説明

球状炭素材含有樹脂材及びその製造方法

【課題】少ない炭素材添加量で導電性が良好な樹脂材を得る。
【解決手段】炭素材がベース樹脂に混合されてなる炭素材含有樹脂材において、その炭素材として、平均粒子径が1μm以下の球状粒子よりなる球状炭素材を採用し、上記ベース樹脂に対する上記炭素材の含有率を20質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球状炭素材含有樹脂材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のバンパやフェンダ等の外装部材をはじめとして、自動車の内装部材や電装部品、その他の電気・電子部品、OA部品など、表面に電着塗装がなされる樹脂材(樹脂成形品)は導電性を有することが要求される。そのため、それら樹脂材には導電性付与材が混入されている。例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂組成物に関し、導電性付与材としてカーボンブラック(ケッチェンブラック)を1〜15重量%添加することにより、体積抵抗率を1×1010Ω・cm未満とし、表面抵抗率を1×1012Ω・cm未満とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−70457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の如く、樹脂材にカーボンブラック等の炭素材を添加すると、導電性を得ることができるが、その添加量が多くなると、導電性は高まるものの、耐衝撃性等の機械的性質は低下する。
【0005】
そこで、本発明は、少ない炭素材添加量でも期する導電性が得られる樹脂材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、導電性付与材として平均粒子径が1μm以下の球状粒子よりなる炭素材を用いた。
【0007】
具体的には、ここに提示する球状炭素材含有樹脂材は、炭素材がベース樹脂に混合されてなり、その炭素材は、平均粒子径が1μm以下の球状粒子よりなり、ベース樹脂に対する当該炭素材の含有率が20質量%以下(ベース樹脂100質量部に対する炭素材量が20質量部以下)であり、体積抵抗率が2.6MΩ・cm以下であることを特徴とする。
【0008】
すなわち、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ナイロン等のPA(ポリアミド)、エポキシ樹脂などの樹脂材は、図1に模式的に示すように、無数の糸状高分子1が絡み合った構造を有する。このため、従前のカーボンブラック2を導電性付与材として樹脂材に添加しても、その粒子径が大きく(例えば、5000nm以上)且つ不定形であることから、その分散性が低く、期する導電性を得るには、添加量を多くする必要がある。
【0009】
これに対して、本発明の場合、炭素材は平均粒子径が1μm以下の球状粒子よりなるから、図2に模式的に示すように、絡み合った糸状高分子1の隙間にも当該微小球状炭素粒子3が入り、その分散性が高くなる。その結果、当該炭素材の含有率が20質量%以下であっても、さらには10質量%以下であっても、樹脂材全体にわたって確実な電子移動パスが構築され、良好な導電性が得られる。炭素材の含有率は、2質量%以上とすることが好ましい。上記炭素材の平均粒子径は500nm以下であることが好ましい。
【0010】
なお、上記「平均粒子径」は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察で100個の粒子を選び、それらの直径を測定して平均値を算出した個数平均粒子径である。この点は以下に記述する平均粒子径も同じである。
【0011】
このような球状炭素材含有樹脂材は次に述べる方法によって得ることができる。それは、平均粒子径が1μm以下の球状粒子よりなる炭素材を準備する工程と、この炭素材をベース樹脂に対して20質量%以下の割合で混入してなる成形用材料を得る工程と、この成形用材料から樹脂材を成形する工程とを備えていることを特徴とする樹脂材の製造方法である。
【0012】
上記成形用材料を得る工程では、上記炭素材を上記ベース樹脂に対して分散剤の存在下で混入することが、炭素材の分散性を高める上で好ましい。特に、上記炭素材の含有率を10質量%以下とするときは、分散剤を添加することが好ましく、その場合、ベース樹脂に対する分散剤の添加率は、例えば0.5質量%以上3質量%以下、或いは上記炭素材含有率の1/10以上1/4以下(質量比)とすればよい。そのような分散剤としては、疎水基と親水基をそれぞれ一つ以上含む化合物よりなる非イオン性分散剤が好ましい。この場合、疎水基は、炭化水素(フッ素及び/又はケイ素を含んでもよい)、或いは長鎖のポリプロピレンオキシド鎖とすることができる。親水基としては、水酸基、エステル基、リン酸エステル基、エーテル基、エーテルエステル基、アミド基、アミノ基、アミンオキサイド基、イミド基、スルホキシド基などの極性基を有するものとすることができる。非イオン性分散剤の性状は、粉末、ペースト、オイル状などであり特に限定されない。
【0013】
このような非イオン性分散剤としては、例えば、1)イミド型非イオン性分散剤、2)ポリアルキレングリコール型非イオン性分散剤、3)多価アルコール型非イオン性分散剤がある。
【0014】
1)イミド型非イオン性分散剤としては、ポリビニルピロリドン、ラウリン酸ジエタノールアミド、モノ(ジエチルアミノ)アルキルエーテルなどが挙げられる。
【0015】
2)ポリエチレングリコール鎖またはポリプロピレングリコール鎖を有する非イオン性分散剤としては、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノグリセリンエステル、ポリオキシエチレンヘキサグリセリンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンロジンエステルが挙げられる。
【0016】
3)多価アルコール型非イオン性分散剤としては、ステアリン酸モノグリセライド、オレインサン酸ジグリセライド、パルミチン酸ジグリセライド、ソルビタンモノラウリレート、ソルビタンモノパルミテート、モノ・ジステアリン酸ジグリセリン、トリミリスチン酸ペンタグリセリン、縮合リシノレイン酸テトラグリセリン、縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリン、縮合リシノレイン酸ペンタグリセリンが挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ベース樹脂と混合されている炭素材が、平均粒子径1μm以下の球状粒子よりなるから、当該樹脂材における炭素材の含有率が20質量%以下であっても、樹脂材全体にわたって確実な電子移動パスが構築され、樹脂材の機械的性質を損なうことなく、良好な導電性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従前の樹脂材における炭素材の分散状態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る樹脂材における炭素材の分散状態を示す模式図である。
【図3】本発明に係る球状フェノール樹脂の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明に係る球状炭素材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】酸触媒のモル比と、球状フェノール樹脂及び球状炭素材各々の平均粒子径との関係を示すグラフ図である。
【図6】実施例2に係る樹脂材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】分散剤を添加しなかった樹脂材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例及び比較例の炭素材含有率と抵抗値との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
<球状炭素材含有樹脂材の製法>
−球状フェノール樹脂の調製−
界面活性剤としてのCTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)と、硬化剤としてのヘキサメチレンテトラミンとを水中で混合し、これに、フェノール、ホルムアルデヒド及び酸触媒としての塩酸を加えて混合した。この混合溶液を95℃の温度になるように加熱しながら24時間攪拌した(重合反応)。その後、反応溶液を遠心分離し、得られた生成物を水及びメタノールで洗浄することにより、球状炭素粒子の前駆体である球状フェノール樹脂を得た。この球状フェノール樹脂をアルゴンガス雰囲気下で加熱して270℃の温度に2時間保持することによって硬化させた。
【0021】
界面活性剤としては、CTABに限らず、他の陽イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤を用いることができる。酸触媒としては、他のハロゲン化水素、硝酸、或いは硫酸を用いることもできる。フェノール類に対する酸触媒の添加割合はモル比で0.01以上0.15以下とすることが好ましい。
【0022】
この場合、水相において界面活性剤のミセルが形成され、そのミセル内にフェノールが導入され、酸触媒の存在下、縮合重合反応が進行する。このミセル内での重合反応の進行により、球状フェノール樹脂粒子が得られる。また、酸触媒によって、界面活性剤の分散が図れ、その結果、ミセルサイズが小さくなるため、得られる球状フェノール樹脂粒子の粒子径が小さくなる。
【0023】
すなわち、酸触媒の添加量の調整により、平均粒子径が300nm以上1000nm以下である球状フェノール樹脂粒子を得ることができる。表1は酸触媒(塩酸)の添加量が、得られる球状フェノール樹脂の粒子径に与える影響を示す。原料添加割合は表1に示すとおりである。塩酸の添加量が多くなるほど、得られる球状フェノール樹脂の粒子径が小さくなっている。
【0024】
【表1】

【0025】
図3は表1のサンプル2に係る球状フェノール樹脂のSEM像である。上記調製法で得られる球状フェノール樹脂粒子は高い真球度を有することがわかる。その平均粒子径は0.82μmであった。
【0026】
−微小球状炭素材(球状炭素粒子)の調製−
上述の硬化させた球状フェノール樹脂をアルゴンガス雰囲気下で加熱して800℃の温度に1時間保持した。これは球状フェノール樹脂の炭素化処理である。次いで当該炭素化物を飽和水蒸気を含む窒素ガス雰囲気下で加熱して900℃の温度に55分間保持した。これは水蒸気賦活処理である。
【0027】
図4は上記サンプル2の球状フェノール樹脂に上記炭素化処理及び水蒸気賦活処理を施して得た微小球状炭素材のSEM像である。球状フェノール樹脂粒子の炭素化及び水蒸気賦活後も、その粒子の球形は保持されている。すなわち、個々の炭素粒子は、互いに分離独立した球状になっている。炭素化・水蒸気賦活後の平均粒子径は0.33μm(330nm)である。球状フェノール樹脂粒子は、炭素化・水蒸気賦活によってその粒子径が小さな球状炭素粒子になることがわかる。
【0028】
図5はサンプル1〜5の球状フェノール樹脂粒子及びそれらを炭素化・水蒸気賦活してなる球状炭素粒子の平均粒子径を示す。平均粒子径320nm〜930nmの球状フェノール樹脂粒子から平均粒子径100nm〜400nmの球状炭素粒子が得られている。
【0029】
−樹脂材成形用材料の調製−
上記微小球状炭素材をベース樹脂に混合する。ベース樹脂として、PP、PA等の熱可塑性樹脂を採用する場合、樹脂混練押出機を用いることができる。すなわち、この押出機に、ベース樹脂のペレット及び微小球状炭素材を投入し、必要に応じて分散剤を投入し、ベース樹脂を溶融させて微小球状炭素材とを混合する。そのような押出機としては、同方向回転2軸押出機(例えば、プラスチック工学研究所製BT-30-S2-36-L)を好適に使用することができる。この場合、ベース樹脂が溶融して粘性を有する温度域になるように、バレル温度を190〜280℃とする。スクリュー回転数は150rpm程度にすればよい。
【0030】
ベース樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を採用する場合、未硬化の粘性を有する液状ないしは半液状の当該樹脂に炭素材を混合することによって樹脂材成形用材料を得る。そのとき、必要に応じて、分散剤を使用する。
【0031】
−樹脂材の成形−
上記樹脂材成形用材料によって所定形状の樹脂材(成形品)を得る。その成形には、圧縮成形、射出成形、押出成形など製品に応じた適宜の成形法を採用することができる。
【0032】
<実施例及び比較例>
−実施例1〜3−
ベース樹脂をエポキシ樹脂とする球状炭素材含有樹脂材を製造した。すなわち、硬化剤を添加する前の未硬化の液状エポキシ樹脂(プレポリマー)と導電性付与材としての上述の微小球状炭素材(平均粒子径330nm)とを、真空混合機を用いて分散剤の存在下で混合した。真空混合機の回転数は2000rpm、混合時間は10分である。分散剤としては、東京化成製ポリビニルピロリドン(平均分子量10000)を用いた。そうして、この球状炭素材を分散させた液状エポキシ樹脂と硬化剤(長瀬産業社製変性脂肪族アミン(商品名;HARDENER HY 956))とを混合し、得られた成形用材料を鋳型に流し込み、一晩放置して実施例に係る円柱状サンプル(半径5mm,長さ(厚さ)3mm)を得た。
【0033】
実施例1は微小球状炭素材含有率が5質量%、分散剤添加率が1質量%であり、実施例2は微小球状炭素材含有率が10質量%、分散剤添加率が1質量%であり、実施例3は微小球状炭素材含有率が20質量%、分散剤添加率が0質量%である。
【0034】
図6は実施例2に係る樹脂材のSEM像である。図7は実施例2において分散剤を添加しなかった樹脂材のSEM像である。実施例2の場合、微小球状炭素粒子3が高分散になっていて、ベース樹脂(エポキシ樹脂)は露出していないが、分散剤を添加しなかったケース(図7)では、微小球状炭素粒子3が凝集し、ベース樹脂4が一部露出している。
【0035】
−比較例1〜3−
上記実施例と同じ方法にて、導電性付与材及び分散剤を含有しない比較例1、導電性付与材としてケッチェンブラックを用いた比較例2及び比較例3の各サンプルを作成した。比較例2はケッチェンブラック含有率が10質量%、分散剤添加率が1質量%、比較例3はケッチェンブラック含有率が20質量%、分散剤添加率が0質量%である。分散剤としては実施例と同じものを採用した。
【0036】
−体積抵抗率の測定−
実施例及び比較例の各サンプルの両面に銀ペーストを塗布し、高電圧テスターにて抵抗値を測定し、体積抵抗率を求めた。結果を表2及び図8に示す。実施例1〜3は体積抵抗率が2.6MΩ・cm以下(2.0MΩ・cm以下)であり、炭素材含有率が20質量%以下であるにも拘わらず、微小球状炭素材によって樹脂材全体にわたって確実な電子移動パスが構築され、良好な導電性が得られていることがわかる。
【0037】
【表2】

【符号の説明】
【0038】
1 高分子
2 カーボンブラック
3 微小球状炭素粒子
4 ベース樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材がベース樹脂に混合されてなる樹脂材であって、
上記炭素材は、平均粒子径が1μm以下の球状粒子よりなり、
上記ベース樹脂に対する上記炭素材の含有率が20質量%以下であり、
体積抵抗率が2.6MΩ・cm以下であることを特徴とする球状炭素材含有樹脂材。
【請求項2】
請求項1において、
上記含有率が10質量%以下であることを特徴とする球状炭素材含有樹脂材。
【請求項3】
平均粒子径が1μm以下の球状粒子よりなる炭素材を準備する工程と、
上記炭素材をベース樹脂に対して20質量%以下の割合で混入してなる成形用材料を得る工程と、
上記成形用材料から樹脂材を成形する工程とを備えていることを特徴とする樹脂材の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
上記成形用材料を得る工程では、上記炭素材を上記ベース樹脂に対して分散剤の存在下で混入することを特徴とする樹脂材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−236902(P2012−236902A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106509(P2011−106509)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】