粉末を作製した。
この鉄粉末の比表面積(BET法による)は0.47m/gであった。この微粉末と純度5NのSi粉末(比表面積1.6m/g)とをFe:Si=1:1の混合比で混合し、真空中1350°C(液相が出現する1410°C以下)で、FeSiを合成した。
【0030】
次に、Fe:Si=1:2になるように、不足分のSi粉末をボールミルで混合粉砕を行った。この混合微粉砕粉末を真空中1050°Cで合成した。この合成塊の比表面積は0.51m/gであり、ボールミルで容易に粉砕することができた。ガス分析(LECO法)の結果、この珪化鉄(FeSi)粉末の酸素量は815ppmであった。
また、XRD測定(CuKα線回折ピーク)からβFeSiのメインピーク(2θ=29°)は観察されなかった。
【0031】
この得られた珪化鉄粉末を、グラファイト製ダイスに充填してホットプレス法で1150°C、真空雰囲気、面圧275kgf/cmで2時間焼結した。得られた焼結体の表面を平面研削盤で表面汚染層を除去し、φ300mm×4mmの珪化鉄ターゲットを作製した。得られたターゲットの相対密度は99%の高密度が得られ、また焼結体の酸素含有量は490ppmとなった。
実施例3の水素還元温度、原料鉄粉末の比表面積、合成工程(2段階)、粉砕性、得られた珪化鉄粉末の比表面積、酸素含有量、焼結体ターゲットの相対密度、焼結体の酸素含有量を、それぞれ表1に示す。
【0032】
(比較例1)
高純度透明石英の管状炉で精製した塩化鉄を焙焼し、この酸化鉄を連続して水素気流中(水素流量20リットル/min)、500°Cで約3時間水素還元して鉄粉末を作製した。
この鉄粉末の比表面積(BET法による)は0.6m/gであった。この微粉末と純度5NのSi粉末(比表面積1.6m/g)とをFe:Si=1:2の混合比で混合し、真空中1050°C(液相が出現する1410°C以下)で、1段でFeSiを合成した。
この合成塊の比表面積は0.06m/gであり、ボールミルによる粉砕は容易ではなかった。ガス分析(LECO法)の結果、この珪化鉄(FeSi)粉末の酸素量は2500ppmと多かった。
【0033】
この得られた珪化鉄粉末を、グラファイト製ダイスに充填してホットプレス法で1150°C、真空雰囲気、面圧275kgf/cmで2時間焼結した。得られた焼結体の表面を平面研削盤で表面汚染層を除去し、φ300mm×4mmの珪化鉄ターゲットを作製した。得られたターゲットの相対密度は93%であり、また焼結体の酸素含有量は1900ppmと多かった。
比較例1の水素還元温度、原料鉄粉末の比表面積、合成工程(2段階)、粉砕性、得られた珪化鉄粉末の比表面積、酸素含有量、焼結体ターゲットの相対密度、焼結体の酸素含有量を、それぞれ表1に示す。
【0034】
(比較例2)
高純度透明石英の管状炉で精製した塩化鉄を焙焼し、この酸化鉄を連続して水素気流中(水素流量20リットル/min)、1000°Cで約3時間水素還元して鉄粉末を作製した。
この鉄粉末の比表面積(BET法による)は0.08m/gであった。この微粉末と純度5NのSi粉末(比表面積1.6m/g)とをFe:Si=1:1の混合比で混合し、真空中1350°C(液相が出現する1410°C以下)で、FeSiを合成した。
次に、Fe:Si=1:2になるように、不足分のSi粉末をボールミルで混合粉砕を行った。この混合微粉砕粉末を真空中1050°Cで合成した。この合成塊の比表面積は0.03m/gであり、ボールミルによる粉砕は不良であった。ガス分析(LECO法)の結果、この珪化鉄(FeSi)粉末の酸素量は340ppmと低かった。
【0035】
この得られた珪化鉄粉末を、グラファイト製ダイスに充填してホットプレス法で1150°C、真空雰囲気、面圧275kgf/cmで2時間焼結した。得られた焼結体の表面を平面研削盤で表面汚染層を除去し、φ300mm×4mmの珪化鉄ターゲットを作製した。得られたターゲットの相対密度は89%の低密度であり、また焼結体の酸素含有量は370ppmと低かった。
比較例2の水素還元温度、原料鉄粉末の比表面積、合成工程(2段階)、粉砕性、得られた珪化鉄粉末の比表面積、酸素含有量、焼結体ターゲットの相対密度、焼結体の酸素含有量を、それぞれ表1に示す。
【0036】
(比較例3)
市販の5Nレベルの鉄粉末を使用した。この鉄粉末の比表面積(BET法による)は0.12m/gであった。この微粉末と純度5NのSi粉末(比表面積1.6m/g)とをFe:Si=1:2の混合比で混合し、真空中1350°C(液相が出現する1410°C以下)で、1段でFeSiを合成した。
この合成塊の比表面積は0.11m/gであり、ボールミルによる粉砕は不良であった。ガス分析(LECO法)の結果、この珪化鉄(FeSi)粉末の酸素量は2300ppmと極めて多かった。
【0037】
この得られた珪化鉄粉末を、グラファイト製ダイスに充填してホットプレス法で1150°C、真空雰囲気、面圧275kgf/cmで2時間焼結した。得られた焼結体の表面を平面研削盤で表面汚染層を除去し、φ300mm×4mmの珪化鉄ターゲットを作製した。得られたターゲットの相対密度は93%であり、また焼結体の酸素含有量は1200ppmと多かった。
比較例3の水素還元温度、原料鉄粉末の比表面積、合成工程(2段階)、粉砕性、得られた珪化鉄粉末の比表面積、酸素含有量、焼結体ターゲットの相対密度、焼結体の酸素含有量を、それぞれ表1に示す。
【0038】
(比較例4)
市販の5Nレベルの鉄粉末を使用した。この鉄粉末の比表面積(BET法による)は0.55m/gであった。この微粉末と純度5NのSi粉末(比表面積1.6m/g)とをFe:Si=1:2の混合比で混合し、真空中1350°C(液相が出現する1410°C以下)で、1段でFeSiを合成した。
この合成塊の比表面積は0.08m/gであり、ボールミルによる粉砕は不良であった。ガス分析(LECO法)の結果、この珪化鉄(FeSi)粉末の酸素量は3200ppmと極めて多かった。
【0039】
この得られた珪化鉄粉末を、グラファイト製ダイスに充填してホットプレス法で1150°C、真空雰囲気、面圧275kgf/cmで2時間焼結した。得られた焼結体の表面を平面研削盤で表面汚染層を除去し、φ300mm×4mmの珪化鉄ターゲットを作製した。得られたターゲットの相対密度は91%であり、また焼結体の酸素含有量は950ppmと多かった。
比較例4の水素還元温度、原料鉄粉末の比表面積、合成工程(2段階)、粉砕性、得られた珪化鉄粉末の比表面積、酸素含有量、焼結体ターゲットの相対密度、焼結体の酸素含有量を、それぞれ表1に示す。
【0040】
(比較例5)
市販の5Nレベルの鉄粉末を使用した。この鉄粉末の比表面積(BET法による)は0.58m/gであった。この微粉末と純度5NのSi粉末(比表面積1.6m/g)とをFe:Si=1:1の混合比で混合し、真空中1350°C(液相が出現する1410°C以下)で、1段でFeSiを合成した。
次に、Fe:Si=1:2になるように、不足分のSi粉末をボールミルで混合粉砕を行った。この混合微粉砕粉末を真空中1050°Cで合成した。
この合成塊の比表面積は0.44m/gであり、ボールミルによる粉砕は良好であった。ガス分析(LECO法)の結果、この珪化鉄(FeSi)粉末の酸素量は4300ppmと極めて多かった。
【0041】
この得られた珪化鉄粉末を、グラファイト製ダイスに充填してホットプレス法で1150°C、真空雰囲気、面圧275kgf/cmで2時間焼結した。得られた焼結体の表面を平面研削盤で表面汚染層を除去し、φ300mm×4mmの珪化鉄ターゲットを作製した。得られたターゲットの相対密度は96%であり、また焼結体の酸素含有量は3100ppmと多かった。
比較例5の水素還元温度、原料鉄粉末の比表面積、合成工程(2段階)、粉砕性、得られた珪化鉄粉末の比表面積、酸素含有量、焼結体ターゲットの相対密度、焼結体の酸素含有量を、それぞれ表1に示す。
【0042】
表1に示すように、本発明の実施例においては、珪化鉄粉末中の不純物である酸素含有量が低く、粉砕が容易であるという結果が得られた。また粉砕が容易であることから長時間の粉砕を必要とせず、ガス成分以外の不純物も少ないという優れた効果を有する。また比表面積が大きく、焼結によるターゲットの製造に際して高密度のターゲットが容易に得られるという効果を有する。
この結果ターゲットの相対密度はいずれも90%以上、平均結晶粒径は300μm以下、ζαの面積率は70%以上、膜の均一性(ユニフォーミティ、3σ)が良好、パーティクルの発生は著しく低く、スパッタ性が良好であるという結果が得られた。
これに対して、比較例はいずれも珪化鉄粉末中の酸素含有量が高く、またβFeSiの割合が高く、この珪化鉄粉末を用いて焼結したターゲットは、パーティクルの発生が顕著で、剥離し易い膜が形成された。そして、これらはスパッタ成膜の品質を低下させる原因となった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の珪化鉄粉末は、ガス成分である酸素が少なく粉砕が容易であり、したがって粉砕が不良である場合に伴う不純物の混入が少なく、また珪化鉄粉末の比表面積が大きく、焼結の際に密度を上げることが可能であるという優れた効果が得られた。また、本発明の珪化鉄粉末を使用して得られた焼結体ターゲットを使用して得たスパッタ成膜、すなわちβFeSiの厚膜化が可能であり、またスパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、ユニフォーミティと膜組成が均一であり、スパッタ特性が良好であるという特徴を有し、このようなスパッタリングターゲットを安定して製造できる珪化鉄粉末及びその方法を得ることができるという著しい効果を有する。特に、遷移型半導体特性を有し光通信用素子や太陽電池用材料として使用するβFeSi薄膜の形成に使用するためのスパッタリングターゲットとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス成分である酸素が1500ppm以下であることを特徴とする珪化鉄粉末。
【請求項2】
ガス成分である酸素が1000ppm以下であることを特徴とする珪化鉄粉末。
【請求項3】
比表面積が0.15m/g以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の珪化鉄粉末。
【請求項4】
比表面積が0.6m/g以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の珪化鉄粉末。
【請求項5】
粉末の結晶構造が実質的にζα相であるか又は主要相がζα相であることを特徴とする請求項1〜4のそれぞれに記載の珪化鉄粉末。
【請求項6】
ガス成分を除く不純物が500ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のそれぞれに記載の珪化鉄粉末。
【請求項7】
ガス成分を除く不純物が50ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のそれぞれに記載の珪化鉄粉末。
【請求項8】
ガス成分を除く不純物が10ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のそれぞれに記載の珪化鉄粉末。
【請求項9】
酸化鉄を水素で還元して鉄粉末を作製し、この鉄粉末とSi粉末を非酸化性雰囲気中で加熱して主にFeSiからなる合成粉末を作製し、さらに再度Si粉末を添加混合し非酸化性雰囲気で加熱することを特徴とする珪化鉄粉末の製造方法。
【請求項10】
酸化鉄を水素で還元して鉄粉末を作製し、この鉄粉末とSi粉末を非酸化性雰囲気中で加熱して主にFeSiからなる合成粉末を作製し、さらに再度Si粉末を添加混合し非酸化性雰囲気で加熱することを特徴とする請求項1〜9のそれぞれに記載の珪化鉄粉末の製造方法。
【請求項11】
酸化鉄を水素還元する際に、600°C以下の水素気流中で還元して比表面積0.2m/g以上の鉄粉末を作製することを特徴とする請求項9又は10記載の珪化鉄粉末の製造方法。
【請求項12】
酸化鉄を水素還元する際に、500°C以下の水素気流中で還元して比表面積0.2m/g以上の鉄粉末を作製することを特徴とする請求項9又は10記載の珪化鉄粉末の製造方法。

【公開番号】特開2010−116320(P2010−116320A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4551(P2010−4551)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【分割の表示】特願2002−265478(P2002−265478)の分割
【原出願日】平成14年9月11日(2002.9.11)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】