説明

球帯状シール体

【目的】 常温から500℃の広範囲の雰囲気温度において適用可能であって、排気ガスの熱の作用による相手材への固着現象を回避し、保持性に優れた潤滑すべり層として得、初期はいうに及ばず長期の使用においても摺動特性の低下ならびに異常音の発生のない球帯状シール体を提供することにある。
【構成】 中央に貫通孔11を、外面に部分凸球面部12を備えており、該部分凸球面部12の表面は、窒化ホウ素70〜90重量%、アルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物の潤滑すべり層と該潤滑すべり層を覆って該潤滑すべり層と一体化された金網から成る補強材とが混在一体となった平滑な面15に形成されてなる球帯状シール体10。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車排気管の球面管継手に使用される球帯状シール体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、自動車排気管の球面管継手に使用される球帯状シール体としては、例えば特開昭54ー76759号公報(以下先行公報Iという)に開示されているものがある。この先行公報Iに開示されたシール体は耐熱性を有し、相手材とのなじみ性に優れ、また衝撃強度も著しく改善されているという反面、乾燥摩擦条件下の摩擦においては往々にして異常音を発生するという欠点がある。すなわち、このシール体の欠点は該シール体を形成する耐熱材料(膨張黒鉛など)の静止摩擦係数と動摩擦係数との差が大きいこと、及びこの耐熱材料からなるシール体のすべり速度に対する摩擦抵抗が負性抵抗(すべり速度が増加すると摩擦抵抗が減少する現象)を示すこと、などが原因と考えられる。
【0003】そこで、本出願人は特願昭56ー120701号(特開昭58ー24620号公報:以下「先行公報II」という)において、上述した欠点を解決したシール体を提案した。この先行公報IIに開示されたシール体は、膨張黒鉛、雲母、石綿の1種又は2種以上を混合した耐熱材料を金属細線を織ったり、編んだりして得られる金網から成る補強材と一緒に造形して得られるシール体であって、該シール体の表面には四ふっ化エチレン樹脂あるいは四ふっ化エチレンと六ふっ化プロピレンとの共重合体からなる潤滑組成物が被着形成されたものである。このシール体は表面に被着形成された潤滑組成物が、摩擦係数の低減、母材を形成する耐熱材料の相手材表面への移着防止、静止摩擦係数と動摩擦係数との差の縮小、などの作用効果を発揮するほか、四ふっ化エチレン樹脂はすべり速度に対する摩擦抵抗が負性抵抗を示さないので、上述した効果と相俟って付着ーすべりに基づく自励振動の発生を抑え、異常音の発生防止に貢献するという効果を有するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した先行公報IIに開示されたシール体は、性能面で前記先行公報Iに開示されたシール体の欠点を解決するものであったが、先行公報IIに開示されたシール体の適用可能な雰囲気温度は表面に被着形成された潤滑組成物の耐熱性に委ねられ、自ずから300℃以下の雰囲気温度での使用に制限されるという問題と、つぎのような問題が新たに提起された。すなわち、自動車排気管の球面管継手に組み込まれて使用された場合、排気管を流動する排気ガスの熱の作用により、シール体の表面に被着形成された潤滑組成物が溶融し、エンジン停止後の排気管冷却時に溶融した潤滑組成物が相手材表面に固着し、当該球面管継手の相対角変位を阻害するという現象を生じるという問題である。
【0005】このような現象は、特にシール体の表面に形成された潤滑組成物を溶融させるような排気管の温度条件であって、かつ球面管継手に加わる相対角変位が小さい部位への適用において顕著に生じることを実験により確認した。したがって、このような固着現象を生じると、球面管継手の初期の目的を達成し難いばかりか、エンジンの再始動後に大きな相対角変位が球面管継手に加わると、固着現象の解消に基づく大きな異常音を発生させるという問題を惹起することになる。
【0006】本発明は前記諸点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、常温(20℃)から500℃の広範囲の雰囲気温度において適用可能なシール体であって、排気ガスの熱の作用によるシール体の表面に形成された潤滑組成物から成る潤滑すべり層の相手材への固着現象を回避し、シール体表面への保持性に優れた潤滑すべり層とし得、その結果、初期はいうに及ばず長期の使用においても摺動特性の低下ならびに異常音の発生のない球帯状シール体を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明によれば前記目的は、金属細線を織ったり、編んだりして得られる金網から成る補強材と膨張黒鉛、マイカ又はアスベストから成る耐熱材との圧縮成形物から成り、中央に貫通孔を備え、外面に部分凸球面部を備えた、とくに排気管継手に使用される球帯状シール体であって、該部分凸球面部の表面は、窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物の潤滑すべり層と該潤滑すべり層を覆って該潤滑すべり層と一体化された金網から成る補強材とが混在一体となった平滑な面に形成されてなる球帯状シール体によって達成される。
【0008】また、部分凸球面部の表面に潤滑すべり層を形成する他の潤滑組成物は、窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下、好ましくは50〜150重量部の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有された潤滑組成物である。
【0009】以下、上記球帯状シール体における構成材料ならびに該シール体の製造方法について説明する。
(補強材)補強材は、鉄系としてオーステナイト系のSUS304、SUS316、フェライト系のSUS430などのステンレス鋼線あるいは鉄または亜鉛メッキ鉄線(JIS−G−3532)、また銅系としては銅−ニッケル合金(白銅)、銅−ニッケル−亜鉛合金(洋白)、黄銅、ベリリウム銅からなる線材を織ったり、編んだりして形成される金網(金属メッシュ)が使用される。該金網を形成する金属細線の線径は0.10〜0.32mm程度のものが使用され、該金網の網目3〜6mm程度のものが使用されて好適である。
(耐熱材)耐熱材としては、膨張黒鉛、マイカ、アスベストが選択されて使用される。膨張黒鉛は、特公昭44−23966号公報に開示されている米国ユニオンカーバイド社製の「グラフォイル(商品名)」あるいは日本カーボン社製の「ニカフィルム(商品名)」など、厚さ0.3〜1.0mmのシート状のものが使用されて好適である。マイカはシリコン樹脂で接合したマイカペーパー、アスベストはクリソタイルまたはアモサイト系のアスベストペーパーまたはシートが使用される。
【0010】(潤滑組成物)潤滑組成物は、窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物を固形分として20〜50重量%分散含有した水性ディスパージョンが、また他の潤滑組成物として窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下、好ましくは50〜150重量部の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有された潤滑組成物を固形分として20〜50重量%分散含有した水性ディスパージョンが使用される。上記潤滑組成物の水性ディスパージョンは、後述する製造方法において、シート状耐熱材の表面に刷毛塗り、スプレー等の手段によって被覆され、最終の圧縮工程においてシール状の外面部分凸球面部表面に均一かつ微小厚さ(10〜300μm)に展延されて潤滑すべり層を形成する。被覆するにあたり、水性ディスパージョン中の固形分が20〜30重量%(水分70〜80重量%)の場合には、被覆操作を2〜3回繰り返すことにより所望の厚さの潤滑すべり層とすることができる。
【0011】成分中の窒化ホウ素は、とくに高温において優れた潤滑性を発揮するものであるが、窒化ホウ素単独では前記シート状耐熱材表面への被着性、ひいては最終の圧縮工程におけるシール体の外面部分凸球面部表面への被着性に劣り、これらの表面から容易に剥離してしまうという欠点がある。本発明では、窒化ホウ素に対し一定量の割合でアルミナおよびあるいはシリカを配合することにより、上記窒化ホウ素単独の欠点を回避し、シート状耐熱材表面への被着性、ひいては最終の圧縮工程におけるシール体の外面部分凸球面部表面への被着性を大幅に改善し、該シール体の外面部分凸球面部表面への潤滑組成物から成る潤滑すべり層の保持性を高めることを見出した。そして、窒化ホウ素に対するアルミナおよびあるいはシリカの配合割合は、窒化ホウ素の具有する潤滑性を損なうことなく、かつ被着性を改善するという観点から決定され、10〜30重量%の範囲が好ましいことを確認した。
【0012】上述した窒化ホウ素70〜90重量%、アルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量から成る潤滑組成物を100重量部とし、これに一定量の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂を含有した潤滑組成物において、ポリテトラフルオロエチレン樹脂はそれ自身低摩擦性を有するもので、窒化ホウ素並びにアルミナおよびあるいはシリカから成る潤滑組成物に配合されることにより、該潤滑組成物の低摩擦性を向上させる作用と、圧縮成形時の該潤滑組成物の展延性を高める作用、さらに潤滑組成物の被着性を高める作用をなす。上記窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物100重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の配合割合は200重量部以下、好ましくは50〜150重量部の範囲である。このポリテトラフルオロエチレン樹脂の配合割合が200重量部を超えると、潤滑組成物中に占める割合が多くなり、結果として従来公報IIにおける欠点を回避できない。また、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の配合割合が50〜150重量部の範囲であれば、上記作用をいかんなく発揮させることができる。
【0013】水性ディスパージョンを形成する窒化ホウ素、アルミナおよびあるいはシリカ、あるいはこれらに配合されるポリテトラフルオロエチレン樹脂は可及的に微粉末であることが好ましく、これらは平均粒径10μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下の微粉末が使用される。
【0014】つぎに、上述した構成材料からなる球帯状シール体の製造方法について図面に基づき説明する。金属細線を織ったり編んだりすることによって形成される金網を用意し、この金網を所定の幅に切断するか、金属細線を編んで円筒状金網を形成したのち、これをローラ間に通す(図2)かして帯状金網を作成し、これを補強材1として使用する。耐熱材として、所定の幅に切断したシート状耐熱材2を用意する。そして、帯状金網からなる補強材1とシート状耐熱材2とを重ね合わせると共にシート状耐熱材2を内側にしかつ最外周では該耐熱材2が位置するように円筒状に捲回し、円筒体3を作成する(図3)。
【0015】上記シート状耐熱材2と同様のシート状耐熱材4を別途用意し、該シート状耐熱材4の一方の表面に、窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物を固形分として20〜50重量%分散含有した水性ディスパージョン、あるいは窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下、好ましくは50〜150重量部の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有された潤滑組成物を固形分として20〜50重量%分散含有した水性ディスパージョンを刷毛塗り、スプレー等の手段で被覆し、乾燥して該潤滑組成物の被覆層5を形成する。金属細線を編んで円筒状金網を形成したのち、これをローラ間に通して作成した帯状金網6を用意し、該帯状金網6内に前記被覆層5を備えたシート状耐熱材4を挿入すると共にこれらをローラ間に通して一体化させた摺動面材7を作成する。(図4、図5)
【0016】このようにして得た摺動面材7を被覆層5を外側にして前記円筒体3の外周面に巻付け、予備円筒成形体8を作成する(図6)。内面に円筒壁面91と円筒壁面91に連なる部分凹球壁面92と部分凹球壁面92に連なる貫通孔93とを備え、該貫通孔93に段付きコア94を嵌挿することによって内部に中空円筒部95と該中空円筒部95に連なる球帯状中空部96とが形成された金型9を用意し、該金型9の段付きコア94に前記予備円筒成形体8を挿入する(図7)。
【0017】金型9の中空部に位置せしめられた予備円筒成形体8をコア軸方向に1〜3トン/cm2の圧力で圧縮成形し、内面に貫通孔を備え、外面に部分凸球面部を備えた球帯状シール体を作成する。この圧縮成形により、円筒体3の金網からなる補強材1と耐熱材2とは互いに絡み合って一体化したシール体母材を形成し、該母材の部分凸球面部表面には該母材と一体化した摺動面材7の潤滑組成物と金網とが混在一体となった平滑な面が形成される。図1は上述した方法によって作成された球帯状シール体を示す縦断面説明図で、図中、符号10は球帯状シール体、11は貫通孔、12は部分凸球面部、13はシール体母材を形成する金網から成る補強材、14は該補強材と一体となった耐熱材、15は摺動面材7によって形成された潤滑組成物から成る潤滑すべり層と金網とが混在一体となった平滑な面である。
【0018】上述した構成からなる球帯状シール体10は、図8に示す排気管継手に組込まれて使用される。すなわち、エンジン側に連結された上流側排気管100の外周面には管端部101を残してフランジ200が立設されており、該管端部101には球帯状シール体10が貫通孔11を嵌合させ、部分凸球面部12の大径側端面を該フランジ200に当接させて着座せしめられている。上流側排気管100と相対向してマフラー側に連結され、端部に凹球面部302と凹球面部302の開口部周縁にフランジ部303を備えた径拡大部301が一体に形成された下流側排気管300が凹球面部302を球帯状シール体10の部分凸球面部12に摺接させて配置されている。
【0019】上、下流側排気管100、300には、一端がフランジ200に固定され、他端が径拡大部301のフランジ部303を挿通して配された一対のボルト400とボルト400とフランジ部303との間に配された一対のコイルバネ500とにより、下流側排気管300には常時、上流側排気管100方向にバネ力が付勢されている。そして、上、下流側排気管100、300に生ずる相対角変位に対しては、球帯状シール体10の部分凸球面部12と下流側排気管300の端部に形成された径拡大部301の凹球面部302との摺接で許容するように構成されている。
【0020】(実施例)以下、本発明の球帯状シール体の実施例について詳細に説明する。
<実施例I>金属細線として線径0.28mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を使用し、網目3mmの円筒状編組金網を作成し、これをローラ間に通して帯状の金網とし、これを補強材1とした。耐熱材2として、厚さ0.5mmのシート状膨張黒鉛(日本カーボン社製「ニカフィルム(商品名)」を使用した。これら補強材1と耐熱材2とを重ね合わせたのち、耐熱材2を内側にし最外周に該耐熱材2が位置するように捲回して円筒体3を作成した。
【0021】上記耐熱材2と同様の耐熱材(膨張黒鉛)4を別途用意し、該耐熱材4の一方の表面に、平均粒径7μmの窒化ホウ素粉末85重量%、平均粒径0.6μmのアルミナ粉末15重量%から成る潤滑組成物を固形分として30重量%分散含有した水性ディスパージョン(窒化ホウ素25.5重量%、アルミナ4.5重量%、水分70重量%)を刷毛塗りし、乾燥するという被覆操作を3回繰り返して該潤滑組成物の被覆層5を形成した。上記補強材1と同様の円筒状金網を形成したのち、これをローラ間に通して作成した帯状金網6を別途用意し、該帯状金網6内に前記被覆層5を備えた耐熱材4を挿入すると共にこれらをローラ間に通して一体化させ、一方の面に潤滑組成物と金網とが混在した摺動面材7を作成した。
【0022】前記円筒体3の外周面に、この摺動面材7を潤滑組成物と金網とが混在した面を外側にして巻き付けて予備円筒成形体8を作成した。内面に円筒壁面91と円筒壁面91に連なる部分凹球壁面92と部分凹壁面92に連なる貫通孔93とを備え、該貫通孔93に段付きコア94を嵌挿することによって内部に中空円筒部95と該中空円筒部95に連なる球帯状中空部96とが形成された金型9を用意し、該金型9の段付きコア94に前記予備成形体8を挿入し、該予備円筒成形体8を該金型9の中空部に位置させた。
【0023】金型9の中空部に位置させた予備円筒成形体8をコア軸方向に3トン/cm2の圧力で圧縮形成し、内面に貫通孔11を備え、外面に部分凸球面部12を備えた球帯状シール体10を作成した。この圧縮成形により、予備円筒成形体8の円筒体部分は補強材と耐熱材とが互いに絡み合って一体化したシール体母材を形成し、その外面に摺動面材が一体化されると共に該摺動面材の潤滑組成物が展延されて該摺動面材の補強材と混在した潤滑すべり層が形成される。
【0024】<実施例II>前記実施例Iと同様の円筒体を作成した。耐熱材として膨張黒鉛を別途用意し、該耐熱材の一方の表面に、平均粒径7μmの窒化ホウ素粉末85重量%、平均粒径0.6μmのアルミナ粉末15重量%から成る潤滑組成物を100重量とし、これに平均粒径0.3μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を50重量部含有した潤滑組成物(窒化ホウ素56.7重量%、アルミナ10重量%、ポリテトラフルオロエチレン樹脂33.3重量%)を固形分として30重量%分散含有した水性ディスパージョン(窒化ホウ素17重量%、アルミナ3重量%、ポリテトラフルオロエチレン樹脂10重量%、水分70重量%)を刷毛塗りし、乾燥するという被覆操作を3回繰り返して該潤滑組成物の被覆層を形成した。以下、実施例Iと同様の方法で、球帯状シール体を作成した。
【0025】<実施例III>前記実施例Iと同様の円筒体を作成した。耐熱材として膨張黒鉛を別途用意し、該耐熱材の一方の表面に、平均粒径7μmの窒化ホウ素粉末85重量%、平均粒径0.6μmのアルミナ粉末15重量%から成る潤滑組成物を100重量部とし、これに平均0.3μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を150重量部分散含有した潤滑組成物(窒化ホウ素34重量%、アルミナ6重量%、ポリテトラフルオロエチレン樹脂60重量%)を固形分として30重量%分散含有した水性ディスパージョン(窒化ホウ素10.2重量%、アルミナ1.8重量%、ポリテトラフルオロエチレン樹脂18重量%、水分70重量%)を刷毛塗りし、乾燥するという被覆操作を3回繰り返して該潤滑組成物の被覆層を形成した。以下、実施例Iと同様の方法で、球帯状シール体を作成した。
【0026】<比較例>前記実施例Iと同様の円筒体を作成した。耐熱材として膨張黒鉛を別途用意し、該耐熱材の一方の表面に、平均粒径0.3μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を固形分として30重量%分散含有した水性ディスパージョン(ポリテトラフルオロエチレン樹脂30重量%、水分70重量%)を刷毛塗りし、乾燥するという被覆操作を3回繰り返して該潤滑組成物の被覆層を形成し、これを摺動面材とした。円筒体の外周面に、この摺動面材を潤滑組成物の被覆層が形成された面を外側にして巻付けて予備円筒成形体を作成した。以下、実施例Iと同様の方法で、球帯状シール体を作成した。
【0027】つぎに、上述した実施例及び比較例からなる球帯状シール体について、図8に示す排気管継手を使用して、該シール体の摩擦初期における摩擦トルク(kgf・cm)及び異常音の発生の有無を試験した結果について説明する。
(試験I)
(試験条件)
コイルバネによる押圧力:72kgf 揺動角:±3゜振動数:12ヘルツ雰囲気温度(図8に示す凹球面部302の外表面温度):室温(20℃)〜300℃(試験II)
コイルバネによる押圧力:72kgf 揺動角:±3゜振動数:12ヘルツ雰囲気温度(上記に同じ):室温(20℃)〜500℃試験方法(試験I、試験IIとも):12ヘルツの振動数で±3゜の揺動運動を1回として室温で45,000回行ったのち、該揺動運動を継続しながら雰囲気温度を300℃(試験I)、500℃(試験II)まで昇温し(昇温中の揺動回数45,000回)、該雰囲気温度が300℃、500℃に到達した時点で115,000回の揺動運動を行い、ついで該揺動運動を継続しながら雰囲気温度を室温まで降温(降温中の揺動回数45,000回)するという、全揺動回数250,000回を1サイクルとして4サイクル行う。
【0028】また、異常音の発生の有無の評価はつぎのようにして行った。
評価記号I :異常音の発生のないもの。
評価記号II :試験片に耳を近づけた状態で、かすかに異常音が聴こえるもの。
評価記号III:定位置(試験片から1.5m離れた位置)では生活環境音に消され、一般には判別しがたいが試験担当者には異常音として判別できるもの。
評価記号IV :定位置で誰でも異常音(不快音)として識別できるもの。
【0029】表1は上記試験方法によって得られた試験Iの試験結果を示す表であり、表2は上記試験方法によって得られた試験IIの試験結果を示す表である。
(以下余白)
【0030】
【表1】


(以下余白)
【0031】
【表2】


【0032】表1、表2中、1は揺動回数0〜25万回での結果、2は揺動回数25万〜50万回での結果、3は揺動回数50万〜75万回での結果、4は揺動回数75万〜100万回での結果を示したものである。試験Iの結果からは実施例と比較例との間に性能の差は認められず、両者とも摩擦トルクが低く、かつ異常音の発生も認められなかった。一方、試験IIの結果から、比較例の球帯状シール体は雰囲気温度の上昇に伴ない異常音の発生が認められたが、これは雰囲気温度が300℃を超えると表面の潤滑すべり層が溶融軟化し、その状態での継続する揺動運動により該潤滑すべり層が表面から流動排出され、該シール体と相手材との摩擦が耐熱材料(膨張黒鉛)との摩擦に移行したため異常音の発生を引き起こしたものと推察される。
【0033】これに対し、実施例からなる球帯状シール体は雰囲気温度が500℃に到達しても、表面の潤滑すべり層には溶融軟化現象は起こらず該シール体表面に保持されており、相手材とは潤滑すべり層との摩擦により何ら異常音を発生することなく、低い摩擦トルクで安定した揺動運動を繰り返した。実施例II及び実施例IIIの潤滑すべり層にはポリテトラフルオロエチレン樹脂が配合されているにも拘らず上記のような試験結果を示したのは、成分組成中の窒化ホウ素及びアルミナによりポリテトラフルオロエチレン樹脂の溶融軟化点が見掛け上高められていること、また相手材との摩擦面をなす部分凸球面部の表面には金網からなる補強材が該潤滑すべり層と混在していることから、潤滑すべり層と相手材との連続した直接の摩擦を防いでいること、さらにアルミナの作用により潤滑すべり層の部分凸球面表面への保持力が高められていること、などによるものと考えられる。
【0034】つぎに、球帯状シール体の表面に形成された潤滑すべり層の相手材表面への固着現象について試験した結果について述べる。
(試験III)
(試験条件)
コイルバネによる押圧力:72kgf雰囲気温度(図8に示す凹球面部302の外表面温度):室温(20℃)〜400℃試験方法:図8に示す排気管継手に実施例及び比較例からなる球帯状シール体を組込み、雰囲気温度を室温から400℃に到達するまで上昇させ、400℃の温度で10分間保持したのち、雰囲気温度を室温まで下げ、始動摩擦トルクの測定及び異常音の発生を試験する。
【0035】表3は上記試験方法によって得られた試験結果である。
【0036】
【表3】


【0037】試験結果から、比較例からなる球帯状シール体は部分凸球面部表面に形成されたポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる潤滑組成物の潤滑すべり層が相手材(凹球面部)に強固に固着し、始動摩擦トルクは500kgf・cm以上と極めて高く、上、下流側排気管の相対角変位を許容することができなかった。一方、実施例からなる球帯状シール体は相手材表面に固着することなく、また異常音の発生もなく、低い摩擦トルクで上、下流側排気管の相対角変位を許容することができた。
【0038】このように、実施例と比較例からなる球帯状シール体において、このような差が生じたのは、つぎのような理由からであると推察される。比較例からなる球帯状シール体は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる潤滑組成物の潤滑すべり層が雰囲気温度の上昇により溶融軟化を生じると共にこの溶融軟化した状態でコイルバネの押圧力が球帯状シール体と排気管の凹球面部との間に強固な締付け力として作用し、この状態で冷却されることにより、該潤滑すべり層と排気管の凹球面部との間に固着を生じたものと推察される。これに対し実施例からなる球帯状シール体は、前述したように潤滑すべり層は、窒化ホウ素及びアルミナから成る潤滑組成物、あるいは窒化ホウ素、アルミナ及びポリテトラフルオロエチレン樹脂から成る潤滑組成物で形成されており、とくに実施例II、実施例IIIから成るシール体は潤滑組成物の成分中の窒化ホウ素及びアルミナによりポリテトラフルオロエチレン樹脂の溶融軟化点が見掛け上高められていること、また相手材との摩擦面をなす部分凸球面部の表面には金網からなる補強材が該潤滑すべり層と混在していることから、潤滑すべり層と相手材との連続した直接の摩擦を防いでいること、さらにアルミナの作用により潤滑すべり層の部分凸球面表面への保持力が高められていること、などにより比較例のような現象を生じなかったものと推察される。
【0039】以上の試験結果から、実施例からなる球帯状シール体は雰囲気温度の上昇及び揺動角の大小に係わりなく、上、下流側排気管の相対角変位に対し低い摩擦トルクで、かつ異常音の発生もなく許容することができるのに対し、比較例からなる球帯状シール体は揺動角の小さい部位への適用においては上記問題を生じることから、自ずから使用条件、使用部位に制約を受けることになる。なお、上記実施例においては、アルミナを使用した例について示したが、アルミナに代えてシリカあるいはアルミナおよびシリカを使用しても、アルミナを使用したものと同様である。
【0040】
【発明の効果】本発明の球帯状シール体は、相手材との摩擦面をなす部分凸球面部の表面に、窒化ホウ素並びにアルミナおよびあるいはシリカから成る潤滑組成物、あるいは窒化ホウ素、アルミナおよびあるいはシリカ並びにポリテトラフルオロエチレン樹脂から成る潤滑組成物の潤滑すべり層と金網からなる補強材が混在一体となった平滑な面が形成されているので、常温から500℃の広範囲にわたり相手材との摩擦において低い摩擦トルクにより上、下流側排気管の相対角変位を許容することができる。
【0041】また、潤滑すべり層を形成する潤滑組成物にポリテトラフルオロエチレン樹脂が配合されたものにおいては、成分中の窒化ホウ素並びにアルミナおよびあるいはシリカが該ポリテトラフルオロエチレン樹脂の溶融軟化点を見掛け上高めること、アルミナおよびあるいはシリカの作用により潤滑すべり層の部分凸球面表面への保持力が高められていること、さらには該潤滑すべり層は金網からなる補強材と混在していることから、相手材との連続した直接の接触が防がれること、などにより従来技術の問題点である雰囲気温度の上昇に起因する潤滑すべり層の溶融軟化、これに起因する潤滑すべり層の相手材表面への固着は生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の球帯状シール体の縦断面説明図である。
【図2】本発明の球帯状シール体の製造過程における帯状補強材を作成する方法を示す斜視図である。
【図3】本発明の球帯状シール体の製造過程における円筒体の平面図である。
【図4】本発明の球帯状シール体の製造過程における摺動面材の斜視図である。
【図5】本発明の球帯状シール体の製造過程における摺動面材の縦断面説明図である。
【図6】本発明の球帯状シール体の製造過程における予備円筒成形体の平面図である。
【図7】本発明の球帯状シール体の製造過程における金型中に予備円筒成形体を挿入した状態を示す縦断面図である。
【図8】本発明の球帯状シール体を組込んだ排気管継手の縦断面図である。
【符号の説明】
1・・補強材
2・・耐熱材
3・・円筒体
4・・耐熱材
5・・被覆層
6・・帯状金網
7・・摺動面材
8・・予備円筒成形体
9・・金型
10・・球帯状シール体
11・・貫通孔
12・・部分凸球面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属細線を織ったり、編んだりして得られる金網から成る補強材と膨張黒鉛、マイカ又はアスベストから成る耐熱材との圧縮成型物から成り、中央に貫通孔を備え、外面に部分凸球面部を備えた、とくに排気管継手に使用される球帯状シール体であって、該部分凸球面部の表面は、窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物の潤滑すべり層と該潤滑すべり層を覆って該潤滑すべり層と一体化された金網から成る補強材とが混在一体となった平滑な面に形成されていることを特徴とする球帯状シール体。
【請求項2】 潤滑すべり層を形成する潤滑組成物は、窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されている請求項1に記載の球帯状シール体。
【請求項3】 潤滑すべり層を形成する潤滑組成物は、窒化ホウ素70〜90重量%並びにアルミナおよびあるいはシリカ10〜30重量%から成る潤滑組成物を100重量部とし、これに50〜150重量部の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されている請求項1に記載の球帯状シール体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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