説明

理化学実験用金網及びセラミックスペースト

【課題】ヒトの健康等の環境問題に対応し、かつ、耐熱性、熱緩衝性、及び屈曲性等において優れた作用効果を発揮し得る理化学実験用金網を提供する。
【解決手段】金網1の一部又は略全面にセラミックス層2を形成してなる理化学実験用金網であって、セラミックス層2は、繊維質(ファイバー類)を一切含まない親水性無機化合物と疎水性無機化合物を所定の割合で混合してなる耐熱性及び屈曲性を有するセラミックス混合物で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の理化学実験の加熱処理に使用される理化学実験用金網に関する。さらに詳しくは、ブンゼンバーナー等の加熱源よりの直火を緩衝してビーカーやフラスコ等に伝達する熱緩衝用のセラミックス層を備えた理化学実験用金網、及び前記セラミックス層を形成するセラミックスペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、理化学実験用金網として、金網にアスベスト(石綿繊維)よりなる熱緩衝材を被覆した金網が一般に広く使用されてきた。アスベストは若干のバインダーと水とを加えることにより、金網に塗布し易いペーストとなり、このペーストを塗布し、乾燥して得られた金網は、耐熱性、熱緩衝性、及び屈曲性等の優れた特性を有している。
【0003】
しかし、反面において、アスベストは健康上、特に肺に悪影響があるとして大きな問題とされ、その使用が規制されている。
そのため、その代替品として、金網にセラミックス等の耐熱材を塗布した金網が使用されている。しかるに、セラミックスを塗布した金網についても、一部でアスベスト含有品が流通していることが判明し、新聞等で大きく報道され問題になっている。
【0004】
また、他の代替品として、アスベストを含有しないセラミックスを塗布した金網も提案されている(例えば、特許文献1等参照)。これらのセラミックス塗布金網のペーストには、屈曲性を持たせるためにシリカ・アルミナ等の繊維質成分が使用されている。
【0005】
上述した特許文献1等に記載のセラミックス塗布金網(以下、「先行例の金網」という)によれば、耐熱性、熱緩衝性、及び屈曲性等において優れた効果を発揮する理化学実験用金網が得られる。これらの先行例1の金網は一般に市販されている。
ところで、シリカ・アルミナ等の繊維は現在のところ健康上の問題は有していないとされているが、欧米では、アスベスト以外の繊維でも、肺に吸入したとき必ずしも安全ではないという議論がされるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平1−94811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、上述したアスベストの問題を解消し、かつ、先行例の金網と同等ないし、それ以上の性能を発揮する理化学実験用金網を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者は研究、実験を繰返して行なった結果、本発明に到達したので、ここに提案する。
【0009】
即ち、本発明のうち、1つの発明(第1の発明)は、金網の一部又は略全面にセラミックス層を形成してなる理化学実験用金網であって、
前記セラミックス層は、繊維質を一切含まず、耐熱性及び屈曲性を有するセラミックス混合物で構成されていることを特徴とする。
本発明の他の1つの発明(第2の発明)は、金網の一部又は略全面にセラミックス層を形成してなる理化学実験用金網であって、
前記セラミックス層は、繊維質を一切含まない親水性無機化合物と疎水性無機化合物を所定の割合で混合してなる耐熱性及び屈曲性を有するセラミックス混合物で構成されていることを特徴とする。
本発明の他の1つの発明(第3の発明)は、理化学実験用金網の一部又は略全面にセラミックス層を形成するセラミックスペーストであって、
前記セラミックスペーストは、第1又は第2の発明に記載のセラミックス混合物で構成されていることを特徴とする。
【0010】
なお、本発明においては、前記セラミックス層を構成する組成物として、繊維質を一切含まない耐熱性無機化合物と遠赤外線放射性無機化合物を所定の割合で混合してなる耐熱性及び屈曲性を有するセラミックス混合物で組成する構成(第4の発明)を採用することもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば次のような作用効果を奏する。
(1)本発明の理化学実験用金網に形成したセラミックス層、及び前記セラミックス層を形成するセラミックスペーストは、繊維質(ファイバー類)を含有してなく、人体に有害となる可能性のある形状物質を含んでいないので、ヒトの健康等の環境問題に対応している。
(2)先行例の金網と同様の熱緩衝性の効果を奏する。
(3)屈曲性、長期耐熱性があるので、先行例の金網と同様に性能を維持して長期繰返して使用することができる。
(4)第4の発明によれば、前記効果に加え、耐熱性成分と遠赤外線放射性成分の混合割合を変えることによって加熱時間を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の理化学実験用金網の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1の前記金網を拡大し、その構成を概略的に示す縦断説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態の理化学実験用金網の構成を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の理化学実験用金網の実施形態の一例について説明する。
【0014】
図1及び図2は本発明の一実施形態(実施形態1)を示す。実施形態1は、金網1の一部にセラミックス層2を形成してなるものである。セラミックス層2は、繊維質を一切含まず、耐熱性及び屈曲性を有するセラミックス混合物で構成されている。
【0015】
本発明は上述した目的を達成するため、セラミックス層2を構成する成分として、繊維質(ファイバー類)を一切使用せず、次の要素を考慮して組成を構築した。
【0016】
(要素1)構成成分の親水性(水溶性)及び疎水性(難溶性)バランス
ペースト(セラミックスペースト)の均一塗布と塗り易さ、乾燥後の金網への固着及び屈曲性を確保するためには、構成成分の親水性と疎水性のバランスが重要である。そのためには化合物(無機化合物)の適切な組み合わせを選択することが必要である。具体的には、親水性/疎水性比、即ち、親水性成分(物質)と疎水性成分(物質)の混合割合を、前記両者の全量を100重量%とし、前者30〜90重量%、後者70〜10重量%、望ましくは前者50〜70重量%、後者50〜30重量%とする。但し、上記範囲内に限定するものではない。
【0017】
親水性物質(無機化合物)として、例えば、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シリカゲル、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、しっくい、ミョウバン、石膏、雲母類(親水性雲母類)などがある。
また、疎水性物質(無機化合物)としては、例えば、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、タルク、カリ長石、斜長石、正長石、雲母類(疎水性)、粘土、珪藻土、ベントナイト、モンモリロナイト、ホワイトカーボンなどがある。
【0018】
上記例示した親水性物質及び疎水性物質の各群の中からそれぞれ1種又は複数種選択して組み合わせて配合し、上述した混合割合のセラミックス混合物を調製する。なお、上述した親水性及び疎水性物質は一例として挙げたもので、上記例示した物質に限定するものではない。
【0019】
(要素2)熱伝導度の調節
ビーカーやフラスコを急加熱すると内容物が突沸するので好ましくない。また、金網のみでは、ブンゼンバーナー等の直火による金網の熱劣化が激しく長持ちしない。
そのため、熱緩衝材で直火を遮り、徐々に加熱するのが好ましい。このためには、基本的には耐火性成分(無機化合物)と、遠赤外線を放射して間接加熱する成分(無機化合物)を適度の割合で配合して熱伝導を調節するのがよい。これによって、内容物の適度な温度上昇が確保できる。
【0020】
耐火性成分としては、例えば酸化アルミニウムなどがあり、また、遠赤外線を放射する成分(遠赤外線放射性成分)として雲母類(親水性及び疎水性)、粘土、ホワイトカーボンなどがある。
耐火性成分と遠赤外線放射成分の混合割合として、前者20〜80重量%、後者80〜20重量%、望ましくは前者30〜60重量%、後者70〜40重量%が好ましい(前記両者の全量を100重量%とする)。但し、上記範囲内に限定するものではない。
【0021】
上記例示した耐火性成分及び遠赤外線放射成分の中から、それぞれ1種又は複数種選択して配合し、上述した混合割合のセラミックス混合物を調製する。なお、このセラミックス混合物を調製する場合、親水性成分と疎水性成分の上述した混合割合にも適合するように組み合わせて配合し、調製することが好ましい。また、上述した耐火性及び遠赤外線放射性成分は一例として挙げたもので、上記例示した物質に限定するものではない。
【0022】
前記金網1の材質としては、例えば、亜鉛メッキ鉄線やステンレス線等を採用できるが、コスト面からみて、一般的には亜鉛メッキ鉄線を用いる。
また、金網1の網目3のメッシュ及び素線4の線径は、特に限定するものではないが、例えば、10〜30メッシュ、線径0.20〜0.38mm、好ましくは12〜25メッシュ、線径0.25〜0.35mm程度のものが適している。
【0023】
金網1にセラミックス層2を形成する方法としては、例えば上記例示した無機化合物から選択した化合物をよく混合した後、これに水を撹拌しながら徐々に添加し、その後さらに混練を続けてペースト(セラミックスペースト)を作る。このペーストを金網1の一部又は略全面(実施形態1では金網1の一部)にヘラ等で塗布した後、乾燥(自然乾燥や加熱乾燥等)することにより、金網1にセラミックス層2が形成される。
【0024】
図3は本発明の他の実施形態(実施形態2)を示す。実施形態2の理化学実験用金網は、金網1の略全面に前記と同様にセラミックスペーストを塗布して乾燥し、セラミックス層2を形成したものである。実施形態2は上記のように金網1の略全面にセラミックス層2を形成したもので、他の構成等は実施の形態1と同様である。
【0025】
(実施例)
次に本発明を実施例により、その具体的な製造方法の一例も含めてさらに詳細に説明する。なお、その製造品の試験結果等についても合わせて説明する。
【0026】
(実施例1)
(1)セラミックスペーストの製造
親水性雲母12g、酸化アルミニウム4g、珪藻土2gをよく混合した後、ここへ水22gを撹拌しながら徐々に添加して、その後さらに混練を続けてペースト(セラミックスペースト)を得た。このペースト(セラミックス混合物)の親水性/疎水性割合は66.7重量%、即ち、前者66.7重量%、後者33.3重量%(いずれも小数点以下四捨五入)である。
(2)金網の製造
亜鉛メッキ鉄線製の金網(20メッシュ、線径0.30mm)を縦150mm×横150mmの正方形に切り、その各縁部を5mmづつ内側に折り曲げて縦140mm×横140mmの正方形の金網を得た。
(3)ペーストの塗布、乾燥
上記(2)で得られた金網の中央部の直径略80mmの円形の部分の上下両面に上記(1)で得られたペーストをヘラを使用して合計7g塗布し、24時間室温にて放置乾燥してセラミックス層付の理化学実験用金網を得た。この実施例において、前記ペーストの金網への塗布性は容易かつ良好で均一に塗布できた。
【0027】
(性能評価)
実施例1で得られた前記金網Aと先行例の金網Bにつき、次の評価を比較して行った。なお、先行例の金網Bは、特許文献1に記載の金網ではなく、市販のセラミックス熱緩衝材付き金網を採用した。
(ア)屈曲性試験
A及びBの各試験サンプルについて、金網の両端を両手で持って、角度90°で繰返して折返し3回屈曲して元に戻しても劣化は認められなかった。A、B両サンプルとも同等の性能であった。
(イ)耐熱性試験
ブンゼンバーナーの直火で連続100時間セラミックス層部分を加熱したが、A、Bとも性能の劣化は認められなかった。
(ウ)加熱試験
100mlビーカーに25℃の水を50g入れ、沸騰するまでに要した時間を比較した。
その結果、A=6分10秒、B=6分50秒となり、大きな差は認められなかった。なお、金網のみで加熱した場合には、3分20秒で沸騰し、金網は灼熱し、激しい劣化がみられた。
【0028】
(実施例1の効果)
実施例1の理化学実験用金網によれば、次のような作用効果を奏する。
(1)実施例1の理化学実験用金網に形成したセラミックス層及び前記セラミックス層を形成するセラミックスペーストは、繊維質(ファイバー類)を一切含有してなく、人体に有害となる可能性のある形状物質を含んでいないので、ヒトの健康等の環境問題に対応している。
(2)先行例の金網と同様の熱緩衝性の効果を発揮する。
(3)屈曲性、長期耐熱性があるので、先行例の金網と同様に長期間に亘り、機能を低下することなく安定して維持し、繰返して使用することができる。
(4)耐火性成分及び遠赤外線放射性成分の混合割合を変えることにより、加熱時間を調節することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 金網
2 セラミックス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金網の一部又は略全面にセラミックス層を形成してなる理化学実験用金網であって、
前記セラミックス層は、繊維質を一切含まず、耐熱性及び屈曲性を有するセラミックス混合物で構成されていることを特徴とする理化学実験用金網。
【請求項2】
金網の一部又は略全面にセラミックス層を形成してなる理化学実験用金網であって、
前記セラミックス層は、繊維質を一切含まない親水性無機化合物と疎水性無機化合物を所定の割合で混合してなる耐熱性及び屈曲性を有するセラミックス混合物で構成されていることを特徴とする理化学実験用金網。
【請求項3】
理化学実験用金網の一部又は略全面にセラミックス層を形成するセラミックスペーストであって、
前記セラミックスペーストは、請求項1又は2に記載の前記セラミックス混合物で構成されていることを特徴とするセラミックスペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219353(P2012−219353A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88232(P2011−88232)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(511092114)
【Fターム(参考)】