説明

環形蛍光ランプおよび照明装置

【課題】高い効率および光束維持率を有するとともに、蛍光体粒子の剥がれが低減された環形蛍光ランプおよびこの環形蛍光ランプを用いた照明装置を提供する。
【解決手段】内部に放電媒体が封入され、環状に形成されたガラスバルブ(2)と;このガラスバルブの内面に形成された蛍光体層(4)と;前記ガラスバルブに配設された一対の電極手段(5,5’)とを具備する。蛍光体層は、平均粒径3.4〜6.0μmの蛍光体粒子および前記蛍光体粒子の重量の1.1〜2.5%の結着剤粒子から形成され、前記結着剤粒子は一次粒径5〜15nmのアルミナ粒子を含み、このアルミナ粒子の重量は前記蛍光体粒子の重量の0.1〜1.0%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環形蛍光ランプおよびこの環形蛍光ランプを用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率、高光束維持率の蛍光ランプの開発が進んでいる。蛍光ランプの効率、光束維持率を決定する一つの要因となるのは、蛍光体粒子とともに蛍光体層を構成する結着剤である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
環形蛍光ランプにおいては、曲げ加工時に蛍光体が剥離するのを防ぐために、ボレート系の結着剤が一般的に用いられている。このボレート系の結着剤は、蛍光体層を塗布したガラスバルブの焼成加工時に溶融し、それによって蛍光体層がガラス内面に強固に結びつけられる。こうして得られる蛍光ランプにおいては、蛍光体の膜強度が強く、剥がれなどの外観不良を防止できる点では有利である。しかしながら、ボレートは種々の不都合を引き起こすおそれがある。例えば、ガラス中のナトリウム成分が蛍光体層に移動する通路となり、溶けて蛍光体表面を覆った際には、水銀やその化合物と吸着しやすくなる。その結果、初光束および光束維持率を低下させる原因となっている。
【0004】
ボレート系結着剤の添加量を減少させれば、ボレートに起因した問題は低減できるものの、この場合には、蛍光体の膜強度が低下する。製造工程や輸送時には、ランプ内に封入された水銀封入用のペレットが発光管内を移動することによって、蛍光体の剥がれが発生してしまう。
【0005】
なお、蛍光ランプの全光束の向上を図るための手段として、結晶性の良好な蛍光体粒子を用いることが挙げられる。結晶成長にともなって、蛍光体粒子の粒径は増大するので、表面積が減少する。粒径の小さな蛍光体粒子の場合と同等の全光束を確保するためには、大粒径の蛍光体粒子は付着量を増やさなければならない。しかしながら、付着量を増やすと蛍光体膜強度が低下して、剥がれなどが多発してしまう。環形蛍光ランプの場合、これは特に顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3438717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、環形蛍光ランプにおいては、蛍光体層の膜強度を確保しつつ、効率および光束維持率を高めることは困難であり、初光束および光束維持率を高いレベルで両立することも達成されていない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い効率および光束維持率を有するとともに、蛍光体粒子の剥がれが低減された環形蛍光ランプおよびこの環形蛍光ランプを用いた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の環形蛍光ランプは、内部に放電媒体が封入され、環状に形成されたガラスバルブと;このガラスバルブの内面に、平均粒径3.4〜6.0μmの蛍光体粒子および前記蛍光体粒子の重量の1.1〜2.5%の結着剤粒子から形成され、前記結着剤粒子は一次粒径5〜15nmのアルミナ粒子を含み、このアルミナ粒子の重量は前記蛍光体粒子の重量の0.1〜1.0%である蛍光体層と;前記ガラスバルブに配設された一対の電極手段と;を具備することを特徴とする。
【0010】
一対の電極手段は、フィラメントコイルを用いた熱陰極形の電極であってもよいし、冷陰極形の電極であってもよい。要するにガラスバルブ内に放電を生起させるものであればよいので、例えば外部電極であっても差し支えない。
【0011】
なお、ランプを高出力点灯させる必要がある場合には、熱陰極形の電極にトリプルコイルを用いることが好ましい。電極手段は、リードワイヤによって支持され、このワイヤはフレアステム、ボタンステム、ビードステム、ピンチシール部などによって封装支持される。このステムなどには、排気用または水銀合金収納用の細管が取付けられていてもよい。
【0012】
また、本発明は一般の蛍光ランプに限らず、バルブ内面に透明導電体膜を設けこの導電体膜の気密空間側表面に保護膜および蛍光体層を形成したラピッドスタート形の蛍光ランプにも適用できる。
【0013】
ガラスバルブは、ソーダライムガラスや鉛ガラスなどの軟質ガラスで形成され、バルブの肉厚は0.8〜1.3mm程度が望ましいがこれに限定されない。
【0014】
ガラスバルブの管外径は、15〜18mmの範囲内とすることができる。なお、ガラスバルブを曲成加工するとき、若干管外径が小さくなって部分的に上記範囲から外れることが考えられるが、管外径の大部分が上記範囲内であれば問題はない。
【0015】
蛍光ランプは一般的にその管径を小さくすればランプ効率が向上することが知られている。従来の環形蛍光ランプのランプ効率を10%以上向上させるためには、管外径を65%以下に小さくする必要があることが実験によって確かめられた。すなわち、肉厚が約1mm程度のガラスバルブでは、管外径が18mm以下であればよい。また、この大きさによれば、環形蛍光ランプとしての薄形化も十分満足できることが視覚的に確かめられている。
【0016】
管外径を15mm未満とすると、ランプ効率は数値的に満足できても、従来の環形蛍光ランプと同等の光出力が得られないので実用的ではない。しかも、ガラスバルブを環状に曲成加工することが極めて困難になる。
【0017】
放電媒体としてバルブ内に封入される希ガスには、アルゴン、ネオンまたはクリプトンなどが含まれる。
【0018】
バルブ内面の蛍光体層を構成する蛍光体としては、3波長発光形蛍光体およびハロ燐酸塩蛍光体など周知の蛍光体を用いることができる。発光効率を考慮すると、波長発光形蛍光体の使用が好ましい。
【0019】
3波長発光形の蛍光体としては、450nm付近に発光ピーク波長を有する青系蛍光体としてBaMg2Al1627:Eu2+、540nm付近に発光ピーク波長を有する緑系蛍光体として(La,Ce,Tb)PO4、610nm付近に発光ピーク波長を有する赤系蛍光体としてY23:Eu3+などが適用可能であるが、これらに限定されない。
【0020】
ただし、本発明において用いられる蛍光体粒子の平均粒径は、3.4〜6.0μmに規定される。蛍光体粒子の平均粒径が3.4μm未満の場合には、蛍光ランプの全光束を高めることができず、6.0μmを超えると、蛍光体の膜強度が低下する。蛍光体粒子の平均粒径は、4.4〜5.5μmの範囲内とすることが好ましい。なお、蛍光体粒子の平均粒径は、Fisher Sub Sieve Sizer(FSSS法)等により求めることができる。
【0021】
こうした蛍光体粒子に加えて、蛍光体粒子の重量の1.1〜2.5%結着剤粒子が蛍光体層に含有される。結着剤粒子は、一次粒径5〜15nmのアルミナ粒子を含み、このアルミナ粒子の重量は、蛍光体粒子の重量の0.1〜1.0%に規定される。結着剤粒子の重量が蛍光体粒子の重量の1.1%未満の場合には、蛍光体層の膜強度を確保することができず、一方、2.5%を超えると、蛍光体スラリーのゲル化が生じて蛍光体層を形成することができない。
【0022】
アルミナ粒子の一次粒径が15nmを超えると、蛍光体層の膜強度が低下して剥がれが生じる。一方、一次粒径が5nm未満のアルミナ粒子は、取り扱いが困難である。アルミナ粒子の一次粒径は、SEM写真等から求めることができる。アルミナ粒子が0.1重量%未満の場合には、蛍光体層の膜強度が低下して剥がれが生じ、1.0重量%を超えると蛍光体スラリーがゲル化して、蛍光体層を形成することができない。アルミナ粒子の添加量は、蛍光体粒子の0.4〜0.6重量%の範囲がより好ましい。
【0023】
バルブ内にはアマルガムが封入されていてもよい。アマルガムは、ガラスバルブの端部に封着されたステムまたはこのステムに配設された細管内などに収容される。アマルガムは溶融、機械的保持などの手段によってこれらいずれかの位置に固定または収納される。また、アマルガムはバルブ内を移動可能に収容されていてもよい。ガラスバルブ内にアマルガムを配設すると、周囲温度が比較的高くなっても最適な状態で環形蛍光ランプが点灯される。
【0024】
アマルガムは、水銀と合金を作る物質であるビスマス(Bi)、インジウム(In)、鉛(Pb)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)等の中から選ばれた少なくとも1種と水銀との合金である。例えば、ビスマス−インジウム−水銀、ビスマス−インジウム−鉛−水銀、およびビスマス−錫−水銀などが適用可能である。また、水銀蒸気圧制御を目的とせず、水銀の定量封入のために亜鉛−水銀などのアマルガムを同様に封入してもよい。アマルガムはペレット状、柱状、板状など、いずれの形状であってもよい。
【0025】
また、本発明の環形蛍光ランプは、蛍光体層を形成している粒子の比表面積(BET値)が0.6〜0.9m2/gであり、前記粒子の付着量は3.5〜4.5mg/cm2であることを特徴とする。比表面積が0.6m2/g未満の場合には、蛍光体の膜強度を確保することができず、一方、0.9m2/gを超えると、光出力が所望の値に達するのに時間を要することになる。
【0026】
蛍光体層を形成する粒子の付着量が3.5〜4.5mg/cm2の範囲内であれば、初光束および光束維持率のいずれもが高いレベルの蛍光ランプを得ることができる。粒子の付着量は、3.5〜4.2mg/cm2の範囲内であることがより好ましい。蛍光体層における粒子の付着量は、例えば次の手法により求めることができる。まず、予め重量が測定されたガラスバルブの内面の蛍光体層を塗布する。加熱乾燥により溶媒を揮発させた後に重量を測定し、この重量からガラスバルブの重量を差し引くことによって、付着量が得られる。
【0027】
蛍光体層における結着剤粒子の残部は、バリウム・カルシウム・ボレート粒子であることが好ましい。このバリウム・カルシウム・ボレート粒子の重量は、蛍光体粒子の重量の0.7〜1.5%であれば、十分な膜強度を確保することができ、初光束や光束維持率が損なわれることもない。バリウム・カルシウム・ボレート粒子の添加量は、蛍光体粒子の0.8〜1.2重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0028】
なお、バリウム・カルシウム・ボレート粒子をホウ酸粒子またはランタンボレート粒子に変更した場合も、同様の効果が予測される。
【0029】
本発明の環形蛍光ランプにおける蛍光体層は、上述したような蛍光体粒子および結着剤粒子を有機溶媒に分散させた蛍光体スラリーを用いて形成することができる。有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等を用いることができる。蛍光体スラリーをガラスバルブの内面に塗布し、乾燥および焼成して、蛍光体層が形成される。
【0030】
本発明の照明装置は、上記本発明の蛍光ランプと、この蛍光ランプが取付けられた照明装置本体と蛍光ランプを点灯させる点灯装置とを具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
請求項1に係る発明の環形蛍光ランプによれば、大粒径の蛍光体粒子を用いたことに加えて、微細なアルミナ粒子を含む結着剤粒子の組成を最適化したことによって、高い効率および光束維持率を有するとともに、蛍光体粒子の剥がれが低減された、という効果がある。
【0032】
請求項2に係る発明の環形蛍光ランプによれば、蛍光体層を構成する粒子の比表面積および付着量を所定の範囲内に規定したことによって、高い膜強度を確保しつつ光束維持率の低下を抑制でき、しかも、初光束とともに光束維持率を高めることができる、という効果がある。
【0033】
請求項3に係る発明の環形蛍光ランプによれば、結着剤粒子の残部を所定量のバリウム・カルシウム・ボレート粒子で構成したことによって、蛍光体の膜強度がよりいっそう高められ、剥がれなどの外観不良をより確実に防止できる、という効果がある。
【0034】
請求項4に係る発明の照明装置によれば、上記環形蛍光ランプの作用を有する照明装置を提供できる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による実施形態の環形蛍光ランプの正面図。
【図2】図1の環形蛍光ランプの断面図。
【図3】図1の環形蛍光ランプの要部の断面図。
【図4】結着剤含有量と全光束との関係を示した等高線プロット。
【図5】蛍光体塗布量と初期光束との関係を示した図。
【図6】蛍光体塗布量と光束維持率との関係を示した図。
【図7】本発明による実施形態の照明装置を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0037】
図1および図2は本発明の第1の実施の形態を示し、図1は環形蛍光ランプの正面図、図2は図1のバルブ軸に対して直交する面で切断したときの断面図、図3は図1の要部拡大断面図である。
【0038】
図1ないし3において、1は環形蛍光ランプであり、環状のガラスバルブ2を有し、このガラスバルブ2内には希ガスおよび水銀からなる放電媒体が封入される。ガラスバルブ2の内壁面には、3波長発光形の蛍光体を含む蛍光体層4が形成される。蛍光体層4の膜厚は、通常、23〜30μm程度である。蛍光体層4とガラスバルブ2の内壁面との間には、必要に応じて保護膜3を配置してもよい。ガラスバルブ2の両端2a,2aには、一対の電極手段としてのフィラメント電極5、5'が配設され、ガラスバルブ2の両端2a,2a間に跨って口金6が配設されている。
【0039】
口金6には、電極に電気的に接続された4本の口金ピン7が、ランプ中心側に傾いて突設されている。口金ピン7は、4本で矩形をなすように口金6に配設されている。
【0040】
一対のフィラメント電極のうち、一方のフィラメント電極5は、ガラスバルブ端部2aから距離H1の位置に配設されるようにフレアステム8がバルブ軸にそって直線状に延在している。
【0041】
一対のフィラメント電極5,5'は、フレアステム8,8'にそれぞれ一対が封着支持されたリード線9,9'に継線されている。このフレアステム8,8'がガラスバルブ2の両端2a,2aにそれぞれ封着されることで一対のフィラメント電極5,5'がガラスバルブ2内に封着される。
【0042】
他方のフィラメント電極5'は、ガラスバルブ端部2aからの距離H2がH1よりも小さい位置に配設されている。なお、フレアステム8,8'には細管8a,8a'が配設されており、フレアステム8に配設された細管8aを通じてガラスバルブ内が排気され、水銀および希ガスが封入される。
【0043】
このように、一方のフィラメント電極3の距離H1に対し、他方のフィラメント電極5’の距離H2をこれよりも短くすることで、一方のフィラメント電極5側のガラスバルブ端部2a近傍に所望温度の最冷部が形成されるため、高い周囲温度領域においても効率よく点灯することが可能となる。
【0044】
本実施形態の環形蛍光ランプ1は、管外径dが15〜18mm、肉厚が0.7〜1.3mm、外周側の肉厚比が0.8以上で形成することができる。また、ガラスバルブ2は、例えば、熱膨張係数αが90〜100のソーダライムガラス製である。
【0045】
次に、本発明の作用について説明する。
【0046】
蛍光ランプの全光束とともに蛍光体層の膜強度を高め得る蛍光体粒子の平均粒径の適正範囲を求めるために、平均粒径の異なる蛍光体粒子を用いて種々の蛍光体スラリーを調製した。
【0047】
まず、1.4重量%のニトロセルロースを含有する酢酸ブチル溶液を、40リットル調製した。アルミナ粒子(一次粒径10nm)を酢酸ブチルに分散させて、10重量%のコロイド溶液を調製した。1リットルのコロイド溶液を、前述の酢酸ブチル溶液に加えて攪拌した。さらに、平均粒径3.4μmの三波長形蛍光体粒子20kgを加えて撹拌した。なお、蛍光体粒子の平均粒径は、FSSS法により確認した。
【0048】
一方、バリウム・カルシウム・ボレートを酢酸ブチルに分散させて、固形分20重量%の溶液を1リットル調製し、これを前述の蛍光体−アルミナ混合液に加えた。十分に攪拌して、蛍光体スラリーNo.1を得た。
【0049】
この蛍光体スラリーを、管径16.5mmのガラス管内面にフローコートし、常法により乾燥および焼成を行なって、蛍光体層を形成した。さらに、常法により封止、曲げ加工、排気、および口金取り付けを行なって環形蛍光ランプが完成した。得られた蛍光ランプをサンプルNo.1とした。
【0050】
No.1の蛍光ランプの蛍光体層は、結着剤粒子としてアルミナ粒子およびバリウム・カルシウム・ボレート粒子を含有している。蛍光体層におけるアルミナ粒子の重量は、蛍光体粒子の重量の0.5%の重量であり、バリウム・カルシウム・ボレート粒子の重量は、蛍光体粒子の重量の1.0%である。こうした結着剤粒子と蛍光体粒子とによって、蛍光体層が形成されている。蛍光体層を構成する粒子の付着量は、3.5mg/cm2程度であることが、重量測定により確認された。
【0051】
さらに、蛍光体粒子の平均粒径を変更した以外は上述と同様にして、No.2〜7の蛍光体スラリーを調製し、それぞれを用いてNo.2〜7の蛍光ランプを作製した。蛍光体粒子の平均粒径は、4.0μm、4.4μm、4.6μm、5.5μm、6.0μm、および6.0μmとした。効率や明るさの向上を図るため、ここで用いる蛍光体粒子の平均粒径は3.4μm以上とした。
【0052】
得られた蛍光ランプについて全光束を求め、No.1のサンプルの全光束値を100として相対値を算出した。その結果を、蛍光体の剥がれとともに下記表1にまとめる。なお、蛍光体の剥がれは振動試験後の目視により観察した。
【表1】

【0053】
上記表1に示されるように、蛍光体粒子の平均粒径が7μmと大きい場合には、膜強度が不十分となって蛍光体の剥がれが生じる。しかも、所望の全光束を得るのに必要な蛍光体塗布量が増加するので、コストアップにもつながる。
【0054】
蛍光体粒子の平均粒径が3.4μm以上6.0μm以下であれば、十分な全光束が得られるとともに剥がれの発生も回避できることが、表1の結果に示されている。特に、蛍光体粒子の平均粒径が4.4μm以上5.5μm以下の場合には、全光束および膜強度がより好ましい範囲内となることが確認された。
【0055】
次に、前述のNo.4の蛍光体スラリーの組成を基本として、結着剤粒子を変更して種々の蛍光体スラリーを調製した。アルミナ粒径や添加量など、結着剤粒子における変更箇所を下記表2に示す。それぞれのスラリーを用いて前述と同様のガラス管内面に塗布し、No.8〜23の蛍光ランプを作製した。得られた蛍光ランプについて初光束を求め、No.8のサンプルの初光束値を100として相対値を算出した。その結果を、蛍光体の剥がれとともに下記表2にまとめる。なお、蛍光体の剥がれは前述と同様に観察し、次の基準で評価した。
【0056】
○:剥がれなし
△:1mm未満の剥がれが発生
×:1mm以上の剥がれが発生
【表2】

【0057】
上記表2に示されるように、アルミナ粒子の一次粒径は、15nm以下であれば初光束と膜強度とを両立することができる。すでに説明したように、一次粒径が5nm未満のアルミナ粒子は取り扱いが困難であることから、ここでは使用しない。
【0058】
以上の結果から、一次粒径5〜15nmのアルミナ粒子が含まれる結着剤粒子を用いることによって、蛍光体層の剥がれが防止できるとともに初光束も高められることが確認された。こうしたアルミナ粒子を結着剤粒子の一部として用いて、結着剤粒子の最適な組成を調べた。
【0059】
アルミナ粒子およびボレート粒子の添加量を変更して、種々の蛍光体スラリーを調製し、前述と同様のガラス管内面に塗布して蛍光ランプを作製した。一次粒径10nmのアルミナ粒子を用いて、その添加量は0.0〜1.2重量%の間で変更し、ボレート粒子の添加量は0.0〜2.0重量%の間で変更した。ここでは、平均粒径4.6μmの蛍光体粒子を用いた。得られた蛍光ランプにおける蛍光体の剥がれを観察し、以下の基準で評価した。その結果を下記表3にまとめる。
【0060】
A:剥がれなし
B:蛍光体スラリーがゲル化
C:1mm未満の剥がれが発生
D:1mm以上の剥がれが発生
【表3】

【0061】
上記表3に示されるように、ボレート粒子が多すぎる場合には、蛍光体スラリーがゲル化して、塗布により蛍光体層を形成することができない。一方、ボレート粒子が少なすぎる場合には、結着剤としての機能が不十分となって蛍光体層に剥がれが発生する。スラリーのゲル化を引き起こさず、しかも蛍光体の剥がれを防止するためには、結着剤の組成には最適な範囲が存在することが、上記表3に示されている。
【0062】
こうした結果に基づいて、アルミナ粒子の添加量は蛍光体粒子に対して0.1〜1.0重量%に規定し、ボレート粒子の添加量は蛍光体粒子に対して0.7〜1.5重量%に規定した。ただし、アルミナ粒子とボレート粒子とを合わせた結着剤粒子全体の添加量は、蛍光体粒子の1.1〜2.5重量%に規定される。膜強度と光束との両立を考慮すると、結着剤粒子全体の添加量は、蛍光体粒子の0.8〜1.2重量%の範囲が好ましい。
【0063】
図4には、アルミナ粒子およびボレート粒子の添加量とFHC27EDを高出力点灯した際の全光束との関係を表わす等高線プロットを示す。アルミナ粒子の添加量が0.1〜1.0重量%であって、ボレート粒子の添加量が0.7〜1.5重量%の場合には、3440lm以上の全光束が得られる。アルミナ粒子の添加量が0.4〜0.6重量%であって、ボレート粒子の添加量が0.8〜1.2重量%の場合には、全光束はさらに高められ、3480lmを超えることが図4に示されている。
【0064】
上で得られた蛍光ランプのいくつかについて初光束を調べ、その相対値を、アルミナ添加量およびボレート添加量とともに、下記表4にまとめる。
【表4】

【0065】
表3に示された結果と合わせて判断すると、適切な配合比でアルミナ粒子とボレート粒子とが含有され、適切な量の結着剤が構成された場合には、蛍光体の膜強度と高い初光束を確保できることが上記表4からわかる。
【0066】
さらに、2000h点灯時の膜剥がれおよび光束維持率を調べた。膜剥がれについては、上記表3に示されたものと全く同じ結果が得られた。光束維持率については、相対値を下記表5にまとめる。
【表5】

【0067】
表3に示された結果と合わせて判断すると、適切な配合比でアルミナ粒子とボレート粒子とが含有され、適切な量の結着剤が構成された場合には、蛍光体の膜強度と高い光束維持率を確保できることが上記表5からわかる。
【0068】
次に、蛍光体層を構成する粒子の付着量(塗布量)の影響を調べた。前述のNo.1の蛍光体スラリーを用い、種々の塗布量でガラス管内面に塗布して3種類の蛍光ランプを作製した。さらに、前述のNo.4の蛍光体スラリーを用い、種々の塗布量でガラス管内面に塗布して5種類の蛍光ランプを作製した。
【0069】
得られた蛍光ランプについて、初光束および光束維持率を調べ、相対値を算出した。その結果を、蛍光体粒子の平均粒径および蛍光体層塗布量とともに下記表6にまとめる。蛍光体層塗布量と初光束との関係を、図5のグラフに示し、蛍光体層塗布量と2000h光束維持率との関係を図6のグラフに示す。
【表6】

【0070】
付着量が3.5〜4.5mg/cm2の範囲内であれば、102%以上の初光束を得ることができる。このとき、光束維持率も、92%以上に高められる。したがって、付着量は、3.5〜4.5mg/cm2の範囲内であることが好ましく、3.5〜4.2mg/cm2の範囲内がより好ましい。
【0071】
蛍光体層を構成する粒子の比表面積(BET値)を求めた。その結果、0.6m2/g未満の場合には、蛍光体の膜強度が弱く、製造中に剥がれが生じたり、輸送時に蛍光ランプ内に封入した水銀封入用のペレットが管内を移動して剥がれが引き起こされた。一方、0.9m2/gを超えると、長期間消灯後に使用した場合、電極などに吸着された水銀蒸気が管内に拡散する際に、蛍光体層に吸着される割合が大きくなる。その結果、光出力が所望の値に達するのに時間がかかる。
【0072】
蛍光体層を形成する粒子の比表面積を0.6〜0.9m2/gと規定することによって、不純ガスの管内への持ち込みが低減され、光束維持率の低下が抑制された。
【0073】
図7は、天井直付形の照明器具Lを示す断面図である。11は器具本体で、この器具本体11は、外観が円形でかつ薄形に形成されている。器具本体11の中央には内部に収納空間を有する収納部13が形成され、この収納部13内にインバータ点灯回路からなる高周波点灯装置14が配設されている。収納部13の周囲には、環形蛍光ランプ1,10が同心円状に配設されている。なお、器具本体11には、2本の各環形蛍光ランプ1,10の給電、保持を行なう図示しないソケットホルダが配設されている。
【0074】
器具本体11は、天井面などに設置されている引掛シーリング等に接続されるアダプタ(図示しない)を介して、器具本体11が天井面などに支持されるとともに、器具本体11側と引掛シーリング側とが電気的に接続される。
【0075】
また、器具本体11には、器具本体11の下方および側方を覆ってセード15が取着される。このセード15は、透光性を有する乳白色材にて、下方へ大きな円弧面でなだらかに突出する薄形状に形成されており、周縁部には器具本体11に取付けられる図示しない取付部が形成されている。環形蛍光ランプ1,10の点灯時には、環形蛍光ランプ1,10から発せられた光がセード15を透光して照明される。
【符号の説明】
【0076】
1…環形蛍光ランプ; 2…ガラスバルブ; 3…保護膜; 4…蛍光体層
5…電極手段; 6…口金; 7…口金ピン; 8,8’…フレアステム
9.9’…リード線; 10…環形蛍光ランプ; 11…器具本体; 13…収納部
14…点灯装置; 15…セード; L…照明装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電媒体が封入され、環状に形成されたガラスバルブと;
このガラスバルブの内面に、平均粒径3.4〜6.0μmの蛍光体粒子および前記蛍光体粒子の重量の1.1〜2.5%の結着剤粒子から形成され、前記結着剤粒子は一次粒径5〜15nmのアルミナ粒子を含み、このアルミナ粒子の重量は前記蛍光体粒子の重量の0.1〜1.0%である蛍光体層と;
前記ガラスバルブに配設された一対の電極手段と;
を具備することを特徴とする環形蛍光ランプ。
【請求項2】
前記蛍光体層を形成する粒子の比表面積は、0.6〜0.9m2/gであり、前記粒子の付着量は3.5〜4.5mg/cm2であることを特徴とする請求項1に記載の環形蛍光ランプ。
【請求項3】
前記結着剤粒子は、バリウム・カルシウム・ボレート粒子を含み、このバリウム・カルシウム・ボレート粒子の重量は、前記蛍光体粒子の重量の0.7〜1.5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の環形蛍光ランプ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に一記載の環形蛍光ランプと;
この蛍光ランプが取付けられた照明装置本体と;
前記環形蛍光ランプを点灯させる点灯装置と;
を具備したことを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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