説明

球状シリカ系メソ多孔体及びその製造方法、並びにそれを用いた塩基触媒

【課題】優れた塩基触媒性能を有する球状シリカ系メソ多孔体を提供すること。
【解決手段】平均粒径が0.01〜3μmであり、且つ、中心細孔直径が1〜5nmの放射状細孔を有する球状シリカ系メソ多孔体であって、前記球状シリカ系メソ多孔体が3−アミノプロピル基で修飾されていることを特徴とする球状シリカ系メソ多孔体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基触媒、吸着材料等として有用な球状シリカ系メソ多孔体、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩基触媒として種々のメソポーラスシリカにアミノ基をグラフトや共重合といった方法で導入したものを用いることが検討されている。例えば、特開2003−112051号公報(特許文献1)には、メソポーラスシリカのケイ素原子にアミノ基が直接結合した塩基触媒が開示されており、FSM−16にアミノ基が導入された塩基触媒が記載されている。しかしながら、担体として用いているFSMは不定形でメソ細孔がロッド状になっているため、外表面が多く、反応物の移動が制限され、塩基触媒性能の点で未だ十分なものではなかった。また、ケイ素原子に直接アミノ基が結合しているので、細孔が閉塞される可能性は低いが、200〜800℃の高温でアンモニア処理を行うために、細孔の崩壊が懸念されるのと同時に他の有機官能基を共存させることができないという問題点があった。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、特開2005−89218号公報(特許文献2)には、溶媒中でシリカ原料と界面活性剤とを混合し、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る第1の工程と、前記多孔体前駆体粒子に含まれる前記界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る第2の工程と、を含む球状シリカ系メソ多孔体の製造方法であって、特定の界面活性剤を用いて特定の条件下で球状のシリカ系メソ多孔体を得る方法が開示されている。そして、特許文献2においては、シリカ原料としてケイ酸ナトリウム等と共に3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリアルコキシシランを用いることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載されている方法により得られた球状シリカ系メソ多孔体であっても、必ずしも十分な塩基触媒性能を有するものではなかった。
【特許文献1】特開2003−112051号公報
【特許文献2】特開2005−89218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた塩基触媒性能を有する球状シリカ系メソ多孔体、並びにその球状シリカ系メソ多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の粒子形態及び細孔形態を有するシリカ系メソ多孔体に3−アミノプロピル基を修飾させることにより優れた塩基触媒性能を有する球状シリカ系メソ多孔体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、平均粒径が0.01〜3μmであり、且つ、中心細孔直径が1〜5nmの放射状細孔を有する球状シリカ系メソ多孔体であって、前記球状シリカ系メソ多孔体が3−アミノプロピル基で修飾されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体においては、前記3−アミノプロピル基が、前記球状シリカ系メソ多孔体を構成するシリケート骨格中のSi原子に配位されていることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の球状シリカ系メソ多孔体においては、前記球状シリカ系メソ多孔体の全粒子の90重量%以上が、前記平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有していることが好ましい。
【0010】
本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第1の製造方法は、溶媒中でシリカ原料と界面活性剤とを混合し、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る第1の工程と、
前記多孔体前駆体粒子に含まれる前記界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る第2の工程と、
を含む球状シリカ系メソ多孔体の製造方法であって、
前記シリカ原料の少なくとも一部が3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランであり、且つ前記界面活性剤として下記一般式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは9〜25の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドを用い、前記溶媒としてアルコール含有量が80容量%以下である水系溶媒を用い、前記溶媒中における前記界面活性剤の濃度を0.0003〜0.03mol/L、前記シリカ原料の濃度をSi濃度換算で0.0005〜0.03mol/Lとすることによって、前記球状シリカ系メソ多孔体を得ること特徴とする方法である。
【0013】
また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第2の製造方法は、溶媒中でシリカ原料と界面活性剤とを混合し、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る第1の工程と、
前記多孔体前駆体粒子に含まれる前記界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る第2の工程と、
前記球状シリカ系メソ多孔体に3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランをグラフト重合せしめる第3の工程と、
を含む球状シリカ系メソ多孔体の製造方法であって、前記界面活性剤として下記一般式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは9〜25の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドを用い、前記溶媒としてアルコール含有量が80容量%以下である水系溶媒を用い、前記溶媒中における前記界面活性剤の濃度を0.0003〜0.03mol/L、前記シリカ原料の濃度をSi濃度換算で0.0005〜0.03mol/Lとすることによって、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の球状シリカ系メソ多孔体を得ることを特徴とする方法である。
【0016】
本発明の塩基触媒は、前記球状シリカ系メソ多孔体からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた塩基触媒性能を有する球状シリカ系メソ多孔体、並びにその球状シリカ系メソ多孔体の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
<球状シリカ系メソ多孔体>
先ず、本発明の球状シリカ系メソ多孔体について説明する。すなわち、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、平均粒径が0.01〜3μmであり、且つ、中心細孔直径が1〜5nmの放射状細孔を有する球状シリカ系メソ多孔体であって、前記球状シリカ系メソ多孔体が3−アミノプロピル基で修飾されていることを特徴とするものである。
【0020】
そして、本発明の球状シリカ系メソ多孔体においては、球状シリカ系メソ多孔体が3−アミノプロピル基で修飾されている必要がある。このように球状シリカ系メソ多孔体が3−アミノプロピル基で修飾されていることにより、球状シリカ系メソ多孔体に塩基触媒性能が付与される。また、このような3−アミノプロピル基は比較的に分子が小さいために、細孔の閉塞による塩基触媒性能の低下が起こりにくい。さらに、本発明の球状シリカ系メソ多孔体においては、このような3−アミノプロピル基が前記球状シリカ系メソ多孔体を構成するシリケート骨格中のSi原子に配位されていることが好ましい。このように3−アミノプロピル基が前記球状シリカ系メソ多孔体を構成するシリケート骨格中のSi原子に配位されていることにより、球状シリカ系メソ多孔体の塩基触媒性能が向上する傾向にある。なお、後述する本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第1の製造方法(共重合法)によって、細孔の閉塞を最小限にし、より確実に前記3−アミノプロピル基をシリケート骨格中のSi原子に配位させることができる。
【0021】
また、このような球状シリカ系メソ多孔体の平均粒径が0.01〜3μmであることが必要である。平均粒径が0.01μm未満では、粒子が凝集してしまい、反応効率が低くなり、他方、3μmを超えると、球状粒子が形成しにくくなると同時に触媒内部への反応物の拡散に時間がかかり反応効率が低くなる。さらに、このような球状シリカ系メソ多孔体の全粒子の90重量%以上が、前記平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有していることが好ましい。前記平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有している粒子が全粒子の90重量%未満では、粒子の凝集が多くなるため反応効率が低下する傾向にある。
【0022】
また、このような球状シリカ系メソ多孔体は放射状細孔を有していることが必要である。このように球状シリカ系メソ多孔体が放射状細孔を有していることにより、外表面が少なくなり細孔が内部まで有効に利用できることとなる。さらに、このような放射状細孔の中心細孔直径が1〜5nmであることが必要である。中心細孔直径が1nm未満では、かさ高い分子の反応物に対しては十分な塩基触媒性能を発揮することができない、他方、5nmを超えると球状粒子を形成することが難しくなる。
【0023】
なお、本発明でいう「球状」とは、真の球体に限定されるものではなく、最小直径が最大直径の80%以上(好ましくは90%以上)である略球体も包含するものである。また、略球体の場合、その粒径は原則として最小直径と最大直径との平均値をいう。さらに、前記中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径である。なお、細孔径分布曲線は、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、シリカ系メソ多孔体粒子を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Dollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0024】
また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体おいては、細孔径分布曲線における中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれることが好ましい。この条件を満たすシリカ系メソ多孔体粒子は、細孔の直径が非常に均一であることを意味する。また、このような球状シリカ系メソ多孔体の比表面積については特に制限はないが、700m2/g以上であることが好ましい。比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0025】
さらに、このような球状シリカ系メソ多孔体は、そのX線回折パターンにおいて1nm以上のd100値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。X線回折ピークはそのピーク角度に相当するd100値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1nm以上のd100値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
【0026】
また、本発明にかかる球状シリカ系メソ多孔体が有する放射状細孔とは、細孔が中心部から外側に向かって放射状に配列されている、いわゆるラジアル型構造を有する細孔である。このように、細孔が規則性を保ちながら粒子の中心部から外側に向かって配置されていることにより、外表面が少なくなり触媒や吸着剤として適した構造となる。なお、球状シリカ系メソ多孔体がいわゆるラジアル型構造を有していることは、細孔内に金や白金等の金属を導入し、その断面を走査型電子顕微鏡により観察することによって確認することが可能である。また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体における細孔の全てが中心部から外側に向かって放射状に配列されている必要はなく、全ての細孔のうち50%以上(より好ましくは70%以上)がこのように配列されていることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の球状シリカ系メソ多孔体における細孔の配列状態(細孔配列構造又は構造)は特に制限されないが、2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造又はキュービック構造であることが好ましい。また、このような細孔配列構造は、ディスオーダの細孔配列構造を有するものであってもよい。
【0028】
ここで、多孔体がヘキサゴナルの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が六方構造であることを意味する(S.Inagaki,et al.,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,680,1993;S.Inagaki,et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,69,1449,1996、Q.Huo,et al.,Science,268,1324,1995参照)。また、多孔体がキュービックの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が立方構造であることを意味する(J.C.Vartuli,et al.,Chem.Mater.,6,2317,1994;Q.Huo,et al.,Nature,368,317,1994参照)。また、多孔体がディスオーダの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が不規則であることを意味する(P.T.Tanev,et al.,Science,267,865,1995;S.A.Bagshaw,et al.,Science,269,1242,1995;R.Ryoo,et al.,J.Phys.Chem.,100,17718,1996参照)。また、前記キュービック構造は、Pm−3n、Im−3m又はFm−3m対称性であることが好ましい。前記対称性とは、空間群の表記法に基づいて決定されるものである。
【0029】
以上説明したような球状シリカ系メソ多孔体においては、3−アミノプロピル基の導入方法が後述する本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第1の製造方法のように球状メソポーラスシリカ合成時に有機アルコキシシランを添加する共重合法であっても、後述する本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第2の製造方法のように無機成分から構成される球状シリカ系メソ多孔体に3−アミノプロピル基を後修飾するグラフト法であってもよい。これらの方法の中でも、グラフト法の場合は細孔が閉塞したり、3−アミノプロピル基の導入量の制御が難しいという観点から、共重合法が好ましい。
【0030】
このような球状シリカ系メソ多孔体は、粉末のまま使用してもよいが、必要に応じて成形して使用してもよい。成形する手段はどのようなものでも良いが、押出成形、打錠成形、転動造粒、圧縮成形、CIP等が好ましい。その形状は使用箇所、方法に応じて決めることができ、たとえば円柱状、破砕状、球状、ハニカム状、凹凸状、波板状等が挙げられる。また、このような球状シリカ系メソ多孔体は、特にかさ高い分子の反応物に対する塩基触媒として有用である。
【0031】
<球状シリカ系メソ多孔体の製造方法>
次に、本発明の球状シリカ系メソ多孔体の製造方法について説明する。
【0032】
(第1の製造方法)
先ず、本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第1の製造方法(共重合法)について説明する。本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第1の製造方法においては、先ず、溶媒中でシリカ原料と界面活性剤とを混合し、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る(第1の工程)。
【0033】
本発明の第1の製造方法において用いられるシリカ原料の少なくとも一部が、3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランである必要がある。
【0034】
このような3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランは、アルコキシ基を3個有するトリアルコキシシラン、アルコキシ基を2個有するジアルコキシシラン、アルコキシ基を1個有するモノアルコキシシランを用いることができる。アルコキシ基の種類は特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基のようにアルコキシ基中の炭素原子の数が比較的少ないものが反応性の点から有利である。このような3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランとしては、3−アミノプロピル基を含んでいる従来公知の種々の化合物が使用でき、特に限定されないが、例えば、トリアルコキシシランの場合であると3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランは、単独で用いることもできるが2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0035】
また、本発明において用いられるシリカ原料としては、前記3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランの他にその他のアルコキシシランを用いる。このようなその他のアルコキシシランとしては、アルコキシ基を4個有するテトラアルコキシシラン、アルコキシ基を3個有するトリアルコキシシラン、アルコキシ基を2個有するジアルコキシシランを用いることができる。アルコキシ基の種類は特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のようにアルコキシ基中の炭素原子の数が比較的少ないもの(炭素数として1〜4程度のもの)が反応性の点から有利である。また、アルコキシシランが有するアルコキシ基が3または2個である場合は、アルコキシシラン中のケイ素原子には有機基、水酸基等が結合していてもよい。
【0036】
このようなテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等が挙げられ、このようなトリアルコキシシランとしては、トリメトキシシラノール、トリエトキシシラノール、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン等が挙げられる。また、このようなジアルコキシシランとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン等が挙げられる。
【0037】
これらのアルコキシシランは、単独で用いることもできるが2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。また、上記のアルコキシ基を2〜4個有するアルコキシシランは、アルコキシ基を1個有するモノアルコキシシランと組み合わせて使用することも可能である。このようにして用いることのできるモノアルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0038】
アルコキシシランは、加水分解によりシラノール基を生じ、生じたシラノール基同士が縮合することによりケイ素酸化物が形成される。この場合において、分子中のアルコキシ基の数が多いアルコキシシランは、加水分解および縮合で生じる結合が多くなる。したがって、本発明において、アルコキシ基の多いテトラアルコキシシランをアルコキシシランとして用いることが好ましく、テトラアルコキシシランとしては、反応速度の観点からテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランを用いることが特に好ましい。
【0039】
なお、前記3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランの比率は、シリカ原料の全量に対して0.1〜20モル%の比率であることが好ましい。有機アルコキシシランの比率が0.1モル%未満では、触媒性能が低下する傾向にある。他方、20モル%を超えると、3−アミノプロピル基は正の電荷を有しているため、界面活性剤にアンモニウム塩を用いた場合、電荷の反発が起こり、球状粒子の形成が難しくなると共に球状粒子の形成および規則的メソポーラス構造の形成が困難となる傾向にある。
【0040】
本発明において用いられる界面活性剤は、下記一般式(1)で表されるアルキルアンモニウムハライドである。
【0041】
【化3】

【0042】
そして、一般式(1)におけるR、R、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す。このようなアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、これらが一分子中に混在してもよいが、界面活性剤分子の対称性の観点からR1、R2、R3は全て同一であることが好ましい。界面活性剤分子の対称性が優れる場合は、界面活性剤同士の凝集(ミセルの形成等)が容易となる傾向にある。更に、R、R、Rのうち少なくとも1つはメチル基であることが好ましく、R、R、Rの全てがメチル基であることがより好ましい。
【0043】
また、一般式(1)におけるnは9〜25の整数を示し、9〜17の整数であることがより好ましい。前記nが8以下であるアルキルアンモニウムハライドでは、球状の多孔体は得られなくなる。また、中心細孔直径が1.0nmより小さくなってしまい、細孔内での触媒反応性が低下する。他方、前記nが26以上のアルキルアンモニウムハライドでは、界面活性剤の疎水性相互作用が強すぎるため、層状の化合物が生成してしまい、球状の多孔体を得ることができなくなる。
【0044】
さらに、一般式(1)におけるXはハロゲン原子を示し、このようなハロゲン原子の種類は特に制限されないが、入手の容易さの観点からXは塩素原子または臭素原子であることが好ましい。
【0045】
したがって、上記一般式(1)で表される界面活性剤としては、R、R、Rの全てがメチル基でありかつ炭素数10〜26の長鎖アルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウムハライドであることが好ましく、中でもデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、エイコシルトリメチルアンモニウムハライド、ドコシルトリメチルアンモニウムハライドがより好ましい。
【0046】
このような界面活性剤は、シリカ原料と共に溶媒中で複合体を形成する。複合体中のシリカ原料は反応によりケイ素酸化物へと変化するが、界面活性剤が存在している部分ではケイ素酸化物が生成しないため、界面活性剤が存在している部分に孔が形成されることになる。すなわち、界面活性剤はシリカ原料中に導入されて孔形成のためのテンプレートとして機能する。本発明において、界面活性剤は1種類もしくは2種類以上を組み合わせて用いることが可能であるが、上記のように界面活性剤はシリカ原料の反応生成物に孔を形成させる際のテンプレートとして働き、その種類は多孔体の孔の形状に大きな影響を与えるため、より均一な球状多孔体が得るためには、界面活性剤は1種類のみを用いることが好ましい。
【0047】
本発明においては、前記シリカ原料および前記界面活性剤を混合するための溶媒として、アルコールを含有する水系溶媒を用いる。このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エチレングリコール、グリセリンが挙げられ、シリカ原料の溶解性の観点からメタノールまたはエタノールが好ましい。
【0048】
そして、本発明においては、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を合成する際に、アルコールの含有量が80容量%以下の水系溶媒を用いることが重要であり、アルコールの含有量が10〜70容量%のものを用いることがより好ましい。アルコールの含有量が80容量%を超える場合は、粒径及び粒径分布の制御が困難となり、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる。なお、比較的多量のアルコールを含有する水系溶媒を使用することにより、均一な球状体の発生及び成長が実現され、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径が高度に均一に制御されることとなる。
【0049】
また、本発明においては、前記の水とアルコールとの比率を変化させることにより、粒径の均一性は高水準に保持しつつ、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径を容易に制御することができる。すなわち、水の比率が高い場合は多孔体が析出し易くなるために粒径が小さくなり、逆にアルコールの比率が高い場合は大きい粒径の多孔体を得ることができる。
【0050】
さらに、本発明においては、前記シリカ原料および前記界面活性剤を前記水系溶媒中で混合して多孔体前駆体粒子を得る際に、上述した界面活性剤の濃度を溶液の全容量を基準として0.0003〜0.03mol/L(好ましくは、0.0005〜0.02mol/L)とし、上述したシリカ原料の濃度を溶液の全容量を基準として0.0005〜0.03mol/L(好ましくは、0.003〜0.015mol/L)とする必要がある。このように界面活性剤およびシリカ原料の濃度を厳密に制御することによって、前述の水系溶媒を使用することと相俟って均一な球状体の発生及び成長が実現され、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径が高度に均一に制御されることとなる。界面活性剤の濃度が0.0003mol/L未満の場合は、テンプレートとなるべき界面活性剤の量が不足するために良好な多孔体を得ることができず、更に粒径及び粒径分布の制御が困難となって得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる。他方、界面活性剤の濃度が0.03mol/Lを超える場合は、形状が球状である多孔体を高比率で得ることができず、更に粒径及び粒径分布の制御が困難となって得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる。また、シリカ原料の濃度が0.0005mol/L未満の場合は、形状が球状である多孔体を高比率で得ることができず、更に粒径及び粒径分布の制御が困難となって得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる。他方、シリカ原料の濃度が0.03mol/Lを超える場合は、テンプレートとなるべき界面活性剤の比率が不足するために良好な多孔体を得ることができず、更に粒径及び粒径分布の制御が困難となって得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる。
【0051】
また、本発明においては、前記シリカ原料および前記界面活性剤を混合する際に、塩基性条件下で混合することが好ましい。シリカ原料は、一般に塩基性条件下においても酸性条件下においても反応が生じケイ素酸化物へと変化するが、本発明におけるシリカ原料と界面活性剤の濃度は従来技術の方法に比較してかなり低いものとなっているために、酸性条件下では反応がほとんど進行しない。したがって、本発明においては塩基性条件下でシリカ原料を反応させることが好ましい。なお、シリカ原料は、酸性条件で反応させる場合よりも塩基性条件で反応させる場合の方がケイ素原子の反応点が増加し、耐湿性や耐熱性等の物性に優れたケイ素酸化物を得ることができるため、塩基性条件下で混合することはこの点においても有利である。
【0052】
上記水系溶媒を塩基性にするためには、通常、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性物質を添加する。反応時の塩基性条件に関しては特に制限されないが、添加する塩基性物質のアルカリ当量を全シリカ原料中のケイ素原子モル数で除した値が0.1〜0.9となるようにすることが好ましく、0.2〜0.5となるようにすることがより好ましい。添加する塩基性物質のアルカリ当量を全シリカ原料中のケイ素原子モル数で除した値が0.1未満である場合は、収率が低下してしまう傾向があり、他方、0.9を超える場合は、多孔体の形成が困難となる傾向がある。
【0053】
以上説明したような第1の工程における反応条件(反応温度、反応時間等)は特に制限されず、反応温度としては、例えば−20℃〜100℃(好ましくは0℃〜80℃、より好ましくは10℃〜40℃)とすることができる。また、反応は攪拌状態で進行させることが好ましい。
【0054】
なお、このような第1の工程の具体例としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。すなわち、先ず、アルコールを含有する水系溶媒に対して、界面活性剤および塩基性物質を添加して界面活性剤の塩基性溶液を調製し、この溶液にシリカ原料を添加する。添加されたシリカ原料は溶液中で加水分解(または、加水分解および縮合)するために、添加後数秒〜数十分で白色粉末が析出する。この場合において、反応温度は0℃〜80℃とすることが好ましく、10℃〜40℃とすることがより好ましい。また、溶液は攪拌することが好ましい。
【0055】
沈殿物が析出した後、0℃〜80℃(好ましくは10℃〜40℃)で1時間〜10日、溶液をさらに攪拌してシリカ原料の反応を進行させる。攪拌終了後、必要に応じて室温で一晩放置して系を安定化させ、得られた沈殿物を必要に応じてろ過および洗浄することによって本発明にかかる多孔体前駆体粒子が得られる。
【0056】
次に、本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第1の製造方法においては、前記第1の工程で得られた多孔体前駆体粒子に含まれる界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る(第2の工程)。このように界面活性剤を除去する方法としては、例えば、有機溶媒で処理する方法、イオン交換法を挙げることができる。
【0057】
有機溶媒で処理する場合は、用いた界面活性剤に対する溶解度が高い良溶媒中に多孔体前駆体粒子を浸漬して界面活性剤を抽出する。イオン交換法においては多孔体前駆体粒子を酸性溶液(少量の塩酸を含むエタノール等)に浸漬し、例えば50〜70℃で加熱しながら攪拌を行う。これにより、多孔体前駆体粒子の孔中に存在する界面活性剤が水素イオンでイオン交換される。なお、イオン交換により孔中には水素イオンが残存することになるが、水素イオンのイオン半径は十分小さいため孔の閉塞の問題は生じない。
【0058】
(第2の製造方法)
次に、本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第2の製造方法(グラフト法)について説明する。本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第2の製造方法においては、先ず、シリカ原料として前記その他のアルコキシシランを用いた以外は前述した第1の製造方法と同様にして球状シリカ系メソ多孔体を得る(第1の工程、第2の工程)。
【0059】
なお、本発明の球状シリカ系メソ多孔体の第2の製造方法においては、界面活性剤を除去する方法として、前述した有機溶媒で処理する方法、イオン交換法の他に焼成による方法を用いることができる。このような焼成による方法においては、多孔体前駆体粒子を300〜1000℃、好ましくは400〜700℃で加熱する。加熱時間は30分程度でもよいが、完全に界面活性剤を除去するには1時間以上加熱することが好ましい。また、焼成は空気中で行うことが可能であるが、多量の燃焼ガスが発生するため、窒素等の不活性ガスを導入して行ってもよい。
【0060】
そして、前記球状シリカ系メソ多孔体に3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランをグラフト重合せしめる(第3の工程)。このようにグラフト重合せしめる方法としては、例えば、球状メソポーラスシリカと3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランと有機溶媒とを混合した後に加熱する方法が挙げられる。このような3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランの使用量は、前記球状メソポーラスシリカの表面シラノール基に対して0.01〜10等量であることが好ましい。有機アルコキシシランの使用量が前記下限未満では、3−アミノプロピル基が不十分な量であるため触媒活性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超えると、過剰量の有機アルコキシシランが結合し、細孔が閉塞されることとなる傾向にある。また、このような有機溶媒の使用量は、前記球状メソポーラスシリカ1重量部に対して1〜1000重量部であることが好ましい。さらに、加熱の条件としては、加熱温度が40〜150℃、加熱時間が0.5〜48時間であることが好ましい。
【0061】
以上説明したような本発明の製造方法により、平均粒径が0.01〜3μmである球状シリカ系メソ多孔体であって、中心細孔直径が1〜5nmと比較的大きい本発明の球状シリカ系メソ多孔体が効率良くかつ確実に得られる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例においては、有機官能基を導入するためのシリカ原料として以下の構造式のものを用いた。
【0063】
【化4】

【0064】
(実施例1)
先ず、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)3.52gを水/メタノール溶液(重量比1/1)800gに溶解させ、恒温水槽中で温度を25℃に保ちつつ攪拌した。次に、得られた混合溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液2.28mLを添加した。その後、シリカ原料としてあらかじめ乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)混合物(モル比9/1)8.68×10−3molを添加した。シリカ原料を添加後、数分で粒子の析出が見られ、溶液が白濁した。その後、得られた白濁溶液を約8時間攪拌し、一晩(14時間)静置して生成物を得た。そして、得られた生成物をろ過し、水に再分散させる操作を2回繰り返した後に45℃で一晩(14時間)乾燥させ、シリカ/界面活性剤複合体を得た。次いで、得られた複合体0.5gをエタノール50mLに分散させ、塩酸0.5mLを加えて温度60℃のオイルバス中で3時間攪拌することにより、界面活性剤を抽出した。その後、エタノールで十分に洗浄した後に45℃で24時間乾燥して球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0065】
得られた球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを図1に示す。図1に示されたX線回折パターンより、得られた球状シリカ系メソ多孔体は、41.1オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、しかも細孔のヘキサゴナル配列に対応する(100)、(110)、(200)のピークを有していることが確認できた。したがって、得られた球状シリカ系メソ多孔体においては、細孔の規則性が高いことが確認された。
【0066】
次に、得られた球状シリカ系メソ多孔体の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。得られたSEM写真を図2に示す。SEM写真において任意の粒子50個の直径を計測したところ、任意の粒子50個の粒径分布は0.54〜0.69μmであり、平均粒径は0.62μmであった。また、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の95重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体は単分散の状態であった。
【0067】
さらに、得られた球状シリカ系メソ多孔体の細孔内に部分的に金を導入した後、透過電子顕微鏡(TEM)による観察を行った。得られたTEM写真を図3に示す。図3にしめされたTEM写真より、得られた球状シリカ系メソ多孔体においては、ヘキサゴナル細孔が球の中心から外側に向かっており、放射状細孔が形成されていることが確認された。
【0068】
(実施例2)
シリカ原料としてあらかじめ乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)混合物(モル比4/1)8.68×10−3molを用いた以外は実施例1と同様にして、球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0069】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、36.9オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の任意の粒子50個の粒径分布は0.42〜0.63μmであり、平均粒径は0.55μmであった。さらに、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の92重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体は単分散の状態であった。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体においては、放射状細孔が形成されていることが確認された。
【0070】
(実施例3)
シリカ原料としてあらかじめ乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)混合物(モル比19/1)8.68×10−3molを用いた以外は実施例1と同様にして、球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0071】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、35.6オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の任意の粒子50個の粒径分布は0.50〜0.67μmであり、平均粒径は0.60μmであった。さらに、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の95重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体は単分散の状態であった。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体においては、放射状細孔が形成されていることが確認された。
【0072】
(実施例4)
シリカ原料としてあらかじめ乾燥窒素気流中で混合したテトラエトキシシラン(TEOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)混合物(モル比9/1)8.68×10−3molを用いた以外は実施例1と同様にして、球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0073】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、39.0オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の任意の粒子50個の粒径分布は0.82〜1.15μmであり、平均粒径は0.95μmであった。さらに、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の95重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体は単分散の状態であった。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体においては、放射状細孔が形成されていることが確認された。
【0074】
(実施例5)
界面活性剤としてオクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド3.36gを用いた以外は実施例1と同様にして、球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0075】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、38.2オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の任意の粒子50個の粒径分布は0.66〜0.88μmであり、平均粒径は0.74μmであった。さらに、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の96重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体は単分散の状態であった。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体においては、放射状細孔が形成されていることが確認された。
【0076】
(実施例6)
界面活性剤としてデシルトリメチルアンモニウムブロミド1.54gを用い、水/メタノール溶液の重量比を3/1として、恒温水槽中の反応温度を30℃とした以外は実施例3と同様にして、球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0077】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、29.1オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の任意の粒子50個の粒径分布は0.40〜0.58μmであり、平均粒径は0.49μmであった。さらに、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の94重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体は単分散の状態であった。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体においては、放射状細孔が形成されていることが確認された。
【0078】
(実施例7)
先ず、シリカ原料としてテトラメトキシシラン(TMOS)8.68×10−3molを用いた以外は実施例1と同様にして、合成シリカを得た。次に、得られた合成シリカ0.8gと脱水トルエン80gと3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)2.15gとを混合し、90℃で15時間還流した。得られた生成物をろ過し、45℃で一晩(14時間)乾燥して球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0079】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、32.6オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の任意の粒子50個の粒径分布は0.44〜0.56μmであり、平均粒径は0.51μmであった。さらに、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の99重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体は単分散の状態であった。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体においては、放射状細孔が形成されていることが確認された。
【0080】
(比較例1)
シリカ原料としてあらかじめ乾燥窒素気流中で混合したテトラエトキシシラン(TEOS)/N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AAPTMS)混合物(モル比9/1)8.68×10−3molを用いた以外は実施例1と同様にして、比較用の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0081】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、36.3オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の粒子形状は球状であり、平均粒径は0.51μmであった。しかしながら、任意の粒子50個の粒径分布は0.39〜0.62μmであり、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の85重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体の粒子は単分散状態ではなかった。
【0082】
(比較例2)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド0.35gと、水5gと、メタノール5gとの混合溶液を用いた以外は実施例3と同様にして、比較用のシリカ系メソ多孔体を得た。
【0083】
得られたシリカ系メソ多孔体は、35.5オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、シリカ系メソ多孔体の粒子形状はロッド状であった。
【0084】
(比較例3)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド5.49mmolと2M水酸化ナトリウム水溶液14mmolと水480gとを混合し、80℃で30分攪拌した。pHが12.3の溶液になったことを確認した後に、得られた混合溶液にテトラエトキシシラン(TEOS)44.8mmolと3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン(AEPTMS)5.75mmolとを順次添加し、80℃で2時間攪拌した。得られた生成物をろ過し、真空乾燥してシリカ/界面活性剤複合体を得た。得られた複合体1gをメタノール100mLに分散させ、塩酸1gを加えて温度60℃のオイルバス中で3時間攪拌することにより、界面活性剤を抽出した。その後、得られたシリカ多孔体をろ過し、真空乾燥して比較用の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0085】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、38.4オングストローム(Å)にd100値のピークを有していたが、TEM観察により細孔の方向は不規則であると推定された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の粒子形状は球状であり、平均粒径は1.4μmであった。しかしながら、任意の粒子50個の粒径分布は0.6〜2.1μmであり、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の50重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体の粒子は単分散の状態ではなかった。
【0086】
(比較例4)
メソポーラス構造を持たない球状シリカ(球状微粉体シーホースター、日本触媒社製、粒径500nm)1gと3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)0.2gと脱水トルエン20mLとを混合し、90℃で15時間還流した。得られた生成物をろ過し、45℃で一晩(14時間)乾燥して比較用の球状シリカを得た。
【0087】
得られた球状シリカにおいては、細孔が確認できなかった。また、得られた球状シリカの粒子形状は球状であり、任意の粒子50個の粒径分布は0.47〜0.61μmであり、平均粒径は0.55μmであった。さらに、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の98重量%であって、得られた球状シリカは単分散の状態であった。
【0088】
(比較例5)
FSM−16(文献(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,680,1993)に従って合成)0.8gと3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)2.67gと脱水トルエン80mLとを混合し、90℃で15時間還流した。得られた生成物をろ過し、45℃で一晩(14時間)乾燥して比較用のシリカ系メソ多孔体を得た。
【0089】
得られたシリカ系メソ多孔体は、37.4オングストローム(Å)にd100値のピークを有していたが、細孔が放射状でないことが確認された。また、得られたシリカ系メソ多孔体の粒子形状は不定形であった。
【0090】
(比較例6)
MCM−41(文献(J.Org.Chem.62,749,1997)に従って合成)3gと3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)3gと脱水トルエン50mLとを混合し、90℃で1.5時間還流した。そして、トルエンを留去した後、加熱した。得られた生成物をろ過し、120℃で一晩(14時間)乾燥して比較用のシリカ系メソ多孔体を得た。
【0091】
得られたシリカ系メソ多孔体は、37.9オングストローム(Å)にd100値のピークを有していたが、細孔が放射状でないことが確認された。また、得られたシリカ系メソ多孔体の粒子形状は不定形であった。
【0092】
(比較例7)
シリカ原料としてテトラメトキシシラン(TMOS)8.68×10−3molを用いた以外は実施例1と同様にして、比較用の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0093】
得られた球状シリカ系メソ多孔体は、33.1オングストローム(Å)にd100値のピークを有しており、細孔の規則性が高いことが確認された。また、得られた球状シリカ系メソ多孔体の粒子形状は球状であり、任意の粒子50個の粒径分布は0.47〜0.59μmであり、平均粒径は0.54μmであった。さらに、平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有する粒子の割合は全粒子の98重量%であって、得られた球状シリカ系メソ多孔体は単分散の状態であった。
【0094】
<合成物の物性>
実施例1〜6で得られた球状シリカ系メソ多孔体の物性は表1に示す通りであった。また、比較例1〜7で得られたシリカ系メソ多孔体(比較例4においては球状シリカ)の物性は表2に示す通りであった。なお、合成物の有機官能基導入量、比表面積、中心細孔直径及び細孔容量は以下の方法で評価した。
【0095】
(i)有機官能基導入量
先ず、熱分析装置(理学社製、THERMO PLUS TG8120)により、N気流中10℃/minの昇温速度で試料の熱重量分析を実施して、150℃から500℃に加熱した時の重量減少率を測定した。次に、比較例7で得られた合成シリカについて、上記と同様の熱重量分析を実施して、150℃から500℃に加熱した時の重量減少率を測定した。そして、これらの重量減少率の差から有機官能基導入量を算出した。
【0096】
(ii)細孔容量、比表面積及び中心細孔直径
先ず、試料を100℃で2時間真空脱気処理した。次に、真空脱気処理が施された試料のN吸着等温線を日本ベル製Belsorp−miniを用いて、液体N温度(77K)の条件で定容量法により測定した。得られたN吸着等温線から細孔容量を算出し、さらにBET等温吸着式を用いて比表面積を算出した。また、得られたN吸着等温線からBJH法により中心細孔直径を算出した。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
<塩基触媒性能評価>
実施例1〜6及び比較例1〜7で得られたシリカ系メソ多孔体(比較例4においては球状シリカ)を塩基触媒として、ニトロアルドール反応における生成物の収率及びターンオーバー数を測定することにより、得られた合成物の塩基触媒性能を評価した。すなわち、先ず、p−ヒドロキシベンズアルデヒド0.61g(5mmol)とニトロメタン10mlに塩基触媒50mgを加え、90℃で1時間反応させた。次に、得られた反応混合物からろ過により塩基触媒を除去し、塩基触媒をクロロホルムで洗浄した後に、ろ液を減圧濃縮した。次いで、得られた残渣にアセトン−dを加え、完全に溶解させ、内部標準にTHFを添加し、この溶液のH−NMR測定を行ってビニル基のプロトンの積分値から生成物量の定量を行った。そして、生成物量(mmol)を触媒の活性点(有機官能基導入量(mmol))で除すことによりターンオーバー数を算出した(反応1)。さらに、反応物として4−n−オクチロキシベンズアルデヒド1.17g(5mmol)を用いた以外は上記の方法と同様にして生成物量の定量及びターンオーバー数の算出を行った(反応2)。なお、比較例3で得られたシリカ系メソ多孔体を塩基触媒とした場合については、反応時間を20時間とした。また、比較例6で得られたシリカ系メソ多孔体を塩基触媒とした場合については、反応物の量を2.5mmolとした。得られた結果を表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
表3に示した結果から明らかなように、本発明の球状シリカ系メソ多孔体を塩基触媒として用いた場合(実施例1〜6)は、生成物の収率及びターンオーバー数が高かった。また、特に共重合法で合成した本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例1〜5)は高い触媒性能を示し、反応1に比べて反応2はかさ高い分子の反応であるものの、ターンオーバー数の変化はほとんどなく、優れた触媒であることが明らかになった。
【0102】
一方、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基を導入した比較例1で得られた球状シリカ系メソ多孔体はある程度の触媒性能を示すものの、官能基がかさ高いこともあり、本発明の球状シリカ系メソ多孔体に比べるとターンオーバー数も低かった。また細孔も小さいため、よりかさ高い分子の反応である反応2では著しく触媒性能が低下した。また、粒子形状がロッド状である比較例2で得られたシリカ系メソ多孔体は、3−アミノプロピル基の導入量が等しい実施例3で得られた球状シリカ系メソ多孔体に比べてターンオーバー数が低かった。さらに、球状粒子であるものの大きさが不均一で細孔の方向も不均一である比較例3で得られた球状シリカ系メソ多孔体は反応時間が20時間であるにもかかわらず、低いターンオーバー数であった。また、球状であるものの細孔を有しない比較例4で得られた球状シリカはある程度の触媒性能を示すものの、本発明の球状シリカ系メソ多孔体に比べると触媒性能が低く、触媒反応は細孔内で効率良く起こっていることが示唆された。
【0103】
さらに、他の不定形である代表的なメソポーラスシリカであるFSMやMCMに3−アミノプロピル基をグラフトしたもの(比較例5,6)もある程度の触媒性能を示すものの、同じ3−アミノプロピル基をグラフトした実施例6で得られた本発明の球状シリカ系メソ多孔体に比べるとターンオーバー数は低かった。
【0104】
したがって、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、優れた塩基触媒性能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
以上説明したように、本発明によれば、優れた塩基触媒性能を有する球状シリカ系メソ多孔体を提供することが可能となる。したがって、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、塩基触媒、吸着材料等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施例1で得られた球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた球状シリカ系メソ多孔体のSEM写真である。
【図3】実施例1で得られた球状シリカ系メソ多孔体の細孔内の一部に金を導入したもののTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.01〜3μmであり、且つ、中心細孔直径が1〜5nmの放射状細孔を有する球状シリカ系メソ多孔体であって、前記球状シリカ系メソ多孔体が3−アミノプロピル基で修飾されていることを特徴とする球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項2】
前記3−アミノプロピル基が、前記球状シリカ系メソ多孔体を構成するシリケート骨格中のSi原子に配位されていることを特徴とする請求項1に記載の球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項3】
前記球状シリカ系メソ多孔体の全粒子の90重量%以上が、前記平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項4】
溶媒中でシリカ原料と界面活性剤とを混合し、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る第1の工程と、
前記多孔体前駆体粒子に含まれる前記界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る第2の工程と、
を含む球状シリカ系メソ多孔体の製造方法であって、
前記シリカ原料の少なくとも一部が3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランであり、且つ前記界面活性剤として下記一般式(1):
【化1】

[式中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは9〜25の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドを用い、前記溶媒としてアルコール含有量が80容量%以下である水系溶媒を用い、前記溶媒中における前記界面活性剤の濃度を0.0003〜0.03mol/L、前記シリカ原料の濃度をSi濃度換算で0.0005〜0.03mol/Lとすることによって、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の球状シリカ系メソ多孔体を得ることを特徴とする球状シリカメソ多孔体の製造方法。
【請求項5】
溶媒中でシリカ原料と界面活性剤とを混合し、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る第1の工程と、
前記多孔体前駆体粒子に含まれる前記界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る第2の工程と、
前記球状シリカ系メソ多孔体に3−アミノプロピル基を含有する有機アルコキシシランをグラフト重合せしめる第3の工程と、
を含む球状シリカ系メソ多孔体の製造方法であって、前記界面活性剤として下記一般式(1):
【化2】

[式中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは9〜25の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドを用い、前記溶媒としてアルコール含有量が80容量%以下である水系溶媒を用い、前記溶媒中における前記界面活性剤の濃度を0.0003〜0.03mol/L、前記シリカ原料の濃度をSi濃度換算で0.0005〜0.03mol/Lとすることによって、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の球状シリカ系メソ多孔体を得ることを特徴とする球状シリカメソ多孔体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の球状シリカ系メソ多孔体からなることを特徴とする塩基触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−197289(P2007−197289A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20581(P2006−20581)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】