説明

環状アルデヒドの製造方法

【課題】環状アルデヒドの多量化を抑制し、高い選択率及び収率で環状アルデヒドを製造する。
【解決手段】酸触媒の存在下、均一反応系で、式(1)で表されるジエン(直鎖状又は分岐鎖状C4−8ジエンなど)1モルに対して、式(2)で表される不飽和アルデヒド(アクロレインなどのα,β−不飽和アルデヒド)1.2モル以上(例えば、1.3〜1.8モル)の割合で用いて反応させ、式(3)で表される環状アルデヒドを得る。


(R及びRは同一又は異なって水素原子又はアルキル基を示し、R、R、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。R〜Rのうち2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよく、R〜Rのうち2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよい)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインケミカル中間体、半導体材料の中間体などとして有用な環状アルデヒドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応において、一般的に、ルイス酸を代表とする酸を触媒として用いると、比較的温和な条件で反応が進行する。一方、アルデヒド類は酸触媒の存在下で多量化することも知られている。例えば、アセトアルデヒドは酸性条件下で三量化し、パラアルデヒドが生成する。
【0003】
そのため、ジエノフィルとしてα,β−不飽和アルデヒドを用いて、ルイス酸の存在下で反応させると、Diels-Alder反応が進行し環状アルデヒドを生成するとともに、反応系中に存在するルイス酸により、さらに環状アルデヒドが反応して多量化が進行する。
【0004】
特開平9−2989号公報(特許文献1)には、固体酸触媒の存在下、環状共役ジエン化合物(シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエンなど)と、式 C1−3アルキル−CH=CH−CHOで表されるアルデヒド(クロトンアルデヒドなど)とをディールス・アルダー反応させ、環状不飽和アルデヒドを製造する方法が開示されている。この文献には、環状共役ジエン化合物とアルデヒドとのモル比について、環状共役ジエン化合物又はアルデヒドが過剰であってもよく、両者を化学量論量で用いてもよいことが記載され、実施例では環状共役ジエン化合物とアルデヒドとをモル比1:2の割合で用いている。
【0005】
特開昭52−46048号公報(特許文献2)には、ディールス・アルダー反応を利用して、ZnX,SnX,AlX(Xは塩素又は臭素原子を示す)などから選択されたルイス酸触媒の存在下、アクロレインとミルセノール又はミルセンとを1:10〜10:1(モル比)の割合で反応させ、香料を製造する方法が開示されている。
【0006】
しかし、これらの方法では、反応系中にルイス酸が存在するため、さらに環状アルデヒドが反応して多量化が進行し、環状アルデヒドの生成収率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−2989号公報(特許請求の範囲、段落[0010]、実施例)
【特許文献2】特開昭52−46048号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、酸触媒の存在下、ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応を行っても生成した環状アルデヒドの多量化(三量化など)を顕著に抑制できる環状アルデヒドの製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、副生物の生成を防止でき、高い選択率及び収率で環状アルデヒドを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため、ジエンと不飽和アルデヒド(α,β−不飽和アルデヒドなど)のモル比に注目して鋭意検討の結果、均一反応系において、ジエンに対して不飽和アルデヒド(α,β−不飽和アルデヒドなど)のモル数を多くすると、環状アルデヒドの多量化(三量化など)が抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の方法は、酸触媒の存在下、下記式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子又はアルキル基を示し、R、R、R、及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。R〜Rのうち少なくとも2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよい。)
で表されるジエンと下記式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示し、R〜Rのうち少なくとも2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよい)
で表される不飽和アルデヒドとを反応させ、下記式(3)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R〜Rは前記に同じ)
で表される環状アルデヒドを製造する。この方法は、均一反応系で、ジエン1モルに対して不飽和アルデヒドを1.2モル以上の割合で用いて反応させ、環状アルデヒドを製造する。
【0018】
前記ジエンは直鎖状又は分岐鎖状C4−8ジエンなどであってもよく、不飽和アルデヒドはα,β−不飽和アルデヒドであってもよい。ジエン1モルに対する不飽和アルデヒド(α,β−不飽和アルデヒドなど)の割合は、1.3〜1.8モルであってもよい。本発明は、直鎖状又は分岐鎖状C4−6ジエン1モルに対してアクロレイン、メタクロレイン又はクロトンアルデヒドを1.3〜1.6モルの割合で用いて反応させる方法も包含する。
【0019】
さらに、本発明は、酸触媒の存在下、前記ジエンと不飽和アルデヒドとを反応させ、環状アルデヒドの多量化を抑制又は防止する方法であって、均一反応系で、ジエン1モルに対して不飽和アルデヒドを1.2モル以上の割合で用いて反応させ、環状アルデヒドの多量化を抑制又は防止する方法も包含する。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ジエンと不飽和アルデヒドとを所定の割合で用いるため、酸触媒を用いても、環状アルデヒドの多量化(三量化など)を抑制しつつ環状アルデヒドを製造できる。また、副生物の生成を防止でき、高い選択率及び収率で環状アルデヒドを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、下記式(1)で表されるジエンと、下記式(2)で表されるジエノフィル(dienophile)としての不飽和アルデヒドとを反応させ、下記式(3)で表される環状アルデヒドを得る。
【0022】
【化4】

【0023】
(式(1)中、R及びRは同一又は異なって水素原子又はアルキル基を示し、R、R、R、及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。R〜Rのうち少なくとも2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよい。
式(2)中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示し、R〜Rのうち少なくとも2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよい)
式(1)で表されるジエン(共役ジエン、例えば、鎖状ジエン又は環状ジエン)において、R及びRで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基などが例示できる。アルキル基は、メチル基、エチル基などのC1−3アルキル基である場合が多い。好ましいR及びRは、水素原子又はC1−2アルキル基である。
【0024】
、R、R、及びRで表される置換基(非金属原子含有基、有機基など)は、ハロゲン原子、炭化水素基、及び鎖状又は環状ヘテロ原子含有基から選択された少なくとも1つの置換基であってもよい。ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が含まれる。炭化水素基としては、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基などのC4−10シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−12アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などが例示できる。また、鎖状ヘテロ原子含有基としては、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルコキシ基など)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキルチオ基など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシカルボニル基など)、シクロアルキルオキシカルボニル基(C4−10シクロアルキルオキシ−カルボニル基など)、アリールオキシカルボニル基(C6−10アリールオキシ−カルボニル基など)、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基(直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル−カルバモイル基など)、アミノ基、N−置換アミノ基(N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、N−アシルアミノ基、N,N−ジアシルアミノ基など)などが例示できる。さらに、環状ヘテロ原子含有基としては、例えば、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を環の構成原子として含む5又は6員ヘテロ環基、このような5又は6員ヘテロ環基が炭化水素環に縮合した縮合環式ヘテロ環基などが例示できる。
【0025】
これらの置換基R、R、R、及びRはアルキル基である場合が多い。好ましいR、R、R、及びRは水素原子又はアルキル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基、特に直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基)である。
【0026】
〜Rのうち少なくとも2つの置換基(アルキル基など)は結合して隣接する炭素原子とともに、2つの二重結合を有する環を形成してもよい。環を形成する2つの置換基は互いに隣接していてもよく、末端に位置していてもよい。環は、通常、末端の置換基R及びRで形成する場合が多い。環は、通常、非芳香族炭化水素環を形成する。環は、4員環〜10員環程度であってもよく、通常、5員又は6員環である。
【0027】
好ましいジエン(共役ジエン)は、鎖状ジエン(例えば、R及びRが水素原子又はアルキル基であり、R、R、R、及びRが水素原子又はアルキル基である化合物)又は環状ジエン(例えば、R及びRが互いに結合して炭化水素環を形成し、R〜Rが水素原子又はアルキル基である化合物)である。
【0028】
鎖状ジエンとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−オクタジエン、2,4−オクタジエンなどの直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルカジエン類(好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C4−10アルカジエン類、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C4−8アルカジエン類)などが例示できる。
【0029】
環状ジエンとしては、例えば、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロオクタジエンなどのC5−12シクロアルカジエン類(好ましくはC5−10シクロアルカジエン類)、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、n−プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、メチル−1,3−シクロヘキサジエン、エチル−1,3−シクロヘキサジエン、n−プロピル−1,3−シクロヘキサジエン、イソプロピル−1,3−シクロヘキサジエンなどのC1−4アルキル基置換−C5−12シクロアルカジエン類(好ましくはC1−4アルキル基置換−C5−10シクロアルカジエン類)などが例示できる。
【0030】
環状アルデヒドを生成させるための好ましいジエンは、鎖状ジエン(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C4−8アルカジエン類、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C4−7アルカジエン類、特に直鎖状又は分岐鎖状C4−6アルカジエン類)である。
【0031】
式(2)で表される不飽和アルデヒド(ジエノフィル)において、R〜Rで表される置換基(非金属原子含有基)は、前記R、R、R、Rと同じく、ハロゲン原子、炭化水素基、及び鎖状又は環状ヘテロ原子含有基から選択された少なくとも1つの置換基であってもよい。ハロゲン原子、炭化水素基、及びヘテロ原子含有基としては、前記R、R、R、Rと同様の原子及び基が例示できる。好ましいR〜Rは、水素原子又はアルキル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基、特に直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基)である。好ましいRは水素原子、C1−3アルキル基(メチル基など)又はアリール基であり、好ましいRは水素原子であり、好ましいRは水素原子、C1−3アルキル基(メチル基など)又はアリール基である。
【0032】
〜Rのうち少なくとも2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよい。環を形成する2つの置換基は互いに隣接していてもよい。環は、通常、非芳香族炭化水素環を形成する。環は、4員環〜10員環程度であってもよく、通常、5員又は6員環である。
【0033】
ジエノフィルとしての不飽和アルデヒドは、通常、鎖状アルデヒド(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C3−12アルケナール、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C3−10アルケナール、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C3−8アルケナール、特に直鎖状又は分岐鎖状C3−6アルケナール)である。特に好ましい不飽和アルデヒドは、α,β−不飽和アルデヒド(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C3−8アルケナール)である。
【0034】
不飽和アルデヒド(例えば、α,β−不飽和アルデヒド)としては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、3−メチルアクロレイン(クロトンアルデヒド)、ペンテナール(2−ペンテナールなど)、ヘキセナール(2−ヘキセナール、3−ヘキセナールなど)、ヘプテナール(2−ヘプテナールなど)、オクテナール(2−オクテナール、3−オクテナールなど)などのC3−10アルケナールなどが挙げられる。これらの不飽和アルデヒドは単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。好ましい不飽和アルデヒドはα,β−不飽和アルデヒド(例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒドなど)である。
【0035】
ジエンと不飽和アルデヒド(特にα,β−不飽和アルデヒド)との使用割合(モル比)は、ジエン1モルに対して不飽和アルデヒド1.2モル以上(例えば、1.2〜15モル程度)であればよく、1.3モル以上(例えば、1.3〜12モル程度)であってもよい。不飽和アルデヒドの好ましい使用割合(モル比)は、ジエン1モルに対して1.2〜10モル(例えば、1.3〜10モル)の範囲から選択でき、通常、1.25〜5モル(例えば、1.25〜2モル)、好ましくは1.3〜2モル(例えば、1.3〜1.9モル)、さらに好ましくは1.3〜1.8モル(例えば、1.3〜1.7モル)程度であってもよく、1.25〜1.8モル(例えば、1.3〜1.6モル)程度であってもよい。なお、必要により、不飽和アルデヒド及び/又はジエンを反応溶媒として用いてもよい。
【0036】
酸触媒は、反応を促進する限りいずれの化合物でも使用可能であり、ブレンステッド酸(ヘテロポリ酸を含む)、ルイス酸などが挙げられる。これらの酸触媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ブレンステッド酸としては、例えば、フッ化水素酸、硝酸、リン酸などの無機酸又は鉱酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸、1−[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル]−2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゼンなどが例示できる。
【0037】
ヘテロポリ酸は、ヘテロ元素(P、As、Sn、Si、Ti、Zrなど)の酸素酸イオン(例えば、リン酸、ケイ酸など)と、ポリ元素(V、Mo、Wなど)の酸素酸イオン(例えば、バナジン酸、タングステン酸、モリブデン酸など)とで構成された種々のポリ酸を包含する。前記ヘテロ元素(又はヘテロ原子)としては、特に限定されず、例えば、Cu、Be、B、Al、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Ce、Th、N、P、As、Sb、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、U、Se、Te、Mn、I、Fe、Co、Ni、Rh、Os、Ir、Ptなどが例示できる。好ましいヘテロポリ酸は、B、C、Al、N、P、Si、V、Mo、Wの少なくとも一種のヘテロ元素(特に、P、Si、V、Mo、Wの少なくとも一種のヘテロ元素)を含有している。ポリ元素としては、V、Mo、W、Nb、Ta、Cr、Uなどが例示できる。好ましいポリ元素は、V、Mo、W(特に、Mo及び/又はW)である。
【0038】
代表的なヘテロポリ酸アニオンの組成はXM1240で表すことができる。この組成式において、XはP、Siなどの元素を示し、MはMo、W、Vなどの元素を示す。このような組成を有するヘテロポリ酸アニオンとしては、例えば、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸、リンタングストモリブデン酸などが挙げられる。
【0039】
ヘテロポリ酸はヘテロポリ酸のカチオンに相当する水素原子の一部を他のカチオンで置換して、部分プロトン型として使用することもできる。前記置換可能なカチオンとしては特に限定されず、例えば、アンモニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属などが例示できる。ヘテロポリ酸としては完全プロトン型のものが好ましい。
【0040】
好ましいヘテロポリ酸は組成式HPM1240(式中、MはW及びMoから選択された少なくとも一種の元素を示す)で示されるリンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングストモリブデン酸など;組成式HSiM1240(式中、MはW及びMoから選択された少なくとも一種の元素を示す)で示されるケイタングステン酸、ケイモリブデン酸など;組成式Hx+3PA12−X40(式中、AはW及びMoから選択された少なくとも一種の元素を示し、xは1〜4の整数である)で表されるリンバナドタングステン酸、リンバナドモリブデン酸、リンタングストモリブデン酸などである。具体的にはHPW1240、HPMo11VO40、HPMo1040、HPW11VO40、HPW1040などが挙げられる。なお、前記M及びAのように、ポリ元素はWとMoとの双方の成分の組み合わせであってもよい。これらのヘテロポリ酸は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
ルイス酸としては、例えば、ハロゲン化亜鉛(弗化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛など、好ましくは塩化亜鉛ZnCl)、ハロゲン化スズ(フッ化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、好ましくは塩化スズ(SnCl、SnCl))、ハロゲン化アルミニウム(AlCl)、ハロゲン化ホウ素(BF,BClなど)などが例示できる。さらに他のルイス酸としては、セリウム(III)トリフルオロメタンスルホネート、イッテルビウム(III)トリフルオロメタンスルホネートなどの金属トリフラート、ペンタフルオロフェニルホウ素(III)なども例示できる。金属トリフラートは式 M(OTf)(式中、Mは、セリウム、ハフニウム、ランタニウム、ネオジウム、イッテルビウム、イットリウムなどの周期表3族元素(ランタノイド族元素を含む)を示し、OTfはトリフルオロメタンスルホネートを示し、nはMの原子価(3又は4)を示す)で表すことができる。これらのルイス酸は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化スズなどのハロゲン化金属で構成されたルイス酸は塩化コリンと組み合わせて使用することはなく、塩化コリンを含まない。そのため、通常、ルイス酸触媒は塩化コリンとのイオン性液体を形成しない。
【0042】
酸触媒(ブレンステッド酸)は塩(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニアなどの無機塩基、アミン類などの有機塩基との塩)を形成していてもよい。また、酸触媒は無水物であってもよく水和物(又は結晶水含有物)や溶媒和物などであってもよい。
【0043】
これらの酸触媒は、均一系(均一反応系)を形成しており、高い選択率及び収率で環状アルデヒドを生成できるとともに、生成した環状アルデヒドの多量化(三量化など)を有効に抑制できる。均一反応系を形成する好ましい酸触媒としては、ルイス酸などが使用される。
【0044】
触媒の使用量は、ジエン1モルに対して、例えば、0.00001〜0.1モル、好ましくは0.0001〜0.05モル、さらに好ましくは0.001〜0.03モル程度であってもよい。
【0045】
反応は溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。溶媒としては、反応に不活性な種々の溶媒、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)、炭化水素類(ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエタンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの脂肪酸アルキルエステル類)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのジアルキルケトン類、シクロヘキサノンなどのシクロアルカノン類など)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、セロソルブ類、カルビトール類、セロソルブアセテート類などが例示できる。これらの溶媒は単独で又は二種以上混合して使用できる。
【0046】
なお、転化率が増加し反応が進行するにつれて環状アルデヒドが多量化しやすくなる。また、反応溶媒は反応の進行だけでなく環状アルデヒドの多量化にも影響を及ぼすようである。そのため、反応溶媒は、炭化水素類(好ましくは芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、ニトリル類など(特に、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ニトリル類などから選択された少なくとも一種の溶媒)であるのが好ましい。また、反応溶媒を用いることなく、溶媒の非存在下で反応させても高い転化率及び選択率で目的化合物を生成できる。
【0047】
反応は、通常、均一反応系で行われる。反応温度は、装置に応じて、反応を損なわない範囲であれば特に制限はなく、例えば、−100℃〜200℃(例えば、−50〜150℃)程度の範囲から選択でき、0〜100℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜50℃程度であってもよい。反応は0〜50℃程度が好ましく、室温(例えば、15〜25℃)程度であっても進行できる。反応は、加圧下で行ってもよいが、通常、常圧で行われる。また、反応は不活性ガス雰囲気中で行ってもよく空気中で行ってもよい。本発明では、多量体の副生を抑制しつつ環状アルデヒドを高い選択率及び収率で得ることができる。すなわち、本発明では、前記方法により、環状アルデヒドの多量化(三量化など)を有効に抑制又は防止でき、環状アルデヒドを効率よく製造できる。なお、環状アルデヒドの生成はガスクロマトグラフィなどの種々の分析手段により検出でき、多量体の副生はNMRによりアセタールに対応するピークの生成で検出できる。
【0048】
このような反応により、前記式(3)で表される環状アルデヒドが効率よく生成する。反応終了後、反応混合物から目的化合物を分離することにより環状アルデヒドを高い選択率及び収率で得ることができる。目的化合物の分離は、慣用の単離精製方法、例えば、蒸留、乾固、析出、晶析、再結晶、抽出、クロマトグラフィ及びこれらの分離方法を組み合わせた方法などを利用して行うことができる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0050】
ジエン、α,β−不飽和アルデヒドの消費及び環状アルデヒドの生成はガスクロマトグラフィ(GC)分析にて確認した。多量体の確認は核磁気共鳴スペクトル(NMR)(BRUKER AM500、500MHz)分析を行いアセタールに特徴的なピークの有無で判定した。
【0051】
[GC分析条件]
機器:GC−2010((株)島津製作所製)
カラム:DB−5,0.32×60m,1.0μm(J&W)
キャリアガス:ヘリウム
圧力:102.2kPa
スプリット比:50
カラム流量:1.55ml/分
インジェクション温度:250℃
カラム温度:昇温プログラム70℃で3分維持→昇温速度5℃/分→100℃→昇温速度20℃/分→300℃
検出器温度:320℃
流速:1.55ml/分
注入量:1μl
実施例1
2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン(5.93g、0.0722mol)とSnCl・5HO(0.253g、0.00072mol、1mol%)とを混合し、混合物にアクロレイン(5.26g、0.0939mol、対2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン1.3モル倍)を温度20〜30℃で滴下した。滴下終了後、均一反応系を室温で撹拌し反応した。生成物である3,4−ジメチル−3−シクロへキセンカルバルデヒド(3,4−ジメチル−1,2,5,6−テトラヒドロベンズアルデヒド)が反応5時間で収率95%、選択率97%となった。なお、アクロレインの使用量は、純度100%に換算した値である(以下の実施例及び比較例でも同じ)。
【0052】
実施例2
アクロレインの仕込量を6.07g(0.108mol、対2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン1.5モル倍)とする以外、実施例1と同様にして反応させた。生成物である3,4−ジメチル−3−シクロへキセンカルバルデヒドが反応5時間で収率97%、選択率97%となった。
【0053】
比較例1
アクロレインの仕込量を3.24g(0.0578mol、対2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン0.8モル倍)とする以外、実施例1と同様に反応させた。生成物である3,4−ジメチル−3−シクロへキセンカルバルデヒドが反応5時間で収率73%、選択率86%となった。
【0054】
比較例2
アクロレインの仕込量を4.05g(0.0722mol、対2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン 1.0モル倍)とする以外、実施例1と同様にして反応させた。生成物である3,4−ジメチル−3−シクロへキセンカルバルデヒドが反応4時間で収率79%、選択率85%となった。
【0055】
比較例3
アクロレインの仕込量を4.45g(0.0794mol、対2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン 1.1モル倍)とする以外、実施例1と同様にして反応させた。生成物である3,4−ジメチル−3−シクロへキセンカルバルデヒドが反応5時間で収率85%、選択率88%となった。
【0056】
なお、比較例1〜3では、反応液のNMR分析からアセタールに特徴的なピーク(13C−NMR:104ppm、H−NMR:4.6ppm)が検出され、選択率の低下は多量化によるものであると考えられた。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかなように、ジエンに対して特定のモル比で不飽和アルデヒドを用いると、選択率が急激に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の方法では環状アルデヒドを極めて高い選択率及び収率で得ることができ、この環状アルデヒドは、ファインケミカル中間体、半導体材料の中間体などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒の存在下、下記式(1)
【化1】

(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子又はアルキル基を示し、R、R、R、及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。R〜Rのうち少なくとも2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよい。)
で表されるジエンと下記式(2)
【化2】

(式中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示し、R〜Rのうち少なくとも2つの置換基は結合して隣接する炭素原子とともに環を形成してもよい)
で表される不飽和アルデヒドとを反応させ、下記式(3)
【化3】

(式中、R〜Rは、前記に同じ)
で表される環状アルデヒドを製造する方法であって、均一反応系で、ジエン1モルに対して不飽和アルデヒドを1.2モル以上の割合で用いて反応させる環状アルデヒドの製造方法。
【請求項2】
ジエンが直鎖状又は分岐鎖状C4−8ジエンであり、不飽和アルデヒドがα,β−不飽和アルデヒドである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ジエン1モルに対して不飽和アルデヒドを1.3〜1.8モルの割合で用いる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
直鎖状又は分岐鎖状C4−6ジエン1モルに対してアクロレイン、メタクロレイン又はクロトンアルデヒドを1.3〜1.6モルの割合で用いて反応させる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
酸触媒の存在下、請求項1記載のジエンと不飽和アルデヒドとを反応させ、環状アルデヒドの多量化を抑制する方法であって、均一反応系で、ジエン1モルに対して不飽和アルデヒドを1.2モル以上の割合で用いて反応させ、環状アルデヒドの多量化を抑制する方法。

【公開番号】特開2010−275224(P2010−275224A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128739(P2009−128739)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】