説明

球形ガスホルダー

【課題】ガス排出時のガスホルダー中の残留ガス量が少なく、ガス充填部となるゴム引布又はプラスチック引布の袋体の容量の大部分をガス貯留スペースとして活用することができる球形ガスホルダーを提供する。
【解決手段】ガス充填部がゴム引布又はプラスチック引布の袋体よりなり、ガスを完全充填したときに略球形をなし、フレームによって赤道部が支持され、下端にガス流入口とガス排出口とを有する球形ガスホルダーであって、袋体の上半分の表面に、略球形の袋体の中心軸上に中心が存在する複数個の円環状の重りが取り付けられてなることを特徴とする球形ガスホルダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球形ガスホルダーに関する。さらに詳しくは、本発明は、ガス排出時のガスホルダー中の残留ガス量が少なく、ガス充填部となるゴム引布又はプラスチック引布の袋体の容量の大部分をガス貯留スペースとして活用することができる球形ガスホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガスや、水素ガス、酸素ガスなどの工業用ガスなどの貯留に、球形ガスホルダーが広く使用されている。このような目的に使用される球形ガスホルダーは大型であり、材料には高張力鋼などが用いられ、耐用年数も長期にわたることが予定されている。これに対して、下水処理場、畜舎、嫌気性メタン発酵槽などから発生する消化ガスなどは、都市ガス、工業用ガスなどに比べて発生量が相対的に少なく、貯留設備にも長期耐久性は要求されない場合が多い。このような取り扱い量が少なく、設備更新期間も短いガス用のガスホルダーとして、ゴム引布又はプラスチック引布製のガスホルダーが開発されている。
図5は、従来のゴム引布製のガスホルダーの一例の側面図である。この例のガスホルダーは、ガス充填部がゴム引布又はプラスチック引布の袋体18よりなり、ガスを完全充填したときに袋体が略球形となり、脚柱19とリング20からなるフレームによって袋体の赤道部が支持されている。略球形の袋体の赤道部に設けられたベルト(図示しない。)により、袋体がリングに固定されている。袋体の下端には、ガス流入口21とガス排出口22が設けられている。また、略球形の袋体の頂点には重り23が取り付けられ、重りにはレベル計としてワイヤー24が取り付けられ、ワイヤーの末端25の位置により袋体の頂点の位置が判定され、袋体内に貯留されているガスの量が推定される。
この例のガスホルダーは、ガス排出口を閉じてガス流入口からガスを送り込み、完全充填した状態にすると、袋体は略球形となる。ガス流入口を閉じて、ガス排出口を開くと、袋体の内部のガスが重りにより与えられる圧力で排出される。しかし、重りによって袋体の頂点が袋体の下端に接触する状態まで下降しても、袋体内のガスは全部は排出されず、多量のガスが袋体内に残留する。
図6は、図5に示す球形ガスホルダーからガスを排出して、袋体の頂点が袋体の下端に接触した状態を示す断面図である。この図は、袋体の中心軸を通る平面で切断した断面を示す。重り23によって袋体の頂点が袋体の下端に接触する状態になっても、袋体の上半分26は袋体の下半分27とは接触せず、袋体の上半分と袋体の下半分の間にデッドスペース28ができて、排出されないガスが残留する。デッドスペースの容積は、完全充填した略球形の容積の40%程度である。したがって、例えば、容量100m3の球形ガスホルダーを設置しても、ガスの貯留及び排出に利用している容量は60m3程度であり、球形ガスホルダーの内容積の利用において、無駄が生じていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ガス排出時のガスホルダー中の残留ガス量が少なく、ガス充填部となるゴム引布又はプラスチック引布の袋体の容量の大部分をガス貯留スペースとして活用することができる球形ガスホルダーを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ガス充填部がゴム引布又はプラスチック引布の袋体からなる球形ガスホルダーにおいて、袋体の上半分の表面に、略球形の袋体の中心軸上に中心が存在する複数個の円環状の重りを取り付けることにより、袋体内のガスを排出したときに、袋体の上半分の内面が袋体の下半分の内面に近接し、袋体内に残留するガスの量を減少し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)ガス充填部がゴム引布又はプラスチック引布の袋体よりなり、ガスを完全充填したときに略球形をなし、フレームによって赤道部が支持され、下端にガス流入口とガス排出口とを有する球形ガスホルダーであって、袋体の上半分の表面に、略球形の袋体の中心軸上に中心が存在する複数個の円環状の重りが取り付けられてなることを特徴とする球形ガスホルダー、
(2)円環状の重りが、金属棒からなる(1)記載の球形ガスホルダー、
(3)円環状の重りが、金属チェーンからなる(1)記載の球形ガスホルダー、及び、
(4)略球形の袋体の頂点にワイヤーが取り付けられ、該ワイヤーが滑車を経由して垂直に吊り下げられ、該ワイヤーの位置にもとづいて袋体中のガス貯留量を判定する(1)記載の球形ガスホルダー、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の球形ガスホルダーは、ガスを排出したときに、ガス充填部である略球形の袋体の上半分の内面が下半分の内面に近接し、袋体内に残留するガスの量が少ないので、従来の球形ガスホルダーよりも小型の球形ガスホルダーを用いて、同じ量のガスを貯留し、排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の球形ガスホルダーは、ガス充填部がゴム引布又はプラスチック引布の袋体よりなり、ガスを完全充填したときに略球形をなし、フレームによって赤道部が支持され、下端にガス流入口とガス排出口とを有する球形ガスホルダーであって、袋体の上半分の表面に、略球形の袋体の中心軸上に中心が存在する複数個の円環状の重りが取り付けられてなる球形ガスホルダーである。袋体の中心軸とは、略球形の袋体の垂直な直径である。
図1は、本発明の球形ガスホルダーの一態様の側面図である。本図は、袋体にガスが完全充填された状態を示す。本態様の球形ガスホルダーは、ガス充填部がゴム引布又はプラスチック引布の袋体1よりなり、袋体はガスを完全充填したときに略球形となり、脚柱2とリング3からなるフレームによって赤道部が支持されている。略球形の袋体の赤道部に設けられたベルト(図示しない。)により、袋体がリングに固定されている。袋体の上半分の表面に、略球形の袋体の中心軸上に中心が存在する金属棒からなる3個の円環状の重り4、5及び6が取り付けられている。袋体の下端には、ガス流入口7とガス排出口8が設けられている。略球形の袋体の頂点には重り9が備えられ、重りにレベル計としてワイヤー10が取り付けられ、滑車を経由して垂直に吊り下げられたたワイヤーの末端11の位置を目盛尺12で読み取ることにより、袋体の頂点の位置を知ることができる。
【0007】
図2は、図1に示す球形ガスホルダーのガス排出中の状態を示す断面図である。この状態において、略球形の袋体中のガスの約60体積%が排出されている。本発明の球形ガスホルダーは、図2に示すように、ガス排出中は、袋体の天面13が略水平面を保つので、袋体の頂点の位置と袋体の内容積との間には1対1の関係が成り立つ。したがって、袋体の頂点の位置と袋体の内容積との関係を示すグラフをあらかじめ作成しておき、そのグラフから球形ガスホルダーのガスの貯留量を読み取ることができ、あるいは、ワイヤーの末端11が移動する範囲に設けた目盛尺12の目盛を、略球形の袋体の内容積として、ガスの貯留量を直読することもできる。
本発明の球形ガスホルダーにおいては、ワイヤーにリミットスイッチなどを取り付け、略球形の袋体の内容積に応じて、ガスの流入と排出を自動的に制御することができる。
図3は、図1に示す球形ガスホルダーのガス排出を終了した状態を示す断面図である。袋体1の頂点が、重り9により押し下げられて袋体の下端に接触している。袋体の上半分は、3個の円環状の重り4、5及び6により押し下げられ、袋体の上半分の内面が、袋体の下半分の内面に近接し、図6に示すような大きいデッドスペースは形成されない。本発明の球形ガスホルダーにおいては、袋体の頂点が重りにより押し下げられて袋体の下端に接触し、ガス排出が終了したとき、袋体内に残留するガスの量は、完全充填した略球形の袋体の容量の約10体積%であり、貯留、排出するガス量の約10体積%増しの球形ガスホルダーを設置することにより、所期の目的を達成することができる。本発明において、円環状の重りを形成する金属棒に特に制限はなく、例えば、PC鋼棒、ステンレス鋼棒、冷間仕上ステンレス鋼棒などを挙げることができる。
【0008】
本発明の球形ガスホルダーにおいては、円環状の重りとして、金属チェーンを用いることができる。図4は、本発明の球形ガスホルダーの他の態様の側面図である。本図は、袋体にガスが完全充填された状態を示す。本態様の球形ガスホルダーは、ガス充填部がゴム引布又はプラスチック引布の袋体1よりなり、ガスを完全充填したときに略球形となり、脚柱2とリング3からなるフレームによって赤道部が支持されている。略球形の袋体の赤道部に設けられたベルト(図示しない。)により、袋体がリングに固定されている。袋体の上半分の表面に、略球形の袋体の中心軸上に中心が存在する金属チェーンからなる3個の円環状の重り14、15及び16が取り付けられ、さらにこれらの3個の円環状の重りが6本の経方向の金属チェーン(3本は裏側にあって図示されていない。)17で繋がれている。袋体の下端には、ガス流入口7とガス排出口8が設けられている。略球形の袋体の頂点には重り9が備えられ、重りにワイヤー10が取り付けられ、滑車を経由して垂直に吊り下げられたワイヤーの末端11の位置を目盛尺12で読み取ることにより、袋体の頂点の位置を知ることができる。
【0009】
図4に示す態様の球形ガスホルダーも、ガス排出中は、袋体の天面が略水平面を保つので、袋体の頂点の位置と袋体の内容積との間には1対1の関係が成り立つ。したがって、袋体の頂点の位置と袋体の内容積との関係を示すグラフをあらかじめ作成しておき、そのグラフから球形ガスホルダーのガスの貯留量を読み取ることができ、あるいは、ワイヤーの末端11が移動する範囲に設けた目盛尺12の目盛を、略球形の袋体の内容積として、ガスの貯留量を直読することもできる。また、袋体1の頂点が、重り9により押し下げられて袋体の下端に接触し、ガス排出を終了したときは、袋体の上半分は、3個の金属チェーンからなる円環状の重り14、15、16と6本の経方向の金属チェーン17により押し下げられ、袋体の上半分の内面が、袋体の下半分の内面に近接し、図6に示すような大きいデッドスペースは形成されない。金属チェーンからなる重りは、金属棒からなる重りよりも、袋体の変形に対する追随性が良好である。本発明において、円環状の重りを形成する金属チェーンに特に制限はなく、例えば、伝動用ローラチェーン、チェーンブロック用リンクチェーンなどを挙げることができる。
本発明の球形ガスホルダーの容量に特に制限はないが、1〜300m3であることが好ましく、5〜200m3であることがより好ましい。容量1m3未満のガスホルダーは、一般的な汎用品が市販されているので、市販品を購入して経済的に使用することができる。容量が300m3を超えると、ゴム引布又はプラスチック引布では強度が不足するので、圧力によっては金属製のガスホルダーを作製することが好ましい。
【0010】
本発明に用いるゴム引布又はプラスチック引布の基布の材質に特に制限はなく、例えば、綿織物、ポリエステル織物、ポリアミド織物などを挙げることができる。本発明に用いるゴム引布のゴムの材質に特に制限はなく、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、EPDMエラストマーなどを挙げることができる。これらの中で、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルブタジエンゴム及びEPDMエラストマーを好適に用いることができる。本発明に用いるプラスチック引布のプラスチックの材質に特に制限はなく、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ニトロセルロースなどを挙げることができる。これらの中で、ポリウレタンを好適に用いることができる。
本発明に用いるゴム引布又はプラスチック引布は、もみ試験において、無荷重500回で異常のないことが好ましく、無荷重1,000回で異常のないことがより好ましい。無荷重500回で異常が生ずると、ガスホルダーとしての耐久性が不足するおそれがある。本発明に用いるゴム引布又はプラスチック引布は、貯留するガスを用いたガス透過試験において、5.0cm3/(m2・s・Pa)以下であることが好ましく、3.0cm3/(m2・s・Pa)以下であることがより好ましく、1.0cm3/(m2・s・Pa)以下であることがさらに好ましい。ガス透過試験の結果が5.0cm3/(m2・s・Pa)を超えると、球形ガスホルダーからのガスの漏洩が無視し得ない量に達するおそれがある。ゴム引布又はプラスチック引布のもみ試験は、JIS K 6404−6にしたがい、スコット形もみ試験機を用いて行うことができる。ゴム引布又はプラスチック引布のガス透過試験は、JIS K 6404−10にしたがい、ケンブリッジ式ガス透過試験装置を用いる試験方法B1又はマノメータ式ガス透過試験機を用いる試験方法B2により行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の球形ガスホルダーは、ガス充填部が、ガスを完全充填したときに略球形となるゴム引布又はプラスチック引布の袋体よりなり、袋体の上半分の表面に複数個の円環状の重りが取り付けられているので、ガス排出時に袋体の上半分が円環状の重りにより押し下げられて袋体の下半分と内面同士が近接し、排出不可能な残留ガスの量を減少することができる。その結果、従来の球形ガスホルダーに比べてより小型の球形ガスホルダーを用いて、同量のガスを貯留、排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の球形ガスホルダーの一態様の側面図である。
【図2】ガス排出中の状態を示す断面図である。
【図3】ガス排出を終了した状態を示す断面図である。
【図4】本発明の球形ガスホルダーの他の態様の側面図である。
【図5】従来のゴム引布製のガスホルダーの一例の側面図である。
【図6】袋体の頂点が袋体の下端に接触した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0013】
1 袋体
2 脚柱
3 リング
4 円環状の重り
5 円環状の重り
6 円環状の重り
7 ガス流入口
8 ガス排出口
9 重り
10 ワイヤー
11 ワイヤーの末端
12 目盛尺
13 袋体の天面
14 円環状の重り
15 円環状の重り
16 円環状の重り
17 経方向の金属チェーン
18 袋体
19 脚柱
20 リング
21 ガス流入口
22 ガス排出口
23 重り
24 ワイヤー
25 ワイヤーの末端
26 袋体の上半分
27 袋体の下半分
28 デッドスペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス充填部がゴム引布又はプラスチック引布の袋体よりなり、ガスを完全充填したときに略球形をなし、フレームによって赤道部が支持され、下端にガス流入口とガス排出口とを有する球形ガスホルダーであって、袋体の上半分の表面に、略球形の袋体の中心軸上に中心が存在する複数個の円環状の重りが取り付けられてなることを特徴とする球形ガスホルダー。
【請求項2】
円環状の重りが、金属棒からなる請求項1記載の球形ガスホルダー。
【請求項3】
円環状の重りが、金属チェーンからなる請求項1記載の球形ガスホルダー。
【請求項4】
略球形の袋体の頂点にワイヤーが取り付けられ、該ワイヤーが滑車を経由して垂直に吊り下げられ、該ワイヤーの位置にもとづいて袋体中のガス貯留量を判定する請求項1記載の球形ガスホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−105312(P2006−105312A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294635(P2004−294635)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】